説明

高純度ポリ乳酸、その塩またはその誘導体、及びその精製方法

高純度のポリ乳酸、その塩またはその誘導体及びこれを精製する方法が開示される。上記ポリ乳酸、その塩またはその誘導体は、医療用及び薬物伝達システムなどで多様な活用が可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
高純度ポリ乳酸、その塩またはその誘導体、及びその精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術
生分解性高分子であるポリ乳酸は、生体適合性に優れ且つ人体に無害な乳酸に加水分解される特徴から、様々な形態で薬物伝達体に応用されている。ポリ乳酸誘導体は、分子量に応じて様々な性質を呈するようになる。例えば、分子量2000ダルトン以上のポリ乳酸誘導体は水に溶けない特性があり、これを利用してミクロスフェア(microsphere)、ナノ粒子(nanoparticle)、高分子ゲル(polymeric gel)及びインプラント剤(implant agent)などの形態で開発された。
【0003】
また、薬物伝達体として使用されるポリ乳酸誘導体は、分子量及び共重合体の構成比などを調節することで、薬物の放出速度を制御することができる。薬物の放出を調節するためには、ポリ乳酸誘導体の純度が重要な役割をする。単量体から高分子を重合するが、このような過程で反応せずに残留した単量体が含まれてポリ乳酸誘導体の純度を低下させるようになる。未反応単量体の含量が高くなると、分子量の分布が広くなり、低分子量の高分子を人体に投与したとき、初期に薬物が過多放出される現象を示すことがある。また、残留している単量体が分解しながらpHを落とし、且つ高分子の分解速度が早まることで持続的な薬物放出を難しくする。
【0004】
既存のポリ乳酸の合成過程では、溶媒/非溶媒(solvent/non−solvent)方法を用いてポリ乳酸を精製した。このような方法では、分子量が高い場合またはL,L−ポリ乳酸誘導体の合成の際に、固体化した高分子を得ることができるという長所がある。しかしながら、分子量が低い場合または結晶性がないD,L−ポリ乳酸誘導体の合成の際には、非溶媒に沈殿させるとゲル状の沈殿物が生成し、これにより精製が難しくなるという短所がある。
【0005】
特に、分子量が低いD,L−ポリ乳酸の場合には、アセトンに溶かして蒸留水に沈澱させると、ゲル状の沈殿物が生成する。ゲル状の沈殿物は、含まれた水分を除去するために真空乾燥をしても水分がほとんど除去されず、水分の除去のためには長時間が要される。また、高温真空条件の場合には、縮合重合が進められることで分子量の調節が難しく、単量体であるラクチドが生成することがある。
【0006】
また、分子量が高い場合または結晶性があるL,L−ポリ乳酸の場合には、前記した溶媒/非溶媒方法にて固体化したポリ乳酸を得ることができる。しかしながら、溶媒/非溶媒方法にて精製する過程において、単量体及び有機金属触媒なども非溶媒中に一緒に沈澱されるため、効果的に除去されないという問題点がある。
【0007】
一方、液−液相分離方法にて低分子量のD,L−ポリ乳酸を精製する方法が知られている。重合された高分子をメタノールまたはエタノールなどに加熱して溶かした後、−78℃で冷凍保管すると相分離が起こるようになる。低分子量のポリ乳酸は、上層の有機溶媒に溶け込まれており、高い分子量のポリ乳酸は下層で固体化する。下層を分離し、溶媒を蒸留して除去する工程により、単量体及びオリゴマーが除去され、分子量の分布が狭い高純度のD,L−ポリ乳酸が得られる。しかしながら、重合工程で生成したラクチド単量体は、高温ではアルコール溶媒に溶け込むが、低温では再結晶化する。このため、上記方法では単量体の除去効果を期待することができないという問題点がある。
【発明の概要】
【0008】
本発明の一実施例の目的は、ポリ乳酸、その塩またはその誘導体を効果的に精製する方法を提供することである。
本発明の他の一実施例の目的は、高純度のポリ乳酸、その塩またはその誘導体を提供することである。
本発明のまた他の一実施例の目的は、精製されたポリ乳酸、その塩またはその誘導体を含む薬学組成物を提供することである。
【0009】
本発明は、高純度のポリ乳酸、その塩またはその誘導体、及びこれを精製する方法を提供する。具体的には、上記方法は、ポリ乳酸、その塩またはその誘導体を水混和性のある有機溶媒に溶解させる工程;有機溶媒に溶解させて得た高分子溶液に水またはアルカリ金属塩水溶液を添加して混合する工程;混合液を相分離して水を除去し有機溶媒層を回収する工程;及び回収した有機溶媒層から有機溶媒を除去して高分子を回収する工程を含む。また、本発明は、ラクトン単量体含量が1.0重量%以下であり、有機金属触媒の金属含有量が50ppm以下であるポリ乳酸、その塩またはその誘導体を提供する。
本発明は、未反応単量体及びオリゴマーが効果的に除去された純度高いポリ乳酸、その塩またはその誘導体、及びその製造方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、製造例1から得られたD,L−ポリ乳酸の1H−NMR結果を示す図である。
【図2】図2は、比較例1によって精製されたD,L−ポリ乳酸の1H−NMR結果を示す図である。
【図3】図3は、実施例1によって精製されたD,L−ポリ乳酸の1H−NMR結果を示す図である。
【図4】図4は、実施例2によって精製されたD,L−ポリ乳酸ナトリウム塩の1H−NMR結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施例を示す図面を参照して実施例の詳細について説明する。しかしながら、このような発明は多様な他の形態を含むことができ、本明細書に記載の実施例に限定されるものではない。実施例は、当業者が請求の範囲を完成し、かつ、十分に伝えられるようにするため提供されるものである。本明細書における既知の細部事項及び技術は、本実施例の態様が不必要に曖昧にならないように、省略することができる。
【0012】
本明細書において使用された用語は、特定実施例を説明するためのものであり、本発明を限定するものではない。単数形「一つの」及び「この」は、文脈上、明らかに別異に解されない限り、複数形をも含む。また、「一つの」などの用語はその使用頻度を限定せず、言及したものが少なくとも一つ以上存在することを表す。なお、本明細書において使用された「含む」及び/または「構成される」との用語は、特性、地域、段階、整数、動作、要素、及び/または構成成分の存在を具体化するが、一つ以上の他の特性、地域、段階、整数、動作、要素、構成成分、及び/またはこれらグループの存在及び追加を不可能にするものではない。
【0013】
本明細書において使用された全ての用語(技術的及び科学的用語を含む)は、別異に解されない限り、当業者において一般的なものと同一な意味を持つ。一般的に辞書に定義されているような用語は、関連技術及び本発明の文脈において持つ意味に相応する意味を持つものとして解すべきである。また、本明細書において明示されない限り、理想化しすぎたり、形式的に解し過ぎたりしないべきである。
【0014】
本発明は、ポリ乳酸、またはその塩またはその誘導体を精製する方法を提供する。具体的には、本発明は、ラクトン単量体含量が1.0重量%以下であり、有機金属触媒の金属含有量が50ppm、具体的には20ppm以下であるポリ乳酸、その塩またはその誘導体を製造する方法を提供する。
【0015】
上記ラクトン単量体、その加水分解産物及び低分子量のオリゴマーは、体内及び水溶液中で分解しやすいためpHを落とし、これにより更に高分子の分解速度を促進させたり、高分子に含有された薬物の安定性に影響したりして、不純物を誘導するという問題がある。また、製造された高分子に不純物として含まれた有機金属触媒もまた、高分子の加水分解を促進させて分子量を減少させ、その結果、pHを落とすようになる。有機金属触媒不純物によって加水分解速度が早まると、剤形組成物において薬物伝達体として使用される高分子の薬物の持続的な放出が邪魔され、所望の期間より早い薬物放出現象を示すことがあるため、薬物の放出速度を調節しにくくする。このため、ポリ乳酸、またはその塩またはその誘導体を利用した薬物伝達にあたって、薬物の放出速度を調節し、且つ不純物の生成を防止するためには、高分子に混在する単量体、低分子量の単量体のオリゴマー、及び有機金属触媒の含量を調節するのが必須である。
【0016】
上記ラクトン単量体含量が1.0重量%を超えると、高分子の分解速度を促進させ、高分子に含有された薬物の安定性に影響を及ぼして不純物の生成を誘導するため好ましくない。また、有機金属触媒の金属含有量が50ppmを超えると、高分子の加水分解を促進させてpHを落とし、これにより薬物の持続的放出が達成できなくなる。
【0017】
したがって、本発明は、ポリ乳酸を合成する工程において残留する未反応単量体、オリゴマー、または有機金属触媒を効果的に除去することで、高純度のポリ乳酸、またはその塩またはその誘導体を得るためのものである。
【0018】
上記ポリ乳酸は、ラクチドまたは乳酸で重合されたポリマーのことを意味し、ポリ乳酸の末端は、ヒドロキシまたはカルボキシ基であればよい。
【0019】
上記ポリ乳酸誘導体は、例えば、ポリラクチド、ポリグリコライド、ポリマンデル酸、ポリカプロラクトン、ポリジオキサン−2−オン、ポリアミノ酸、ポリオルトエステル、ポリ酸無水物、及びそれらの共重合体からなる群より選択される一種以上であり、より具体的には、ポリラクチド、ポリグリコライド、ポリカプロラクトンまたはポリジオキサン−2−オンである。
【0020】
上記ポリ乳酸、その塩またはその誘導体は、より具体的には、ポリ乳酸、乳酸とマンデル酸との共重合体、乳酸とグリコール酸との共重合体、乳酸とカプロラクトンとの共重合体及び乳酸と1,4−ジオキサン−2−オンの共重合体からなる群より選択される一種以上であればよい。
【0021】
本明細書において使用された「ポリ乳酸」または「ポリ乳酸誘導体」は、文脈上、別の意味を指す場合を除き、ポリ乳酸及びポリ乳酸誘導体間の精製方法上、相違しないため、ポリ乳酸及びポリ乳酸誘導体を集合的に意味するものである。
【0022】
一実施例において、上記ポリ乳酸塩は、ポリ乳酸のアルカリ金属塩であればよく、より具体的には、ナトリウム、カリウムまたはリチウムの1価金属イオンである金属イオン塩である。
【0023】
一実施例において、上記ポリ乳酸、その塩またはその誘導体の数平均分子量は、500ないし20,000ダルトンであり、具体的には500ないし10,000ダルトン、より具体的には、500ないし5,000ダルトンであればよい。
【0024】
本発明によるポリ乳酸を含む誘導体を合成する幾つかの方法について説明する。
ポリ乳酸誘導体を合成する第一の方法としては、L−ラクチドまたはD,L−ラクチドなどのラクトンを単量体として使用する開環重合法がある。開始剤としてはヒドロキシル基を含む化合物が使用可能であり、一実施例として、沸点の高いアルコールが使用されていてよい。具体的に、ラウリルアルコール(lauryl alcohol)、1,6−ヘキサンジオールなどが挙げられる。
【0025】
そして、開始剤が持つヒドロキシル基により単量体が重合されるように有機金属触媒が使用される。特に、医療用として使用されるポリ乳酸誘導体を合成する工程では、医療用として使用可能とFDAから承認されたオクチル酸第一錫触媒を主に使用する。このような開環重合法は、高い分子量のポリ乳酸誘導体を合成する際に使用される重合法であって、水分除去工程が極めて重要である。開環重合法により合成されたポリ乳酸誘導体には、未反応の単量体及び触媒として添加された有機金属などが含まれているようになる。
【0026】
ポリ乳酸などを合成する他の方法としては、乳酸などの遊離酸形態を使用して縮合重合する方法がある。縮合重合方法は、低分子量のポリ乳酸などを合成するのに有利である。これは、縮合重合工程では副産物として生成される水を効果的に除去するのが容易でないためである。副産物としての水を除去する方法としては、高温の真空条件で溶融重合する方法や、ディーン・スターク(dean stark)装置付き反応器にて水と混ざり合わない有機溶媒を使用して溶液重合する方法がある。上記乳酸を使用して縮合重合する方法は、5,000ダルトン以下の低い分子量のポリ乳酸誘導体を合成する際に好ましい工程であって、この場合には触媒を添加することなく重合することもできる。乳酸を溶融縮合重合法にて重合すると、未反応物の乳酸と高温真空条件で生成されるラクチドなどが含まれているようになる。
【0027】
前述した開環重合または縮合重合にて合成されたポリ乳酸またはその塩、またはその誘導体には、未反応単量体であるラクチドと乳酸、そのオリゴマー及び有機金属触媒が一定量含まれるようになる。合成されたポリ乳酸誘導体に含まれた単量体、オリゴマー及び有機金属触媒は体内及び水溶液中で分解しやすく、その結果pHを落とし(酸性化)、これにより分解速度が早まるようになる。不純物によって加水分解速度が早まると、剤形組成物において薬物伝達体として使用されるポリ乳酸誘導体の薬物の持続的な放出が邪魔され、所望の期間よりも早い薬物放出現象を示すことがあり、薬物放出速度を調節しにくくする。
【0028】
したがって、本発明では、ポリ乳酸、その塩またはその誘導体を合成する過程で発生する副産物または不純物を効果的に除去し、高純度のポリ乳酸、その塩またはその誘導体を製造することができる精製方法を提供する。
【0029】
本発明の一実施例による精製方法は、ポリ乳酸、その塩またはその誘導体を水混和性のある有機溶媒に溶解させる工程;有機溶媒に溶解させて得た高分子溶液に水またはアルカリ金属塩水溶液を添加して混合する工程;混合液を相分離して水を除去し有機溶媒層を回収する工程;及び回収した有機溶媒層から有機溶媒を除去して高分子を回収する工程を含む。
【0030】
本発明による精製方法は、分子量の低いポリ乳酸またはその誘導体に対しても適用が可能である。
【0031】
ポリ乳酸、その塩またはその誘導体を水混和性のある有機溶媒に溶解させて高分子溶液を生成する。一実施例において、上記有機溶媒は、ポリ乳酸誘導体を可溶化することができる溶媒として、沸点が100℃以下である水混和性のある有機溶媒であればよい。他の一実施例において、上記有機溶媒は、アセトンまたはアセトニトリルであればよい。
【0032】
有機溶媒に溶解させて得た高分子溶液に水またはアルカリ金属塩水溶液を添加する。より具体的には、ポリ乳酸、その塩またはその誘導体が溶解された有機溶媒に水またはアルカリ金属塩水溶液を徐々に添加して未反応単量体、オリゴマーを加水分解させる。一実施例において、上記アルカリ金属塩水溶液の濃度は0.05ないし0.1g/mlである。水またはアルカリ金属塩水溶液の使用量は、未反応単量体含有量と有機溶媒の量に応じて決められるが、有機溶媒の体積に対して0.5〜2倍で添加すればよい。
【0033】
アルカリ金属塩水溶液を添加する場合には、ポリ乳酸などのカルボキシ酸がカルボキシ基のアルカリ金属塩で置換されたポリ乳酸などを同時に得ることができる。一実施例において、上記アルカリ金属塩は、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム及び炭酸リチウムからなる群より選択される一種以上であればよい。
【0034】
例えば、カルボキシル末端基を有するポリ乳酸、その塩またはその誘導体の場合には、下記の一般式2または3のカルボキシル基が金属塩で置換され、このときの金属塩は、アルカリ金属塩水溶液の種類に応じて決められ、具体的には、炭酸水素ナトリウムまたは炭酸水素カリウム水溶液であればよい。水を使用する場合には、金属塩で置換されず水素イオンをそのまま有するカルボキシ酸末端基を有するポリ乳酸物質が得られる。
【0035】
一実施例において、上記混合は、具体的に40ないし100℃で10分ないし24時間撹拌することで行われていてよい。より具体的には、60ないし80℃で2時間ないし6時間撹拌する工程であればよい。加熱撹拌する工程により、低分子量のポリ乳酸誘導体及び単量体が加水分解され、アルカリ金属塩を使用する場合には、中和反応を起こしてポリ乳酸塩化合物が生成される。上記ポリ乳酸塩は、水溶液に対する溶解度が極めて高いため、相分離による精製を容易にする。したがって、二番目の工程における加熱温度及び撹拌時間などは、加水分解及び塩化合物の生成を促進するためのものである。例えば、加熱する温度が高すぎると、合成済みのポリ乳酸誘導体が加水分解して分子量が減少し得る。
【0036】
一実施例において、上記相分離は、混合液に塩を添加して有機溶媒層と水溶液層とに分離させることができる。例えば、上記塩は、塩化ナトリウムまたは塩化カリウムなどであればよい。塩を利用した分離過程では、例えば、加水分解工程を経たポリ乳酸誘導体溶液に塩化ナトリウムを添加して水混和性の有機溶媒と水溶液とを相分離させるようになる。相分離過程により、有機溶媒層には精製されたポリ乳酸誘導体が溶け込まれており、水溶液層には塩化合物、アルカリ金属塩、未反応単量体とオリゴマー及び有機金属触媒が溶け込まれているようになる。高分子溶液に水を添加する場合には、高分子が水に溶解しないため、塩を添加しなくても相分離が可能である。
【0037】
相分離された有機溶媒層から有機溶媒を除去して高分子を回収するようになる。一実施例において、相分離された有機溶媒層から分留により有機溶媒を除去する。分留温度は、例えば、60ないし80℃であればよい。
【0038】
一実施例において、有機溶媒を除去して高分子を回収した後に、
回収した高分子を無水有機溶媒に溶解させ、その後にろ過して、高分子が含有された有機溶媒を得る工程;及び
高分子が含有された有機溶媒から無水有機溶媒を除去する工程を更に含んでいてよい。
他の一実施例において、上記無水有機溶媒は無水アセトンまたは無水アセトニトリルであればよい。
【0039】
上記ろ過して、高分子が含有された有機溶媒を得る過程において、有機溶媒が除去されたポリ乳酸、その塩またはその誘導体を再び無水有機溶媒に溶かすと、ポリ乳酸、その塩またはその誘導体は溶解され、少量存在する塩化ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどの塩化合物及びアルカルリ金属塩は沈殿する。沈殿された塩化合物は、遠心分離またはろ過法にて除去する。
【0040】
そして、高分子が含有された有機溶媒から無水有機溶媒を除去する過程では、塩化ナトリウムのような塩が除去されたポリ乳酸、その塩またはその誘導体に対して、再び蒸留法にて有機溶媒を除去する。一実施例において、上記蒸留法が適用される蒸留温度は60ないし80℃であればよい。有機溶媒を除去した後、精製されたポリ乳酸、その塩またはその誘導体を得ることができる。または、溶媒/非溶媒沈澱法にて精製されたポリ乳酸誘導体を得ることもできる。
【0041】
一実施例において、本発明によるポリ乳酸、またはその塩またはその誘導体は、下記の一般式1で示される単量体を含んでいてよい。
【0042】
【化1】

【0043】
上記一般式1中、
Yは、水素、メチル基またはフェニル基を表し、
Aは、5ないし300の整数を表す。
一実施例において、上記ポリ乳酸、またはその塩またはその誘導体は、下記の一般式2または3で示される。
【0044】
【化2】

【0045】
【化3】

【0046】
上記一般式2または3中、
1は、−C(=O)−O−CHZ−を表し、
2は、−C(=O)−O−CHY−、−C(=O)−O−CH2CH2CH2CH2CH2−または−C(=O)−O−CH2CH2OCH2−を表し、
Z及びYは、独立して水素、メチル基またはフェニル基を表し、
l及びmは、0ないし150の整数を表し、ただし、両者が同時に0になることはできず、
Mは、水素、ナトリウム、カリウムまたはリチウムを表し、
Aは、ジオールまたは3ないし12個のヒドロキシル基を含むポリオール化合物を表し、
nは、2ないし12の整数を表し、Aが含んでいるヒドロキシル基の個数と同一である。
【0047】
一実施例において、上記2ないし12個のヒドロキシル基を含む化合物は、アルコール、ジオール化合物、グリセロール、ペンタエリスリトールまたはキシリトールのような単一化合物であるか、あるいはポリエチレングリコールまたはモノメトキシポリエチレングリコールのような高分子化合物であればよい。
【0048】
また、本発明は、精製された高純度のポリ乳酸、その塩またはその誘導体を提供する。一実施例において、上記ポリ乳酸、その塩またはその誘導体は、ラクトン単量体含量が1.0重量%以下であり、有機金属触媒の金属含有量が50ppm、具体的には20ppm以下であること特徴とする。
【0049】
また、本発明は、ポリ乳酸、またはその塩またはその誘導体を含む薬学組成物を提供する。上記ポリ乳酸は、生体適合性が優れ且つ人体に無害であるため、多様な形態の薬物伝達体として活用することができる。また、ポリ乳酸は、分子量及び共重合体の構成比などを調節して薬物放出速度を制御することができ、このためには、高純度のポリ乳酸が要求される。
【0050】
上記薬学組成物は、防腐剤、安定化剤、水和剤または乳化促進剤、浸透圧の調節のための塩及び/または緩衝剤などの薬剤学的補助剤、及びその他治療的に有用な物質を更に含有していてよい。また、上記薬学組成物は、投与経路に応じて、通常的な方法にて各種の経口または非経口投与形態で剤形化することができる。
【0051】
以下、実施例などにより本発明をさらに詳述するが、下記の実施例などは、本発明を例示するためのものであって、本発明の範疇がこれらのみに限定されるものではない。
【実施例】
【0052】
[製造例1]縮合重合法によるD,L−ポリ乳酸(PLA−COOH)の合成
D,L−乳酸1,000gを2,000mlの三口丸底フラスコに入れ、該フラスコに撹拌器を取り付けた。しかる後、上記フラスコを80℃で加熱したオイル・バス内において加熱するとともに、減圧アスピレーターで25mmHgに減圧しながら1時間反応させ、過量存在する水分を除去した。
【0053】
反応温度を160℃に上げ、圧力を5〜10mmHgに減圧した条件で、6時間反応させた後、反応を終結した。その結果、精製されていない状態のポリ乳酸646gを得た。製造されたポリ乳酸に対するNMR測定結果を図1に示した。
【0054】
[製造例2]開環重合法によるD,L−ポリ乳酸(PLA−COOH)の合成
D,L−ラクチド500gを一口フラスコに入れ、50℃で4時間真空乾燥させる。該フラスコを室温に下げた後、オクチル酸錫触媒(250mg;0.05wt%)を溶かしたトルエン溶液(0.5ml)と1−ドデカノール62.5gをフラスコに投入し、2時間真空乾燥した。フラスコを窒素で充填し、130℃で6時間重合した。その結果、精製されていない状態のポリ乳酸380gを得た。
【0055】
[比較例1]D,L−ポリ乳酸(PLA−COOH)の精製
製造例1から得られたポリ乳酸100gにアセトン100mlを加えて高分子を溶解させた。高分子溶液を蒸留水1000mlに徐々に添加しながら高分子を析出させた。析出された高分子をろ過し、蒸留水500mlで2回洗浄した。過量の水分を除去するために、90℃で2時間真空乾燥した。その結果、精製されたポリ乳酸87gを得た。精製されたポリ乳酸に対するNMR測定結果を図2に示した。
【0056】
[比較例2]D,L−ポリ乳酸(PLA−COOH)の精製
製造例2から得られたポリ乳酸100gにメチレンクロライド100mlを加えて高分子を溶解させた。高分子溶液をジエチルエーテル1,000mlに徐々に添加しながら高分子を析出させた。析出された高分子をろ過した。得られた高分子を室温で真空乾燥した。その結果、精製されたポリ乳酸66gを得た。
【0057】
[実施例1]D,L−ポリ乳酸(PLA−COOH)の精製
製造例1から得られたポリ乳酸100gにアセトニトリル200mlを添加して高分子を溶解させた。高分子溶液に蒸留水200mlを添加し、60℃で2時間100rpmで撹拌した。室温で二つの溶媒が相分離された後、有機溶媒層を分離した。分離した有機溶媒層に蒸留水100mlを混ぜて洗浄した後、再び相分離して有機溶媒層を得た。得られた有機溶媒層を80℃、真空条件下で分留して有機溶媒を除去した。その結果、精製されたポリ乳酸73gを得た。精製されたポリ乳酸に対するNMR測定結果を図3に示した。
【0058】
[実施例2]D,L−ポリ乳酸ナトリウム塩(PLA−COONa)の合成及び精製
製造例1から得られたポリ乳酸100gにアセトニトリル150mlを添加して溶解させた。しかる後、炭酸水素ナトリウム水溶液(0.1g/ml)150mlを徐々に添加し、60℃で2時間100rpmで撹拌した。室温で塩化ナトリウム15gを添加して撹拌しながら溶解させた。分別漏斗を利用して二つの溶媒層を相分離させ、水溶液層を除去した。
【0059】
残留している有機溶媒層に蒸留水100mlと塩化ナトリウム10gを添加して撹拌しながら溶解させた。再び分別漏斗を利用して二つの溶媒層を相分離させ、有機溶媒層を得た。得られた有機溶媒層を80℃、真空条件下で2時間分留して、有機溶媒と蒸留水を完全に除去した。
【0060】
しかる後、無水アセトン150mlを添加して高分子を溶解させ、溶解されていない沈殿物はろ過分離して除去した。80℃、真空条件下で2時間分留し、アセトンを除去した。その結果、精製されたポリ乳酸ナトリウム塩69gを得た。精製されたポリ乳酸ナトリウム塩に対するNMR測定結果を図4に示した。
【0061】
[実施例3]D,L−ポリ乳酸ナトリウム塩(PLA−COONa)の合成及び精製
製造例2から得られたポリ乳酸100gを使用したことを除いては、実施例2と同法にて精製されたポリ乳酸ナトリウム塩63gを得た。
【0062】
[実験例1]精製度の比較実験
製造例1、2、比較例1、2、実施例1、2及び3に従って合成または精製されたポリ乳酸、その塩またはその誘導体に対し、分子量、ラクチド及び有機金属触媒の含量を比較測定した。
【0063】
各場合における分子量及びラクチドの含量を計算するために、1H−NMR分析によりポリ乳酸末端基のヒドロキシル基を基準として強度(intensity)を求めた。Sn含量は、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光法で分析した。
実験結果は、下表1のとおりである。
【0064】
【表1】

【0065】
上記表1を参照すると、比較的に低い分子量を有するD,L−ポリ乳酸の精製工程における、既知の(溶媒/非溶媒)精製法による結果(比較例1)では、ラクチドが完全に除去されず、精製前の試料(製造例1)に比べて分子量の増加量も相対的に小さいことを確認することができる。また、比較例2の場合は、ラクチドの含量が高いだけでなく、有機金属触媒も除去されず、多量残存することが分かる。
【0066】
これに対し、実施例1、2及び3の場合には、ラクチドの含量が極めて低いことと分析され、分子量の増加量も相対的に高いことが分かる。さらに、実施例3の場合には、有機金属触媒が効果的に除去されたことが分かる。したがって、従来の方法に比べて高純度のポリ乳酸、またはその塩またはその誘導体の製造が可能であるということを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0067】
産業上の利用可能性
本発明によるポリ乳酸、その塩またはその誘導体は、医療用及び薬物伝達システムなどで多様な活用が可能である。
【0068】
上記実施例が図示及び説明されたが、当業者は、請求項に開示の精神及び範囲から逸脱することなく、形態及び細部事項において多様な変化を与え得るものと理解されるべきである。
【0069】
それに加えて、本発明の核心的範囲を逸脱せず、本発明の示唆に特別な状況または材料を適用することで多様な変形を行うことができる。したがって、本発明は、本発明を実施する最良の形態として開示された特定実施例に限定されるものではなく、本発明は請求の範囲に該当する全ての実施を含むものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸、その塩またはその誘導体を水混和性のある有機溶媒に溶解させる工程;
有機溶媒に溶解させて得た高分子溶液に水またはアルカリ金属塩水溶液を添加して混合する工程;
混合液を相分離して水を除去し有機溶媒層を回収する工程;及び
回収した有機溶媒層から有機溶媒を除去して高分子を回収する工程を含むことを特徴とするポリ乳酸、その塩またはその誘導体の精製方法。
【請求項2】
前記水混和性のある有機溶媒は、アセトンまたはアセトニトリルであることを特徴とする請求項1に記載のポリ乳酸、その塩またはその誘導体の精製方法。
【請求項3】
前記アルカリ金属塩は、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム及び炭酸リチウムからなる群より選択される一種以上の金属塩であることを特徴とする請求項1に記載のポリ乳酸、その塩またはその誘導体の精製方法。
【請求項4】
前記混合は、40ないし100℃で10分ないし24時間撹拌することで行われることを特徴とする請求項1に記載のポリ乳酸、その塩またはその誘導体の精製方法。
【請求項5】
前記相分離の際に塩を添加して有機溶媒層と水溶液層とに分離させることを特徴とする請求項1に記載のポリ乳酸、その塩またはその誘導体の精製方法。
【請求項6】
前記塩は、塩化ナトリウムまたは塩化カリウムであることを特徴とする請求項5に記載のポリ乳酸、その塩またはその誘導体の精製方法。
【請求項7】
有機溶媒を除去して高分子を回収した後に、
回収した高分子を無水有機溶媒に溶解させ、その後にろ過して、高分子が含有された有機溶媒を得る工程;及び
高分子が含有された有機溶媒から無水有機溶媒を除去する工程を更に含む請求項1に記載のポリ乳酸、その塩またはその誘導体の精製方法。
【請求項8】
前記無水有機溶媒は、無水アセトンまたは無水アセトニトリルであることを特徴とする請求項7に記載のポリ乳酸、その塩またはその誘導体の精製方法。
【請求項9】
前記ポリ乳酸、その塩またはその誘導体は、下記の一般式1:
【化1】

[一般式中、
Yは、水素、メチル基またはフェニル基を表し、
Aは、5ないし300の整数を表す。]
で示される単量体を含むことを特徴とする請求項1に記載のポリ乳酸、その塩またはその誘導体の精製方法。
【請求項10】
前記ポリ乳酸誘導体は、下記の一般式2または3:
【化2】

【化3】

[一般式中、
1は、−C(=O)−O−CHZ−を表し、
2は、−C(=O)−O−CHY−、−C(=O)−O−CH2CH2CH2CH2CH2−または−C(=O)−O−CH2CH2OCH2−を表し、
Z及びYは、独立して水素、メチル基またはフェニル基を表し、
l及びmは、0ないし150の整数を表し、ただし、両者が同時に0になることはできず、
Mは、水素、ナトリウム、カリウムまたはリチウムを表し、
Aは、ジオールまたは3ないし12個のヒドロキシル基を含むポリオール化合物を表し、
nは、2ないし12の整数を表し、Aが含んでいるヒドロキシル基の個数と同一である。]
示されることを特徴とする請求項1に記載のポリ乳酸、その塩またはその誘導体の精製方法。
【請求項11】
ラクトン単量体含量が1.0重量%以下であり、有機金属触媒の金属含有量が50ppm以下であるポリ乳酸、その塩またはその誘導体。
【請求項12】
前記ポリ乳酸、その塩またはその誘導体は、ポリラクチド、ポリグリコライド、ポリマンデル酸、ポリカプロラクトンまたはポリジオキサン−2−オン、これらの共重合体、ポリアミノ酸、ポリオルトエステル及びポリ酸無水物からなる群より選択される一種以上であることを特徴とする請求項11に記載のポリ乳酸、その塩またはその誘導体。
【請求項13】
前記ポリ乳酸、その塩またはその誘導体の水平均分子量は、500ないし20,000ダルトンであることを特徴とする請求項11に記載のポリ乳酸、その塩またはその誘導体。
【請求項14】
請求項1に記載の精製方法によって精製されたポリ乳酸、その塩またはその誘導体、または請求項11に記載のポリ乳酸、その塩またはその誘導体を含むことを特徴とする薬学組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−508293(P2012−508293A)
【公表日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−535497(P2011−535497)
【出願日】平成21年6月23日(2009.6.23)
【国際出願番号】PCT/KR2009/003366
【国際公開番号】WO2010/053242
【国際公開日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(500578515)サムヤン コーポレイション (20)
【Fターム(参考)】