説明

高耐久性磁性流体

軟質及び硬質鉄粒子の混合物、有機ベースのキャリア流体、及び任意成分の添加剤、例えば耐摩擦、耐摩耗、又は界面活性物質を含有する磁性流体は、振動及び/又はノイズの制御装置、例えばショックアブソーバー、弾性マウント、ダンパー等に使用される場合、意外にも改善された耐久性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(クロスリファレンス)
この特許出願は、ここに出典明示により全体を援用する「高耐久性磁性流体」について2009年6月1日に出願された米国仮出願第61/182773号に基づく利益及び優先権を主張する。
【0002】
(発明の分野)
本発明は改善された耐久性を有する磁性流体組成物に関する。より詳細には、本発明は相対的に硬質の粒子と相対的に軟質の粒子、好ましくは鉄粒子の混合物を含む磁性流体組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
磁性流体は、磁界分極性粒子成分と液体キャリア(担体)成分を含む磁場応答性流体である。磁性流体は振動及び/又はノイズを制御するための装置又はシステムにおいて有用である。磁性流体は、ダンパー、ショックアブソーバー、弾性マウント等の様々な装置における減衰制御に対して提案されている。磁性流体はまたブレーキ、クラッチ、及び弁における圧力及び/又はトルクを制御する際での使用についてもまた提案されている。磁性流体は、より高い降伏強度を示し、より大なる減衰力を生じせしめうるので、多くの用途において電気粘性流体よりも優れていると考えられる。
【0004】
粒子成分組成物は典型的にはミクロン粒径の磁気応答性粒子を含む。磁場の存在下で、磁気応答性粒子は分極化し、それによって粒子又は粒子フィブリルの鎖に組織化される。粒子鎖は流体の見かけ粘度(流れ抵抗)を増加させ、磁性流体の流れの発生を誘導するために超えられなければならない降伏応力を有している固体塊を生じせしめる。粒子は、磁場が取り除かれると未組織化状態に戻り、これが流体の粘度を低下させる。
【0005】
磁性(MR)流体はキャリア流体内に分散した小さな球状の強磁性又は常磁性粒子から構成される。磁気粒子径が小さいと懸濁化を容易にし、小ギャップを有する装置の設計を可能にする。標準的なカルボニル鉄(CI)、つまり一般的に用いられる鉄は、鉄ペンタカルボニル蒸気から気相分解法によって誘導され、相対的に高炭素含有量の球状粒子を生じる。標準型CIの還元によって調製され、炭素含有量が非常に低い還元型CIもまた使用され得る。しかしながら、標準型及び還元型CIは他のタイプの鉄に比べて些か高価である。更に、カルボニル鉄の使用は、そのようなCI粒子を得るため使用されるプロセスのために使用できる冶金範囲に制約をもたらす。
【0006】
主要な自動車サスペンションダンパーに使用される低価格のMR流体の開発が数年にわたって進められている。主要な焦点は、従来の流体中で使用される現在の高コストのカルボニル鉄(CI)に換わる低コストの水噴霧鉄(WAI)粒子の使用にあった。WAI粒子の製造法は当該分野及び文献で知られており、一般に鉄又は鉄合金を溶融し、それを小オリフィスから流して薄い流れを形成し、溶融流に高圧水噴霧を施して金属粒子を形成することに関する。より大きな水噴霧鉄(WAI)粉が、耐久性要件を満たしうるかどうかを決定することに多大な努力がなされてきたが、今日まであまり成功していない。良好な耐久性を示すように特に案出されたMR流体においてCIを大きなWAIに単に置換するのは許容できない耐久性の流体を生じる。大きなWAIでMR流体処方を最適化する試みは成功しなかった。
【0007】
大きなWAI流体を含む流体における耐久性不足の根本的な原因は、機械加工を通して鉄粉末が分解する結果、多量の微細粒子(径1ミクロン未満)が生じることにある。
【0008】
従って、耐久性基準に合致し、機械加工の期間後に分解した微細粒子を僅かしか生じない水噴霧粒子を用いる磁性(MR)流体を提供することが望ましいであろう。
【発明の概要】
【0009】
本発明の一実施態様では、磁性流体はキャリア流体及び少量の比較的硬質の粒子又は粉体との比較的軟質の微粒子水噴霧鉄粒子又は粉体の混合物を含有する磁性流体が提供される。本発明の他の実施態様では、キャリア流体としての炭化水素油と、任意成分の増粘剤及びMR流体に典型的な他の添加剤を更に含有するMR流体処方剤(製剤)が提供される。
【0010】
本発明は、カルボニル鉄を水噴霧鉄で置き換える場合に特に有用性を有しているが、鉄粒子の何れか一方又は両方のセットがカルボニル鉄を含むことも本発明の実施態様の範囲である。
【0011】
本発明の他の実施態様では、疎水性キャリア油、懸濁助剤、及び少量又は些細な量の有意に硬質の金属粉、例えば、鉄と軟質の水噴霧鉄粉の混合物を含有するMR流体が提供される。界面活性剤及び摩耗及び摩擦を低減させ、酸化抵抗を改善するための他の添加剤を含む、当該分野及び文献で知られている他の添加剤をまた添加することもできる。
【0012】
様々な硬さの粒子又は粉体の混合物を含むMR流体は、予期せぬことに、軟質の水噴霧鉄粉のみを利用するMR流体よりも優れた耐久性及び装置摩耗特性をもたらす。様々な添加剤の使用がまた耐久性を改善する。
【0013】
本発明の一態様では、2つのクラスの磁気応答性粒子の混合物を含有し、一つのクラスが相対的に硬質で約1ミクロンから約150ミクロンの平均粒径範囲を有し、他方のクラスが相対的に軟質で約1ミクロンから約100ミクロンの平均粒径範囲を有する磁性流体が開示され、ここで該流体はフルオロカーボンを含まない。
【0014】
本発明の他の態様は、磁性流体の形成方法において、硬質の磁気応答性粒子及び軟質の磁気応答性粒子をキャリア流体と混合する工程を含み、前記磁性流体はフルオロカーボンを含まず、前記硬質粒子は1ミクロンから150ミクロンの平均粒径範囲を有し、軟質粒子は1ミクロンから100ミクロンの平均粒径範囲を有する方法である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明において利用される磁気応答性粒子又は粉体は、磁性活性を示すことが知られている任意の固体でありうる。本発明において有用な典型的な粒子成分は、例えば常磁性、超常磁性又は強磁性化合物からなる。使用されうる磁気応答性粒子の特定の例は、例えば、鉄、鉄合金、酸化鉄、鉄窒化物、炭化鉄、カルボニル鉄、二酸化クロム、低炭素鋼、ケイ素鋼、ニッケル、コバルト、及びそれらの混合物のような材料からなる粒子を含む。酸化鉄は、あらゆる既知の純粋な酸化鉄、例えばFe及びFe、並びにマンガン、亜鉛又はバリウムのような他の元素を少量含むものを包含する。酸化鉄の特定の例は、フェライト及び磁鉄鋼(マグネタイト)を含む。また、磁気応答性粒子成分は、既知の鉄合金の任意のもの、例えば、アルミニウム、ケイ素、コバルト、ニッケル、バナジウム、モリブデン、クロム、タングステン、マンガン及び/又は銅を含むものからなりうる。しかしながら、カルボニル鉄は好ましくなく、従って本発明から除外(つまり、含まない)することができる。すなわち、本発明のその組成物中のその任意の量は、全鉄粒子の総重量を基準として、10%未満、望ましくは5重量%未満又は2%重量未満、又はゼロである。
【0016】
本発明において磁気応答性粒子として使用されうる鉄合金は、鉄−コバルト及び鉄−ニッケル合金を含む。磁性組成物に使用するのに好ましい鉄−コバルト合金は、約30:70から95:5、好ましくは約50:50から約85:15の範囲の鉄:コバルト重量比を有する一方、鉄−ニッケル合金は、約90:10から約99:1、好ましくは約94:6から97:3の範囲の鉄−ニッケル重量比を有する。鉄合金は、合金の延性及び機械的性質を改善するために、少量の他の元素、例えばバナジウム、クロム等を含みうる。これらの他の元素は、典型的には、約3.0重量%未満である量で存在する。
【0017】
本発明の好ましい実施態様では、約97.0から約99.9重量パーセント、望ましくは約98から約99.5重量パーセント、好ましくは約98.5から約99.5重量パーセントの鉄含有量を有する磁気応答性軟質粒子が利用される。そこでの炭素の量は一般的には0.05重量パーセント未満、好ましくは約0.02重量パーセント未満である。本発明の好ましい軟質鉄粒子はまた低量のクロム及びホウ素を含む。例えば、クロムの量は一般に約0から約2重量パーセント、好ましくは約0.1から約1.5重量パーセントである。ホウ素の量は一般に約0から約2重量パーセント、好ましくは約0.1から約0.9重量パーセントの範囲である。
【0018】
軟質鉄粒子の形態は、SEM写真から判断して、比較的滑らかな表面を持ち、実質的に球形である。軟質鉄粉体の平均粒径は、MR流体に典型的な範囲、すなわち約1又は約5から約100ミクロン、好ましくは約2から約8ミクロン内でありうる。軟質粉体の硬度は、微小圧痕によって測定して、典型的には約400H(ビッカーズ硬度)未満、好ましくは約50から約300Hである。
【0019】
本発明の硬質鉄粒子はまた高鉄含有量で、一般に約85から約95重量パーセント、望ましくは約88から約96重量パーセントである。そのなかの炭素の量は一般には約0から約1.0重量パーセント、好ましくは約0.01から約0.8重量パーセントである。硬質鉄粒子は、一般に約0から約3重量パーセント、好ましくは約0又は0.1から約2.5重量パーセントのクロムを含む。そのなかのホウ素の量は一般に約0から約4.0重量パーセント、好ましくは約2.0から約3.5重量パーセントである。ケイ素の量は、約0.5から約7.0重量パーセント、好ましくは約1.0から約4.0重量パーセントの範囲である。
【0020】
硬質粒子又は粉体の形態は滑らかな表面をもつ略球状であるべきである。硬質粒子は、その最良の効果を得るのは、軟質鉄粉体のものと等しいか又は僅かに大なる平均粒径を有しているべきであり、つまり、1.0から約1.3倍大きい。適した粒子径は一般に約1又は約3ミクロン又は約5から約150ミクロンの範囲で、望ましくは約1又は約2から約10ミクロンである。硬質粒子の硬さは、それが使用される装置の金属の硬さに匹敵するものであるべきである。硬質粒子の適したビッカーズ硬度は、約550から約1100H、望ましくは約600から約1050Hである。
【0021】
本発明の一実施態様では、硬質鉄粒子の量は、総鉄粒子含有量、つまり、硬質粒子及び軟質粒子の総重量の、約20%未満で、約5%より多くあるべきであり、その範囲は、流体が使用される装置の特定の機械的性質に依存する。硬質鉄粒子の量の一般的な範囲は、MR流体に使用される一又は複数の硬質鉄粒子及び一又は複数の軟質鉄粒子の総重量を基準にして約5重量%から約50重量%、望ましくは5重量%又は8重量%から約30重量%又は約40重量%、好ましくは約10重量%から約20重量%である。とはいっても、軟質鉄粒子は、一又は複数の硬質鉄粒子及び一又は複数の軟質鉄粒子の総重量に基づいて、約50%から約95%、望ましくは約60重量%又は70重量%から約92重量%又は約95重量%、好ましくは約80重量%から約90重量%の量で存在する。約20重量%を越える硬質鉄粒子を含む混合物は装置には摩耗性すぎ、約5%未満の混合物は所望の耐久性の改善を示さない場合がある。
【0022】
水噴霧法によって製造される鉄粒子が軟質及び硬質鉄粒子両方に対して好ましい。
【0023】
本発明の鉄粒子は、MR流体に直ぐに分散されるため、被覆されていない、つまり、高分子電解質、親水性界面活性剤等の如何なる被覆もなされていない。すなわち、何らかの高分子電解質又は親水性界面活性剤が利用される場合、それは少量であり、例えばMR流体の重量100重量部に対して、一般に0.5重量部又はそれ未満、望ましくは約0.3重量部又はそれ未満であり、好ましくは親水性界面活性剤が使用されない。
【0024】
本発明の磁性流体を形成するために使用されるキャリア流体は、一般に刊行物及び当該分野で知られている任意のキャリア流体でありうる。
【0025】
好ましい実施態様では、キャリア流体は、有機流体、又はオイルベースの流体、つまり疎水性流体である。使用可能な適したキャリア流体は、天然の脂肪油、鉱油、ポリフェニルエーテル、二塩基酸エステル、ネオペンチルポリオールエステル、リン酸エステル、合成シクロパラフィン及び合成パラフィン、合成未飽和炭化水素油、一塩基酸エステル、グリコールエステル及びエーテル、ケイ酸エステル、シリコーン油、シリコーン共重合体、合成炭化水素、及びその混合物又はブレンドを含む。他の最適な流体の例は、シリコーン油、シリコーン共重合体、ホワイトオイル、油圧油、及び変圧器油を含む。炭化水素、例えば鉱油、パラフィン、シクロパラフィン(ナフテン油としても知られている)及び合成炭化水素はキャリア流体の好ましいクラスである。合成炭化水素油は、ポリブテンのようなオレフィンのオリゴマー化から誘導された油及び酸触媒二量体形成によって及びトリアルミニウムアルキル類を触媒として用いたオリゴマー化によって3から20の炭素原子の高αオレフィンから誘導された油を含む。本発明において利用されるキャリア流体は、当該分野でよく知られている方法によって調製することができ、多くのもの、例えばデュラシン(Durasyn)(登録商標)PAO及びChevron Synfluid PAOが市販されている。シリカゲルのような様々なゲルは、装置において摩耗性過ぎるため、避けられる。
【0026】
使用される一又は複数の軟質鉄粒子及び一又は複数の硬質鉄粒子の全量は、キャリア流体100重量部に基づいて、約50重量部から約90重量部、好ましくは約60重量部から約89重量部である。
【0027】
本発明のMR流体は、当該分野及び刊行物で知られている様々な添加剤、例えば減摩剤、摩耗防止剤、極圧添加剤、抗酸化剤、様々な界面活性物質、チキソトロープ類、粘度調整剤等を含みうる。望まれる最終用途に応じて、それぞれのタイプの作用剤の量はMR流体100重量部に基づき約0.1重量部から約3重量部のように様々で有りうる。そのような全添加剤の全量は、望ましくはMR流体100重量部に対して約1重量部から約5重量部、好ましくは約2重量部から4重量部である。
【0028】
しかしながら、上述の発明には沈降防止という課題がないことから、MR流体に沈降防止特性を付与するフルオロカーボングリースを使用することは本発明の態様ではない。従って、本発明は、如何なるフルオロカーボングリースも含まず、つまりMR流体100重量部に対して約0.01重量部未満、望ましくは0.005重量部未満、好ましくはゼロ重量部の任意のフルオロカーボングリースを含む。
【0029】
様々な添加剤のうち、特に適した添加剤は、有機モリブデン添加剤、有機リン硫黄添加剤、又は該2つの添加剤の組合わせである。適した有機モリブデン添加剤は、その構造が少なくとも一つの有機部分に結合した又はそれと配位した少なくとも一のモリブデン原子を含んだ化合物又は錯体で有りうる。有機部分は、例えば、アルカン、又はシクロアルカンのような飽和又は不飽和炭化水素;フェノール又はチオフェノールのような芳香族炭化水素;カルボン酸又は無水物、エステル、エーテル、ケト又はアルコールのような酸素含有化合物;アミジン、アミン又はイミンのような窒素含有化合物;又はチオカルボン酸、イミド酸、チオール、アミド、イミド、アルコキシ又はヒドロキシアミン、及びアミノ−チオール−アルコールのような一を越える官能基を含む化合物から誘導されうる。有機部分の前駆体は単量体化合物、オリゴマー又は重合体でありうる。有機部分に加えて、=O、−S、≡Nのようなヘテロ原子もまたモリブデン原子と結合され又は配位されうる。
【0030】
有機モリブデンの特に好ましい群は、米国特許第4889647号及び米国特許第5412130号に記載されており、後者は、相間移動剤の存在下で、ジオール、ジアミノ−チオール−アルコール及びアミノ−アルコール化合物をモリブデン源と反応させることによって調製される複素環有機モリブデン酸塩を記載している。米国特許第4889647号は、脂肪油、ジエタノールアミン及びモリブデン源を反応させることによって調製される有機モリブデン錯体を記載している。米国特許第4889647号及び米国特許第542130号に従って調製される有機モリブデンは、商品名Molyvan(登録商標)855の下でR.T.Vanderbilt社から入手できる。
【0031】
有用でありうる有機モリブデンは、アミン−アミドをモリブデン源と反応させることによって調製される有機モリブデンを記載している米国特許第5137647号、モリブデンヘキサカルボニルジキサントゲンを記載している米国特許第4990271号、ヒドロカルビル置換ヒドロキシアルキル化アミンをモリブデン源と反応させることによって調製される有機モリブデンを記載している米国特許第4164473号、及びモリブデン酸のアルキルエステルを記載している米国特許第2805997号に記載されている。
【0032】
有機モリブデン化合物に関する上記特許の全てを出典明示により全体をここに援用する。
【0033】
磁性流体に加えられる有機モリブデン添加剤は、周囲の室温で液体状態にあり、分子サイズ以上の粒子を含まない。
【0034】
使用されうる様々な有機リン硫黄添加剤は、式

[上式中、R及びRは各々独立して
Y-(C)(R)(R))-O-
で表される構造を有し、
ここで、Yは水素、あるいは、アミノ、アミド、イミド、カルボキシル、ヒドロキシル、カルボニル、オキソ又はアリールのような部分を含む官能基であり;
nは2から17の整数で、C(R)(R)が直鎖状脂肪族、分岐鎖脂肪族、複素環、又は芳香環のような構造を持つ二価基であり;
及びRは各々個別に水素、アルキル又はアルコキシであり得;
wは0又は1である]
を有しうる。
【0035】
このような有機リンイオウ化合物の詳細な説明は米国特許第5683615号に記載されており、ここに出典明示により全体を援用する。
【0036】
他の適切な添加剤は、出典明示により全てをここに完全に援用する米国特許第7217372号;第6203717号;第5906676号;第5705805号;及び第5683615号において検討されているものを含む。
【0037】
一又は複数の有機モリブデン添加剤及び一又は複数の有機リンイオウ添加剤の全量は、一般に、MR流体100重量部当たり、約0.1重量部から約3.0重量部、好ましくは約0.2重量部から約2.0重量部である。
【実施例】
【0038】
次の実施例は例示するもので、本発明の態様を限定しない。
【0039】
表1は、本発明に従って調製した2つの処方剤、並びに一つのタイプの鉄のみを利用する2つの処方剤の、特定の一装置構成における耐久性性能を示している。表中、Fe−300は軟質鉄粒子(H300)であり、「FE−1050」(H1050)、「Fe−680」(H680)、及び「Fe−550」(H550)は硬質鉄粒子である。全ての流体は処方剤中に同じ油及び添加剤を使用して作製され、26容量%の全鉄を含む。基剤流体はロード・コーポレイション,Cary,NCによってMRF−132DGとして販売されている市販流体である。オフ状態でのダンパー力の増加、IUT又は使用中の増粘化(in-use thickening)は、1ミクロン径より小さい有意な割合の粒子を形成する点まで鉄粒子が分解される場合に起こる。ロッドのシール漏れは、シール材上での鉄粒子の過剰な摩耗によって引き起こされる。データは、10%の硬質鉄が流体の耐用寿命を有意に延長させ、IUTを防止したことを示している。20%鉄の流体もまた流体の耐用寿命又はIUTを延長させたが、摩耗が生じてロッドシールが不具合となった。

【0040】
本発明の流体に対する耐久性試験を、金属ハウジング及びその内部に磁気ギャップが位置させられている内部ピストンから成される自動車用リニアダンパーにおいて実施した。BWIグループによって製造されたMagneRide(商標)ダンパーのような装置が好ましい試験装置である。該装置は、通常の装置作動において遭遇することが予想されるものに典型的な振動数及び振幅で、装置をこの励起中に「オン」状態にして、サイン−オン−サイン励起プロファイルを使用して機械的に作動させた。周期的な間隔で、励起状態を休止させ、装置の力の出力をその「オフ」状態(磁気をかけない状態)で試験した。流体の耐久性は、オフ状態の力がその元の値の約50%以内であった場合に許容可能であると考えた。
【0041】
上表から明らかなように、鉄粒子が硬質であろうと軟質であろうと、試験プログラムの早い段階から早々に失敗が生じた。
【0042】
10重量%及び20重量%の硬質鉄をそれぞれ使用した本発明の実施例1及び2は、容易に2Mサイクルを通過した。実施例1と同様に、実施例3及び4は容易に2Mサイクルでの試験を通過した。
【0043】
表2は、装置の改善具合と流体の耐久性の相関関係を示している。標準的な装置では、H400の硬度の水噴霧鉄粉体は装置の摩耗のために早々と不具合を生じた。H250のカルボニル鉄粉は装置によって分解され、また摩耗を生じた。硬質及び軟質両方の鉄粉を含む粉体混合物を使用することにより、特性の適切なバランスが達成され、装置が有意な装置又は粉体の摩耗を伴わないで耐久性試験に合格した(実施例5)。

再度、軟質鉄は流体耐久性試験に不合格であったが、実施例5では装置の摩耗は最小であり、鉄粒子の分解も起こらずに容易に試験を通過した。
【0044】
特許法に従って、ベストモード及び好ましい実施態様を記載したが、本発明の範囲はそれに限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方のクラスは相対的に硬質で約1ミクロンから約150ミクロンの平均粒径範囲を有し、他方のクラスは相対的に軟質で約1ミクロンから約100ミクロンの平均粒径範囲を有する、2つのクラスの磁気応答性粒子の混合物を含む磁性流体であって、フルオロカーボンを含まない磁性流体。
【請求項2】
硬質粒子が鉄合金粒子を含み、硬質粒子が、2つのクラスの磁気応答性粒子の総重量に対して、約50重量%又はそれ未満の量で存在している、請求項1記載の磁性流体。
【請求項3】
軟質粒子が400H未満のビッカーズ硬度を有し、硬質粒子が少なくとも550Hのビッカーズ硬度を有する、請求項2記載の磁性流体。
【請求項4】
磁性流体が更に炭化水素キャリア流体及び場合によっては懸濁助剤を含有する、請求項3記載の磁性流体。
【請求項5】
上記硬質及び上記軟質粒子の総重量に基づいて、上記硬質粒子の量が約5重量%から約30重量%であり、上記軟質粒子の量が約70重量%から95重量%である、請求項4記載の磁性流体。
【請求項6】
上記硬質及び上記軟質粒子の総重量に基づいて、上記硬質粒子の量が約10重量%から約20重量%であり、上記軟質粒子の量が約80重量%から約90重量%であり;かつ上記硬質及び軟質鉄粒子の総量が、上記キャリア流体100重量部当たり、約50重量部から90重量部である、請求項5記載の磁性流体。
【請求項7】
上記硬質及び軟質鉄粒子の総量が上記キャリア流体100重量部当たり、約60重量部から約89重量部であり;上記硬質粒子の平均粒径が約2から約10ミクロンであり、上記軟質粒子の平均粒径が約2から8ミクロンである、請求項6記載の磁性流体。
【請求項8】
組成物が有機モリブデン添加剤又は有機リンイオウ添加剤、又はそれらの組合わせを更に含む、請求項1記載の磁性流体。
【請求項9】
組成物が有機モリブデン炭化物又は有機リンイオウ添加剤、又はそれらの組合わせを更に含み;上記磁性流体が自動車用リニアダンパーにおいて少なくとも2.0百万サイクルの耐久性を有している、請求項6記載の磁性流体。
【請求項10】
軟質粒子が約50から約300Hのビッカーズ硬度を有し、硬質粒子が約600Hから約1050Hのビッカーズ硬度を有する、請求項3記載の磁性流体。
【請求項11】
磁性流体を形成する方法において、
硬質磁気応答性粒子及び軟質磁気応答性粒子をキャリア流体と混合する工程を含み、上記磁性流体がフルオロカーボンを含まず、上記硬質粒子が1ミクロンから150ミクロンの平均粒径範囲を有し、上記軟質粒子が1ミクロンから100ミクロンの平均粒径範囲を有する、方法。
【請求項12】
軟質粒子が400H未満のビッカーズ硬度を持ち、硬質粒子が少なくとも550Hのビッカーズ硬度を持つ、請求項11記載の方法。
【請求項13】
上記硬質及び軟質粒子の総量重量に基づいて、上記硬質粒子の量が約5重量%から約30重量%であり、上記軟質粒子の量が約70重量%から95重量%である、請求項12記載の方法。
【請求項14】
上記硬質及び軟質粒子の総重量を基準として、上記硬質粒子が約10重量%から約20重量%であり、上記軟質粒子は約80重量%から90重量%であり;上記硬質及び軟質鉄粒子の量が、上記キャリア流体100重量部当たり、約50から90重量部である、請求項13記載の方法。
【請求項15】
軟質粒子が約50から約300Hのビッカーズ硬度を有し、硬質粒子が約600Hから約1050Hのビッカーズ硬度を有する、請求項14記載の方法。
【請求項16】
上記硬質及び軟質鉄粒子の量が、上記キャリア流体100重量部当たり60重量部から89重量部であり;上記硬質粒子の平均粒径が約2から約10ミクロンであり、上記軟質粒子の平均粒径が約2から約8ミクロンである、請求項15記載の方法。
【請求項17】
組成物が有機モリブデン添加剤又は有機リンイオウ添加剤、又はそれらの組合わせを更に含む、請求項16記載の方法。

【公表番号】特表2012−529160(P2012−529160A)
【公表日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−513278(P2012−513278)
【出願日】平成22年5月28日(2010.5.28)
【国際出願番号】PCT/US2010/036513
【国際公開番号】WO2010/141336
【国際公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(505127617)ロード コーポレイション (15)
【Fターム(参考)】