説明

高耐久性コンクリート組成物及び高耐久性コンクリートの製造方法

【課題】 耐塩害性,耐凍害性および低収縮性の高耐久性コンクリート組成物及びその製造方法において、塩化物浸透に対する抑制効果を向上させると共に、優れた耐凍害性,低収縮性及び初期強度発現性を得ること。
【解決手段】 早強ポルトランドセメントに対して、混和材として高炉スラグ微粉末が35〜65重量%添加された結合材組成物と、水と、細骨材と、粗骨材と、減水剤とを,水結合材比が45重量%以下で空気量が3.0〜6.0%になるように混練してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海洋環境や飛来塩分の影響を受ける海岸付近,または凍結防止剤の影響を受ける環境下で使用されるプレキャストコンクリート,プレストレストコンクリートなどに好適な耐塩害性,耐凍害性および低収縮性を兼ね備えた高耐久性コンクリート組成物及び高耐久性コンクリートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プレキャストコンクリートは,予め建設現場やコンクリート製品工場で製造されるコンクリート部材または工場で製造されるコンクリート製品(一般に二次製品と呼ぶ)であり,製造効率の向上のため,主に早期強度発現性に優れる早強ポルトランドセメントが使用されている。
プレストレストコンクリートは、コンクリート中または外部に配置された緊張材に引張力を与え,その反作用としてのプレストレスがコンクリート部材に与えられることにより,コンクリート部材の引張応力に対する抵抗性を向上させるもので,橋桁,道路や空港などの床版,鉄道の枕木,基礎杭などに使用される。このプレストレストコンクリートは、プレストレスの導入時期により,プレテンション方式とポストテンション方式があり,プレテンション方式では,コンクリートを型枠に打ち込んでから比較的早期にプレストレスを導入するために,早期強度発現性に優れる早強ポルトランドセメントが主に使用されている。
【0003】
これらのコンクリートが,海洋環境や飛来塩分の影響を受ける海岸付近,または凍結防止剤の影響を受ける環境下で使用されると塩害による鉄筋コンクリート構造物の劣化を引き起こし、また,寒冷地では凍結融解作用による劣化の進行により構造物の耐久性が低下することが問題となっている。さらにプレストレストコンクリートにおいては,プレストレス導入後のコンクリートの収縮によるプレストレスの減少が課題となっている。
【0004】
一方、溶鉱炉で銑鉄を製造する際に生じる高炉スラグを水によって急冷し,乾燥,粉砕した高炉スラグ微粉末を,ポルトランドセメントの一部として置換した高炉セメントが、海水等の塩類に対する化学抵抗性に優れた高耐久性コンクリート用として使用されている。すなわち、高炉スラグ微粉末を用いたコンクリートは、高炉スラグの水和反応によって組織が緻密であると共に、塩化物イオンの固定化能力が高いことから,塩類の浸透抑制効果を有している。
【0005】
例えば、特許文献1には、ポルトランドセメントと高炉セメントとを使用したコンクリート組成物が提案されている。また、特許文献2には、通常のセメントに高炉スラグ微粉末を混和したプレストレストコンクリート構造物が提案されている。さらに、特許文献3には、早強ポルトランドセメントが60〜90重量%、高炉スラグ粉末が10〜40重量%からなる高耐久性コンクリートにおける結合材組成物が提案されている。
【0006】
【特許文献1】特開2005−272260号公報
【特許文献2】特開2006−8442号公報
【特許文献3】特開2005−154213号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。
すなわち、プレキャストコンクリートやプレストレストコンクリートに主に使用されている早強ポルトランドセメントに比べて、高炉スラグ微粉末を用いた高炉セメントでは、高炉スラグの水和反応がセメントの水和反応によって二次的に起こるため、初期強度発現性が低いという不都合があった。したがって,製造効率を向上させるための早期の脱型が必要なプレキャスト製品やプレストレスの導入が必要なプレストレストコンクリートにはほとんど使用されてこなかった。そのため,海洋環境や飛来塩分の影響を受ける海岸付近,または凍結防止剤の影響を受ける環境下で使用されると塩害による鉄筋コンクリート構造物の劣化を引き起こし、また,寒冷地では凍結融解作用による劣化の進行により構造物の耐久性が低下することが問題となっていた。また,一般に高炉スラグを混合材として使用したコンクリートの中性化速度は,ポルトランドセメントを用いたコンクリートより早いという課題がある。さらには,高炉セメントを使用したコンクリートの乾燥収縮量は,ポルトランドセメントを使用したコンクリートよりも一般に大きく,ひび割れ発生の危険性が高いとともに,プレストレストコンクリートの場合にはコンクリートの収縮によるプレストレスの減少が課題となっている。ひび割れの発生は,コンクリート構造物の外観を損なうだけでなく,塩分の浸透や中性化の進行を早め,鉄筋を早期に腐食させることにつながるため,鉄筋コンクリート構造物の耐久性を早期に低下させる原因となる。
【0008】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、塩化物浸透に対する抑制効果を向上させると共に、初期強度発現性にも優れている耐塩害性,耐凍害性および低収縮性を兼ね備えた高耐久性コンクリート組成物及び高耐久性コンクリートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、本発明の高耐久性コンクリート組成物は、早強ポルトランドセメント35〜65質量%と高炉スラグ微粉末35〜65質量%とからなる水硬性組成物と,水と,細骨材と,粗骨材と,減水剤とを練り混ぜて製造されたコンクリートであって,水結合材質量比が45%以下,空気量が3.0〜6.0%であることを特徴とする。
【0010】
この耐塩害性,耐凍害性および低収縮性を兼ね備えた高耐久性コンクリート組成物では、水硬性組成物が、早強ポルトランドセメントとの内割りで、混和材として高炉スラグ微粉末が35〜65重量%添加されるとともに,減水剤を使用して水結合材比が45%以下のコンクリートとすることにより,コンクリート組織が緻密となるため,塩化物の浸透や中性化の抑制効果に優れている。また、プレキャストコンクリートでは,一般に行われているように製品や部材の種類に応じて必要とされる強度が異なるため適切な水結合材比を選定する。例えば,プレテンション方式のプレストレストコンクリートに用いる場合には,35%程度以下とすることが好ましい。これは,プレストレス導入に必要な材齢15時間程度の圧縮強度として35N/mm程度以上を確保するためである。
また、空気量を、3.0%から6.0%に設定することにより、後述するように耐凍害性に優れたコンクリートを得ることができる。なお、空気量は、3.0%未満であると、耐凍害性が低下し,6.0%を超えると、強度発現性が低下する。
【0011】
また、本発明の高耐久性コンクリート組成物は、高炉スラグ微粉末がブレーン比表面積2500〜6500cm/gであることを特徴とする。すなわち、この耐塩害性,耐凍害性および低収縮性を兼ね備えた高耐久性コンクリート組成物では、高炉スラグ微粉末のブレーン比表面積が、2500〜6500cm/gの範囲に設定されることにより、十分な初期強度が得られると共に,製造コストの低減を両立することができる。なお、上記ブレーン比表面積が、2500cm/g未満であると、初期強度発現性,耐塩害性および低収縮性が低下してしまうと共に、6500cm/gを越えると製造コストが大幅に上がってしまう。
【0012】
また、本発明の耐塩害性,耐凍害性および低収縮性を兼ね備えた高耐久性コンクリート組成物に用いる結合材には,二水石膏もしくは無水石膏が結合材中にSO量換算で1.0〜5.0%含んでいる。これは,適切にコンクリートの凝結時間および流動性を確保するとともに,高炉スラグ微粉末の刺激剤としての効果を有することから強度発現性をも確保するためである。
【0013】
さらに、本発明の耐塩害性,耐凍害性および低収縮性を兼ね備えた高耐久性コンクリート組成物に用いる結合材には,その一部にフライアッシュ,石炭ガス化スラグ微粉末,石灰石微粉末,シリカフュームより選ばれる1種以上の混和材を,結合材全体の内割で5〜20%含むことが出来る。これらは,低水結合材比のコンクリートで使用する際に,流動性の向上や強度発現性の向上をもたらすものである。これらのうち,石灰石微粉末は,高炉スラグ微粉末と併用したときに,高炉スラグの水和を促進する作用を有することから,強度発現性の向上に有効である。特に高炉スラグ微粉末のブレーン比表面積が2500〜3500cm/g未満の低い範囲で使用する際には,石灰石微粉末と併用することにより高炉スラグ微粉末のブレーン比表面積の低下に伴う強度発現性の低下をカバーできる。また,フライアッシュやシリカフュームは球状の微粒子であるため,5〜10%程度使用することで,そのボールベアリング作用により,特に水結合材比の小さなコンクリートにおいて流動性を向上させることが出来る。
【0014】
本発明の高耐久性コンクリートの製造方法は、上記本発明の耐塩害性,耐凍害性および低収縮性を兼ね備えた高耐久性コンクリート組成物を練り混ぜて製造されたコンクリートを蒸気養生して製造することを特徴とする。すなわち、この高耐久性コンクリートの製造方法では、上記本発明の耐塩害性,耐凍害性および低収縮性を兼ね備えた高耐久性コンクリート組成物を用いているので、優れた耐塩害性,耐凍害性,低収縮性及び早期強度発現性により海洋構造物や寒冷地の構造物等のプレストレストコンクリートまたはプレキャストコンクリートに適した高耐久性コンクリートを得ることができる。一般的に高炉スラグ微粉末を混和材として用いたコンクリートは,ポルトランドセメントを単独で用いた場合に比べて,乾燥収縮量が大きくなる。本発明の耐塩害性,耐凍害性および低収縮性を兼ね備えた高耐久性コンクリート組成物を用いたコンクリートを蒸気養生し,早期に水和反応を進行させ強度発現させることにより,蒸気養生後の乾燥収縮量を,ポルトランドセメントを単独で用いた場合に比べても大幅に低減することができる。これにより,構造物として共用している間に乾燥収縮のために発生するひび割れを抑制することが出来るとともに,プレストレストコンクリートに用いた場合には,コンクリートの収縮に伴うプレストレスの低減を抑制することが出来る。
なお、減水剤としては、一般に市販されているAE減水剤,高性能減水剤,高性能AE減水剤などが使用できるが,ポリカルボン酸系高性能減水剤または高性能AE減水剤を使用すれば、コンクリートを練り混ぜた時のワーカビリティーも良好で,早強ポルトランドセメントに比べて単位水量を大幅に低減することができるとともに,水結合材比のより小さいコンクリートを容易に得ることが出来るため、更に耐久性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係る耐塩害性,耐凍害性および低収縮性を兼ね備えた高耐久性コンクリート組成物によれば、早強ポルトランドセメントとの内割りで,混和材として高炉スラグ微粉末が35〜65重量%添加され、水結合材比が45重量%以下に設定され、かつ、空気量が、3.0〜6.0%に設定されているので、初期強度発現性に加え、耐塩害性,耐凍害性および低収縮性に優れ、耐久性を向上させることができる。したがって、この耐塩害性,耐凍害性および低収縮性を兼ね備えた高耐久性コンクリート組成物を用いた,コンクリートの製造方法によれば、海洋構造物や寒冷地の構造物等に好適なプレストレストコンクリートまたはプレキャストコンクリートを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係る耐塩害性,耐凍害性および低収縮性を兼ね備えた高耐久性コンクリート組成物及びこれを用いたプレストレストコンクリートまたはプレキャストコンクリートの製造方法の一実施形態を、図1を参照して説明する。
【0017】
本実施形態の耐塩害性,耐凍害性および低収縮性を兼ね備えた高耐久性コンクリート組成物は、早強ポルトランドセメントとの内割りで、混和材として高炉スラグ微粉末が35〜65重量%添加された結合材組成物と、水と、細骨材と、粗骨材と、減水剤を水結合材比が45重量%以下で空気量が3.0〜6.0%になるように混練してなるものである。
【0018】
また、この耐塩害性,耐凍害性および低収縮性を兼ね備えた高耐久性コンクリート組成物は、上記高炉スラグ微粉末のブレーン比表面積が、2500〜6500cm/gの範囲に設定されている。なお,上記のように,ブレーン比表面積が2500〜3500cm/g未満の比較的低い範囲で使用する場合には,早期強度発現性が劣る傾向にあるので,石灰石微粉末を併用すると良く,より好ましくはブレーン比表面積が3500〜6500cm/gの範囲で使用することが良い。
【0019】
なお,石灰石微粉末は,高炉スラグ微粉末のブレーン比表面積が3500〜6500cm/gのものと併用することにより,より大きな早期強度発現性の向上効果が得られる。また,石灰石微粉末は,予め結合材中に混和しても良く,コンクリートを煉り混ぜる際に添加しても良く,さらには,石灰石細骨材および/または石灰石粗骨材を使用することにより,石灰石骨材中に含まれる微粉分を利用して,早期強度発現性の改善を図ることもできる。
【0020】
この耐塩害性,耐凍害性および低収縮性を兼ね備えた高耐久性コンクリート組成物を用いたプレストレストコンクリートまたはプレキャストコンクリートは、上記本発明の耐塩害性,耐凍害性および低収縮性を兼ね備えた高耐久性コンクリート組成物を練り混ぜて製造されたコンクリートを蒸気養生して製造される。
【0021】
なお、上記減水剤としては、市販されているAE減水剤,高性能減水剤,高性能AE減水剤などを使用することができる。好ましくは,ポリカルボン酸系高性能減水剤または高性能AE減水剤が添加される。
このプレストレストコンクリートまたはプレキャストコンクリートは、例えば沿岸、海上又は海中等の海水が接触する海洋環境,飛来塩分の影響を受ける海岸付近や凍結防止剤が散布される積雪寒冷地で使用されるものである。
【0022】
上記早強ポルトランドセメントは、普通ポルトランドセメントに比べ,初期強度の発現性に優れるエーライト(CS)の含有率が高く,比表面積も大きいため,強度発現性が早いセメントである。
上記水としては、例えば水道水,地下水,工業用水などが用いられる。
【0023】
上記高炉スラグ微粉末は、溶鉱炉で銑鉄を製造する際に副産物として生じるスラグであり、溶融している高炉スラグを水を用いて急冷、粉砕したものである。この高炉スラグ微粉末は、混和材としてセメントに加えた際にセメントの水和反応で生じた水酸化カルシウムやアルカリ塩類,石膏などに刺激されると水和反応を起こす性質(潜在水硬性)を有している。
上記比表面積は、ブレーン空気透過装置で測定され、単位重量の粉体中に含まれる全粒子の表面積の総和(cm/g)で表わされ、本実施形態では、高炉スラグ微粉末1g当たりの、全微粉末の表面積の総和をいう。すなわち、高炉スラグ微粉末の粒子が小さいほど、比表面積が大きくなる。
【0024】
上記ポリカルボン酸系高性能減水剤は、一般にコンクリート用高性能減水剤,高性能AE減水剤等の名称で市販されているものでよく,例えばカルボキシル基含有ポリエーテル系,末端スルホン基を有するポリカルボン酸基含有多元ポリマー,ポリカルボン酸エーテル化合物などが挙げられる。
上記細骨材は、一般にコンクリートに用いられるものでよく,川砂、山砂、海砂、珪砂、人工細骨材、砕砂、溶融スラグ骨材,再生骨材等が例示される。
また、上記粗骨材は、一般にコンクリートに用いられるものでよく,砂利、砕石,溶融スラグ骨材,再生骨材等が例示される。
【0025】
上記コンクリート組成物の空気量は、空気量調整剤によって上述した3.0〜6.0%の範囲に設定される。
また、このコンクリート組成物の養生方法は、蒸気養生が採用され、例えば図1に示す養生温度と時間との蒸気養生条件で養生される。すなわち、前養生3時間、昇温2時間(20℃/h)、最高温度保持6時間、降温2時間(20℃/h)及び後養生2時間の蒸気養生後に、脱型される。
【0026】
このように本実施形態の耐塩害性,耐凍害性および低収縮性を兼ね備えた高耐久性コンクリート組成物では、結合材組成物が、早強ポルトランドセメントとの内割りで、混和材として高炉スラグ微粉末が35〜65重量%添加され、水結合材比を45重量%以下に設定することにより、初期強度発現性に優れ,また,コンクリート組織が緻密となるため,塩化物浸透に対する抑制効果の向上,中性化の抑制および乾燥収縮の低減が図れる。具体的には、後述する実施例で示すように、上記水結合材比に設定し蒸気養生を行うことで、材齢15時間の圧縮強度が25N/mm以上、材齢28日の圧縮強度40N/mm以上を満足する特性が得られる。なお,上記のように,コンクリート部材に必要な強度に応じて,45%以下の範囲で適切な水結合材比を選定することが出来る。
【0027】
なお、上記のように、減水剤としてポリカルボン酸系高性能減水剤または高性能AE減水剤を使用すれば、ワーカビリティーが良好なコンクリートが得られ,早強ポルトランドセメントに比べても大幅に単位水量を低減することができ,水結合材比のより小さいコンクリートを容易に得ることが出来るため、更に耐久性を向上させることができる。また、単位水量の減少により、セメント量が減少できるため、経済的にも優れたコンクリートを製造できる。
【0028】
また、空気量が、空気量調整剤などによって3.0%から6.0%に設定されているので、耐凍害性に優れたコンクリートを得ることができる。
さらに、この耐塩害性,耐凍害性および低収縮性を兼ね備えた高耐久性コンクリート組成物では、高炉スラグ微粉末のブレーン比表面積が、2500〜6500cm/gの範囲に設定されているので、十分な強度と低い製造コストとを両立することができる。
【0029】
したがって、本実施形態のプレストレストコンクリートおよびプレキャストコンクリートの製造方法では、上記耐塩害性,耐凍害性および低収縮性を兼ね備えた高耐久性コンクリート組成物を用いて蒸気養生を行うことにより、優れた耐塩害性、耐凍害性,低収縮性及び早期強度発現性により海洋構造物や寒冷地の構造物等のプレストレストコンクリートおよびプレキャストコンクリートを得ることができる。
【実施例】
【0030】
上記実施形態の耐塩害性,耐凍害性および低収縮性を兼ね備えた高耐久性コンクリート組成物を用いて、実際にコンクリートを作製して試験した結果を、図2から図4を参照して説明する。
【0031】
この実施例における使用材料としては、以下のものを用いた。
<使用材料>
・ベースセメント:早強ポルトランドセメント(三菱マテリアル株式会社製)
・混和材:高炉スラグ微粉末(ブレーン比表面積3000,4000,6000cm2/g)
石灰石微粉末(三菱マテリアル株式会社製 炭酸カルシウム,平均粒径15μm)
・細骨材:千葉県君津産山砂
・粗骨材:埼玉県小鹿野産 硬質砂岩砕石2005
・コンクリート用化学混和剤:高性能減水剤マイテイ(登録商標)21VS(ポリカルボン酸系高性能減水剤)、空気量調整剤マイクロエア(登録商標)775S
・二水石膏微粉末:早強ポルトランドセメントと高炉スラグ微粉末を混合して結合材を製造する際に結合材中のSO量が3.0%になるように添加混合した。
【0032】
また、各使用材料の品質等を以下の表1に示すと共に、コンクリートの配合を以下の表2に示す。表中で結合材の種類の表記例として、例えば「HB20−4000」は早強ポルトランドセメント(H)にブレーン比表面積4000cm/gの高炉スラグ微粉末(BS)を20重量%添加したものを示している。また、比較例として、早強ポルトランドセメント単味を使用した場合を「H」として示すと共に、上記本発明の範囲外となる設定で実施したものを合わせて表2に示している。
【0033】
なお、蒸気養生条件は、図1と同様とした。また、空気量は、空気量調整剤によって3.0%から6.0%に調整した。
また、表中において、高炉スラグ微粉末を「BS」、水を「W」、ベースセメントを「C」、結合材を「B」すなわち「C+BS」、水結合材比を「W/B」、細骨材率を「s/a」と記載した。なお、BS置換率は、高炉スラグ微粉末の添加量を示している。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

注)石灰石微粉末(LS)を結合材の内割で10%添加したので,結合材の混合割合は,C:BS:LS=36:54:10となる。
【0036】
これらの実施例及び比較例について、フレッシュコンクリートにおける性状としてスランプ及び空気量を測定すると共に、材齢15時間及び28日での圧縮強度を測定した。この結果を以下の表3に示す。なお、スランプの試験は、JIS A 1101(コンクリートのスランプ試験方法)に準じて実施し,スランプの目標値は,W/Bが35%および30%の配合については12±2.5cm,W/Bが27%の配合については18±2.5cmとした。
【0037】
【表3】

【0038】
これら結果からわかるように、早強ポルトランドセメント単味(H)の場合に比べて、本実施例では、同一スランプを得る単位水量が55〜10kg/mと大幅に低減されている。特に水結合材比の小さい配合において,単位水量を低減する効果が大きい。また,圧縮強度は,水結合材比,高炉スラグ微粉末の比表面積および置換率によって異なり,本実施例では15時間で30〜60N/mm,材齢28日で45〜70N/mm程度を得ることができる。高炉スラグ微粉末のブレーン比表面積が3000cm/gと小さい場合には,圧縮強度が若干低下するが,石灰石微粉末の併用により圧縮強度は向上する。
【0039】
次に、海岸付近の空港に用いられるプレストレストコンクリート床版への適用を想定して,材齢15時間の圧縮強度が35N/mm以上,材齢28日の圧縮強度が60N/mm以上となる配合を選定して,塩化物浸透性,乾燥収縮および凍結融解抵抗性を評価した。このときのコンクリートの配合を表4に,スランプ,空気量および圧縮強度を表5に示す。
【0040】
なお、表2の結果から分かるように,単位水量はもっと少なくできるが,実用上は,骨材が表面水を持っているため,単位水量が少なすぎると相対的に練混ぜ水量が少なくなり,骨材の表面水量の変動により単位水量の管理が困難となるため,150kg/m程度の水量とした。なお,表5からわかるように、空気量が6.0%を越えると圧縮強度が低下するため、いずれも材齢28日の目標圧縮強度60N/mmに達していない。以下に述べる塩化物浸透性,乾燥収縮および凍結融解抵抗性の評価は,表5に示すコンクリートの内,所定の空気量,圧縮強度が得られた配合で実施した。
【0041】
塩化物浸透性,乾燥収縮および凍結融解抵抗性の評価は以下の方法で行った。
塩化物浸透性:土木学会規準JSCE−G 572−2003「浸せきによるコンクリート中の塩化物イオンの見掛けの拡散係数試験方法(案)」に準拠した。これは,直径10cm,高さ20cmの円柱供試体を10%塩化ナトリウム水溶液に浸せきして,定期的にコンクリートを深さ方向に切り出し,コンクリート中の塩化物イオン量を分析するものである。
【0042】
乾燥収縮:JIS A 1129−2001「モルタル及びコンクリートの長さ変化試験方法−第3部:ダイヤルゲージ法」に準拠した。なお,試験体は10×10×40cmの直方体を用い,蒸気養生後の材齢15時間で脱型し,基長を測定した。その後,温度20℃,相対湿度60%の室内に試験体を保管し,長さ変化を測定した。
凍結融解抵抗性:JIS A 1148−2001「コンクリートの凍結融解試験方法」に準拠した。なお,凍結融解抵抗性の評価には,本発明の範囲外となる空気量が3%以下のものも実施した。
【0043】
【表4】

【0044】
【表5】

【0045】
塩化物浸透性(浸せき期間:6ヶ月)として、表面からの深さごとに塩化物イオン浸透量を分析した結果を、図2に示す。この図から本実施例は、早強ポルトランドセメント単味(H)や高炉スラグ微粉末(BS)を20重量%添加したものに比べて、耐塩化物浸透性が高いことがわかる。
【0046】
また、乾燥収縮の特性として、保存期間に対する長さ変化率及び質量変化率について調べた結果を、図3に示す。この図から本実施例は、早強ポルトランドセメント単味(H)や高炉スラグ微粉末(BS)を20重量%添加したものに比べて、長さ変化率及び質量変化率が少ないことがわかる。
【0047】
また、凍結融解の特性として、凍結融解サイクル数に対する相対動弾性係数及び質量減少率について調べた結果を、図4に示す。この図から空気量が3.0%未満のものでは、凍結融解サイクル数に対して相対動弾性係数が低下しているのに対し、本実施例では、低下しておらず、優れた耐凍害性を有していることがわかる。また、空気量が3.0%未満のものでは、凍結融解サイクル数に対して質量減少率が低下しているのに対し、本実施例では低下していないことがわかる。このように、空気量を空気量調整剤によって3.0%から6.0%にすることで、耐凍害性に優れ圧縮強度の高いコンクリートが得られる。
【0048】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明に係る耐塩害性,耐凍害性および低収縮性を備えた高耐久性コンクリート組成物及び高耐久性コンクリートの製造方法の一実施形態において、蒸気養生条件を示す養生プロファイルのグラフである。
【図2】本発明に係る耐塩害性,耐凍害性および低収縮性を備えた高耐久性コンクリート組成物及び高耐久性コンクリートの製造方法の実施例において、4000cm/g及び6000cm/gの高炉スラグ微粉末を使用した際の表面からの深さと塩化物イオン浸透量との関係を示すグラフである。
【図3】本発明に係る耐塩害性,耐凍害性および低収縮性を備えた高耐久性コンクリート組成物及び高耐久性コンクリートの製造方法の実施例において、4000cm/g及び6000cm/gの高炉スラグ微粉末を使用した際の保存期間に対する長さ変化率及び質量変化率を示すグラフである。
【図4】本発明に係る耐塩害性,耐凍害性および低収縮性を備えた高耐久性コンクリート組成物及び高耐久性コンクリートの製造方法の実施例において、4000cm/g及び6000cm/gの高炉スラグ微粉末を使用した際の凍結融解サイクル数に対する相対動弾性係数及び質量減少率を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
早強ポルトランドセメント35〜65質量%と高炉スラグ微粉末35〜65質量%とからなる水硬性組成物と,水と,細骨材と,粗骨材と,減水剤とを練り混ぜて製造されたコンクリートであって,水結合材質量比が45%以下,空気量が3.0〜6.0%であることを特徴とする高耐久性コンクリート組成物。
【請求項2】
高炉スラグ微粉末がブレーン比表面積2500〜6500cm/gであることを特徴とする請求項1記載の高耐久性コンクリート組成物。
【請求項3】
水硬性組成物が早強ポルトランドセメントと高炉スラグ微粉末との合計量に対して,さらに内割でSO換算1.0〜5.0質量%の石膏を含むことを特徴とする請求項1又は2記載の高耐久性コンクリート組成物。
【請求項4】
水硬性組成物が、早強ポルトランドセメントと高炉スラグ微粉末との合計量に対して,さらにフライアッシュ,石炭ガス化スラグ微粉末,石灰石微粉末,シリカフュームより選ばれる1種以上の混和材を内割で5〜20%含むことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の高耐久性コンクリート組成物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の高耐久性コンクリート組成物を練り混ぜた後,蒸気養生して製造することを特徴とする高耐久性コンクリートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−6662(P2010−6662A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−169652(P2008−169652)
【出願日】平成20年6月27日(2008.6.27)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】