説明

高純度ヒドロキシアパタイトの製造方法

【課題】不純物金属及び塩素の含有量が少ない高純度ヒドロキシアパタイトを製造する。
【解決手段】A)石灰石を焼成して得られる生石灰に水を反応させて、水酸化カルシウムスラリーを調製する工程と、B)水酸化カルシウムスラリーに、pH9.5〜11.5の範囲内となるように硝酸を添加する工程と、C)硝酸を添加して得られた溶液を限外濾過して、濾液を得る工程と、D)濾液に、リン酸アルカリまたはリン酸アンモニウムと水酸化アルカリまたは水酸化アンモニウムとを添加し、ヒドロキシアパタイトを析出させる工程と、E)析出したヒドロキシアパタイトを濾過することにより、ヒドロキシアパタイトを分離する工程とを備えることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナトリウム、鉄、マグネシウム、ストロンチウムなどの不純物金属の含有量が少なく、かつ塩素の含有量が少ない高純度ヒドロキシアパタイトの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アパタイトは、生体親和性に優れた材料として知られており、その代表的な例がヒドロキシアパタイトである。ヒドロキシアパタイトは、人間の身体の骨を構成する物質と非常に類似した成分からなっているため、人工骨移植物質として脚光を浴びている。
【0003】
このような生体用途のヒドロキシアパタイトとしては、不純物含有量の少ないものが求められている。
【0004】
特許文献1〜4においては、ヒドロキシアパタイトの製造方法が開示されているが、このような製造方法で製造されるヒドロキシアパタイトは、不純物含有量が多く、高純度のヒドロキシアパタイトを製造することができないという問題がある。
【0005】
特許文献5においては、陽イオン交換樹脂などを用いて、重金属を除去した後、リン酸イオンとカルシウムイオンを反応させる高純度ヒドロキシアパタイトの製造方法が開示されているが、陽イオン交換樹脂を用いるなど複雑な工程になるという問題があった。また、このような方法によっても、不純物含有量が十分に小さい高純度ヒドロキシアパタイトを製造することが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−75722号公報
【特許文献2】特開昭62−46908号公報
【特許文献3】特開平3−146409号公報
【特許文献4】特開2005−97052号公報
【特許文献5】特開昭62−260708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、不純物金属及び塩素の含有量が少ない高純度ヒドロキシアパタイトを製造することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の高純度ヒドロキシアパタイトの製造方法は、A)石灰石を焼成して得られる生石灰に水を反応させて、水酸化カルシウムスラリーを調製する工程と、B)水酸化カルシウムスラリーに、pH9.5〜11.5の範囲内となるように硝酸を添加する工程と、C)硝酸を添加して得られた溶液を限外濾過して、濾液を得る工程と、D)濾液に、リン酸アルカリまたはリン酸アンモニウムと水酸化アルカリまたは水酸化アンモニウムとを添加し、ヒドロキシアパタイトを析出させる工程と、E)析出したヒドロキシアパタイトを濾過することにより、ヒドロキシアパタイトを分離する工程とを備えることを特徴としている。
【0009】
本発明においては、水酸化カルシウムスラリーに、pH9.5〜11.5の範囲となるように硝酸を添加している。塩酸を用いることなく、硝酸を用いているので、本発明によれば、塩素含有量が少ないヒドロキシアパタイトを製造することができる。
【0010】
また、pH9.5〜11.5の範囲内となるように硝酸を添加しているので、不純物金属の含有量の少ないヒドロキシアパタイトを、収率よく製造することができる。pHが9.5未満であると、鉄(Fe)、マグネシウム(Mg)、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)などの不純物の含有量が高くなる。pHが11.5を越えると、水酸化カルシウムを十分に溶解することができず、水酸化カルシウムの収率が低下し、最終的な高純度ヒドロキシアパタイトの収率が低下する。
【0011】
また、本発明の工程Dにおいては、水酸化カルシウムを硝酸によって溶解させた溶液に、リン酸アルカリまたはリン酸アンモニウムと水酸化アルカリまたは水酸化アンモニウムとを添加し、ヒドロキシアパタイトを析出させている。リン酸アルカリとしては、リン酸アルカリ(APO:Aはアルカリ金属)、リン酸水素アルカリ(AHPO:Aはアルカリ金属)、リン酸二水素アルカリ(AHPO:Aはアルカリ金属)が挙げられるが、リン酸二水素アルカリが特に好ましい。リン酸アンモニウムとしては、リン酸アンモニウム((NHPO)、リン酸水素アンモニウム((NHHPO)、リン酸二水素アンモニウム((NH)HPO)が挙げられるが、リン酸二水素アンモニウムが特に好ましい。
【0012】
リン酸二水素アルカリとしては、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素リチウムなどが挙げられるが、反応性が良く安価なリン酸二水素ナトリウムが特に好ましく用いられる。
【0013】
硝酸カルシウムと、リン酸二水素ナトリウムまたは水酸化ナトリウムなどのナトリウム塩との反応により生成する硝酸ナトリウムは、水に対する溶解度の高い化合物であるので、濾過することにより容易に除去することができ、ナトリウム含有量の少ない高純度ヒドロキシアパタイトを製造することができる。
【0014】
工程Dにおいて、添加するリン酸アルカリまたはリン酸アンモニウムの量は、硝酸カルシウム1モルに対して、0.5〜1.5モル程度、また、水酸化アルカリ及び水酸化アンモニウムの添加量は、硝酸カルシウム1モルに対して、1.0〜3.0モル程度であることが好ましい。
【0015】
工程Aにおいて調製する水酸化カルシウムスラリーの濃度は、0.1〜3.0モル/リットルが望ましい。
【0016】
工程Dにおいて添加するリン酸アルカリまたはリン酸アンモニウムは、0.1〜3.0モル/リットル、水酸化アルカリまたは水酸化アンモニウムは0.1〜2.0モル/リットルが望ましい。
【0017】
本発明の工程Eにおいては、析出したヒドロキシアパタイトを濾過することにより、ヒドロキシアパタイトを分離している。本発明においては、濾過する前に、ヒドロキシアパタイトが析出した溶液を50℃以上に加熱することが好ましい。ストロンチウム(Sr)などの金属化合物は、温度が上がると溶解度が上がるので、50℃以上に加熱することにより、Srなどの金属化合物をさらに溶解させることができ、濾過することによりこれらを濾液中に除去することができる。
【0018】
本発明においては、工程Eで得られたヒドロキシアパタイトを再び水中に分散させてヒドロキシアパタイトの分散液とし、この分散液を50℃以上に加熱し、濾過する工程を少なくとも1回以上繰り返すことが好ましい。これにより、さらにストロンチウムなどの金属化合物を除去することができる。
【0019】
工程Eにおける加熱温度は、50℃以上であることが好ましく、さらに好ましくは60℃以上であり、80℃以下であることが好ましい。
【0020】
本発明においては、工程Cにおける濾過として、限外濾過を用いている。限外濾過を用いることにより、Si、Alなどの不純物金属をさらに低減することができる。この場合、濾過する溶液のpHが高いため、限外濾過の膜の材質としては、例えば、PS(ポリスルフォン)製のものを用いることが好ましい。
【0021】
本発明においては、工程Eにおける濾過として、限外濾過を用いてもよい。限外濾過を用いることにより、さらに不純物濃度を低減させることができ、より高純度なヒドロキシアパタイトを製造することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、不純物金属及び塩素の含有量の少ない高純度ヒドロキシアパタイトを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の高純度ヒドロキシアパタイトの製造方法においては、工程Aにおいて、石灰石を焼成して得られる生石灰(酸化カルシウム)に水を反応させて水酸化カルシウムスラリーを調製する。例えば、石灰石をキルン内で約1000℃で焼成して、生石灰を生成し、この生石灰に約10倍量の熱水を投入し、30分間攪拌させることにより、水酸化カルシウムスラリーを調製することができる。上記の反応を、化学反応式で示すと以下の通りである。
【0024】
CaCO→CaO+CO
CaO+HO→Ca(OH)
【0025】
次に、得られた水酸化カルシウムのスラリーに、pH9.5〜11.5の範囲となるように硝酸を添加する。これにより、水酸化カルシウムと硝酸が反応して、硝酸カルシウムとなり水溶液中に溶解する。化学反応式で示すと以下の通りである。
【0026】
Ca(OH)+2HNO→Ca(NO+2H
【0027】
硝酸カルシウムは水に易溶性であるため、水溶液中に溶解するが、pHを9.5〜11.5の範囲内としているので、鉄(Fe)やマグネシウム(Mg)などの不純物金属は、水酸化物の状態を維持しており、水に難溶性である。従って、次の工程Cで硝酸を添加して得られた溶液を濾過することにより、鉄(Fe)、マグネシウム(Mg)、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)などの不純物金属を除去することができる。
【0028】
また、工程Cにおいて、濾過として、限外濾過を用いているので、さらにSi、Alなどの不純物金属を高い精度で除去することができる。
【0029】
工程Dにおいては、濾液に、リン酸アルカリまたはリン酸アンモニウムと水酸化アルカリまたは水酸化アンモニウムとを添加し、ヒドロキシアパタイトを析出させる。ここでは、濾液に、リン酸二水素ナトリウムと水酸化ナトリウムとを添加している。化学反応式で示すと、以下の通りである。
【0030】
10Ca(NO+6NaHPO+14NaOH→Ca10(PO(OH)+20NaNO
【0031】
次に、工程Eで、ヒドロキシアパタイトが析出した溶液を、好ましくは50℃以上に加熱し、濾過することにより、ヒドロキシアパタイトを分離する。ストロンチウム(Sr)などの金属化合物は、温度が上昇すると溶解度も高くなる。また、副生成物である硝酸ナトリウムも、温度が上昇すると、溶解度が高くなる。このため、工程Eにおいて、ヒドロキシアパタイトが析出した溶液を50℃以上に加熱することにより、ストロンチウムなどの不純物金属の化合物及び硝酸ナトリウムの溶解度を高めた状態で濾過することができ、効率的に不純物を除去することができる。
【0032】
また、工程Eにおいて、濾過として、限外濾過を用いることにより、より効率的に濾過することができ、さらに不純物の含有量を少なくすることができる。工程Eにおいて、限外濾過を用い、かつ分散液を加熱する場合、限外濾過膜の耐熱性を考慮して、加熱温度は60℃以下とすることが好ましい。
【0033】
本発明によれば、Na、Mg、Fe、Sr、Si、Alなどの不純物金属の含有量を、例えば、各々2ppm以下にすることができる。または、本発明においては、塩酸を用いていないので、塩素含有量を、例えば、0.5ppm以下にすることができる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を具体的な実施例により説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0035】
<実験1>
(実施例1)
超高速昇温電気炉を用い、石灰石を1000℃で3時間焼成して生石灰を生成した。その生石灰150gに80℃の純水1500gを加え、30分間攪拌しながら水化して水酸化カルシウムスラリーを調製した。水酸化カルシウムスラリー中の水酸化カルシウムについて、不純物金属の含有量を、ICP−AES分析法(島津製作所製、ICPS−8100)を用いて測定した。また、塩素含有量を、イオンクロマトグラフィ法により測定した。測定結果を表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
水酸化カルシウム100gを含む水酸化カルシウムスラリーに、室温下で、60%硝酸を攪拌しながらpHが9.5になるまで添加した。
【0038】
得られた溶液を、濾紙で濾過し、濾液を得た。なお、濾紙としては、定量濾紙5C(ADVANTEC社製、直径110mm)を用いた。
【0039】
得られた濾液について、UFモジュール(膜材質:ポリスルフォン、膜内径1.4mm、分画分子量10000)を用いて、限外濾過し、濾液を得た。
【0040】
得られた濾液に、1モル/リットルの濃度のリン酸二水素ナトリウムを0.8リットル、及び0.5モル/リットルの濃度の水酸化ナトリウム水溶液を4.0リットルそれぞれ添加し、ヒドロキシアパタイトを析出させた。
【0041】
次に、ヒドロキシアパタイトが析出した溶液を、80℃に加熱した後、上記と同様の濾紙を用いて、濾過した。濾過した後、濾紙上に残ったヒドロキシアパタイトを乾燥させて、高純度ヒドロキシアパタイトを採取した。
【0042】
(実施例2)
水酸化カルシウムスラリーに、pH10.0になるまで硝酸を添加する以外は、上記実施例1と同様にして高純度ヒドロキシアパタイトを製造した。
【0043】
(実施例3)
水酸化カルシウムスラリーに、pH11.0になるまで硝酸を添加する以外は、上記実施例1と同様にして高純度ヒドロキシアパタイトを製造した。
【0044】
(実施例4)
水酸化カルシウムスラリーに、pH11.5になるまで硝酸を添加する以外は、上記実施例1と同様にして高純度ヒドロキシアパタイトを製造した。
【0045】
(実施例5)
実施例2の操作において、ヒドロキシアパタイトが析出した溶液を、50℃に加熱した後、UFモジュール(膜材質:ポリスルフォン、膜内径1.4mm、分画分子量10000)を用いて限外濾過し、UFモジュール内のヒドロキシアパタイトを乾燥して、高純度ヒドロキシアパタイトを採取した。
【0046】
(比較例1)
水酸化カルシウムスラリーに、pH9.0になるまで硝酸を添加する以外は、上記実施例1と同様にして高純度ヒドロキシアパタイトを製造した。
【0047】
(比較例2)
水酸化カルシウムスラリーに、pH12.0になるまで硝酸を添加する以外は、上記実施例1と同様にして高純度ヒドロキシアパタイトを製造した。
【0048】
(比較例3)
水酸化カルシウムスラリーに、pHが10.0になるまで塩酸を添加する以外は、実施例1と同様にして高純度ヒドロキシアパタイトを製造した。
【0049】
〔高純度ヒドロキシアパタイトの不純物含有量の測定〕
実施例1〜5及び比較例1〜3で得られた高純度ヒドロキシアパタイト中の不純物含有量を測定した。Na、Mg、Fe、Sr、Si、及びAlについては、上記と同様のICP−AES分析法により測定した。Clについては、イオンクロマトグラフィ法により測定した。測定結果を表2に示す。
【0050】
〔収率〕
実施例1〜5及び比較例1〜3において、最終的に得られた高純度ヒドロキシアパタイトの収率を、水酸化カルシウムスラリー中の水酸化カルシウムに対して算出し、表2に収率として示した。
【0051】
【表2】

【0052】
表2に示す実施例1〜5と比較例1〜2の比較から明らかなように、水酸化カルシウムスラリーに、pH9.5〜11.5の範囲となるように硝酸を添加することにより、不純物含有量が少ないヒドロキシアパタイトを高い収率で得られることがわかる。
【0053】
また、実施例1〜5と比較例3との比較から明らかなように、硝酸を用いることにより、塩素含有量を少なくすることができ、かつ不純物金属の含有量の少ない高純度ヒドロキシアパタイトを、高い収率で得られることがわかる。
【0054】
また、実施例2と実施例5との比較から明らかなように、限外濾過工程を用いることにより、不純物金属含有量をさらに低減できることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
A)石灰石を焼成して得られる生石灰に水を反応させて、水酸化カルシウムスラリーを調製する工程と、
B)水酸化カルシウムスラリーに、pH9.5〜11.5の範囲内となるように硝酸を添加する工程と、
C)硝酸を添加して得られた溶液を限外濾過して、濾液を得る工程と、
D)濾液に、リン酸アルカリまたはリン酸アンモニウムと水酸化アルカリまたは水酸化アンモニウムとを添加し、ヒドロキシアパタイトを析出させる工程と、
E)析出したヒドロキシアパタイトを濾過することにより、ヒドロキシアパタイトを分離する工程とを備えることを特徴とする高純度ヒドロキシアパタイトの製造方法。
【請求項2】
ヒドロキシアパタイトが析出した溶液を50℃以上に加熱した後、濾過することを特徴とする請求項1に記載の高純度ヒドロキシアパタイトの製造方法。
【請求項3】
工程Eにおける濾過として、限外濾過を用いることを特徴とする請求項1または2に記載の高純度ヒドロキシアパタイトの製造方法。
【請求項4】
リン酸アルカリがリン酸二水素アルカリであり、リン酸アンモニウムがリン酸二水素アンモニウムであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の高純度ヒドロキシアパタイトの製造方法。
【請求項5】
リン酸アルカリがリン酸ナトリウムであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の高純度ヒドロキシアパタイトの製造方法。
【請求項6】
水酸化アルカリが水酸化ナトリウムであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の高純度ヒドロキシアパタイトの製造方法。

【公開番号】特開2012−240871(P2012−240871A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−111027(P2011−111027)
【出願日】平成23年5月18日(2011.5.18)
【出願人】(391009187)株式会社白石中央研究所 (9)