説明

高耐久性補修塗装工法

【課題】橋梁などの大面積を有する鋼構造物や、保管中の製鉄工程中間製品などに形成された厚いさびや固着さびを簡単かつ高速に、効率的かつ効果的に、しかも低コストでありながら高い作業性と安全性を確保でき、さらには高品質な補修後の塗装耐久性を確保しうる、高耐久性補修塗装工法を提供する。
【解決手段】塗装鋼板または無塗装の鋼構造物の維持管理局面において、腐食の進行を抑制するための補修塗装を行う際に、素地露出面積率が60%以上とする工程Aの後に、事前処理液として、5g/L以上500g/L以下の炭酸ナトリウム水溶液を塗布する工程Bを実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装または無塗装の鋼構造物、具体的には鋼橋梁、鋼製建築物、鋼製プラント、鋼製荷役機械等の維持管理に関し、特に当該構造物の腐食の進行による劣化を抑制し長期間の使用を可能とするための補修塗装工事を行うに当たり、高効率で且つ環境負荷に配慮し、さらに補修部分の高耐久性が十分に確保される工法に関する。
【背景技術】
【0002】
塗装鋼板および無塗装鋼板の鋼構造物は、鋼橋梁、鋼製建築物、鋼製プラント、鋼製荷役機械等が既に建設されており、社会や企業のインフラストラクチャーとして機能している。これら鋼構造物を長期間に渡って使用していくためには、時間の経過とともに進行する腐食に対応する維持管理が重要である。現状、実際の鋼構造物の補修塗装工事を行うに際しては、非特許文献1に示されている工法が鋼橋梁以外の分野でも指針とされている。これによれば、鋼道路橋の新設時の外面用塗装系を架橋地点の腐食環境に応じて、一般の環境に用いられるa塗装系とやや厳しい環境で用いられるb塗装系と潮風が強く飛来塩分の影響を強く受ける厳しい環境で用いられるc塗装系の3つに大別して規定しており、また、それぞれの塗替え塗装系をa塗装系、b塗装系、c塗装系として規定しており、素地調整から下塗り、中塗り、上塗り等の仕様が示されている。
素地調整の規定では、新設時ではブラスト法でISO8501−1に規定されたSa2.5、塗替え塗装系では2〜4種ケレンとされているが、塗替え時においても1種ケレン(ブラスト法)が最も優れていることと、周辺汚染の防止が容易でなく費用も高いことから多くの場合は3種ケレン(動力工具と手工具による方法)が採用されることなどが説明されている。一方、非特許文献2においては動力工具の組み合わせによる耐食低合金鋼の厚いさび除去は、塗装の下地処理としては不十分と評価され、腐食の進行が著しい場合の厚いさび除去にはブラスト法を用いることが標準として記述されている。高耐久性補修塗装を行うにはブラスト法が最も優れていることがわかるものの、ブラスト法は騒音や粉塵による周辺環境への影響や使用済み研掃材の産業廃棄物処理等で環境負荷が大きいという問題がある。
【0003】
補修塗装の対象面に塩分が多量に付着している場合は、塩分を除去した後に塗装することが必要とされる。許容付着塩分量は100mg−NaCl/m2以下としている場合が多く、塩化物イオン検知管等にて測定し、前記の許容値を越えた場合は水洗等で塩分除去を行わねばならない。しかし、水洗に用いた使用済水を周辺環境に廃棄することはできず、漏洩を完全に防止する方法や回収して別途廃液処理するには膨大なコストがかかるという問題がある。
【0004】
素地調整と付着塩分除去の次工程については、現在のところc塗装系に基づく塗装が最も厳しい腐食環境に耐える仕様と考えられるが、鋼構造物の維持管理の効率化として補修塗装周期を延長するためにはc塗装系と同等以上の耐久性を有する工法が求められている。c塗装系の代表例であるc−1塗装系の内容は、素地調整と必要に応じ水洗を行った後、有機ジンクリッチプライマー(300mg/m2)に変性エポキシ樹脂塗料下塗り(240mg/m2)を2回にポリウレタン樹脂塗料中塗り(140g/m2)にポリウレタン樹脂塗料上塗り(120g/m2)行うトータル5回塗りの高価なものである。特許文献1では、補修塗装コスト削減を塗り回数を減らす観点から塗料を改良して一度の刷毛塗りで乾燥膜厚100μm以上を可能とする塗料組成物が開示されている。しかし、鋼構造物の維持管理として指針となっているc塗装系と耐久性を比較評価して同等以上となる工法を提案した例はない。
以上のように、鋼構造物の維持管理問題を解決へ導くためには、現有技術であるブラスト法による素地調整、水洗による付着塩分除去、c塗装系による塗装では十分とは言えない状況にある。
【0005】
【非特許文献1】社団法人 日本道路協会編集 鋼道路端塗装便覧 丸善株式会社 1990.6.10.発行
【非特許文献2】三木千壽、市川篤司 編集 現代の橋梁工学 塗装しない橋と鋼の技術最前線 理数工学社 2004.12.25発行
【特許文献1】特開2001−131468号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の問題点に鑑み、本発明は、塗装または無塗装の鋼構造物の維持管理において、腐食の進行を抑制するための補修、塗装を行なう際の効率的かつ効果的な高耐久性補修塗装工法を提供することが課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記の課題を解決するためになされたものであり、その要旨とするところは、以下のとおりである。
(1)塗装または無塗装の鋼構造物の補修塗装を行う際に、素地調整により塗装又は無塗装の鋼構造物の素地露出面積率を60%以上とする工程Aの後に、事前処理液として、5g/L以上500g/L以下の炭酸ナトリウム水溶液を塗布する工程Bを実施することを特徴とする高耐久性補修塗装工法。
(2)前記A工程の素地調整を、回転駆動装置の回転軸に取り付けるための中心部の取付部及び研削盤面と研削周面で構成される研削面を有する金属回転盤からなる回転研削工具であって、金属回転盤の研削面の一部または全部に、20個/cm2以上の面密度となるようにモース硬度9を超える硬質粒子が蝋付けされ、この硬質粒子と蝋材とにより形成された突起部の高さをH、直径をDとしたとき、平均Hは300μm以上、平均H/Dは0.3以上であって、突起部の硬質粒子に外接する仮想球を用いて、蝋材の表面から露出している硬質粒子の露出表面積率を求めたとき、平均露出表面積率が10%以上である回転研削工具を用いて行うことを特徴とする(1)に記載の高耐久性補修塗装工法。
(3)前記の工程Bの後に、バインダー樹脂100質量部(固形分重量)、亜鉛粉末200〜800質量部、腐食性イオン固定化剤成分を1〜95質量部、それらを分散するための溶媒200〜1000質量部を含有する高防食性亜鉛粉末含有塗料組成物を塗布する工程Cを実施することを特徴とする(1)または(2)に記載の高耐久性補修塗装工法。
(4)前記BまたはC工程を実施した後に、1層以上の塗装を施すことを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の高耐久性補修塗装工法。
【発明の効果】
【0008】
従来の素地調整は動力工具による場合が多いが、その素地調整品質は不十分ことが多く、特に進行した腐食面や耐候性鋼等の耐食性低合金鋼の固着さび除去についてはブラスト法によるしかなかった。しかし、ブラスト法は周辺環境への汚染防止のため研掃材の飛散防止のための養生および足場仮設の工事費用が高いとともに、騒音やダスト及び使用済み研掃材の処理の問題もあり今後さらに採用されにくい。
本発明により、塗装鋼板および無塗装鋼板の鋼構造物の補修塗装において、ブラスト法を用いない素地調整と、付着塩分が許容値を越えた場合に必要となる水洗工程を省略することが可能となる。本発明ではコスト面でも環境面でも問題をかかえるブラスト法を用いずに高品質の素地調整を効率的に行うことができるとともに、素地調整面に残存する塩化物イオン等の腐食性物質を水洗により除去するのではなく、それらを無害化し固定化することもできる。このように、高耐久性補修塗装が飛躍的に低コストで且つ環境負荷の小さい形態で実現できる。また、本発明により、鋼構造物の長寿命化をこれまでより容易に、簡単で、かつ確実に図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明の耐久性補修塗装工法は、本発明の(1)に記載のように、補修或いは塗装補修のために、処理対象とする鋼構造物の鋼材表面を研削、研磨或いはショットブラストなどの下地処理によって、素地露出面積率60%以上とするのは工程Aと、その後、所定の濃度の炭酸ナトリウム水溶液を塗布する工程Bを施すものである。
工程Aの素地調整処理においては、その方法は、特に限定するものではなく、従来の素地調整方法、例えば、ショットブラストや、回転砥石や研削デイスク等を電動回転駆動装置に取りつけたグラインダー、ディスクグラインダーなどのような工具を使用することができる。これらを使用することにより、処理対象面を研削して素地露出面積率(処理対象面の素地露出面積/処理対象面の面積)が60%以上となるようにするものである。素地露出面積率が60%未満であると、腐食活性点が多く鋼材の処理対象面に多く残留している可能性が高く、本発明の工法による補修のみとして塗装を施さない場合はさびが再成長し、また、本発明の補修に引き続いてこの面に塗装処理を施した場合でも塗料との密着性が劣ることとなり、いずれも、短期間に再度補修する必要が生じる。従って、素地露出面積率は60%以上となるようにする。
【0010】
このA工程を施した後、事前処理液として、炭酸ナトリウムを含有する水溶液を塗布する工程を施すものである。この事前処理液は、腐食性物質を無害化し、腐食活性点を検知すると共に、さらに処理面の乾燥状態を検知できるものである。以下、事前処理液について説明する。素地露出面に付着した腐食性物質として主に付着塩分によるCl-やSO4-等の腐食性イオンを無害化し、その後のプライマー塗布を含む塗装工程に必要な乾燥状態を保障するために行うこれまでに無い工程である。素地露出面は放置すると腐食しやすい状態であり、そこにCl-やSO4-等の腐食性物質が存在すると著しい戻りさびが発生する。腐食性物質のうちCl-は付着塩分によるものであり、従来法において付着塩分を水洗するのは、この除去のためである。
【0011】
ところで発明者らは、アルカリ性水溶液の一時防錆効果を確認するため、1回/週の頻度で5%濃度の塩水を4回散布して得られたさび付き鋼板を試験片とし、これをSt3に素地調整し、その表面に(a)〜(c)に示す数種類のアルカリ性水溶液を塗布し一晩室内に放置して、発錆状況を調査した。その結果、
(a)炭酸ナトリウム水溶液(濃度100g/リットル)塗布(pH11.7)→ 発錆なし。
(b)アンモニア水(濃度600mg/リットル)塗布(pH11.4) → 面積で1%程度の点錆数発生。
(c)チオ硫酸ナトリウム(濃度4g/リットル)塗布(pH8.6) → 面積で3%程度の点錆数発生。
という状況であった。
これより、pH9未満のアルカリ水溶液では十分な一時防錆効果は得られないことと、pH12以下で効果があること、更に、実験したアルカリ性水溶液の中では100g/L炭酸ナトリウム水溶液が最も良い一時防錆効果が得られた。このようなことから、発明者らは、さらに事前処理液中の炭酸ナトリウム濃度についても検討を行った。5g/L未満では、一晩室内放置後に点錆が発生していたのに対し、5g/L以上であれば発錆は見られなかった。点錆発生までの期間を測定すると、濃度が高いほど点錆発生期間が長くなった。5g/Lの事前処理液では2日後に発錆が認められたのに対し、100g/Lでは40日後に発錆が認められ、その間の濃度ではほぼ比例的な関係が得られた。100g/Lを超え500g/Lまでの濃度範囲では、5〜100g/Lの濃度範囲とは別の比例関係が見出され、500g/Lでは60日後の発錆が認められた。このようなことから、腐食性物質を無害化し腐食を停止または抑制する事前処理液の濃度を設定した。
【0012】
すなわち、事前処理液とは具体的に、5g/L以上500g/L以下の炭酸ナトリウム水溶液である。この液は、pH9〜12の人体や環境に無害な液であると同時に、高pHであることから、残留する固着さびに浸透し、さび/鋼界面を不動態化して腐食を停止または抑制する。さび物質の表面化学的作用により、固着さび中に取り込まれた塩化物イオンを炭酸イオンにイオン交換し、塩分を腐食界面から離脱させる。素地露出面積率60%以上の鋼材表面が得られれば、鋼材表面に1500mg/m2以上の付着塩分が検出された場合でも、事前処理液として100g/Lの炭酸ナトリウム水溶液を塗布することにより腐食性物質である塩化物イオンの作用を無害化できる。
【0013】
この事前処理液を塗布すると、残留する固着さびが暗褐色に変化し、水分が付着した状態であっても戻りさびが発生しない。すなわち、腐食活性点が死滅したことになる。ただし、素地露出面積率60%未満の鋼材表面や、時に深い固着さびが形成しているときには、事前処理液を塗布しても戻りさびが出ることがある。これは、工程Aと工程Bで得た当該表面に、まだ腐食活性点が存在することを示すものであり、事前処理液を塗布することにより腐食活性点の有無を検知することができることも判った。すなわち、この事前処理液は腐食活性点検知剤としての機能を有する。事前処理液を塗布してもまだもどり錆びが発生する場合には、その部分だけ工程Aに記載の処理を再度行い、再度工程Bを行って、腐食活性点が完全になくなったことを確認する。
【0014】
事前処理液は水溶液であるため乾燥すると炭酸ナトリウムの粉末が晶出する。これは、工程Cに入る前に母材表面が十分乾燥した状態になったことを示すものであり、この事前処理液は鋼面乾燥状態指示剤としても機能することを見出した。このような事前処理液を塗布する工法は、補修塗装を施す鋼面の状態を監視し、補修塗装において最も重要な素地調整面の品質保障を可能とする従来に無い技術と言える。塗装する場合は、晶出した粉を電動回転工具に取り付けたナイロンカップワイヤーブラシなどで除去して、次の塗装工程に入ればよい。電気掃除機のような装置で吸引も同時に行えば、乾燥した炭酸ナトリウム結晶を周囲に飛散させることもない。これにより、従来塩分除去のためにおこなっていた水洗を省略できるため、現地への給水に必要な設備の用意を不要とすることができ、排水処理などの手間を省略できる。
【0015】
上述のように、本発明の高耐久性補修塗装工法において、素地露出面積率を60%以上とするための素地調整方法は、特に限定するものではなく、ショットブラスト法を、砥石を用いた回転研削工具や研削円盤を用いたディスクグラインダーなど一般に使用される研削工具を用いることができる。しかしながら、本発明の(2)に記載のように、本発明者らが同日出願にて提案の素地調整に好適な回転研削工具を用い、この回転研削工具をディスクグラインダーなどのような工具の回転駆動装置に取り付けて、処理対象面を研削し、素地調整することが好ましい。
【0016】
この回転研削工具は回転駆動装置の回転軸に取り付けるための中心部の取付部及び研削盤面と研削周面で構成される研削面を有する金属回転盤からなる回転研削工具であって、金属回転盤の研削面の一部または全部に、20個/cm2以上の面密度となるようにモース硬度9を超える硬質粒子が蝋付けされ、この硬質粒子と蝋材とにより形成された突起部の高さをH、直径をDとしたとき、平均Hは300μm以上、平均H/Dは0.3以上であって、突起部の硬質粒子は、その硬質粒子に外接する仮想球表面積の10%以上が蝋材の表面から露出しているものである。以下、この回転研削工具について説明する。
図4は、本発明の素地調整に使用する回転研削工具の一例を示す斜視図である。回転研削工具1は、金属回転盤の表面に突起部が形成された研削盤面13と研削周面14とから構成された研削面12と、金属回転盤の中心部に設けられた取付部16を有している。この取付部16は、研削工具の回転駆動装置(図示せず)の回転軸に係合するものである。
【0017】
図5は、図4に示す回転研削工具の突起部の構成を示す模式図であり、(a)は断面図、(b)は平面図である。突起部15は基板である金属回転盤11’において蝋材19によりモース硬度が9超の硬質粒子17が金属回転盤に接合されて形成されている。
突起部15において、硬質粒子17はその一部17aが蝋材9の表面から露出し、残りの17bの部分が蝋材に埋没して接合されている。仮想球18は、後述するように、硬質粒子17の露出表面積の割合(露出表面積率)を規定するためのものであり、硬質粒子17の凸部(角部)の一箇所以上好ましくは3箇所以上が外接するように仮想した球体である。
【0018】
突起部15の形状は、回転研削工具軸方向の切断面の顕微鏡観察、触針式表面形状測定機による非破壊計測、3次元SEMによる電子線計測、3次元計測機能付レーザー顕微鏡などを用いた光学的計測により計測できる。そして、これに基づいて、上記の突起部5の直径D及び高さHを測定することができる。
すなわち、図5(a)(b)に示すように、突起部の直径Dは、平面視において、計測する突起部15の頂点を通過し隣接する2以上の突起部を含む線分lにおいて切断し得られた断面形状曲線の凹部の底部a、bを結ぶ線分の長さとする。なお、1つの突起部に対して2本以上の線分で測定しその平均値としても良い。また、突起部の高さHは、上記線分lにより切断した断面での凹部の底部a、bの低い方から突起部の頂点cまでの垂直方向の長さとする。なお、2本以上の線分で切断した断面で測定し、その平均値としてもよい。
突起部の形状を規定する平均Hおよび平均H/D比は、研削面の5mm×5mm(0.25cm2)の大きさの任意の4つの範囲に含まれる各突起部について、上述の方法でD、Hをそれぞれ測定し、それらの平均値を平均D、平均Hとし、平均D、平均Hを用いて平均H/D比を算出することが好ましい。
【0019】
また、突起部15における硬質粒子17の露出表面積率は、顕微鏡や拡大鏡などで突起部を観察し、硬質粒子露出部の硬質粒子径に対する比率を求め、この硬質粒子に対して設定した外接近似の仮想球の表面積を数値積分して算出することができる。
【0020】
ところで、本発明における前記の回転研削工具の研削面となるその金属回転盤の表面の一部または全面のモース硬度9以上の硬質粒子が面密度20個/cm2未満であると、いかに堅牢に接合されたとしても、作業中にその一部または全部に脱落が起きて、長い時間使用に耐えられなくなり、大面積の作業効率を低下させるため、20個/cm2以上とする。好ましくは、30個/cm2以上の面密度で硬質粒子が蝋付け接合されると、大面積処理の作業の効率が高まる。一方、60個/cm2以上の面密度とするためにはコストアップとなり、100個/cm2以上の面密度とするのは空間的に困難または不可能である。したがって、30個/cm2〜60個/cm2程度が最適である。
この面密度は、任意の10mm×10mmの範囲内に存在する突起部の数を測定することにより求めることができる。
【0021】
また、突起部15の平均Hが300μm未満であると、研削中のさび粉により目詰まりを起こし、作業効率が低下する。平均Hが300μm以上であると目詰まりはおきにくく、400μm以上であれば、目詰まり対策のための工具のメンテナンスを不要にできる。
【0022】
突起部15の平均H/D比が0.3未満であると、さびへの食い込みが悪く研削効率が低下する。したがって平均H/D比は、0.3以上とする。平均H/D比が0.5以上となる形状とすれば、厚いさびや固着さびの除去がさらに効率化する。ただし平均H/D比が0.8を超えると、突起部の構造強度が弱くなり、研削時の衝撃で突起部の剥離が起こりやすくなる。このため好ましくは平均H/D比は、0.3〜0.8とする。
【0023】
この回転研削工具の突起部15において、接合されたモース硬度9を超える硬質粒子17の全表面積が蝋材19に覆われてしまうと、硬質な固着さびの表面を軟質な蝋材で磨くだけの効果しかえられず、固着さび除去に支障が生ずる。このため硬質粒子に外接させた仮想球18の表面積の10%以上を蝋材の表面から外部に露出させるものとする。仮想球を用いることにより、形状が複雑な硬質粒子の露出表面積率を算出するのが簡単になる。露出表面積率が高ければ高いほど、固着さびの研削能力が高まるが、その分、硬質粒子と蝋材との接合界面が減少するので、硬質粒子が剥離しやすくなり、回転研削工具の寿命が短くなる。モース硬度9を超える硬質粒子の表面積(仮想球表面積)のうち、平均10%以上露出させることが必要であり、さらには、平均30%以上を露出させるのが望ましい。一方、平均70%を超えて露出させると接合強度が弱くなるので、作業効率の低下を招く。最適な平均露出表面積率は30〜50%程度である。
突起部の硬質粒子の平均露出表面積率は、研削面の10mm×10mm(1cm2)の範囲に存在する任意の20個以上の各突起部について、上述の方法で露出表面積率を算出し、それらの平均したものを平均露出表面積率とする。
【0024】
突起部を形成する硬質粒子にモース硬度9を超える硬質粒子を用いるのは、固着さびの硬度がモース硬度9を超えているため、モース硬度9のコランダムやアルミナでは、固着さびに研削材が研磨されてしまい、固着さびを除去するのは困難となるからである。
突起部を形成する硬質粒子は、モース硬度が9を超えるものであれば特に限定しないが、固着さびを効率的に除去する点からは、硬質粒子が平均粒子径200μm以上1000μm以下のダイヤモンドまたはキュービックボロンナイトライドとするのが好ましい。硬質粒子の平均粒子径が200μm未満では目詰まりを起こし研削性能が大幅に低下してしまうためであり、一方、1000μmを超えて大きくなると面密度の低下を招き、長時間の使用性能が低下するためである。平均粒子径は300μmから750μmの範囲がさらに望ましく、500μmから600μmの間に分布する粒子径の工業用ダイヤモンドまたはキュービックボロンナイトライドを用いて工具を作成するのが製造上も効率的である。
【0025】
突起部15を形成するための接合材は、硬質粒子と基材である金属回転盤の両者に対して十分な接合性を発揮できるものが使用される。ニッケルろう、黄銅ろう、アルミニウム合金ろうではんだなどからベースとなる接合材の成分系を選択することができる。例えば、接合材として、融点なども考慮してニッケルベースの蝋材(例えば、BNi−1、BNi−2、BNi−5、BNi−7など)が多く用いられる。ダイヤモンド或いはキュービックボロンナイトライドなどの硬質粒子と接合性を向上させるために、チタン、クロム及びジルコニウムの1種以上を0.5質量%以上含有する蝋材とすることが好ましい。
また、蝋材にチタン、クロムおよびジルコニウムのうち1種以上を0.5質量%以上含有する蝋材を用い、金属回転盤の材質にステンレス鋼を用いると、硬質粒子および金属回転盤と蝋材との各接合界面において冶金学的反応が起こり、中間相が形成するため、金属回転盤への硬質粒子の接合強度が高まる。これは、この材料的組み合わせは、後述するモース硬度9以上の硬質粒子のシェア強度として20N/個以上を実現するのに有効に作用する。
【0026】
図6は、図4に示す回転研削工具の基板である金属回転盤の形状を示す図であり(a)は平面図、(b)は(a)のA−A断面図である。本発明における回転研削工具11は、基板となる金属回転盤11’の研削面となる研削面部12’の表面にモース硬度が9超の硬質粒子17と蝋材19を含む突起部15を設けたものである。以下において、金属回転盤について説明する。
図6に示すように、回転研削工具11の金属回転盤11’は、研削盤面13’と研削周面14’からなる研削面12’を有する円盤であり、その中央部には、回転研削工具としてこれを回転駆動させる駆動装置の回転軸(図示せず)に取り付けるための取付部16’が設けられている。このように、図6においては、研削工具11の基材として金属回転盤を示すものとして、研削工具の符号11〜15に対応させた符号、11’〜15’として示し、説明している。
なお、研削面を構成する研削盤面と研削周面の区分は、一応便宜的に設定しているものであり、回転研削工具周端からおおむね10〜15mmの範囲を研削周面とし、残る研削面を研削盤面として扱えば良い。
【0027】
研削盤面13’と研削周面14’で構成される前記の金属回転盤の研削面12’のうち、研削盤面13’には、研削盤面13’の法線Xと回転中心軸Yとのなす角度θは、図6(b)から判るように、好ましくは、1°以上45°以下となる部分を有するように成形されている。すなわち、研削盤面部13’の法線Xと回転中心軸Yとのなす角度θが0°となる面のみだと、被研削面に対し作業者が電動工具を傾斜させて保持することができなくなり作業効率が低下し、また危険性も増すからである。一方、θが45°を超える面ばかりにすると、ディスクグラインダーの扱いが困難となり、作業効率および安全性が低下する。また、金属回転盤の研削周面14’には、好ましくは回転中心軸に平行な断面の曲率半径Rが1mm以上10mm以下の部分を有するものとする。これは、研削周面14’の回転中心軸に平行な断面の曲率半径Rが全部1mm未満だと厚いさびに切り込みが入りやすくなりすぎて面的な破壊効率が低下し、逆に、全てがRが10mmを超えるものであると研削工具の円周部を使った厚いさびへの切り込み作業の効率が低下するためである。効果的な範囲はR3〜R7mmである。
【0028】
本発明における前記回転研削工具の硬質粒子の平均シェア強度は、20N/個以上であることが好ましい。
これは、被削鋼材面に例えばモース硬度10のダイヤモンドが高速で衝突すると、ダイヤモンドが熱疲労で破壊を起こして硬質粒子(砥粒)が根こそぎ脱離してしまい、鋼材面への作業を行うと回転研削工具の寿命が短かくなってしまうことを回避するためである。平均シェア強度20N/個とすれば、硬質粒子が熱疲労破壊しても接合部に硬質粒子(ダイヤモンド)の根が突起部に残留し、研削作業を継続することができる。すなわち、このシェア強度は、突起部の硬質粒子と蝋材との接合強度を評価するものである。シェア強度の測定は、モース硬度9以上の硬質粒子が蝋付けされた金属回転盤をステージ上に保持し、ロードセルに接続された超硬のつめ状ツールを用いて硬質粒子の露出部を保持し、ステージに横方向から荷重をかけて、硬質粒子が離脱した時の荷重を求めることによって行われる。例えば、測定装置として、レスカ社製ボンディングテスタを用いればシェア強度の測定が行える。
平均シェア強度は、10mm×10mm(1cm2)の範囲の存在する任意の20個以上の突起部について、上述の方法で各突起部の硬質粒子のシェア強度を測定し、それらの平均したものを平均シェア強度とする。
【0029】
このように高いシェア強度を実現するためには、前述のようにチタン、クロムまたはジルコニウムのうち1種以上を0.5質量%以上含む合金を蝋材として用いることが好ましい。例えば、70質量%Ag−28質量%Cu−2質量%Ti合金、74質量%Ni−14質量%Cr−3質量%B−4質量%Si−4.3質量%Fe−0.7質量%C合金、83質量%Ni−7質量%Cr−3質量%B−4質量%Si−3質量%Fe合金、71質量%Ni−19質量%Cr−10質量%Si合金、77質量%Ni−10質量%P−13質量%Cr合金などの蝋材を用いることが、好ましい。
【0030】
本発明の工法における回転研削工具において、さらに、金属回転盤の周囲に中心部に向かう切れ込みを軸対象に設けて、さびへの衝撃力を高めたり、或いは金属回転盤の直径を50mm以上とし、或いは金属回転盤の質量を160g以上として、素地調整の作業効率を向上させることも可能である。
【0031】
本発明における回転研削工具は、例えば、モース硬度9を超える硬質粒子の平均粒径の20〜60%の厚さとなるように金属回転盤の研削面に有機バインダーを混ぜた蝋粉末を塗布し、その上にモース硬度9を超える硬質粒子を所定の面密度となるように付与し、10-4Torr以下の減圧下で、1000℃以上1040℃以下の温度に10分以上50分以内保定することにより製造することができる。
【0032】
この回転研削工具は厚いさびの除去から鋼面露出までを一気に行うことが可能であり、得られる素地調整面は回転する研削工具の研削面上のモース硬度9以上の硬質粒子によるスクラッチ痕が処理面露出部に見られるという特徴があり、得られる塗装下地としての素地調整面はこれまでにない有益な特徴を有する。よってこの回転研削工具を用いて処理した面を補修塗装の下地として採用するに当たっては、施工管理上、その程度や状態をISO8501−1にならって新しく定義し、標準写真と共に表1に示した高耐久性補修塗装のための素地調整管理基準に基いて行なうのが好ましい。即ち、スクラッチ痕が残る素地露出面積率が60%未満の鋼表面をStD−1とし、60%以上97%未満の鋼表面をStD−2とし、97%以上の鋼表面をStD−3と、それぞれ定義するものである。従来から行われてきたブラスト法による素地調整面は、研掃材が衝突した窪みが無数にあるアンカーパターンと言われる状態であり、その表面粗さが塗料の密着を助けるが、垂直方向から硬質粉体で素地が叩かれるため、孔食状の部分の固着さびや塩分などの腐食性イオンは、メタル素地外表面の裏に叩き込まれてしまう。このため、一見清浄に見えるブラスト処理面に塗装処理をしても、結露等で湿潤状態になると戻り錆びが発生する。本発明における前記の回転研削工具を用いて処理した素地調整面においては、金属回転盤に堅牢にロウ付けされた硬質粒子により水平方向に素地面を研削するため、腐食性イオンのメタル素地外表面の裏に叩き込まれる現象は起きず、無数のスクラッチ痕が生ずるためブラスト法同様の塗膜アンカー効果は担保される。したがって、塗装密着性を向上させると同時にその防錆防食効果を最大限に上げるにはきわめて有利な新生面である。前記工具を用いた場合は、前記(1)の工法Aに記載した素地露出面積率60%以上を保証するためには、StD−2以上となる鋼表面を得ればよい。StD−3となる鋼表面を得れば、防食上さらに有利になるが、作業効率と施工コストを考慮して選定することが好ましい。一方、StD−2未満の素地表面では、固着さびが多くしかも深く残留しているため、前述の工程Bに記載の事前処理液を塗布しても、腐食活性点を無害化するのは困難である。その場合には、事前処理液の塗布により腐食活性点を検知できるので、再度その部分だけ工程Aを行ない、さらに工程Bを行って、腐食活性点の消滅を図ることができる。
【0033】
本発明の高耐久性補修塗装工法においては、上記の(1)のB工程を終了した後、その状態で補修を終了しても良いが、さらに、C工程として、B工程終了後の処理面に、プライマー塗装を施すことも好ましい。塗装する塗料は、防食の観点から適宜選定すればよく、従来使用されている有機系或いは無機系などの亜鉛粉末含有塗料組成物(ジンクリッチプライマー)などを使用することができる。
しかしながら、本発明者らが同日出願にて提案の高防食性亜鉛粉末含有塗料組成物を使用することが好ましい。
【0034】
すなわち、この高防食性亜鉛粉末含有塗料組成物は、バインダー樹脂100質量部(固形分重量)、亜鉛粉末200〜800質量部、腐食性イオン固定化剤成分を1〜95質量部およびそれらを分散するための溶媒200〜1000質量部を含有する塗料組成物であり、好ましくは、そのバインダー樹脂を無機樹脂又は有機のエポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂とするものであり、また好ましくは、その腐食性イオン固定化剤成分を、ハイドロカルマイト又はハイドロタルサイトとするものである。また好ましくは、この塗料組成物が、さらにカップリング剤を含有するものである。これらのいずれかの塗料組成物を高防食性亜鉛粉末含有塗料組成物として選択することができる。これをプライマーとして塗布することによって残留腐食性イオンを恒久的に固定化することができる。
【0035】
残留腐食性イオンを恒久的に固定化の機構は、本塗料組成物に含有する腐食性イオン固定化剤であるハイドロカルマイトとハイドロタルサイトの働きにより、下記代表式における
ハイドロカルマイト → 3CaO・Al23・CaX2/m・nH2
(式中、Xは、1価又は2価のアニオンであり、mは、アニオンの価数を表し、nは、20以下を示す。)
ハイドロタルサイト → Mg4.5・Al2(OH)13CO3・nH2
(式中、nは、4以下、好ましくは、3.5を示す。)
で示され、Cl-やSO42-等の腐食性イオン物質と接触するとアニオン交換し、XであるNO3-、NO2-等あるいはCO32-を遊離するとともに、腐食性イオン物質をハイドロカルマイト中あるいはハイドロタルサイト中に水不溶性の複塩を形成し固定化する。また、本塗料組成物は亜鉛粉末も含有しているため亜鉛粉末含有塗料としての防食性能を有しており、さらに、この腐食性イオン固定化機能と合わせたことにより従来の有機ジンクリッチプライマー以上の防食性能を有する塗料である。この高防食亜鉛粉末含有塗料組成物を用いることにより、素地調整面において除去しきれなかったさび中に存在する腐食性イオンを恒久的に固定化しつつ、従来の亜鉛粉末含有塗料である有機ジンンクリッチプライマー以上の防食性を備えた補修塗装面を得ることができる。なお、この高防食性亜鉛粉末含有塗料組成物をプライマーとしてB工程終了後の処理面に塗布する場合は、僅かに残留する事前処理液から乾燥・晶出した炭酸ナトリウム粉の上にプライマーが乗るだけのことになるが、このプライマーに含有するイオン固定化剤は、炭酸ナトリウムの固定化作用があることを発明者らは見出している。したがって、密着性を十分に確保する観点から、塗布に際しては、刷毛またはローラーを用いて、乾燥・晶出した炭酸ナトリウム粉をプライマー内に混ぜ込みながら塗りこむという作業が望ましい。
【0036】
本発明の高耐久性補修塗装工法においては、本発明の(4)に記載したように、本発明の(1)に記載のB工程を終了した後、或いは、本発明の(3)で記載したプライマー塗装を施した後、さらに一層以上の塗装を施すことが好ましい。
この塗装は、さらに、鋼材面への環境の影響を遮断するためのものであり、或いは紫外線などによる鋼材面に施した塗膜層の劣化を防止するなどのためである。周辺環境の所要に応じて各種の塗料、例えば、ポリウレタン樹脂塗料やエポキシ系樹脂塗料などを使用することができる。
【0037】
図1は、上述の本発明の高耐久性補修塗装工法により得られる鋼構造物の一実施形態の補修塗装後の断面構造を示す模式図である。
鋼材1の表面に形成されていた厚いさびは素地調整により除去され(A工程)、素地調整された面に事前処理液の塗布(B工程)によって形成された不働態皮膜と腐食性物質が無害化された残留固着さびとの混合層2が形成される。この上に、好ましくは、プライマーとして亜鉛粉未含有塗料組成物(C工程)、例えば高防食性亜鉛粉末塗料組成物の塗膜層3が形成されており、また、さらに好ましく、このプライマーの上に下塗り塗料の塗膜層4、上塗り塗料の塗膜層5が形成される。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例に従ってより具体的に説明する。
実施例1
本発明の高耐久性補修工法における素地調整について、本発明の回転研削工具を使用した素地調整の場合と、従来の研削工具を用いた場合の素地調整(2種ケレン)とで比較した。縦300mm×横600mmの厚いさびが一様に発生した耐候性鋼板を供試材として、横300mm分の半面を本発明の回転研削工具を市販のディスクグラインダーに装着してStD−3とする作業と、残り半面について従来の研削工具として市販のディスクサンダーにレジノイド砥石を装着してSt−2.0を得るために作業を行い、それぞれに要した時間を測定した。
なお、本発明の回転研削工具は、金属回転盤は直径が100mmのSUS304とし、突起部は、硬質粒子として平均粒子径が500μmの工業用ダイヤモンドを、蝋材として、83質量%Ni−7質量%B−4質量%Si−3質量%Fe合金の粉末とポリビニルアルコールを主成分とする有機バインダーとからなるペーストを用いて、金属回転円盤に付着させ、10-5torrの減圧下、1020℃に30分保持して、真空蝋付け接合したものである。なお、この回転研削工具の硬質粒子の面密度は、100個/cm2、平均Hは、1100μm、平均H/D比:0.6硬質粒子の平均露出表面積率は約60%のものであった。
その結果を図2に示す。本発明の回転研削工具を用いた工法では15分でStD−3以上が得られたが、従来の研削工具では45分かけても鋼材素地露出面積率60%以上に相当するSt−2の面を得ることができなかった。これより、本発明の(2)の工法が有効であることを確認した。ただし、従来の研削工具を用いる場合、砥石を交換して、さらに時間をかければ所定の鋼材素地露出面積率を得ることは不可能ではない。
【0039】
実施例2
素地調整(A工程)からプライマー塗布(C工程)までの工程において、本発明の方法と従来の方法とで補修塗装工法によって得られた処理面の防食性能比較調査を行った。1回/週の頻度で5%濃度の塩水を4回散布して得られたさび鋼板を試験片として、本発明例は、実施例1と同じ、本発明の回転研削工具により素地調整してStD−2とし、100g/L炭酸ナトリウム水溶液塗布後に高防食性亜鉛末含有塗料組成物を塗布した水準とし、比較例1は、従来法であるブラスト法により素地調整し、Sa−2.5とした後、水洗して残留塩分を除去し、有機ジンクリッチプライマーを塗布した水準とし、さらに、比較例2は、比較例1において水洗を省略した水準とした。これらの試験片の塗布面にクロスカットを入れ屋内日陰環境にて1回/週の頻度にて0.5%NaCl水溶液を散布する腐食促進試験を試験開始後42日目まで行った。その結果を表1に示す。表1から判るように、本発明による高防食性亜鉛末含有塗料塗布までを施工した水準と、c塗装系の有機ジンクリッチプライマーまでの施工した水準(比較例1)においては、試験片のクロスカット線に沿って細い幅でさび発生が見られたのに対し、比較例2として従来法において水洗を省略した水準(比較例2)では、クロスカット部には線状のさびが発生し、且つクロスカット以外の部分にも点さび発生が認められた。これより、ブラスト工程と水洗工程を不要化できる本発明が、ブラスト工程と水洗工程により構成される従来の最良工法(比較例1)以上の防食性を有する補修塗装工法となることが確認された。
【表1】

【0040】
実施例3
厚いさびが発生した耐候性鋼等の耐食性低合金鋼材を対象として最良および一般的と考えられる従来の補修塗装法と、本発明による高耐久性補修塗装方法とによる補修塗装効果の比較を行なった。研削面の少くとも一部にモース硬度9を超える硬質粒子が接合された研削面を有する回転研削としては、前記のダイヤモンド付電動回転工具およびキュービックボロンナイトライド付電動回転工具を用いた。素地調整作業の比較のために、市販のレジノイド砥石付電動回転工具および4号珪砂を用いたブラストも用いた。なお、モース硬度9超の硬質粒子を接合した本発明における回転研削工具は、金属回転盤は直径が100mmのSUS304とし、突起部は、硬質粒子として平均粒子径が500〜600μmの工業用ダイヤモンド(本発明g〜k、n)またはキュービックボロンナイトライド(本発明p)を、蝋材として83質量%Ni−7質量%B−4質量%Si−3質量%Fe合金の粉末とポリビニルアルコールを主成分とする有機バインダーとからなるペーストを用いて、金属回転盤に付着させ、10-5torrの減圧下、1020℃に30分保持して、真空蝋付け接合したものである。得られた回転研削工具の研削面の突起部は、本発明g〜k、nでは、平均H:900〜1200μm、平均H/D:0.3〜0.7、平均露出表面積率:20〜70%、また、本発明pでは、平均H:900μm、平均H/D:0.3、平均露出表面積率30%であった。プライマーとしては、高防食性亜鉛末含有塗料および比較のため市販の有機ジンクリッチプライマーを用い、いずれも塗膜厚は75μmとした。なお、本発明の高防食性亜鉛粉末含有塗料としては、バインダー樹脂としてキシレンを溶媒とするエチルシリケート溶液(コルコート社製:エチルシリケート40、固形分25%)を400質量部、亜鉛末(本庄ケミカル社製:平均粒径粒5μm)を500質量部、腐食性イオン固定化成分としてハイドロカルマイト(東邦顔料社製:亜硝酸型ハイドロカルマイト)を40質量部、および溶媒としてキシレン20質量部を加えて撹拌、調整したものを用いた。下塗り、中塗り、上塗りに用いた塗料組成物は、市販の各種のものを用い、表2、3(表2のつづき)に示す塗膜厚とした。工法の構成を表2、表3に示す。補修塗布効果の評価は以下の通り行った。
【表2】

【表3】

【0041】
素地調整コストは、素地調整に必要な道具や装置にかかる費用および作業時間に伴う人件費を総合的に勘案し、◎=従来よりきわめて安価、○=従来より安価、△=従来並、×=高価と定義した。塗料コストは、塗装に必要な塗料の種類と構成と量および塗装作業費を総合的に勘案して単位面積あたりのコストを算出し、◎=従来よりきわめて安価、○=従来より安価、△=従来並、×=高価と定義した。防食効果については、表3に示した試験と同様な試験を行って評価し、◎=従来最良より効果あり、○=従来最良程度、△=従来一般並、×=従来一般に至らずと定義した。その結果を表2、表3に示す。表2、表3より明らかなように、比較例に比べ本願発明の方法では素地調整コスト面で効果が見られることがわかる。塗装コストについては、中塗り省略できるかどうかで差異が発生する。高防食性亜鉛末含有塗料組成物単身では、従来のジンクリッチプライマーより高コストとなる可能性があるが、さらにその上に塗る塗装系を工夫することで、総合的にはコスト的に不利にならないことがわかる。防食効果については、本願発明を用いると、全般に従来では最良とされていたもの以上の効果を得ることができる。これら一連の実施例により、本願発明の高耐久性補修塗装工法によれば、従来工法より低コストで環境負荷が少なく、しかも従来最良の補修塗装工法を超える補修塗装面の防食効果を得ることが可能であることが明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の工法により得られる鋼構造物の一実施形態の補修塗装後の断面構造を示す模式図である。
【図2】本発明の(2)に記載の回転研削工具による素地調整後に得られた鋼表面の素地露出面積率の基準を示す図である。
【図3】本発明の(2)に記載の回転研削工具と、従来の研削工具(レジノイド砥石)による素地調整面の上場を示す図である。
【図4】本発明の素地調整に使用する回転研削工具の一例を示す斜視図である。
【図5】図4に示す回転研削工具の突起部の構成を示す模式図であり、(a)は断面図、(b)は平面図である。
【図6】図4に示す回転研削工具の基板の金属回転盤の形状を示す図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のA−A視断面図である。
【符号の説明】
【0043】
1 鋼材
2 事前処理液により形成された不働態皮膜と腐食性物質が無害化された残留固着さびの混在層
3 高防食性亜鉛末含有塗料組成物の塗膜層
4 下塗り塗膜層
5 上塗り塗膜層
11 回転工具
11’ 金属回転盤(回転研削工具の基材)
12、12’ 研削面
13、13’ 研削盤面
14、14’ 研削周面
15 突起部
16、16’ 取付部
17 硬質粒子
17a 硬質粒子(露出部)
17b 硬質粒子(埋没部)
18 硬質粒子の外接近似仮想球
19 蝋材
a、b 凹部の底部
c 突起部の頂点
l 突起部の頂部を通る線分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗装または無塗装の鋼構造物の補修塗装を行う際に、素地調整により塗装又は無塗装の鋼構造物の素地露出面積率を60%以上とする工程Aの後に、事前処理液として5g/L以上500g/L以下の炭酸ナトリウム水溶液を塗布する工程Bを実施することを特徴とする高耐久性補修塗装工法。
【請求項2】
前記A工程の素地調整を、回転駆動装置の回転軸に取り付けるための中心部の取付部及び研削盤面と研削周面で構成される研削面を有する金属回転盤からなる回転研削工具であって、金属回転盤の研削面の一部または全部に、20個/cm2以上の面密度となるようにモース硬度9を超える硬質粒子が蝋付けされ、この硬質粒子と蝋材とにより形成された突起部の高さをH、直径をDとしたとき、平均Hは300μm以上、平均H/Dは0.3以上であって、突起部の硬質粒子に外接する仮想球を用いて、蝋材の表面から露出している硬質粒子の露出表面積率を求めたとき、平均露出表面積率が10%以上である回転研削工具を用いて行うことを特徴とする請求項1に記載の高耐久性補修塗装工法。
【請求項3】
前記の工程Bの後に、バインダー樹脂100質量部(固形分重量)、亜鉛粉末200〜800質量部、腐食性イオン固定化剤成分を1〜95質量部、それらを分散するための溶媒200〜1000質量部を含有する高防食性亜鉛粉末含有塗料組成物を塗布する工程Cを実施することを特徴とする請求項1または2に記載の高耐久性補修塗装工法。
【請求項4】
前記工程BまたはCを実施した後に、1層以上の塗装を施すことを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の高耐久性補修塗装工法。

【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−283237(P2007−283237A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−114823(P2006−114823)
【出願日】平成18年4月18日(2006.4.18)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(000227261)日鉄防蝕株式会社 (31)
【出願人】(000003322)大日本塗料株式会社 (275)
【Fターム(参考)】