説明

高純度シリコンの製造方法

【解決手段】不純物としてBを含むSiとフラックスとを加熱溶融し、必要により溶融状態のSiとフラックスを含む融液中に気体を吹き込み、その後Siとフラックスとを分離する操作を複数回行うことでSi中のBを除去する高純度Siの製造方法であり、m,n回目(m<n、n≧2)の操作後のSi中のB濃度を[B]minSi、[B]ninSiとし、フラックス中のB濃度を[B]minf、[B]ninfとし、Si中とフラックス中のB濃度比をLBm=[B]minf/[B]minSi、LBn=[B]ninf/[B]ninSiとしたとき、LBm≦LBnである高純度Siの製造方法。
【効果】Si中のBを効率よく低減することができる。一般的な大気開放炉を使用し、更にプラズマトーチ等の高価な設備も不要であるため、設備投資額を大幅に低減でき、生産性が高く、極めて安価にBが低減されたSiを得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属シリコン中のホウ素(以下、Bと表記する。)を効果的に低減し、高純度化するシリコンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油などの化石燃料の代替エネルギーとして、二酸化炭素の排出量が少なく、再生可能な自然エネルギー源が注目されている。中でも太陽電池は、太陽光から容易に電気エネルギーを得ることができる。現在、実用段階にある商用太陽電池の大部分は、シリコン(Si)を用いたシリコン系太陽電池であり、一般家庭への普及拡大にコストの低減が望まれている。
【0003】
シリコンは、一般的に珪石(SiO2)を炭素で還元して得る。これを一般的に金属グレードシリコン(MG−Si)と呼び、純度は98〜99%程度で、鉄,アルミニウム,チタン等の金属不純物が1〜2%と、半導体のドーパント材料であるB,P等が数質量ppm〜数十質量ppm含まれている。このMG−Siをシーメンス法により精製し、更にCZ法やFZ法により純度を99.999999999%(11N)程度にまで超高純度化し、各種半導体の製造に使用する。これを半導体用シリコン(SE−Si)と呼ぶ。
【0004】
太陽電池に使用されるシリコンは、99.9999%(6N)程度の純度が必要とされ、各金属不純物は0.1質量ppm以下に、ドーパントとして作用するB,Pも0.3質量ppm以下であることが要求される。これを一般的にソーラーグレードシリコン(SOG−Si)と呼ぶ。SE−SiはSOG−Siの純度の要求値を十分満たしている。
【0005】
しかしながら、SE−Si製造に用いられるシーメンス法は、MG−Siを塩素と反応させて気体化し、更に水素と混合し、電流で赤熱させた純粋Si上に還元・析出させるという複雑な工程と、大量のエネルギーを要する。従って、コストが高く、大量にSiを必要とする太陽電池の低コスト化の障害となる。
【0006】
そこで、MG−Siから簡便な手法で、安価なSOG−Siを得る試みが多くなされてきた。MG−Si中の不純物のうち、Pに対しては、Si融点近傍でのPの蒸気圧が比較的高いことから高真空下、局所高温加熱の一方あるいは両方の処理により揮発除去する方法が提案されている。しかし、Fe,Al,Ti,Cr等の金属不純物及びBは、Si融点近傍での蒸気圧が低いため揮発除去することが困難である。このうち、Fe,Al,Ti等の金属不純物低減についてはSiの固液間における分配係数が小さいことを利用して一方向凝固法で低減する方法が提案されている。
【0007】
一方、Bは、分配係数が0.8程度であり、工業的に一方向凝固を利用して低減することは困難である。そこで、B低減については、種々の方法が提案されている。
【0008】
特開平9−202611号公報(特許文献1)には、1,400℃以下で分解し、H2O及び/又はCO2を発生する1種又は2種以上の固体をAr,H2,COなどのキャリアガスと共に溶融Si浴中に吹き込むBの低減方法が提案されている。
【0009】
特開2003−12317号公報(特許文献2)には、B濃度が100質量ppm以下であるSiに、塩基性成分を含むフラックスを添加し、これらを溶融させるフラックス添加工程と、溶融Si中にノズルを浸漬し、酸化性気体を吹き込む反応工程と、Siからフラックスを除去するフラックス除去工程とを有するシリコンの精製方法が提案されており、フラックスにはCaO、CaCO3又はNa2Oを含む化合物、特にCaO−CaF2混合フラックスが好ましいBの低減方法が開示されている。
【0010】
特許第3205352号公報(特許文献3)には、溶融Siの溶湯面に、不活性ガス又はこれにH2ガスを混入した混合ガスに水蒸気を添加したガスをプラズマガスとして用いて発生させたプラズマガスジェット流を噴射して溶融Siを撹拌するBの低減方法が開示されている。
【0011】
しかしながら、特許文献1には不純物精製用添加剤(=フラックス)についての記述は無く、効果はキャリアガスと共に吹き込まれた固体が分解し、発生したH2O及び/又はCO2によるものに限定される。特許文献2には、フラックス中のB濃度の記述は無く、また、B除去後のシリコン中のB濃度も太陽電池の原料用シリコンに要求される0.3ppm以下に達していない。
【0012】
特許文献3にも、不純物精製用添加剤(=フラックス)についての記述は無く、効果は吹き付けるプラズマガスジェット流によるものに限定される。更に、特許文献3によるプラズマ溶解法では、高価なプラズマトーチを設置する必要があるだけでなく、不純物低減の反応領域がプラズマ直下の火点に限定されるため、生産性が低い。そのため、いずれの方法も工業化には至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平9−202611号公報
【特許文献2】特開2003−12317号公報
【特許文献3】特許第3205352号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、シリコンの精製において、Bを簡便で効果的に低減する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、不純物としてBを含むシリコンと、フラックスとをそれぞれが溶融するよう加熱し、これらを接触させた後、必要により溶融状態のシリコンとフラックスとを含む融液中に処理気体を吹き込み、次いで、上記シリコンとフラックスとを分離する操作を複数回行うことで、シリコン中のBを除去する高純度シリコンの製造方法であって、m回目及びn回目(m及びnは任意の自然数で、m<nかつn≧2である。以下同じ。)の操作後のシリコン中のB原子濃度(質量ppm、以下同じ。)をそれぞれ[B]minSi、[B]ninSiとし、フラックス中のB原子濃度(質量ppm、以下同じ。)をそれぞれ[B]minf、[B]ninfとし、シリコン中とフラックス中のB原子の濃度比をそれぞれLBm=[B]minf/[B]minSi、LBn=[B]ninf/[B]ninSiとしたとき、LBm及びLBが、LBm≦LBnであるときに、B濃度が十分低減され、高純度な金属シリコンを高収率で得ることができることを見出すと共に、シリコン中のB濃度に応じて、シリコンとフラックスを溶融し、接触させる温度条件、ガス条件、フラックス組成を調整することにより上記式が達成されることを見出し、本発明をなすに至った。
【0016】
即ち、本発明は、下記の高純度シリコンの製造方法を提供する。
請求項1:
不純物としてホウ素を含むシリコンとフラックスとをそれぞれが溶融するよう加熱し、これらを溶融状態で接触させ、次いで、必要により溶融状態のシリコンとフラックスを含む融液中に処理気体を吹き込み、その後、シリコンとフラックスとを分離する操作を複数回行うことによりシリコン中のホウ素を除去する高純度シリコンの製造方法であって、
m回目及びn回目(m及びnは任意の自然数で、m<nかつn≧2である。)の操作後のシリコン中のホウ素原子濃度(質量ppm)をそれぞれ
[B]minSi、[B]ninSi
とし、フラックス中のホウ素原子濃度(質量ppm)をそれぞれ
[B]minf、[B]ninf
とし、シリコン中とフラックス中のホウ素原子の濃度比をそれぞれ
LBm=[B]minf/[B]minSi
LBn=[B]ninf/[B]ninSi
としたとき、
LBm≦LBn
であることを特徴とする高純度シリコンの製造方法。
請求項2:
m回目及びn回目の操作に使用するフラックスの、操作前のホウ素原子濃度(質量ppm)[B]m0inf及び[B]n0infが、
[B]m0inf≧[B]n0inf
である請求項1記載の高純度シリコンの製造方法。
請求項3:
n回目の操作で使用したフラックスを他のシリコン精製におけるm’回目(m’及びnは任意の自然数で、m’<nかつn≧2である。)の操作に使用する請求項1又は2記載の高純度シリコンの製造方法。
請求項4:
前記フラックスが、ケイ素の酸化物、カルシウムの酸化物及びアルミニウムの酸化物の1種又は2種以上を含む請求項1〜3のいずれか1項記載の高純度シリコンの製造方法。
請求項5:
前記フラックスが、アルカリ金属、アルカリ金属の酸化物、アルカリ金属の塩化物、アルカリ金属のフッ化物、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の塩化物、アルカリ土類金属のフッ化物、アルカリ土類金属の炭酸塩、アルカリ土類金属の水酸化物、アルミニウム、アルミニウムの塩化物、アルミニウムのフッ化物、アルミニウムの炭酸塩、アルミニウムの水酸化物、チタン、チタンの酸化物、チタンの塩化物、チタンのフッ化物、チタンの炭酸塩及びチタンの水酸化物の1種又は2種以上を含む請求項1〜4のいずれか1項記載の高純度シリコンの製造方法。
請求項6:
前記処理気体が、酸素、ハロゲン化水素、ハロゲンガス、水蒸気、窒素、ハロゲン化窒素及びアンモニアの1種又は2種以上を含むガスである請求項1〜5のいずれか1項記載の高純度シリコンの製造方法。
請求項7:
前記処理気体が、ヘリウム、ネオン及びアルゴンの1種又は2種以上を含むガスである請求項1〜6のいずれか1項記載の高純度シリコンの製造方法。
請求項8:
加熱溶融温度が1,410〜2,400℃の範囲であって、n回目の加熱溶融温度がm回目の加熱溶融温度よりも高い請求項1〜7のいずれか1項記載の高純度シリコンの製造方法。
請求項9:
前記フラックスが、ケイ素の酸化物10〜90質量%、カルシウムの酸化物10〜90質量%及びアルミニウムの酸化物0〜70質量%を含有するものであり、その合計使用量が、シリコンに対して10〜100質量%である請求項1〜8のいずれか1項記載の高純度シリコンの製造方法。
請求項10:
前記処理気体が、酸素、ハロゲン化水素、ハロゲンガス、水蒸気、窒素、ハロゲン化窒素及びアンモニアの1種又は2種以上を5〜100体積%、ヘリウム、ネオン及びアルゴンの1種又は2種以上を0〜95体積%含有する請求項1〜9のいずれか1項記載の高純度シリコンの製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、シリコン中のBを効率よく低減することができる。また、一般的な大気開放炉を使用し、更にプラズマトーチ等の高価な設備も不要であるため、設備投資額を大幅に低減できる。この結果、生産性が高く、極めて安価にBが低減されたシリコンを得ることができる。
本発明を用いて得られたシリコンは、最も低減が困難なBを除去しているので、一般的な真空溶解、一方向凝固等を施すことで、P,Fe,Al,Ca,Cr等のドーパントや金属不純物類を低減し、極めて安価に純度6N程度の太陽電池に使用可能なソーラーグレードシリコン(SOG−Si)とすることができる。
また、本発明の方法により、金属シリコン(MG−Si)に限らず、半導体製造工程でBをドープしたオフグレード品と呼ばれる廃Si材も精製することができる。なお、得られた高純度シリコンは、太陽電池用のSi原料に限定されることなく、高純度シリコンを必要とする各種産業分野の原材料、製品等に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】溶融シリコンと溶融したフラックスを接触させる操作前後のシリコン中及びフラックス中のBの移動モデルを示す概略図である。aはシリコンとフラックスを接触させた直後の状態を示し、bは所定時間経過後の状態を示す。
【図2】B生成物の生成モデルを示す概略図である。aはシリコンとフラックスを接触させた直後の状態を示し、bはシリコン中のBがフラックスへ移行した状態を示し、cはBとフラックスとからB生成物が生成した状態を示す。
【図3】処理気体を吹き込む操作時のB生成物の生成モデルを示す概略図である。aは溶融シリコン中に処理気体を吹き込んだ状態を示し、bはBと処理気体とからB生成物が生成した状態を示す。
【図4】従来技術におけるm回目及びn回目操作におけるB除去効果のモデルを示す概略図である。a,bはそれぞれm回目の操作前及び操作後の状態を示し、c,dはそれぞれn回目の操作前及び操作後の状態を示す。
【図5】本発明におけるm回目及びn回目操作におけるB除去効果のモデルを示す概略図である。a,bはそれぞれm回目の操作前及び操作後の状態を示し、c,dはそれぞれn回目の操作前及び操作後の状態を示す。
【図6】n回目操作に使用したフラックスを他のシリコン精製のm’回目操作に使用したときのB除去効果のモデルを示す概略図である。a,bはそれぞれn回目の操作前及び操作後の状態を示し、c,dはそれぞれm’回目の操作前及び操作後の状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の製造方法は、不純物としてBを含むシリコン(Si)と、フラックスとをそれぞれが溶融するよう加熱し、これらを接触させた後、必要により溶融状態のシリコンとフラックスを含む融液中に処理気体を吹き込み、その後、上記シリコンとフラックスとを分離する操作を複数回行うことで、シリコン中のBを除去する高純度シリコンの製造方法であって、m回目及びn回目の操作後のシリコン中のB原子濃度をそれぞれ
[B]minSi、[B]ninSi
とし、フラックス中のB原子濃度をそれぞれ
[B]minf、[B]ninf
とし、シリコン中とフラックス中のB原子の濃度比をそれぞれ
LBm=[B]minf/[B]minSi
LBn=[B]ninf/[B]ninSi
としたとき、
LBm≦LBn
であることを特徴とする。
【0020】
一般的に、シリコン中のB濃度が低下するとフラックス中へ移行するシリコン中のBの割合は低下し、シリコン中とフラックス中のB原子の濃度比LBは、
LBm>LBn
と変化してシリコン中のBの除去が困難になる。従って、シリコン中のBを確実に除去するために使用するフラックス量や、吹き込むガスの量を増す。しかし、一度使用されたフラックスは廃棄されており、使用するフラックスの量が増えると廃棄するフラックスの量が増加してしまう。また吹き込むガス量が増加するとシリコンの酸化、揮発が増加してシリコンの回収率が低下する。
【0021】
本発明では、使用するフラックスの量や吹き込むガスの量を増加せず処理を行う。従って、廃棄するフラックスが増すこともなく、またシリコンの回収率を低下させることなく、シリコン中のBを効率的に除去できる。そのためにLB値をLBm≦LBnとなる条件でBの除去を行う。
【0022】
具体的な手法としてシリコンとフラックスを溶融し、接触させる際の温度条件、吹き込むガス条件、フラックス組成を調整、最適化し、LBを変化させることで
LBm≦LBn
となる処理条件を達成できる。
【0023】
本発明においては、シリコン及びフラックスを加熱し、溶融状態としてこれらを接触・作用させる。更には、溶融状態のシリコンとフラックスを含む融液中に処理気体を吹き込んで作用させる。
【0024】
このとき、シリコンとフラックスを接触させる状態として、加熱溶融したシリコンに固体のフラックスを加えて溶融しても良く、加熱溶融したフラックスに固体のシリコンを加えて溶融しても良い。また、固体のシリコンと固体のフラックスを加熱して溶融しても良く、シリコンとフラックスを別々に加熱溶融し、溶融状態のシリコンと溶融状態のフラックスを接触させても良い。
【0025】
溶融温度としては、シリコンとフラックスがそれぞれ溶融する温度以上であればよい。
具体的には、一連の反応を液相で行う点を考慮してシリコンの融点(1,410℃)以上であればよく、局所的な低温部を避けるために1,450℃以上が好ましい。工業的な用途としては、2,400℃以下、特に2,200℃以下が好ましい。これより高温であると、溶融シリコンの蒸発量が多くなり、あるいは溶融シリコンとフラックスが激しく反応するため、シリコンの収率が低下し、炉材の損傷が激しくなる場合がある。
このとき、
LBm≦LBn
とするために、処理が進み、シリコン中のB濃度が低くなるに従い上述の範囲で処理温度を上げても良い。例えば、1回目より2回目、2回目より3回目と、操作回数が増すごとに順に処理温度を上げてもよい。
【0026】
また、上記よりフラックスの融点は、2,400℃以下、特に2,200℃以下が好ましく、より好ましくは2,000℃以下である。融点がシリコンの融点に対して低すぎる場合は、フラックスの組成が変化し、所望の効果が得られなくなるおそれがあるため、800℃以上、特に1,200℃以上がよい。
【0027】
シリコンとフラックスを接触させ、5〜120分、好ましくは10〜60分接触を継続すると良い。接触時間が短いとシリコン中のBのフラックスへの移行が完了しない場合があり、長すぎるとフラックスへ移行したBが再びシリコン中へ戻る場合がある。
【0028】
次いで、この溶融状態のシリコン及びフラックスを含む融液中に処理気体を吹き込む場合、処理気体としては、酸素、塩化水素等のハロゲン化水素、塩素、臭素等のハロゲンガス、水蒸気、窒素、三フッ化窒素等のハロゲン化窒素、アンモニアの1種又は2種以上を含む気体を吹込むことが好ましい。上記処理気体は、更に、ヘリウム、ネオン、アルゴンの1種又は2種以上を含むこともできる。
【0029】
この場合、ヘリウム、ネオン、アルゴンはBとの反応には関与せず、処理気体である酸素、ハロゲン化水素、ハロゲンガス、水蒸気、窒素、ハロゲン化窒素、アンモニアの1種又は2種以上を含む気体の濃度を調節、あるいは吹込みガスの線速を増減し、撹拌状態を変化することで、処理気体と溶融Si中あるいはフラックス中のBとの気液接触効率を改善、調節し、B生成物の生成を促進する効果がある。
【0030】
用いる気体が、酸素、ハロゲン化水素、ハロゲンガス、水蒸気、窒素、ハロゲン化窒素、アンモニアの1種又は2種以上を含む気体と、ヘリウム、ネオン、アルゴンの1種又は2種以上とを含む気体の場合、その組成は全気体量に対し、ヘリウム、ネオン、アルゴンの含有量は0〜95体積%の割合が好ましく、より好ましくは20〜80体積%であり、酸素、ハロゲン化水素、ハロゲンガス、水蒸気、窒素、ハロゲン化窒素、アンモニアの含有量は5〜100体積%の割合が好ましく、より好ましくは20〜80体積%である。酸素、ハロゲン化水素、ハロゲンガス、水蒸気、窒素、ハロゲン化窒素、アンモニアの割合が上記範囲を外れると、B生成物あるいはB揮発物の生成の減少、溶融Si及びフラックスを含む融液の撹拌効果の減少等に伴い、いずれもBの低減率が低下する場合がある。ただし、いずれもその範囲に限定されるものではない。
【0031】
処理気体は、アルミナ、ジルコニア、黒鉛、石英等の耐火性材料からなる中空管等を用いて反応容器中のSi溶融体内及び/又は溶融フラックス中に吹込むとよい。また反応容器の壁あるいは底に設けた孔から吹き込んでも良い。吹き込む気体により、溶融状態のSi、もしくはフラックスが反応容器外へ飛散しない程度まで気体流速を増すことが好ましい。気体流速を増すことで溶融状態のSiとフラックスを撹拌する効果が強まり、溶融Si、フラックス、処理気体の接触及びBと処理気体の反応によるB生成物の生成を促進する効果が得られ、B及びB生成物のフラックスへの移行、系外への揮散が進行する。吹き込みは1〜180分間、特に20〜120分間継続することが好ましい。
【0032】
本発明においては、1回の操作で、シリコンとフラックスとを接触させて、上記所定時間接触を継続し、必要によりここへ処理気体を吹き込む処理を行うが、この操作の回数は目的とするシリコンの純度によって調整でき、シリコン中のB濃度が0.3質量ppm以下になるよう精製を繰り返すことが好ましい。目標とするB濃度に達するまでの処理回数は、シリコンの損失や処理コストの増大を考慮すると少ないほどよく、2回以上、特に2〜5回行うことが好ましい。なお、本発明において、B等の不純物濃度は、ICP−AES法(高周波プラズマ発光分光分析法)等により測定することができる。
【0033】
本発明においては、m回目及びn回目の操作に使用するフラックスの、操作前のB原子濃度(質量ppm)[B]m0inf、及び[B]n0infが、
[B]m0inf≧[B]n0inf
であることが好ましい。
n回目の操作におけるシリコン中のB濃度はm回目の操作におけるシリコン中のB濃度より相対的に低い。従って、n回目操作に使用するフラックス中のB濃度は、m回目操作に使用するフラックス中のB濃度より低くすることで
LBm≦LBn
となる処理条件を達成できる。
【0034】
また、本発明においては、1操作ごとに同じ組成又は異なる組成の未使用のフラックスを用いてもよいし、n回目の操作で使用したフラックスを他のシリコン精製におけるm’回目(m’及びnは任意の自然数で、m’<nかつn≧2である。)の操作に使用することができる。通常、n回目の操作におけるシリコン中のB濃度はm回目の操作におけるシリコン中のB濃度より相対的に低く、そのためn回目の操作に使用した後のフラックス中のB濃度はm回目操作に使用した後のフラックス中のB濃度より相対的に低く、他のシリコン精製におけるm’回目の操作に使用できる低いB濃度である。従って、n回目操作に使用したフラックスを他のシリコン精製におけるm’回目操作に使用することで
LBm≦LBn
となる条件を達成できる。
【0035】
ここで、本発明で用いるフラックスとしては、ケイ素の酸化物、カルシウムの酸化物、アルミニウムの酸化物の1種又は2種以上を用いることができる。フラックスは一般的にケイ素の酸化物(SiO2等)、カルシウムの酸化物(CaO等)、アルミニウムの酸化物(Al23等)の溶融混合物から成り、一種のケイ酸塩と考えられる。ケイ素の酸化物、カルシウムの酸化物、アルミニウムの酸化物はケイ酸塩の網目構造を構成する物質と考えられており、このケイ酸塩の網目構造の一部、あるいは網目の中に不純物元素であるB、あるいはBと酸素、ハロゲン化水素、ハロゲンガス、水蒸気、窒素、ハロゲン化窒素、アンモニアを含む処理気体との反応生成物を捕捉することでシリコン中の不純物を除去する。更に、溶融シリコンとフラックスの分離を良好とし、フラックスが溶融シリコン中に混入し、シリコンの純度の低下を抑制する作用もある。
【0036】
また、フラックスには必要に応じてアルカリ金属、アルカリ金属の酸化物、アルカリ金属の塩化物、アルカリ金属のフッ化物、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の塩化物、アルカリ土類金属のフッ化物、アルカリ土類金属の炭酸塩、アルカリ土類金属の水酸化物、アルミニウム、アルミニウムの塩化物、アルミニウムのフッ化物、アルミニウムの炭酸塩、アルミニウムの水酸化物、チタン、チタンの酸化物、チタンの塩化物、チタンのフッ化物、チタンの炭酸塩、チタンの水酸化物の1種又は2種以上を用いることができる。
【0037】
より具体的に、アルカリ金属は、リチウム、ナトリウム、カリウムである。アルカリ土類金属は、カルシウム(上記酸化カルシウムを除く)、ベリリウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウムである。これらの物質の存在により、フラックスの融点及びの粘度調節、B生成物の生成を促進し、Bの除去がより進行する効果がある。
【0038】
本発明において、フラックスの使用量は、1操作あたり、合計量で金属シリコンの10〜100質量%が好ましく、より好ましくは20〜80質量%である。各操作回数における使用割合は等しくても良く、操作前のシリコン中のB原子濃度及びフラックス中のB原子濃度(B原子及びB生成物中のB原子)を勘案して適宜調節しても良い。
【0039】
フラックスの使用量が上記の範囲より多いと、B除去はより進行するが、使用済みのフラックスが大量に発生する場合がある。従って、B除去の効果と使用済みのフラックスを処理、再利用する費用を勘案して使用量を決定することが好ましい。上記の範囲より少ないと、シリコン中のBやBとフラックス中の成分との反応により生成したB生成物がフラックス層へ移行する割合が減少、あるいはB生成物の生成自体が抑制され、Bの除去率が低下する場合がある。
【0040】
また、ケイ素酸化物の使用量は、フラックスの10質量%以上、特に20質量%以上が好ましく、90質量%以下、特に85質量%以下、とりわけ80質量%以下が好ましい。カルシウムの酸化物の使用量は、フラックスの10質量%以上、特に20質量%以上が好ましく、90質量%以下、特に85質量%以下、とりわけ80質量%以下が好ましい。アルミニウムの酸化物は、フラックスの0質量%以上、70質量%以下、特に60質量%以下、とりわけ50質量%以下が好ましい。
【0041】
フラックス中のケイ素の酸化物の使用量が上記の範囲より多い場合、フラックスの融点及び粘度が上昇し、シリコンとの良好な接触状態の発生、維持が困難になる場合がある。ケイ素の酸化物の使用量が上記の範囲より少ない場合、Bと処理気体の反応によるB生成物の生成が抑制、あるいはフラックス中にB生成物が固定されずにシリコンへ移動し、シリコン中のB低減率が低下する場合があり、LBが低下する。
【0042】
フラックス中のカルシウムの酸化物の使用量が上記の範囲より多い場合、フラックスの融点及び粘度が上昇し、シリコンとの良好な接触状態の発生、維持が困難になる場合がある。カルシウムの酸化物の使用量が上記の範囲より少ない場合、Bと処理気体の反応によるB生成物の生成が抑制、あるいはフラックス中にB生成物が固定されずにシリコンへ移動し、シリコン中のB低減率が低下する場合があり、LBが低下する。
【0043】
フラックス中のアルミニウムの酸化物の使用量が上記の範囲より多い場合、フラックスの融点及び粘度が上昇し、シリコンとの良好な接触状態の発生、維持が困難になる場合があり、LBが低下する。
【0044】
フラックスに、アルカリ金属、アルカリ金属の酸化物、アルカリ金属の塩化物、アルカリ金属のフッ化物、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の塩化物、アルカリ土類金属のフッ化物、アルカリ土類金属の炭酸塩、アルカリ土類金属の水酸化物、アルミニウム、アルミニウムの塩化物、アルミニウムのフッ化物、アルミニウムの炭酸塩、アルミニウムの水酸化物、チタン、チタンの酸化物、チタンの塩化物、チタンのフッ化物、チタンの炭酸塩、チタンの水酸化物の1種又は2種以上を添加する場合、その合計量は、フラックスの合計量の0〜80質量%、特に0〜50質量%が好ましい。
【0045】
これらの化合物は、フラックスの融点、及び反応温度におけるフラックスの粘度を考慮して適宜増減することが好ましい。これらの化合物の使用量が多すぎる場合、溶融シリコンにこれらの化合物が不純物として混入するおそれがあり、処理後のシリコン純度が低下するおそれがある。少なすぎる場合、溶融シリコンからフラックスへ移動するB及びBと処理気体の反応によるB生成物が減少し、シリコン中の不純物の低減率が低下するおそれがあり、LBが低下する要因となる。
【0046】
ここで、本発明の高純度シリコンの製造方法について図面を参照して更に具体的に説明する。まず、溶融シリコンと溶融したフラックスを接触させる操作前後のシリコン中及びフラックス中のBの移動モデルを図1に示す。反応容器1中にフラックス2とシリコン3を入れ、それぞれが溶融するよう加熱手段4により加熱すると、シリコンの密度よりもフラックスの密度が小さい場合は、溶融したフラックス2が上層に、溶融シリコン3が下層に分離する。図1aは溶融状態のシリコンとフラックスを接触させた直後を、図1bは所定時間経過後の状態を示す。図1中、[B]0inf及び[B]infはそれぞれ処理前、処理後のフラックス中のB原子濃度を示し、同様に、[B]0inSi及び[B]inSiはそれぞれ処理前、処理後のシリコン中のB原子濃度を示す。また、W0f及びWfはそれぞれ処理前、処理後のフラックスの質量を示し、W0Si及びWSiはそれぞれ処理前、処理後のシリコンの質量を示し、Bvは揮発したBの質量を示す。通常、[B]0inSi>[B]inSi、[B]0inf<[B]infである。
【0047】
また、操作前及び操作後のBの全質量の関係は下記式(1)で表される。
[B]0inSi×W0Si+[B]0inf×W0f=[B]inSi×WSi+[B]inf×Wf+Bv
・・・(1)
【0048】
また、溶融シリコン中のBの除去モデルを図2に示す。図2aは溶融状態のシリコンとフラックスを接触させた直後を、図2bはシリコン中のBがフラックスへ移行した状態を、図2cはBとフラックスが反応してB生成物が生成した状態を示す。溶融状態のシリコンにフラックスを接触させると、シリコン中のBはB原子の状態でシリコンからフラックスにある比率で移行する(図2a→図2b)。フラックスへ移行したBの一部は、フラックス成分中の、シリコンの酸化物、カルシウムの酸化物、アルミニウムの酸化物等との間にSiVAlwxCayz(v,w,x,y,zは任意の0以上の正数である。)なる態様の化合物を生成すると考えられる(図2c)。これらをB生成物と呼ぶ。
【0049】
このSiVAlwxCayzの一部は、系外へ揮散すると考えられる。これをB揮発物と呼ぶ。そして、フラックス中に存在するB原子が減少し、更にシリコン中のB原子がフラックスに移行する(図2b→図2c)。
【0050】
Bの移行には、上述した通り、所定時間を要し、溶融シリコン中のB、フラックス中のB及びB生成物の濃度が平衡状態に達するまで進行する。Bの移行が平衡状態、もしくはほぼ平衡状態に達した後、溶融シリコンからフラックスを分離し、1回の操作が完了する。この段階で、通常、シリコン中のB濃度は[B]0inSiから[B]inSiに減少し、フラックス中のB濃度は[B]0infから[B]infに増加する(図1a→図1b)。
【0051】
この場合、B生成物の生成量は、フラックスの使用量とフラックス中の成分であるシリコンの酸化物、カルシウムの酸化物、アルミニウムの酸化物の割合に依存し、フラックスの使用量が多いほど生成が促進されると考えられる。
【0052】
また、m回目、n回目の操作前におけるシリコン中のBの一定量がフラックス中へ移行し、B生成物として除去され、残ったB原子がある比率でシリコンからフラックスへ移行する。このとき、m回目、n回目の操作後のシリコン中とフラックス中のB原子の濃度比をそれぞれ、
LBm=[B]minf/[B]minSi
LBn=[B]ninf/[B]ninSi
とすると、任意のm及びn回目の操作後のLBが、
LBm≦LBn
となるようにすることでシリコンの酸化、揮散を抑制しながら高いB除去率を維持できる。
【0053】
次に、図3に溶融シリコン中に処理気体を吹き込んだ状態を示す。図3aに示すように、反応容器1中にフラックス2とシリコン3を入れ、加熱手段4によりこれらを加熱・溶融した後、中空管5からハロゲン、水蒸気、窒素ガス等の処理気体6を吹き込む。図3bに示すように、処理気体とB原子によりBaHbNcOdXe(Xはハロゲン原子、a,b,c,d,eは0又は正数である。)で表されるB生成物の類が生成すると考えられる。このB生成物は操作温度における蒸気圧が高いものはB揮発物として揮散し、蒸気圧が低いものはフラックス中に固定される。従って、B除去操作後におけるシリコン中及びフラックス中のBの濃度比LB=[B]inf/[B]inSiがより増加し、その結果、シリコン中のBの除去が促進される。
【0054】
図4に従来技術のB除去モデルを、図5に本発明におけるB除去のモデルを示して説明する。
図4a,bはそれぞれ従来技術のm回目の操作前及び操作後のB原子の濃度分布を、図4c,dはそれぞれ従来技術のn回目の操作前及び操作後のB原子の濃度分布を示す。例えば、
シリコンとフラックスの質量比=1:1
シリコン中のBの質量とフラックスへ移行するBの質量の比率=1:1
揮散するBの質量≒0
であり、図4aに示すように、m回目操作前のシリコン中のB原子含有量が100質量ppm、フラックス中のB原子含有量が10質量ppmであり、図4bに示すように、操作後のシリコン中のB原子含有量が20質量ppm、フラックス中のB原子含有量が90質量ppm(B原子として40質量ppm、B生成物中にB原子として50質量ppm)である場合、
LBm=(40+50)/20=4.5
となる。
そしてm回目操作と同様にn回目操作を行い、図4cに示すように、n回目操作前のシリコン中のB原子含有量が20質量ppm、フラックス中のB原子含有量が10質量ppmであり、図4dに示すように、操作後のシリコン中のB原子含有量が10質量ppm、フラックス中のB原子含有量が20質量ppm(B原子として10質量ppm、B生成物中にB原子として10質量ppm)である場合、
LBn=(10+10)/10=2
となり、LBm≧LBnとなることがわかる。
【0055】
本発明を用いた場合は、図5a,bのように、上記と同様に算出したm回目操作におけるLB値が、
LBm=(40+50)/20=4.5
に対し、n回目操作における処理温度、フラックスの組成及び吹き込むガスの条件を最適化することで、図5cに示すように、n回目操作前のシリコン中のB原子含有量が20質量ppm、フラックス中のB原子含有量が10質量ppmであり、図5dに示すように、操作後のシリコン中のB原子含有量が5質量ppm、フラックス中のB原子含有量が25質量ppm(B原子として12質量ppm、B生成物中にB原子として13質量ppm)であり、n回目操作後のシリコン中のB濃度は従来技術におけるn回目操作後のB濃度10質量ppmに対し低下していることから、B除去が進行している。このときのLB値は
LBn=(12+13)/5=5
であり、LBm≦LBnの処理条件によりBをより多く除去できることがわかる。
【0056】
ここで、本発明においては、処理温度、フラックスの組成及び吹き込むガスの条件を適正化することがLB値の上昇に寄与する。
具体的には、上述したように、n回目の処理温度をm回目よりも相対的に上げることでLB値を高くすることができる。
また、フラックス組成に関して、カルシウム酸化物の割合を増すこともよい。あるいはアルカリ金属、アルカリ金属の酸化物、アルカリ金属の塩化物、アルカリ金属のフッ化物、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の塩化物、アルカリ土類金属のフッ化物、アルカリ土類金属の炭酸塩、アルカリ土類金属の水酸化物、アルミニウム、アルミニウムの塩化物、アルミニウムのフッ化物、アルミニウムの炭酸塩、アルミニウムの水酸化物、チタン、チタンの酸化物、チタンの塩化物、チタンのフッ化物、チタンの炭酸塩、チタンの水酸化物の1種又は2種以上を添加し、フラックスの粘度あるいは融点を調整することもLB値の上昇に寄与する。
【0057】
また、本発明においては、上述した通り、n回目の操作で使用したフラックスを他のシリコン精製のm’回目の操作に使用することができる。n回目の操作で使用したフラックスを他のシリコン精製のm’回目に使用した場合を図6に示す。図6a,bはそれぞれn回目の操作前及び操作後の状態を、図6c,dはそれぞれm’回目の操作前及び操作後の状態を示す。
【0058】
n回目の操作では、図6aのようにB原子含有量165質量ppmの溶融シリコン中からフラックス中へB原子が移動した結果、図6bのように溶融シリコン中のB原子の含有量は50質量ppmに減少する。このn回目操作に使用したフラックスを他のシリコン精製におけるm’回目の操作に用いると、図6cのようにB原子含有量300質量ppmの溶融シリコン中からフラックス中へB原子が移動し、図6dのように溶融シリコン中のB原子の含有量は155質量ppmに減少する。
【0059】
このとき
LBm’=(150+100)/155=1.61
LBn=(55+60)/50=2.3
となり
LBm’≦LBn
とすることができる。
【0060】
このように、n回目の操作で使用したフラックスを他のシリコン精製におけるm’回目の操作に使用することは、B除去に関して工業的にも成立し、更に、1回使用したフラックスを複数回使用できることで、フラックスの使用量を削減でき、環境負荷も低減できる。従って、フラックスのコスト及びフラックスの廃棄に要するコストが低減され、低コストで高純度シリコンを製造できる。
【0061】
ここで、精製対象となる不純物としてBを含有するシリコンとしては、金属グレード(MG)シリコン、あるいは半導体用単結晶製造工程の端材を用いることができる。一般的な金属グレード(MG)シリコンはB,Pを数質量ppm〜300質量ppm程度、金属不純物としてFe,Al,Ca,Zr,Ti,V,Ta等を1〜3質量%程度、それぞれ含有する。また、半導体用単結晶製造工程のBドープを施した端材はより高濃度にBを含むが、いずれのシリコンも本発明の精製方法を適用できる。金属グレード(MG)シリコンは本発明の精製方法によりBを除去できるため、本発明を実施する前、あるいは実施した後に一方向凝固法、及び高真空・局所加熱等の公知の精製方法を行って、金属不純物及びPを除去、低減することができる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記例においてB濃度の測定は、ICP−AES法((株)Perkin Elmer製)により行った。
【0063】
[実施例1]
◎フラックスの作製
内径140mmφ黒鉛製るつぼに二酸化ケイ素60質量%、酸化カルシウム40質量%の割合で混合した原料7kgを入れ、500℃/時で昇温し、1,590℃に加熱溶解した。これを取り出し、50〜100cm3程度の大きさに砕き、フラックス〈1〉とした。B濃度を測定したところ0.5質量ppmであった。
◎1回目の操作
内径140mmφ黒鉛製るつぼにB濃度8質量ppmのシリコン2kgと上記で得られたフラックス〈1〉1.3kgを入れ、500℃/時で昇温し、1,560℃に加熱した。
シリコン及びフラックスが融解後、120分その状態を保持した。その後、100℃/時で1,200℃まで降温し、その後放冷した。
固化後のシリコン及びフラックスから不純物分析用サンプルを採取した。操作後のシリコン、フラックスのB濃度はそれぞれ3.2質量ppm、7.91質量ppmであった。
◎2回目の操作
内径140mmφ黒鉛製るつぼに1回目の操作後に回収したB濃度3.2質量ppmのシリコン1.99kgとフラックス〈1〉1.294kgを入れ、500℃/時で昇温し、1,600℃に加熱した。
シリコン及びフラックスが融解後、120分その状態を保持した。その後、100℃/時で1,200℃まで降温し、その後放冷した。
固化後のシリコン及びフラックスから不純物分析用サンプルを採取した。操作後のシリコン、フラックスのB濃度はそれぞれ1.11質量ppm、3.73質量ppmであった。
◎3回目の操作
内径140mmφ黒鉛製るつぼに2回目の操作後に回収したB濃度1.11質量ppmのシリコン1.98kgとフラックス〈1〉1.287kgを入れ、500℃/時で昇温し、1,640℃に加熱した。
シリコン及びフラックスが融解後、120分その状態を保持した。その後、100℃/時で1,200℃まで降温し、その後放冷した。
固化後のシリコン及びフラックスから不純物分析用サンプルを採取した。操作後のシリコン、フラックスのB濃度はそれぞれ0.201質量ppm、1.90質量ppmであった。
なお、このときのLB=操作後のフラックスのB濃度÷操作後のシリコンのB濃度は、
1回目;LB1=2.5
2回目;LB2=3.3
3回目;LB3=9.4
となり、
LB1<LB2<LB3
であった。
【0064】
[実施例2]
◎1回目の操作
内径140mmφ黒鉛製るつぼにB濃度8.0質量ppmのシリコン2kgとフラックス〈1〉1.3kgを入れ、500℃/時で昇温し、1,560℃に加熱した。
シリコン及びフラックスが融解後、内径6mmφのアルミナ管を用いてアルゴン3.2L/min、水蒸気1.3L/min、塩素1L/minの混合気体を溶融状態のシリコン及びフラックス中に吹込み、120分その状態を保持した。その後、100℃/時で1,200℃まで降温し、その後放冷した。
固化後のシリコン及びフラックスから不純物分析用サンプルを採取した。操作後のシリコン、フラックスのB濃度はそれぞれ3.04質量ppm、8.18質量ppmであった。
◎2回目の操作
1回目の操作後のシリコン1.98kg、フラックス〈1〉1.287kgを用い、その他の条件は1回目の操作と同じ操作を行った。
操作後のシリコン、フラックスのB濃度はそれぞれ0.986質量ppm、3.67質量ppmであった。
◎3回目の操作
2回目の操作後のシリコン1.96kg、フラックス〈1〉1.274kgを用い、その他の条件は1回目の操作と同じ操作を行った。
操作後のシリコン、フラックスのB濃度はそれぞれ0.139質量ppm、1.81質量ppmであった。
なお、このときのLB=操作後のフラックスのB濃度÷操作後のシリコンのB濃度は、
1回目;LB1=2.7
2回目;LB2=3.7
3回目;LB3=13
となり、
LB1<LB2<LB3
であった。
【0065】
[実施例3]
◎1回目の操作
内径140mmφ黒鉛製るつぼにB濃度8質量ppmのシリコン2kgと実施例2の3回目の操作で使用後のフラックス1.3kgを入れ、500℃/時で昇温し、1,560℃に加熱した。
シリコン及びフラックスが融解後、内径6mmφのアルミナ管を用いてアルゴン3.2L/min、水蒸気1.3L/min、塩素1L/minの混合気体を溶融状態のシリコン及びフラックス中に吹込み、120分その状態を保持した。その後、100℃/時で1,200℃まで降温し、その後放冷した。
固化後のシリコン及びフラックスから不純物分析用サンプルを採取した。操作後のシリコン、フラックスのB濃度はそれぞれ3.31質量ppm、8.78質量ppmであった。
◎2回目の操作
1回目の操作後のシリコン1.98kg、フラックス〈1〉1.287kgを用い、その他の条件は1回目の操作と同じ操作を行った。
操作後のシリコン、フラックスのB濃度はそれぞれ1.1質量ppm、3.92質量ppmであった。
◎3回目の操作
2回目の操作後のシリコン1.96kg、フラックス〈1〉1.274kgを用い、その他の条件は1回目の操作と同じ操作を行った。
操作後のシリコン、フラックスのB濃度はそれぞれ0.186質量ppm、1.91質量ppmであった。
なお、このときのLB=操作後のフラックスのB濃度÷操作後のシリコンのB濃度は、
1回目;LB1=2.7
2回目;LB2=3.6
3回目;LB3=10.3
となり、
LB1<LB2<LB3
であった。
【0066】
[実施例4]
◎フラックスの作製
内径140mmφ黒鉛製るつぼに二酸化ケイ素55質量%、酸化カルシウム35質量%、フッ化カルシウム10質量%の割合で混合した原料7kgを入れ、500℃/時で昇温し、1,590℃に加熱溶解した。これを取り出し、50〜100cm3程度の大きさに砕き、フラックス〈2〉とした。
これとは別に、二酸化ケイ素50質量%、酸化カルシウム31質量%、フッ化カルシウム9質量%、Li2Oが10質量%の割合で混合した原料を用いて同様に昇温、加熱融解し、同様に粉砕した物をフラックス〈3〉とした。
B濃度を測定したところいずれのフラックスも0.5質量ppmであった。
◎1回目の操作
内径140mmφ黒鉛製るつぼにB濃度8質量ppmのシリコン2kgとフラックス〈1〉1.3kgを入れ、500℃/時で昇温し、1,560℃に加熱し、120分その状態を保持した。その後、100℃/時で1,200℃まで降温し、その後放冷した。
固化後のシリコン及びフラックスから不純物分析用サンプルを採取した。操作後のシリコン、フラックスのB濃度はそれぞれ3.2質量ppm、7.91質量ppmであった。
◎2回目の操作
1回目の操作後のシリコン1.99kg、フラックス〈2〉1.294kgを用い、その他の条件は1回目の操作と同じ操作を行った。
操作後のシリコン、フラックスのB濃度はそれぞれ1.15質量ppm、3.68質量ppmであった。
◎3回目の操作
2回目の操作後のシリコン1.98kg、フラックス〈3〉1.287kgを用い、その他の条件は1回目の操作と同じ操作を行った。
操作後のシリコン、フラックスのB濃度はそれぞれ0.228質量ppm、1.91質量ppmであった。
なお、このときのLB=操作後のフラックスのB濃度÷操作後のシリコンのB濃度は、
1回目;LB1=2.5
2回目;LB2=3.2
3回目;LB3=8.4
となり、
LB1<LB2<LB3
であった。
【0067】
[比較例1]
◎1回目の操作
内径140mmφ黒鉛製るつぼにB濃度8質量ppmのシリコン2kgとフラックス〈1〉1.3kgを入れ、500℃/時で昇温し、1,560℃に加熱した。
シリコン及びフラックスが融解後、120分その状態を保持した。その後、100℃/時で1,200℃まで降温し、その後放冷した。
固化後のシリコン及びフラックスから不純物分析用サンプルを採取した。操作後のシリコン、フラックスのB濃度はそれぞれ3.2質量ppm、7.91質量ppmであった。
◎2回目の操作
1回目の操作後のシリコン1.99kg、フラックス〈1〉1.294kgを用い、その他の条件は1回目の操作と同じ操作を行った。
固化後のシリコン及びフラックスから不純物分析用サンプルを採取した。操作後のシリコン、フラックスのB濃度はそれぞれ1.46質量ppm、3.19質量ppmであった。
◎3回目の操作
2回目の操作後のシリコン1.98kg、フラックス〈1〉1.287kgを用い、その他の条件は1回目の操作と同じ操作を行った。
固化後のシリコン及びフラックスから不純物分析用サンプルを採取した。操作後のシリコン、フラックスのB濃度はそれぞれ0.888質量ppm、1.39質量ppmであった。
◎4回目の操作
3回目の操作後のシリコン1.97kg、フラックス〈1〉1.281kgを用い、その他の条件は1回目の操作と同じ操作を行った。
固化後のシリコン及びフラックスから不純物分析用サンプルを採取した。操作後のシリコン、フラックスのB濃度はそれぞれ0.619質量ppm、0.919質量ppmであった。
◎5回目の操作
4回目の操作後のシリコン1.96kg、フラックス〈1〉1.274kgを用い、その他の条件は1回目の操作と同じ操作を行った。
固化後のシリコン及びフラックスから不純物分析用サンプルを採取した。操作後のシリコン、フラックスのB濃度はそれぞれ0.534質量ppm、0.634質量ppmであり、0.3ppm以下に到達しなかった。
なお、このときのLB=操作後のフラックスのB濃度÷操作後のシリコンのB濃度は、
1回目;LB1=2.5
2回目;LB2=2.2
3回目;LB3=1.6
4回目;LB4=1.5
5回目;LB5=1.2
となり、
LB1>LB2>LB3>LB4>LB5
であった。
【符号の説明】
【0068】
1 反応容器
2 フラックス
3 シリコン
4 加熱手段
5 処理気体吹込み管
6 処理気体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不純物としてホウ素を含むシリコンとフラックスとをそれぞれが溶融するよう加熱し、これらを溶融状態で接触させ、次いで、必要により溶融状態のシリコンとフラックスを含む融液中に処理気体を吹き込み、その後、シリコンとフラックスとを分離する操作を複数回行うことによりシリコン中のホウ素を除去する高純度シリコンの製造方法であって、
m回目及びn回目(m及びnは任意の自然数で、m<nかつn≧2である。)の操作後のシリコン中のホウ素原子濃度(質量ppm)をそれぞれ
[B]minSi、[B]ninSi
とし、フラックス中のホウ素原子濃度(質量ppm)をそれぞれ
[B]minf、[B]ninf
とし、シリコン中とフラックス中のホウ素原子の濃度比をそれぞれ
LBm=[B]minf/[B]minSi
LBn=[B]ninf/[B]ninSi
としたとき、
LBm≦LBn
であることを特徴とする高純度シリコンの製造方法。
【請求項2】
m回目及びn回目の操作に使用するフラックスの、操作前のホウ素原子濃度(質量ppm)[B]m0inf及び[B]n0infが、
[B]m0inf≧[B]n0inf
である請求項1記載の高純度シリコンの製造方法。
【請求項3】
n回目の操作で使用したフラックスを他のシリコン精製におけるm’回目(m’及びnは任意の自然数で、m’<nかつn≧2である。)の操作に使用する請求項1又は2記載の高純度シリコンの製造方法。
【請求項4】
前記フラックスが、ケイ素の酸化物、カルシウムの酸化物及びアルミニウムの酸化物の1種又は2種以上を含む請求項1〜3のいずれか1項記載の高純度シリコンの製造方法。
【請求項5】
前記フラックスが、アルカリ金属、アルカリ金属の酸化物、アルカリ金属の塩化物、アルカリ金属のフッ化物、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の塩化物、アルカリ土類金属のフッ化物、アルカリ土類金属の炭酸塩、アルカリ土類金属の水酸化物、アルミニウム、アルミニウムの塩化物、アルミニウムのフッ化物、アルミニウムの炭酸塩、アルミニウムの水酸化物、チタン、チタンの酸化物、チタンの塩化物、チタンのフッ化物、チタンの炭酸塩及びチタンの水酸化物の1種又は2種以上を含む請求項1〜4のいずれか1項記載の高純度シリコンの製造方法。
【請求項6】
前記処理気体が、酸素、ハロゲン化水素、ハロゲンガス、水蒸気、窒素、ハロゲン化窒素及びアンモニアの1種又は2種以上を含むガスである請求項1〜5のいずれか1項記載の高純度シリコンの製造方法。
【請求項7】
前記処理気体が、ヘリウム、ネオン及びアルゴンの1種又は2種以上を含むガスである請求項1〜6のいずれか1項記載の高純度シリコンの製造方法。
【請求項8】
加熱溶融温度が1,410〜2,400℃の範囲であって、n回目の加熱溶融温度がm回目の加熱溶融温度よりも高い請求項1〜7のいずれか1項記載の高純度シリコンの製造方法。
【請求項9】
前記フラックスが、ケイ素の酸化物10〜90質量%、カルシウムの酸化物10〜90質量%及びアルミニウムの酸化物0〜70質量%を含有するものであり、その合計使用量が、シリコンに対して10〜100質量%である請求項1〜8のいずれか1項記載の高純度シリコンの製造方法。
【請求項10】
前記処理気体が、酸素、ハロゲン化水素、ハロゲンガス、水蒸気、窒素、ハロゲン化窒素及びアンモニアの1種又は2種以上を5〜100体積%、ヘリウム、ネオン及びアルゴンの1種又は2種以上を0〜95体積%含有する請求項1〜9のいずれか1項記載の高純度シリコンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−121848(P2011−121848A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−283210(P2009−283210)
【出願日】平成21年12月14日(2009.12.14)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】