説明

高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物及び成形品

【課題】熱伝導性、更には難燃性がより一層改善された高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物及びその成形品を提供する。
【解決手段】(A)熱可塑性樹脂と(B)黒鉛とを含む熱可塑性樹脂組成物であって、該(B)黒鉛のアスペクト比が20〜50で、平均粒子径が10〜200μmであり、かつ固定炭素量が98質量%以上であることを特徴とする高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物。この高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物を射出成形してなる高熱伝導性熱可塑性樹脂成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物及び成形品に関するものである。詳しくは、特定の形状を有する黒鉛を含むことにより、優れた熱伝導性を有する熱可塑性樹脂組成物と、この高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物を射出成形してなる高熱伝導性熱可塑性樹脂成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、OA機器、電子機器の小型軽量化や高精度化といったハードの進歩や、インターネットの普及、IT革命の進行が急速であり、これに伴い、これらのOA機器、電子機器を持ち歩く、いわゆる携帯端末(モバイル)の普及がめざましい。該携帯端末の代表例としては、ノート型パソコン、電子手帳、携帯電話、PDA等が挙げられるが、今後ますます多様化、多機能化、高性能化が予想される。
【0003】
これら携帯端末の筐体は勿論、携帯端末以外の電気・電子・OA機器部品、機械部品、車輛用部品などの筐体には、熱可塑性樹脂が多用されている。機器や部品の多様化、多機能化、高性能化、小型軽量化に伴って筐体用樹脂材料には、高強度、高剛性、高耐衝撃性、高耐熱性、高流動性の材料が求められ、さらに電池の不具合に起因したノート型パソコンの発火事故を受けて、難燃化の要求も強くなっている。
【0004】
また、これらの分野においては、殆どの機器が発熱する部品を搭載しているが、近年、装置・部品の高性能化に伴い消費電力量が増え、部品からの発熱量が増大する傾向にあるため、局部的な高温が誤動作等のトラブルを引き起こす原因となることが懸念されている。現状では、筐体やシャーシ、放熱板などに金属材料を用いて発生する熱を拡散させているが、安価な樹脂材料の熱伝導率を高めることで、これら金属部品の代替への要求が高まっている。
【0005】
樹脂材料に熱伝導性を付与させる方法として、種々の熱伝導性フィラーを樹脂成分に混合する方法が多数報告されており、熱伝導性フィラーとして黒鉛を配合したものも提案されている。
例えば、特許文献1には、熱可塑性樹脂にアスペクト比が10〜20、平均粒子径が10〜200μm、かつ固定炭素量が98質量%以上の黒鉛を配合した熱伝導性樹脂組成物が記載されている。
特許文献1では、熱可塑性樹脂に配合する黒鉛のアスペクト比は12〜18が好ましいとされ、具体的にはアスペクト比16のものを用いた実施例が挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−2231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年の電気・電子・OA機器等の搭載部品の高容量、高出力化に伴う発熱量の増大、小型化による単位体積当たりの発熱量の増大、更にはこれらの機器の筐体の薄肉化による構成材料の単位体積当たりの熱伝導性の要求特性の高まりなどにより、これらの構成材料には、更なる熱伝導性の向上が望まれている。また、併せて、難燃性についても更なる向上が望まれている。
【0008】
本発明は上記従来の実状に鑑みてなされたものであって、熱伝導性、更には難燃性がより一層改善された高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物及びその成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特許文献1で配合されている黒鉛よりも更にアスペクト比の大きな黒鉛を用いることにより、熱伝導性をより一層高めることができること、更には特定のリン系難燃剤を用いることにより、難燃性をより一層高めることができることを見出した。
【0010】
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0011】
[1] (A)熱可塑性樹脂と(B)黒鉛とを含む熱可塑性樹脂組成物であって、
該(B)黒鉛のアスペクト比が20〜50で、平均粒子径が10〜200μmであり、かつ固定炭素量が98質量%以上であることを特徴とする高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物。
【0012】
[2] [1]において、(B)黒鉛が、粉末コークスに対して1000℃以上での熱処理を施してなる黒鉛であることを特徴とする高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物。
【0013】
[3] [1]又は[2]において、(B)黒鉛の含有量が1〜50質量%であることを特徴とする高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物。
【0014】
[4] [1]ないし[3]のいずれかにおいて、(A)熱可塑性樹脂が芳香族ポリカーボネート樹脂を含むことを特徴とする高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物。
【0015】
[5] [1]ないし[4]のいずれかにおいて、(C)リン系難燃剤を5〜20質量%含むことを特徴とする高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物。
【0016】
[6] [5]において、該(C)リン系難燃剤がリン酸エステル系化合物であることを特徴とする高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物。
【0017】
[7] [1]ないし[6]のいずれかにおいて、(D)フッ素樹脂を0.01〜1質量%含むことを特徴とする高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物。
【0018】
[8] [1]ないし[7]のいずれかに記載の高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物を射出成形してなることを特徴とする高熱伝導性熱可塑性樹脂成形品。
【発明の効果】
【0019】
本発明の高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物は、特定のアスペクト比、平均粒子径及び固定炭素量の黒鉛を含有することにより、著しく高い熱伝導性を有する。
【0020】
本発明において、この黒鉛としては、粉末コークスに対して1000℃以上での熱処理を施してなる黒鉛が好適であり(請求項2)、このような熱処理黒鉛であれば、高い熱伝導性を確実に得ることができる。
【0021】
本発明の高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物中の(B)黒鉛の含有量は1〜50質量%であることが好ましい(請求項3)。
また、(A)熱可塑性樹脂としては芳香族ポリカーボネート樹脂を含むことが好ましい(請求項4)。
【0022】
本発明の高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物は、更に(C)リン系難燃剤を5〜20質量%含むことが好ましく(請求項5)、この(C)リン系難燃剤としてはリン酸エステル系化合物が好ましい(請求項6)。
【0023】
また、本発明の高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物は、更に(D)フッ素樹脂を0.01〜1質量%含むことが好ましい(請求項7)。
【0024】
本発明の高熱伝導性熱可塑性樹脂成形品は、このような本発明の高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物を射出成形してなり、射出成形工程で熱可塑性樹脂組成物に付与される剪断力で、(B)黒鉛が射出成形方向(樹脂の流動方向と略平行方向)に配向するため、良好な熱伝導性が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に本発明の高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物及びその成形品の実施の形態を詳細に説明する。
【0026】
[高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物]
本発明の高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物は、(A)熱可塑性樹脂と特定の(B)黒鉛とを含むものである。
【0027】
{熱可塑性樹脂}
本発明の高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物に用いられる熱可塑性樹脂としては、ポリアミド−6、ポリアミド−6,6などのポリアミド樹脂;ポリカーボネート樹脂;熱可塑性ポリエステル樹脂;ポリスチレン樹脂、高衝撃ポリスチレン樹脂(HIPS)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル−スチレン−アクリルゴム共重合体(ASA樹脂)、アクリロニトリル−エチレンプロピレン系ゴム−スチレン共重合体(AES樹脂)などのスチレン系樹脂;等の1種又は2種以上が挙げられるが、混練時における樹脂への(B)黒鉛の分散性や、成形性及び成形品の機械物性などを考慮した場合、ポリカーボネート樹脂が特に好ましい。
【0028】
ポリカーボネート樹脂としては、芳香族ポリカーボネート樹脂、脂肪族ポリカーボネート樹脂、芳香族−脂肪族ポリカーボネート樹脂を用いることができるが、中でも芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましい。これらのポリカーボネート樹脂は1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0029】
芳香族ポリカーボネート樹脂としては、芳香族ジヒドロキシ化合物をホスゲン又は炭酸のジエステルと反応させることによって得られる熱可塑性芳香族ポリカーボネート重合体又は共重合体が挙げられる。反応に用いる芳香族ジヒドロキシ化合物としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(=ビスフェノールA)、テトラメチルビスフェノールA、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4−ジヒドロキシビフェニルなどが挙げられ、好ましくはビスフェノールAが挙げられる。さらに、難燃性をさらに高める目的で上記の芳香族ジヒドロキシ化合物にスルホン酸テトラアルキルホスホニウムが1個以上結合した化合物や、シロキサン構造を有する両末端フェノール性OH基含有のポリマーあるいはオリゴマーを使用することもできる。
【0030】
本発明で用いる芳香族ポリカーボネート樹脂としては、好ましくは、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンから誘導されるポリカーボネート樹脂、又は2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンと他の芳香族ジヒドロキシ化合物とから誘導されるポリカーボネート共重合体が挙げられる。
【0031】
ポリカーボネート樹脂の分子量は、溶媒としてメチレンクロライドを用い、温度25℃で測定された溶液粘度より換算した粘度平均分子量で、通常14,000〜30,000の範囲であり、好ましくは15,000〜28,000、より好ましくは16,000〜26,000である。粘度平均分子量が14,000未満では機械的強度が不足し、30,000を超えると成形性に難を生じやすく好ましくない。
【0032】
このような芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法については、限定されるものでは無く、ホスゲン法(界面重合法)あるいは、溶融法(エステル交換法)等で製造することができる。さらに、溶融法で製造された、末端基のOH基量を調整した芳香族ポリカーボネート樹脂を使用することができる。
【0033】
さらに、芳香族ポリカーボネート樹脂としては、バージン原料だけでなく、使用済みの製品から再生された芳香族ポリカーボネート樹脂、いわゆるマテリアルリサイクルされた芳香族ポリカーボネート樹脂の使用も可能である。使用済みの製品としては、光学ディスクなどの光記録媒体、導光板、自動車窓ガラスや自動車ヘッドランプレンズ、風防などの車両透明部材、水ボトルなどの容器、メガネレンズ、防音壁やガラス窓、波板などの建築部材などが好ましく挙げられる。また、再生芳香族ポリカーボネート樹脂としては、製品の不適合品、スプルー、又はランナーなどから得られた粉砕品又はそれらを溶融して得たペレットなども使用可能である。
【0034】
本発明においては、ポリカーボネート樹脂に、ポリアミド−6、ポリアミド−6,6などのポリアミド樹脂;熱可塑性ポリエステル樹脂;ポリスチレン樹脂、高衝撃ポリスチレン樹脂(HIPS)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル−スチレン−アクリルゴム共重合体(ASA樹脂)、アクリロニトリル−エチレンプロピレン系ゴム−スチレン共重合体(AES樹脂)などのスチレン系樹脂等の熱可塑性樹脂の1種又は2種以上を併用しても良い。また、ポリマーアロイの2相構造を形成する2種の熱可塑性樹脂を基本組成としても良い。
【0035】
{(B)黒鉛}
本発明で用いる(B)黒鉛は、アスペクト比が20〜50で、平均粒子径が10〜200μmであり、かつ固定炭素量が98質量%以上であることを特徴とする。
【0036】
ここで言う平均粒子径とは、SEM(走査電子顕微鏡)観察において、100個のサンプルについて粒子径(ここで粒子径とは、黒鉛を2枚の平行な板で挟んだ場合、この平行な板の間隔が最も大きくなる部位の径(板の間隔の長さ)をさす)を測定して得られた値の平均値である。この平均粒子径が小さすぎると、溶融混練時に空気中に舞うなど大気汚染の問題が生じたり、樹脂組成物の溶融粘度が著しく増加して流動性が低下する事がある。ただし、平均粒子径が大き過ぎると、溶融混練時時に黒鉛を含む粉体がホッパー内でブリッジするなどの供給不良が生じたり、成形品の外観不良が生じる場合があり、また、平均粒子径が過度に大きい黒鉛を製造ないし入手することは困難である。より好ましい(B)黒鉛の平均粒子径は20〜200μmである。
【0037】
また、黒鉛の粒子径と厚みとの比で求められるアスペクト比が20より小さいと、黒鉛が、射出成形工程にて、成形品内で、成形品厚み方向と黒鉛厚み方向とが一致するように配向するが、その場合、成形品厚み方向と垂直な面方向への黒鉛の熱伝導率への寄与が少なくなり、より高い熱伝導性を得ることができない。このため、このアスペクト比は20より大きく、特に25以上、とりわけ30以上であることが好ましい。ただし、アスペクト比が大きすぎると、黒鉛同士の絡み合いにより、分散不良が生じる場合があるため、アスペクト比は50以下、好ましくは45以下である。
【0038】
ここで、黒鉛のアスペクト比は、SEM(走査電子顕微鏡)観察において、100個のサンプルについて厚み(ここで厚みとは、黒鉛を2枚の平行な板で挟んだ場合、この平行な板の間隔が最も小さくなる部位の径(板の間隔の長さ)をさす)を測定して得られた値の平均値を平均厚みとし、上述の平均粒子径に対して、平均粒子径/平均厚みの比を算出することにより求められる。
【0039】
また、本発明で用いる(B)黒鉛は、JIS M8511に準じて測定される固定炭素量が98質量%以上、好ましくは98.5質量%以上、より好ましくは99質量%以上であることにより、優れた熱伝導性を得ることができる。
【0040】
本発明においては、上述のような物性を有する黒鉛の中でも、粉末コークスを1000℃以上で熱処理した熱分解黒鉛を用いることが好ましい。ここで熱処理が不十分ある場合、高い熱伝導性を得ることができない場合がある。この熱処理条件としては、好ましくは、温度1000〜3500℃で、不活性ガス中にて処理して得たものが好ましい。
【0041】
このような熱処理を施した熱分解黒鉛は、不純物が少なく、黒鉛自体の熱伝導率も高い上に、樹脂の分解を抑制するため好適である。
【0042】
本発明の熱可塑性樹脂組成物中の(B)黒鉛の含有量は、好ましくは1〜50質量%、より好ましくは1〜40質量%、さらに好ましくは5〜40質量%、特に好ましくは10〜40質量%である。
【0043】
(B)黒鉛の含有量が少な過ぎると必要とされる熱伝導性を得ることができない場合があり、多過ぎると樹脂組成物の混練が困難となり組成物を調製し得ない場合がある。
【0044】
なお、(B)黒鉛は、材質、形状、物性等の異なるものを2種以上併用しても良い。
【0045】
{その他の成分}
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、上記(A)熱可塑性樹脂及び(B)黒鉛の他、本発明の目的を損なわない範囲で、以下のようなその他の成分を含有していても良い。
【0046】
(1) 難燃剤
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、難燃性を付与するために難燃剤を配合することができる。
電気・電子機器の筐体等としての用途においては、多くの場合、難燃性も要求されることから、熱可塑性樹脂組成物に難燃剤を配合することは好ましい。
【0047】
難燃剤としては、組成物の難燃性を向上させるものであれば特に限定されないが、例えば、ハロゲン化ビスフェノールAのポリカーボネート、ブロム化ビスフェノール系エポキシ樹脂、ブロム化ビスフェノール系フェノキシ樹脂、ブロム化ポリスチレンなどのハロゲン系難燃剤、リン酸エステル系難燃剤、有機スルホン酸金属塩系難燃剤、シリコーン系難燃剤等が挙げられる。
【0048】
これらは単独で、又は2種以上を任意の割合で併用してもよい。
難燃剤としては、中でも難燃化効果が高く、流動性向上効果があり、金型腐食が生じにくいことから、リン酸エステル系難燃剤が好ましい。
【0049】
特に、このリン酸エステル系難燃剤としては、下記の一般式(1)で表されるリン酸エステル系化合物が好ましい。
【0050】
【化1】

【0051】
(式中、R、R、R及びRは、各々独立に、炭素数1〜6のアルキル基又はアルキル基で置換されていてもよい炭素数6〜20のアリール基を示し、p、q、r及びsは、各々独立に0又は1であり、tは、1〜5の整数であり、Xは、アリーレン基を示す。)
【0052】
上記一般式(1)において、R〜R12のアリール基としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。また、Xのアリーレン基としては、フェニレン基、ナフチレン基が挙げられる。
tが0の場合、一般式(1)で表される化合物はリン酸エステルであり、tが0より大きい場合は縮合リン酸エステル(混合物を含む)である。本目的には縮合リン酸エステルが好適に用いられる。
【0053】
上記一般式(1)で表されるリン酸エステル系難燃剤としては、具体的には、トリメチルフォスフェート、トリエチルフォスフェート、トリブチルフォスフェート、トリオクチルフォスフェート、トリブトキシエチルフォスフェート、トリフェニルフォスフェート、トリクレジルフォスフェート、トリクレジルフェニルフォスフェート、オクチルジフェニルフォスフェート、ジイソプロピルフェニルフォスフェート、トリス(クロルエチル)フォスフェート、トリス(ジクロルプロピル)フォスフェート、トリス(クロルプロピル)フォスフェート、ビス(2,3−ジブロモプロピル)フォスフェート、ビス(2,3−ジブロモプロピル)−2,3−ジクロルフォスフェート、ビス(クロルプロピル)モノオクチルフォスフェート、ビスフェノールAテトラフェニルフォスフェート、ビスフェノールAテトラクレジルジフォスフェート、ビスフェノールAテトラキシリルジフォスフェート、ヒドロキノンテトラフェニルジフォスフェート、ヒドロキノンテトラクレジルフォスフェート、ヒドロキノンテトラキシリルジフォスフェート等の種々のものが例示される。これらのうち好ましくは、トリフェニルフォスフェート、ビスフェノールAテトラフェニルフォスフェート、レゾルシノールテトラフェニルフォスフェート、レゾルシノールテトラ−2,6−キシレノールフォスフェート等が挙げられる。
【0054】
これらのリン酸エステル系難燃剤は、これを配合することにより、組成物の難燃性を向上させると共に、粘度を低減し、熱可塑性樹脂組成物調整時の混練工程で(B)黒鉛が破砕されてそのアスペクト比や粒径が変化することによる(B)黒鉛本来の熱伝導性付与効果が損なわれることを防止することができ、好ましい。
【0055】
なお、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、リン酸エステル系難燃剤の配合による粘度の低減で、後述の実施例の項で測定される流動性の指標としてのQ値が10〜30×10−2cm/sec、特に15〜25×10−2cm/secであることが好ましい。このQ値が大き過ぎると耐衝撃性が低下する事があり、小さ過ぎると射出成形時に金型充填不良となり製品が得られない事がある。
【0056】
難燃剤の配合量は、適宜選択して決定すればよいが、少なすぎると難燃効果が不十分となり、逆に多すぎても耐熱性や機械物性が低下する場合があるので、通常、熱可塑性樹脂組成物中の難燃剤の含有量は、例えば、リン酸エステル系難燃剤であれば5〜20質量%、有機スルホン酸金属塩系難燃剤であれば0.02〜0.2質量%、シリコーン化合物系難燃剤であれば0.3〜3質量%である。
【0057】
また、これらの難燃剤に、無機化合物系難燃助剤を併用しても良く、無機化合物系難燃助剤としては、タルク、マイカ、カオリン、クレー、シリカ粉末、ヒュームドシリカ、ガラスフレーク等の1種又は2種以上が挙げられる。
【0058】
これらの難燃剤に無機化合物系難燃助剤を併用する場合、無機化合物系難燃助剤の配合量が少な過ぎると十分な配合効果が得られず、多過ぎると耐熱性や機械物性が低下することから、熱可塑性樹脂組成物中の無機化合物系難燃助剤の含有量は1〜20質量%とすることが好ましく、更に好ましくは3〜10質量%である。
【0059】
(2) 滴下防止剤
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、燃焼時の滴下防止を目的として、滴下防止剤を配合することができる。滴下防止剤としては好ましくはフッ素樹脂を用いることができる。
【0060】
ここでフッ素樹脂とは、フルオロエチレン構造を含む重合体ないしは共重合体であり、例えば、ジフルオロエチレン重合体、テトラフルオロエチレン重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレンとフッ素を含まないエチレン系モノマーとの共重合体が挙げられ、好ましくは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)であり、その平均分子量は、500,000以上であることが好ましく、特に好ましくは500,000〜10,000,000である。
【0061】
本発明で用いることができるポリテトラフルオロエチレンとしては、現在知られているすべての種類のものを用いることができるが、ポリテトラフルオロエチレンのうち、フィブリル形成能を有するものを用いると、さらに高い溶融滴下防止性を付与することができる。フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレン(PTFE)には特に制限はないが、例えば、ASTM規格において、タイプ3に分類されるものが挙げられる。その具体例としては、例えばテフロン(登録商標)6−J(三井・デュポンフロロケミカル(株)製)、ポリフロンD−1、ポリフロンF−103、ポリフロンF201(ダイキン工業(株)製)、CD076(旭アイシーアイフロロポリマーズ(株)製)等が挙げられる。また、上記タイプ3に分類されるもの以外では、例えばアルゴフロンF5(モンテフルオス(株)製)、ポリフロンMPA、ポリフロンFA−100(ダイキン工業(株)製)等が挙げられる。これらのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。上記のようなフィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は、例えばテトラフルオロエチレンを水性溶媒中で、ナトリウム、カリウム、アンモニウムパーオキシジスルフィドの存在下で、1〜100psiの圧力下、温度0〜200℃、好ましくは20〜100℃で重合させることによって得られる。また、溶媒にて分散されたテフロン(登録商標)30−J(三井・デュポンフロロケミカル(株)製)であっても構わない。
【0062】
また、滴下防止剤は、ポリテトラフルオロエチレン粒子と有機系重合体粒子とからなるポリテトラフルオロエチレン含有混合粉体であってもよい。有機系重合体粒子を生成するための単量体の具体例としては、スチレン、p−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−クロルスチレン、o−クロルスチレン、p−メトキシスチレン、o−メトキシスチレン、2,4−ジメチルスチレン、α−メチルスチレン等のスチレン系単量体、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、メタクリル酸ドデシル、アクリル酸トリドデシル、メタクリル酸トリドデシル、アクリル酸オクタデシル、メタクリル酸オクタデシル、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル等の(メタ)アクリル酸エステル系単量体、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル系単量体、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル等のビニルエーテル系単量体、酢酸ビニル、酪酸ビニル等のカルボン酸ビニル単量体、エチレン、プロピレン、イソブチレン等のオレフィン系単量体、ブタジエン、イソプレン、ジメチルブタジエン等のジエン系単量体等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。好ましくは、これらの単量体の重合体又は共重合体を2種以上用い、有機系重合体粒子を得ることができる。
【0063】
滴下防止剤の配合量としては、好ましくは熱可塑性樹脂組成物中の含有量として0.01〜1質量%であり、より好ましくは0.1〜0.5質量%である。
【0064】
(3) 耐衝撃性改良剤
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、衝撃強度向上のために、耐衝撃性改良剤としてエラストマーを配合することができる。
【0065】
該エラストマーとしては、特に限定されるものではないが、多層構造重合体が好ましい。多層構造重合体としては、例えば、アルキル(メタ)アクリレート系重合体を含むものが挙げられる。これらの多層構造重合体としては、例えば、先の段階の重合体を後の段階の重合体が順次被覆するような連続した多段階シード重合によって製造される重合体であり、基本的な重合体構造としては、ガラス転移温度の低い架橋成分である内核層と組成物のマトリックスとの接着性を改善する高分子化合物から成る最外核層を有する重合体である。これら多層構造重合体の最内核層を形成する成分としては、ガラス転移温度が0℃以下のゴム成分が選択される。これらゴム成分としては、ブタジエン等のゴム成分、スチレン/ブタジエン等のゴム成分、アルキル(メタ)アクリレート系重合体のゴム成分、ポリオルガノシロキサン系重合体とアルキル(メタ)アクリレート系重合体が絡み合って成るゴム成分、あるいはこれらの併用されたゴム成分が挙げられる。さらに、最外核層を形成する成分としては、芳香族ビニル単量体又は非芳香族系単量体あるいはそれらの2種類以上の共重合体が挙げられる。芳香族ビニル単量体としては、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、モノクロルスチレン、ジクロルスチレン、ブロモスチレン等を挙げることができる。これらの中では、特にスチレンが好ましく用いられる。非芳香族系単量体としては、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニルやシアン化ビニリデン等を挙げることができる。これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0066】
耐衝撃性改良剤の配合量としては、好ましくは熱可塑性樹脂組成物中の含有量として1〜10質量%であり、より好ましくは2〜5質量%である。
【0067】
(4) 補強材
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、弾性率、強度、荷重たわみ温度の向上のために、補強材を添加することができる。
【0068】
ここで、補強材としては、シリカ、珪藻土、軽石粉、軽石バルーン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、硫酸カルシウム、チタン酸カリウム、硫酸バリウム、亜硫酸カルシウム、タルク、クレー、マイカ、ガラス繊維、ガラスフレーク、ガラスビーズ、珪酸カルシウム、モンモリロナイト、ベントナイト、硫化モリブデン、ボロン繊維、炭化珪素繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ホウ酸アルミニウム等を例示できる。これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。特に限定されるものではないが、補強材としてはガラス繊維、ガラスフレーク、タルク、マイカが好ましい。
【0069】
補強材の配合量としては、好ましくは樹脂成分100質量部に対し、1〜100質量部であり、より好ましくは10〜80質量部である。
【0070】
(5) 離型剤
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、射出成形時の金型離型性を良好なものとするために離型剤を配合することができる。
【0071】
離型剤としては例えば、脂肪族カルボン酸やそのアルコールエステル、数平均分子量200〜15000の脂肪族炭化水素化合物、ポリシロキサン系シリコーンオイル等が挙げられる。
【0072】
脂肪族カルボン酸としては、飽和または不飽和の、鎖式又は環式の、脂肪族1〜3価のカルボン酸が挙げられる。これらの中でも炭素数6〜36の、1価又は2価カルボン酸が好ましく、特に炭素数6〜36の脂肪族飽和1価カルボン酸が好ましい。この様な脂肪族カルボン酸としては、具体的には例えばパルミチン酸、ステアリン酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、テトラリアコンタン酸、モンタン酸、アジピン酸、アゼライン酸等が挙げられる。
【0073】
脂肪族カルボン酸エステルにおける脂肪族カルボン酸成分は、上述の脂肪族カルボン酸と同義である。一方、脂肪族カルボン酸エステルのアルコール成分としては、飽和または不飽和の、鎖式又は環式の、1価または多価アルコールが挙げられる。これらはフッ素原子、アリール基等の換基を有していてもよく、中でも炭素数30以下の、1価または多価飽和アルコールが好ましく、特に炭素数30以下、飽和脂肪族の、1価または多価アルコールが好ましい。
【0074】
この様なアルコール成分としては、具体的には例えばオクタノール、デカノール、ドデカノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、2,2−ジヒドロキシペルフルオロプロパノール、ネオペンチレングリコール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。尚、この脂肪族カルボン酸エステルは、不純物として脂肪族カルボン酸及び/またはアルコールを含有していてもよく、更には複数の脂肪族カルボン酸エステルの混合物でもよい。
【0075】
脂肪族カルボン酸エステルの具体例としては、蜜ロウ(ミリシルパルミテートを主成分とする混合物)、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル、ベヘン酸ステアリル、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート等が挙げられる。
【0076】
数平均分子量200〜15000の脂肪族炭化水素としては、流動パラフィン、パラフィンワックス、マイクロワックス、ポリエチレンワックス、フィッシャ−トロプシュワックス、炭素数3〜12のα−オレフィンオリゴマー等が挙げられる。ここで脂肪族炭化水素とは、脂環式炭化水素も含まれる。またこれらの炭化水素化合物は、部分酸化されていてもよい。
【0077】
これら脂肪族炭化水素の中でも、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス又はポリエチレンワックスの部分酸化物が好ましく、特にパラフィンワックスやポリエチレンワックスが好ましい。数平均分子量は中でも200〜5000であることが好ましい。これらの脂肪族炭化水素は単独で、又は2種以上を任意の割合で併用しても、主成分が上記の範囲内であればよい。
【0078】
ポリシロキサン系シリコーンオイルとしては、例えばジメチルシリコーンオイル、フェニルメチルシリコーンオイル、ジフェニルシリコーンオイル、フッ素化アルキルシリコーン等が挙げられ、これらは一種または任意の割合で二種以上を併用してもよい。
【0079】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の離型剤の含有量は適宜選択して決定すればよいが、少なすぎると離型効果が十分に発揮されず、逆に多すぎても樹脂の耐加水分解性の低下や、射出成形時の金型汚染等が生ずる場合がある。よって離型剤の配合量は、樹脂成分100質量部に対して0.001〜2質量部であり、中でも0.01〜1質量部であることが好ましい。
【0080】
(6) その他
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、上記の成分以外に、必要に応じて、紫外線吸収剤、酸化防止剤等の安定剤、顔料、染料、滑剤等の添加剤をそれぞれ必要量配合しても良い。
【0081】
{製造方法}
本発明の熱可塑性樹脂組成物を得るための方法としては、特に限定されず、各種混練機、例えば、一軸又は多軸混練機、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダープラストグラム等で、上記成分を所定の配合で混練した後、冷却固化する方法や、適当な溶媒、例えば、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素及びその誘導体に上記成分を添加し、溶解する成分同志、あるいは溶解する成分と不溶解成分を懸濁状態で混ぜる溶液混合法等が用いられる。工業的コストからは溶融混練法が好ましいが、これに限定されるものではない。溶融混練においては、単軸や二軸の押出機を用いることが好ましい。より好ましくは、二軸の押出機を用いるのが良い。
【0082】
本発明の熱可塑性樹脂組成物を製造する際には、すべての成分を一度に混合しても良く、また、(B)黒鉛を、(A)熱可塑性樹脂の一部、又は全部と予め混合したり、(A)熱可塑性樹脂の一部で(B)黒鉛を被覆したりして、マスターバッチを調製した後、残りの熱可塑性樹脂に配合する方法でも良い。
【0083】
{成形方法}
本発明の熱可塑性樹脂組成物を用いて熱可塑性樹脂成形品を得る方法は、特に限定されるものでなく、熱可塑性樹脂組成物について一般に用いられている成形法、例えば、射出成形、中空成形、押出成形、シート成形、熱成形、回転成形、積層成形等の成形方法を適用できるが、特に、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、射出成形法、押出成形法等のように、成形中に樹脂組成物に剪断力が付与され、この結果、組成物中の(B)黒鉛が配向するような成形法を採用するのが好ましい。
【0084】
[高熱伝導性熱可塑性樹脂成形品]
本発明の高熱伝導性熱可塑性樹脂成形品は、上述の本発明の高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物を射出成形法で成形してなるものである。
本発明の熱可塑性樹脂成形品は、特にOA機器の筐体や電気電子機器の筐体に好適であり、適用される機器としては、例えば、ノート型パソコン、電子手帳、携帯電話、PDA等が挙げられるが、本発明の特徴である高熱伝導性能を最も活かせる用途として、ノート型パソコンの筐体が挙げられる。
【実施例】
【0085】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0086】
[配合成分]
以下の実施例及び比較例において、熱可塑性樹脂組成物の配合成分として用いたものは次の通りである。
【0087】
<熱可塑性樹脂>
芳香族ポリカーボネート樹脂(PC樹脂):三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製 商品名「ユーピロン(登録商標)S−3000」、粘度平均分子量:21,000
【0088】
【表1】

【0089】
<その他>
離型剤:クラリアントジャパン(株)製 商品名「LICOWAX PE520POWDER」(ポリエチレンワックス)
難燃剤:大八化学工業(株)製 商品名「PX−200」(レゾルシノール(ジキシレニルホスフェート))
滴下防止剤:三井デュポンクロロケミカル(株)製 商品名「テフロン(登録商標)6−J」(ポリテトラフルオロエチレン)
【0090】
[黒鉛の物性評価]
<平均粒子径・平均厚み>
平均粒子径:樹脂組成物のペレットを600℃で2時間保持して灰分を得、導電テープ上に該灰分を貼り付けて電子顕微鏡にて観察し、各々の黒鉛粉末の外接円を描き、その直径を粒子径として100個の測定値を得、この測定値の平均値を算出して平均粒子径とした。
平均厚み:樹脂組成物のペレットから、射出成形によりフィルムゲート100×100×3mm厚さの平板を得、その流動方向と肉厚方向を含む断面をゲートから50mmの位置について切り出し、その断面を電子顕微鏡にて観察し、黒鉛粉末の厚みを100個測定し、この測定値の平均値を算出して平均厚みとした。
【0091】
<アスペクト比>
上記平均粒子径及び平均厚みの値から、平均粒子径/平均厚みを算出して求めた。
【0092】
<固定炭素量>
JIS M8511に準拠して測定した。
【0093】
[実施例1〜8、比較例1]
表2に示す割合にて各成分を配合し、タンブラーミキサーにて均一に混合した後、二軸押出機(日本製鋼所製TEX30HSST、L/D=42、バレル数12)を用いて、シリンダー温度280℃、スクリュー回転数200rpm、吐出量10kg/hrにて押出機上流部のバレルより押出機にフィードし、溶融混練させて樹脂組成物のペレットを得た。この樹脂組成物のペレットを用いて以下の(1)〜(2)の評価を行い、結果を表2に示した。
【0094】
(1)流動性(Q値)
得られた樹脂組成物のペレットを120℃で4時間以上乾燥した後、JISK7210附属書Cに準拠した方法で、高荷式フローテスターを用いて、280℃、荷重160kgfの条件下で組成物の単位時間あたりの流出量Q値(単位:×10−2cm/sec)を測定し、流動性を評価した。なお、オリフィスは、直径1mm×長さ10mmのものを使用した。Q値が大きいほど、流動性に優れていることを示す。
【0095】
(2)熱伝導性
射出成形機(住友重機械工業製、SH100、型締め力100T)を用いて、シリンダー温度:300℃、金型温度:80℃にて、金型:縦100mm、横100mm、厚み3mmの成形品を、射出圧力:147MPaの条件で射出成形し、得られた射出成形品を3枚重ねて、迅速熱伝導率測定装置(京都電子工業製、Kemtherm QTM−D3)を用いてプローブの電熱線の方向を、3枚重ねた最上部の成形品の流動方向に合うように押し当てて熱伝導率を測定し、この値をλMDとする。同様に流動方向と直角方向にプローブの電熱線の方向が合うように押し当てて熱伝導率を測定し、この値をλTDとする。次に3枚重ねた積層面の積層方向とプローブの電熱線の方向が合うように押し当てて熱伝導率を測定し、この値をλとする。
λ、λ、λは以下の式で求めた。
λ=λTD×λ/λMD
λ=λ×λMD/λTD
λ=λMD×λTD/λ
【0096】
(3)難燃性
得られた樹脂組成物のペレットを、日本製鋼製射出成形機J50を用いて樹脂温度(パージ樹脂の実測温度):290℃、金型温度:90℃、射出圧力:147MPaの条件で厚さが1/16インチの試験片を射出成形した。
この試験片の各5本について、アンダーライターズラボラトリーズインコーポレーションのUL−94「材料分類のための燃焼試験」(以下、UL−94)に示される試験方法に従って試験し、その結果に基づいてUL−94規格のV−0、V−1およびV−2のいずれかの等級に評価した。
UL−94についての各Vの等級基準は、概略以下のとおりである。
V−0:10秒接炎後の燃焼時間が10秒以下であり、5本のトータル燃焼時間が5
0秒以下かつ、全試験片とも脱脂綿に着火するような微粒炎を落下しない。
V−1:10秒接炎後の燃焼時間が30秒以下であり、5本のトータル燃焼時間が2
50秒以下、かつ、全試験片とも脱脂綿に着火するような微粒炎を落下しな
い。
V−2:10秒接炎後の燃焼時間が30秒以下であり、5本のトータル燃焼時間が2
50秒以下、かつ、これらの試験片から落下した微粒炎から脱脂綿に着火す
る。
NG:上記いずれの燃焼時間にも該当せず、燃焼し続けた場合。
【0097】
【表2】

【0098】
表2より、アスペクト比の大きい黒鉛を用いた本発明の熱可塑性樹脂組成物は、熱伝導性に優れることが分かる。また、更に難燃剤としてリン酸エステル系難燃剤を配合した場合には、難燃性が得られると共に、同量の黒鉛の配合において、熱伝導性を更に高めることができることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)熱可塑性樹脂と(B)黒鉛とを含む熱可塑性樹脂組成物であって、
該(B)黒鉛のアスペクト比が20〜50で、平均粒子径が10〜200μmであり、かつ固定炭素量が98質量%以上であることを特徴とする高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1において、(B)黒鉛が、粉末コークスに対して1000℃以上での熱処理を施してなる黒鉛であることを特徴とする高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2において、(B)黒鉛の含有量が1〜50質量%であることを特徴とする高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、(A)熱可塑性樹脂が芳香族ポリカーボネート樹脂を含むことを特徴とする高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、(C)リン系難燃剤を5〜20質量%含むことを特徴とする高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項5において、該(C)リン系難燃剤がリン酸エステル系化合物であることを特徴とする高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項において、(D)フッ素樹脂を0.01〜1質量%含むことを特徴とする高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項に記載の高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物を射出成形してなることを特徴とする高熱伝導性熱可塑性樹脂成形品。

【公開番号】特開2011−16937(P2011−16937A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−162853(P2009−162853)
【出願日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】