説明

高純度エポキシ化合物およびその製造方法

【課題】高純度のN,N,N’,N’−テトラグリシジル−3,4‘−ジアミノジフェニルエーテルからなるエポキシ化合物およびその製造方法を提供する。
【解決手段】溶媒に水を用い、3,4’−ジアミノジフェニルエーテルと該3,4’−ジアミノジフェニルエーテルに対し9〜24モル倍のエピクロロヒドリンとを30〜60℃にて12〜200時間反応させ、N,N,N’,N’−テトラキス(3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル)−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルを生成する付加反応工程と得られたN,N,N’,N’−テトラグリシジル(3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル)−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルをアルカリ化合物と反応させ、脱塩化水素する環化反応工程、により高純度のN,N,N’,N’−テトラグリシジル−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工業的に有用なN,N,N’,N’−テトラグリシジル−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルからなる高純度エポキシ化合物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ化合物は、有機化学分野および高分子化学分野で広く用いられている化合物であり、ファインケミカル、医農薬原料および樹脂原料、さらには電子情報材料や光学材料など、工業用途として多岐にわたる分野で有用な化合物である。
【0003】
さらに多官能のエポキシ化合物は、種々の硬化剤で硬化させることにより、一般的に機械的性質、耐水性、耐薬品性、耐熱性および電気特性に優れた硬化物となり、接着剤、塗料、積層板および複合材料などの広い分野に利用されている。なかでもグリシジルアミン型エポキシ化合物は、低粘度で耐熱性に優れるため、複合材料や電子材料用途へ用途が広がっている。特に、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−ジアミノジフェニルエーテル類は繊維強化複合材料として有用なエポキシ樹脂原料である(例えば特許文献1、2を参照)。N,N,N’,N’−テトラグリシジル−ジアミノジフェニルエーテル類を主成分にするエポキシ化合物は、繊維強化複合材料の性能を向上するため高純度であることおよび成形加工性を良好にするため粘度が低いことが求められる。
【0004】
従来、グリシジルアミン型エポキシ化合物の製造方法として、原料であるジアミン1モルに対して、水を0.5〜15モル存在させ、反応温度60℃未満で、ジアミンとエピハロヒドリンとを反応させる方法が提案されている(例えば特許文献3参照)。また、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−4,4’−ジアミノジフェニルエーテルの製造法として、高沸点の非プロトン性極性溶媒であるN,N−ジメチルホルムアミドやN,N−ジメチルアセトアミド溶媒中で4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとエピクロロヒドリンを反応温度60℃、反応時間12時間以内で反応させる方法が提案されている(例えば非特許文献1,2参照)。しかしながら、これらの製造法をN,N,N’,N’−テトラグリシジル−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルの製造に適用すると、不純物を多く含み、かつN,N,N’,N’−テトラグリシジル−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルの粘度が高くなってしまう。これは、原料である3,4’−ジアミノジフェニルエーテルの3位のアミノ基の反応性が4,4’−ジアミノジフェニルエーテルの4位のアミノ基の反応性と大きく異なることに起因する。
【0005】
また特許文献4には、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルの製造法として、3,4’−ジアミノジフェニルエーテルとエピクロロヒドリンをベンゼンと酢酸の混合溶媒中で、反応温度60℃、14時間反応させることが記載されている。しかし、この製造方法では、エピクロロヒドリンが3,4’−ジアミノジフェニルエーテルと反応すると同時に、酢酸とも反応するため副反応生成物が多量に生成してしまうこと、また得られるN,N,N’,N’−テトラグリシジル−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルが高粘度になってしまうことという問題があった。
【0006】
すなわち、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルは、従来方法で合成しようとすると、ジグリシジル、トリグリシジルおよびクロロヒドロキシプロピル体の不純物を多く含んだものとなる。これらは、反応性が高いため、目的生成物であるN,N,N’,N’−テトラグリシジル−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルと反応し、品質を低下させるという問題があった。すなわち、不純物であるジグリシジル、トリグリシジル、クロロヒドロキシプロピル体の活性水素が目的生成物であるN,N,N’,N’−テトラグリシジル−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルと反応し、徐々に粘度増加を引き起こしていた。また、従来の方法により合成されたN,N,N’,N’−テトラグリシジル−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルは、製造過程で生成する中間体のN,N,N’,N’−テトラキス(3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル)−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルと系内に残存するエピクロロヒドリンとが反応して生成するオリゴマーを多く含むことも、粘度が高くなる原因であった。
【0007】
特にエポキシ樹脂原料としてN,N,N’,N’−テトラグリシジル−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルを使用する場合、高粘度であると、エポキシ樹脂組成物を構成する硬化剤や添加剤などの他の成分との混合がうまくいかず、均一組成物を得ることが難しくなる。さらに、均一組成物を得ようと加熱すると、上述した不純物であるジグリシジル、トリグリシジルおよびクロロヒドロキシプロピル体に起因する不均化が起こってしまう。その結果、得られたエポキシ樹脂は、本来のN,N,N’,N’−テトラグリシジル−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルが硬化剤と反応し得られる物性とは、程遠いものとなっていた。
【0008】
また、従来の製造法で得られたN,N,N’,N’−テトラグリシジル−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルおよびこれに含まれる不純物は、いずれも高沸点であるため、蒸留精製などの方法で不純物を分離・除去し、化学純度を高くしようとすると、高温での蒸留が必要となり、蒸留中に不純化する若しくは低収率になるという問題がある。このため、工業的に使用可能な高純度のN,N,N’,N’−テトラグリシジル−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルからなるエポキシ化合物は、未だ製造されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平03−26750号公報
【特許文献2】特開平04−335018号公報
【特許文献3】特公昭61−6828号公報
【特許文献4】国際公開第97/13745公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Journal of Applied Polymer Science, Vol. 77, 2430-2436 (2000)
【非特許文献2】European Polymer Jounal, Vol. 31, No. 4, pp. 313-320 (1995)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、高純度N,N,N’,N’−テトラグリシジル−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルからなるエポキシ化合物およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の高純度エポキシ化合物は、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルからなる高純度エポキシ化合物であり、その化学純度が90%以上、E型粘度計を使用して測定した40℃の粘度が25Pa・s以下であることを特徴とする。
【0013】
本発明の高純度エポキシ化合物の製造方法は、溶媒に水を用い、3,4’−ジアミノジフェニルエーテルと、該3,4’−ジアミノジフェニルエーテルに対し9〜24モル倍のエピクロロヒドリンとを30〜60℃にて12時間〜200時間反応させ、N,N,N’,N’−テトラキス(3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル)−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルを生成する付加反応工程と、前記N,N,N’,N’−テトラキス(3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル)−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルをアルカリ化合物と反応させ脱塩化水素する環化工程によりN,N,N’,N’−テトラグリシジル−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルを製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の高純度エポキシ化合物によれば、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルの化学純度を90%以上に高くすると共に、E型粘度計を使用して測定した40℃の粘度を25Pa・s以下にしたので、熱安定性および成形加工性に優れると共に、その硬化物の特性を優れたものにすることができる。
【0015】
本発明の高純度エポキシ化合物の製造方法によれば、水中で3,4’−ジアミノジフェニルエーテルとこれに対し9〜24モル倍のエピクロロヒドリンとを30〜60℃で12〜200時間反応させ、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルの四官能体であるN,N,N’,N’−テトラキス(3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル)−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルを生成する付加反応工程と、得られたクロロヒドロキシプロピル体を脱塩化水素する環化反応工程に分けて製造するようにしたので、化学純度が高く、かつ粘度が低いN,N、N’,N’−テトラグリシジル−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルを効率的に生産することができる。しかも本発明の製造方法で得られるN,N、N’,N’−テトラグリシジル−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルが高純度であることから、精製工程を必要としない。すなわち、精製工程を省略することができるため、収率が低下しない。
【0016】
この製造方法によれば、化学純度が90%以上およびE型粘度計を使用して測定した40℃の粘度が25Pa・s以下のN,N,N’,N’−テトラグリシジル3,4’−ジアミノジフェニルエーテルを製造することができる。
【0017】
また、溶媒に用いる水の使用量は、3,4’−ジアミノジフェニルエーテルに対して0.05〜40重量倍が好ましく、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルの化学純度を更に高くすることおよび/または粘度を低下させることができる。さらに、ゲル状の不溶物の発生を抑制する。
【0018】
また、環化反応工程の反応は、第四級アンモニウム塩および/または第四級ホスホニウム塩の存在下で行うことが好ましく、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルを効率的に生成すると共に、その化学純度を更に高くすることおよび/または粘度を低下させることができる。
【0019】
また、上述したとおり本発明の高純度エポキシ化合物は、化学純度が高く、不純物の含有量が少ないので、熱安定性に優れる。そのため、反応のスケールを大きくして製造しても、化学純度が90%以上および40℃における粘度が25Pa・s以下(E型粘度計)のエポキシ化合物が安定的に得られる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の高純度エポキシ化合物およびその高純度エポキシ化合物の製造方法について詳細に記載する。
【0021】
本発明の高純度エポキシ化合物は、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルの化学純度が90%以上、好ましくは95〜100%である。このエポキシ化合物は、その化学純度が極めて高いため、エポキシ樹脂組成物の主剤に使用したときに優れた特性を得ることができる。なお、本発明において、化学純度は、エポキシ化合物中のN,N,N’,N’−テトラグリシジル−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルの含有量をいい、高速液体クロマトグラフィー法で、以下の分析条件で分析したときのN,N,N’,N’−テトラグリシジル−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルのピーク面積の分率(HPLC area%)である。
・カラム: YMC―Pack ODS−AM303 4.6φ×250mm
・カラム温度: 40℃
・移動相: メタノール:0.1%(v/v)リン酸水溶液=55:45(v/v)
・流量: 1ml/min
・注入量: 3μl
・検出: UV 254nm
・分析時間: 90分
・分析サンプル調製: サンプル0.02gを秤量し、エチレングリコールジメチルエーテル約40mlに希釈
ただし、上記の分析条件に基づく分析結果と同じ結果が得られる限り、この分析条件に限定されるものではない。
【0022】
本発明のエポキシ化合物は、E型粘度計で測定した40℃における粘度が25Pa・s以下と低いので硬化前のエポキシ樹脂組成物の取り扱い性および成形加工性を良好にすることができる。エポキシ化合物の粘度は、好ましくは20Pa・s以下、より好ましくは15Pa・s以下であるとよい。エポキシ化合物の粘度がこのような範囲内であることにより、これを含むエポキシ樹脂組成物を均一な組成とすることが容易であり、かつエポキシ樹脂組成物の取り扱い性および成形加工性を良好にすることができる。また、上述した通り、このエポキシ化合物は化学純度が高く、不純物の含有量が少ないので、貯蔵安定性が優れ、粘度が経時で増加することが少ない。なお、本発明において、エポキシ化合物の粘度は、以下の方法で分析したものである。
・粘度計: RE80U(東機産業(株)製)、ローターコードNo.38
・温度: 40℃
・回転数: 2.5rpm
ただし、上記の分析条件に基づく分析結果と同じ結果が得られる限り、この分析条件に限定されるものではない。
【0023】
本発明の高純度エポキシ化合物の製造方法は、溶媒に水を用い、水中で3,4’−ジアミノジフェニルエーテルと、この3,4’−ジアミノジフェニルエーテルに対し9〜24モル倍のエピクロロヒドリンを30〜60℃にて12〜200時間反応させ、N,N,N’,N’−テトラキス(3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル)−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルを生成する付加反応工程と、この付加反応工程で得られたN,N,N’,N’−テトラキス(3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル)−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルをアルカリ化合物と反応させ、脱塩化水素する環化反応工程との二つの工程で実施する。
【0024】
すなわち、付加反応工程では、水中で3,4’−ジアミノジフェニルエーテル1分子にエピクロロヒドリン4分子が付加し、N,N,N’,N’−テトラキス(3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル)−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルが生成する。これに続く環化反応工程では、N,N,N’,N’−テトラキス(3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル)−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルをアルカリ化合物により脱塩化水素し、四官能エポキシ体であるN,N,N’,N’−テトラグリシジル−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルが生成する。
【0025】
本発明の付加反応工程において、エピクロロヒドリンの使用量は、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル1モルに対し9モル倍量〜24モル倍量、好ましくは11モル倍量〜20モル倍量である。エピクロロヒドリンの使用量が9モル倍量未満では、ジグリシジル、トリグリシジル体やオリゴマー体などの不純物が増加し、付加反応工程での目的物であるN,N,N’,N’−テトラキス(3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル)−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルの純度および収率が低くなる。また、エピクロロヒドリンの使用量が24モル倍量を超えると、付加反応後、未反応のエピクロロヒドリンを含む反応液から目的物を分離するのに、多大なエネルギーを要し、また廃棄物が多くなるため、経済的に不利となる。
【0026】
付加反応工程では、反応溶媒として、水が用いられる。非特許文献1,2に記載された従来の製造法では、反応溶媒としてN,N−ジメチルホルムアミドやN,N−ジメチルアセトアミドなどの非プロトン性極性溶媒を用いていた。しかし、非プロトン性極性溶媒を使用すると、生成したクロロヒドロキシプロピル体のヒドロキシル基にエピクロロヒドリンの付加反応が起こりやすい。これに対し、水を反応溶媒にすることにより、クロロヒドロキシプロピル体とエピクロロヒドリンの反応を抑制することができる。すなわちこれにより不純物の生成を抑制し化学純度を高くすると共に、粘度を低くすることができる。また溶媒として水を使用することにより、低級アルコールなど他のプロトン性極性溶媒を使用したときと比べ、不純物の生成を抑制し目的生成物の化学純度および収率をより高くすると共に、その粘度をより低くすることができる。
【0027】
水としては、特に限定されないが、一般的な工業用水を用いることができる。すなわち、河川、地下水、湖沼、海水、かん水等を水源とし、沈殿、凝析、ろ過、蒸留、イオン交換、限外ろ過、逆浸透法等で精製したものである。
【0028】
水の使用量は、3,4’−ジアミノジフェニルエーテルに対し、好ましくは0.05〜40重量倍、より好ましくは0.05〜25重量倍、更に好ましくは、0.1〜15重量倍にするとよい。水の使用量を、このような範囲内にすることにより、クロロヒドロキシプロピル体とエピクロロヒドリンの反応を抑制することができる。
【0029】
本発明における付加反応溶媒には、3,4’−ジアミノジフェニルエーテルとエピクロロヒドリンとの反応を阻害しない限り、水以外の溶媒を含んでも良い。水以外の溶媒としては、炭化水素系溶媒、ハロゲン化炭化水素系溶媒、エーテル系溶媒、エステル系溶媒、ケトン系溶媒、窒素化合物系溶媒、硫黄化合物系溶媒が挙げられる。
【0030】
炭化水素系溶媒としては、ヘキサン、2−メチルペンタン、2,2−ジメチルブタン、2,3−ジメチルブタン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、ノナン、トリメチルヘキサン、デカン、ドデカン、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クメン、メシチレン、シクロヘキシルベンゼン、ジエチルベンゼン、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンおよびエチルシクロヘキサンなどが挙げられる。なかでもトルエンが好ましい。ここでいう炭化水素系溶媒は、ヘテロ原子を含まない炭化水素化合物からなる溶媒とする。
【0031】
ハロゲン化炭化水素系溶媒としては、塩化メチル、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、塩化エチル、1,1―ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、1,1,1,2−テトラクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、ペンタクロロエタン、ヘキサクロロエタン、塩化プロピル、塩化イソプロピル、1,2−ジクロロプロパン、1,2,3−トリクロロプロパン、塩化ブチル、塩化sec−ブチル、塩化イソブチル、塩化tert−ブチル、1−クロロペンタン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、p−ジクロロベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼン、o−クロロトルエン、p−クロロトルエン、1−クロロナフタレン、塩素化ナフタレン、臭化メチル、ブロモホルム、臭化エチル、1,2−ジブロモエタン、1,1,2,2−テトラブロモエタン、臭化プロピル、臭化イソプロピル、ブロモベンゼン、o−ジブロモベンゼン、1−ブロモナフタレン、フルオロベンゼン、ベンゾトリフルオリド、ヘキサフルオロベンゼン、クロロブロモメタン、トリクロロフルオロメタン、1−ブロモ−2−クロロエタン、1,1,2−トリクロロ−1,2,2−トリフルオロエタン、1,1,2,2−テトラクロロ−1,2−ジフルオロエタン等が挙げられる。
【0032】
エーテル系溶媒としては、ジイソピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル、アニソール、フェネトール、ジフェニルエーテル、ジオキサン、トリオキサン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテルおよびジエチレングリコールジブチルエーテルなどが挙げられる。
【0033】
エステル系溶媒としては、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸ブチル、ギ酸イソブチル、ギ酸ペンチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸sec−ブチル、酢酸ペンチル、酢酸イソペンチル、3−メトキシブチルアセタート、酢酸sec−ヘキシル、2−エチルブチルアセタート、2−エチルヘキシルアセタート、酢酸シクロヘキシル、酢酸ベンジル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸イソペンチル、酪酸エステル、イソ酪酸エステル、イソ吉草酸エステル、ステアリン酸エステル、安息香酸エステル、エチレングリコールモノアセタート、二酢酸エチレン、エチレングリコールエステル、炭酸ジエチル等が挙げられる。
【0034】
ケトン系溶媒としては、アセトン、2−ブタノン、2−ペンタノン、3−ペンタノン、2−ヘキサノン、メチルイソブチルケトン、2−ヘプタノン、4−ヘプタノン、ジイソブチルケトン、アセトニルアセトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、アセトフェノンなどが挙げられる。
【0035】
窒素化合物系溶媒としては、ニトロメタン、ニトロエタン、1−ニトロプロパン、2−ニトロプロパン、ニトロベンゼン、アセトニトリル、プロピオニトリル、スクシノニトリル、ブチロニトリル、イソブチロニトリル、バレロニトリル、ベンゾニトリル、α−トルニトリル、ピリジン、α−ピコリン、β−ピコリン、γ−ピコリン、2,4−ルチジン、2,6−ルチジン、キノリン、イソキノリン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。
【0036】
硫黄化合物系溶媒としては、二硫化炭素、硫化ジメチル、硫化ジエチル、チオフェン、テトラヒドロチオフェン、ジメチルスルホキシド、スルホラン等が挙げられる。
【0037】
水以外の溶媒の使用量は、エピクロロヒドリンに対し、4重量倍以下が好ましく、より好ましく2重量倍以下である。
【0038】
原料の仕込み順序および方法としては、3,4’−ジアミノジフェニルエーテルにエピクロロヒドリンと水を添加しても良いし、または3,4’−ジアミノジフェニルエーテルと水を含む溶液にエピクロロヒドリン或いはエピクロロヒドリンと水を添加しても良い。逆にエピクロロヒドリンに3,4’−ジアミノジフェニルエーテルと水を添加しも良いし、またはエピクロロヒドリンと水とを含む溶媒に3,4’−ジアミノジフェニルエーテル或いは3,4’−ジアミノジフェニルエーテルと水を添加しても良い。
【0039】
また、付加反応工程における反応温度は30〜60℃、好ましくは、35〜55℃である。反応温度が30℃未満であれば、反応終了までに時間がかかり、経済的に不利となる。反応温度が60℃を超えると、N,N,N’,N’−テトラキス(3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル)−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルが過剰の熱により、系内のエピクロロヒドリンと反応することでオリゴマー体などの不純物が増加するため、製品純度が低下し、かつ粘度が高くなる。
【0040】
本発明における付加反応の好ましい反応時間は、原料添加終了後、撹拌下で12時間〜200、好ましくは12〜150時間、より好ましくは12〜100時間である。付加反応の反応時間が12時間より短いと、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルの四官能体を生成する反応が完了せず、製品化した後にジグリシジル、トリグリシジルの不純物含量が多くなる。これにより、貯蔵安定性が著しく低下する。付加反応の反応時間が200時間を越えると、N,N,N’,N’−テトラキス(3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル)−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルが、系内のエピクロロヒドリンと反応することでオリゴマー体などの不純物が増加し、製品純度が低下し、かつ粘度が高くなる。
【0041】
本発明では、トリ(クロロヒドリン)体、すなわちN,N,N’−トリ(3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル)−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルの残存量が最小になった時点を、付加反応工程における反応終了の目安とされる。具体的には、反応液中に含まれるトリ(クロロヒドリン)体の含有量として10%(HPLC area%)以下が好ましく、より好ましくは7%(HPLC area%)以下である時にするとよい。トリ(クロロヒドリン)体の量が10%以下であれば、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルが重合した多量体の生成が抑制され、高純度かつ低粘度のN,N,N’,N’−テトラグリシジル−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルが得られる。また、付加反応工程が完了した後、環化反応工程の開始前に、付加反応工程の水溶媒及びエピクロロヒドリンの少なくとも一部を留去等の方法により除去し、反応液を濃縮しても良い。後述する環化反応工程の終了後に反応溶液から脱塩化水素により生成した塩を水洗・除去するときの効率が高くなる。また、留去された水及びエピクロロヒドリンの少なくとも一部は、付加反応に再利用しても良い。
【0042】
本発明では、環化反応において、N,N,N’,N’−テトラキス(3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル)−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルをアルカリ化合物と反応させ脱塩化水素する。
【0043】
アルカリ化合物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化カリウム、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド、ナトリウムn−プロポキシド、カリウムn−プロポキシド、ナトリウムイソプロポキシド、カリウムイソプロポキシド、ナトリウムn−ブトキシド、カリウムn−ブトキシド、ナトリウムtert−ブトキシド、カリウムtert−ブトキシド、ナトリウムtert−アミラート、カリウムtert−アミラート、ナトリウムn−ヘキシラート、カリウムn−ヘキシラートおよびテトラメチルアンモニウムヒドロキシドなどが例示されるが、中でも、水酸化ナトリウムと水酸化カリウムが好ましく用いられる。これらのアルカリ化合物は、そのものを投入しても良いが、水またはアルコール溶液として滴下しても良い。
【0044】
アルカリ化合物の使用量は、3,4’−ジアミノジフェニルエーテルに対し、4〜16モル倍量、より好ましくは5〜12モル倍量にするとよい。アルカリ化合物の使用量が4モル倍量未満では、目的物であるN,N,N’,N’−テトラグリシジル−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルの純度および収率が低くなる。また、アルカリ化合物の使用量が16モル倍量を超えると、環化反応工程の後、反応液から目的物を分離するのに、多大なエネルギーを要し、また廃棄物が多くなるため、経済的に不利となる。
【0045】
本発明における環化反応は、第四級アンモニウム塩および/または第四級ホスホニウム塩の共存下で行うことが好ましい。これらの塩を添加し共存させることにより、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル基からグリシジル基の環化反応が促進され、目的物であるエポキシ化合物の収率が向上する。
【0046】
本発明で用いられる第四級アンモニウム塩としては、例えばテトラメチルアンモニウム、トリメチル−エチルアンモニウム、ジメチルジエチルアンモニウム、トリエチル−メチルアンモニウム、トリプロピル−メチルアンモニウム、トリブチル−メチルアンモニウム、トリオクチル−メチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、トリメチル−プロピルアンモニウム、トリメチルフェニルアンモニウム、ベンジルトリメチルアンモニウム、ベンジルトリエチルアンモニウム、ジアリルジメチルアンモニウム、n−オクチルトリメチルアンモニウム、ステアリルトリメチルアンモニウム、セチルジメチルエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラn−ブチルアンモニウム、β−メチルコリン、テトラn−ブチルアンモニウムおよびフェニルトリメチルアンモニウム等の臭化塩、塩化塩、ヨウ化塩、硫酸水素塩および水酸化物等を挙げることができる。特に好ましくは、トリオクチル−メチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、ベンジルトリメチルアンモニウム、ベンジルトリエチルアンモニウム、テトラn−ブチルアンモニウムの臭化塩、塩化塩、硫酸水素塩および水酸化物である。
【0047】
また、本発明で用いられる第四級ホスホニウム塩としては、例えばテトラメチルホスホニウム、トリメチル−エチルホスホニウム、ジメチルジエチルホスホニウム、トリエチル−メチルホスホニウム、トリプロピル−メチルホスホニウム、トリブチル−メチルホスホニウム、トリオクチル−メチルホスホニウム、テトラエチルホスホニウム、トリメチル‐プロピルホスホニウム、トリメチルフェニルホスホニウム、ベンジルトリメチルホスホニウム、ジアリルジメチルホスホニウム、n−オクチルトリメチルホスホニウム、ステアリルトリメチルホスホニウム、セチルジメチルエチルホスホニウム、テトラプロピルホスホニウム、テトラn−ブチルホスホニウム、フェニルトリメチルホスホニウム、メチルトリフェニルホスホニウム、エチルトリフェニルホスホニウムおよびテトラフェニルホスホニウム等の臭化塩、塩化塩、ヨウ化塩、硫酸水素塩および水酸化物等を挙げることができる。
【0048】
第四級アンモニウム塩および/または第四級ホスホニウム塩の添加量は、触媒量でよく、3,4’−ジアミノジフェニルエーテルに対して0.001〜0.5モル倍、より好ましくは、0.01〜0.1モル倍であるとよい。第四級アンモニウム塩および第四級ホスホニウム塩の添加量をこのような範囲にすることにより、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル基からグリシジル基の環化反応を促進し、収率および化学純度を高くすることができる。
【0049】
環化反応工程の反応温度は、好ましくは0〜90℃であり、より好ましくは20〜60℃にするとよい。また、反応時間は、アルカリ化合物の添加終了後、好ましくは0.5〜10時間、より好ましくは1〜6時間にするとよい。
【0050】
環化反応工程の溶媒として、アルコール系溶媒、炭化水素系溶媒、エーテル系溶媒およびエステル系溶媒から選ばれるいずれかが好ましく用いられる。
【0051】
環化反応工程のアルコール系溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、1−プロパノール、1−ブタノール、1−ペンタノールおよび1−ヘキサノールなどの1級アルコール類、イソプロパノール、2−ブタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、2−ヘキサノール、シクロヘキサノール、2−ヘプタノールおよび3−ヘプタノールなどの2級アルコール類、tert−ブタノール、tert−ペンタノール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、トリプロピレングリコール、トリプロピレングリコールモノメチルエーテルおよびトリプロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテルなどが挙げられる。
【0052】
炭化水素系溶媒としては、例えばヘキサン、2−メチルペンタン、2,2−ジメチルブタン、2,3−ジメチルブタン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、ノナン、トリメチルヘキサン、デカン、ドデカン、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クメン、メシチレン、シクロヘキシルベンゼン、ジエチルベンゼン、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンおよびエチルシクロヘキサンなどが挙げられる。ここでいう炭化水素系溶媒は、ヘテロ原子を含まない炭化水素化合物からなる溶媒とする。
【0053】
また、エーテル系溶媒としては、例えばジイソピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル、アニソール、フェネトール、ジフェニルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテルおよびジエチレングリコールジブチルエーテルなどが挙げられる。
【0054】
また、エステル系溶媒としては、例えば酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチルおよび酢酸イソブチルなどが挙げられる。
【0055】
なかでも環化反応工程で好ましく用いられる溶媒は、メタノール、エタノール、1−プロパノール、1−ブタノール、イソプロパノール、2−ブタノール、tert−ブタノール、シクロヘキサン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クメン、メシチレンおよびジエチルベンゼンである。
【0056】
環化反応工程における溶媒の使用量は、3,4’−ジアミノジフェニルエーテルに対して好ましくは1〜20重量倍、より好ましくは、2〜10重量倍にするとよい。環化反応工程での溶媒の使用量を、このような範囲にすることにより、反応液の粘度が下がり混合状態がよくなり、すみやかに反応が進行する。
【0057】
上述した環化反応工程で得られた反応溶媒は、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、脱塩化水素により生成した塩及び溶媒を含む。この反応溶液は、ジグリシジル体、トリグリシジル体、クロロヒドロキシプロピル体などの不純物の含有量が少ないため、この反応液から塩及び溶媒を除去するだけで、化学純度が高くかつ粘度が低いN,N,N’,N’−テトラグリシジル−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルを得ることができる。
【0058】
脱塩化水素により生成した塩は、水で洗浄することにより溶媒除去することができる。また、洗浄した反応液から水層を分離除去し、得られた油層を加熱減圧下で留去することにより、溶媒を除去することができる。
【0059】
このようにして得られた高純度N,N,N’,N’−テトラグリシジル−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルは、ファインケミカル、医農薬原料、電気・電子部品の封止剤、電子情報材料、光学材料、絶縁材料や接着剤、ガラス繊維や炭素繊維等の複合材料などを構成する樹脂原料等、多岐にわたる工業用途に好ましく用いられる。なかでも、電気・電部品の封止剤、絶縁材料や接着剤、ガラス繊維や炭素繊維などとの複合材料に好ましく用いられる。
【0060】
本発明の高純度N,N,N’,N’−テトラグリシジル−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルと硬化剤を含有してなる樹脂組成物をガラス繊維、炭素繊維などに含浸させ硬化させることにより、高強度、高弾性率、高接着性、高靭性、耐熱性、耐候性、耐溶剤性および耐衝撃性などに優れた高機能なエポキシ樹脂硬化物を得ることができる。また、本発明の高純度N,N,N’,N’−テトラグリシジル−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルと通常のエポキシ樹脂を混合してアミンで硬化させると、例えば接着剤や塗料などに使用することができる硬化物を得ることができる。これらの硬化物は、機械的特性や電気的特性が高く、耐久性や信頼性も高い硬化物である。
【0061】
本発明により得られた高純度N,N,N’,N’−テトラグリシジル3,4’−ジアミノジフェニルエーテルは、その化学純度が90%以上と高くかつ40℃での粘度が25Pa・s以下と低く、ジグリシジル、トリグリシジルおよびクロロヒドロキシプロピル体などの不純物の含有量が少ないため、貯蔵安定性が優れ、これを使用した製品の耐久性や信頼性は極めて優れたものになる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例により具体的に説明するが、本発明は実施例のみに制限されるものではない。なお、以下の実施例および比較例において、「○○重量倍/3,4’−ジアミノジフェニルエーテル」という記載は、それぞれの添加量が3,4’−ジアミノジフェニルエーテル重量の○○重量倍であることを意味する。また「○○モル倍/3,4’−ジアミノジフェニルエーテル」という記載は、それぞれの添加量が3,4’−ジアミノジフェニルエーテルのモル量の○○モル倍であることを意味する。
【0063】
(実施例1)
温度計、冷却管および撹拌機を取り付けた四つ口フラスコに、エピクロロヒドリン166.5g(1.80mol、12モル倍/3,4’−ジアミノジフェニルエーテル)、付加反応溶媒として、イオン交換水7.5g(0.25重量倍/3,4’−ジアミノジフェニルエーテル)を仕込み、これに3,4’−ジアミノジフェニルエーテル30.0g(0.15mol)を添加した。この混合液を60℃の温度で15時間撹拌し付加反応を行った。反応液に環化反応溶媒として、トルエン75.0g(2.5重量倍/3,4’−ジアミノジフェニルエーテル)と環化反応の触媒として、硫酸水素テトラブチルアンモニウム1.50g(0.03モル倍/3,4’−ジアミノジフェニルエーテル)を添加し、続いて48%水酸化ナトリウム水溶液75.2g(0.90mol)を30℃の温度で30分かけて滴下し、さらに30℃の温度で4時間撹拌しながら熟成し、環化反応を行った。環化反応が終わった後、90g(3重量倍/3,4’−ジアミノジフェニルエーテル)の水で、生成した塩を溶解し、水層と油層を分離した。油層をさらに90g(3重量倍/3,4’−ジアミノジフェニルエーテル)の水で洗浄し、水層と油層を分離した。油層からトルエンとエピクロロヒドリンを減圧下留去すると、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルを主成分とする褐色の粘性液体が得られた。このエポキシ化合物の収量は62.7g(理論収量の98%)であった。また、エポキシ化合物の化学純度を高速液体クロマトグラフィー(以下「HPLC」という。)を使用して前述した方法で測定したところ94%(HPLC area%)であった。また、エポキシ当量が116g/eq、E型粘度計を使用し前述した方法で40℃で測定した粘度が24Pa・sであった。
【0064】
(実施例2)
実施例1において、反応温度を60℃から30℃へ、反応時間を15時間から180時間に変更したこと以外は、実施例1と同様に実施した。N,N,N’,N’−テトラグリシジル−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルを主成分とする褐色の粘性液体が61.9g得られた(理論収量の97%)。このエポキシ化合物の化学純度を、HPLCを使用して前述した方法で測定したところ95%(HPLC area%)であった。エポキシ当量が115g/eq、E型粘度計を使用し40℃で測定した粘度が22Pa・sであった。
【0065】
(実施例3)
実施例1において、付加反応溶媒をイオン交換水7.5gから蒸留水30g(1.0重量倍/3,4’−ジアミノジフェニルエーテル)に変更した以外は、実施例1と同様に実施した。N,N,N’,N’−テトラグリシジル−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルを主成分とする褐色の粘性液体が63.6g得られた(理論収量の98%)。このエポキシ化合物の化学純度を、HPLCを使用して前述した方法で測定したところ95%(HPLC area%)であった。エポキシ当量が116g/eq、E型粘度計を使用し40℃で測定した粘度が24Pa・sであった。
【0066】
(実施例4)
実施例1において、付加反応溶媒をイオン交換水7.5gから蒸留水30g(1.0重量倍/3,4’−ジアミノジフェニルエーテル)に、付加反応の反応温度を60℃から50℃に、反応時間を15時間から32時間に変更した以外は、実施例1と同様に実施した。N,N,N’,N’−テトラグリシジル−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルを主成分とする褐色の粘性液体が62.9g得られた(理論収量の98%)。このエポキシ化合物の化学純度を、HPLCを使用して前述した方法で測定したところ95%(HPLC area%)であった。エポキシ当量が117g/eq、E型粘度計を使用し40℃で測定した粘度が17Pa・sであった。
【0067】
(実施例5)
温度計、冷却管および撹拌機を取り付けた四つ口フラスコに、エピクロロヒドリン1443.3g(15.6mol、12モル倍/3,4’−ジアミノジフェニルエーテル)、付加反応溶媒として、イオン交換水260.3g(1.0重量倍/3,4’−ジアミノジフェニルエーテル)を仕込み、これに3,4’−ジアミノジフェニルエーテル261.3g(1.3mol)を添加した。この混合液を50℃の温度で32時間撹拌し付加反応を行った。反応液に環化反応の触媒として、硫酸水素テトラブチルアンモニウム13.22g(0.03モル倍/3,4’−ジアミノジフェニルエーテル)を添加し、続いて48%水酸化ナトリウム水溶液650.23g(7.80mol)を30℃の温度で30分かけて滴下し、さらに30℃の温度で4時間撹拌しながら熟成し、環化反応を行った。環化反応が終わった後、522.2g(2.0重量倍/3,4’−ジアミノジフェニルエーテル)の水で、生成した塩を溶解し、水層と油層を分離した。油層をさらに780.9g(3.0重量倍/3,4’−ジアミノジフェニルエーテル)の水で洗浄し、水層と油層を分離した。油層からトルエンとエピクロロヒドリンを減圧下留去すると、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルを主成分とする褐色の粘性液体が得られた。このエポキシ化合物の収量は561.0g(理論収量の100%)であった。また、このエポキシ化合物の化学純度をHPLCを使用して前述した方法で測定したところ95%(HPLC area%)であった。また、エポキシ当量が117g/eq、E型粘度計を使用し40℃で測定した粘度が16Pa・sであった。
【0068】
(実施例6)
実施例1において、付加反応溶媒をイオン交換水7.5gから蒸留水30g(1.0重量倍/3,4’−ジアミノジフェニルエーテル)に変更したこと、環化反応液に環化反応溶媒として加えていたトルエン75.0g(2.5重量倍/3,4’−ジアミノジフェニルエーテル)を加えなかったこと以外は、実施例1と同様に実施した。N,N,N’,N’−テトラグリシジル−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルを主成分とする褐色の粘性液体が61.7g得られた(理論収量の97%)。このエポキシ化合物の化学純度を、HPLCを使用して前述した方法で測定したところ95%(HPLC area%)であった。エポキシ当量が117g/eq、E型粘度計を使用し40℃で測定した粘度が23Pa・sであった。
【0069】
(比較例1)
温度計、冷却管および撹拌機を取り付けた四つ口フラスコに、エピクロロヒドリン1500g(16.2mol、12モル倍/3,4’−ジアミノジフェニルエーテル)、2−プロパノール675g(2.5重量倍/3,4’−ジアミノジフェニルエーテル)を仕込み、これに3,4’−ジアミノジフェニルエーテル270g(1.35mol)を添加した。この混合液を80℃の温度で21時間撹拌し付加反応を行った。付加反応液から2−プロパノールと残存エピクロロヒドリンの一部1178gを減圧下留去した。濃縮物にトルエン540g(2.0重量倍/3,4’−ジアミノジフェニルエーテル)と硫酸水素テトラブチルアンモニウム13.8g(0.041mol、0.03モル倍/3,4’−ジアミノジフェニルエーテル)を添加し、続いて48%水酸化ナトリウム675g(8.1mol)を30℃の温度で30分かけて滴下し、さらに30℃の温度で4時間撹拌しながら熟成し、環化反応を行った。環化反応が終わった後、810g(3重量倍/3,4’−ジアミノジフェニルエーテル)の水で生成した塩を溶解し、油層をさらに810g(3重量倍/3,4’−ジアミノジフェニルエーテル)の水で洗浄した。油層からトルエンとエピクロロヒドリンを減圧下留去すると、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルを主成分とする褐色の粘性液体が573g得られた。このエポキシ化合物の化学純度を、HPLCを使用して前述した方法で測定したところ90%(HPLC area%)であった。エポキシ当量が122g/eq、E型粘度計を使用し40℃で測定した粘度が36Pa・sであった。
【0070】
(比較例2)
比較例1において、付加反応溶媒を2−プロパノールからエタノールに変更したこと以外は、比較例1と同様に実施した。N,N,N’,N’−テトラグリシジル−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルを主成分とする褐色の粘性液体が575g得られた(理論収量の100%)。このエポキシ化合物の化学純度を、HPLCを使用して前述した方法で測定したところ90%(HPLC area%)であった。エポキシ当量が123g/eq、E型粘度計を使用し40℃で測定した粘度が35Pa・sであった。
【0071】
(比較例3)
温度計、冷却管および撹拌機を取り付けた四つ口フラスコに、エピクロロヒドリン111.1g(1.20mol、8モル倍/3,4’−ジアミノジフェニルエーテル)、付加反応溶媒として、イオン交換水7.5g(0.25重量倍/3,4’−ジアミノジフェニルエーテル)を仕込み、これに3,4’−ジアミノジフェニルエーテル30.0g(0.15mol)を添加した。この混合液を60℃の温度で15時間撹拌し付加反応を行った。反応液に環化反応溶媒として、トルエン75.1g(2.5重量倍/3,4’−ジアミノジフェニルエーテル)と環化反応の触媒として、硫酸水素テトラブチルアンモニウム1.52g(0.03モル倍/3,4’−ジアミノジフェニルエーテル)を添加し、続いて48%水酸化ナトリウム水溶液75.7g(0.90mol)を30℃の温度で30分かけて滴下し、さらに30℃の温度で4時間撹拌しながら熟成し、環化反応を行った。環化反応が終わった後、90g(3.0重量倍/3,4’−ジアミノジフェニルエーテル)の水で、生成した塩を溶解し、水層と油層を分離した。油層をさらに90g(3.0重量倍/3,4’−ジアミノジフェニルエーテル)の水で洗浄し、水層と油層を分離した。油層からトルエンとエピクロロヒドリンを減圧下留去すると、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルを主成分とする褐色の粘性液体が得られた。このエポキシ化合物の収量は61.0g(理論収量の96%)であった。また、このエポキシ化合物の化学純度をHPLCを使用して前述した方法で測定したところ96%(HPLC area%)であった。また、エポキシ当量が117g/eq、E型粘度計を使用し40℃で測定した粘度が28Pa・sであった。
【0072】
(比較例4)
実施例3において、エピクロロヒドリンの量を166.5g(12モル倍/3,4’−ジアミノジフェニルエーテル)から111.1g(8モル倍/3,4’−ジアミノジフェニルエーテル)に、付加反応時間を15時間から12時間に変更した以外は、実施例3と同様に実施した。N,N,N’,N’−テトラグリシジル−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルを主成分とする褐色の粘性液体が62.0g得られた(理論収量の97%)。このエポキシ化合物の化学純度を、HPLCを使用して前述した方法で測定したところ95%(HPLC area%)であった。エポキシ当量が117g/eq、E型粘度計を使用し40℃で測定した粘度が29Pa・sであった。
【0073】
(比較例5)
実施例1において、付加反応温度を60℃から80℃に、付加反応時間を15時間から7時間に変更した以外は、実施例1と同様に実施した。N,N,N’,N’−テトラグリシジル−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルを主成分とする褐色の粘性液体が62.2g得られた(理論収量の97%)。このエポキシ化合物の化学純度を、HPLCを使用して前述した方法で測定したところ92%(HPLC area%)であった。エポキシ当量が118g/eq、E型粘度計を使用し40℃で測定した粘度が33Pa・sであった。
【0074】
(比較例6)
比較例1において、反応温度を80℃から60℃に変更した以外は、比較例1と同様に実施した。N,N,N’,N’−テトラグリシジル−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルを主成分とする褐色液体が56.5g得られた(理論収量の89%)。このエポキシ化合物の化学純度を、HPLCを使用して前述した方法で測定したところ44%(HPLC area%)であった。エポキシ当量が127g/eq、E型粘度計を使用し40℃で測定した粘度が22Pa・sであった。
【0075】
実施例および比較例の反応条件および得られたN,N,N’,N’−テトラグリシジル−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルの品質を表1,2に示した。
【0076】
【表1】

【0077】
【表2】

【0078】
表1,2において、「エピクロロヒドリン使用量」および「触媒量」の欄のモル倍は、3,4’−ジアミノジフェニルエーテルに対するモル比を表わす。また付加反応条件および環化反応条件の「溶媒量」の欄の重量倍は、3,4’−ジアミノジフェニルエーテルに対する重量比を表わす。またIPAは2−プロパノール、TBAHSは硫酸水素テトラブチルアンモニウム、をそれぞれ表わす。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
N,N,N’,N’−テトラグリシジル−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルからなる高純度エポキシ化合物であり、その化学純度が90%以上、E型粘度計を使用して測定した40℃の粘度が25Pa・s以下であることを特徴とする高純度エポキシ化合物。
【請求項2】
溶媒に水を用い、3,4’−ジアミノジフェニルエーテルと、該3,4’−ジアミノジフェニルエーテルに対し9〜24モル倍のエピクロロヒドリンとを30〜60℃にて12時間〜200時間反応させ、N,N,N’,N’−テトラキス(3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル)−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルを生成する付加反応工程と、前記N,N,N’,N’−テトラキス(3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル)−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルをアルカリ化合物と反応させ脱塩化水素する環化工程によりN,N,N’,N’−テトラグリシジル−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルを製造することを特徴とする高純度エポキシ化合物の製造方法。
【請求項3】
前記高純度エポキシ化合物におけるN,N,N’,N’−テトラグリシジル−3,4’−ジアミノジフェニルエーテルの化学純度が90%以上、E型粘度計を使用して測定した40℃の粘度が25Pa・s以下である請求項2記載の高純度エポキシ化合物の製造方法。
【請求項4】
前記水の使用量が、3,4’−ジアミノジフェニルエーテルに対し、0.05〜40重量倍である請求項2または3に記載の高純度エポキシ化合物の製造方法。
【請求項5】
前記環化反応工程において、第四級アンモニウム塩および/または第四級ホスホニウム塩を共存させる請求項2〜4のいずれかに記載の高純度エポキシ化合物の製造方法。

【公開番号】特開2013−75889(P2013−75889A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−198353(P2012−198353)
【出願日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【出願人】(000187046)東レ・ファインケミカル株式会社 (153)
【Fターム(参考)】