説明

高熱伝導性熱可塑性樹脂の製造方法

【課題】 有機塩基性化合物を用いて、反応時間をより一層短縮し、単位時間当たりの生産性を向上させた、樹脂単体の熱伝導性に優れる熱可塑性樹脂の製造方法を提供すること。
【解決手段】 芳香族ジオール、複素環ジオール、芳香族ヒドロキシカルボン酸、および複素環ヒドロキシカルボン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物の水酸基を、脂肪族酸無水物でアシル化して得られたアシル化物と、非芳香族ジカルボン酸をエステル交換する、特定構造を有する熱可塑性樹脂の製造方法であって、窒素原子を分子中に1個以上含むヘテロ環化合物である有機塩基化合物の存在下、アシル化および/またはエステル交換を行うことを特徴とする熱可塑性樹脂の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂単体で熱伝導性に優れる熱可塑性樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂組成物をパソコンやディスプレーの筐体、電子デバイス材料、自動車の内外装、など種々の用途に使用する際、プラスチックは金属材料など無機物と比較して熱伝導性が低いため、発生する熱を逃がしづらいことが問題になることがある。このような課題を解決するため、高熱伝導性無機充填剤を大量に熱可塑性樹脂中に配合することで、高熱伝導性樹脂組成物を得ようとする試みが広くなされている。高熱伝導性無機充填剤としては、グラファイト、炭素繊維、アルミナ、窒化ホウ素、等の高熱伝導性無機充填剤を、通常は30体積%以上、さらには50体積%以上もの高含有量で樹脂中に配合する必要がある。しかしながら、無機充填剤を大量に配合しても樹脂単体の熱伝導性が低いために、樹脂組成物の熱伝導率には限界があった。そこで樹脂単体の熱伝導性の向上が求められている。
【0003】
液晶性熱可塑性樹脂については非特許文献1に液晶相を示すメソゲン基と屈曲鎖との交互重縮合体が記載されている。しかし、これらポリマーの製造法は芳香族ジオールをあらかじめアシル化物とし、その後ジカルボン酸とエステル交換する2段階の方法をとり、生産効率が低かった。また樹脂単体の熱伝導率については一切述べられていない。
【0004】
また、特許文献1、特許文献2には有機塩基化合物を用いた液晶性ポリエステルの製造方法が記載されている。しかし、これは芳香族ジカルボン酸をモノマーとして使用することを必須とした全芳香族の液晶ポリエステルの製造方法であり、非芳香族ジカルボン酸をモノマーに使用することについては一切記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−146003号公報
【特許文献2】特開2005−89558号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J.Polym.Sci.Polym.Phys.Ed,vol21,P1119(1983)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、樹脂単体で熱伝導性に優れる熱可塑性樹脂について、反応時間をより一層短縮し、単位時間当たりの生産性を向上させる、熱可塑性樹脂の製造法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、特定構造を有する熱可塑性樹脂が、樹脂単体で優れた熱伝導性を有することを見出すとともに、アシル化反応及び/またはエステル交換反応を、有機塩基化合物の存在下に行なうことにより熱可塑性樹脂を効率よく、かつ副反応による着色が生じにくい条件で生産できることをも見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
即ち、本発明は、下記1)〜11)である。
1)芳香族ジオール、複素環ジオール、芳香族ヒドロキシカルボン酸、および複素環ヒドロキシカルボン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物の水酸基を、脂肪族酸無水物でアシル化して得られたアシル化物と、非芳香族ジカルボン酸をエステル交換する、主鎖が主として下記一般式(1)で示される単位の繰り返し単位からなり、主として鎖状の構造よりなる熱可塑性樹脂の製造方法であって、
窒素原子を分子中に1個以上含むヘテロ環化合物である有機塩基化合物の存在下、アシル化および/またはエステル交換を行うことを特徴とする熱可塑性樹脂の製造方法。
−A1−x−A2−OCO−R−COO− ...(1)
(式中、A1およびA2は、各々独立して芳香族基、縮合芳香族基、複素環基から選ばれる置換基を示す。xは、各々独立して直接結合、−CH2−、−C(CH32−、−O−、−S−、−CH2−CH2−、−C=C−、−C≡C−、−CO−、−CO−O−、−CO−NH−、−CH=N−、−CH=N−N=CH−、−N=N−または−N(O)=N−の群から選ばれる2価の置換基を示す。Rは原子数2〜20の分岐を含んでもよい2価の非芳香族置換基を示す。)
【0010】
2)前記有機塩基化合物が式(2)で示されるイミダゾール化合物または式(3)で示されるヘテロ環化合物である、1)に記載の熱可塑性樹脂の製造方法。
【0011】
【化1】

【0012】
(式中、Y1〜Y4は、それぞれ独立に、水素原子を表すか、炭素数1〜4のアルキル基、ヒドロキシメチル基、シアノ基、炭素数が2〜5のシアノアルキル基、炭素数が2〜5のシアノアルコキシ基、カルボキシル基、アミノ基、炭素数1〜4のアミノアルキル基、炭素数1〜4のアミノアルコキシ基、フェニル基、ベンジル基、フェニルプロピル基またはフォルミル基を表す。)
【0013】
【化2】

【0014】
( 式中、Z1 〜 Z 3 はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1 〜 2 0 のアルキル基、炭素数1 〜 2 0 のアルキルオキシ基、炭素数6 〜 2 0 のアリール基、炭素数5 〜 2 0 のシクロアルキル基または炭素数7 〜 2 0 のアラルキル基を表す。Z1 〜Z 2 および/ またはZ2 〜Z 3 は互いに結合することにより、脂肪族環、芳香族環を形成してもよい。Z 1 〜 Z 3 が全て水素原子であることはない。)
3)前記熱可塑性樹脂の−A1−x−A2−に相当する部分が下記一般式(4)で表されるメソゲン基であることを特徴とする、1)または2)いずれかに記載の熱可塑性樹脂の製造方法。
【0015】
【化3】

【0016】
(式中、Xはそれぞれ独立して脂肪族炭化水素基、F、Cl、Br、I、CN、またはNO2、nは0〜4の整数、mは2〜4の整数を示す。)
4)前記熱可塑性樹脂のRに相当する部分が直鎖の脂肪族炭化水素鎖である、1)〜3)いずれかに記載の熱可塑性樹脂の製造方法。
5)前記熱可塑性樹脂のRに相当する部分の炭素数が偶数である4)に記載の熱可塑性樹脂の製造方法。
6)前記熱可塑性樹脂のRが−(CH28−、−(CH210−、−(CH212−から選ばれる少なくとも1種である5)に記載の熱可塑性樹脂の製造方法。
7)前記熱可塑性樹脂の数平均分子量が3000〜40000である、1)〜6)いずれかに記載の熱可塑性樹脂の製造方法。
8)前記熱可塑性樹脂の樹脂単体の熱伝導率が0.45W/(m・K)以上である、1)〜7)いずれかに記載の熱可塑性樹脂の製造法。
9)前記熱可塑性樹脂の白色度が80以上である、1)〜8)いずれかに記載の熱可塑性樹脂の製造方法。
10)前記熱可塑性樹脂の製造時において、最大加熱温度が280℃以下であることを特徴とする、1)〜9)いずれかに記載の熱可塑性樹脂の製造方法。
11)前記熱可塑性樹脂の製造時において、50トル以下の減圧下の反応時間が1.5時間以内であることを特徴とする、1)〜10)いずれかに記載の熱可塑性樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、樹脂単体で熱伝導性に優れる熱可塑性樹脂について、反応時間をより一層短縮し、単位時間当たりの生産性を向上させる、熱可塑性樹脂の製造法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の製造方法により得られる樹脂について、樹脂単体で熱伝導性に優れる樹脂としては、主鎖が主として下記一般式(1)で示される単位の繰り返し単位からなり、主として鎖状の構造よりなる熱可塑性樹脂が好ましい。
−A1−x−A2−OCO−R−COO− ...(1)
(式中、A1およびA2は、各々独立して芳香族基、縮合芳香族基、複素環基から選ばれる置換基を示す。xは、各々独立して直接結合、−CH2−、−C(CH32−、−O−、−S−、−CH2−CH2−、−C=C−、−C≡C−、−CO−、−CO−O−、−CO−NH−、−CH=N−、−CH=N−N=CH−、−N=N−または−N(O)=N−の群から選ばれる2価の置換基を示す。Rは原子数2〜20の分岐を含んでもよい2価の非芳香族置換基を示す。)
本発明で言う熱可塑性とは、加熱により可塑化する性質のことである。
【0019】
本発明で言う主としてとは、分子鎖の主鎖中に含まれる一般式(1)の量について、全構成単位に対して50mol%以上であり、好ましくは70mol%以上であり、より好ましくは90mol%以上であり、最も好ましくは本質的に100mol%である。50mol%未満の場合は熱伝導率が低くなる場合がある。
【0020】
本発明の熱可塑性樹脂の熱伝導率は0.45W/(m・K)以上であり、好ましくは0.6W/(m・K)以上、さらに好ましくは0.8W/(m・K)以上、特に好ましくは1.0W/(m・K)以上である。熱伝導率の上限は特に制限されず、高ければ高いほど好ましいが、成形時に磁場、電圧印加、ラビング、延伸等の物理的処理を施さなければ、一般的には30W/(m・K)以下、さらには10W/(m・K)以下となる。
【0021】
本発明の熱可塑性樹脂に含まれるメソゲン基Mとは、剛直で配向性の高い置換基を意味する。好ましいメソゲン基としては、下記一般式
−A1−x−A2
(A1およびA2は、各々独立して芳香族基、縮合芳香族基、複素環基から選ばれる置換基を示す。xは、直接結合、−CH2−、−C(CH32−、−O−、−S−、−CH2−CH2−、−C=C−、−C≡C−、−CO−、−CO−O−、−CO−NH−、−CH=N−、−CH=N−N=CH−、−N=N−または−N(O)=N−の群から選ばれる2価の置換基を示す。)で表される基が挙げられる。ここでA1、A2は各々独立して、ベンゼン環を有する炭素数6〜12の炭化水素基、ナフタレン環を有する炭素数10〜20の炭化水素基、ビフェニル構造を有する炭素数12〜24の炭化水素基、ベンゼン環を3個以上有する炭素数12〜36の炭化水素基、縮合芳香族基を有する炭素数12〜36の炭化水素基、炭素数4〜36の脂環式複素環基から選択されるものであることが好ましい。
【0022】
1、A2の具体例としては、フェニレン、ビフェニレン、ナフチレン、アントラセニレン、シクロヘキシル、ピリジル、ピリミジル、チオフェニレン等が挙げられる。また、これらは無置換であっても良く、脂肪族炭化水素基、ハロゲン基、シアノ基、ニトロ基などの置換基を有する誘導体であっても良い。xは結合子であり、直接結合、−CH2−、−C(CH32−、−O−、−S−、−CH2−CH2−、−C=C−、−C≡C−、−CO−、−CO−O−、−CO−NH−、−CH=N−、−CH=N−N=CH−、−N=N−または−N(O)=N−の群から選ばれる2価の置換基を示す。これらのうち、結合子に相当するxの主鎖の原子数が偶数であるものが好ましい。すなわち直接結合、−CH2−CH2−、−C=C−、−C≡C−、−CO−O−、−CO−NH−、−CH=N−、−CH=N−N=CH−、−N=N−または−N(O)=N−の群から選ばれる2価の置換基が好ましい。xの主鎖の原子数が奇数の場合、メソゲン基の分子幅の増加と、結合の回転の自由度の増加による屈曲性のため、結晶化率の低下を促し、樹脂単体の熱伝導率を低下させる場合がある。
【0023】
このような好ましいメソゲン基の具体例として、ビフェニル、ターフェニル、クォーターフェニル、スチルベン、ジフェニルエーテル、1,2−ジフェニルエチレン、ジフェニルアセチレン、ベンゾフェノン、フェニルベンゾエート、フェニルベンズアミド、アゾベンゼン、2−ナフトエート、フェニル−2−ナフトエート、およびこれらの誘導体等から水素を2個除去した構造を持つ2価の基が挙げられるがこれらに限るものではない。
【0024】
さらに好ましくは下記一般式(4)で表されるメソゲン基である。このメソゲン基はその構造ゆえに剛直で配向性が高く、さらには入手または合成が容易である。
【0025】
【化4】

【0026】
(式中、Xはそれぞれ独立して脂肪族炭化水素基、F、Cl、Br、I、CN、またはNO2、nは0〜4の整数、mは2〜4の整数を示す。)
成形性に優れた熱可塑性樹脂を得るためには、メソゲン基は、架橋性の置換基を含まないものであることが好ましい。
【0027】
本発明の熱可塑性樹脂はメソゲン基と屈曲鎖との交互重縮合体であるが、好ましい屈曲鎖としては、下記一般式
−OCO−R−COO−
(Rは原子数2〜20の分岐を含んでもよい2価の非芳香族置換基を示す。)
で表される基が挙げられる。ここでRは、炭素原子数2〜20の鎖状飽和炭化水素基、1〜3個の環状構造を含む炭素原子数2〜20の飽和炭化水素基、1〜5個の不飽和基を有する炭素原子数2〜20の炭化水素基、1〜3個の芳香環を有する炭素原子数2〜20の炭化水素基、1〜5個の酸素原子を有する炭素原子数2〜20のポリエーテル基から選択されるものが好ましい。
【0028】
Rは例えば脂肪族炭化水素鎖、ポリエーテル鎖等が挙げられるが、分岐を含まない直鎖の脂肪族炭化水素鎖であることが望ましい。分岐を含む場合、結晶性の低下を促し、樹脂単体の熱伝導率を低下させる場合がある。また、Rは飽和でも不飽和でもよいが、飽和脂肪族炭化水素鎖であることが望ましい。不飽和結合を含む場合、充分な屈曲性が発現されず、熱伝導率を低下させる場合がある。Rは炭素数2〜20の直鎖の飽和脂肪族炭化水素鎖であることが好ましく、炭素数40〜18の直鎖の飽和脂肪族炭化水素鎖であることがより好ましく、さらには炭素数6〜14の直鎖の飽和脂肪族炭化水素鎖であることが好ましい。またRの炭素数は偶数であることが好ましい。奇数の場合、メソゲン基が傾くため、結晶化度が低下し、熱伝導率が低下する場合がある。特に熱伝導率が優れた樹脂が得られるという観点から、Rは−(CH28−、−(CH210−、および−(CH212−から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0029】
本発明の熱可塑性樹脂の数平均分子量とはポリスチレンを標準とし、本発明の熱可塑性樹脂をp−クロロフェノールとo−ジクロロベンゼンの1:2(Vol比)混合溶媒に0.25重量%濃度となるように溶解して調製した溶液を用いて、GPCにて80℃で測定した値である。本発明の熱可塑性樹脂の数平均分子量は3000〜40000であることが好ましく、上限を考慮すると、3000〜30000であることがさらに好ましく、3000〜20000であることが特に好ましい。一方、下限を考慮すると、3000〜40000であることが好ましく、5000〜40000であることがさらに好ましく、7000〜40000であることが特に好ましい。さらに、上限および下限を考慮すると、5000〜30000ことがさらに好ましく、7000〜20000であることが最も好ましい。数平均分子量が3000未満または40000より大きい場合、同一の一次構造を有する樹脂であっても熱伝導率が0.45W/(m・K)未満になる場合がある。
【0030】
本発明の熱可塑性樹脂は白色度が80以上であり、好ましくは85以上、さらに好ましくは90以上である。白色度は、測色色差計を用いて測定した成形体の色の明度(L)、色相、彩度(a、b)から、次式(5)により算出できる。
【0031】
W=100−{(100−L)2+a2+b21/2 (5)
また本発明の熱可塑性樹脂は、ラメラ晶を含むものであることが好ましい。本発明の熱可塑性樹脂では、結晶化度の指標としてラメラ晶の量を用いることができる。ラメラ晶が多いほど結晶化度が高い。
【0032】
本発明でいうラメラ晶は、長い鎖状の分子が折り畳まれて平行に並び作られる板状結晶に相当する。このような結晶が樹脂中に存在するか否かは、透過型電子顕微鏡(TEM)観察またはX線回折によって容易に判別することができる。
【0033】
該連続相を成すラメラ晶の割合は、RuO4で染色した試料を透過型電子顕微鏡(TEM)により直接観察することで算出することができる。具体的な方法として、TEM観察用の試料は、成形した厚み6mm×20mmφのサンプルの一部を切り出し、RuO4にて染色した後、ミクロトームにて作成した0.1μm厚の超薄切片を使用するものとする。作成した切片を加速電圧100kVでTEMにて観察し、得られた4万倍スケールの写真(20cm×25cm)から、ラメラ晶の領域を決定することができる。領域の境界は、ラメラ晶領域を周期的なコントラストの存在する領域とし、決定できる。ラメラ晶は深さ方向にも同様に分布していることから、ラメラ晶の割合は写真の全体の面積に対するラメラ晶領域の割合として算出するものとする。また、樹脂自体が高熱伝導性を有するためにはラメラ晶の割合が10Vol%以上であることが好ましい。ラメラ晶の割合は、20Vol%以上であることがより好ましく、30Vol%以上であることがさらに好ましく、さらには40Vol%以上であることが特に好ましい。
【0034】
また本発明の熱可塑性樹脂は、結晶を含むものであることが好ましい。本発明では、熱可塑性樹脂中のラメラ晶の割合から、以下の計算式により結晶化度を求めることができる。
結晶化度(%)= ラメラ晶の割合(Vol%)× 0.7
樹脂自体が高熱伝導性を有するためには、熱可塑性樹脂の結晶化度が7%以上であることが好ましい。結晶化度は、14%以上であることがより好ましく、21%以上であることがさらに好ましく、28%以上であることが特に好ましい。
【0035】
また本発明の熱可塑性樹脂が高熱伝導性を発揮するためには、樹脂自体の密度が1.1g/cm3以上であることが好ましく、1.13g/cm3以上であることがより好ましく、1.16g/cm3以上であることが特に好ましい。樹脂密度が大きいということは、ラメラ晶の含有率が高いこと、すなわち結晶化度が高いことを意味している。
【0036】
また本発明で使用する熱可塑性樹脂は、熱伝導率が等方的に高いことが好ましい。熱伝導率が等方的であるか否かを測定する方法としては、例えば、熱可塑性樹脂を厚み1mm×25.4mmφの円盤状としたサンプルに対して、Xeフラッシュ法にて厚さ方向、面方向の熱伝導率を別々に測定する方法が挙げられる。本発明に係る熱可塑性樹脂の熱伝導率は等方的に高く、上記の測定方法にて測定された、厚さ方向、面方向の熱伝導率は0.3W/(m・K)以上である。
【0037】
本発明の熱可塑性樹脂は、メソゲン基の両末端に水酸基を有する化合物と、置換基Rの両末端にカルボキシル基を有する化合物とを反応させて製造する方法が好ましい。
【0038】
メソゲン基の両末端に水酸基を有する化合物と置換基Rの両末端にカルボキシル基を有する化合物からなる熱可塑性樹脂の製造方法の一例としては、両末端に水酸基を有するメソゲン基を無水酢酸等の脂肪族無水物を用いてそれぞれ個別に、または一括して酢酸エステルとした後、別の反応槽または同一の反応槽で、置換基Rの両末端にカルボキシル基を有する化合物と脱酢酸重縮合反応させる方法が挙げられる。重縮合反応は、実質的に溶媒の存在しない状態で、通常250〜280℃好ましくは260〜270℃の温度で、窒素等の不活性ガスの存在下、常圧または減圧下に、0.5〜1.5時間行われる。反応温度が250℃より低いと反応の進行は遅く、280℃より高い場合は分解等の副反応が起こり、着色が起こる場合がある。また減圧下の反応時間が0時間の場合、重合度が不十分となる場合があり、1.5時間より長い場合、分解等の副反応が起こり、着色が起こる場合がある。多段階の反応温度を採用してもかまわないし、場合により昇温中あるいは最高温度に達したらすぐに反応生成物を溶融状態で抜き出し、回収することもできる。得られた熱可塑性樹脂はそのままでも使用してもよいし、未反応原料を除去するまたは、物性をあげる意味から固相重合を行なうこともできる。固相重合を行なう場合には、得られた熱可塑性樹脂を3mm以下好ましくは1mm以下の粒径の粒子に機械的に粉砕し、固相状態のまま120〜200℃で窒素等の不活性ガス雰囲気下、または減圧下に1〜20時間処理することが好ましい。ポリマー粒子の粒径が3mm以上になると、処理が十分でなく、物性上の問題を生じるため好ましくない。固相重合時の処理温度や昇温速度は、熱可塑性樹脂粒子が融着を起こさないように選ぶことが好ましい。
【0039】
本発明における熱可塑性樹脂の製造に用いられる脂肪族無水物としては,炭素数2〜5個の脂肪族無水物,たとえば無水酢酸,無水プロピオン酸、無水モノクロル酢酸,無水ジクロル酢酸,無水トリクロル酢酸,無水モノブロム酢酸,無水ジブロム酢酸,無水トリブロム酢酸,無水モノフルオロ酢酸,無水ジフルオロ酢酸,無水トリフルオロ酢酸,無水酪酸,無水イソ酪酸,無水吉草酸,無水ピバル酸等が挙げられるが,無水酢酸,無水プロピオン酸,無水トリクロル酢酸が特に好適に用いられる。脂肪族無水物の使用量は,用いるメソゲン基が有する水酸基の合計に対し1.01〜1.50倍当量,好ましくは1.02〜1.2倍当量である。
【0040】
本発明においては、熱可塑性樹脂の反応時間をより一層短縮し、単位時間当たりの生産性を向上させるため、アシル化および/またはエステル交換を、窒素原子を分子中に1個以上含むヘテロ環化合物である有機塩基化合物の存在下に行なうことが必要である。
【0041】
窒素原子を分子中に1個以上含むヘテロ環化合物としては、(2)式で示されるイミダゾール化合物が好ましく使用される。
【0042】
【化5】

【0043】
(式中、Y1〜Y4はそれぞれ独立に、水素原子を表すか、炭素数1〜4のアルキル基、ヒドロキシメチル基、シアノ基、炭素数が2〜5のシアノアルキル基、炭素数が2〜5のシアノアルコキシ基、カルボキシル基、アミノ基、炭素数1〜4のアミノアルキル基、炭素数1〜4のアミノアルコキシ基、フェニル基、ベンジル基、フェニルプロピル基又はフォルミル基を表す。)
【0044】
(2)式で示されるイミダゾール化合物の具体例としては、例えば、イミダゾール、1−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、4−メチルイミダゾール、1−エチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、4−エチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、1,4−ジメチルイミダゾール、2,4−ジメチルイミダゾール、1−メチル−2−エチルイミダゾール、1−メチル−4エチルイミダゾール、1−エチル−2−メチルイミダゾール、1−エチル−2−エチルイミダゾール、1−エチル−2−フェニルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、4−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−アミノエチル−2−メチルイミダゾール、1−(シアノエチルアミノエチル)−2−メチルイミダゾール、N−[2−(2−メチル−1−イミダゾリル)エチル]尿素、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾールトリメリテート、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾールトリメリテート、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾールトリメリテート、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾールトリメリテート、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−S−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2’−ウンデシルイミダゾリル(−(1’))−エチル−S−トリアジン]、2,4−ジアミノ−6−[2−エチル−4−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−S−トリアジン、1−ドデシル−2−メチル−3−ベンジルイミダゾリウムクロライド、N,N’−ビス(2−メチル−1−イミダゾリルエチル)尿素、N,N’−(2−メチル−1−イミダゾリルエチル)アジポアミド、2,4−ジアルキルイミダゾール−ジチオカルボン酸、1,3−ジベンジル−2−メチルイミダゾリウムクロライド、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニル−4,5−ビス(シアノエトキシメチル)イミダゾール、2−メチルイミダゾール・イソシアヌル酸付加物、2−フェニルイミダゾール・イソシアヌル酸付加物、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−S−トリアジン・イソシアヌル酸付加物、2−アルキル−4−フォルミルイミダゾール、2,4−ジアルキル−5−フォルミルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、イミダゾール−4−ジチオカルボン酸、2−メチルイミダゾール−4−ジチオカルボン酸、2−ウンデシルイミダゾール−4−ジチオカルボン酸、2−ヘプタデシルイミダゾール−4−ジチオカルボン酸、2−フェニルイミダゾール−4−ジチオカルボン酸、4−メチルイミダゾール−5−ジチオカルボン酸、4−ジメチルイミダゾール−5−ジチオカルボン酸、2−エチル−4−メチルイミダゾール−5−ジチオカルボン酸、2−ウンデシル−4−メチルイミダゾール−5−ジチオカルボン酸、2−フェニル−4−メチルイミダゾール−5−ジチオカルボン酸、1−アミノエチル−2−メチルイミダゾール、1−(シアノエチルアミノエチル)−2−メチルイミダゾール、N−(2−メチルイミダゾリル−1−エチル)尿素、N,N’−[2−メチルイミダゾリル(1)−エチル]−アジポイルジアミド、1−アミノエチル−2−エチルイミダゾール、4−フォルミルイミダゾール、2−メチル−4−フォルミルイミダゾール、4−メチル−5−フォルミルイミダゾール、2−エチル−4−メチル−5−フォルミルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−4−フォルミルイミダゾールなどが挙げられる。
【0045】
イミダゾール化合物としては、反応性の観点から(2)式で表されるイミダゾール化合物が好ましく、色調の観点からY1が炭素数1〜4のアルキル基、Y2〜Y4が水素原子である(2)式で表されるイミダゾール化合物がさらに好ましく、さらに入手が容易であるため、1−メチルイミダゾール、1−エチルイミダゾールが最も好ましい。
【0046】
窒素原子を分子中に1個以上含むヘテロ環化合物としては、(3)式で表されるヘテロ環化合物も好適である。
【0047】
【化6】

【0048】
(式中、Z1〜Z3はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルキルオキシ基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数5〜20のシクロアルキル基または炭素数7〜20のアラルキル基を表す。Z1〜Z2および/またはZ2〜Z3は、互いに結合することにより、脂肪族環、芳香族環等を形成してもよい。Z1〜Z3が全て水素原子であることはない。)
【0049】
ここで、炭素数1〜20のアルキル基としては、例えば、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、iso−ペンチル基、tert−ペンチル基、n−ヘキシル基、iso−ヘキシル基、tert−ヘキシル基等の直鎖、分岐鎖の炭化水素基を挙げることができる。炭素数1〜20のアルキルオキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、イソプロポキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基等を挙げることができる。炭素数6〜20のアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基等を挙げることができる。炭素数5〜20のシクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等を挙げることができる。炭素数7〜20のアラルキル基としては、例えば、フェニルメチル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、ジフェニルメチル基等を挙げることができる。
【0050】
アルキル基の炭素数は1〜10が好ましく、アルキルオキシ基の炭素数は1〜10が好ましく、アリール基の炭素数は6〜12が好ましく、シクロアルキル基の炭素数は5〜10が好ましく、およびアラルキル基の炭素数は7〜10が好ましい。
【0051】
また、Z1〜Z2および/またはZ2〜Z3は、互いに結合することにより、脂肪族環、芳香族環等を形成してもよい。この様な脂肪族環を有する有機塩基化合物としては、例えば、5,6,7,8−テトラヒドロイソキノリン等が挙げられる。また、芳香族環を有する有機塩基化合物としては、例えば、イソキノリン等が挙げられる。
【0052】
式(3)で表される有機塩基化合物としては、キノリン化合物類、ピリジン化合物類等が挙げられる。キノリン化合物の具体例としては、例えば、イソキノリン等が挙げられる。ピリジン化合物類等の具体例としては、例えば、β−ピコリン、γ−ピコリン、3−エチルピリジン、4−エチルピリジン、4−プロピルピリジン、4−ブチルピリジン、4−イソブチルピリジン、3,4−ルチジン、3,5−ルチジン、3−メチル−4−エチルピリジン、3−エチル−4−メチルピリジン、3,4−ジエチルピリジン、3,5−ジエチルピリジン、4−(5−ノニル)ピリジン等のアルキルピリジン類、3−メトキシピリジン、4−メトキシピリジン等のアルキルオキシピリジン類が挙げられる。有機塩基化合物は二種以上を併用してもよい。有機塩基化合物は、イソキノリン、β−ピコリン、γ−ピコリン、3−エチルピリジン、4−エチルピリジン、3−メトキシピリジン、4−メトキシピリジン等が好ましく、イソキノリン、β−ピコリン、γ−ピコリンであればより好ましい。
【0053】
有機塩基化合物の添加量は、原料仕込みに用いるモノマーの合計100重量部に対して、0.005〜1重量部が好ましく、0.05〜0.5重量部であることがより好ましい。
【0054】
添加量が0.005重量部未満では、反応時間が長くなり、白色度が80未満になる場合があり、1重量部を超える場合、反応の制御が困難となる傾向がある。
【0055】
有機塩基化合物は、アシル化、エステル交換、またはアシル化及びエステル交換する際の一時期に存在しておればよく、その添加時期は特に限定されず、反応開始の直前であっても、反応中に添加してもよい。
【0056】
エステル交換反応を促進して重合速度を増加させる目的で、必要に応じて、本発明の目的を損なわない範囲で微量の触媒を添加してもよい。添加される触媒としては、例えば、酸化ゲルマニウムなどのゲルマニウム化合物、しゅう酸第一スズ、酢酸第一スズ、ジアルキルスズ酸化物、ジアリールスズ酸化物などのスズ化合物、二酸化チタン、チタンアルコキシド、アルコキシチタンケイ酸類などのチタン化合物、三酸化アンチモンなどのアンチモン化合物、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、酢酸亜鉛、酢酸第一鉄などの有機酸の金属塩、トリフッ化ホウ素、塩化アルミニウムなどのルイス酸類、アミン類、アミド類、塩酸、硫酸などの無機酸などが挙げられる。
【0057】
本発明の製造法により得られる熱可塑性樹脂の末端の構造はとくに限定されないが、射出成形に適した樹脂が得られると言う観点からは、水酸基、カルボキシル基、エステル基、アシル基、アルコキシ基などで末端が封止されていることが好ましい。末端にエポキシ基、マレイミド基などの反応性が高い官能基を有する場合は、樹脂が熱硬化性となり、射出成形性が損なわれることがある。
【0058】
本発明の製造法により得られる熱可塑性樹脂は、その効果の発揮を失わない程度に他のモノマーを共重合して構わない。例えば芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、芳香族アミノカルボン酸またはカプロラクタム類、カプロラクトン類、脂肪族ジカルボン酸、脂肪族ジオール、脂肪族ジアミン、脂環族ジカルボン酸、および脂環族ジオール、芳香族メルカプトカルボン酸、芳香族ジチオールおよび芳香族メルカプトフェノールが挙げられる。
【0059】
芳香族ヒドロキシカルボン酸の具体例としては、4−ヒドロキシ安息香酸、3−ヒドロキシ安息香酸、2−ヒドロキシ安息香酸、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸、2−ヒドロキシ−5−ナフトエ酸、2―ヒドロキシ―7―ナフトエ酸、2―ヒドロキシ―3―ナフトエ酸、4’−ヒドロキシフェニル−4−安息香酸、3’−ヒドロキシフェニル−4−安息香酸、4’−ヒドロキシフェニル−3−安息香酸およびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体などが挙げられる。
【0060】
芳香族ジカルボン酸の具体例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6―ナフタレンジカルボン酸、1,6―ナフタレンジカルボン酸、2,7―ナフタレンジカルボン酸、4,4’―ジカルボキシビフェニル、3,4’―ジカルボキシビフェニル、4,4’ ’―ジカルボキシターフェニル、ビス(4−カルボキシフェニル)エーテル、ビス(4−カルボキシフェノキシ)ブタン、ビス(4−カルボキシフェニル)エタン、ビス(3−カルボキシフェニル)エーテルおよびビス(3−カルボキシフェニル)エタン等、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体などが挙げられる。
【0061】
芳香族ジオールの具体例としては、例えばハイドロキノン、レゾルシン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、3,3’−ジヒドロキシビフェニル、3,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシビフェノールエーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタンおよび2,2’−ジヒドロキシビナフチル等、およびこれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体などが挙げられる。
【0062】
芳香族ヒドロキシアミンの具体例としては、4−アミノフェノール、N−メチル−4−アミノフェノール、3−アミノフェノール、3−メチル−4−アミノフェノール、4−アミノ−1−ナフトール、4−アミノ−4’−ヒドロキシビフェニル、4−アミノ−4’−ヒドロキシビフェニルエーテル、4−アミノ−4’−ヒドロキシビフェニルメタン、4−アミノ−4’−ヒドロキシビフェニルスルフィドおよび2,2’−ジアミノビナフチルおよびこれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体などが挙げられる。
【0063】
芳香族ジアミンおよび芳香族アミノカルボン酸の具体例としては、1,4−フェニレンジアミン、1,3−フェニレンジアミン、N−メチル−1,4−フェニレンジアミン、N,N’−ジメチル−1,4−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノフェニルスルフィド(チオジアニリン)、4,4’−ジアミノビフェニルスルホン、2,5−ジアミノトルエン、4,4’−エチレンジアニリン、4,4’−ジアミノビフェノキシエタン、4,4’−ジアミノビフェニルメタン(メチレンジアニリン)、4,4’−ジアミノビフェニルエーテル(オキシジアニリン)、4−アミノ安息香酸、3−アミノ安息香酸、6−アミノ−2−ナフトエ酸および7−アミノ−2−ナフトエ酸およびこれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体などが挙げられる。
【0064】
脂肪族ジカルボン酸の具体例としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、フマル酸、マレイン酸などが挙げられる。
【0065】
脂肪族ジアミンの具体例としては、1,2−エチレンジアミン、1,3−トリメチレンジアミン、1,4−テトラメチレンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、1,8−オクタンジアミン、1,9−ノナンジアミン、1,10−デカンジアミン、および1,12−ドデカンジアミンなどが挙げられる。
【0066】
脂環族ジカルボン酸、脂肪族ジオールおよび脂環族ジオールの具体例としては、ヘキサヒドロテレフタル酸、トランス−1,4−シクロヘキサンジオール、シス−1,4−シクロヘキサンジオール、トランス−1,4−シクロヘキサンジメタノール、シス−1,4−シクロヘキサンジメタノール、トランス−1,3−シクロヘキサンジオール、シス−1,2−シクロヘキサンジオール、トランス−1,3−シクロヘキサンジメタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオール、ネオペンチルグリコールなどの直鎖状または分鎖状脂肪族ジオールなど、ならびにそれらの反応性誘導体が挙げられる。
【0067】
芳香族メルカプトカルボン酸、芳香族ジチオールおよび芳香族メルカプトフェノールの具体例としては、4−メルカプト安息香酸、2−メルカプト−6−ナフトエ酸、2−メルカプト−7−ナフトエ酸、ベンゼン−1,4−ジチオール、ベンゼン−1,3−ジチオール、2,6−ナフタレン−ジチオール、2,7−ナフタレン−ジチオール、4−メルカプトフェノール、3−メルカプトフェノール、6−メルカプト−2−ヒドロキシナフタレン、7−メルカプト−2−ヒドロキシナフタレンなど、ならびにそれらの反応性誘導体が挙げられる。
【0068】
本発明の製造法により得られる熱可塑性樹脂は、電子材料、磁性材料、触媒材料、構造体材料、光学材料、医療材料、自動車材料、建築材料、等の各種の用途に幅広く用いることが可能である。特に優れた熱伝導性、色調を併せ持つことから、照明器具部材や携帯用電子機器部材など、放熱性と外観の美しさを共に要求されるような部材として、非常に有用である。
【0069】
本発明の製造法により得られる熱可塑性樹脂は、家電、OA機器部品、AV機器部品、自動車内外装部品、等の射出成形品等に好適に使用することができる。特に多くの熱を発する家電製品やOA機器において、外装材料として好適に用いることができる。さらには発熱源を内部に有するがファン等による強制冷却が困難な電子機器において、内部で発生する熱を外部へ放熱するために、これらの機器の外装材として好適に用いられる。これらの中でも好ましい装置として、LED照明、有機EL照明や、ノートパソコンなどの携帯型コンピューター、PDA、携帯電話、携帯ゲーム機、携帯型音楽プレーヤー、携帯型TV/ビデオ機器、携帯型ビデオカメラ、等の小型あるいは携帯型電子機器類の筐体、ハウジング、外装材用樹脂として非常に有用である。また自動車や電車等におけるバッテリー周辺用樹脂、家電機器の携帯バッテリー用樹脂、ブレーカー等の配電部品用樹脂、モーター等の封止用材料、としても非常に有用に用いることができる。
【実施例】
【0070】
次に、本発明の熱可塑性樹脂について、実施例および比較例を挙げさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに制限されるものではない。なお、以下にあげる各試薬は特に特記しない限り和光純薬工業(株)製の試薬を用いた。
【0071】
[評価方法]
試験片成形:得られた各サンプルを乾燥した後、射出成形機にて厚み6mm×20mmφの円板状サンプルを成形した。成形した円盤状サンプルを熱伝導率測定に使用した。
色差測定: 日本電色工業(株)製測色色差計SE−2000を用いて成形体の色の明度(L)、色相、彩度(a、b)を測定し、(4)式により白色度を算出した。
数平均分子量測定:本発明の熱可塑性樹脂をp−クロロフェノールとo−ジクロロベンゼンの1:2(Vol比)混合溶媒に0.25重量%濃度となるように溶解して試料を調製した。標準物質はポリスチレンとし、同様の試料溶液を調製した。高温GPC((株)Waters製;150−CV)にてINJECTOR COMP:80℃、COLUMN COMP:80℃、PUMP/SOLVENT COMP:60℃、Injection Volume:200μl、流速0.7ml/minの条件で測定した。検出には示差屈折計(RI)を用いた。GPCカラムには有機溶媒系GPC用カラムのShodex製HT−804(理論段数18,000以上、排除限界分子量400,000、粒径7μm)を使用し、2本直列に連結して使用した。
熱伝導率:厚み6mm×20mmφの円板状サンプルにて、京都電子工業製ホットディスク法熱伝導率測定装置で4φのセンサーを用い、熱伝導率を測定した。
【0072】
[実施例1]
4,4’−ジヒドロキシビフェニル600g、ドデカン二酸746g、無水酢酸611ml、1−メチルイミダゾール257μlを重合反応装置に仕込み、常圧下、窒素ガス雰囲気で145℃にて1hアシル化反応を行い、1−メチルイミダゾールを2.31ml追加したのちに、1℃/minの昇温速度で260℃まで加熱し重縮合を行った。酢酸の留出量が理論酢酸生成量の90%に到達した時点で引き続きその温度を保ったまま、約20分かけて10torrに減圧し、高分子量まで溶融重合を行った。減圧開始から1時間後、不活性ガスで常圧に戻し、生成した熱可塑性樹脂を取り出した。分子構造を表1に、数平均分子量、樹脂単体の熱伝導率、白色度を表2に示す。なお表1では、上記一般式(1)におけるA1、x、A2、Rに該当する部分の分子構造を示している。
【0073】
[実施例2〜4]
実施例1の1−メチルイミダゾールをγ−ピコリン、3,5−ルチジン、イソキノリンにそれぞれした以外は同様に重合した。但し、イソキノリンは実施例1で使用した1−メチルイミダゾールの総量の2倍量使用し、アシル化反応、エステル交換反応時に実施例1と同じ割合の配分で添加した。分子構造を表1に、数平均分子量、樹脂単体の熱伝導率、白色度を表2に示す。
【0074】
[実施例5,6]
実施例1のドデカン二酸をセバシン酸655g、テトラデカン二酸836gにそれぞれした以外はそれぞれ同様に重合した。分子構造を表1に、数平均分子量、樹脂単体の熱伝導率、白色度を表2に示す。
【0075】
[実施例7]
実施例1の4,4’−ジヒドロキシビフェニルを4−ヒドロキシ安息香酸−4−ヒドロキシフェニル544gにした以外はそれぞれ同様に重合した。分子構造を表1に、数平均分子量、樹脂単体の熱伝導率、白色度を表2に示す。
【0076】
[実施例8]
実施例1の4,4’−ジヒドロキシビフェニルを4,4’−ジヒドロキシアゾキシベンゼン544gにした以外はそれぞれ同様に重合した。分子構造を表1に、数平均分子量、樹脂単体の熱伝導率、白色度を表2に示す。
【0077】
[実施例9]
4,4’−ジヒドロキシビフェニル600g、ドデカン二酸746g、ヒドロキシ安息香酸55.5g、無水酢酸650ml、1−メチルイミダゾール273μlを重合反応装置に仕込み、常圧下、窒素ガス雰囲気で145℃にて1hアシル化反応を行い、1−メチルイミダゾールを2.45ml追加したのちに、1℃/minの昇温速度で280℃まで加熱し重縮合を行った。酢酸の留出量が理論酢酸生成量の90%に到達した時点で引き続きその温度を保ったまま、約20分かけて10torrに減圧し、高分子量まで溶融重合を行った。減圧開始から1時間後、不活性ガスで常圧に戻し、生成した熱可塑性樹脂を取り出した。該樹脂の分子構造は実施例1の樹脂にヒドロキシ安息香酸をランダム共重合した構造である。数平均分子量、樹脂単体の熱伝導率、白色度を表2に示す。
【0078】
[比較例1]
実施例1で1−メチルイミダゾールを用いなかった以外は同様にして熱可塑性樹脂を得た。但し、この場合、アシル化反応の時間は1hでは不十分であり、3h行った。また実施例1と同等の分子量とするために減圧開始からの重合時間が2hとなった。数平均分子量、樹脂単体の熱伝導率、白色度を表3に示す。白色度が80未満となった。
【0079】
[比較例2]
実施例1で1−メチルイミダゾールを酸化アンチモンにした以外は同様にして熱可塑性樹脂を得た。但し、この場合、アシル化反応の時間は1hでは不十分であり、3h行った。数平均分子量、樹脂単体の熱伝導率、白色度を表3に示す。白色度が80未満となった。
【0080】
【表1】

【0081】
【表2】

【0082】
【表3】

【0083】
本発明の熱可塑性樹脂の製造方法によると反応時間をより一層短縮し、単位時間当たりの生産性が向上し、かつ得られる熱可塑性樹脂は、白色度が高くなる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ジオール、複素環ジオール、芳香族ヒドロキシカルボン酸、および複素環ヒドロキシカルボン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物の水酸基を、脂肪族酸無水物でアシル化して得られたアシル化物と、非芳香族ジカルボン酸をエステル交換する、主鎖が主として下記一般式(1)で示される単位の繰り返し単位からなり、主として鎖状の構造よりなる熱可塑性樹脂の製造方法であって、
窒素原子を分子中に1個以上含むヘテロ環化合物である有機塩基化合物の存在下、アシル化および/またはエステル交換を行うことを特徴とする熱可塑性樹脂の製造方法。
−A1−x−A2−OCO−R−COO− ...(1)
(式中、A1およびA2は、各々独立して芳香族基、縮合芳香族基、複素環基から選ばれる置換基を示す。xは、各々独立して直接結合、−CH2−、−C(CH32−、−O−、−S−、−CH2−CH2−、−C=C−、−C≡C−、−CO−、−CO−O−、−CO−NH−、−CH=N−、−CH=N−N=CH−、−N=N−または−N(O)=N−の群から選ばれる2価の置換基を示す。Rは原子数2〜20の分岐を含んでもよい2価の非芳香族置換基を示す。)
【請求項2】
前記有機塩基化合物が式(2)で示されるイミダゾール化合物または式(3)で示されるヘテロ環化合物である、請求項1に記載の熱可塑性樹脂の製造方法。
【化1】

(式中、Y1〜Y4は、それぞれ独立に、水素原子を表すか、炭素数1〜4のアルキル基、ヒドロキシメチル基、シアノ基、炭素数が2〜5のシアノアルキル基、炭素数が2〜5のシアノアルコキシ基、カルボキシル基、アミノ基、炭素数1〜4のアミノアルキル基、炭素数1〜4のアミノアルコキシ基、フェニル基、ベンジル基、フェニルプロピル基またはフォルミル基を表す。)
【化2】

( 式中、Z1〜Z3 はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルキルオキシ基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数5〜20のシクロアルキル基または炭素数7〜20のアラルキル基を表す。Z1〜Z2および/ またはZ2〜Z3は互いに結合することにより、脂肪族環、芳香族環を形成してもよい。Z1〜Z3が全て水素原子であることはない。)
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂の−A1−x−A2−に相当する部分が下記一般式(4)で表されるメソゲン基であることを特徴とする、請求項1または2いずれかに記載の熱可塑性樹脂の製造方法。
【化3】

(式中、Xはそれぞれ独立して脂肪族炭化水素基、F、Cl、Br、I、CN、またはNO2、nは0〜4の整数、mは2〜4の整数を示す。)
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂のRに相当する部分が直鎖の脂肪族炭化水素鎖である、請求項1〜3いずれかに記載の熱可塑性樹脂の製造方法。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂のRに相当する部分の炭素数が偶数である請求項4に記載の熱可塑性樹脂の製造方法。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂のRが−(CH28−、−(CH210−、−(CH212−から選ばれる少なくとも1種である請求項5に記載の熱可塑性樹脂の製造方法。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂の数平均分子量が3000〜40000である、請求項1〜6いずれかに記載の熱可塑性樹脂の製造方法。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂の樹脂単体の熱伝導率が0.45W/(m・K)以上である、請求項1〜7いずれかに記載の熱可塑性樹脂の製造方法。
【請求項9】
前記熱可塑性樹脂の白色度が80以上である、請求項1〜8いずれかに記載の熱可塑性樹脂の製造方法。
【請求項10】
前記熱可塑性樹脂の製造時において、最大加熱温度が280℃以下であることを特徴とする、請求項1〜9いずれかに記載の熱可塑性樹脂の製造方法。
【請求項11】
前記熱可塑性樹脂の製造時において、50トル以下の減圧下の反応時間が1.5時間以内であることを特徴とする、請求項1〜10いずれかに記載の熱可塑性樹脂の製造方法。

【公開番号】特開2011−132488(P2011−132488A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−100514(P2010−100514)
【出願日】平成22年4月26日(2010.4.26)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】