説明

高糖度食品の流動性改善剤

【課題】高糖度食品の流動性改善剤の提供。
【解決手段】低粘性ガラクトキシログルカンを含有することを特徴とする高糖度溶液の流動性改善(液だれ及び曳糸性の改善、容器などへの付着改善など)剤を提供する。該低粘性ガラクトキシログルカンが高糖度溶液(蜂蜜、液糖など)の全量に対して0.01重量%〜5.0重量%である高糖度溶液の流動性改善剤を提供する。該溶液は、アスパルテーム、アセスルファムKなどの高甘味度甘味料を含有していてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低粘性ガラクトキシログルカンを含有する流動性改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
蜂蜜は、ミツバチが花から集めた蜜のことであり、その成分はブドウ糖、果糖などの主成分に加え、各種ビタミン、ミネラル、アミノ酸なども豊富に含んでいる。従って、高い栄養価を有するために健康食品として利用される他、各種食用に供されている。しかしながら、蜂蜜は粘性が高いために容器に付着し易くて取り扱いにくい、又は曳糸性が強くて流動性(液切れ)が悪いために容器から取り出してパンなどの食品に塗布する場合にテーブルなどを汚すなどの不具合があった。これらを解決するために、低強度寒天を添加する方法(特許文献1)、低強度寒天と増粘多糖類(例えば、キサンタンガム、タマリンドガム、ローカストビーンガムなど)を添加する方法(特許文献2)及びコンニャクマンナンを含有するペースト状蜂蜜(特許文献3)が知られている。一方、前記物質を添加する方法以外では、特定の比率で調製した蜂蜜含有の低カロリー易流動性液状甘味料組成物が知られている(特許文献4)。
【0003】
【特許文献1】特許第2795424号公報
【特許文献2】特許第3827011号公報
【特許文献3】特開平7−274854号公報
【特許文献4】特開2004−113146号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、低強度寒天又は/及び増粘多糖類を添加した蜂蜜は、保形性及びスプレッド性は改善されているものの、蜂蜜が有する流動性に欠けるので、例えば市販されているチューブ状の容器に充填した場合、搾り出して使用することが困難である。一方、その他の方法で調製した蜂蜜は、粘度を低くして流動性を改善したものであるものの、依然として流動性(液切れ)に難がある。従って、適度な保形性を保ちつつ、流動性(液切れ)を改善する蜂蜜などを提供することは重要な課題である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、前記課題を解決するために蜂蜜などの流動性の改善について鋭意検討した。その結果、低粘性ガラクトキシログルカンに、蜂蜜や液糖などの高糖度食品(高糖度溶液と称することもある。)を緩くゲル化させる性質を見出し、小さな外力で流動し、流動性(液切れ)がよく、たれ落ちにくく、曳糸性がないことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
項1:低粘性ガラクトキシログルカンを含有することを特徴とする高糖度食品の流動性改善剤。
項2:低粘性ガラクトキシログルカンが、B型粘度計を用いて測定温度25℃、回転数30rpmである測定条件下において、該1.5重量%水溶液における粘度が1〜150mPa・sの範囲である項1に記載の高糖度食品の流動性改善剤。
項3:項1又は2に記載の流動性改善剤を含有する高糖度食品。
項4:低粘性ガラクトキシログルカンが高糖度食品の全量に対して0.01重量%〜5.0重量%含有する項3に記載の高糖度食品。
項5:低粘性ガラクトキシログルカンを含有することを特徴とする高糖度食品の流動性改
善方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る高糖度溶液の流動性改善剤は、たれ落ちにくく、曳糸性のない高糖度食品(蜂蜜、液糖など)を提供できる。緩くゲル化しているために容器からの剥離性に優れ、容器等の付着が防止できると共に、容器の洗浄も容易にできる。また、使用時及び喫食時における高糖度食品の液だれを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に本発明について詳細に説明する。
【0009】
本発明における「流動性改善」とは、使用時及び喫食時の液だれ及び曳糸性の改善を意味する。また、容器などへの付着改善、容器などに付着した液の洗浄のし易さの改善をする概念も包含する。
【0010】
本発明における「高糖度食品」とは、蜂蜜又は液糖を高濃度含む食品を意味する。液糖とは、とうもろこし、馬鈴薯又は甘薯などの澱粉を原料とした液体状の糖のことを意味する。具体的には、異性化液糖(例えば、ブドウ糖果糖液糖、果糖ブドウ糖液糖など)などが挙げられる。
【0011】
本明細書における「保形性」とは、容器から取り出した時に一定の形を保つことを意味する。
【0012】
本発明における「低粘性ガラクトキシログルカン」とは、ガラクトキシログルカンを化学的方法、物理的方法または酵素的方法により調製し、B型粘度計〔東京計器(株)製〕を用いて、測定温度25℃および回転数30rpmの測定条件下において、該1.5重量%水溶液の粘度が1〜150mPa・sである物性を有するものをいう。該水溶液の粘度が上記測定条件下において1〜100mPa・sである物性を有するものがより好ましく、1〜50mPa・sである物性を有するものが一層好ましい。
【0013】
前記「ガラクトキシログルカン」としては、双子葉,単子葉植物など高等植物の細胞壁(一次壁)に存在する天然多糖をいう。ガラクトキシログルカンは、具体的にはグルコース、キシロースおよびガラクトースを構成糖とし、主鎖はグルコースがβ−1,4結合し、側鎖にキシロース、そのキシロースにさらにガラクトースが結合した構造を有する。ガラクトキシログルカンは、タマリンドをはじめ、ヒメネア属植物の種子、大豆、緑豆、インゲンマメ、イネ、オオムギ、リンゴなどからも得ることができる。
【0014】
本発明に用いる「ガラクトキシログルカン」としては、ガラクトキシログルカンの含有率が高く、入手も容易なタマリンド種子由来のガラクトキシログルカン〔タマリンド種子ガム:商品名「グリロイド」(登録商標)大日本住友製薬(株)製〕が好ましい。
【0015】
「低粘性ガラクトキシログルカンを化学的方法により調製する」とは、ガラクトキシログルカンを酸またはアルカリ処理により加水分解することをいう。ここで酸処理に用いる酸としては、無機酸または有機酸のいずれでもよい。無機酸としては、塩酸、硫酸、リン酸または硝酸などが挙げられ、硫酸を用いるのが好ましい。有機酸としてはクエン酸、コハク酸、酒石酸、酢酸またはプロピオン酸などが挙げられ、クエン酸を用いるのが好ましい。アルカリ処理に用いる塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムまたは水酸化カルシウムなどが挙げられる。
【0016】
「ガラクトキシログルカンを物理的方法により調製する」とは、ガラクトキシログルカ
ンを熱処理、高圧ホモジナイズ処理、超音波処理または機械的せん断処理により調製することをいう。
【0017】
「ガラクトキシログルカンを酵素的方法により調製する」とは、ガラクトキシログルカンを多糖類分解酵素により酵素的に調製することをいう。多糖類分解酵素としては、例えばβ−1,4−グルカナーゼ、すなわち、いわゆるセルラーゼ活性を有する植物組織崩壊酵素で微生物や植物由来のものを用いることができる。この際に用いる酵素の種類に応じて、基質濃度、酵素濃度、至適pH、至適反応温度および反応時間などを調節して所望の低粘性ガラクトキシログルカンを調製することができる。
【0018】
低粘性ガラクトキシログルカンは、上記のいずれの方法で調製することができるが、酸による化学的方法または酵素的方法により調製するのが好ましい。特に酸による化学的方法により調製するのが好ましい。
【0019】
酸による化学的方法で調製される低粘性ガラクトキシログルカンは、適切なガラクトキシログルカンの濃度、用いる酸の種類、溶液のpH、反応温度、反応時間を選択してガラクトキシログルカンを溶解した水溶液に酸を添加後、該水溶液を加熱して得ることができる。
【0020】
低粘性ガラクトキシログルカンの調製時に用いるガラクトキシログルカンの量は、溶液の全量に対してガラクトキシログルカンが0.1〜20重量%であり、好ましくは1〜10重量%である。用いる酸の添加量は、ガラクトキシログルカンの水溶液に対して0.1〜20重量%であり、好ましくは1〜10重量%である。溶液のpHの値としては4未満が好ましい。反応温度は、20℃から150℃であり、好ましくは40℃から121℃である。反応時間は、所望の反応時間を、例えばB型粘度計〔東京計器(株)製〕で測定してモニターすることにより調節することができ、通常は数秒から48時間であり、1時間から24時間が好ましい。
【0021】
本発明に用いる「低粘性ガラクトキシログルカン」は市販で入手できるものでもよく、例えば、大日本住友製薬(株)製の商品名「グリエイト」(登録商標)を用いてもよい。用いる「グリエイト」(登録商標)のグレードに限定されることはない。
【0022】
本発明において「低粘性ガラクトキシログルカン」は、高糖度溶液の全量に対して0.01重量%〜5.0重量%含有する。好ましくは0.01重量%〜2.0重量%、更に好ましくは0.1重量%〜1.0重量%含有する。
【0023】
「低粘性ガラクトキシログルカン」は粉末のまま、または溶液として用いてもよい。酸処理により得られる「低粘性ガラクトキシログルカン」の溶液は、例えばドラムドライやスプレードライなどの乾燥機で乾燥する方法、酸処理後に得られる「低粘性ガラクトキシログルカン」を含む溶液にろ過または遠心分離などの処理を行ない不溶物を除去した後ドラムドライ,スプレードライなどで乾燥する方法または清澄な液を得た後適当な有機溶媒を加えて「低粘性ガラクトキシログルカン」を凝析・乾燥する方法で乾燥し、精製、粉末化することができる。また、「低粘性ガラクトキシログルカン」の溶液を適当に濃縮または水で希釈してもよい。
【0024】
本発明における「低粘性ガラクトキシログルカン」は、高糖度食品を緩くゲル化させる性質を有する。該性質は、弱い力を加えるとゲルが崩れて徐々に流れ出すものであるが、ゲルの物性を有する。従って、既に知られている低強度寒天又は/及び増粘多糖類のようにゲル強度の強い性質とは全く異なる、たれ落ちにくく、曳糸性もなく、容器からの剥離性に優れた高糖度食品を提供できる。
【0025】
本発明に係る高糖度食品においては、本発明の効果を達成できる限りにおいて、低粘性ガラクトキシログルカンと共に高甘味度甘味料を併用してもよい。高甘味度甘味料としては、例えば、アスパルテーム、アセスルファムK、スクラロース、ステビア、ラカン巣エキス、サッカリン、ソーマチンなどが挙げられる。前記、高甘味度甘味料は、高糖度食品の全量に対して0.01重量%〜5.0重量%用いられ、好ましくは0.01重量%〜2.0重量%、更に好ましくは0.1重量%〜1.0重量%用いてもよい。
【0026】
本発明の高糖度食品は、水に低粘度ガラクトキシログルカンを分散して、液糖を加えて均一に混合する工程、該液糖を加熱して煮詰める工程、煮詰めた溶液を容器に流し込み冷却して固める工程により製造することができる。
【0027】
該製造方法において、低粘度ガラクトキシログルカンは、高糖度食品の全量に対して0.01重量%〜5.0重量%用いられ、好ましくは0.01重量%〜2.0重量%、更に好ましくは0.1重量%〜1.0重量%用いられる。加熱温度は、該液糖が煮詰めることができる程度の温度であれば、特に限定する必要はない。
【0028】
該製造方法で用いられる容器としては、例えば、市販で入手可能な金属製の缶、プラスティック製又はガラス製の広口瓶、ビニール製のチューブ容器、チアパックなどが挙げられる。液糖を安定に長期保存できる容器であれば、これらに限定されることはない。
【0029】
本発明は、低粘性ガラクトキシログルカンを含有することを特徴とする高糖度食品の流動性改善方法を提供する。
【実施例】
【0030】
本発明の内容を以下の参考例、実施例及び比較例等を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。尚、処方中、特に記載のない限り単位は重量部を意味する。
【0031】
参考例:(低粘性ガラクトキシログルカン水溶液の調製)
低粘性ガラクトキシログルカン(商品名「グリエイト」(登録商標),大日本住友製薬(株)製)を0.25〜1.0gの水に攪拌溶解し、合計100gになるようにして、0.25,0.5および1.0重量%の該水溶液を調製した。該水溶液の25℃、30rpmでB型粘度計により測定した粘度を下記表に示した。
【0032】
【表1】

【0033】
実施例1及び2:(高糖度溶液の製造)
下記表2に記載の処方に従って、高糖度溶液を製造した。水にグリエイト(登録商標)を分散し、高糖度溶液(果糖ブドウ糖液糖、蜂蜜)を加えて均一に混合した。該溶液を加熱沸騰して、Brix.55になるまで煮詰めた。10分間煮詰めた後に、該溶液を容器に流し込み、冷却して固めることで目的とする高糖度溶液を調製した(実施例1及び2)。
【0034】
一方、水に高糖度溶液(果糖ブドウ糖液糖、蜂蜜)を加えて均一に混合し、該溶液を加熱沸騰して、Brix.55になるまで煮詰めた。10分間煮詰めた後に、該溶液を容器(チアパック)に流し込み、冷却して固めることで目的とする高糖度溶液を調製した(比較例1及び2)。
【0035】
【表2】

【0036】
下記表3から明らかなように実施例1及び2は、緩くゲル化した高糖度溶液となった。チアパックを軽く押すと、ゲルが崩れて内容物を簡単に搾り出してパンの上に載せることができた。また、液だれし易くチアパックの口に高糖度溶液が粘着することもなかった。更に、ナイフを使用してパンの上に載せた高糖度溶液を広げて塗布することができ、広げた高糖度溶液はパンから零れ落ちなかった。
【0037】
一方、比較例1及び2は、チアパックを軽く押すと、粘度の低い溶液が滴り落ち、パンの上で薄く広がった。ナイフを使用してパンの上で薄く広げて塗布することはできたが、粘性が低いためにパンから高糖度溶液が零れ落ちやすかった。また、比較例3及び比較例4は、チアパックを軽く押すとスムーズに液を搾り出すことができるが、液切れが悪くてパン以外の場所に液糖が零れ落ちた。更にパンの上の液糖や蜂蜜をナイフで広げて塗布することは容易にできたが、パンを傾けると液が零れ落ちた。
【0038】
【表3】

【0039】
実施例3〜6:(高糖度溶液の製造)
下記表4に記載の処方に従って、高糖度溶液を製造した。水にグリエイト(登録商標)を分散し、高糖度溶液(果糖ブドウ糖液糖)を加えて均一に混合した。該溶液を加熱沸騰して、Brix.55になるまで煮詰めた。10分間煮詰めた後に、該溶液を容器に流し込み、冷却して固めることで目的とする高糖度溶液を調製した(実施例3〜6)。
【0040】
【表4】

【0041】
下記表5から明らかなように、実施例3〜6のいずれの高糖度溶液は、適度な保形性及び流動性(液切れ)に優れていた。
【0042】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明に係る高糖度溶液の流動性改善剤は、たれ落ちにくく、曳糸性のない高糖度食品(蜂蜜、液糖など)を提供できる。緩くゲル化しているために容器からの剥離性に優れ、容器等の付着が防止できると共に、容器の洗浄も容易にできる。また、使用時及び喫食時における高糖度食品の液だれを防止することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低粘性ガラクトキシログルカンを含有することを特徴とする高糖度食品の流動性改善剤。
【請求項2】
低粘性ガラクトキシログルカンが、B型粘度計を用いて測定温度25℃、回転数30rpmである測定条件下において、該1.5重量%水溶液における粘度が1〜150mPa・sの範囲である請求項1に記載の高糖度食品の流動性改善剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の流動性改善剤を含有する高糖度食品。
【請求項4】
低粘性ガラクトキシログルカンが高糖度食品の全量に対して0.01重量%〜5.0重量%含有する請求項3に記載の高糖度食品。
【請求項5】
低粘性ガラクトキシログルカンを含有することを特徴とする高糖度食品の流動性改善方法。

【公開番号】特開2008−142047(P2008−142047A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−335305(P2006−335305)
【出願日】平成18年12月13日(2006.12.13)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 株式会社食品化学新聞社、月刊 フードケミカル、第22巻、第7号、平成18年7月1日
【出願人】(000002912)大日本住友製薬株式会社 (332)
【Fターム(参考)】