説明

高粘度モモ樹脂精製物とその製造方法

【課題】無味・無臭であり高粘度モモ樹脂精製物及びその製造方法を提供すること
【解決手段】原料となる樹液固形物を水に溶解した状態でプロテアーゼを作用させ、分解した臭気成分を、活性炭による吸着分離などにより低分子不純物を分離することにより、無味・無臭であり高粘度のモモ樹脂精製物を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高粘度モモ樹脂精製物とその製造方法に関する。詳しくは、不純物を含まず、かつ食品添加物として用いるのに適した無臭の高粘度モモ樹脂精製物とその効率的な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モモ樹脂(ピーチガムとも呼ばれている。)は、桃の木(Prunus persica)の樹液から得られる多糖類を主成分とするガム類で、旧厚生省令第50号「既存添加物名簿に関する省令」リストの第415番に記載されている食品添加物である。
【0003】
モモ樹脂の原料である桃の樹液は、現状では、主として中国において1年に1度収穫されている。桃の木から採取した直後の樹液は、全くの無味・無臭である。また、本来のモモ樹脂は、かすかにモモ樹脂固有の香りはするが、不快な臭気は有さない状態のものである。
【0004】
しかし、天然のモモ樹脂は不純物を約30wt%含み、桃の木からしみ出たこれらの樹液を、自然乾燥によって乾燥させ、固形化して樹液固形物としているため、水分含量が比較的多く、しかも、収穫した桃の樹液固形物は出荷されるまで常温の倉庫内に保管されるため、保管中の樹液固形物に菌が付着し、付着した菌が増殖し不純物が分解して不快な臭気を発生するものが多いという問題があった。
【0005】
この臭気を除くため、特許文献1では、モモ樹脂原料となる樹液固形物を水に溶解し、酸を加えて酸性とし、活性炭と接触させる方法を採用して不純物を除去し、脱色、脱臭されたモモ樹脂精製物を得ている。
また、特許文献2では、モモ樹脂の酸性水溶液を調製し、該酸性水溶液を減圧加熱することにより臭気のない精製モモ樹脂を得ている。
【0006】
また、中国では、モモ樹脂原料を粉砕し水に分散させ、アルカリを加えて加熱し、酸で中和した後、固形不純物を除去し、水溶液を濃縮、乾燥、粉末化したものが、モモ樹脂精製物として流通市販されている。
【0007】
これらの方法によれば、不純物が少ない無臭のモモ樹脂を得ることができるが、酸処理やアルカリ処置を行っているため、本来高分子であるモモ樹脂は低分子化し、水溶液としたとき低粘度のものしか得られなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−150930号公報
【特許文献2】特開2009−240186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、無味・無臭であり高粘度モモ樹脂精製物及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、モモ樹脂の原料となる樹液固形物を水に溶解した状態でプロテアーゼを作用させれば、水への溶解性を高めることができ、従って酸処理を行わないので低分子化が避けられ、無味・無臭であり高粘度のモモ樹脂精製物が得られることを見出し、本発明に至った。
【0011】
本発明で使用するプロテアーゼは、タンパク質を有効に分解する能力を有するものであれば種類を問わないが、アルカラーゼ、トリプシン、パパイン、中性プロテアーゼなどが好適に使用できる。
【0012】
本発明においてプロテアーゼは、使用するプロテアーゼの種類にもよるが、5〜60倍の重量体積(v/w)の純水に溶解したモモ樹脂水溶液に対し、0.5〜5.0%(w/v)の濃度と成るように添加する。
プロテアーゼによる反応を完全に行わせるには、1〜5時間、液温を40〜60℃に保温し、攪拌することが望ましい。
【0013】
なお、プロテアーゼとしてアルカラーゼを使用する場合には、NaOH濃度を10〜60wt%、反応温度を25〜80℃とし、30分〜2時間酵素処理を行う。
【0014】
上記のプロテアーゼによる酵素分解処理が終了したら、水溶液の温度をさらに50〜80℃の範囲まで上昇させ、30分〜2時間この温度を維持して、酵素の失活と滅菌を行う。
【0015】
このようにして製造したモモ樹脂は臭気成分をほとんど含まないが、臭気成分や分解物などの不純物を分離して精製するには、公知の精製手段が利用できる。
プロテアーゼにより分解された低分子の不純物を分離するには、活性炭などの吸着剤による分離など既知の低分子物質分離手段が適用できる。
なお、本発明のモモ樹脂の主成分は多糖類なので、本発明における「不純物」とは、多糖類以外のものをいい、その含有量は、全固形乾重量中の多糖類以外の成分の重量の割合(%)で表す。
【0016】
上記の手段によって精製されたモモ樹脂の水溶液は、減圧濃縮した後、噴霧乾燥して、粉末状とすることが、保管や流通の面から好ましい。
【0017】
本発明によって得られたモモ樹脂は、10%水溶液の状態で、25℃における粘度が100mPa・s以上の粘度を示す。これは、プロテアーゼによる酵素分解では、モモ樹脂自体はほとんど分解されずに高分子量のまま残るからである。
【0018】
すなわち、本発明の態様は以下のとおりである。
(1) 25℃における10%水溶液の粘度が100mPa・s以上であり、不純物が10%以下のモモ樹脂精製物。
(2)天然モモ樹脂を水の溶解し、該水溶液にプロテアーゼを添加して酵素処理し、不純物を除去することを特徴とするモモ樹脂精製物の製造方法。
(3)プロテアーゼが、アルカラーゼ、トリプシン、パパイン、中性プロテアーゼから成る群から選ばれる一種以上である請(2)の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
上記のようにして得られる精製モモ樹脂は、無味、無臭であり、且つ25℃における10wt%水溶液の粘度が100mPa・s以上の高粘度を呈する。
【0020】
本発明により得られたモモ樹脂粉末は、原料のモモ樹脂が本来有する物性を残したまま不純物が非常に少ないモモ樹脂精製物が得られるので、食品添加物として使用するだけでなく、化粧品や医薬品などの分野にも応用可能である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらの実施態様に限定されるものではない。
【実施例】
【0022】
原料となる樹液固形物(原産地中国)を3種(A〜C)用意し、粉砕機による粉砕が可能となる硬さとなるまで乾燥した後、粉砕機により機械的に粉砕し20メッシュの粗粉とした。
得られた粗粉を30倍の重量体積(V/W)の純水に溶解した後、50℃に加熱し、プロテアーゼを3.0%(V/W)加え、保温、攪拌しながら3時間反応させた。
酵素反応が終了したら、溶液の温度を70℃に昇温して1時間保温し、酵素を失活させると共に滅菌を行う。
【0023】
得られたモモ樹脂溶液に純水を添加し、モモ樹脂の含有量が60倍の重量体積(V/W)と成るよう調整した後、粉末状の活性炭を添加し、1時間攪拌しながら脱色を行った。
上澄みを除去した後、活性炭を濾過すると、ほとんど無色の精製液が得られた。
【0024】
ついで、上記工程で得られた精製液を、吸着剤などの低分子分離手段を利用して低分子不純物を除去し、濃縮を行った。
【0025】
洗浄、濃縮された濃縮液は、減圧蒸発器に移し、60〜80℃の温度、−0.085Mpaの圧力で、モモ樹脂の含有量が5wt%以上となるまで、水分を減圧蒸発させる。
得られた原料の異なる濃縮液は、熱風中に噴霧し瞬間的に乾燥を行うスプレードライ製法により、粉末化した。各粉末製品中の不純物はいずれも10%以下であった。
得られたモモ樹脂多糖粉末(3種)を5%、10%水溶液とし、25℃の粘度を測定した結果を表1に示す。10%水溶液では、いずれも、100mPa・s以上の粘度であった。
【0026】
[比較例]
中国国内で一般に流通市販されている3種の粉末状モモ樹脂精製物(D〜F)について、実施例と同様に水溶液をとし、その粘度を測定した結果を表1に示す。これら製品中の不純物は10%以下であったが、10%水溶液の粘度は、100mPa・s以下であった。
【0027】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
25℃における10%水溶液の粘度が100mPa・s以上であり、不純物が10%以下のモモ樹脂精製物。
【請求項2】
天然モモ樹脂を水の溶解し、該水溶液にプロテアーゼを添加して酵素処理し、不純物を除去することを特徴とするモモ樹脂精製物の製造方法。
【請求項3】
プロテアーゼが、アルカラーゼ、トリプシン、パパイン、中性プロテアーゼから成る群から選ばれる一種以上である請求項2記載の製造方法。

【公開番号】特開2012−55174(P2012−55174A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−198597(P2010−198597)
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【出願人】(306007864)ユニテックフーズ株式会社 (23)
【出願人】(510239901)上海輝文生物技術有限公司 (1)
【Fターム(参考)】