説明

高純度形状記憶合金ターゲット及び同合金薄膜

【課題】形状記憶合金のエッチング特性を飛躍的に向上させることができる形状記憶合金及び同合金ターゲット並びに同合金薄膜を提供する。
【解決手段】構成元素及びガス成分を除いた不純物成分が1000wtppm以下である高純度形状記憶合金及び同合金ターゲット並びに同合金薄膜。Ni-Ti系の形状記憶合金及び同ターゲットにおいて、AlおよびSnの含有量がそれぞれ100wtppm以下、Cu-Al系の形状記憶合金および同ターゲットにおいて、Ag、S及びClの含有量がそれぞれ50wtppm以下、Fe-Mn系の形状記憶合金および同ターゲットにおいてAlおよびCrの含有量がそれぞれ100wtppm以下、である同高純度形状記憶合金及び同合金ターゲット並びに同合金薄膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は優れたエッチング特性を有する形状記憶合金および同形状記憶合金薄膜形成用スパッタリングターゲット並びに同形状記憶合金薄膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年マイクロマシン等のアクチュエータ材料やマイクロエレクトロニクスマシニングの駆動部品として形状記憶合金薄膜が実用化の段階に入りつつある。形状記憶合金の薄膜はスパッタリングや真空蒸着法等で成膜される。一般に、成膜後エッチング等の手法によりパターンを形成されて機能部品として用いられている。
しかしながら、この形状記憶合金薄膜は、時としてエッチングの不良や不均質なエッチングが発生することがあり、エッチング不良は、設計されたパターン成形を阻害するため、設計された機能を十分に果たすことができず、機能部品としての歩留まりを大きく損なうことがあった。
【0003】
このエッチング不良に関する原因については、プロセス条件の検討からのアプローチが多く、材料の観点、特に材料中の不純物の観点からの研究はあまりなされていないのが現状である。
これまで形状記憶合金中の不純物については、酸素が耐食性や疲労特性に影響するということが触れられており(特許文献1参照)、また薄膜形成時に基盤材等からの不純物の混入により形状記憶特性が著しく低下するという報告がある(特許文献2参照)
【0004】
しかし、形状記憶合金中のガス成分以外の不純物の総量や個々の不純物量及びそれらが及ぼす影響についてはほとんど研究されておらす、ましてや薄膜成膜後のパターニングに及ぼす不純物の影響については全く知見が得られていないのが現状である。
【特許文献1】特開平1−100229号
【特許文献2】特開平7−90624
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、形状記憶合金のエッチング特性を飛躍的に向上させることができる形状記憶合金及び同合金ターゲット並びに同合金薄膜を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、形状記憶合金の不純物がエッチング特性に及ぼす影響を鋭意研究した結果、不純物総量を厳格に制限し、さらに特定の不純物量を減少させることにより、エッチング特性に優れた薄膜を形成することが可能であるとの知見を得た。
また、スパッタリングにより成膜する場合においては、スパッタターゲットの平均結晶粒径を小さくすることによりエッチング時の欠陥形成を抑制できることがわかった。
【0007】
本発明は上記知見に基づき、1)構成元素及びガス成分を除いた不純物成分が1000wtppm以下であることを特徴とする高純度形状記憶合金及び同合金ターゲット並びに同合金薄膜、2)構成元素及びガス成分を除いた不純物成分が100wtppm以下であることを特徴とする高純度形状記憶合金及び同合金ターゲット並びに同合金薄膜、3)Ni-Ti系の形状記憶合金及び同ターゲットにおいて、AlおよびSnの含有量がそれぞれ100wtppm以下であることを特徴とする1記載の高純度形状記憶合金及び同合金ターゲット並びに同合金薄膜、4)Cu-Al系の形状記憶合金および同ターゲットにおいて、Ag、S及びClの含有量がそれぞれ50wtppm以下であることを特徴とする1記載の高純度形状記憶合金及び同合金ターゲット並びに同合金薄膜、5)Fe-Mn系の形状記憶合金および同ターゲットにおいてAlおよびCrの含有量がそれぞれ100wtppm以下であることを特徴とする1記載の高純度形状記憶合金及び同合金ターゲット並びに同合金薄膜、6)平均結晶粒径が1000μm以下であるか、若しくは未再結晶組織であることを特徴とする1〜5のいずれかに記載のターゲットを提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、形状記憶合金のエッチング特性を飛躍的に向上させることができる形状記憶合金及び同合金ターゲット並びに同合金薄膜を提供することが可能であり、マイクロマシン等のアクチュエータ材料やマイクロエレクトロニクスマシニングの駆動部品材料として優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
形状記憶合金として現在実用に供されているものは、NiTiやCu-Al-Niに代表されるようなNi系合金やCu系合金である。
また、最近ではFe-Mn-Siのような鉄系の形状記憶合金も実用化間近の段階に至っている。本発明は、これらの形状記憶合金に適用できる。
形状記憶合金の新しい用途としてマイクロマシニングやマイクロエレクトロニクスマシニングにおいて薄膜化した形状記憶合金をパターニングして駆動部品とする技術が開発されている。
【0010】
パターニングは、半導体集積回路のパターン形成の技術が使われることが多いが、パターニング後のエッチング不良により、設計どおりの形状にエッチングされずに、機能部品としての作動を阻害し、あるいは機能部品の歩留まりを大きく低下させることがあった。
これらのエッチング不良について系統的な解析を続けてきた結果、薄膜の中あるいは表面に存在する析出物や介在物あるいは異物がエッチングを阻害もしくは異常に促進させ不良を形成する原因になっていることがわかった。
【0011】
そして、これらの析出物や介在物、異物についてさらなる解析を実施した結果、これらが形状記憶合金薄膜を形成する材料そのものの中に存在している不純物が原因となり生じていることが判明した。
すなわち、薄膜形成時若しくは形成後の熱処理時に材料中に存在する不純物が薄膜中の粒界に選択的に析出物や介在物として形成され、これらの存在がエッチング不良を生じさせることがわかった。
また同時に、薄膜がスパッタで形成される場合は、薄膜中や薄膜上に異物として存在する場合が有るが、この異物がスパッタターゲットから飛来するいわゆるパーテイクルと呼ばれるものであることがわかった。
【0012】
パーテイクルはターゲット中に存在する介在物や析出物であり、スパッタ時に異常放電等を起こしてターゲットから飛来することがわかった。
さらにこれらのターゲット中の介在物又は析出物は、ターゲットを製造する過程の溶解、凝固若しくは粉末の固化、熱処理等のさまざまな熱履歴や塑性加工等のプロセスの間に、ターゲット中に含まれる不純物から形成されるものであることが分かった。
そして、これらの析出物や介在物の大きさは、ターゲットの結晶粒径に依存することが判明しており、微細な組織若しくは未再結晶組織の場合に、より小さくなり、その影響が小さくなることが分かった。
【0013】
材料中に含まれる不純物は、できるだけ少ないことが望ましいが、高純度材料は非常に高価なものとなる。この点を考慮し、不純物含有量を1000wtppm以下、好ましくは100wtppm以下にすることにより、安価かつエッチング特性に優れた形状記憶合金薄膜を形成することが可能となる。
NiTi系の形状記憶合金については、特にAlとSnの不純物が問題となり、これらの含有量をそれぞれ100wtppm以下に抑えることが有効である。これにより、安価かつエッチング特性に優れた形状記憶合金薄膜を形成することができる。
【0014】
Cu-Al系の形状記憶合金においては、特にAg、SおよびClの含有量をそれぞれ50wtppm以下にすることが有効である。これによって、安価かつエッチング特性に優れた形状記憶合金薄膜を形成することができる。
Fe-Mn系についてはAlおよびCrの含有量を、それぞれ100wtppm以下とすることが有効である。
さらに、ターゲットの場合、粒界に形成される析出物や介在物の大きさを小さくするために、不純物含有量が1000wtppm以下で、かつ結晶粒径が最大でも1000μm以下、好ましくは未再結晶組織に至るまで微細化することがパーテイクル発生数を低減する上で、また粗大なパーテイクルの発生を防止する上で有効である。
【0015】
本発明においては高純度形状記憶合金および同合金ターゲット並びに同合金薄膜に関するものであるが、特に薄膜においてはこれら高純度形状記憶合金材料や同合金ターゲットによって成膜された薄膜のみに制限されるものではなく、例えば形状記憶合金素材が低純度であっても、成膜プロセスがEB蒸着等によって、精製効果を持ち、結果として得られる高純度形状記憶合金薄膜が本発明の高純度形状記憶合金薄膜となる場合には、当然本発明に含まれるものである。
【実施例】
【0016】
以下に実施例および比較例を示す。本実施例は理解を用意にするためのものであり、本発明を制限するものではない。すなわち、本発明の技術思想の範囲内での他の変形あるいは他の実施例は当然本発明に包含される。
【0017】
(実施例)
実施例においては、いずれも純度99.9%以上もしくは99.99%以上の原料を真空中で高周波誘導溶解し、インゴットを作製、これを塑性加工まま、若しくは適当な熱処理をして結晶粒径を調整し、直径330mmで厚みは6mmのターゲットを製造した。
これらのターゲットをスパッタリングしてSi基板上に成膜、その後フォトリソグラフイによるパターン形成後エッチングを行い、パターン数当たりのエッチング不良率を評価した。
ターゲットの不純物量および薄膜中の不純物量は、GDMSを用いて分析した。
【0018】
(比較例)
比較例においては、純度99%以上の原料をAr中で高周波誘導溶解し、実施例と同様にしてエッチング不良率と不純物量を評価した。
【0019】
エッチング不良率の測定は、5μm間隔で幅5μmの2000本以上のパターンを形成して、断線している本数からエッチング不良率を計算した。
エッチング液としては、フッ化水素酸(20%)+硝酸エッチング(20%)液を使用した。
以上の実施例及び比較例の不純物の量並びにエッチング不良率を表1〜表3に示す。
【0020】
【表1】

【0021】
【表2】

【0022】
【表3】

【0023】
表1に示す実施例1−10は、いずれもNi−45wt%Ti形状記憶合金に関するものであり、構成元素及びガス成分を除いた不純物成分が1000wtppm以下である。
このNi-Ti系の形状記憶合金において、特にAlおよびSnの含有量がそれぞれ100wtppm以下であるものについては、エッチング不良率は低い。
また、実施例6−7に示すように、全体の不純物量が100wtppm以下であるものについては、エッチング不良が抑制され、さらに向上した特性を示している。そして、これは不純物の量により大きく影響を受けていることが分かる。
【0024】
また、エッチング不良率は、平均結晶粒径によっても影響を受けている。すなわち、1000μm以下であるか、若しくは未再結晶組織である場合には、さらにエッチング不良率は減少している。平均結晶粒径が、上記の範囲を超えている場合には、全体の不純物量が100wtppm以下であっても、ややエッチング不良率が高くなる結果となっているのが分かる。
比較例1−7については、いずれも構成元素及びガス成分を除いた不純物成分が1000wtppmを超え、本発明の範囲外のものである。エッチング不良率は、いずれの場合も高くなっている。そして、平均結晶粒径が、上記の範囲を超えている場合には、さらにエッチング不良率が高くなり、悪化していることが分かる。
【0025】
表2に示す実施例11−21は、いずれもCu−15wt%Ni−5wt%Al形状記憶合金に関するものであり、構成元素及びガス成分を除いた不純物成分が1000wtppm以下である。
このCu-Al系の形状記憶合金において、Ag、S及びClの含有量がそれぞれ50wtppm以下であるものについては、エッチング不良率は低い。
また、実施例12−14に示すように、全体の不純物量が100wtppm以下であるものについては、エッチング不良率が抑制され、さらに向上した特性を示している。そして、これは不純物の量により大きく影響を受けていることが分かる。
【0026】
また、エッチング不良率は、平均結晶粒径によっても影響を受けている。すなわち、1000μm以下であるか、若しくは未再結晶組織である場合には、さらにエッチング不良率は減少している。平均結晶粒径が、上記の範囲を超えている場合には、全体の不純物量が100wtppm以下であっても、ややエッチング不良率が高くなる結果となっているのが分かる。
比較例11−14については、いずれも構成元素及びガス成分を除いた不純物成分が1000wtppmを超え、本発明の範囲外のものである。エッチング不良率は、いずれの場合も高くなっている。そして、平均結晶粒径が、上記の範囲を超えている場合には、さらにエッチング不良率が高くなり、悪化していることが分かる。
【0027】
表3に示す実施例31−40は、いずれもFe−31wt%Mn−1wt%Si形状記憶合金に関するものであり、構成元素及びガス成分を除いた不純物成分が1000wtppm以下である。エッチング不良率は、構成元素及びガス成分を除いた不純物成分の量によって強く影響され、より不純物成分が少ない場合には、エッチング不良率は減少傾向にあることが分かる。
このFe-Mn系の形状記憶合金において、AlおよびCrの含有量がそれぞれ100wtppm以下であるものについては、さらにエッチング不良率は低い。
【0028】
また、エッチング不良率は、平均結晶粒径によっても影響を受けている。すなわち、1000μm以下であるか、若しくは未再結晶組織である場合には、さらにエッチング不良率は減少している。平均結晶粒径が、上記の範囲を超えている場合には、全体の不純物量が減少傾向にあっても、ややエッチング不良率が高くなる結果となっているのが分かる。
【0029】
比較例31−33については、いずれも構成元素及びガス成分を除いた不純物成分が1000wtppmを超え、本発明の範囲外のものである。
エッチング不良率は、いずれの場合も高くなっている。そして、平均結晶粒径が、上記の範囲を超えている場合には、さらにエッチング不良率が高くなり、悪化していることが分かる。
以上については、代表的な形状記憶合金の例を示したが、他の形状記憶合金の薄膜についても、同等の傾向を示した。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、形状記憶合金のエッチング特性を飛躍的に向上させることができる形状記憶合金及び同合金ターゲット並びに同合金薄膜を提供することができる。これによって、マイクロマシン等のアクチュエータ材料やマイクロエレクトロニクスマシニングの駆動部品等、エッチングの手法によりパターンを形成される機能部品として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成元素及びガス成分を除いた不純物成分が1000wtppm以下であることを特徴とする高純度形状記憶合金及び同合金ターゲット並びに同合金薄膜。
【請求項2】
構成元素及びガス成分を除いた不純物成分が100wtppm以下であることを特徴とする高純度形状記憶合金及び同合金ターゲット並びに同合金薄膜。
【請求項3】
Ni-Ti系の形状記憶合金及び同ターゲットにおいて、AlおよびSnの含有量がそれぞれ100wtppm以下であることを特徴とする請求項1記載の高純度形状記憶合金及び同合金ターゲット並びに同合金薄膜。
【請求項4】
Cu-Al系の形状記憶合金および同ターゲットにおいて、Ag、S及びClの含有量がそれぞれ50wtppm以下であることを特徴とする請求項1記載の高純度形状記憶合金及び同合金ターゲット並びに同合金薄膜。
【請求項5】
Fe-Mn系の形状記憶合金および同ターゲットにおいてAlおよびCrの含有量がそれぞれ100wtppm以下であることを特徴とする請求項1記載の高純度形状記憶合金及び同合金ターゲット並びに同合金薄膜。
【請求項6】
平均結晶粒径が1000μm以下であるか、若しくは未再結晶組織であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のターゲット。

【公開番号】特開2009−149990(P2009−149990A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−327664(P2008−327664)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【分割の表示】特願2004−10387(P2004−10387)の分割
【原出願日】平成16年1月19日(2004.1.19)
【出願人】(591007860)日鉱金属株式会社 (545)
【Fターム(参考)】