説明

高純度塩酸ベニジピンの工業的製造方法

【課題】 従来の再結晶の繰り返し、その再結晶による化合物のロス等を回避し、簡単な操作で、収率よく、かつ高純度で塩酸ベニジピンを得る工業的製造方法を提供すること。
【解決手段】 塩酸ベニジピンの粗結晶を、水単独あるいは水と混合する有機溶媒との混合溶液に加熱溶解した後、冷却することにより塩酸ベニジピンの一水和物の結晶を得、次いで得られた塩酸ベニジピンの一水和物の結晶をケトン系溶媒単独、あるいはこれとアルコール系溶媒との混合溶媒に加熱処理し、次いで冷却することを特徴とする高純度の塩酸ベニジピンの工業的製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高純度塩酸ベニジピンの工業的な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塩酸ベニジピン(一般名)は、化学名が(±)−(R)−3−[(R)−1−ベンジル−3−ピペリジル]メチル 1,4−ジヒドロ−2,6−ジメチル−4−(m−ニトロフェニル)−3,5−ピリジンジカルボン酸の塩酸塩であり、血圧降下剤、血管拡張剤等の循環器用薬として、高血圧症、狭心症の治療薬として臨床的に使用されている有用な化合物である。
【0003】
この塩酸ベニジピンには、融点の相違により、低融点の化合物Aと高融点の化合物Bの両者が存在することが知られており(特許文献1)、臨床的に使用されている塩酸ベニジピンは高融点の化合物Bである。
この化合物Bの製造法は、例えば、m−ニトロベンズアルデヒドとβ−アミノクロトン酸メチル及びアセト酢酸−N−ベンジル−3−ピペリジルエステルとの反応による方法(特許文献2)、2,6−ジメチル4−(3−ニトロフェニル)−1,4−ジヒドロピリジン−3,5−ジカルボン酸モノメチルエステルと1−ベンジル−3−ヒドロキシピペリジンとの反応による方法(特許文献3)、3−ニトロベンジリデンアセト酢酸メチルと3−アミノクロトン酸−1−ベンジル−3−ピペリジルエステルとの反応による方法(特許文献4)等が知られている。
【0004】
従来の方法にあっては、高純度の化合物Bを得るには、繰り返し再結晶操作を行わなければならず、再結晶操作を繰り返す煩雑さ、再結晶による化合物のロス等があり、工業的製造方法としては好ましいものではなく、簡単に収率よく高純度で化合物Bを得る工業的製造方法の開発が望まれていた。
【特許文献1】特許第3053861号掲載公報
【特許文献2】特開昭57−171968号公報
【特許文献3】特開昭59−70667号公報
【特許文献4】特開昭59−137461号公報
【非特許文献1】薬剤学第63巻(第3号)、158−164頁(2003年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって本発明は、従来行われていた再結晶の繰り返し、その再結晶による化合物のロス等を回避し、簡単な操作で、収率よく、かつ高純度で塩酸ベニジピン(いわゆる化合物B)を得る工業的製造方法を提供することを課題とする。
【0006】
かかる課題を解決するべく、本発明者等は鋭意検討した結果、従来の製造方法に従って製造された塩酸ベニジピンの粗結晶を、塩酸ベニジピンの一水和物の結晶へ誘導した後、この塩酸ベニジピンの一水和物の結晶をケトン系溶媒単独あるいはこれとアルコール系溶媒との混合溶媒で処理することにより、高収率で純度よく塩酸ベニジピンを製造しうることを新規に見出し、本発明を完成させるに至った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
したがって、基本的な態様としての請求項1に記載の発明は、塩酸ベニジピンの粗結晶を、水単独あるいは水と混合する有機溶媒との混合溶液に加熱溶解した後、冷却することにより塩酸ベニジピンの一水和物の結晶を得、次いで得られた塩酸ベニジピンの一水和物の結晶をケトン系溶媒単独、あるいはこれとアルコール系溶媒との混合溶媒に加熱処理し、次いで冷却することを特徴とする高純度塩酸ベニジピンの工業的製造方法である。
【0008】
さらに本発明は、別の態様として、請求項2に記載の発明は、塩酸ベニジピンの一水和物の結晶をケトン系溶媒単独、あるいはこれとアルコール系溶媒との混合溶媒に加熱処理し、次いで冷却することを特徴とする高純度塩酸ベニジピンの工業的製造方法である。
【0009】
より具体的な請求項3に記載の本発明は、水と混合する有機溶媒が、炭素原子数1〜4のアルコール系溶媒;ケトン系溶媒;アセトニトリル;酢酸エチルまたはジオキサンである上記の工業的製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、基本的には、通常の工業的な製造方法により得られた塩酸ベニジピンの粗結晶を、塩酸ベニジピンの一水和物の結晶へ誘導した後、かかる結晶をケトン系溶媒単独、あるいはこれとアルコール系溶媒との混合溶媒で処理することにより、高収率で純度よく塩酸ベニジピンを得る方法であって、従来法に比較して繰り返し再結晶を行う操作の煩雑さを回避しうるものである。
また得られた塩酸ベニジピンはその純度がよく、したがって、本発明方法により、そのまま医薬品として使用しうる高純度を保持した塩酸ベニジピンが提供される利点を有している。
さらに、再結晶操作の繰り返しが無いため、目的とする塩酸ベニジピンのロスが少なく、高収率で製造しうることから、その経済的利点は多大なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、上記したように、通常の工業的な製造方法により得られた塩酸ベニジピンの粗結晶を、塩酸ベニジピンの一水和物の結晶へ誘導した後、かかる結晶をケトン系溶媒単独、あるいはこれとアルコール系溶媒との混合溶媒で処理することによる、高収率で純度よく塩酸ベニジピンを得る方法である。
なお、本発明で目的とする高純度の塩酸ベニジピンは、特許文献1に記載される高融点の塩酸ベニジピンである「化合物B」である。
【0012】
この塩酸ベニジピンの一水和物については、既にその存在が知られていたものであるが(非特許文献1)、この一水和物の結晶を用いてケトン系溶媒単独、あるいはこれとアルコール系溶媒との混合溶媒と処理することにより純度よく塩酸ベニジピンが製造できることは、一切知られていなかった。その点で本発明は極めて特異的なものである。
【0013】
塩酸ベニジピンの一水和物の結晶を得るには、具体的には、塩酸ベニジピンの粗結晶を、水単独あるいは水と混合する有機溶媒との混合溶液に加熱溶解した後、冷却することにより塩酸ベニジピンの一水和物の結晶を得ることができる。
【0014】
水と混合する有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の炭素原子数1〜4のアルコール系溶媒;アセトニトリル;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;酢酸エチルまたはジオキサンを挙げることができる。
【0015】
具体的には、これら溶媒と水との混合溶媒、なかでもエタノール−水あるいはアセトニトリル−水との混合溶媒、あるいは水単独溶媒中に塩酸ベニジピンの粗結晶を加熱溶解した後、その加熱状態を維持し、その後冷却することにより、目的とする塩酸ベニジピンの一水和物の結晶を得ることができる。
【0016】
水と有機溶媒の混合溶媒を使用する場合の有機溶媒と水との混合比は一概に限定できないが、有機溶媒:水として40〜80:60〜20程度の比率が好ましく使用される。塩酸ベニジピンの粗結晶を上記の溶媒中に加熱溶解するが、加熱温度としては用いる溶媒の還流温度までが好ましい。また、塩酸ベニジピンの一水和物の結晶を析出させるために冷却するが、冷却温度としては0℃〜室温程度までが好ましく、冷却時間は1〜48時間、好ましくは5〜30時間程度がよい。
【0017】
加熱後、冷却することにより目的とする塩酸ベニジピンの一水和物は溶液中に結晶として析出してくるので、これを濾取して風乾することにより塩酸ベニジピンの一水和物の結晶を得ることができる。
なおこの水和物の確認は、カールフィッシャー法による水分の測定、融点(178℃)の測定、赤外線吸収スペクトル(IR)、示差熱走査曲線(DSC)、粉末X−線回折等の測定により行うことができる。
【0018】
次いで、かくして得られた塩酸ベニジピンの一水和物をケトン系溶媒単独、あるいはこれとアルコール系溶媒との混合溶媒に穏やかに加熱処理し、その後冷却することにより、高純度の塩酸ベニジピンが製造される。用いるケトン系溶媒としてはアセトン、メチルエチルケトン等が挙げられ、なかでもアセトンが好ましく使用される。また、アルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の炭素原子数1〜4のアルコール系溶媒があげられ、好ましくはエタノールを用いるのがよい。
【0019】
ケトン系溶媒に対するアルコール系溶媒の比率は一概に限定できないが、容量比で、ケトン系溶媒1に対してアルコール系溶媒を0.1〜1程度使用するのがよい。
【0020】
加熱後、冷却することにより目的とする塩酸ベニジピンが結晶として析出してくるので、これを濾取して風乾することにより塩酸ベニジピン結晶を得ることができ、得られた結晶は、そのまま医薬品原料として使用し得る高純度のものであった。
なおこの塩酸ベニジピンの確認は、融点(204℃)の測定、赤外線吸収スペクトル(IR)、示差熱走査曲線(DSC)、粉末X−線回折等の測定により行うことができる。
【実施例】
【0021】
以下に本発明を、参考例、実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、下記の実施例においては機器データの測定は、以下の分析機器を使用した。
DSC:Rigaku DSC8230
IR:日本分光 FT/IR-430
粉末X線回折:Rigaku RAD-1C
【0022】
参考例:塩酸ベニジピンの粗結晶の製造
m−ニトロベンズアルデヒドとβ−アミノクロトン酸メチル及びアセト酢酸−N−ベンジル−3−ピペリジルエステルを用いて、特開昭57−171968(特許文献2)に記載されている製造方法により、塩酸ベニジピンの粗結晶を得た。この物のHPLCによる相対純度は96.8%であった。
【0023】
実施例1:塩酸ベニジピンの一水和物の結晶の製造
上記の参考例により得た塩酸ベニジピンの粗結晶20.0gにエタノール80mLを加えて、加熱還流下溶解した後、この溶液に水20mLを加えた。冷却下攪拌した後に析出した結晶を濾過し、乾燥することにより塩酸ベニジピンの一水和物結晶17.6g(収率85%)を得た。
【0024】
この結晶のHPLCによる相対純度は99.6%であり、機器分析の結果は次の通りであった。
水分:3.3%(カールフィッシャー法)
融点:178℃
IR(KCl、cm−1):1674,1484,1281,1210
粉末X線回折(2θ):7.2,10.3,13.7,20.4,22.1
【0025】
実施例2:塩酸ベニジピンの一水和物の結晶の製造
参考例で得た塩酸ベニジピンの粗結晶20.0gにアセトニトリル48mL及び水12mLを加えて、加熱還流下に溶解した。冷却下攪拌した後に析出した結晶を濾過し、乾燥を行い、塩酸ベニジピンの一水和物結晶16.6g(収率80%)を得た。この結晶のHPLCによる相対純度は99.5%であり、機器分析の結果は実施例1で得られた結晶と同様であった。
【0026】
実施例3:塩酸ベニジピンの結晶の製造
実施例1で得た塩酸ベニジピンの一水和物結晶15.0gにエタノール45mLを加えて、加熱還流下溶解した後、この溶液にアセトン90mLを加えた。冷却下攪拌した後に析出した結晶を濾過し、乾燥を行い塩酸ベニジピンの結晶13.1g(収率90%)を得た。この結晶の機器分析結果は次の通りであった。
融点:204℃
IR(KCl、cm−1):1666,1492,1300,1219
粉末X線回折(2θ):8.1,10.4,12.7,19.5,24.1
【産業上の利用可能性】
【0027】
以上記載のように、本発明方法により塩酸ベニジピンを、そのまま医薬品として使用しうる高純度を保持した塩酸ベニジピンが製造できる工業的方法が提供される。
本発明方法は、従来法に比較して繰り返し再結晶を行う操作の煩雑さを回避しうるものであり、再結晶操作の繰り返しが無いため、目的とする塩酸ベニジピンのロスが少なく、高収率で製造しうることから、その経済的利点は多大なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩酸ベニジピンの粗結晶を、水単独あるいは水と混合する有機溶媒との混合溶液に加熱溶解した後、冷却することにより塩酸ベニジピンの一水和物の結晶を得、次いで得られた塩酸ベニジピンの一水和物の結晶をケトン系溶媒単独、あるいはこれとアルコール系溶媒との混合溶媒に加熱処理し、次いで冷却することを特徴とする高純度塩酸ベニジピンの工業的製造方法。
【請求項2】
塩酸ベニジピンの一水和物の結晶をケトン系溶媒単独、あるいはこれとアルコール系溶媒との混合溶媒に加熱処理し、次いで冷却することを特徴とする高純度塩酸ベニジピンの工業的製造方法。
【請求項3】
水と混合する有機溶媒が、炭素原子数1〜4のアルコール系溶媒;アセトニトリル;ケトン系溶媒;酢酸エチルまたはジオキサンである請求項1に記載の高純度塩酸ベニジピンの工業的製造方法。
【請求項4】
ケトン系溶媒がアセトンである請求項1又は2に記載の高純度塩酸ベニジピンの工業的製造方法。

【公開番号】特開2007−8819(P2007−8819A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−187936(P2005−187936)
【出願日】平成17年6月28日(2005.6.28)
【特許番号】特許第3763538号(P3763538)
【特許公報発行日】平成18年4月5日(2006.4.5)
【出願人】(000207252)ダイト株式会社 (8)
【Fターム(参考)】