説明

高精細パターン形成用凸版、電子回路パターンの製造方法及び有機EL素子の製造方法並びに板状感光性樹脂積層体

【課題】金属基材のような反射率の高い基材を用いた凸版であっても、良好なエッジ検出ができる版材が得られ、さらには欠陥検査機も併用できることで、安定的かつ高精度の印刷用刷版の管理を行うことを可能とする高精細パターン形成用凸版を提供する。
【解決手段】印刷用凸版100の樹脂層により形成される凸部パターン101と凸部パターン101を支持する金属製の基材105との間に、少なくとも400nmから800nmの波長領域の光を乱反射する層とそれに積層させ104の端部及び端面が印刷用凸版100の端部及び端面から外方に露出しないように覆う光透過層103と表面調整剤が付与されている耐油、耐水、あるいは耐溶剤性を持つ層102とが順次積層されている層構造を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
高精細パターンを形成するための印刷用凸版、およびそのための板状感光性樹脂積層体、ならびにそれを用いた電子回路パターンや有機EL素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高精細加工技術を用いた電子デバイス開発が急速な進化を遂げている。このような電子デバイスは、次世代のエレクトロニクス分野、バイオテクノロジー分野、オプトロニクス分野などの発展へ貢献することが期待される。
【0003】
上述した電子デバイスの1つとして、有機EL素子がある。有機EL素子は、二つの対向する電極の間に有機発光材料からなる発光層を形成し、発光層に電流を流すことで発光させるものであるが、効率良く発光させるには発光層の膜厚が重要であり、100nm程度の薄膜にする必要がある。さらに、これをディスプレイ化するには高精細にパターニングする必要がある。
【0004】
有機発光材料には、低分子材料と高分子材料があり、一般に低分子材料は抵抗加熱蒸着法等により薄膜形成し、このときに微細パターンのマスクを用いてパターニングするが、この方法では基板が大型化すればするほどパターニング精度が出にくいという問題がある。そのため、基板が大型となるディスプレイに用いる有機発光材料としては、低分子材料は不向きである。
【0005】
そこで、最近では有機発光材料に高分子材料を用い、有機発光材料を溶剤に溶かして塗工液にし、これをウェットコーティング法で薄膜形成する方法が試みられるようになってきている。薄膜形成するためのウェットコーティング法としては、スピンコート法、バーコート法、突出コート法、ディップコート法等があるが、高精細にパターニングしたりRGBの3色に塗り分けしたりするためには、これらのウェットコーティング法では難しく、塗り分けパターニングを得意とする印刷法による薄膜形成が最も有効であると考えられる。
【0006】
さらに各種印刷法の中でも、有機ELディスプレイでは、基板としてガラス基板を用いることが多いため、グラビア印刷法等のように金属製の印刷版等の硬い版を用いる方法は不向きであり、弾性を有するゴム版を用いたオフセット印刷法や、ゴムやその他の樹脂を主成分とした感光性樹脂版を用いる凸版印刷法が好適である。実際にこれらの印刷法の試みとして、オフセット印刷による方法(特許文献1)、凸版印刷による方法(特許文献2)などが提唱されている。
【0007】
ところで、一般的に電子デバイスの回路パターンは、大きいものは数mm、小さなものになると数ナノメートルの高精細さに至る。
【0008】
例えば、有機ELディスプレイの場合、近年、携帯電話のメインディスプレイ用途として主流となりつつある対角2インチ、320画素×240画素(QVGA)では、一つの画素サイズは120μm、一色あたりの表示部幅は20〜40μm程度の高精細なパターン形成が要求される。
【0009】
薄膜トランジスタ(TFT)を用いた電子回路を有する基板(TFT基板)上に、正孔
輸送層、発光層、電子輸送層、陰極層などを順次形成し有機ELディスプレイを構成すると、アクティブマトリックス型と呼ばれる高画質な有機ELディスプレイとなる。なお、ここで用いられるTFT回路も数μm程度の高精細な回路パターンから形成される。
【0010】
例えば有機ELディスプレイに好適な高精細パターンを形成しようとする場合、回路パターンに要求されるトータルピッチ精度やライン幅精度といったパターン精度は、±5%以内程度を目標とするのが一般的であり、絶対値としては0.1μmから2μm程度の精度が要求される。
【0011】
通常の電子回路パターンに属する高精細パターンを管理する場合、一般的にエッジ検出法と呼ばれる手法により測長を行う。この方法は、反射、落射、透過といった様々な光源を用い、対象物をCCDカメラ等の画像入力機器により取得した画像データをデジタル画像へ変換し、コントラストの差によりパターンの端部(エッジ)を認識することにより、精度が高く、また測定者による個人差の生じにくい管理を行うことが可能にするものである。
【0012】
一方、広告や雑誌などの印刷物を印刷する場合、刷版のパターン精度は形成するパターンにより大きく異なるが、±10%以上であり、絶対値として10μmから100μm程度であることが多い。
【0013】
これらの印刷物に使用される刷版のパターン精度の確認は、肉眼によるものや顕微鏡を通し目視にて実施される場合が多いが、このような方法の場合、測定者による個人差が生じることが多い。しかしながら、目的とする印刷物の精度からは、この方法での刷版管理で充分であった。
【0014】
一方、有機ELディスプレイなどの高精細パターンの形成が要求される場合の印刷用刷版では、要求される精度は前述の通り0.1μmから2μm程度であるため、顕微鏡を用いて目視にて観察、測長するだけでは充分な測定精度を得ることができない。
【0015】
そこで、エッジ検出法等により高精度測定をする必要がある。特に寸法安定性を目的として刷版の基材として金属板を用いた場合、金属板で生じる測長光の乱反射の影響により、版の凸部の正確なエッジを検出することができず、仕上がり後の版における版パターンの正確なライン幅の定量的な評価が不可能であった。
【0016】
そこで、金属板による測長光の乱反射を抑えるために、基材と凸部形成層との間に光反射抑制層を設けるということも検討されている(特許文献4)。ところが、特許文献4の方式の場合、エッジ検出は容易となるものの、凸パターンの頭頂部および側面が黒色に着色しているため、凸パターンでの表面でコントラストに差が無いことで凸パターン頭頂部に存在する凹凸や異物付着を検査する欠陥検査機を利用した版検査が困難である。
【0017】
また、前記特許文献の版構成では黒色染料を添加する事により基材との接着性が低下し、印圧をかけ続けた状態での連続印刷性に対し密着性が低いことによる問題や、黒色染料が印刷中に被印刷基板に欠落した場合、電子回路や素子、ディスプレイに欠陥を引き起こすという問題があった。また、視認性に関しては、層内において無機金属を混入することで改善が確認された。しかし、樹脂自体の成膜性という新たな問題点として樹脂層の乾燥ムラによる模様が確認された。乾燥ムラがあることで、パターン面以外の部分で欠陥検査が下地のムラ模様を検出し、本来のパターン面の検査で大幅に処理時間がかかることと、下地の模様を検出してしまうことで正確にパターン検査が出来ないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2001−93668号公報
【特許文献2】特開2001−155858号公報
【特許文献3】特開2004−70231号公報
【特許文献4】特開2008−229947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は上述の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、金属基材のような反射率の高い基材を用いた凸版であっても、良好なエッジ検出ができる版材が得られ、さらには欠陥検査機も併用できることで、印刷用刷版の品質管理が容易となる凸版を提供することである。また、印刷中に版からの添加物の欠落を防ぐ事によって、欠陥のない電子回路や有機EL素子を得ることができるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の請求項1の発明は、支持基材の上に、少なくとも400nmから800nmの波長領域の光を乱反射する光乱反射層と、前記光乱反射層の端部を含む全面を覆うように被覆する光透過層と、耐油性、耐水性あるいは耐溶剤性のいずれかの特性を有する保護層と、樹脂製の凸部と、がこの順に積層され、前記保護層は表面調整剤を含有することを特徴とする高精細パターン形成用凸版としたものである。
【0021】
本発明の請求項2の発明は、支持基材の上に、少なくとも400nmから800nmの波長領域の光を乱反射する光乱反射層と、前記光乱反射層の対向する二辺の端部を含む全面を覆うように被覆する光透過層と、耐油性、耐水性あるいは耐溶剤性のいずれかの特性を有する保護層と、樹脂製の凸部と、がこの順に積層され、前記保護層は表面調整剤を含有することを特徴とする高精細パターン形成用凸版としたものである。
【0022】
本発明の請求項3の発明は、前記保護層中の表面調整剤の含有率が0.1〜3重量%の範囲であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の高精細パターン形成用凸版としたものである。
【0023】
本発明の請求項4の発明は、前記表面調整剤がシリコン系樹脂を含有することを特徴とする請求項3に記載の高精細パターン形成用凸版としたものである。
【0024】
本発明の請求項5の発明は、前記光乱反射層が顔料を含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の高精細パターン形成用凸版としたものである。
【0025】
本発明の請求項6の発明は、前記顔料の粒径が0.2〜0.8μmの範囲であることを特徴とする請求項5に記載の高精細パターン形成用凸版としたものである。
【0026】
本発明の請求項7の発明は、前記顔料は酸化チタンを含有することを特徴とする請求項5または請求項6に記載の高精細パターン形成用凸版としたものである。
【0027】
本発明の請求項8の発明は、前記保護層と光透過層との接着力が15N/cm以上であることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の高精細パターン形成用凸版としたものである。
【0028】
本発明の請求項9の発明は、前記光乱反射層と基材との接着力が10N/cm以上であることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の高精細パターン形成用凸版としたものである。
【0029】
本発明の請求項10の発明は、前記光透過層と基材との接着力が15N/cm以上であることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の高精細パターン形成用凸版としたものである。
【0030】
本発明の請求項11の発明は、前記基材が金属により形成されていることを特徴とする請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の高精細パターン形成用凸版としたものである。
【0031】
本発明の請求項12の発明は、前記樹脂製の凹部が少なくとも感光性樹脂を含むことを特徴とする請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の高精細パターン形成用凸版としたものである。
【0032】
本発明の請求項13の発明は、請求項1から12いずれか1項に記載の高精細パターン形成用凸版を用いた印刷により電子回路パターンを作製することを特徴とする電子回路パターンの製造方法としたものである。
【0033】
本発明の請求項14の発明は、請求項1から12いずれか1項に記載の高精細パターン形成用凸版を用いた印刷により有機EL素子を作製することを特徴とする有機EL素子の製造方法としたものである。
【0034】
本発明の請求項15の発明は、少なくとも、支持基材、光乱反射層、光透過層、表面調整剤を含有する保護層、感光性樹脂層がこの順に積層されていることを特徴とする板状感光性樹脂積層体としたものである。
【発明の効果】
【0035】
本発明によって、金属基材のような反射率の高い基材を用いた凸版であっても、良好なエッジ検出と版欠陥検査ができる版材が得られ、安定的かつ高精度の印刷用刷版の品質管理を行うことが可能となった。さらには光反射層を覆うことで、印刷中に版中の添加物の欠落を防止して印刷物への混入を無くしたことにより欠陥のない電子回路や有機EL素子を得ることができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施の形態における印刷用凸版の例を示す断面図である。
【図2】本発明の実施の形態における凸部パターンを成型する板状感光性樹脂積層体の成形方法を示す概略図である。
【図3】本発明の実施の形態における感光性樹脂版の製版工程を示す断面図である。
【図4】本発明の実施の形態におけるフレキソ印刷機の例を示す概略図である。
【図5】本発明の実施の形態における有機EL素子の例を示す概略図である。
【図6】本発明の実施の形態における有機EL素子のアクティブマトリックス方式の基板例を示す概略図である。
【図7】本発明の実施例に係る表面添加剤を塗工した版を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。なお、本発明はこれに限るものではない。
【0038】
図1に本発明に係る高精細パターン形成用凸版の一例の断面図を示した。図1に示すように、本実施形態の高精細パターン形成用凸版100(以下、単に印刷用凸版100と記す。)は、基材105上には光乱反射層104が形成され、さらに、光乱反射層104の
端部及び端面が印刷用凸版100の端部から外部に露出しないように、光乱反射層104が光透過層103によって覆われている。光透過層103上には層102が積層され、この層102上に、樹脂層により形成される凸部パターン101が複数形成されている。なお、本実施形態では、各凸部パターン101は隣り合う凸部パターン101と間隔をおいて配置され、各凸部パターン101が他の凸部パターン101から独立している。しかし、凸部パターン101は隣接する凸部パターン101と連続してつながるように形成されていてもよい。
【0039】
上述したように、本実施形態では光乱反射層104の端部及び端面は、印刷用凸版100の外側に露出しないように、印刷用凸版100の端部よりも内側に配置される。光乱反射層104の端部及び端面が印刷用凸版100の端部においてその外側に露出すると、印刷用凸版100の使用時にその端部から露出する光乱反射層104の端部及び端面部分から光乱反射層104の一部が欠落し、被印刷物に付着し欠陥を引きこすので好ましくない。原則的には、光乱反射層104は印刷用凸版100の端部よりも内側に位置していれば問題はないが、念のため、光乱反射層104が印刷用凸版100の外部に露出しないように、光乱反射層104を覆う光透過層103を設ける。なお、光透過層103は耐油、耐水、耐溶剤性を持つ層102を兼ねてもよい。
【0040】
尚、光乱反射層104の端部とくに端面の被覆は、印刷用凸版100を製造する工法にも依存するが、ある特定方向については完全に光透過層103で覆いつくすことが難しい場合もある。凸版は、一般に長尺形状であれば、光乱反射層もその内側に長尺形状に形成されるが、光乱反射層の対向する二辺の端部だけを覆うようにしか全面を光透過層103で被覆することができない場合がある。具体的には、長尺が延びる方向と垂直な方向の二つの端面では、図1から図3の断面視の図で示すように光乱反射層104が露出せざるを得ないことが工法上あるということである。
【0041】
本実施形態の印刷用凸版100に用いられる版材において、層102、光透過層103、および、光乱反射層104を介して凸部パターン101が形成される基材105としては、印刷に対する機械的強度を有する材料であれば良く、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリアミド、ポリエーテルスルホン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリビニルアルコールなどの公知の合成樹脂、鉄や銅、アルミニウムといった公知の金属、またはそれらの積層体を用いることができる。
【0042】
特に本実施形態の印刷用凸版100を構成する基材105としては、高い寸法安定性を保持するものが望ましい。従って、基材105として用いられる材料としては金属がより好適である。基材105として用いられる金属としては鉄、アルミニウム、銅、亜鉛、ニッケル、チタン、クロム、金、銀やそれらの合金、積層体などが挙げられるが、特に、加工性、経済性から鉄を主成分とするスチール基材やアルミ基材を好適に用いることができる。
【0043】
印刷用凸版100の凸部パターン101の材料に用いる樹脂の一成分となるポリマーは、ニトリルゴム、シリコーンゴム、イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、アクリロニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、ウレタンゴムなどのゴムの他に、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリエーテルスルホン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリビニルアルコールなどの合成樹脂やそれらの共重合体、セルロースなどの天然高分子などから一種類以上を選択することができるが、有機発光材料などといった塗工液を塗布する場合、有機溶剤に対する耐溶剤性の観点から、ポリアミドやフッ素系エラストマーやポリ四フッ化エチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ六フッ化ビニリデンやそれらの共重合体といった樹脂が好ましい。
【0044】
また、ポリエーテルアミド、ポリエーテルエステルアミド、三級窒素含有ポリアミド、アンモニウム塩型三級窒素原子含有ポリアミド、アミド結合を1つ以上有するアミド化合物と有機ジイソシアネート化合物の付加重合体、ポリビニルアルコール、ポリウレタン、酢酸セルロースコハク酸エステル、部分ケン化ポリ酢酸ビニル、カチオン型ピペラジン含有ポリアミドやこれらの誘導体といった水溶性溶剤に可溶なものを少なくとも一種類以上含有することによっても耐溶剤性を付与することができ、さらにはアルコールや水を用いた現像が可能となるため、これらの内から一つ以上を選択し、凸部パターン101の材料に用いる樹脂の一成分となるポリマーとして用いることも望ましい。そのなかでも三級窒素原子含有ポリアミドおよびアンモニウム塩型三級窒素原子含有ポリアミドが好ましい。
【0045】
本実施形態の凸部パターン101に用いられる感光性樹脂層は、上記樹脂の他に架橋剤(エチレン性不飽和化合物ともいう)、光開始剤組成物、重合禁止剤を含んでいる。さらに他の添加剤、例えば熱重合防止剤、染料、顔料又は酸化防止剤を含んでも良い。
【0046】
好適に用いられる架橋剤(エチレン性不飽和化合物)としては、ジペンタエリスリトール、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、フタル酸、のエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAやビスフェノールFのジグリシジルエーテルアクリル酸付加物、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートのような多価グリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸の付加反応物、アジピン酸のような多価カルボン酸とグリシジル(メタ)アクリレートとの反応付加物、プロピレンジアミンのような多価アミンとグリシジル(メタ)アクリレートの付加反応物など、多価不飽和化合物などが挙げられるが、これらに限定されるものでなく、また、これらの化合物を2種類以上混合して使用することも出来る。
【0047】
本実施形態の凸部パターン101の感光性樹脂層で用いられる光開始剤組成物の例としては、ベンゾフェノン類、ベンゾイン類、アセトフェノン類、ベンジル類、ベンゾインアルキルエーテル類、ベンジルアルキルケタール類、アントラキノン類、チオキサントン類などが挙げられる。具体的には、ベンゾフェノン、クロロベンゾフェノン、ベンゾイン、アセトフェノン、ベンジル、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール、ベンジルジイソプロピルケタール、アントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−メチルアントラキノン、2−アリルアントラキノン、2−クロロアントラキノン、チオキサントン、2−クロロチオキサントンなどが挙げられる。
【0048】
本実施形態の凸部パターン101の感光性樹脂層において、重合禁止剤は、凸部パターン101のエッジを鋭角にするために用いる。この重合禁止剤としては、市販されているもの用いることができる。例えば、ベンゾフェノン類、ベンゾトリアゾール類、シアノアクリレート類が挙げられる。具体的には、p−ベンゾキノン、オキシベンゾン、4−tert−ブチル−4−メトキシ−ベンゾイルメタン、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、4−ドデシロキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノン、4−ベンジロキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ベンゾフェノンジメトキシ、1,4−ビス(4−ベンゾイル−3−ヒドロキシフェノキシ)−ブタンなどが
挙げられるが、その中でもベンゾフェノン類が好ましい。
【0049】
光乱反射層104としては、測定装置の一般的な観察光である波長領域が400nmから800nm付近の光に対して光拡散させるものであればよい。乱反射後の光は吸収スペクトルにより深青色、深緑色、深赤色、深橙色などの様々な色を呈することが考えられるが、白色である事が望ましい。光乱反射層104の材料としては酸化亜鉛、酸化チタン、酸化ジルコニウムなどが用いられる。中でも、酸化チタンは隠蔽性と白色度に優れている為より好ましい。主に白色顔料の場合、隠蔽力は光の散乱と同じと考えられ、最適な酸化チタンの粒径は下記の式より算出される。
D=2λ/{π(n1 −n2 )}・・・(1)
但し、D:粒子径 λ:光の波長 n1 :顔料の屈折率、n2 :樹脂の屈折率。
ここで、酸化チタンの屈折率をn1 =2.5〜2.7、樹脂の屈折率n2 を=1.5〜1.6、光の波長λを400〜800nmとすると、酸化チタンの最適な粒径は0・2〜0.8μmとなる。したがって、酸化チタン及び樹脂の屈折率n1 ,n2 や光の波長λが上述したような範囲である場合には、0.2〜0.8μmの範囲の粒径の酸化チタンを使用する事がより望ましい。しかし、前述した顔料でもよいが、式(1)に準じて、算出した粒径にする必要がある。
【0050】
さらに、光乱反射層104、光透過層103は耐油・耐水・耐溶剤性を持つ層102や感光性樹脂層(凸部パターン101を構成する層)と基材105を強固に接着させる必要があるため、これらの層103,104には、可溶なポリエステルを多価イソシアネートで硬化させたポリエステルウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤などを用いるのがよい。その中でもポリエステルウレタン系接着剤は双方の接着に優れるために好ましく、ポリエステルウレタン系接着剤の中でも特にポリエステルとイソシアヌレート型多価イソシアネートからなる接着剤が望ましい。
【0051】
本実施形態ではポリエステルウレタン系接着剤に酸化チタンを添加したものを光乱反射層104、酸化チタンを添加していないものを光透過層103として用いているが、特に限定はされず、光乱反射層104と基材105との接着力が10N/cm以上、光透過層103と基材105との接着力が15N/cm以上あればよい。この値未満であると、印刷中やハンドリング中に基材105と層103、104が剥離ないしは欠落し、異物となるため好ましくない。
【0052】
さらに本発明の凸版の端部及び端面から外方に露出しないように覆う層が層内の表面調整剤が付与されている層102には前記樹脂中に0.1%〜3%の表面調整剤を添加することが望ましく、表面調整剤としては、代表的なアクリル系、ビニル系、シリコン系、フッ素系とあるが、本発明では使用した樹脂とのマッチングからシリコン系が良好な結果を示したが、これに限定されるものではない。光透過層103で用いている樹脂と同等樹脂に添加するのが好ましい。これは密着性の低下を防ぐ形態を取るのが好ましく、多積層である場合、これより下層部の樹脂が異なることで力が加わり、本積層部が剥れやすくなることを防ぐ。あるいは前記樹脂に重合開始剤や重合性モノマー用いて、光重合又は熱重合により重合性モノマーを架橋させ接着性を持たせることもできる。この重合性モノマーとしては、ジペンタエリスリトール、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ビスフェノールAやビスフェノールFのジグリシジルエーテルアクリル酸付加物、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートのような多価グリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸の付加反応物、アジピン酸のような多価カルボン酸とグリシジル(メタ)アクリレートとの反応付加物、プロピレンジアミンのような多価アミンとグリシジル(メタ)アクリレートの付加反応物など、多価不飽和化合物などが挙げられるがこれらに限定されるものでなはない。層102として用いる耐溶剤層はできるだけ平坦であることが望ましい。凹凸、気泡等が存在すると欠陥検査時に樹脂凸部の欠陥以外に凹凸、気泡等も検出してしまい好ましくない為である。添加率が0.1%未満の場合、表面に乾燥ムラが見られ、凸凹な表面になり、3%より多いと樹脂内で凝集物が確認され、その箇所では検出・検査はできず、高精度の版管理はできなかった。また耐油または耐水、耐溶剤層と前記光透過層との接着力が15N/cm以上であることが好ましく、15N/cm未満の場合、印刷中やハンドリング中に基材103と層102が剥離ないしは欠落し、異物となるため好ましくない。
【0053】
本実施形態における感光性樹脂層による凸部パターン101は、ポジ型感光性樹脂を用いたフォトリソグラフィー法、ネガ型感光性樹脂を用いたフォトリソグラフィー法、射出成型、凸版印刷法、凹版印刷法、平版印刷法、孔版印刷法、レーザーアブレーション法等の種々のパターン成型法を用いることができるが、パターンの高精細さの観点から、感光性樹脂を用いたフォトリソグラフィー法が望ましく、また、要求精度の凸版を形成可能なネガ型感光性樹脂を用いたフォトリソグラフィー法が最も望ましい。
【0054】
感光性樹脂を用いたフォトリソグラフィー法を凸部パターン101の形成法として適用する場合、基材105、光乱反射層104、光透過層103、表面調整剤が添加してある耐油または耐水、耐溶剤層102、凸部パターン101を構成する感光性樹脂層が順次積層されている板状感光性樹脂積層体から、印刷用凸版100の凸部パターン101を形成することが最も望ましい。感光性樹脂層の成型方法は、射出成型法、突出成型法、ラミネート法、バーコート法、スリットコート法、カンマコート法などの公知の方法を用いることができる。
【0055】
図2に本実施形態における凸部パターン101を構成する板状感光性樹脂積層体の成型方法を示した。
【0056】
まず、図2(a)〜(c)に示すように、基材105にバーコート法、スリットコート法、スプレーコート法、フレキソ印刷、グラビア印刷などのウェットコーティング法により光乱反射層104、光透過層103、表面調整剤が添加してある耐油または耐水、耐溶剤層102を順次形成し、積層体106とする。
【0057】
次に、図2(d)に示すように、積層体106に感光性樹脂層107を射出成型法、突出成型法、ラミネート法、バーコート法、スリットコート法、カンマコート法などの公知の方法で成膜し、板状感光性樹脂積層体108を得る。
【0058】
次に、板状感光性樹脂積層体108に対し、フォトリソグラフィー法により凸部パターン101を形成する場合において、本実施形態の印刷用凸版100の一例として水現像タイプのネガ型の感光性樹脂を板状感光性樹脂積層体108の材料に用いた場合を説明する。
【0059】
図3に印刷用凸版100における凸部パターン101の製版工程の断面図を示した。まず、図3(a)に示すように、板状感光性樹脂積層体108を用意する。
【0060】
次に、図3(b)に示すように、フォトマスク303を感光性樹脂上に配置する。フォトマスク303は、透光性を有するガラス304上に例えばクロム薄膜からなるパターンを形成して構成されており、クロム薄膜が形成された遮光部301とクロム薄膜が形成されずガラス304が露出した透光部302とを有している。このフォトマスク303では、遮光部301において光が遮られ、透光部302において光が透過する。
【0061】
次に、図3(c)に示すように、フォトマスク303を介して、紫外光に代表される活性光線305を板状感光性樹脂積層体108に照射し、感光性樹脂層107をフォトマスク303のパターンに応じて露光する。このとき、フォトマスク303の透光部302を通過して活性光線が照射された感光性樹脂層107の部分が硬化されるが、照射量が多過ぎても少な過ぎても所望のパターニングが得られない。
【0062】
次に、フォトマスク303を板状感光性樹脂積層体108から外し、現像をおこなう。この現像により、先の露光によって光が照射されなかった未硬化部分を除去し、印刷用凸版100とする。このとき、未硬化部分が水により溶解、除去可能な水現像タイプの感光性樹脂層107を用いた場合には、現像液として水が用いられる。
【0063】
次に、本実施形態の製版工程により凸部パターン101が形成された印刷用凸版100を用いた回路パターンの製造装置の一例として、有機EL素子の製造装置について説明する。なお、本発明による印刷用凸版を用いた製造装置で作製できる回路パターンは、有機EL素子用に限るものではない。
【0064】
図4に本発明の製造装置の一実施形態に係るフレキソ印刷機の一例の概略図を示した。ステージ407には被印刷基板406が固定されており、本実施形態の製版工程によって凸部パターン101が形成された印刷用凸版100は版胴405に固定され、印刷用凸版100はインキ供給体であるアニロックスロール408と接しており、アニロックスロール408はインキ補充装置401とインキチャンバー402とドクター403を備えている。
【0065】
まず、インキ補充装置401からインキチャンバー402を介してアニロックスロール408へインキを補充し、アニロックスロール408に供給されたインキのうち余分なインキは、ドクター403により除去される。インキ補充装置401には、滴下型のインキ補充装置、ファウンテンロール、スリットコータ、ダイコータ、キャップコータなどのコータやそれらを組み合わせたものなどを用いることもできる。ドクター403にはドクターブレードの他にドクターロールといった公知の物を用いることもできる。また、アニロックスロール408は、クロム製やセラミックス製のものを用いることができる。また、印刷用凸版100へのインキ供給体としてシリンダー状のアニロックスロール408ではなく、平版のアニロックス版を用いることも可能である。平版のアニロックス版は、例えば、図4の被印刷基板406の位置に配置され、インキ補充装置によりアニロックス版全面にインキを補充した後、版胴405を回転させることにより被印刷基板へのインキの供給をおこなうことができる。
【0066】
印刷用凸版100へのインキ供給体であるアニロックスロール408の表面にドクター403によって均一に保持されたインキは、版胴405に取り付けられた印刷用凸版100の凸部パターン101に転移、供給される。そして、版胴405の回転に合わせて印刷用凸版100の凸部パターン101と被印刷基板406は接しながら相対的に移動し、インキはステージ407上にある被印刷基板406の所定位置に転移し被印刷基板406にインキパターンを形成する。被印刷基板406にインキパターンが設けられた後は、必要に応じてオーブンなどによる乾燥工程を設けることができる。
【0067】
なお、印刷用凸版100上にあるインキを被印刷基板406に印刷する方式は、被印刷基板406が固定されたステージ407を版胴405の回転にあわせて移動させる方式であってもよいし、被印刷基板405を静止させたまま、図4上部の版胴405、印刷用凸版100、アニロックスロール408、インキ補充装置401からなる印刷ユニットを版胴405の回転に合わせ移動させる方式であってもよい。また、本実施形態のフレキソ印
刷機(凸版印刷装置)で用いる印刷用凸版100は、凸部パターン101の形成後に版胴405上に取り付けるものに限られない。例えば、版胴405上に直接樹脂層を形成してこの直接形成した樹脂層を直接製版することで、凸部パターン101を形成した印刷用凸版100であってもよい。
【0068】
なお、図4は1枚毎に被印刷基板にインキパターンを形成する枚葉式の凸版印刷装置であるが、被印刷基板405がウェブ状で巻き取り可能である場合には、ロール・ツゥー・ロール方式の凸版印刷装置を用いることもできる。ロール・ツゥー・ロール方式の凸版印刷装置を用いた場合には連続してインキパターンを形成することが可能となり、製造コストを低くすることが可能となる。
【0069】
次に、図4の凸版印刷装置を用いて製造することができる印刷物の一例として、有機EL素子について説明する。なお、図4の凸版印刷装置を用いて製造することができる印刷物はこれに限るものではない。TFT等の汎用的な電子回路パターンの製造にも図4の凸版印刷装置を用いることができる。図5に有機EL素子の断面図を示した。有機EL素子の駆動方法としては、パッシブマトリックス方式とアクティブマトリックス方式があるが、図4の凸版印刷装置はパッシブマトリックス方式の有機EL素子、アクティブマトリックス方式の有機EL素子のどちらを製造する際にも適用可能である。
【0070】
パッシブマトリックス方式とはストライプ状の電極を直交させるように対向させ、その交点を発光させる方式であるのに対し、アクティブマトリックス方式は画素毎にトランジスタを形成した、いわゆる薄膜トランジスタ(TFT)基板を用いることにより、画素毎に独立して発光する方式である。
【0071】
図5に示すように、本実施形態の有機EL素子は、基板501の上に、陽極としてストライプ状に第一電極502を有している。隔壁505は第一電極502間に設けられ、第一電極502端部のバリ等よるショートを防ぐことを目的として第一電極502端部を覆うことがましい。
【0072】
そして、本実施形態の有機EL素子は、第一電極502上であって隔壁505で区画された領域(発光領域、画素部)に、有機発光層及び発光補助層からなる有機EL層を有している。電極間に挟まれる有機EL層は、有機発光層単独から構成されたものであってもよいし、有機発光層と発光補助層との積層構造から構成されたものでもよい。発光補助層としては正孔輸送層、正孔注入層、電子輸送層、電子注入層、電荷発生層が挙げられる。図5では発光補助層である正孔輸送層503と有機発光層(508、509、510)との積層構造からなる構成を示している。第一電極502上に正孔輸送層503が設けられ、正孔輸送層503上に赤色(R)有機発光層508、緑色(G)有機発光層509、青色(B)有機発光層510がそれぞれ設けられている。
【0073】
次に、有機発光層(508、509、510)上に陽極である第一電極502と対向するように陰極として第二電極504が配置される。パッシブマトリックス方式の場合、ストライプ状を有する第一電極502と直交する形で第二電極504はストライプ状に設けられる。アクティブマトリックス方式の場合、第二電極504は、有機EL素子全面に形成される。更に、第一電極502、有機発光層(508、509、510)、発光補助層(正孔輸送層503)、第二電極504への環境中の水分、酸素の侵入を防ぐために、有効画素全面に対してガラスキャップ506等による封止体が設けられ、接着剤507を介して基板501と貼りあわされる。
【0074】
本実施形態の有機EL素子は、少なくとも基板501と、当該基板501に支持されたパターン状の第一電極502と、有機発光層(508、509、510)と、第二電極5
04を具備する。本発明の有機EL素子は、図5とは逆に、第一電極502を陰極、第二電極504を陽極とする構造であっても良い。また、ガラスキャップ506等の封止体の代わりに、有機光媒体層や電極を外部の酸素や水分の浸入から保護するために、パッシベーション層や外部応力から保護する保護層、あるいはその両方の機能を備えた封止基材を備えてもよい。
【0075】
次に、有機EL素子の製造方法を説明する。本発明にかかる基板としては、絶縁性を有する基板であればいかなる基板も使用することができる。この基板側から光を取り出すボトムエミッション方式の有機EL素子とする場合には、基板として透明なものを使用する必要がある。
【0076】
例えば、基板としてはガラス基板や石英基板が使用できる。また、ポリプロピレン、ポリエーテルサルフォン、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、ポリアクリレート、ポリアミド、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のプラスチックフィルムやシートであっても良い。これら、プラスチックフィルムやシートに、有機発光媒体層への水分の侵入を防ぐことを目的として、金属酸化物薄膜、金属弗化物薄膜、金属窒化物薄膜、金属酸窒化膜薄膜、あるいは高分子樹脂膜を積層したものを基板として利用してもよい。
【0077】
また、これらの基板は、あらかじめ加熱処理を行うことにより、基板内部や表面に吸着した水分を極力低減することがより好ましい。また、基板上に積層される材料に応じて、密着性を向上させるために、超音波洗浄処理、コロナ放電処理、プラズマ処理、UVオゾン処理などの表面処理を施してから使用することが好ましい。
【0078】
また、これらに薄膜トランジスタ(TFT)を形成して、アクティブマトリックス方式の有機EL素子用の基板とすることが可能である。本発明のアクティブマトリックス方式の基板の一例の説明断面図を図6に示す。本発明の有機EL素子の基板601とする場合には、TFT613上に、平坦化層610が形成してあるとともに、平坦化層610上に有機EL素子の下部電極(第一電極602)が設けられており、かつ、TFT613と下部電極(第一電極602)とが平坦化層610に設けたコンタクトホール611を介して電気接続してあることが好ましい。このように構成することにより、TFT613と、有機EL素子との間で、優れた電気絶縁性を得ることができる。
【0079】
TFT613や、その上方に構成される有機EL素子は支持体604で支持される。支持体604としては機械的強度や、寸法安定性に優れていることが好ましく、具体的には先に基板601として述べた材料を用いることができる。
【0080】
支持体604上に設けるTFT613は、公知の薄膜トランジスタを用いることができる。具体的には、主として、ソース/ドレイン領域及びチャネル領域が形成される活性層605、ゲート絶縁膜606及びゲート電極607から構成される薄膜トランジスタ(TFT)613が挙げられる。薄膜トランジスタ(TFT)613の構造としては、特に限定されるものではなく、例えば、スタガ型、逆スタガ型、トップゲート型、コプレーナ型等が挙げられる。
【0081】
活性層605は特に限定されるものではなく、例えば、非晶質シリコン、多結晶シリコン、微結晶シリコン、セレン化カドミウム等の無機半導体材料又はチオフェンオリゴマー、ポリ(p−フェリレンビニレン)等の有機半導体材料により形成することができる。これらの活性層は、例えば、アモルファスシリコンをプラズマCVD法により積層し、イオンドーピングする方法、SiHガスを用いてLPCVD法によりアモルファスシリコンを形成し、固相成長法によりアモルファスシリコンを結晶化してポリシリコンを得た後、イオン打ち込み法によりイオンドーピングする方法、Si ガスを用いてLPCVD法により、また、SiH ガスを用いてPECVD法によりアモルファスシリコンを形成し、エキシマレーザー等のレーザーによりアニールし、アモルファスシリコンを結晶化してポリシリコンを得た後、イオンドーピング法によりイオンドーピングする方法(低温プロセス)、減圧CVD法又はLPCVD法によりポリシリコンを積層し、1000℃以上で熱酸化してゲート絶縁膜を形成し、その上にn+ ポリシリコンのゲート電極607を形成し、その後、イオン打ち込み法によりイオンドーピングする方法(高温プロセス)等が挙げられる。
【0082】
ゲート絶縁膜606としては、通常、ゲート絶縁膜として使用されているものを用いることができ、例えば、PECVD法、LPCVD法等により形成されたSiO2、ポリシリコン膜を熱酸化して得られるSiO等を用いることができる。
【0083】
ゲート電極607としては、通常、ゲート電極として使用されているものを用いることができ、例えば、アルミ、銅等の金属、チタン、タンタル、タングステン等の高融点金属、ポリシリコン、高融点金属のシリサイド、ポリサイド等が挙げられる。
【0084】
TFT613は、シングルゲート構造、ダブルゲート構造、ゲート電極が3つ以上のマルチゲート構造であってもよい。また、LDD構造、オフセット構造を有していてもよい。さらに、1つの画素中に2つ以上の薄膜トランジスタが配置されていてもよい。
【0085】
有機EL素子によるディスプレイは、薄膜トランジスタ(TFT)613が有機EL素子のスイッチング素子として機能するように接続されている必要があり、薄膜トランジスタ(TFT)613のドレイン電極609と有機EL素子の画素電極(第一電極602)が電気的に接続されている。さらにトップエミッション構造をとるための画素電極(第一電極602)には、一般に光を反射する金属を用いる必要がある。
【0086】
TFT613とドレイン電極609と有機EL素子の画素電極(第一電極602)との接続は、平坦化膜610を貫通するコンタクトホール611内に形成された接続配線を介して行われる。
【0087】
平坦化膜610の材料についてはSiO、スピンオンガラス、SiN(Si)、TaO(Ta)等の無機材料、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、フォトレジスト材料、ブラックマトリックス材料等の有機材料等を用いることができる。これらの材料に合わせて、積層法はスピンコーティング、CVD、蒸着法等を選択できる。必要に応じて、平坦化層610として感光性樹脂を用いフォトリソグラフィーの手法により、あるいは一旦全面に平坦化層610を形成後、下層のTFT613に対応した位置にドライエッチング、ウェットエッチング等でコンタクトホール611を形成する。コンタクトホール611はその後導電性材料で埋めて平坦化層610上層に形成される画素電極(第一電極602)との導通を図る。平坦化層610の厚みは下層のTFT613、コンデンサ、配線等を覆うことができればよく、厚みは数μm、例えば3μm程度あればよい。
【0088】
基板上には第一電極602が設けられる。第一電極602を陽極とした場合、その材料としては、ITO(インジウムスズ複合酸化物)、IZO(インジウム亜鉛複合酸化物)、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、亜鉛アルミニウム複合酸化物等の金属複合酸化物や金、白金、クロムなどの金属材料を単層または積層したものをいずれも使用できる。第一電極602の形成方法は、材料に応じて、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、反応性蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法等の乾式成膜法を用いることができる。
【0089】
なお、低抵抗であること、溶剤耐性があること、また、ボトムミッション方式としたときには透明性が高いことなどからITOが好ましく使用できる。ITOはスパッタ法によりガラス基板上に形成され、フォトリソ法によりパターニングされて第一電極602となる。
【0090】
第一電極602を形成後、第一電極縁部を覆うようにして隔壁603が形成される。隔壁603は絶縁性を有する必要があり、感光性材料等を用いることができる。感光性材料としては、ポジ型であってもネガ型であってもよく、光ラジカル重合系、光カチオン重合系の光硬化性樹脂、あるいはアクリロニトリル成分を含有する共重合体、ポリビニルフェノール、ポリビニルアルコール、ノボラック樹脂、ポリイミド樹脂、およびシアノエチルプルラン等を用いることができる。また、隔壁603の形成材料として、SiO2 、TiO2 等を用いることもできる。
【0091】
隔壁603の形成材料が感光性材料の場合、形成材料溶液をスリットコート法やスピンコート法により全面コーティングしたあと、露光、現像といったフォトリソ法によりパターニングがおこなわれる。スピンコート法の場合、隔壁603の高さは、スピンコートするときの回転数等の条件でコントロールできるが、1回のコーティングでは限界の高さがあり、それ以上高くするときは複数回スピンコートを繰り返す手法を用いる。
【0092】
感光性材料を用いてフォトリソ法により隔壁603を形成する場合、その形状は露光条件や現像条件により制御可能である。例えば、ネガ型の感光性樹脂を塗布し、露光・現像した後、ポストベークして、隔壁603を得るときに、隔壁603の端部の形状を順テーパー形状としたい場合には、この現像条件である現像液の種類、濃度、温度、あるいは現像時間を制御すればよい。現像条件を穏やかなものとすれば、隔壁603の端部は順テーパー形状となり、現像条件を過酷にすれば、隔壁603の端部は逆テーパー形状となる。
【0093】
また、隔壁603の形成材料がSiO、TiO の場合、スパッタリング法、CVD法といった乾式成膜法で形成可能である。この場合、隔壁603のパターニングはマスクやフォトリソ法により行うことができる。
【0094】
次に、有機発光層及び発光補助層からなる有機EL層を形成する。電極間に挟まれる有機EL層としては、有機発光層単独から構成されたものでもよいし、有機発光層と正孔輸送層、正孔注入層、電子輸送層、電子注入層、電荷発生層といった発光を補助するための発光補助層との積層構造としてもよい。なお、正孔輸送層、正孔注入層、電子輸送層、電子注入層、電荷発生層は必要に応じて適宜選択される。
【0095】
そして、本発明は有機発光層や正孔輸送層、正孔注入層、電子輸送層、電子注入層、電荷発生層といった発光補助層からなる有機EL層のうち少なくとも1層を、有機EL層材料を溶媒に溶解、または分散させたインキを用い、基材上に樹脂からなる凸部パターンを有する樹脂凸版を印刷版とした凸版印刷法により前記第一電極602の上方に印刷して形成する際に適用することができる。以降、有機発光材料を溶媒に溶解、または分散させた有機発光インキを用いた場合について示す。
【0096】
有機発光層は電流を流すことにより発光する層である。有機発光層の形成する有機発光材料としては、9,10−ジアリールアントラセン誘導体、ピレン、コロネン、ペリレン、ルブレン、1,1,4,4−テトラフェニルブタジエン、トリス(8−キノラート)アルミニウム錯体、トリス(4−メチル−8−キノラート)アルミニウム錯体、ビス(8−キノラート)亜鉛錯体、トリス(4−メチル−5−トリフルオロメチル−8−キノラート)アルミニウム錯体、トリス(4−メチル−5−シアノ−8−キノラート)アルミニウム錯体、ビス(2−メチル−5−トリフルオロメチル−8−キノリノラート)[4−(4−シアノフェニル)フェノラート]アルミニウム錯体、ビス(2−メチル−5−シアノー8−キノリノラート)[4−(4−シアノフェニル)フェノラート]アルミニウム錯体、トリス(8−キノリノラート)スカンジウム錯体、ビス[8−(パラ−トシル)アミノキノリン]亜鉛錯体及びカドミウム錯体、1,2,3,4−テトラフェニルシクロペンタジエン、ポリ−2,5−ジヘプチルオキシ−パラ−フェニレンビニレンなどの低分子系発光材料が使用できる。
【0097】
また、クマリン系蛍光体、ペリレン系蛍光体、ピラン系蛍光体、アンスロン系蛍光体、ポリフィリン系蛍光体、キナクリドン系蛍光体、N,N’−ジアルキル置換キナクリドン系蛍光体、ナフタルイミド系蛍光体、N,N’−ジアリール置換ピロロピロール系蛍光体等、Ir錯体等の燐光性発光体などの低分子系発光材料を、高分子中に分散させたものが使用できる。高分子としてはポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルカルバゾール等が使用できる。
また、ポリ(2−デシルオキシ−1,4−フェニレン)(DO−PPP)やポリ[2,5−ビス−[2−(N,N,N−トリエチルアンモニウム)エトキシ]−1,4−フェニル−アルト−1,4−フェニルレン]ジブロマイドなどのPPP誘導体、ポリ[2−(2’−エチルヘキシルオキシ)−5−メトキシ−1,4−フェニレンビニレン](MEHPPV)、ポリ[5−メトキシ−(2−プロパノキシサルフォニド)−1,4−フェニレンビニレン](MPS−PPV)、ポリ[2,5−ビス−(ヘキシルオキシ)−1,4−フェニレン−(1−シアノビニレン)](CN−PPV)、ポリ(9,9−ジオクチルフルオレン)(PDAF)、ポリスピロフルオレンなどの高分子発光材料であってもよい。さらに、PPV前駆体、PPP前駆体などの高分子前駆体が挙げられる。また、その他既存の発光材料を用いることもできる。
【0098】
正孔輸送層を形成する正孔輸送材料としては、銅フタロシアニン、テトラ(t−ブチル)銅フタロシアニン等の金属フタロシアニン類及び無金属フタロシアニン類、キナクリドン化合物、1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)シクロヘキサン、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン、N,N’−ジ(1−ナフチル)−N,N’−ジフェニル−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン等の芳香族アミン系低分子正孔注入輸送材料や、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリビニルカルバゾール、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との混合物などの高分子正孔輸送材料、チオフェンオリゴマー材料、その他既存の正孔輸送材料の中から選ぶことができる。
【0099】
また、正孔輸送材料として無機材料を用いる場合、無機材料としてはクロム(Cr)、タングステン(W)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)などの酸化物、窒化物、酸窒化物を真空蒸着法を用いて形成することができる。無機物からなる正孔輸送層を設けることで、熱安定性や耐性に優れたより安定した有機EL素子を得ることができる。
【0100】
また、電子輸送層を形成する電子輸送材料としては、2−(4−ビフェニル)−5−(4−テトラブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール、2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−オキサジアゾール、オキサジアゾール誘導体やビス(10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリノラート)ベリリウム錯体、トリアゾール化合物等を用いることができる。
【0101】
有機発光材料を溶解または分散する溶媒としては、トルエン、キシレン、アセトン、ヘ
キサン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、酢酸ブチル、2−メチル−(t−ブチル)ベンゼン、1,2,3,4−テトラメチルベンゼン、ペンチルベンゼン、1,3,5−トリエチルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、1,3,5−トリ−イソプロピルベンゼン等を単独又は混合して用いることができる。また、有機発光インキには、必要に応じて、界面活性剤、酸化防止剤、粘度調整剤、紫外線吸収剤等が添加されてもよい。
【0102】
正孔輸送材料、電子輸送材料を溶解または分散させる溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、酢酸ブチル、水等の単独またはこれらの混合溶剤などが挙げられる。特に、正孔輸送材料をインキ化する場合には水またはアルコール類が好適である。
【0103】
有機発光層や発光補助層は湿式成膜法により形成される。なお、これらの層が積層構造から構成される場合には、その各層の全てを湿式成膜法により形成する必要はない。湿式成膜法としては、スピンコート法、ダイコート法、ディップコート法、吐出コート法、プレコート法、ロールコート法、バーコート法等の塗布法と、凸版印刷法、インクジェット印刷法、オフセット印刷法、グラビア印刷法等の印刷法が挙げられる。特に、RGB三色の有機発光層をパターン形成する場合、印刷法によって画素部に選択的に形成することができ、カラー表示のできる有機EL素子を製造することが可能となる。有機発光媒体層の膜厚は、単層又は積層により形成する場合においても1000nm以下であり、好ましくは50nm〜150nmである。
【0104】
繰り返しになるが、本発明は有機発光インキを用い凸版印刷法により有機発光層形成する場合だけでなく、正孔輸送インキや電子輸送インキを用い凸版印刷法により正孔輸送層や電子輸送層といった発光補助層を形成する場合にも使用することができる。
【0105】
次に、第二電極を形成する。第二電極を陰極とした場合その材料としては電子注入効率の高い物質を用いる。具体的にはMg、Al、Yb等の金属単体を用いたり、発光媒体と接する界面にLiや酸化Li、LiF等の化合物を1nm程度挟んで、安定性・導電性の高いAlやCuを積層して用いる。または電子注入効率と安定性を両立させるため、低仕事関数なLi、Mg、Ca、Sr、La、Ce、Er、Eu、Sc、Y、Yb等の金属1種以上と、安定なAg、Al、Cu等の金属元素との合金系が用いられる。具体的にはMgAg、AlLi,CuLi等の合金が使用できる。また、トップエミッション方式の有機EL素子とする場合は、陰極は透明性を有する必要があり、例えば、これら金属とITO等の透明導電層の組み合わせによる透明化が可能となる。
【0106】
第二電極の形成方法は、材料に応じて、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、反応性蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法等の乾式成膜法を用いることができる。また、第二電極をパターンとする必要がある場合には、マスク等によりパターニングすることができる。第二電極の厚さは10nm〜1000nmが好ましい。なお、本発明では第一の電極を陰極、第二の電極を陽極とすることも可能である。
【0107】
有機EL素子としては電極間に有機発光層を挟み、電流を流すことで発光させることが可能であるが、有機発光材料や発光補助層形成材料、電極形成材料の一部は大気中の水分や酸素によって容易に劣化してしまうため通常は外部と遮断するための封止体を設ける。
【0108】
封止体は、例えば第一電極602、有機発光層、発光補助層、第二電極が形成された基板(支持体604)に対して、凹部を有するガラスキャップ、金属キャップを用いて、第一電極602、有機発光媒体層、第二電極上空に凹部があたるようにして、その周辺部に
ついてキャップと基板(支持体604)を接着剤を介して接着させることにより封止がおこなわれる。
【0109】
また、封止体は、例えば第一電極602、有機発光層、発光補助層、第二電極が形成された基板(支持体604)に対して、封止材上に樹脂層を設け、該樹脂層により封止材と基板を貼りあわせることによりおこなうことも可能である。
【0110】
このとき封止材としては、水分や酸素の透過性が低い基材である必要がある。また、材料の一例として、アルミナ、窒化ケイ素、窒化ホウ素等のセラミックス、無アルカリガラス、アルカリガラス等のガラス、石英、アルミニウムやステンレスなどの金属箔、耐湿性フィルムなどを挙げることができる。耐湿性フィルムの例として、プラスチック基材の両面にSiOxをCVD法で形成したフィルムや、透過性の小さいフィルムと吸水性のあるフィルムまたは吸水剤を塗布した重合体フィルムなどがあり、耐湿性フィルムの水蒸気透過率は、10−6 g/m2 /day以下であることが好ましい。
【0111】
樹脂層としては、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、シリコーン樹脂などからなる光硬化型接着性樹脂、熱硬化型接着性樹脂、2液硬化型接着性樹脂や、エチレンエチルアクリレート(EEA)ポリマー等のアクリル系樹脂、エチレンビニルアセテート(EVA)等のビニル系樹脂、ポリアミド、合成ゴム等の熱可塑性樹脂や、ポリエチレンやポリプロピレンの酸変性物などの熱可塑性接着性樹脂を挙げることができる。樹脂層を封止材の上に形成する方法の一例として、溶剤溶液法、押出ラミ法、溶融・ホットメルト法、カレンダー法、ノズル塗布法、スクリーン印刷法、真空ラミネート法、熱ロールラミネート法などを挙げることができる。必要に応じて吸湿性や吸酸素性を有する材料を含有させることもできる。封止材上に形成する樹脂層の厚みは、封止する有機EL素子の大きさや形状により任意に決定されるが、400μm〜500μm程度が望ましい。
【0112】
第一電極602、有機発光層、発光補助層、第二電極が形成された基板(支持体604)と封止体の貼り合わせは封止室でおこなわれる。封止体を、封止材と樹脂層の2層構造とし、樹脂層に熱可塑性樹脂を使用した場合は、加熱したロールで圧着のみ行うことが好ましい。熱硬化型接着樹脂を使用した場合は、加熱したロールで圧着した後、さらに硬化温度で加熱硬化を行うことが好ましい。光硬化性接着樹脂を使用した場合は、ロールで圧着した後、さらに光を照射することで硬化を行うことができる。なお、ここでは封止材上に樹脂層を形成したが、基板(支持体604)上に樹脂層を形成して封止材と貼りあわせることも可能である。
【0113】
封止体を用いて封止を行う前やその代わりに、例えばパッシベーション膜として、CVD法を用いて、窒化珪素膜を150nm成膜するなど、無機薄膜による封止体とすることも可能であり、また、これらを組み合わせることも可能である。
【実施例】
【0114】
以下に、実施例について示す。
(被印刷基板の作製)
被印刷基板として、支持体上に設けられたスイッチング素子として機能する薄膜トランジスタと、その上方に形成された平坦化層と、平坦化層上にコンタクトホールによって前記薄膜トランジスタと導通が図られている画素電極とを備えたアクティブマトリクス基板を用いた。
【0115】
この基板上に設けられている画素電極の端部を被覆し画素を区画するような形状で隔壁を形成した。隔壁の形成は、日本ゼオン社製ポジレジストZWD6216−6をスピンコータにて基板全面に厚み2μmで形成した後、フォトリソグラフィー法によって隔壁を形成した。
【0116】
画素電極上にスピンコート法により正孔輸送層としてポリ−(3,4)−エチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸(PEDOT/PSS)1.5wt%水溶液を100nm膜厚で成膜した。さらにこの成膜されたPEDOT/PSS薄膜を減圧下100℃で1時間乾燥することで、被印刷基板を作製した。
【0117】
(有機発光層形成用インキの調製)
赤色、緑色、青色(RGB)の3色からなる以下の有機発光インキを調製した。赤色発光インク(R):ポリフルオレン系誘導体のトルエン1質量%溶液(住友化学社製赤色発光材料)緑色発光インク(G):ポリフルオレン系誘導体のトルエン1質量%溶液(住友化学社製緑色発光材料)青色発光インク(B):ポリフルオレン系誘導体のトルエン1質量%溶液(住友化学社製青色発光材料)。
【0118】
(光乱反射層のある樹脂版の作製)
〔支持体の製造〕
厚さ250μm幅330mmのクロムメッキ鋼板上に、ポリエステルウレタン系接着剤に0.3μmの酸化チタンを添加混合し、バーコーターを用いて均一に250mm幅となるように塗布し、直ちに130℃の熱風乾燥機の中に入れ、3分間乾燥し、膜厚約10μmの光乱反射層を有する積層体を得た。蛍光ランプ下で観察した所、外観は白色を呈していた。この時、JIS K6854−1に基づいて90°引張強度を測定したところ、90°引張強度は15N/cmであった。
【0119】
次に、光透過層としてポリエステルウレタン系接着剤を光乱反射層が露出しないように300mm幅で塗工し同様の処理を行った。このとき基材と光透過層の90°引張強度は31N/cmであった。続いてポリアミドを主成分とし、架橋性を有するモノマーとしてトリメチロールプロパントリグリシジルエーテルアクリレート、重合開始剤としてベンジルジメチルケタールを用い、有機溶剤を用いて溶液化し、ロールコーターを用いて30μmとなるように塗布し80℃熱風乾燥機にて3分間乾燥し、高圧水銀灯を用いて3000mJ/cm照射し、表面調整剤を付与する層(耐溶剤層)とした。なお、表面調整剤を付与する場合は、1.5%のフッ素系またはシリコン系樹脂を前記ポリアミドを主成分とする樹脂層内に付与した。
【0120】
親水性のポリマーとしてポリアミド、架橋性を有するモノマーとしてトリメチロールプロパントリグリシジルエーテルアクリレート、トリメチロールプロパン、重合開始剤としてベンジルジメチルケタールを用いた感光性樹脂を、40μmとなるように溶融塗工し、凸版のもととなる感光性樹脂材を形成した。
【0121】
この感光性樹脂材に対し、有機エレクトロルミネッセンス表示素子の画素領域に対応して上記被印刷基板の画素幅である25μmのストライプ状の開口と125μmの遮光部が形成された合成石英基材のクロムマスクを樹脂凸版パターンの原版とし、このマスクをプロキシミティ露光装置にセットしたものを用いて樹脂凸版を露光した。プロキシミティギャップは100μmで、405nmにおける露光量は400mJ/cmであった。露光の後、ライン搬送式スプレー現像機を用いて現像液である水を噴射し現像パターンを得た。現像後、熱風乾燥を行い、後露光後、樹脂凸版を得た。なお、有機ELディスプレイの作製のために、赤、青、緑の各色用に別途製版を行った。
【0122】
(エッジ検出精度の確認)
作製した光乱反射層を有する樹脂凸版の凸部ライン幅を株式会社ソキア製AMIC 1400KYにより測定した。エッジ検出法を用いた測定の結果、平均ライン幅24.8μm
±0.1μmとなり目標精度の±5%以下を充分下回る結果が得られた。なお、凸部ライン幅については、株式会社日立製作所製走査型電子顕微鏡S−4500によりクロスチェックを行い、測定データの信頼性を確認した。
【0123】
(版欠陥の確認)
版に生じた欠陥および付着した異物をパターン欠陥装置にて評価を行った。光乱反射層が無い箇所は金属光沢により測定は不可能であったが、本発明品では欠陥の確認が可能であった(図7(a))。しかしながら、これだけでは検出不能箇所が存在した。それは作成した版の中央部において、樹脂乾燥ムラ由来の模様が確認され、エッジ検出、版欠陥検査を行った際、この箇所ではエッジ検出・版欠陥検査はできず、高精度の版管理はできなかった。
【0124】
(有機EL素子の製造)
欠陥検査で欠陥が確認されなかった凸版を枚葉式の印刷機のシリンダーに固定した。これと上記の有機発光インキを用いて、被印刷基板に対し印刷を各色についておこなった。有機発光層は、赤色有機発光層、緑色有機発光層、青色有機発光層がストライプ状に並ぶように印刷した。各色について印刷をおこなった後、オーブン内にて130℃で1時間乾燥を行った。形成されたパターン各色の平均膜厚は102nmだった。乾燥の後、印刷により形成した有機発光層上にカルシウムを10nm成膜し、さらにその上に銀を300nm真空蒸着し、最後にガラスキャップを用い封止をおこない本発明の有機EL素子を作製した。この有機EL素子の発光状態を確認したところ、発光ムラなどの特異な異常が無いことを確認した。
【0125】
<比較例1>
(光乱反射層が露出している版の製作)
厚さ250μm幅330mmのクロムメッキ鋼板上に光乱反射層を330mm幅に塗工した以外は実施例1と同様の方法で凸版を作成し有機EL素子の製造まで行った。エッジ検出、版欠陥は問題なかったが、有機EL素子の発光状態を確認したところ、発光不良箇所などがみられ、その箇所のEDX分析を行った所、酸化チタンが検出された(表1参照)。
【0126】
【表1】

【0127】
<比較例2>
(光乱反射層のない樹脂版の製作)
光乱反射層を形成しない以外は、実施例1と同様の方法で凸版を作成し、エッジ検出、版欠陥検査の実施が不可能であったが、有機EL素子の製造まで行った。有機EL素子の発光状態を確認したところ、発光ムラや不良箇所などがみられた。発光ムラにあたる箇所の版パターンを顕微鏡で確認した所、パターンに異物・ヨレがあった。
【0128】
<比較例3>
(光乱反射層と基材との接着力が10N/cm以下の版の製作)
光乱反射層に含まれる酸化チタンを実施例1と比べ倍以上添加し、以下同様の方法で凸版を作成し有機EL素子の製造まで行った。このとき基材と光乱反射層の90°引張強度は7.0N/cmであった。有機EL素子の発光状態を確認したところ、発光不良箇所は特にみられなかったが、エッジ検出、版欠陥検査を行った際、酸化チタンが凝集している箇所があり、その箇所では検出・検査はできず、高精度の版管理はできなかった。
【0129】
<比較例4>
(耐油、耐水、あるいは耐溶剤性を持つ層に表面調整剤を付与する版の作成)
耐油、耐水、あるいは耐溶剤性を持つ層に表面調整剤を付与しない版の場合、乾燥性の不均一さから発生した乾燥ムラの模様が確認され(図7(a))、その箇所ではエッジ検出、版欠陥検査ができなかった。なお、表面調整剤の種類もフッ素系とシリコン系の2種類を試みたがシリコン系の方がより良かった(図7(b))。フッ素系は乾燥ムラが解消されること無く、不均一な膜形状になっていると考えられる(図7(c))。この表面調整剤の添加率は塗工する樹脂量に対し、0.1%未満であると乾燥ムラが発生し、3%より多いと樹脂内で凝集物が確認され、その箇所ではエッジ検出・版欠陥検査はできず、高精度の版管理はできなかった。
【0130】
以上から、シリコン系表面調整剤を添加することでエッジ検出・版欠陥検査が可能になった。
【符号の説明】
【0131】
100・・・印刷用凸版
101・・・凸部パターン
102・・・表面調整剤を付与する層(耐油、耐水、あるいは耐溶剤性を持つ層)
103・・・光透過層
104・・・光乱反射層
105・・・基材
106・・・積層体
107・・・感光性樹脂層
108・・・板状感光性樹脂積層体
301・・・遮光部
302・・・透光部
303・・・フォトマスク
304・・・ガラス
305・・・活性光線
401・・・インキ補充装置
402・・・インキチャンバー
403・・・ドクター
405・・・版胴
406・・・被印刷基板
407・・・ステージ
408・・・アニロックスロール
501・・・基板
502・・・第一電極
503・・・正孔輸送層
504・・・第二電極
505・・・隔壁
506・・・ガラスキャップ
507・・・接着剤
508・・・赤色有機発光層
509・・・緑色有機発光層
510・・・青色有機発光層
601・・・有機EL素子基板
602・・・第一電極
603・・・隔壁
604・・・支持体
605・・・活性層
606・・・ゲート絶縁膜
607・・・ゲート電極
609・・・ドレイン電極
610・・・平坦化層
611・・・コンタクトホール
613・・・TFT

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基材の上に、少なくとも400nmから800nmの波長領域の光を乱反射する光乱反射層と、前記光乱反射層の端部を含む全面を覆うように被覆する光透過層と、耐油性、耐水性あるいは耐溶剤性のいずれかの特性を有する保護層と、樹脂製の凸部と、がこの順に積層され、前記保護層は表面調整剤を含有することを特徴とする高精細パターン形成用凸版。
【請求項2】
支持基材の上に、少なくとも400nmから800nmの波長領域の光を乱反射する光乱反射層と、前記光乱反射層の対向する二辺の端部を含む全面を覆うように被覆する光透過層と、耐油性、耐水性あるいは耐溶剤性のいずれかの特性を有する保護層と、樹脂製の凸部と、がこの順に積層され、前記保護層は表面調整剤を含有することを特徴とする高精細パターン形成用凸版。
【請求項3】
前記保護層中の表面調整剤の含有率が0.1〜3重量%の範囲であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の高精細パターン形成用凸版。
【請求項4】
前記表面調整剤がシリコン系樹脂を含有することを特徴とする請求項3に記載の高精細パターン形成用凸版。
【請求項5】
前記光乱反射層が顔料を含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の高精細パターン形成用凸版。
【請求項6】
前記顔料の粒径が0.2〜0.8μmの範囲であることを特徴とする請求項5に記載の高精細パターン形成用凸版。
【請求項7】
前記顔料は酸化チタンを含有することを特徴とする請求項5または請求項6に記載の高精細パターン形成用凸版。
【請求項8】
前記保護層と光透過層との接着力が15N/cm以上であることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の高精細パターン形成用凸版。
【請求項9】
前記光乱反射層と基材との接着力が10N/cm以上であることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の高精細パターン形成用凸版。
【請求項10】
前記光透過層と基材との接着力が15N/cm以上であることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の高精細パターン形成用凸版。
【請求項11】
前記基材が金属により形成されていることを特徴とする請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の高精細パターン形成用凸版。
【請求項12】
前記樹脂製の凸部が少なくとも感光性樹脂を含むことを特徴とする請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の高精細パターン形成用凸版。
【請求項13】
請求項1から12いずれか1項に記載の高精細パターン形成用凸版を用いた印刷により電子回路パターンを作製することを特徴とする電子回路パターンの製造方法。
【請求項14】
請求項1から12いずれか1項に記載の高精細パターン形成用凸版を用いた印刷により有機EL素子を作製することを特徴とする有機EL素子の製造方法。
【請求項15】
少なくとも、支持基材、光乱反射層、光透過層、表面調整剤を含有する保護層、感光性樹脂層がこの順に積層されていることを特徴とする板状感光性樹脂積層体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−209040(P2012−209040A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−72144(P2011−72144)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】