説明

高純度過酸化水素水溶液の製造方法

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、極めて高い純度の過酸化水素水溶液を工業的に容易に製造する方法を提供するものである。極めて高い純度の過酸化水素水溶液は、精密電子工業分野、特に高集積度の半導体基板の製造に用いられており、近年、その需要が増大しつつある。
【0002】
【従来の技術】過酸化水素水溶液は、プロセスを循環する作動液としてアルキルアントラキノンを用い、このキノン体を水素添加して得られるハイドロキノン体を空気でキノン体に再酸化して過酸化水素を生成させる方法によって工業的に製造されている。しかし、この公知の方法によって得られた過酸化水素水溶液(粗過酸化水素水溶液)は有機不純物、無機不純物等の不純物を多く含むものである。
【0003】このため、上記の方法で製造される粗過酸化水素水溶液は、例えば粗過酸化水素水溶液を蒸発させて生じる蒸気相を塔の底部中で洗浄する蒸気相洗浄帯域を備えた蒸留塔を用いて不純物を除去する方法(特開平5−201707号公報)などによって精製することが提案されているが、得られる過酸化水素水溶液は、300ppmより少ないが50ppmを超える全有機炭素(TOC)で表される有機不純物及び約30〜200ppmの無機不純物を含むために、精密電子工業分野、特に高集積度の半導体基板の製造に使用するには不適当である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】上記のように、工業的に製造される粗過酸化水素水溶液から、蒸留によって、精密電子工業分野、特に高集積度の半導体基板の製造に対応できる極めて高い純度の過酸化水素水溶液を容易に製造できる過酸化水素水溶液の製造方法は知られていない。本発明は、精密電子工業分野、特に高集積度半導体基板の製造に対応できる、不純物が極めて少なく、しかも過酸化水素の濃度が高い水溶液(即ち、高純度かつ高濃度の過酸化水素水溶液)を容易に製造できる、工業的に好適な高純度過酸化水素水溶液の製造方法を提供することを課題とするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明の課題は、フッ素樹脂製の内壁を有すると共にフッ素樹脂製の精留部材が蒸留塔内部に設置されている蒸留塔へ、過酸化水素、有機不純物及び無機不純物を含有する粗過酸化水素水溶液をその塔底部から供給し、内部を減圧とした該蒸留塔の塔底部で前記粗過酸化水素水溶液を加熱して、粗過酸化水素水溶液の減圧蒸留を行いつつ、該蒸留塔の塔頂部から留出液を蒸留操作における還流に用いることなく抜き出すと共に、該蒸留塔の塔頂部へ次式で表される供給比が0.1〜20になるように超純水を供給しながら、
【0006】
【数2】


【0007】該蒸留塔の中段部より過酸化水素水溶液を抜き出すことを特徴とする高純度過酸化水素水溶液の製造方法によって達成される。
【0008】
【発明の実施の形態】本発明で使用される粗過酸化水素水溶液としては、例えば、プロセスを循環する作動液としてアルキルアントラキノンを用いる方法、過硫酸又はその塩の加水分解を伴う電気分解による方法、酸素による水素の直接酸化による方法などによって製造される粗過酸化水素水溶液が挙げられる。これらの粗過酸化水素水溶液に含有される過酸化水素の濃度は特に制限されるものではないが、過酸化水素の濃度が50〜70重量%、特に55〜65重量%の通常の工業用過酸化水素水溶液が本発明の粗過酸化水素水溶液として好適に使用される。工業用過酸化水素水溶液に含有される不純物としては、例えば表1に示す全有機炭素(以下、TOCと称する)で表される有機不純物及び各種の無機不純物が挙げられる。
【0009】
【表1】


【0010】超純水としては、逆浸透、紫外線殺菌、イオン交換塔及び限外濾過膜などを備えユニットとした超純水製造装置によって製造されるものを使用することができる。超純水の品質は、例えば表2に示す通りである。
【0011】
【表2】


【0012】蒸留塔としては、フッ素樹脂製の内壁を有する充填塔が好適に用いられる。蒸留塔の内壁がステンレスの場合は、鉄、ニッケル、クローム等が溶出し、アルミニウムの場合はアルミニウムが溶出し、またこの内壁がグラスライニングされている場合は、ケイ素、ホウ素、ナトリウム等が溶出して、それぞれ粗過酸化水素水溶液に含まれる不純物を増加させるために好ましくない。フッ素樹脂製の内壁は、蒸留塔の内壁が全面的にフッ素樹脂でライニング又はコーティングされているものでも、また粗過酸化水素水溶液の供給口より上部の内壁がフッ素樹脂でライニング又はコーティングされているものでも、更に蒸留塔自体がフッ素樹脂製のものであっても差し支えない。
【0013】蒸留塔(充填塔)に充填されるフッ素樹脂製の精留部材としては、フッ素樹脂製又はフッ素樹脂でコーティングされている充填物、多孔板トレイ、バブルトレイ、泡鐘トレイ等が挙げられるが、フッ素樹脂製又はフッ素樹脂でコーティングされている充填物が好適に使用される。充填物の形状については特に制限はなく、例えばラシヒリング、インタロックスサドル、ポールリングが使用される。なお、前記精留部材は、蒸留塔の塔頂部から過酸化水素の濃度が非常に低い留出液を抜き出すために、通常、蒸留塔の中段部に設けられる過酸化水素水溶液抜き出し口の上部に二理論段数以上充填され、そして、後述するように蒸留塔の塔底液からの飛沫同伴による不純物の混入を防止するために、過酸化水素水溶液抜き出し口の下部にも該抜き出し口から一理論段数以下で充填される。
【0014】蒸留塔の内壁及び精留部材に使用されるフッ素樹脂としては、オレフィンの水素原子の一つ以上がフッ素原子で置換された単量体を重合して得られる樹脂が用いられる。この単量体としては、例えばテトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、パーフルオロアルキルビニルエーテルが挙げられる。フッ素樹脂として、具体的には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)及びポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)などが挙げられるが、中でもポリテトラフルオロエチレン(PTFE)及びテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)が好ましい。
【0015】本発明の方法を工業的に効率よく実施するためには次のような工夫をすることが好ましい。即ち、蒸留塔の形状については、過酸化水素水溶液の抜き出し口より下部は上昇ガス量が多くなり、これより上部は上昇ガス量が少なくなるために、通常の蒸留塔の設計によれば、蒸留塔の最適な塔径を過酸化水素水溶液の抜き出し口より下部は大きくして、上部は下部に比べて小さくすることが好ましい。なお、このような塔径は通常の化学工学的手法により容易に計算することができる。また、蒸留塔にはリボイラーが設置されるが、本発明の方法では、蒸留塔の塔底液のエントレ(飛沫同伴)が問題となるために、各種の型式のリボイラーの中でも流下膜式リボイラー、好ましくは気液並流型の流下膜式リボイラーを設置することが好ましい。
【0016】本発明では、粗過酸化水素水溶液を蒸留するに当たって、過酸化水素、有機不純物及び無機不純物を含有する前記粗過酸化水素水溶液が、通常、前記超純水で希釈されて、粗過酸化水素水溶液供給口より前記蒸留塔の塔底部に供給される。粗過酸化水素水溶液の希釈度は特に制限されるものではないが、不純物の濃度が非常に低くしかも過酸化水素の濃度が高い水溶液(即ち、高純度かつ高濃度の過酸化水素水溶液)を得るためには、粗過酸化水素水溶液は、過酸化水素の濃度が通常20〜60重量%、好ましくは30〜50重量%、更に好ましくは35〜45重量%になるように希釈される。希釈された粗過酸化水素水溶液中に含有される不純物の量は前記粗過酸化水素水溶液の製造方法や製造装置などにより一定するものではないが、通常、TOCが10〜300ppm、無機不純物が5〜500ppm含有される。
【0017】前記蒸留は、粗過酸化水素水溶液供給口から上記のように希釈された粗過酸化水素水溶液が前記蒸留塔の塔底部に供給されて、塔底温度が通常50〜110℃、好ましくは60〜70℃、塔頂圧力が通常20〜300torr、好ましくは40〜60torrの条件で、前記蒸留塔の塔頂部から過酸化水素の濃度が非常に低い留出液(塔頂留出液)が蒸留操作における還流に用いられることなく抜き出されると共に、超純水(塔頂供給超純水)が次式で表される供給比が0.1〜20、好ましくは0.5〜3になるように前記蒸留塔の塔頂部へ供給されながら行われる。
【0018】
【数3】


【0019】そして、不純物の濃度が非常に低くなった過酸化水素水溶液は、蒸留塔中段部に設けられた過酸化水素水溶液抜き出し口から、TOCが10ppm以下、好ましくは5ppm以下、無機不純物の合計量が200ppb以下、好ましくは100ppb以下で、アルミニウム(Al)、ホウ素(B)、カルシウム(Ca)、鉄(Fe)、マグネシウム(Mg)、ナトリウム(Na)、ケイ素(Si)、亜鉛(Zn)等の金属不純物がそれぞれ1ppb以下、好ましくは0.5ppb以下の高純度過酸化水素水溶液として抜き出されて分離される。
【0020】ここで、過酸化水素水溶液抜き出し口は、過酸化水素の濃度が高く(即ち、過酸化水素の濃度が25〜50重量%、特に30〜40重量%で)しかも上記のように不純物の濃度が非常に低い過酸化水素水溶液を得るという製品の品質上の問題、塔底液の過酸化水素の濃度を74〜80重量%に維持しなければならないという安全上の問題、及び気液平衡上の問題から、蒸留塔中段部でも塔底に近いところに設置することが好ましい。このため、この過酸化水素水溶液抜き出し口は、通常、抜き出し口と塔底の間に一理論段数以下の前記充填物が充填できるように設置される。このとき、塔底部には不純物が高濃度に濃縮されているが、塔底液からの飛沫同伴による不純物の混入は、この充填物によって減少させることができる。
【0021】蒸留塔の塔頂からは塔頂留出液(0.001〜2重量%、特に0.01〜1重量%の過酸化水素を含有する水溶液)が取り出される。このとき、コンデンサー、リフラックスドラム、還流ラインなどの装置材料の溶出及び/又は外気のリークによる蒸留塔内の汚染を防止するため、本発明では、蒸留操作において行われる還流を中止して塔頂留出液を全て留出させ、その代わりに前記の供給比が0.1〜20、好ましくは0.5〜3になるように超純水を塔頂部に供給する操作が行われる。この操作により、蒸留塔内の汚染を防止できるのみならず、コンデンサー及びリフラックスドラムを高価なフッ素樹脂ライニングのものから安価なステンレス製のものに変えることができる。更に、ステンレス製の熱交換器の総括伝熱係数がフッ素樹脂ライニングのものより2.8〜3倍高いことから、熱交換器のサイズを大幅に縮小することもできるため、本発明のプロセスは非常に有利なものになる。
【0022】蒸留塔の塔底部から抜き出される塔底液中の過酸化水素の濃度は、前記のように気液平衡上74重量%以上必要であるが、通常は安全上の問題から74〜80重量%の範囲に維持される。この塔底液の一部は蒸留塔に循環され、一部は前記塔頂留出液で約60重量%に希釈されて工業用過酸化水素水溶液として再利用される。
【0023】なお、本発明のプロセスは連続式又はバッチ式いずれの方式でも実施することができるが、工業的には連続式が好ましい。連続式で蒸留する場合は、(a)塔底部へ供給される粗過酸化水素水溶液及び塔頂部へ供給される超純水の量と、(b)塔底部から抜き出される塔底液、塔中部から抜き出される過酸化水素水溶液及び塔頂部から抜き出される塔頂留出液の量とはバランスしており、塔内の溶液の量は実質的に変化しない。
【0024】次に、本発明のプロセスを本発明の一実施態様を示すフローシート図面(図1)に従って具体的に説明する。フッ素樹脂製の充填物を充填したフッ素樹脂ライニングの蒸留塔Aの塔底部に、導管2より導入される超純水で希釈された粗過酸化水素水溶液が導管1を通して粗過酸化水素水溶液供給口より供給される。そして、この粗過酸化水素水溶液を前記のような条件で蒸留することによって、例えば過酸化水素の濃度が31重量%の高純度過酸化水素水溶液が蒸留塔中段部の過酸化水素水溶液抜き出し口から導管3を通して抜き出される。このとき、塔頂部からは塔頂留出液取り出し口より導管4を通して塔頂留出液が取り出されると共に、前記の供給比が0.1〜20、好ましくは0.5〜3になるように超純水が導管5を通して超純水供給口より塔頂部へ供給される。なお、蒸留塔Aにおいて、粗過酸化水素水溶液供給口は導管1の開口部、過酸化水素水溶液抜き出し口は導管3の開口部、塔頂留出液取り出し口は導管4の開口部で、超純水供給口は導管5の開口部である。
【0025】不純物が濃縮された蒸留塔の塔底液(高濃度の過酸化水素水溶液)は導管6を通して抜き出される。抜き出された塔底液の一部は、導管6に設置されたポンプEにより流下膜式リボイラーD、導管11を経て蒸留塔の塔底部へ循環供給され、一部は導管7を通して抜き出された後、更に導管4、コンデンサーB、リフラックスドラムCを経て導管8から供給される前記塔頂留出液と混合されて過酸化水素の濃度が60重量%の工業用過酸化水素水溶液として再利用される。なお、リボイラーDでは、導管6を通して供給された前記塔底液を蒸発させるために、導管9よりスチームが供給されて熱交換が行われ、凝縮水が導管10より排出される。
【0026】以上のようにして、有機不純物、無機不純物等の不純物を多く含む粗過酸化水素水溶液から、高集積度の半導体基板の製造に対応できる、不純物の濃度が非常に低く(即ち、TOCが10ppm以下、好ましくは5ppm以下、無機不純物の合計量が200ppb以下、好ましくは100ppb以下、Al、B、Ca、Fe、Mg、Na、Si、Zn等の金属不純物がそれぞれ1ppb以下、好ましくは0.5ppb以下で)しかも過酸化水素の濃度が高い(即ち、過酸化水素の濃度が25〜50重量%、特に30〜40重量%の)過酸化水素水溶液、即ち高純度かつ高濃度の過酸化水素水溶液を容易に得ることができる。
【0027】
【実施例】次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、蒸留は図1に示される装置を用いて行い、過酸化水素及びその他の成分は次の方法によりそれぞれ分析した。
(1)過酸化水素含量:過マンガン酸カリウム規定液による滴定(JIS K−8230)
(2)TOC:白金で過酸化水素を分解した後にTOCメーターで測定する方法(3)塩化物イオン(Cl- )、亜硝酸イオン(NO2 - )、硝酸イオン(NO3 - )、リン酸イオン(PO4 3-)及び硫酸イオン(SO4 2-):白金で過酸化水素を分解した後にサプレッサー式イオンクロマト分析装置で測定する方法(4)アンモニウムイオン(NH4 + ):白金で過酸化水素を分解した後にイオンクロマト分析装置で測定する方法(5)アルミニウム(Al)、ホウ素(B)、カルシウム(Ca)、鉄(Fe)、マグネシウム(Mg)、ナトリウム(Na)、ケイ素(Si)、亜鉛(Zn):ICP(高周波誘導結合プラズマ)発光分光分析
【0028】実施例1前記表1に示される品質の過酸化水素の濃度が60重量%工業用過酸化水素水溶液を、導管2より供給される前記表2に示される品質の超純水で希釈して、過酸化水素の濃度が40重量%の粗過酸化水素水溶液を調製し、これを、外径6.0mmφ×内径4.0mmφ×高さ6.0mmのフッ素樹脂製充填物を180ml充填した内径30mmφ、高さ1.0mのフッ素樹脂製蒸留塔に導管1を通して387.7g/hrで供給した。なお、フッ素樹脂としては、蒸留塔及び充填物ともポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を使用した。
【0029】缶液温度69℃、塔頂圧力60torrで、塔頂留出液は還流させることなく112ml/hrで導管4から全て留出させて、還流を行う代わりに塔頂部に前記表2に示される品質の超純水58ml/hrを導管5から供給しながら蒸留を行って、蒸留塔の中段部から導管3を通して過酸化水素水溶液を375ml/hrで抜き出した。得られた過酸化水素水溶液を分析したところ、表3に示すように、高集積度の半導体基板の製造に対応できる、不純物の濃度が非常に低くしかも過酸化水素の濃度が高い水溶液、即ち高純度かつ高濃度(31.0重量%)の過酸化水素水溶液であった。
【0030】また、塔底液を導管7から153ml/hrで抜き出し、これに前記塔頂留出液の一部を導管8から40ml/hrで供給・混合し、過酸化水素の濃度が60重量%の工業用過酸化水素水溶液を193ml/hrで得た。
【0031】
【表3】


【0032】実施例2実施例1において、缶液温度を63℃、塔頂圧力を40torrに変えたほかは実施例1と同様に蒸留を行って、蒸留塔の中段部から過酸化水素水溶液を375ml/hrで抜き出した。得られた過酸化水素水溶液を分析したところ、表3に示すように、高集積度の半導体基板の製造に対応できる、不純物の濃度が非常に低くしかも過酸化水素の濃度が高い水溶液、即ち高純度かつ高濃度(31.0重量%)の過酸化水素水溶液であった。
【0033】比較例1実施例1において、塔頂留出液の全留出と超純水の供給を行うことなく、塔頂留出液を還流比1で還流させたほかは、実施例1と同様に蒸留を行って、蒸留塔の中段部から過酸化水素水溶液を375ml/hrで抜き出した。得られた過酸化水素水溶液を分析したところ、表4に示すように不純物の濃度が高く、高集積度の半導体基板の製造に使用するには不適当なものであった。
【0034】
【表4】


【0035】比較例2実施例1において、フッ素樹脂製蒸留塔を内径30mmφ、高さ1mのガラス(パイレックス)製蒸留塔に変えたほかは、実施例1と同様に蒸留を行って、蒸留塔の中段部から過酸化水素水溶液を375ml/hrで抜き出した。得られた過酸化水素水溶液を分析したところ、表4に示すように不純物の濃度が高く、高集積度の半導体基板の製造に使用するには不適当なものであった。
【0036】比較例3実施例1において、フッ素樹脂製充填物をガラス(パイレックス)製充填物に変えたほかは、実施例1と同様に蒸留を行って、蒸留塔の中段部から過酸化水素水溶液を375ml/hrで抜き出した。得られた過酸化水素水溶液を分析したところ、表4に示すように不純物の濃度が高く、高集積度の半導体基板の製造に使用するには不適当なものであった。
【0037】
【発明の効果】本発明により、有機不純物、無機不純物等の不純物を多量含む粗過酸化水素水溶液から、電子工業分野、特に高集積度の半導体基板の製造に対応できる、不純物の濃度が非常に低く(即ち、TOCが10ppm以下、好ましくは5ppm以下、無機不純物の合計量が200ppb以下、好ましくは100ppb以下、Al、B、Ca、Fe、Mg、Na、Si、Zn等の金属不純物がそれぞれ1ppb以下、好ましくは0.5ppb以下で)しかも過酸化水素の濃度が高い(即ち、過酸化水素の濃度が25〜50重量%、特に30〜40重量%の)過酸化水素水溶液、即ち高純度かつ高濃度の過酸化水素水溶液を容易に得ることができる。また、本発明により、コンデンサー及びリフラックスドラムを高価なフッ素樹脂ライニングのものから安価なステンレス製のものに変えることができ、その上、ステンレス製の熱交換器の総括伝熱係数がフッ素樹脂ライニングのものより2.8〜3倍高いことから熱交換器のサイズを大幅に縮小することもできるので、工業的に非常に有利な高純度過酸化水素水溶液の製造プロセスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は本発明の一実施例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
Aは蒸留塔、Bはコンデンサー、Cはリフラックスドラム、Dはリボイラー、Eはポンプを示す。1〜11は導管を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 フッ素樹脂製の内壁を有すると共にフッ素樹脂製の精留部材が蒸留塔内部に設置されている蒸留塔へ、過酸化水素、有機炭素不純物及び無機不純物を含有する粗過酸化水素水溶液をその塔底部から供給し、内部を減圧とした該蒸留塔の塔底部で前記粗過酸化水素水溶液を加熱して、粗過酸化水素水溶液の減圧蒸留を行いつつ、該蒸留塔の塔頂部から留出液を蒸留操作における還流に用いることなく抜き出すと共に、該蒸留塔の塔頂部へ次式で表される供給比が0.1〜20になるように超純水を供給しながら、
【数1】


該蒸留塔の中段部より過酸化水素水溶液を抜き出すことを特徴とする高純度過酸化水素水溶液の製造方法。
【請求項2】 前記精留部材がフッ素樹脂製の充填物であることを特徴とする請求項1の高純度過酸化水素水溶液の製造方法。
【請求項3】 前記粗過酸化水素水溶液が、過酸化水素を20〜60重量%含有すると共に全有機炭素を10〜300ppm、無機不純物を5〜500ppm含有する水溶液であることを特徴とする請求項1の高純度過酸化水素水溶液の製造方法。
【請求項4】 請求項1で示すように高純度過酸化水素水溶液を製造すると共に、前記蒸留塔の塔底部より抜き出された過酸化水素水溶液を、前記蒸留塔の塔頂部から抜き出された留出液で希釈して工業用過酸化水素水溶液を調製することを特徴とする請求項1の高純度過酸化水素水溶液の製造方法。

【図1】
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【特許番号】特許第3509342号(P3509342)
【登録日】平成16年1月9日(2004.1.9)
【発行日】平成16年3月22日(2004.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平7−302960
【出願日】平成7年11月21日(1995.11.21)
【公開番号】特開平8−231208
【公開日】平成8年9月10日(1996.9.10)
【審査請求日】平成12年9月25日(2000.9.25)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【参考文献】
【文献】特開 平8−40708(JP,A)
【文献】特開 平7−80227(JP,A)
【文献】特開 平7−33408(JP,A)
【文献】特開 平5−201707(JP,A)
【文献】特開 平3−122005(JP,A)
【文献】特公 昭45−34926(JP,B1)