説明

高耐熱結晶性ポリエステルおよびその製造方法ならびにそれを用いたフィルム

【課題】耐熱性に優れた、ゲルが抑制された結晶性芳香族ポリエステル樹脂組成物およびフィルムの提供。
【解決手段】芳香族ジカルボン酸成分とスピログリコール成分とからなる芳香族ポリエステルであって、全芳香族ジカルボン酸成分のモル数を基準としたとき、スピログリコール成分のモル数が81〜100モル%の範囲で、かつ数平均分子量が12000〜32000の範囲で、さらに分子量が6000以下である低分子量成分の割合が、高耐熱結晶性ポリエステルの質量を基準として、15質量%以下である高耐熱結晶性ポリエステルおよびそれを用いたフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性を向上させた芳香族ポリエステルおよびそれを用いたフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等に代表される芳香族ポリエステルは、その優れた物理的、化学的特性の故に、今日、繊維、フィルムあるいは成型品などの用途で広く使用されている。
このように優れた芳香族ポリエステルではあるが、例えばフレキシブルプリント配線板等、耐熱性において高度な性能が求められる分野には適用が難しく、その改良が求められている。
【0003】
ところで、特許文献1〜6では、3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン(以下「SPG」ということがある)を80モル%以下、好ましくは60モル%以下の範囲で共重合することが提案されており、それによって、ガラス転移点が高く耐熱性に優れるポリエステルが得られることが開示されている。
しかしながら、これらに記載されているポリエステルは結晶性が極めて乏しく、製膜・延伸が難しいという問題があった。なお、これらの特許文献によれば、SPGの割合が60モル%を超えると成形性が乏しくなり、具体的に70モル%の場合、ひどく成形性が劣ることも教示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第2945008号明細書
【特許文献2】特開2003−292593号公報
【特許文献3】特開2002−69165号公報
【特許文献4】特開2008−260962号公報
【特許文献5】特開2008−260963号公報
【特許文献6】特開2008−169260号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、耐熱性に優れ、製膜性や延伸性に優れ、フィルム用に好適な高耐熱結晶性ポリエステルおよびそれを用いたフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決しようと鋭意研究した結果、SPGの割合を81モル%以上ときわめて高くし、かつ数平均分子量とポリエステル中に含まれる低分子量成分の割合を特定の範囲にすることで、解決できることを見出し、本発明に到達した。
【0007】
かくして本発明によれば、芳香族ジカルボン酸成分とスピログリコール成分とからなる芳香族ポリエステルであって、全芳香族ジカルボン酸成分のモル数を基準としたとき、スピログリコール成分のモル数が81〜100モル%の範囲で、かつ数平均分子量が12000〜32000の範囲で、さらに分子量が6000以下である低分子量成分の割合が、高耐熱結晶性ポリエステルの質量を基準として、15質量%以下である高耐熱結晶性ポリエステル、さらにその好ましい態様として、触媒残渣として、マンガン化合物、チタン化合物およびアンチモン化合物を含有すること、さらに触媒残渣であるマンガン化合物、チタン化合物およびアンチモン化合物の含有量が、それぞれ高耐熱結晶性ポリエステルの質量を基準として、マンガン金属元素量で50〜230ppm、チタン金属元素量で2〜75ppmおよびアンチモン金属元素量で60〜320ppmの範囲にある高耐熱結晶性ポリエステルも提供される。
【0008】
また、本発明によれば、芳香族ジカルボン酸もしくはそのエステル形成性誘導体とスピログリコールとを、エステル化反応もしくはエステル交換反応させた後、重縮合反応させる芳香族ポリエステルの製造方法であって、
全芳香族ジカルボン酸成分のモル数を基準としたとき、スピログリコール成分のモル数が81〜100モル%の範囲であること、そして
エステル化反応もしくはエステル交換反応を、触媒としてマンガン化合物およびチタン化合物の併存下で行い、重縮合反応を触媒としてさらにアンチモン化合物の存在下で行う高耐熱結晶性ポリエステルの製造方法、ならびに、上記本発明の高耐熱結晶性ポリエステルからなるフィルムも提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の高耐熱結晶性ポリエステルは、グリコール成分としてスピログリコールを高濃度に含有するにも関わらず、高い耐熱性、製膜性および延伸性を有することから、フィルムに好適に用いることができる。しかも本発明の高耐熱結晶性は、結晶性と低屈折性とを有していることより、耐熱フィルムの他、光学フィルム用途にも好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
まず、本発明の芳香族ポリエステルについて、詳述する。
本発明の芳香族ポリエステルは、芳香族ジカルボン酸成分とスピログリコール成分とからなり、全芳香族ジカルボン酸成分のモル数を基準としたとき、スピログリコール成分のモル数が81〜100モル%の範囲である。該スピログリコールの割合が上記範囲内にあることで、得られる芳香族ポリエステルに高度の耐熱性と適度な結晶性と具備させることができ、耐熱性に優れたフィルムを、生産性良く製造することができる。好ましい、スピログリコール成分の割合は、85〜100モル%、90〜100モル%の範囲である。なお、スピログリコール成分以外のグリコール成分としては、特に制限はされないが、エチレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコールなどのアルキレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどの脂環族グリコールなどを挙げることができる。これらの中でもエチレングリコールが耐熱性の観点から好ましい。
【0011】
本発明における芳香族ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、フタル酸、2,3−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸およびそれらのエステル形成性誘導体を好ましく挙げることができる。これらの中でも、耐熱性の点からテレフタル酸と2,6−ナフタレンジカルボン酸およびそれらのエステル形成性誘導体が好ましい。また、使用する用途において、屈折率を低めたい場合は酸成分としてはテレフタル酸成分が好ましく、屈折率を高めたい場合は酸成分として2,6−ナフタレンジカルボン酸成分が好ましい。また、屈折率を低くしつつ、低分子量物の生成を抑え、さらに数平均分子量を高くしやすいことから、テレフタル酸成分を主たる酸成分としつつ、他の芳香族ジカルボン酸成分、好ましくは2,6−ナフタレンジカルボン酸成分を共重合することが好ましい。その際、酸成分の好ましい共重合成分の割合は、全酸成分のモル数を基準として、1〜15モル%、さらに3〜10モル%の範囲にあることが好ましい。
もちろん、本発明の高耐熱結晶性ポリエステルは、本発明の効果を損なわない範囲で、それ自体公知の共重合成分を、例えば10モル%以下の範囲で共重合してもよい。
【0012】
ところで、本発明の高耐熱結晶性ポリエステルは、数平均分子量が12000〜32000の範囲で、かつ分子量が6000以下である低分子量成分の割合が、芳香族ポリエステルの質量を基準として、15質量%以下である。数平均分子量を前記範囲とすることで、フィルムにした場合に発生するメルト痕やゲル状異物などの欠点を抑制できる。そのような観点から好ましい数平均分子量の下限は、13000、さらに14000、他方上限は、27000、さらに20000である。また、分子量が6000以下の低分子量成分の割合が上限を超えると、製膜する際などにゲルが発生しやすく、製膜性や延伸性が損なわれやすい。そのような観点から、低分子量成分の割合の上限は、12重量%、さらに10重量%、8重量%が好ましい。他方、低分子量成分の下限は特に制限されず、少なければ少ないほど好ましいが、製造工程を過度に複雑化しないですむことから1重量%以上、さらに5重量以上が好ましい。
【0013】
ところで、このような低分子量成分は、スピログリコール成分が非常に分解しやすいために、本発明の高耐熱結晶性ポリエステルの製造過程で生じる。そのため、これまでの先行技術に記載された方法で、単純にスピログリコール成分の割合だけを増やす方法では、この低分子量成分の割合を、前述の上限以下にすることは困難である。
そこで、以下に、低分子量成分を抑えるための方法の一例として、本発明の高耐熱結晶性ポリエステルの製造方法を説明する。
【0014】
まず、本発明の高耐熱結晶性ポリエステルは、芳香族ジカルボン酸とスピログリコール成分を主たる繰り返し単位とするものであり、例えばスピログリコールと必要に応じて低級アルキレングリコールと、テレフタル酸もしくはその低級アルキルエステルなどの芳香族ジカルボン酸成分とを、エステル化反応もしくはエステル交換反応させ、その後重縮合反応させることで製造できる。
【0015】
本発明におけるエステル化反応、エステル交換反応および重縮合反応は、それぞれ公知の触媒を好適に用いることができるが、特に好ましい触媒は、酢酸マンガン、チタンブトキシレート、二酸化三アンチモンの3種の併用である。低温に活性領域をもちエステル交換反応触媒として作用する酢酸マンガン、エステル交換/重合両反応触媒として作用し、酢酸マンガンよりも活性温度帯が高いチタンブトキシド、重合触媒として作用し高温活性をもつ二酸化三アンチモンの3種を併用することで、徐々に高めていく設定温度にあわせて、エステル交換、重合反応が滞りなく進行し、低分子量成分の増加を抑制できる。
【0016】
この中で、特に重要な点はエステル交換反応時に酢酸マンガン、チタンテトラブトキシレートの2種を添加する点である。どちらか一方では初期の反応進行が遅く、スピログリコールが熱分解しゲル化してしまう。しかし、エステル交換反応用触媒としてアルカリ土類金属化合物、アルカリ金属化合物や酢酸亜鉛、重縮合用触媒として二酸化ゲルマニウムなども併用することもできる。
また、本発明の高耐熱結晶性ポリエステルは、安定剤としてそれ自体公知のリン化合物を含んだほうが良く、リン化合物の中ではホスホネート化合物を用いることが好ましい。また、その添加時期は任意の時期で良い。
【0017】
そのような観点から、本発明の高耐熱結晶性ポリエステルは、触媒残渣として、マンガン化合物、チタン化合物およびアンチモン化合物を含有することが好ましい。触媒残渣であるマンガン化合物の含有量は、高耐熱結晶性ポリエステルの質量を基準として、マンガン金属元素量で50〜230ppmであることが好ましい。また、触媒残渣であるチタン化合物の含有量は、高耐熱結晶性ポリエステルの質量を基準として、チタン金属元素量で2〜75ppmにあることが好ましい。さらにまた、触媒残渣であるアンチモン化合物の含有量は、高耐熱結晶性ポリエステルの質量を基準として、アンチモン金属元素量で60〜320ppmの範囲にあることが好ましい。
【0018】
ところで、本発明の高耐熱結晶性ポリエステルは、高度な結晶性が必要な場合は結晶核剤などを使用してもよい。また、必要に応じて、さらに重合度をあげるために、引き続いて固相重合を行ってもよい。
もちろん、本発明の芳香族ポリエステルは、成形品の取扱い性などを考慮し、本発明の効果を阻害しない範囲で、不活性粒子(無機粒子や有機粒子など)や各種機能剤(例えば可塑剤、耐候剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、帯電防止剤、増白剤、着色剤、導電剤)などを含有させたり、他のポリマーを少量、例えば20質量%以下、好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下の範囲で混合したりした組成物として用いても良い。
【0019】
次に本発明のフィルムについて、詳述する。
本発明のフィルムは、前述の高耐熱結晶性ポリエステルからなり、機械的特性を高度に具備させるために、二軸方向、すなわちフィルムの製膜方向(以下、長手方向または縦方向と称することがある。)とフィルムの幅方向(以下、横方向と称することがある。)とに延伸された二軸配向フィルムであることが好ましい。
【0020】
このような二軸配向フィルムは、本発明の高耐熱結晶性ポリエステルを融点以上の温度で溶融し、ダイよりシート状に押出しキャスティングロール上で冷却、固化させて未延伸フィルムとし、それを製膜方向と幅方向に二軸延伸することで製造できる。延伸方法としては、逐次二軸延伸法、同時二軸延伸法、あるいはこれらの方法で延伸されたフィルムを再度延伸する方法などがあげられ、それぞれ好適に用いることができる。特に、本発明の高耐熱結晶性ポリエステルからなるフィルムの機械的特性をより高度に発現させ易いことから、最終的な面積延伸倍率(長手方向の延伸倍率×幅方向の延伸倍率)は6倍以上とすることが好ましい。また、本発明の高耐熱結晶性ポリエステルからなるフィルムに高度の寸法安定性を具備させる観点から、延伸後のフィルムに、150〜260℃の温度で1〜60秒の熱固定処理を行なうことが好ましい。
【0021】
このようにして得られる本発明の高耐熱結晶性ポリエステルからなるフィルムは、グリコール成分としてスピログリコールを高濃度に含有することから、高い耐熱性を有しながらも、低分子量成分が少なく、製膜性や延伸性に優れ、また、結晶性と低屈折性を有していることより、耐熱フィルムの他、光学フィルム用途にも好適に用いることができる。
【実施例】
【0022】
以下、本発明の一例である実施例に基づいて更に具体的に説明する。なお、実施例中の各特性の測定および評価は、以下の通りである。
【0023】
(1)固有粘度(チップ)
フェノール/2,4,6−トリクロロフェノール=3/2の質量比の混合溶液中、40℃で測定した。なお、単位はdl/gである。
【0024】
(2)耐熱性試験
本試験では、簡易評価として下記の方法でテストフィルムを作成し評価した。
ポリエステル樹脂組成物からなるペレットを、170℃で5時間乾燥した後、1軸の溶融混練押出機に供給し、融点+10℃の温度にて溶融状態でダイから回転冷却ドラムの上にシート状に押出し、急冷固化した後に125℃にて製膜方向および幅方向にそれぞれ3.5倍に延伸し、260℃で製膜方向および幅方向にそれぞれ2%収縮させつつ熱固定し、厚み75μmの二軸配向フィルムを得る。
得られたフィルムから、押出方向を縦、幅方向を横として、縦、横100mmの正方形試験片を切り出し、この試験片を260℃のメタルバス中で暖めたビーカーに貼り付け30秒経過後取り出し、5%以上の収縮や丸まりといった変形がなければ耐熱性良好と判断した。
【0025】
(3)融点(Tm)
TA Instruments社製、熱示差分析計DSC2920を使用し、20℃/分で350℃まで昇温し、融解ピーク温度(Tm)を求めた。
【0026】
(4)スピログリコー成分の測定
試料を重トリフルオロ酢酸:重水素化クロロホルム(1:1)混合溶媒に溶解し、日本電子製NMR JEOL A−600を用いてスピログリコール成分を定量した。
【0027】
(5)分子量分布・低分子量の測定
試料3mgをヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)1mLに溶解したのちクロロホルム11mLを加えて希釈し、SHODEX GPC 101(クロロホルム溶媒、リファレンス:ポリスチレン)にて、カラムとしてLF−804を2本使用し、温度40℃、流量1ml/minにて流しUVにて検出した。また、低分子量成分の含有量は、得られた分子量から分子量6000以下のピークと全体との面積比で算出した。
【0028】
(6)製膜延伸性の評価
ポリエステル樹脂組成物からなるペレットを、170℃で5時間乾燥した後、1軸の溶融混練押出機に供給し、融点より10℃高い温度まで加熱して溶融状態でダイから回転冷却ドラムの上にシート状に押出し、急冷固化し、厚さ250μmの原反を得た。それを10cm角に切り出し、140℃にて製膜方向および幅方向にそれぞれ6倍に二軸延伸したとき、延伸速度に追随できず途中で破断したものを製膜延伸性×とし、破断せずに均一な延伸フィルムが得られたものを製膜延伸性○とした。
【0029】
(7)触媒残存量
蛍光X線装置(リガクZSX)にて定量した。
【0030】
(8)結晶性
TA Instruments社製、熱示差分析計DSC2920を使用し、20℃/分で350℃まで昇温したときの、発熱ピーク(Tci)の熱量(ΔH)J/gが5J/gを超えるものを結晶性良好とした。
【0031】
[実施例1]
撹拌装置、精留塔、凝縮器を備えたエステル交換反応器に、ジメチルテレフタル酸100モル%とスピログリコール82モル%、エチレングリコール40モル%、酢酸マンガン、チタンテトラブトキシレート、トリエチルホスホノアセテートを表1に示す量(全酸成分のモル数を基準としたときの、mmol%)となるように供給した後、230℃まで徐々に昇温し、生成したメタノールを連続的に反応系外へ留出させながらエステル交換反応を行った。理論量のメタノールの留去確認後、こうして得られた反応物に重縮合触媒として三酸化二アンチモンを加え、引き続いて250℃まで昇温しつつ、第一段階として30分間、常圧(1.01×10Pa)で反応を続けた。その後、300℃まで昇温しつつ、圧力を、第二段階として4×10〜8×10Pa、第三段階として30〜400Paまで減圧してエチレングリコールを連続的に留出させながら重縮合反応を行い、固有粘度0.70dl/gの芳香族ポリエステルを得た。
得られた芳香族ポリエステルを、縦2mm、横4mmの楕円断面を有するストランドとして押出し、水で冷却した後、長さ4mmにカットして、一粒あたり、平均質量30〜35mgの芳香族ポリエステルのチップとした。
得られた芳香族ポリエステルのチップを、前述の(2)耐熱性試験に記載した条件により製膜して、厚み75μmの二軸配向フィルムを得た。
得られた高耐熱結晶性ポリエステルとフィルムの特性を表1に示す。
【0032】
[実施例2]
撹拌装置、精留塔、凝縮器を備えたエステル交換反応器に、ジメチルテレフタル酸100モル%とスピログリコール90モル%、エチレングリコール20モル%とし、触媒を表1に示す量にした他は実施例1と同様にして芳香族ポリエステル、芳香族ポリエステルチップを得た。その後、得られた芳香族ポリエステルのチップを、前述の(2)耐熱性試験に記載した条件により製膜して、厚み75μmの二軸配向フィルムを得た。
得られた高耐熱結晶性ポリエステルとフィルムの特性を表1に示す。
【0033】
[実施例3]
撹拌装置、精留塔、凝縮器を備えたエステル交換反応器に、ジメチルテレフタル酸100モル%とスピログリコール100モル%、触媒を表1に示す量にした他は実施例1と同様条件にてエステル交換反応を行い、重縮合触媒を添加後、310℃に昇温しつつ、実施例1と同様に第一段階、第二段階、第三段階の3つの真空度に段階的に切替え、重合をおこなった。その他は、実施例1と同様にして芳香族ポリエステル、芳香族ポリエステルチップを得た。
その後、得られた芳香族ポリエステルのチップを、前述の(2)耐熱性試験に記載した条件により製膜して、厚み75μmの二軸配向フィルムを得た。
得られた高耐熱結晶性ポリエステルとフィルムの特性を表1に示す。
【0034】
[実施例4]
撹拌装置、精留塔、凝縮器を備えたエステル交換反応器に、ジメチルテレフタル酸93モル%と2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル7モル%、スピログリコール82モル%、エチレングリコール40モル%、触媒を表1に示す量にした他は実施例1と同様条件にてエステル交換反応を行い、重縮合触媒を添加後、310℃に昇温しつつ、実施例1と同様に第一段階、第二段階、第三段階の3つの真空度に段階的に切替え、重合をおこなった。その他は実施例1と同様にして芳香族ポリエステル、芳香族ポリエステルチップを得た。その後、得られた芳香族ポリエステルのチップを、前述の(2)耐熱性試験に記載した条件により製膜して、厚み75μmの二軸配向フィルムを得た。
得られた高耐熱結晶性ポリエステルとフィルムの特性を表1に示す。
【0035】
[実施例5]
実施例4において、ジメチルテレフタル酸97モル%、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル3モル%、スピログリコール95モル%、エチレングリコール10モル%に変更した他は、同様な操作を繰り返して、芳香族ポリエステル、芳香族ポリエステルチップを得た。その後、得られた芳香族ポリエステルのチップを、前述の(2)耐熱性試験に記載した条件により製膜して、厚み75μmの二軸配向フィルムを得た。
得られた高耐熱結晶性ポリエステルとフィルムの特性を表1に示す。
【0036】
[比較例1]
特開2008−169260の実施例1を参考にして、ジカルボン酸成分をジメチルテレフタル酸100モル%とスピログリコール82モル%、エチレングリコール40モル%、エステル交換触媒として酢酸マンガンを選択し、250℃にてエステル交換を実施、引き続き重合触媒として二酸化三アンチモンを添加し、300℃に昇温、徐々に減圧し重合反応を実施した。しかし、エステル交換反応でのメタノールの留出に途中から滞りが見られ、250℃で理論量のメタノールを留去できなかった。そのため、仕方なく二酸化三アンチモンを添加、300℃に昇温を開始し、重合反応へと進んだ。その影響か、重合途中からゴムのような弾性を示すようになり、分子量分布を測定すると主ピークの他に低分子側にもピークがあり、そのピーク面積比からポリマー質量の約30wt%がゲル化していると見積もれた。その他は実施例1と同様にして芳香族ポリエステル、芳香族ポリエステルチップを得た。その後、得られた芳香族ポリエステルのチップを、前述の(2)耐熱性試験に記載した条件により製膜して、厚み75μmの二軸配向フィルムを得た。
得られた高耐熱結晶性ポリエステルとフィルムの特性を表1に示す。
【0037】
[比較例2]
撹拌装置、精留塔、凝縮器を備えたエステル交換反応器に、テレフタル酸ジメチル100モル%、エチレングリコール200モル%及び触媒を表1に示す量となるよう加え、250℃まで徐々に昇温しつつ、生成したメタノールを連続的に反応系外へ留出させながらエステル交換反応を行った。理論量のメタノールの留去確認後、こうして得られた反応物に重縮合触媒として三酸化二アンチモンを加え、引き続いて300℃まで昇温しつつ、徐々に減圧し、最終的に30〜400Paまで減圧してエチレングリコールを連続的に留出させながら重縮合反応を行い、固有粘度0.70の芳香族ポリエステルを得た。その他は実施例1と同様にして芳香族ポリエステル、芳香族ポリエステルチップを得た。その後、得られた芳香族ポリエステルのチップを、前述の(2)耐熱性試験に記載した条件により製膜して、厚み75μmの二軸配向フィルムを得た。
得られた高耐熱結晶性ポリエステルとフィルムの特性を表1に示す。
【0038】
[比較例3]
触媒を表1に示す量となるよう変更する以外は実施例3と同様の方法で重合を実施したが、やはりエステル交換反応でのメタノール留出が途中から滞り、最終的に弾力のあるもろいポリマーとなってしまった。しかし、融点を測ると実施例3とほぼ同じ値が得られた。その他は実施例1と同様にして芳香族ポリエステル、芳香族ポリエステルチップを得た。その後、得られた芳香族ポリエステルのチップを、前述の(2)耐熱性試験に記載した条件により製膜して、厚み75μmの二軸配向フィルムを得た。
得られた高耐熱結晶性ポリエステルとフィルムの特性を表1に示す。
【0039】
[比較例4]
ジカルボン酸成分をジメチルテレフタル酸100モル%とスピログリコール50モル%、エチレングリコール100モル%に変える以外は実施例1と同等の条件で反応を行った。その他は実施例1と同様にして芳香族ポリエステル、芳香族ポリエステルチップを得た。その後、得られた芳香族ポリエステルのチップを、前述の(2)耐熱性試験に記載した条件により製膜して、厚み75μmの二軸配向フィルムを得た。
得られた高耐熱結晶性ポリエステルとフィルムの特性を表1に示す。ポリマーは得られたものの、表1に※−とあるように結晶性が認められない、すなわち非晶性のポリマーであり、耐熱性も比較例2と同等であった。
【0040】
【表1】

なお、表1中の、TBTはチタンテトラブトキシレートを意味する。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の耐熱結晶ポリエステルはスピログリコール成分を導入することで耐熱性に優れ、しかも製膜性と延伸性をも具備することから、フィルム用などの樹脂組成物として好適に用いることができる。また、このような優れた特性を有する本発明の高耐熱結晶性ポリエステルからなるフィルムは、高耐熱性が要求されるフレキシブル回路基盤など電気用途のベースフィルムとして、また、低屈折、透明性に優れることから光学用フィルム用途の各種部材として好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ジカルボン酸成分とスピログリコール成分とからなる芳香族ポリエステルであって、全芳香族ジカルボン酸成分のモル数を基準としたとき、スピログリコール成分のモル数が81〜100モル%の範囲で、かつ数平均分子量が12000〜32000の範囲で、さらに分子量が6000以下である低分子量成分の割合が、高耐熱結晶性ポリエステルの質量を基準として、15質量%以下であることを特徴とする高耐熱結晶性ポリエステル。
【請求項2】
触媒残渣として、マンガン化合物、チタン化合物およびアンチモン化合物を含有する請求項1記載の高耐熱結晶性ポリエステル。
【請求項3】
触媒残渣であるマンガン化合物、チタン化合物およびアンチモン化合物の含有量が、それぞれ高耐熱結晶性ポリエステルの質量を基準として、マンガン金属元素量で50〜230ppm、チタン金属元素量で2〜75ppmおよびアンチモン金属元素量で60〜320ppmの範囲にある請求項2記載の高耐熱結晶性ポリエステル。
【請求項4】
芳香族ジカルボン酸もしくはそのエステル形成性誘導体とスピログリコールとを、エステル化反応もしくはエステル交換反応させた後、重縮合反応させる芳香族ポリエステルの製造方法であって、
全芳香族ジカルボン酸成分のモル数を基準としたとき、スピログリコール成分のモル数が81〜100モル%の範囲であること、そして
エステル化反応もしくはエステル交換反応を、触媒としてマンガン化合物およびチタン化合物の併存下で行い、重縮合反応を触媒としてさらにアンチモン化合物の存在下で行うことを特徴とする高耐熱結晶性ポリエステルの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の高耐熱結晶性ポリエステルからなるフィルム。

【公開番号】特開2013−18863(P2013−18863A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−152931(P2011−152931)
【出願日】平成23年7月11日(2011.7.11)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】