説明

高相溶性、水性ブロックポリイソシアネート

【課題】ポリオールとの相溶性に優れ、かつ低温硬化性を有する水性ブロックポリイソシアネートおよびこれを含む塗料組成物の提供。
【解決手段】下記成分組成を有する、水性ブロックポリイソシアネート。
1)脂肪族ジイソシアネートモノマー及びまたは脂環族ジイソシアネートモノマーの少なくとも1種以上から誘導されるポリイソシアネートから誘導される構成単位の割合が25〜75質量%。
2)ジオールから誘導される構成単位の割合が2〜10質量%。
3)炭素数3以上のアルキレンオキサイドが重合したモノオールから誘導される構成単位の割合が1〜30質量%。
4)片末端水酸基であるポリエチレンオキサイドから誘導される構成単位の割合が5〜40質量%。
5)ブロック剤から誘導される構成単位の割合が10〜40質量%。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリオールとの相溶性に優れ、かつ低温硬化性を有するブロックポリイソシアネートおよびこれを含む塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイソシアネートを硬化剤としたウレタン系塗料組成物から形成された塗膜は耐薬品性、可撓性などが優れている。特に、脂肪族、脂環族ジイソシアネートから得られるポリイソシアネートを使用した場合、更に耐候性が優れるため、その使用は常温硬化性の2液ウレタン塗料、熱硬化性の1液ウレタン塗料の形態で、建築、重防、自動車、工業用及びその補修など多岐にわたっている。
地球環境負荷低減のため、優れた性能を発揮するウレタン系塗料組成物に用いる硬化剤であるポリイソシアネートの水性化検討が行われている。1液性塗料組成物の硬化剤である、ブロックポリイソシアネートに関しても多くの提案がなされている。
ブロックポリイソシアネートを水性化する有力な方法の1つは親水基をブロックポリイソシアネートに付加することが挙げられる。親水基が付加された、ブロックポリイソシアネートは、ブロックイソシアネートの官能基数が多くの場合、低下する。この場合、ジオールなどで鎖延長し、ブロックイソシアネート基の官能基数の増加する技術がある。
しかしながら、この技術は分子量の増加を伴い、同時に使用する樹脂との相溶性を低下させる場合があり、その使用が制限されていた。
更に親水基の多くは、ウレタン塗料組成物の主成分樹脂であるポリオールとの相溶性が良好でないことも、その使用を制限する場合があった。
一方、ブロックポリイソシアネートの低温硬化性の向上が望まれている。ピラゾール系化合物でイソシアネート基がブロックされた、低温硬化性を有する水性ブロックポリイソシアネートに関する、いくつかの提案がある(特許文献1,2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表平11−512772号公報
【特許文献2】特表平2002−511507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、ポリオールとの相溶性に優れ、かつ低温硬化性を有する水性ブロックポリイソシアネートおよびこれを含む塗料組成物の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意検討した結果、ポリイソシアネート及び特定化合物から誘導されるブロックポリイソシアネートが前記課題を達成することを見出し、本発明を完成するに至った。
1.下記成分組成を有する、水性ブロックポリイソシアネート。
1)脂肪族ジイソシアネートモノマー及び/又は脂環族ジイソシアネートモノマーの少なくとも1種以上から誘導されるポリイソシアネートから誘導される構成単位の割合が25〜75質量%。
2)ジオールから誘導される構成単位の割合が2〜10質量%。
3)炭素数3以上のアルキレンオキサイドが重合したモノオールから誘導される構成単位の割合が1〜30質量%。
4)片末端水酸基であるポリエチレンオキサイドから誘導される構成単位の割合が5〜40質量%。
5)ブロック剤から誘導される構成単位の割合が10〜40質量%。
2.前記ブロック剤がピラゾール系化合物である、1の水性ブロックポリイソシアネート。
3.前記炭素数3以上のアルキレンオキサイドがプロピレンオキサイドである1または2の水性ブロックポリイソシアネート。
4.前記脂肪族ジイソシアネートモノマー及びまたは脂環族ジイソシアネートモノマーがヘキサメチレンジイソシアネートである、1,2または3の水性ブロックポリイソシアネート。
5.1,2,3または4のいずれかに記載の水性ブロックポリイソシアネートを含む水性塗料組成物。
【発明の効果】
【0006】
本発明の水性ブロックポリイソシアネートはポリオールとの相溶性に優れ、低温硬化性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明について、詳細に述べる。
本発明に用いることのできる脂肪族、脂環族ジイソシアネートとは、その構造の中にベンゼン環を含まない。脂肪族ジイソシアネートモノマーとしては、炭素数4〜30のものが好ましく、例えば、テトラメチレン−1,4−ジイソシアネート、ペンタメチレン−1,5−ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,2,4−トリメチル−ヘキサメチレン−1,6−ジイソシアネート、リジンジイソシアネート等を挙げることが出来る。脂環族ジイソシアネートとしては炭素数8〜30のものが好ましく、イソホロンジイソシアネート(以下IPDIと言う)、1,3−ビス(イソシアネートメチル)−シクロヘキサン、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートなどがある。なかでも、耐候性、工業的入手の容易さから、HDIが好ましい。2種以上併用することもできる。
【0008】
これらのジイソシアネートモノマーから本発明に用いるポリイソシアネートが誘導される。ポリイソシアネートはイソシアヌレート基を含むことが好ましい。イソシアヌレート基を有するポリイソシアネートで硬化した塗膜は、耐侯性が良好であり、高い塗膜硬度を達成することができる。
このポリイソシアネートは、イソシアヌレート基以外の例えば、ビウレット基、尿素基、ウレトジオン基、ウレタン基、アロファネート基、オキサジアジントリオン基等を同時に含むことができる。
イソシアヌレート基を有するポリイソシアネートは例えば触媒などによりイソシアヌレート化反応を行い、所定の転化率になった時に反応を停止し、ジイソシアネートモノマーを除去して得られる。
【0009】
この際に使用するイソシアヌレート化反応触媒としては、例えば一般に塩基性を有するものが好ましく、(a)例えばテトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム等のテトラアルキルアンモニウムのハイドロオキサイドや例えば酢酸、カプリン酸等の有機弱酸塩、(b)例えばトリメチルヒドロキシプロピルアンモニウム、トリメチルヒドロキシエチルアンモニウム、トリエチルヒドロキシプロピルアンモニウム、トリエチルヒドロキシエチルアンモニウム等のヒドロキシアルキルアンモニウムのハイドロオキサイドや例えば酢酸、カプリン酸等の有機弱酸塩、(c)酢酸、カプロン酸、オクチル酸、ミリスチン酸等のアルキルカルボン酸の例えば錫、亜鉛、鉛等のアルカリ金属塩、(d)例えばナトリウム、カリウム等の金属アルコラート、(e)例えばヘキサメチルジシラザン等のアミノシリル基含有化合物、(f)マンニッヒ塩基類、(g)第3級アミン類とエポキシ化合物との併用、(h)例えばトリブチルホスフィン等の燐系化合物等がある。これら触媒の使用量は原料である、ジイソシアネート、ポリオールの合計質量に対して、10ppm〜1%の範囲から選択される。これらは反応終了させるために、例えば触媒を中和する例えばリン酸、酸性リン酸エステルなどの酸性物質の添加、熱分解、化学分解により不活性化される。
【0010】
ポリイソシアネートの収率は10〜70質量%の範囲から選択される。高い収率で得られるポリイソシアネートの粘度が高くなる。
イソシアヌレート化反応の反応温度は50〜200℃、好ましくは50〜150℃である。50℃未満では、反応が進み難く、200℃を越えると製品の着色など好ましくない副反応が生じる場合がある。
反応終了後、ジイソシアネートモノマーは薄膜蒸発缶、抽出などにより除去され、実質的にジイソシアネートモノマーを含まないものとなる。得られたポリイソシアネート中の残留未反応ジイソシアネート濃度は3質量%以下、好ましくは1質量%以下であり、更に好ましくは0.5質量%以下である。ジイソシアネートモノマー濃度が3質量%を越えると、これを使用して、得られるブロックポリイソシアネートの硬化性が低下する場合がある。
本発明に用いることのできるポリイソシアネートの粘度は25℃において、400〜30000mPa.sであり、好ましくは500〜10000、更に好ましくは550〜4000である。
【0011】
数平均分子量は500〜2000が好ましく、更に好ましくは550〜1000である。
ポリイソシアネート統計的平均の1分子が有するイソシアネート基数は3〜15、好ましくは3〜10であり、更に好ましくは3〜5である。3未満の場合は架橋性が劣る場合があり、15を超えると、溶剤への溶解性が悪くなる場合がある。
【0012】
イソシアネート基濃度は5〜25質量%、好ましくは10〜24、更に好ましくは15〜24質量%である。
【0013】
本発明に使用できるジオールとしては、例えば、ポリエステル、ポリエーテル、アクリル、ポリオレフィン、ポリカーボネートなどがある。
前記のポリエステルジオールとしては、例えば、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等のカルボン酸の群から選ばれた二塩基酸の単独または混合物と、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコールなどの群から選ばれた2価アルコールの単独または混合物との縮合反応によって得られるポリエステルジオール及び例えばε−カプロラクトンを2価アルコールを用いて開環重合して得られるようなポリカプロラクトン類などが挙げられる。
【0014】
ポリエーテルジオールとしては、例えば、2価ヒドロキシ化合物の単独または混合物に、例えばリチウム、ナトリウム、カリウムなどの水酸化物、アルコラート、アルキルアミンなどの強塩基性触媒、金属ポルフィリン、ヘキサシアノコバルト酸亜鉛錯体などの複合金属シアン化合物錯体などを使用して、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、シクロヘキセンオキサイド、スチレンオキサイドなどのアルキレンオキサイドの単独または混合物を多価ヒドロキシ化合物にランダムあるいはブロック付加して得られるポリエーテルポリオール類、更にエチレンジアミン類等のポリアミン化合物にアルキレンオキサイドを反応させて得られるポリエーテルポリオール類などが挙げられる。
ポリオレフィンポリオールとしては、例えば、水酸基を2個以上有するポリブタジエン、水素添加ポリブタジエン、ポリイソプレン、水素添加ポリイソプレンなどが挙げられる。
【0015】
ポリカーボネートはカーボネートモノマーとアルコールから誘導される。カーボネートモノマーとしては、例えば、ジアルキルカーボネート、ジアリールカーボネート及びアルキレンカーボネートがある。
ジアルキルカーボネートとしてはアルキル基の炭素数が1〜12のもの、具体的にはジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート等が挙げられる。
ジアリールカーボネートとしてはアリール基の炭素数が6〜20のもの、具体的には、ジフェニルカーボネート、ジナフチルカーボネート等が挙げられる。
アルキレンカーボネートとしては5〜7員環からなり、具体的には、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等が挙げられる。
これらのカーボネートモノマーは単独であるいは2種以上の組合せでもよい。
【0016】
これに用いられるアルコールとしては、例えば、炭素数が3〜20の2及び3価アルコールである。具体的には、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,5−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオール、ネオペンチルグリコール、2−エチル−1,6−ヘキサンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,3−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、2,2’−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)−プロパン、1,4−ジメチロールシクロヘキサンビスヒドロキシテトラヒドロフラン、ジ(2−ヒドロキシエチル)ジメチルヒダントイン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、6−ヒドロキシエチルヘキサノール、5−ヒドロキシエチルペンタノールなどがある。
【0017】
これらジオールの中で、ポリエーテルジオール、ポリエステルジオール、ポリカーボネートジオールが好ましい。
これらジオールの数平均分子量は200〜1500であり、好ましくは300〜1000であり、更に好ましくは300〜800である。
【0018】
本発明に用いることのできる炭素数3以上のアルキレンオキサイドが重合したモノオール(以下、モノオール(1)と言う)は、開始モノアルコールと炭素数3以上のアルキレンオキサイドから誘導される。この開始モノアルコールの炭素数は1〜10であり、好ましくは2〜8であり、更に好ましくは4〜8である。これらの具体的なモノアルコールとは、メタノール、エタノール、2−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、2−エチル−1−ヘキサノールなどのアルコールがある。
前記の炭素数3以上のアルキレンオキサイドとは、例えば、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、シクロヘキセンオキサイド、スチレンオキサイドなどがあり、プロピレンオキサイドが好ましい。
これらのアルキレンオキサイドの単独または混合物を前記の開始モノアルコールに、例えばリチウム、ナトリウム、カリウムなどの水酸化物、アルコラート、アルキルアミンなどの強塩基性触媒、金属ポルフィリン、ヘキサシアノコバルト酸亜鉛錯体などの複合金属シアン化合物錯体などを使用して、付加して得られる。
【0019】
本発明に用いるモノオール(1)は、炭素数2以下のアルキレンオキサイドを含むことができるが、その質量割合はモノオール(1)に対して30質量%以下、好ましくは20質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。
本発明に用いるモノオール(1)の数平均分子量は300〜2000であり、好ましくは300〜1500、更に好ましくは350〜1000である。モノオールの数平均分子量が300未満であると、これを使用して得られるブロックポリイソシアネートのポリオールとの相溶性が低下する場合があり、2000を超えるとその塗膜の硬度が低下する場合がある。
【0020】
モノオール(1)が付加した、極性の高い結合を有する水性ブロックポリイソシアネートがポリオールと優れた相溶性を有することは驚くべきことであった。水性ブロックポリイソシアネートが有する、親水基及びイソシアネート基とブロック剤が形成する結合は、ポリオールとの相溶性を抑制する。
【0021】
本発明に用いるモノオール(1)の分子量は大きく、加えて分子鎖の繰り返し単位中に酸素が存在する。このことは、モノオール(1)が水性ブロックポリイソシアネートの相溶性の低い部分に接近し、全体として、ポリオールとの相溶性を向上させていると考えている。
【0022】
本発明に用いることのできる片末端水酸基であるポリエチレンオキサイド(以下、モノオール(2)と言う)とは、前記モノオール(1)で記載した、開始モノアルコールにエチレンオキサイドを付加して得られる化合物である。好ましい開始アルコールはメタノールである。
この分子量は300〜2000、好ましくは300〜1500、更に好ましくは500〜1000である。
【0023】
本発明に用いることができる、ブロック剤としては、活性水素を分子内に1個有する化合物であり、例えば、アルコール系、アルキルフェノール系、フェノール系、活性メチレン、メルカプタン系、酸アミド系、酸イミド系、イミダゾール系、尿素系、オキシム系、アミン系、イミド系、ピラゾール系化合物等がある。より具体的なブロック化剤の例を下記に示す。
(1)メタノール、エタノール、2−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノールなどのアルコール類、
(2)アルキルフェノール系;炭素原子数4以上のアルキル基を置換基として有するモノおよびジアルキルフェノール類であって、例えばn−プロピルフェノール、i−プロピルフェノール、n−ブチルフェノール、sec−ブチルフェノール、t−ブチルフェノール、n−ヘキシルフェノール、2−エチルヘキシルフェノール、n−オクチルフェノール、n−ノニルフェノール等のモノアルキルフェノール類、ジ−n−プロピルフェノール、ジイソプロピルフェノール、イソプロピルクレゾール、ジ−n−ブチルフェノール、ジ−t−ブチルフェノール、ジ−sec−ブチルフェノール、ジ−n−オクチルフェノール、ジ−2−エチルヘキシルフェノール、ジ−n−ノニルフェノール等のジアルキルフェノール類、
(3)フェノール系;フェノール、クレゾール、エチルフェノール、スチレン化フェノール、ヒドロキシ安息香酸エステル等、
(4)活性メチレン系;マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセチルアセトン等、
(5)メルカプタン系;ブチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン等、
(6)酸アミド系;アセトアニリド、酢酸アミド、ε−カプロラクタム、δ−バレロラクタム、γ−ブチロラクタム等、
(7)酸イミド系;コハク酸イミド、マレイン酸イミド等、
(8)イミダゾール系;イミダゾール、2−メチルイミダゾール等、
(9)尿素系;尿素、チオ尿素、エチレン尿素等、
(10)オキシム系;ホルムアルドオキシム、アセトアルドオキシム、アセトオキシム、メチルエチルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシム等、
(11)アミン系;ジフェニルアミン、アニリン、カルバゾール、ジ−n−プロピルアミン、ジイソプロピルアミン、イソプロピルエチルアミン等、
(12)イミン系;エチレンイミン、ポリエチレンイミン等、及び
(13)ピラゾール系;ピラゾール、3−メチルピラゾール、3,5−ジメチルピラゾール等がある。これらを2種以上併用することができる。好ましいブロック剤はアミン系好ましくは脂肪族アミン系またはピラゾール系化合物であり、更に好ましいブロック剤はピラゾール系化合物であり、特に3,5−ジメチルピラゾールが好ましい。
以上説明したポリイソシアネート、ジオール、モノオール(1)、(2)及びブロック剤を反応させ、本発明の水性ブロックポリイソシアネートを得ることができる。ジオール、モノオール(1)、(2)及びブロック剤の活性水素はいずれも、ポリイソシアネートのイソシアネート基と反応する。これら各成分の反応順序はいずれでもよいが、ブロック剤とイソシアネート基を反応させることにより、イソシアネート基のすべてが反応することが好ましい。ブロック剤以外の各成分とイソシアネート基を反応させた後、イソシアネート基のすべてが反応することは、その原料の計量変動により、これら成分がが最終的にイソシアネート基と反応しない状態で残る可能性があり好ましくない。最終的にブロック剤が若干未反応状態で残ることが好ましい。
【0024】
ポリイソシアネート、ジオール、モノオール(1)、(2)とブロック剤の反応は溶剤の有無に関わらず行うことができる。溶剤を用いる場合、イソシアネート基に対して不活性な溶剤を用いる必要がある。その溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶剤などが挙げられる。
【0025】
必要に応じて、錫、亜鉛、鉛等の有機金属塩及び3級アミン系化合物、ナトリウムなどのアルカリ金属のアルコラート等を触媒として用いてもよい。
【0026】
反応は、一般に−20〜150℃で行うことが出来るが、好ましくは30〜100℃である。150℃を越える温度では副反応を起こす可能性があり、他方、−20℃未満になると反応速度が小さくなり不利である。
【0027】
本発明のブロックポリイソシアネート中のこれら成分から誘導される構成単位の質量濃度を説明する。
【0028】
ポリイソシアネートから誘導される構成単位の割合は25〜75質量%であり、好ましくは30〜70質量%、更に好ましくは40〜60質量%である。25質量%未満ではブロックイソシアネート基濃度が低くなり、硬化性が低下する場合がある。75質量%を超えると、結果的にジオール、モノオール(1)、(2)から誘導される構成単位の割合が低下し、ポリオールとの相溶性、水分散性が低下する場合がある。
【0029】
ジオールから誘導される構成単位の割合は2〜10質量%であり、好ましくは2〜5質量%である。2質量%未満であると、ブロックイソシアネート基数が低下する場合あり、10質量%を超えるとこれにより形成される塗膜の硬度が低下する場合がある。
【0030】
モノオール(1)から誘導される構成単位の割合は1〜30質量%である。1質量%未満であると、ポリオールとの相溶性が低下し、30質量%を超えると、これにより得られる塗膜の硬度が低下する場合がある。
【0031】
モノオール(2)から誘導される構成単位の割合は5〜40質量%であり、好ましくは、10〜40質量%である。5質量%未満であると、水への溶解性、分散性が低下する場合があり、40質量%を超えると、これにより得られる塗膜の硬度が低下する場合がある。
【0032】
ブロック剤から誘導される構成単位の割合は10〜40質量%であり、好ましくは10〜30質量%である。10質量%未満であると、硬化性が低下する場合があり、40質量%を超えると、これにより形成される塗膜の硬度が高くなりすぎる場合がある。
【0033】
この様にして得られた本発明のブロックポリイソシアネートのジイソシアネート3量体から誘導される構成単位の割合は5〜40質量%であり、好ましくは10〜40質量%であり、更に好ましくは10〜30質量%である。この割合が5質量%未満の場合は、得られる塗膜の硬度、耐侯性が低下する場合があり、40質量%を超えると、得られた塗膜の伸度が低下する場合がある。ここで言う、ジイソシアネート3量体成分とは、ジイソシアネートモノマー3分子から得られる、1分子当たりのイソシアネート基数が3のポリイソシアネートとブロック剤3分子から誘導されたブロックポリイソシアネートである。
【0034】
このように製造されたブロックポリイソシアネートに水を添加し、ブロックポリイソシアネート水溶液にすることができる。この場合、ブロックポリイソシアネートは水に溶解するか、分散している。この水溶液のブロックポリイソシアネート濃度は10〜40質量%である。
【0035】
本発明の水性ブロックポリイソシアネートの数平均分子量は1000〜3000であり、好ましくは1000〜2000である。前記数平均分子量が1000未満であると,1分子あたりのイソシアネート基基数が低下し、硬化性が低下する場合があり、3000を超えると、ポリオールとの相溶性が低下する場合がある。
【0036】
本発明の水性ブロックポリイソシアネートのブロック剤で封鎖されたイソシアネート基濃度は5〜15質量%である。5質量%未満であると硬化性が低下し、15質量%を超えると塗膜が脆くなる場合がる。
【0037】
本発明の水性ブロックポリイソシアネートは、イソシアネート基と反応性を有する活性水素を分子内に2個以上有する化合物と混合され、本発明の塗料組成物となる。ブロックポリイソシアネートはこの活性水素含有化合物の活性水素と反応して、架橋塗膜を形成する。前記の活性水素を2個以上有する化合物とは、例えばポリオール、ポリアミン、ポリチオールなどがあり、多くの場合、ポリオールが使用される。このポリオールの例としては、アクリルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、フッ素ポリオール、エポキシポリオールなどがある。好ましいポリオールは、アクリルポリオール、ポリエステルポリオール、フッ素ポリオールである。これらポリオールの水酸基価は30〜200mgKOH/g、酸価0〜40mgKOH/gの中から選択される。
【0038】
水性ブロックポリイソシアネートのイソシアネート基/ポリオールの水酸基の当量比は0.3〜1.5であり、この比は必要物性に応じて、適宜選択される。
必要に応じて、完全アルキル型、メチロール基型アルキル、イミノ基型アルキル等のメラミン系硬化剤を添加することができる。
【0039】
また、用途、目的に応じて各種溶剤、添加剤を用いることができる。溶剤としては例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸−n−ブチル、酢酸セロソルブなどのエステル類、ブタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類、などの群から目的及び用途に応じて適宜選択して使用することができる。これらの溶剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0040】
また、必要に応じて、酸化防止剤例えばヒンダードフェノール等、紫外線吸収剤例えばベンゾトリアゾール、ベンゾフェノン等、顔料例えば、酸化チタン、カーボンブラック、インジゴ、キナクリドン、パールマイカ等、金属粉顔料例えばアルミ等、レオロジーコントロール剤例えばヒドロキシエチルセルロース、尿素化合物、マイクロゲル等、硬化促進剤例えば、錫化合物、亜鉛化合物、アミン化合物等を添加してもよい。
【0041】
この様に調整された塗料組成物はディップ塗装、ロール塗装、カーテンフロー塗装、スプレー塗装、静電塗装、ベル塗装、電着塗装などにより、鋼板、表面処理鋼板などの金属及びプラスチック、繊維などの有機・無機高分子、無機材料などの素材にプライマーまたは上中塗りとして、防錆鋼板を含むプレコートメタル、自動車塗装などに美粧性、耐候性、耐酸性、防錆性、耐チッピング性などを付与するために有用である。また、接着剤、粘着剤、エラストマー、フォーム、表面処理剤などのウレタン原料としても有用である。
【実施例】
【0042】
本発明について、以下の実施例等を参照しながら具体的に説明する。
・数平均分子量の測定:
数平均分子量は下記の装置を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフ(以下GPCという)測定によるポリスチレン基準の数平均分子量である。
装置:東ソー(株)HLC−802A
カラム:東ソー(株)G1000HXL×1本
G2000HXL×1本
G3000HXL×1本
キャリアー:テトラハイドロフラン
検出方法:示差屈折計
・ヘキサン希釈性(ポリオールとの相溶性指標):
ブロックポリイソシアネートをトルエンで75質量%に希釈する。23℃で、この希釈液10gにn−ヘキサンを滴下する。濁りが生じた時のn−ヘキサンの質量を記録する。n−ヘキサンの質量が大きいほどポリオールとの相溶性は良好である。
・水分散性:
水性ブロックポリイソシアネートが30質量%になるように純水を混合し、攪拌する。攪拌後、目視で沈殿物の有無を観察し、沈殿物がない場合を○、ある場合を×として表した。
(製造例1:ポリイソシアネートの製造)
【0043】
撹拌機、温度計、還流冷却管、窒素吹き込み管、滴下ロートを取り付けた4ツ口フラスコ内を窒素雰囲気にし、HDI 600質量部を仕込み、撹拌下反応器内温度を70℃に保持した。イソシアヌレート化触媒テトラメチルアンモニウムカプリエートを加え、収率が40%になった時点で燐酸を添加し反応を停止した。反応液をろ過した後、薄膜蒸発缶を用いて未反応のHDIを除去した。得られたポリイソシアネートの25℃における粘度は2700mPa・s、イソシアネート含有量は21.7質量%、数平均分子量は660、イソシアネート基平均数は3.4であった。
(実施例1)
【0044】
製造例1と同様な反応器に製造例1で得られたポリイソシアネート100質量部、プロピレンオキサイドが重合したモノオール(旭硝子社の商品名、「プレミノール SX1050」、樹脂分水酸基価94mgKOH/g、分子量600)15質量部、ジオール(旭硝子社の商品名「エクセノール420」、樹脂分水酸基価280mgKOH/g、分子量400)6質量部、片末端水酸基のポリエチレンオキサイド(日本乳化剤社の商品名「MPG081」、樹脂分水酸基価81mgKOH/g、数平均分子量690)53質量部を仕込み、窒素雰囲気下、120℃、2時間保持した。その後、反応器内を70℃とした後、3,5−ジメチルピラゾール38質量部(ブロックされるイソシアネート基に対して1.05倍当量)を添加した。その後、赤外スペクトルでイソシアネート基の特性吸収がなくなったことを確認した。樹脂分の平均分子量1450、ブロック剤でブロックされたイソシアネート基濃度7.4質量%であった。
この水性ブロックポリイソシアネートの水分散性は○であり、ヘキサン希釈性は13であった。
(実施例2、比較例1)
【0045】
表1に記載した条件以外は実施例1と同様に行った。結果を表1に記載した。比較例のヘキサン希釈性は、実施例と比較して低かった。
【0046】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の水性ブロックポリイソシアネート及びこれを含む塗料組成物は塗料などの分野で好適に利用できる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分組成を有する、水性ブロックポリイソシアネート。
1)脂肪族ジイソシアネートモノマー及びまたは脂環族ジイソシアネートモノマーの少なくとも1種以上から誘導されるポリイソシアネートから誘導される構成単位の割合が25〜75質量%。
2)ジオールから誘導される構成単位の割合が2〜10質量%。
3)炭素数3以上のアルキレンオキサイドが重合したモノオールから誘導される構成単位の割合が1〜30質量%。
4)片末端水酸基であるポリエチレンオキサイドから誘導される構成単位の割合が5〜40質量%。
5)ブロック剤から誘導される構成単位の割合が10〜40質量%
【請求項2】
前記ブロック剤がピラゾール系化合物である、請求項1記載の水性ブロックポリイソシアネート。
【請求項3】
前記炭素数3以上のアルキレンオキサイドがプロピレンオキサイドである請求項1または2記載の水性ブロックポリイソシアネート。
【請求項4】
前記脂肪族ジイソシアネートモノマー及びまたは脂環族ジイソシアネートモノマーがヘキサメチレンジイソシアネートである、請求項1,2または3記載の水性ブロックポリイソシアネート。
【請求項5】
請求項1,2,3または4のいずれかに記載の水性ブロックポリイソシアネートを含む水性塗料組成物。

【公開番号】特開2011−231264(P2011−231264A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−104686(P2010−104686)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】