説明

高純度シリカ・高純度シリコンの製造方法ならびに製造装置

【課題】99.99%以上の高純度のシリカまたはシリコンを工業的にかつ安価に効率よく製造する方法を提供する。
【解決手段】本発明の高純度シリカの製造方法は、珪砂または水晶の細粒子を1ミクロン以下に粉砕する粉砕工程と、粉砕したものを水を加えてスラリー状にするスラリー工程と、磁石分離器を用いて、鉄・アルミ・カリウム等の不純物を取り除いて、二酸化硅素を取り出し回収する磁力分離回収工程と、回収した二酸化硅素から加熱により水分を蒸発させ、若しくは、遠心分離により水分を除去し、二酸化硅素を乾燥させる乾燥工程とを備え、99.99%以上の高純度シリカを得る。磁石分離器に電磁回転型磁力分離器を用い、長時間運転を可能とし製造コストを安価にする。更に、カーボンアーク炉内で還元する工程を加え、高純度シリコンを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高純度シリカ(二酸化珪素)及び高純度シリコンの製造方法に関する。さらに詳しくは、太陽電池用シリコン、半導体用シリコン、化粧品原料、ガラス工業用原料など幅広い商品に有用な高純度シリカおよびシリコンの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコンまたはシリカ(二酸化珪素)の製造方法としては、希薄フッ化水素酸の浸漬処理手段、溶解炉や電磁分離機などを用いて、精製する方法が知られている(例えば、先行文献1〜先行文献3を参照。)。
先行文献1に開示されているシリコンの製造方法は、純度が99.5%以上の金属シリコンを150μm以下に粉砕した後、その粉砕物から5μmより小さな粒径の微粒子を分級除去することにより、5〜150μmの粒径の金属シリコンを採取し、この微粒子の除去された金属シリコン粒子を希薄フッ化水素酸中において10時間以上浸漬処理することによって、酸洗浄を施した後、水洗して乾燥して製造するものである。
【0003】
また、先行文献2に開示されているシリコンの製造方法は、純度2Nの溶融シリコンを融液温度1420〜1470℃に保持し、中空回転冷却体を用いて、中空回転冷却体に晶出させた高純度シリコンの引き上げ、シリコンを精製して、99.9999%以上の高純度シリコンを得るものである。
【0004】
しかしながら、上記の先行文献の製造方法においては、希薄フッ化水素酸の浸漬処理手段や溶解炉を用いるため、環境汚染をもたらす可能性が非常に高いという問題がある。
また、先行文献2の場合、シリコンを一旦溶解炉で溶融することから、工業的に実施する上において製造コストが高いといった問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−050180号公報
【特許文献2】特開2000−351616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記状況に鑑みて、本発明は、99.99%以上の高純度のシリカまたはシリコンを工業的にかつ安価に効率よく製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成すべく、本発明の高純度シリカの製造方法は、
(1)珪砂または水晶の細粒子を1ミクロン以下に粉砕する粉砕工程と、
(2)粉砕したものに水を加えてスラリー状にするスラリー化工程と、
(3)磁石分離器を用いて、鉄・アルミ・カリウム・カルシウム・マグネシウム・マンガンなどの不純物を取り除いて、二酸化硅素を取り出し回収する磁力分離回収工程と、
(4)上記回収した二酸化硅素から遠心分離により水分を除去し、或いは、加熱により水分を蒸発させて二酸化硅素を乾燥させる乾燥工程と、
を備えるものである。
【0008】
上記(1)〜(4)の工程により、珪砂または水晶の細粒子に含まれている鉄、アルミ、カリウム、カルシウム、マグネシウム、マンガン等の金属類を確実に除去することができ、99.99%以上の高純度シリカを得ることができる。
ここで、磁力分離工程における磁石分離器としては、電磁回転型磁力分離器を好適に用いることができる。電磁回転型磁力分離器によれば、2次処理を伴う化学的分離ではなく物理的分離を行い、磁極の残留磁力を瞬時に消去することにより、分離作業と磁極洗浄作業を同時に行うことができ、長時間の運転が可能で製造コストが安価にできる。
【0009】
また、本発明の高純度シリコンの製造方法は、上記(1)〜(4)の工程に加えて、窒素雰囲気またはカーボンアーク炉内で還元する還元工程を更に加えることにより、99.99%以上の高純度シリコンを得ることができる。
より好適には、得られた高純度シリカをカーボンアーク炉内に置き還元する。窒素雰囲気の還元では、NOx(一酸化窒素(NO)・二酸化窒素(NO)など窒素酸化物)が発生することがあり、その回避策を講じる必要があるからである。
そして、得られた高純度シリカや高純度シリコンを用いて、太陽電池用シリコンを得ることが可能である。
【0010】
次に、本発明の高純度シリカの製造装置は、
(a)珪砂または水晶の細粒子を粉砕機に供給する原料供給手段と、
(b)上記の細粒子を1ミクロン以下に粉砕する粉砕機と、
(c)上記の粉砕機により粉砕した原料に水を加えて攪拌し、原料をスラリー状にするスラリー化槽と、
(d)スラリー状の原料から二酸化硅素を取り出し回収する磁力分離回収する電磁回転型磁力分離器と、
(e)上記回収した二酸化硅素を乾燥させる遠心分離機と、
を少なくとも具備する構成とされる。
【0011】
また、本発明の高純度シリコンの製造装置は、
(a)珪砂または水晶の細粒子を粉砕機に供給する原料供給手段と、
(b)上記の細粒子を1ミクロン以下に粉砕する粉砕機と、
(c)上記の粉砕機により粉砕した原料に水を加えて攪拌し、原料をスラリー状にするスラリー化槽と、
(d)スラリー状の原料から二酸化硅素を取り出し回収する磁力分離回収する電磁回転型磁力分離器と、
(e)上記回収した二酸化硅素を乾燥させる遠心分離機と、
(f)乾燥させた二酸化硅素を還元するカーボンアーク炉と、
を少なくとも具備する構成とされる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法ならびに製造装置によれば、珪砂または水晶の細粒子に含まれている鉄、アルミ、カリウム、カルシウム、マグネシウム等の金属類を確実に除去することができ、99.99%以上の高純度シリカまたは高純度シリコンを得ることができる。
【0013】
また、本発明の製造方法ならびに製造装置によれば、二次処理を伴わないために、短期で大量の処理が可能である。分離物質が正確に分別でき、鉄、アルミ、カリウム、カルシウム、マグネシウム、マンガン等の金属類を完全に除去することができる。
【0014】
さらに、本発明の製造方法ならびに製造装置によれば、物理的選別を施すために、処理による公害発生は殆どなく、単純な工程作業のために、機械の能力を上げることによって大量処理が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1の高純度シリカの製造フロー
【図2】実施例1の高純度シリカの製造装置の概略構成図
【図3】蛍光X線分析法を施した分析結果(1)
【図4】蛍光X線分析法を施した分析結果(2)
【図5】実施例2の高純度シリコンの製造フロー
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明していく。なお、本発明の範囲は、以下の実施例や図示例に限定されるものではなく、幾多の変更及び変形が可能である。
【実施例1】
【0017】
まず、実施例1として、高純度シリカの製造方法ならびに製造装置の一実施態様を説明する。
図1は、実施例1の高純度シリカの製造フローを示している。
粉砕工程(S1ステップ)は、原料となる珪砂または水晶の細粒子を1ミクロン以下に粉砕するプロセスである。原料としては、97〜98.5%の特定産地の硅砂を使用する。原料となる硅砂は、日本国中・世界中どこにでも有るが、含有不純物の違い、純度などを考慮して産地は一定にする。なお、原料として水晶の細粒子を用いる方が、99.999999%の純度(7N)以上の高純度シリカを得られる可能性ある。
【0018】
粉砕工程で用いる粉砕機は、乾式・湿式の粉砕機のいずれも可能であるが、後工程の磁力分離回収工程(S3ステップ)で用いる電磁回転型磁力分離器である磁選機(小嶋自動制御機工業所製)を考慮して、乾式のジェットミルで0.3〜1.0μmの粒径に粉砕可能なアイシン産業株式会社製のナノジェットマイザ−(登録商標)を使用する。使用する磁選機の性能は、600〜700kg/hである。
更に、超微粉精密分級機を用いて、0.5〜1.0μmの粒径のものを選別する(分級点は0.5〜1.0μmでふるい分けを行う)。
【0019】
次に、スラリー化工程(S2ステップ)は、粉砕工程(S1ステップ)により粉砕したものに水を加えてスラリー状にする。原料をスラリー化するのは、後工程の磁力分離回収工程(S3ステップ)で用いる磁選機を用いてシリカ以外の不純物を取り除くためである。
磁選機の性格上、塩素を含む水道水ではなく、地下水を用いて粉砕・分級したシリカに地下水を混入してスラリー状にする。
【0020】
そして、磁力分離回収工程(S3ステップ)は、磁選機を用いて、鉄・アルミ・カリウム・カルシウム・マグネシウム・マンガンなどの不純物を取り除いて、二酸化硅素を取り出し回収する。
磁選機の能力に特に制限はないが、例えば、70kwのものを用いる。スラリー状のシリカをポンプで吸い上げ磁選機の中へ投入する。磁選機の着磁時間を5分に設定して行う。
【0021】
最後に、乾燥工程(S4ステップ)により、磁力分離回収工程(S3ステップ)で回収した二酸化硅素から遠心分離機を用いて水分を除去し、更に加熱により水分を蒸発させて二酸化硅素を乾燥させる。具体的には、除水は遠心分離機によって行う。含有不純物を取り除いたスラリー状の高純度シリカを遠心分離機へ移す。なお、除いた水は再利用する。
遠心分離機の後、含水率80〜90%となる。更に電気炉等で加熱して、含水率30〜40%とする。
【0022】
図2に、実施例1の高純度シリカの製造装置の概略構成図を示す。
実施例1の高純度シリカの製造装置は、珪砂または水晶の細粒子を粉砕機2に供給する原料供給槽1と、細粒子を1ミクロン以下に粉砕する粉砕機2と、粉砕機2により粉砕した原料に水を加えて攪拌し、原料をスラリー状にするスラリー化槽3と、スラリー状の原料から二酸化硅素を取り出し回収する磁力分離回収する電磁回転型磁力分離器4と、回収した二酸化硅素を乾燥させる遠心分離機5からなる。最終的に製造した二酸化硅素は製品貯蔵槽6に貯蔵される。
なお、空中の浮遊不純物が混入しないように、粉砕機2と電磁回転型磁力分離器4(磁選機)は、ビニ−ル等で別々に覆い、クリ−ンな環境を維持している。
【0023】
図3および図4は、実施例1の高純度シリカの製造フローで製造したシリカ(粒度径:13μm)に対して、蛍光X線分析法を施した分析結果である。蛍光X線分析法は、非破壊で迅速に定性分析および定量分析を行うことができる。図4は、定性分析結果を示している。
SQX分析結果を下表1に示す。SQX分析とは、標準試料を準備することなく定性分析から半定量値を算出するプログラム分析である。この標準試料を必要としないSQX分析は、微量重金属の分析に有効な分析手法である。
【0024】
【表1】

【0025】
上記の表1から、実施例1の高純度シリカの製造フローで製造したシリカの純度は、99.9%であることがわかる。これは、測定したシリカに空気浮遊物が入り込んでいるためである。シリカの粒度径を1μm程度まで細かくし、製造工程をクリーンルーム内で行うことにより、シリカの純度を99.99999程度まで向上することができる。
【実施例2】
【0026】
実施例2では、高純度シリコンの製造方法ならびに製造装置を説明する。
実施例2の高純度シリコンの製造方法は、上述の実施例1で得られた高純度シリカを、カーボンアーク炉の中に置き還元するものである。これにより、99.99%以上の高純度シリコンを得ることができる。なお、窒素雰囲気にして還元することでも構わない。
【0027】
図5は、実施例2の高純度シリコンの製造フローを示している。実施例2の高純度シリコンの製造フローは、上述の実施例1の高純度シリカの製造フロー(図1を参照)の粉砕工程(S1ステップ)、スラリー化工程(S2ステップ)、磁力分離回収工程(S3ステップ)、乾燥工程(S4ステップ)に、更に、還元工程(S5ステップ)を加えるものである。
粉砕工程(S1ステップ)における粉砕粒度を制御することにより、太陽光セルの他、半導体用、化粧品原料、ガラス工業用等、幅広い商品を精製できることになる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の製造方法や製造装置により得られた高純度シリカや高純度シリコンは、例えば、太陽電池用シリコン、半導体用シリコン、化粧品原料、ガラス工業用原料、るつぼ材料、電解還元材料など幅広い商品の高純度シリカ原料等として有用である。
【符号の説明】
【0029】
1 原料貯蔵槽
2 粉砕機
3 スラリー化槽
4 電磁回転型磁力分離器
5 遠心分離機
6 製品貯蔵槽


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)珪砂または水晶の細粒子を1ミクロン以下に粉砕する粉砕工程と、
(2)粉砕したものに水を加えてスラリー状にするスラリー化工程と、
(3)磁石分離器を用いて、鉄・アルミ・カリウム・カルシウム・マグネシウム・マンガンなどの不純物を取り除いて、二酸化硅素を取り出し回収する磁力分離回収工程と、
(4)上記回収した二酸化硅素から遠心分離により水分を除去し、或いは、加熱により水分を蒸発させて二酸化硅素を乾燥させる乾燥工程と、
を備えたことを特徴とする高純度シリカの製造方法。
【請求項2】
前記磁力分離工程において、磁石分離器には、電磁回転型磁力分離器を用いることを特徴とする請求項1に記載の高純度シリカの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の製造方法を用いて得られた二酸化硅素であって、その純度が99.99%以上である高純度二酸化硅素。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の製造方法を用いて得られた高純度二酸化硅素に対して、窒素雰囲気またはカーボンアーク炉内で還元する還元工程を施して、99.99%以上の高純度シリコンを得ることを特徴とする高純度シリコンの製造方法。
【請求項5】
請求項3の高純度二酸化硅素を原料としてなる、または請求項4の方法によって得られた高純度シリコンを用いた太陽電池用シリコン。
【請求項6】
珪砂または水晶の細粒子を粉砕機に供給する原料供給手段と、
前記細粒子を1ミクロン以下に粉砕する粉砕機と、
前記粉砕機により粉砕した原料に水を加えて攪拌し、原料をスラリー状にするスラリー化槽と、
スラリー状の原料から二酸化硅素を取り出し回収する磁力分離回収する電磁回転型磁力分離器と、
上記回収した二酸化硅素を乾燥させる遠心分離機と、
を少なくとも具備する高純度シリカの製造装置。
【請求項7】
珪砂または水晶の細粒子を粉砕機に供給する原料供給手段と、
前記細粒子を1ミクロン以下に粉砕する粉砕機と、
前記粉砕機により粉砕した原料に水を加えて攪拌し、原料をスラリー状にするスラリー化槽と、
スラリー状の原料から二酸化硅素を取り出し回収する磁力分離回収する電磁回転型磁力分離器と、
上記回収した二酸化硅素を乾燥させる遠心分離機と、
乾燥させた二酸化硅素を還元するカーボンアーク炉と、
を少なくとも具備する高純度シリコンの製造装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−116605(P2011−116605A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−277116(P2009−277116)
【出願日】平成21年12月6日(2009.12.6)
【出願人】(509336152)
【Fターム(参考)】