説明

高絶縁性フィルム

【課題】電気的特性、耐熱性、巻取り性および加工性等の取り扱い性に優れた高絶縁性フィルムを提供すること。
【解決手段】シンジオタクチック構造のスチレン系重合体を主たる構成成分とする二軸延伸フィルムであって、特定の不活性微粒子Aと、酸化防止剤と、DSCによるガラス転移温度Tgが130℃以上である重合体Yとを、それぞれ特定の含有量で含有し、厚み方向の屈折率が1.5750以上1.6350以下である高絶縁性フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高絶縁性フィルムに関する。さらに詳しくは、電気的特性および耐熱性が良好で、特に高い絶縁破壊電圧を有する高絶縁性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
シンジオタクチックポリスチレン系樹脂組成物からなる延伸フィルムは、耐熱性、耐薬品性、耐熱水性、誘電特性、電気絶縁性等に優れたフィルムであり、様々な用途への適用が期待されている。特に、誘電特性に優れ、高い電気絶縁性と耐熱性を有するためにコンデンサーの絶縁体として用いられている。例えば特許文献1〜4には、コンデンサー用シンジオタクチックポリスチレン系二軸延伸フィルムが提唱されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平3−124750号公報
【特許文献2】特開平6−80793号公報
【特許文献3】特開平7−156263号公報
【特許文献4】特開平8−283496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1〜4に開示されているシンジオタクチックポリスチレン系フィルムは、コンデンサーの絶縁体として使用され得るものであるが、例えば、近年のハイブリッドカーに搭載されるコンデンサーのようなより高性能なコンデンサーにおいては、絶縁破壊電圧等の電気的特性および耐熱性により優れたフィルムが要求されている。
【0005】
また、コンデンサーの静電容量を向上する、あるいはコンデンサーを小型化する目的において、絶縁体となるフィルムとしてはさらなる薄膜化が要求されているが、一般的には薄膜化に伴い取り扱い性が低下してしまう。そこで、薄膜化したとしても、フィルム製造工程における生産性を低下させず、また近年要求されているコンデンサーの製造速度に適応できるように、取り扱い性により優れたフィルムが要求されている。
【0006】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、その目的は、電気的特性、耐熱性、巻取り性および加工性等の取り扱い性に優れた高絶縁性フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定のガラス転移温度を有する重合体を配合し、酸化防止剤および特定の不活性微粒子を配合したシンジオタクチックポリスチレン系二軸延伸フィルムにおいて、特定の配向構造とすることによって、高い絶縁破壊電圧を有し、耐熱性および取り扱い性に優れた高絶縁性フィルムが得られることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち本発明は、
(1)シンジオタクチック構造のスチレン系重合体を主たる構成成分とする二軸延伸フィルムであって、平均粒径が0.05μm以上1.5μm以下、粒径の相対標準偏差が0.5以下の不活性微粒子Aを0.05質量%以上2.0質量%以下と、酸化防止剤を0.1質量%以上8質量%以下と、DSCによるガラス転移温度Tgが130℃以上である重合体Yを5質量%以上48質量%以下とを含有し、厚み方向の屈折率が1.5750以上1.6350以下である高絶縁性フィルムである。
【0009】
さらに本発明は、
(2)重合体Yが、下記式で表わされるポリフェニレンエーテルである(1)に記載の高絶縁性フィルム。
【化1】

(3)重合体Yと酸化防止剤の含有量比(重合体Yの含有量/酸化防止剤の含有量)が1〜100である(1)または(2)に記載の高絶縁性フィルム。
(4)動的粘弾性測定により振動周波数10Hzで測定した損失弾性率(E’’)のピーク温度が120℃以上150℃以下であり、120℃、周波数1KHzにおける誘電正接(tanδ)が0.0015以下である(1)〜(3)のいずれか1に記載の高絶縁性フィルム。
(5)縦方向および横方向の200℃×10分の熱収縮率が6%以下である(1)〜(4)のいずれか1に記載の高絶縁性フィルム。
(6)120℃における絶縁破壊電圧(BDV)が350V/μm以上である(1)〜(5)のいずれか1に記載の高絶縁性フィルム。
(7)動的粘弾性測定により振動周波数10Hzで測定した、120℃における貯蔵弾性率(E’)が600MPa以上である(1)〜(6)のいずれか1に記載の高絶縁性フィルム。
(8)フィルム厚みが0.4μm以上6.5μm未満である(1)〜(7)のいずれか1項に記載の高絶縁性フィルム。
(9)平均粒径が0.5μm以上3.0μm以下であって、該平均粒径は不活性微粒子Aの平均粒径よりも0.2μm以上大きく、粒径の相対標準偏差が0.5以下の不活性微粒子Bを0.01質量%以上1.5質量%以下含有する(1)〜(8)のいずれか1に記載の高絶縁性フィルム。
(10)不活性微粒子Aが、粒径比が1.0以上1.3以下の球状粒子である(1)〜(9)のいずれか1に記載の高絶縁性フィルム。
(11)不活性微粒子Aが球状高分子樹脂粒子である(10)に記載の高絶縁性フィルム。
(12)不活性微粒子Aが球状シリコーン樹脂粒子である(10)に記載の高絶縁性フィルム。
(13)不活性微粒子Bが、粒径比が1.0以上1.3以下の球状高分子樹脂粒子である(9)〜(12)のいずれか1に記載の高絶縁性フィルム。
(14)酸化防止剤の熱分解温度が250℃以上である(1)〜(13)のいずれか1に記載の高絶縁性フィルム。
を包含する。
【0010】
また本発明は、
(15)(1)〜(14)のいずれか1に記載の高絶縁性フィルムを用いたコンデンサー。
を包含する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、電気的特性、耐熱性、取り扱い性に優れた高絶縁性フィルムを得ることができる。特に、高い絶縁破壊電圧を有する高絶縁性フィルムを得ることができる。従って、本発明によって得られた高絶縁性フィルムはコンデンサーの絶縁体として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の高絶縁性フィルムは、後述するスチレン系重合体を主たる構成成分とする二軸延伸フィルムである。ここで「主たる」とは、二軸延伸フィルムの質量を基準として50質量%を超える、好ましくは55質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上、特に好ましくは65質量%以上であることを示す。また、本発明の高絶縁性フィルムは、後述する不活性微粒子A、酸化防止剤、およびDSCによるガラス転移温度Tgが130℃以上である重合体Yを含有する。以下、本発明の高絶縁性フィルムを構成する各構成成分について説明する。
【0013】
<スチレン系重合体>
本発明におけるスチレン系重合体は、シンジオタクチック構造のスチレン系重合体であり、すなわち炭素−炭素結合から形成される主鎖に対して、側鎖であるフェニル基や置換フェニル基が交互に反対方向に位置する立体構造を有するものである。一般にタクティシティーは、同位体炭素による核磁気共鳴法(13C−NMR法)により定量され、連続する複数個の構成単位の存在割合、例えば2個の場合はダイアッド、3個の場合はトリアッド、5個の場合はペンタッド等によって示すことができる。本発明においては、シンジオタクチック構造のスチレン系重合体とは、ラセミダイアッド(r)で75%以上、好ましくは85%以上、あるいはラセミペンタッド(rrrr)で30%以上、好ましくは50%以上のシンジオタクティシティーを有するポリスチレン、ポリ(アルキルスチレン)、ポリ(ハロゲン化スチレン)、ポリ(アルコキシスチレン)、ポリ(ビニル安息香酸エステル)、あるいはこれらのベンゼン環の一部が水素化された重合体やこれらの混合物、またはこれらの構造単位を含む共重合体を指称する。なお、ここでポリ(アルキルスチレン)としては、ポリ(メチルスチレン)、ポリ(エチルスチレン)、ポリ(プロピルスチレン)、ポリ(ブチルスチレン)、ポリ(フェニルスチレン)、ポリ(ビニルナフタレン)、ポリ(ビニルスチレン)、ポリ(アセナフチレン)等があり、ポリ(ハロゲン化スチレン)としては、ポリ(クロロスチレン)、ポリ(ブロモスチレン)、ポリ(フロオロスチレン)等がある。また、ポリ(アルコキシスチレン)としては、ポリ(メトキシスチレン)、ポリ(エトキシスチレン)等がある。これらのうち、特に好ましいスチレン系重合体としては、ポリスチレン、ポリ(p−メチルスチレン)、ポリ(m−メチルスチレン)、ポリ(p−ターシャリーブチルスチレン)、ポリ(p−クロロスチレン)、ポリ(m−クロロスチレン)、ポリ(p−フルオロスチレン)、またスチレンとp−メチルスチレンとの共重合体が挙げられる。
【0014】
さらに、本発明におけるスチレン系重合体に共重合成分を含有させて共重合体として使用する場合においては、そのコモノマーとしては、上述の如きスチレン系重合体のモノマーのほか、エチレン、プロピレン、ブテン、ヘキセン、オクテン等のオレフィンモノマー、ブタジエン、イソプレン等のジエンモノマー、環状ジエンモノマーやメタクリル酸メチル、無水マレイン酸、アクリロニトリル等の極性ビニルモノマー等が挙げられる。
【0015】
スチレン系重合体の重量平均分子量は、好ましくは1.0×10以上3.0×10以下であり、さらに好ましくは5.0×10以上1.5×10以下であり、特に好ましくは1.1×10以上8.0×10以下である。重量平均分子量を1.0×10以上とすることで、強伸度特性に優れ、耐熱性がより向上したフィルムを得ることができる。また、重量平均分子量が3.0×10以下だと、延伸張力が好適な範囲となり、製膜時等において破断等が発生しにくくなる。
【0016】
このようなシンジオタクチック構造のスチレン系重合体の製造方法は、例えば特開昭62−187708号公報に開示されている。すなわち、不活性炭化水素溶媒中または溶媒の不存在下において、チタン化合物および水と有機アルミニウム化合物、特にトリアルキルアルミニウムとの縮合生成物を触媒として、スチレン系単量体(上記スチレン系重合体に対応する単量体)を重合することにより製造することができる。また、ポリ(ハロゲン化アルキルスチレン)については、特開平1−146912号公報に、水素化重合体は特開平1−178505号公報にそれぞれ開示されている。
【0017】
本発明におけるシンジオタクチック構造のスチレン系重合体には、必要に応じて公知の帯電防止剤等の添加剤を適量配合することができる。これらの配合量は、スチレン系重合体100質量部に対して10質量部以下が好ましい。10質量部を越えると、延伸時に破断を起こしやすくなり、生産安定性が不良となるので好ましくない。
このようなシンジオタクチック構造のスチレン系重合体は、従来のアタクチック構造のスチレン系重合体に比べて耐熱性が格段に優れている。
【0018】
<酸化防止剤>
本発明における酸化防止剤としては、生成したラジカルを捕捉して酸化を防止する一次酸化防止剤、あるいは生成したパーオキサイドを分解して酸化を防止する二次酸化防止剤のいずれであってもよく、一次酸化防止剤としてはフェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤があげられ、二次酸化防止剤としてはリン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤があげられる。
【0019】
フェノール系酸化防止剤の具体例としては、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、2−t−ブチル−4−メトキシフェノール、3−t−ブチル−4−メトキシフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−〔4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ〕フェノール、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート等のモノフェノール系酸化防止剤、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、N,N’−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル〕ヒドラジン、N、N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオンアミド]、3,9−ビス〔1,1−ジメチル−2−〔β−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ〕エチル〕2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン等のビスフェノール系酸化防止剤、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、ペンタエリスリトールテトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、ビス〔3,3’−ビス−(4’−ヒドロキシ−3’−t−ブチルフェニル)ブチリックアシッド〕グリコールエステル、1,3,5−トリス(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシベンジル)−sec−トリアジン−2,4,6−(1H,3H,5H)トリオン、d−α−トコフェノール等の高分子型フェノール系酸化防止剤を挙げることができる。
【0020】
アミン系酸化防止剤の具体例としては、アルキル置換ジフェニルアミン等を挙げること
ができる。
【0021】
リン系酸化防止剤の具体例としては、トリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、4,4’−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−t−ブチルフェニルジトリデシル)ホスファイト、オクタデシルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、ジイソデシルペンタエリスリトールジホスファイト、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド、10−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド、10−デシロキシ−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト等を挙げることができる。
【0022】
硫黄系酸化防止剤の具体例としては、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3,3’−チオジプロピオネート、ジステアリル−3,3’−チオジプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、2−メルカプトベンズイミダゾール等を挙げることができる。
【0023】
本発明における酸化防止剤は、特に耐腐食性により優れ、絶縁破壊電圧の向上効果をより高めることができるという観点から、一次酸化防止剤が好ましく、フェノール系酸化防止剤が特に好ましい。
【0024】
本発明における酸化防止剤は、その熱分解温度が250℃以上であることが好ましい。熱分解温度が低すぎる場合は、溶融押出時に酸化防止剤自体が熱分解してしまい、工程を汚染してしまう、ポリマーが黄色く着色してしまう等の問題が生じやすくなる傾向にあり好ましくない。このような観点から、酸化防止剤の熱分解温度は、より好ましくは280℃以上、さらに好ましくは300℃以上、特に好ましくは320℃以上である。本発明における酸化防止剤は、熱分解しにくい方が好ましく、熱分解温度は高い方が好ましいが、現実的には、その上限は500℃以下程度である。
【0025】
また、本発明における酸化防止剤の融点は、90℃以上であることが好ましい。融点が低すぎる場合は、溶融押出時に酸化防止剤がポリマーより早く融解してしまい、押出機のスクリュー供給部分においてポリマーがスリップしてしまう傾向にある。それによって、ポリマーの供給が不安定となり、フィルムの厚み斑が悪くなる等の問題が生じる。このような観点から、酸化防止剤の融点の下限は、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは150℃以上、特に好ましくは200℃以上である。他方、酸化防止剤の融点が高すぎる場合は、溶融押出時に酸化防止剤が融解しにくくなり、ポリマー内での分散が悪くなってしまう傾向にある。それにより、酸化防止剤の添加効果が局所的にしか発現しない等の問題が生じる。このような観点から、酸化防止剤の融点の上限は、好ましくは300℃以下、より好ましくは250℃以下、さらに好ましくは220℃以下、特に好ましくは170℃以下である。
【0026】
以上のような酸化防止剤としては、市販品をそのまま用いることもできる。市販品としては、例えば、ペンタエリスリトールテトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製:商品名IRGANOX1010)、N,N’−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル〕ヒドラジン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製:商品名IRGANOX1024)、N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオンアミド〕(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製:商品名IRGANOX1098)等が好ましく例示される。
【0027】
本発明の高絶縁性フィルムは、上記酸化防止剤を、高絶縁性フィルムの質量を基準として0.1質量%以上8質量%以下含有する。酸化防止剤の含有量を上記数値範囲とすることによって、絶縁破壊電圧に優れる。酸化防止剤の含有量が少なすぎる場合は、酸化防止剤の添加効果が十分でなく、絶縁破壊電圧が低下する傾向にあり、電気的特性に劣るものとなる。このような観点から、酸化防止剤の含有量の下限は、0.2質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がさらに好ましく、1質量%以上が特に好ましい。他方、含有量が多すぎる場合は、フィルム中において酸化防止剤が凝集しやすくなる傾向にあり、酸化防止剤に起因する欠点が増加する傾向にあり、絶縁破壊電圧が低くなる。このような観点から、酸化防止剤の含有量の上限は、7質量%以下が好ましく、5質量%以下がさらに好ましく、3質量%以下が特に好ましい。
【0028】
上記のような酸化防止剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。2種類以上を併用する場合は、2種類以上の一次酸化防止剤を用いる態様でもよいし、2種類以上の二次酸化防止剤を用いる態様でもよいし、1種類以上の一次酸化防止剤と1種類以上の二次酸化防止剤を併用してもよい。例えば、一次酸化防止剤と二次酸化防止剤との2種類の酸化防止剤を併用することによって、一次酸化および二次酸化の両方の酸化を防止することが期待できる。本発明においては、中でも一次酸化防止剤を単独で用いる態様、あるいは2種類以上の一次酸化防止剤を用いる態様が、絶縁破壊電圧の向上効果をより高くすることができるという観点から好ましく、特にフェノール系酸化防止剤を単独で用いる態様、あるいは2種類以上のフェノール系酸化防止剤を用いる態様が好ましい。
【0029】
<重合体Y>
本発明における重合体Yは、DSC(示差熱量計)によるガラス転移温度Tgが130℃以上である。また、前述のスチレン系重合体のガラス転移温度Tgより高いTgを有することが好ましい。スチレン系重合体にこのような重合体Yを配合すると、混合体としてのガラス転移温度Tgが高くなるだけでなく、耐熱性が向上し、高絶縁性フィルムの熱寸法安定性が良好となる。このような観点から、重合体Yのガラス転移温度Tgは、150℃以上であることが好ましく、180℃以上であることがさらに好ましく、200℃以上であることが特に好ましい。配合する重合体Yのガラス転移温度Tgが高いほど、熱寸法安定性の向上効果が大きくなる。
【0030】
本発明においては、このような重合体Yとしては、下記式で表わされるポリフェニレンエーテル、ポリエーテルイミドなどの芳香族ポリエーテル、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミドなどを好ましく例示することができる。特に非晶性ポリマーが好ましい。これらのうち酸化防止剤との相乗作用があるためか、耐熱性、寸法安定性だけでなく、高絶縁性フィルムの絶縁破壊電圧(BDV)もさらに向上することができることから、ポリフェニレンエーテルが特に好ましい。
【0031】
【化2】

【0032】
本発明の高絶縁性フィルムは、前述のスチレン系重合体に上記の重合体Yを5質量%以上48質量%以下配合した樹脂組成物からなる二軸延伸フィルムである。重合体Yを上記範囲の量配合することによって、耐熱性、電気特性に優れたものとすることができる。含有量が少ない場合は、耐熱性、および電気特性の向上効果が低くなる傾向にある。このような観点から、重合体Yの含有量の下限は、8質量%以上が好ましく、11質量%以上がさらに好ましく、20質量%以上が特に好ましい。また、含有量が多い場合は、シンジオタクチック構造のスチレン重合体の結晶性が低下しやすくなる傾向にあり、フィルムの耐熱性の向上効果が低くなる傾向にある。このような観点から、重合体Yの含有量の上限は、45質量%以下が好ましく、40質量%以下がさらに好ましく、35質量%以下が特に好ましい。
【0033】
本発明の高絶縁性フィルムは、上述の重合体Yおよび酸化防止剤を、それぞれ上述のような態様で含有することにおって、特に優れた電気的特性と耐熱性とを得ることができる。
【0034】
また、本発明においては、重合体Yと酸化防止剤の含有量比(重合体Yの含有量/酸化防止剤の含有量)が1〜100であることが好ましい。かかる含有量比が上記数値範囲にあると、とりわけ電気的特性および耐熱性に優れたものとすることができる。含有量比は、少なすぎても多すぎてもとりわけ優れた電気的特性および耐熱性を得ることができなくなる傾向にある。このような観点から、含有量比は、さらに好ましくは3〜50、特に好ましくは5〜30である。
【0035】
<不活性微粒子A>
本発明の高絶縁性フィルムは、平均粒径および粒径の相対標準偏差が特定の数値範囲にある不活性微粒子Aを含有する。
【0036】
本発明における不活性微粒子Aの平均粒径は、0.05μm以上1.5μm以下である。不活性微粒子Aの平均粒径を上記数値範囲とすることによって、高い絶縁破壊電圧を保ったまま、フィルムのエアー抜け性を良好なものとすることができ、巻取り性に優れた高絶縁性フィルムを得ることができる。不活性微粒子Aの平均粒径が小さすぎる場合は、十分なエアー抜け性が得られなくなる傾向にあり、巻取り性に劣るものとなる。他方、大きすぎる場合は、フィルム中のボイドの大きさが増大する傾向にあり、絶縁破壊電圧が低くなる。このような観点から、不活性微粒子Aの平均粒径は、好ましくは0.1μm以上1.0μm以下、さらに好ましくは0.15μm以上0.6μm以下、特に好ましくは0.2μm以上0.5μm以下である。
【0037】
また、本発明における不活性微粒子Aは、その粒径の相対標準偏差が0.5以下である。粒径の相対標準偏差を上記数値範囲とすることによって、フィルム表面の突起の高さが均一となり、巻取り性に優れた高絶縁性フィルムを得ることができる。また、粗大粒子や粗大突起が少なくなり、絶縁破壊電圧に優れた高絶縁性フィルムを得ることができる。このような観点から、不活性微粒子Aの粒径の相対標準偏差は、好ましくは0.4以下、さらに好ましくは0.3以下、特に好ましくは0.2以下である。
【0038】
さらに、本発明における不活性微粒子Aは、粒径比が1.0以上1.3以下の球状粒子であることが好ましい。粒径比は、さらに好ましくは1.0以上1.2以下、特に好ましくは1.0以上1.1以下である。粒径比が上記数値範囲にあると、巻取り性の向上効果および絶縁破壊電圧の向上効果をより高くすることができる。
【0039】
本発明の高絶縁性フィルムは、上記のような不活性微粒子Aを、高絶縁性フィルム100質量%中に、0.05質量%以上2.0質量%以下含有する。不活性微粒子Aを上記数値範囲の量含有することによって、高い絶縁破壊電圧を保ったまま、フィルムの取り扱い性を良好なものとすることができる。不活性微粒子Aの含有量が少なすぎる場合は、エアー抜け性に劣る傾向にあり、巻取り性に劣るものとなる。他方、多すぎる場合は、フィルム表面が粗くなりすぎる傾向にあり、それによってフィルム表面の耐削れ性が悪化する傾向にあり、絶縁破壊電圧に劣るものとなる。また、特にコンデンサー用途においては、スペースファクターが増大する傾向にある。このような観点から、不活性微粒子Aの含有量は、好ましくは0.1質量%以上1.0質量%以下、さらに好ましくは0.1質量%以上0.5質量%以下、特に好ましくは0.1質量%以上0.3質量%以下である。
【0040】
以上のような不活性微粒子Aは、有機系微粒子であってもよいし、無機系微粒子であってもよい。有機系微粒子としては、例えばポリスチレン樹脂粒子、シリコーン樹脂粒子、アクリル樹脂粒子、スチレン−アクリル樹脂粒子、ジビニルベンゼン−アクリル樹脂粒子、ポリエステル樹脂粒子、ポリイミド樹脂粒子、メラミン樹脂粒子等の高分子樹脂粒子が挙げられる。中でも、滑り性および耐削れ性に優れるという観点から、シリコーン樹脂粒子、ポリスチレン樹脂粒子が特に好ましい。このような高分子樹脂粒子は、前述の通り球状であることが好ましく、すなわち球状高分子樹脂粒子が好ましい。このうち、滑り性および耐削れ性により優れるという観点から、球状シリコーン樹脂粒子、球状ポリスチレン樹脂粒子が特に好ましい。また、無機系微粒子としては、(1)二酸化ケイ素(水和物、ケイ砂、石英等を含む);(2)各種結晶形態のアルミナ;(3)SiO成分を30質量%以上含有するケイ酸塩(例えば非晶質もしくは結晶質の粘土鉱物、アルミノシリケート(焼成物や水和物を含む)、温石綿、ジルコン、フライアッシュ等);(4)Mg、Zn、Zr、およびTiの酸化物;(5)Ca、およびBaの硫酸塩;(6)Li、Ba、およびCaのリン酸塩(1水素塩や2水素塩を含む);(7)Li、Na、およびKの安息香酸塩;(8)Ca、Ba、Zn、およびMnのテレフタル酸塩;(9)Mg、Ca、Ba、Zn、Cd、Pb、Sr、Mn、Fe、Co、およびNiのチタン酸塩;(10)Ba、およびPbのクロム酸塩;(11)炭素(例えばカーボンブラック、グラファイト等);(12)ガラス(例えばガラス粉、ガラスビーズ等);(13)Ca、およびMgの炭酸塩;(14)ホタル石;(15)スピネル型酸化物等が挙げられる。このうち、滑り性および耐削れ性に優れるという観点から、炭酸カルシウム粒子、シリカ粒子が好ましく、シリカ粒子が特に好ましい。このような無機系微粒子は、前述の通り球状であることが好ましく、滑り性および耐削れ性により優れるという観点から、球状シリカ粒子が特に好ましい。
【0041】
不活性粒子Aとして最も好ましいのは、球状シリコーン樹脂粒子である。不活性微粒子Aとして球状シリコーン樹脂粒子を用いた場合は、重合体Yとしてポリフェニレンエーテルを用いた際に、相乗効果によってとりわけ耐熱性の高いものとなる。
【0042】
<不活性微粒子B>
本発明の高絶縁性フィルムは、上記不活性微粒子Aの他に、平均粒径および粒径の相対標準偏差が特定の数値範囲にある不活性微粒子Bを含有する態様が好ましい。
【0043】
本発明における不活性微粒子Bの平均粒径は、0.5μm以上3.0μm以下である。不活性微粒子Bの平均粒径を上記数値範囲とすることによって、適度な滑り性を得ることができ、巻取り性の向上効果を高くすることができる。不活性微粒子Bの平均粒径が小さすぎる場合は、滑り性が低くなる傾向にあり、巻取り性の向上効果が低くなる。他方、大きすぎる場合は、フィルム表面における低突起の高さが高くなりすぎる傾向にあり、それにより滑り性が高くなりすぎ、巻取り時に端面ズレを起こしやすくなる等巻取り性の向上効果が低くなる。さらに、耐削れ性が悪化する傾向にあり、絶縁破壊電圧の向上効果が低くなる。このような観点から、不活性微粒子Bの平均粒径は、好ましくは0.7μm以上2.0μm以下、さらに好ましくは1.0μm以上1.5μm以下、特に好ましくは1.1μm以上1.3μm以下である。
【0044】
かかる不活性微粒子Bの平均粒径は、不活性微粒子Aの平均粒径よりも0.2μm以上大きい態様である。不活性微粒子Aの平均粒径と不活性微粒子Bの平均粒径との差を上記のような態様とすることによって、フィルム表面において不活性微粒子Bによる高突起が散在する態様となり、これによってフィルム間のエアー抜け性が良好となる。同時に、不活性微粒子Aによる低突起が存在する態様となり、フィルム同士の滑り性が良好となる。これらによって、フィルムをロール状に巻取る際には、エアー抜け性と滑り性とのバランスが良く、高速で巻き上げても巻き姿の良好なフィルムロールを得ることができる等、巻取り性の向上効果を高くすることができる。このような観点から、不活性微粒子Bの平均粒径は、不活性微粒子Aの平均粒径よりも0.4μm以上大きい態様が好ましく、0.6μm以上大きい態様がさらに好ましく、0.8μm以上大きい態様が特に好ましい。
【0045】
また、本発明における不活性微粒子Bは、前述の不活性微粒子Aと同様の観点から、その粒径の相対標準偏差が0.5以下である。不活性微粒子Bの粒径の相対標準偏差は、好ましくは0.4以下、さらに好ましくは0.3以下、特に好ましくは0.2以下である。
【0046】
さらに、本発明における不活性微粒子Bは、前述の不活性微粒子Aと同様の観点から、粒径比が1.0以上1.3以下の球状粒子であることが好ましく、さらに好ましくは1.0以上1.2以下、特に好ましくは1.0以上1.1以下である。
【0047】
本発明の高絶縁性フィルムは、上記のような不活性微粒子Bを、高絶縁性フィルム100質量%中に、0.01質量%以上1.5質量%以下含有する態様が好ましい。不活性微粒子Bを上記数値範囲の量含有することによって、高い絶縁破壊電圧を保ったまま、フィルムの取り扱い性の向上効果を高くすることができる。不活性微粒子Bの含有量が少なすぎる場合は、滑り性が低くなる傾向にあり、巻取り性の向上効果が低くなる。他方、多すぎる場合は、フィルム中のボイドの頻度が増加する傾向にあり、絶縁破壊電圧の向上効果が低くなる。また、滑り性が高くなりすぎる傾向にあり、巻取り時に端面ズレを起こしやすくなる等巻取り性の向上効果が低くなる。このような観点から、不活性微粒子Bの含有量は、より好ましくは0.05質量%以上1.0質量%以下、さらに好ましくは0.1質量%以上0.5質量%以下、特に好ましくは0.2質量%以上0.4質量%以下である。
【0048】
以上のような不活性微粒子Bとしては、前述の不活性微粒子Aと同様の有機系微粒子および無機系微粒子を用いることができる。このうち、有機系微粒子が好ましく、滑り性および耐削れ性に優れるという観点から、球状シリコーン樹脂粒子、球状ポリスチレン樹脂粒子が好ましく、球状シリコーン樹脂粒子が特に好ましい。このような有機系微粒子は、前述の通り球状であることが好ましく、滑り性および耐削れ性により優れるという観点から、球状シリコーン樹脂粒子が特に好ましい。不活性微粒子Bとして球状シリコーン樹脂粒子を用いた場合は、重合体Yとしてポリフェニレンエーテルを用いた際に、相乗効果によってとりわけ耐熱性の高いものとなる。
【0049】
本発明で用いられる不活性微粒子Aおよび不活性微粒子Bは、最終的なフィルムに含有されていれば含有させる方法に限定はない。例えば、溶融押出する任意の過程で添加する方法が挙げられる。またこれらの微粒子を効果的に分散させるため、分散剤、界面活性剤等を用いることができる。
【0050】
本発明においては、不活性微粒子Aおよび不活性微粒子Bの両方を用いる場合において、それぞれに球状シリコーン樹脂粒子を用いた態様を例示することができるが、そのような場合においても、各々の粒子における平均粒径がそれぞれ重なりのない特定の数値範囲にあり、かつ各々の粒子における粒径の相対標準偏差が小さいため、粒径分布曲線においては、上記2種類の粒子は明瞭に区別することができる2つの粒径ピークを示し、すなわち不活性微粒子Aと不活性微粒子Bとを明瞭に区別することができる。なお、2つの粒径ピークがそれぞれ裾野の部分で重なって、谷部分を形成する場合は、谷部分において極小値を示す点を境界として、2つの粒径ピークに分解することとする。
【0051】
<その他の添加剤>
本発明の高絶縁性フィルムは、基本的には前述のシンジオタクチック構造のスチレン系重合体、不活性微粒子A、酸化防止剤、および重合体Yを含有するものであるが、さらに成形性、力学物性、表面性等を改良するために他の樹脂成分を含有することができる。
【0052】
含有することができる他の樹脂成分としては、例えばアタクチック構造のスチレン系重合体、アイソタクチック構造のスチレン系重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体等が、前記シンジオタクチック構造のスチレン系重合体と相溶しやすく、延伸用予備成形体を作成するときの結晶化の制御に有効で、その後の延伸性が向上し、延伸条件の制御が容易で、かつ力学物性に優れたフィルムを得ることができるため好ましく挙げられる。このうち、アタクチック構造および/またはアイソタクチック構造のスチレン系重合体を含有させる場合は、シンジオタクチック構造のスチレン系重合体と同様のモノマーからなるものが好ましい。また、これら相溶性樹脂成分の含有割合は、シンジオタクチック構造のスチレン系重合体100質量部に対して、好ましくは40質量部以下、さらに好ましくは20質量部以下、特に好ましくは10質量部以下とすれば良い。相溶性樹脂成分の含有割合が40質量部を超えると、シンジオタクチック構造のスチレン系重合体の長所である耐熱性の向上効果が低くなってしまう。
【0053】
また、含有する事ができる他の樹脂成分のうち、シンジオタクチック構造のスチレン系重合体に非相溶な樹脂としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリペンテン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ナイロン6やナイロン6,6等のポリアミド、ポリフェニレンスルフィド等のポリチオエーテル、ポリアクリレート、ポリスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、テフロン(登録商標)等のハロゲン化ビニル系重合体、ポリメタクリル酸メチル等のアクリル系重合体、ポリビニルアルコール等、前記相溶性の樹脂以外の樹脂が相当し、さらに前記相溶性の樹脂を含む架橋樹脂が挙げられる。これらの樹脂は、本発明のシンジオタクチック構造のスチレン系重合体と非相溶であるため、少量含有する場合は、シンジオタクチック構造のスチレン系重合体中に島状に分散させることができ、延伸後に程良い光沢を与えたり、表面の滑り性を改良するのに有効である。非相溶性樹脂成分の含有割合は、シンジオタクチック構造のスチレン系重合体100質量部に対して、好ましくは30質量部以下、さらに好ましくは20質量部以下、特に好ましくは10質量部以下である。また、製品として使用する温度が高い場合は、比較的耐熱性のある非相溶性樹脂成分を含有することが好ましい。
さらに、本発明の目的を阻害しない範囲で、帯電防止剤、着色剤、耐候剤等の添加剤を加えることができる。
【0054】
<フィルム特性>
(厚み方向の屈折率)
本発明の高絶縁性フィルムは、厚み方向の屈折率が1.5750以上1.6350以下である。厚み方向の屈折率は、好ましくは1.5800以上1.6200以下、さらに好ましくは1.5850以上1.6150以下、特に好ましくは1.5850以上1.6100以下である。厚み方向の屈折率を上記数値範囲とすることによって、絶縁破壊電圧を高くすることができる。また、フィルム製造工程におけるフィルム破断の頻度が低下し、生産性を向上することができる。厚み方向の屈折率が高すぎる場合は、フィルム製造工程におけるフィルム破断の頻度が増加する傾向にあり、フィルムの生産性が低下する。他方、低すぎる場合は、絶縁破壊電圧が低くなる傾向にあり、電気的特性に劣るものとなる。また、コンデンサーの製造工程におけるフィルム破断の頻度が増加し、コンデンサーの生産性が低下する。さらに、フィルムの厚み斑が悪くなる傾向にあり、品質の安定したコンデンサーを得にくくなる。
【0055】
厚み方向の屈折率を上記範囲とするには、後述するような製造方法を採用することによって達成される。すなわち、本発明において好ましい厚み方向の屈折率は、フィルムの延伸倍率を後述する特定の数値範囲とし、かつ、該延伸工程において、一軸方向の延伸に次いで実施される該一軸方向と垂直な方向の延伸において、延伸の温度を複数段階に分け、この第1段階の温度と最終段階の温度とで特定の温度差をつけることで達成される。
【0056】
(フィルム厚み)
本発明の高絶縁性フィルムは、フィルム厚みが0.4μm以上6.5μm未満であることが好ましい。さらに好ましくは0.4μm以上6.0μm未満であり、特に好ましくは0.5μm以上3.5μm未満である。フィルム厚みを上記数値範囲とすることによって、静電容量の高いコンデンサーを得ることができる。
【0057】
コンデンサーの絶縁体として用いられるフィルムは、フィルム厚みが薄い方がコンデンサーの静電容量が高くなり好ましいことは一般的によく知られている。しかしながら、実際にフィルム厚みを薄く(薄膜化)してゆくと、フィルムにしわが入りやすくなる、フィルムが破断しやすくなる等取り扱い性が低下する、添加した粒子が脱落しやすくなる、さらにそれにより絶縁破壊電圧が低くなる、フィルム厚みが薄くなることにより絶縁破壊電圧の絶対値が低くなる等の問題が生じるため、それらをバランスさせることが不可欠となる。本発明は、フィルム厚みを薄くしても上記の問題が生じることが無いように、酸化防止剤および特定の粒子を有する新規の構成の高絶縁性フィルムを、後述する製造方法により得るものである。
【0058】
(絶縁破壊電圧(BDV))
本発明の高絶縁性フィルムは、120℃における絶縁破壊電圧(BDV)が350V/μm以上であることが好ましい。絶縁破壊電圧(BDV)が上記数値範囲にあるということは、高温においても優れた絶縁破壊電圧(BDV)を有するということを表わす。かかる絶縁破壊電圧(BDV)は、好ましくは400V/μm以上である。上記のような絶縁破壊電圧(BDV)を達成するためには、フィルム中の重合体Yおよび酸化防止剤の態様を本発明が規定する態様とすればよい。また、不活性微粒子Aや不活性微粒子Bの態様を適宜調整することによっても、絶縁破壊電圧(BDV)を調整することができる。また、重合体Yと酸化防止剤の含有量比(重合体Yの含有量/酸化防止剤の含有量)を本発明が規定する好ましい範囲とすることも効果的である。重合体Yや酸化防止剤の添加量を少なくすると、絶縁破壊電圧(BDV)は低くなる傾向にある。また、不活性微粒子Aや不活性微粒子Bの含有量を多くすると、絶縁破壊電圧(BDV)は低くなる傾向にある。
【0059】
(貯蔵弾性率(E’))
本発明の高絶縁性フィルムは、動的粘弾性測定により周波数10Hzで測定した、120℃における貯蔵弾性率(E’)が600MPa以上であることが好ましい。120℃における貯蔵弾性率(E’)が上記数値範囲にあると、高絶縁性フィルムの、高温環境下における機械特性に優れる。120℃における貯蔵弾性率が低すぎる場合は、高温で使用される際に機械特性(破断強度など)が低下してしまう傾向にある。このような観点から、120℃における貯蔵弾性率は、650MPa以上がより好ましく、700MPa以上がさらに好ましく、750MPa以上が特に好ましい。上記のような貯蔵弾性率(E’)を達成するためには、重合体Yの態様を本発明が規定する態様とすればよい。重合体Yの含有量を少なくすると、貯蔵弾性率(E’)は低くなる傾向にある。
【0060】
(損失弾性率(E’’))
本発明の高絶縁性フィルムは、動的粘弾性測定により振動周波数10Hzで測定した損失弾性率(E’’)のピーク温度が120℃以上150℃以下であることが好ましい。損失弾性率(E’’)のピーク温度が適度に高いということは、高絶縁性フィルムを加熱していった際に分子運動が活発になり始める温度が適度に高いということである。そのため、フィルムとしての耐熱性が高くなる傾向にある。このような観点から、損失弾性率(E’’)のピーク温度の下限は、125℃以上がより好ましく、130℃以上がさらに好ましく、135℃以上が特に好ましい。一方、損失弾性率(E’’)のピーク温度が高すぎるということは、分子運動が活発になり難いということも併せ持っており、延伸時の延伸応力が高くなるためか、二軸延伸製膜時に破断が起き易くなる。このような観点からは、損失弾性率(E’’)のピーク温度の上限は、145℃以下がより好ましく、140℃以下がさらに好ましい。上記のような損失弾性率(E’’)のピーク温度を達成するためには、重合体Yの含有量を適宜調整すればよい。好ましくは、重合体Yの含有量を本発明が規定する範囲とすればよい。また、重合体Yと酸化防止剤の含有量比(重合体Yの含有量/酸化防止剤の含有量)を本発明が規定する好ましい範囲とすることも効果的である。例えば、重合体Yの含有量を増やすと、損失弾性率(E’’)のピーク温度は高くなる傾向にある。重合体Yの含有量が低すぎると損失弾性率(E’’)のピーク温度は低くなりすぎる傾向にあり、120℃に達し難くなる傾向にある。
【0061】
(誘電正接(tanδ))
本発明の高絶縁性フィルムは、120℃、周波数1KHzにおける誘電正接(tanδ)が0.0015以下であることが好ましい。120℃における誘電正接(tanδ)が大きい場合は、該フィルムが高温(例えば120℃)で長時間使用される場合、自己発熱してしまい、損傷してしまうことが生じ易くなる傾向にある。このような観点から120℃における誘電正接(tanδ)は、0.0012以下がより好ましく、0.0009以下がさらに好ましく、0.0006以下が特に好ましい。上記のような誘電正接(tanδ)を達成するためには、重合体Yの含有量を適宜調整すればよい。好ましくは、重合体Yの含有量を本発明が規定する範囲とすればよい。また、重合体Yと酸化防止剤の含有量比(重合体Yの含有量/酸化防止剤の含有量)を本発明が規定する好ましい範囲とすることも効果的である。例えば、重合体Yの含有量を減らすと、誘電正接(tanδ)は低くなる傾向にある。
【0062】
(熱収縮率)
本発明の高絶縁性フィルムは、縦方向および横方向の200℃×10分の熱収縮率が6%以下であることが好ましい。熱収縮率が上記数値範囲にあると、コンデンサーの加工時(蒸着など)において生じるブロッキングを抑制することができ、品質に優れたコンデンサーを得やすくなる。熱収縮率が大きくなりすぎると、コンデンサーの加工時(蒸着など)にブロッキングを起こし易くなり、良品が得られ難くなる傾向にある。このような観点から、200℃×10分の熱収縮率は、5%以下がより好ましく、4%以下がさらに好ましく、3%以下が特に好ましい。上記のような熱収縮率を達成するためには、熱固定温度を後述の範囲とすればよい。熱固定温度を高くすると、熱収縮率は低くなる傾向にある。また、熱固定時やその後の工程において熱弛緩処理を施すことによって、より効果的に上記熱収縮率の数値範囲を達成することができる。
【0063】
(表面粗さ)
本発明の高絶縁性フィルムは、その少なくとも片面の中心線平均表面粗さRaが7nm以上89nm以下であることが好ましい。中心線平均表面粗さRaを上記数値範囲とすることによって、巻取り性の向上効果を高くすることができる。また、耐ブロッキング性が向上し、ロールの外観を良好なものとすることができる。中心線平均表面粗さRaが低すぎる場合は、滑り性が低くなりすぎる傾向にあり、巻取り性の向上効果が低くなる。他方、高すぎる場合は、滑り性が高くなりすぎる傾向にあり、巻取り時に端面ズレを起こしやすくなる等巻取り性の向上効果が低くなる。このような観点から、中心線平均表面粗さRaの下限は、好ましくは11nm以上、さらに好ましくは21nm以上、特に好ましくは31nm以上である。また、中心線平均表面粗さRaの上限は、より好ましくは79nm以下、さらに好ましくは69nm以下、特に好ましくは59nm以下である。
【0064】
また、本発明の高絶縁性フィルムは、その少なくとも片面の10点平均粗さRzが200nm以上以上3000nm以下であることが好ましい。10点平均粗さRzを上記数値範囲とすることによって、巻取り性の向上効果を高くすることができる。10点平均粗さRzが低すぎる場合は、ロールとして巻き上げる際にエアー抜け性が低くなる傾向にあり、フィルムが横滑りしやすくなる等巻取り性の向上効果が低くなる。特に、フィルム厚みが薄い場合は、フィルムの腰が無くなるため、エアー抜け性がさらに低くなる傾向にあり、巻取り性の向上効果がさらに低くなる。他方、10点平均粗さRzが高すぎる場合は、粗大突起が多くなる傾向にあり、絶縁破壊電圧の向上効果が低くなる。このような観点から、10点平均粗さRzの下限は、より好ましくは600nm以上、さらに好ましくは1000nm以上、特に好ましくは1250nm以上である。また、10点平均粗さRzの上限は、より好ましくは2600nm以下、さらに好ましくは2250nm以下、特に好ましくは1950nm以下である。
【0065】
<フィルムの製造方法>
本発明の高絶縁性フィルムは、一部の特別な製造方法を除けば、基本的には従来から知られている、あるいは当業界に蓄積されている方法で得ることができる。以下、本発明の高絶縁性フィルムを得るための製造方法について詳記する。
【0066】
先ず、シンジオタクチック構造のスチレン系重合体に重合体Y、および酸化防止剤を所定量配合した樹脂組成物を加熱溶融し、未延伸シートを作成する。具体的には樹脂組成物の融点(Tm、単位:℃)以上(Tm+50℃)以下の温度で加熱溶融し、シート状に押し出して、冷却固化して未延伸シートを得る。得られた未延伸シートの固有粘度は、0.35〜0.9dl/gの範囲であることが好ましい。次いで、この未延伸シートを二軸に延伸する。延伸は、縦方向(機械軸方向)および横方向(機械軸方向と垂直な方向)を同時延伸してもよいし、任意の順序で逐次延伸してもよい。例えば逐次延伸の場合は、先ず一軸方向に(樹脂組成物のガラス転移温度(Tg、単位:℃)−10℃)以上(Tg+70℃)以下の温度で2.7倍以上4.8倍以下、好ましくは2.9倍以上4.4倍以下、さらに好ましくは3.1倍以上4.0倍以下の倍率で延伸し、次いで該一軸方向と垂直な方向にTg以上(Tg+80℃)以下の温度で2.8倍以上4.9倍以下、好ましくは3.0倍以上4.5倍以下、さらに好ましくは3.2倍以上4.1倍以下の倍率で延伸する。
【0067】
なお、上記一軸方向と垂直な方向の延伸の際には、前段階の延伸で結晶化が進んでいるためか、延伸が難しくなり、製膜中に破断が起こりやすくなる。特にフィルム厚みが3μm程度の薄いフィルムを製膜する場合において、また特に延伸倍率が3.2倍以上の領域において破断が起こりやすくなる。
【0068】
この対策を検討したところ、上記一軸方向と垂直な方向の延伸において、その延伸速度を特定の数値範囲とすることが有効であることが判明した。すなわち、延伸速度が速すぎる場合は、延伸による分子の高次構造変化が、延伸によるフィルムの形状変化の速さに追随できなくなり、該高次構造に歪が生じやすくなるためか、フィルム破断が生じやすくなる。他方、遅すぎる場合は、延伸途中においてフィルムの結晶化が先行してしまい、延伸応力にバラツキが生じるためか、延伸斑や厚み斑が生じやすくなり、それにより破断が生じやすくなる。このような観点から、延伸速度の下限は、好ましくは500%/分以上、より好ましくは1000%/分以上、さらに好ましくは2000%/分以上、特に好ましくは4000%/分以上である。また、延伸速度の上限は、好ましくは30000%/分以下、より好ましくは15000%/分以下、さらに好ましくは9000%/分以下、特に好ましくは6000%/分以下である。
【0069】
また、他の有効な手段として、上記一軸方向と垂直な方向の延伸において、その延伸温度を一定とするのではなく、複数段階に分け、この第1段階の温度と最終段階の温度とで温度差をつけることが有効であることが判明した。温度差の下限は、最終段階の温度が第1段階の温度より4℃以上高いことが好ましく、7℃以上高いことがより好ましく、12℃以上高いことがさらに好ましく、15℃以上高いことが特に好ましい。また、温度差の上限は、49℃以下が好ましく、39℃以下がより好ましく、29℃以下がさらに好ましく、20℃以下が特に好ましい。温度差が大きすぎる場合は、フィルム破断が生じやすくなる。また、延伸後のフィルムの厚み斑が悪くなる傾向にある。このように、第1段階と最終段階の温度差を上記数値範囲とすることで、フィルム厚みの薄いフィルムの製膜において従来困難であった高い延伸倍率を達成することができ、これによって厚み斑が良好なフィルムを得ることができる。
【0070】
一軸方向と垂直な方向の延伸を実施する工程において、第1段階と最終段階との温度差をつけるには、1の延伸ゾーンの中でゾーンの入口(第1段階)と出口(最終段階)とで温度差をつけてもよいし、温度の異なる2以上の連続した延伸ゾーンを設けて最初の延伸ゾーン(第1段階)と最後の延伸ゾーン(最終段階)とで温度差をつけてもよい。ここでゾーンとは、テンター等においてシャッター等で区切られた1の領域を示す。いずれの場合も、第1段階と最終段階の間をさらに分割し、第1段階から最終段階に向かって温度を傾斜的に上昇させるのが好ましく、特に直線的に上昇させると良い。例えば、温度の異なる2以上の連続した延伸ゾーンによる場合は、最初の延伸ゾーンと最後の延伸ゾーンの間に、さらに1以上の延伸ゾーンを設けることが好ましく、1以上10以下の延伸ゾーンを設けることがさらに好ましい。延伸ゾーンの合計を11以上とすることは、設備コストの面から不利である。延伸は、例えばフィルムを幅方向に延伸する場合は、最終段階を出た直後のフィルム幅を、第1段階に入る直前のフィルム幅で除した値が目標の延伸倍率となるようにすればよく、傾斜的にフィルム幅を増加させることが好ましく、特に直線的に増加させると良い。縦方向と横方向を同時に延伸する場合においても、同様に延伸の温度を複数段階に分け、この第1段階の温度と最終段階の温度とで温度差をつけるようにする。
【0071】
本発明においては、本発明における好ましい厚み方向の屈折率を達成するための手段として、これらの手段を好ましく例示することができる。さらに、これらの手段によると、フィルム厚みを薄くしても破断が生じにくいため、本発明における好ましいフィルム厚みを達成するための手段として、これらの手段を好ましく例示することができる。また、本発明においては、上記の延伸速度の態様および延伸温度の態様のうち、少なくともいずれか1つの態様を採用することが好ましいが、両方の態様を採用することがより好ましく、延伸工程が安定化し、本発明における好ましい屈折率および好ましいフィルム厚みを達成しやすくなる。
【0072】
次いで、(Tg+70℃)〜Tmの温度で熱固定する。熱固定の温度は200℃以上260℃以下であり、好ましくは220℃以上250℃以下であり、さらに好ましくは230℃以上240℃以下である。熱固定温度が高すぎる場合は、特にフィルム厚みの薄いフィルムを製造する際に、フィルム破断が生じやすくなり、また厚み斑が悪化してしまう。熱固定の後に必要に応じて熱固定温度より20℃〜90℃低い温度下で弛緩処理をすると、寸法安定性が良くなる。
【実施例】
【0073】
次に本発明を実施例および比較例によりさらに詳しく説明する。また、例中の各種特性値は下記の方法で測定、評価した。
【0074】
(1)粒子の平均粒径および粒径比
(1−1)粉体の平均粒径および粒径比
試料台上に、粉体を個々の粒子ができるだけ重ならないようにうに散在させ、金スパッター装置によりこの表面に金薄膜蒸着層を厚み200〜300Åで形成し、走査型電子顕微鏡を用いて1万〜3万倍で観察し、日本レギュレーター(株)製ルーゼックス500にて、少なくとも1000個の粒子についてその面積相当粒径(Di)、長径(Dli)および短径(Dsi)を求めた。
【0075】
(1−2)フィルム中の粒子の平均粒径および粒径比
試料フィルム小片を走査型電子顕微鏡用試料台に固定し、日本電子(株)製スパッタリング装置(JIS−1100型イオンスパッタリング装置)を用いてフィルム表面に、0.13Paの真空下で0.25kV、1.25mAの条件でイオンエッチング処理を10分間施した。さらに、同じ装置で金スパッターを施し、走査型電子顕微鏡を用いて1万〜3万倍で観測し、日本レギュレーター(株)製ルーゼックス500にて、少なくとも1000個の粒子についてその面積相当粒径(Di)、長径(Dli)および短径(Dsi)を求めた。
粉体の平均粒径および粒径比については上記(1−1)項、フィルム中の粒子の平均粒
径および粒径比については上記(1−2)項から得られた値を下記式に用いて、粒子の個
数nとし、面積相当粒径(Di)の数平均値を平均粒径(D)とした。
【0076】
【数1】

【0077】
また、下記式から得られた長径の平均値(Dl)と短径の平均値(Ds)から、粒径比
はDl/Dsとして算出した。
【0078】
【数2】

【数3】

【0079】
(2)粒子の粒径の相対標準偏差
粉体の相対標準偏差については前記(1−1)項、フィルム中の粒子の相対標準偏差については前記(1−2)項で求められた各々の粒子の面積相当粒径(Di)および平均粒径(D)から、下記式により求めた。
【0080】
【数4】

【0081】
(3)フィルムの表面粗さ
(3−1)中心線平均表面粗さ(Ra)
非接触式三次元粗さ計(小坂研究所製、ET−30HK)を用いて波長780nmの半導体レーザー、ビーム径1.6μmの光触針で測定長(Lx)1mm、サンプリングピッチ2μm、カットオフ0.25mm、厚み方向拡大倍率1万倍、横方向拡大倍率200倍、走査線数100本(従って、Y方向の測定長Ly=0.2mm)の条件にてフィルム表面の突起プロファイルを測定する。その粗さ曲面をZ=f(x,y)で表わしたとき、次の式で得られる値をフィルムの中心線平均表面粗さ(Ra、単位:nm)とした。
【0082】
【数5】

【0083】
(4)熱収縮率
無張力の状態で200℃の雰囲気中10分におけるフィルムの熱収縮率(縦方向および横方向)(単位:%)を求めた。
【0084】
(5)屈折率
ナトリウムD線(589nm)を光源としたアッベ屈折計を用いて23℃65%RHにて測定し、厚み方向の屈折率(nZ)とした。
【0085】
(6)絶縁破壊電圧(BDV)
JIS C 2151に示される方法に従って測定した。23℃相対湿度50%の雰囲気にて、直流耐電圧試験機を用い、上部電極は直径25mmの真鍮製円柱、下部電極は直径75mmのアルミ製円柱を使用し、100V/秒の昇圧速度で昇圧し、フィルムが破壊し短絡した時の電圧(単位:V)を読み取った。得られた電圧をフィルム厚み(単位:μm)で除して、絶縁破壊電圧(単位:V/μm)とした。測定は41回実施し、大きい方の10個、小さい方の10個を除き、21個の中央値を絶縁破壊電圧の測定値とした。
120℃での測定は、熱風オーブンに電極、サンプルをセットし、耐熱コードで電源に接続し、オーブン投入後1分で昇圧を開始して測定した。
【0086】
(7)延伸性
二軸延伸フィルムを10万m製膜する間に破断の発生する回数により、以下の如く判断した。
延伸性◎ :10万mの製膜当り、破断が1回未満
延伸性○ :10万mの製膜当り、破断が1回〜2回未満
延伸性△ :10万mの製膜当り、破断が2回〜4回未満
延伸性× :10万mの製膜当り、破断が4回〜8回未満
延伸性××:10万mの製膜当り、破断が8回以上
【0087】
(8)巻取り性
フィルムの製造工程において、フィルムを500mm幅で9000mのロール状に140m/分の速度で巻き上げ、得られたロールの巻き姿、およびロール端面における端面ズレを次のように格付けした。
[巻き姿]
A :ロールの表面にピンプルがなく、巻き姿が良好。
B :ロールの表面に1個以上4個未満のピンプル(突起状盛り上がり)があり、巻き姿はほぼ良好。
C :ロールの表面に4個以上10個未満のピンプル(突起状盛り上がり)があり、巻き姿はやや不良であるが、製品として使用できる。
D :ロールの表面に10個以上のピンプル(突起状盛り上がり)があり、巻き姿が悪く、製品として使用できない。
[端面ズレ]
◎ :ロール端面における端面ズレが0.5mm未満であり、良好。
○ :ロール端面における端面ズレが0.5mm以上1mm未満であり、ほぼ良好。
△ :ロール端面における端面ズレが1mm以上2mm未満であり、やや劣るものであるが製品として使用できる。
× :ロール端面における端面ズレが2mm以上であり、劣るものであり製品として使用できない。
××:ロール巻き上げ中に端面ズレが大きくなり、9000mのロールが作成できない。
【0088】
(9)熱分解温度
示差熱熱重量同時測定装置(セイコー電子工業社製:商品名TG/DTA220)を使用して、空気雰囲気下にて10℃/分の昇温速度で測定し、その温度/重量変化曲線より重量変化し始める温度を接線法により求め、熱分解温度(単位:℃)とした。
【0089】
(10)ガラス転移温度および融点
サンプル約20mgを測定用のアルミニウム製パンに封入して示差熱量計(DSC)(TA Instruments社製:商品名DSCQ100に装着し、室温(25℃)から20℃/分の速度で280℃まで昇温させて融点を測定し、その後サンプルを急冷してから再度20℃/分の速度で昇温してガラス転移温度(単位:℃)を測定した。
【0090】
(11)貯蔵弾性率(E’)、損失弾性率(E’’)、誘電正接(tanδ)
動的粘弾性測定装置(オリエンテック社製、DDV−01FP)を用い、25℃から230℃まで2℃/分の速度で昇温しながら振動周波数10Hzの条件で、フィルムサンプルの貯蔵弾性率(E’)(単位:MPa)、損失弾性率(E’’)(単位:MPa)を測定した。このとき、サンプル長は、測定方向4cm×幅方向3mm(チャック間3cm)とした。上記測定結果から、損失弾性率(E’’)のピーク温度(単位:℃)、および温度120℃での貯蔵弾性率(E’)(単位:MPa)を求めた。なお、フィルムの製膜方向(縦方向)、および横方向のそれぞれについて測定を実施し、それらの平均値を算出して求めた。
また、誘電正接(tanδ)は、安藤電気製誘電体損測定機(TR−10C)を用い、温度120℃、振動周波数1KHzの条件で測定して求めた。サンプルはJIS C 2151に従って作成した。なお、フィルムの製膜方向(縦方向)、および横方向のそれぞれについて測定を実施し、それらの平均値を算出して求めた。
【0091】
[実施例1]
重量平均分子量3.0×10であり、13C−NMR測定でほぼ完全なシンジオタクチック構造であることが観察されるポリスチレン67.5質量部と、重合体Yとして、クロロホルム中で測定された固有粘度が0.32dl/gのポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテル(ポリフェニレンエーテルともいう。また、PPEと省略することがある。ガラス転移温度210℃)30質量部(得られる高絶縁性フィルム100質量%中に30質量%となる。)と、酸化防止剤として、ペンタエリスリトールテトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製:商品名IRGANOX1010、融点120℃、熱分解温度335℃、C1)2.0質量部(得られる高絶縁性フィルム100質量%中に2.0質量%となる)と、不活性微粒子Aとして、平均粒径0.3μm、相対標準偏差0.15、粒径比1.10の球状シリコーン樹脂粒子を0.5質量部(得られる高絶縁性フィルムの質量を基準として0.5質量%となる)とを配合し、樹脂組成物を得た。
得られた樹脂組成物を120℃で7時間乾燥し、次いで押出機に供給し、290℃で溶融し、ダイスリットから押出し後50℃に冷却されたキャスティングドラム上で冷却固化し、未延伸シートを作成した。
この未延伸シートを140℃で縦方向(機械軸方向)に3.1倍延伸し、続いてテンターに導いた後、横方向(機械軸方向と垂直な方向)に3.4倍延伸した。その際横方向の延伸速度は5000%/分とした。また、横方向の延伸の温度は、第1段階の温度を126℃、最終段階の温度を145℃とした。その後240℃で9秒間熱固定をし、さらに180℃まで冷却する間に横方向に4%弛緩処理をして、厚み3.0μmの高絶縁性フィルムを得てロール状に巻取った。得られた高絶縁性フィルムの特性を表1に示す。
【0092】
[実施例2、3、比較例1〜3]
重合体YとしてのPPEの含有量、酸化防止剤の含有量、および製膜条件を表1に示すとおりとする以外は、実施例1と同様にして厚み3.0μmの高絶縁性フィルムを得てロール状に巻取った。得られた高絶縁性フィルムの特性を表1に示す。なお、ポリスチレンの量を調整し、全体が100質量部となるようにした。
【0093】
【表1】

【0094】
実施例1〜3、および比較例1〜3により、重合体YとしてのPPE、酸化防止剤の有無、およびその含有量に係る知見を得ることができる。
重合体Y(PPE)、酸化防止剤の含有量が適正な実施例1、2で得られた高絶縁性フィルムは、延伸性および巻取り性が良好で、絶縁破壊電圧が高く、ハイブリッド自動車用などのコンデンサーの絶縁体として好適なものであった。
実施例3で得られた高絶縁性フィルムは、延伸性および巻取り性に若干劣るものであった。
また、比較例3は重合体Y(PPE)の含有量が多すぎ、それによってポリマーの海島構造が不安定になる為か、延伸性が悪く、製膜時にテンターなどでの破断が起き易く、カットシートサンプルは採取できるが、長尺ロールサンプルの採取は難しく、また厚み斑も悪く、得られた高絶縁性フィルムは、コンデンサーの絶縁体として使用に耐え得ないものであった。
【0095】
[実施例4]
重合体Yとして、280℃における溶融粘度150Pa・sec、ガラス転移温度Tg145℃のポリカーボネート30質量%を用い、製膜条件を表2に示すとおりとする以外は、実施例1と同様にして厚み3.0μmの高絶縁性フィルムを得てロール状に巻取った。得られた高絶縁性フィルムの特性を表2に示す。
【0096】
[実施例5]
酸化防止剤として、N,N’−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル〕ヒドラジン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製:商品名IRGANOX1024、融点210℃、熱分解温度275℃、C2)を用いる以外は、実施例1と同様にして厚み3.0μmの高絶縁性フィルムを得てロール状に巻取った。得られた高絶縁性フィルムの特性を表2に示す。
【0097】
[実施例6]
ポリスチレンを67.5質量部として、不活性微粒子Aとして、平均粒径0.5μm、相対標準偏差0.15、粒径比1.08の球状シリコーン樹脂粒子を0.5質量部(得られる高絶縁性フィルムの質量を基準として0.5質量%となる)とする以外は、実施例1と同様にして厚み3.0μmの高絶縁性フィルムを得てロール状に巻取った。得られた高絶縁性フィルムの特性を表2に示す。
【0098】
[実施例7〜9]
不活性微粒子Aとしての球状シリコーン樹脂粒子の平均粒径、相対標準偏差、粒径比、および含有量を表2に示すとおりとする以外は、実施例6と同様にして厚み3.0μmの高絶縁性フィルムを得てロール状に巻取った。得られた高絶縁性フィルムの特性を表2に示す。なお、ポリスチレンの量を調整し、全体が100質量部となるようにした。
【0099】
[実施例10]
ポリスチレンを67.4質量部として、不活性微粒子Aとして、平均粒径0.3μm、相対標準偏差0.17、粒径比1.10の球状シリコーン樹脂粒子を0.5質量部(得られる高絶縁性フィルムの質量を基準として0.5質量%となる)と、不活性微粒子Bとして、平均粒径0.5μm、相対標準偏差0.15、粒径比1.10の球状シリコーン樹脂粒子を0.1質量部(得られる高絶縁性フィルムの質量を基準として0.1質量%となる)とを配合した以外は、実施例1と同様にして厚み3.0μmの高絶縁性フィルムを得てロール状に巻取った。得られた高絶縁性フィルムの特性を表2に示す。
【0100】
[実施例11、12]
不活性微粒子Aとしての球状シリコーン樹脂粒子の平均粒径、相対標準偏差、粒径比、含有量、および不活性微粒子Bとしての球状シリコーン樹脂粒子の平均粒径、相対標準偏差、粒径比、含有量を表2に示すとおりとする以外は、実施例10と同様にして厚み3.0μmの高絶縁性フィルムを得てロール状に巻取った。得られた高絶縁性フィルムの特性を表2に示す。なお、ポリスチレンの量を調整し、全体が100質量部となるようにした。
【0101】
[実施例13]
不活性微粒子Aとして、平均粒径1.3μm、相対標準偏差0.14、粒径比1.10の球状シリコーン樹脂粒子を0.3質量部(得られる高絶縁性フィルムの質量を基準として0.3質量%となる)を用いる以外は、実施例1と同様にして厚み3.0μmの高絶縁性フィルムを得てロール状に巻取った。得られた高絶縁性フィルムの特性を表2に示す。
【0102】
実施例1、および実施例6〜13により、不活性微粒子Aおよび不活性微粒子Bの態様に係る知見を得ることができる。
含有する不活性微粒子の態様が適正な実施例1、6〜13で得られた高絶縁性フィルムは、いずれも延伸性および巻取り性が良好で、絶縁破壊電圧が高く、コンデンサーの絶縁体として好適なものであった。
【0103】
【表2】

【0104】
[コンデンサーの作成]
得られた高絶縁性フィルムを用いて、以下のようにコンデンサーを作成した。
まず、フィルムの片面にアルミニウムを500Åの厚みとなるように真空蒸着した。その際、8mm幅の蒸着部分と1mm幅の非蒸着部分との繰り返しからなる、縦方向のストライプ状に蒸着した。得られた蒸着フィルムを、蒸着部分と非蒸着部分のそれぞれ幅方向の中央部でスリットし、4mm幅の蒸着部分と0.5mm幅の非蒸着部分とからなる、4.5mm幅のテープ状に巻取りリールにした。次いで、2本のリールを、非蒸着部分がそれぞれ反対側の端面となるように重ね合わせ巻回し、巻回体を得た後、150℃、1MPaで5分間プレスした。プレス後の巻回体の両端面にメタリコンを溶射して外部電極とし、メタリコンにリード線を溶接して巻回型フィルムコンデンサーを作成した。
【0105】
実施例1〜13で得られた高絶縁性フィルムを用いたフィルムコンデンサーは、耐熱性、耐電圧特性(絶縁破壊電圧(BDV))に優れ、コンデンサーとして優れる性能を示すものであった。またコンデンサー作成時の加工性に優れるものであった。特に、実施例1で得られた高絶縁性フィルムを用いたフィルムコンデンサーは、特に耐電圧特性に優れ、コンデンサーとしてより優れる性能を示すものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シンジオタクチック構造のスチレン系重合体を主たる構成成分とする二軸延伸フィルムであって、平均粒径が0.05μm以上1.5μm以下、粒径の相対標準偏差が0.5以下の不活性微粒子Aを0.05質量%以上2.0質量%以下と、酸化防止剤を0.1質量%以上8質量%以下と、DSCによるガラス転移温度Tgが130℃以上である重合体Yを5質量%以上48質量%以下とを含有し、厚み方向の屈折率が1.5750以上1.6350以下である高絶縁性フィルム。
【請求項2】
重合体Yが、下記式で表わされるポリフェニレンエーテルである請求項1に記載の高絶縁性フィルム。
【化1】

【請求項3】
重合体Yと酸化防止剤の含有量比(重合体Yの含有量/酸化防止剤の含有量)が1〜100である請求項1または2に記載の高絶縁性フィルム。
【請求項4】
動的粘弾性測定により振動周波数10Hzで測定した損失弾性率(E’’)のピーク温度が120℃以上150℃以下であり、120℃、周波数1KHzにおける誘電正接(tanδ)が0.0015以下である請求項1〜3のいずれか1項に記載の高絶縁性フィルム。
【請求項5】
縦方向および横方向の200℃×10分の熱収縮率が6%以下である請求項1〜4のいずれか1項に記載の高絶縁性フィルム。
【請求項6】
120℃における絶縁破壊電圧(BDV)が350V/μm以上である請求項1〜5のいずれか1項に記載の高絶縁性フィルム。
【請求項7】
動的粘弾性測定により振動周波数10Hzで測定した、120℃における貯蔵弾性率(E’)が600MPa以上である請求項1〜6のいずれか1項に記載の高絶縁性フィルム。
【請求項8】
フィルム厚みが0.4μm以上6.5μm未満である請求項1〜7のいずれか1項に記載の高絶縁性フィルム。
【請求項9】
平均粒径が0.5μm以上3.0μm以下であって、該平均粒径は不活性微粒子Aの平均粒径よりも0.2μm以上大きく、粒径の相対標準偏差が0.5以下の不活性微粒子Bを0.01質量%以上1.5質量%以下含有する請求項1〜8のいずれか1項に記載の高絶縁性フィルム。
【請求項10】
不活性微粒子Aが、粒径比が1.0以上1.3以下の球状粒子である請求項1〜9のいずれか1項に記載の高絶縁性フィルム。
【請求項11】
不活性微粒子Aが球状高分子樹脂粒子である請求項10に記載の高絶縁性フィルム。
【請求項12】
不活性微粒子Aが球状シリコーン樹脂粒子である請求項10に記載の高絶縁性フィルム。
【請求項13】
不活性微粒子Bが、粒径比が1.0以上1.3以下の球状高分子樹脂粒子である請求項9〜12のいずれか1項に記載の高絶縁性フィルム。
【請求項14】
酸化防止剤の熱分解温度が250℃以上である請求項1〜13のいずれか1項に記載の高絶縁性フィルム。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか1項に記載の高絶縁性フィルムを用いたコンデンサー。

【公開番号】特開2011−111592(P2011−111592A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−271838(P2009−271838)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】