説明

高耐食性を有する金属多孔体

【課題】高容量で耐久性に優れたキャパシタを提供することを課題とする。
【解決手段】ニッケルを50〜80重量%、タングステンを20〜50重量%含有し、必要により10重量%以下のリンおよび/または10重量%以下のホウ素含む金属多孔体である。この金属多孔体は、導電処理をした発泡ウレタン等の多孔体基材にニッケルとタングステンとを含む合金皮膜を形成し、次いで多孔体基材を除去した後に、金属を還元するか、導電処理をした多孔体基材にニッケルとタングステンとを含む合金皮膜を形成し、次いで多孔体基材を除去した後に、金属を還元する等の方法により得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウムイオン電池等の電池やキャパシタ、燃料電池の集電体に用いられる金属多孔体に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池において、正極材料や負極材料を付着させる集電体(支持体)として、一般的にアルミ箔のような金属箔を用いている。しかしながら、金属箔は二次元構造であり活物質の担持や充填密度の点で多孔体に比べて劣っている。すなわち、金属箔は、活物質を包み込むように保持する事ができないため、活物質の膨張収縮を抑えることができず充填量を少なくしなければ寿命が持たない。また、集電体と活物質の距離が長くなるため、集電体から離れたところでの活物質の利用率が小さく、容量密度も小さくなる。また金属箔をパンチングメタル、スクリーン、エキスバンドメタル等の多孔体の形状で用いることが行われているが、これも実質的には二次元構造であり、大幅な容量密度の向上は期待できない。
【0003】
また、高出力、高容量、長寿命化等を目的として、集電体を発泡体や不織布状などの三次元多孔質体等の形状として用いることが数多く提案されている(特許文献1〜4参照)。
例えば、特許文献1には、正極集電体として、表面がアルミニウム、合金又はステンレススチールからなる三次元網状多孔体が開示されている。
【0004】
特許文献2には、有孔性ポリマーが均一に活物質層間と活物質表面に備わった電極合剤と集電体としてのアルミニウム、銅、亜鉛、鉄などの金属、またはポリピロール、ポリアニリンなどの導電性ポリマー、あるいはこれらの混合物からなる三次元多孔体とを一体化して電極とすることが開示されている。
【0005】
特許文歓3には、アルミニウム、タンタル、ニオブ、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、亜鉛、タングステン、ビスマス、アンチモンの単体若しくは合金、又はステンレス合金からなる多孔質集電体上に電極活物質薄膜層が形成されてなる電極が開示されている。
特許文献4には、正極集電体として、発泡アルミニウム、発泡ニッケル等を用いることが開示されている。
【0006】
ところで、二次電池全般として、高出力化及び高容量化させるために、集電体は、二次元構造体よりも多孔度が大きい三次元構造体を採用することが望まれている。特に正極集電体については、高い充放電電圧のもとでは電解質により酸化されやすくなるため、耐酸化性及び耐電解液性も求められている。
【0007】
一般に金属製の多孔度が大きい三次元構造体(以下「金属多孔体」という)は、電気導電性のない樹脂多孔体に導電化処理を施し、この上に電気めっきにより所定の金属量を付加し必要に応じて内部に残存する樹脂分を焼却除去することによって得られている。例えば、特許文献5には、ポリウレタンフォームの骨格表面にニッケルめっきを施し、その後、上記ポリウレタンフォームを除去することによって金属多孔体を得ることが記載されている。
【0008】
しかし、下記のような理由で、リチウム系非水電解質二次電池については、耐酸化性及び耐電解液性を有し、多孔度が大きく、さらには、工業的生産に適した正極集電体は提供されていない。
すなわち、集電体の多孔度を大きくするためには、一般的にニッケル多孔体に代表されるように、多孔質の有機樹脂表面にめっき処理し、必要に応じて有機樹脂を焼却除去することが行われる。しかしながら、ニッケル多孔体は、リチウム系非水電解質二次電池では、酸化されやすく、電解質液中に溶解してしまい、長期の充放電で十分な充電ができなくなる。
【0009】
一方、現在の正極集電体の主材料であるアルミニウムにおいては、めっき処理するには、非常に高温の溶融塩状態で処理する必要があるため、有機樹脂を被めっき体として使用することができず、有機樹脂表面にめっき処理することは困難である。よって、アルミニウムからなる多孔体集電体は現在提供されていない。
【0010】
また、ステンレススチールも正極集電体の材料として広く使用されているが、このステンレススチールもアルミニウムと同様の理由から、有機樹脂表面にめっき処理することにより、多孔度の大きい集電体とすることは困難である。
なお、ステンレススチールについては、粉末状にして有機樹脂多孔体に塗着して焼結することにより、多孔体を得る方法が提供されている。
しかしながら、ステンレススチール粉末は非常に高価である。また、粉末が付着した有機樹脂多孔体は焼却除去されるため、強度が衰えてしまい使用に耐えないという問題がある。
したがって、耐酸化性及び耐電解液性を有し、多孔度が大きく、工業的生産に適した集電体、さらには、この集電体を用いて得られる正極の提供が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平11−233151号公報
【特許文献2】特開2000−195522号公報
【特許文献3】特開2005−078991号公報
【特許文献4】特開2006−032144号公報
【特許文献5】特開平11−154517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明はリチウムイオン電池等の電池やキャパシタ、燃料電池の集電体に適した耐電解性、耐食性、耐熱性に優れた金属多孔体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(1)少なくともニッケルとタングステンとを含む合金からなる金属多孔体。
(2)前記合金がニッケルを50〜80重量%、タングステンを20〜50重量%含有することを特徴とする(1)に記載の金属多孔体。
(3)前記合金が成分とし10重量%以下のリンおよび/または10重量%以下のホウ素を更に含むことを特徴とする(2)に記載の金属多孔体。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、リチウムイオン電池等の電池やキャパシタ、燃料電池の集電体に適した耐電解性、耐食性、耐熱性に優れた金属多孔体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の金属多孔体を製造する方法としては、多孔体基材の表面を導電化処理して導電膜(以下「導電被覆層」という)を形成し、この導電被覆層に電気めっきを施して樹脂多孔体基材の表面に電気めっき層を形成し、次いで多孔体基材を除去して金属の多孔体を得る方法を採用することができる。
【0016】
(多孔体基材)
本発明における多孔体基材としては多孔性のものであればよく公知又は市販のものを使用でき、樹脂発泡体、不織布、フェルト、織布などが用いられるが必要に応じてこれらを組み合わせて用いることもできる。また、素材としては特に限定されるものではないが、金属をめっきした後焼却処理により除去できるものが好ましい。また、樹脂多孔体の取扱い上、特にシート状のものにおいては剛性が高いと折れるので柔軟性のある素材であることが好ましい。本発明においては、多孔体基材として樹脂発泡体を用いることが好ましい。樹脂発泡体としては発泡ウレタン、発泡スチレン、メラミン樹脂等が挙げられるが、これらの中でも、特に多孔度が大きい観点から、発泡ウレタンが好ましい。
多孔体基材の多孔度は限定的でなく、通常60〜97%程度、好ましくは80〜96%程度である。
多孔体基材の厚みは限定的でなく、用途等に応じて適宜決定されるが、通常300μm〜5000μm程度、好ましくは400μm〜2000μm程度とすればよい。
以下では、多孔体基材として発泡状樹脂を用いた場合を例にとって本発明を説明する。
【0017】
(導電処理)
導電処理は、発泡状樹脂の表面に導電性を有する層を設けることができる限り限定的でない。導電性を有する層(導電被覆層)を構成する材料としては、例えば、ニッケル、チタン、ステンレススチール等の金属の他、黒鉛等が挙げられる。
導電処理の具体例としては、例えば、ニッケルを用いる場合は、無電解めっき処理、スパッタリング処理等が好ましく挙げられる。また、チタン、ステンレススチール等の金属、黒鉛などの材料を用いる場合は、これら材料の微粉末にバインダを加えて得られる混合物を、発泡状樹脂の表面に塗着する処理が好ましく挙げられる。
【0018】
ニッケルを用いた無電解めっき処理は、例えば、還元剤として次亜リン骸ナトリウムを含有した硫酸ニッケル水溶液等の公知の無電解ニッケルめっき浴に発泡状樹脂を浸漬することによって行うことができる。必要に応じて、めっき浴浸漬前に、発泡状樹脂を微量のパラジウムイオンを含む活性化液(カニゼン社製の洗浄液)等に浸漬してもよい。
【0019】
ニッケルを用いたスパッタリング処理としては、例えば、基板ホルダーに発泡状樹脂を取り付けた後、不活性ガスを導入しながら、ホルダーとターゲット(ニッケル)との間に直流電圧を印加することにより、イオン化した不活性ガスをニッケルに衝突させて、吹き飛ばしたニッケル粒子を発泡状樹脂表面に堆積すればよい。
【0020】
導電被覆層の目付量(付着量)は、最終的な金属組成がニッケルが50〜80重量%、タングステンが20〜50重量%になるように調整することが好ましい。
導電被覆層にニッケルを用いる場合は発泡状樹脂表面に連続的に形成されていればよく、目付量は限定的でないが、通常5〜15g/m程度、好ましくは7〜10g/m程度とすればよい。
【0021】
以下に、導電被覆を行った後に行う各工程の実施方法について説明する。
【0022】
(電解ニッケル−タングステンめっき処理)
電解ニッケル−タングステンめっき処理は、常法(特開平10−130878号公報)に開示の方法など)に従って行えばよい。電解ニッケル−タングステンめっき処理に用いるめっき浴としては、公知又は市販のものを使用することができる。めっき液の組成は、たとえば水1000gに対し、タングステン酸ナトリウム60g、硫酸ニッケル20g、クエン酸60g、アンモニア40gを配合したものを使用できる。
【0023】
前記の無電解メッキやスパッタリングにより表面に導電層を形成された発泡状樹脂をメッキ浴に浸し、発泡状樹脂を陰極に、ニッケル対極板とタングステン対極版をそれぞれ陽極に接続して直流或いはパルス断続電流を通電させることにより、導電層上に、さらにニッケル−タングステンの被覆を形成することができるが、添加剤の分解を防ぐために、3つ目の陽極としてイオン交換膜付きのアノードケース内に配置した不溶性陽極を使用するのが好ましい。不溶性陽極は白金めっきチタンなどを用いればよく、アノードケースには10wt%程度の硫酸を満たして使用する。
電解ニッケル−タングステンめっき層の目付量は最終的な金属組成が、ニッケルが50〜80重量%、タングステンが20〜50重量%であるように調整することが好ましい。
【0024】
(発泡状樹脂除去処理)
発泡状樹脂成分を除去する方法は限定的でないが、焼却により除去することが好ましい。具体的には、例えば600℃程度以上の大気等の酸化性雰囲気下で加熱すればよい。得られた多孔体を還元性雰囲気下で加熱処理して金属を還元することにより、金属多孔体が得られる。
【0025】
(めっき時のめっき液の循環)
発泡状樹脂へのめっきは、一般的に内部へ均一にめっきすることが難しい。内部の未着を防いだり、内部と外部のめっき付着量の差を低減したりするために、めっき液を循環させることが好ましい。循環の方法としては、ポンプを使用したり、めっき槽内部にファンを設置するなどの方法がある。また、これらの方法を用いて基材にめっき液を吹き付けたり、吸引口に基材を隣接させたりすると、基材内部にめっき液の流れができやすくなって効果的である。
【0026】
(熱処理)
被覆したままの金属膜はピンホールなどが存在し、耐食性の低いニッケルが露出している可能性があるため、熱処理を行ってタングステン成分を拡散させることが好ましい。熱処理温度は、低すぎると拡散に時間がかかり、高すぎると軟化して自重で多孔体構造を損なう可能性があるため、300〜1000℃の範囲で行うことが好ましい。また、雰囲気は窒素やアルゴンなどの非酸化性雰囲気、あるいは水素などの還元性雰囲気が好ましい。
【0027】
(金属目付量)
導電被覆層、ニッケル被覆層、合金皮膜層の金属目付量の合計量としては、好ましくは200g/m以上500g/m以下である。合計量がこの寵囲を下回ると、集電体の強度が衰えるおそれがある。
また、合計量がこの範囲を上回ると、分極性材料の充填量が減少し、またコスト的にも不利となる。
【0028】
(孔径)
金属多孔体を燃料電池の触媒層に用いる場合、平均孔径は2〜3μmが好ましい。その他集電体として使用する場合は80〜500μmが好ましい。
【実施例】
【0029】
(実施例1)
樹脂多孔体シートとして1.5mm厚のポリウレタンシートを用いて、これを三酸化クロム400g/Lと硫酸400g/Lの混合溶液中に60℃で1分浸漬することによって表面処理を施した。このような表面処理を行うことにより次いで付着させる導電膜とアンカー効果を形成し、高い密着力が得られる。
次に、粒径0.01〜20μmのカーボン粉末20gを10%アクリルスチレン系合成樹脂水溶液80gに分散させ、カーボン塗料を作製した。
次いで、発泡ウレタンを前記塗料に連続的に漬け、ロールで絞った後乾燥させることにより導電化処理を施した。
更に、導電処理後の発泡ウレタンにニッケル−タングステン合金電気めっきを施し、熱処理によってウレタンを除去してニッケル65重量%タングステン34重量%の組成で厚さ1.0mm、金属目付け量400g/mの金属多孔体を得た。
めっき液としては、水1000gに対し、タングステン酸ナトリウム60g、硫酸ニッケル20g、クエン酸60g、アンモニア40gを配合したものを使用した。
【0030】
(比較例1)
実施例1で得た導電処理後の発泡ウレタンに標準的なワット浴を用いてニッケルめっきを行った。浴の構成は、水1000gに対し硫酸ニッケル300g、塩化ニッケル45g、硼酸35gを配合したものを使用した。その後、熱処理によってウレタンを除去して厚さ1.0mm、金属目付け量400g/mのニッケル多孔体を得た。
【0031】
<評価>
(耐電解性の評価)
上記で得た各金属多孔体がリチウムイオン電池やキャパシタに使用できるか確認するため、サイクリックボルタンメトリーを行って耐電解性を確認した。各金属多孔体をローラープレスにて厚さ0.4mmに調厚し、3cm角に切断した。リード線としてアルミタブを溶接し、微多孔膜セパレーターを挟んでアルミラミネートセルを作製した。参照極はニッケルタブに押し付けた電解液はLiPFを1mol/Lを含むEc/DEC1:1を使用した。
測定の電位範囲は、リチウム電位を基準として0〜5Vで行った。リチウムイオン電池やキャパシタに用いる場合は、4.3Vの電位で酸化電流が流れないことが必要である。電位掃引速度は5mV/sとし、酸化電流が流れ始める電位を調べた。その結果を表1に示す。
表1に示される通り、ニッケル多孔体が4Vに達する前に酸化電流が流れ始めるのに対し、本発明のニッケルタングステン多孔体は4.3Vの電位でも酸化電流が流れていない。このことは、本発明のニッケルタングステン多孔体がリチウムイオン電池やキャパシタに用いることができることを示している。
【0032】
【表1】

【0033】
(耐食性の評価)
耐食性を確認するため塩水噴霧を用いた試験を行った。試験条件はJASO M609準拠で、JIS Z2371の塩水噴霧2時間に加えて、乾燥(60℃30RH以下)4時間、湿潤(60℃80RH以上)2時間を1サイクルとし、6サイクル(48h)を行った。試験後の概観変化状況を表2に示す。
表2に示される通り、ニッケル多孔体が1サイクル後で変色・サビの発生が認められたのに対し、本発明のニッケルタングステン多孔体は6サイクル後も一部変色が認められるのみで、サビ発生はない。
【0034】
【表2】

【0035】
(耐熱性の評価)
耐熱性に関しては大気中800℃で12時間の加熱を行い、金属多孔体の変化を確認した。加熱前後での変化を表3に示す。
表3に示されるように、本発明の金属多孔体は実施例3、4のもので若干の変色が認められるが、比較例に比べ優れた耐熱性を有する。
【0036】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の金属多孔体は、耐電解性、耐食性、耐熱性に優れているので、リチウムイオン電池等の電池やキャパシタ、燃料電池の集電体として好適に使用できる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともニッケルとタングステンとを含む合金からなる金属多孔体。
【請求項2】
前記合金がニッケルを50〜80重量%、タングステンを20〜50重量%含有することを特徴とする請求項1に記載の金属多孔体。
【請求項3】
前記合金が成分として、10重量%以下のリンおよび/または10重量%以下のホウ素を更に含むことを特徴とする請求項2に記載の金属多孔体。


【公開番号】特開2011−241457(P2011−241457A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−116054(P2010−116054)
【出願日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(591174368)富山住友電工株式会社 (50)
【Fターム(参考)】