高糖度ゼリー食品、その製造方法、及びそれらに用いられる凝固製剤
【課題】糖度が72〜90においても高いゼリー強度を有する高糖度ゼリー食品、その製造方法、及びそれらに用いられる凝固製剤を提供することを目的とする。
【解決手段】少なくともシクロデキストリンと寒天を水に直接溶解させてゲル化させた高糖度ゼリー食品であって、糖度が72〜90に調整されていることを特徴とする高糖度ゼリー食品である。また、少なくともシクロデキストリンと寒天を水に直接溶解し、糖度が72〜90になるように煮詰めた後、冷却することを特徴とする高糖度ゼリー食品の製造方法である。
【解決手段】少なくともシクロデキストリンと寒天を水に直接溶解させてゲル化させた高糖度ゼリー食品であって、糖度が72〜90に調整されていることを特徴とする高糖度ゼリー食品である。また、少なくともシクロデキストリンと寒天を水に直接溶解し、糖度が72〜90になるように煮詰めた後、冷却することを特徴とする高糖度ゼリー食品の製造方法である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖度が72〜90においても高いゼリー強度を有し、食感が優れた高糖度ゼリー食品、その製造方法、及びそれらに用いられる凝固製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ゼリー食品は、その爽やかな外観や食感から、デザートやお菓子として食されることが多く、消費者ニーズの多様化の進む現代においては、食感や甘さ(糖度)について種々検討されている(例えば、特許文献1)。特に、糖度が72〜90の高糖度ゼリー食品は、そのはごたえのある食感や甘味が好まれ、市場に多く流通している。これら高糖度ゼリー食品は、糖度が高いので、常温で流通が可能で、また長期間の保存が可能である。これら高糖度のゼリー食品を製造するゲル化剤として、一般的に寒天、ペクチン、ゼラチン、カラギナン、スターチ等が挙げられ、これらのゲル化剤を用いて製造されるゼリー食品はそれぞれが特徴をもっている。
【0003】
寒天は、みずみずしい食感を持ったさわやかなゼリー食品を作り、わが国においては、古くは錦玉などの和菓子から現在ではフレーバーを加えたキャンディータイプのものまで多くのものが親しまれている。寒天を使用したゼリー食品の特徴は、適度な粘りがありながら歯に付着することなく、食べ応えがあることである。現在は、ゼリー食品に添加する糖質のバリエーションも研究され、ノンシュガーのものやオリゴ糖など機能性の糖質を添加したものも上市されている。
【0004】
ペクチンは、耐酸性、及び耐熱性に優れており、パートドフリュイなどに代表される洋菓子のコンフィズリー菓子から、クッキーやパンなどのフィリングジャムとして、主にベーカリー分野で利用されている。しかし、ペクチンを用いたゼリー食品等は、その食感が固く、べとついて歯に付着するといった問題点がある。また、ペクチンを添加するに際して、酸度の高いものはプリセットと呼ばれる充填前にゲル化してくる現象がみられることがあり、ペクチンの種類の選択や、製造方法に多くの経験や熟練が必要となる。
【0005】
ゼラチンは、チューイーな食感をだすことができ、グミキャンディーなどに広く利用されている。しかし、ゼラチンを用いたゼリー食品等は、そのチューイーな食感が好まれる一方、弾力が強すぎて咀嚼が困難な場合もあり、また夏場に温度が高くなると溶け出してくるという問題点がある。近年では、ゼラチンの原料が動物性ということもあり、敬遠される傾向もある。
【0006】
カラギナンは、独自の食感をだすことができるので、近年、それを生かしてグミキャンディーに使用され始めている。しかし、カラギナンは溶解時の粘度が非常に高く、またゼリーを調整した後の凝固点が70〜90℃と非常に高温なため、溶解と同時にゲル化が起こる現象が見られる。このため、カラギナンを用いたゼリー食品は、特殊な製造装置を使用しなければ製造できないという問題点がある。
【0007】
スターチは、カラギナンと同様に溶解時の粘度が高く作業性が悪く、出来上がりの食感も重たくべたべたしたものになり、歯に付着するといった問題点がある。
【0008】
このような様々なゲル化剤の特徴がある中で、みずみずしい爽やかな食感のゼリー食品を得るためのゲル化剤として、寒天を用いることが考えられる。
【0009】
【特許文献1】特開2002−65179号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、寒天ゼリー食品を常温で長期流通させるためには、水分活性を十分に下げる必要があり、ゼリーの糖度を上げなければならない。ところが、寒天を使用した糖度が高いゼリー食品を通常の方法(寒天を溶解後、糖を加えて糖度を上げる)にて製造しようとすると、十分な強度を有するゲルを作らず、固まりが弱い水飴状になり、食感も悪く、べたべたと歯に付着する寒天ゼリー食品しか得ることができない。これは、以下のような理由によると考えられている。寒天がゲルを形成するのは、構成成分であるアガロース分子が分子間結合により2重螺旋構造をとり、それらがさらに会合して3次元の立体構造をとることによる。しかし、糖度が高いと、これらの分子間結合が糖質により阻害されて立体構造がとれない。このため、固まりが弱くなると考えられている。
【0011】
このような問題を解決するために、高糖度の寒天ゼリー食品は、以下のように製造されている。寒天ゼリー液の糖度を低く調整し、型に流して充填、冷却させた後に放置し、十分固化させ、いったんアガロース分子が十分な3次元の立体構造を形成した低糖度の寒天ゼリーを得る。その後、この寒天ゼリーをカットし、オブラート巻き(もしくはオブ粉まぶし、グラニュー糖まぶし)、低温乾燥により水分を蒸発させて糖度を上げ、アガロースの3次元の立体構造を維持した高糖度の寒天ゼリー食品を得ている。これらの作業は機械化が困難で、手作業にて行っており、製造に日数と人手が多くかかってしまう問題がある。また、手作業のために衛生面の問題もある。その上、十分に糖度を上げ、水分活性を下げる事ができないために品質保持の日数に制限が生じる。ペクチン、ゼラチン、カラギナン、スターチなど寒天以外の凝固剤は、糖度72〜90において、通常の方法(凝固剤を溶解後、糖を加えて糖度を上げる)でも十分な強度のゲルを作るため乾燥工程を必要としないという特徴がある。
【0012】
さらに、寒天ゼリー食品の連続生産を考えた場合、スターチモールドを使用した成型方法が考えられるが、糖度の低い寒天ゼリー液をスターチモールドに充填しようとすると、寒天ゼリーがゲル化する際にスターチを巻き込んでゲル化してしまい、また、その寒天ゼリーからの離水で、スターチモールドが固結してしまうという問題もある。これら問題を解決するために、寒天ゼリー液の糖度を上げて調整し水分量を減らしてスターチモールドに充填しても、寒天ゼリーがゲル化せず水飴状のべたついたゼリー食品になってしまう。
【0013】
そこで、本発明は、糖度が72〜90においても高いゼリー強度を有する高糖度ゼリー食品、その製造方法、及びそれらに用いられる凝固製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
以上の目的を達成するために、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、シクロデキストリンと寒天を直接水に溶解し相互作用させることによって、従来よりも糖度を高くしてもゼリー強度を高く維持し優れた食感にできることを見出した。すなわち、本発明は、少なくともシクロデキストリンと寒天を水に直接溶解させてゲル化させた高糖度ゼリー食品であって、糖度が72〜90に調整されていることを特徴とする。また、少なくともシクロデキストリンと寒天を水に直接溶解し、糖度が72〜90になるように煮詰めた後、冷却することを特徴とする前記高糖度ゼリー食品の製造方法である。またさらに、シシクロデキストリン及び寒天を含むことを特徴とする前記高糖度ゼリー食品を製造するための凝固製剤である。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明によれば、糖度が72〜90においても高いゼリー強度を有する高糖度ゼリー食品、その製造方法、及びそれらに用いられる凝固製剤を提供することすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明に係る高糖度ゼリー食品に用いられるシクロデキストリン(cyclodextrin)は、高糖度のコンフェクショナリーにおける含糖成分として用いられるとともに、ゼリー食品用凝固増強剤としても用いられ、重合度6のα−シクロデキストリン(シクロヘキサアミロース)、重合度7のβ−シクロデキストリン(シクロヘプタアミロース)、及び重合度8のγ−シクロデキストリン(シクロオクタアミロース)のうち少なくとも1以上が好ましく、α−シクロデキストリンがさらに好ましい。シクロデキストリンは、一般に市販されているものを用いることができる。本発明に係るゼリー食品は、シクロデキストリンを含むので、糖度を高くしてもゼリー強度が高く、食感が優れ、離水も生じない。この作用機序は明らかにはされていないが、寒天のゲル化に関しては以下のように推察される。シクロデキストリンは、グルコースが環状に結合した構造を持ち、内側が疎水性、外側が親水性の性質を持つ糖質である。この構造がゼリー食品に用いられる糖質との結合あるいは結晶化その他の相互作用をもたらし、寒天分子が立体的な構造を取ることを可能にし、糖度が高い状態においてもゼリー強度を高く維持できると思われる。
【0017】
本発明に係る高糖度ゼリー食品に用いられるシクロデキストリンは、ゲル化剤としての寒天との相互作用をもたらすために、水に含ませる前に、例えば油脂、乳化物、香気成分、難水溶性成分など一般的にサイクロデキストリンによって包接される他の成分を包接させるなどを行わずに、水に直接溶解させる。さらに、水に溶解されたシクロデキストリンも前記した他の成分を包接させることはない。この際に、寒天や他の糖成分と混合させた状態で水に添加して溶解させても良いが、寒天との相互作用を阻害させるような状態でシクロデキストリンを水に溶解させることはない。このシクロデキストリンは、高糖度ゼリー食品中に好ましくは1〜20重量%、さらに好ましくは2〜13重量%含有する。1重量%未満であると、ゼリー強度増強の効果が弱く、20重量%を超えるとシクロデキストリンの白色結晶が析出し、また粘性が高くなり、溶解時の作業性が悪くなる。
【0018】
本発明に係る高糖度ゼリー食品は、シクロデキストリンを含んでいるため、糖度を高くしてもゼリー強度を高くすることができる。ゼリー強度は、好ましくは150〜3000g/cm2、さらに好ましくは200〜2500g/cm2、特に好ましくは300〜2500g/cm2である。一般的には、100g/cm2未満であると、べたべたして食した時に歯に付着するなど食感が悪い。また、3000g/cm2を超えると、硬すぎて食感が悪い。ゼリー強度は、寒天やシクロデキストリンの添加量により調整することができ、例えば寒天の添加量を増やしたり、シクロデキストリンの添加量を変えることによってゼリー強度を増加させることができる。
【0019】
本発明に係るゼリー食品は、糖度が72〜90、好ましくは76〜86、さらに好ましくは80〜86、特に好ましくは82〜86である。糖度は糖質を添加することにより調整することができる。糖質には、シクロデキストリンも含まれ、コンフェクショナリーにおける含糖成分としての役割も果たす。糖質は、シクロデキストリンの他に、例えば、グラニュー糖、水あめ、果糖、ブドウ糖、種々のオリゴ糖、還元糖、及びデキストリンなどを挙げることができる。
【0020】
本発明に係る高糖度ゼリー食品は、一般にゼリー食品に添加されるクエン酸、乳酸、リンゴ酸、及び酒石酸等の酸、水、果汁、香料、及び機能性素材等を含んでいてもよい。
【0021】
本発明に係る高糖度ゼリー食品は、少なくともゲル化剤としての寒天とシクロデキストリンを含む糖質とを水に直接添加して溶解し、糖度が72〜90になるように煮詰めた後に、冷却することによって本発明に係る高糖度ゼリー食品を得ることができる。冷却は、室温において半日以上冷却することが好ましい。従来は、糖度を低くしてゲル化させていたので、得られた寒天ゼリーをカット等して乾燥させなければ糖度を高くすることができなかったが、本発明に係る高糖度ゼリー食品の製造方法においては、そのような煩雑な工程を設ける必要がなく、簡単に高糖度寒天ゼリーを得ることができる。
【実施例】
【0022】
実施例1乃至8
次に、本発明に係るゼリー食品の実施例1乃至8として、表1及び表2の処方(重量%)にてゼリー食品を得た。具体的には、水に寒天(伊那食品工業社製ZR)を入れ加熱溶解後、グラニュー糖(東洋精糖社製)、酵素糖化水あめ(林原商事社製)及びシクロデキストリン(α,β,γいずれもシクロケム社製)を直接添加し、溶解した。糖度(アタゴ社製糖度計使用)を調整した後、容器に充填し冷却固化した。これを3日間放置し、十分にゲル化させ、実施例1乃至8に係るゼリー食品を得た。レオメーター(サン科学社製)を使用して、得られたゼリー食品のゼリー強度を25℃において測定した。また、食感を検討した。比較例として、シクロデキストリンの代わりに他のデキストリン類が添加された比較例1乃至5に係るゼリー食品、及び他の糖質が添加された比較例6及び7に係るゼリー食品を同様に得た。結果を表1及び2に示す。
【0023】
【表1】
【0024】
【表2】
【0025】
○ : 歯に付着せず、適度な弾力性を有していたことを示す。
*1: ゲル化しなかったことを示す。
*2: ゼリー強度が低すぎて、ゼリーとしての食感は悪いことを示す。
クラスターデキストリン: 日本食品化工社製
難消化性デキストリン: ファイバーソル2,松谷化学工業社製
ポリデキストロース: ライテスウルトラIII,ダニスコ社製
マルトデキストリン: TK−16,松谷化学工業社製
乳果オリゴ糖: 林原商事社製
イヌリン: フジ日本精糖社製
【0026】
シクロデキストリンが添加された実施例1乃至8に係るゼリー食品は、高いゼリー強度を得ることができた。一方、シクロデキストリンの代わりに他のデキストリン類が添加された比較例1乃至5に係るゼリー食品においては、ゲル化しなかった。また、他の糖質が添加された比較例6及び7に係るゼリー食品においては、ほとんどゲル化しないか、又は水飴状であった。
【0027】
参考例
実施例1(シクロデキストリン添加)及び比較例1(シクロデキストリン無添加)において、グラニュー糖の配合量を変えて糖度を70〜84に調整した以外は、同様にしてゼリー食品を製造し、各糖度におけるゼリー強度を実施例1乃至8と同様に調べた。結果を表3に示す。
【0028】
【表3】
【0029】
表3から明らかなように、シクロデキストリンを添加していないゼリー食品は、糖度72以上になるとゼリー強度が低下し、糖度84では水飴状になり固まらない。一方、シクロデキストリンを添加したゼリー食品は糖度が上がるにしたがってゼリー強度が上昇し、糖度84でもしっかりとしたゲルを形成する。
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖度が72〜90においても高いゼリー強度を有し、食感が優れた高糖度ゼリー食品、その製造方法、及びそれらに用いられる凝固製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ゼリー食品は、その爽やかな外観や食感から、デザートやお菓子として食されることが多く、消費者ニーズの多様化の進む現代においては、食感や甘さ(糖度)について種々検討されている(例えば、特許文献1)。特に、糖度が72〜90の高糖度ゼリー食品は、そのはごたえのある食感や甘味が好まれ、市場に多く流通している。これら高糖度ゼリー食品は、糖度が高いので、常温で流通が可能で、また長期間の保存が可能である。これら高糖度のゼリー食品を製造するゲル化剤として、一般的に寒天、ペクチン、ゼラチン、カラギナン、スターチ等が挙げられ、これらのゲル化剤を用いて製造されるゼリー食品はそれぞれが特徴をもっている。
【0003】
寒天は、みずみずしい食感を持ったさわやかなゼリー食品を作り、わが国においては、古くは錦玉などの和菓子から現在ではフレーバーを加えたキャンディータイプのものまで多くのものが親しまれている。寒天を使用したゼリー食品の特徴は、適度な粘りがありながら歯に付着することなく、食べ応えがあることである。現在は、ゼリー食品に添加する糖質のバリエーションも研究され、ノンシュガーのものやオリゴ糖など機能性の糖質を添加したものも上市されている。
【0004】
ペクチンは、耐酸性、及び耐熱性に優れており、パートドフリュイなどに代表される洋菓子のコンフィズリー菓子から、クッキーやパンなどのフィリングジャムとして、主にベーカリー分野で利用されている。しかし、ペクチンを用いたゼリー食品等は、その食感が固く、べとついて歯に付着するといった問題点がある。また、ペクチンを添加するに際して、酸度の高いものはプリセットと呼ばれる充填前にゲル化してくる現象がみられることがあり、ペクチンの種類の選択や、製造方法に多くの経験や熟練が必要となる。
【0005】
ゼラチンは、チューイーな食感をだすことができ、グミキャンディーなどに広く利用されている。しかし、ゼラチンを用いたゼリー食品等は、そのチューイーな食感が好まれる一方、弾力が強すぎて咀嚼が困難な場合もあり、また夏場に温度が高くなると溶け出してくるという問題点がある。近年では、ゼラチンの原料が動物性ということもあり、敬遠される傾向もある。
【0006】
カラギナンは、独自の食感をだすことができるので、近年、それを生かしてグミキャンディーに使用され始めている。しかし、カラギナンは溶解時の粘度が非常に高く、またゼリーを調整した後の凝固点が70〜90℃と非常に高温なため、溶解と同時にゲル化が起こる現象が見られる。このため、カラギナンを用いたゼリー食品は、特殊な製造装置を使用しなければ製造できないという問題点がある。
【0007】
スターチは、カラギナンと同様に溶解時の粘度が高く作業性が悪く、出来上がりの食感も重たくべたべたしたものになり、歯に付着するといった問題点がある。
【0008】
このような様々なゲル化剤の特徴がある中で、みずみずしい爽やかな食感のゼリー食品を得るためのゲル化剤として、寒天を用いることが考えられる。
【0009】
【特許文献1】特開2002−65179号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、寒天ゼリー食品を常温で長期流通させるためには、水分活性を十分に下げる必要があり、ゼリーの糖度を上げなければならない。ところが、寒天を使用した糖度が高いゼリー食品を通常の方法(寒天を溶解後、糖を加えて糖度を上げる)にて製造しようとすると、十分な強度を有するゲルを作らず、固まりが弱い水飴状になり、食感も悪く、べたべたと歯に付着する寒天ゼリー食品しか得ることができない。これは、以下のような理由によると考えられている。寒天がゲルを形成するのは、構成成分であるアガロース分子が分子間結合により2重螺旋構造をとり、それらがさらに会合して3次元の立体構造をとることによる。しかし、糖度が高いと、これらの分子間結合が糖質により阻害されて立体構造がとれない。このため、固まりが弱くなると考えられている。
【0011】
このような問題を解決するために、高糖度の寒天ゼリー食品は、以下のように製造されている。寒天ゼリー液の糖度を低く調整し、型に流して充填、冷却させた後に放置し、十分固化させ、いったんアガロース分子が十分な3次元の立体構造を形成した低糖度の寒天ゼリーを得る。その後、この寒天ゼリーをカットし、オブラート巻き(もしくはオブ粉まぶし、グラニュー糖まぶし)、低温乾燥により水分を蒸発させて糖度を上げ、アガロースの3次元の立体構造を維持した高糖度の寒天ゼリー食品を得ている。これらの作業は機械化が困難で、手作業にて行っており、製造に日数と人手が多くかかってしまう問題がある。また、手作業のために衛生面の問題もある。その上、十分に糖度を上げ、水分活性を下げる事ができないために品質保持の日数に制限が生じる。ペクチン、ゼラチン、カラギナン、スターチなど寒天以外の凝固剤は、糖度72〜90において、通常の方法(凝固剤を溶解後、糖を加えて糖度を上げる)でも十分な強度のゲルを作るため乾燥工程を必要としないという特徴がある。
【0012】
さらに、寒天ゼリー食品の連続生産を考えた場合、スターチモールドを使用した成型方法が考えられるが、糖度の低い寒天ゼリー液をスターチモールドに充填しようとすると、寒天ゼリーがゲル化する際にスターチを巻き込んでゲル化してしまい、また、その寒天ゼリーからの離水で、スターチモールドが固結してしまうという問題もある。これら問題を解決するために、寒天ゼリー液の糖度を上げて調整し水分量を減らしてスターチモールドに充填しても、寒天ゼリーがゲル化せず水飴状のべたついたゼリー食品になってしまう。
【0013】
そこで、本発明は、糖度が72〜90においても高いゼリー強度を有する高糖度ゼリー食品、その製造方法、及びそれらに用いられる凝固製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
以上の目的を達成するために、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、シクロデキストリンと寒天を直接水に溶解し相互作用させることによって、従来よりも糖度を高くしてもゼリー強度を高く維持し優れた食感にできることを見出した。すなわち、本発明は、少なくともシクロデキストリンと寒天を水に直接溶解させてゲル化させた高糖度ゼリー食品であって、糖度が72〜90に調整されていることを特徴とする。また、少なくともシクロデキストリンと寒天を水に直接溶解し、糖度が72〜90になるように煮詰めた後、冷却することを特徴とする前記高糖度ゼリー食品の製造方法である。またさらに、シシクロデキストリン及び寒天を含むことを特徴とする前記高糖度ゼリー食品を製造するための凝固製剤である。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明によれば、糖度が72〜90においても高いゼリー強度を有する高糖度ゼリー食品、その製造方法、及びそれらに用いられる凝固製剤を提供することすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明に係る高糖度ゼリー食品に用いられるシクロデキストリン(cyclodextrin)は、高糖度のコンフェクショナリーにおける含糖成分として用いられるとともに、ゼリー食品用凝固増強剤としても用いられ、重合度6のα−シクロデキストリン(シクロヘキサアミロース)、重合度7のβ−シクロデキストリン(シクロヘプタアミロース)、及び重合度8のγ−シクロデキストリン(シクロオクタアミロース)のうち少なくとも1以上が好ましく、α−シクロデキストリンがさらに好ましい。シクロデキストリンは、一般に市販されているものを用いることができる。本発明に係るゼリー食品は、シクロデキストリンを含むので、糖度を高くしてもゼリー強度が高く、食感が優れ、離水も生じない。この作用機序は明らかにはされていないが、寒天のゲル化に関しては以下のように推察される。シクロデキストリンは、グルコースが環状に結合した構造を持ち、内側が疎水性、外側が親水性の性質を持つ糖質である。この構造がゼリー食品に用いられる糖質との結合あるいは結晶化その他の相互作用をもたらし、寒天分子が立体的な構造を取ることを可能にし、糖度が高い状態においてもゼリー強度を高く維持できると思われる。
【0017】
本発明に係る高糖度ゼリー食品に用いられるシクロデキストリンは、ゲル化剤としての寒天との相互作用をもたらすために、水に含ませる前に、例えば油脂、乳化物、香気成分、難水溶性成分など一般的にサイクロデキストリンによって包接される他の成分を包接させるなどを行わずに、水に直接溶解させる。さらに、水に溶解されたシクロデキストリンも前記した他の成分を包接させることはない。この際に、寒天や他の糖成分と混合させた状態で水に添加して溶解させても良いが、寒天との相互作用を阻害させるような状態でシクロデキストリンを水に溶解させることはない。このシクロデキストリンは、高糖度ゼリー食品中に好ましくは1〜20重量%、さらに好ましくは2〜13重量%含有する。1重量%未満であると、ゼリー強度増強の効果が弱く、20重量%を超えるとシクロデキストリンの白色結晶が析出し、また粘性が高くなり、溶解時の作業性が悪くなる。
【0018】
本発明に係る高糖度ゼリー食品は、シクロデキストリンを含んでいるため、糖度を高くしてもゼリー強度を高くすることができる。ゼリー強度は、好ましくは150〜3000g/cm2、さらに好ましくは200〜2500g/cm2、特に好ましくは300〜2500g/cm2である。一般的には、100g/cm2未満であると、べたべたして食した時に歯に付着するなど食感が悪い。また、3000g/cm2を超えると、硬すぎて食感が悪い。ゼリー強度は、寒天やシクロデキストリンの添加量により調整することができ、例えば寒天の添加量を増やしたり、シクロデキストリンの添加量を変えることによってゼリー強度を増加させることができる。
【0019】
本発明に係るゼリー食品は、糖度が72〜90、好ましくは76〜86、さらに好ましくは80〜86、特に好ましくは82〜86である。糖度は糖質を添加することにより調整することができる。糖質には、シクロデキストリンも含まれ、コンフェクショナリーにおける含糖成分としての役割も果たす。糖質は、シクロデキストリンの他に、例えば、グラニュー糖、水あめ、果糖、ブドウ糖、種々のオリゴ糖、還元糖、及びデキストリンなどを挙げることができる。
【0020】
本発明に係る高糖度ゼリー食品は、一般にゼリー食品に添加されるクエン酸、乳酸、リンゴ酸、及び酒石酸等の酸、水、果汁、香料、及び機能性素材等を含んでいてもよい。
【0021】
本発明に係る高糖度ゼリー食品は、少なくともゲル化剤としての寒天とシクロデキストリンを含む糖質とを水に直接添加して溶解し、糖度が72〜90になるように煮詰めた後に、冷却することによって本発明に係る高糖度ゼリー食品を得ることができる。冷却は、室温において半日以上冷却することが好ましい。従来は、糖度を低くしてゲル化させていたので、得られた寒天ゼリーをカット等して乾燥させなければ糖度を高くすることができなかったが、本発明に係る高糖度ゼリー食品の製造方法においては、そのような煩雑な工程を設ける必要がなく、簡単に高糖度寒天ゼリーを得ることができる。
【実施例】
【0022】
実施例1乃至8
次に、本発明に係るゼリー食品の実施例1乃至8として、表1及び表2の処方(重量%)にてゼリー食品を得た。具体的には、水に寒天(伊那食品工業社製ZR)を入れ加熱溶解後、グラニュー糖(東洋精糖社製)、酵素糖化水あめ(林原商事社製)及びシクロデキストリン(α,β,γいずれもシクロケム社製)を直接添加し、溶解した。糖度(アタゴ社製糖度計使用)を調整した後、容器に充填し冷却固化した。これを3日間放置し、十分にゲル化させ、実施例1乃至8に係るゼリー食品を得た。レオメーター(サン科学社製)を使用して、得られたゼリー食品のゼリー強度を25℃において測定した。また、食感を検討した。比較例として、シクロデキストリンの代わりに他のデキストリン類が添加された比較例1乃至5に係るゼリー食品、及び他の糖質が添加された比較例6及び7に係るゼリー食品を同様に得た。結果を表1及び2に示す。
【0023】
【表1】
【0024】
【表2】
【0025】
○ : 歯に付着せず、適度な弾力性を有していたことを示す。
*1: ゲル化しなかったことを示す。
*2: ゼリー強度が低すぎて、ゼリーとしての食感は悪いことを示す。
クラスターデキストリン: 日本食品化工社製
難消化性デキストリン: ファイバーソル2,松谷化学工業社製
ポリデキストロース: ライテスウルトラIII,ダニスコ社製
マルトデキストリン: TK−16,松谷化学工業社製
乳果オリゴ糖: 林原商事社製
イヌリン: フジ日本精糖社製
【0026】
シクロデキストリンが添加された実施例1乃至8に係るゼリー食品は、高いゼリー強度を得ることができた。一方、シクロデキストリンの代わりに他のデキストリン類が添加された比較例1乃至5に係るゼリー食品においては、ゲル化しなかった。また、他の糖質が添加された比較例6及び7に係るゼリー食品においては、ほとんどゲル化しないか、又は水飴状であった。
【0027】
参考例
実施例1(シクロデキストリン添加)及び比較例1(シクロデキストリン無添加)において、グラニュー糖の配合量を変えて糖度を70〜84に調整した以外は、同様にしてゼリー食品を製造し、各糖度におけるゼリー強度を実施例1乃至8と同様に調べた。結果を表3に示す。
【0028】
【表3】
【0029】
表3から明らかなように、シクロデキストリンを添加していないゼリー食品は、糖度72以上になるとゼリー強度が低下し、糖度84では水飴状になり固まらない。一方、シクロデキストリンを添加したゼリー食品は糖度が上がるにしたがってゼリー強度が上昇し、糖度84でもしっかりとしたゲルを形成する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともシクロデキストリンと寒天を水に直接溶解させてゲル化させた高糖度ゼリー食品であって、
糖度が72〜90に調整されていることを特徴とする高糖度ゼリー食品。
【請求項2】
前記シクロデキストリンと寒天は、相互作用された状態で水に溶解していることを特徴とする請求項1記載の高糖度ゼリー食品。
【請求項3】
シクロデキストリンの含有量が1〜20重量%であることを特徴とする請求項1又は2記載の高糖度ゼリー食品。
【請求項4】
少なくともシクロデキストリンと寒天を水に直接溶解し、糖度が72〜90になるように煮詰めた後、冷却することを特徴とする請求項1乃至3いずれか記載の高糖度ゼリー食品の製造方法。
【請求項5】
シクロデキストリン及び寒天を含むことを特徴とする請求項1乃至3いずれか記載の高糖度ゼリー食品を製造するための凝固製剤。
【請求項1】
少なくともシクロデキストリンと寒天を水に直接溶解させてゲル化させた高糖度ゼリー食品であって、
糖度が72〜90に調整されていることを特徴とする高糖度ゼリー食品。
【請求項2】
前記シクロデキストリンと寒天は、相互作用された状態で水に溶解していることを特徴とする請求項1記載の高糖度ゼリー食品。
【請求項3】
シクロデキストリンの含有量が1〜20重量%であることを特徴とする請求項1又は2記載の高糖度ゼリー食品。
【請求項4】
少なくともシクロデキストリンと寒天を水に直接溶解し、糖度が72〜90になるように煮詰めた後、冷却することを特徴とする請求項1乃至3いずれか記載の高糖度ゼリー食品の製造方法。
【請求項5】
シクロデキストリン及び寒天を含むことを特徴とする請求項1乃至3いずれか記載の高糖度ゼリー食品を製造するための凝固製剤。
【公開番号】特開2009−55823(P2009−55823A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−225204(P2007−225204)
【出願日】平成19年8月31日(2007.8.31)
【出願人】(000118615)伊那食品工業株式会社 (95)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年8月31日(2007.8.31)
【出願人】(000118615)伊那食品工業株式会社 (95)
【Fターム(参考)】
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