説明

高耐熱ゴム補強用繊維材料およびその製造方法

【課題】タイヤのベルトやカーカスの補強用コードを構成する繊維の高温時、特にポリアミドの融点以上の温度においても形態を保持することが可能な高耐熱性のタイヤコード用ポリアミド繊維材料とその製造方法を提供すること。
【解決手段】ポリアミドを主成分とするゴム補強用繊維材料であって、前記ポリアミド分子鎖の少なくとも一部に架橋構造を有しており、主成分のポリアミドの融点+20℃の温度で熱溶融流動を起こさない高耐熱ゴム補強用繊維材料。及び、ポリアミドを主成分とした樹脂を溶融紡糸した未延伸糸、前記未延伸糸を熱延伸した延伸糸、前記延伸糸を1本以上撚り合わせた撚糸コード、前記撚糸コードを製織した簾織物から選ばれる繊維材料に、電離放射線を照射する高耐熱ゴム補強用繊維材料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゴム補強用繊維材料に関するものであり、更に詳しくは、タイヤのベルトやカーカスの補強用コードを構成する繊維材料であり、高温時、特にポリマーの融点以上においても溶融流動することなく形態を保持することが可能な高耐熱性に優れたポリアミド系ゴム補強用繊維材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般にタイヤ用ゴム補強材として使用されている繊維の代表的な例としては、有機繊維としてポリエステル、ポリアミド、レーヨンが良く知られており、無機繊維としてはスチール、ガラス繊維が代表的なものである。これら素材はその固有物性により適所に使用されている。
【0003】
例えば今日主流のラジアルタイヤは、タイヤの回転方向にほぼ直角(ラジアル向き)にカーカス材がビードからビードに配置され、さらにタイヤの回転方向にコードが配置されたベルト層を有しているタイヤであるが、このベルト層には高弾性率で伸びの少ないスチール等が好適であり、またカーカス材としては弾性率、耐疲労性が良好で耐クリープ性も優秀な安価なポリエステルが使用されている。一方、ビードからビードへ斜め(バイアス)に横切っているコード補強層を有するバイアスタイヤには、強度、耐疲労性に優れポリアミド系繊維が主に使用されている。また、レーヨンタイヤコードはレーヨン繊維の固有物性によって収縮率が非常に低く、熱的寸法安定性および形態安定性に優れ、乗用車等の高速走行用ラジアルタイヤに主に使用されている。
【0004】
さらに近年では、ランフラット走行が可能な(すなわち、パンクしてタイヤ内圧が0kPaになっても、ある程度の距離を所定のスピードで走行が可能な)タイヤが開発されている。このランフラットタイヤにはタイヤサイドウォールのビード部からショルダー区域にかけてカーカスの内面に断面が三日月状の比較的硬質なゴム層を配置して補強したサイド補強タイプと、タイヤ空気室におけるリムの部分に、金属、合成樹脂製の環状中子を取り付けた中子タイプとが知られている。
【0005】
このうちサイド補強型は走行中にタイヤがパンクして空気が抜けてしまうと、補強ゴム層で強化したサイドウォール固有の剛性によって荷重を支持し、所定の距離を所定のスピードで走行できるが、特に高荷重でたわみが大きいタイヤ種の場合には、タイヤ内部温度が200℃以上、さらに局所的にはそれ以上の極めて高温になることがある。そのため、ランフラットタイヤのカーカスプライコードとしては耐熱溶融性に優れるレーヨン繊維やアラミド繊維、スチールなどが好ましいコード材料として提案され使用されている。
【0006】
一方、ポリエステル繊維やポリアミド繊維からなるタイヤコードは150〜200℃の高温下においてタイヤゴムとの接着界面が破壊され始め、また強度、弾性率が急激に低下し、さらに融点以上の高温になると繊維としての形状を保持できずに溶融破断に至るという問題があることからランフラットタイヤ用のコード材料としては不適とされていた。ところが、これら繊維は供給量が非常に豊富で安定しており、価格も安く、軽量であるという特徴があることから、ランフラットタイヤがより広く普及するにはこれらポリエステル繊維やポリアミド繊維からなるタイヤコードを用いることが望まれている。
【0007】
これまでに、タイヤゴム中でのポリアミドタイヤコードの耐熱性を向上させる方法が種々提案されている。例えば、ポリアミド樹脂にポリアミドと相溶性の高いアミド化合物または三級アミンを含むリン化合物を0.005〜2.0重量%含有させて繊維形成することで加硫工程等の熱処理工程で新たな結晶生成が抑制され、疲労試験における繊維構造破壊時間が遅延できるというものや(例えば、特許文献1参照)、ポリアミド1kgあたりの酸濃度と塩基濃度の関係が(塩基濃度)−(酸濃度)≧5mmolを満足し、かつ、沸水処理によるtanδmaxの変化値が0.015以下を満足することで熱構造安定性の高い繊維構造をとり得るという開発事例(例えば、特許文献2参照)などが挙げられる。しかしながら、これらはいずれも融点よりも低い温度領域での耐熱性改良であって、ポリアミドの融点以上において形状を保持し、所定の強度、弾性率を保持できるというものではなかった。
【特許文献1】特開平6−173116号公報
【特許文献2】特開平7−166420号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は前記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は高温時、特にポリアミドの融点以上においても形態を保持することが可能な高耐熱性のゴム補強用繊維材料及びその製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、ポリアミド分子鎖間の少なくとも一部に架橋構造を形成せしめることにより本課題を解決することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の構成よりなる。
1. ポリアミドを主成分とするゴム補強用繊維材料であって、前記ポリアミド分子鎖の少なくとも一部に架橋構造を有しており、主成分のポリアミドの融点+20℃の温度で熱溶融流動を起こさないことを特徴とする高耐熱ゴム補強用繊維材料。
2. 主成分のポリアミドがポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド46、ポリアミド6T、ポリアミド9Tから選ばれる少なくとも1種以上であることを特徴とする上記第1に記載の高耐熱ゴム補強用繊維材料。
3. 主成分のポリアミドに対し、電離放射線によって重合可能な化合物が0.2〜10重量%配合されてなることを特徴とする上記第1又は第2に記載の高耐熱ゴム補強用繊維材料。
4. 主成分のポリアミドに対し、電離放射線によって重合可能な化合物としてエポキシ基および脂肪族系不飽和基をそれぞれ少なくとも1個以上有する化合物を0.1〜3重量%配合したことを特徴とする上記第1又は第2に記載の高耐熱ゴム補強用繊維材料。
5. 強度が4.5cN/dtex以上であることを特徴とする上記第1〜第4のいずれかに記載の高耐熱ゴム補強用繊維材料。
6. 上記第1〜第5のいずれかに記載の高耐熱ゴム補強用繊維材料を少なくとも一部に用いたタイヤコード。
7. 上記第1〜第5のいずれかに記載の高耐熱ゴム補強用繊維材料を少なくとも一部に用いたランフラットタイヤ用タイヤコード。
8. 上記第1〜第5のいずれかに記載の高耐熱ゴム補強用繊維材料を少なくとも一部に用いたラジアルタイヤ。
9. ポリアミドを主成分とした樹脂を溶融紡糸した未延伸糸、前記未延伸糸を熱延伸した延伸糸、前記延伸糸を1本以上撚り合わせた撚糸コード、前記撚糸コードを製織した簾織物から選ばれる繊維材料に、電離放射線を照射することを特徴とする高耐熱ゴム補強用繊維材料の製造方法。
10. 主成分のポリアミドに対し、電離放射線によって重合可能な化合物を0.2〜10重量%配合した樹脂を溶融紡糸することを特徴とする上記第9に記載の高耐熱ゴム補強用繊維材料の製造方法。
11. 主成分のポリアミドに対し、電離放射線によって重合可能な化合物としてエポキシ基および脂肪族系不飽和基をそれぞれ少なくとも1個以上有する化合物を0.1〜3重量%配合した樹脂を溶融紡糸することを特徴とする上記第9に記載の高耐熱ゴム補強用繊維材料の製造方法。
12. 電離放射線が電子線、γ線であることを特徴とする上記第9〜第11のいずれかに記載の高耐熱ゴム補強用繊維材料の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高温時、特にポリアミドの融点以上の温度においても形態を保持することが可能な高耐熱性のゴム補強用ポリアミド繊維材料とその効率的な製造方法を提供できるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。上述のとおり本発明は、パンクして内圧が低下しタイヤ内部温度が200℃以上、さらに局所的にはポリアミドの融点以上の極めて高温になることがあるランフラットタイヤのカーカスプライコードとしても使用可能な、高温時、特にポリアミドの融点以上において形態を保持し、所定の強度、弾性率を保持できる高度に耐熱性が改善されたゴム補強用ポリアミド繊維材料を提供するものである。ポリアミドの融点以上と言っても無限大温度までのすべての温度範囲において形態を維持することを確認しきることは容易ではないので、本発明においては架橋構造を未形成の主成分となるポリアミドの融点よりも20℃高い温度において熱溶融流動を起こさないことを特定している。
【0013】
本発明におけるポリアミドとしては、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン酸等の脂肪族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸と、1,4−アミノブタン、ヘキサメチレンジアミン、ナノンジアミン等の脂肪族ジアミン、メタキシリレンジアミン等の芳香族ジアミン等との各種重縮合体、11−アミノウンデカン酸等のアミノカルボン酸の重縮合体、ε−カプロラクタム、ウンデカンラクタム、ラウリルラクタム等のラクタム類の開環重合体等が挙げられる。これらの各成分は単独で重合されても良いし複数の成分が共重合されていても構わないが、本発明の高耐熱ゴム補強用繊維材料に好適なのは、比較的融点の高いポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド46、ポリアミド6T、ポリアミド9Tである。ポリアミド6はε−カプロラクタムの開環重合体であり、ポリアミド66はアジピン酸とヘキサメチレンジアミンの重縮合体、ポリアミド46はアジピン酸とジアミノブタンの重縮合体、ポリアミド6Tはテレフタル酸とヘキサメチレンジアミンの重縮合体、ポリアミド9Tはテレフタル酸とナノンジアミンの重縮合体である。これらは単独で使用しても2種類以上を併用して使用しても構わない。
【0014】
かかるポリアミドを得る方法としては、特別な重合条件を採用する必要はなく、公知の方法で合成することができる。
【0015】
さらに前記ポリアミドには、通常用いられている添加剤、例えばリン酸、ジ亜リン酸ソーダ等の無機リン化合物、フェニルホスホン酸、トリフェニルフォスファイト等の有機リン化合物、リン−窒素系錯体、リン−窒素系化合物等の重合触媒、酢酸銅、臭化銅、ヨウ化銅、2−メルカプトベンズイミダゾール銅錯塩等の銅化合物、2−メルカプトベンズイミダゾール、テトラキス−〔メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート〕−メタン等の熱安定剤、乳酸マンガン、ジ亜リン酸マンガン等の光安定剤、二酸化チタン、カオリン等の艶消剤、環状フェノール、エチレンビスステアリルアミド、ステアリン酸カルシウム等の滑剤、可塑剤、結晶化阻害剤、酸化防止剤、ラジカル捕捉剤、制電剤等を含有させることができる。
【0016】
ポリアミドは架橋助剤等を添加しなくても電離放射線によってある程度の架橋反応が進むが、より少ない放射線エネルギーで効率よく架橋させる目的や高い架橋密度を得るために、電離放射線によって重合可能な化合物をポリアミドに配合しても構わない。
【0017】
本発明で用いる電離放射線によって重合可能な化合物とは、分子中に脂肪族系の炭素−炭素二重結合または炭素−炭素三重結合を含む官能基を2個以上含有する化合物のことであり、公知のものを含め特に限定されるものではないが、アクリル基、メタクリル基、アリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリロキシ基、メタクリロキシ基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、クロチル基、イソブテニル基、ヘキセニル基、ビニルエーテル基などを含有する化合物を挙げることができる。具体的には、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、PO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、エトキシ化イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート類、ウレタン(メタ)アクリレート類等の多官能(メタ)アクリル系化合物、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、アリル(メタ)アクリレート、ジアリル(メタ)アクリレート、ジアリル(イソ)フタレート、ジアリルベンゼンホスフォネートなどの多官能アリル系モノマーや、これら多官能モノマーが重合してなる多官能アリル系プレポリマー、トリスアクリロイルオキシエチルフォスフェート等の多官能アクリロイル系モノマーなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これら化合物は単独でも2種類以上を併用して使用しても構わない。
【0018】
電離放射線によって重合可能な化合物のポリアミドに対する添加量は0.2〜10重量%であることが好ましい。添加量がゼロであっても電離放射線でポリアミドにはいくらかの架橋構造が形成され、本発明から排除されるものではないが、添加量が0.2重量%未満の場合には架橋反応を促進する効果が乏しくなるのであまり好ましくなく、10重量%より多い場合には溶融紡糸の際に熱架橋反応が促進され樹脂のゲル化を引き起こしてしまうので好ましくない。
【0019】
さらに本発明においては、ポリアミドに対しエポキシ基および脂肪族系不飽和基をそれぞれ少なくとも1個以上有する化合物を配合することを特徴とするものであるが、ポリアミドと該化合物とを溶融混練する際にポリアミド分子末端のカルボキシル基および/またはアミノ基とエポキシ基とが反応し、ポリアミド分子末端に架橋基を直接的に導入することが可能になる。
【0020】
本発明で用いるエポキシ基および脂肪族系不飽和基をそれぞれ少なくとも1個以上有する化合物とは公知のものを含め特に限定されるものではないが、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル、2−アリルフェニルグリシジルエーテル、2,4−ジアリルフェニルグリシジルエーテル、2,6−ジアリルフェニルグリシジルエーテル、2,4,6−トリアリルフェニルグリシジルエーテル、2−クロチルフェニルグリシジルエーテル、2,4−ジクロチルフェニルグリシジルエーテル、2,6−ジクロチルフェニルグリシジルエーテル、2,4,6−トリクロチルフェニルグリシジルエーテル、4−ビニルフェニルグリシジルエーテル、1,4−ジグリシジルオキシ−2,6−ジアリルベンゼン、4−ビニル−1−シクロヘキセン−1,2−エポキシド、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルアクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルメタアクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルエチルアクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルエチルメタアクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルブチルアクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルブチルメタアクリレート、アリル2,3−オキシプロピルカルボネート、プロペニル2,3−オキシプロピルカルボネート、ブテニル2,3−オキシプロピルカルボネート、ジアクリルモノグリシジルシアヌレート、ジメタクリルモノグリシジルシアヌレート、ジアリルモノグリシジルシアヌレート、ジアクリロイルモノグリシジルシアヌレート、ジクロチルモノグリシジルシアヌレート、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート、ジアクリルモノグリシジルイソシアヌレート、ジメタクリルモノグリシジルイソシアヌレート、ジアクリロイルモノグリシジルイソシアヌレート、ジクロチルモノグリシジルイソシアヌレート、モノアクリルジグリシジルシアヌレート、モノメタクリルジグリシジルシアヌレート、モノアリルジグリシジルシアヌレート、モノアクリロイルジグリシジルシアヌレート、モノクロチルジグリシジルシアヌレート、モノアクリルジグリシジルイソシアヌレート、モノメタクリルジグリシジルイソシアヌレート、モノアリルジグリシジルイソシアヌレート、モノアクリロイルジグリシジルイソシアヌレート、モノクロチルジグリシジルイソシアヌレート、及び上記化合物のグリシジル基を2,3−エポキシブチル基、2,3−エポキシ−2−メチルプロピル基、2,3−エポキシ−2−メチルブチル基等で置き換えた化合物、N−アリルグリシジルオキシベンズアミド、N,N−ジアリルグリシジルオキシベンズアミド、N,N−ジアリルグリシジルオキシイソフタラミド、N,N−ジアリルグリシジルオキシテレフタラミド、ジアリルグリシジルアミン、ジアリルビスフェノールAジグリシジルエーテル、ジアクリルビスフェノールAジグリシジルエーテル、ジメタクリルビスフェノールAジグリシジルエーテル、2,2−ビス(3−アリル−4−グリシジルオキシフェニル)メタン、2,2−ビス(3−アリル−4−グリシジルオキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(3−アリル−4−グリシジルオキシフェニル)シクロヘキサン、2,2−ビス(3、5−ジアリル−4−グリシジルオキシフェニル)メタン、2,2−ビス(3、5−ジアリル−4−グリシジルオキシフェニル)プロパン、ビス(3−アリル−4−グリシジルオキシフェニル)エーテル、ビス(3,5−ジアリル−4−グリシジルオキシフェニル)エーテル、ビス(3−アリル−4−グリシジルオキシフェニル)スルホン、ビス(3,5−ジアリル−4−グリシジルオキシフェニル)スルホン、3,3’−ジアリル−4,4’−ジグリシジルオキシベンゾフェノン、N−〔4−(2,3−エポキシプロポキシ)−3,5−ジメチルベンジル〕アクリルアミドなどが例示される。上記化合物のうち、分子内に2個以上の脂肪族系不飽和基を有するジアリルフェニルグリシジルエーテル、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート、ジアクリルモノグリシジルイソシアヌレート、ジメタクリルモノグリシジルイソシアヌレート、ジアクリロイルモノグリシジルイソシアヌレート、ジアリルビスフェノールAジグリシジルエーテルなどが好ましく用いられる。上記化合物は単独で用いても構わないし2種類以上を併用して用いても構わない。さらには上記化合物の重合体であってもよく、1種類のホモポリマーあるいは2種類以上の共重合体であっても構わない。さらに共重合においては、上記化合物と共重合可能な単量体であれば任意の化合物との共重合体であっても構わない。
【0021】
上記、エポキシ基および脂肪族系不飽和基をそれぞれ少なくとも1個以上有する化合物のポリアミドに対する添加量は0.1〜3重量%であることが好ましい。添加量が0.1重量%未満の場合には架橋反応を促進する効果が不足するので好ましくなく、3重量%より多い場合には溶融紡糸の際に熱架橋反応が促進され樹脂のゲル化を引き起こしてしまうので好ましくない。
【0022】
上記化合物をポリアミドに添加する際に上記反応を促進する触媒を同時に添加しても構わない。該触媒は特に限定されて用いられるものではなく、例えば、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸リチウムなどに代表されるアルカリ金属化合物、酢酸バリウム、酢酸マグネシウム、酢酸ストロンチウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ストロンチウムなどに代表されるアルカリ土類金属化合物、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリヘキシルアミン、トリエタノールアミン、トリエチレンジアミン、ジメチルベンジルアミン、ピリジン、ピコリンなどの3級アミン、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−イソプロピルイミダゾールなどのイミダゾール化合物、テトラメチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムクロライド、トリメチルベンジルアンモニウムクロライド、トリエチルベンジルアンモニウムクロライドなどの第4級アンモニウム塩、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリオクチルホスフィン、トリフェニルホスフィンなどのホスフィン化合物、テトラメチルホスホニウムブロマイド、テトラブチルホスホニウムブロマイド、テトラフェニルホスホニウムブロマイド、トリフェニルベンジルホスホニウムブロマイドなどのホスホニウム塩、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリフェニルホスフェートなどのリン酸エステル、シュウ酸、p−トルエンスルホン酸、ジノニルナフタレンジスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸などの有機酸、三フッ化ホウ素、四塩化アルミニウム、四塩化チタン、四塩化スズなどのルイス酸などが例示できる。これらは1種類または2種類以上を併用して使用することができる。中でもアルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、ホスフィン化合物、リン酸エステル化合物を使用するのが好ましい。触媒の添加量は特に限定されるものではないが、ポリアミドに対して0.001〜1重量%が好ましく、さらには0.01〜0.5重量%である。
【0023】
本発明の高耐熱ゴム補強用繊維材料とは、上記ポリアミドを溶融紡糸して得られる未延伸糸条、それを延伸した延伸糸、それを数本撚り合わせた撚糸コード、あるいはそれを製織した織物である。
【0024】
原糸の製造方法においては常法の製糸条件を採用することができるが、巻取り速度は200〜4000m/分、好ましくは500〜3000m/分で紡糸される。200m/分よりも低い紡糸速度では生産性が低く好ましくない。
【0025】
ポリアミドに電離放射線によって重合可能な化合物および/またはエポキシ基および脂肪族系不飽和基をそれぞれ少なくとも1個以上有する化合物を配合して溶融紡糸する場合は、例えばポリアミド樹脂とこれら化合物とを溶融混練りしてペレット化しておき、これをマスターバッチとして使用する方法や、ポリアミド樹脂を溶融紡糸する際にこれら化合物を直接添加し、紡糸する方法などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0026】
引き取った糸条は一旦巻き取るか、あるいは紡糸に連続して延伸するスピンドロー法により熱延伸する。熱延伸は高倍率の一段延伸もしくは二段以上の多段延伸で行われる。また、加熱方法としては、加熱ローラや過熱蒸気、ヒートプレート、ヒートボックス等による方法があり、特に限定されるものではない。延伸倍率も所望の物性に応じて任意の値で延伸することができる。
【0027】
このようにして得られた高耐熱ゴム補強用繊維は、常法に従い10cmあたり10〜100回の撚り(下撚り)をかけた後、複数本合糸し、反対方向に10cmあたり10〜100回の撚り(上撚り)をかけて撚糸コードとする。次いでこの撚糸コードを常法に従い製織してスダレ織物にし、さらに常法に従い接着剤処理してディップ反を得ることができる。
【0028】
本発明における高耐熱ゴム補強用繊維材料の強度は4.5cN/dtex以上である。好ましくは5cN/dtex、更に好ましくは6.0cN/dtex以上である。強度が4.5cN/dtexを下回ると、最終製品の物性はもとより、生産工程における工程通過性を低下させるため好ましくない。強度は高いほどよく、上限は特に限定されるものではないが、通常は10cN/dtex以下であり、ランフラットタイヤ用途の場合、従来レーヨンが多く用いられてきたものを代替することを目的とすれば、8cN/dtex以下で構わない。
【0029】
本発明の高耐熱ゴム補強用繊維材料は主成分のポリアミド分子鎖間の少なくとも一部に架橋構造を有しているが、この架橋は電離放射線を照射することによって形成される。電離放射線としては照射エネルギーの透過力が大きい電子線やγ線が好ましい。
【0030】
この電離放射線の照射は高耐熱ゴム補強用繊維材料の紡糸工程からディップ反を製造するまでの任意の工程で照射することが可能であるが、電離放射線の照射効率や品質安定の点において、撚糸コードまたはスダレ織物の状態で照射することが好ましい。電離放射線の照射線量は所望の物性を満足するものであれば特に限定はしないが、20〜1000kGyであることが好ましい。照射線量が20kGyよりも低い場合には架橋度が不十分となりやすく、また1000kGyよりも高い場合にはポリアミド分子鎖が分解してしまい、強度物性が低下してしまうので好ましくない。電離放射線の照射プロセスは一般的に常温で行われるプロセスであるが、0〜200℃の任意の温度環境下において照射することができる。また電離放射線を照射する雰囲気ガスには特に限定はないが、酸化分解を抑制するために酸素濃度は低いことが好ましい。好ましい酸素濃度は5000ppm以下であり、更に好ましくは1000ppm以下である。
【実施例】
【0031】
以下に実施例を示し本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。なお、各種特性の評価方法は下記に従った。
【0032】
(1)相対粘度(RV)
96.3±0.1重量%試薬特級濃硫酸中に重合体濃度が10mg/mlになるように試料を溶解させてサンプル溶液を調整し、20℃±0.05℃の温度で水落下秒数6〜7秒のオストワルド粘度計を用い、溶液相対粘度を測定する。測定に際し、同一の粘度計を用い、サンプル溶液を調整したときと同じ硫酸20mlの落下時間T0(秒)と、サンプル溶液20mlの落下時間T1(秒)の比より、相対粘度RVを下記の式を用いて算出する。
相対粘度(RV)=T1/T0
【0033】
(2)強度
オリエンティック社製「テンシロン」を用い、試料長20mm(チャック間長さ)、伸長速度100%/分の条件で、応力−歪曲線を雰囲気温度20℃、相対湿度65%条件下で測定し、破断点での応力を繊度で割り返した値を強度(cN/dtex)として求めた。なお、各値は5回の測定の平均値を使用した。
【0034】
(3)ポリマーの融点
試料を300℃で2分間加熱溶融した後、液体窒素で急冷して得たサンプル10mgを用い、窒素気流中、示差走査型熱量計Mac Science社製DSC 3100Sを用いて20℃/分の昇温速度で発熱・吸熱曲線(DSC曲線)を測定したときの、融解に伴う吸熱ピークの頂点温度を融点Tm(℃)とした。
【0035】
(4)熱溶融流動の観察
一定温度に設定可能なホットプレートにサンプルを1分間置いた後、熱溶融流動しているか光学顕微鏡にて判断する。ポリマーの融点+20℃の温度での観察を実施すると共に、熱流動が生じている温度を熱流動開始温度(℃)とした。
【0036】
(実施例1)
相対粘度3.6のポリアミド66の乾燥チップを一軸のエクストルーダーで溶融し、孔径が0.5mmのオリフィスを336個有する303℃の紡糸口金から吐出させ紡糸した。その際、速度が2000m/minで引き取り、延伸温度が室温、セットローラー温度が140℃間で1.7倍に延伸を施し、1440dtex、336フィラメントの延伸糸を得た。この延伸糸を合糸し1440dtex/2、43T/10cmの下撚りおよび上撚りをかけ撚糸コードとした。このコードの強度は7.9cN/dtexであった。撚糸コードを一定張力下、室温にて窒素雰囲気中(酸素濃度 1000ppm以下)で加速電圧600keVの電子線を500kGy照射した。結果を表1に示すが、熱流動開始温度は295℃であり、ポリアミド66の融点以上においても溶融することなく撚糸コードとしての形態を保持していた。電子線照射後のコードの強度は6.9cN/dtexであった。
【0037】
(実施例2)
ポリアミド66に対してジアリルモノグリシジルイソシアヌレートを0.5wt%、酸化防止剤のイルガノックス1010(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)を0.05wt%添加し、延伸倍率が1.6倍であったこと以外は実施例1と同様の方法で撚糸コードを得、一定張力下、室温にて窒素雰囲気中(酸素濃度 1000ppm以下)で加速電圧600keVの電子線を300kGy照射した。結果を表1に示す。
【0038】
(実施例3)
ポリアミド66に対してジアリルモノグリシジルイソシアヌレートを1.5wt%、酸化防止剤のイルガノックス1010(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)を0.15wt%添加し、延伸倍率が1.5倍であったこと以外は実施例1と同様の方法で撚糸コードを得、一定張力下、室温にて窒素雰囲気中(酸素濃度 1000ppm以下)で加速電圧600keVの電子線を300kGy照射した。結果を表1に示す。電離放射線によって重合可能な化合物を添加したことによって、実施例1に比べて少ない照射線量でより高い耐熱性を発現できている。
【0039】
(実施例4)
ポリアミド66に対してトリアリルイソシアヌレートを1.0wt%、酸化防止剤のイルガノックス1010(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)を0.1wt%添加したこと以外は実施例1と同様の方法で撚糸コードを得、一定張力下、室温にて窒素雰囲気中(酸素濃度 1000ppm以下)で加速電圧600keVの電子線を300kGy照射した。結果を表1に示す。
【0040】
(実験例1)
実施例2で得られた撚糸コードを、一定張力下、室温にて窒素雰囲気中(酸素濃度 1000ppm以下)で加速電圧600keVの電子線を2000kGy照射した。熱流動開始温度は305℃であり、ポリアミド66の融点以上においても溶融することなく撚糸コードとしての形態を保持していたが、強度が4.1cN/dtexまで低下しており、タイヤコード用途としてはやや強度が不足気味であった。
【0041】
(実験例2)
実施例1で得られた撚糸コードを、一定張力下、室温にて窒素雰囲気中(酸素濃度 1000ppm以下)で加速電圧600keVの電子線を10kGy照射したが、熱流動開始温度は260℃であり、十分な耐熱性が得られていないことが分かった。電子線照射量が不十分だった為に十分な架橋度が得られていなかったと考えられる。
【0042】
(比較例1)
ポリアミド66に対してトジアリルモノグリシジルイソシアヌレートを12wt%、酸化防止剤のイルガノックス1010(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)を1.2wt%添加して溶融紡糸を試みたが、発煙と糸切れが多発し、安定した巻き取りが出来なかった。
【0043】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の高耐熱ゴム補強用繊維材料はポリアミド分子鎖間の少なくとも一部に架橋構造を有していることを特徴とするタイヤコード用ポリアミド繊維材料であり、従来のタイヤコード用ポリアミド繊維材料に比べて融点以上の高温においても熱溶融することなく形態保持が可能であるので、パンクして内圧が低下し局所的に高温に曝されるランフラットタイヤ用のタイヤコードに好適なゴム補強用繊維材料である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミドを主成分とするゴム補強用繊維材料であって、前記ポリアミド分子鎖の少なくとも一部に架橋構造を有しており、主成分のポリアミドの融点+20℃の温度で熱溶融流動を起こさないことを特徴とする高耐熱ゴム補強用繊維材料。
【請求項2】
主成分のポリアミドがポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド46、ポリアミド6T、ポリアミド9Tから選ばれる少なくとも1種以上であることを特徴とする請求項1に記載の高耐熱ゴム補強用繊維材料。
【請求項3】
主成分のポリアミドに対し、電離放射線によって重合可能な化合物が0.2〜10重量%配合されてなることを特徴とする請求項1又は2に記載の高耐熱ゴム補強用繊維材料。
【請求項4】
主成分のポリアミドに対し、電離放射線によって重合可能な化合物としてエポキシ基および脂肪族系不飽和基をそれぞれ少なくとも1個以上有する化合物を0.1〜3重量%配合したことを特徴とする請求項1又は2に記載の高耐熱ゴム補強用繊維材料。
【請求項5】
強度が4.5cN/dtex以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の高耐熱ゴム補強用繊維材料。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の高耐熱ゴム補強用繊維材料を少なくとも一部に用いたタイヤコード。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の高耐熱ゴム補強用繊維材料を少なくとも一部に用いたランフラットタイヤ用タイヤコード。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかに記載の高耐熱ゴム補強用繊維材料を少なくとも一部に用いたラジアルタイヤ。
【請求項9】
ポリアミドを主成分とした樹脂を溶融紡糸した未延伸糸、前記未延伸糸を熱延伸した延伸糸、前記延伸糸を1本以上撚り合わせた撚糸コード、前記撚糸コードを製織した簾織物から選ばれる繊維材料に、電離放射線を照射することを特徴とする高耐熱ゴム補強用繊維材料の製造方法。
【請求項10】
主成分のポリアミドに対し、電離放射線によって重合可能な化合物を0.2〜10重量%配合した樹脂を溶融紡糸することを特徴とする請求項9に記載の高耐熱ゴム補強用繊維材料の製造方法。
【請求項11】
主成分のポリアミドに対し、電離放射線によって重合可能な化合物としてエポキシ基および脂肪族系不飽和基をそれぞれ少なくとも1個以上有する化合物を0.1〜3重量%配合した樹脂を溶融紡糸することを特徴とする請求項9に記載の高耐熱ゴム補強用繊維材料の製造方法。
【請求項12】
電離放射線が電子線、γ線であることを特徴とする請求項9〜11のいずれかに記載の高耐熱ゴム補強用繊維材料の製造方法。

【公開番号】特開2008−285767(P2008−285767A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−129074(P2007−129074)
【出願日】平成19年5月15日(2007.5.15)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】