説明

高純度アミノメチレンホスホン酸の製造方法

【課題】多くの金属に配位するキレート化剤および過酸化物の分解防止安定剤等の多種多様な用途に用いられる高純度アミノメチレンホスホン酸の製造方法を提供する。
【解決手段】塩酸酸性下、アンモニアまたはアミンをアルデヒド、亜リン酸と反応させアミノメチレンホスホン酸(例えば、ジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸)を得る方法において、Fe濃度0.001ppm以下の塩酸を用いて高純度アミノメチレンホスホン酸溶液を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高純度アミノメチレンホスホン酸の製造方法に関するものである。アミノメチレンホスホン酸類は、多くの金属に配位するキレート化剤として周知であり、過酸化物の分解防止安定剤等多種多様な用途に用いられている。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体産業では工程の微細化が進んでおり、シリコンウエハ清浄度の向上、工程簡略化を目的として、シリコンウエハの洗浄液として用いられている過酸化水素水、アンモニア水にアミノメチレンホスホン酸を添加し、キレート能を付加してウエハ上の金属を除去する手法が用いられている。アミノメチレンホスホン酸の製造法としては、塩酸酸性下、アンモニア、アンモニウム化合物又はアミン及びアルデヒド又はケトンおよびホスホン酸と反応させてアミノアルキレンホスホン酸を得る方法などが知られている(特許文献1、非特許文献1参照)。
【0003】
しかし、一般的に生産されるアミノメチレンホスホン酸は、装置材質例えばステンレスから溶出するFe、Cr、Ni、及び環境から持ち込まれるNa、Al、及び原材料例えば塩酸及び使用水から持ち込まれるFe,Ca、Mgなどの金属イオンまたは微粒子の不純物を含んでいる。特にFeは多く混入し、少ない場合でも10ppm以上、多い場合には100ppm以上の場合がある。
【0004】
シリコンウエハ洗浄液の成分としては、高純度のものが必要であり、特に金属不純分に関しては通常0.5ppb以下の純度が必要である。金属濃度の高いアミノメチレンホスホン酸は、シリコンウエハ洗浄液を汚染し、そしてシリコンウエハ自体を汚染してしまう。アミノメチレンホスホン酸中の金属量は、特にFeに関しては、その添加量にもよるが通常は5ppm以下が必要である。アミノメチレンスルホン酸の精製方法としては、再結晶で精製する手法、貧溶媒へ投入して固形化、精製する手法、イオン交換樹脂を用いて精製する手法が挙げられる。
【0005】
再結晶で精製する手法はアミノメチレンホスホン酸に結晶性が良好なことが必要でありまた、収率が低下する欠点がある。貧溶媒へ投入して固形化する手法は固形化後の固体性状が粘張とならない様な貧溶媒の選定が難しく、収率および精製効率が低いことが欠点である。また、イオン交換樹脂で精製する手法は、例えばアミノメチレンホスホン酸から金属を除去する手段として、強酸性カチオン交換樹脂に接触させる方法が知られている(特許文献2)。しかしながら、カチオン交換樹脂との交換能力と比較し、アミノメチレンホスホン酸との配位力が高い金属イオンについては、除去することは困難である。特に、Fe、Alなどの3価イオンは配位力が高く一度混入すると除去する手段がない。
【特許文献1】米国特許第3,288,846号公報
【特許文献2】特開2002−97193号公報
【非特許文献1】Journal of Organic Chemistry 第31巻1603頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、従来技術における上記したように、アミノメチレンホスホン酸を一成分とする半導体工業用途のシリコンウエハ洗浄液を製造する際、Fe濃度の高いアミノメチレンホスホン酸は、その高いキレート能力によりFe不純分を除去しがたく、シリコンウエハ洗浄液用途に使用量が制限されることを解決するところにあり、精製工程を用いずにFe濃度が5ppm以下の高純度アミノメチレンホスホン酸の製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、特定の塩酸を用いた塩酸酸性下、アンモニアまたはアミンをアルデヒド、亜リン酸と反応させアミノメチレンホスホン酸溶液を得る方法において、Fe濃度が5ppm以下の高純度アミノメチレンホスホン酸溶液の製造法を提供しうることを見出し本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明は、塩酸酸性下、アンモニアまたはアミンをアルデヒド、亜リン酸と反応させアミノメチレンホスホン酸を得る方法において、Fe濃度0.001ppm以下の塩酸を用いることを特徴とする高純度アミノメチレンホスホン酸溶液の製造方法に関するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、精製工程を必要とせずに極めてFe含有量の低い高純度アミノメチレンホスホン酸溶液を得ることが可能となり、微細化が進む半導体のシリコンウエハ洗浄液の成分として、過酸化水素水、及びアンモニア水とともに添加しその機能を向上する目的などに使用可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、塩酸酸性下、アンモニアまたはアミンをアルデヒド、亜リン酸と反応させアミノメチレンホスホン酸溶液を得る方法で用いられる。
【0011】
アミノメチレンホスホン酸には、アミノトリメチレンホスホン酸、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、1,2−プロピレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ヘキサメチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)およびこれらの塩、並びに酸化体が挙げられる。
【0012】
具体的には、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、1,2−プロピレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)などのように、反応後の塩酸溶液から結晶を取り出すことが比較的容易に可能なものより、ジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸などのように反応後の塩酸溶液から結晶を得る事が困難なアミノメチレンホスホン酸溶液の製造に適している。
【0013】
塩酸は、Fe濃度が0.001ppm以下のものを使用する。例えば、市販品であればFe濃度が0.001ppm以下に管理出荷されたELグレードを使用する。工業用塩酸は、一般的にFeなどの金属の含有量が高く、品質管理も厳しく行われていないため、本発明での使用は好ましくない。
【0014】
亜リン酸、アミン、アルデヒドは下記条件を満たせば一般の工業用グレードで構わない。 亜リン酸は、Fe濃度0.70ppm以下のものを使用する。市販の工業用で適合するものが入手可能である。アンモニアおよびアミンの内、アミンはエチレンジアミン、1,2−プロパンジアミン、エキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン等およびこれらの混合物が挙げられる。アミンは、Fe濃度0.70ppm以下のものを使用する。市販の工業用で適合するものが入手可能である。アルデヒドにはホルムアルデヒド、アセトアルデヒド等およびこれらの混合物が挙げられる。アルデヒドはFe濃度0.40ppm以下のものを使用する。市販の工業用で適合するものが入手可能である。
【0015】
亜リン酸はアンモニアに対してはNに対して3〜6倍モル、アミンに対しては1級アミンの場合Nに対して2〜4倍モル、2級アミンの場合Nに対して1〜2倍モルを使用する。アミンが1分子中に1級および2級のアミン部位を有する場合は先の1級、2級アミンそれぞれに対する使用量を対応させ、その合計で使用する。
【0016】
アルデヒドはアンモニアに対してはNに対して3〜9倍モル、アミンに対しては1級アミンの場合Nに対して2〜6倍モル、2級アミンの場合Nに対して1〜3倍モルを使用する。アミンが1分子中に1級および2級のアミン部位を有する場合は先の1級、2級アミンそれぞれに対する使用量を対応させ、その合計で使用する。
【0017】
本発明では、ステンレスなどは、金属成分の溶出のある設備は好ましくなく、接液部がグラスライニング(以下GL)など金属成分の溶出がない攪拌機付き反応釜を使用することが好ましい。GL釜を、事前にFeなど金属成分の溶出がない清浄化状態にして使用する。清浄化の方法としては、希塩酸、脱イオン水による洗浄がある。
【0018】
製造手順の一例を挙げるならば、GL釜にまず塩酸を仕込み、次に亜燐酸を仕込む。亜燐酸を仕込むことにより塩酸との反応により吸熱となるため、加熱を行い、温度を5〜15℃に保つ。次に、アミンを反応温度を15〜20℃に保ちながら一定速度で添加する。本反応は発熱となるため、除熱が必要である。アミン添加終了後、反応液を85〜95℃まで加熱する。次にアルデヒドを一定速度で供給し反応を行う。反応自体は発熱反応であり、反応液の温度は90〜100℃となるように管理する。反応完結後、室温まで冷却し反応終了とする。発生する塩酸蒸気は、環流による汚染防止の観点からエジェクター等を通じて系外へ排出し、環流を出来るだけ避け、排気ガス処理設備で処理する。
【0019】
これら、一連の操作において、汚染を起こさないように、注意を払い、反応液の金属濃度を5ppm以下とすることが重要である。製造設備のある環境を清浄に保つことも肝要である。
【0020】
本発明で製造されたアミノメチレンホスホン酸は、未反応のアルデヒド、塩酸を除去して溶液の状態のまま使用できる。アルデヒドの除去は例えば蒸発による手法等が取り得る。塩酸の除去に関しては、例えば電気透析等の手法が取り得る。
【0021】
本発明の特徴の一つに金属除去の精製工程を必要としないことがあるが、さらなる高純度化を望むのであれば、再結晶、貧溶媒による固形化、イオン交換法による精製等を実施しても構わない。
【実施例】
【0022】
以下に本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は実施例によって制限されるものではない。なお、実施例、比較例中の金属濃度は原子吸光法(島津(株)製AA−6400)とICP−MS(横川アナリティカルシステムズ(株)製HP−4500,PHS2000)により測定した。
【0023】
実施例1
攪拌機、ジャケット付き1m3GL釜の内部を希塩酸、イオン交換水で洗浄した。GL釜にイオン交換水を張り込み、一日放置後、Fe濃度を含め金属濃度は、全て1ppb以下と清浄度に問題がないことを確認した。
【0024】
GL釜に36重量%ELグレード塩酸260kgを仕込んだ。次に、亜リン酸175kg(2.13kmol)を約30分かけて投入した。投入中の吸熱のためジャケットにスチームを入れ、釜温度を5〜10℃に保った。次いで、ジャケットに冷却水を入れ、反応温度を15〜20℃に調節しながら、ジエチレントリアミン(DETA)30kg(0.29kmol)を定量ポンプにより1時間投入した後、さらに15〜20℃にて1時間反応を行った。その後、スチームにより90℃まで加温した後、37重量%ホルマリン240kg(2.97kmol)を、2時間かけて反応させた。この間、反応温度は90〜95℃に維持した。ホルマリン投入終了後、90〜95℃で1時間保った。室温まで冷却後、GL釜より抜き出した反応液は、690kgであった。反応液を分析したところジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸(DTPP)25重量%含有し、且つDTPPに対してFe濃度は1.48ppmであった。原料の仕込み、反応中、及び反応液抜き出しは操作環境からの汚染がない条件で行った。使用原材料および反応液のFe濃度を表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
実施例2
実施例1の反応液4kgを実施例1使用と同じイオン交換水でDTPP濃度が10重量%となるように希釈し、旭化成工業株式会社製の「マイクロアシライザーS3」の透析装置を用いて、電気透析を行い、Fe1.45ppm、塩化物イオン濃度10ppmの液8kgを得た。Feを低濃度に保ったまま、液中の塩酸を除去することができた。
【0027】
比較例1
Fe含有量が7200ppbの36重量%工業用塩酸260kgを使用した以外は、全て実施例1と同様に行った。得られた反応液690kg中にジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸(DTPP)25重量%含有し、且つDTPPに対してFe濃度は23.2ppmであった。使用原材料および反応液のFe濃度を表2に示す。
【0028】
【表2】

【0029】
比較例2
比較例1の反応液4kgを実施例1使用と同じイオン交換水でDTPP濃度が10重量%となるように希釈し、旭化成工業株式会社製の「マイクロアシライザーS3」の透析装置を用いて、電気透析を行い、塩化物イオン濃度10ppmの液8kgを得た。これを強酸性カチオン交換樹脂ダイヤイオンPK228を2.4L充填したカラムに、空間速度7.5/時間で通液した。通液後の水溶液にはDTPPに対してFe23.0ppmが含まれていた。Feを除去することができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩酸酸性下、アンモニアまたはアミンをアルデヒド、亜リン酸と反応させアミノメチレンホスホン酸を得る方法において、Fe濃度0.001ppm以下の塩酸を用いることを特徴とする高純度アミノメチレンホスホン酸溶液の製造方法。
【請求項2】
アミノメチレンホスホン酸がジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸である請求項1記載の製造方法。

【公開番号】特開2007−22956(P2007−22956A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−206754(P2005−206754)
【出願日】平成17年7月15日(2005.7.15)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】