説明

高眼圧症および緑内障の処置のための方法およびラタノプロスト含有組成物

角結膜障害や黄斑浮腫などの副作用が低減した、高眼圧症および緑内障の処置用点眼用組成物を提供する。該組成物は有効成分としてラタノプロストを含み、実質的に塩化ベンザルコニウムを含まない。本発明の組成物は特に、角結膜障害および/または黄斑浮腫に罹患しているか罹患するおそれのある患者の処置に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は副作用が低減した、高眼圧症および緑内障の処置のための方法および組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
点眼用組成物に用いられる防腐剤は、細菌や真菌などに対する充分な抗菌作用を発揮すること、角膜上皮等の眼組織に対する影響が無いかあるいは少なく高い安全性を有することという本来の目的に加えて、防腐剤自身が安定であり、かつ他の配合成分との相互作用、例えば他の配合成分を媒体または基剤に均一に分散あるいは溶解させることにより組成物の均一性や安定性をもたらすことが求められている。現在市販の点眼液の中で、塩化ベンザルコニウムが防腐剤として最も一般的に使用されている。
【0003】
しかしながら、防腐剤は角結膜障害の主要因であるとも言われており、塩化ベンザルコニウムなどの防腐剤は、安全性の観点から、その濃度は0.01%未満が望ましいとされている。最近では、血液房水柵破壊や黄斑浮腫、特に嚢胞様黄斑浮腫(Cystoid Macular Edema, 以下CMEと称する)が点眼液に含まれる防腐剤に起因することが報告されている(第105回日本眼科学会総会P112、OSN Supersite, Top Stories 97/10/02、この内容は引用により本明細書に含まれる)。
【0004】
高眼圧症および緑内障の処置剤として上市されているキサラタン(登録商標)点眼液は、有効成分としてラタノプロストを含む。キサラタン(登録商標)点眼液は防腐剤として0.02%の濃度の塩化ベンザルコニウムを含んでおり(キサラタン点眼液添付文書)、この高い濃度の防腐剤による角結膜障害やCMEなどの副作用が問題となっている。
【0005】
しかしながら、ラタノプロストの脂溶性が高いために、塩化ベンザルコニウムを削除すると均一で安定なラタノプロスト点眼用組成物を調製することが困難であった。今日まで、塩化ベンザルコニウムを含まないか、その濃度が0.02%未満であるラタノプロスト点眼用組成物は市販品として提供されていない。
【0006】
(発明の開示)
本発明は、高眼圧症および緑内障の処置が必要な対象に対して、有効成分としてラタノプロストを含み、塩化ベンザルコニウムを実質的に含まない点眼用組成物を投与することを含む高眼圧症および緑内障の処置方法に関する。
【0007】
特に、本発明は、高眼圧症および緑内障であって、角結膜障害および/または黄斑浮腫に罹患しているか罹患するおそれのある対象に対して、有効成分としてラタノプロストを含み、実質的に塩化ベンザルコニウムを含まない点眼用組成物を投与することを含む高眼圧症および緑内障の処置方法に関する。即ち、本発明の方法は、高眼圧症および緑内障の処置に加えて、角結膜障害および/または黄斑浮腫の治療または予防が必要な患者にとって特に有用である。
【0008】
また、本発明は、有効成分としてラタノプロストを含み、塩化ベンザルコニウムを実質的に含まない高眼圧症および緑内障の処置のための点眼用組成物に関する。
【0009】
さらに、本発明は高眼圧症および緑内障の処置のための点眼用組成物の製造のためのラタノプロストの使用に関し、該組成物は実質的に塩化ベンザルコニウムを含まないことを特徴とする。
【0010】
本明細書において、「実質的に塩化ベンザルコニウムを含まない点眼用組成物」の語は、該組成物が塩化ベンザルコニウムを含まないか、該組成物が、一定濃度の塩化ベンザルコニウムを含む(ここで一定濃度とは、市販のキサラタン(登録商標)点眼液における塩化ベンザルコニウムの量を該一定濃度より低くすると、均一および/または安定な溶液の調製が困難となるような濃度のことをいう)ことを意味する。本発明において、点眼用組成物の塩化ベンザルコニウム濃度は、0.02%未満、好ましくは0.01%以下、より好ましくは0.005%以下である。
【0011】
本発明にいう「処置」の語には、予防、治療、症状の軽減、症状の減退、進行停止等、あらゆる管理が含まれる。
【0012】
(発明の詳細な説明)
本発明の点眼用組成物を製剤化する場合、眼科の分野で用いられるあらゆる剤形とすればよい。例えば、点眼用組成物は液体形態、例えば溶液、乳濁液および懸濁液、または半流動形態、例えばゲルおよび眼軟膏とすればよい。乳濁液および懸濁液ならびに溶液を含む点眼液が好適に用いられる。ラタノプロスト以外の成分は、ラタノプロストが均一かつ安定に組成物に分散または溶解するのであれば特に限定されない。本発明の点眼用組成物は常套方法により製造すればよい。
【0013】
組成物が点眼液の場合、組成物にさらに溶解剤を配合してもよい。本発明に用いる溶解剤は、実質的に塩化ベンザルコニウムを含まない水性媒体中にラタノプロストが均一かつ安定に分散または溶解するのを補助する限り、いかなる常套の溶解剤であってもよい。溶解剤の例としては、ポリオキシエチレンソルビタン高級脂肪酸モノエステル(例えばポリソルベート80)、EDTA、ホウ酸、グルコン酸クロルヘキシジン、過硫酸ナトリウム、グリセロール、濃グリセロール、ポリオキシル化(polyoxylated)ヒマシ油(例えばポリオキシエチレン水素化ヒマシ油40およびポリオキシエチレン水素化ヒマシ油60)、ステアリン酸ポリオキシル、マクロゴール、プロピレングリコール、ポビドン、低級アルコール(例えばエタノール)およびクロロブタノールが挙げられる。ポリソルベート80およびEDTAが特に好ましい。溶解剤は単独で用いてもよいし、その他の1または複数の溶解剤と組み合わせて用いてもよい。
【0014】
本発明の点眼用組成物は更に上記溶解剤以外の添加剤を含んでいてもよい。本発明によると、添加剤には眼科の分野で用いられる全ての添加剤が含まれる。添加剤の例としては、等張化剤(例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、リン酸一水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二カリウム、ホウ砂、水酸化ナトリウム、塩酸、イソソルビトール、プロピレングリコール、マンニトール、スクロースおよびグルコースなど)、緩衝剤(例えば、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウムなど)、増粘剤(例えばラクトース、マルトース等の糖類、例えばヒアルロル酸ナトリウム、ヒアルロン酸カリウム等のヒアルロン酸もしくはその塩、例えばコンドロイチン硫酸等のムコ多糖類、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシビニルポリマー、架橋ポリアクリル酸塩など)が挙げられる。
【0015】
組成物を眼軟膏とする場合、組成物は上記の添加剤に加えて通常用いられている眼軟膏基剤を含んでいてもよい。眼軟膏基剤の例には、油性基剤(例えばワセリン、流動パラフィン、ポリエチレン、ゼレン50、プラスチベース(Plastibase)、マクロゴールおよびそれらの組み合わせ);油相と水相が界面活性剤などによって乳化されている乳濁液基剤;および水溶性基剤(例えばヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシプロピルセルロースおよびポリエチレングリコールなど)が挙げられる。
【0016】
本発明によると、溶解剤を配合することによってベンザルコニウム濃度が0.02%未満である均一で安定なラタノプロスト点眼用組成物を簡単に調製することができる。本発明の点眼用組成物は無菌の1回使いきり型のユニット・ドーズ・タイプ製剤として調製してもよい。さらに、本発明の点眼用組成物では、市販のキサラタン(登録商標)点眼液と比較して、角結膜障害やCMEなどの副作用が有意に低くなるため、本発明の方法または組成物は角結膜障害および/またはCMEなどの黄斑浮腫を患う対象により有効な処置を提供する。
【0017】
組成物におけるラタノプロストの濃度および投与頻度は、種などの対象のタイプ、年齢、性別、体重、健康状態、処置されるべき症状、所望の治療効果、投与方法、処置期間等により異なる。例えば、0.00001〜1%、好ましくは0.0001〜0.1%、より好ましくは0.001〜0.01%の濃度のラタノプロストを含む点眼液を1日1〜4回、好ましくは1〜3回、より好ましくは1〜2回点眼するとよい。
【0018】
本発明においては、本発明の目的に反しない限り、ラタノプロスト以外の薬理有効成分を組成物に適宜含有させることもできる。他の薬理有効成分としては、副交感神経興奮薬(ピロカルピン、カルバコールなど)、コリンエステラーゼ阻害剤(サリチル酸フィゾスチグミン、臭化ジスチグミン、ヨウ化エコチオパートなど)、交感神経作動薬(エピネフリン、ジピバリルエピネフリン、クロニジン、パラアミノクロニジン、ブリモニジンなど)、βアドレナリン遮断薬(ベタキソロール、レボブノール、チモロール、カルテオールなど)、プロスタグランジン系化合物(イソプロピルウノプロストン、トラボプロスト、ビマトプロスト)、トロピカミドなどが挙げられる。これらの薬理有効成分の中ではチモロールが特に好ましい。これらの有効成分を複数併用して製剤する場合には、夫々の含有量は、それらの治療効果や安全性等を考慮して適宜決定することができる。
【0019】
以下、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、これは本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0020】
ラタノプロストをそれぞれ表1に示す様々な添加剤とともに滅菌水に分散させて0.005%ラタノプロスト点眼液を調製した。各点眼液10mLを7時間撹拌し、30分間静置した。その後点眼液中のラタノプロスト濃度をHPLCにより測定し、内部標準法により一点検量線を用いて判定した。
ラタノプロスト濃度(mg/mL)=0.004xWx(Q/Q
:標準調製物中のラタノプロスト量(mg)
:内部標準に対する標準調製物中のラタノプロストのピーク面積比
:内部標準に対する被験調製物中のラタノプロストのピーク面積比
結果を以下の表1に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
1)BAC:塩化ベンザルコニウム
2)P80:ポリソルベート80
3)ラタノプロスト濃度
4)最初に用いたラタノプロストに対する、7時間の撹拌の30分後の点眼液中のラタノプロストの比(%)
【0023】
被験番号1および2に示すように、塩化ベンザルコニウムを含まない点眼液におけるラタノプロストの均一性は、ポリソルベート80の配合により向上した(88.3%から100.0%)。
【0024】
表1の被験番号3−5に示すように、0.01%の塩化ベンザルコニウムを含む点眼液におけるラタノプロストの均一性は、ポリソルベート80の配合またはポリソルベート80とEDTAの配合により向上した(97.3%から99.9%)。
【0025】
これらの結果により、ラタノプロスト点眼液の均一性および安定性は溶解剤の配合によって向上することが示唆された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高眼圧症および緑内障の処置を必要とする対象に、有効成分としてラタノプロストを含み、実質的に塩化ベンザルコニウムを含まない点眼用組成物を投与することを含む、高眼圧症および緑内障の処置方法。
【請求項2】
点眼用組成物が溶解剤を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
溶解剤がポリソルベート80および/またはEDTAである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
塩化ベンザルコニウム濃度が0.02%未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
塩化ベンザルコニウム濃度が0.01%以下である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
点眼用組成物が、単一ユニット・ドーズ・調製物として製剤化されたものである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
点眼用組成物がさらにチモロールを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
点眼用組成物が点眼液である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
高眼圧症および緑内障であってさらに角結膜障害および/または黄斑浮腫に罹患しているか罹患するおそれのある対象に、有効成分としてラタノプロストを含み、実質的に塩化ベンザルコニウムを含まない点眼用組成物を投与することを含む、高眼圧症および緑内障の処置方法。
【請求項10】
点眼用組成物が溶解剤を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
溶解剤がポリソルベート80および/またはEDTAである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
塩化ベンザルコニウム濃度が0.02%未満である、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
塩化ベンザルコニウム濃度が0.01%以下である、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
点眼用組成物が、単一ユニット・ドーズ・調製物として製剤化されたものである、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
点眼用組成物がさらにチモロールを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項16】
点眼用組成物が点眼液である、請求項9に記載の方法。
【請求項17】
有効成分としてラタノプロストを含み、実質的に塩化ベンザルコニウムを含まない、高眼圧症および緑内障の処置のための点眼用組成物。
【請求項18】
点眼用組成物が溶解剤を含む、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
溶解剤がポリソルベート80および/またはEDTAである、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
塩化ベンザルコニウム濃度が0.02%未満である、請求項17に記載の組成物。
【請求項21】
塩化ベンザルコニウム濃度が0.01%以下である、請求項17に記載の組成物。
【請求項22】
点眼用組成物が、単一ユニット・ドーズ・調製物として製剤化されたものである、請求項17に記載の組成物。
【請求項23】
点眼用組成物がさらにチモロールを含む、請求項17に記載の組成物。
【請求項24】
点眼用組成物が点眼液である、請求項17に記載の組成物。
【請求項25】
有効成分としてラタノプロストを含み、塩化ベンザルコニウムを実質的に含まない、角結膜障害および/または黄斑浮腫に罹患しているか罹患するおそれのある患者における高眼圧症および緑内障の処置のための点眼用組成物。
【請求項26】
点眼用組成物が溶解剤を含む、請求項25に記載の組成物。
【請求項27】
溶解剤がポリソルベート80および/またはEDTAである、請求項26に記載の組成物。
【請求項28】
塩化ベンザルコニウム濃度が0.02%未満である、請求項25に記載の組成物。
【請求項29】
塩化ベンザルコニウム濃度が0.01%以下である、請求項25に記載の組成物。
【請求項30】
点眼用組成物が、単一ユニット・ドーズ・調製物として製剤化されたものである、請求項25に記載の組成物。
【請求項31】
点眼用組成物がさらにチモロールを含む、請求項25に記載の組成物。
【請求項32】
点眼用組成物が点眼液である、請求項25に記載の組成物。
【請求項33】
実質的に塩化ベンザルコニウムを含まない高眼圧症および緑内障の処置のための点眼用組成物を製造するためのラタノプロストの使用。
【請求項34】
点眼用組成物が溶解剤を含む、請求項33に記載の使用。
【請求項35】
溶解剤がポリソルベート80および/またはEDTAである、請求項34に記載の使用。
【請求項36】
塩化ベンザルコニウム濃度が0.02%未満である、請求項33に記載の使用。
【請求項37】
塩化ベンザルコニウム濃度が0.01%以下である、請求項33に記載の使用。
【請求項38】
点眼用組成物が、単一ユニット・ドーズ・調製物として製剤化される、請求項33に記載の使用。
【請求項39】
点眼用組成物がさらにチモロールを含む、請求項33に記載の使用。
【請求項40】
点眼用組成物が点眼液である、請求項33に記載の使用。
【請求項41】
角結膜障害および/または黄斑浮腫に罹患しているか罹患するおそれのある患者における、実質的に塩化ベンザルコニウムを含まない、高眼圧症および緑内障の処置のための点眼用組成物の製造のためのラタノプロストの使用。
【請求項42】
点眼用組成物が溶解剤を含む、請求項41に記載の使用。
【請求項43】
溶解剤がポリソルベート80および/またはEDTAである、請求項42に記載の使用。
【請求項44】
塩化ベンザルコニウム濃度が0.02%未満である、請求項41に記載の使用。
【請求項45】
塩化ベンザルコニウム濃度が0.01%以下である、請求項41に記載の使用。
【請求項46】
点眼用組成物が、単一ユニット・ドーズ・調製物として製剤化される、請求項41に記載の使用。
【請求項47】
点眼用組成物がさらにチモロールを含む、請求項41に記載の使用。
【請求項48】
点眼用組成物が点眼液である、請求項41に記載の使用。

【公表番号】特表2006−503913(P2006−503913A)
【公表日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−501572(P2005−501572)
【出願日】平成15年10月22日(2003.10.22)
【国際出願番号】PCT/JP2003/013452
【国際公開番号】WO2004/037267
【国際公開日】平成16年5月6日(2004.5.6)
【出願人】(504235964)スキャンポ・アーゲー・(ユーエスエイ)・インク (2)
【氏名又は名称原語表記】SUCAMPO AG (USA) INC.
【Fターム(参考)】