説明

高耐食性を有する金属多孔体及びその製造方法

【課題】リチウムイオン電池、キャパシタ、燃料電池等の二次電池の集電体や、各種フィルタ、触媒担持体等に適し、その切断面においても高耐食性を有する金属多孔体とその製造方法の提供。
【解決手段】少なくともNiとCrとを含む合金からなる3次元網目状構造を有する金属多孔体であって、該金属多孔体の骨格が中空の芯部と外殻とからなり、該外殻の断面を厚み方向に均等に外側、中央部、内側に3分割して、外側部分、中央部部分、内側部分におけるCrの重量パーセント濃度をそれぞれa、b、cとしたとき、該a、b、cが式(1)の関係を満たすことを特徴とする金属多孔体。
|(a+c)/2−b|÷(a+b+c)/3 < 0.20 (1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池、キャパシタ、燃料電池等の二次電池の集電体や、各種フィルタ、触媒担持体等として利用しうる、高耐食性を有する金属多孔体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高耐食性金属多孔体としては、特許文献1や特許文献2に詳述されている、導電性を付与した3次元網目状樹脂を支持体とし、めっき法で形成したニッケル多孔体を、Cr及びNH4Cl粉末中に埋めて、ArまたはH2ガス雰囲気中で熱処理を施す拡散浸透法によって得られる、Ni−Cr合金多孔体等が知られている。しかしながら、図1に示すように、拡散浸透法によって形成されたNi−Cr合金多孔体では、骨格断面におけるクロム濃度バラツキが大きい、つまり、骨格断面を厚み方向に外側、中央部、内側に3分割すると、中央部のクロム濃度は、外側あるいは内側のクロム濃度に比べ低い傾向にあり、その結果、同多孔体を所望の形状に加工した場合に、切断面の耐食性が低い課題がある。
【0003】
この骨格断面におけるクロム濃度バラツキは、ニッケル多孔体に拡散浸透させたい所望のCr量に対して、多量のCr粉末中に埋めた状態で、ArまたはH2の雰囲気ガス圧と温度によって、骨格表層から内部へCrを拡散浸透させるために生じる。そこで、過剰にCrを拡散浸透させ、骨格断面全体のクロム濃度を上げる改善策が考えられるが、その場合は、骨格表層部のクロム濃度が極端に高くなり、脆化し剥離してしまう。
したがって、その切断面においても高耐食性を有する金属多孔体とその製造方法の提供が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平08−013129号公報
【特許文献2】特開平08−232003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記問題点に鑑みて、リチウムイオン電池、キャパシタ、燃料電池等の二次電池の集電体や、各種フィルタ、触媒担持体等に適し、その切断面においても高耐食性を有する金属多孔体とその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は上記課題を解決すべく鋭意探求を重ねた結果、Ni−Cr合金多孔体の製造方法において、ニッケル多孔体上にめっきでクロム層を形成し、その後、熱処理によってクロムを拡散させることが有効であることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は以下の構成を有する。
【0007】
(1)少なくともNiとCrとを含む合金からなる3次元網目状構造を有する金属多孔体であって、該金属多孔体の骨格が中空の芯部と外殻とからなり、該外殻の断面を厚み方向に均等に外側、中央部、内側に3分割して、外側部分、中央部部分、内側部分におけるCrの重量パーセント濃度をそれぞれa、b、cとしたとき、該a、b、cが式(1)の関係を満たすことを特徴とする金属多孔体。
|(a+c)/2−b|÷(a+b+c)/3 < 0.20 (1)
(2)上記(1)に記載の金属多孔体の製造方法であって、
少なくとも、
3次元網目状樹脂に導電化処理を施す工程と、
3次元網目状樹脂にNiめっきを施す第1のめっき工程と、
3次元網目状樹脂を除去する第1の熱処理工程と、
Ni層上にCrめっきを施す第2のめっき工程と、
Ni層とCr層を合金化する第2の熱処理工程と、
を有することを特徴とする金属多孔体の製造方法。
(3)上記導電化処理後の工程順が、Niめっきを施す第1のめっき工程、3次元網目状樹脂を除去する第1の熱処理工程、Ni層上にCrめっきを施す第2のめっき工程、Ni層とCr層を合金化する第2の熱処理工程、の順であって、
第1の熱処理工程が、ステンレスマッフル内で酸化雰囲気のもと600℃以上、800℃以下で熱処理する工程であり、
第2の熱処理工程が、ステンレスマッフル内で還元性ガス雰囲気のもと800℃以上、1100℃以下で熱処理する工程であること
を特徴とする上記(2)に記載の金属多孔体の製造方法。
(4)上記導電化処理後の工程順が、Niめっきを施す第1のめっき工程、Ni層上にCrめっきを施す第2のめっき工程、3次元網目状樹脂を除去する第1の熱処理工程、Ni層とCr層を合金化する第2の熱処理工程、の順であって、
第1の熱処理工程が、ステンレスマッフル内で酸化雰囲気のもと600℃以上、800℃以下で熱処理する工程であり、
第2の熱処理工程が、カーボンマッフル内で還元性ガス雰囲気あるいは不活性ガス雰囲気のもと1000℃以上、1500℃以下で熱処理する工程であること
を特徴とする上記(2)に記載の金属多孔体の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、リチウムイオン電池、キャパシタ、燃料電池等の二次電池の集電体や、各種フィルタ、触媒担持体等に適し、その切断面においても高耐食性を有する金属多孔体とその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】従来の金属多孔体におけるクロムの拡散状態を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係る金属多孔体は、少なくともNiとCrとを含む合金からなる3次元網目状構造を有する金属多孔体であって、該金属多孔体の骨格が中空の芯部と外殻とからなり、該外殻の断面を厚み方向に均等に外側、中央部、内側に3分割して、外側部分、中央部部分、内側部分におけるCrの重量パーセント濃度をそれぞれa、b、cとしたとき、そのa、b、cが下記の式(1)の関係を満たすことを特徴とする。
|(a+c)/2−b|÷(a+b+c)/3 < 0.20 (1)
すなわち、上記a、b、cの関係式の値が0.20未満であることにより、切断面においても高耐食性を有する金属多孔体が得られる。上記式の値は、0.1以下であることがより好ましい。
【0011】
本発明に係る3次元網目状構造を有する金属多孔体の製造方法は、少なくとも、3次元網目状樹脂に導電化処理を施す工程と、3次元網目状樹脂にNiめっきを施す第1のめっき工程と、3次元網目状樹脂を除去する第1の熱処理工程と、Ni層上にCrめっきを施す第2のめっき工程と、Ni層とCr層を合金化する第2の熱処理工程と、を有することを特徴とする。これにより、本発明の骨格の芯部が中空の3次元網目状金属多孔体を良好に製造することができる。
【0012】
(樹脂多孔体)
3次元網目状樹脂としては、樹脂発泡体、不織布、フェルト、織布などが用いられるが必要に応じてこれらを組み合わせて用いることもできる。また、素材としては特に限定されるものではないが、金属をめっきした後焼却処理により除去できるものが好ましい。また、樹脂多孔体の取扱い上、特にシート状のものにおいては剛性が高いと折れるので柔軟性のある素材であることが好ましい。
【0013】
本発明においては、3次元網目状樹脂として樹脂発泡体を用いることが好ましい。樹脂発泡体は、多孔性のものであればよく公知又は市販のものを使用でき、例えば、発泡ウレタン、発泡スチレン等が挙げられる。これらの中でも、特に多孔度が大きい観点から、発泡ウレタンが好ましい。発泡状樹脂の厚み、多孔度、平均孔径は限定的でなく、用途に応じて適宜に設定することができる。
【0014】
(導電化処理)
3次元網目状樹脂の導電化処理の方法は、樹脂製の多孔体の表面に導電被覆層を設けることができる方法であれば特に限定されない。導電被覆層を構成する材料としては、例えば、ニッケル、チタン、ステンレススチール等の金属の他、カーボンブラック等の非晶質炭素、黒鉛等のカーボン粉末が挙げられる。これらの中でも特にカーボン粉末が好ましく、カーボンブラックがより好ましい。なお、金属以外の非晶質炭素等を用いた場合には、後述する樹脂製多孔体の除去処理において当該導電被覆層も除去される。
【0015】
導電処理の具体例としては、例えば、ニッケルを用いる場合は、無電解めっき処理、スパッタリング処理等が好ましく挙げられる。また、チタン、ステンレススチール等の金属、カーボンブラック、黒鉛などの材料を用いる場合は、これら材料の微粉末にバインダを加えて得られる混合物を、樹脂製多孔体の表面に塗着する処理が好ましく挙げられる。
【0016】
ニッケルを用いた無電解めっき処理としては、例えば、還元剤として次亜リン酸ナトリウムを含有した硫酸ニッケル水溶液等の公知の無電解ニッケルめっき浴に樹脂製多孔体を浸漬すればよい。必要に応じて、めっき浴浸漬前に、樹脂製多孔体を微量のパラジウムイオンを含む活性化液(カニゼン社製の洗浄液)等に浸漬してもよい。
【0017】
ニッケルを用いたスパッタリング処理としては、例えば、基板ホルダーに樹脂製多孔体を取り付けた後、不活性ガスを導入しながら、ホルダーとターゲット(ニッケル)との問に直流電圧を印加することにより、イオン化した不活性ガスをニッケルに衝突させて、吹き飛ばしたニッケル粒子を樹脂製多孔体の表面に堆積すればよい。
導電被覆層は樹脂製多孔体表面に連続的に形成されていればよく、その目付量は限定的でなく、通常0.1g/m2以上、20g/m2以下程度、好ましくは0.5g/m2以上、5g/m2以下程度とすればよい。
【0018】
(ニッケルめっき工程)
ニッケルめっき工程においては、公知のめっき法によってニッケルめっきを施す工程であれば特に限定されないが、電気めっき法を用いることが好ましい。上記した無電解めっき処理及び/又はスパッタリング処理によってめっき膜の厚みを増していけば電気めっき処理の必要性はないが、生産性、コストの観点から好ましくない。このため、上記したような、まず樹脂製多孔体を導電化処理する工程を経た後に、電気めっき法によりニッケルめっき層を形成する方法を採用することが好ましい。
【0019】
電気ニッケルめっき処理は、常法に従って行えばよい。例えば、めっき浴としては、公知又は市販のものを使用することができ、例えば、ワット浴、塩化浴、スルファミン酸浴等が挙げられる。前記の無電解めっきやスパッタリング等により表面に導電被覆層が形成された樹脂製多孔体をめっき浴に浸し、樹脂製多孔体を陰極に、ニッケルの対極板を陽極に接続して直流或いはパルス断続電流を通電させることにより、導電被覆層上に、さらに電気ニッケルめっき被覆を形成することができる。
電気ニッケルめっき層は導電被覆層が露出しない程度に当該導電被覆層上に形成されていればよく、その目付量は限定的でなく、通常100g/m2以上、600g/m2以下程度、好ましくは200g/m2以上、500g/m2以下程度とすればよい。
【0020】
(3次元網目状樹脂を除去する第1の熱処理工程)
3次元網目状樹脂を除去するための第1の熱処理条件は、ステンレスマッフル内で大気等の酸化雰囲気において、600℃以上、800℃以下で熱処理するのが好ましい。熱処理温度が600℃よりも低いと、3次元網目状樹脂が完全に除去できず、800℃超では脆くなり大幅に強度が低下し、実用的な使用に耐えられない。
【0021】
(クロムめっき工程)
クロムめっき工程においては、公知のめっき法によってクロムめっきを施す工程であれば特に限定されないが、電気めっき法を用いることが好ましい。スパッタリング処理によってめっき膜の厚みを増していけば電気めっき処理の必要性はないが、生産性、コストの観点から好ましくない。
【0022】
電気クロムめっき処理は、常法に従って行えばよい。例えば、めっき浴としては、公知又は市販のものを使用することができ、例えば、6価クロム浴、3価クロム浴等が挙げられる。前記ニッケル多孔体をクロムめっき液に浸し、陰極に接続し、クロムの対極板を陽極に接続して直流或いはパルス断続電流を通電させることにより、ニッケル層上に、さらに電気クロムめっき被覆を形成することができる。電気クロムめっき層の目付量は限定的でなく、通常10g/m2以上、600g/m2以下程度、好ましくは50g/m2以上、300g/m2以下程度とすればよい。
【0023】
なお、3次元網目状樹脂に導電化処理を施した後は、ニッケル、クロムの順にめっきを行うことが好ましい。仮に、導電化処理を施した3次元網目状樹脂に最初にクロムめっきを施すと、骨格内部までクロムめっき層を形成することが出来ない。これは、3次元網目状樹脂に導電化処理のみを施したものの導電率は1S/m未満と低いことに加え、クロムめっきの均一電着性がニッケルめっきに比べて極端に悪いことに起因する。一方で、3次元網目状樹脂に導電化処理及びニッケルめっきまで施したものの導電率は1S/m以上に向上し、次いでクロムめっきを施すと、骨格内部までクロムめっき層を形成することが出来る。
【0024】
(ニッケル層とクロム層を合金化する第2の熱処理工程)
導電化処理後の工程順が、Niめっきを施す第1のめっき工程、3次元網目状樹脂を除去する第1の熱処理工程、Ni層上にCrめっきを施す第2のめっき工程、Ni層とCr層を合金化する第2の熱処理工程、の順である場合、ニッケル層とクロム層を合金化するための第2の熱処理条件は、ステンレスマッフル内でCOやH2等の還元性ガス雰囲気のもと800℃以上、1100℃以下で熱処理するのが好ましい。熱処理温度が800℃未満では第1の熱処理工程で酸化したニッケルの還元、及びニッケル層とクロム層の合金化に長時間を要しコスト的に不利になり、1100℃超では熱処理炉の炉体が短期間で損傷するため、上記温度範囲で熱処理するのが好ましい。
【0025】
一方、導電化処理後の工程順が、Niめっきを施す第1のめっき工程、Ni層上にCrめっきを施す第2のめっき工程、3次元網目状樹脂を除去する第1の熱処理工程、Ni層とCr層を合金化する第2の熱処理工程、の順である場合、ニッケル層とクロム層を合金化するための第2の熱処理条件は、カーボンマッフル内でCOやH2等の還元性ガス雰囲気あるいはN2やAr等の不活性ガス雰囲気のもと1000℃以上、1500℃以下で熱処理するのが好ましい。これは、第1の熱処理工程で酸化したクロムを還元するにはカーボンが必要であるためであり、また、熱処理温度1000℃未満では、第1の熱処理工程で酸化したニッケルやクロムの還元、及びニッケル層とクロム層の合金化に長時間を要しコスト的に不利になり、1500℃超では熱処理炉の炉体が短期間で損傷するため、上記温度範囲で熱処理するのが好ましい。
【0026】
上記工程により、骨格断面のクロム濃度バラツキが小さく、その切断面においても高耐食性を有するNi−Cr合金多孔体を作製することが出来る。これは、ニッケル多孔体に拡散させたい所望のCr量のみをめっきで付着させた後に、熱処理によって合金化することから、骨格断面のクロム濃度バラツキを小さくできるものである。
【実施例】
【0027】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明の3次元網目状金属多孔体はこれらに限定されるものではない。
[実施例1]
(3次元網目状樹脂の導電化処理)
3次元網目状樹脂として、1.5mm厚のポリウレタンシートを用いて、粒径0.01〜0.2μmの非晶性炭素であるカーボンブラック100gを0.5Lの10%アクリル酸エステル系樹脂水溶液に分散し、この比率で粘着塗料を作製した。次に樹脂多孔シートを前記塗料に連続的に漬け、ロールで絞った後乾燥させることによって導電化処理を施し、3次元網目状樹脂の表面に導電被覆層を形成した。
【0028】
(ニッケルめっき工程)
導電化処理を施した3次元網目状樹脂に、ニッケルを電気めっきにより300g/m2付着させ、電気めっき層を形成した。めっき液としては、スルファミン酸ニッケルめっき液を用いた。
(3次元網目状樹脂を除去する第1の熱処理工程)
次に、3次元網目状樹脂を除去するため、ステンレスマッフル内で大気酸化雰囲気において700℃で熱処理を施し、ニッケル多孔体を得た。
【0029】
(クロムめっき工程)
上記ニッケル多孔体上に、更にクロムめっきを90g/m2、150g/m2、230g/m2付着させたものを、それぞれNi−Cr合金多孔体A−1、A−2、A−3とした。めっき液としては、3価クロムめっき液を用いた。
(ニッケル層とクロム層を合金化する第2の熱処理工程)
続いて、ステンレスマッフル内でH2ガス雰囲気のもと1000℃で熱処理を施した。上記工程により、本発明の切断面においても高耐食性を有するNi−Cr合金多孔体A−1、A−2、A−3を作製した。
【0030】
[比較例1]
実施例1の3次元網目状樹脂を除去する第1の熱処理工程後に得られたニッケル多孔体を、Cr及びNH4Cl粉末中に埋めて、Arガス雰囲気中で1100℃で、重量が90g/m2、150g/m2、230g/m2増加するまで、拡散浸透処理を行ったものを、それぞれNi−Cr合金多孔体B−1、B−2、B−3とした。上記工程により、高耐食性を有するNi−Cr合金多孔体B−1、B−2、B−3を作製した。
【0031】
<評価>
(骨格断面のクロム濃度)
上記で得た芯部が中空の各Ni−Cr合金多孔体の骨格の外殻断面のクロム濃度をSEM(走査型電子顕微鏡)−EDX(エネルギー分散型X線分析装置)により定量分析した。結果を表1に示す。表1に示される通り、比較例1のNi−Cr合金多孔体B−1〜B−3は、骨格の外殻断面のクロム濃度バラツキが大きい、つまり、中央部部分のクロム濃度は外側部分、内側部分に比べ顕著に小さい傾向にあり、|(a+c)/2−b|÷(a+b+c)/3は0.20以上であることが確認された。また、全体的にCr濃度が高いB−3では骨格表層の剥離が認められた。
【0032】
一方、実施例1のNi−Cr合金多孔体A−1〜A−3は骨格の外殻断面のクロム濃度バラツキは小さく、|(a+c)/2−b|÷(a+b+c)/3は0.20未満であることが確認された。このことは、本発明のNi−Cr合金多孔体は、骨格の外殻断面におけるクロム濃度バラツキが小さく、その切断面においても優れた耐食性を有することを示している。
【0033】
【表1】

【0034】
(耐食性評価1)
上記で得た各Ni−Cr合金多孔体がリチウムイオン電池やキャパシタに使用できるか確認するため、サイクリックボルタンメトリーを行って耐食性を評価した。評価サイズとして、厚みはローラープレスで0.4mmに調厚し、大きさは3cm□とし、切断面が有るものと無いもの(3次元網目状樹脂から3cm□で作製)を準備した。リード線としてアルミタブを溶接し、微多孔膜セパレーターを挟んでアルミラミネートセルを作製した。参照極として銀/塩化銀電極を使用した。電解液はLiPF6を1mol/Lを含むEc/DEC1:1を使用した。
【0035】
測定の電位範囲は、リチウム電位を基準として0〜5Vで行った。リチウムイオン電池やキャパシタに用いる場合は、4.3Vの電位で酸化電流が流れないことが必要である。電位掃引速度は5mV/sとし、酸化電流が流れ始める電位を調べた。その結果を表2に示す。
【0036】
表2に示される通り、比較例1のNi−Cr合金多孔体B−1〜B−3は、切断面なしの場合、4.3Vの電位でも酸化電流が流れないものの、切断面ありの場合は4Vに達する前に酸化電流が流れ始めた。一方、実施例1のNi−Cr合金多孔体A−1〜A−3は切断面の有無に関わらず、4.3Vの電位でも酸化電流が流れなかった。このことは、本発明のNi−Cr合金多孔体が切断面の有無に関わらず、高耐食性の求められるリチウムイオン電池、キャパシタに用いることができることを示している。
【0037】
【表2】

【0038】
(耐食性評価2)
上記で得た各Ni−Cr合金多孔体が各種フィルタや触媒担持体に使用できるか確認するため、大気中800℃で12時間の加熱を行い、各Ni−Cr合金多孔体の重量変化を測定した結果を表3に示す。表3に示されるように、比較例1のNi−Cr合金多孔体B−1〜B−3は、切断面なしの場合、重量変化量が1mg/cm2未満であるものの、切断面ありの場合は5〜6mg/cm2と酸化が進行していた。一方、実施例1のNi−Cr合金多孔体A−1〜A−3は切断面の有無に関わらず、重量変化量が1mg/cm2未満であった。このことは、本発明のNi−Cr合金多孔体が切断面の有無に関わらず、高耐食性の求められる各種フィルタや触媒担持体に用いることができることを示している。
【0039】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の金属多孔体は、耐食性に優れているので、リチウムイオン電池、キャパシタ、燃料電池等の集電体として、耐熱性に優れているので、各種フィルタや触媒担持体として好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともNiとCrとを含む合金からなる3次元網目状構造を有する金属多孔体であって、該金属多孔体の骨格が中空の芯部と外殻とからなり、該外殻の断面を厚み方向に均等に外側、中央部、内側に3分割して、外側部分、中央部部分、内側部分におけるCrの重量パーセント濃度をそれぞれa、b、cとしたとき、該a、b、cが式(1)の関係を満たすことを特徴とする金属多孔体。
|(a+c)/2−b|÷(a+b+c)/3 < 0.20 (1)
【請求項2】
請求項1に記載の金属多孔体の製造方法であって、
少なくとも、
3次元網目状樹脂に導電化処理を施す工程と、
3次元網目状樹脂にNiめっきを施す第1のめっき工程と、
3次元網目状樹脂を除去する第1の熱処理工程と、
Ni層上にCrめっきを施す第2のめっき工程と、
Ni層とCr層を合金化する第2の熱処理工程と、
を有することを特徴とする金属多孔体の製造方法。
【請求項3】
上記導電化処理後の工程順が、Niめっきを施す第1のめっき工程、3次元網目状樹脂を除去する第1の熱処理工程、Ni層上にCrめっきを施す第2のめっき工程、Ni層とCr層を合金化する第2の熱処理工程、の順であって、
第1の熱処理工程が、ステンレスマッフル内で酸化雰囲気のもと600℃以上、800℃以下で熱処理する工程であり、
第2の熱処理工程が、ステンレスマッフル内で還元性ガス雰囲気のもと800℃以上、1100℃以下で熱処理する工程であること
を特徴とする請求項2に記載の金属多孔体の製造方法。
【請求項4】
上記導電化処理後の工程順が、Niめっきを施す第1のめっき工程、Ni層上にCrめっきを施す第2のめっき工程、3次元網目状樹脂を除去する第1の熱処理工程、Ni層とCr層を合金化する第2の熱処理工程、の順であって、
第1の熱処理工程が、ステンレスマッフル内で酸化雰囲気のもと600℃以上、800℃以下で熱処理する工程であり、
第2の熱処理工程が、カーボンマッフル内で還元性ガス雰囲気あるいは不活性ガス雰囲気のもと1000℃以上、1500℃以下で熱処理する工程であること
を特徴とする請求項2に記載の金属多孔体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−149282(P2012−149282A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−6878(P2011−6878)
【出願日】平成23年1月17日(2011.1.17)
【出願人】(591174368)富山住友電工株式会社 (50)
【Fターム(参考)】