説明

高耐熱性熱線遮蔽体形成用タングステン酸化物微粒子の製造方法、高耐熱性熱線遮蔽体形成用タングステン酸化物微粒子および高耐熱性熱線遮蔽体形成用分散液、並びに高耐熱性熱線遮蔽体

【課題】可視光領域での透明性が高く、近赤外線領域の遮蔽性能が高く、かつ耐熱性に優れる熱線遮蔽体形成用タングステン酸化物微粒子の製造方法、高耐熱性熱線遮蔽体形成用タングステン酸化物微粒子、当該タングステン酸化物微粒子を用いた高耐熱性熱線遮蔽体形成用分散液および高耐熱性熱線遮蔽体を提供する。
【解決手段】タングステン酸(HWO)、または、タングステン酸(HWO)と三酸化タングステン微粒子との混合物と、M元素の酸化物または/および水酸化物とを混合した混合粉、または/および、タングステン酸(HWO)、または、タングステン酸(HWO)と三酸化タングステン微粒子との混合物と、前記M元素の、金属塩の水溶液、金属酸化物のコロイド溶液、アルコキシ溶液のうちから選択される1種以上とを、混合して乾燥した乾燥粉を、不活性ガスと還元性ガスとの混合ガス雰囲気下で焼成することにより、一般式MyWOzで表されるタングステン酸化物粒子を生成させた後、湿式粉砕して得られるタングステン酸化物微粒子を、酸素含有雰囲気下において、50℃以上400℃以下で酸化暴露処理する高耐熱性熱線遮蔽体形成用タングステン酸化物微粒子の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光領域においては透明、赤外線領域においては吸収を持つ高耐熱性熱線遮蔽体形成用タングステン酸化物微粒子の製造方法、高耐熱性熱線遮蔽体形成用タングステン酸化物微粒子および当該高耐熱性熱線遮蔽体形成用タングステン酸化物微粒子が分散されてなる高耐熱性熱線遮蔽体形成用分散液、並びに高耐熱性熱線遮蔽体に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光や電球などの外部光源から熱成分を除去、減少する方法として、従来、ガラス表面等に赤外線を反射する材料からなる被膜を形成して熱線反射ガラスとし、当該熱線反射ガラスを用いて外部光源から熱成分を除去、減少することが行われていた。そして、その赤外線反射材料には、FeOx、CoOx、CrOx、TiOxなどの金属酸化物や、Ag、Au、Cu、Ni、Alなどの金属材料が選択されてきた。
【0003】
ところが、これら金属酸化物や金属材料には、熱効果に大きく寄与する赤外線、熱線と呼ばれる波長800〜2500nmの近赤外線のみならず、可視光も同時に反射もしくは吸収する性質がある為、当該熱線反射ガラスの可視光透過率が低下してしまう問題があった。一方、建材、乗り物、電話ボックスなどに用いられる基材においては可視光領域での高い透過率が必要とされる。そこで、熱線反射ガラスとして上記金属酸化物などの材料を利用する場合には、その被膜の膜厚を非常に薄くしなければならない。この為、スプレー焼付け法やCVD法、あるいはスパッタリング法や真空蒸着法などの物理成膜法を用いて、当該被膜を、膜厚10nmレベルの薄膜として成膜して用いる方法が採られている。
【0004】
しかし、これらの成膜方法は大がかりな装置や真空設備を必要とし、生産性や大面積化に難点があり、膜の製造コストが高くなる問題点がある。また、これらの材料を用いて熱線反射ガラスの熱線遮蔽特性を高くしようとすると、可視光領域の反射率も同時に高くなってしまう傾向がある。この結果、熱線反射ガラスが鏡のようなギラギラした外観となり、美観を損ねてしまう欠点もあった。更に、これらの材料で成膜された膜は、電気抵抗値が比較的低くなって電波に対する反射が高くなる。この結果、例えば、携帯電話やテレビ、ラジオなどの電波を反射して受信不能になったり、周辺地域に電波障害を引き起こしたりするなどの問題点もあった。
【0005】
このような問題点を改善するためには、膜の物理特性として可視光領域の光の反射率が低くて赤外線領域の反射率が高く、且つ、膜の表面抵抗値を概ね10Ω/□以上に制御可能な膜が必要であると考えられる。
【0006】
ここで、可視光透過率が高く、しかも優れた熱線遮蔽機能を持つ材料として、アンチモン錫酸化物(以下、ATOと略記する。)や、インジウム錫酸化物(以下、ITOと略記する。)が知られている。これらの材料は、可視光反射率が比較的低い為、熱線反射ガラスへギラギラした外観を与えることはない。しかし、これらの材料は、プラズマ周波数が近赤外線領域にあるために、可視光により近い近赤外域において反射・吸収効果が未だ十分でない。更に、これらの材料は、単位重量当たりの熱線遮蔽力が低いため、高遮蔽機能を得るには使用量が多くなって原料コストが割高となるという問題を有していた。
【0007】
さらに、熱線遮蔽機能を有する赤外線遮蔽膜材料として、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化バナジウムをわずかに還元した膜が挙げられる。これらの膜はいわゆるエレクトロクロミック材料として用いられる材料であるが、充分に酸化された状態では透明である。ところが、これらの膜を電気化学的な方法で還元すると、長波長の可視光領域から近赤外領域にかけて吸収を生じるようになる。
【0008】
特許文献1では、透明なガラス基板上に、基板側より第1層として周期律表のIIIa族、IVa族、Vb族、VIb族及びVIIb族から成る群から選ばれた少なくとも1種の金属イオンを含有する複合酸化タングステン膜を設け、前記第1層上に第2層として透明誘電体膜を設け、該第2層上に第3層として周期律表のIIIa族、IVa族、Vb族、VIb族及びVIIb族から成る群から選ばれた少なくとも1種の金属イオンを含有する複合酸化タングステン膜を設け、かつ前記第2層の透明誘電体膜の屈折率が前記第1層及び前記第3層の複合酸化タングステン膜の屈折率よりも低くする熱線遮蔽ガラスが提案されている。また、当該文献によれば、金属イオンを含有する複合酸化タングステン膜は、特に大面積化及び生産性等の観点からスパッタリング法によって成膜する旨記載されている。
【0009】
特許文献2では、特許文献1と同様の方法で、透明なガラス基板上に、基板側より第1層として第1の誘電体膜を設け、該第1層上に第2層として酸化タングステン膜を設け、該第2層上に第3層として第2の誘電体膜を設けた熱線遮蔽ガラスが提案されている。
【0010】
特許文献3では、特許文献1と同様な方法で、透明な基板上に、基板側より第1層として同様の金属元素を含有する複合酸化タングステン膜を設け、前記第1層上に第2層として透明誘電体膜を設けた熱線遮蔽ガラスが提案されている。
【0011】
特許文献4では、タングステンからなるターゲットを用い、二酸化炭素を含む雰囲気中でスパッタリングすることで、高遮熱性を有し、面内における光学特性が均一な酸化タングステン膜を安定して生産できる、電波透過型熱線遮蔽膜の成膜方法が提案されている。
【0012】
例えば、特許文献1〜4に記載されているように、従来、タングステン化合物を含む赤外線遮蔽膜の製膜方法としてはスパッタリング法が用いられてきた。しかし、スパッタリング法のような物理成膜法は大がかりな装置や真空設備を必要とし、生産性の観点から課題があり、大面積化を行うことは技術的に可能ではあっても膜の製造コストが高くなるという課題があった。また、熱線遮蔽体としての観点からは、赤外域や近赤外域の遮蔽性能を落とすことなく、可視光線域での光透過性をより向上させる必要があるという課題がある。また、生産性の観点より当該赤外線遮蔽層を単層膜とした場合、当該赤外線遮蔽層が酸化し易く、傷つき易いという耐久性の弱さも問題となっていた。
【0013】
そこで、本発明者らは先に可視光透過率を高く保ったまま、赤外線の透過率を低くできる日射遮蔽体形成用タングステン酸化物微粒子の製造方法、日射遮蔽体形成用タングステン酸化物微粒子および日射遮蔽体形成用分散液並びに日射遮蔽体について、特許文献5として開示した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平8−59300号公報
【特許文献2】特開平8−12378号公報
【特許文献3】特開平8−283044号公報
【特許文献4】特開平10−183334号公報
【特許文献5】特開2005−187323号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明者らの更なる研究によれば、特許文献5に開示した日射遮蔽体形成用タングステン酸化物微粒子であっても、耐熱性については十分満足すべきものではなく、未だ改善の余地が残されていることを見出した。
本発明はこのような問題点を解決すべくなされたもので、その課題とするところは可視光領域での透明性が高く、近赤外線領域の遮蔽性能が高く、かつ耐熱性に優れる高耐熱性熱線遮蔽体形成用タングステン酸化物微粒子の製造方法、高耐熱性熱線遮蔽体形成用タングステン酸化物微粒子、当該タングステン酸化物微粒子を用いた高耐熱性熱線遮蔽体形成用分散液および高耐熱性熱線遮蔽体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するため、本発明者等が鋭意研究を継続した結果、一般式MyWOz(但し、M元素は、Cs、Rb、K、Na、Ba、Ca、Sr、Mg、Nb、Ge、Inの内から選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で表記される六方晶の結晶構造を有するタングステン酸化物微粒子が既に酸化物であるにも拘わらず、当該タングステン酸化物微粒子を、再び酸素含有雰囲気下で酸化暴露処理した熱線遮蔽材料微粒子が、耐熱性に優れていることを知見するに至り、且つ、当該熱線遮蔽材料微粒子が分散されてなる熱線遮蔽体も、耐熱性に優れていることを知見するに至った。本発明はこのような技術的知見に基づき完成されたものである。
【0017】
すなわち、上述の課題を解決する第1の発明は、
タングステン酸(HWO)、または、タングステン酸(HWO)と三酸化タングステン微粒子との混合物と、M元素の酸化物または/および水酸化物(但し、MはCs、Rb、K、Na、Ba、Ca、Sr、Mg、Nb、Ge、In、Tlの内から選択される1種以上の元素)とを混合した混合粉、
または/および
タングステン酸(HWO)、または、タングステン酸(HWO)と三酸化タングステン微粒子との混合物と、前記M元素の、金属塩の水溶液、金属酸化物のコロイド溶液、アルコキシ溶液のうちから選択される1種以上とを、混合して乾燥した乾燥粉を、不活性ガスと還元性ガスとの混合ガス雰囲気下で焼成することにより、一般式MyWOz(但し、Mは前記M元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で表されるタングステン酸化物粒子を生成させた後、湿式粉砕して得られるタングステン酸化物微粒子を酸素含有雰囲気下において、50℃以上400℃以下で酸化暴露処理することを特徴とする高耐熱性熱線遮蔽体形成用タングステン酸化物微粒子の製造方法である。
【0018】
第2の発明は、
前記酸素含有雰囲気が0.1体積%〜25体積%であることを特徴とする第1の発明に記載の高耐熱性熱線遮蔽体形成用タングステン酸化物微粒子の製造方法である。
【0019】
第3の発明は、
第1または第2の発明に記載の高耐熱性熱線遮蔽体形成用タングステン酸化物微粒子の製造方法で製造されることを特徴とする高耐熱性熱線遮蔽体形成用タングステン酸化物微粒子である。
【0020】
第4の発明は、
前記高耐熱性熱線遮蔽体形成用タングステン酸化物微粒子の粒子径が0.1nm〜800nmであることを特徴とする第3の発明に記載の高耐熱性熱線遮蔽体形成用タングステン酸化物微粒子である。
【0021】
第5の発明は、
第3または第4の発明に記載の高耐熱性熱線遮蔽体形成用タングステン酸化物微粒子が、溶媒中に分散されていることを特徴とする高耐熱性熱線遮蔽体形成用分散液である。
【0022】
第6の発明は、
第3または第4の発明に記載の高耐熱性熱線遮蔽体形成用タングステン酸化物微粒子が、樹脂中に分散されていることを特徴とする高耐熱性熱線遮蔽体である。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る高耐熱性熱線遮蔽体形成用タングステン酸化物微粒子は、一般式MyWOz(但し、M元素はCs、Rb、K、Na、Ba、Ca、Sr、Mg、Nb、Ge、In、Tlの内から選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で表記される六方晶の結晶構造を有するタングステン酸化物微粒子を酸素含有雰囲気下で酸化暴露処理したもので耐熱性に優れている。当該高耐熱性熱線遮蔽体形成用タングステン酸化物微粒子を用いて、耐熱性に優れる高耐熱性熱線遮蔽体形成用分散液や高耐熱性熱線遮蔽体を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について、具体的に説明する。
本発明者らは、可視光透過率を高く保ったまま、赤外線の透過率を低くできるタングステン酸化物として、
タングステン酸(HWO)または/および三酸化タングステン微粒子と、M元素の酸化物または/および水酸化物(但し、M元素はCs、Rb、K、Na、Ba、Ca、Sr、Mg、Nb、Ge、In、Tlの内から選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素)とを、混合した混合粉、
または/および、
タングステン酸(HWO)または/および三酸化タングステン微粒子と、前記M元素の、金属塩の水溶液、金属酸化物のコロイド溶液、アルコキシ溶液のうちから選択される1種以上とを混合して乾燥した乾燥粉を、
不活性ガスと還元性ガスとの混合ガス雰囲気下で焼成することにより、一般式MyWOz(但し、M元素はCs、Rb、K、Na、Ba、Ca、Sr、Mg、Nb、Ge、In、Tlの内から選択される1種以上の元素、W:タングステン、O:酸素、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で表されるタングステン酸化物微粒子、に想到した。
【0025】
そして、上述したタングステン酸化物微粒子へ、所定条件下にて酸化暴露処理を加えて得られた高耐熱性熱線遮蔽体形成用タングステン酸化物微粒子や、当該高耐熱性熱線遮蔽体形成用タングステン酸化物微粒子を用い製造したタングステン酸化物微粒子分散液を用いて、高コストの物理成膜法を用いず、簡便な塗布法または練り込み法を用いて、高耐熱性熱線遮蔽膜や、高耐熱性熱線遮蔽体を形成することができる。当該高耐熱性熱線遮蔽膜や、高耐熱性熱線遮蔽体は、従来の課題となっていた熱線遮蔽膜や熱線遮蔽体の耐熱性改善を図ることができた。
【0026】
以下、本発明に係る高耐熱性熱線遮蔽体形成用タングステン酸化物微粒子、当該高耐熱性熱線遮蔽膜や、高耐熱性熱線遮蔽体について工程順に説明する。
【0027】
1.高耐熱性熱線遮蔽体形成用タングステン酸化物微粒子の製造
1−(A)一般式MyWOz(但し、M元素はCs、Rb、K、Na、Ba、Ca、Sr、Mg、Nb、Ge、In、Tlの内から選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で表されるタングステン酸化物微粒子の製造
タングステン酸(HWO)と、M元素の酸化物または/および水酸化物とを混合した混合粉、
または、三酸化タングステン微粒子と、M元素の酸化物または/および水酸化物とを混合した混合粉、
または、タングステン酸(HWO)と三酸化タングステン微粒子との混合物と、M元素の酸化物または/および水酸化物とを混合した混合粉、
または、タングステン酸(HWO)および/または三酸化タングステン微粒子と、M元素の金属塩の水溶液、金属酸化物のコロイド溶液、アルコキシ溶液の内から選択される1種以上とを混合して乾燥した乾燥粉、
を不活性ガスと還元性ガスとの混合ガス雰囲気下で焼成することにより、一般式MyWOz(但し、M元素はCs、Rb、K、Na、Ba、Ca、Sr、Mg、Nb、Ge、In、Tlの内から選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で表されるタングステン酸化物粒子を生成させる。当該生成したタングステン酸化物粒子を湿式粉砕して得たタングステン酸化物微粒子を、酸素含有雰囲気下で処理することを特徴とする高耐熱性熱線遮蔽体形成用タングステン酸化物微粒子を得る工程について説明する。
【0028】
原料として用いるタングステン酸(HWO)は、焼成によって酸化物となるものであれば特に制限は無い。また、原料として用いる三酸化タングステンは、前記タングステン酸(HWO)を焼成して三酸化タングステン微粒子としたものを用いてもよいし、市販品を用いてもよい。但し、製造される熱線遮蔽用タングステン酸化物微粒子の光学的特性の観点からは、原料として用いるタングステン酸(HWO)の焼成によって得られる酸化物を用いることが好ましい。尤も、コスト、生産性の観点からは、市販品等の三酸化タングステン微粒子を用いることも出来、さらに、上述の観点より、タングステン酸を焼成した三酸化タングステン微粒子と、市販品等の三酸化タングステン微粒子との混合物を使用しても良い。
【0029】
前記タングステン酸を焼成した三酸化タングステン微粒子を用いる場合、焼成時の処理温度は、望まれる三酸化タングステン微粒子の性状および光学特性の観点から、200℃以上が好ましい。一方、焼成時の処理温度が1000℃を越えると焼成の効果が飽和し、また、1000℃以下であれば、光学特性の低下原因となる粒成長を回避できることから1000℃以下が好ましい。焼成時の処理時間は処理温度に応じて適宜選択すればよいが、10分間以上5時間以下でよい。
【0030】
M元素を添加する際のM元素原料は、酸化物または/および水酸化物が好ましい。このM元素の酸化物または/および水酸化物と、タングステン酸(HWO)または/および三酸化タングステン微粒子とを混合する。当該混合操作は、市販の擂潰機、ニーダー、ボールミル、サンドミル、ペイントシェカー等で行えばよい。
【0031】
また、タングステン酸(HWO)または/および三酸化タングステン微粒子と、前記M元素の水溶液、金属酸化物のコロイド溶液、アルコキシ溶液の内から選択される1種以上とを、混合して乾燥した乾燥粉を用いる場合、塩を形成するための相手方のイオンは特に限定されるものでなく、例えば、硝酸イオン、硫酸イオン、塩化物イオン、炭酸イオンなどが挙げられる。乾燥温度や時間は特に限定されるものでない。
【0032】
次に、上記混合物または乾燥粉に酸素空孔を生成させる為、不活性ガスと還元性ガスとの混合ガス雰囲気下で焼成する。この焼成の際の雰囲気は、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスと、水素、アンモニア、アルコールなどの還元性ガスとの混合ガスを用いることができる。不活性ガスと還元性ガスとの混合ガス雰囲気下で焼成する場合、不活性ガス中の還元性ガスの濃度は焼成温度に応じて適宜選択すれば良く、特に限定されないが、例えば20体積%以下、好ましくは10体積%以下、より好ましくは7体積%以下とすれば良い。還元性ガスの濃度が20体積%以下であれば、急速な還元による熱線遮蔽機能を有しないWOの生成を回避できるからである。
【0033】
焼成の際の処理温度は雰囲気に応じて適宜選択すればよいが、雰囲気が不活性ガス単独の場合は、焼成される熱線遮蔽用微粒子の粒子としての結晶性や隠ぺい力の観点から650℃を超え1200℃以下、より好ましくは1100℃以下、さらに好ましくは1000℃以下である。
また、雰囲気が不活性ガスと還元性ガスとの混合ガスの場合は、当該還元ガスの存在によりWOが生成することのない温度を適宜選択すればよい。
【0034】
上述したように当該焼成を1ステップの処理温度下で実施してもよいが、焼成途中で雰囲気や焼成温度を変化させる複数ステップとしてもよい。
例えば、第1ステップにおいて、不活性ガスと還元性ガスとの混合ガス雰囲気下で100℃以上650℃以下で焼成し、第2ステップにおいて不活性ガス雰囲気下、650℃を超え1200℃以下で焼成することで、熱線遮蔽特性に優れた熱線遮蔽微粒子を得ることができ好ましい構成である。
これらの焼成の処理時間は温度に応じて適宜選択すればよいが、5分間以上5時間以下でよい。このようにして得たタングステン酸化物粒子を、適宜な溶媒とともに、例えばビーズミル、ボールミル、サンドミル、ペイントシェーカー、超音波ホモジナイザーなどとともに湿式粉砕してタングステン酸化物粒子をより微粒子化する。
【0035】
1−(B)一般式MyWOz(但し、M元素はCs、Rb、K、Na、Ba、Ca、Sr、Mg、Nb、Ge、In、Tlの内から選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で表されるタングステン酸化物微粒子の酸化暴露処理
本発明に係るタングステン酸化物微粒子は、上述の構成を有するタングステン酸化物微粒子が既に酸化物であるにも拘わらず、当該タングステン酸化物微粒子を、再び酸素含有雰囲気下で暴露による酸化処理して得られたものである。
当該暴露による酸化処理により、最終製品である高耐熱性熱線遮蔽透明樹脂成形体や積層体の耐熱性が向上する正確な機構は未だ不明である。しかし、本発明者らは、当該暴露による酸化処理により、上述の構成を有するタングステン酸化物微粒子の表面に、さらに、新たな酸化膜が形成され、当該酸化膜が外部酸素のバリア−層となることで、本発明に係るタングステン酸化物微粒子の耐熱性が向上し、高耐熱性熱線遮蔽体形成用分散液や、最終製品である高耐熱性熱線遮蔽体の耐熱性が向上したものと考えている。
【0036】
当該暴露による酸化処理について説明する。
上記湿式粉砕されたタングステン酸化物微粒子を回収し、耐熱性機能を付与するために酸素含有雰囲気下で酸化暴露処理する。当該酸素含有雰囲気の酸素濃度は、高すぎると微粒子表面の過度の酸化で酸化膜が厚膜化し、フィラー使用量の増加を招きコストアップとなる。一方、低すぎると酸化膜が薄すぎて耐熱に対する効果が低くなることから、0.1体積%以上25体積%以下が好ましい。
【0037】
例えば、大気中(酸素濃度 約21体積%)で酸化暴露処理を行えば本発明の高耐熱性熱線遮蔽体形成用タングステン酸化物微粒子を得ることができる。
処理温度は、酸素濃度に応じて適宜選択すればよいが、耐熱性付与効果の観点から50℃以上400℃以下が好ましい。これらの処理時間は温度に応じて適宜選択すればよい。酸化暴露処理時間は、例えば、50℃以上100℃未満であれば10時間以上72時間以下、100℃以上400℃以下であれば1時間以上72時間以下で良い。
このようにして得られたタングステン酸化物微粒子は、十分な耐熱機能を発揮する。
【0038】
2.高耐熱性熱線遮蔽体形成用タングステン酸化物微粒子
上記1−(A)(B).の工程によって得られたタングステン酸化物微粒子は、一般式MyWOz(但し、M元素はCs、Rb、K、Na、Ba、Ca、Sr、Mg、Nb、Ge、In、Tlの内から選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で表されるタングステン酸化物微粒子である。
当該MyWOzで表されるタングステン酸化物微粒子は、yの値が0.1以上あれば、十分な伝導電子を生成し、0.5以下であれば不純物の生成を回避できるので好ましい。即ち、当該yの範囲において十分な熱線遮蔽機能を発揮する。
【0039】
また、zの値が2.2以上あれば、熱線遮蔽機能を有しないWOの生成を回避でき、3.0以下であれば十分な伝導電子を生成する。この結果、当該zの範囲において十分な熱線遮蔽機能を発揮する。ここで、元素MはCs、Rb、K、Na、Ba、Ca、Sr、Mg、Nb、Ge、In、Tlの内から選択される1種以上の元素であることが好ましい。
【0040】
また、本発明のタングステン酸化物微粒子の粒子径は、当該微粒子の使用目的によって適宜選定することができる。例えば、熱線遮蔽材の透明性を保持した応用に使用する場合は、粒子径を800nm以下にすることが好ましい。粒子径が800nmよりも小さい粒子は、光を完全に遮蔽することがないため、可視光線領域の視認性を保持し、同時に効率良く透明性を保持することが可能となるからである。
さらに、可視光領域の透明性を重視する場合は、粒子による光の散乱も考慮する必要がある。透明性を重視したとき、粒子径は200nm以下、好ましくは100nm以下が好ましい。理由は、粒子の粒子径が大きいと幾何学散乱もしくはミー散乱によって、400nm〜780nmの可視光線領域の光が散乱され、熱線遮蔽材の外観が曇りガラスのようになり、鮮明な透明性が得られにくくなるからである。粒子径が200nm以下になると、上記散乱が低減し、レイリー散乱領域になる。レイリー散乱領域では、散乱光は粒子径の6乗に反比例して低減するため、粒子径の減少に伴い散乱が低減し透明性が向上する。さらに、100nm以下になると散乱光は非常に少なくなり好ましい。また、粒子径が1nm以上のタングステン酸化物微粒子は工業的な製造が容易である。
【0041】
上述した、粒子径を選択することにより、タングステン酸化物微粒子を媒体中に分散させた熱線遮蔽材料微粒子分散体のヘイズ値を、可視光透過率85%以下において30%以下とすることができる。熱線遮蔽材料微粒子分散体のヘイズ値が30%よりも小さい値であると、鮮明な透明性が得られる。このようにして得られた熱線遮蔽体形成用タングステン酸化物微粒子は、上記の特性を有することから、熱線遮蔽体微粒子として優れた光学特性を発揮する。
【0042】
3.高耐熱性熱線遮蔽体形成用分散液
上述した前記高耐熱性熱線遮蔽体形成用タングステン酸化物微粒子を、適宜な溶媒中に混合、分散することで、本発明に係る高耐熱性熱線遮蔽体形成用分散液を得ることが出来る。当該溶媒は特に限定されるものでなく、塗布・練り込み条件、塗布・練り込み環境、さらに、無機バインダーや樹脂バインダーを含有させたときは、当該バインダーに合わせて適宜選択すればよい。例えば、水、そして、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、ジアセトンアルコールなどのアルコール類、メチルエーテル,エチルエーテル,プロピルエーテルなどのエーテル類、エステル類、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、シクロヘキサノン、イソブチルケトンなどのケトン類、トルエンなどの芳香族炭化水素類といった各種の有機溶媒が使用可能である。また必要に応じて上述した溶媒へ、酸やアルカリを添加してpH調整してもよい。さらに、本発明に係る高耐熱性熱線遮蔽体形成用分散液中における微粒子の分散安定性を一層向上させる為、各種の界面活性剤、カップリング剤などの添加も勿論可能である。
【0043】
本発明に係る高耐熱性熱線遮蔽体形成用分散液の特徴は、当該分散液中のタングステン酸化物微粒子の分散状態を測定することで確認することができる。例えば、本発明に係るタングステン酸化物微粒子が、溶媒中において粒子および粒子の凝集状態として存在する状態の液から試料をサンプリングし、当該試料を市販されている種々の粒度分布計で測定することで確認することができる。粒度分布計としては、例えば、動的光散乱法を原理とした大塚電子(株)社製ELS−8000を用いることができる。
【0044】
タングステン酸化物微粒子の分散粒子径は、光学特性の観点から、400nm以下まで十分細かく、かつ、均一に分散していることが好ましい。分散粒子径が400nm以下であれば、熱線遮蔽膜や成形体(板、シートなど)が、単調に透過率の減少した灰色系のものになってしまうのを回避できるからである。また、タングステン酸化物微粒子が凝集して粗大粒子となり多数存在すると、当該粗大粒子が光散乱源となる。当該光散乱源があると、熱線遮蔽膜や成形体となったときに曇り(ヘイズ)が大きくなり、可視光透過率が減少する原因となることがあるので、粗大粒子生成を回避することが好ましい。
尚、本発明において「分散粒子径」とは「凝集粒子径」を意味するものである。
【0045】
タングステン酸化物微粒子の溶媒への分散方法は、微粒子を分散液中へ均一に分散する方法であれば特に限定されず、例えば、ビーズミル、ボールミル、サンドミル、ペイントシェーカー、超音波ホモジナイザーなどが挙げられる。これらの器材を用いた分散処理工程によって、タングステン酸化物微粒子の溶媒中への分散と同時にタングステン酸化物粒子同士の衝突等による微粒子化も進行し、タングステン酸化物粒子をより微粒子化して分散させることができる(すなわち、粉砕・分散処理することができる)。
【0046】
4.高耐熱性熱線遮蔽体の製造
4−(A)塗布操作による場合
上記高耐熱性熱線遮蔽体形成用分散液を、適宜な透明基材上に塗布して被膜を形成する場合の塗布法は、例えばスピンコート法、バーコート法、スプレーコート法、ディップコート法、スクリーン印刷法、ロールコート法、流し塗りなど、分散液を平坦かつ薄く均一に塗布できる方法であればいずれの方法でもよい。
【0047】
また、上記高耐熱性熱線遮蔽体形成用分散液が、無機バインダーとして、珪素、ジルコニウム、チタン、もしくはアルミニウム等の元素を金属アルコキシドおよびその加水分解重合物として含む分散液である場合、当該分散液の塗布後の基材加熱温度は100℃以上とすることが好ましい。基材温度を100℃以上とすることで、塗膜中に含まれるアルコキシドまたはその加水分解重合物の重合反応を完結させることができ、また水や有機溶媒が膜中に残留して、加熱後の膜における可視光透過率の低減の原因となるのを回避することができるからである。さらに、同様の理由により、当該溶媒の沸点が100℃以上の場合は、当該溶媒の沸点以上で加熱を行うことが望ましい。
【0048】
また、上記熱線遮蔽体形成用分散液が、樹脂バインダーを含む分散液である場合、当該分散液を基材に塗布後、それぞれの樹脂の硬化方法に従って硬化させればよい。例えば、当該樹脂バインダーが、紫外線硬化樹脂であれば紫外線を適宜照射すればよく、また常温硬化樹脂であれば塗布後そのまま放置しておけばよい。このため、当該構成を有する熱線遮蔽体形成用分散液は、既存の窓ガラス等への現場における塗布が可能である。
【0049】
4−(B)練り込み操作による場合
上記高耐熱性熱線遮蔽体形成用分散液を樹脂に練り込むときは、当該樹脂の融点付近の温度(200〜300℃前後)にて加熱混合する。そして、熱線遮蔽体を樹脂に混合した後、これをペレット化し、各方式でファイルやボ−ドを形成することが可能である。形成方法としては、例えば、押し出し成形法、インフレーション成形法、溶液流延法、キャスティング法などが適用可能である。この時のフィルムやボ−ドの厚さは、使用目的に応じて適宜選定すればよい。当該樹脂に対するタングステン酸化物の微粒子の添加量は、基材の厚さや必要とされる光学特性、機械特性に応じて適宜選択することが可能であるが、一般的に、当該樹脂に対して50重量%以下とすることが好ましい。
【0050】
上記熱線遮蔽体を練り込む樹脂は、特に限定されるものではなく用途に応じて選択可能であるが、例えばPET樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート樹脂、オレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂、ポリエチレン、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン樹脂、ポロプロピレン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂などが挙げられる。
【0051】
5.熱線遮蔽体の熱線遮蔽効果
タングステン酸化物微粒子の分散粒子径が800nm以下と十分細かく、かつ均一に分散した熱線遮蔽体は、光の透過率において波長350nm〜600nmに極大値を、波長600〜1500nmに極小値を持つ熱線遮蔽体が得られる。
熱線遮蔽体における透過率の極大値と極小値との差は、この差の値が大きいほど熱線遮蔽特性が優れる。これは、タングステン酸化物微粒子の透過プロファイルは、波長350nm〜600nmに極大値を、波長600〜1500nmに極小値を持っていること、一方、可視光波長域は380nm〜780nmで、人間の視感度が550nm付近をピ−クとする釣鐘型であることによる。すなわち、当該透過特性を有する本発明に係る熱線遮蔽体は、可視光を有効に透過しそれ以外の熱線を有効に反射・吸収することが理解される。
【0052】
6.その他
本発明に係る熱線遮蔽体へ更に紫外線遮蔽機能を付与させるため、無機系の酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウムなどの粒子、有機系のベンゾフェノン、ベンゾトリアゾ−ルなどの1種若しくは2種以上を添加してもよい。
また、本発明に係る熱線遮蔽体の透過率を向上させるために、さらにATO、ITO、アルミニウム添加酸化亜鉛などの粒子を混合してもよい。これらの透明粒子を熱線遮蔽体へ適宜添加すると、750nm付近の透過率が増加し、かつ赤外線を遮蔽するため、可視光透過率が高く、かつ熱線遮蔽特性のより高い熱線遮蔽体が得られる。
【0053】
また、ATO、ITO、アルミニウム添加酸化亜鉛などの粒子を分散した分散液へ、本発明に係る熱線遮蔽体形成用分散液を添加すれば、本発明に係る熱線遮蔽体を構成するタングステン酸化物の膜色は青色なため、ATO、ITO、アルミニウム添加酸化亜鉛等の膜を着色すると同時に、その熱線遮蔽効果を補助することもできる。この場合、主体となるATO、ITO、アルミニウム添加酸化亜鉛などに対し、本発明に係る熱線遮蔽体形成用分散液をほんの僅か添加することで熱線遮蔽効果を補助できる。この結果、原料コストの高いATOやITO等の必要添加量を、大幅に減少させることが可能となり分散液コストを下げることができる。
【0054】
また、本発明に係る熱線遮蔽体形成用分散液を用いた熱線遮蔽体の形成は、焼成時の熱による液体成分の分解反応、または、化学反応を用いたものではないため、特性の安定した熱線遮蔽体を形成することができる。
【0055】
さらに、上述したような優れた熱線遮蔽効果を発揮するタングステン酸化物微粒子は、無機材料であるので有機材料と比べて耐候性に優れており、例えば、太陽光線(紫外線)の当たる部位に使用しても色や諸機能の劣化はほとんど生じない。この結果、車両、ビル、事務所、一般住宅などの窓材や、電話ボックス、ショーウィンドー、照明用ランプ、透明ケースなどに使用される単板ガラス、合わせガラス、プラスチックス、繊維、その他の熱線遮蔽機能を必要とする熱線遮蔽体などの広汎な分野に用いることができる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。また、各実施例や比較例の熱線遮蔽体の可視光透過率並びに熱線透過率は、日立製作所(株)製の分光光度計U−4000を用いて測定した。上記熱線透過率は、熱線遮蔽性能を示す指標である。また、ヘイズ値は村上色彩技術研究所(株)製HR−200を用いて測定した。膜評価においては線径の異なる3種のバーコーターで成膜し、得られた膜厚が異なる3種類の膜の3点プロットから可視光透過率73%のときの熱線透過率およびヘイズ値を求めた。
【0057】
[実施例1]
タングステン酸(HWO)34.57kgに、炭酸セシウム7.43kgを水6.70kgに溶解した水溶液を添加して混合した後、100℃で攪拌しながら水分を除去して乾燥粉を得た。次に、当該乾燥粉を、Nガスをキャリアとした5%Hガスを供給しながら加熱し、800℃の温度で5.5時間加熱処理することによってCs0.33WO粒子を得た。
得られたCs0.33WO粒子a20重量%、エタノ−ル80重量%を秤量し、0.3mmφZrOビ−ズを入れたペイントシェーカーで12時間粉砕・分散処理した後、窒素気流中で乾燥しエタノ−ルを除去することによってCs0.33WO微粒子を得た。得られたCs0.33WO微粒子へ、大気中100℃で1時間の酸化暴露処理を実施してCs0.33WO微粒子(a)を得た。
次に、当該Cs0.33WO微粒子(a)8重量%、高分子系分散剤8重量%、トルエン84重量%を秤量し、0.3mmφZrOビ−ズを入れたペイントシェーカーで8時間粉砕・分散処理することによって熱線遮蔽体形成用分散液(A液)を調製した。
得られた分散液(A液)2.0g、UV硬化樹脂1.0g秤量し、混合・攪拌して熱線遮蔽体形成用分散液(B液)を調製した。そして、番手24、30、40の各バーでそれぞれ、厚さ3mmのソーダライムガラス基板上へ熱線遮蔽体形成用分散液(B液)を塗布した後、70℃、1分間の条件で高圧水銀ランプを照射し、実施例1に係る熱線遮蔽体Aを得た。
表1に示すように、熱線遮蔽体Aの可視光透過率73%のときの熱線透過率は37.7%で、ヘイズ値は0.4%であった。
次に、熱線遮蔽体Aの耐熱性を調べるために、以下の加速試験を行った。
上記の熱線遮蔽体Aを120℃の温度下に72時間暴露し、暴露前の可視光透過率73%に対する変化率(以下、ΔVLTと記す。)を調べた。
その結果、ΔVLTは1.33%であり、酸素含有雰囲気下で酸化暴露処理しない以下の比較例1と比べて耐熱性の向上が確認された。
【0058】
[実施例2]
実施例1において、Cs0.33WO微粒子を大気中200℃で1時間酸化暴露処理した以外は、実施例1と同様にして熱線遮蔽体Bを得た。
表1に示すように、熱線遮蔽体Bの可視光透過率73%のときの熱線透過率は37.8%で、ヘイズ値は0.4%であった。また、120℃の温度下に72時間暴露したときのΔVLTは0.35%であり、酸素含有雰囲気下で酸化暴露処理しない以下の比較例1と比べて耐熱性の向上が確認された。
【0059】
[実施例3]
実施例1において、Cs0.33WO微粒子を大気中300℃で1時間酸化暴露処理した以外は、実施例1と同様にして熱線遮蔽体Cを得た。
表1に示すように、熱線遮蔽体Cの可視光透過率73%のときの熱線透過率は37.8%で、ヘイズ値は0.4%であった。また、120℃の温度下に72時間暴露したときのΔVLTは0%であり、酸素含有雰囲気下で酸化暴露処理しない以下の比較例1と比べて耐熱性の向上が確認された。
【0060】
[実施例4]
タングステン酸(HWO)と炭酸ルビジウムの水溶液とを、Rb/W=0.33(モル比)となるように混合した以外は、実施例1と同様にしてRb0.33WO微粒子を得、さらに熱線遮蔽体Dを得た。
表1に示すように、熱線遮蔽体Dの可視光透過率73%のときの熱線透過率は45.3%で、ヘイズ値は0.4%であった。また、120℃の温度下に72時間暴露したときのΔVLTは1.42%であり、酸素含有雰囲気下で酸化暴露処理しない以下の比較例1と比べて耐熱性の向上が確認された。
【0061】
[実施例5]
タングステン酸(HWO)と蟻酸タリウムの水溶液とを、Tl/W=0.33(モル比)となるように混合した以外は、実施例1と同様にしてTl0.33WO微粒子を得、さらに熱線遮蔽体Eを得た。
表1に示すように、熱線遮蔽体Eの可視光透過率73%のときの熱線透過率は43.2%で、ヘイズ値は0.4%であった。また、120℃の温度下に72時間暴露したときのΔVLTは1.40%であり、酸素含有雰囲気下で酸化暴露処理しない以下の比較例1と比べて耐熱性の向上が確認された。
【0062】
[実施例6]
タングステン酸(HWO)と硝酸インジウムの水溶液とを、In/W=0.3(モル比)となるように混合した以外は、実施例1と同様にしてTl0.33WO微粒子を得、さらに熱線遮蔽体Fを得た。
表1に示すように、熱線遮蔽体Fの可視光透過率73%のときの熱線透過率は49.4%で、ヘイズ値は0.4%であった。また、120℃の温度下に72時間暴露したときのΔVLTは1.56%であり、酸素含有雰囲気下で酸化暴露処理しない以下の比較例1と比べて耐熱性の向上が確認された。
【0063】
[実施例7]
タングステン酸(HWO)と塩化カリウムの水溶液とを、K/W=0.33(モル比)となるように混合した以外は、実施例1と同様にしてK0.33WO微粒子を得、さらに熱線遮蔽体Gを得た。
表1に示すように、熱線遮蔽体Gの可視光透過率73%のときの熱線透過率は46.2%で、ヘイズ値は0.4%であった。また、120℃の温度下に72時間暴露したときのΔVLTは1.63%であり、酸素含有雰囲気下で酸化暴露処理しない以下の比較例1と比べて耐熱性の向上が確認された。
【0064】
[実施例8]
タングステン酸(HWO)と水酸化バリウム八水和物の水溶液とを、Ba/W=0.33(モル比)となるように混合した以外は、実施例1と同様にしてBa0.33WO微粒子を得、さらに熱線遮蔽体Hを得た。
表1に示すように、熱線遮蔽体Hの可視光透過率73%のときの熱線透過率は52.1%で、ヘイズ値は0.4%であった。また、120℃の温度下に72時間暴露したときのΔVLTは1.73%であり、酸素含有雰囲気下で酸化暴露処理しない以下の比較例1と比べて耐熱性の向上が確認された。
【0065】
[実施例9]
実施例1において、Cs0.33WO微粒子を酸素1体積%の窒素と酸素の混合ガス雰囲気下に100℃で24時間酸化暴露処理した以外は、実施例1と同様にして熱線遮蔽体Iを得た。
表1に示すように、熱線遮蔽体Iの可視光透過率73%のときの熱線透過率は37.7%で、ヘイズ値は0.4%であった。また、120℃の温度下に72時間暴露したときのΔVLTは0.70%であり、酸素含有雰囲気下で酸化暴露処理しない以下の比較例1と比べて耐熱性の向上が確認された。
【0066】
[実施例10]
実施例1において、Cs0.33WO微粒子を酸素25体積%の窒素と酸素の混合ガス雰囲気下に100℃で1時間酸化暴露処理した以外は、実施例1と同様にして熱線遮蔽体Jを得た。
表1に示すように、熱線遮蔽体Jの可視光透過率73%のときの熱線透過率は37.8%で、ヘイズ値は0.4%であった。また、120℃の温度下に72時間暴露したときのΔVLTは0.95%であり、酸素含有雰囲気下で酸化暴露処理しない以下の比較例1と比べて耐熱性の向上が確認された。
【0067】
[比較例1]
実施例1において、Cs0.33WO微粒子を窒素雰囲気下に保存し、酸素含有雰囲気下での酸化暴露処理を実施しない以外は、実施例1と同様にして熱線遮蔽体Kを得た。
表1に示すように、熱線遮蔽体Kの可視光透過率73%のときの熱線透過率は36.7%で、ヘイズ値は0.3%であった。また、120℃の温度下に72時間暴露したときのΔVLTは3.82%であり、酸素含有雰囲気下で酸化暴露処理した各実施例と比べて耐熱性が劣ることが確認された。
【0068】
[比較例2]
実施例1において、Cs0.33WO微粒子を25℃で大気中24時間酸化暴露処理した以外は、実施例1と同様にして熱線遮蔽体Lを得た。
表1に示すように、熱線遮蔽体Lの可視光透過率73%のときの熱線透過率は38.0%で、ヘイズ値は0.4%であった。また、120℃の温度下に72時間暴露したときのΔVLTは2.46%であった。
【0069】
【表1】

【0070】
[評価]
(1)酸素含有雰囲気下で酸化暴露処理したCs0.33WO微粒子を熱線遮蔽材料微粒子として適用した実施例1〜10に係る熱線遮蔽体は、可視光透過率73%のときの熱線透過率が全て53%以下であり、かつ、上記耐熱試験における72時間後のΔVLTは全て1.8%以下である。
従って、実施例1〜10に係る熱線遮蔽体は優れた可視光透過性能と良好な近赤外線遮蔽性能を備えているため各種建築物や車両の窓材等の分野において好適に利用できることが確認され、かつ耐熱性にも優れていることが確認される。
(2)他方、酸素含有雰囲気下で酸化暴露処理していないCs0.33WO微粒子を熱線遮蔽材料微粒子として適用した比較例1に係る熱線遮蔽体は、可視光透過率73%のときの熱線透過率が37%以下であるものの、上記耐熱試験における72時間後のΔVLTが3.82%である。
また、酸素含有雰囲気下で酸化暴露処理しているが、当該処理温度が25℃であるCs0.33WO微粒子を熱線遮蔽材料微粒子として適用した比較例2に係る熱線遮蔽体は、可視光透過率73%のときの熱線透過率が38%以下であるが、上記耐熱試験における72時間後のΔVLTが2.46%である。
以上(1)(2)より、比較例1、2に係る熱線遮蔽体は、実施例1〜10に係る熱線遮蔽体と比べて耐熱性が劣ることが確認される。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明に係る高耐熱性熱線遮蔽体形成用タングステン酸化物微粒子は優れた可視光透過性能と良好な近赤外線遮蔽性能を備え、かつ耐熱性にも優れているため、各種建築物や車両の窓材等の分野において広く用いられている熱線遮蔽体の構成材料として産業上の利用可能性を有している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タングステン酸(HWO)、または、タングステン酸(HWO)と三酸化タングステン微粒子との混合物と、M元素の酸化物または/および水酸化物(但し、MはCs、Rb、K、Na、Ba、Ca、Sr、Mg、Nb、Ge、In、Tlの内から選択される1種以上の元素)とを混合した混合粉、
または/および
タングステン酸(HWO)、または、タングステン酸(HWO)と三酸化タングステン微粒子との混合物と、前記M元素の、金属塩の水溶液、金属酸化物のコロイド溶液、アルコキシ溶液のうちから選択される1種以上とを、混合して乾燥した乾燥粉を、不活性ガスと還元性ガスとの混合ガス雰囲気下で焼成することにより、一般式MyWOz(但し、Mは前記M元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で表されるタングステン酸化物粒子を生成させた後、湿式粉砕して得られるタングステン酸化物微粒子を酸素含有雰囲気下において、50℃以上400℃以下で酸化暴露処理することを特徴とする高耐熱性熱線遮蔽体形成用タングステン酸化物微粒子の製造方法。
【請求項2】
前記酸素含有雰囲気が0.1体積%〜25体積%であることを特徴とする請求項1に記載の高耐熱性熱線遮蔽体形成用タングステン酸化物微粒子の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の高耐熱性熱線遮蔽体形成用タングステン酸化物微粒子の製造方法で製造されることを特徴とする高耐熱性熱線遮蔽体形成用タングステン酸化物微粒子。
【請求項4】
前記高耐熱性熱線遮蔽体形成用タングステン酸化物微粒子の粒子径が0.1nm〜800nmであることを特徴とする請求項3に記載の高耐熱性熱線遮蔽体形成用タングステン酸化物微粒子。
【請求項5】
請求項3または4に記載の高耐熱性熱線遮蔽体形成用タングステン酸化物微粒子が、溶媒中に分散されていることを特徴とする高耐熱性熱線遮蔽体形成用分散液。
【請求項6】
請求項3または4に記載の高耐熱性熱線遮蔽体形成用タングステン酸化物微粒子が、樹脂中に分散されていることを特徴とする高耐熱性熱線遮蔽体。

【公開番号】特開2012−82109(P2012−82109A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−229977(P2010−229977)
【出願日】平成22年10月12日(2010.10.12)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】