説明

高粘性スラグの繊維化及び微粒化装置

【課題】高粘性スラグの形状を改善し、付加価値の高い繊維状物質及び/又は粉末を得るための高粘性スラグの繊維化及び微粒化装置を提供すること。
【解決手段】溶融室、アトマイザ、及び回収室を有する高粘性スラグの繊維化及び微粒化装置において、アトマイザは溶融スラグ放出ノズル及び流体噴流ノズルを有し、流体噴流ノズルは溶融スラグ放出ノズルに近接していて溶融スラグに対して流体アトマイジング法を適用し得る位置に配置されているか、又はアトマイザは溶融スラグ放出ノズル、流体噴流ノズル及び溶融スラグ放出ノズルと流体噴流ノズルとの間に設けられた流体噴流のための低熱伝導率の整流ガイドを有し、流体噴流ノズルは整流ガイドに近接していて溶融スラグに対して流体アトマイジング法を適用し得る位置に配置されている、高粘性スラグの繊維化及び微粒化装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高粘性スラグの繊維化及び微粒化装置に関し、より詳しくは、高粘性スラグの形状を改善し、付加価値の高い繊維状物質及び/又は粉末を得るための高粘性スラグの繊維化及び微粒化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
石炭ガス化複合発電は、埋蔵量が豊富な石炭を用い、かつ環境保全性に優れた高効率発電技術として早期実用化が期待されている。また、石炭ガス化複合発電方式から排出される高粘性石炭ガス化スラグは未燃分を含まず、溶出成分がほとんどない等の特徴を有している。しかしながら、このような高粘性石炭ガス化スラグは粉砕性が悪く、高炉スラグや都市ゴミ等の焼却灰スラグと同様に針状や稜角に富む形状であるためハンドリングが困難である等の問題があり、また、一般的に粘性が高く、製品として望まれる形状(球形粒子、粉末、繊維状等)に変形することが困難であり、有効利用には課題を残している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
省資源及び環境保全の観点から、石炭ガス化スラグや高炉スラグ、都市ゴミ等の焼却灰スラグ等の高粘性スラグ、特に高粘性石炭ガス化スラグの有効利用を促進するためには、高粘性スラグの形状の改善と共に付加価値を付与する技術の開発が望まれている。
【0004】
本発明は石炭ガス化スラグや高炉スラグ、都市ゴミ等の焼却灰スラグ等の高粘性スラグ、特に高粘性石炭ガス化スラグの形状を改善し、付加価値の高い繊維状物質及び/又は粉末を得るための高粘性スラグの繊維化及び微粒化装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記の目的を達成するために鋭意検討した結果、高粘性スラグを溶融させるか又は溶融状態に維持するための溶融室、溶融スラグに対して流体アトマイジング法を適用して繊維化及び/又は微粒化するためのアトマイザ、繊維化及び/又は微粒化したスラグを回収するための回収室を有する高粘性スラグの繊維化及び微粒化装置において、該アトマイザの溶融スラグ放出ノズルと流体噴流ノズルとの位置関係を最適化することにより上記の目的が達成されることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
即ち、本発明の高粘性スラグの繊維化及び微粒化装置は、高粘性スラグを溶融させるか又は溶融状態に維持するための溶融室、該溶融室からの溶融スラグに対して流体アトマイジング法を適用して繊維化及び/又は微粒化するためのアトマイザ、及び繊維化及び/又は微粒化したスラグを回収するための回収室を有する高粘性スラグの繊維化及び微粒化装置において、該アトマイザは溶融スラグ放出ノズル及び流体噴流ノズルを有し、該流体噴流ノズルは該溶融スラグ放出ノズルに近接していて溶融スラグに対して流体アトマイジング法を適用し得る位置に配置されていることを特徴とする。
【0007】
また、本発明の高粘性スラグの繊維化及び微粒化装置は、高粘性スラグを溶融させるか又は溶融状態に維持するための溶融室、該溶融室からの溶融スラグに対して流体アトマイジング法を適用して繊維化及び/又は微粒化するためのアトマイザ、及び繊維化及び/又は微粒化したスラグを回収するための回収室を有する高粘性スラグの繊維化及び微粒化装置において、該アトマイザは溶融スラグ放出ノズル、流体噴流ノズル及び該溶融スラグ放出ノズルと該流体噴流ノズルとの間に設けられた流体噴流のための低熱伝導率の整流ガイドを有し、該流体噴流ノズルは該整流ガイドに近接していて溶融スラグに対して流体アトマイジング法を適用し得る位置に配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の高粘性スラグの繊維化及び微粒化装置を用いることにより、高粘性スラグから付加価値の高い繊維状物質(断熱材や緩衝材として利用可能)及び/又は粉末(セメント混和材として利用可能)を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の高粘性スラグの繊維化及び微粒化装置は、高粘性スラグを溶融させるか又は溶融状態に維持するための溶融室、該溶融室からの溶融スラグに対して流体アトマイジング法を適用して繊維化及び/又は微粒化するためのアトマイザ、及び繊維化及び/又は微粒化したスラグを回収するための回収室を有している。
【0010】
高粘性スラグ、例えば高粘性石炭ガス化スラグを溶融させるか又は溶融状態に維持するための溶融室は、例えば高周波誘導加熱により加熱されて溶融室内のスラグが溶融状態に維持される。この溶融室には、例えば石炭ガス化炉で生じる溶融スラグを溶融状態のままで直接投入しても、或いは石炭ガス化炉で生じる溶融スラグを冷却固化させ、ストックした後に供給し、溶融させてもよい。
【0011】
本発明の高粘性スラグの繊維化及び微粒化装置においては、溶融室からの溶融スラグに対して流体アトマイジング法を適用して繊維化及び/又は微粒化するためのアトマイザは溶融スラグ放出ノズル及び流体噴流ノズルを有し、該流体噴流ノズルは該溶融スラグ放出ノズルに近接していて溶融スラグに対して流体アトマイジング法を適用し得る位置に配置されているか、又は溶融スラグ放出ノズル、流体噴流ノズル及び該溶融スラグ放出ノズルと該流体噴流ノズルとの間に設けられた流体噴流のための低熱伝導率の整流ガイドを有し、該流体噴流ノズルは該整流ガイドに近接していて溶融スラグに対して流体アトマイジング法を適用し得る位置に配置されている。
【0012】
本発明の高粘性スラグの繊維化及び微粒化装置においては、アトマイザの流体噴流ノズルはガス(例えばアルゴン)噴流ノズルであっても、液体(例えば水)噴流ノズルであってもよい。即ち、アトマイザはガスアトマイザであっても、水アトマイザであってもよい。しかし、一般的にはガスアトマイザを用いる。
【0013】
溶融スラグ放出ノズル及びガス噴流ノズルを有するアトマイザにおいて、該ガス噴流ノズルが該溶融スラグ放出ノズルに近接していない場合には、即ち、溶融スラグ放出ノズルとガス噴流ノズルとが少し離れている場合には、ガス噴流ノズル出口近辺に広い空間が生じ、その噴流ガスが溶融スラグ放出ノズルの出口に到達するまでに乱れが生じるので、高粘性スラグの繊維化及び/又は微粒化は不十分又は困難となる。
【実施例】
【0014】
以下に実施例及び比較例に基づいて本発明を具体的に説明する。以下の実施例及び比較例においては、加圧二段噴流床石炭ガス化炉から得られた高粘性石炭ガス化スラグを用いた。そのスラグの組成は後記の通りであった。
【0015】
溶融室(坩堝)内で高周波誘導加熱により加熱して所定の温度の溶融状態に保持した溶融スラグをアトマイザにおいて溶融スラグ放出ノズルから放出し、ガス噴流ノズルからアルゴンガスを噴流させた。固化したスラグをアルゴンガスと共に回収室に導き、サイクロンセパレーターによりアルゴンガスを換気設備へ送り、製品物質を分離回収した。
【0016】
上記のアトマイザにおいて溶融スラグ放出ノズルとガス噴流ノズルとの位置関係は図1に示す通りであった。即ち、中央部の溶融スラグ放出ノズルから放出される溶融スラグ噴流に、その周囲18箇所のガス噴流ノズル(内径0.7mm)からアルゴンガス噴流を吹き付けた。図1(a)は溶融スラグ放出ノズル及びガス噴流ノズルを有し、該溶融スラグ放出ノズルと該ガス噴流ノズルとが少し離れている場合であり、図1(b)は溶融スラグ放出ノズル及びガス噴流ノズルを有し、該ガス噴流ノズルが該溶融スラグ放出ノズルに近接していて溶融スラグに対して流体アトマイジング法を適用し得る位置に配置されている場合であり、図1(c)は溶融スラグ放出ノズル、ガス噴流ノズル及び該溶融スラグ放出ノズルと該ガス噴流ノズルとの間に設けられた流体噴流のためのSSA−S製整流ガイド(断熱材)を有し、該ガス噴流ノズルは該整流ガイドに近接していて溶融スラグに対して流体アトマイジング法を適用し得る位置に配置されている場合である。図1において、1は溶融スラグ放出ノズル、2はガス噴流ノズル、3は噴流ガス供給口、4は整流ガイド、5は溶融室、6は溶融スラグ、7は高周波誘導コイル、8は開閉プラグ、9は断熱材である。
【0017】
なお、ここで「ガス噴流ノズルは‥‥‥溶融スラグに対して流体アトマイジング法を適用し得る位置に配置されている」とは、ガス噴流ノズルからの噴流ガスが溶融スラグ放出ノズル又は整流ガイドには衝突せず、ガス噴流ノズルからの噴流ガスが溶融スラグ放出ノズルの出口に到達するまでに乱れが生じることがない配置を意味している。
【0018】
本実施例及び比較例においては、スラグの溶融温度及びガス噴流ノズルからのガス噴流圧力を変化させた。スラグの溶融温度は溶融室内にSSA−S製保護管を介して装入したB型熱電対の指示値を記録し、ガス噴流圧力はガスノズルヘッダー内に設置した圧力計の指示値を記録した。
【0019】
それぞれのガス噴流ノズルに対して、アルゴンガスの代わりに水を噴流させ、18箇所のガス噴流ノズルからの水噴流が溶融スラグ放出ノズルの中心軸上で焦点を結ぶことを確認した。
【0020】
高粘性石炭ガス化溶融スラグをノズルから放出させる場合には、ノズル内の閉塞を回避するためにノズル内径を大きくする必要がある。ガス噴流ノズルからのガス噴流の焦点への溶融スラグ吸引力が小さい場合には、溶融スラグの繊維化及び/又は微粒化性能が低下するのみならず、偏芯によりノズル内壁に溶融スラグが固着して閉塞の原因となる場合がある。そこで、アルゴンガス噴流圧力を変化させて、溶融スラグ吸引力を調べた。
【0021】
図2に、図1に示した(a)、(b)及び(c)の各アトマイザ毎に、アルゴンガス噴流圧力に対する溶融スラグ吸引力を示す。溶融スラグ放出ノズルとガス噴流ノズルとが離れている図1(a)のアトマイザの場合には、大きな溶融スラグ吸引力は得られず、むしろ溶融スラグを溶融室側に噴き上げる結果が得られた。これは、ガス噴流ノズル出口近辺に広い空間があり、その噴流ガスが溶融スラグ放出ノズルの出口に到達するまでに乱れが生じるためと考えられる。
【0022】
そこで、図1(b)に示すアトマイザのように、ガス噴流ノズルを溶融スラグ放出ノズルに近接させてガス噴流ノズルから溶融スラグ放出ノズルまでの距離を短くし且つ溶融スラグに対して流体アトマイジング法を適用し得る位置に配置した。その結果、アルゴンガス噴流圧力の増大に応じて溶融スラグ吸引力が単調に増加し、約4MPa以上のアルゴンガス噴流圧力では大きな溶融スラグ吸引力が得られることが判明した。
【0023】
更に、図1(c)に示すアトマイザのように、溶融スラグ放出ノズル、ガス噴流ノズル及び該溶融スラグ放出ノズルと該ガス噴流ノズルとの間の隙間に設けられた流体噴流のためのSSA−S製整流ガイド(断熱材)を有し、先端形状を噴流ガスの流れに沿うように整形し、該ガス噴流ノズルを該整流ガイドに近接していて溶融スラグに対して流体アトマイジング法を適用し得る位置に配置した。その結果、広範囲のアルゴンガス噴流圧力で大きな溶融スラグ吸引力が得られた。
【0024】
次に、図1(c)に示すアトマイザを用い、スラグの溶融温度及びガス噴流ノズルからのガス噴流圧力を変化させた場合の生成スラグの形態を調べた。その結果は第1表に示す通りであった。
【0025】
【表1】

【0026】
スラグの溶融温度1500℃、ガス噴流圧力5MPaの条件下で得られた繊維形態のスラグの写真を図3に示す。図3(a)は外観写真であり、図3(b)はキーエンス社のリアルサーフェス顕微鏡による顕微鏡写真である。この繊維形態のスラグは、図3(a)の外観写真から明らかなように、白色の綿状であり、図3(b)の顕微鏡写真から明らかなように、平均線径が約9μmのものである。図3(b)の顕微鏡写真にはいくつかの球状物質が観察されるが、これらは繊維状の溶融スラグが固化するまでにその先端が表面張力により球状化したものと考えられる。この繊維形態のスラグを炭化タングステンボールミルを用いて粉砕したところ、平均粒径が約7μmの球形微粉末が得られた。
【0027】
スラグの溶融温度1600℃、ガス噴流圧力5MPaの条件下で得られた粉末形態のスラグのSEM写真を図4に示す。球形度の高い粉末が得られていることが分かる。
【0028】
上記の第1表のデータから、スラグの溶融温度が高温でガス噴流圧力が比較的低い場合に得られるスラグの形態は粉末であることが分かる。スラグの溶融温度が1600℃でガス噴流圧力が8MPaである場合には、繊維中に粉末が多く見受けられたので「繊維/粉末」と表記した。
【0029】
スラグの溶融温度が1600℃の場合には、ガス噴流圧力が上昇すると微粒化が促進されて更に粒径の小さい粉末となることが予期されたが、実際には繊維の形態となった。この理由としては、ガス噴流圧力が上昇することにより、溶融スラグ放出ノズルの冷却効果が高まり、溶融スラグ温度が低下して粘性が著しく増大したため繊維の形態となったと推察される。よって、粉末形態のスラグを得るためには粘性が小さくなるように十分高温で出湯する必要がある。
【0030】
上記の実験で用いた加圧二段噴流床石炭ガス化炉から得られた高粘性石炭ガス化スラグについて強熱減量を測定した後蛍光X線分析を実施した。また、スラグの溶融温度1600℃、ガス噴流圧力5MPaの条件下で得られた粉末形態のスラグについても蛍光X線分析を実施した。検量線はセメント協会の検量線作成用標準試料により作成した。その結果は第2表に示す通りであった(単位は質量%)。
【0031】
【表2】

【0032】
粉末形態のスラグではFe23含有量が原料スラグ中の含有量よりも低下している。出湯後にガス噴流を開始するため、密度の大きいFe23はその多くが出湯初期に排出され、回収できなかったものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】アトマイザにおける溶融スラグ放出ノズルとガス噴流ノズルとの位置関係を示す概略断面図である。
【図2】アルゴンガス噴流圧力に対する溶融スラグ吸引力を示すグラフである。
【図3】スラグの溶融温度1500℃、ガス噴流圧力5MPaの条件下で得られた繊維形態のスラグの写真である。
【図4】スラグの溶融温度1600℃、ガス噴流圧力5MPaの条件下で得られた粉末形態のスラグのSEM写真である。
【符号の説明】
【0034】
1 溶融スラグ放出ノズル
2 ガス噴流ノズル
3 噴流ガス供給口
4 整流ガイド
5 溶融室
6 溶融スラグ
7 高周波誘導コイル
8 開閉プラグ
9 断熱材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高粘性スラグを溶融させるか又は溶融状態に維持するための溶融室、該溶融室からの溶融スラグに対して流体アトマイジング法を適用して繊維化及び/又は微粒化するためのアトマイザ、及び繊維化及び/又は微粒化したスラグを回収するための回収室を有する高粘性スラグの繊維化及び微粒化装置において、該アトマイザは溶融スラグ放出ノズル及び流体噴流ノズルを有し、該流体噴流ノズルは該溶融スラグ放出ノズルに近接していて溶融スラグに対して流体アトマイジング法を適用し得る位置に配置されていることを特徴とする高粘性スラグの繊維化及び微粒化装置。
【請求項2】
高粘性スラグを溶融させるか又は溶融状態に維持するための溶融室、該溶融室からの溶融スラグに対して流体アトマイジング法を適用して繊維化及び/又は微粒化するためのアトマイザ、及び繊維化及び/又は微粒化したスラグを回収するための回収室を有する高粘性スラグの繊維化及び微粒化装置において、該アトマイザは溶融スラグ放出ノズル、流体噴流ノズル及び該溶融スラグ放出ノズルと該流体噴流ノズルとの間に設けられた流体噴流のための低熱伝導率の整流ガイドを有し、該流体噴流ノズルは該整流ガイドに近接していて溶融スラグに対して流体アトマイジング法を適用し得る位置に配置されていることを特徴とする高粘性スラグの繊維化及び微粒化装置。
【請求項3】
高粘性スラグが高粘性石炭ガス化スラグである請求項1又は2記載の高粘性スラグの繊維化及び微粒化装置。
【請求項4】
流体噴流ノズルがガス噴流ノズルである請求項1、2又は3記載の高粘性スラグの繊維化及び微粒化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−124253(P2006−124253A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−316724(P2004−316724)
【出願日】平成16年10月29日(2004.10.29)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】