説明

高硬度、高耐候性の艶消し電着塗料組成物

【課題】硬度、耐擦り傷性および耐候性において優れた特徴を有し、耐薬品性、耐溶剤性、機械物性等の特性、および塗膜の仕上がり感、作業性、安定性等においても優れた特性を有する艶消し電着塗料組成物を提供する。
【解決手段】 本発明は、(A)カルボン酸基、水酸基を含有し、架橋官能基としてアセトアセチル基を有し、Tgが0〜50℃のビニル共重合体、(B)(e)ホモポリマーのTgが60℃以上、170℃以下であるα,β−エチレン性不飽和単量体、(f)水酸基含有α、β−エチレン性不飽和単量体、および(g)その他のα、β−エチレン性不飽和単量体を残りの部分に共重合したビニル共重合体、(C)アミノ樹脂および(D)ヒンダードアミン型の光安定剤を含有するアニオン型艶消し電着塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アニオン型艶消し電着塗料組成物に関するもので、特にアルミニウム建材の塗装に適し、耐候性に優れ、且つ高硬度で耐擦り傷性に優れた電着塗膜を得ることができる。
【背景技術】
【0002】
従来、陽極酸化処理したアルミニウム材は軽量でかつ強度が強く、さらには耐食性に優れることから、ビルや住宅の窓枠、ドアー、エクステリア等の建材関係に広く使用されている。アルミニウム材の塗装には、ワンコートで仕上がり性の良いアニオン型電着塗料が一般的に使用されている。そのアニオン型電着塗料としては、カルボキシル基および水酸基を含有する水性アクリル樹脂にメラミン樹脂を架橋剤として配合し、水分散してなるメラミン硬化型電着塗料が代表的である。しかしながら、近年アルミニウム建材への要求品質が高度化し、特に耐候性、耐擦り傷性等において、従来品では達成されない性能が求められている。
【0003】
具体的に耐擦り傷性については、製品の製造工程、輸送過程、使用現場等あらゆる状況において、傷の低減化が求められている。傷の要因は、建材同士のこすれ、建材同士のこすれを防ぐスペーサー(段ボール、プラスチック、縄等)とのこすれ、砂、埃とのこすれ等多岐にわたり、製品の歩留まりの低下、あるいは美観の低下という点で大きな問題となり、耐擦り傷性に優れた建材が求められている。
【0004】
耐擦り傷性向上における従来技術については、塗膜の硬度を高めるという観点から、比較的硬度の高いシリコーン系材料を混合使用するという技術がある。特許文献1、2では、4官能のアルコキシシラン化合物あるいはその部分加水分解物を使用している。しかしながら、アルコキシシランは基本的に水が存在すると加水分解してシラノールを生成し、さらにシラノール同士が脱水縮合してシロキサンを生成する化合物である。またシロキサン結合は酸性あるいはアルカリ性条件下では、加水分解してもとのシラノールにもどる可能性もあり、水の存在下では極めて不安定な化合物である。従ってアルコキシシランあるいはその部分加水分解物を使用した電着塗料も安定性には大きな問題点を有しており、塗料経時下での安定した塗膜外観の確保も難しい。また特許文献3は従来のアニオン型電着塗料にコロイダルシリカを併用する技術であるが、艶消し塗膜が得られるが、塗膜外観が不十分であり、耐薬品性、耐水性等が劣る問題がある。特許文献4においては有機の硬質樹脂粒子を併用する技術であるが、高硬度化をさらに進め耐擦り傷性のレベルアップを図る必要がある。
【0005】
一方耐候性向上おける従来技術については、フルオロオレフィン重合体を電着塗料の基剤樹脂に使用する技術がある。しかしながらフルオロオレフィン重合体は溶解性が劣るため、そのままでは塗料用基剤樹脂としては使用できず、フルオロオレフィン単量体とその他の単量体、例えばビニルエーテルを共重合して使用するのが一般的である。例えば、特許文献5、6が挙げられる。この場合、塗料適性はある程度改良されるがいまだ十分ではなく、塗膜硬度も不足する。特に水系の電着塗料に用いた場合は、塗膜の仕上がり感、塗装作業性、塗料の安定性等に問題が大きく、またフルオロオレフィン以外の単量体の量が多くなれば、耐候性が低下するという問題点がある。
アクリル酸あるいはメタクリル酸のフルオロアルキルエステルを基剤樹脂の共重合成分に使用するという技術もある。特許文献7がその例であるが、この場合はフッ素原子が基剤樹脂の側鎖にのみ存在するため耐候性向上効果はほとんどない。
他方、耐候性向上のために光安定剤を使用する技術がある。特許文献8、9がこれに相当し、耐候性はある程度改良されるが、従来にない高硬度、耐擦り傷性が確保され、かつ十分な耐候性が確保されるという点に関しては、まだまだ不十分で改良が必要な技術である。
【特許文献1】特開平11−315254号公報
【特許文献2】特開2004−204215号公報
【特許文献3】特開平11−302576号公報
【特許文献4】特開2001−342425号公報
【特許文献5】特許第2595347号公報
【特許文献6】特許第2749132号公報
【特許文献7】特公平6−37600号公報
【特許文献8】特開2002−38084号公報
【特許文献9】特許第3712406号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は塗膜硬度、耐擦り傷性および耐候性において従来品にない特徴があり、高耐久性を有する新しい艶消し電着塗料組成物を提供することを目的とする。また本発明の電着塗料組成物は、耐薬品性、耐溶剤性、機械物性等の塗膜特性、および塗膜の仕上がり感、塗装作業性、塗料の安定性等においても優れた性能を確保している。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、艶消し型塗膜を得るため(A)(a)α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体、(b)水酸基含有α,β−エチレン性不飽和単量体、(c)架橋官能基としてアセトアセチル基を含有するα,β−エチレン性不飽和単量体、および(d)その他のα,β−エチレン性不飽和単量体を共重合したTgが0〜50℃のビニル共重合体、(B)(e)ホモポリマーのTgが60℃以上、170℃以下であるα,β−エチレン性不飽和単量体の含有率が40〜90重量%、(f)水酸基含有α,β−エチレン性不飽単量体の含有率が5〜40重量%、および(g)その他のα,β−エチレン性不飽和単量体を残りの重量部部分として共重合したビニル共重合体、(C)アミノ樹脂、および(D)ヒンダードアミン型の光安定剤を含有するアニオン型電着塗料組成物であり、さらに好ましくは、ビニル共重合体(A)の酸価が10〜150KOHmg/g(固形分)および水酸基価が20〜200KOHmg/g(固形分)であるアニオン型電着塗料組成物であり、ビニル共重合体(B)の重量平均分子量が5,000〜50,000であるアニオン型艶消し型電着塗料組成物であり、必要により硬化触媒を含有するアニオン型艶消し電着塗料組成物である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の電着塗料を適用することにより、塗膜硬度、耐擦り傷性および耐候性において、従来品にない優れた特性を有する艶消しの電着塗膜を形成させることができる。また得られる塗膜耐薬品性、耐溶剤性、機械物性等の塗膜特性、および塗膜の仕上がり感にも優れており、塗料は塗装作業性、経時安定性等にも優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、本発明のアニオン型艶消し電着塗料組成物について詳細に説明する。
[(A)ビニル共重合体]
本発明に使用するビニル重合体(A)は、(a)α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体、(b)水酸基含有α,β−エチレン性不飽和単量体、(c)架橋官能基としてアセチトアセチル基を含有するα,β−エチレン性不飽和単量体、および(d)その他のα,β−エチレン性不飽和単量体を共重合したビニル共重合体である。
【0010】
α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体は、ビニル共重合体(A)に水分散性、電気泳動性を付与するものである。例示すると、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ビニル酢酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸等が挙げられる。これらの1種あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0011】
α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体は、ビニル共重合体(A)の酸価が10〜150KOHmg/g、より好ましくは20〜100KOHmg/g(固形分)となるような範囲で使用される。ビニル共重合体(A)の酸価が10KOHmg/g(固形分)未満では充分な水分散安定性が得られにくく、また150KOHmg/g(固形分)を超えると電気泳動性、塗膜析出性が低下し、また塗膜の耐水性、耐アルカリ性が低下する。
【0012】
また、水酸基含有α,β−エチレン性不飽和単量体は、塗膜の焼き付けに際して、(C)アミノ樹脂と反応して硬化性を付与するものである。例示すると、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、4−ヒドロキシブチルメタクリレート、ジエチレングリコールモノアクリレート、ジエチレングリコールモノメタクリレート等および、これらのラクトン変性物等が挙げられ、1種あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0013】
このような水酸基含有α,β−エチレン性不飽和単量体はビニル共重合体(A)中の水酸基価が20〜200KOHmg/g(固形分)、好ましくは40〜160KOHmg/g(固形分)となるような範囲で使用される。水酸基価が20KOHmg/g(固形分)未満では十分な硬化性が確保されず、また200KOHmg/g(固形分)を超えると塗膜が脆化し、耐水性が低下して十分な性能が得られにくい。
【0014】
また、架橋官能基としてアセトアセチル基を有するα,β−エチレン性不飽和単量体は、ビニル共重合体(A)中に安定的に不溶性のミクロゲルを生成させ、艶消し性能を付与するものである。例示すると、アセチアセトキシエチルアクリレート、アセトアセトキシエチルメタクリレート等が挙げられ、後述する方法で本発明の電着塗料組成物を水分散化した後、分散粒子内にミクロゲルを生成させ光沢の低減化を図る。その際、アセトアセチル基でミクロゲルを生成するためには、ホルムアルデヒドを併用することでミクロゲルの生成が促進されるので、ホルムアルデヒドを併用することが好ましい。
【0015】
さらに、その他のα,β−エチレン性不飽和単量体については、アクリル酸またはメタクリル酸のアルキルエステル、あるいはその他のビニル単量体およびアミド系単量体を用いることができる。具体的な化合物を例示すると、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルアクリレート、n−プロピルメタクリレート、イソプロピルアクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルアクリレート、イソブチルメタクリレート、t−ブチルアクリレート、t−ブチルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ラウリルアクリレート、ラウリルメタクリレート、ステアリルアクリレート、ステアリルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ヘプチルアクリレート、ヘプチルメタクリレート等のアクリル酸またはメタクリル酸のアルキルエステル、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、酢酸ビニル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニル単量体、アクリルアミド、メタクリルアミド、メチロールアクリルアミド、メチロールメタクリルアミド、メトキシメチルアクリルアミド、n−ブトキシメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、ジアセトンメタクリルアミド等のアミド系単量体、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレートが挙げられる。これらは1種あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0016】
ビニル共重合体(A)のTg(ガラス転移温度)は0〜50℃であり、Tgが0℃より低いと、乾燥塗膜の物性、特に硬度が低下し、また、ビニル共重合体(B)との相溶性が悪化し、電着塗料における安定性が低下する。またTgが高いと電着塗膜が得られにくくなる。共重合体のTgの具体的な数値については、下記Foxの式より算出される。また、ビニル共重合体(A)の好ましい重量平均分子量は、10,000〜100,000であり、より好ましくは20,000〜70,000である。重量平均分子量が10,000以下の場合は、塗膜耐久性が十分に得られにくく、また100,000以上の場合は、水分散性が低下し、塗料の取り扱い性が不良になり易い。なお、ここで言う重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による一般的な測定によるポリスチレン換算の値である。
【0017】
【数1】

【0018】
上述したようなビニル共重合体(A)は、各単量体を溶液重合、非水性分散重合、塊状重合、エマルジョン重合、懸濁重合等の公知の方法で重合することによって得られるが、特に溶液重合が好ましく、反応温度としては通常40〜170℃が選ばれる。
【0019】
反応溶剤としては、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、プロピルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル等の親水性溶剤を用いるのが好ましい。また、重合開始剤としては、有機過酸化物、アゾ系化合物、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等、公知のものを用いることができる。
【0020】
[(B)ビニル共重合体]
本発明に使用されるビニル共重合体(B)は、ビニル共重合体(A)とともに使用して、得られる電着塗膜の硬度を高め、耐擦り傷性を向上させるために使用されるもので、(e)ホモポリマーのTg(ガラス転移温度)が60℃以上、170℃以下のα、β−エチレン性不飽和単量体の含有率が40〜90重量%、(f)水酸基含有α、β−エチレン性不飽和単量体の含有率が5〜40重量%、および(g)その他のα,β−エチレン性不飽和単量体を残りの重量部部分として共重合したビニル共重合体であり、さらに本ビニル共重合体(B)はカルボキシル基を含有することが安定な樹脂液分散体を得るためにより好ましく、その酸価は5〜100KOHmg/g(固形分)が好ましい。この場合はビニル共重合体(A)のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体の項で例示した単量体を共重合するのが好ましい。しかし、ビニル共重合体(B)が酸価を有しない場合でも、得られる塗膜の性能には何らの悪影響を及ぼすものではない。
【0021】
ホモポリマーのTgが60℃以上、170℃以下のα、β−エチレン性不飽和単量体(e)としては、スチレン(100℃)、α−メチルスチレン(168℃)、ビニルトルエン(異性体で異なるが93〜136℃)、メチルメタクリレート(105℃)、エチルメタクリレート(65℃)、イソプロピルメタクリレート(81℃)、t−ブチルメタクリレート(118℃)、シクロヘキシルメタクリレート(83℃)、アクリロニトリル(100℃)、アクリル酸(106℃)、メタクリル酸(130℃)、アクリルアミド(165℃)等が使用できるが、これらに限定されない(前記単量体名の括弧内の温度は各単量体のホモポリマーのTgを示す)。またこれらの1種または2種以上を組み合わせて使用しても問題はない。これら単量体のビニル共重合体(B)における含有率は、40〜90重量%であることが好ましい。40重量%未満では、十分な塗膜の硬度向上効果が得られず、また90重量%を超えて含有するときは、ビニル共重合体(A)との相溶性が低下し、電着塗料の安定性が低下する。
【0022】
水酸基含有α、β−エチレン性不飽和単量体(f)としては、ビニル共重合体(A)において使用できるとされた水酸基含有α、β−エチレン性不飽和単量体(b)が使用でき、そのビニル共重合体(B)における含有率は5〜40重量%であることが好ましい。5重量%未満では、焼き付けによる硬化に際して十分な硬度改良が得られず、40重量%を超えて含有する場合は、塗膜が脆化し、耐水性等が低下する。
【0023】
さらに、その他のα、β−エチレン性不飽和単量体(g)としては、下記の単量体を例示することができる。具体的な化合物を例示すると、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、n−プロピルメタクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルアクリレート、イソブチルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、ラウリルメタクリレート、ステアリルアクリレート、ステアリルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ヘプチルアクリレート、ヘプチルメタクリレート等のアクリル酸またはメタクリル酸のアルキルエステル、その他、酢酸ビニル、n−ブトキシメチルアクリルアミド等の単量体、さらにエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等の多官能単量体が挙げられるがこれらに限定されない。またこれらは1種あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0024】
ビニル共重合体(B)の重量平均分子量は、5,000〜50,000であることが好ましく、ビニル共重合体(A)の重量平均分子量より小さい方が好ましい。またビニル共重合体(B)のTgは50〜120℃が好ましく、ビニル共重合体(A)のTgより高い方が好ましい。なお、ここで言う重量平均分子量は、ビニル共重合体(A)において記述したと同様GPCでの測定によるポリスチレン換算の値である。ビニル共重合体(B)は上記のような単量体組成、重量平均分子量、Tgを有し、好ましくは酸価を有するように製造されるが、その製造法は、ビニル共重合体(A)同様の製造法で得ることができる。
【0025】
ビニル共重合体(A)とビニル共重合体(B)の使用比率は、(A)/(B)=100/1〜100/40(固形分重量比)が好ましく、より好ましくは100/1〜100/30、さらに好ましくは100/3〜100/25である。
【0026】
[(C)アミノ樹脂]
本発明に使用される(C)アミノ樹脂としては、従来から公知のメラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、尿素樹脂等が挙げられるが、中でも好適なものは、メチロール基の少なくとも一部を低級アルコールでアルコキシ化したアルキルエーテル化メチロールメラミン樹脂であって、低級アルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール等の1種または2種以上が使用できる。また1種のメラミン樹脂であっても、また2種以上のメラミン樹脂が組み合わされても問題はない。
【0027】
アルキルエーテル化メチロールメラミン樹脂を例示すると、三井サイテック(株)製のサイメル266、232、235、238、236、マイコート506、508、548、M−66B、(株)三和ケミカル製のニカラックMX−40、MX−45等があるが、これらに限定されるものではない。
【0028】
アミノ樹脂の使用量の好ましい範囲は、ビニル共重合体(A)およびビニル共重合体(B)の固形分合計100重量部に対し10〜100重量部である。この範囲より少ない場合は、塗膜の架橋が不十分なため硬度、機械特性、耐溶剤性、耐薬品性等が低下する。逆に100重量部を超える場合はビニル共重合体(A)および(B)との親和性が不十分になり、水分散液の安定性不良、分散粒径の不均一化、電着後の水洗性不良、撥水現象、塗膜の光沢ムラ、乳白化等の問題が生じると共に、過剰のアミノ樹脂架橋剤が、架橋に寄与せず可塑剤として残存する為、硬度不足が起こり好ましくない。またアミノ樹脂量のより好ましい範囲は、ビニル共重合体(A)およびビニル共重合体(B)の固形分計100重量部に対し20〜90重量部である。
【0029】
[(D)ヒンダードアミン型の光安定剤]
本発明に使用されるヒンダードアミン型の光安定剤については、分子中に少なくとも下記の化学式1に示すように1個のヒンダードピペリジン基を有する化合物である。
【0030】
【化1】

【0031】
ここでXは−H、−R、−OR’、−R’’−で表わされ、R、R’、R’’は炭素、水素、酸素を含有する1価あるいは2価の置換基を表している。代表的なものとしてはメチル基、エチル基、炭素数3から20の脂環式構造を含むアルキル基、アセチル基、プロピオニル基等の炭素数2〜20のアシル基、炭素数1〜20のアルキレン基、コハク酸/エチレングリコールからのポリエステルユニット等を例示できるが、これらに限定されない。なお、炭素数1〜20のアルキレン基、コハク酸/エチレングリコールからのポリエステルユニット等の2価の置換基の場合、他方の末端については他のヒンダードピペリジン基に結合している。
【0032】
具体的な化合物としては、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社のチヌビン292、チヌビン144、チヌビン622、チヌビン111FDL,チヌビン123、チヌビン5100、チヌビン152、チヌビン780、チマソーブ119、チマソーブ944、旭電化工業株式会社のアデカスタブLA−52、アデカスタブLA−57、アデカスタブLA−62、アデカスタブLA−67、アデカスタブLA−63,アデカスタブLA−68LD、アデカスタブLA−77、アデカスタブLX−335、アデカノールUC−605、三共ライフテック株式会社のサノールLS770、サノールLS765、サノールLS292、サノールLS440、サノールLS744、サノールLS2626、住友化学株式会社のスミソーブTM−061等が例示できるが、これらに限定されない。
【0033】
またより好ましい化合物としては、7以上のpKb値を有するものであり、7未満の化合物に比べて塩基度が低いため、電着塗料中において電荷的にほとんど中性の物質として挙動する。従って電着塗装に与える影響は極めて少ない。中でもピペリジン骨格中の窒素原子に、上記−OR’基が結合したアミノエーテル型が最も好ましい。アミノエーテル型を使用する場合は、使用しない場合とほとんど同じ条件で電着塗装が可能である。また酸触媒を併用して低温硬化を行う場合も、アミノエーテル型は塩基としては機能せず酸触媒を中和することがないので、光安定剤を使用しない場合と同量の酸触媒量で低温硬化が達成される。pKb値が7以上の化合物については、具体的にはチヌビン123(pKb値9.6)、チヌビン5100(pKb値9.6)、チヌビン152(pKb値7.0、9.4)、チヌビン622(pKb値7.5)、サノールLS440(pKb値>11.5)等が挙げられ、その中でチヌビン123、チヌビン5100、チヌビン152はアミノエーテル型の化合物で特に好ましい。なお各化合物のpKb値はカタログ値である。
【0034】
ヒンダードアミン型の光安定剤(D)の使用量はビニル共重合体(A)、(B)およびアミノ樹脂(C)の合計量100重量部に対して0.1〜10重量部が好ましく、0.1〜3重量部がより好ましい。
【0035】
本発明の電着塗料組成物には、塗膜の焼き付けに際しての硬化性をさらに向上させるため硬化触媒を添加することも可能であり、硬化触媒としてはスルホン酸化合物が好ましい。スルホン酸化合物としては、パラトルエンスルホン酸、クメンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンジスルホン酸、およびこれらのアミン塩等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0036】
本発明の電着塗料の調製は、前述のビニル共重合体(A)、ビニル共重合体(B)、(C)アミノ樹脂、および(D)ヒンダードアミン型の光安定剤を通常40〜100℃で攪拌混合した後、必要により硬化触媒を添加し、中和用の塩基性物質を含む脱イオン水を、温度20〜80℃で撹拌混合して乳化分散液を得、この後ビニル共重合体(A)中の架橋官能基を反応させてミクロゲルを形成させるのが、一般的な方法であるがこれに限定されない。更に、必要に応じて加温したり、あるいは脱イオン水、または親水性溶剤を一部含有する脱イオン水で希釈し、電着塗装に供せられる。
【0037】
前述の中和用の塩基性物質は、ビニル共重合体中のカルボキシル酸基の少なくとも一部を中和してビニル共重合体を水分散化または水溶化するための化合物であり、例えば、有機アミンあるいは無機塩基である。かかる塩基性物質としては、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノイソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、トリイソプロピルアミン、モノブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン等のアルキルアミン、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン等のアルカノールアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等のアルキレンポリアミン、アンモニア、エチレンイミン、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。このような塩基性物質による中和率は20〜120%が適当であるが、特に40〜100%であると水分散性が良好で、光沢ムラを生じないので好ましい。
【0038】
またその他として、紫外線吸収基含有化合物を用いて、耐候性をさらに高めることも可能であり、紫外線吸収基含有単量体を使用して、ビニル共重合体(A)あるいはビニル共重合(B)に組み込むことも可能である。更に必要に応じて、消泡剤、レベリング剤、界面活性剤等の添加剤を加えて用いられる場合もある。本発明の技術は、顔料と併用して着色タイプの電着塗料にも適用可能である。また要求される性能、作業性、コスト等により、必要ならば、例えば、キシレン樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂等を併用することが可能である。この場合架橋剤と同様な方法で使用される。
【0039】
本発明の電着塗料組成物が適用される被塗物は、アルミニウムあるいはアルミニウム合金が主であるが、導電性を有するものであれば塗装が可能であり、得られる塗膜は、従来技術では得られない高度の耐擦り傷性、塗膜硬度および耐候性が実現できるだけでなく、機械特性、耐溶剤性、耐薬品性、作業性等にも優れている。
得られた塗膜の性能評価方法は後述するが、中でも耐擦り傷性は、鉛筆硬度の測定と共に、新東科学(株)製のHEIDON−18L連続加重式引掻強度試験器により、表面に
傷が付くあるいは傷が素地まで達する加重により評価した。また耐候性についてはメタルウェザー試験機による促進試験により、時間を追って塗膜の外観の変化を評価した。
【実施例1】
【0040】
次に、本発明について実施例を挙げ更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお表中の配合量は特別な記載のない限り、重量部、重量%を表す。
【0041】
〔ビニル共重合体(A)の製造〕
製造例1〜2(樹脂液A1〜A2の製造)
撹拌装置、温度計、モノマー滴下装置、還流冷却装置を有する反応装置を準備する。表1に示す配合に従って、(1)と(2)を反応装置に仕込み、撹拌下に還流温度まで上昇させ、(3)〜(13)を予め均一に混合した後、3時間かけて滴下した。温度は還流温度を維持した。滴下終了から1.5時間経過後に(14)を加えて、更に同温度で1.5時間反応を継続して固形分66%の透明で粘稠な樹脂液A1〜A2を得た。それらの酸価(KOHmg/g固形分)、水酸基価(KOHmg/g固形分)、Tg(℃)、重量平均分子量も表1に示した。
【0042】
【表1】

【0043】
使用原料
アマイドNBM:(笠野興産(株)製)N−ブトキシメチルアクリルアミド
AAEM :アセトアセトキシエチルメタクリレート
【0044】
〔ビニル共重合体(B)の製造〕
製造例3〜5(樹脂液B1〜B3) 実施例用
ビニル共重合体(A)の製造例と同様に、撹拌装置、温度計、モノマー滴下装置、還流冷却装置を有する反応装置を準備する。表2に示す配合に従って、(1)を反応装置に仕込み、撹拌下に還流温度まで上昇させ、(2)〜(12)を予め均一に混合した後、3時間かけて滴下した。温度は還流温度を維持した。滴下終了から1.5時間経過後に(13)を加えて、更に同温度で1.5時間反応を継続して、固形分52%の透明で粘稠な樹脂液B1〜B3を得た。それらのTg60℃以上170℃以下の単量体量(%)、水酸基含有単量体量(%)、重量平均分子量、酸価(KOHmg/g固形分)を表2に示した。
【0045】
【表2】

【0046】
〔分散樹脂液C1〜C3の製造〕
撹拌装置、温度計、脱イオン水滴下装置、還流冷却装置を有する反応装置を準備する。表3に示す配合に従って、(1)〜(8)を反応装置に仕込み、60℃で1時間攪拌混合した。これに(9)および(10)の混合液を徐々に添加して乳化液を得た。さらに(11)を加えて、50℃にて4時間保温しミクロゲル化の反応を行った。分散樹脂液C3については、そのまま75℃で10時間保温してミクロゲル化の反応を行った。最後にそれぞれに(12)を加えて実施例用の分散樹脂液を調製した。
【0047】
【表3】

【0048】
使用原料
サイメル236 : 日本サイテックインダストリーズ(株)製混合エーテル型メラミン樹脂 固形分100%
チヌビン123、チヌビン152:チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製のヒンダードアミン型光安定剤 固形分共に100%
【0049】
〔比較例1〜3の分散樹脂液製造〕
実施例1〜3の配合において、チヌビン123あるいはチヌビン152を除く以外は同じ配合、同じ条件でそれぞれの分散樹脂液D1〜D3を得た。比較例としてはそれぞれ比較例1〜3に対応する。
【0050】
〔比較例4〜6の分散樹脂液の製造〕
実施例1〜3の配合において、樹脂液B1〜B3を除く以外は、同じ配合、同じ条件でそれぞれの分散樹脂液D4〜D6を得た。比較例としてはそれぞれ比較例4〜6が対応する。
【0051】
〔電着塗料の製造〕
上記の分散樹脂液C1〜C3(実施例用)およびD1〜D6(比較例用)に脱イオン水を加えて固形分を10%に調製した後、トリエチルアミンを加えてpHを8.0に調製して、それぞれに相当する電着塗料E1〜3(実施例用)およびF1〜F6(比較例用)を得た。
【0052】
[電着塗装および塗膜性能評価]
(実施例1〜3および比較例1〜6)
上記で得られた電着塗料(実施例1〜3はそれぞれの電着塗料E1〜E3、比較例1〜6はそれぞれの電着塗料F1〜F6を使用)を塩化ビニル製の浴槽に入れ、陰極をSUS304鋼板とし、6063Sアルミニウム合金版にアルマイト処理(アルマイト膜厚=9μm)を施し、更に黒色に電解着色した後、常法により湯洗されたアルミニウム材を陽極(被塗物)として電着塗装を行った。電着塗装の具体的条件は浴温22℃、塗装電圧130Vで、塗膜厚が10μmになるように通電し、電着終了後洗浄し、引き続いて185℃で30分間焼き付けた。得られた塗膜を性能評価し、結果を表4〜表6に示した。
【0053】
【表4】

【0054】
【表5】

【0055】
【表6】

【0056】
乳化性、浴液安定性および塗膜性能の評価方法は次の通りである。
(1)乳化性 :分散樹脂液のろ過を行い、ろ過残渣の有無により判定。
○:ろ過残渣なし
×:ろ過残渣多い
(2)浴液安定性:塗装評価を行った後、浴液を30℃に調整して攪拌下にて4週間保持した後、再び塗装評価を行う。初期と経時での塗装板の光沢、外観差を比較する。
○:光沢、外観ともほとんど差なし
×:光沢、外観に差あり
(3)光沢値 :グロスメーターで60°鏡面反射率[%]を測定。
(4)鉛筆硬度 :JIS−K−5600 破れ判定。
(5)碁盤目付着性 :JIS−K−5600準拠 塗膜上にカッターナイフで100個の碁盤目を作り、その上にセロハンテープを貼り付けた後、すばやくセロハンテープを引き剥がした時の密着状態を観察する。なお性能評価表中の記載は次のことを意味する。
100:剥がれなし(100/100)
0:全部剥がれ(0/100)
(6)耐アルカリ性 :20℃で1%の水酸化ナトリウム水溶液に120時間浸漬後塗面状態を観察。
(7)耐酸性 :20℃で5%の硫酸水溶液に120時間浸漬後塗面状態を観察。(8)耐擦り傷性 :段ボール紙に200g/cmの加重をかけて、5cmのストロークで50往復塗装板を摩擦した後の傷の付き具合を目視で評価。
○:傷跡が若干見える程度。
×:傷跡が深いか、光沢が低下した面状に見える。
(9)傷付き性試験 :新東科学(株)製のHEIDON−18L連続加重式引掻強度試験器を使用し、傷発生開始時および傷素地到達時の加重を測定して評価。
(10)促進耐候性 :メタルウェザー試験機を用いて300時間、600時間で評価を行った。
ブラックパネル温度80℃(照射のみ)
湿度50% 水シャワー2時間毎、1回120秒
ランプ強度75mW/cmランプ距離240mm
外観評価(目視判定)
・ :異常なし
・ :光沢ムラが発生
× :クラックが発生
【産業上の利用可能性】
【0057】
アルミニウム建材等へのアクリル系電着塗装に際し、カルボキシル基、水酸基、および架橋官能基としてアセトアセチル基含有ビニル共重合体(A)、ホモポリマーのTgが60℃以上170℃以下である単量体と水酸基含有単量体およびその他の単量体からなるビニル共重合体(B)、アミノ樹脂(C)および(D)ヒンダードアミン型の光安定剤からなる艶消し電着塗料を使用することにより、塗膜の耐擦り傷性等の表面硬度改良とともに、耐候性を他の塗膜性能を損なうことなく向上させることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)(a)α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体、(b)水酸基含有α,β−エチレン性不飽和単量体、(c)架橋官能基としてアセトアセチル基を含有するα、β−エチレン性不飽和単量体、および(d)その他のα,β−エチレン性不飽和単量体を共重合したTgが0〜50℃のビニル共重合体、(B)(e)ホモポリマーのTgが60℃以上、170℃以下であるα,β−エチレン性不飽和単量体、(f)水酸基含有α,β−エチレン性不飽単量体、および(g)その他のα,β−エチレン性不飽和単量体を残りの部分に共重合したビニル共重合体、(C)アミノ樹脂、および(D)ヒンダードアミン型の光安定剤を含有するアニオン型艶消し電着塗料組成物。
【請求項2】
ビニル共重合体(A)が、酸価10〜150KOHmg/gおよび水酸基価20〜200KOHmg/gである請求項1に記載のアニオン型艶消し電着塗料組成物。
【請求項3】
ビニル共重合体(B)が(e)ホモポリマーのTgが60℃以上、170℃以下である、α,β−エチレン性不飽和単量体を40〜90重量%、(f)水酸基含有α,β−エチレン性不飽単量体を5〜40重量%含有することを特徴とする請求項1および請求項2に記載のアニオン型艶消し電着塗料組成物。
【請求項4】
ビニル共重合体(B)の重量平均分子量が5,000〜50,000である請求項1〜3に記載のアニオン型艶消し電着塗料組成物。
【請求項5】
ビニル共重合体(B)において、その酸価が5〜100KOHmg/gである請求項1〜4に記載のアニオン型艶消し電着塗料組成物。
【請求項6】
ヒンダードアミン型の光安定剤(D)が、その塩基定数(pKb値)が7以上のヒンダードアミンである、請求項1〜5に記載のアニオン型艶消し電着塗料組成物。
【請求項7】
ヒンダードアミン型の光安定剤(D)が、アミノエーテル型ヒンダードアミンである、請求項1〜6に記載のアニオン型艶消し電着塗料組成物。














【公開番号】特開2007−191678(P2007−191678A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−160045(P2006−160045)
【出願日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【分割の表示】特願2006−11475(P2006−11475)の分割
【原出願日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【出願人】(000192844)神東塗料株式会社 (48)
【Fターム(参考)】