説明

高耐久性アクリル系エマルジョン

【課題】造膜助剤が低減でき、耐ブロッキング性、耐候性、耐クラック性に優れた塗膜を形成し得る高耐久アクリル系エマルジョン提供すること。
【解決手段】コア部がガラス転移温度(Tg)50℃以上のアクリル系重合体、シェル部がガラス転移温度(Tg)40℃以下のアクリル系重合体からなる異相構造であることを特徴とするシリコーン変性アクリル系エマルジョン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は造膜助剤が低減でき、塗膜の耐ブロッキング性、耐候性、耐クラック性に優れた塗料やコーティング用途等に用いられるアクリル系エマルジョンに関する。(ブロッキングとは、塗料を金属、木材、紙、プラスチック、無機建材等の各種基材に塗装後、保護シートを介して基材を積み重ねた際に、基材の保護シートと塗膜が接着する現象をさす。)
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題の観点から水性塗料の使用が多くなっており、アクリル系エマルジョン(以下、単にエマルジョンと略す)は、塗料やコーティング用途に広く用いられている。特に外壁材、屋根材等の基材のトップコートとして用いられる塗料に対しては、高いレベルの耐ブロッキング性が要求される。
一般に塗膜の耐ブロッキング性は、重合体のガラス転移温度(Tg)が大いに関係し、Tgが高いほど優れた耐ブロッキング性を示す。しかしながら、Tgが高い重合体から得られる塗膜は、一般に柔軟性に劣り、クラックが発生しやすいという問題がある。更には、造膜(皮膜形成)は、ポリマー粒子の融合により行われるため、Tgが高いものは造膜助剤を多量に使用して造膜させなければならない。したがって、環境に対する影響も懸念される上、塗膜の乾燥が不十分な場合には、残存する造膜助剤の影響で耐ブロッキング性が悪くなる問題点があった。
一方、Tgが低い重合体から得られる塗膜は、一般に柔軟性が高く、優れた耐クラック性を示すが、形成された塗膜は乾燥後も粘着性が残り、耐ブロッキング性が悪くなる問題がある。耐ブロッキング性が悪いと、塗膜の破損や光沢の変化が生じ、塗装本来の目的である被覆物の保護や美観を向上させるという目的が達成されないため、工場塗装用等に用いられる塗料(エマルジョン)には耐ブロッキング性が必要になる。
また耐ブロッキング性が要求される塗料は、基材の最表面に塗装されるのが一般的であり、優れた耐久性、即ち耐候性及び耐クラック性に優れることが重要である。特に家屋の外壁に塗装される塗料については、20〜30年という長期に渡って太陽光エネルギーや雨等にさらされ、塗膜の艶の低下、変色、ふくれ、ひび割れ等が生じることがあり、外観の維持及び建材の保護が可能な高耐久性塗料が望まれている。
前述の問題に対して、様々な検討がなされている。特許文献1に示すように、コア部に高いTg成分の単量体を用い、シェル部に低いTg成分の単量体を使用したハードコア/ソフトシェルタイプのエマルジョンが提案され、一般にトレードオフの関係にある耐ブロッキング性と耐クラック性の問題を解決することができるようになった。しかしながら、特許文献1にはシリコーン変性剤の使用量に関する記載が無く、また実施例に記載されているシリコーン変性量では、長期に渡る塗膜の耐候性の維持という点では不十分である。
特許文献2には造膜助剤の使用が低減でき、塗膜の耐ブロッキング性に優れるエマルジョンに関する記載があるが、シリコーンによる複合化がなされていないため、塗膜の耐候性が劣る。また特許文献3には、塗膜が優れた耐候性を示すエマルジョンに関する記載があるが、Tgが50℃以上の重合体の割合が低いため、耐ブロッキング性が劣る。
【特許文献1】特開2008−38115号公報
【特許文献2】特開2001−164178号公報
【特許文献3】特開2008−38116号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、造膜助剤が低減でき、耐ブロッキング性、耐候性、耐クラック性、に優れた塗膜を形成し得る高耐久アクリル系エマルジョンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、上記のような問題点を解決するために鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明の第1は、シリコーン変性剤〔A〕の存在下で、重合性単量体を多段乳化重合することにより得られるアクリル系エマルジョンであって、該アクリル系エマルジョンの中心部分(コア)は、ガラス転移温度(Tg)50℃以上のアクリル系重合体からなり、該アクリル系エマルジョンの最も外側に位置する部分(シェル)はガラス転移温度(Tg)40℃以下のアクリル系重合体からなる異相構造からなり、該シリコーン変性剤〔A〕が下記式(1):
【化1】


((n.m)は(1.0)又は(1.1)の組であり、式中n=1およびm=0のとき、Rはフェニル基またはシクロヘキシル基であり、各Rはそれぞれ、独立して、炭素数1〜8のアルコキシ基、アセトキシ基、または水酸基であるか、または式中n=1およびm=1のときRはフェニル基またはシクロヘキシル基であり、Rは水素原子、炭素数1〜16の脂肪族炭化水素基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数5〜6のシクロアルキル基、炭素数1〜10のアクリル酸アルキル基、または炭素数1〜10のメタクリル酸アルキル基であり、各Rはそれぞれ、独立して炭素数1〜8のアルコキシ基、アセトキシ基、または水酸基である)で表されるシリコーン構造を有するシラン[1]からなる群より選ばれる少なくとも一種を含み、
下記式(2):
CH−Si−(R ・・・(2)
(式中Rはそれぞれ、独立して炭素数1〜8のアルコキシ基、アセトキシ基、または水酸基である)で表されるシリコーン構造を有するシラン[2]からなる群より選ばれる少なくとも一種を含み、
下記式(3):
(CH−Si−(R ・・・(3)
(式中Rはそれぞれ、独立して炭素数1〜8のアルコキシ基、アセトキシ基、または水酸基である)で表されるシリコーン構造を有するシラン[3]からなる群より選ばれる少なくとも一種及び/又は環状シランを含むことを特徴とするアクリル系エマルジョンである。
発明の第2は、該アクリル系エマルジョンを得るために使用する重合性単量体の合計100質量部に対して、前記シラン[1]〜[3]が下記の割合で表される量を用いて得られることを特徴とする請求項1に記載のアクリル系エマルジョン。
シラン[1]:1〜80質量部
シラン[2]:1〜120質量部
シラン[3]:1〜120質量部
発明の第3は、スルフォコハク酸系乳化剤を含むことを特徴とする発明の第1〜2のいずれかに記載のアクリル系エマルジョンである。
発明の第4は、該アクリル系エマルジョンに含まれるすべてのアクリル系重合体の合計質量に対して、コア部を構成するガラス転移温度(Tg)50℃以上のアクリル系重合体の質量が40%以上70%以下であることを特徴とする発明の第1〜3のいずれかに記載のアクリル系エマルジョンである。
発明の第5は、該アクリル系エマルジョンのコア部のアクリル系重合体を得るために使用する重合性単量体の60%以上がメタクリル酸メチルであることを特徴とする発明の第1〜4のいずれかに記載のアクリル系エマルジョンである。
発明の第6は、該アクリル系エマルジョンを得るために使用する重合性単量体の合計質量に対して、カルボキシル基含有重合性単量体の割合が0.1〜20質量%であることを特徴とする発明の第1〜5のいずれかに記載のアクリル系エマルジョンである。
発明の第7は、該乳化重合中のpHが4以下で製造することを特徴とする発明の第1〜6のいずれかに記載のアクリル系エマルジョンである。
【発明の効果】
【0005】
本発明のアクリル系エマルジョンにより得られる塗膜は、耐ブロッキング性、耐候性、耐クラック性に優れるため、高耐久性塗料の原料として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明について、以下に具体的に説明する。本発明のアクリル系エマルジョン(以下、単にエマルジョンと略す)は、通常の多段乳化重合法によって得られる。乳化重合の方法に関しては特に制限はなく、従来公知の方法を用いることができる。すなわち、水性媒体中で重合性単量体、乳化剤、ラジカル重合開始剤および必要に応じて用いられる他の添加剤成分などを基本組成成分とする分散系において、通常60〜90℃の加温下にて単量体成分の乳化重合を行い、この工程を少なくとも2回以上繰り返す方法である。重合系内への単量体組成物の供給方法としては、単量体を一括して仕込む単量体一括仕込み法や、単量体を連続的に滴下する単量体滴下法、単量体と水と乳化剤とを予め混合乳化しておき、これらを滴下するプレエマルジョン法、あるいはこれらを組み合わせる方法などが挙げられる。
またシリコーン変性剤〔A〕の使用方法としては、加水分解性シランの縮合反応と重合性単量体のラジカル重合を同時におよび/または加水分解性シランの縮合反応を先行させた後に不飽和単量体のラジカル重合を進行させる乳化重合方法または重合性単量体のラジカル重合を進行させた後に加水分解性シランの縮合反応を進行させる方法などが用いられる。
本発明のエマルジョンにおけるコア部とシェル部の定義は、異相構造粒子が3相以上(3種類以上の重合体)で構成されている場合、中心に位置する重合体をコア部とし、その他の2相以上の部分をシェル部と定義する。シェル部が2相以上で構成されている場合のTgは平均値を用いることとする。
本発明におけるエマルジョンは、ガラス転移温度(Tg)が異なる複数の重合性単量体成分の個々が重合する過程で一体化してなるエマルジョンである。特に耐ブロッキング性と造膜性のバランスを良くするためには、コア部がTg50℃以上のアクリル系重合体、シェル部がTg40℃以下のアクリル系重合体であることが好ましい。更に好ましくは、コア部のTgが70℃以上、シェル部のTgが20℃以下であることが好ましい。
またコア部の重合体の比率が高いほど、耐ブロッキング性に優れる塗膜が得られることから、40質量%以上であることが好ましい。ただし、コア部の重合体の比率を高めるにつれ、造膜温度が上昇するため、70質量%以下であることが好ましい。
ここで、本発明において示される重合体のTgは、実験的にまたは計算により得られる。実験的には、重合体の動的粘弾性測定や示差走査熱量分析(DSC)を行うことにより測定できる。計算では、通常知られているFoxの式:1/Tg=W1/Tg1 +W2 /Tg2 +・・・+Wn /Tgn(W1、W2、・・・、Wnは各重合性単量体の質量分率、Tg1、Tg2、・・・、Tgn は各重合性単量体のホモポリマーTg(K:絶対温度))により求めることができる。このとき、計算に使用するホモポリマーのTgは、例えばポリマーハンドブック(John Willey & Sons)に記載されている。なお、実施例及び比較例で用いた各重合性単量体のホモポリマーTgを表1に記載する。
【0007】
本発明において、シリコーン変性剤〔A〕は高耐候性能及び高耐久性能を付与するために使用する。シリコーン変性剤〔A〕は、下記式(1):
【化2】


((n.m)は(1.0)又は(1.1)の組であり、式中n=1およびm=0のとき、Rはフェニル基またはシクロヘキシル基であり、各Rはそれぞれ、独立して、炭素数1〜8のアルコキシ基、アセトキシ基、または水酸基であるか、または式中n=1およびm=1のときRはフェニル基またはシクロヘキシル基であり、Rは水素原子、炭素数1〜16の脂肪族炭化水素基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数5〜6のシクロアルキル基、炭素数1〜10のアクリル酸アルキル基、または炭素数1〜10のメタクリル酸アルキル基であり、各Rはそれぞれ、独立して炭素数1〜8のアルコキシ基、アセトキシ基、または水酸基である)で表されるシリコーン構造を有するシラン[1]からなる群より選ばれる少なくとも一種を含む。
本発明で用いる上記シラン[1]の使用量が少ない場合にはアクリル系エマルジョンを造膜して得られる塗膜中における、その加水分解縮合物の分散性が悪くなり、耐候性の低下を招く。また多い場合には、塗膜の柔軟性を低下させることから、乳化重合に用いるアクリル系重合性単量体100質量部に対して、好ましくは1質量部以上80質量部以下、更に好ましくは2質量部以上60質量部以下である。
上記シラン[1]の好ましい具体例としては、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、シクロヘキシルトリメトシキシシラン、ジシクロヘキシルジメトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、ジシクロヘキシルジエトキシシランなどがあり、またこれらの二種以上を含んでいてもよい。
またシリコーン変性剤〔A〕は、上記式(1)のシリコーン構造を有するシラン[1]からなる群より選ばれる少なくとも一種を含み、下記式(2):
CH−Si−(R ・・・(2)
(式中Rはそれぞれ、独立して炭素数1〜8のアルコキシ基、アセトキシ基、または水酸基である)で表されるシリコーン構造を有するシラン[2]からなる群より選ばれる少なくとも一種を含むことが、シリコーン構造の架橋密度を付与するために好ましい。使用量としては、1質量部以上120質量部以下であることが好ましく、更には2質量部以上100質量部以下であることが好ましい。
上記シラン[2]の好ましい具体例としては、メチルトリメトシキシシラン、メチルトリエトキシシランなどがあり、またこれらの二種以上を含んでいてもよい。
【0008】
またシリコーン変性剤〔A〕は、上記式(1)のシリコーン構造を有するシラン[1]からなる群より選ばれる少なくとも一種を含み、
下記式(3):
(CH−Si−(R ・・・(3)
(式中Rはそれぞれ、独立して炭素数1〜8のアルコキシ基、アセトキシ基、または水酸基である)で表されるシリコーン構造を有するシラン[3]からなる群より選ばれる少なくとも一種〕及び/又は環状シランを含むことが好ましい。
これは、上記シラン[3]及び/又は環状シランを用いることにより、該シリコーン変性剤〔A〕が形成するシリコーン重合体の架橋密度を低くし、重合体の構造が複雑になるのを防ぐことができ、これによって、高耐久性エマルションから提供される塗膜に可撓性を付与することができるためである。使用量としては、1質量部以上120質量部以下であることが好ましく、更には2質量部以上100質量部以下であることが好ましい。
上記シラン[3]の好ましい具体例としては、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン等が挙げられる。また環状シランとしては、オクタメチルシクロテトラシロキサン、オクタフェニルシクロシロキサン、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、テトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサンなども用いることができ、これらの二種以上を含んでいてもよい。
シリコーン変性剤〔A〕は、上記したシラン[1]から選ばれる少なくとも1種の化合物に加え、上記シラン[2]及び/又は上記シラン[3]から選ばれる化合物に加え、更にイソブチルトリメトキシシラン、ビニルエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシランなどを含むことができる。
本発明は、シリコーン変性剤〔A〕を用いることによって、高耐久性エマルションより得られる塗膜の屋外などの長期曝露における光沢保持性を改善し、優れた耐候性を示す塗膜を得ることができる。
【0009】
上記したシラン縮合物の存在は、29SiNMR(29Si核磁気共鳴スペクトル)またはHNMR(プロトン核磁気共鳴スペクトル)によって知ることができる。例えば、シラン[2]の縮合物は、29SiNMRのケミカルシフトが−40〜−80PPMにピークを示すことで同定することができる。また、シラン[3]あるいは環状シランの縮合物は29SiNMRのケミカルシフトが−16〜−26PPMにピークを示すことで同定することができる。
【0010】
本発明に用いられるカルボキシル基含有重合性単量体の具体例としては、例えば、モノカルボン酸としてはアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸のハーフエステル、マレイン酸のハーフエステル、フマール酸のハーフエステルなどが挙げられ、ジカルボン酸としてはイタコン酸、マレイン酸、フマール酸等が挙げられる。好ましくはアクリル酸、メタクリル酸である。これらカルボキシル基含有重合性単量体は、シリコーン変性剤〔A〕の加水分解反応および縮合反応を促進させる触媒としても作用する。乳化重合に用いるすべての重合性単量体の合計量に対して、0.1〜20質量%の範囲で用いることが好ましい。
【0011】
本発明に用いられる前記カルボキシル基含有重合性単量体以外の重合性単量体の具体例としては、(メタ)アクリル酸エステル単量体、芳香族単量体、ヒドロキシル基含有単量体、アミド基含有単量体、エポキシ基含有単量体などが挙げられる。(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、ベンジルアクリレート、フェニルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルアクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、フェニルメタクリレート等が挙げられる。好ましくは、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、メチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレートである。芳香族単量体としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレンなどが挙げられる。好ましくはスチレンである。ヒドロキシル基含有単量体としては、例えば、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ポリエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート等が挙げられる。好ましくはヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレートである。アミド基含有単量体としては、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N−メチレンビスアクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド、ダイアセトンメタクリルアミド、マレイン酸アミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N−メトキシメチルアクリルアミド、N−メトキシメチルメタクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミド、N−ブトキシメチルメタクリルアミド等を挙げることができる。好ましくはアクリルアミド、メタクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミドである。エポキシ基含有単量体としては、例えば、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル、メチルグリシジルアクリレート、メチルグリシジルメタクリレートなどが挙げられる。好ましくはグリシジルメタクリレートである。また、これらの単量体に加えて、本発明のアクリル系水性エマルジョンに要求される様々な品質・物性を改良するために、前記以外の単量体成分をさらに使用することもできる。それらの単量体としては、上記の単量体と共重合可能なその他の重合性単量体が使用できる。例えば、アミノ基、スルホン酸基、リン酸基などの官能基を有する各種の単量体、さらには酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、ビニルピロリドン、メチルビニルケトン、ブタジエン、エチレン、プロピレン、塩化ビニル、塩化ビニリデンなども所望に応じて使用できる。
特には、異相構造粒子のコア部の重合体の製造にもちいる重合性単量体として、メタクリル酸メチルがそのホモポリマーTgが高く、比較的安価で、また耐候性にも優れることから好ましい。その使用量としては、60質量%以上である場合、得られる重合体のTgが高くなり、優れた耐ブロッキング性が得られることから好ましい。
【0012】
本発明に用いられる乳化剤としては、特に限定はなく、例えばアニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、カチオン性乳化剤、両性乳化剤、高分子乳化剤等を使用することができる。例えば、ラウリル硫酸ナトリウムなどの脂肪酸塩や、高級アルコール硫酸エステル塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸塩、ポリオキシノニルフェニルエーテルスルホン酸塩、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレングリコールエーテル硫酸塩、スルホン酸基又は硫酸エステル基と重合性の不飽和二重結合を分子中に有する、いわゆる反応性乳化剤などのアニオン性乳化剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテルや、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマー、又は前述の骨格と重合性の不飽和二重結合を分子中に有する反応性ノニオン性乳化剤などのノニオン性乳化剤;アルキルアミン塩や、第四級アンモニウム塩などのカチオン性乳化剤;(変性)ポリビニルアルコールなどが挙げられる。これらの乳化剤は、単独で用いても良いし、数種類を組み合わせて用いても良い。また高度な耐水性を達成するためには、反応性乳化剤を用いることが好ましい。
【0013】
また本発明には、上記乳化剤に加えて、下記式(4)で示されるスルフォコハク酸系乳化剤を併せて用いると、重合安定性が高まり、乳化重合時に発生する前記シラン[1]由来の凝集物の発生を大幅に低減することができるため、好ましい。
【化3】


{式中、R,Rは同一でも、異なっていてもよく、水素、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルケニル基、炭素数5〜12のシクロアルキル基、炭素数5〜10のアリール基、炭素数6〜19アラルキル基等の炭化水素基、またはその一部が水酸基、カルボン酸基などで置換されたもの、もしくはポリオキシアルキレンアルキルエーテル基(アルキル部分の炭素数が2〜4、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル基(アルキル部分の炭素数が0〜20、およびアルキレン部分の炭素数が2〜4)などのアルキレンオキサイド化合物を含む有機基またはアルカリ金属、アンモニウム、有機アミン塩基または有機第四級アンモニウム塩基であり、Mはアルカリ金属、アンモニウム、有機アミン塩基または有機第四級アンモニウム塩基を示す。)
【0014】
本発明において、前記式(4)で表されるものとして、例えばラジカル重合性二重結合を有さないスルフォコハク酸系乳化剤として、スルフォコハク酸ジオクチルナトリウム{花王(株)製ペレックス(商標)OT−P、または三井サイテック(株)製エアロゾル(商標)OT−75など}、スルフォコハク酸ジヘキシルナトリウム{三井サイテック(株)製エアロゾル(商標)MA−80など}、三井サイテック(株)製エアロゾル(商標)TR−70、A−196−85、AY−100、IB−45、A−102、A−103、501などがある。ラジカル重合性二重結合を有するスルフォコハク酸系乳化剤として、三洋化成(株)製エレミノール(商標)JS−20、花王(株)製ラテムル(商標)S−120、S−180、S−180Aなどがある。
【0015】
本発明に用いる重合開始剤としては、一般に用いられるラジカル重合開始剤である。ラジカル重合開始剤は、熱又は還元性物質等によってラジカルを生成して重合性単量体の付加重合を起こさせるもので、水溶性又は油溶性の過硫酸塩、過酸化物、アゾビス化合物がある。具体的には過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素、t−ブチルハイドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、2,2−アゾビスイソブチロニトリル、2,2−アゾビス(2−ジアミノプロパン)ハイドロクロライド、2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等があり、好ましくは水溶性のものである。なお、重合速度の促進や低温反応を望む場合には、重亜硫酸ナトリウム、塩化第一鉄、アスコルビン酸、ホルムアルデヒドスルホオキシレート塩等の還元剤をラジカル重合開始剤と組み合わせて用いることができる。
【0016】
また必要に応じて、分子量調整剤を使用することができる。具体的にはドデシルメルカプタン、ブチルメルカプタン等が挙げられる。使用方法は特に限定されるものではないが、好ましくはシェル部に使用し、その量は全体単量体量の2%以下が好ましい。
【0017】
その他、本発明のエマルジョンには、通常水系塗料に添加配合される成分、例えば、増粘剤、成膜助剤、可塑剤、凍結防止剤、消泡剤、染料、防腐剤、紫外線吸収剤、光安定剤等を任意に配合することができる。
【0018】
増粘剤として具体的には、ポリビニルアルコール(部分鹸化ポリ酢酸ビニル等を含む)、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン等の高分子分散安定剤等、その他ポリエーテル系、ポリカルボン酸系増粘剤等が挙げられる。
【0019】
造膜助剤として具体的には、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールモノ2−エチルヘキシルエーテル、2,2,4−トリメチル−1,3−ブタンジオールイソブチレート、グルタル酸ジイソプロピル、プロピレングリコールn−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールn−ブチルエーテル、トリプロピレングリコールn−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、等が挙げられる。これら成膜助剤は、単独または併用など任意に配合することができる。
【0020】
可塑剤として具体的には、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル等が挙げられる。
【0021】
凍結防止剤として具体的には、プロピレングリコール、エチレングルコール等が挙げられる。
【0022】
紫外線吸収剤にはベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、トリアジン系がある。ベンゾフェノン系紫外線吸収剤として具体的には、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−5−スルホン酸、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−ドデシルオキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシベンゾフェノン、ビス(5−ベンゾイル−4−ヒドロキシ−2−メトキシフェニル)メタン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’ジメトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、4−ドデシルオキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−2’−カルボキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ステアリルオキシベンゾフェノンなどがある。
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤として具体的には、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−〔2’−ヒドロキシ−3’,5’−ビス(α,α’−ジメチルベンジル)フェニル〕ベンゾトリアゾール)、メチル−3−〔3−tert−ブチル−5−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−ヒドロキシフェニル〕プロピオネートとポリエチレングリコール(分子量300)との縮合物(日本チバガイギー(株)製、製品名:TINUVIN1130)、イソオクチル−3−〔3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル〕プロピオネート(日本チバガイギー(株)製、製品名:TINUVIN384)、2−(3−ドデシル−5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール(日本チバガイギー(株)製、製品名:TINUVIN571)、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−4’−オクトキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−〔2’−ヒドロキシ−3’−(3’’,4’’,5’’,6’’−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5’−メチルフェニル〕ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス〔4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール〕、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール(日本チバガイギー(株)製、製品名:TINUVIN900)などがある。
トリアジン系紫外線吸収剤として具体的には、TINUVIN400(製品名、日本チバガイギー(株)製)などがある。
【0023】
光安定剤としては、ヒンダードアミン系光安定剤が好ましく、その中で塩基性の低いものがより好ましく、塩基定数(pKb)が8以上のものが特に好ましい。具体的には、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)サクシネート、ビス(2,2,6,6−テトラメチルピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)2−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−ブチルマロネート、1−〔2−〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピニルオキシ〕エチル〕−4−〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピニルオキシ〕−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケートとメチル−1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル−セバケートの混合物(日本チバガイギー(株)製、製品名:TINUVIN292)、ビス(1−オクトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、TINUVIN123(製品名、日本チバガイギー(株)製)などがある。
【0024】
本発明において、紫外線吸収剤および/または光安定剤は、アクリル系エマルジョンを製造する乳化重合時に存在させることによりアクリル系エマルジョンに導入する方法、紫外線吸収剤および/または光安定剤を成膜助剤などと混合してアクリル系エマルジョンに添加することにより導入する方法、紫外線吸収剤および/または光安定剤を成膜助剤と混合し、界面活性剤、水を加え乳化させた後、アクリル系エマルジョンに添加することにより導入する方法が挙げられる。また、紫外線吸収剤と光安定剤を併用すると、相乗効果により卓越した耐久性を示す。
【0025】
本発明において、カルボキシル基含有重合性単量体〔B〕、他の重合性単量体〔C〕及び乳化剤からなるプレ乳化液のpHは、特に限定されるものでないが、pH4以下で乳化重合を実施することにより、シリコーン変性剤〔A〕の縮合反応が速やかに起こり、乳化重合後に縮合反応が進むことを抑制できるため、製品としての貯蔵安定性が向上する。
本発明のエマルジョンは乳化重合の終了後、シリコーン変性剤〔A〕の縮合反応を完結させるために、pH9〜12の条件下で6時間以上保持することが好ましい。更には、副生するアルコールを蒸留することにより、蒸発除去することが好ましい。
【0026】
本発明によって製造されるエマルジョンは、分散質の平均粒子径として、10〜1000nmであることが好ましい。また得られたエマルジョン中の分散質(固形分)と分散媒としての水性媒体との質量比は、30/70以上65/35以下であることが好ましい。更には、エマルジョンの長期の分散安定性を保つため、塩基性物質、例えばアンモニア、ジメチルアミノエタノールなどのアミン類を始めとする塩基性有機化合物、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属塩を始めとする塩基性無機化合物等を用いてpH5〜10の範囲に調整することが好ましい。
【実施例】
【0027】
以下、実施例及び比較例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものでない。なお、実施例および比較例中の部および%は、それぞれ質量部および質量%を示す。また、得られたアクリル系エマルジョンの塗膜性能評価については、下記に示す配合組成で塗料を調整し、以下に示す試験方法に従って試験を実施した。
【0028】
<塗料配合組成>
・顔料ディスパージョンの作製
分散剤:SNディスパーザント5027 5.0部
(商品名、サンノプコ(株)製)
アンモニア水 0.5部
プロピレングリコール 23.5部
水 147.8部
タイペークCR−97(商品名、石原産業(株)製) 333.6部
消泡剤:SNデフォマー1310 2.9部
(商品名、サンノプコ(株)製)
上記、配合物を卓上サンドミルにて20分間分散させ、顔料ディスパージョンを得た。
・下塗り用黒色エナメル塗料の作製
エマルジョン:ポリデュレックスG633(固形分換算) 50.0部
(商品名、旭化成ケミカルズ(株)製)
エチレングリコールモノブチルエーテル50%溶液 10.0部
テキサノールCS−12(商品名、チッソ(株)製) 10.0部
上記顔料ディスパージョン 51.3部
増粘剤:アデカノールUH−438の10%水溶液 適量
(商品名、旭電化工業(株)製)
カーボンブラック:K14 11.1部
(商品名、東洋インキ(株)製)
・塗膜性能評価用クリアー塗料の作製
実施例及び比較例の各アクリル系エマルジョン(固形分換算) 50.0部
エチレングリコールモノブチルエーテル50%溶液 10.0部
テキサノールCS−12 10.0部
【0029】
<試験方法>
・粒子径の測定
得られたアクリル系エマルジョンの平均粒子径を、リーズ&ノースラップ社製のマイクロトラック粒度分布計にて測定した。
・固形分率の測定
予め質量の分かっているアルミ皿に、対象物を約1g正確に秤量し、恒温乾燥機で105℃にて3時間乾燥した後、シリカゲルを入れたデシケーター中で、30分放冷後に精秤する。当該物質の乾燥後質量を乾燥前質量で割ったものを固形分率とした。
・重合安定性の評価
乳化重合終了後、得られたアクリル系エマルジョンを110メッシュのフィルターを通し、凝集物を濾過した。凝集物の質量をアクリル系エマルジョンの質量で割り、残渣率とした。残渣率の判定基準は以下の通り。
◎:残渣率50ppm未満
〇:残渣率50ppm以上100ppm未満
△:残渣率100ppm以上300ppm未満
×:残渣率300ppm以上
【0030】
<塗膜性能の評価方法>
・耐ブロッキング性
ガラス板上に前記クリアー塗料を0.1mmのアプリケーターで塗工し、100℃で10分間加熱した後、23℃・湿度50%に調節された室内で3時間養生した。次いで、塗膜表面にガーゼを4枚重ねにして乗せ、その上に別なサンプルが塗工されたガラス板を乗せ、同様にしてサンプル板とガーゼが交互に重なるようにし、0.5MPaの荷重をかけた。これを60℃のオーブンで24時間ホールドした後に常温まで冷却し、ゆっくりガーゼをはがした後の塗膜の状態を目視にて観察し、下記の基準に従って評価した。
◎:ガーゼの痕跡が全く見られない。
〇:ガーゼの痕跡が少し見られる。
△:ガーゼの痕跡がはっきりと見られる。
×:ガーゼの剥離が困難。
・耐候性
前記の下塗り用黒色エナメル塗料をバーコーターにて硫酸アルマイト板に塗工し、100℃で1時間乾燥させた。次いで、該エナメル塗膜上に前記クリアー塗料をバーコーターにて塗工し、50℃で1週間乾燥することにより、耐候性評価用サンプル塗工板を得た。引き続き、アイスーパーUVテスター SUV−W23(岩崎電気株式会社製)により、下記に示す試験条件にて、曝露1500時間経過後の光沢保持率を測定した。
(アイスーパーUVテスターの試験条件)
照度:1000W/m2
照射:63℃、50%RH、8時間
暗黒・湿潤:30℃、96%RH以上、4時間
(耐候性の判定基準)
◎:光沢保持率90%以上
○:光沢保持率80%以上90%未満
△:光沢保持率70%以上80%未満
×:光沢保持率70%未満
・耐クラック性の評価
ガラス板上に前記クリアー塗料を0.25mmのアプリケーターで塗工し、23℃・湿度50%に調節された室内で約5時間自然乾燥させた後、塗膜を幅10mm、長さ80mmの大きさで切り出し、100℃のオーブンで1時間養生した。得られた塗膜試験片の引張試験を東洋ボールドウィン(株)製 テンシロン UTM−III−500により、下記に示す条件にて行った。
(テンシロン UTM−III−500の試験条件)
引張速度:50mm/min
試験温度:23℃
(耐クラック性の判定基準)
◎:破断点伸度100%以上
〇:破断点伸度50%以上100%未満
△:破断点伸度20%以上50%未満
×:破断点伸度20%未満
【0031】
[実施例1]
第1段階の乳化重合で異相構造粒子のコア部を形成させ、第2段階の乳化重合でシェル部を形成させる2段階乳化重合を行った。まず第1段階として、撹拌機、還流冷却器、滴下槽および温度計を取り付けた反応容器に水472部、乳化剤としてハイテノール LA−14(第一工業製薬(株)製)の20%溶液を4部添加し、反応容器を加熱した。反応容器内の液温が80℃に到達したところで、2%過硫酸アンモニウム(APS)水溶液を4.8部添加した。その5分後、重合性単量体、乳化剤、重合開始剤、水よりなる表2に示す組成の乳化液及び、表2に示す組成のシリコーン変性剤の混合液を別々の滴下用容器より90分かけて滴下した。滴下中は反応容器内の液温を80℃に保った。滴下終了後、乳化液の入っていた容器に水17.5部を投入して容器の底面を簡単にすすぎ、そのすすぎ液を反応容器内に投入して、30分間80℃に保った。
第2段階として、同様に表2に示す組成の乳化液及びシリコーン変性剤の混合液を別々の滴下用容器より90分かけて滴下した。滴下終了後は第1段階と同様に乳化液の容器すすぎ液17.5部を反応容器へ投入し、液温80℃で90分保った後、室温まで冷却した。得られたアクリル系エマルジョンの水素イオン濃度を測定したところ、pHは2.9であった。次いで、エマルジョンを110メッシュのフィルターで濾過し、残渣率を測定した。
得られたエマルジョンを再び80℃に加熱し、12.5質量%アンモニア水を180g添加して4.5時間ホールド後、蒸留により濃縮した。pHを8.5に調整し、エマルジョンの固形分を40質量%に調整して前記の評価を行った。その結果を表2に示す。全般的に耐ブロッキング性、耐候性、耐クラック性のバランスに優れる。
なお、実施例及び比較例で用いた乳化剤は、アクアロンKH−1025(第一工業製薬(株)製)、エアロゾルOT−75(三井サイテック(株)製)である。また用いたシリコーン変性剤は、シラン(1)としては、ジフェニルジメトキシシラン KR217(信越化学工業(株)製)、シラン(2)としては、メチルトリメトキシシラン SZ6070(東レ・ダウコーニング(株)製)、シラン(3)としては、ジメチルジメトキシシラン AY43−004(東レ・ダウコーニング(株)製)である。更に重合性シランとして、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン SZ6030(東レ・ダウコーニング(株)製)を用いた。
【0032】
[実施例2〜5]
シリコーン変性剤の組成を変更した点以外は、すべて実施例1と同様にして2段階乳化重合を行い、得られたエマルジョンを同様にして調整し、同様の評価を行った。その結果を表2に示す。
全般的に耐ブロッキング性、耐候性、耐クラック性が優れる。また実施例2及び3では、乳化剤OT−75を使用したことで、ジフェニルジメトキシシラン(KR217)による凝集物の発生が抑えられ、重合安定性が大幅に向上した。
【0033】
[比較例1及び2]
シリコーン変性剤の組成を変更した点以外は、すべて実施例1〜4と同様にして2段階乳化重合を行い、得られたエマルジョンを同様にして調整し、同様の評価を行った。その結果を表2に示す。
全般的に耐ブロッキング性と耐クラック性のバランスに優れる。ジフェニルジメトキシシラン(KR217)を用いていないため、重合安定性には優れるものの、実施例の塗膜に比べて、耐候性が劣る。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明のアクリル系エマルジョンは、高耐久性が必要とされる塗料やコーティング用途として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーン変性剤〔A〕の存在下で、重合性単量体を多段乳化重合することにより得られるアクリル系エマルジョンであって、該アクリル系エマルジョンの中心部分(コア)は、ガラス転移温度(Tg)50℃以上のアクリル系重合体からなり、該アクリル系エマルジョンの最も外側に位置する部分(シェル)はガラス転移温度(Tg)40℃以下のアクリル系重合体からなる異相構造からなり、該シリコーン変性剤〔A〕が下記式(1):
【化1】


((n.m)は(1.0)又は(1.1)の組であり、式中n=1およびm=0のとき、Rはフェニル基またはシクロヘキシル基であり、各Rはそれぞれ、独立して、炭素数1〜8のアルコキシ基、アセトキシ基、または水酸基であるか、または式中n=1およびm=1のときRはフェニル基またはシクロヘキシル基であり、Rは水素原子、炭素数1〜16の脂肪族炭化水素基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数5〜6のシクロアルキル基、炭素数1〜10のアクリル酸アルキル基、または炭素数1〜10のメタクリル酸アルキル基であり、各Rはそれぞれ、独立して炭素数1〜8のアルコキシ基、アセトキシ基、または水酸基である)で表されるシリコーン構造を有するシラン[1]からなる群より選ばれる少なくとも一種を含み、
下記式(2):
CH−Si−(R ・・・(2)
(式中Rはそれぞれ、独立して炭素数1〜8のアルコキシ基、アセトキシ基、または水酸基である)で表されるシリコーン構造を有するシラン[2]からなる群より選ばれる少なくとも一種を含み、
下記式(3):
(CH−Si−(R ・・・(3)
(式中Rはそれぞれ、独立して炭素数1〜8のアルコキシ基、アセトキシ基、または水酸基である)で表されるシリコーン構造を有するシラン[3]からなる群より選ばれる少なくとも一種及び/又は環状シランを含むことを特徴とするアクリル系エマルジョン。
【請求項2】
該アクリル系エマルジョンを得るために使用する重合性単量体の合計100質量部に対して、前記シラン[1]〜[3]が下記の割合で表される量を用いて得られることを特徴とする請求項1に記載のアクリル系エマルジョン。
シラン[1]:1〜80質量部
シラン[2]:1〜120質量部
シラン[3]:1〜120質量部
【請求項3】
スルフォコハク酸系乳化剤を含むことを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載のアクリル系エマルジョン。
【請求項4】
該アクリル系エマルジョンに含まれるすべてのアクリル系重合体の合計質量に対して、コア部を構成するガラス転移温度(Tg)50℃以上のアクリル系重合体の質量が40%以上70%以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のアクリル系エマルジョン。
【請求項5】
該アクリル系エマルジョンのコア部のアクリル系重合体を得るために使用する重合性単量体の60%以上がメタクリル酸メチルであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のアクリル系エマルジョン。
【請求項6】
該アクリル系エマルジョンを得るために使用する重合性単量体の合計質量に対して、カルボキシル基含有重合性単量体の割合が0.1〜20質量%であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のアクリル系エマルジョン。
【請求項7】
乳化重合中のpHが4以下で製造することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のアクリル系エマルジョン。

【公開番号】特開2010−59379(P2010−59379A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−229346(P2008−229346)
【出願日】平成20年9月8日(2008.9.8)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】