説明

高絶縁性フィルム

【課題】耐熱性が高く、絶縁破壊電圧が向上した高絶縁性フィルムの提供。
【解決手段】シンジオタクチック構造のスチレン系重合体を主たる構成成分とする二軸延伸フィルムからなり、DSCによるガラス転移温度Tgが130℃以上である熱可塑性非晶樹脂を5質量%以上48質量%以下を含有し、屈折率による面配向係数(ΔP)が−0.027以下である高絶縁性フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高絶縁性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
シンジオタクチックポリスチレン系樹脂組成物からなるフィルム(シンジオタクチックポリスチレン系フィルム)は、耐熱性、耐薬品性、耐熱水性、誘電特性、電気絶縁性等に優れたフィルムであり、様々な用途への使用が期待されている。特に、誘電特性に優れ、高い電気絶縁性と耐熱性を有するためにコンデンサーの絶縁体としての使用が期待されている(特許文献1、2)。そして、さらなる改良がなされ、例えば特許文献3には、フィルムの不純物を抑制して耐電圧を向上する技術が、特許文献4には、添加粒子等を調整してハンドリング性と耐磨耗性を向上する技術が、特許文献5および6には、フィルムの屈折率を調整して厚み斑を改善する技術が、それぞれコンデンサー用途に用いられるシンジオタクチックポリスチレン系フィルムの技術として開示されている。また、特許文献7には、酸化防止剤を添加して絶縁破壊電圧を向上する技術が開示されている。
【0003】
しかしながら、これら特許文献1〜6に開示されているシンジオタクチックポリスチレン系フィルムは、コンデンサーの絶縁体として使用されるものであるが、例えば、近年のハイブリッドカーに搭載されるコンデンサーのようなより高性能なコンデンサーにおいては、絶縁破壊電圧等の電気的特性および耐熱性により優れたフィルムが要求されており、性能が不十分な場合がある。また、特許文献7に開示されているシンジオタクチックポリスチレン系フィルムは、ハイブリッドカー等のコンデンサー用として好適に用いられるものであるが、さらなる耐熱性および絶縁破壊電圧の向上が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平1−182346号公報
【特許文献2】特開平1−316246号公報
【特許文献3】特開平3−124750号公報
【特許文献4】特開平6−80793号公報
【特許文献5】特開平7−156263号公報
【特許文献6】特開平8−283496号公報
【特許文献7】特開2009−235321号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上のような背景技術を鑑み、本発明は、耐熱性に優れ、絶縁破壊電圧が向上した高絶縁性フィルムを提供することを目的とする。
さらに、コンデンサーの静電容量を向上する、あるいはコンデンサーを小型化する目的において、絶縁体となるフィルムとしてはさらなる薄膜化が要求されているが、一般的には薄膜化に伴い取り扱い性が低下してしまう。そこで、薄膜化したとしても、フィルム製造工程における生産性を低下させない、また近年要求されているコンデンサーの製造速度に適応できる、取り扱い性により優れたフィルムが要求されている。
【0006】
そこで本発明は、さらに優れた電気的特性を有する高絶縁性フィルムを得ること、耐熱性を有し、高温においても優れた電気特性を有する高絶縁性フィルムを得ること、巻き取り性および加工性等の取り扱い性に優れた高絶縁性フィルムを得ることを、望ましい課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、シンジオタクチックポリスチレン系二軸延伸フィルムにおいて、特定の配向構造とし、さらにDSCによるガラス転移温度Tgが高い熱可塑性非晶樹脂を含有させることによって、耐熱性と絶縁破壊電圧が向上することを見出し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち本発明は、以下の構成(1)を採用するものである。
(1) シンジオタクチック構造のスチレン系重合体を主たる構成成分とする二軸延伸フィルムからなり、DSCによるガラス転移温度Tgが130℃以上である熱可塑性非晶樹脂Yを5質量%以上48質量%以下とを含有し、下記式(1)
ΔP=(Nx+Ny)/2−Nz (1)
(ここで、式(1)中の、Nxはフィルムの面方向における屈折率の最小値、Nyはフィルムの面方向におけるNxと直交する方向の屈折率、Nzはフィルムの厚み方向の屈折率を示す。)
で示される面配向係数(ΔP)が−0.027以下である高絶縁性フィルムが提供される。
【0009】
また、本発明は、その好ましい態様として、以下の構成(2)〜(7)を包含するものである。
(2) 酸化防止剤を、二軸延伸フィルムの質量に対して0.1質量%以上8質量%以下含有する上記(1)記載の高絶縁性フィルム。
(3) フィルムの面方向における屈折率の最小値(Nx)と、その方向に直交する方向の屈折率(Nx)との差の絶対値が0.025以下である上記(1)記載の高絶縁性フィルム。
(4) 二軸延伸フィルムが、その少なくとも片面に設けられた、表面の水接触角が85°以上、120°以下である塗布層を有する上記(1)記載の高絶縁性フィルム。
(5) 前記塗布層が、塗布層の質量を基準として41質量%以上、94質量%以下の、ワックス成分、シリコーン成分およびフッ素化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する上記(4)記載に記載の高絶縁性フィルム。
(6) 厚みが0.4μm以上6.5μm未満である上記(1)〜(5)のいずれかに記載の高絶縁性フィルム。
(7) 上記(1)〜(6)のいずれか記載の高絶縁性フィルムを用いたコンデンサー。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、耐熱性に優れ、絶縁破壊電圧が向上した高絶縁性フィルムを提供することができる。
また、本発明の好ましい態様によれば、電気的特性、耐熱性、取り扱い性に優れた高絶縁性フィルムを提供することができる。特に高い絶縁破壊電圧を有する高絶縁性フィルムを得ることができる。従って、本発明によって得られた高絶縁性フィルムはコンデンサーの絶縁体として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明で耐熱性評価のサンプルと装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の高絶縁性フィルムは、後述するスチレン系重合体を主たる構成成分とする二軸延伸フィルムであり、DSCによるガラス転移温度Tgが130℃以上である重合体Yを含有しており、特定の配向構造を有している。さらに、その少なくとも片面に設けられた、表面の水接触角が85°以上、120°以下である塗布層とを有していることが好ましい。ここで「主たる」とは、二軸延伸フィルムの質量を基準として50質量%を超える、好ましくは55質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上、特に好ましくは65質量%以上であることを示す。後述するスチレン系重合体の割合が下限未満では、延伸などの製膜性が損なわれる。また、本発明の二軸延伸フィルムは、後述する不活性微粒子、酸化防止剤を含有することが好ましい。以下、本発明の高絶縁性フィルムを構成する各構成成分について説明する。
【0013】
<スチレン系重合体>
本発明におけるスチレン系重合体は、シンジオタクチック構造のスチレン系重合体であり、すなわち炭素−炭素結合から形成される主鎖に対して、側鎖であるフェニル基や置換フェニル基が交互に反対方向に位置する立体構造を有するものである。一般にタクティシティーは、同位体炭素による核磁気共鳴法(13C−NMR法)により定量され、連続する複数個の構成単位の存在割合、例えば2個の場合はダイアッド、3個の場合はトリアッド、5個の場合はペンタッド等によって示すことができる。本発明においては、シンジオタクチック構造のスチレン系重合体とは、ラセミダイアッド(r)で75%以上、好ましくは85%以上、あるいはラセミペンタッド(rrrr)で30%以上、好ましくは50%以上のシンジオタクティシティーを有するポリスチレン、ポリ(アルキルスチレン)、ポリ(ハロゲン化スチレン)、ポリ(アルコキシスチレン)、ポリ(ビニル安息香酸エステル)、あるいはこれらのベンゼン環の一部が水素化された重合体やこれらの混合物、またはこれらの構造単位を含む共重合体を指称する。なお、ここでポリ(アルキルスチレン)としては、ポリ(メチルスチレン)、ポリ(エチルスチレン)、ポリ(プロピルスチレン)、ポリ(ブチルスチレン)、ポリ(フェニルスチレン)、ポリ(ビニルナフタレン)、ポリ(ビニルスチレン)、ポリ(アセナフチレン)等がある。また、ポリ(ハロゲン化スチレン)としては、ポリ(クロロスチレン)、ポリ(ブロモスチレン)、ポリ(フロオロスチレン)等がある。また、ポリ(アルコキシスチレン)としては、ポリ(メトキシスチレン)、ポリ(エトキシスチレン)等がある。これらのうち、特に好ましいスチレン系重合体としては、ポリスチレン、ポリ(p−メチルスチレン)、ポリ(m−メチルスチレン)、ポリ(p−t−ブチルスチレン)、ポリ(p−クロロスチレン)、ポリ(m−クロロスチレン)、ポリ(p−フルオロスチレン)、またスチレンとp−メチルスチレンとの共重合体が挙げられる。
【0014】
さらに、スチレン系重合体に共重合成分を含有させて共重合体として使用する場合においては、そのコモノマーとしては、上述の如きスチレン系重合体のモノマーのほか、エチレン、プロピレン、ブテン、ヘキセン、オクテン等のオレフィンモノマー、ブタジエン、イソプレン等のジエンモノマー、環状ジエンモノマーやメタクリル酸メチル、無水マレイン酸、アクリロニトリル等の極性ビニルモノマー等が挙げられる。
【0015】
スチレン系重合体の重量平均分子量は、好ましくは1.0×10以上3.0×10以下であり、さらに好ましくは5.0×10以上1.5×10以下であり、特に好ましくは1.1×10以上8.0×10以下である。重量平均分子量を1.0×10以上とすることで、強度特性および伸度特性に優れ、耐熱性がより向上したフィルムを得ることができる。また、重量平均分子量が3.0×10以下だと、延伸張力が好適な範囲となり、製膜時等において破断等が発生しにくくなる。
【0016】
このようなシンジオタクチック構造のスチレン系重合体の製造方法は、例えば特開昭62−187708号公報に開示されている。すなわち、不活性炭化水素溶媒中または溶媒の不存在下において、チタン化合物および水と有機アルミニウム化合物、特にトリアルキルアルミニウムとの縮合生成物を触媒として、スチレン系単量体(上記スチレン系重合体に対応する単量体)を重合することにより製造することができる。また、ポリ(ハロゲン化アルキルスチレン)については、特開平1−146912号公報に、水素化重合体は特開平1−178505号公報にそれぞれ開示されている。
【0017】
本発明におけるシンジオタクチック構造のスチレン系重合体には、必要に応じて公知の帯電防止剤等の添加剤を適量配合することができる。これらの配合量は、スチレン系重合体100質量部に対して10質量部以下が好ましい。10質量部を越えると、延伸時に破断を起こしやすくなり、生産安定性が不良となるので好ましくない。
このようなシンジオタクチック構造のスチレン系重合体は、従来のアタクチック構造のスチレン系重合体に比べて耐熱性が格段に優れている。
【0018】
<重合体Y>
本発明の高絶縁性フィルムは、二軸延伸フィルムが下記の熱可塑性非晶樹脂Yを含有する。
本発明における熱可塑性非晶樹脂Yは、DSC(示差走査熱量計)により求められるガラス転移温度Tgが130℃以上の重合体である。また、熱可塑性非晶樹脂Yは、前述のスチレン系重合体のガラス転移温度より高いTgを有することが好ましい。スチレン系重合体にこのような熱可塑性非晶樹脂Yを配合すると、混合体としてのガラス転移温度Tgが高くなるだけでなく、耐熱性が向上し、高温における絶縁破壊電圧が高くなる。また、高絶縁性フィルムの熱寸法安定性が良好となり、延伸性も向上させることができる。このような観点から、熱可塑性非晶樹脂Yのガラス転移温度Tgは、150℃以上であることが好ましく、180℃以上であることがさらに好ましく、200℃以上であることが特に好ましい。配合する熱可塑性非晶樹脂Yのガラス転移温度Tgが高いほど、熱寸法安定性等の上記効果の向上効果が大きくなる。溶融押出等を考慮すると、実質的な上限は好ましくは350℃、より好ましくは300℃である。
【0019】
このような熱可塑性非晶樹脂Yとしては、下記式(1)で表わされるポリフェニレンエーテル、ポリエーテルイミドなどの芳香族ポリエーテル、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド等を好ましく例示することができる。これらのうち延伸性を向上させやすく、また酸化防止剤と組合せたときに、相乗作用があるためか、耐熱性、寸法安定性だけでなく、絶縁破壊電圧もさらに向上することから、下記式(1)で表わされるポリフェニレンエーテルが特に好ましい。下記式(1)中のQおよびQは、それぞれメチル、エチル、プロピルなどの基が好ましく挙げられる。また、具体的な重合体の例としてはポリ−2,6−ジメチルー1,4−フェニレンエーテル、ポリ−2,6−ジエチル−1,4−フェニレンエーテル、ポリ−2,6−ジプロピル−1,4−フェニレンエーテル等が挙げられ、中でもポリ2,6−ジメチル−1.4−フェニレンエーテルまたは2,3,6−トリメチルフェニレンエーテル単位を共重合せしめたポリ−2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテルが好ましい。ポリフェニレンエーテルの製造法は特に制限されず、例えば米国特許第3.306.874号明細書、同第3.306.875号明細書、同第3.257.357号明細書および同第3.257.358号明細書などに記載された手順に従ってフェノール類の反応によって製造することができる。
【0020】
【化1】

【0021】
本発明の高絶縁性フィルムは、二軸延伸フィルムが、該二軸延伸フィルムの質量に対して上記の熱可塑性非晶樹脂Yを5質量%以上48質量%以下配合した樹脂組成物からなる。熱可塑性非晶樹脂Yを上記範囲の量配合することによって、耐熱性に優れ、また絶縁破壊電圧の向上効果を高くすることができ、すなわち高温における絶縁破壊電圧を高くすることができる。含有量が少なすぎる場合は、耐熱性が劣る傾向にあり、また絶縁破壊電圧の向上効果が低くなる傾向にあり、延伸性の向上効果も乏しくなる。このような観点から、熱可塑性非晶樹脂Yの含有量は、8質量%以上がより好ましく、11質量%以上がさらに好ましく、20質量%以上が特に好ましい。また、含有量が多すぎる場合は、シンジオタクチック構造のスチレン系重合体の結晶性が低下しやすくなる傾向にあり、フィルムの耐熱性が劣る傾向にある。このような観点から、熱可塑性非晶樹脂Yの含有量は、45質量%以下がより好ましく、40質量%以下がさらに好ましく、35質量%以下が特に好ましい。
【0022】
<酸化防止剤>
本発明の高絶縁性フィルムは、下記の酸化防止剤を含有することが好ましい。
本発明における酸化防止剤としては、生成したラジカルを捕捉して酸化を防止する一次酸化防止剤、あるいは生成したパーオキサイドを分解して酸化を防止する二次酸化防止剤のいずれであってもよい。一次酸化防止剤としてはフェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤が挙げられ、二次酸化防止剤としてはリン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤が挙げられる。
【0023】
フェノール系酸化防止剤の具体例としては、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、2−t−ブチル−4−メトキシフェノール、3−t−ブチル−4−メトキシフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−〔4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ〕フェノール、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート等のモノフェノール系酸化防止剤が挙げられる。また、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、N,N’−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル〕ヒドラジン、N、N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオンアミド]、3,9−ビス〔1,1−ジメチル−2−〔β−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ〕エチル〕−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン等のビスフェノール系酸化防止剤が挙げられる。また、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、ペンタエリスリトールテトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、ビス〔3,3’−ビス−(4’−ヒドロキシ−3’−t−ブチルフェニル)ブチリックアシッド〕グリコールエステル、1,3,5−トリス(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシベンジル)−sec−トリアジン−2,4,6−(1H,3H,5H)トリオン、d−α−トコフェノール等の高分子型フェノール系酸化防止剤が挙げられる。
【0024】
アミン系酸化防止剤の具体例としては、アルキル置換ジフェニルアミン等が挙げられる。
【0025】
リン系酸化防止剤の具体例としては、トリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、4,4’−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−t−ブチルフェニルジトリデシル)ホスファイト、オクタデシルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、ジイソデシルペンタエリスリトールジホスファイト、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド、10−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド、10−デシロキシ−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト等が挙げられる。
【0026】
硫黄系酸化防止剤の具体例としては、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3,3’−チオジプロピオネート、ジステアリル−3,3’−チオジプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、2−メルカプトベンズイミダゾール等が挙げられる。
【0027】
酸化防止剤は、特に耐腐食性により優れ、絶縁破壊電圧の向上効果をより高めることができるという観点から、一次酸化防止剤が好ましく、そのなかでもフェノール系酸化防止剤が特に好ましい。
【0028】
酸化防止剤は、その熱分解温度が250℃以上であることが好ましい。熱分解温度が高いと、高温における絶縁破壊電圧の向上効果が高くなる。熱分解温度が低すぎる場合は、溶融押出時に酸化防止剤自体が熱分解してしまい、工程を汚染してしまう、ポリマーが黄色く着色してしまう等の問題が生じやすくなる傾向にあり好ましくない。このような観点から、酸化防止剤の熱分解温度は、より好ましくは280℃以上、さらに好ましくは300℃以上、特に好ましくは320℃以上である。本発明における酸化防止剤は、熱分解しにくい方が好ましく、熱分解温度は高い方が好ましいが、現実的には、その上限は500℃以下程度である。
【0029】
また、酸化防止剤の融点は、90℃以上であることが好ましい。融点が低すぎる場合は、溶融押出時に酸化防止剤がポリマーより早く融解してしまい、押出機のスクリュー供給部分においてポリマーがスリップしてしまう傾向にある。それによって、ポリマーの供給が不安定となり、フィルムの厚み斑が悪くなる等の問題が生じる。このような観点から、酸化防止剤の融点は、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは150℃以上、特に好ましくは200℃以上である。他方、酸化防止剤の融点が高すぎる場合は、溶融押出時に酸化防止剤が融解しにくくなり、ポリマー内での分散が悪くなってしまう傾向にある。それにより、酸化防止剤の添加効果が局所的にしか発現しない等の問題が生じる。このような観点から、酸化防止剤の融点は、好ましくは300℃以下、より好ましくは250℃以下、さらに好ましくは220℃以下、特に好ましくは170℃以下である。
【0030】
以上のような酸化防止剤としては、市販品をそのまま用いることもできる。市販品としては、例えば、ペンタエリスリトールテトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製:商品名IRGANOX1010)、N,N’−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル〕ヒドラジン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製:商品名IRGANOX1024)、N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオンアミド〕(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製:商品名IRGANOX1098)等が好ましく挙げられる。
【0031】
酸化防止剤の含有量は、二軸延伸フィルムの質量を基準として0.1質量%以上8質量%以下が好ましい。酸化防止剤を上記数値範囲の含有量で含有することによって、絶縁破壊電圧の向上効果を高くすることができる。酸化防止剤の含有量が少なすぎる場合は、酸化防止剤の添加効果が十分でなく、絶縁破壊電圧の向上効果が低くなる傾向にある。このような観点から、酸化防止剤の含有量は、0.2質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上がさらに好ましく、1質量%以上が特に好ましい。他方、含有量が多すぎる場合は、二軸延伸フィルム中において酸化防止剤が凝集しやすくなる傾向にあり、酸化防止剤に起因する欠点が増加する傾向にあり、かかる欠点により絶縁破壊電圧の向上効果が低くなる。このような観点から、酸化防止剤の含有量は、7質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましく、3質量%以下が特に好ましい。
【0032】
酸化防止剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。2種類以上を併用する場合は、2種類以上の一次酸化防止剤を用いる態様でもよいし、2種類以上の二次酸化防止剤を用いる態様でもよいし、1種類以上の一次酸化防止剤と1種類以上の二次酸化防止剤を併用してもよい。例えば、一次酸化防止剤と二次酸化防止剤との2種類の酸化防止剤を併用することによって、一次酸化および二次酸化の両方の酸化を防止することが期待できる。本発明においては、中でも一次酸化防止剤を単独で用いる態様、あるいは2種類以上の一次酸化防止剤を用いる態様が、絶縁破壊電圧の向上効果をより高くすることができるという観点から好ましく、特にフェノール系酸化防止剤を単独で用いる態様、あるいは2種類以上のフェノール系酸化防止剤を用いる態様が好ましい。
【0033】
本発明の高絶縁性フィルムは、上述の熱可塑性非晶樹脂Yおよび酸化防止剤を、それぞれ上述のような態様で二軸延伸フィルムが含有することによって、特に優れた電気的特性(絶縁破壊電圧)と耐熱性とを得ることができ、すなわち高温における絶縁破壊電圧をより高くすることができる。
【0034】
また、熱可塑性非晶樹脂Yと酸化防止剤とを同時に含有する場合は、これらの含有量比(熱可塑性非晶樹脂Yの含有量/酸化防止剤の含有量)は、1〜100であることが好ましい。含有量比が上記数値範囲にあると、とりわけ絶縁破壊電圧および耐熱性に優れる。含有量比は、小さすぎても大きすぎても、電気的特性および耐熱性をさらに高くする効果が低くなる傾向にある。このような観点から、含有量比は、さらに好ましくは3〜50、特に好ましくは5〜30である。
【0035】
<不活性微粒子>
本発明の高絶縁性フィルムは、二軸延伸フィルムが平均粒径0.05μm以上3.0μm以下の不活性微粒子を、二軸延伸フィルムの質量を基準として、0.05〜3質量%の範囲で含有することが好ましい。
【0036】
具体的な不活性微粒子としては、二軸延伸フィルム中でマトリックス樹脂であるシンジオタクチックポリスチレンに対して安定なものであれば特に制限されず、それ自体公知のものを採用できる。具体的な不活性微粒子としては、シリコーン樹脂粒子、アクリル樹脂粒子、スチレン−アクリル樹脂粒子、ジビニルベンゼン−アクリル樹脂粒子、ポリエステル樹脂粒子、ポリイミド樹脂粒子、メラミン樹脂粒子等の高分子樹脂粒子、(1)二酸化ケイ素(水和物、ケイ砂、石英等を含む);(2)各種結晶形態のアルミナ;(3)SiO成分を30質量%以上含有するケイ酸塩(例えば非晶質もしくは結晶質の粘土鉱物、アルミノシリケート(焼成物や水和物を含む)、温石綿、ジルコン、フライアッシュ等);(4)Mg、Zn、Zr、およびTiの酸化物;(5)Ca、およびBaの硫酸塩;(6)Li、Ba、およびCaのリン酸塩(1水素塩や2水素塩を含む);(7)Li、Na、およびKの安息香酸塩;(8)Ca、Ba、Zn、およびMnのテレフタル酸塩;(9)Mg、Ca、Ba、Zn、Cd、Pb、Sr、Mn、Fe、Co、およびNiのチタン酸塩;(10)Ba、およびPbのクロム酸塩;(11)炭素(例えばカーボンブラック、グラファイト等);(12)ガラス(例えばガラス粉、ガラスビーズ等);(13)Ca、およびMgの炭酸塩;(14)ホタル石;(15)スピネル型酸化物等が等の無機微粒子が挙げられる。
【0037】
以下、好ましい不活性微粒子について、説明する。
(不活性微粒子A)
本発明の高絶縁性フィルムは、二軸延伸フィルムが平均粒径および粒径の相対標準偏差が特定の数値範囲にある不活性微粒子Aを含有することが好ましい。
不活性微粒子Aの平均粒径は、0.05μm以上1.5μm以下である。不活性微粒子Aの平均粒径を上記数値範囲とすることによって、高い絶縁破壊電圧を保ったまま、フィルムのエアー抜け性を良好なものとすることができ、巻き取り性に優れた高絶縁性フィルムを得ることができ、また、加工性にも優れたものを得ることができる。不活性微粒子Aの平均粒径が小さすぎる場合は、十分なエアー抜け性が得られなくなる傾向にあり、巻き取り性に劣るものとなり、また、加工性にも劣るものとなる。このような観点から、不活性微粒子Aの平均粒径は、好ましくは0.1μm以上、さらに好ましくは0.15μm以上、特に好ましくは0.2μm以上である。他方、平均粒径が大きすぎる場合は、フィルム中のボイドの大きさが増大する傾向にあり、絶縁破壊電圧の向上効果が低くなる。このような観点から、不活性微粒子Aの平均粒径は、好ましくは1.0μm以下、さらに好ましくは0.6μm以下、特に好ましくは0.5μm以下である。
【0038】
また、不活性微粒子Aは、その粒径の相対標準偏差が0.5以下である。粒径の相対標準偏差を上記数値範囲とすることによって、フィルム表面の突起の高さが均一となり、巻き取り性にさらに優れる。また、粗大粒子や粗大突起が少なくなり、絶縁破壊電圧の向上効果を高くすることができる。このような観点から、不活性微粒子Aの粒径の相対標準偏差は、好ましくは0.4以下、さらに好ましくは0.3以下、特に好ましくは0.2以下である。
【0039】
さらに、本発明における不活性微粒子Aは、粒径比が1.0以上1.3以下の球状粒子であることが好ましい。粒径比は、さらに好ましくは1.0以上1.2以下、特に好ましくは1.0以上1.1以下である。粒径比が上記数値範囲にあると、巻き取り性の向上効果および絶縁破壊電圧の向上効果をより高くすることができる。
【0040】
不活性微粒子Aの含有量は、二軸延伸フィルム100質量%中に、好ましくは0.05質量%以上2.0質量%以下である。不活性微粒子Aを上記数値範囲の量含有することによって、高い絶縁破壊電圧を保ったまま、フィルムの巻き取り性等の取り扱い性を良好なものとすることができ、加工性もよいものとすることができる。不活性微粒子Aの含有量が少なすぎる場合は、エアー抜け性に劣る傾向にあり、巻き取り性に劣るものとなる。このような観点から、不活性微粒子Aの含有量は、より好ましくは0.1質量%以上、さらに好ましくは0.1質量%以上、特に好ましくは0.1質量%以上である。他方、含有量が多すぎる場合は、フィルム表面が粗くなりすぎる傾向にあり、それによってフィルム表面の耐削れ性が悪化する傾向にあり、絶縁破壊電圧の向上効果が低くなる。また、特にコンデンサー用途においては、スペースファクターが増大する傾向にある。このような観点から、不活性微粒子Aの含有量は、より好ましくは1.0質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以下、特に好ましくは0.3質量%以下である。
【0041】
不活性微粒子Aは、有機系微粒子であってもよいし、無機系微粒子であってもよく、前述で例示したものが好ましく挙げられる。それらの有機系微粒子の中でも、滑り性および耐削れ性に優れるという観点から、シリコーン樹脂粒子、ポリスチレン樹脂粒子が特に好ましい。このような高分子樹脂粒子は、前述の通り球状であることが好ましく、すなわち球状高分子樹脂粒子が好ましい。このうち、滑り性および耐削れ性により優れるという観点から、球状シリコーン樹脂粒子、球状ポリスチレン樹脂粒子が特に好ましい。また、無機系微粒子の中では、滑り性および耐削れ性に優れるという観点から、炭酸カルシウム粒子、シリカ粒子が好ましく、シリカ粒子が特に好ましい。このような無機系微粒子は、前述の通り球状であることが好ましく、滑り性および耐削れ性により優れるという観点から、球状シリカ粒子が特に好ましい。
【0042】
不活性微粒子Aとして最も好ましいのは、球状シリコーン樹脂粒子である。不活性微粒子Aとして球状シリコーン樹脂粒子を用いた場合は、重合体Yとしてポリフェニレンエーテルを用いた際に、相乗効果によってとりわけ耐熱性の高いものとなる。
【0043】
<不活性微粒子B>
本発明の高絶縁性フィルムは、二軸延伸フィルムが、上記不活性微粒子Aの他に、平均粒径および粒径の相対標準偏差が特定の数値範囲にある不活性微粒子Bを含有することが好ましい。
【0044】
不活性微粒子Bの平均粒径は、0.5μm以上3.0μm以下である。不活性微粒子Bの平均粒径を上記数値範囲とすることによって、高い絶縁破壊電圧を保ったまま、適度な滑り性を得ることができ、巻き取り性の向上効果を高くすることができる。不活性微粒子Bの平均粒径が小さすぎる場合は、滑り性が低くなる傾向にあり、巻き取り性の向上効果が低くなる。このような観点から、不活性微粒子Bの平均粒径は、好ましくは0.7μm以上、さらに好ましくは1.0μm以上、特に好ましくは1.1μm以上である。他方、平均粒径が大きすぎる場合は、フィルム表面における突起の高さが高くなりすぎる傾向にあり、それにより滑り性が高くなりすぎ、巻き取り時に端面ズレを起こしやすくなる等、巻き取り性の向上効果が低くなる。さらに、耐削れ性が悪化する傾向にあり、絶縁破壊電圧の向上効果が低くなる。このような観点から、不活性微粒子Bの平均粒径は、好ましくは2.0μm以下、さらに好ましくは1.5μm以下、特に好ましくは1.3μm以下である。
【0045】
不活性微粒子Bの平均粒径は、不活性微粒子Aの平均粒径よりも0.2μm以上大きい。不活性微粒子Aの平均粒径と不活性微粒子Bの平均粒径との差を上記のような態様とすることによって、フィルム表面において不活性微粒子Bによる高突起(高さが比較的高い突起)が散在する態様となり、これによってフィルム間のエアー抜け性がより良好となる。同時に、不活性微粒子Aによる低突起が存在する態様となり、フィルム同士の滑り性がより良好となる。これらによって、フィルムをロール状に巻き取る際には、エアー抜け性と滑り性とのバランスが良く、高速で巻き上げても巻き姿の良好なフィルムロールを得ることができる等、巻き取り性の向上効果を高くすることができる。このような観点から、不活性微粒子Bの平均粒径は、不活性微粒子Aの平均粒径よりも0.4μm以上大きい態様が好ましく、0.6μm以上大きい態様がさらに好ましく、0.8μm以上大きい態様が特に好ましい。
【0046】
また、不活性微粒子Bは、前述の不活性微粒子Aと同様の観点から、その粒径の相対標準偏差が0.5以下である。不活性微粒子Bの粒径の相対標準偏差は、好ましくは0.4以下、さらに好ましくは0.3以下、特に好ましくは0.2以下である。
さらに、不活性微粒子Bは、前述の不活性微粒子Aと同様の観点から、粒径比が1.0以上1.3以下の球状粒子であることが好ましく、さらに好ましくは1.0以上1.2以下、特に好ましくは1.0以上1.1以下である。
【0047】
本発明の高絶縁性フィルムは、上記のような不活性微粒子Bを、二軸延伸フィルム100質量%中に、0.01質量%以上1.5質量%以下含有することが好ましい。不活性微粒子Bを上記数値範囲の量含有することによって、高い絶縁破壊電圧を保ったまま、フィルムの巻き取り性等取り扱い性の向上効果を高くすることができる。不活性微粒子Bの含有量が少なすぎる場合は、滑り性が低くなる傾向にあり、巻き取り性の向上効果が低くなる。このような観点から、不活性微粒子Bの含有量は、より好ましくは0.05質量%以上、さらに好ましくは0.1質量%以上、特に好ましくは0.2質量%以上である。他方、含有量が多すぎる場合は、フィルム中のボイドの頻度が増加する傾向にあり、絶縁破壊電圧の向上効果が低くなる。また、滑り性が高くなりすぎる傾向にあり、巻き取り時に端面ズレを起こしやすくなる等巻き取り性の向上効果が低くなる。このような観点から、不活性微粒子Bの含有量は、より好ましくは1.0質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以下、特に好ましくは0.4質量%以下である。
【0048】
不活性微粒子Bとしては、前述の不活性微粒子Aと同様の有機系微粒子および無機系微粒子を用いることができる。このうち、有機系微粒子が好ましく、滑り性および耐削れ性に優れるという観点から、球状シリコーン樹脂粒子、球状ポリスチレン樹脂粒子が好ましく、球状シリコーン樹脂粒子が特に好ましい。このような有機系微粒子は、前述の通り球状であることが好ましく、滑り性および耐削れ性により優れるという観点から、球状シリコーン樹脂粒子が特に好ましい。不活性微粒子Bとして球状シリコーン樹脂粒子を用いた場合は、重合体Yとしてポリフェニレンエーテルを用いた際に、相乗効果によってとりわけ耐熱性の高いものとなる。
【0049】
本発明で用いられる不活性微粒子Aおよび不活性微粒子Bは、最終的な二軸延伸フィルムに含有されていれば、含有させる方法に限定はない。例えば、溶融押出する任意の過程で添加する方法が挙げられる。また、これらの微粒子を効果的に分散させるため、分散剤、界面活性剤等を用いることができる。
【0050】
本発明においては、不活性微粒子Aおよび不活性微粒子Bの両方を用いる場合において、それぞれに球状シリコーン樹脂粒子を用いた態様を好ましく例示することができるが、そのような場合においても、各々の粒子の平均粒径が異なり、かつ各々の粒子における粒径の相対標準偏差が小さいため、粒径分布曲線においては、上記2種類の粒子は明瞭に区別することができる2つの粒径ピークを示し、すなわち不活性微粒子Aと不活性微粒子Bとを明瞭に区別することができる。なお、2つの粒径ピークがそれぞれ裾野の部分で重なって、谷部分を形成する場合は、谷部分において極小値を示す点を境界として、2つの粒径ピークに分解することとする。
【0051】
<不活性粒子C>
本発明の高絶縁性フィルムは、上記のとおり、不活性微粒子Aやさらに好ましくは不活性微粒子AとBとを含有させることが好ましい。一方、ボイドを抑制する観点から、不活性微粒子AやBに変えて、一次粒子の凝集体であって、平均粒径が0.05μm以上3μm以下で、細孔容積が0.05〜2.0ml/gである不活性粒子Cを含有させることも好ましい。もちろん、不活性粒子AやBと併用しても良い。不活性粒子Cの一次粒子の平均粒径は0.01〜0.1μmの範囲が好ましい。一次粒子の平均粒径が0.01μm未満ではスラリー段階で解砕により極微細粒子が生成し、これが凝集体を生成して好ましくない。また、一次粒子の平均粒径が上限を超えると、粒子の多孔質性が失われ、その結果、ポリエステルとの親和性が失われ、ボイドが生成しやすくなる。また、細孔容積は0.05〜2.0ml/g、好ましくは0.6〜1.8ml/gの範囲にあることが好ましい。細孔容積が下限未満では粒子の多孔質性が失われ好ましくない。一方、細孔容積が上限より大きいと解砕、凝集が起こりやすく、粒径の調整を行うことが困難になりやすい。本発明で用いる不活性微粒子Cの平均粒径(二次粒子径)は0.05μm以上3μm以下、さらに0.7〜2.7μm、特に1.0〜2.5μmの範囲にあることが好ましい。平均粒径(二次粒子径)が下限未満ではフィルムの滑り性が不十分になりやすく、他方平均粒径(二次粒子径)が上限を越えるとフィルムの表面が粗くなりすぎ、コンデンサとしたときの電気特性が低下しやすい。不活性粒子Cの含有量は、二軸延伸フィルムの質量を基準として、0.05〜3重量%、好ましくは0.1〜1重量%である。添加量が下限未満ではフィルムの滑り性が不十分である。また、添加量が上限を越えるとフィルムの表面が粗くなりすぎ、コンデンサとしたときの電気特性が低下しやすい。具体的な不活性粒子Cとしては、多孔質シリカ、アルミナ、酸化チタンなどが例示でき、特に多孔質シリカが好ましい。
【0052】
<その他の添加剤>
本発明の高絶縁性フィルムは、二軸延伸フィルムが前述のシンジオタクチック構造のスチレン系重合体と熱可塑性非晶樹脂Yとからなり、不活性微粒子や酸化防止剤を含有することが好ましいが、さらに成形性、力学物性、表面性等を改良するために、熱可塑性非晶樹脂Yとは異なる他の樹脂成分を含有することができる。
【0053】
含有することができる他の樹脂成分としては、例えばアタクチック構造のスチレン系重合体、アイソタクチック構造のスチレン系重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体等が、前記シンジオタクチック構造のスチレン系重合体と相溶しやすく、延伸用予備成形体を作成するときの結晶化の制御に有効で、その後の延伸性が向上し、延伸条件の制御が容易で、かつ力学物性に優れたフィルムを得ることができるため好ましく挙げられる。このうち、アタクチック構造および/またはアイソタクチック構造のスチレン系重合体を含有させる場合は、シンジオタクチック構造のスチレン系重合体と同様のモノマーからなるものが好ましい。また、これら相溶性樹脂成分の含有割合は、シンジオタクチック構造のスチレン系重合体100質量部に対して、好ましくは40質量部以下、さらに好ましくは20質量部以下、特に好ましくは10質量部以下とすれば良い。相溶性樹脂成分の含有割合が40質量部を超えると、シンジオタクチック構造のスチレン系重合体の長所である耐熱性の向上効果が低くなってしまう。
【0054】
また、含有する事ができる他の樹脂成分のうち、シンジオタクチック構造のスチレン系重合体に非相溶な樹脂としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリペンテン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ナイロン6やナイロン6,6等のポリアミド、ポリフェニレンスルフィド等のポリチオエーテル、ポリアクリレート、ポリスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、テフロン(登録商標)等のハロゲン化ビニル系重合体、ポリメタクリル酸メチル等のアクリル系重合体、ポリビニルアルコール等、前記相溶性の樹脂以外の樹脂が相当し、さらに前記相溶性の樹脂を含む架橋樹脂が挙げられる。これらの樹脂は、本発明のシンジオタクチック構造のスチレン系重合体と非相溶であるため、少量含有する場合は、シンジオタクチック構造のスチレン系重合体中に島状に分散させることができ、延伸後に程良い光沢を与えたり、表面の滑り性を改良したりするのに有効である。非相溶性樹脂成分の含有割合は、シンジオタクチック構造のスチレン系重合体100質量部に対して、好ましくは30質量部以下、さらに好ましくは20質量部以下、特に好ましくは10質量部以下である。また、製品として使用する温度が高い場合は、比較的耐熱性のある非相溶性樹脂成分を含有することが好ましい。
さらに、本発明の目的を阻害しない範囲で、帯電防止剤、着色剤、耐候剤等の添加剤を加えることができる。
【0055】
<塗布層>
本発明の高絶縁性フィルムは、その少なくとも片面に、表面の水接触角が85°以上、120°以下である塗布層を有することが好ましい。このような塗布層を有することにより、絶縁破壊電圧を高くすることができる。この理由は定かではないが、二軸延伸フィルムと電極の間に薄層の塗布層が存在することで、電荷集中を緩和でき、絶縁破壊電圧が向上するものと考えられる。また、さらに二軸延伸フィルムよりも表面エネルギーの小さい薄層である塗布層が存在すると、放電が発生しても、二軸延伸フィルムから塗布層が剥離し、誘電体である二軸延伸フィルムの破壊を防ぎ、結果的に絶縁破壊電圧が向上するものと考えられる。すなわち、本発明においては、塗布層表面の水接触角が上記数値範囲にあると、電圧印加して放電起こると同時に塗布層がフィルムから剥離し、かかる剥離した塗布層のみが破壊され、フィルムは破壊されず、結果的に絶縁破壊電圧が向上すると考えられる。
【0056】
そのため、塗布層の水接触角が低すぎると、放電が起こっても塗布層がフィルムから剥離し難く、剥離が不完全であるため塗布層の絶縁破壊に誘引されてフィルムの絶縁破壊が発生してしまい、塗布層による絶縁破壊電圧の向上効果が得られない。また、塗布層の水接触角が上記範囲にあることで、滑り性に優れて巻取性を向上させることができ、また、後述のせん断応力などで見た耐熱性を向上させることもできる。
【0057】
このような観点から、塗布層表面の水接触角は、86°以上が好ましく、88°以上がより好ましく、90°以上がさらに好ましく、95°以上が特に好ましい。他方、水接触角が高いと塗布層がフィルムから剥離しやすくなる傾向にあるため、放電が発生しても、容易に剥離した塗布層のみが破壊され、フィルムが絶縁破壊され難くなる。しかし、塗布層表面の水接触角が高くなりすぎると、コンデンサーとする際にその上に形成する金属層との接着性が低くなり、特に水接触角が120°を越えると金属層との接着性に劣り、コンデンサーとしての機能を発揮し難くなる傾向にある。このような観点から、塗布層表面の水接触角は、120°以下であることが必要であり、115°以下が好ましく、110°以下がより好ましく、105°以下がさらに好ましい。
【0058】
上記のような表面水接触角の値を達成するには、例えばワックス成分、シリコーン成分、フッ素成分等の、塗布層を形成後にその表面エネルギーを小さくすることができる成分を塗布層に含有すればよい。また、これらの含有量や、塗布層の厚みを調整することによっても、塗布層表面における水接触角は調整することができる。好ましくは、後述する成分を、後述する含有量で含有する態様である。なお、ワックス成分、シリコーン成分、フッ素成分の中では、ワックス成分とシリコーン成分が特に好ましい。
【0059】
本発明における塗布層は、上述した表面の水接触角が達成されれば特にその種類は限定されないが、ワックス成分、シリコーン成分およびフッ素成分からなる群より選ばれる少なくとも1種を、塗布層の質量に対して、41質量%以上、94質量%以下含有することが好ましい。ここでかかる含有量は、塗布層中におけるワックス成分、シリコーン成分およびフッ素成分の合計の含有量を示す。塗布層がこれら成分の少なくとも1種を上記含有量で含有することにより、塗布層の表面エネルギーを、フィルムの表面エネルギーよりも小さくすることが容易になり、上記の塗布層表面における水接触角の数値範囲をより容易に達成できるようになる。含有量が少なすぎる場合は、水接触角が高くなり難い傾向にある。このような観点から、上記成分の含有量は、51質量%以上がさらに好ましく、65質量%以上が特に好ましい。他方、含有量は、多いと接触角が高くなる傾向にあるため、塗布層の剥離という観点からは好ましい傾向にあるが、多すぎる場合は、均一な塗布層を形成することが困難となり、例えば塗布抜け等の塗布層の欠陥が生じやすくなったり、塗布層がフィルムから剥離しやすくなったりして、これらにより絶縁破壊電圧の向上効果が低くなる。また、コンデンサーを製造する際において、塗布層の離型性が高すぎて金属層が剥離しやすくなり、巻回などのコンデンサーへの加工時に容易に金属層が脱離してしまい、コンデンサーとして不良品が生じることがある。このような観点から、含有量は、90質量%以下がさらに好ましく、85質量%以下が特に好ましい。
【0060】
(ワックス成分)
ワックス成分として、ポリオレフィン系ワックス、エステル系ワックスなどの合成ワックスが挙げられ、また、カルナバワックス、キャンデリラワックス、ライスワックス等の天然ワックスが挙げられる。ポリオレフィン系ワックスとしては、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス等が挙げられる。また、エステル系ワックスとしては、例えば炭素数8個以上の脂肪族モノカルボン酸および多価アルコールからなるエステル系ワックス等が挙げられ、具体的には、ソルビタントリステアレート、ペンタエリスリットトリペヘネート、グリセリントリパルミテート、ポリオキシエチレンジステアレートが例示される。かかるワックスの中でも、ポリオレフィン系ワックスを用いることが、本発明が規定する接触角を満足しやすく好ましい、。特に好ましくは、ポリエチレンワックスである。
また、塗布層中で良好な分散性を示し、それにより絶縁破壊電圧の向上効果を高くできるという観点から、ワックスは水溶性または水分散性のものが好ましい。
【0061】
(シリコーン成分)
シリコーン成分としては、反応性基を有するシリコーン化合物から主に形成されてなるシリコーン組成物であることが好ましい。ここで「主に」とは、例えば、シリコーン成分中において70質量%以上、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上のことを示す。このような態様とすることにより、絶縁破壊電圧の向上効果を高くすることができる。反応性基を有しないシリコーン化合物は、シリコーン成分中に含んでいてもよいが、その含有量が多すぎる場合(例えば、シリコーン成分中において30質量%以上の場合)には、蒸着層の形成が難しくコンデンサーとしての評価ができなくなる。そのため、反応性基を有しないシリコーン化合物は、シリコーン成分中に、好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。
【0062】
上記、シリコーン化合物としては、好ましくは、メチル基が他のアルキル基やフェニル基等に置換されていてもよいポリジメチルシロキサンを挙げることができ、これを用いることにより絶縁破壊電圧の向上効果をより高くすることができる。また、好ましく有する反応性基としては、水素基、ビニル基(アリル基等のビニルアルキル基を含む。)、水酸基等が挙げられる。すなわち、反応性基を有するシリコーン化合物としては、これら反応性基を有するポリジメチルシロキサンが特に好ましい。かかる反応性基を有するポリジメチルシロキサンにおいては、反応性基は、分子中に2個以上有しており、ケイ素原子に直接結合しているのが通常である。そして、塗布層を形成する際にかかる熱等によって、好ましくは白金やパラジウム等の触媒を利用して、水素基とビニル基において付加反応が生じ、または水素基と水酸基において縮合反応が生じ、硬化反応が生じ、架橋構造を形成し、シリコーン組成物となる。
【0063】
シリコーン化合物は、種類の異なる反応性基を有するシリコーン化合物の混合体でもよい。かかるシリコーン化合物は分子量が1000〜500000であることが好ましい。1000未満であると塗膜凝集力が低下して塗布層の欠落が生じやすいことがあり、500000を超えると粘性が高くなりハンドリングしにくいことがある。
塗布層を形成するための塗液の取り扱い易さや、塗布層中で良好な分散性を示し、それにより絶縁破壊電圧の向上効果を高めるという観点から、シリコーン化合物、ポリジメチルシロキサンは、水溶性または水分散性であることが好ましい。
【0064】
また、本発明においては、上記シリコーン化合物は、シランカップリング剤を併用して用いられることが好ましい。かかるシランカップリング剤とは、ケイ素原子に直接結合した加水分解性基を有し、好ましくは後述する反応性基を有するシラン化合物である。反応性基を有するシラン化合物としては、ケイ素原子に直接結合した加水分解性基を有し、アミノ基を含む有機基、エポキシ基を含む有機基、カルボン酸基を含む有機基から選ばれる反応性基を1種以上含有するものを用いることが好ましい。加水分解性基としては、メトキシ基、エトキシ基のごとくアルコキシ基やハロゲン基のように、加水分解と反応によりシラノール基を生成する有機基である。
【0065】
例えば、かかるシラン化合物における反応性基の具体例としては、アミノ基を含む有機基としては、3−アミノプロピル基、3−アミノ−2−メチル−プロピル基、2−アミノエチル基といった1級アミノアルキル基、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピル基、N−(2−アミノエチル)−2−アミノエチル基といった1級および2級アミノ基を有する有機基を例示することができる。エポキシ基を含む有機基としては、γ−グリシドキシプロピル基、β−グリシドキシエチル基、γ−グリシドキシ−β−メチル−プロピル基といったグリシドキシアルキル基、2−グリシドキシカルボニル−エチル基、2−グリシドキシカルボニル−プロピル基といったグリシドキシカルボニルアルキル基を例示することができる。加水分解によりシラノール基を生成する有機基としては、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基、2−エチルヘキシロキシ基といったアルコキシ基、β−メトキシエトキシ基、β−エトキシエトキシ基、ブトキシ−β−エトキシ基といったアルコキシ−β−エトキシ基、アセトキシ基、プロポキシ基等のアシロキシ基、メチルアミノ基、エチルアミノ基、ブチルアミノ基といったN−アルキルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基といったN,N−ジアルキルアミノ基、イミダゾール基、ピロール基といった窒素を含有する複素環基を例示することができる。
【0066】
本発明における好ましいシランカップリング剤としては、加水分解性基として3つのメトキシ基を有し、反応性基をしてγ−グリシドキシプロピル基を有するもの、加水分解性基として3つのエトキシ基が結合し、反応性基をしてγ−グリシドキシプロピル基を有するものが挙げられる。このようなシランカップリング剤添加することにより、シリコーン化合物薄膜の架橋密度を上げることができる。塗布膜剛性があがると放電によるフィルムへの破壊がさらに抑制でき絶縁破壊特性が向上する。
【0067】
(フッ素成分)
フッ素成分としては、フルオロエチレン系モノマーを用いた重合体、フッ化アルキル(メタ)アクリレート系モノマーを用いた重合体などが挙げられる。フルオロエチレン系モノマーを用いた(共)重合体として、テトラフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、ジフルオロエチレン、モノフルオロエチレン、ジフルオロジクロロエチレン等の(共)重合体が挙げられる。
【0068】
(その他の添加剤)
塗布層は、その他、界面活性剤、架橋剤、滑剤などを含んでいてもよい。
界面活性剤は、フィルムへの、塗布層を形成するための塗液の濡れ性を高めたり、かかる塗液の安定性を向上させる目的で使用され、例えば、ポリオキシエチレン−脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、脂肪酸金属石鹸、アルキル硫酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩等のアニオン型、ノニオン型界面活性剤を挙げることができる。界面活性剤は、塗布層の質量を基準として1〜60質量%含まれていることが好ましい。
【0069】
また、架橋剤を添加することにより、塗布層の凝集力を向上させることができ好ましい。架橋剤として、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、メラミン化合物、イソシアネート化合物を例示することができ、その他のカップリング剤を用いることもできる。架橋剤の添加量は、塗布層の質量を基準として5〜30質量%であることが好ましい。
【0070】
さらに、本発明の塗布層には、得られる高絶縁性フィルムの取り扱い性をさらに向上させたり、フィルム同士のブロッキングを防止したりする等の目的で、塗布層を形成する成分に対して不活性な微粒子を添加することができる。かかる微粒子は、有機または無機の不活性微粒子が好ましく、例えば炭酸カルシウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、カオリン、酸化珪素、酸化亜鉛、シリカ粒子、架橋アクリル樹脂粒子、架橋ポリスチレン樹脂粒子、メラミン樹脂粒子、架橋シリコーン樹脂粒子等を例示することができる。
【0071】
塗布層の厚みは、乾燥後の厚みとして、好ましくは0.005〜0.5μm、より好ましくは0.005〜0.2μm、さらに好ましくは0.02〜0.1μmである。塗布層の厚みをこの範囲とすることによって、剥離して絶縁破壊される際に、より大きな電圧のエネルギーを消失されることができ、絶縁破壊電圧の向上効果を高めることができる。塗布層の厚みが下限値に満たない場合は、絶縁破壊電圧の向上効果が十分に発現しないことがある。また、塗布層の厚みが上限値を超える程度に厚くしても、さらなる絶縁破壊電圧の向上効果が得られないことがある。
【0072】
<金属層>
本発明の高絶縁性フィルムは、例えば少なくとも片面に金属層を積層することでコンデンサーとなる。金属層の材質については、特に制限はないが、例えばアルミニウム、亜鉛、ニッケル、クロム、錫、銅およびこれらの合金が挙げられる。さらにこれらの金属層は若干量酸化されていてもよい。また、金属層を簡便に形成できるため、金属層は蒸着法により形成された蒸着型金属層であることが好ましい。
【0073】
また、金属層を積層するにあたり、本発明の塗布層の面上にさらに金属層を設けることにより、基材層と金属層とが適度な接着力を有し、フィルムコンデンサー製造において巻回などの加工を施す場合には金属層の剥離がなく、コンデンサーとしての機能が発揮されるものとなる。さらに、同時に塗布層と金属層とが適度の接着性を有し、放電が起こっても、先に表面エネルギーの小さい塗布層がフィルムから剥離し、金属層と塗布層のみが破壊され、フィルムは破壊されず、それにより短絡状態にならず、絶縁破壊電圧の向上効果を高くすることができる。
【0074】
<フィルム特性>
(面配向係数(ΔP))
本発明の高絶縁性フィルムは、前記式(1)で示される二軸延伸フィルムの屈折率による面配向係数(ΔP)が−0.027以下である。なお、本発明の高絶縁性フィルムでは、面配向係数が負の値になればなるほど、フィルム面方向に分子鎖が配向された方向になり、驚くべきことに面配向係数(ΔP)を上限以下にしていくことで、後述のせん断応力で見た耐熱性を向上させることができる。このような観点から、面配向係数の上限は、−0.029以下が好ましく、−0.030以下がより好ましく、−0.032以下がさらに好ましく、−0.033以下が特に好ましい。
【0075】
一方、面配向係数(ΔP)の下限は特に制限されないが、フィルム製造工程、特に延伸工程におけるフィルム破断の頻度が増加する傾向にあり、フィルムの生産性が低下しやすくなる。このような観点から、面配向係数(ΔP)の下限は、好ましくは−0.045以上であり、−0.040以上がより好ましく、−0.039以上がさらに好ましく、−0.038以上が特に好ましい。
【0076】
上記のような面配向係数は、熱可塑性非晶樹脂Yを含有させ、後述するような製造方法を採用することによって達成される。すなわち、本発明において好ましい面配向係数は、フィルムの延伸倍率を後述する特定の数値範囲とし、かつ、該延伸工程において、一軸方向の延伸に次いで実施される該一軸方向と垂直な方向の延伸において、延伸の温度を複数段階に分け、この第1段階の温度と最終段階の温度とで特定の温度差をつけることで達成される。
【0077】
(厚み方向の屈折率)
本発明の高絶縁性フィルムは、二軸延伸フィルムの厚み方向の屈折率が1.580以上1.635以下であることが好ましい。厚み方向の屈折率を上記数値範囲とすることによって、より絶縁破壊電圧を高くすることができる。また、フィルム製造工程におけるフィルム破断の頻度が低下し、生産性を向上しやすくなる。このような観点から、厚み方向の屈折率は、好ましくは1.620以下、さらに好ましくは1.615以下、特に好ましくは1.610以下である。他方、厚み方向の屈折率が低すぎる場合は、絶縁破壊電圧が低くなる傾向にある。
【0078】
また、本発明の高絶縁性フィルムは、コンデンサーの製造工程におけるフィルム破断の頻度が増加し、コンデンサーの生産性が低下しやすくなる。さらに、フィルムの厚み斑が悪くなる傾向にあり、品質の安定したコンデンサーを得にくくなる。このような観点から、厚み方向の屈折率は、好ましくは1.590以上、さらに好ましくは1.595以上、特に好ましくは1.600以上である。
【0079】
上記のような厚み方向の屈折率は、熱可塑性非晶樹脂Yを含有させ、後述するような製造方法を採用することによって達成される。すなわち、本発明において好ましい厚み方向の屈折率は、フィルムの延伸倍率を後述する特定の数値範囲とし、かつ、該延伸工程において、一軸方向の延伸に次いで実施される該一軸方向と垂直な方向の延伸において、延伸の温度を複数段階に分け、この第1段階の温度と最終段階の温度とで特定の温度差をつけることで達成される。
【0080】
(複屈折率(ΔN))
本発明の高絶縁性フィルムは、フィルムの面方向における最小値の屈折率(Nx)と、該Nxの屈折率を示す方向に直交する方向の屈折率(Ny)との差の絶対値(△n)が、0.025以下が好ましい。△Nが0.25以下であることで、フィルムの面方向における物性がバランスし、収縮斑による細かい皺や平面性の悪化などを抑制でき、また耐熱性もより湖上させることができる。これらの観点から、ΔNは、0.020以下がより好ましく、0.018以下がさらに好ましく、0.015以下が特に好ましい。
【0081】
(フィルム厚み)
本発明の高絶縁性フィルムは、その厚みが0.4μm以上6.5μm未満であることが好ましい。さらに好ましくは0.4μm以上6.0μm未満であり、特に好ましくは0.5μm以上3.5μm未満である。フィルム厚みを上記数値範囲とすることによって、静電容量の高いコンデンサーを得ることができる。
【0082】
コンデンサーの絶縁体として用いられる高絶縁性フィルムは、厚みが薄い方がコンデンサーの静電容量が高くなり好ましいことは一般的によく知られている。しかしながら、実際にフィルム厚みを薄く(薄膜化)してゆくと、フィルムにしわが入りやすくなる、フィルムが破断しやすくなる等取り扱い性が低下する、添加した粒子が脱落しやすくなる、さらにそれにより絶縁破壊電圧が低くなる、フィルム厚みが薄くなることにより絶縁破壊電圧の絶対値が低くなる等の問題が生じるため、それらをバランスさせることが不可欠となる。本発明は、フィルム厚みを薄くしても上記の問題が生じることが無いように、熱可塑性非晶樹脂Yを含有させ、面配向係数を特定の範囲としたものであり、さらに好ましくは酸化防止剤、特定の粒子、および特定の塗布層を設けた新規の構成の高絶縁性フィルムを、後述する製造方法により得るものである。
【0083】
(フィルム厚み斑)
本発明の高絶縁性フィルムは、厚み斑が10%以下であることが好ましく、電気絶縁性の向上効果を高くできる。厚み斑が悪くなると電気絶縁性の面内バラツキが大きくなる傾向にあり、結果的に電気絶縁性、絶縁破壊電圧特性の向上効果が低くなる傾向にある。このような観点から、厚み斑は、好ましくは9%以下、より好ましくは6%以下、さらに好ましくは3%以下である。厚み斑の下限は小さいほど好ましく、理想的には厚み斑が0%であるが、実際には0.1%以上程度である。
厚み斑を上記数値範囲とするためには、延伸条件を後述した態様とすれば良い。とりわけ横延伸条件を上記した態様、すなわち複数の温度領域に分けて実施することが重要である。
【0084】
また、高絶縁性フィルムの厚み斑を良好に保つためには、二軸延伸フィルム内の含有物が劣化しにくいことも好ましく挙げることができる。これは、酸化防止剤や他の添加剤などの含有物が高温で劣化し易かったり、質量減量し易かったりする場合には、これら含有物の劣化物が溶融押出の際に押出ダイリップで析出、付着しやすくなり、これの影響によりフィルム上に筋状の凹凸欠点が発生しやすくなるためである。同様に、酸化防止剤等や他の添加剤などの含有物の含有量が多すぎる場合にも、それらが凝集し易くなり、押出ダイリップで析出、付着しやすくなり、厚み斑が悪くなる傾向にある。よって、上記厚み斑を達成するためには、酸化防止剤の熱分解温度や含有量を、本発明が規定する範囲とすればよい。
【0085】
(絶縁破壊電圧(BDV))
本発明の高絶縁性フィルムは、120℃における絶縁破壊電圧(BDV)が350V/μm以上であることが好ましい。絶縁破壊電圧が上記数値範囲にあるということは、高温においても優れた絶縁破壊電圧を有するということを表わす。かかる絶縁破壊電圧は、より好ましくは400V/μm以上、さらに好ましくは420V/μm以上である。上記のような絶縁破壊電圧を達成するためには、前述の特定の塗布層を設け、さらに好ましくは二軸延伸フィルムの配向の態様、フィルム中の熱可塑性非晶樹脂Yおよび酸化防止剤の態様を本発明が好ましく規定する態様とすればよい。また、不活性微粒子の態様を適宜調整することによっても、絶縁破壊電圧を調整することができる。また、熱可塑性非晶樹脂と酸化防止剤の含有量比(重合体Yの含有量/酸化防止剤の含有量)を本発明が好ましく規定する範囲とすることも効果的である。熱可塑性非晶樹脂Yや酸化防止剤の添加量を少なくすると、絶縁破壊電圧は低くなる傾向にある。また、不活性微粒子の含有量を多くすると、絶縁破壊電圧は低くなる傾向にある。さらに、本発明における塗布層の表面の接触角等を適宜調整することで、絶縁破壊電圧を向上させて、上記数値範囲を達成することもできる。
【0086】
また、本発明の高絶縁性フィルムは、23℃における絶縁破壊電圧が、好ましくは400V/μm以上、より好ましくは470V/μm以上、さらに好ましくは510V/μm以上であり、上記120℃における絶縁破壊電圧と同様な方法で達成することができる。
【0087】
(120℃における貯蔵弾性率(E’))
本発明の高絶縁性フィルムは、動的粘弾性測定により周波数10Hzで測定した120℃における貯蔵弾性率(E’)が600MPa以上であることが好ましい。120℃における貯蔵弾性率(E’)が上記数値範囲にあると、高温環境下におけるフィルムの機械特性に優れる。120℃における貯蔵弾性率が低すぎる場合は、高温で使用される際に機械特性(破断強度や破断伸度など)が低下する傾向にある。このような観点から、120℃における貯蔵弾性率は、650MPa以上がより好ましく、700MPa以上がさらに好ましく、750MPa以上が特に好ましい。上記のような貯蔵弾性率(E’)を達成するためには、熱可塑性非晶樹脂Yを採用し、その態様を本発明が好ましく規定する態様とすればよい。熱可塑性非晶樹脂Yの含有量を少なくすると、貯蔵弾性率(E’)は低くなる傾向にある。
【0088】
(150℃における貯蔵弾性率(E’))
本発明の高絶縁性フィルムは、動的粘弾性測定により周波数10Hzで測定した150℃における貯蔵弾性率(E’)が370MPa以上であることが好ましい。150℃における貯蔵弾性率(E’)が高い程、耐熱性に優れるといえる。これらの観点から、150℃における貯蔵弾性率(E’)は400MPa以上がより好ましく、430MPa以上がさらに好ましく、460MPa以上が特に好ましい。上記のような150℃における貯蔵弾性率(E’)を達成するためには、熱可塑性非晶樹脂Yを採用し、その態様を本発明が好ましく規定する態様とするとともに、延伸倍率を高くするなどして、面配向係数を前記範囲することが有効である。なお、熱可塑性非晶樹脂Yの含有量を少なくすると、貯蔵弾性率(E’)は低くなる傾向にある。
【0089】
(損失弾性率(E’’))
本発明の高絶縁性フィルムは、動的粘弾性測定により振動周波数10Hzで測定した損失弾性率(E’’)のピーク温度が120℃以上150℃以下であることが好ましい。損失弾性率(E’’)のピーク温度が適度に高いということは、高絶縁性フィルムを加熱した際に、分子運動が活発になり始める温度が適度に高いということである。そのため、フィルムとしての耐熱性が高くなる傾向にある。このような観点から、損失弾性率(E’’)のピーク温度は、125℃以上がより好ましく、130℃以上がさらに好ましく、135℃以上が特に好ましい。一方、損失弾性率(E’’)のピーク温度が高すぎるということは、分子運動が活発になり難いということも併せ持っており、延伸時の延伸応力が高くなるためか、二軸延伸製膜時に破断が起き易くなる。このような観点からは、損失弾性率(E’’)のピーク温度は、145℃以下がより好ましく、140℃以下がさらに好ましい。上記のような損失弾性率(E’’)のピーク温度を達成するためには、熱可塑性非晶樹脂Yを採用し、その含有量を適宜調整すればよい。より好ましくは、熱可塑性非晶樹脂Yの含有量を本発明が好ましく規定する範囲とすればよい。また、熱可塑性非晶樹脂Yと酸化防止剤の含有量比(重合体Yの含有量/酸化防止剤の含有量)を本発明が好ましく規定する範囲とすることも効果的である。例えば、熱可塑性非晶樹脂Yの含有量を増やすと、損失弾性率(E’’)のピーク温度は高くなる傾向にある。熱可塑性非晶樹脂Yの含有量が低すぎると損失弾性率(E’’)のピーク温度は低くなりすぎる傾向にあり、120℃に達し難くなる傾向にある。
【0090】
(誘電正接(tanδ))
本発明の高絶縁性フィルムは、120℃、周波数1kHzにおける誘電正接(tanδ)が0.0015以下であることが好ましい。120℃における誘電正接(tanδ)が大きい場合は、該フィルムが高温(例えば120℃)で長時間使用される場合、自己発熱してしまい、損傷が生じ易くなる傾向にある。このような観点から、120℃における誘電正接(tanδ)は、0.0012以下がより好ましく、0.0009以下がさらに好ましく、0.0006以下が特に好ましい。上記のような誘電正接(tanδ)を達成するためには、熱可塑性非晶樹脂Yを採用し、その含有量を適宜調整すればよい。より好ましくは、重合体Yの含有量を本発明が好ましく規定する範囲とすればよい。また、重合体Yと酸化防止剤の含有量比(重合体Yの含有量/酸化防止剤の含有量)を本発明が好ましく規定する範囲とすることも効果的である。例えば、重合体Yの含有量を減らすと、誘電正接(tanδ)は低くなる傾向にある。
【0091】
(熱収縮率)
本発明の高絶縁性フィルムは、縦方向(機械軸方向)および横方向(機械軸方向と厚み方向とに垂直な方向)の200℃×10分の熱収縮率の平均値が6%以下であることが好ましい。熱収縮率が上記数値範囲にあると、コンデンサーの加工時(蒸着など)において生じるブロッキングを抑制することができ、品質に優れたコンデンサーを得やすくなる。熱収縮率が大きくなりすぎると、コンデンサーの加工時(蒸着など)にブロッキングを起こし易くなり、良品が得られ難くなる傾向にある。このような観点から、200℃×10分の熱収縮率は、8%以下がより好ましく、4%以下がさらに好ましく、3%以下が特に好ましい。上記のような熱収縮率を達成するためには、熱固定温度を後述の範囲とすればよい。熱固定温度を高くすると、熱収縮率は低くなる傾向にある。また、熱固定時やその後の工程において熱弛緩処理を施すことによって、より効果的に上記熱収縮率の数値範囲を達成することができる。
【0092】
(表面粗さ)
本発明の高絶縁性フィルムは、その少なくとも片面にある塗布層の表面の中心線平均表面粗さRaが7nm以上89nm以下であることが好ましい。中心線平均表面粗さRaを上記数値範囲とすることによって、巻き取り性の向上効果を高くすることができる。また、耐ブロッキング性が向上し、ロールの外観を良好なものとすることができる。中心線平均表面粗さRaが低すぎる場合は、滑り性が低くなりすぎる傾向にあり、巻き取り性の向上効果が低くなる。このような観点から、中心線平均表面粗さRaは、好ましくは11nm以上、さらに好ましくは21nm以上、特に好ましくは31nm以上である。他方、中心線平均表面粗さRaが高すぎる場合は、滑り性が高くなりすぎる傾向にあり、巻き取り時に端面ズレを起こしやすくなる等巻き取り性の向上効果が低くなる。このような観点から、中心線平均表面粗さRaは、より好ましくは79nm以下、さらに好ましくは69nm以下、特に好ましくは59nm以下である。
【0093】
また、本発明の高絶縁性フィルムは、その少なくとも片面にある塗布層の表面の10点平均粗さRzが200nm以上以上3000nm以下であることが好ましい。10点平均粗さRzを上記数値範囲とすることによって、巻き取り性の向上効果を高くすることができる。10点平均粗さRzが低すぎる場合は、ロールとして巻き上げる際にエアー抜け性が低くなる傾向にあり、フィルムが横滑りしやすくなる等巻き取り性の向上効果が低くなる。特に、フィルム厚みが薄い場合は、フィルムの腰が無くなるため、エアー抜け性がさらに低くなる傾向にあり、巻き取り性の向上効果がさらに低くなる。このような観点から、10点平均粗さRzは、より好ましくは600nm以上、さらに好ましくは1000nm以上、特に好ましくは1250nm以上である。他方、10点平均粗さRzが高すぎる場合は、粗大突起が多くなる傾向にあり、絶縁破壊電圧の向上効果が低くなる。このような観点から、10点平均粗さRzは、より好ましくは2600nm以下、さらに好ましくは2250nm以下、特に好ましくは1950nm以下である。
上記のようなRaおよびRzは、本願が規定する不活性微粒子を採用することで達成することができる。
【0094】
<フィルムの製造方法>
本発明の高絶縁性フィルムは、一部の特別な製造方法を除けば、基本的には従来から知られている、あるいは当業界に蓄積されている方法で得ることができる。以下、本発明の高絶縁性フィルムを得るための製造方法について詳記する。
【0095】
先ず、シンジオタクチック構造のスチレン系重合体に、好ましくは不活性微粒子、重合体Y、および酸化防止剤を所定量配合した樹脂組成物を加熱溶融し、未延伸シートを作成する。具体的には樹脂組成物の融点(Tm、単位:℃)以上(Tm+50℃)以下の温度で加熱溶融し、シート状に押し出して、冷却固化して未延伸シートを得る。得られた未延伸シートの固有粘度は、0.35〜0.9dl/gの範囲であることが好ましい。次いで、この未延伸シートを二軸に延伸する。延伸は、縦方向(機械軸方向)および横方向(機械軸方向と厚み方向とに垂直な方向)を同時延伸してもよいし、任意の順序で逐次延伸してもよい。例えば逐次延伸の場合は、先ず一軸方向に(樹脂組成物のガラス転移温度(Tg、単位:℃)−10℃)以上(Tg+70℃)以下の温度で3.2倍以上5.8倍以下、好ましくは3.3倍以上5.4倍以下、さらに好ましくは3.4倍以上5.0倍以下の倍率で延伸し、次いで該一軸方向と直交する方向にTg以上(Tg+80℃)以下の温度で3.8倍以上5.9倍以下、好ましくは4.0倍以上5.5倍以下、より好ましくは4.1倍以上5.1倍以下、さらに好ましくは4.2倍以上4.9倍以下の倍率で延伸する。さらに、面積延伸倍率(=縦延伸倍率×横延伸倍率)としては、12.0倍以上である事が、前述の面配向係数を備えるフィルムを得るため好ましい。面積延伸倍率が低くなると、耐熱性が劣るようになり好ましくない。このことから、面積延伸倍率は13.0倍以上がより好ましく、13.5倍以上がさらに好ましく、14.0倍以上が特に好ましい。また、面積延伸倍率が高くなり過ぎると製膜・延伸時に破断が起き易くなり、望ましくない。、このような観点から、面積延伸倍率は、22倍以下が好ましく、20倍以下がより好ましく、18倍以下がさらに好ましく、17倍以下が特に好ましい。
【0096】
なお、本発明においては、後述のように、未延伸シート、かかる未延伸シートを、好ましくは縦方向に一軸延伸した一軸延伸フィルムに、塗布層を形成するための塗液を塗布することで、塗布層を形成することが好ましい。
なお、上記一軸方向と垂直な方向の延伸の際には、前段階の延伸で結晶化が進んでいるためか、延伸が難しくなり、製膜中に破断が起こりやすくなる。特にフィルム厚みが3μm程度の薄いフィルムを製膜する場合において、また特に延伸倍率が4.0倍以上の領域において破断が起こりやすくなる。
【0097】
この対策を検討したところ、上記一軸方向と垂直な方向の延伸において、その延伸速度を特定の数値範囲とすることが有効であることが判明した。すなわち、延伸速度が速すぎる場合は、延伸による分子の高次構造変化が、延伸によるフィルムの形状変化の速さに追随できなくなり、該高次構造に歪が生じやすくなるためか、フィルム破断が生じやすくなる。このような観点から、延伸速度は、好ましくは30000%/分以下、より好ましくは15000%/分以下、さらに好ましくは9000%/分以下、特に好ましくは6000%/分以下である。他方、延伸速度が遅すぎる場合は、延伸途中においてフィルムの結晶化が先行してしまい、延伸応力にバラツキが生じるためか、延伸斑や厚み斑が生じやすくなり、それにより破断が生じやすくなる。このような観点から、延伸速度は、好ましくは500%/分以上、より好ましくは1000%/分以上、さらに好ましくは2000%/分以上、特に好ましくは4000%/分以上である。
【0098】
また、破断を抑制するための他の有効な手段として、上記一軸方向と垂直な方向の延伸において、その延伸温度を一定とするのではなく、複数段階に分け、この第1段階の温度と最終段階の温度とで温度差をつけることが有効であることが判明した。かかる温度差は、最終段階の温度が第1段階の温度より4℃以上高いことが好ましく、7℃以上高いことがより好ましく、12℃以上高いことがさらに好ましく、15℃以上高いことが特に好ましい。また、温度差が大きすぎる場合は、フィルム破断が生じやすくなる傾向にある。また、延伸後のフィルムの厚み斑が悪くなる傾向にある。このような観点から、かかる温度差は、49℃以下が好ましく、39℃以下がより好ましく、29℃以下がさらに好ましく、20℃以下が特に好ましい。このように、第1段階と最終段階の温度差を上記数値範囲とすることで、またさらには3段階以上とすることで、フィルム厚みの薄いフィルムの製膜において従来困難であった高い延伸倍率、すなわち高い厚み方向の屈折率、低い面配向係数を達成することができる。また、これによって厚み斑が良好なフィルムを得ることができる。
【0099】
一軸方向と垂直な方向の延伸を実施する工程において、第1段階と最終段階との温度差をつけるには、1の延伸ゾーンの中でゾーンの入口(第1段階)と出口(最終段階)とで温度差をつけてもよいし、温度の異なる2以上の連続した延伸ゾーンを設けて最初の延伸ゾーン(第1段階)と最後の延伸ゾーン(最終段階)とで温度差をつけてもよい。ここでゾーンとは、テンター等においてシャッター等で区切られた1の領域を示す。いずれの場合も、第1段階と最終段階の間をさらに分割し、第1段階から最終段階に向かって温度を傾斜的に上昇させるのが好ましく、特に直線的に上昇させると良い。例えば、温度の異なる2以上の連続した延伸ゾーンによる場合は、最初の延伸ゾーンと最後の延伸ゾーンの間に、さらに1以上の延伸ゾーンを設けることが好ましく、12以上10以下の延伸ゾーンを設けることがさらに好ましい。延伸ゾーンの合計を11以上とすることは、設備コストの面から不利である。延伸は、例えばフィルムを幅方向に延伸する場合は、最終段階を出た直後のフィルム幅を、第1段階に入る直前のフィルム幅で除した値が目標の延伸倍率となるようにすればよく、傾斜的にフィルム幅を増加させることが好ましく、特に直線的に増加させると良い。縦方向と横方向を同時に延伸する場合においても、同様に延伸の温度を複数段階に分け、この第1段階の温度と最終段階の温度とで温度差をつけるようにする。
【0100】
本発明においては、本発明における好ましい厚み方向の屈折率 及び を達成するための手段として、これらの手段を好ましく例示することができる。さらに、これらの手段を採用すると、フィルム厚みを薄くしても破断が生じにくいため、これらの手段を本発明における好ましいフィルム厚みを達成するための好ましい手段として例示することができる。また、本発明においては、上記の延伸速度の態様および延伸温度の態様のうち、少なくともいずれか1つの態様を採用することが好ましいが、両方の態様を採用することがより好ましく、延伸工程が安定化し、本発明における好ましい屈折率および好ましいフィルム厚みを達成しやすくなる。
【0101】
次いで、(Tg+70℃)〜Tmの温度で熱固定する。熱固定の温度は200℃以上260℃以下であり、好ましくは225℃以上255℃以下であり、さらに好ましくは235℃以上250℃以下である。熱固定温度が高すぎる場合は、特にフィルム厚みの薄いフィルムを製造する際に、フィルム破断が生じやすくなり、また厚み斑が悪化してしまう。熱固定の後に必要に応じて熱固定温度より20℃〜90℃低い温度下で弛緩処理をすると、寸法安定性が良くなる。
【0102】
<塗布層の塗設、乾燥>
本発明において塗布層は、前記した塗布層を構成する各成分を配合して得られたた塗布層を形成するための塗液を、フィルムにおいて塗布層を形成したい表面に塗布し、乾燥し、必要に応じて硬化し、形成する。なお、かかる塗液は、適当な溶媒を用いて希釈し、濃度や粘度を調整することができる。かかる溶媒としては、水を用いることが、取り扱い易さの点で好ましいため、各成分は、水溶性または水分散性であることが好ましい。
【0103】
また、塗布層の形成は、フィルム製造中に形成するいわゆるインライン法であってもよいし、フィルム製造後に形成するいわゆるオフライン法であってもよい。生産性の観点、およびより強固な塗布層を得ることができるという観点から、インライン法を採用することが好ましい。インライン法においては、フィルム製造工程において、未延伸シートに塗布してもよいし、縦または横方向に一軸延伸した一軸延伸フィルムに塗布してもよいし、縦および横方向に二軸延伸した二軸延伸フィルム(配向結晶化が完了したものおよび完了していないものの両方を含む。)に塗布してもよいが、フィルムと塗布層の密着性の観点から、未延伸シートまたは一軸延伸フィルムに塗布することが好ましい。
【0104】
具体的には、同時二軸延伸の場合には、延伸前の未延伸シートへの塗液の塗布が好ましい。また、逐次二軸延伸の場合には、第一軸方向に延伸する前の段階において塗液を塗布してもよいし、第一軸方向の延伸の後であって、第二軸方向に延伸する前の段階において塗液を塗布してもよい。これらの内で、第一軸方向の延伸の後であって、第二軸方向に延伸する前の段階において塗液を塗布するのが、スクラッチ傷の発生を抑え易く、また延伸の後に結晶化を進める熱処理固定があり、塗布層の構造が安定化し易くなったりするため好ましい。
【0105】
また、塗液を塗布して得られた塗膜は、次の工程に入るまでの間にある程度乾燥されていることが好ましい。例えば、塗布後に延伸を行なう場合、塗膜の乾燥が不充分だと、延伸される際にフィルムに温度斑が起き易く、延伸に斑が出てしまいフィルムの厚み斑が悪くなり易くなる。
【0106】
塗膜の乾燥は、塗液の塗布後に独立して行ってもよいし、延伸工程の前段に乾燥工程を設けて、塗布工程から連続して行っても良く、また延伸工程における予熱工程を塗膜の乾燥工程として流用してもよい。乾燥温度は、下限は60℃以上、好ましくは70℃以上、さらに好ましくは80℃以上であり、上限は125℃以下が好ましく、115℃以下がより好ましく、105℃以下がさらに好ましく、乾燥時間は0.1分以上、10分以下が好ましい。乾燥温度が高すぎたり、乾燥時間が長すぎたりする場合には、延伸前にフィルムの結晶化が進んでしまい、延伸応力が高くなるなどして延伸性が低下し、延伸時の破断が多くなる傾向にあり、また乾燥温度が低すぎたり、乾燥時間が短すぎたりする場合には、塗液の乾燥が不充分となる傾向にあり、延伸工程においても、希釈溶媒が塗膜中に残存しており、その蒸発が生じ、延伸斑が起き易く、フィルム厚み斑が悪くなる傾向にある。
【0107】
これらについてさらに検討すると、乾燥時間よりも乾燥温度の方がより強く依存していることが判明し、結果、[乾燥温度(℃)×乾燥温度(℃)×乾燥時間(分)]の値が1000以上であることが好ましく、3000以上であることがより好ましく、8000以上であることがさらに好ましく、10万以下であることが好ましく、7万以下であることがより好ましく、3万以下であることがさらに好ましい事が判った。
【0108】
なお、ここで乾燥温度とは、塗膜の乾燥工程が延伸工程と離れて存在する場合には、乾燥工程における最初の温度と最後の温度との平均で表わし、延伸工程の前に、塗液の塗布と連続して乾燥工程がある場合には、乾燥工程の最初の温度と、乾燥工程の最後の部分の温度(延伸工程の最初の温度)との平均で表わすものとする。延伸工程前の予熱部分が乾燥工程となることもある。
【実施例】
【0109】
次に本発明を実施例および比較例によりさらに詳しく説明する。また、例中の各種特性値は下記の方法で測定、評価した。
【0110】
(1)粒子の平均粒径および粒径比
試料台上に、粉体を個々の粒子ができるだけ重ならないようにうに散在させ、金スパッター装置によりこの表面に金薄膜蒸着層を厚み200〜300Åで形成した。次いで、走査型電子顕微鏡を用いて1万〜3万倍で観察し、日本レギュレーター(株)製ルーゼックス500にて、少なくとも1000個の粒子についてその面積相当粒径(Di)、長径(Dli)および短径(Dsi)を求めた。
【0111】
また、粉体の相対標準偏差については、求められた各々の粒子の面積相当粒径(Di)および平均粒径(D)から、下記式により求めた。
【数1】

【0112】
(2)フィルムの表面粗さ(Ra)
非接触式三次元粗さ計(小坂研究所製、ET−30HK)を用いて波長780nmの半導体レーザー、ビーム径1.6μmの光触針で測定長(Lx)1mm、サンプリングピッチ2μm、カットオフ0.25mm、厚み方向拡大倍率1万倍、横方向拡大倍率200倍、走査線数100本(従って、Y方向の測定長Ly=0.2mm)の条件にて高絶縁性フィルムの塗布層の表面の突起プロファイルを測定する。その粗さ曲面をZ=f(x,y)で表わしたとき、次の式で得られる値をフィルムの中心線平均表面粗さ(Ra、単位:nm)とした。
【0113】
【数2】

【0114】
(3)熱収縮率
無張力の状態で200℃の雰囲気中10分におけるフィルムの熱収縮率(縦方向および横方向)(単位:%)を求め、それらの平均を平均熱収縮率とした。
【0115】
(4)屈折率
ナトリウムD線(589nm)を光源としたアッベ屈折計を用いて23℃65%RHにて、面方向に屈折率の最小の方向を求め、その屈折率を(Nx)とし、それと直交する方向の屈折率を(Ny)とし、さらに、厚み方向の屈折率(Nz)を測定した。そして、下記の式により、面配向係数(ΔP)を求めた。
ΔP=(Nx+Ny)/2−Nz
また、下記の式により、複屈折(ΔN)を測定した。
ΔN=Nx−Ny
【0116】
(5)絶縁破壊電圧(BDV)
JIS C 2151に示される平板電極法に従って測定した。23℃相対湿度50%の雰囲気にて、直流耐電圧試験機を用い、上部電極は直径25mmの真鍮製円柱、下部電極は直径75mmのアルミ製円柱を使用し、100V/秒の昇圧速度で昇圧し、フィルムが破壊し短絡した時の電圧(単位:V)を読み取った。得られた電圧をフィルム厚み(単位:μm)で除して、絶縁破壊電圧(単位:V/μm)とした。測定は41点実施し、大きい方の10点、および小さい方の10点を除き、残り21点の中央値を絶縁破壊電圧の測定値とした。
120℃での測定は、熱風オーブンに電極、サンプルをセットし、耐熱コードで電源に接続し、オーブン投入後1分で昇圧を開始して上記と同様にして測定した。
【0117】
(6)延伸性
二軸延伸フィルムを5万m製膜する間に破断の発生する回数により、以下の如く判断した。
延伸性◎ :5万mの製膜当り、破断が1回未満
延伸性○ :5万mの製膜当り、破断が1回〜2回未満
延伸性△ :5万mの製膜当り、破断が2回〜4回未満
延伸性× :5万mの製膜当り、破断が4回〜8回未満
延伸性××:5万mの製膜当り、破断が8回以上
【0118】
(7)巻き取り性
フィルムの製造工程において、フィルムを500mm幅で7000mのロール状に160m/分の速度で巻き上げ、得られたロールの巻き姿、およびロール端面における端面ズレを次のように格付けした。
[巻き姿]
A :ロールの表面にピンプルがなく、巻き姿が良好。
B :ロールの表面に1個以上4個未満のピンプル(突起状盛り上がり)があり、巻き姿はほぼ良好。
C :ロールの表面に4個以上10個未満のピンプル(突起状盛り上がり)があり、巻き姿はやや不良であるが、製品として使用できる。
D :ロールの表面に10個以上のピンプル(突起状盛り上がり)があり、巻き姿が悪く、製品として使用できない。
[端面ズレ]
◎ :ロール端面における端面ズレが0.5mm未満であり、良好。
○ :ロール端面における端面ズレが0.5mm以上1mm未満であり、ほぼ良好。
△ :ロール端面における端面ズレが1mm以上2mm未満であり、やや劣るものであるが製品として使用できる。
× :ロール端面における端面ズレが2mm以上であり、劣るものであり製品として使用できない。
××:ロール巻き上げ中に端面ズレが大きくなり、7000mのロールが作成できない。
【0119】
(8)熱分解温度
示差熱熱重量同時測定装置(セイコー電子工業社製:商品名TG/DTA220)を使用して、空気雰囲気下にて10℃/分の昇温速度で測定し、その温度/重量変化曲線より重量変化し始める温度を接線法により求め、熱分解温度(単位:℃)とした。
【0120】
(9)ガラス転移温度および融点
サンプル約20mgを測定用のアルミニウム製パンに封入して示差走査熱量計(DSC)(TA Instruments社製:商品名DSCQ100に装着し、室温(25℃)から20℃/分の速度で280℃まで昇温させて融点を測定し、その後サンプルを急冷してから再度20℃/分の速度で昇温してガラス転移温度(単位:℃)を測定した。
【0121】
(10)貯蔵弾性率(E’)、損失弾性率(E’’)、誘電正接(tanδ)
動的粘弾性測定装置(オリエンテック社製、DDV−01FP)を用い、25℃から230℃まで2℃/分の速度で昇温しながら振動周波数10Hzの条件で、フィルムサンプルの貯蔵弾性率(E’)(単位:MPa)、損失弾性率(E’’)(単位:MPa)を測定した。このとき、サンプル長は、測定方向4cm×幅方向3mm(チャック間3cm)とした。上記測定結果から、損失弾性率(E’’)のピーク温度(単位:℃)、および温度120℃での貯蔵弾性率、温度150℃での貯蔵弾性率(E’)(単位:MPa)を求めた。なお、フィルムの縦方向および横方向のそれぞれについて測定を実施し、それらの平均値を算出して求めた。
また、誘電正接(tanδ)は、安藤電気製誘電体損測定機(TR−10C)を用い、温度120℃、振動周波数1kHzの条件で測定して求めた。サンプルはJIS C 2151に従ってアルミ蒸着によって作成した。なお、フィルムの縦方向および横方向のそれぞれについて測定を実施し、それらの平均値を算出して求めた。
【0122】
(11)耐熱性(熱圧着後のせん断力)
せん断力は、図1に示す装置にて測定した。図1の上側の図面はサンプルと装置とを水平方向から見たときの図であり、下側の図は鉛直方向の上側からサンプルと装置とを見たときの図である。
図1中の1および2は製膜方向50mm、幅方向200mmに切った評価サンプル1と2であり、3は水平に置かれた50mm×50mmの正方形の熱板で、図1に示すようにサンプル1とサンプル2を設置した。このとき、サンプル1と2が片面にのみ塗布層を有する場合は、塗布層と熱板が接しないように設置し、その上に、設置するサンプル2は、サンプル1と異なる面が貼り合わされるように設置した。そして、さらにその上に平滑な紙4を設置した。そして、下部の熱板に温度125℃をかけて上部より圧着面積6.16平方cm(φ28mm)の端子5を鉛直方向に下げて、圧力1MPa、時間60秒でサンプルの熱圧着を行った。
その後、熱圧着されたフィルムの製膜方向の両端部を把持し、ロードセルを用いて引っ張り、熱圧着された部分が破壊される最大荷重を測定した。測定は5回行い、そのうちの最大値と最小値を除く中央の3つの値を平均し、それをせん断力(g)とした。せん断力が小さいほど耐熱性に優れるといえる。
【0123】
(12)水接触角
フィルムの塗布層表面において、(株)協和界面科学性接触角計(形式:CA−A)を用いて、5回測定を行い、その平均値をもって水接触角(°)とした。
なお、測定は、塗布層表面に5mmの高さから0.2mLの蒸留水をシリンジにてゆっくりと滴下し、30秒間放置後、その接触角(塗布層表面と液滴の接線が成す角)をCCDカメラで観察して測定した。そして、同様の操作を5回繰り返し、平均値を用いた。
【0124】
(13)フィルム厚みおよび厚み斑
フィルムの厚みを、縦方向および横方向に電子マイクロメーターを用いて0.5mの区間をそれぞれ均等に10点を測定して、平均厚み(単位:μm)を算出した。またかかる測定長のうち最高厚さ(単位:μm)と最低厚さ(単位:μm)との差の、平均厚み(単位:μm)に対する比(百分率)を求め、厚み斑(単位:%)として求めた。縦方向および横方向の厚み斑を測定値とした。
【0125】
(14)シンジオタクチックポリスチレンの重量平均分子量
フィルム1mgにHFIP:クロロホルム(1:1)0.5mlを加えて溶解(一晩)させ、測定直前にクロロホルムを9.5mlを加えて、メンブレンフィルター0.1μmでろ過しGPC分析を行った。測定機器、条件は以下の通りである。
GPC:HLC−8020 東ソー製
検出器:UV−8010 東ソー製
カラム:TSK−gelGMHHR・M×2 東ソー製
移動相:HPLC用クロロホルム
流速:1.0ml/min
カラム温度:40℃
検出器:UV(254nm)
注入量:200μl
較正曲線用試料:ポリスチレン(Polymer Laboratories製EasiCal“PS−1”)
【0126】
[参考例1](塗液1の調整)
塗液1の調整として、以下の離形成分、界面活性剤、および架橋剤を、表1に示す重量比で、固形成分の重量が5質量%となるように水に分散させ、エマルジョン水溶液を作成した。
・離型成分: ポリエチレンワックス(高松油脂株式会社製 商品名:U3、ポリエチレン系ワックスのエマルジョンであり、エマルジョン中のポリエチレン系ワックス量が、表1における離型成分の含有量となるように記載した。)
・界面活性剤: ポリオキシアルキレンアルキルエーテル(ライオン株式会社製 商品名L950)
・架橋剤: 炭酸ジルコニルアンモニウム
【0127】
[参考例2〜4](塗液2〜4の調整)
表1に示すとおり、ポリエチレンワックスの含有量を変更し、さらに下記組成のバインダー樹脂aを表1に示す含有量となるように変更したほかは、参考例1と同様な操作を繰り返した。
<バインダー樹脂a>:アクリル変性ポリエステル
・ポリエステル成分: テレフタル酸50モル%/イソフタル酸45モル%/5-ナトリウムスルホイソフタル酸5モル%//エチレングリコール75モル%/ジエチレングリコール25モル%
・アクリル成分: メチルメタクリレート90モル%/グリシジルメタクリレート10モル%
ポリエステル樹脂成分/アクリル樹脂成分の繰り返し単位のモル比=3/7
【0128】
[参考例5](塗液5の調整)
塗工液5の調整として、以下の離形成分、界面活性剤、および架橋剤を、固形成分の重量が5重量%となるように水に分散させ、エマルジョン水溶液を作成した。なお、シリコーン化合物については、予め界面活性剤と先に混合してから、塗工液に添加した。
・離型成分: カルボキシ変性シリコーン(信越化学工業株式会社製 商品名X22−3701E)
・界面活性剤: ポリオキシエチレン(n=8.5)ラウリルエーテル(三洋化成株式
会社製 商品名ナロアクティーN−85)
・架橋剤: オキサゾリン(株式会社日本触媒製 商品名エポクロスWS−300)
【0129】
【表1】

【0130】
表1中の塗液1〜5は、それぞれ参考例1〜5で作成したものであり、バインダー樹脂aは上記参考例2〜4のアクリル変性ポリエステルを意味する。
【0131】
[実施例1]
重量平均分子量3.0×10であり、13C−NMR測定でほぼ完全なシンジオタクチック構造であることが観察されるポリスチレン67.5質量部と、熱可塑性非晶樹脂Yとして、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテル(クロロホルム中で測定された固有粘度が0.32dl/g、ガラス転移温度が210℃)30質量部と、酸化防止剤(C1)として、ペンタエリスリトールテトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製:商品名IRGANOX1010、融点120℃、熱分解温度335℃)2質量部と、不活性微粒子Aとして、平均粒径0.3μm、相対標準偏差0.16、粒径比1.09の球状シリカ粒子を0.4質量部(得られる二軸延伸フィルム100質量%中に0.4質量%となる)と、不活性微粒子Bとして、平均粒径1.2μm、相対標準偏差0.15、粒径比1.10の球状シリコーン樹脂粒子を0.1質量部(得られる二軸延伸フィルム100質量%中に0.1質量%となる)とを配合し、樹脂組成物を得た。
得られた樹脂組成物を120℃で7時間乾燥し、次いで押出機に供給し、300℃で溶融し、ダイスリットから押出し後、50℃に冷却されたキャスティングドラム上で冷却固化し、未延伸シートを作成した。
【0132】
この未延伸シートを140℃で縦方向(機械軸方向)に3.5倍延伸し、次いで縦延伸後フィルムの一方の面に表1に記載の成分を含有する塗液1(5質量%水分散性塗液)を、最終的に得られる塗布層としての厚みが40nmとなるように塗布し、続いてテンターに導いた後、予熱開始部分の温度95℃、予熱終了部分の温度(延伸開始部分の温度)1126℃の工程で9秒間塗液を乾燥しつつ予熱し、続いて、横方向(機械軸方向と厚み方向とに垂直な方向)に4.5倍延伸した。その際、延伸部分を等分の4ゾーンに別け、横方向の延伸速度は5000%/分とした。また、横方向の延伸の温度も、等分の4段階に別け、第1段階の温度を126℃、最終段階の温度を145℃とした。その後250℃で9秒間熱固定をし、さらに180℃まで冷却する間に横方向に2%弛緩処理(トーイン)をして、厚み3.0μmの二軸延伸フィルムを得てロール状に巻き取った。得られたフィルムの特性を表2に示す。
【0133】
[実施例2〜6および比較例1,2]
フィルム製膜(延伸倍率)の条件を、表2の如く変更した事以外は、実施例1と同様にして、得られたフィルムの特性を表2に示した。フィルム製膜で延伸倍率の高いものは、耐熱性が良いが、延伸倍率が低くなると、高温(150℃)における貯蔵弾性率(E‘)低くなり、コンデンサへの加工段階での耐熱性に対応している高温での熱圧着後のせん断力が高くなってしまい、耐熱性が悪くなった。
【0134】
[実施例7、8、比較例3、4]
表2に示す通り、ポリスチレン、熱可塑性非晶樹脂Yの混合割合を変更したこと、製膜の延伸条件を変更した事以外は、実施例1と同様にした。得られたフィルムの特性を表2に示した。
熱可塑性非晶樹脂Yの量が少ない場合、高温(150℃)における貯蔵弾性率(E‘)低くなり、高温での熱圧着後のせん断力が高くなってしまい、コンデンサへの加工段階での耐熱性が悪くなった。また、熱可塑性非晶樹脂Yの量が多くなり過ぎると、混合物の構成が不安定になるためか、延伸性が悪くなり、ロール状のフィルムが得られ難くなる。
【0135】
[実施例9]
表2に示す通り、熱可塑性非晶樹脂YをビスフェノールA型ポリカーボネート(出光石油化学製 出光ポリカーボネートA300、ガラス転移温度が145℃)に変更したこと以外は、実施例2と同様にした。得られたフィルムの特性を表2に示した。
【0136】
[実施例10,11]
表2に示す通り、酸化防止剤の含有量を変更したこと以外は、実施例1と同様にした。得られたフィルムの特性を表2に示した。
【0137】
[実施例12]
酸化防止剤(C1)を、酸化防止剤(C2):オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製:商品名IRGANOX1076、融点52℃、熱分解温度230℃)に変更したこと以外は、実施例1と同様にした。得られたフィルムの特性を表2に示した。
【0138】
[実施例13]
塗布層を形成しない事以外は、実施例1と同様にして、得られたフィルムの特性を表2に示した。絶縁破壊電圧はやや低くなるものの、高温(150℃)における貯蔵弾性率(E’)は高く、耐熱性は良好であった。
【0139】
[実施例14〜17]
塗液を表2に示すとおり変更した以外は、実施例1と同様にして、得られたフィルムの特性を表2に示した。
【0140】
【表2】

【0141】
なお、表2中の、PPE、PC、C1、C2は、以下の通りである。
PPE:ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテル(クロロホルム中で測定された固有粘度が0.32dl/g、ガラス転移温度が210℃)
PC:ビスフェノールA型ポリカーボネート(出光石油化学製 出光ポリカーボネートA300、ガラス転移温度が145℃)
C1:ペンタエリスリトールテトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製:商品名IRGANOX1010、融点120℃、熱分解温度335℃)
C3:オクタデシルー3-(3,5-ジーt-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製:商品名IRGANOX1076、融点52℃、熱分解温度230℃)
【0142】
[コンデンサーの作成]
また、得られた高絶縁性フィルムを用いて、以下のようにコンデンサーを作成した。
まず、高絶縁性フィルムの片面(塗布層の表面)にアルミニウムを500Åの厚みとなるように真空蒸着した。その際、8mm幅の蒸着部分と1mm幅の非蒸着部分との繰り返しからなる、縦方向のストライプ状に蒸着した。得られた蒸着フィルムを、蒸着部分と非蒸着部分のそれぞれ幅方向の中央部でスリットし、4mm幅の蒸着部分と0.5mm幅の非蒸着部分とからなる、4.5mm幅のテープ状に巻き取りリールにした。次いで、2本のリールを、非蒸着部分がそれぞれ反対側の端面となるように重ね合わせ巻回し、巻回体を得た後、150℃、1MPaで5分間プレスした。プレス後の巻回体の両端面にメタリコンを溶射して外部電極とし、メタリコンにリード線を溶接して巻回型フィルムコンデンサーを作成した。
【0143】
本発明の実施例1〜17で得られたフィルムを用いたフィルムコンデンサーは、耐熱性、耐電圧特性(絶縁破壊電圧(BDV))に優れ、コンデンサーとして優れる性能を示すものであった。
【産業上の利用可能性】
【0144】
本発明の高絶縁性フィルムは、コンデンサーの絶縁体として好適に用いることができる。特に、ハイブリッドカー等に搭載される、比較的高温環境下に晒されるコンデンサーの絶縁体として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0145】
1:サンプル1
2:サンプル2
3:熱板
4:紙
5:フィードブロック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シンジオタクチック構造のスチレン系重合体を主たる構成成分とする二軸延伸フィルムからなり、DSCによるガラス転移温度Tgが130℃以上である熱可塑性非晶樹脂Yを5質量%以上48質量%以下とを含有し、下記式(1)で示される面配向係数(ΔP)が−0.027以下であることを特徴とする高絶縁性フィルム。
ΔP=(Nx+Ny)/2−Nz (1)
(ここで、式(1)中の、Nxはフィルムの面方向における屈折率の最小値、Nyはフィルムの面方向におけるNxと直交する方向の屈折率、Nzはフィルムの厚み方向の屈折率を示す。)
【請求項2】
酸化防止剤を、二軸延伸フィルムの質量に対して0.1質量%以上8質量%以下含有する請求項1記載の高絶縁性フィルム。
【請求項3】
フィルムの面方向における屈折率の最小値(Nx)と、その方向に直交する方向の屈折率(Nx)との差の絶対値が0.025以下である請求項1記載の高絶縁性フィルム。
【請求項4】
二軸延伸フィルムが、その少なくとも片面に設けられた、表面の水接触角が85°以上、120°以下である塗布層を有する請求項1記載の高絶縁性フィルム。
【請求項5】
前記塗布層が、塗布層の質量を基準として41質量%以上、94質量%以下の、ワックス成分、シリコーン成分およびフッ素化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する請求項4に記載の高絶縁性フィルム。
【請求項6】
厚みが0.4μm以上6.5μm未満である請求項1〜5のいずれか1項に記載の高絶縁性フィルム。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の高絶縁性フィルムを用いたコンデンサー。

【図1】
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【公開番号】特開2012−246372(P2012−246372A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−118085(P2011−118085)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】