説明

高純度炭酸カルシウムの製造方法

【課題】塩素含有量が少なく、かつ不純物金属の含有量が少ない高純度炭酸カルシウムを製造する。
【解決手段】A)石灰石を焼成して得られる生石灰に水を反応させて、水酸化カルシウムスラリーを調製する工程と、B)水酸化カルシウムスラリーに、pH9.5〜11.5の範囲内となるように硝酸を添加する工程と、C)硝酸を添加して得られた溶液を限外濾過して、濾液を得る工程と、D)濾液にアルカリ金属炭酸塩を添加し、炭酸カルシウムを析出させる工程と、E)析出した炭酸カルシウムを濾過することにより、炭酸カルシウムを分離する工程とを備えることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナトリウム、鉄、マグネシウム、ストロンチウムなどの不純物金属の含有量が少なく、かつ塩素の含有量が少ない高純度炭酸カルシウムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭酸カルシウムは、セラミックコンデンサなどの電子材料の原料として使用されている。炭酸カルシウム中に、ナトリウム、鉄、マグネシウム、ストロンチウムなどの不純物金属が混入していると、所望の電子特性が得られないという問題を生じる。
【0003】
従って、炭酸カルシウムを、電子部品や光学材料の原料として使用する場合には、不純物金属の含有量が極めて低い必要がある。
【0004】
また、塩素が多量に含有されていると、鉄の不動態皮膜が孔食と呼ばれる局部腐食を起こすことによって、電子部品や光学材料自体の劣化及び腐食が生じるという重大な問題を引き起こす。
【0005】
従って、不純物金属の含有量が少なく、かつ塩素含有量の少ない高純度炭酸カルシウムが求められている。
【0006】
特許文献1においては、ストロンチウム含有量の少ない炭酸カルシウムを製造するため、水酸化カルシウムスラリーを水相と分離することにより、ストロンチウムの少なくとも一部を水相に溶出除去し、硝酸アンモニウム及び塩酸アンモニウムの内の少なくとも一方を含有するアンモニウム塩水溶液に水酸化カルシウムを溶解し、この溶解操作において発生した不溶物を除去することにより、残存ストロンチウムを分離除去している。
【0007】
特許文献2においては、炭酸カルシウムの水性スラリーにキレート剤を添加し、加熱処理することにより、炭酸カルシウム中の鉄含有量を減少させている。
【0008】
特許文献3においては、水酸化カルシウムの水性懸濁液に、塩酸もしくは硝酸、または塩化アンモニウムまたは硝酸アンモニウムの水溶液を加えて、水酸化カルシウムを溶解させた後、アンモニア水を加え、水酸化カルシウムの沈殿とともに不純物を沈殿させ、沈殿した不純物とカルシウム塩水溶液とを分離し、分離したカルシウム塩水溶液に炭酸ガスを吹き込んで炭酸カルシウムを析出させている。
【0009】
特許文献3においては、水酸化カルシウムを溶解するのに、硝酸を用いることが記載されているが、その後の工程において、アンモニア水を添加している。このため、硝酸を用いた場合、アンモニア水を添加した際に、爆発性を有するため取扱いが非常に危険な硝酸アンモニウムが析出する。従って、一般には、塩酸を用いて、水酸化カルシウムを溶解している。しかしながら、塩酸を用いた場合、得られた水酸化カルシウム中の塩素含有量が高くなるという問題を生じる。塩素含有量が高くなると、上述のように、鉄の不動態皮膜が孔食と呼ばれる局部腐食を起こすことにより、電子部品や光学材料自体の劣化や腐食を生じる。
【0010】
特許文献4〜6においては、高純度炭酸カルシウムの製造方法が開示されているが、いずれの方法を用いても、塩素含有量が少なく、かつ不純物金属の含有量が少ない高純度炭酸カルシウムを製造することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭62−36021号公報
【特許文献2】特表平10−509129号公報
【特許文献3】特開2007−161515号公報
【特許文献4】特開2011−51835号公報
【特許文献5】特開2010−222220号公報
【特許文献6】特開2010−184841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、塩素含有量が少なく、かつ不純物金属の含有量が少ない高純度炭酸カルシウムを製造することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の高純度炭酸カルシウムの製造方法は、A)石灰石を焼成して得られる生石灰に水を反応させて、水酸化カルシウムスラリーを調製する工程と、B)水酸化カルシウムスラリーに、pH9.5〜11.5の範囲内となるように硝酸を添加する工程と、C)硝酸を添加して得られた溶液を濾過して、濾液を得る工程と、D)濾液にアルカリ金属炭酸塩を添加し、炭酸カルシウムを析出させる工程と、E)析出した炭酸カルシウムを濾過することにより、炭酸カルシウムを分離する工程とを備えることを特徴としている。
【0014】
本発明においては、水酸化カルシウムスラリーに、pH9.5〜11.5の範囲となるように硝酸を添加している。塩酸を用いることなく、硝酸を用いているので、本発明によれば、塩素含有量が少ない炭酸カルシウムを製造することができる。
【0015】
また、pH9.5〜11.5の範囲内となるように硝酸を添加しているので、不純物金属の含有量の少ない炭酸カルシウムを、収率よく製造することができる。pHが9.5未満であると、鉄(Fe)、マグネシウム(Mg)、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)などの不純物の含有量が高くなる。pHが11.5を越えると、水酸化カルシウムを十分に溶解することができず、水酸化カルシウムの収率が低下し、最終的な高純度炭酸カルシウムの収率が低下する。
【0016】
また、本発明の工程Dにおいては、水酸化カルシウムを硝酸によって溶解させた溶液にアルカリ金属炭酸塩を添加し、炭酸カルシウムを析出させている。このアルカリ金属炭酸塩は炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウムなどでも良いが、反応性が良く安価な炭酸ナトリウムが望ましい。また、アルカリ金属炭酸塩として炭酸ナトリウムを使用した場合、濾液中に含まれている、硝酸カルシウムと炭酸ナトリウムの反応により生成する硝酸ナトリウムは、水に対する溶解度の高い化合物であるので、濾過することにより容易に除去することができ、ナトリウム含有量の少ない高純度炭酸カルシウムを製造することができる。
【0017】
本発明の工程Eにおいては、析出した炭酸カルシウムを濾過することにより、炭酸カルシウムを分離している。本発明においては、濾過する前に、炭酸カルシウムが析出した溶液を50℃以上に加熱することが好ましい。ストロンチウム(Sr)などの金属化合物は、温度が上がると溶解度が上がるので、50℃以上に加熱することにより、Srなどの金属化合物をさらに溶解させることができ、濾過することによりこれらを濾液中に除去することができる。
【0018】
本発明においては、工程Eで得られた炭酸カルシウムを再び水中に分散させて炭酸カルシウムの分散液とし、この分散液を50℃以上に加熱し、濾過する工程を少なくとも1回以上繰り返すことが好ましい。これにより、さらにストロンチウムなどの金属化合物を除去することができる。
【0019】
工程Eにおける加熱温度は、50℃以上であることが好ましく、さらに好ましくは60℃以上であり、80℃以下であることが好ましい。
【0020】
本発明においては、工程Cにおける濾過として、限外濾過を用いている。限外濾過を用いることにより、Si、Alなどの不純物金属をさらに低減することができる。この場合、濾過する溶液のpHが高いため、限外濾過の膜の材質としては、例えば、PS(ポリスルフォン)製のものを用いることが好ましい。
【0021】
本発明においては、工程Eにおける濾過として、限外濾過を用いてもよい。限外濾過を用いることにより、さらに不純物濃度を低減させることができ、より高純度な炭酸カルシウムを製造することができる。工程Eにおいて、限外濾過を用い、かつ分散液を加熱する場合、限外濾過膜の耐熱性を考慮して、加熱温度は60℃以下とすることが好ましい。
【0022】
本発明の工程Dにおいて添加するアルカリ金属炭酸塩は、水溶液として添加することが好ましい。アルカリ金属炭酸塩の水溶液の濃度は、特に限定されるものではないが、1モル/リットル以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.5モル/リットル以下である。アルカリ金属水酸化物の水溶液の濃度を、0.1モル/リットル以下とすることにより、高い収率で、不純物金属含有量が低い高純度炭酸カルシウムを製造することができる。
【0023】
工程Dにおいて添加するアルカリ金属炭酸塩の添加量は、硝酸カルシウム1モルに対してアルカリ金属炭酸塩1モル以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、塩素含有量が少なく、かつ不純物金属の含有量が少ない高純度炭酸カルシウムを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の高純度炭酸カルシウムの製造方法においては、工程Aにおいて、石灰石を焼成して得られる生石灰(酸化カルシウム)に水を反応させて水酸化カルシウムスラリーを調製する。例えば、石灰石をキルン内で約1000℃で焼成して、生石灰を生成し、この生石灰に約10倍量の熱水を投入し、30分間攪拌させることにより、水酸化カルシウムスラリーを調製することができる。上記の反応を、化学反応式で示すと以下の通りである。
【0026】
CaCO→CaO+CO
CaO+HO→Ca(OH)
【0027】
次に、得られた水酸化カルシウムのスラリーに、pH9.5〜11.5の範囲となるように硝酸を添加する。これにより、水酸化カルシウムと硝酸が反応して、硝酸カルシウムとなり水溶液中に溶解する。化学反応式で示すと以下の通りである。
【0028】
Ca(OH)+2HNO→Ca(NO+2H
【0029】
硝酸カルシウムは水に易溶性であるため、水溶液中に溶解するが、pHを9.5〜11.5の範囲内としているので、鉄(Fe)やマグネシウム(Mg)などの不純物金属は、水酸化物の状態を維持しており、水に難溶性である。従って、次の工程Cで硝酸を添加して得られた溶液を濾過することにより、鉄(Fe)、マグネシウム(Mg)、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)などの不純物金属を除去することができる。
【0030】
また、工程Cにおいて、濾過として、限外濾過を用いているので、さらにSi、Alなどの不純物金属を高い精度で除去することができる。
【0031】
工程Dにおいては、濾液に、炭酸ナトリウムを添加し、炭酸カルシウムを析出させる。化学反応式で示すと、以下の通りである。
【0032】
Ca(NO+NaCO→CaCO+2NaNO
【0033】
次に、工程Eで、炭酸カルシウムが析出した溶液を、好ましくは50℃以上に加熱し、濾過することにより、炭酸カルシウムを分離する。ストロンチウム(Sr)などの金属化合物は、温度が上昇すると溶解度も高くなる。また、副生成物である硝酸ナトリウムも、温度が上昇すると、溶解度が高くなる。このため、工程Eにおいて、炭酸カルシウムが析出した溶液を50℃以上に加熱することにより、ストロンチウムなどの不純物金属の化合物及び硝酸ナトリウムの溶解度を高めた状態で濾過することができ、効率的に不純物を除去することができる。
【0034】
また、工程Eにおいて、濾過として、限外濾過を用いることにより、より効率的に濾過することができ、さらに不純物の含有量を少なくすることができる。
【0035】
本発明によれば、Na、Mg、Fe、Sr、Si、Alなどの不純物金属の含有量を、例えば、各々10ppm以下にすることができる。または、本発明においては、塩酸を用いていないので、塩素含有量を、例えば、10ppm以下にすることができる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を具体的な実施例により説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0037】
<実験1>
(実施例1)
超高速昇温電気炉を用い、石灰石を1000℃で3時間焼成して生石灰を生成した。その生石灰150gに80℃の純水1500gを加え、30分間攪拌しながら水化して水酸化カルシウムスラリーを調製した。水酸化カルシウムスラリー中の水酸化カルシウムについて、不純物金属の含有量を、ICP−AES分析法(島津製作所製、ICPS−8100)を用いて測定した。また、塩素含有量を、イオンクロマトグラフィ法により測定した。測定結果を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
水酸化カルシウム100gを含む水酸化カルシウムスラリーに、室温下で、60%硝酸を攪拌しながらpHが9.5になるまで添加した。
【0040】
得られた溶液を、濾紙で濾過し、濾液を得た。なお、濾紙としては、定量濾紙5C(ADVANTEC社製、直径110mm)を用いた。
【0041】
得られた濾液について、UFモジュール(膜材質:ポリスルフォン、膜内径1.4mm、分画分子量10000)を用いて、限外濾過し、濾液を得た。
【0042】
得られた濾液に、1モル/リットルの濃度の炭酸ナトリウム水溶液を1.5リットル添加し、炭酸カルシウムを析出させた。
【0043】
次に、炭酸カルシウムが析出した溶液を、80℃に加熱した後、上記と同様の濾紙を用いて、濾過した。濾過した後、濾紙上に残った炭酸カルシウムを乾燥させて、高純度炭酸カルシウムを採取した。
【0044】
(実施例2)
水酸化カルシウムスラリーに、pH10.0になるまで硝酸を添加する以外は、上記実施例1と同様にして高純度炭酸カルシウムを製造した。
【0045】
(実施例3)
水酸化カルシウムスラリーに、pH11.0になるまで硝酸を添加する以外は、上記実施例1と同様にして高純度炭酸カルシウムを製造した。
【0046】
(実施例4)
水酸化カルシウムスラリーに、pH11.5になるまで硝酸を添加する以外は、上記実施例1と同様にして高純度炭酸カルシウムを製造した。
【0047】
(実施例5)
実施例2の操作において、炭酸カルシウムが析出した溶液を、50℃に加熱した後、UFモジュール(膜材質:ポリスルフォン、膜内径1.4mm、分画分子量10000)を用いて限外濾過し、UFモジュール内の炭酸カルシウムを乾燥して、高純度炭酸カルシウムを採取した。
【0048】
(比較例1)
水酸化カルシウムスラリーに、pH9.0になるまで硝酸を添加する以外は、上記実施例1と同様にして高純度炭酸カルシウムを製造した。
【0049】
(比較例2)
水酸化カルシウムスラリーに、pH12.0になるまで硝酸を添加する以外は、上記実施例1と同様にして高純度炭酸カルシウムを製造した。
【0050】
(比較例3)
水酸化カルシウムスラリーに、pHが10.0になるまで塩酸を添加する以外は、実施例1と同様にして高純度炭酸カルシウムを製造した。
【0051】
〔高純度炭酸カルシウムの不純物含有量の測定〕
実施例1〜5及び比較例1〜3で得られた高純度炭酸カルシウム中の不純物含有量を測定した。Na、Mg、Fe、Sr、Si、及びAlについては、上記と同様のICP−AES分析法により測定した。Clについては、イオンクロマトグラフィ法により測定した。測定結果を表2に示す。
【0052】
〔収率〕
実施例1〜5及び比較例1〜3において、最終的に得られた高純度炭酸カルシウムの収率を、水酸化カルシウムスラリー中の水酸化カルシウムに対して算出し、表2に収率として示した。
【0053】
【表2】

【0054】
表2に示す実施例1〜5と比較例1〜2の比較から明らかなように、水酸化カルシウムスラリーに、pH9.5〜11.5の範囲となるように硝酸を添加することにより、不
純物含有量が少ない炭酸カルシウムを高い収率で得られることがわかる。
【0055】
また、実施例1〜5と比較例3との比較から明らかなように、硝酸を用いることにより、塩素含有量を少なくすることができ、かつ不純物金属の含有量の少ない高純度炭酸カルシウムを、高い収率で得られることがわかる。
【0056】
また、実施例2と実施例5との比較から明らかなように、限外濾過工程を用いることにより、不純物金属含有量をさらに低減できることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
A)石灰石を焼成して得られる生石灰に水を反応させて、水酸化カルシウムスラリーを調製する工程と、
B)水酸化カルシウムスラリーに、pH9.5〜11.5の範囲内となるように硝酸を添加する工程と、
C)硝酸を添加して得られた溶液を限外濾過して、濾液を得る工程と、
D)濾液にアルカリ金属炭酸塩を添加し、炭酸カルシウムを析出させる工程と、
E)析出した炭酸カルシウムを濾過することにより、炭酸カルシウムを分離する工程とを備えることを特徴とする高純度炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項2】
炭酸カルシウムが析出した溶液を50℃以上に加熱した後、濾過することを特徴とする請求項1に記載の高純度炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項3】
工程Eにおける濾過として、限外濾過を用いることを特徴とする請求項1または2に記載の高純度炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項4】
アルカリ金属炭酸塩が、炭酸ナトリウムであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の高純度炭酸カルシウムの製造方法。