説明

高耐久性ベローズおよびその製造法

【課題】 切削加工に供する円筒状の圧縮成形体(M)の「素質」そのものを改質すること
によって、その圧縮成形体(M)を切削加工することにより作製される製品ベローズ(B) の
耐久性を顕著に向上させた高耐久性ベローズ(およびその工業的な製造法)を提供するこ
とを目的とする。
【解決手段】 ポリテトラフルオロエチレン系樹脂製の中ないし大型の円筒状の圧縮成形
体(M)を機械切削加工することにより形成したベローズ(B) であって、そのベローズ(B)
のベローズ形成部(1) の内径部(1a)および外径部(1b)の結晶化度をそれぞれa、bとする
とき、aが55以下でかつbが56以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリテトラフルオロエチレン系樹脂(未変性または変性ポリテトラフルオロ
エチレン)からなる耐久性にすぐれたベローズに関するものである。また、そのような耐
久性のすぐれたベローズを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(機械切削加工によるベローズの製造)
−1−
フッ素系樹脂製のベローズ(軸方向に伸縮するジャバラ体)は、溶融加圧成形法やブロ
ー成形法により製造することもできるが、一般にはポリテトラフルオロロエチレン系樹脂
製の円筒部材を機械切削加工することにより製造される。
【0003】
−2−
実公平8−5417号公報(実開平1−131069号公報)(特許文献1)の請求項
1には、ベローズ本体の少なくとも一端部に軸方向に突出する筒状突出部を当該ベローズ
本体と一体に形成すると共に、その筒状突出部の内周面に凹溝を形成し、この凹溝内に金
属製フランジを設けたスリーブ部を挿入してカシメ止めして固着した合成樹脂製ベローズ
が示されている。そして、その請求項2においては、そのベローズ本体をポリテトラフル
オロロエチレン樹脂成形体から切削加工して得ることが示されている。
【0004】
−3−
特開2001−193836号公報(特許文献2)の特許請求の範囲には、山部と谷部
とが交互に形成された軸方向に伸縮可能な合成樹脂(殊にポリテトラフルオロエチレン)
製のベローズにおいて、山部(ベローズ形成部の外径部)および谷部(ベローズ形成部の
内径部)のそれぞれの最小肉厚Bとそれらの山部と谷部との間に位置する側面部の肉厚A
との比率(B/A)を 1.2〜 2.5に設定したベローズが示されている。そして、この文献
の段落0013においては、「(この発明の実施の形態ではベローズを)ポリテトラフル
オロロエチレン製の円筒部材をステッキバイトやナイフ等を用いて旋盤で切削加工するこ
とにより形成した」との記載がある。
【0005】
この特許文献2において、山部および谷部のそれぞれの最小肉厚Bと、それらの山部と
谷部との間に位置する側面部の肉厚Aとの比率(B/A)に規定するという技術的工夫を
講じているのは、その段落0004のように、「A=Bであるときには、ベローズが軸方
向に伸長するごとに山部の頂部および谷部の最深部に一点集中的に応力集中して過剰な負
荷がかかり、度重なる負荷により早期に強度が低下して亀裂が生じ易い」という問題点を
解消しようとしているためである。
【0006】
−4−
特開2001−193837号公報(特許文献3)の特許請求の範囲には、ベローズの
互いに隣接する山部同士および谷部同士のそれぞれの対向面の少なくとも片面に、軸方向
に全圧縮された状態で上記の山部同士および谷部同士が吸着するのを防止する「ぬすみ部
」を形成したベローズが示されている。そして、この文献の段落0003および0015
には、従来技術に関して(そしてこの文献の発明に関して)、「ポリテトラフルオロロエ
チレン製の円筒部材をステッキバイトやナイフカッター等を用いて旋盤で切削加工するこ
とにより形成した」との記載がある。
【0007】
【特許文献1】実公平8−5417号公報
【特許文献2】特開2001−193836号公報
【特許文献3】特開2001−193837号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
(従来技術の問題点)
−1−
特許文献1の合成樹脂製ベローズは、「従来品としてフランジとベローズとが一体に成
形された図6、7のものが知られていたが、フランジの径をベローズの径よりも大きくし
たいときにベローズ削りとる部分が大きくなるため、材料の無駄になり、切削加工時間も
長くなる」(2頁5〜17行を参照)という問題点を解消するため、「ベローズ本体の一
端部に軸方向に突出する筒状突出部を設け、その突出部を金属製フランジに設けたスリー
ブ部をカシメ止めする」という工夫を講じたものである。
【0009】
−2−
ポリテトラフルオロロエチレン製の円筒状の部材を機械切削加工するときのベローズ形
成部(プリーツ(襞)形成部)の形状にかかる特許文献2および特許文献3の工夫によれ
ば、それ以前のシンプルな従来法に比しベローズの耐久性を向上させることが可能となる
が、その耐久性向上効果にはおのずから限界がある。また、そのようなプリーツ(襞)の
形状を得るための切削加工は、従来のシンプルな切削加工に比しては操作がかなり複雑に
なるという不利がある。
【0010】
(発明の目的)
従来の機械切削加工によるベローズの改良にかかる上述の特許文献2、3の技術思想は
、それに先立つ従来技術の問題点を、「ベローズ形成部の山・谷部と側面部との肉厚の関
係の工夫」や「ベローズ形成部の山・谷部のぬすみ部の形成」という観点、つまり「ベロ
ーズ形成部の形状ないし構造」の観点から解消しようとするものである。
【0011】
これに対し、本発明は、ベローズ(プリーツ)形成のための切削加工に供する円筒状の
圧縮成形体の「素質」そのものを改質することによって、その圧縮成形体を切削加工する
ことにより作製される製品ベローズの耐久性を顕著に向上させた高耐久性ベローズを提供
すること、およびそのような高耐久性ベローズを製造する工業的な方法を提供すること、
を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の高耐久性ベローズは、
ポリテトラフルオロエチレン系樹脂製の円筒状の圧縮成形体(M) を機械切削加工するこ
とにより形成したベローズ(B) であって、
その円筒状の圧縮成形体(M) の体積が100cm3 以上であること、および、
その円筒状の圧縮成形体(M) を機械切削加工して得られたベローズ(B) のベローズ形成
部(1) の内径部(1a)および外径部(1b)の密度法による結晶化度をそれぞれa、bとすると
き、aが55%以下でかつbが56%以下であること、
を特徴とするものである。
【0013】
本発明の高耐久性ベローズの製造法は、
(イ)ポリテトラフルオロエチレン系樹脂の粒子を金型内に充填して圧縮することによ
り製造された円筒状の予備成形品(P) を準備すること、
(ロ)その予備成形品(P) をフリーベーキング法により炉内にて加熱することにより焼
結すること、
(ハ)その焼結後の焼結温度にある焼結体(S) を炉から取り出すと共に直ちに氷水の温
度以下の冷媒中に液没させることによって一挙に急冷することにより、体積が100cm3
以上である円筒状の圧縮成形体(M) を得ること、および、
(ニ)その円筒状の圧縮成形体(M) に対して機械切削加工を行うことにより、ベローズ
形成部(1) の内径部(1a)の内径部(1a)および外径部(1b)の密度法による結晶化度をそれぞ
れa、bとするとき、aが55%以下でかつbが56%以下であるベローズ(B) を作製す
ること、
を特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明のベローズは、円筒状の圧縮成形体(M) に対して従来品と同様のシンプルな切削
加工を行った場合においても、屈曲試験における耐久性が従来品に比し確実に向上してお
り、しかもその向上の度合いは顕著である(後述の実施例と比較例とを参照)。
【0015】
−1−
本発明のベローズの製造法においては、予備成形品(P) をフリーベーキング法により炉
内にて加熱することにより焼結したときの焼結温度にある焼結体(S) を炉から取り出すと
共に直ちに氷水の温度以下の冷媒中に液没させることによって一挙に急冷するという手段
を講じることにより、円筒状の圧縮成形体(M) を得ている。
【0016】
−2−
ポリテトラフルオロエチレン系樹脂の圧縮成形品を得るときに焼結体を急冷すること自
体は、小物の圧縮成形品を得る場合や薄層品を得る場合においては採用可能な手段である
。しかしながら、たとえば体積で80cm3 程度(重量で約0.17kg)あるいはそれ以下とい
うような比較的小さい圧縮成形品を得るときであっても、焼結体の冷却は冷却速度で30
〜50℃/hrというような徐冷によるのが通例である。まして、たとえば本発明の実施例
1におけるような大型の圧縮成形体(M) (体積で約780cm3 、重量で約 1.7kg)を得る
ときに、焼結温度から氷水の温度以下にまで一挙に急冷することは常識外の手段であると
考えられ、しかもそのような急冷手段によって得た圧縮成形体(M) を用いて機械切削加工
によりベローズを製造したときに耐久性にすぐれたベローズ品質を有するものが得られる
ことも、予測しえない作用効果が奏されたということができる。
【0017】
−3−
加えて、本発明のベローズを製造するときには、焼結温度にある焼結体(S) からの冷却
時間が従来の徐冷法に比し格段に短くなるので(後述の実施例1の円筒状の圧縮成形体(M
) を得る場合を例にとると、従来の7時間前後から1時間未満にまで短縮される)、生産
性の点でも有利となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、結晶化度の測定法には、広角X線回折法、NMR法、IR法、密度法、DSC融
解熱法などがあるが、本発明における結晶化度は「密度法による結晶化度」であると定義
し、密度からの結晶化度の換算は後の実施例の箇所で説明する。
用語に関し、本発明を説明するのに「予備成形品(P) の焼結」、「焼結温度」、「焼結
体(S) 」というように「焼結」の用語を用いているが、この「焼結」は「焼成」と同義で
あるとする。
【0019】
[高耐久性ベローズの製造法]
(ポリテトラフルオロエチレン系樹脂)
本発明におけるポリテトラフルオロエチレン系樹脂としては、未変性のポリテトラフル
オロエチレンが好適に用いられ、パーフルオロアルキルビニルエーテルなどで変性したポ
リテトラフルオロエチレンも好適に用いられる。
【0020】
((イ)円筒状の予備成形品(P) の準備)
円筒状の予備成形品(プレフォーム)(P) は、ポリテトラフルオロエチレン系樹脂の粒
子を円筒型の金型内に充填して圧縮することにより製造される(片押し法や両押し法があ
る)。このときの予備成形圧は、200〜400kg/cm2程度、好ましくは220〜380
kg/cm2程度とすることが多い。この予備成形により、金型内に充填した粒子はおおよそ1
/4程度にまで圧縮される。予備成形終了後は、金型から予備成形品を取り出す。
【0021】
((ロ)予備成形品(P) の焼結)
次に、上記で得た予備成形品(P) をフリーベーキング法により炉内にて加熱することに
より焼結する。本発明においては中ないし大型の圧縮成形体(M) を得るため、予備成形品
(P) を常温の炉に入れてから徐々に焼結温度にまで昇温することが好ましい。焼結温度は
、ポリテトラフルオロエチレン系樹脂の融点よりも30〜50℃程度高い温度(たとえば
360℃とか370℃)とすることが多い。焼結時間は数時間から1日程度までとするこ
とが多い。
【0022】
((ハ)焼結体(S) の冷却/圧縮成形体(M) の取得)
−1−
一般に厚肉ないし大型の成形体を得ようとするときには、焼結後の焼結体(S) は、炉内
に放置した状態でゆっくりと降温し、特に収縮が急激に起こる融点付近についてはできる
だけ時間をかけてゆっくりと降温するように留意するのが通常である。
【0023】
−2−
これに対し、本発明においては、上記の焼結後は、焼結温度にある焼結体(S) を炉から
取り出すと共に直ちに氷水の温度以下の冷媒中に液没させることによって一挙に急冷する
。「直ちに」とは、できるだけすみやかに(たとえば数秒から数10秒以内に)という意
味である。そして、この液没状態を所定時間(たとえば30分とか1時間)保ち、焼結体
(S) の内部まで充分に冷却されるように留意する。
【0024】
−3−
上記の冷媒中への液没操作時の温度差はたとえば360℃程度あるいはそれ以上にもな
るので、ドラスティックな(思いきった)冷却操作になる。「冷媒」は、氷水の温度以下
のものであれば限定はないが、文字通りの氷水であることが特に望ましい。氷水は、コス
トの点で有利である上、氷が共存するので焼結体(S) の液没によっても冷媒温度が急騰す
ることがないからである。
【0025】
−4−
上記のようにして円筒状の圧縮成形体(M) が得られるが、本発明の目的にはその体積が
、100cm3 以上であること(つまり中ないし大型の円筒状の圧縮成形体(M) であること
)が必要である。体積は、120cm3 以上、150cm3 以上、200cm3 以上、250cm
3 以上、300cm3 以上というように大きければ大きいほど、従来の徐冷法による圧縮成
形体を機械切削加工したベローズに比しての本発明の効果(耐久性)が目立つようになる

【0026】
((ニ)機械切削加工/ベローズ(B) の作製)
−1−
次に、上記で得た円筒状の圧縮成形体(M) に対して機械切削加工を行う。機械切削加工
としては、たとえば、ステッキバイトやナイフカッターを用いて旋盤で切削加工する方法
が採用される。このときには、まず円筒の片端側の外表面をチャッキングの巾に見合う分
だけ平滑に切削加工してから、その部分をチャッキングするのが通常である。
【0027】
−2−
そして、チャッキングした円筒状の圧縮成形体(M) に対し、その内径側および外径側か
ら交互に切り込みを入れてプリーツ(襞)を形成していくことによりベローズ形成部(1)
を作製する。ベローズ(B) がフランジ付きのものであるときは、機械切削加工によりその
フランジも形成していく。フランジには、適宜の段階において、必要に応じてOリング嵌
め込み用の溝やボルト孔を設けることができる。
【0028】
(ベローズ形成部(1) の結晶化度)
−1−
上記の円筒状の圧縮成形体(M) の段階における各部の結晶化度は、
・原料であるポリテトラフルオロエチレン系樹脂の種類や粒度のファクターと、
・予備成形品(P) の製造時の成形圧力のファクターと、
・焼結温度にある焼結体(S) の冷却条件のファクターと、
・圧縮成形体(M) の体積のファクター
とによってほぼ決まることを把握している。従って、その圧縮成形体(M) の各部の結晶化
度に応じて、それを機械切削加工して得られたベローズ(B) の各部の結晶化度も事実上定
まる。
【0029】
−2−
本発明においては、円筒状の圧縮成形体(M) を機械切削加工して得られるベローズ(B)
のベローズ形成部(1) の密度法による結晶化度は、
・ベローズ形成部(1) の内径部(1a)の結晶化度aが55%以下で、かつ、
・ベローズ形成部(1) の外径部(1b)の結晶化度bが56%以下
に設定される。
【0030】
−3−
内径部(1a)の結晶化度aは、54%以下、52%以下、51%以下、さらには50%以
下というように、小さければ小さいほど好ましい(下限については45%程度までである
ことが多いが、特に限定はない)。ベローズ形成部(1) の外径部(1b)の結晶化度bは、5
5%以下、54%以下、さらには53%以下というように、小さければ小さいほど好まし
い(下限については45%程度までであることが多いが、特に限定はない)。
【実施例】
【0031】
次に実施例をあげて本発明をさらに説明する。
【0032】
(実施例1)
図1は、本発明の高耐久性ベローズの製造法の工程図である。
図2は、円筒状の圧縮成形体(M)の縦断面図である。
図3は、図2の円筒状の圧縮成形体(M)を機械切削加工することにより得たベローズ(B
) の縦断面図(ベローズ形成部(1) の山数をごく少なく描いた模式図)である。
【0033】
−1−(予備成形品(P) の作製)
ポリテトラフルオロエチレン系樹脂粒子を金型内に充填し、約300kg/cm2のプレス圧
にて圧縮することにより、外径が120mm、内径が50mmの円筒状の予備成形品(プレフ
ォーム)(P) の必要個数を作製した。
【0034】
−2−(焼結体(S) の作製)
次に、上記で得た予備成形品(P) を、常温の炉に入れてから焼結温度(365℃)にま
で約5時間かけて昇温してから、この温度に全体が目視で透明ないし半透明になるまで保
ち、円筒状の焼結体(S) となした。
【0035】
−3−(圧縮成形体(M) の取得)
続いて、焼結温度にある焼結体(S) を炉内から取り出すと共に、直ちに(1,2秒の間
に)氷水(冷媒)中に投入して液没させることにより急冷し、約40分後に取り出した。
これにより、体積が約800cm3 の円筒状の圧縮成形体(M) が得られた(図2参照)。
【0036】
−4−(ベローズ(B) の作製)
このようにして得た図2の円筒状の圧縮成形体(M) を機械切削加工することにより、図
3に示したベローズ(B) を作製した。図3中、(1) はベローズ形成部、(2) はフランジで
ある。ベローズ形成部(1) はナイフカッターを用いて形成し、そのベローズ形成部(1) に
おける折り返し部の数(山の数)は60山に設定した。なお、フランジ(2), (2)には必要
に応じOリング嵌め込み用の溝やボルト孔を設けることができるが、図3には示していな
い。
【0037】
(比較例1)
実施例1の−2−の工程で得た焼結温度にある焼結体(S) を、炉内から取り出すことな
く、そのまま炉内にて徐冷していった。このときの冷却速度(炉温の降温速度)は、常法
に従い、ポリテトラフルオロエチレン系樹脂の融点までは約35℃/hrとし、炉温が約3
15℃まで下がったときにこの温度に炉温を長時間保って成形体の内外温度が均一に融点
を通過するのを待ち、ついで約35℃/hrの速度で降温するように留意した。この徐冷操
作により圧縮成形体(M) が得られたので、実施例1の−4−の工程に従って切削加工を行
うことによりベローズ(B) を作製した。
【0038】
(密度の測定/結晶化度への換算)
−1−
密度の測定については、「JIS K7112:1999」に規定の「プラスチック−非発泡プラスチ
ックの密度及び比重の測定方法」の「 5.1(A法(水中置換法))」に基いて相対密度(
比重)を測定する共に、同規定の表1に基いて「水の密度の温度換算」を行うことにより
、密度を求めた。
【0039】
−2−
上記で求めた密度αから結晶化度βへの換算は、
β= (23α−46)/(3α−46)
による。この換算式は、辞書的文献である「プラスチック材料講座[6]、ふっ素樹脂、
日刊工業新聞社発行、昭和56年1月30日初版51刷発行」の29頁の図1・27の「
PTFEの結晶度と比重の関係(23℃)」と一致している(ちなみに、αが2.00のとき
はβが0になり、αが2.30のときはβが100になる)。
【0040】
(結晶化度の測定/実施例1)
1.図2の円筒状の圧縮成形体(M) の中ほどの箇所を径方向に1mm厚みに輪切りしたス
ライス片につき、その内径部(図2の黒丸1)、外径部(図2の黒丸2)、それら内径部
と外径部との中間部(図2の黒丸3)をサンプリングした。この中間部は、透明感のある
外径側と白色感のある内径側との境目である。
2.また、図3の製品段階のベローズ(B) の内径部(1a)と外径部(1b)とをサンプリング
した。このときの内径部(1a)(図3の白丸1)は図2の白丸1に対応し、外径部(1b)(図
3の白丸2)は図2の白丸2に対応する)。
3.これらのサンプルを結晶化度の測定に供した。結果は次の表1に示す。

【0041】
[表1]

【0042】
(結晶化度の測定/比較例1)
同様に、上記の比較例1において作製したベローズ(B) の内径部と外径部(図3の製品
段階のベローズ(B) の内径部(1a)と外径部(1b)とに対応)とをサンプリングし、結晶化度
の測定に供した。結果は次の通りであった。
内径部(図3の白丸1に対応)の結晶化度: 59.0 %
外径部(図3の白丸2に対応)の結晶化度: 59.2 %
【0043】
(耐久試験(耐屈曲性試験))
上記の実施例1において作製した製品ベローズ(B) 3個、上述の比較例1において作製
した製品ベローズ3個の計6個を用いて、同一の耐屈曲性試験機により試験を行った。試
験機におけるストローク長は261mm)であり、実際の使用形態を考慮して1ストローク
ごとにゲージ圧で0.09 MPa(約1気圧)の圧力を加えてある(実際の現場での使用は、ベ
ローズの外側がほぼ真空、ベローズの内部が大気圧であることが多いので、ベローズの内
外で約1気圧の差が出るように条件を選んである)。なお、この試験条件は、実際の現場
での使用条件よりもはるかに厳しいものである。結果を表2に示す。伸縮回数は、往復を
1回としてある。
【0044】
[表2]

サンプル 伸縮回数 破損部
実施例1 1 60万回でも破損なし (異常なし)
2 60万回でも破損なし (異常なし)
3 60万回でも破損なし (異常なし)
比較例1 1 20.1万回で破損 上部より1山目の外径部の裏側
2 18.4万回で破損 上部より1山目の外径部の裏側
3 22.5万回で破損 上部より19山目の外径部の表側

【0045】
(評価)
1.上記の表2のように、「比較例1」の耐屈曲性は、上記の試験条件下においては伸
縮回数で20万回前後である(低い値の方を基準にすべきであろうから、18万回程度と
見ることができる)。
2.一方、「実施例1」の耐屈曲性は伸縮回数で60万回に達してもなお破損が見られ
ず(60万回で試験を打ち切ったのは、当初の目標をはるかに上回る結果が得られたから
である)、比較例1に比しても耐屈曲性が格段に向上していることがわかる。
【0046】
(実施例2〜4)
実施例1においては、焼結温度にある焼結体(S) を炉内から取り出すと共に、直ちに氷
水(冷媒)中に投入して液没させることにより急冷して、体積が約800cm3 の円筒状の
圧縮成形体(M) を得、ついでベローズ加工のための切削加工を行って製品ベローズ(B) を
得ているが、実施例1と同様にして体積が約150cm3 (実施例2)、約200cm3 (実
施例3)、約300cm3 (実施例4)、約500cm3 (実施例5)の円筒状の圧縮成形体
(M) を得た後、ベローズ加工のための切削加工を行って製品ベローズ(B) につき耐屈曲性
を測定したときも、対応する徐冷品から作製したベローズに比し、格段にすぐれた耐屈曲
性が得られることを確認している。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の高耐久性ベローズは、バルブ、ポンプをはじめとする流体制御装置に使用され
る。たとえば、半導体製造装置、医薬品やバイオ関連製品において、薬液の循環や移送の
ための配管系統に組み込まれるベローズとして利用される。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の高耐久性ベローズの製造法の工程図である。
【図2】円筒状の圧縮成形体(M)の縦断面図である。
【図3】図2の円筒状の圧縮成形体(M)を機械切削加工することにより得たベローズ(B) の縦断面図(ベローズ形成部(1) の山数をごく少なく描いた模式図)である。
【符号の説明】
【0049】
(P) …予備成形品、
(S) …焼結体、
(M)…圧縮成形体、
(B) …ベローズ、
(1) …ベローズ形成部、
(1a)…内径部、(1b)…外径部、
(2) …フランジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリテトラフルオロエチレン系樹脂製の円筒状の圧縮成形体(M) を機械切削加工するこ
とにより形成したベローズ(B) であって、
その円筒状の圧縮成形体(M) の体積が100cm3 以上であること、および、
その円筒状の圧縮成形体(M) を機械切削加工して得られたベローズ(B) のベローズ形成
部(1) の内径部(1a)および外径部(1b)の密度法による結晶化度をそれぞれa、bとすると
き、aが55%以下でかつbが56%以下であること、
を特徴とする高耐久性ベローズ。
【請求項2】
(イ)ポリテトラフルオロエチレン系樹脂の粒子を金型内に充填して圧縮することによ
り製造された円筒状の予備成形品(P) を準備すること、
(ロ)その予備成形品(P) をフリーベーキング法により炉内にて加熱することにより焼
結すること、
(ハ)その焼結後の焼結温度にある焼結体(S) を炉から取り出すと共に直ちに氷水の温
度以下の冷媒中に液没させることによって一挙に急冷することにより、体積が100cm3
以上である円筒状の圧縮成形体(M) を得ること、および、
(ニ)その円筒状の圧縮成形体(M) に対して機械切削加工を行うことにより、ベローズ
形成部(1) の内径部(1a)の内径部(1a)および外径部(1b)の密度法による結晶化度をそれぞ
れa、bとするとき、aが55%以下でかつbが56%以下であるベローズ(B) を作製す
ること、
を特徴とする高耐久性ベローズの製造法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−196420(P2011−196420A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−61969(P2010−61969)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(591056097)淀川ヒューテック株式会社 (25)
【Fターム(参考)】