説明

高耐久性電極触媒

【課題】電位変動耐久後に高い活性を確保することができる電極触媒及びその製造方法を提供する。
【解決手段】白金からなる触媒成分、該触媒成分を担持する担体及び酸化コバルトを含む電極触媒であって、
酸化コバルトの含有量が電極触媒100質量部に対して20〜35質量部であり、
酸化コバルトを添加することにより得られる上記電極触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電位変動耐久後に高い活性を確保することができる電極触媒及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、高分子型燃料電池の電極触媒の触媒成分として、白金等の貴金属をカーボンブラックに担持した触媒が用いられてきた。しかしながら、従来の燃料電池においては、触媒成分として用いられる白金が長期間使用するうちに酸化や溶融等により性能が低下するため、白金を多く使用する必要があり、資源及びコストの面で問題があった。例えば自動車用燃料電池に関しては、自動車1台あたりの白金使用量が多く、将来の普及のためには白金の使用量を大幅に低減させる必要性があった。
【0003】
特許文献1には、白金又は白金合金からなる触媒成分と、任意成分として該触媒成分を担持する担体と、金属酸化物とを含む燃料電池用電極触媒が記載されている。特許文献1に記載の電極触媒においては、金属酸化物は触媒成分の被毒を緩和するために添加されており、これにより白金の質量活性を向上させ、白金の使用量を低減させることを目的としている。具体的には、金属酸化物としては、酸化タンタル及び/又は酸化ニオブが使用されている。しかしながら、耐久後に高活性を確保するために好ましい金属酸化物の添加量は記載されていない。
【0004】
特許文献2には、担体に担持されたPtAu−M(x=1、2又は3、y=1、2、3又は4)を含む陽イオン交換膜型燃料電池(PEMFC)用の一酸化炭素耐被毒性の担持電極触媒が記載されている。特許文献2に記載の電極触媒は、Mが、Fe、Al、Si、Ti、Zr、Mn、Ce及びCoから選択される1つ以上の遷移金属であり、Pt、Au及びMを特定量含むことを特徴とする。特許文献2には当該電極触媒が従来の白金又は白金合金触媒と比較して活性が高いことが記載されている。しかしながら、耐久後に活性が突出して向上するMの添加量は記載されていない。
【0005】
以上のように、従来技術においては、耐久後に触媒成分の活性を確保できる燃料電池用電極触媒の具体的組成については十分に検討されておらず、このような電極触媒は知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−193956号公報
【特許文献2】特開2006−253146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、電位変動耐久後に高い活性を確保することができる電極触媒及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の発明を包含する。
〔1〕白金からなる触媒成分、該触媒成分を担持する担体及び酸化コバルトを含む電極触媒であって、
酸化コバルトの含有量が電極触媒100質量部に対して20〜35質量部であり、
酸化コバルトを添加することにより得られる上記電極触媒。
〔2〕酸化コバルトが、(1)担体表面及び/又は内部に含まれる、(2)白金からなる触媒成分中に助触媒として含まれる、(3)白金からなる触媒成分のコア材として含まれる、(4)電極触媒中に添加剤として含まれる、(5)担体として含まれる、から選択される、上記〔1〕に記載の電極触媒。
〔3〕担体が、活性炭、伝導性炭素、黒鉛、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー及びカーボンモレキュラーシーブからなる群から選択される少なくとも1種である、上記〔1〕又は〔2〕に記載の電極触媒。
〔4〕上記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の電極触媒を有する固体高分子型燃料電池。
〔5〕白金からなる触媒成分、該触媒成分を担持する担体及び酸化コバルトを含む電極触媒の製造方法であって、
酸化コバルトの含有量が電極触媒100質量部に対して20〜35質量部であり、
触媒成分に酸化コバルトを添加することを含む上記製造方法。
〔6〕酸化コバルトが、(1)担体表面及び/又は内部に含まれる、(2)白金からなる触媒成分中に助触媒として含まれる、(3)白金からなる触媒成分のコア材として含まれる、(4)電極触媒中に添加剤として含まれる、(5)担体として含まれる、から選択される、上記〔5〕に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電極触媒は、電位変動耐久後に高い活性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、耐久後(上段)及び耐久前(下段)における、酸化コバルトの添加量と質量活性との関係を示す図である。
【図2】図2は、耐久後(上段)及び耐久前(下段)における、各種添加剤を用いた場合の質量活性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、白金からなる触媒成分、該触媒成分を担持する担体及び酸化コバルトを含む電極触媒に関し、酸化コバルトを電極触媒100質量部に対して20〜35質量部含むこと、及び酸化コバルトを添加することにより得られることを特徴とする。酸化コバルトを20〜35質量部含むことにより、本発明の電極触媒は、電位変動耐久後に高い活性を確保することができる。耐久により溶解した白金が酸化コバルトと固溶して両者が反応することにより高活性が得られると考えられる。
【0012】
本発明に用いる触媒成分は白金である。白金は高価な貴金属であるため、少ない担持量で十分な性能を発揮させることが好ましい。白金の含有量は、電極触媒100質量部に対して、5〜60質量部であることが好ましく、10〜30質量部であることが特に好ましい。また、白金の含有量は、担体及び白金の合計を100質量部とした場合、6〜80質量部であることが好ましく、12〜50質量部であることが特に好ましい。
【0013】
本発明に用いる担体は、触媒成分を担持するために電極触媒に加えられる。よって、触媒成分を担持できるとともに、それ自体が導電性を具備するものであれば特に限定されるものではない。例えば活性炭、伝導性炭素、黒鉛、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー及びカーボンモレキュラーシーブ等を使用することができる。触媒成分を担持する目的のために、導電性を具備し、かつ比表面積が大きい担体材料が好ましい。前記のような特徴を具備する担体を用いることにより、より広い触媒担持面積を確保することが可能となる。これによって、担持される触媒粒子の微小化を図ることができるため、結果として触媒活性を向上させることが可能となる。よって、これらの中では、Ketjen EC(ケッチェンブラックインターナショナル製)、アセチレンブラック(ケッチェンブラックインターナショナル製)、バルカンXC−72R(Cabot製)、デンカブラック(DENKA製)のようなカーボン粉末が好ましく、高比表面積のカーボンが特に好ましい。担体の含有量は、電極触媒100質量部に対して、25〜75質量部であることが好ましく、40〜70質量部であることが特に好ましい。
【0014】
本発明に用いる酸化コバルトとしては、Co、Co及びCoOが挙げられるが、高比表面積及び構造安定性の観点から、Coを用いることが好ましい。酸化コバルトの含有量は、電極触媒100質量部に対して、20〜35質量部であり、20〜30質量部であることが特に好ましい。尚、酸化コバルトの代わりに酸化チタンや酸化ニオブ等の金属酸化物を用いた場合には、白金と固溶しないために、本発明の効果は得られないと考えられる。
【0015】
本発明の電極触媒は、白金からなる触媒成分及び酸化コバルトを当業界で慣用される様々な方法を用いて担体に担持することで製造することができる。
【0016】
本発明の電極触媒は、酸化コバルトを添加することにより製造される。添加の方法としては、粉末状の酸化コバルトと触媒成分又は担体に担持された触媒成分とを物理混合することが挙げられる。また、物理混合の他に、硝酸塩等で担持した後に焼成する方法、還元析出法及びアルコキシド加水分解法等により酸化コバルトを添加してもよい。
【0017】
上記酸化コバルトが配置される位置・場所には制限がなく、例えば(1)担体表面及び/又は内部に含まれる、(2)白金からなる触媒成分中に助触媒として含まれる、(3)白金からなる触媒成分のコア材として含まれる、(4)電極触媒中に添加剤として含まれる、(5)担体として含まれる、から選択される。酸化コバルトは(4)電極触媒中に添加剤として含まれることが好ましい。
【0018】
本発明の電極触媒の触媒粒子の平均粒子径は、電極触媒の活性を高める観点から、2〜6nmであることが好ましく、3〜4nmであることが特に好ましい。
本発明の電極触媒は、固体高分子型燃料電池に好ましく使用することができる。
【実施例】
【0019】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0020】
[実施例1]
炭酸ナトリウム25gを溶解した蒸留水700mlを撹拌しながら、硝酸コバルト27gを溶解した蒸留水300mlを滴下し、沈殿物を濾過した。次に、この沈殿物を400℃で2時間乾燥して酸化コバルトCo粉末を得、これをミリングにて粉砕した。
【0021】
一方、白金ジニトロジアンミン溶液を用いて、ケッチェンブラック[ケッチェンブラックインターナショナル製、(商品名)EC300J]に白金を30質量部(カーボン及び白金の合計を100質量部とする)担持させ、これに上記酸化コバルト20質量部(カーボン、白金及び酸化コバルトの合計を100質量部とする)を物理混合により添加し、電極触媒を得た。
【0022】
[実施例2]
酸化コバルト20質量部の代わりに酸化コバルト30質量部を用いたこと以外は実施例1と同様にして、電極触媒を得た。
【0023】
[比較例1]
白金ジニトロジアンミン溶液を用いて、ケッチェンブラック[ケッチェンブラックインターナショナル製、(商品名)EC300J]に白金を30質量部(カーボン及び白金の合計を100質量部とする)担持させて、電極触媒を得た。
【0024】
[比較例2]
酸化コバルト20質量部の代わりに酸化コバルト10質量部を用いたこと以外は実施例1と同様にして、電極触媒を得た。
【0025】
[比較例3]
酸化コバルト20質量部の代わりに酸化コバルト40質量部を用いたこと以外は実施例1と同様にして、電極触媒を得た。
【0026】
[比較例4]
酸化コバルト20質量部の代わりに酸化コバルト50質量部を用いたこと以外は実施例1と同様にして、電極触媒を得た。
【0027】
[比較例5]
酸化コバルト20質量部の代わりに酸化チタン(TiO)30質量部を用いたこと以外は実施例1と同様にして、電極触媒を得た。
【0028】
[比較例6]
酸化コバルト20質量部の代わりに二酸化ケイ素(SiO)30質量部を用いたこと以外は実施例1と同様にして、電極触媒を得た。
【0029】
[比較例7]
酸化コバルト20質量部の代わりに酸化セシウム(CeO)30質量部を用いたこと以外は実施例1と同様にして、電極触媒を得た。
【0030】
[比較例8]
酸化コバルト20質量部の代わりに硫酸バリウム(BaSO)30質量部を用いたこと以外は実施例1と同様にして、電極触媒を得た。
【0031】
[比較例9]
酸化コバルト20質量部の代わりに硫酸バリウム(BaSO)50質量部を用いたこと以外は実施例1と同様にして、電極触媒を得た。
【0032】
実施例1、2及び比較例1−9により得られた電極触媒について、以下の方法により、質量活性を測定した。
<質量活性の測定>
燃料電池特性を評価するために、得られた電極触媒について、MEA(電解質膜−電極接合体)評価により耐久前及び耐久後(0.7〜1.0V、2000サイクル)の質量活性を測定した。具体的には、質量活性は、13cm膜、電解質膜厚さ20μm、アイオノマー/カーボン比=1、Pt量0.1mg/cmのMEAについての、温度80℃、湿度100%における電流測定値のターフェルプロットにより算出した。結果を図1及び2に示す。
【0033】
図1より、酸化コバルトの添加量が20及び30質量部(実施例1及び2)である場合に、耐久後の質量活性が高いことがわかる。また、酸化コバルトの添加量が30質量部(実施例2)である場合に、耐久前と比較して、質量活性が向上することがわかる。
【0034】
図2より、酸化コバルトを30質量部添加した場合、他の添加剤を30質量部添加した場合又は添加剤を用いなかった場合と比較して、耐久後の質量活性及び比活性が高いことがわかる。また、他の添加剤を30若しくは50質量部添加した場合又は添加剤を用いなかった場合に、耐久後の質量活性が耐久前と比較して低下するのに対し、酸化コバルトを30質量部添加した場合には、耐久後の質量活性が耐久前と比較して向上することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の電極触媒は、固体高分子型燃料電池に好ましく適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金からなる触媒成分、該触媒成分を担持する担体及び酸化コバルトを含む電極触媒であって、
酸化コバルトの含有量が電極触媒100質量部に対して20〜35質量部であり、
酸化コバルトを添加することにより得られる上記電極触媒。
【請求項2】
酸化コバルトが、(1)担体表面及び/又は内部に含まれる、(2)白金からなる触媒成分中に助触媒として含まれる、(3)白金からなる触媒成分のコア材として含まれる、(4)電極触媒中に添加剤として含まれる、(5)担体として含まれる、から選択される、請求項1に記載の電極触媒。
【請求項3】
担体が、活性炭、伝導性炭素、黒鉛、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー及びカーボンモレキュラーシーブからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の電極触媒。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の電極触媒を有する固体高分子型燃料電池。
【請求項5】
白金からなる触媒成分、該触媒成分を担持する担体及び酸化コバルトを含む電極触媒の製造方法であって、
酸化コバルトの含有量が電極触媒100質量部に対して20〜35質量部であり、
触媒成分に酸化コバルトを添加することを含む上記製造方法。
【請求項6】
酸化コバルトが、(1)担体表面及び/又は内部に含まれる、(2)白金からなる触媒成分中に助触媒として含まれる、(3)白金からなる触媒成分のコア材として含まれる、(4)電極触媒中に添加剤として含まれる、(5)担体として含まれる、から選択される、請求項5に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−4414(P2013−4414A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−136654(P2011−136654)
【出願日】平成23年6月20日(2011.6.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】