説明

高純度アセチレンガスを用いた燃焼炎法によるダイヤモンド皮膜合成方法

【課題】高純度アセチレンガスを用いて、良質なダイヤモンドでかつ接合強度の高いダイヤモンド皮膜を合成する燃焼炎法によるダイヤモンド皮膜合成方法を提供する。
【解決手段】燃焼炎法によるダイヤモンド皮膜合成方法において、ガスボンベの残量に関わらず、ほぼ一定の純度(C2H299.5%以上)を保つことのできる高純度アセチレンガス3を用いた高純度アセチレン−酸素の燃焼ガスを使用し、ダイヤモンドの合成促進成分として窒素ガス4を用いる。より具体的には、高純度アセチレン−酸素の流量比(O/C)0.9の燃焼ガスにダイヤモンド合成促進成分として窒素ガスを流量比(N/(C+O+N))0.28%〜0.40%混合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高純度アセチレンガスを用いて、良質かつ接合強度の高いダイヤモンド皮膜を合成する、燃焼炎法によるダイヤモンド皮膜合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高品質のダイヤモンド薄膜を高速かつ大面積に成膜するダイヤモンド薄膜の形成方法及び形成装置が知られている(特許文献1を参照)。
この公知技術では、大気中において炭素を含む原料ガスをバーナーで燃焼させる際、バーナーの原料ガス噴出口の周囲に、不活性ガスの噴出口を配置し、原料ガスの燃焼炎の周囲に不活性ガス流を形成し、燃焼炎を大気から遮断しながらダイヤモンド薄膜の成膜を行うものである。
【0003】
同様に、燃焼炎の外炎部分をダイヤモンド形成領域である内炎部分から分離し、内炎部分をほぼ完全に還元雰囲気に保つことにより、大面積でかつ結晶性の良好なダイヤモンドを高速かつ安価に製造することが知られている(特許文献2を参照)。
この公知技術は、水冷機構を備えた基板ホルダーの上にシリコン基板を配置し、該シリコン基板の上方に燃焼火口を設け、該燃焼火口の先端部を、炭化水素と酸素の混合ガスを放出する混合ガス放出口と、該混合ガス放出口を囲むようにドーナッツ状に形成され、不活性ガスを放出する不活性ガス放出口との2つの放出口により、混合ガス放出口から炭化水素と酸素の混合ガスを放出して燃焼炎を発生させると共に、不活性ガス放出口から不活性ガスを放出して燃焼炎を大気から遮断するものである。
【0004】
また、水素原子を含む燃焼ガスの燃焼領域中に、窒素およびホウ素を含むガスを供給しながら、その燃焼炎を基板上に直接吹き付ける窒化ホウ素を形成する方法が知られている(特許文献3を参照)。
この公知技術は、水素原子を含む燃焼ガスの燃焼領域中に、窒素及びホウ素を含むガスを供給しながら、その燃焼炎中で分解、励起されたホウ素、窒素ラジカルを基板上に直接吹き付けると、温度勾配が大きくなり、励起されたホウ素、窒素ラジカルが効率よく基板上に輸送されてc−BNを高速に形成し、また同時に、水素原子を含む燃焼炎中にはh−BNをガス化により除去できる水素ラジカルが多量に存在するため、析出したh−BNが水素ラジカルにより効率よく除去されて、c−BNを高割合で含む窒化ホウ素を析出するものである。
【0005】
通常のアセチレンガスを用いて燃焼炎法によりダイヤモンド皮膜の合成を行った際、ガスボンベの残量によりアセチレンガスの純度にバラツキが生じ、ダイヤモンド合成中燃焼炎の状態が不安定となる。
そこで、ガスボンベの残量に関わらずほぼ一定の純度以上を保つことのできる高純度アセチレンガスに注目した。
また、アセチレンガスの純度が高いことで、良質なダイヤモンドが合成され、接合強度も高い皮膜が合成できると考えた。
ダイヤモンド合成促進成分として窒素ガスに注目し、窒素ガスの流量比を変化させながらその効果について精査した。
【特許文献1】特開平8−133891号公報
【特許文献2】特開平8−2996号公報
【特許文献3】特開平6−171910号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、高純度アセチレンガスを用いて、良質なダイヤモンドでかつ接合強度の高いダイヤモンド皮膜を合成する、燃焼炎法によるダイヤモンド皮膜合成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の高純度アセチレンガスを用いた燃焼炎法によるダイヤモンド皮膜合成方法は、高純度アセチレンガスを用い、燃焼炎法によりダイヤモンド皮膜を合成しており、ダイヤモンド合成促進成分として窒素ガスを用いているものである。
さらに、本発明の高純度アセチレンガスを用いた燃焼炎法によるダイヤモンド皮膜合成方法は、高純度アセチレン−酸素の流量比(O/C)0.9の燃焼ガスにダイヤモンド合成促進成分として窒素ガスを流量比(N/(C+O+N))0.28%〜0.40%混合するものである。
【発明の効果】
【0008】
一般に、燃焼炎法において通常のアセチレンガスを用いたダイヤモンド皮膜合成は行われているが、高純度アセチレンガスを用いた合成は行われていない。また、接合強度まで考慮したダイヤモンド合成も行われていない。本発明の高純度アセチレンガスを用いた燃焼炎法によるダイヤモンド皮膜合成方法を用いることで、直接的に基板上へのダイヤモンド皮膜合成が可能となり、切削工具等への直接的なダイヤモンド皮膜合成が可能となる効果がある。
また、本発明の高純度アセチレンガスを用いた燃焼炎法によるダイヤモンド皮膜合成方法は、接合強度まで考慮してはく離を抑制しながら直接的に基板上にダイヤモンドの皮膜を形成しているものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の高純度アセチレンガスを用いた燃焼炎法によるダイヤモンド皮膜合成方法の一実施例を添付図面に基づいて、以下に説明する。
従来、アセチレン−酸素の燃焼炎によって、ダイヤモンドを金属基板表面に直接的な接合を行ってきた。
通常市販のアセチレンガスを用いた際、ガスボンベの残量によってアセチレンの純度(C91.5〜98.5%)にバラツキが生じ、ダイヤモンド合成中に燃焼炎の状態が不安定となる。
ガスボンベの残量に関わらず、ほぼ一定の純度(C99.5%以上)を保つことのできる高純度アセチレンガスに注目した。
高純度アセチレンガスを用いた際のダイヤモンドの合成促進成分である窒素ガスの流量比についてその効果を調べ、良質なダイヤモンドでかつ接合強度の高いダイヤモンド皮膜を合成する。
【0010】
図1は、本発明の高純度アセチレンガスを用いた燃焼炎法によるダイヤモンド皮膜合成装置の構成を示す概略図である。
1はバーナー、2は酸素ガス、3は高純度アセチレンガス、4は窒素ガス、5は燃焼炎、6はモリブデン基板、7は銅製ボックス、8はステージ、9はステッピングモータ、10はフランジである。
上記ダイヤモンド皮膜合成装置は、以下のようにして操作動作を行う。
皮膜の表面温度は、非接触型の赤外線放射型温度計11により測定可能である。皮膜の表面温度を一定に保つための冷却用装置は、100×100×55mmの銅製ボックス7を使用し、この銅製ボックス7の中に冷却水を流し込み、反対側から小型ポンプで吸い出す。すなわち、矢印で示すように銅製ボックス7に通水し冷却する。ここで、直径10mmのモリブデン円柱棒12を冷却用の支柱として銅製ボックス7の中央を通し、受け台にフランジ10で固定する。このモリブデン円柱棒12の上にモリブデン基板6を接着させ合成を行う。この際、冷却を効率よく行うため、モリブデン基板6とモリブデン円柱棒12との間に熱伝導性の良いAgペーストを塗布し、473Kで炉内において熱し接着する。
冷却用の銅製ボックス7は、矢印で示すように上下移動可能なステージ8上にあり、冷却水面と皮膜表面の距離を変えることで皮膜表面温度を変化させることができる。前記ステージ8にはステッピングモータ9が取り付けられており、ドライバ13を介してステージコントローラ14によって上下移動を制御することができる。
合成燃料には、高純度アセチレンガス3と酸素ガス2とダイヤモンド促進成分として窒素ガス4を使用し、溶接用のバーナー1にそれらの混合気体を導入して燃焼させる。ここで、前記バーナー1の出口径は1mmのものを用い、またガス流量計15はガスの流量を正確に制御でき、流量をデジタルで表示することができるマスフローコントローラ16を使用する。なお、17はフィルターである。
【0011】
(実験例1)
高純度アセチレン−酸素の燃焼ガスに窒素ガスを混合し、表1に示すダイヤモンド合成条件で実験を行った。
高純度アセチレン70.9cm/sec−酸素63.8cm/secの流量比(O/C)0.9の燃焼ガスに対して、表2に示すように窒素ガス流量を、0.375、0.458、0.500、0.542cm/secと変化させて実験を行った。
【0012】
表1に示すように、皮膜の表面温度を、第1段階を1423Kで20分間、第2段階を1223Kで20分間、第3段階を1323Kで20分間と変化させる、界面はく離抑制効果がある3段階合成法で実験を行った。
【0013】
【表1】

【0014】
【表2】

【0015】
(Case1の場合、窒素ガス流量0.375cm/sec)
図2のSEM(走査型電子顕微鏡写真)は合成した結晶を観察するため、図3のXRD(X線回折パターン)は合成皮膜の物質特定のためにデータを取得した。
【0016】
(Case2の場合、窒素ガス流量0.458cm/sec)
図4のSEM(走査型電子顕微鏡写真)は合成した結晶を観察するため、図5のXRD(X線回折パターン)は合成皮膜の物質特定のためにデータを取得した。
【0017】
(Case3の場合、窒素ガス流量0.500cm/sec)
図6のSEM(走査型電子顕微鏡写真)は合成した結晶を観察するため、図7のXRD(X線回折パターン)は合成皮膜の物質特定のためにデータを取得した。
【0018】
(Case4の場合、窒素ガス流量0.542cm/sec)
図8のSEM(走査型電子顕微鏡写真)は合成した結晶を観察するため、図9のXRD(X線回折パターン)は合成皮膜の物質特定のためにデータを取得した。
【0019】
(比較例1)
表3に示すように窒素ガス流量を、0.000、0.167、0.333cm/secと変化させて実験を行った。
【0020】
【表3】

【0021】
(Case5の場合、窒素ガス流量0.000cm/sec)
図10のSEM(走査型電子顕微鏡写真)は合成した結晶を観察するため、図11のXRD(X線回折パターン)は合成皮膜の物質特定のためにデータを取得した。
【0022】
(Case6の場合、窒素ガス流量0.167cm/sec)
図12のSEM(走査型電子顕微鏡写真)は合成した結晶を観察するため、図13のXRD(X線回折パターン)は合成皮膜の物質特定のためにデータを取得した。
【0023】
(Case7の場合、窒素ガス流量0.333cm/sec)
図14のSEM(走査型電子顕微鏡写真)は合成した結晶を観察するため、図15のXRD(X線回折パターン)は合成皮膜の物質特定のためにデータを取得した。
【0024】
(比較例2)
表4に示すように窒素ガス流量を、0.583、0.667、0.833cm/secと変化させて実験を行った。
【0025】
【表4】

【0026】
(Case8の場合、窒素ガス流量0.583cm/sec)
図16のSEM(走査型電子顕微鏡写真)は合成した結晶を観察するため、図17のXRD(X線回折パターン)は合成皮膜の物質特定のためにデータを取得した。
【0027】
(Case9の場合、窒素ガス流量0.667cm/sec)
図18のSEM(走査型電子顕微鏡写真)は合成した結晶を観察するため、図19のXRD(X線回折パターン)は合成皮膜の物質特定のためにデータを取得した。
【0028】
(Case10の場合、窒素ガス流量0.833cm/sec)
図20のSEM(走査型電子顕微鏡写真)は合成した結晶を観察するため、図21のXRD(X線回折パターン)は合成皮膜の物質特定のためにデータを取得した。
【0029】
Case1〜10について窒素ガス流量比と、XRD(X線回折パターン)のダイヤモンド(111)面とモリブデンのピーク強度比(Diamond(111)/Mo)の関係を図22に示す。
【0030】
Case1〜10について図22より、窒素ガス流量比(N/(C+O+N))が0.25%から0.28%に変化すると、ピーク強度比の値が0.27から0.62と急激に増加しており、窒素ガス流量比(N/(C+O+N))が0.40%から0.43%に変化すると、ピーク強度比の値が0.94から0.54と急激に減少していることがわかる。
以上の結果とSEM(走査型電子顕微鏡写真)の結果から、窒素ガス流量比(N/(C+O+N))0.28%〜0.40%の実験例1ではダイヤモンド(111)面のピークが強く出ており、均一で良質なダイヤモンド皮膜が合成されていることが理解される。
窒素ガス流量比(N/(C+O+N))0.00%〜0.25%の比較例1及び、窒素ガス流量比(N/(C+O+N))0.43%〜0.62%の比較例2ではダイヤモンド(111)面のピークが弱くなり、良質なダイヤモンド皮膜が合成されないことが理解される。
したがって、窒素ガス流量比(N/(C+O+N))0.28%〜0.40%を最適条件として確定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の高純度アセチレンガスを用いた燃焼炎法によるダイヤモンド皮膜合成装置の構成を示す概略図である。
【図2】Case1の合成した結晶を観察するためのSEM(走査型電子顕微鏡写真)図である。
【図3】Case1の合成皮膜の物質特定のためにデータのXRD(X線回折パターン)グラフ図である。
【図4】Case2の合成した結晶を観察するためのSEM(走査型電子顕微鏡写真)図である。
【図5】Case2の合成皮膜の物質特定のためにデータのXRD(X線回折パターン)グラフ図である。
【図6】Case3の合成した結晶を観察するためのSEM(走査型電子顕微鏡写真)図である。
【図7】Case3の合成皮膜の物質特定のためにデータのXRD(X線回折パターン)グラフ図である。
【図8】Case4の合成した結晶を観察するためのSEM(走査型電子顕微鏡写真)図である。
【図9】Case4の合成皮膜の物質特定のためにデータのXRD(X線回折パターン)グラフ図である。
【図10】Case5の合成した結晶を観察するためのSEM(走査型電子顕微鏡写真)図である。
【図11】Case5の合成皮膜の物質特定のためにデータのXRD(X線回折パターン)グラフ図である。
【図12】Case6の合成した結晶を観察するためのSEM(走査型電子顕微鏡写真)図である。
【図13】Case6の合成皮膜の物質特定のためにデータのXRD(X線回折パターン)グラフ図である。
【図14】Case7の合成した結晶を観察するためのSEM(走査型電子顕微鏡写真)図である。
【図15】Case7の合成皮膜の物質特定のためにデータのXRD(X線回折パターン)グラフ図である。
【図16】Case8の合成した結晶を観察するためのSEM(走査型電子顕微鏡写真)図である。
【図17】Case8の合成皮膜の物質特定のためにデータのXRD(X線回折パターン)グラフ図である。
【図18】Case9の合成した結晶を観察するためのSEM(走査型電子顕微鏡写真)図である。
【図19】Case9の合成皮膜の物質特定のためにデータのXRD(X線回折パターン)グラフ図である。
【図20】Case10の合成した結晶を観察するためのSEM(走査型電子顕微鏡写真)図である。
【図21】Case10の合成皮膜の物質特定のためにデータのXRD(X線回折パターン)グラフ図である。
【図22】Case1〜10のXRD(X線回折パターン)グラフにおけるダイヤモンド(111)面のピーク強度と、基板であるモリブデンのピーク強度との比を求めてグラフ化したものである。
【符号の説明】
【0032】
1 バーナー
2 酸素ガス
3 高純度アセチレンガス
4 窒素ガス
5 燃焼炎
6 モリブデン基板
7 銅製ボックス
8 ステージ
9 ステッピングモータ
10 フランジ
11 赤外線放射型温度計
12 モリブデン円柱棒
13 ドライバ
14 ステージコントローラ
15 ガス流量計
16 マスフローコントローラ
17 フィルター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼炎法によるダイヤモンド皮膜の合成方法において、高純度アセチレン−酸素の燃焼ガスを用い、ダイヤモンド合成促進成分として窒素ガスを用いることを特徴とする燃焼炎法によるダイヤモンド皮膜合成方法。
【請求項2】
高純度アセチレン−酸素の流量比(O/C)0.9の燃焼ガスにダイヤモンド合成促進成分として窒素ガスを流量比(N/(C+O+N))0.28%〜0.40%混合することを特徴とする請求項1記載の燃焼炎法によるダイヤモンド皮膜合成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2009−227552(P2009−227552A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−78475(P2008−78475)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(504409543)国立大学法人秋田大学 (210)
【出願人】(000221742)東邦アセチレン株式会社 (2)
【Fターム(参考)】