説明

高耐食性表面処理鋼板

【課題】ユーザーでアルカリ脱脂され或いは長期間にわたり腐食環境に曝された場合でも優れた平板および加工後の耐食性を有するクロムフリー表面処理鋼板を提供する。
【解決手段】亜鉛系めっき鋼板またはアルミニウム系めっき鋼板の表面に、特定のチタン化合物を過酸化水素水と混合して得られるチタン系水性液に対して、有機リン酸化合物および無機リン酸化合物を所定の割合で複合添加した表面処理組成物による表面処理皮膜を形成し、さらにその上層に、特定の高分子量エポキシ基含有樹脂を含む塗料組成物を塗布し、乾燥させることにより形成された上層皮膜を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、家電、建材などの用途に最適な高耐食性表面処理鋼板であって、特に、皮膜中に6価クロムを含まない環境調和型表面処理鋼板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車用鋼板、家電製品用鋼板、建材用鋼板には、亜鉛系めっき鋼板またはアルミニウム系めっき鋼板の表面に、耐食性(耐白錆性、耐赤錆性)を向上させる目的で、6価クロムを主要成分とした処理液によるクロメート処理が施された鋼板が幅広く用いられてきた。しかし、クロメート処理は公害規制物質である6価クロムを使用するため、最近ではその使用を規制する動きが広まっており、一方において、クロメート処理に代わる、6価クロムを全く用いない表面処理技術の開発が盛んに行われている。このうち、有機系化合物や有機樹脂を利用した技術が幾つか提案されており、例えば、以下のようなものを挙げることができる。
【0003】
(1)エポキシ樹脂に活性水素を有するヒドラジン誘導体を反応させた水性樹脂組成物とシランカップリング剤とリン酸などを含む表面処理組成物により皮膜を形成する技術(例えば、特許文献1など)
(2)下層として酸化物微粒子とリン酸と特定の金属を含有する複合酸化物皮膜を形成し、その上層に、エポキシ樹脂などの有機樹脂に活性水素を有するヒドラジン誘導体を反応させた樹脂組成物と特定の防錆添加剤を含む塗料組成物により有機皮膜を形成する技術(例えば、特許文献2など)
(3)チタン化合物、有機リン酸化合物、水溶性樹脂、バナジン酸塩およびジルコニウム塩からなる下層皮膜を形成し、その上層に耐指紋性皮膜を形成する技術(例えば、特許文献3など)
また、有機皮膜を構成するエポキシ樹脂の硬化性を高めるために、以下のような技術が提案されている。
(4)チタン化合物、有機リン酸化合物、無機リン酸からなる塗布剤による皮膜を金属基材に形成する技術(例えば、特許文献4)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-105554号公報
【特許文献2】特開2002−53979号公報
【特許文献3】特開2006−22370号公報
【特許文献4】WO2003−37996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これらの従来技術には以下に述べるような問題点がある。
まず、上記(1)、(2)の技術は、エポキシ樹脂にヒドラジン誘導体を付与することによって緻密な有機高分子皮膜(バリアー層)を形成し、所望の耐食性を付与している。さらには、ポリイソシアネートなどの硬化剤を用いて架橋することで、バリアー性を強化している。しかしながら、このような有機高分子皮膜では、長期にわたってバリアー性を確保し、腐食を抑制することは困難である。また、鋼板に厳しい加工を加えた場合は、高分子量エポキシ樹脂を使用しても十分に満足する塗膜性能が得られない。
【0006】
一方、上記(3)の技術は、下層皮膜によりある程度の耐食性は付与できるが、接着性が大きく劣り、めっき皮膜と下層皮膜間が剥離界面となる。
また、上記(4)の技術は、チタン含有水溶液と有機酸をベースとしたものであり、耐食性向上のために無機リン酸の添加を可能としているが、同文献に開示されている添加量範囲では接着性が大きく劣る領域があることが判った。
【0007】
したがって本発明の目的は、このような従来技術の課題を解決し、皮膜中に6価クロムを含まない表面処理鋼板であって、ユーザーでアルカリ脱脂され或いは長期間にわたり腐食環境に曝された場合でも優れた平板および加工後の耐食性を有するとともに、接着接合性にも優れた表面処理鋼板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明者らが鋭意検討を行った結果、亜鉛系めっき鋼板またはアルミニウム系めっき鋼板の表面に、特定のチタン系水性液に対して有機リン酸化合物と無機リン酸化合物を所定の割合で複合添加した表面処理組成物による皮膜を形成し、さらにその上層に、特定の高分子量エポキシ基含有樹脂を含有する塗料組成物による上層皮膜を形成することにより、上記課題を解決できる非常に優れた耐食性と接着接合性が得られることを見出した。
【0009】
本発明はこのような知見に基づきなされたもので、下記を要旨とするものである。
[1]亜鉛系めっき鋼板またはアルミニウム系めっき鋼板の表面に、加水分解性チタン化合物、加水分解性チタン化合物の低縮合物、水酸化チタン、水酸化チタンの低縮合物の中から選ばれる少なくとも1種のチタン化合物を過酸化水素水と混合して得られるチタン含有水性液(A)の固形分100質量部に対して、有機リン酸化合物(B)を1〜400質量部、無機リン酸化合物(C)を50〜150質量部含有する表面処理組成物(X)を塗布し、乾燥させることにより形成された皮膜厚が0.01〜1.0μmの表面処理皮膜を有し、その上層に、数平均分子量が6000〜20000の高分子量エポキシ基含有樹脂(D)を含有する塗料組成物(Y)を塗布し、乾燥することにより形成された皮膜厚が0.3〜2.0μmの上層皮膜を有することを特徴とする高耐食性表面処理鋼板。
【0010】
[2]上記[1]の表面処理鋼板において、塗料組成物(Y)が、さらに、ポリエチレン系潤滑剤(e1)とポリテトラフルオロエチレン系潤滑剤(e2)を(e1)/(e2)=5/5〜1/9の割合(質量比)で含む複合潤滑剤(E)を含有することを特徴とする高耐食性表面処理鋼板。
[3]上記[2]の表面処理鋼板において、塗料組成物(Y)は、複合潤滑剤(E)を樹脂組成物の固形分100質量部に対して固形分の割合で10〜30質量部含有することを特徴とする高耐食性表面処理鋼板。
[4]上記[2]または[3]の表面処理鋼板において、複合潤滑剤(E)中のポリエチレン系潤滑剤(e1)の融点が100〜130℃であることを特徴とする高耐食性表面処理鋼板。
【0011】
[5]上記[2]〜[4]のいずれかの表面処理鋼板において、複合潤滑剤(E)中のポリテトラフルオロエチレン系潤滑剤(e2)の平均粒子径が1〜7μmであることを特徴とする高耐食性表面処理鋼板。
[6]上記[1]〜[5]のいずれかの表面処理鋼板において、表面処理組成物(X)が、さらに、水溶性有機樹脂または/および水分散性有機樹脂(F)をチタン含有水性液(A)の固形分100質量部に対して固形分の割合で2000質量部以下含有することを特徴とする高耐食性表面処理鋼板。
[7]上記[1]〜[6]のいずれかの表面処理鋼板において、塗料組成物(Y)が、さらに、非クロム系防錆添加剤(G)を樹脂組成物の固形分100質量部に対して固形分の割合で0.1〜50質量部含有することを特徴とする高耐食性表面処理鋼板。
【0012】
[8]上記[7]の表面処理鋼板において、塗料組成物(Y)が非クロム系防錆添加剤(G)として、下記(g1)〜(g5)の中から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする高耐食性表面処理鋼板。
(g1)酸化ケイ素
(g2)カルシウム化合物
(g3)リン酸化合物
(g4)モリブデン酸化合物
(g5)トリアゾール類、チオール類、チアジアゾール類、チアゾール類、チウラム類の中から選ばれる1種以上の有機化合物
[9]上記[1]〜[8]のいずれかの表面処理鋼板において、塗料組成物(Y)が、さらに、水酸基と架橋する基を有する硬化剤(H)を高分子量エポキシ基含有樹脂(D)の固形分100質量部に対して固形分の割合で1〜50質量部含有することを特徴とする高耐食性表面処理鋼板。
【0013】
[10]上記[9]の表面処理鋼板において、水酸基と架橋する基を有する硬化剤(H)が、1分子中にイミノ基を平均1個以上有するアミノ樹脂(I)であることを特徴とする高耐食性表面処理鋼板。
[11]上記[9]の表面処理鋼板において、水酸基と架橋する基を有する硬化剤(H)が、1分子中にイソシアネート基を平均4個以上有するポリイソシアネート化合物(J)であることを特徴とする高耐食性表面処理鋼板。
[12]上記[11]の表面処理鋼板において、ポリイソシアネート化合物(J)が、イソシアネート基の少なくとも一部がブロック剤でブロックされたものであることを特徴とする高耐食性表面処理鋼板。
[13]上記[1]〜[12]のいずれかの表面処理鋼板において、塗料組成物(Y)中の高分子量エポキシ基含有樹脂(D)が、一部または全部の化合物が活性水素を有するヒドラジン誘導体(L)からなる活性水素含有化合物(K)により変性された変性エポキシ基含有樹脂であることを特徴とする高耐食性表面処理鋼板。
【発明の効果】
【0014】
本発明の表面処理鋼板は、皮膜中に6価クロムを含有しないにもかかわらず、非常に優れた平板および加工後の耐食性を有し、しかも接着接合性にも優れ、また溶接性と塗装性にも優れている。このため本発明の表面処理鋼板は、自動車用途に特に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の詳細とその限定理由を説明する。
本発明の表面処理鋼板のベースとなる亜鉛系めっき鋼板としては、例えば、亜鉛めっき鋼板、Zn−Ni合金めっき鋼板、Zn−Fe合金めっき鋼板(電気めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板)、Zn−Cr合金めっき鋼板、Zn−Mn合金めっき鋼板、Zn−Co合金めっき鋼板、Zn−Co−Cr合金めっき鋼板、Zn−Cr−Ni合金めっき鋼板、Zn−Cr−Fe合金めっき鋼板、Zn−Al合金めっき鋼板(例えば、Zn−5%Al合金めっき鋼板、Zn−55%Al合金めっき鋼板)、Zn−Mg合金めっき鋼板、Zn−Al−Mg合金めっき鋼板(例えば、Zn−6%Al−3%Mg合金めっき鋼板、Zn−11%Al−3%Mg合金めっき鋼板)、さらには、これらのめっき鋼板のめっき皮膜中に金属酸化物、ポリマーなどを分散した亜鉛系複合めっき鋼板(例えば、Zn−SiO2分散めっき鋼板)などを用いることができる。
【0016】
また、上記のようなめっきのうち、同種または異種のものを2層以上めっきした複層めっき鋼板を用いることもできる。
また、本発明の表面処理鋼板のベースとなるアルミニウム系めっき鋼板としては、アルミニウムめっき鋼板、Al−Si合金めっき鋼板などを用いることができる。
また、めっき鋼板としては、鋼板面に予めNiなどの薄目付のめっきを施し、その上に上記のような各種めっきを施したものであってもよい。
めっき方法としては、電解法(水溶液中での電解または非水溶媒中での電解)、溶融法、気相法のうち、実施可能ないずれの方法も採用することができる。
さらに、めっきの黒変を防止する目的で、めっき皮膜中にNi、Co、Feの1種以上の微量元素を1〜2000ppm程度析出させたり、或いはめっき皮膜表面にNi、Co、Feの1種以上を含むアルカリ性水溶液または酸性水溶液による表面調整処理を施し、これら元素を析出させるようにしてもよい。
【0017】
次に、上記亜鉛系めっき鋼板またはアルミニウム系めっき鋼板の表面に、第一層皮膜として形成される表面処理皮膜およびこの皮膜形成用の表面処理組成物について説明する。
本発明の表面処理鋼板において、亜鉛系めっき鋼板またはアルミニウム系めっき鋼板の表面に形成される表面処理皮膜は、特定のチタン含有水性液(A)、有機リン酸化合物(B)および無機リン酸化合物(C)を必須成分として含有する表面処理組成物(X)を塗布し、乾燥させることにより形成されるものである。この表面処理皮膜はクロム(但し、不可避不純物としてのクロムを除く)を含まない。
【0018】
この表面処理皮膜は、緻密で且つ下地金属との密着性に優れている。その理由は必ずしも明らかではないが、特定のチタン系水性液に適量の有機リン酸化合物と無機リン酸化合物を複合添加した処理液が、めっき表面に塗布され乾燥する過程で、無機リン酸化合物によりめっき表面がエッチングされ、これにより溶出した金属イオンおよび処理液に含まれる金属イオンとリン酸による複合塩の形成と、酸化チタン系の緻密な皮膜成分の析出により、接着性に優れるとともに、バリアー性が高く、腐食抑制能の良好な皮膜が形成されるためである考えられる。
【0019】
上記チタン含有水性液(A)は、加水分解性チタン化合物、加水分解性チタン化合物の低縮合物、水酸化チタン、水酸化チタンの低縮合物の中から選ばれる少なくとも1種のチタン化合物と過酸化水素水とを混合して得られるチタンを含む水性液である。
上記加水分解性チタン化合物は、チタンに直接結合する加水分解性基を有するチタン化合物であって、水、水蒸気などの水分と反応することにより水酸化チタンを生成するものである。また、加水分解性チタン化合物は、チタンに結合する基の全てが加水分解性基であるものでもよいし、チタンに結合する基の一部が加水分解性基であるものでもよい。
上記加水分解性基としては、上記したように水分と反応することにより水酸化チタンを生成させるものであれば特に制限はないが、例えば、低級アルコキシル基やチタンと塩を形成する基(例えば、塩素などのハロゲン原子、水素原子、硫酸イオンなど)などが挙げられる。
【0020】
加水分解性基として低級アルコキシル基を含有する加水分解性チタン化合物としては、特に、一般式Ti(OR)(式中、Rは同一若しくは異なる炭素数1〜5のアルキル基を示す)で示されるテトラアルコキシチタンが好ましい。炭素数1〜5のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基などが挙げられる。
加水分解性基として、チタンと塩を形成する基を有する加水分解性チタン化合物としては、塩化チタン、硫酸チタンなどが代表的なものとして挙げられる。
【0021】
また、加水分解性チタン化合物の低縮合物は、上記した加水分解性チタン化合物どうしの低縮合物である。この低縮合物は、チタンに結合する基の全てが加水分解性基であるものでもよいし、チタンに結合する基の一部が加水分解性であるものでもよい。
加水分解性基がチタンと塩を形成する基である加水分解性チタン化合物(例えば、塩化チタン、硫酸チタンなど)については、その加水分解性チタン化合物の水溶液とアンモニアや苛性ソーダなどのアルカリ溶液との反応により得られるオルトチタン酸(水酸化チタンゲル)も低縮合物として使用できる。
【0022】
加水分解性チタン化合物の低縮合物及び水酸化チタンの低縮合物としては、縮合度が2〜30の化合物が使用可能であり、特に縮合度が2〜10の化合物を使用することが好ましい。縮合度が30を超えると、過酸化水素と混合した際に白色沈殿を生じ、安定なチタン含有水性液が得られない。
以上挙げた加水分解性チタン化合物、加水分解性チタン化合物の低縮合物、水酸化チタン、水酸化チタンの低縮合物は、1種または2種以上を使用できるが、そのなかでも、上述した一般式で示される加水分解性チタン化合物であるテトラアルコキシチタンが特に好ましい。
【0023】
チタン含有水性液(A)としては、上記したチタン化合物と過酸化水素水を混合することにより得られるチタンを含む水性液であれば、従来公知のものを特に制限なしに使用することができる。具体的には、下記のものを挙げることができる。
(i)含水酸化チタンのゲルまたはゾルに過酸化水素水を添加して得られるチタニルイオン過酸化水素錯体またはチタン酸(ペルオキソチタン水和物)水溶液(特開昭63−35419号公報、特開平1−224220号公報参照)。
【0024】
(ii)塩化チタンや硫酸チタンの水溶液と塩基性溶液から製造した水酸化チタンゲルに過酸化水素水を作用させ、合成することで得られるチタニア膜形成用液体(特開平9−71418号公報、特開平10−67516号公報参照)。
このチタニア膜形成用液体を得る場合、チタンと塩を形成する基を有する塩化チタンや硫酸チタンの水溶液とアンモニアや苛性ソーダなどのアルカリ溶液とを反応させることによりオルトチタン酸と呼ばれる水酸化チタンゲルを沈殿させる。次いで、水を用いたデカンテーションによって水酸化チタンゲルを分離し、良く水洗し、さらに過酸化水素水を加え、余分な過酸化水素を分解除去することにより、黄色透明粘性液体を得ることができる。
【0025】
沈殿した上記オルトチタン酸は、OHどうしの重合や水素結合によって高分子化したゲル状態にあり、そのままではチタンを含む水性液としては使用できない。このゲルに過酸化水素水を添加するとOHの一部が過酸化状態になり、ペルオキソチタン酸イオンとして溶解或いは高分子鎖が低分子に分断された一種のゾル状態になり、余分な過酸化水素は水と酸素になって分解し、無機膜形成用のチタンを含む水性液として使用できるようになる。
このゾルはチタン原子以外に酸素原子と水素原子しか含まないので、乾燥や焼成によって酸化チタンに変化する場合、水と酸素しか発生しないため、ゾルゲル法や硫酸塩などの熱分解に必要な炭素成分やハロゲン成分の除去が必要でなく、低温でも比較的密度の高い酸化チタン膜を形成することができる。
【0026】
(iii)塩化チタンや硫酸チタンの無機チタン化合物水溶液に過酸化水素を加えてぺルオキソチタン水和物を生成させた後に、塩基性物質を添加して得られた溶液を放置または加熱することによってペルオキソチタン水和物重合体の沈殿物を生成させ、次いで、少なくともチタン含有原料溶液に由来する水以外の溶解成分を除去した後に過酸化水素を作用させて得られるチタン酸化物形成用溶液(特開2000−247638号公報、特開2000−247639号公報参照)。
【0027】
チタン化合物として加水分解性チタン化合物および/またはその低縮合物(以下、説明の便宜上「加水分解性チタン化合物a」という)を用いるチタン含有水性液(A)は、加水分解性チタン化合物aを過酸化水素水と反応温度1〜70℃で10分間〜20時間程度反応させることにより得ることができる。
この加水分解性チタン化合物aを用いたチタン含有水性液(A)は、加水分解性チタン化合物aと過酸化水素水とを反応させることにより、加水分解性チタン化合物aが水で加水分解されて水酸基含有チタン化合物を生成し、次いで、この水酸基含有チタン化合物に過酸化水素が配位するものと考えられ、この加水分解反応及び過酸化水素による配位が同時近くに起こることにより得られたものであり、室温域での安定性が極めて高く、長期の保存に耐えるキレート液を生成する。従来の製法で用いられる水酸化チタンゲルは、Ti−O−Ti結合により部分的に三次元化しており、このゲルと過酸化水素水を反応させたチタン含有水性液(A)とは組成及び安定性が本質的に異なる。
【0028】
また、加水分解性チタン化合物aを用いたチタン含有水性液(A)を80℃以上で加熱処理またはオートクレーブ処理すると、結晶化した酸化チタンの超微粒子を含む酸化チタン分散液が得られる。前記加熱処理またはオートクレーブ処理が80℃未満では、酸化チタンの結晶化が十分に進まない。このようにして製造された酸化チタン分散液は、酸化チタン超微粒子の平均粒子径が10nm以下、好ましくは1〜6nm程度が望ましい。酸化チタン超微粒子の平均粒子径が10nmより大きくなると造膜性が低下する(塗布後乾燥して皮膜とした場合、膜厚1μm以上でワレを生じる)ので好ましくない。この酸化チタン分散液の外観は半透明状のものである。このような酸化チタン分散液も、チタン含有水性液(A)として使用することができる。
【0029】
加水分解性チタン化合物aを用いたチタン含有水性液(A)を含む表面処理組成物(X)を、めっき鋼板表面に塗布・乾燥(例えば、低温で加熱乾燥)することにより、それ自体で付着性に優れた緻密な酸化チタン含有皮膜(表面処理皮膜)を形成することができる。
表面処理組成物(X)を塗布した後の加熱温度としては、例えば200℃以下、特に150℃以下が好ましく、このような温度で加熱乾燥することにより、水酸基を若干含む非晶質(アモルファス)の酸化チタン含有皮膜が形成できる。
また、上記したような80℃以上の加熱処理またはオートクレーブ処理を経て得られた酸化チタン分散液をチタン含有水性液(A)として用いた場合、表面処理組成物(X)を塗布するだけで結晶性の酸化チタン含有皮膜が形成できるため、加熱処理できない材料のコーティング材として有用である。
【0030】
また、チタン含有水性液(A)としては、酸化チタンゾルの存在下で、加水分解性チタン化合物aと過酸化水素水とを反応させて得られるチタン含有水性液(A1)を使用することもできる。
上記酸化チタンゾルは、無定型チタニア微粒子または/およびアナタース型チタニア微粒子が水(必要に応じて、例えばアルコール系、アルコールエーテル系などの水性有機溶剤を添加してもよい)に分散したゾルである。この酸化チタンゾルとしては、従来公知のものを使用することができ、例えば、(i)硫酸チタンや硫酸チタニルなどの含チタン溶液を加水分解して得られる酸化チタン凝集物、(ii)チタンアルコキシドなどの有機チタン化合物を加水分解して得られる酸化チタン凝集物、(iii)四塩化チタンなどのハロゲン化チタン溶液を加水分解または中和して得られる酸化チタン凝集物、などの酸化チタン凝集物を水に分散した無定型チタニアゾル、或いは前記酸化チタン凝集物を焼成してアナタース型チタン微粒子とし、このものを水に分散したゾルを使用することができる。
【0031】
上記無定形チタニアの焼成では、少なくともアナタースの結晶化温度以上の温度、例えば、400℃〜500℃以上の温度で焼成すれば、無定形チタニアをアナタース型チタニアに変換させることができる。この酸化チタンの水性ゾルとしては、例えば、TKS−201(商品名,テイカ社製,アナタース型結晶形,平均粒子径6nm)、TA−15(商品名,日産化学社製,アナタース型結晶形)、STS−11(商品名,石原産業社製,アナタース型結晶形)などが挙げられる。
チタン含有水性液(A1)において、上記酸化チタンゾルxとチタン過酸化水素反応物y(加水分解性チタン化合物aと過酸化水素水との反応生成物)との質量比率x/yは、1/99〜99/1、好ましくは約10/90〜90/10の範囲が適当である。質量比率x/yが1/99未満では、安定性、光反応性などの点において酸化チタンゾルを添加した効果が十分に得られず、一方、99/1を超えると造膜性が劣るので好ましくない。
【0032】
チタン含有水性液(A1)は、酸化チタンゾルの存在下で加水分解性チタン化合物aを過酸化水素水と反応温度1〜70℃で10分間〜20時間程度反応させることにより得ることができる。
チタン含有水性液(A1)の生成形態やその特性は、さきに述べた加水分解性チタン化合物aを用いたチタン含有水性液(A)と同様であるが、特に、酸化チタンゾルを使用することにより、合成時に一部縮合反応が起きて増粘するのが抑えられる。その理由は、縮合反応物が酸化チタンゾルの表面に吸着され、溶液状態での高分子化が抑えられるためであると考えられる。
【0033】
また、チタン含有水性液(A1)を80℃以上で加熱処理またはオートクレーブ処理すると、結晶化した酸化チタンの超微粒子を含む酸化チタン分散液が得られる。この酸化チタン分散液を得るための温度条件、結晶化した酸化チタン超微粒子の粒子径、分散液の外観なども、さきに述べた加水分解性チタン化合物aを用いたチタン含有水性液(A)と同様である。このような酸化チタン分散液も、チタン含有水性液(A1)として使用することができる。
【0034】
さきに述べた加水分解性チタン化合物aを用いたチタン含有水性液(A)と同様、チタン含有水性液(A1)を含む表面処理組成物(X)を、めっき鋼板表面に塗布・乾燥(例えば、低温で加熱乾燥)することにより、それ自体で付着性に優れた緻密な酸化チタン含有皮膜(表面処理皮膜)を形成することができる。
表面処理組成物(X)を塗布した後の加熱温度としては、例えば200℃以下、特に150℃以下が好ましく、このような温度で加熱乾燥することにより、水酸基を若干含むアナタース型の酸化チタン含有皮膜が形成できる。
以上述べたように、チタン含有水性液(A)の中でも、加水分解性チタン化合物aを用いたチタン含有水性液(A)やチタン含有水性液(A1)は、貯蔵安定性、耐食性などに優れた性能を有するので、本発明ではこれらを使用することが特に好ましい。
【0035】
加水分解性チタン化合物、加水分解性チタン化合物の低縮合物、水酸化チタン、水酸化チタンの低縮合物の中から選ばれる少なくとも1種のチタン化合物に対する過酸化水素水の配合割合は、チタン化合物10質量部に対して過酸化水素換算で0.1〜100質量部、望ましく1〜20質量部とすることが好ましい。過酸化水素水の配合割合が過酸化水素換算で0.1質量部未満では、キレート形成が十分でないため白濁沈殿が生じてしまう。一方、100質量部を超えると未反応の過酸化水素が残存し易く、貯蔵中に危険な活性酸素を放出するので好ましくない。
【0036】
過酸化水素水の過酸化水素濃度は特に限定されないが、3〜30質量%程度であることが、取り扱いやすさ、塗装作業性に関係する生成液の固形分の点で好ましい。
チタン含有水性液(A)には、必要に応じて、他のゾルや顔料を添加分散させることもできる。例えば、添加物としては、市販の酸化チタンゾルや酸化チタン粉末、マイカ、タルク、シリカ、バリタ、クレーなどが挙げられ、これらの1種以上を添加することができる。
表面処理組成物(X)中でのチタン含有水性液(A)の含有量は、固形分で1〜100g/L、好ましくは5〜50g/Lとすることが、処理液の安定性などの点から好ましい。
【0037】
上記有機リン酸化合物(B)としては、例えば、1−ヒドロキシメタン−1,1−ジホスホン酸、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸、1−ヒドロキシプロパン−1,1−ジホスホン酸などのヒドロキシル基含有有機亜リン酸;2−ヒドロキシホスホノ酢酸、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸などのカルボキシル基含有有機亜リン酸、及びこれらの塩などが好適なものとして挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0038】
有機リン酸化合物(B)は、チタン含有水性液(A)の貯蔵安定性を向上させる効果が大きいが、なかでも、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸はその効果が特に大きいことから、これを使用するのが特に好ましい。
有機リン酸化合物(B)の配合量は、チタン含有水性液(A)の固形分100質量部に対して固形分の割合で1〜400質量部、特に20〜300質量部とすることが、耐水付着性などの点から好ましい。有機リン酸化合物(B)の配合量が、チタン含有水性液(A)の固形分100質量部に対して1質量部未満では耐食性が劣り、一方、400質量部を超えると造膜性が低下し、耐水付着性や耐食性などが劣るため好ましくない。
【0039】
上記無機リン酸化合物(C)は、めっき皮膜表面をエッチング(反応)することで密着性を向上させるものであり、さらに溶出した金属イオンとリン酸やチタン化合物等との複合化した皮膜を形成することで、緻密なバリアー皮膜を形成するものである。
無機リン酸化合物(C)としては、例えば、亜リン酸、強リン酸、三リン酸、次亜リン酸、次リン酸、トリメタリン酸、二亜リン酸、二リン酸、ピロ亜リン酸、ピロリン酸、メタ亜リン酸、メタリン酸、オルトリン酸などのモノリン酸類、モノリン酸の誘導体および塩類、トリポリリン酸、テトラリン酸、ヘキサリン酸などの縮合リン酸類、縮合リン酸類の誘導体および塩類等を挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。また、これらなかでも、めっきとの反応性の点からは、リン酸類の誘導体および塩類よりもリン酸類の方がより好ましい。無機リン酸化合物としては、水に溶解性のあるものを使用することが好ましい。特に、オルトリン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸、テトラリン酸、メタリン酸、ヘキサメタリン酸などが、処理液の貯蔵安定性、耐食性および接着性の点から好ましい。
【0040】
無機リン酸化合物(C)の配合量は、チタン含有水性液(A)の固形分100質量部に対して固形分の割合で50〜150質量部、特に70〜120質量部であることが、接着接合性の点から好ましい。無機リン酸化合物(C)の配合量が、チタン含有水性液(A)の固形分100質量部に対して50質量部未満では接着接合性が劣り、一方、150質量部を超えると造膜性が低下し、接着性が劣るとともに、耐水付着性や耐食性などが劣るため好ましくない。
【0041】
表面処理組成物(X)は、さらに水溶性有機樹脂または/および水分散性有機樹脂(F)を含有することができ、これにより塗装性が向上する。
この水溶性有機樹脂または/および水分散性有機樹脂(F)は、水に溶解または分散することのできる有機樹脂であり、有機樹脂を水に水溶化または分散化させる方法としては、従来公知の方法を適用することができる。具体的には、有機樹脂として、単独で水溶化や水分散化できる官能基(例えば、水酸基、ポリオキシアルキレン基、カルボキシル基、アミノ(イミノ)基、スルフィド基、ホスフィン基など)を含有するもの、および必要に応じてそれらの官能基の一部または全部を、酸性樹脂(カルボキシル基含有樹脂など)であればエタノールアミン、トリエチルアミンなどのアミン化合物;アンモニア水;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物で中和したもの、また、塩基性樹脂(アミノ基含有樹脂など)であれば、酢酸、乳酸などの脂肪酸;リン酸などの鉱酸で中和したものなどを使用することができる。
【0042】
水溶性または水分散性有機樹脂としては、例えば、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、オレフィン−カルボン酸系樹脂、ナイロン系樹脂、ポリオキシアルキレン鎖を有する樹脂、ポリビニルアルコール、ポリグリセリン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどが挙げられる。上記有機樹脂は1種または2種以上を用いることができる。
これらのなかでも特に、水溶性または水分散性のアクリル系樹脂、ウレタン系樹脂およびエポキシ系樹脂の中から選ばれる少なくとも1種の有機樹脂を用いることが表面処理組成物(X)の貯蔵安定性の面から好ましく、また特に、水溶性または水分散性のアクリル系樹脂を主成分として用いることが、表面処理組成物(X)の貯蔵安定性と塗膜性能とのバランスの面から好ましい。
【0043】
水溶性または水分散性アクリル樹脂は、従来公知の方法、例えば、乳化重合法、懸濁重合法、親水性の基を有する重合体を溶液重合により合成し、必要に応じて中和、水性化する方法などにより得ることができる。
前記親水性の基を有する重合体は、例えば、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、ポリオキシアルキレン基などの親水性の基を有する不飽和単量体、必要に応じて、さらにその他の不飽和単量体を重合させることにより得ることができる。
水溶性または水分散性アクリル樹脂は、耐食性などの点からスチレンを共重合してなるものが好ましく、全不飽和単量体中のスチレンの量は10〜60質量%、特に15〜50質量%であることが好ましい。また、共重合して得られるアクリル樹脂のTg(ガラス転移点)は30〜80℃、特に40〜70℃であることが、得られる皮膜の強靭性などの点から好ましい。
【0044】
上記カルボキシル基含有不飽和単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、クロトン酸、イタコン酸などが挙げられる。
上記アミノ基含有不飽和単量体などのような含窒素不飽和単量体としては、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−t−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどの含窒素アルキル(メタ)アクリレート;アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミドなどの重合性アミド類;2−ビニルピリジン、1−ビニル−2−ピロリドン、4−ビニルピリジンなどの芳香族含窒素モノマー;アリルアミンなどが挙げられる。
【0045】
上記水酸基含有不飽和単量体としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,3−ジヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどの多価アルコールとアクリル酸またはメタクリル酸とのモノエステル化物;上記多価アルコールとアクリル酸またはメタクリル酸とのモノエステル化物にε−カプロラクトンを開環重合した化合物などが挙げられる。
【0046】
その他の不飽和単量体としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレートなどの炭素数1〜24のアルキル(メタ)アクリレート;酢酸ビニルなどが挙げられる。
以上挙げた不飽和単量体は、1種または2種以上を用いることができる。なお、本願の記載において、「(メタ)アクリレート」とは「アクリレートまたはメタアクリレート」を意味する。
【0047】
上記ウレタン系樹脂としては、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオールなどのポリオールとジイソシアネートからなるポリウレタンを必要に応じてジオール、ジアミンなどのような2個以上の活性水素を持つ低分子量化合物である鎖伸長剤の存在下で鎖伸長し、水中に安定に分散または溶解させたものを好適に使用でき、従来公知のものを広く使用できる(例えば、特公昭42−24192号公報、特公昭42−24194号公報、特公昭42−5118号公報、特公昭49−986号公報、特公昭49−33104号公報、特公昭50−15027号公報、特公昭53−29175号公報参照)。
【0048】
ポリウレタン樹脂を水中に安定に分散または溶解させる方法としては、例えば下記の方法が利用できる。
(1)ポリウレタンポリマーの側鎖または末端に水酸基、アミノ基、カルボキシル基などのイオン性基を導入することにより親水性を付与し、自己乳化により水中に分散または溶解する方法。
(2)反応の完結したポリウレタンポリマーまたは末端イソシアネート基をオキシム、アルコール、フェノール、メルカプタン、アミン、重亜硫酸ソーダなどのブロック剤でブロックしたポリウレタンポリマーを乳化剤と機械的剪断力を用いて強制的に水中に分散する方法。さらに、末端イソシアネート基を持つウレタンポリマーを水、乳化剤および鎖伸長剤と混合し、機械的剪断力を用いて分散化と高分子量化を同時に行う方法。
(3)ポリウレタン主原料のポリオールとしてポリエチレングリコールのごとき水溶性ポリオールを使用し、水に可溶なポリウレタンとして水中に分散または溶解する方法。
なお、ポリウレタン系樹脂は、上述した分散または溶解方法のうち異なる方法で得られたものを混合して用いることもできる。
【0049】
上記ポリウレタン系樹脂の合成に使用できるジイソシアネートとしては、芳香族、脂環族または脂肪族のジイソシアネートが挙げられ、具体的には、ヘキサメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、3,3′−ジメトキシ−4,4′−ビフェニレンジイソシアネート、p−キシリレンジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネート、1,3−(ジイソシアナトメチル)シクロヘキサノン、1,4−(ジイソシアナトメチル)シクロヘキサノン、4,4′−ジイソシアナトシクロヘキサノン、4,4′−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、イソホロンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、2,4−ナフタレンジイソシアネート、3,3′−ジメチル−4,4′−ビフェニレンジイソシアネート、4,4′−ビフェニレンジイソシアネートなどが挙げられる。これらなかでも、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートが特に好ましい。
ポリウレタン系樹脂の市販品としては、ハイドランHW−330、同HW−340、同HW−350(いずれも商品名,大日本インキ化学工業社製)、スーパーフレックス100、同150、同E−2500、同F−3438D(いずれも商品名,第一工業製薬社製)などを挙げることができる。
【0050】
上記エポキシ系樹脂としては、エポキシ樹脂にアミンを付加してなるカチオン系エポキシ樹脂;アクリル変性、ウレタン変性などの変性エポキシ樹脂などが好適に使用できる。カチオン系エポキシ樹脂としては、例えば、エポキシ化合物と、1級モノ−またはポリアミン、2級モノ−またはポリアミン、1,2級混合ポリアミンなどとの付加物(例えば、米国特許第3984299号明細書参照);エポキシ化合物とケチミン化された1級アミノ基を有する2級モノ−またはポリアミンとの付加物(例えば、米国特許第4017438号明細書参照);エポキシ化合物とケチミン化された1級アミノ基を有するヒドロキシル化合物とのエーテル化反応生成物(例えば、特開昭59−43013号公報参照)などが挙げられる。
【0051】
上記エポキシ系樹脂としては、数平均分子量が400〜4000、特に800〜2000、エポキシ当量が190〜2000、特に400〜1000であるものが好ましい。そのようなエポキシ系樹脂は、例えば、ポリフェノール化合物とエピクロルヒドリンとの反応によって得ることができ、ポリフェノール化合物としては、例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2,2−プロパン、4,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−エタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−イソブタン、ビス(4−ヒドロキシ−tert−ブチルフェニル)−2,2−プロパン、ビス(2−ヒドロキシナフチル)メタン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、ビス(2,4−ジヒドロキシフェニル)メタン、テトラ(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,2,2−エタン、4,4−ジヒドロキシジフェニルスルホン、フェノールノボラック、クレゾールノボラックなどが挙げられる。
水溶性有機樹脂または/および水分散性有機樹脂(F)の配合量は、チタン含有水性液(A)の固形分100質量部に対して固形分の割合で2000質量部以下、特に5〜1500質量部とすることが、アルカリ脱脂後の耐食性などの点から好ましい。水溶性有機樹脂または/および水分散性有機樹脂(F)の配合量が、チタン含有水性液(A)の固形分100質量部に対して2000質量部を超えると、アルカリ脱脂した後の耐食性が劣るため好ましくない。
【0052】
表面処理組成物(X)には、さらに必要に応じて、シランカップリング剤を添加することができる。シランカップリング剤としては、例えば、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−β(N−ビニルベンジルアミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン−塩酸塩、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトピロプルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ビニリトリアセトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、γ−アニリノプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、オクタデシルジメチル[3−(トリメトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロライド、トリメチルクロロシランなどが挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
シランカップリング剤の配合量は、チタン含有水性液(A)の固形分100質量部に対して1〜400質量部、特に10〜400質量部であることが、皮膜をアルカリ脱脂した後の耐食性などの点から好ましい。
【0053】
表面処理組成物(X)には、さらに必要に応じて、有機微粒子および/または無機微粒子を添加することができる。このような微粒子を添加することにより塗膜の透明性が下がり、薄膜において発生しやすいニジムラ(干渉色)を抑えることができ、外観を重視する用途に特に適したものとなる。上記微粒子は、平均粒子径が3〜1000nm、特に3〜500nmのものが、粒子の沈降安定性および耐食性の点から好ましい。
上記有機微粒子としては、例えば、アクリル、ポリウレタン、ナイロン、ポリエチレングリコールなどの樹脂微粒子が挙げられる。また、無機微粒子としては、例えば、シリカ、二酸化チタン、硫酸バリウム、炭酸カルシウムなどを挙げることができる。コストなどの点から、シリカ、二酸化チタン、硫酸バリウムなどが特に好ましい。
有機微粒子および/または無機微粒子の配合量は、表面処理組成物(X)の固形分中で1〜30質量%、特に1〜20質量%とすることが、耐食性などの点から好ましい。
【0054】
表面処理組成物(X)には、さらに必要に応じて、フッ化水素酸などのエッチング剤、本発明が規定する成分以外の重金属化合物、水性有機高分子化合物、増粘剤、界面活性剤、防錆剤(タンニン酸、フィチン酸、ベンゾトリアゾールなど)、着色顔料、体質顔料、シリカ、防錆顔料などを添加することができる。
また、表面処理組成物(X)は、通常水で希釈して使用されるが、必要に応じて、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール系溶剤、プロピレングリコール系溶剤などの親水性溶剤で希釈してもよい。
表面処理組成物(X)は、中性または酸性領域で安定な液体となるので、特にpH1〜7、特に1〜5の範囲が好ましい。
表面処理組成物(X)により形成される表面処理皮膜の皮膜厚は、経済性と塗膜性能、特に耐食性、付着性および溶接性の観点から0.01〜1.0μm、好ましくは0.05〜0.7μmとする。皮膜厚が0.01μm未満では十分な耐食性が得られず、一方、1.0μmを超えると溶接性が劣り、また、加工後耐食性と電着塗装性も低下する。
【0055】
次に、本発明の表面処理鋼板において、上述した表面処理皮膜の上に形成される上層皮膜について説明する。
この上層皮膜は、数平均分子量が6000〜20000の高分子量エポキシ基含有樹脂(D)を含有する、好ましくはこれを主成分樹脂とする塗料組成物(Y)を塗布し、乾燥することにより形成された皮膜厚が0.3〜2.0μmの皮膜である。この上層皮膜もクロム(但し、不可避不純物としてのクロムを除く)を含まない。このような特定の樹脂皮膜を上記特定の表面処理皮膜(下層皮膜)の上層に形成することにより、両皮膜の複合作用によって特に高度な加工部耐食性が得られる。
【0056】
本発明において、上層皮膜にエポキシ基含有樹脂(D)を用いるのは、反応性、反応の容易さ、防食性などの面が他の樹脂に較べて優れているためである。このエポキシ基含有樹脂(D)としては、例えば、エポキシ樹脂、変性エポキシ樹脂、エポキシ基含有モノマーと共重合したアクリル系共重合体樹脂、エポキシ基を有するポリブタジエン樹脂、エポキシ基を有するポリウレタン樹脂、およびこれらの樹脂の付加物若しくは縮合物などが挙げられ、これらのエポキシ基含有樹脂の1種を単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
また、これらのエポキシ基含有樹脂(D)の中でも、めっき表面との密着性、耐食性の点からエポキシ樹脂、変性エポキシ樹脂が特に好適である。またその中でも、酸素などの腐食因子に対して優れた遮断性を有する熱硬化性のエポキシ樹脂や変性エポキシ樹脂が最適であり、とりわけ高度なスポット溶接性を得るために皮膜の付着量を低レベルにする場合には特に有利である。
【0057】
エポキシ基含有樹脂(D)としては、数平均分子量が6000〜20000、好ましくは7000〜12000の高分子量エポキシ基含有樹脂を用いる。そのなかでもビスフェノール型のエポキシ樹脂が好ましい。一般的に用いられているビスフェノール型エポキシ樹脂は、数平均分子量が5500以下のものであるが、数平均分子量が6000未満では得られる皮膜の加工性が十分でなく、特に自動車用プレス金型にあるしわ押えビードによる厳しい加工を受けた際の皮膜損傷が大きく、加工部耐食性が劣ることになる。一方、数平均分子量が20000を超えるとエポキシ樹脂の製造が極めて困難となり、ゲル化などによって安定した品質のものが得られにくくなる。
上記ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、例えば、エピクロルヒドリンとビスフェノールとを、必要に応じてアルカリ触媒などの触媒の存在下で高分子量まで縮合させてなる樹脂、エピクロルヒドリンとビスフェノールとを、必要に応じてアルカリ触媒などの触媒の存在下で縮合させて低分子量のエポキシ樹脂とし、この低分子量エポキシ樹脂とビスフェノールとを重付加反応させることにより得られる樹脂のいずれであってもよいが、高分子量エポキシ樹脂を安定に得るためには後者の方法が好ましい。
【0058】
上記ビスフェノールとしては、例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン[ビスフェノールF]、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン[ビスフェノールA]、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン[ビスフェノールB]、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−イソブタン、ビス(4−ヒドロキシ−tert−ブチル−フェニル)−2,2−プロパン、p−(4−ヒドロキシフェニル)フェノール、オキシビス(4−ヒドロキシフェニル)、スルホニルビス(4−ヒドロキシフェニル)、4,4′−ジヒドロキシベンゾフェノン、ビス(2−ヒドロキシナフチル)メタンなどを挙げることができるが、なかでも、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン[ビスフェノールF]および2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン[ビスフェノールA]が好ましい。上記ビスフェノール類は、その1種を単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0059】
上記変性エポキシ樹脂としては、例えば、アクリル変性エポキシ樹脂、ポリエステル変性エポキシ樹脂、ウレタン変性エポキシ樹脂などを挙げることができる。また、ポリアルキレングリコール、ポリイソシアネートおよびエポキシ樹脂を反応させてなるポリアルキレングリコール変性エポキシ樹脂、一部または全部の化合物が活性水素を有するヒドラジン誘導体からなる活性水素含有化合物とエポキシ樹脂を反応させた変性エポキシ樹脂(ヒドラジン誘導体変性エポキシ樹脂)なども用いることができる。なかでもヒドラジン誘導体変性エポキシ樹脂は耐食性向上などの点から特に好ましい。
また、変性エポキシ樹脂としては、上記エポキシ樹脂中のエポキシ基または水酸基に各種変性剤を反応させたものでもよく、例えば、乾性油脂肪酸を反応させたエポキシエステル樹脂、アクリル酸またはメタクリル酸などを含有する重合性不飽和モノマー成分で変性したエポキシアクリレート樹脂、イソシアネート化合物を反応させたウレタン変性エポキシ樹脂などを例示できる。
【0060】
上記エポキシ基含有モノマーと共重合したアクリル系共重合体樹脂としては、エポキシ基を有する不飽和モノマーとアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルを必須とする重合性不飽和モノマー成分とを、溶液重合法、エマルション重合法または懸濁重合法などによって合成した樹脂を挙げることができる。
上記重合性不飽和モノマー成分としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−,iso−若しくはtert−ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレートなどのアクリル酸またはメタクリル酸のC1〜24アルキルエステル;アクリル酸、メタクリル酸、スチレン、ビニルトルエン、アクリルアミド、アクリロニトリル、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミドのC1〜4アルキルエーテル化物;N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレートなどを挙げることができる。
また、エポキシ基を有する不飽和モノマーとしては、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレートなど、エポキシ基と重合性不飽和基を持つものであれば特別な制約はない。
【0061】
上記ヒドラジン誘導体変性エポキシ樹脂に代表される、一部または全部の化合物が活性水素を有するヒドラジン誘導体(L)からなる活性水素含有化合物(K)と高分子量エポキシ基含有樹脂とを反応させた変性エポキシ基含有樹脂は、高分子量エポキシ基含有樹脂のエポキシ基に活性水素を有するヒドラジン誘導体(L)が反応することにより、下地との密着性が向上し、耐食性が特に優れた皮膜を形成することができる。
【0062】
高分子量エポキシ基含有樹脂のエポキシ基と反応する活性水素含有化合物(K)としては、例えば以下に示すようなものを例示でき、これらの1種または2種以上を使用できるが、この場合も活性水素含有化合物(K)の少なくとも一部(好ましくは全部)は、活性水素を有するヒドラジン誘導体(L)であることが必要である。すなわち、これらのうち活性水素を有するヒドラジン誘導体(L)を必須成分とし、必要に応じてこのヒドラジン誘導体(L)以外の活性水素含有化合物を用いる。
・活性水素を有するヒドラジン誘導体
・活性水素を有する第1級または第2級のアミン化合物
・アンモニア、カルボン酸などの有機酸
・塩化水素などのハロゲン化水素
・アルコール類、チオール類
・活性水素を有しないヒドラジン誘導体または第3級アミンと酸との混合物である4級塩化剤
【0063】
上記活性水素を有するヒドラジン誘導体(L)としては、例えば、以下のものを挙げることができる。
(1)カルボヒドラジド、プロピオン酸ヒドラジド、サリチル酸ヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、チオカルボヒドラジド、4,4′−オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド、ベンゾフェノンヒドラゾン、アミノポリアクリルアミドなどのヒドラジド化合物;
(2)ピラゾール、3,5−ジメチルピラゾール、3−メチル−5−ピラゾロン、3−アミノ−5−メチルピラゾールなどのピラゾール化合物;
(3)1,2,4−トリアゾール、3−アミノ−1,2,4−トリアゾール、4−アミノ−1,2,4−トリアゾール、3−メルカプト−1,2,4−トリアゾール、5−アミノ−3−メルカプト−1,2,4−トリアゾール、2,3−ジヒドロ−3−オキソ−1,2,4−トリアゾール、1H−ベンゾトリアゾール、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(1水和物)、6−メチル−8−ヒドロキシトリアゾロピリダジン、6−フェニル−8−ヒドロキシトリアゾロピリダジン、5−ヒドロキシ−7−メチル−1,3,8−トリアザインドリジンなどのトリアゾール化合物;
【0064】
(4)5−フェニル−1,2,3,4−テトラゾール、5−メルカプト−1−フェニル−1,2,3,4−テトラゾールなどのテトラゾール化合物;
(5)5−アミノ−2−メルカプト−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールなどのチアジアゾール化合物;
(6)マレイン酸ヒドラジド、6−メチル−3−ピリダゾン、4,5−ジクロロ−3−ピリダゾン、4,5−ジブロモ−3−ピリダゾン、6−メチル−4,5−ジヒドロ−3−ピリダゾンなどのピリダジン化合物;
また、これらのなかでも、5員環または6員環の環状構造を有し、環状構造中に窒素原子を有するピラゾール化合物、トリアゾール化合物が特に好適である。
これらのヒドラジン誘導体は1種を単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0065】
活性水素含有化合物(K)の一部として使用できる上記活性水素を有するアミン化合物の代表例としては、例えば、以下のものを挙げることができる。
(1)ジエチレントリアミン、ヒドロキシエチルアミノエチルアミン、エチルアミノエチルアミン、メチルアミノプロピルアミンなどの1個の2級アミノ基と1個以上の1級アミノ基を含有するアミン化合物の1級アミノ基を、ケトン、アルデヒド若しくはカルボン酸と例えば100〜230℃程度の温度で加熱反応させてアルジミン、ケチミン、オキサゾリン若しくはイミダゾリンに変性した化合物;
(2)ジエチルアミン、ジエタノールアミン、ジ−n−または−iso−プロパノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミンなどの第2級モノアミン;
(3)モノエタノールアミンのようなモノアルカノールアミンとジアルキル(メタ)アクリルアミドとをミカエル付加反応により付加させて得られた第2級アミン含有化合物;
(4)モノエタノールアミン、ネオペンタノールアミン、2−アミノプロパノール、3−アミノプロパノール、2−ヒドロキシ−2′(アミノプロポキシ)エチルエーテルなどのアルカノールアミンの1級アミノ基をケチミンに変性した化合物;
【0066】
活性水素含有化合物(K)の一部として使用できる上記4級塩化剤は、活性水素を有しないヒドラジン誘導体または第3級アミンはそれ自体ではエポキシ基と反応性を有しないので、これらをエポキシ基と反応可能とするために酸との混合物としたものである。4級塩化剤は、必要に応じて水の存在下でエポキシ基と反応し、エポキシ基含有樹脂と4級塩を形成する。
4級塩化剤を得るために使用される酸は、酢酸、乳酸などの有機酸、塩酸などの無機酸のいずれでもよい。また、4級塩化剤を得るために使用される活性水素を有しないヒドラジン誘導体としては、例えば3,6−ジクロロピリダジンなどを、また、第3級アミンとしては、例えば、ジメチルエタノールアミン、トリエチルアミン、トリメチルアミン、トリイソプロピルアミン、メチルジエタノールアミンなどを挙げることができる。
【0067】
高分子量エポキシ基含有樹脂と一部または全部の化合物が活性水素を有するヒドラジン誘導体(L)からなる活性水素含有化合物(K)との反応生成物は、高分子量エポキシ基含有樹脂と活性水素含有化合物(K)とを10〜300℃、好ましくは50〜150℃で約1〜8時間程度反応させて得られる。
この反応は有機溶剤を加えて行ってもよく、使用する有機溶剤の種類は特に限定されない。例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;エタノール、ブタノール、2−エチルヘキシルアルコール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルなどの水酸基を含有するアルコール類やエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテートなどのエステル類;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素などを例示でき、これらの1種または2種以上を使用することができる。また、これらのなかでエポキシ樹脂との溶解性、塗膜形成性などの面からは、ケトン系またはエーテル系の溶剤が特に好ましい。
【0068】
高分子量エポキシ基含有樹脂と一部または全部の化合物が活性水素を有するヒドラジン誘導体(L)からなる活性水素含有化合物(K)との配合比率は、固形分の割合で高分子量エポキシ基含有樹脂100質量部に対して、活性水素含有化合物(K)を0.5〜20質量部、特に好ましくは1.0〜10質量部とするのが望ましい。
また、高分子量エポキシ基含有樹脂と活性水素含有化合物(K)との配合比率は、活性水素含有化合物(K)の活性水素基の数と高分子量エポキシ基含有樹脂のエポキシ基の数との比率[活性水素基数/エポキシ基数]が0.01〜10、より好ましくは0.1〜8、さらに好ましくは0.2〜4とすることが耐食性などの点から適当である。
また、活性水素含有化合物(K)中における活性水素を有するヒドラジン誘導体(L)の割合は10〜100モル%、より好ましくは30〜100モル%、さらに好ましくは40〜100モル%とすることが適当である。活性水素を有するヒドラジン誘導体(L)の割合が10モル%未満では上層皮膜に十分な防錆機能を付与することができず、得られる防錆効果は皮膜形成有機樹脂とヒドラジン誘導体を単に混合して使用した場合と大差なくなる。
【0069】
本発明の上層皮膜用塗料組成物は、高分子量エポキシ基含有樹脂(D)を必須成分として含有するものであるが、この高分子量エポキシ基含有樹脂中の水酸基と反応することができる硬化剤(H)を含有させることにより、塗布後の加熱乾燥時に皮膜が架橋し、より加工性が優れた緻密なバリヤー性を有する皮膜を形成することができる。樹脂組成物皮膜を形成する場合の硬化方法としては、ポリイソシアネート化合物(J)とエポキシ基含有樹脂中の水酸基とのウレタン化反応を利用する硬化方法、アミノ樹脂(I)とエポキシ基含有樹脂中の水酸基との間のエーテル化反応を利用する硬化方法などを好ましいものとして挙げることができる。
【0070】
上記アミノ樹脂(I)としては、メラミン、尿素、ベンゾグアナミン、アセトグアナミン、ステログアナミン、スピログアナミン、ジシアンジアミドなどのアミノ成分とホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンツアルデヒドなどのアルデヒド成分との反応によって得られるメチロール化アミノ樹脂が挙げられる。このメチロール化アミノ樹脂のメチロール基を炭素原子数1〜6の低級アルコールによってエーテル化したものも上記アミノ樹脂に包含される。
【0071】
また、上記アミノ樹脂のなかでも、メチロール化メラミン樹脂のメチロール基の一部又は全部を、メチルアルコールによってエーテル化したメチルエーテル化メラミン樹脂、ブチルアルコールによってブチルエーテル化したブチルエーテル化メラミン樹脂、あるいはメチルアルコールとブチルアルコールの両者によってエーテル化したメチルエーテルとブチルエーテルとの混合エーテル化メラミン樹脂が特に好ましい。また、これらのなかでも、イミノ基を1分子中に平均1個以上、好ましくは1.5個以上含有するメチルエーテル化メラミン樹脂を用いることにより、高分子量エポキシ基含有樹脂(D)との低温反応性が向上し、皮膜の強靭性を大幅に向上させることができる。市販品の具体例としては、例えば、三井サイテック社製のサイメル325、サイメル327、サイメル703(いずれも商品名)などを挙げることができる。
以上のアミノ樹脂は、1種を単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0072】
上記ポリイソシアネート化合物(J)としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートなどのような脂肪族ジイソシアネート類;水素添加キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどのような環状脂肪族ジイソシアネート類;トリレンジイソシアネート、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネートなどのような芳香族ジイソシアネート類;トリフェニルメタン−4,4′,4″−トリイソシアネート、1,3,5−トリイソシアナトベンゼン、2,4,6−トリイソシアナトトルエン、4,4′−ジメチルジフェニルメタン−2,2′,5,5′−テトライソシアネートなどの3個以上のイソシアネ−ト基を有するポリイソシアネート化合物の如き有機ポリイソシアネートそれ自体、またはこれらの各有機ポリイソシアネートと多価アルコール、低分子量ポリエステル樹脂若しくは水等との付加物、或いは上記した各有機ポリイソシアネートどうしの環化重合体、さらには、イソシアヌレート体、ビウレット体などを挙げることができる。
【0073】
さらに、それらのなかでも、1分子中にイソシアネート基を4個以上、特に好ましくは6個〜10個有するポリイソシアネート化合物は、反応温度を低下させた場合にも、高分子量エポキシ基含有樹脂(D)との密な架橋により強靭な皮膜を形成することができ、厳しい加工を行った際の加工部耐食性を特に良好なものとすることができる。このようなポリイソシアネート化合物としては、4,4′−ジメチルジフェニルメタン−2,2′,5,5′−テトライソシアネートのアダクト化物、ヘキサメチレンジイソシアネートのアダクト化物などが挙げられる。
【0074】
上記ポリイソシアネート化合物(J)は、ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基の一部または全部をブロック化剤でブロックしたものでもよく、このブロック化剤としては、フェノール、クレゾール、キシレノールなどのフェノール系;ε−カプロラクタム、δ−バレロラクタム、γ−ブチロラクタム、β−プロピオラクタムなどのラクタム系;メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ベンジルアルコールなどのアルコール系;ホルムアミドキシム、アセトアルドキシム、アセトキシム、メチルエチルケトキシム、ジアセチルモノオキシム、ベンゾフェノンオキシム、シクロヘキサンオキシムなどのオキシム系;マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸メチル、アセチルアセトンなどの活性メチレン系、などのブロック化剤を挙げることができる。
1分子中に4個以上のイソシアネート基を含有するポリイソシアネート化合物の市販品の具体例としては、例えば、旭化成社製のMF−B80M、MF−B60X、MF−K60X、ME20−B80S(いずれも商品名)などを挙げることができる。
【0075】
上層皮膜用塗料組成物中の上記硬化剤(H)の含有量としては、高分子量エポキシ基含有樹脂(D)の固形分100質量部に対して1〜50質量部、好ましくは5〜30質量部とすることが、硬化性の観点から適している。
なお、高分子量エポキシ基含有樹脂(D)は以上のような架橋剤(硬化剤)の添加により十分に架橋するが、さらに低温架橋性を増大させるため、公知の硬化促進触媒を使用することが望ましい。この硬化促進触媒としては、例えば、N−エチルモルホリン、ジブチル錫ジラウレート、ナフテン酸コバルト、塩化第1スズ、ナフテン酸亜鉛、硝酸ビスマスなどが使用できる。
また、付着性など若干の物性向上を狙いとして、高分子量エポキシ基含有樹脂(D)とともに公知のアクリル、アルキッド、ポリエステルなどの樹脂を混合して用いることもできる。
【0076】
上層皮膜(塗料組成物(Y))中には、さらに必要に応じて、皮膜の加工性を向上させる目的で固形潤滑剤を配合することができる。
本発明に適用できる固形潤滑剤としては、例えば、以下のようなものが挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
(1)ポリオレフィンワックス、パラフィンワックス:例えば、ポリエチレンワックス、合成パラフィン、天然パラフィン、マイクロワックス、塩素化炭化水素など
(2)フッ素樹脂微粒子:例えば、ポリフルオロエチレン樹脂(ポリ4フッ化エチレン樹脂など)、ポリフッ化ビニル樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂など
【0077】
また、この他にも、脂肪酸アミド系化合物(例えば、ステアリン酸アミド、パルミチン酸アミド、メチレンビスステアロアミド、エチレンビスステアロアミド、オレイン酸アミド、エシル酸アミド、アルキレンビス脂肪酸アミドなど)、金属石けん類(例えば、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸鉛、ラウリン酸カルシウム、パルミチン酸カルシウムなど)、金属硫化物(例えば、二硫化モリブデン、二硫化タングステンなど)、グラファイト、フッ化黒鉛、窒化ホウ素、ポリアルキレングリコール、アルカリ金属硫酸塩などの1種または2種以上を用いてもよい。
以上の固形潤滑剤の中でも、特に、ポリエチレンワックス、フッ素樹脂微粒子(なかでも、ポリテトラフルオロエチレン樹脂微粒子)が好適である。
固形潤滑剤の配合量は、塗料組成物(Y)中の樹脂組成物の固形分100質量部に対して、固形分の割合で1〜30質量部とすることが好ましい。固形潤滑剤の配合量が1質量部未満では潤滑効果が乏しく、一方、配合量が30質量部を超えると塗装性が低下するので好ましくない。
【0078】
また、特に優れた加工性を得るためには、ポリエチレン系潤滑剤(一般にはポリエチレンワックス)とポリテトラフルオロエチレン系潤滑剤(一般にはポリテトラフルオロエチレン樹脂微粒子)を含む複合(固形)潤滑剤(E)を配合することが好ましい。この複合(固形)潤滑剤(E)は、ポリエチレン系潤滑剤(e1)とポリテトラフルオロエチレン系潤滑剤(e2)を(e1)/(e2)=5/5〜1/9の割合(質量比)で含むことが好ましい。このような複合潤滑剤(E)を用いることにより、それぞれの固形潤滑剤を単独で用いた場合に比べて、特に優れた加工性を得ることができる。ここで、(e1)/(e2)の割合(質量比)が5/5〜1/9の範囲から外れると、両潤滑剤を複合化したことに加工性向上効果が十分に得られず,単独添加の場合とあまり変わらなくなる。
【0079】
また、ポリエチレン系潤滑剤(e1)は、融点が100〜130℃であることが好ましい。この融点が100℃未満や130℃超では、両潤滑剤を複合化したことにより得られる加工性が低下する。また、ポリテトラフルオロエチレン系潤滑剤(e2)は、その平均粒子径が1〜7μmであることが好ましい。粒子径が1μm未満では両潤滑剤を複合化したことにより得られる加工性が低下し、一方、7μm超では潤滑剤が有機皮膜層から脱落しやすくなり、加工性が低下するため好ましくない。
ポリエチレン系潤滑剤(e1)としては、例えば、クラリアント社製のセリダスト9615A、同3715、同3620、同3910(いずれも商品名)、三洋化成(株)製のサンワックス131−P、同161−P(いずれも商品名)、三井石油化学(株)製のケミパールW−100、同W−200、同W−500、同W−800、同W−950(いずれも商品名)などを用いることができる。
【0080】
また、ポリテトラフルオロエチレン系潤滑剤(e2)としては、例えば、ダイキン工業(株)製のルブロンL−2、同L−5(いずれも商品名)、三井・デュポン(株)製のMP1100、MP1200(いずれも商品名)、旭硝子(株)製のフルオンL150J、同L155J(いずれも商品名)、Shamrock社製のSST-3(商品名)などが好適である。
複合潤滑剤(E)の配合量は、塗料組成物(Y)中の樹脂組成物の固形分100質量部に対して、固形分の割合で10〜30質量部とすることが好ましい。固形潤滑剤の配合量が10質量部未満では潤滑効果が乏しく、一方、配合量が30質量部を超えると塗装性が低下するので好ましくない。
なお、必要に応じて、複合潤滑剤(E)とともに、上述した他の固形潤滑剤の1種以上を適宜配合してもよい。
【0081】
上層皮膜(塗料組成物(Y))には、耐食性向上を目的として、必要に応じて非クロム系防錆添加剤(G)を含有させることができる。上層皮膜中にこのような非クロム系防錆添加剤を含有させることにより、より優れた防食性能(自己補修性)を得ることができる。
この非クロム系防錆添加剤(G)は、特に下記(g1)〜(g5)の中から選ばれる1つ以上を用いることが好ましい。
(g1)酸化ケイ素
(g2)カルシウム化合物
(g3)リン酸化合物
(g4)モリブデン酸化合物
(g5)トリアゾール類、チオール類、チアジアゾール類、チアゾール類、チウラム類の中から選ばれる1種以上の有機化合物
【0082】
これら(g1)〜(g5)の非クロム系防錆添加剤の詳細及び防食機構は以下の通りである。
まず、上記(g1)の成分としては微粒子シリカであるコロイダルシリカや乾式シリカを使用することができるが、耐食性の観点からは特に、カルシウムをその表面に結合させたカルシウムイオン交換シリカを使用するのが望ましい。
コロイダルシリカとしては、例えば、日産化学(株)製のスノーテックスO、20、30、40、C、S(いずれも商品名)を用いることができ、また、ヒュームドシリカとしては、日本アエロジル(株)製のAEROSIL R971、R812、R811、R974、R202、R805、130、200、300、300CF(いずれも商品名)を用いることができる。また、カルシウムイオン交換シリカとしては、W.R.Grace&Co.製のSHIELDEX C303、SHIELDEX AC3、SHIELDEX AC5(いずれも商品名)、富士シリシア化学(株)製のSHIELDEX、SHIELDEX SY710(いずれも商品名)などを用いることができる。これらシリカは、腐食環境下において緻密で安定な亜鉛の腐食生成物の生成に寄与し、この腐食生成物がめっき表面に緻密に形成されることによって、腐食の促進を抑制する。
【0083】
また、上記(g2)、(g3)の成分は沈殿作用によって特に優れた防食性能(自己補修性)を発現する。
上記(g2)の成分であるカルシウム化合物は、カルシウム酸化物、カルシウム水酸化物、カルシウム塩のいずれでもよく、これらの1種または2種以上を使用できる。また、カルシウム塩の種類にも特に制限はなく、ケイ酸カルシウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウムなどのようなカチオンとしてカルシウムのみを含む単塩のほか、リン酸カルシウム・亜鉛、リン酸カルシウム・マグネシウムなどのようなカルシウムとカルシウム以外のカチオンを含む複塩を使用してもよい。この(g2)の成分は、腐食環境下においてめっき金属である亜鉛やアルミニウムよりも卑なカルシウムが優先溶解し、これがカソード反応により生成したOHと緻密で難溶性の生成物として欠陥部を封鎖し、腐食反応を抑制する。また、上記のようなシリカとともに配合された場合には、表面にカルシウムイオンが吸着し、表面電荷を電気的に中和して凝集する。その結果、緻密で且つ難溶性の保護皮膜が生成して腐食が封鎖し、腐食反応を抑制する。
【0084】
また、上記(g3)であるリン酸化合物としては、リン酸塩を用いることができる。このリン酸塩は単塩、複塩など全ての種類の塩を含む。また、それを構成する金属カチオンに限定はなく、リン酸亜鉛、リン酸マグネシウム、リン酸カルシウム、リン酸アルミニウムなどのいずれの金属カチオンでもよい。また、リン酸イオンの骨格や縮合度などにも限定はなく、正塩、二水素塩、一水素塩または亜リン酸塩のいずれでもよく、さらに、正塩はオルトリン酸塩の他、ポリリン酸塩などの全ての縮合リン酸塩を含む。このリン酸化合物は、腐食によって溶出しためっき金属の亜鉛やアルミニウムが、加水分解により解離したリン酸イオンと錯形成反応により緻密で且つ難溶性の保護皮膜を生成して腐食起点を封鎖し、腐食反応を抑制する。
【0085】
また、上記(g4)のモリブデン酸化合物としては、例えば、モリブデン酸塩を用いることができる。このモリブデン酸塩は、その骨格、縮合度に限定はなく、例えばオルトモリブデン酸塩、パラモリブデン酸塩、メタモリブデン酸塩などが挙げられる。また、単塩、複塩などの全ての塩を含み、複塩としてはリンモリブデン酸塩などが挙げられる。モリブデン酸化合物は不動態化効果によって自己補修性を発現する。すなわち、腐食環境下で溶存酸素と共にめっき皮膜表面に緻密な酸化物を形成することで腐食起点を封鎖し、腐食反応を抑制する。
【0086】
また、上記(g5)の有機化合物としては、例えば、以下のようなものを挙げることができる。すなわち、トリアゾール類としては、1,2,4−トリアゾール、3−アミノ−1,2,4−トリアゾール、3−メルカプト−1,2,4−トリアゾール、5−アミノ−3−メルカプト−1,2,4−トリアゾール、1H−ベンゾトリアゾールなどが、またチオール類としては、1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリチオール、2−メルカプトベンツイミダゾールなどが、またチアジアゾール類としては、5−アミノ−2−メルカプト−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールなどが、またチアゾール類としては、2−N,N−ジエチルチオベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール類などが、またチウラム類としては、テトラエチルチウラムジスルフィドなどが、それぞれ挙げられる。これらの有機化合物は吸着効果によって自己補修性を発現する。すなわち、腐食によって溶出した亜鉛やアルミニウムがこれらの有機化合物が有する硫黄を含む極性基に吸着して不活性皮膜を形成することで腐食起点を封鎖し、腐食反応を抑制する。
【0087】
非クロム系防錆添加剤(G)の配合量は、塗料組成物(Y)中の樹脂組成物の固形分100質量部に対して、固形分の割合で0.1〜50質量部、好ましくは0.5〜30質量部とするのが適当である。この非クロム系防錆添加剤(G)の配合量が0.1質量部未満では、アルカリ脱脂後の耐食性向上効果が十分に得られず、一方、50質量部を超えると塗装性、加工性および溶接性が低下するだけでなく、耐食性も低下する傾向がある。
なお、上記(g1)〜(g5)の防錆添加剤を2種以上複合添加してもよく、この場合にはそれぞれ固有の防食作用が複合化されるため、より高度の耐食性が得られる。特に、上記(g1)の成分としてカルシウムイオン交換シリカを用い、且つこれに(g3)、(g4)、(g5)の成分の1種以上、特に好ましくは(g3)〜(g5)の成分の全部を複合添加した場合に特に優れた耐食性が得られる。
【0088】
また、上層皮膜(塗料組成物(Y))中には、腐食抑制剤として、他の酸化物微粒子(例えば、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化セリウム、酸化アンチモンなど)、リンモリブデン酸塩(例えば、リンモリブデン酸アルミニウムなど)、有機インヒビター(例えば、ヒドラジンおよびその誘導体、チオール化合物、チオカルバミン酸塩など)などの1種または2種以上を添加できる。
上層皮膜(塗料組成物(Y))には、さらに必要に応じて、添加剤として、有機着色顔料(例えば、縮合多環系有機顔料、フタロシアニン系有機顔料など)、着色染料(例えば、有機溶剤可溶性アゾ系染料、水溶性アゾ系金属染料など)、無機顔料(例えば、酸化チタンなど)、キレート剤(例えば、チオールなど)、導電性顔料(例えば、亜鉛、アルミニウム、ニッケルなどの金属粉末、リン化鉄、アンチモンドープ型酸化錫など)、カップリング剤(例えば、シランカップリング剤、チタンカップリング剤など)、メラミン・シアヌル酸付加物などの1種または2種以上を添加することができる。
【0089】
また、上記主成分および添加成分を含む皮膜形成用の塗料組成物は、通常、溶媒(有機溶剤および/または水)を含有し、さらに必要に応じて中和剤などが添加される。
上記有機溶剤としては、上記高分子量エポキシ基含有樹脂(D)を溶解または分散でき、塗料組成物として調整できるものであれば特別な制約はない。
上記中和剤は、高分子量エポキシ基含有樹脂(D)を中和して水性化するために必要に応じて配合されるものであり、高分子量エポキシ基含有樹脂(D)がカチオン性樹脂である場合には酢酸、乳酸、蟻酸などの酸を中和剤として使用することができる。
上層皮膜の乾燥膜厚は0.3〜2.0μm、好ましくは0.4〜1.5μmとする。上層皮膜の膜厚が0.3μm未満では耐食性が不十分であり、一方、膜厚が2.0μmを超えると溶接性や電着塗装性が低下する。
また、溶接性や電着塗装性の観点からは、第一層の表面処理皮膜と第二層の上層皮膜の合計膜厚は2.0μm以下であることが好ましい。
【0090】
以上のような本発明の表面処理鋼板を製造するには、亜鉛系めっき鋼板またはアルミニウム系めっき鋼板の表面に、上述したような成分が配合された表面処理組成物(X)(処理液)を塗布して乾燥させ、次いで、上述したような成分が配合された上層皮膜形成用の塗料組成物(Y)を塗布し、乾燥させる。
表面処理組成物(X)をめっき鋼板表面にコーティングする方法としては、塗布法、浸漬法、スプレー法などの任意の方法を採用できる。塗布法としては、ロールコーター(3ロール方式、2ロール方式など)、スクイズコーター、ダイコーターなどのいずれの方法を用いてもよい。また、スクイズコーターなどによる塗布処理、浸漬処理またはスプレー処理の後に、エアナイフ法やロール絞り法により塗布量の調整、外観の均一化、膜厚の均一化を行うことも可能である。
【0091】
表面処理組成物(X)をコーティングした後は、通常は水洗することなく加熱乾燥を行う。加熱乾燥処理には、ドライヤー、熱風炉、高周波誘導加熱炉、赤外線炉などを用いることができる。加熱乾燥は、到達板温で30〜200℃、好ましくは40℃〜140℃の範囲で行うことが望ましい。加熱乾燥温度が30℃未満では皮膜中の水分が多量に残り、耐食性が不十分となる。また、加熱乾燥温度が200℃を超えると非経済的であるばかりでなく、皮膜に欠陥が生じて耐食性が低下するおそれがある。
塗料組成物(Y)を形成する方法としても、塗布法、浸漬法、スプレー法などの任意の方法を採用できる。塗布法としては、ロールコーター(3ロール方式、2ロール方式など)、スクイズコーター、ダイコーターなどいずれの方法を用いてもよい。また、スクイズコーターなどによる塗布処理、浸漬処理またはスプレー処理の後に、エアナイフ法やロール絞り法により塗布量の調整、外観の均一化、膜厚の均一化を行うことも可能である。
【0092】
塗料組成物(Y)をコーティングした後は、通常は水洗することなく加熱乾燥を行うが、塗料組成物(Y)の塗布後に水洗を行ってもよい。加熱乾燥手段としては、ドライヤー、熱風炉、高周波誘導加熱炉、赤外線炉などを用いることができるが、耐食性の観点からは高周波誘導加熱炉が特に好ましい。加熱処理は、到達板温で50〜350℃、好ましくは80℃〜250℃の範囲で行うことが望ましい。加熱温度が50℃未満では皮膜中に溶媒が多量に残り、耐食性が不十分となる。また、加熱温度が350℃を超えると非経済的であるばかりでなく、皮膜に欠陥が生じて耐食性が低下するおそれがある。
【0093】
本発明は、以上述べたような皮膜を両面または片面に有する表面処理鋼板を含むものである。したがって、本発明の表面処理鋼板の形態としては、例えば、以下のようなものがある。
(1)片面:めっき皮膜−表面処理皮膜−上層皮膜、片面:めっき皮膜
(2)片面:めっき皮膜−表面処理皮膜−上層皮膜、片面:めっき皮膜−公知のリン酸塩処理皮膜など
(3)両面:めっき皮膜−表面処理皮膜−上層皮膜
(4)片面:めっき皮膜−表面処理皮膜−上層皮膜、片面:めっき皮膜−表面処理皮膜(本発明の表面処理皮膜に相当する皮膜)
(5)片面:めっき皮膜−表面処理皮膜−上層皮膜、片面:めっき皮膜−有機皮膜(本発明の上層皮膜に相当する皮膜)
【実施例】
【0094】
<実施例1>
[第一層(表面処理皮膜)用の表面処理組成物]
表面処理組成物に用いたチタン含有水性液A1〜A7、有機リン酸化合物B1〜B6、無機リン酸化合物C1〜C5、水性有機樹脂F1〜F7(水溶性または水分散性有機樹脂)を以下に示す。これらの成分を表2および表3に示す割合で配合し、表面処理組成物P1〜P42を得た。
【0095】
(1)チタン含有水性液A1〜A7の製造
・製造例1
四塩化チタン60%溶液5ccを蒸留水で500ccとした溶液にアンモニア水(1:9)を滴下し、水酸化チタンを沈殿させた。蒸留水で洗浄後、過酸化水素水30%溶液を10cc加えてかき混ぜ、チタンを含む黄色半透明の粘性のあるチタン含有水性液A1を得た。
・製造例2
テトラiso−プロポキシチタン10質量部とiso−プロパノール10質量部の混合物を30%過酸化水素水10質量部と脱イオン水100質量部の混合物中に20℃で1時間かけて撹拌しながら滴下した。その後25℃で2時間熟成し、黄色透明の少し粘性のあるチタン含有水性液A2を得た。
【0096】
・製造例3
製造例2で使用したテトラiso−プロポキシチタンの代わりにテトラn−ブトキシチタンを使用した以外は製造例2と同様の製造条件で、チタン含有水性液A3を得た。
・製造例4
製造例2で使用したテトラiso−プロポキシチタンの代わりにテトラiso−プロポキシチタンの3量体を使用した以外は製造例2と同様の製造条件で、チタン含有水性液A4を得た。
・製造例5
製造例2に対して過酸化水素水を3倍量用い、50℃で1時間かけて滴下し、さらに60℃で3時間熟成した以外は製造例2と同様の製造条件で、チタン含有水性液A5を得た。
【0097】
・製造例6
製造例3で製造したチタン含有水性液A3を、さらに95℃で6時間加熱処理することにより、白黄色の半透明なチタン含有水性液A6を得た。
・製造例7
テトラiso−プロポキシチタン10質量部とiso−プロパノール10質量部の混合物を、「TKS−203」(商品名,テイカ社製,酸化チタンゾル)5質量部(固形分)、30%過酸化水素水10質量部及び脱イオン水100質量部の混合物中に10℃で1時間かけて撹拌しながら滴下した。その後10℃で24時間熟成し、黄色透明の少し粘性のあるチタン含有水性液A7を得た。
【0098】
(2)有機リン酸化合物B1〜B6
B1:1−ヒドロキシメタン−1,1−ジホスホン酸
B2:1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸
B3:1−ヒドロキシプロパン−1,1−ジホスホン酸
B4:2−ヒドロキシホスホノ酢酸
B5:3−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸
B6:2−ヒドロキシホスホノ酢酸カリウム
(3)無機リン酸化合物C1〜C5
C1:10%オルトリン酸
C2:10%メタリン酸
C3:トリポリリン酸
C4:ピロリン酸ナトリウム
C5:メタリン酸アンモニウム
【0099】
(4-1)水性有機樹脂F1〜F4の合成
・合成例1
窒素封入管、玉入りコンデンサー、滴下ロートおよびメカニカルスターラーを備えたフラスコに、プロピレングリコールモノメチルエーテル200質量部を入れ、90℃まで加熱した後、温度を90℃に保持した状態で、フラスコ内にスチレン10質量部、tert−ブチルアクリレート80質量部、2−ヒドロキシエチルアクリレート10質量部およびアゾビスイソブチロニトリル1質量部の混合物を3時間かけて滴下し、滴下終了後さらに90℃に2時間保持した後、室温まで冷却して水性有機樹脂(アクリル樹脂溶液)F1を得た。得られたアクリル樹脂のTg(ガラス転移点)は33℃である。
・合成例2
窒素封入管、玉入りコンデンサー、滴下ロートおよびメカニカルスターラーを備えたフラスコに、プロピレングリコールモノメチルエーテル200質量部を入れ、90℃まで加熱した後、温度を90℃に保持した状態で、フラスコ内にスチレン25質量部、メチルアクリレート60質量部、アクリルアミド15質量部およびアゾビスイソブチロニトリル1質量部の混合物を3時間かけて滴下し、滴下終了後さらに90℃に2時間保持した後、室温まで冷却して水性有機樹脂(アクリル樹脂溶液)F2を得た。得られたアクリル樹脂のTgは46℃である。
【0100】
・合成例3
窒素封入管、玉入りコンデンサー、滴下ロートおよびメカニカルスターラーを備えたフラスコに、プロピレングリコールモノメチルエーテル200質量部を入れ、90℃まで加熱した後、温度を90℃に保持した状態で、フラスコ内にスチレン55質量部、n−ブチルアクリレート5質量部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート20質量部、N−メチルアクリルアミド20質量部およびアゾビスイソブチロニトリル1質量部の混合物を3時間かけて滴下し、滴下終了後さらに90℃に2時間保持した後、室温まで冷却して水性有機樹脂(アクリル樹脂溶液)F3を得た。得られたアクリル樹脂のTgは78℃である。
・合成例4
窒素封入管、玉入りコンデンサー、滴下ロートおよびメカニカルスターラーを備えたフラスコに、プロピレングリコールモノメチルエーテル200質量部を入れ、90℃まで加熱した後、温度を90℃に保持した状態で、フラスコ内にメチルメタクリレート80質量部、n−ブチルアクリレート10質量部、2−ヒドロキシエチルアクリレート10質量部およびアゾビスイソブチロニトリル1質量部の混合物を3時間かけて滴下し、滴下終了後さらに90℃に2時間保持した後、室温まで冷却して水性有機樹脂(アクリル樹脂溶液)F4を得た。得られたアクリル樹脂のTgは56℃である。
【0101】
(4-2)水性有機樹脂F5〜F7
F5:「スーパーフレックスE−2500」(商品名,第一工業製薬社製,水性ポリウレタン樹脂)
F6:「バイロナールMD−1100」(商品名,東洋紡績社製,水性ポリエステル樹脂)
F7:「アデカレジンEM−0718」(商品名,(株)ADEKA社製,水性エポキシ樹脂)
【0102】
[第二層(上層皮膜)用の塗料組成物]
上層皮膜用の塗料組成物については、樹脂組成物として表4および表5に示すものを用い、これに非クロム系防錆添加剤(表6)を適宜配合し、塗料用分散機(サンドグラインダー)を用いて所定時間攪拌し、塗料組成物を調製した。
表4および表5に示す樹脂組成物の基体樹脂(反応生成物)は以下のようにして合成した。
【0103】
<合成例1>
jER828(ジャパンエポキシレジン社製、エポキシ当量187)634部、ビスフェノールA366部、50%テトラエチルアンモニウムブロマイド水溶液8部及びシクロヘキサノン180部を四つ口フラスコに仕込み、150℃まで昇温して5時間反応させた後、冷却しながらメチルイソブチルケトン300部とシクロヘキサノン1843部を加えて、固形分30%のエポキシ樹脂溶液M1(樹脂組成物(1))を得た。この樹脂の数平均分子量は7600であった。
<合成例2>
jER1256(ジャパンエポキシレジン社製、エポキシ当量7880)347部及びシクロヘキサノン543部を四つ口フラスコに仕込み、130℃まで昇温して2時間で完全にエポキシ樹脂を溶解した。このものを120℃に冷却し、3−アミノ−1,2,4−トリアゾール(分子量84)を3.7部加えて、エポキシ基が消失するまで6時間反応させた後、冷却しながらメチルイソブチルケトン78部とシクロヘキサノン197部を加え、固形分30%のトリアゾール変成エポキシ樹脂溶液M2(樹脂組成物(2))を得た。この樹脂の数平均分子量は10100であった。
【0104】
<合成例3>
jER828(ジャパンエポキシレジン社製、エポキシ当量187)637部、ビスフェノールA363部、50%テトラエチルアンモニウムブロマイド水溶液10部及びシクロヘキサノン175部を四つ口フラスコに仕込み、160℃まで昇温して4時間反応させ、固形分85%のエポキシ樹脂溶液を得た。このものに、シクロヘキサノン1315部を加えてから100℃に冷却し、3,5−ジメチルピラゾール9.7部とジブチルアミン13部を加えて、エポキシ基が消失するまで6時間反応させた後、冷却しながらメチルイソブチルケトン908部を加え、固形分30%のピラゾール変性エポキシ樹脂溶液M3(樹脂組成物(3))を得た。この樹脂の数平均分子量は6300であった。
<合成例4>
jER828(ジャパンエポキシレジン社製、エポキシ当量187)1833部、ビスフェノールA894部、テトラエチルアンモニウムブロマイド1.96部及びメチルイソブチルケトン294部を四つ口フラスコに仕込み、140℃まで昇温して4時間反応させ、冷却しながらエチレングリコールモノブチルエーテル3795部を加えて、エポキシ当量1388、固形分40%のエポキシ樹脂溶液M4(樹脂組成物(4))を得た。この樹脂の数平均分子量は3100であった。
【0105】
[表面処理鋼板の製造]
冷延鋼板をベースとした家電、建材、自動車部品用のめっき鋼板である、表1に示すめっき鋼板を処理原板として用いた。なお、鋼板の板厚は評価の目的に応じて所定の板厚のものを採用した。このめっき鋼板の表面をアルカリ脱脂処理、水洗乾燥した後、上記第一層形成用の表面処理組成物をロールコーターにより塗布し、各種温度で加熱乾燥した。皮膜の膜厚は、表面処理組成物の固形分(加熱残分)または塗布条件(ロールの圧下力、回転速度など)により調整した。
次いで、上記第二層形成用の塗料組成物をロールコーターにより塗布し、各種温度で加熱乾燥した。皮膜の膜厚は、塗料組成物の固形分(加熱残分)または塗布条件(ロールの圧下力、回転速度など)により調整した。
【0106】
得られた表面処理鋼板の皮膜組成と品質性能(耐食性、アルカリ脱脂後耐食性、加工後耐食性、溶接性、電着塗装性、接着接合性)を評価した結果を表7〜表10に示す。なお、品質性能の評価は以下のようにして行った。
(1)耐食性
各サンプルについて、下記の複合サイクル試験(CCT)を施し、81サイクル経過後の白錆発生面積率および赤錆発生面積率で評価した。
塩水噴霧(JIS−Z−2371に基づく):2時間

乾燥(60℃):4時間

湿潤(50℃、≧95%RH):2時間
その評価基準は以下のとおりである。
◎ :白錆発生面積率5%未満
○+:白錆発生面積率5%以上、10%未満
○ :白錆発生面積率10%以上、30%未満で、赤錆発生なし
○−:白錆発生面積率30%以上で、赤錆発生なし
△ :赤錆発生ありで、赤錆発生面積率10%未満
× :赤錆発生面積率10%以上
【0107】
(2)アルカリ脱脂後耐食性
各サンプルについて、日本パーカラインジング(株)製「FC−4460」を用いて、60℃、2分間スプレー処理の条件で脱脂した後、下記の複合サイクル試験(CCT)を施し、81サイクル経過後の白錆発生面積率および赤錆発生面積率で評価した。
塩水噴霧(JIS−Z−2371に基づく):2時間

乾燥(60℃):4時間

湿潤(50℃、≧95%RH):2時間
その評価基準は以下のとおりである。
◎ :白錆発生面積率5%未満
○+:白錆発生面積率5%以上、10%未満
○ :白錆発生面積率10%以上、30%未満で、赤錆発生なし
○−:白錆発生面積率30%以上で、赤錆発生なし
△ :赤錆発生ありで、赤錆発生面積率10%未満
× :赤錆発生面積率10%以上
【0108】
(3)加工後耐食性
各サンプルについて、下記の条件によるドロービードで変形と摺動を付加し、このサンプルを日本パーカライジング(株)製「FC−4460」を用いて、60℃、2分間スプレー処理の条件で脱脂した後、前記「(1)耐食性」で行ったCCTを施し、42サイクル経過後の白錆発生面積率および赤錆発生面積率で評価した。
押付荷重:800kgf
引抜速度:1000mm/min
ビード肩R:オス側2mmR、メス側3mmR
押し込み深さ:7mm
使用油:スギムラ化学工業(株)製「プレトンR−352L」
その評価基準は以下のとおりである。
◎ :白錆発生面積率5%未満
○+:白錆発生面積率5%以上、10%未満
○ :白錆発生面積率10%以上、30%未満で、赤錆発生なし
○−:白錆発生面積率30%以上で、赤錆発生なし
△ :赤錆発生ありで、赤錆発生面積率10%未満
× :赤錆発生面積率10%以上
【0109】
(4)溶接性
各サンプルについて、使用電極:CF型Cr−Cu電極、加圧力:200kgf、通電時間:10サイクル/50Hz、溶接電流:10kAの条件で連続打点性の溶接試験を行い、連続打点数で評価した。その評価基準は以下のとおりである。
◎:2000点以上
○:1000点以上、2000点未満
△:500点以上、1000点未満
×:500点未満
(5)電着塗装性
各サンプルにカチオン系電着塗料(関西ペイント(株)製「GT−10」)を膜厚30μmとなるように塗装した後、170℃×20分の焼付を行った。塗装したサンプルを40℃温水中に240時間浸漬し、直ちに碁盤目(10×10個、1mm間隔)のカットを入れて接着テープによる貼着・剥離を行い、塗膜の剥離面積率を測定した。その評価基準は以下のとおりである。
◎:剥離なし
○:剥離面積率5%未満
△:剥離面積率5%以上、20%未満
×:剥離面積率20%以上
【0110】
(6)接着接合性
各サンプルを25mm×200mmに剪断し、その表面に洗浄油(スギムラ化学工業(株)製「プレトン303P」)を1g/m塗布した。一日放置後、接着剤(セメダインヘンケル社製「マクロプラストPV5308」)をサンプルの25mm×150mmの範囲に塗布し、0.15mmのピアノ線を3本を挟むようにして、もう一方のサンプルを重ね合わせ、クリップで固定した。焼付処理を170℃×20分行い、また一日放置してサンプルを作成した。接着剤を塗布していない25mm×50mmの部分を90度に折り曲げ、引張り試験機にて200mm/minの条件にてTピール剥離試験を行い、その時の剥離強度を測定した。その評価基準は以下のとおりである。
◎:125N/25mm以上
○:118N/25mm以上、125N/25mm未満
△:80N/25mm以上、118N/25mm未満
×:80N/25mm未満
【0111】
【表1】

【0112】
表2および表3において、*1〜*5は以下の内容を示す。
*1 明細書本文に記載のチタン含有水性液A1〜A7
*2 明細書本文に記載の有機リン酸化合物B1〜B6
*3 明細書本文に記載の無機リン酸化合物C1〜C5
*4 明細書本文に記載の水溶性又は水分散性有機樹脂F1〜F7
*5 固形分の質量部
【0113】
【表2】

【0114】
【表3】

【0115】
【表4】

【0116】
【表5】

【0117】
【表6】

【0118】
表7〜表10において、*1〜*5は以下の内容を示す。
*1 表1に記載のめっき鋼板No.1〜No.9
*2 表2および表3に記載の表面処理組成物P1〜P42
*3 表4および表5に記載の樹脂組成物No.1〜No.23
*4 表6に記載の防錆添加剤No.1〜No.7
*5 固形分の質量部
【0119】
【表7】

【0120】
【表8】

【0121】
【表9】

【0122】
【表10】

【0123】
<実施例2>
[第二層(上層皮膜)用の塗料組成物]
表4および表5に示す樹脂組成物に、非クロム系防錆添加剤(表6)、固形潤滑剤(表11)を適宜配合し、塗料用分散機(サンドグラインダー)を用いて所定時間撹拌し、表面処理組成物を調製した。
【0124】
[表面処理鋼板の製造]
冷延鋼板をベースとした家電、建材、自動車部品用のめっき鋼板である、表1に示すめっき鋼板を処理原板として用いた。なお、鋼板の板厚は評価の目的に応じて所定の板厚のものを採用した。このめっき鋼板の表面をアルカリ脱脂処理、水洗乾燥した後、実施例1に記載した第一層形成用の表面処理組成物をロールコーターにより塗布し、各種温度で加熱乾燥した。皮膜の膜厚は、表面処理組成物の固形分(加熱残分)または塗布条件(ロールの圧下力、回転速度など)により調整した。
【0125】
次いで、上記第二層形成用の塗料組成物をロールコーターにより塗布し、各種温度で加熱乾燥した。皮膜の膜厚は、塗料組成物の固形分(加熱残分)または塗布条件(ロールの圧下力、回転速度など)により調整した。
得られた表面処理鋼板の皮膜組成と品質性能(耐食性、アルカリ脱脂後耐食性、加工後耐食性、溶接性、電着塗装性、接着接合性)を評価した結果を表12に示す。なお、品質性能の評価は以下のようにして行った。
【0126】
(1)耐食性
各サンプルについて、下記の複合サイクル試験(CCT)を施し、90サイクル経過後の白錆発生面積率および赤錆発生面積率で評価した。
塩水噴霧(JIS−Z−2371に基づく):2時間

乾燥(60℃):4時間

湿潤(50℃、≧95%RH):2時間
その評価基準は以下のとおりである。
◎ :白錆発生面積率5%未満
○+:白錆発生面積率5%以上、10%未満
○ :白錆発生面積率10%以上、30%未満で、赤錆発生なし
○−:白錆発生面積率30%以上で、赤錆発生なし
△ :赤錆発生ありで、赤錆発生面積率10%未満
× :赤錆発生面積率10%以上
【0127】
(2)アルカリ脱脂後耐食性
各サンプルについて、日本パーカラインジング(株)製「FC−4460」を用いて、60℃、2分間スプレー処理の条件で脱脂した後、下記の複合サイクル試験(CCT)を施し、90サイクル経過後の白錆発生面積率および赤錆発生面積率で評価した。
塩水噴霧(JIS−Z−2371に基づく):2時間

乾燥(60℃):4時間

湿潤(50℃、95%RH):2時間
その評価基準は以下のとおりである。
◎ :白錆発生面積率5%未満
○+:白錆発生面積率5%以上、10%未満
○ :白錆発生面積率10%以上、30%未満で、赤錆発生なし
○−:白錆発生面積率30%以上で、赤錆発生なし
△ :赤錆発生ありで、赤錆発生面積率10%未満
× :赤錆発生面積率10%以上
【0128】
(3)加工後耐食性
各サンプルについて、下記の条件によるドロービードで変形と摺動を付加し、このサンプルを日本パーカライジング(株)製「FC−4460」を用いて、60℃、2分間スプレー処理の条件で脱脂した後、前記「(1)耐食性」で行ったCCTを施し、48サイクル経過後の白錆発生面積率および赤錆発生面積率で評価した。
押付荷重:800kgf
引抜速度:1000mm/min
ビード肩R:オス側2mmR、メス側3mmR
押し込み深さ:7mm
使用油:スギムラ化学工業(株)製「プレトンR−352L」
その評価基準は以下のとおりである。
◎ :白錆発生面積率5%未満
○+:白錆発生面積率5%以上、10%未満
○ :白錆発生面積率10%以上、30%未満で、赤錆発生なし
○−:白錆発生面積率30%以上で、赤錆発生なし
△ :赤錆発生ありで、赤錆発生面積率10%未満
× :赤錆発生面積率10%以上
【0129】
(4)溶接性
実施例1と同じ。
(5)電着塗装性
実施例1と同じ。
(6)接着接合性
実施例1と同じ。
【0130】
【表11】

【0131】
表12において、*1〜*7は以下の内容を示す。
*1 表1に記載のめっき鋼板No.1〜No.8
*2 表2および表3に記載の表面処理組成物P1〜P42
*3 表4および表5に記載の樹脂組成物No.1〜No.23
*4 表6に記載の防錆添加剤No.1〜No.7
*5 表11に記載の固形潤滑剤No.1〜No.9
*6 固形分の質量部
*7 質量比
【0132】
【表12】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛系めっき鋼板またはアルミニウム系めっき鋼板の表面に、加水分解性チタン化合物、加水分解性チタン化合物の低縮合物、水酸化チタン、水酸化チタンの低縮合物の中から選ばれる少なくとも1種のチタン化合物を過酸化水素水と混合して得られるチタン含有水性液(A)の固形分100質量部に対して、有機リン酸化合物(B)を1〜400質量部、無機リン酸化合物(C)を50〜150質量部含有する表面処理組成物(X)を塗布し、乾燥させることにより形成された皮膜厚が0.01〜1.0μmの表面処理皮膜を有し、その上層に、数平均分子量が6000〜20000の高分子量エポキシ基含有樹脂(D)を含有する塗料組成物(Y)を塗布し、乾燥することにより形成された皮膜厚が0.3〜2.0μmの上層皮膜を有することを特徴とする高耐食性表面処理鋼板。
【請求項2】
塗料組成物(Y)が、さらに、ポリエチレン系潤滑剤(e1)とポリテトラフルオロエチレン系潤滑剤(e2)を(e1)/(e2)=5/5〜1/9の割合(質量比)で含む複合潤滑剤(E)を含有することを特徴とする請求項1に記載の高耐食性表面処理鋼板。
【請求項3】
塗料組成物(Y)は、複合潤滑剤(E)を樹脂組成物の固形分100質量部に対して固形分の割合で10〜30質量部含有することを特徴とする請求項2に記載の高耐食性表面処理鋼板。
【請求項4】
複合潤滑剤(E)中のポリエチレン系潤滑剤(e1)の融点が100〜130℃であることを特徴とする請求項2または3に記載の高耐食性表面処理鋼板。
【請求項5】
複合潤滑剤(E)中のポリテトラフルオロエチレン系潤滑剤(e2)の平均粒子径が1〜7μmであることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の高耐食性表面処理鋼板。
【請求項6】
表面処理組成物(X)が、さらに、水溶性有機樹脂または/および水分散性有機樹脂(F)をチタン含有水性液(A)の固形分100質量部に対して固形分の割合で2000質量部以下含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の高耐食性表面処理鋼板。
【請求項7】
塗料組成物(Y)が、さらに、非クロム系防錆添加剤(G)を樹脂組成物の固形分100質量部に対して固形分の割合で0.1〜50質量部含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の高耐食性表面処理鋼板。
【請求項8】
塗料組成物(Y)が非クロム系防錆添加剤(G)として、下記(g1)〜(g5)の中から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする請求項7に記載の高耐食性表面処理鋼板。
(g1)酸化ケイ素
(g2)カルシウム化合物
(g3)リン酸化合物
(g4)モリブデン酸化合物
(g5)トリアゾール類、チオール類、チアジアゾール類、チアゾール類、チウラム類の中から選ばれる1種以上の、S原子を含有する有機化合物
【請求項9】
塗料組成物(Y)がさらに、水酸基と架橋する基を有する硬化剤(H)を、高分子量エポキシ基含有樹脂(D)の固形分100質量部に対して固形分の割合で1〜50質量部含有することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の高耐食性表面処理鋼板。
【請求項10】
水酸基と架橋する基を有する硬化剤(H)が、1分子中にイミノ基を平均1個以上有するアミノ樹脂(I)であることを特徴とする請求項9に記載の高耐食性表面処理鋼板。
【請求項11】
水酸基と架橋する基を有する硬化剤(H)が、1分子中にイソシアネート基を平均4個以上有するポリイソシアネート化合物(J)であることを特徴とする請求項9に記載の高耐食性表面処理鋼板。
【請求項12】
ポリイソシアネート化合物(J)が、イソシアネート基の少なくとも一部がブロック剤でブロックされたものであることを特徴とする請求項11に記載の高耐食性表面処理鋼板。
【請求項13】
塗料組成物(Y)中の高分子量エポキシ基含有樹脂(D)が、一部または全部の化合物が活性水素を有するヒドラジン誘導体(L)からなる活性水素含有化合物(K)により変性された変性エポキシ基含有樹脂であることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の高耐食性表面処理鋼板。

【公開番号】特開2011−52255(P2011−52255A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−201117(P2009−201117)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】