説明

高純度エピラクトースおよびその製造方法

【課題】エピラクトースをその異性化糖であるラクトースから分離することにより高純度化されたエピラクトースを製造するための手段を提供すること。
【解決手段】ラクトースおよびエピラクトースを含む溶液にβ−ガラクトシダーゼを作用させること、上記β−ガラクトシダーゼを作用させた溶液から単糖画分と二糖画分とをクロマト分離すること、および、上記二糖画分からエピラクトースを回収すること、を含む高純度エピラクトースの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高純度エピラクトースおよびその製造方法に関するものであり、詳しくは、ラクトースとエピラクトースの混合物からエピラクトースを選択的に分離回収することにより、高純度化されたエピラクトースを効率的に製造する方法およびこの方法により得られた高純度エピラクトースに関するものである。
【背景技術】
【0002】
エピラクトースは、非還元末端よりガラクトースとマンノースがβ−1,4結合した二糖類であり、牛乳の加熱殺菌やラクトースのアルカリ異性化により微量生成する稀少糖である (非特許文献1および2参照)。
【0003】
近年、エピラクトースに関する生理機能解析が進められ、ビフィズス菌増殖活性 (非特許文献3参照) やカルシウム吸収促進活性 (非特許文献4参照) などの機能を有する糖であることが明らかにされている。
【0004】
上記エピラクトースは、セロビオース2−エピメラーゼの2−エピメラーゼ活性を利用することにより、ラクトースから酵素的に温和な条件で合成することが可能である(非特許文献5参照)。通常、上記酵素反応による反応生成物のエピラクトース量は全糖固形分中で30質量%程度と低く、反応生成物中には未反応のラクトースが多量に残留している。したがって、高純度化エピラクトースを得るためには、反応生成物からラクトースとエピラクトースとを分離しエピラクトースを選択的に回収する必要がある。
【0005】
例えば特許文献1では、上記高純度化のための方法として、配位子交換カラムであるShodex社製Sugar SP0810を用いた分取式液体クロマトグラフィーを採用している。
【0006】
一方、稀少糖の高純度化については、例えば特許文献2に、擬似移動床式クロマト分離装置を採用することが提案されている。ここでいう擬似移動床式クロマト分離装置とは、代表的には原液中に含まれる2成分以上の成分中の特定成分に対して選択的吸着能力を有する吸着剤を充填した多数の充填搭を配管で直列に連結すると共に、最後部の充填搭と最前部の充填搭を配管で連結することによって、全体を無端に連結した充填搭群の系として装置を形成し、原液の供給、溶離液の供給、および吸着剤に対して吸着能力の低い物質を高含有する非吸着液の抜き出し、吸着液に高い吸着能を有する物質を多く含む吸着液の抜き出しの各位置関係を一定に保ちながらこれらの位置を経時的に系内循環方向下流側に順次移動させることで、吸着剤の実際の移動を行わずに吸着剤が移動するのと同等の機能を発揮させる装置である。
【0007】
また、例えばグルコースやスクロースなど結晶性が高い糖質であれば、これらの糖質を含む溶液を溶解度を越える濃度まで濃縮し、または冷却や種結晶を添加することにより、結晶を析出させ、目的とする糖質の純度を飛躍的に高めることができる。このとき、必要に応じて結晶を再度溶解し、さらに結晶化(再結晶化)させることにより、さらなる高純度を図ることも可能である。
【0008】
また、液体クロマトグラフィーと結晶化を組み合せることによって高純度化された糖類を得ることもできる。例えば、特許文献3には、フラクトオリゴ糖の一種であるニストースの高純度化のために、フラクトオリゴ糖混合液(単糖〜6糖の混合液)を液体クロマトグラフィーにて4糖であるニストースに富む画分を得て、それを冷却するなどしてニストースを結晶化させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】WO2008/062555
【特許文献2】特開2001−354690号公報
【特許文献3】特開平6−339388号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Milchwissenschaft 1980;35(1):5−8
【非特許文献2】Milchwissenschaft 1981;36(9):533−536
【非特許文献3】J.Dairy Sci.2008;91:4518−4526
【非特許文献4】J.Agric. Food Chem.2008;56:10340−10345
【非特許文献5】Appl.Microbiol.Biotechnol.2008;79:433−441
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、エピラクトースを、その異性化糖であるラクトースと分離し高純度するためには、上記従来の方法では以下の課題が存在する。
【0012】
特許文献1に記載の方法で使用される配位子交換カラムは、食品への使用が認められていない鉛が配位子に使用されている。したがって、このカラムを使用して高純度化したエピラクトースは、鉛が混入している可能性があるため飲食品への適用が制限される。しかし、本願発明者らの検討によれば、飲食品への使用が可能な他の配位子ではエピラクトースをラクトースとの混合物から良好に分離することはできない。
【0013】
特許文献2に記載の擬似移動床式クロマト分離装置による高純度化のためには、分離対象物質に対して選択的吸着能力を有する吸着剤を使用する必要があるが、エピラクトースとラクトースのいずれか一方にのみ選択的吸着能力を有する吸着剤は、上記の鉛を使用した配位子交換カラムのほかには現在のところ見出されていない。
【0014】
また、上記の通り高純度化の手段としては結晶化も知られている。本願発明者らの検討によれば、ラクトースはエピラクトースに比べて溶解度が低いため、結晶化によりラクトースを優先的に析出させることは可能である。しかし、本願発明者らの検討により、ラクトースとエピラクトースとの混合液に対して結晶化処理を施すのみでは、実現可能な純度には限界があることが明らかとなった。これは、エピラクトースとラクトースとは異性体であり構造が近似しているため、結晶化により濃縮が進みエピラクトースの濃度が高まるほどエピラクトースがラクトースの結晶化を阻害するからであると、本願発明者らは推察している。したがって、結晶化処理に代わる高純度化手段、または結晶化処理とともに実施し得る高純度化手段を見出す必要がある。
【0015】
その他にも、糖類を高純度化する方法はこれまでに多数の報告があり、活性炭カラムクロマトグラフィーやゲル濾過クロマトグラフィーを用いる方法も知られている。しかし、活性炭カラムクロマトグラフィーは担体である活性炭を再生することが難しく、担体を一度の分画ごとに取り替える必要があるため作業性に劣るものである。また、活性炭カラムクロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィーのいずれも、一度に負荷できる試料量が少ないことから数gオーダーの試料調製程度の実験室レベルでの分画に実質的に限られる。
【0016】
そこで本発明の目的は、エピラクトースをその異性化糖であるラクトースから分離することにより、高純度化されたエピラクトースを製造するための手段を提供することにあり、詳しくは、セロビオース2−エピメラーゼをラクトースに作用させて得られたエピラクトースとラクトースとの混合溶液から、飲食品用途にも適用可能な高純度化エピラクトースを製造するための手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本願発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、ラクトースの加水分解酵素であるβ−ガラクトシダーゼが、ラクトースの異性化糖であるエピラクトースに対しては加水分解活性を示さない(またはほとんど示さない)ため、ラクトースとエピラクトースの混合物にβ−ガラクトシダーゼを作用させた後に単糖画分と二糖画分をクロマト分離すれば、単糖画分としてラクトースの加水分解物(ガラクトースとグルコース)を分離し二糖画分としてエピラクトースを得ることができることを新たに見出した。上記単糖と二糖とを分離可能な吸着剤であれば、鉛を使用しないものも多数知られているため、これら吸着剤を使用することにより飲食品にも適用可能な高純度化エピラクトースを得ることができる。
本発明は、以上の知見に基づき完成された。
【0018】
即ち、上記目的は、下記手段によって達成された。
[1]ラクトースおよびエピラクトースを含む溶液にβ−ガラクトシダーゼを作用させること、
上記β−ガラクトシダーゼを作用させた溶液から単糖画分と二糖画分とをクロマト分離すること、および、
上記二糖画分からエピラクトースを回収すること、
を含むことを特徴とする高純度エピラクトースの製造方法。
[2]β−ガラクトシダーゼを作用させる前に、ラクトースおよびエピラクトースを含む溶液を結晶化処理に付し、析出した結晶化物を分離することを更に含む、[1]に記載の製造方法。
[3]前記クロマト分離を、アルカリ金属型またはアルカリ土類金属型陽イオン交換樹脂を使用して行う、[1]または[2]に記載の製造方法。
[4]前記イオン交換樹脂は、ナトリウム型陽イオン交換樹脂である、[3]に記載の製造方法。
[5]前記クロマト分離を、擬似移動床式カラムクロマトグラフィーにより行う、[1]〜[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6]前記ラクトースおよびエピラクトースを含む溶液を、ラクトースを基質とするセロビオース2−エピメラーゼの酵素反応により得る、[1]〜[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7][1]〜[6]のいずれかに記載の方法により得られた高純度エピラクトース。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、飲食品に適用可能な高純度エピラクトースを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例1におけるクロマトグラムを示す。
【図2】実施例2におけるクロマトグラムを示す。
【図3】参考例1における濃縮によるエピラクトース含量の変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、以下の工程を含む高純度エピラクトースの製造方法に関するものである。
ラクトースおよびエピラクトースを含む溶液にβ−ガラクトシダーゼを作用させること(以下「加水分解工程」という);
上記β−ガラクトシダーゼを作用させた溶液から単糖画分と二糖画分とをクロマト分離すること(以下、「クロマト分離工程」という);および、
上記二糖画分からエピラクトースを回収すること(以下、「エピラクトース回収工程」ともいう)。
以下、上記各工程について、順次説明する。
【0022】
加水分解工程
エピラクトース(4−0−β−D−ガラクトピラノシル−D−マンノース)は、セロビオース2−エピメラーゼによってラクトースの還元末端のグルコースを2−エピマー化することにより得られる、ラクトースの異性体である。したがって、本工程においてβ−ガラクトシダーゼを作用させる溶液は、ラクトースを基質とするセロビオース2−エピメラーゼの酵素反応により得ることができる。セロビオース2−エピメラーゼとしては、例えば、ルミノコッカス アルブス(Ruminococcus albus)由来のものを使用することができ、本菌株の培養液から定法に従って酵素試料を調製することができる。その他、本酵素をコードするDNAを導入した発現ベクターにより形質転換した組換え大腸菌や枯草菌などにより生産した組換え酵素を使用することも、酵素を容易に大量調製する上で有利である。この点については、特許文献1を参照できる。
【0023】
ラクトースとセロビオース2−エピメラーゼとの反応条件は特に限定されるものではないが、反応効率の観点からは、ラクトース固形分1gに対して0.1〜10Uの酵素活性を有するセロビオース2−エピメラーゼを添加することが好ましい。ここでセロビオース2−エピメラーゼの活性は、以下に示す条件下で1分間に1μmolのグルコシルマンノースを生成する酵素量と1Uと定義する。
セロビオース2−エピメラーゼ活性測定方法
200mM グリシルグリシン(pH7.8)250μlおよび25mg/mlセロビオース100μlを混合したものを適宜希釈した酵素試料150μlを添加して30℃に保持した後、煮沸失活し、遊離したグルコシルマンノース量を定量する。グルコシルマンノースの定量は、HPLCを用いて行う。HPLCによる定量は、具体的には以下の条件で行うことができる。後述の実施例に示すセロビオース2−エピメラーゼ活性は、下記条件により測定した値である。
5倍に希釈した反応液から500μlを採取しバイオラッド社製AG501−X8カラム(φ4×10mm)に供し、溶出液から90μlを採取し2mg/mlマルチトール10μlを混合したものを分析試料とする。マルチトールは内部標準として使用する。HPLC分析条件としては、カラムとしてShodex社製Sugar SP0810(φ8×300mm)を用い、移動相を純水として流速を毎分0.8mlに設定する。糖の検出はAlltech Associates社製ELD2000ESを用いたエバポレート光散乱検出により行う。
【0024】
反応液の基質濃度は1〜20%(w/v)程度が適当であるが、反応液の処理効率の観点からは10〜20%(w/v)程度が好ましい。ラクトースは異性化反応の進行に伴い溶解していくので、ラクトースは反応開始時に完全に溶解していなくてもよい。
【0025】
反応時のpHや温度は、使用する酵素の特性に応じて適宜決定することができる。また、反応時間と酵素添加量は密接に関係しており、必要に応じて酵素添加量を調整し、反応時間を調整することができる。具体的には、pH3.0〜10.0、15℃〜85℃の範囲の温度で10〜90時間反応を行うことができる。また、pH調整のために公知の緩衝液を用いることができる。
【0026】
所定時間後、反応液を加熱するなどして酵素を失活させ反応を終了させる。通常、上記酵素反応によるエピラクトース生成量は全糖固形分中で30質量%程度であり、反応液には反応生成物であるエピラクトースとともに未反応のまま残留したラクトースが含まれる。そこで本発明では、β−ガラクトシダーゼの選択的な加水分解特性を利用し、エピラクトースとラクトースとの混合液においてラクトースのみを選択的に加水分解する。これにより、その後のクロマト分離により二糖画分としてエピラクトースを高純度で単離することが可能となる。
【0027】
上記酵素反応終了後の溶液は、そのままβ−ガラクトシダーゼによる加水分解反応に付すこともできるが、溶液を結晶化処理に付すことにより析出した結晶を除去した後にβ−ガラクトシダーゼを作用させることが、エピラクトースの純度をより一層高める上で好ましい。これはラクトースの溶解度はエピラクトースと比べて低いため、結晶化処理によりラクトースを優先的に析出(結晶化)させ除去することができるからである。
【0028】
上記結晶化処理を実施する場合には、反応終了後のセロビオース2−エピメラーゼとラクトースとの反応液に活性炭を添加して50〜100℃程度に加熱、濾過してもよく、また、得られた溶液をイオン交換樹脂により脱塩することもできる。これらの操作により中性糖以外の成分を除去することができるため、ラクトースの結晶化を促進させることができる。また、脱色、脱臭処理として上記の加熱、濾過を実施することもできる。
【0029】
上記結晶化処理は、濃縮、冷却、種結晶の添加等の公知の方法で行うことができる。冷却温度は、例えば0〜5℃、冷却期間は1日〜1週間程度とすることができる。また、濃縮は減圧濃縮によって行うことが好ましく、濃縮後の全糖濃度は、結晶化によるラクトースの除去効率の観点からは60%(w/v)以上とすることが好ましい。また、溶液粘度が高くなると操作性が低下するため、操作性の観点からは濃縮後の全糖固形分濃度は80%(w/v)以下とすることが好ましい。結晶化処理後、析出したラクトース結晶を除去することにより、例えば固形分あたり60〜75質量%のエピラクトースを含む分蜜液を得ることができる。また、ここで除去したラクトース結晶は再度溶解してエピラクトースの生成反応に使用することができる。
【0030】
その後、ラクトースとエピラクトースとの混合液(上記反応液または結晶化処理後に得た分蜜液)にβ-ガラクトシダーゼを作用させることにより、混合液中のラクトースを選択的に単糖(ガラクトースとグルコース)に加水分解することができる。これに対し共存するエピラクトースはβ−ガラクトシダーゼによる加水分解を受けない(またはほとんど受けない)ため、その後のクロマト分離により高純度でエピラクトースを含む二糖画分を得ることができる。
【0031】
上記加水分解に使用するβ−ガラクトシダーゼは、市販品として容易に入手可能である。特にその起源は限定されないが、製剤化されているものが工業的使用において有利である。市販されている商品名としては、例えば、Bacillus circulans由来のβ−ガラクトシダーゼである大和化成(株)製ラクトレスL3などが挙げられる。
【0032】
β−ガラクトシダーゼによる処理は、溶液中の全糖濃度が高すぎるとβ−ガラクトシダーゼによる糖転移反応が顕著になり生じるガラクトオリゴ糖により分画の効率が低下し、低すぎるとその後の濃縮の効率が低下する。分画効率および濃縮効率を考慮すると、β−ガラクトシダーゼによる処理は、上記混合液を水で希釈し、1〜20%(w/v)程度の固形分濃度として行うことが好ましい。
【0033】
β−ガラクトシダーゼの添加量は、加水分解の反応効率の点から、固形分1gあたり1〜50U程度とすることが好ましい。なお、上記β−ガラクトシダーゼの酵素活性は以下の方法で測定した値とする。
β−ガラクトシダーゼの活性測定
適当濃度に希釈した酵素液1mLに0.1M酢酸ナトリウム緩衝液(pH 6.0)に溶解した40mM o−ニトロフェニル−β−D−ガラクトピラノシド1mlを添加し、40℃に10分間保持する。これに2質量%炭酸ナトリウム水溶液5mLを加え、氷上に10分間保持する。得られた溶液の420nmの吸光度を測定する。上記条件下で1分間に1μmolのo−ニトロフェノールを遊離する酵素量を1Uと定義する。
【0034】
上記加水分解反応におけるpHや温度は使用する酵素(β−ガラクトシダーゼ)の特性に応じて適宜決定することができる。また、反応時間と酵素添加量は密接に関係しているため、これらも適宜調整して設定することができる。具体的には、pH4〜8、25〜85℃の範囲の温度で1〜24時間程度、β−ガラクトシダーゼを作用させることができる。使用するβ−ガラクトシダーゼの酵素活性がきわめて高い場合には、ラクトースの分解後も過剰に反応を継続するとエピラクトースの分解が起こる懸念があるため、エピラクトースの収率向上のためにはエピラクトースの分解が起こらないように反応条件を決定することが好ましい。
【0035】
このようにして得られたβ−ガラクトシダーゼ処理液は、pH調整や熱処理によって酵素を失活させ、その後の操作に用いる。例えば、反応液の温度を80℃以上に1時間程度保持することにより、β−ガラクトシダーゼを失活させることが可能である。この反応停止条件は、使用する酵素の特性に合わせて適宜設定することができる。酵素失活後の処理液に対しては、濾過、濃縮等の公知の処理を行うこともできる。
【0036】
クロマト分離工程、エピラクトース回収工程
ラクトースとエピラクトースはいずれも二糖であるが、上記β−ガラクトシダーゼによる処理によりラクトースを選択的に加水分解することができる。したがって上記工程により得られたβ−ガラクトシダーゼ処理液では、ラクトースは単糖(ガラクトースとグルコース)に加水分解されているため、含まれる二糖類の大部分がエピラクトースである。したがって、単糖画分と二糖画分とをクロマト分離することにより高純度のエピラクトースを二糖画分として得ることができる。
【0037】
クロマト分離に供する前には、β−ガラクトシダーゼ処理液に活性炭処理および脱塩処理を行い、中性糖以外の成分を除去しておくことが好ましい。中性糖以外の成分はクロマト分離に使用するイオン交換樹脂に配位したイオンの脱落を招き、分画効率が低下するためである。上記の活性炭処理および脱塩処理は、いずれも公知の方法で行うことができる。
【0038】
クロマト分離に使用するシステムとしては、単糖類と二糖類が分離できるシステムであれば何ら制限なく使用することができる。クロマト分離は、固定床方式、移動床方式、擬似移動床方式のいずれの方式によって実施してもよいが、分離効率の点からは擬似移動床式カラムクロマトグラフィーを用いることが好ましい。擬似移動床式カラムクロマトグラフィーとは、原液中に含まれる2成分以上の成分中の特定成分に対して選択的吸着能力を有する吸着剤を充填した多数の充填搭を配管で直列に連結すると共に、最後部の充填搭と最前部の充填搭を配管で連結することによって、全体を無端に連結した充填搭群の系として装置を形成し、原液の供給、溶離液の供給、および吸着剤に対して吸着能力の低い物質を高含有する非吸着液の抜き出し、吸着液に高い吸着能を有する物質を多く含む吸着液の抜き出しの各位置関係を一定に保ちながらこれらの位置を経時的に系内循環方向下流側に順次移動させることで、吸着剤の実際の移動を行わずに吸着剤が移動するのと同等の機能を発揮させるカラムクロマトグラフィーである。そのようなクロマト分離を行う装置は公知であり、本発明では市販されている擬似移動床式クロマト分離装置を使用することができる。中でも日本練水株式会社製の改良型擬似移動床式クロマ分離装置を用いることが好ましい。その構成については特公平7−46097号公報を参照できる。
【0039】
使用するカラムとしては、クロマト分離後の二糖画分(高純度エピラクトース)を飲食品用途に使用するためには、鉛を含まないものを使用することが好ましい。上記観点から好ましいカラムとしては、アルカリ金属型またはアルカリ土類金属型陽イオン交換樹脂、より詳しくはナトリウム型またはカルシウム型のイオン交換樹脂を挙げることができ、ナトリウム型が好ましい。上記陽イオン交換樹脂としては、交換基としてスルホン酸基を有する強酸性陽イオン交換樹脂が好ましい。市販されている商品名としては、例えば、三菱化学製のナトリウム型強酸性カチオン交換樹脂であるダイヤイオン(登録商標)UBK530などを挙げることができる。クロマト分離におけるサンプル注入量、カラムサイズ、カラム温度、流速等の分画条件は特に限定されるものではなく、二糖画分と単糖画分が良好に分離されるように適宜設定することができる。
【0040】
その後、上記クロマト分離により分離された画分からエピラクトースを高濃度に含有する二糖画分を採取する。分離される画分の糖組成は、HPLC法などにより分析することができ、エピラクトースの含有量が高まった画分を二糖画分として採取することができる。採取した二糖画分に対し、必要に応じて濾過、遠心分離、脱色、脱塩、濃縮等の処理を施すことにより、高純度エピラクトースを回収することができる。前述の通り、通常、ラクトースを基質とするセロビオース2−エピメラーゼの酵素反応による反応生成物のエピラクトース量は全糖固形分中で30質量%程度であるのに対し、本発明によれば40質量%を超える高純度でエピラクトースを得ることが可能であり、更には結晶化処理を実施することにより80質量%を超える高純度でエピラクトースを得ることができる。また、本発明によれば鉛を含まないカラムによる分離精製が可能であるため、得られるエピラクトースは、鉛を実質的に含まず高純度化された、新規なエピラクトースである。上記エピラクトースは、そのままで、または公知の添加剤と混合して機能性食品、例えば、ミネラル吸収能促進剤、ミネラル吸収促進用機能性食品、便秘改善剤、脂質代謝改善剤、脂質代謝改善用機能性食品、糖尿病患者用機能性食品、低カロリー製低甘味剤、として使用することができる。なお、エピラクトースの上記機能性食品としての適用の詳細については、WO2008/062555公報段落[0112]〜[0123]および同公報実施例5〜11を参照できる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例により更に説明する。ただし本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。以下に記載の「%」は、特記しない限り質量%を示す。
【0042】
下記の実施例における糖組成は試料を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により分析し、ピーク面積より算出した。HPLCでは、カラムとしてSugar SP0810(φ8×300mm;Shodex社)を使用し、カラム温度を80℃に設定した。移動相には純水を用い、流速を0.8ml/minに設定した。糖の検出には示差屈折計(アタゴ製PR-201)を使用した。5%(w/v)とした試料を10μl分析に供した。
【0043】
[実施例1]
20%(w/v)ラクトース1水和物(関東化学製)水溶液0.5Lに1Mリン酸カリウム緩衝液(pH6.3)を5mL添加し、ルミノコッカス アルブス由来セロビオース2−エピメラーゼをラクトース固形分1gあたり2Uとなるように添加した。これを25℃に60時間保持した。上記酵素反応後の反応液中のエピラクトース含有量を上記糖組成の分析方法により測定したところ、全糖固形分中のエピラクトース含量は24.5%であった。即ち、この段階でのエピラクトース純度は24.5%であった。
【0044】
その後、上記酵素反応後の反応液を2水で倍に希釈し、pH6.0に調整した。これにβ−ガラクトシダーゼ(大和化成製ラクトレスL3)を0.5mL(固形分1gあたり16U)添加して53℃に2時間保持した。これを煮沸して酵素を失活させ、活性炭を数グラム添加して煮沸失活した。これを0.45μmフィルターで濾過後、イオン交換樹脂(オルガノ製アンバーライトMB4)にて脱塩した。これを減圧下で濃縮し、固形分濃度30%(w/v)としたものを樹脂分画(クロマト分離)に供した。
樹脂分画では、日本練水株式会社製改良型擬似移動床式クロマト分離装置を使用した。分画条件は以下の通りとし、検出器としては示差屈折計 (アタゴ製PR-201)を使用した。
サンプル注入量 113mL (30%(w/v))
カラム充填材 ナトリウム型強酸性カチオン交換樹脂(三菱化学製UBK530)
カラムサイズ φ28.0×550mm(339ml)×4本
カラム温度 80℃
流速 11.3mL/分
移動相 水
分画液量 15mL(溶出液に糖が検出された直後より分取)

その結果、糖は負荷してから40分程度で溶出され、単糖画分と二糖画分が良好に分離された。本クロマト分画のクロマトグラムを図1に示す。二糖画分として画分番号14〜19を回収し濃縮した結果、純度44.9%の高純度エピラクトースが得られた。原料固形分回収率は40.9%であった。
【0045】
[実施例2]
10%(w/v)ラクトース1水和物(関東化学製)水溶液20Lに1Mリン酸カリウム緩衝液(pH6.3)を100mL添加し、ルミノコッカス アルブス由来セロビオース2−エピメラーゼをラクトース固形分1gあたり1Uとなるように添加した。これを25℃に60時間保持した。上記酵素反応後の反応液中のエピラクトース含有量を上記糖組成の分析方法により測定したところ、全糖固形分中のエピラクトース含量は26.2%であった。即ち、この段階でのエピラクトース純度は26.2%であった。
【0046】
その後、上記酵素反応後の反応液に活性炭を数g添加して煮沸処理した。次いで、平均孔径0.45μmフィルターで濾過し、減圧下で固形分濃度が70%(w/v)となるまで濃縮した。得られた濃縮液を室温に一晩放置し結晶を析出させた。次に、析出した結晶を濾紙で濾過して除去し、分蜜液を得た。濾別した結晶をHPLC分析しラクトースであることを確認した。また、上記分蜜操作により、固形分中のエピラクトース含量は67.6%となった。即ち、この段階でのエピラクトース純度は67.6%であった。
【0047】
上記で得られた分蜜液を水で希釈して10%(w/v)とし、これに1Mリン酸カリウム緩衝液(pH6)を1/100量およびβ−ガラクトシダーゼ(大和化成製ラクトレスL3)を2.65mL(固形分1gあたり16U)添加して53℃に3時間保持した。これを煮沸して酵素を失活させ、実施例1と同様の方法で活性炭処理および脱塩処理を行った後、0.45μmフィルターで濾過して、固形分濃度60%(w/v)まで濃縮した。その後、上記濃縮液を固形分濃度20%(w/v)となるように純水で希釈したものを樹脂分画(クロマト分離)に供した。
樹脂分画では、日本練水株式会社製改良型擬似移動床式クロマト分離装置を使用した。分画条件は以下の通りとし、検出器としては示差屈折計 (アタゴ製PR-201)を使用した。
サンプル注入量 113mL (20%(w/v))
カラム充填材 ナトリウム型強酸性カチオン交換樹脂(三菱化学製UBK530)
カラムサイズ φ28.0×550mm(339ml)×4本
カラム温度 80℃
流速 11.3mL/分
移動相 水
分画液量 11.3mL(溶出液に糖が検出された直後より分取)

その結果、単糖画分と二糖画分が良好に分離された。本クロマト分画のクロマトグラムを図2に示す。二糖画分として画分番号16〜18を回収し濃縮した結果、21%の原料固形分回収率で純度90%以上のエピラクトースが得られ、画分番号12〜19を回収し濃縮した結果、53%の原料固形分回収率で純度85%以のエピラクトースが得られた。
【0048】
[比較例1]
実施例1と同様の方法でセロビオース2−エピメラーゼをラクトースに作用させて得られた酵素反応液を、β−ガラクトシダーゼによる加水分解を行わずに実施例1と同様にクロマト分離に供したところ、二糖画分としてラクトースとエピラクトースが分画されたためクロマト分離によってエピラクトースを高純度化することはできなかった。
【0049】
[参考例1]
10%ラクトース100mLに1Mリン酸緩衝液(pH8.4)1mLおよびセロビオース2−エピメラーゼを50U添加し、室温に3日間保持した。これを煮沸失活した後、イオン交換樹脂(オルガノ製アンバーライトMB4)にて脱塩したものを0.45μmフィルターで濾過した。これを減圧下で濃縮して各濃度に調整したものを4℃に3日間保持した。これを0.45μmフィルターで濾過してラクトースの結晶を除き、エピラクトース含量をHPLCにより測定した。(HPLC条件はセロビオース2−エピメラーゼ活性測定方法と同様とした)。結果を図3に示す。図3に示すように、反応液を固形分濃度63.6%まで濃縮した時に最も高いエピラクトース含量が得られ、このときエピラクトース含量は67.7%であった。これ以上の濃度ではエピラクトース含量が低下し、68.7%以上としたときはエピラクトースによる結晶化の阻害効果のためかラクトースの結晶が生じなかった。このことから、ラクトースを結晶化させて除去するだけでは、実現可能なエピラクトース純度に限界があることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、飲食品に適用可能なエピラクトース製造に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトースおよびエピラクトースを含む溶液にβ−ガラクトシダーゼを作用させること、
上記β−ガラクトシダーゼを作用させた溶液から単糖画分と二糖画分とをクロマト分離すること、および、
上記二糖画分からエピラクトースを回収すること、
を含むことを特徴とする高純度エピラクトースの製造方法。
【請求項2】
β−ガラクトシダーゼを作用させる前に、ラクトースおよびエピラクトースを含む溶液を結晶化処理に付し、析出した結晶化物を分離することを更に含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記クロマト分離を、アルカリ金属型またはアルカリ土類金属型陽イオン交換樹脂を使用して行う、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記イオン交換樹脂は、ナトリウム型陽イオン交換樹脂である、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記クロマト分離を、擬似移動床式カラムクロマトグラフィーにより行う、請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記ラクトースおよびエピラクトースを含む溶液を、ラクトースを基質とするセロビオース2−エピメラーゼの酵素反応により得る、請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法により得られた高純度エピラクトース。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−217701(P2011−217701A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−93027(P2010−93027)
【出願日】平成22年4月14日(2010.4.14)
【出願人】(000231453)日本食品化工株式会社 (68)
【Fターム(参考)】