説明

高熱伝導性複合材料

【課題】無機材料粒子の体積含有率を大きくしなくても、高い熱伝導率を発現する複合材料を、提供すること。
【解決手段】樹脂材料1と、その樹脂材料1中に分散した無機材料粒子2と、を有するとともに、それら樹脂材料1と無機材料粒子2との界面に、内部の分子配列が秩序化された有機高分子層3を備える、高熱伝導性複合材料の提供による。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に無機材料粒子と樹脂材料からなる、高熱伝導性の複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の高機能化が進み、電子部品が高密度に配置されるのに伴って、電子機器からの発熱量は増大の一途を辿っており、放熱が重要な問題となっている。特に、小型、軽量が望まれ、必然的に電子部品の高密度化が進むノート型パーソナルコンピュータや携帯型端末機器においては、喫緊の問題といえる。
【0003】
放熱の手法としては、発熱源に放熱部材を接合させて、その放熱部材を通じて放熱することが有効である。そして、電子機器においては、放熱部材に電気的絶縁性が要求される場合が多い。このような事情から、一般的に、放熱部材として、マトリックスとしての樹脂材料中に、フィラーとして無機材料粒子を分散させた、複合材料が採用されている(例えば、非特許文献1を参照)。そして、この複合材料において、高い熱伝導率を発現させるためには、無機材料粒子の体積含有率を大きく(高く)することが望ましい(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−24406号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】高熱伝導性コンポジット材料、シーエムシー出版、2011年、p.111〜124
【非特許文献2】高分子の難燃・放熱制御技術、株式会社エヌ・ティー・エス、2002年、p.49〜64
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、無機材料粒子の体積含有率が大きい(高い)複合材料を得るべく、原料に、無機材料粒子を過剰に添加すると、(原料の)流動性が低下し、成形性が悪化して、製造過程上、好ましくない。又、高価な無機材料粒子(フィラー)を大量に使用すれば、コストが上昇してしまう。更には、無機材料粒子の添加量が多いと、得られる複合材料の強度が低下し、脆く、破壊され易くなるとともに、重量増にもつながり、実用上、望ましくない。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、本発明の課題は、無機材料粒子の体積含有率を大きくしなくても、高い熱伝導率を発現する複合材料を、提供することである。研究が重ねられた結果、マトリックスとしての樹脂材料中にフィラーとして無機材料粒子を分散させた複合材料において、無機材料粒子と樹脂材料間の界面に、分子配列を制御して秩序化させた有機高分子層を導入することによって、複合材料全体の熱伝導率を向上させ得ることが見出され、本発明の完成に至った。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、本発明によれば、樹脂材料と、その樹脂材料中に分散した無機材料粒子と、を有するとともに、それら樹脂材料と無機材料粒子との界面に、内部の分子配列が秩序化された有機高分子層を備える、高熱伝導性複合材料が提供される。
【0009】
本発明に係る高熱伝導性複合材料では、有機高分子層は、その内部の分子配列が秩序化されたものである。ここで、分子配列が秩序化された、とは、分子の配列が、ランダムではなく、規則的になっていることを指す。例えば、分子鎖が一定の方向を向いているような有機高分子層が、分子配列が秩序化された有機高分子層に、該当する。
【0010】
本発明に係る高熱伝導性複合材料においては、上記有機高分子層が、その分子構造中に、オキシエチレン(−CO−)構造を含むものであることが好ましい。
【0011】
本発明に係る高熱伝導性複合材料においては、上記有機高分子層が、無機材料粒子の表面に、共有結合によって結合していることが好ましい。
【0012】
本発明に係る高熱伝導性複合材料においては、上記樹脂材料が、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、テフロン、ABS樹脂、AS樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンスルファイド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスルホン、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、及びポリイミドの物質群から選択される少なくとも一種の有機物質を含むものであることが好ましい。
【0013】
本発明に係る高熱伝導性複合材料においては、上記無機材料粒子が、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、及び炭化ケイ素の物質群から選択される少なくとも一種の無機物質を含むものであることが好ましい。
【0014】
本発明に係る高熱伝導性複合材料においては、上記無機材料粒子の平均粒径が、10nm以上、100μm未満であることが好ましい。無機材料粒子の平均粒径は、100nm以上、100μm未満であることが、より好ましく、100nm以上、10μm以下であることが、特に好ましい。
【0015】
本発明に係る高熱伝導性複合材料においては、上記無機材料粒子の含有量が、3体積%以上、40体積%以下である(3〜40体積%である)ことが好ましい。無機材料粒子の含有量は、5〜30体積%であることが、より好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る高熱伝導性複合材料は、樹脂材料と無機材料粒子との界面に、内部の分子配列が秩序化された有機高分子層を備えるので、そうでない従来の複合材料に比して、同じ無機材料粒子の体積含有率であっても、熱伝導率が、より大きくなる(高くなる(その理由は後述する))。従って、大きな(高い)熱伝導率の複合材料を得ようとしたときに、高価な無機材料粒子を過剰に使用する必要はないので、原料の流動性は低下せず、成形性は良好である。又、コストを抑制することが可能である。更に、複合材料の強度低下、重量増を防止することが出来る。
【0017】
本発明に係る高熱伝導性複合材料は、その好ましい態様において、有機高分子層が、その分子構造中に、オキシエチレン(−CO−)構造を含むものであるので、製造が容易である。これは、本発明に係る高熱伝導性複合材料では、有機高分子層は、分子配列が秩序化されている必要があるところ、オキシエチレン(−CO−)構造を含むものは、水中で60℃程度以上の高温にすることだけで、秩序構造を持つ状態にすることが出来るからである。
【0018】
本発明に係る高熱伝導性複合材料は、その好ましい態様において、有機高分子層が、無機材料粒子の表面に、共有結合によって結合しているので、有機高分子層が、マトリックスである樹脂材料中に拡散することがない。有機高分子層は、安定して、継続して、無機材料粒子と樹脂材料との間(界面)に存在するので、複合材料全体の熱伝導率が向上するという上記効果を、安定して、継続して、得ることが出来る。即ち、本発明に係る高熱伝導性複合材料のこの好ましい態様は、長期にわたる信頼性が高い。
【0019】
高熱伝導性複合材料では、樹脂材料は、マトリックスとして(フィラーである)無機材料粒子を包含するものであるところ、本発明に係る高熱伝導性複合材料は、その好ましい態様において、樹脂材料が、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、テフロン、ABS樹脂、AS樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンスルファイド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスルホン、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、及びポリイミドの物質群から選択される少なくとも一種の有機物質を含むものであるので、この要求に合致する。
【0020】
高熱伝導性複合材料では、無機材料粒子として、樹脂材料よりも、熱伝導率の高い物質を用いる必要があるところ、本発明に係る高熱伝導性複合材料は、その好ましい態様において、無機材料粒子が、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、及び炭化ケイ素の物質群から選択される少なくとも一種の無機物質を含むものであるので、この要求に合致する。
【0021】
本発明に係る高熱伝導性複合材料は、その好ましい態様において、無機材料粒子の平均粒径が、10nm以上、100μm未満であるので、複合材料全体の熱伝導率が向上するという上記効果を、確実に得ることが出来る。無機材料粒子の平均粒径が、10nm未満であると、無機材料粒子の結晶性を保つことが困難となり、高い熱伝導率を維持出来ないおそれが生じる。又、無機材料粒子の平均粒径が、100μm以上であると、複合材料中に占める無機材料粒子と樹脂材料との間の界面の面積が小さくなり、フォノンの静的散乱による熱伝導率の低下が顕著でなくなるため、本発明に係る高熱伝導性複合材料を利用する意義は小さい。
【0022】
本発明に係る高熱伝導性複合材料は、その好ましい態様において、無機材料粒子の含有量が、3体積%以上、40体積%以下であるので、複合材料全体の熱伝導率が向上するという上記効果を、確実に得ることが出来る。無機材料粒子の含有量が、3体積%未満であると、無機材料粒子の添加による複合材料の熱伝導率向上が期待出来ない。一方、無機材料粒子の含有量が、40体積%超であると、無機材料粒子どうしが複合材料中で接触し、パーコレーション効果による熱伝導が支配的となって、本発明技術を利用する必要性は小さくなる。そもそも、無機材料粒子の過剰な添加は、流動性が低下して成形性が悪くなるという製造過程上の問題、高価な無機材料粒子(フィラー)を大量に使用しなくてはならないというコスト上の問題、複合材料が脆くなり強度が低下して破壊され易くなることや重量増につながること等の実用上の問題、を引き起こすため、好ましくない。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る高熱伝導性複合材料の構造を、模式的に示す説明図である。
【図2】本発明に係る高熱伝導性複合材料の構造を示す図であり、樹脂材料と無機材料粒子との界面に、分子配列を制御し秩序化させた有機高分子層が備わる態様において、熱が伝わる様子を拡大して、模式的に示した説明図である。
【図3】実施例の結果を示す図であり、酸化アルミニウム粒子(無機材料粒子)の含有量と、(得られた)複合材料の熱伝導率と、の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について、適宜、図面を参酌しながら説明するが、本発明はこれらに限定されて解釈されるべきものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加え得るものである。例えば、図面は、好適な本発明の実施の形態を表すものであるが、本発明は図面に表される態様や図面に示される情報により制限されない。本発明を実施し又は検証する上では、本明細書中に記述されたものと同様の手段若しくは均等な手段が適用され得るが、好適な手段は以下に記述される手段である。
【0025】
先ず、本発明に係る高熱伝導性複合材料の構造について、説明する。図1及び図2に示される(本発明に係る)高熱伝導性複合材料においては、無機材料粒子2が、樹脂材料1中に、分散している。即ち、(本発明に係る)高熱伝導性複合材料は、マトリックスとしての樹脂材料1と、フィラーとしての無機材料粒子2と、を構成要素として備えるものである。そして、樹脂材料1(樹脂材料相)と無機材料粒子2(無機材料相)との界面に、内部の分子配列が秩序化された有機高分子層3が備わる。(本発明に係る)高熱伝導性複合材料は、無機材料粒子2と樹脂材料1とを有する複合材料において、分子配列を制御し秩序化させた有機高分子層3を導入することにより、複合材料の熱伝導性を高めるという技術的思想に基づく複合材料を、広く包含するものである。
【0026】
この(本発明に係る)高熱伝導性複合材料では、既述の通り、樹脂材料と無機材料粒子との界面に、内部の分子配列が秩序化された有機高分子層を備えるので、そうでない従来の複合材料に比して、同じ無機材料粒子の体積含有率であっても、熱伝導率が、より大きくなる(高くなる)。この理由は、以下の通りである。即ち、物質中の熱伝導を担う媒体は、自由電子、格子振動(フォノン)、分子運動の何れかである。無機材料及び樹脂材料の熱伝導は、フォノンによるものである。物質中のフォノンの平均自由行程が長い方が、熱伝導率は高い。そして、フォノンの平均自由行程は、フォノン散乱の程度によって決まる。フォノン散乱は、フォノンどうしの衝突による散乱(動的散乱)と、幾何学的な散乱(静的散乱)に、大別される。動的散乱は、物質の温度や、分子運動及び格子振動の非調和性に起因し、静的散乱は、非晶質構造、結晶性物質と非晶質物質との境界面、不純物、格子欠陥等に、起因する。ここで、熱伝導率の高い無機材料は、結晶性であるが、樹脂材料は、一般に非晶質である。このため、複合材料中のフィラー(無機材料)とマトリックス(樹脂材料)の界面は、結晶性物質と非晶質物質との境界面となり、フォノンの静的散乱を引き起こし、複合材料の熱伝導率低下の原因となる(例えば、非特許文献2を参照)。然るに、(本発明に係る)高熱伝導性複合材料は、無機材料粒子と樹脂材料との間(界面)に、分子配列を制御して秩序化させた有機高分子層を導入しており、結晶性物質と非晶質物質との境界面におけるフォノンの静的散乱が抑制されるので、複合材料全体の熱伝導率が向上するのである。
【0027】
次に、本発明に係る高熱伝導性複合材料の製造方法について、説明する。本発明に係る高熱伝導性複合材料は、例えば、有機高分子層を無機材料粒子の表面に化学結合させ、その有機高分子層が化学結合した無機材料粒子を、樹脂材料中へ分散させて、得ることが出来る。
【0028】
有機高分子層を無機材料粒子の表面に化学結合させる方法は、特に限定されず、従来公知の化学修飾法を利用することが出来る。例えば、カップリング剤により有機分子を固定する方法、オートクレーブ法により有機分子を固定する方法、コロナ放電による表面改質を利用する方法、オゾンによる表面改質を利用する方法、超臨界水中での反応による方法等が、挙げられる。中でも、カップリング剤により有機分子を固定する方法を用いることが好ましい。簡便に強固な結合を形成することが可能だからである。
【0029】
無機材料粒子を樹脂材料中へ分散させるための方法は、特に制限はなく、化学結合させた有機高分子層の効果が損なわれない限り、従来公知の分散方法の中から、任意に選択し、採用することが出来る。例えば、撹拌による方法、超音波バスによる方法、ホモジナイザーによる方法、ボールミルによる方法等を、好適に用いることが可能である。
【0030】
有機高分子層は、分子配列が秩序化されている必要がある。そのような分子配列を制御することが可能な物質として、構造中に、オキシエチレン(−CO−)構造を含むものが、挙げられる。オキシエチレンは常温では親水性であるため、固体表面に固定されたポリオキシエチレンは、水中ではランダムな構造となるが、温度を60℃以上に上昇させることによって、その親水性を失い、固体表面近傍に秩序化された状態で、凝縮する。例えば、構造中にポリオキシエチレンを含む物質を表面に固定した無機材料粒子を、常温で水中に分散させ、温度を60℃以上に上昇させれば、分子配列が秩序化された有機高分子層を、得ることが出来る。
【0031】
有機高分子層において、分子配列が秩序化されていることは、例えば、高分解能透過型電子顕微鏡を用いた観察、又は、透過型電子顕微鏡を用いた電子線回折による構造解析、によって、確認することが出来る。上記の通り、構造中にポリオキシエチレンを含む物質を表面に固定した無機材料粒子を、常温で水中に分散させ、温度を60℃以上に上昇させて得られた、オキシエチレン(−CO−)構造を含む有機高分子層を、例えば、高分解能透過型電子顕微鏡を用いて観察すると、分子配列が秩序化されている態様(分子鎖が一定の方向を向いている様子)を、確認することが出来る。通常、分子配列を秩序化する処理を行えば、殆どの分子配列は秩序化する(大部分の分子鎖は一定の方向を向く)。
【0032】
例えば、無機材料粒子として酸化アルミニウム粒子を用い、その酸化アルミニウム粒子表面に対してカップリング剤を化学結合させ、更に、オキシエチレン構造を有する有機分子を化学結合させて、ポリオキシエチレンを有する有機分子が表面に化学結合した酸化アルミニウム粒子を得て、マトリックスである樹脂材料として、ポリアミドの1種である6−ナイロンを用い、ポリオキシエチレンを有する有機分子が表面に化学結合した酸化アルミニウム粒子を、その6−ナイロン中に分散させれば、本発明に係る高熱伝導性複合材料を得ることが出来る(後述する実施例を参照)。
【0033】
尚、分子配列を制御可能であって、分子配列が秩序化された有機高分子層を得られる物質としては、他に、ポリエチレン、液晶アクリレート、エポキシ樹脂等を、挙げることが出来る。
【実施例】
【0034】
以下、実施例に基づいて本発明を説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0035】
(実施例1)[工程1]下記式(化1)に示すように、酸化アルミニウム粒子(I)に対して、シラン系カップリング剤である3−アミノプロピルトリエトキシシラン(II:NHSi(OC)を作用させ、表面にアミノ基を有する酸化アルミニウム粒子(III)を得た。具体的には、先ず、3−アミノプロピルトリエトキシシラン4gを、純水500mlに溶解させて、シラン系カップリング剤の水溶液を調製する。次いで、その水溶液中に、平均粒径570nmの酸化アルミニウム粒子25gを分散させ、1時間、撹拌することにより、酸化アルミニウム粒子の表面に、3−アミノプロピルトリエトキシシランを吸着させる。そして、遠心洗浄により遊離の3−アミノプロピルトリエトキシシランを除去した後、105℃で加熱乾燥し、酸化アルミニウム粒子と3−アミノプロピルトリエトキシシランとの間で縮合反応を起こさせることによって、酸化アルミニウム粒子表面に共有結合によってカップリング剤が固定された構造を有する、酸化アルミニウム粒子(III)を得た。
【0036】
【化1】

【0037】
[工程2]次いで、オキシエチレン構造とカルボジイミド基(−N=C=N−)が10:1の比で連なった構造を有する分子量約2000の有機化合物(水溶性ポリカルボジイミド)を用い、下記式(化2)に示すように、その構造中のカルボジイミド基と、上記酸化アルミニウム粒子(III)表面のアミノ基を、結合させた。具体的には、先ず、純水150mlに、上記酸化アルミニウム粒子(III)15g及び水溶性ポリカルボジイミド0.6gを加え、55℃まで加熱した状態で、2時間、撹拌する(オキシエチレンが秩序化しない60℃より低い温度で反応を進め、水溶性ポリカルボジイミドを酸化アルミニウム粒子の表面に結合させる)。その後、純水で粒子を洗浄して、未反応の水溶性ポリカルボジイミドを除去し、更に、凍結乾燥して、オキシエチレン結合性酸化アルミニウム粒子を得た。
【0038】
【化2】

【0039】
[工程3]そして、上記オキシエチレン結合性酸化アルミニウム粒子を、6−ナイロン中に分散させて、(本発明に係る高熱伝導性)複合材料を得た。具体的には、純水5mlに、ε−カプロラクタム5g、6−アミノヘキサン酸0.4g、アジピン酸0.03gを加えて、撹拌し、溶解させ、上記オキシエチレン結合性酸化アルミニウム粒子8.1gを添加して、120℃で、2時間、プレ重合させた後(60℃以上となり、オキシエチレンが秩序化される)、230℃で、3時間、重合させ、(本発明に係る高熱伝導性)複合材料を得た。得られた複合材料中の酸化アルミニウム粒子含有量は、40体積%程度となった。
【0040】
(実施例2)工程3において、上記オキシエチレン結合性酸化アルミニウム粒子4.7gを添加した。それ以外は、実施例1と同様にして、(本発明に係る高熱伝導性)複合材料を得た。得られた複合材料中の酸化アルミニウム粒子含有量は、20〜25体積%程度であった(試料の数は2)。
【0041】
(参考例)工程3において、上記オキシエチレン結合性酸化アルミニウム粒子0gを添加した(添加しなかった)。それ以外は、実施例1と同様にして、(本発明に係る高熱伝導性)複合材料を得た。得られた複合材料中の酸化アルミニウム粒子含有量は、0体積%となった。
【0042】
(比較例1)オキシエチレン結合性酸化アルミニウム粒子を用いずに、(未処理)酸化アルミニウム粒子を用いた。それ以外は、実施例1と同様にして、複合材料を得た。得られた複合材料中の酸化アルミニウム粒子含有量は、40体積%程度となった。
【0043】
(比較例2)オキシエチレン結合性酸化アルミニウム粒子を用いずに、(未処理)酸化アルミニウム粒子を用いた。それ以外は、実施例2と同様にして、複合材料を得た。得られた複合材料中の酸化アルミニウム粒子含有量は、20〜25体積%程度であった(試料の数は2)。
【0044】
[熱伝導率の測定]実施例1,2において作製したオキシエチレン結合性酸化アルミニウム粒子を含む複合材料、比較例1,2において作製した(未処理)酸化アルミニウム粒子を含む複合材料、及び参考例において作製した複合材料について、それぞれ熱伝導率を測定した。尚、実施例2及び比較例2においては、それぞれ試料(複合材料)は2つである。熱伝導率の測定は、レーザーフラッシュ法(使用機器:アルバック理工株式会社製TC−7000H)によって、行った。酸化アルミニウム粒子含有量と、(得られた)複合材料の熱伝導率と、の関係を、図3に示す。
【0045】
(考察)図3に示されるように、参考例に基づけば、酸化アルミニウム含有量が0体積%(即ち、6−ナイロン単体)では、熱伝導率は0.3W/mK程度であった。実施例1及び比較例1に基づき、酸化アルミニウム粒子の含有量が40体積%程度では、複合材料の熱伝導率は、何れも1.4W/mK程度であり、オキシエチレン結合性酸化アルミニウム粒子を含む複合材料と(未処理)酸化アルミニウム粒子を含む複合材料との間に、差異は生じなかった。これは、酸化アルミニウム粒子どうしが、複合材料中で接触し、パーコレーション効果による熱伝導が支配的となっていることによるものと推定される。実施例2及び比較例2に基づき、酸化アルミニウム粒子の含有量が20〜25体積%では、実施例2の複合材料(オキシエチレン結合性酸化アルミニウム粒子を含む複合材料)の熱伝導率は、比較例2の複合材料((未処理)酸化アルミニウム粒子を含む複合材料)の熱伝導率に比して、20%程度、向上していた。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明に係る高熱伝導性複合材料は、ノート型パーソナルコンピュータや携帯型端末機器等の電子機器に搭載される電子部品のパッケージング、LED照明の絶縁放熱基板や封止材、車載用電子基板やケース、ハイブリッドカーや電気自動車のモーターに用いるコイル封入材等、様々な用途に、例えば放熱部材として、好適に用いられる。
【符号の説明】
【0047】
1:樹脂材料
2:無機材料粒子
3:有機高分子層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂材料と、その樹脂材料中に分散した無機材料粒子と、を有するとともに、
それら樹脂材料と無機材料粒子との界面に、内部の分子配列が秩序化された有機高分子層を備える、高熱伝導性複合材料。
【請求項2】
前記有機高分子層が、その分子構造中に、オキシエチレン(−CO−)構造を含む請求項1に記載の高熱伝導性複合材料。
【請求項3】
前記有機高分子層が、前記無機材料粒子の表面に、共有結合によって結合している請求項1又は2に記載の高熱伝導性複合材料。
【請求項4】
前記樹脂材料が、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、テフロン、ABS樹脂、AS樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンスルファイド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスルホン、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、及びポリイミドの物質群から選択される少なくとも一種の有機物質を含む請求項1〜3の何れか一項に記載の高熱伝導性複合材料。
【請求項5】
前記無機材料粒子が、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、及び炭化ケイ素の物質群から選択される少なくとも一種の無機物質を含む請求項1〜4の何れか一項に記載の高熱伝導性複合材料。
【請求項6】
前記無機材料粒子の平均粒径が、10nm以上、100μm未満である請求項1〜5の何れか一項に記載の高熱伝導性複合材料。
【請求項7】
前記無機材料粒子の含有量が、3体積%以上、40体積%以下である請求項1〜6の何れか一項に記載の高熱伝導性複合材料。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−255086(P2012−255086A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−128867(P2011−128867)
【出願日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】