説明

高膨張黒鉛を充填したポリマー

ポリマーが、BET表面積が少なくとも120m/gである1〜8質量%の膨張黒鉛で充填される。そのようなポリマーの作製方法は、重合性モノマー又は硬化性ポリマー前駆体中の膨張黒鉛の分散物を形成する工程、及びそれを膨張黒鉛の存在下で重合又は硬化する工程を含む。この方法により、少量の膨張黒鉛物質を用いて導電性ポリマーを作製することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2006年8月10日出願の米国特許仮出願第60/836,808号の利益を主張するものである。
【0002】
本発明は、高膨張黒鉛を充填した有機ポリマーに関する。
【背景技術】
【0003】
カーボン及び黒鉛は、ポリマー複合材の充填剤として一般的に用いられる。これらの物質により、複合材の特定の物理的性質を、充填剤を含まないポリマーのものと比較して高めることができる。例えば、複合材の剛性、線膨張率、及び温度耐性などはいずれも、カーボン又は黒鉛強化剤の存在によって極めて著しく高めることができる。
【0004】
多くの場合、分散したカーボン又は黒鉛の存在により、複合材の導電性も高められる。この効果は、多くの用途において非常に望ましいものである。そのような用途の例としては、いわゆる電着塗装又は「E−塗装(E-coat)」のプロセスによって塗装される自動車の車体部品が挙げられる。このプロセスでは、電着用水溶液への浸漬(galvanic water-solution immersion)により、自動車組み立て部品に防食のための塗装を施す。このプロセスで使用可能とするためには、電着塗装工程を行っている間、電荷をかけることができるように、ポリマーはある程度の導電性を有していなければならない。ある程度導電性であるポリマーを必要とする例は、他にも多く存在する。
【0005】
カーボン及び黒鉛は、これらの用途に有用ないくつかの形状で入手可能である。そのような形状としては、粉末、薄片、いわゆる黒鉛ナノチューブ、及び様々な種類のファイバーが挙げられる。ファイバーは、短ファイバーの種類であっても、又は連続ファイバーの種類であってもよい。
【0006】
カーボン又は黒鉛が充填されたポリマーの導電性は、複合材中を電流が流れることのできる透過経路(percolation path)の形成に大きく依存している。これは、通常、ファイバーを用いることでより容易に達成され、それは、個々のファイバーが複合材中を連続的に伸びるか、又は短ファイバーの場合には、通常、個々のファイバーが隣接するファイバーと接触することでネットワークを形成することになるためである。複合材中を伸びるファイバー又はファイバーネットワークの存在により、電流が流れることのできる必要な透過経路が提供される。
【0007】
場合によっては、ファイバー状の強化剤の使用が適さないこともある。これにはいくつかの理由が考えられ、ファイバーのコストが高めであること、複合材の形成に使用可能な技術が限られること、比較的高いファイバーの充填量を用いる必要があること、及びファイバー強化複合材の物理的、時には電気的挙動が異方性であることが挙げられる。このような場合は、粒子形状のカーボン又は黒鉛が用いられる。
【0008】
粒子状のカーボン又は黒鉛を用いて複合材を通る良好な透過経路を得ることは、通常、(ファイバーと比べて)難しい。これは、複合材を通る必要な透過経路を確立するためには、粒子同士の間隔を非常に小さくする必要があるからである。粒子間隔を小さくすることは、カーボン又は黒鉛の充填量を高めることで促進される。充填剤の充填量を高めることは、経済的に不利であり、望ましくないことに、伸度及び衝撃強度などのいくつかの物理的性質が低下する場合がある。
【0009】
いわゆる膨張黒鉛は、プラスチック材料の充填剤として用いられてきた。「膨張」黒鉛とは、黒鉛の構造を形作る個々の層同士の面間距離が増大するように処理された黒鉛である。このような物質は市販されているものがいくつか存在し、GRAFTech Inc.,Advanced Energy Technologies Division(オハイオ州パーマ)、及びHP Material Solutions(カリフォルニア州ノースリッジ)によって販売されているものが挙げられる。これらの物質は、有機ポリマーに、機械的な強化及びある程度の導電性の両方を付与する。表面積が約110m/gである別の膨張黒鉛が、実験室スケールにてエポキシ樹脂の充填剤として使用されてきた。しかし、より少ない量で使用することができるより効率的な試剤を提供することは、特にポリマーに導電性を付与するという目的にとって、依然として望ましい。
【0010】
別の種類の興味深い炭素質物質は、カーボンナノチューブである。このナノチューブは、黒鉛構造の単一層が「巻かれて」チューブを形成したものに相当すると考えられる。ナノチューブはその長く伸びた構造により、強化剤として、及び導電性を付与するものとしてある程度効率的である。このような物質は法外なほど高価であるため、その使用はほとんどの用途に対して実用的ではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
効率的に、及び安価に、有機ポリマーを強化し、及びこれに導電性を付与する物質を提供する必要性は依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
一つの局面では、本発明は、有機ポリマーのマトリックスを含む複合材であって、このポリマーマトリックスは、その中に、複合材の質量を基準にして少なくとも約1質量%の分散した膨張黒鉛粒子を有し、この黒鉛粒子の表面積は、少なくとも120m/gである。
【0013】
第二の局面では、本発明は、重合性モノマー中の膨張黒鉛粒子の分散物であり、この分散物は、分散物の質量を基準にして少なくとも約1質量%の膨張黒鉛粒子を含み、この黒鉛粒子の表面積は、少なくとも120m/gである。
【0014】
本発明は、さらに、硬化性樹脂組成物中の膨張黒鉛粒子の分散物であり、この分散物は、分散物の質量を基準にして少なくとも約1質量%の膨張黒鉛粒子を含み、この膨張黒鉛粒子の表面積は、少なくとも120m/gである。
【0015】
本発明は、さらに、少なくとも1種類の重合性モノマー中の膨張黒鉛粒子の分散物をそのモノマーを重合するのに十分な条件に供し、重合されたモノマーのポリマーマトリックスを含む複合材を形成する工程を含む重合方法であり、このポリマーマトリックスは、その中に、表面積が少なくとも120m/gである少なくとも約1質量%の分散した膨張黒鉛粒子を有する。
【0016】
本発明は、さらに、硬化性樹脂組成物中の膨張黒鉛粒子の分散物を形成する工程、及びその樹脂組成物を、膨張黒鉛粒子の存在下で硬化させる工程を含む方法であり、この分散物は、少なくとも約1質量%の分散した膨張黒鉛粒子を含み、この膨張黒鉛粒子の表面積は少なくとも120m/gである。
【発明の効果】
【0017】
表面積の大きい膨張黒鉛粒子は、種々の有機ポリマーにとっての驚くほど効果的な強化剤である。特に、表面積の大きい膨張黒鉛粒子は、予想外なことに、複合材中で比較的低濃度で用いた場合でも、多くの有機ポリマーの導電性を高めるのに効果的である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の複合材の態様の透過電子顕微鏡写真である。
【図2】本発明の複合材の別の態様の透過電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
黒鉛は、炭素原子の層状になった平面と特徴付けることができる。平面内では、炭素原子が連結した六角形構造を形成している。隣接する平面は、弱いファンデルワールス力で結合している。黒鉛構造は、直交する1対のa軸及び平面に垂直なc軸に沿って整列された平面を有するとして特徴付けられることが多い。本発明で用いられる膨張黒鉛は、いわゆるc軸、すなわち、平面に垂直な軸に沿って膨張される。これにより、膨張黒鉛の表面積が増加する結果となる。膨張プロセスは、さらに、黒鉛層中へ大量の酸素も導入する。
【0020】
膨張黒鉛は、適切には、少なくとも120m/gのBET(Brunauer,Emmett and Teller)表面積を有する。より好ましい膨張黒鉛は、少なくとも250m/gのBET表面積を有する。さらにより好ましい膨張黒鉛は、少なくとも400m/gのBET表面積を有する。特に好ましい膨張黒鉛は、少なくとも650m/gのBET表面積を有する。BET表面積の上限は、原理上、約2700m/gまでであり、これは、完全に膨張させた黒鉛のおよその理論表面積である。しかし、膨張黒鉛の表面積は、約1500m/gまで、約1200m/gまで、又は約900m/gまででさえ適切である。本発明の目的のために、BET表面積の測定は、ヘリウム中30%の窒素を用い、P/P比0.3で行うことができる。種々の市販されている装置がBET表面積の測定に有用であり、Micromeritics TRISTAR 3000装置、及びQuantachrome Monosorbテスターなどが挙げられる。測定を行う前に、適切には大気圧下にて200℃というな条件で、サンプルを適切に脱気する。複数のデータポイントの平均を用いてBET値を決定することができる。
【0021】
黒鉛の膨張は、物質の単位質量あたりの体積を増加させる傾向にある。膨張黒鉛は、少なくとも100cm/gの体積まで膨張されたものが好ましい。少なくとも200cm/gの体積が好ましく、少なくとも300cm/gの体積がさらにより好ましい。しかし、ミリング又はグラインディングなどの膨張後の処理が、膨張黒鉛物質の体積に非常に大きな影響を与え得ることは認識される。
【0022】
膨張度のさらに別の指標は、X線広角分光法(WAXS)によって提供される。非膨張黒鉛は、約3.36±0.02オングストロームの面間隔d(d-spacing)(銅Kα線に対して約26.5度の2θ)において、強い結晶ピークを示す。このピークは、天然黒鉛の面間隔に対応するもので、通常は、0.34nmのオーダーである。ピークの強度は、この面間隔が維持される度合いを示すものである。黒鉛の膨張により、少なくともいくつかの層の分離が誘発される。膨張プロセス中の層の分離により、3.36±0.02の結晶ピークのシフト、及びその強度の減少が起こり得る。好ましい膨張黒鉛は、黒鉛の層間間隔に対応する面間隔d3.36±0.02において測定可能なピークを示さない。WAXSは、本発明の目的のために、CuKα線源によるBruker D−8又はRigaku MiniFlex回折計を用いて好都合に実施されるが、その他の市販の回折計も有用である。
【0023】
好ましい膨張黒鉛は、少なくとも250m/gのBET表面積、及び少なくとも100cm/gの体積を有する。より好ましい膨張黒鉛は、少なくとも450m/gのBET表面積、及び少なくとも100cm/gの体積を有し、並びに3.36±0.02の面間隔dにおいて測定可能なWAXS回折ピーク有さない。さらにより好ましい膨張黒鉛は、少なくとも100cm/gの体積、及び少なくとも650m/gのBET表面積を有し、並びに3.36±0.02の面間隔dにおいて測定可能なWAXS回折ピーク有さない。
【0024】
膨張黒鉛は、揮発性膨張剤を黒鉛粒子へインターカレートし、乾燥させて過剰の液体を除去し、そして、膨張剤を気化させるのに十分な温度までこのインターカレートされた物質を加熱することによって作製することができる。この方法でもたらされる気体の膨張により、黒鉛の層状の面が引き離され、それによって、密度が減少し、表面積が増加する。
【0025】
出発物質の黒鉛は、好ましくは、平均粒子径が少なくとも50、より好ましくは、少なくとも75μmである。出発物質の黒鉛は、好ましくは、平均粒子径が約1000μmまで、より好ましくは、500μmまでである。小粒子であるほど、その端部で膨張剤が失われることにより、膨張度合いが低くなる傾向にある。大粒子であるほど、膨張剤で完全にインターカレートすることがより困難となる。
【0026】
膨張性黒鉛薄片及び/又は粉末は市販されており、出発物質として用いることができるが、ほとんどの場合、本発明で必要とする程度まで膨張させるためには、(以下で述べるような)追加のインターカレーション物質によるさらなる処理が必要である。そのような膨張性黒鉛製品の例としては、GRAFGuard(登録商標)160−50N(GRAFTech Inc.,Advanced Energy Technologies Division(オハイオ州パーマ)製)、及びHP−50(HP Material Solutions(カリフォルニア州ノースリッジ)製)という商品名で市販されているものがある。GRAFGuard 160−50Nという製品は、硝酸及び硫酸でインターカレートされており、さらに、有機酸及びアルカノール還元剤を含むと考えられる。このインターカレートされた物質は、膨張性黒鉛製品の20〜30質量%を占めると考えられる。これらは、上述の温度範囲まで加熱することで膨張させることができるが、追加の膨張剤で処理しない限りは、通常は、50m/gよりも若干小さい表面積が形成されるまで膨張するに過ぎない。
【0027】
膨張剤は、塩素酸カリウム、過マンガン酸カリウム、及び/又は塩酸などの強酸化剤と組み合わせて、硫酸又は硝酸などの鉱酸を含むことが適切である。硫酸と硝酸の組み合わせが好ましく、そのような組み合わせと強酸化剤、特に塩素酸カリウムとの混合物が特に好ましい。酸は、濃縮された形で用いることが好ましい。塩素酸カリウム及びその他の酸化剤は、濃鉱酸の一方又は両方に溶解されることが好ましい。
【0028】
例えば、米国特許第6,416,815号明細書に記載のように、特定の有機酸を、上述の膨張剤と組み合わせて膨張助剤として用いることができる。これも米国特許第6,416,815号明細書に記載のように、有機還元剤、特に脂肪族アルコールも用いることができる。黒鉛は、少量の灰分を含有していてもよい。
【0029】
特に興味深い膨張黒鉛は、今述べたばかりのように、天然黒鉛又は膨張性黒鉛薄片を硫酸と硝酸との混合物で、所望によりさらに、塩素酸カリウム及び塩酸でインターカレートすることで作製される。膨張剤としてのこれらの物質の使用については、Ber.Dtsch.Chem.Ges.1898,31 p.1484に、Staudenmaierによって概説されている。
【0030】
種々の膨張剤は、黒鉛に一度にすべて添加してもよく、又は、様々な増加のさせ方で添加していってもよい。黒鉛をインターカレートする好ましい方法では、黒鉛をまず、過剰の鉱酸、好ましくは硝酸又は硫酸の混合物により、任意に有機酸及び/又は還元剤の存在下で処理する。ここで言う「過剰」とは、黒鉛が吸収可能な量よりも多い量を意味する。この処理を、1若しくは2回以上繰り返してもよい。次に、好ましくは発熱量を制御してインターカレート剤の早すぎる蒸発及び/又は反応を防ぎながら、塩素酸カリウム及び/又は過マンガン酸カリウムをこの酸/黒鉛混合物へ添加する。塩素酸カリウム又は過マンガン酸カリウムは、酸に溶解し、黒鉛の層構造中へ運搬される。この混合物は、約4時間〜200時間又はそれ以上の間、特に、10時間〜150時間、そして特には、20時間〜120時間の間、およそ室温に維持することが都合が良い。インターカレート剤が揮発又は反応しない場合は、より高い温度を用いることができる。
【0031】
非常に膨張率の高い膨張黒鉛物質の形成能は、黒鉛がインターカレート剤に接触される時間の長さに関係していると考えられる。従って、表面積が120m/g若しくはそれを超える膨張黒鉛生成物の形成は、処理時間を延ばすことで促進される。所望する表面積が250m/g、又は400m/g、又は650m/g、又はそれを超える場合は、さらによりそのような状況となる。粒子径、純度、及び前処理を施したかどうか、などの出発物質の特性も、得られる膨張度合いに影響を与える。
【0032】
インターカレーションプロセスが完了した後、生成物は、水及び/又は鉱酸溶液で洗浄し、ろ過し、乾燥することが都合良い。前述のように、乾燥条件は、インターカレート剤の揮発又は分解による黒鉛の早すぎる膨張を防ぐために、60℃以下の温度、及び大気圧といった穏やかな条件であることが好ましい。
【0033】
選択した膨張剤に応じて、160℃〜約1100℃若しくはそれを超える範囲の温度を使用することができる。600℃〜1100℃の範囲の温度が一般的には好ましい。900〜1100℃の温度が特に好ましい。黒鉛粒子は、膨張温度まで非常に急速に加熱されることが好ましい。加熱は様々な方法で実施することができ、例えば、粒子を加熱したオーブンに入れる、又は粒子にマイクロ波エネルギーを印加する、などによる。
【0034】
膨張剤は、強酸化剤である傾向にあり、膨張黒鉛生成物は、ある程度酸化されている傾向にある。ある程度の酸化状態である膨張黒鉛物質は、本発明の範囲内であると見なされる。これらの膨張剤でインターカレートされた黒鉛は、(インターカレート剤を差し引いた黒鉛の質量に対して)50質量%もの酸素を含有している場合がある。インターカレートされたサンプル中の典型的な酸素量は、20〜40質量%である。膨張プロセスの間、酸素の一部は水、二酸化炭素、及びその他の化学種の形で失われ、従って、膨張黒鉛は、より一般的には、約10〜約25質量%の酸素を含有する。
【0035】
本プロセスで作製された膨張黒鉛は、通常、最大粒子径が一般的に約0.1〜約10ミリメートルの範囲である蠕虫状(ウォーム状(worm-like))の外観であると推定される。膨張黒鉛粒子は、多くの場合「ウォーム(worm)」と称される。これらの膨張黒鉛粒子は、粒子径を下げるためのさらなる処理を行うことなく、直接使用することができる。このウォームを微粉砕しより小粒子径の粒子を作製することも本発明の範囲内である。
【0036】
本発明では、膨張黒鉛は、有機ポリマー中に分散され、物理的性質の強化、ある程度の導電性、又はその両方を提供する。ポリマー複合材中の膨張黒鉛の量は、複合材の質量を基準にして、約1質量%〜50質量%、若しくはそれを超える範囲とすることができる。膨張黒鉛粒子のより典型的な充填量は、約1〜約20質量%である。膨張黒鉛粒子のより好ましい充填量は、約1〜約10質量%である。
【0037】
本発明の利点は、膨張黒鉛粒子が、複合材に望ましいレベルの導電性を提供するに際して非常に効率的であることであり、従って、この目的のために、低充填量で用いることができる。従って、本発明の好ましい複合材は、1〜8質量%、特に2〜6質量%、そしてより好ましくは2〜5質量%の膨張黒鉛粒子を含有する。多くの場合、このような充填量は、複合材の体積抵抗率を1×10Ω・cm以下、好ましくは1×10Ω・cm以下に低下させるのに十分である。有機ポリマーも複合材の導電特性に影響を与え、従って、特定の場合には、このような範囲内の体積抵抗率を付与するために、より多くの若しくはより少ない膨張黒鉛が必要となり得る。
【0038】
有機ポリマーは、膨張黒鉛が分散可能であればいかなる種類のものであってもよい。適切なポリマーの例としては、例えば、
a.高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖低密度ポリエチレン、メタロセン触媒によるポリエチレン、ポリプロピレン、並びにエチレン及び/又はプロピレンとC4−12α−オレフィンとのコポリマー、などのポリオレフィン、
b.ポリスチレン、ポリビニルトルエン、ポリビニルナフチレン、及びポリクロロスチレン、などのポリビニル芳香族ポリマー、
c.(メタ)アクリル酸;メチル、エチル、n−ブチル、及びn−ヘキシル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート;ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート及びヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;並びに、アクリルアミド、などのポリマー及びコポリマーを含む、アクリルポリマー及びアクリレートポリマー、
d.ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、これらの2若しくは3種類以上のコポリマー、又はこれらの少なくとも1種類と少なくとも1種類の他の共重合性モノマーとのコポリマー(エチレン−酢酸ビニルコポリマーなど)、
e.スチレン−アクリレートポリマー及びスチレン−アクリロニトリルコポリマーなどのような、上記のa〜cに記載の2若しくは3種類以上のエチレン性不飽和モノマーのコポリマーを含む、2若しくは3種類以上のエチレン性不飽和モノマーのランダムコポリマー又はブロックコポリマー、
f.スチレン−ブタジエン−アクリロニトリル樹脂などのゴム変性熱可塑性樹脂、
g.スチレン−ブタジエンゴム、ポリブタジエンゴム、EPDM(エチレン−プロピレン−ジエンモノマー)ゴム、ブタジエン−ニトリルゴム、ポリイソプレンゴム、アクリレート−ブタジエンゴム、ポリクロロプレンゴム、アクリレート−イソプレンゴム、エチレン−酢酸ビニルゴム、ポリプロピレンオキシドゴム、ポリプロピレンスルフィドゴム、及び熱可塑性ポリウレタンゴム、などの合成ゴム、
h.ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、並びに、コハク酸、アジピン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、無水トリメリット酸、無水フタル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、及びフマル酸などの1若しくは2種類以上のポリカルボン酸と、エチレングリコール、1,2−及び1,3−プロピレングリコール、1,4−及び2,3−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,4−ブタントリオール、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール、キニトール(quinitol)、マンニトール、ソルビトール、メチルグリコシド、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、及びジブチレングリコールなどの1若しくは2種類以上のポリオールとのポリマー、などのポリエステル、
i.ポリカーボネート、ポリアセタール、並びにナイロン6及びナイロン66などのポリアミド、など、
j.エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1,2−ブチレンオキシド、2,3−ブチレンオキシド、及びスチレンオキシドなどのポリマー並びにコポリマーを含む様々な種類のポリエーテル、
i.エポキシ樹脂、エポキシノボラック樹脂、ポリウレタン、ポリイソシアヌレート樹脂、ポリウレア、及びポリウレタン−ウレア、など、
j.フェノール−ホルムアルデヒド樹脂などのフェノール樹脂、
k.その他の種類の熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂
が挙げられる。
【0039】
有機ポリマー中の膨張黒鉛粒子の複合材は、いくつかの方法を用いて作製することができる。その方法の中には、あらゆる種類のポリマーの複合材の形成に適用できるわけではない場合もあり、従って、特定の作製方法の選択は、使用される特定のポリマーを考慮して行うことになる。しかし、一般的に、本発明の複合材は、(a)膨張黒鉛粒子を有機ポリマーの溶融物中に混合する、溶融混合プロセス、(b)膨張黒鉛をある種の適切な溶媒中の有機ポリマー溶液中に混合する、溶液混合プロセス、(c)膨張黒鉛粒子を有機ポリマーの固体粒子と混合する、乾式混合プロセス、(d)膨張黒鉛粒子の存在下でのモノマー若しくはオリゴマー(又は2種類以上のモノマー及び/若しくはオリゴマーの混合物)の重合、又は、(e)引き続いて膨張黒鉛粒子の存在下で硬化される硬化性樹脂組成物中への膨張黒鉛粒子の混合、によって作製することができる。上述の手法を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
溶融混合プロセスでは、有機ポリマーをその溶融温度より高い温度まで持って行き、そして膨張黒鉛粒子と混合する。混合は、例えば、押出機のバレル部、ブラベンダー混合機(Brabender mixer)、又はその他の配合装置を含む、適切ないかなる混合機内でも行うことができる。この方法は、ポリマーの分解温度より低い温度にて溶融するほとんどの熱可塑性ポリマーに用いることができる。この方法は、やや低めの溶融粘度を有する有機ポリマーにとってより適切であり、それは、溶融粘度が低いと、黒鉛粒子の浸漬、及び膨張黒鉛の面間領域へのポリマーの侵入が促進されるからである。この方法は、例えば、重合及び硬化を起こすのに必要な条件などのために、膨張黒鉛粒子の存在下でポリマーが都合良く重合又は硬化しない場合にも好ましい。
【0041】
溶液プロセスでは、ポリマーを適切な溶媒に溶解し、得られた溶液に膨張黒鉛粒子を混合する。膨張黒鉛粒子は、ポリマー溶液に混合する前に、溶媒の一部でスラリー状にしてもよい。溶媒の選択は、その特定のポリマーと関連させて行われ、当然、溶媒は、膨張黒鉛と反応したりこれを溶解したりするものであってはならない。ほとんどの場合、溶媒は、生成物から容易に揮発させることができるように、比較的低沸点であることが好ましい。高沸点溶媒を用いてもよく、揮発又は抽出法によって除去することができる。溶液混合プロセスは、有機ポリマーが高溶融粘度を有する場合、及び/又は有機ポリマーがその溶融温度において分解しやすいか若しくはその他の望ましくない反応を起こしやすい場合に特に有用である。溶媒の量は、扱い得る溶液粘度を有する溶液が提供されるように選択する。
【0042】
乾式混合プロセスは、有機ポリマーが室温(約22℃)で粒子状固体であり、引き続いて溶融処理工程に供されることになる場合に適切である。そのような場合、粉末状又はペレット状のポリマーを、均一な混合物が得られるように注意しながら膨張黒鉛粒子と混合することができる。一般的に、乾式混合は、特定の有機ポリマーが引き続いて溶融処理されるいかなる場合にも用いることができる。そのような引き続いて行われる溶融処理工程の例としては、例えば、押出し、射出成形、ブロー成形、プリプレグの形成、引抜成形、及びキャスティング、などが挙げられる。乾式混合の利点は、ある程度巨視的なレベルで、膨張黒鉛とポリマー粒子との均一な混合物を形成可能なことである。この方法により、粘性の溶融ポリマー中に膨張黒鉛を分布させる問題、又は膨張黒鉛を分散させるために溶媒を使用する必要性を回避することができる。引き続いて行われる溶融処理工程の間、ポリマーは黒鉛粒子を浸漬させ、膨張黒鉛の面間の空間へ侵入する。乾式混合プロセスは、従って、膨張黒鉛粒子を溶融ポリマー中へ分散することが困難である場合(例えば、粘度に関する考慮、又は処理速度の懸念などにより)、及び/又は溶液混合法を用いることが望ましくないか若しくは実行不可能である場合に特に有利である。
【0043】
別の混合方法では、膨張黒鉛粒子を、引き続いて膨張黒鉛粒子の存在下で重合させて本発明の複合材を形成するモノマー又は重合性オリゴマー中へ分散させる。この方法の利点は、モノマー又はモノマー混合物が、多くの場合、室温若しくは少し上昇した温度(例えば、50℃まで)において液体であり、低粘度の流体である傾向にあることである。低粘度により、膨張黒鉛粒子の分散及び浸漬が促進される。引き続いて行われる重合プロセスは、何らかの形の攪拌下、又はその他の条件下で行われ、重合プロセスの間、黒鉛粒子の分散状態が維持されるものであることが適切である。所望する場合は、モノマーをある適切な溶媒へ溶解してもよく、これは、モノマーが室温で固体である場合、又はモノマーが分散物を形成させる温度において粘性の液体である場合に望ましいであろう。このような場合、モノマーの溶液を用いることで、分散物の形成を低い温度で行うことができることが多く、これにより、早すぎる重合を防ぐ手助けとすることができる。モノマーが室温で固体である場合は、上記で述べた方法に類似の方法により、モノマーと膨張黒鉛との乾燥混合物を形成することも可能である。
【0044】
モノマー又は重合性オリゴマーの例としては、エチレン及びα−オレフィンなどのエチレン性不飽和モノマー、ビニル芳香族モノマー、アクリル、アクリレート、メタクリル、及びメタクリレートモノマー、アクリロニトリル、ブタジエン及びイソプレンなどの共役ジエン、並びにラクトン、ラクチド、グリコリド、環状アルキレンテレフタレート、カプロラクトン、カプロラクタム、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1,4−ブチレンオキシド、スチレンオキシドなどの重合性環状エステル、アミド、及びエーテル、などが挙げられる。モノマーが共重合性である場合は、上述のモノマーの2若しくは3種類以上の混合物を用いて、ランダムコポリマーを作製することができる。
【0045】
同様に、膨張黒鉛粒子は、硬化性樹脂又はその他のポリマー前駆体中に分散させることができ、次に、これを硬化させるか、又は膨張黒鉛粒子の存在下で反応させて、有機ポリマーを形成する。そのような樹脂又はポリマー前駆体の例としては、例えば、エポキシ樹脂、エポキシノボラック樹脂、エポキシ若しくはエポキシノボラック樹脂の硬化剤、(水、ポリオール化合物、若しくはポリアミン化合物で硬化してポリウレタン及び/又はポリウレアポリマーを形成することができる)ポリイソシアネート及びイソシアネート末端プレポリマー、並びにポリイソシアネート及びイソシアネート末端プレポリマーで硬化してポリウレタンを形成することができるポリオール化合物(ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、及び1分子あたり2若しくは3個以上のヒドロキシル基、又はそれ以上を有するその他の化合物を含む)、などが挙げられる。
【0046】
いくつかの理由により、多くの場合、マスターバッチプロセスを用いて膨張黒鉛を有機ポリマーへ導入することが好都合である。マスターバッチは、有機ポリマー、モノマー、又は前駆体中の膨張黒鉛の分散物であり、ここでの膨張黒鉛粒子の濃度は、最終複合材で所望されるものよりも高い。使用する間、このマスターバッチは、同様のポリマー、モノマー、若しくはポリマー前駆体、又は異なるポリマー若しくは異なるモノマーなどの別の物質中へ「レットダウン(let down)」される。レットダウン比率は、最終生成物中に所望するレベルの膨張黒鉛が存在するように選択される。レットダウン質量比は、多くの場合、0.5〜20部の追加ポリマー、モノマー、若しくはポリマー前駆体を1部のマスターバッチに対して、特には、約1〜10:1、より好ましくは約2〜6:1が好都合である。モノマー若しくはポリマー前駆体を用いてマスターバッチを形成した場合は、レットダウンの前に、このモノマー若しくはポリマー前駆体の重合、又は成長によって、低分子量若しくは高分子量の分散物を形成することができる。これは、例えば、溶融マスターバッチの粘度をある程度増加させることで、別のポリマー物質、耐衝撃性改良剤、又はゴムの粘度とより厳密に適合し、それによって、レットダウンプロセス中にこれらの物質同士がより容易に効率良く混合されることから、有益であろう。
【0047】
ほとんどの場合、膨張黒鉛粒子が存在すると、有機ポリマー単独の場合と比べて、複合材の体積導電率が著しく低下することになる。これが生じる度合いは、当然、有機ポリマー自体、複合材中の膨張黒鉛の充填量、ポリマーマトリックス中に膨張黒鉛粒子がいかにうまく分散しているか、及びその他の要因に依存する。しかし、純粋なポリマーとして1×1010〜1×1012Ω・cmのオーダー若しくはそれを超える体積抵抗率を有する多くの有機ポリマーは、膨張黒鉛の低乃至中程度の充填量においても、体積抵抗率が6桁若しくはそれを超える割合で低下した複合材を膨張黒鉛と形成することになる。膨張黒鉛の充填量を高めると、7、8、若しくはさらには9桁、又はそれ以上、体積抵抗率を低下させることができる。多くの場合、このような規模での体積抵抗率の低下は、1〜8%の膨張黒鉛を含有する複合材で達成することができる。好ましい場合では、わずかに2〜5%の膨張黒鉛の充填量で、同等の体積抵抗率の低下が見られる。より好ましい場合では、このような体積抵抗率の低下は、2〜4%の膨張黒鉛の充填量で見られる。
【0048】
従って、好ましい複合材は、1〜8質量%の膨張黒鉛粒子を含有し、体積抵抗率が、未充填の有機ポリマーよりも少なくとも6桁低い。より好ましい複合材は、2〜5%の膨張黒鉛を含有し、体積抵抗率が、未充填の有機ポリマーよりも少なくとも7桁低い。さらにより好ましい複合材は、2〜4%の膨張黒鉛を含有し、体積抵抗率が、未充填の有機ポリマーよりも少なくとも8桁低い。絶対値に基づくと、複合材は、1×10Ω・cm以下の体積抵抗率を持つことが好ましい。より好ましい複合材は、1×10Ω・cm以下の体積抵抗率を持ち、さらにより好ましい複合材は、1×10Ω・cm以下の体積抵抗率を持つ。本発明の目的のために、体積抵抗率の測定はASTM D−4496に従って行う。ほとんどの用途において、複合材が1.0×10Ω・cm未満の体積抵抗率を持つ必要はない。
【0049】
膨張黒鉛粒子は、複合材の物理的及び熱的性質も変化させる。多くの用途において特に興味深い性質は、熱垂れ(heat sag)、及び荷重たわみ温度(DTUL)などである。一般に、未充填のポリマーと比べて、熱垂れは改善し(すなわち、複合材が試験で示す垂れの度合いが減少する)、DTULは高くなる。多くの用途に対して、複合材は、ASTM D3769に従って200℃で30分の加熱後に測定した垂れが、6mm以下、好ましくは4mm以下であるべきである。特に好ましい複合材は、これらの条件下で3mm未満の熱垂れを示す。膨張黒鉛が、例えば複合材質量の2〜8%など、複合材質量の2%若しくはそれを超える割合を占める場合に、複合材がこれらの熱垂れ値を示すことが好ましい。
【0050】
複合材のDTULは、有機ポリマーの選択に大きく依存する。多くの用途に対して、ASTM D648に従って測定した複合材の荷重たわみ温度は、少なくとも140℃であることが好ましく、好ましくは少なくとも160℃、より好ましくは少なくとも170℃である。
【0051】
膨張黒鉛粒子が存在すると、未充填のポリマーと比べて引張弾性率が高まる傾向にある。多くの用途に対して、複合材は、少なくとも2GPaの引張弾性率を示すことが適切であり、好ましくは少なくとも3GPa、より好ましくは少なくとも3.5GPaである。他の性質と同様に、これらの値は、有機ポリマーの選択に大きく依存する。
【0052】
多くの用途に対する複合材は、ASTM D696に従って測定した線膨張率(CLTE)が150×10−6cm/cm/℃以下であることが適切であり、より好ましくは100×10−6cm/cm/℃以下であり、特には、80×10−6cm/cm/℃以下である。これらの熱たわみ、及びCLTEの値は、通常、膨張黒鉛が、例えば複合材質量の2〜8%など、複合材質量の2%若しくはそれを超える割合を占める場合に、本発明のある態様において達成することができる(ここでも、有機ポリマーに依存する度合いが大きい)。
【0053】
多くの用途に対して、複合材は、ASTM D5279−01に従って測定した貯蔵弾性率(G)が、20〜200℃の温度範囲全体にわたって少なくとも90MPaであることが適切である。これらの貯蔵弾性率の値は、膨張黒鉛が、例えば複合材質量の2〜8%など、複合材質量の2%若しくはそれを超える割合を占める場合に、本発明のある態様において達成することができる。
【実施例】
【0054】
以下の例は、本発明を説明するために提供するものであり、その範囲を限定することを意図するものではない。特に断りのない限り、部及びパーセントはすべて質量基準である。
【0055】
実施例1
酸でインターカレートされた黒鉛(GRAFGuard 160−50N)50gを三つ口フラスコに添加し、255mLの濃硫酸を添加し、続いて、135mLの濃硝酸を添加する。この混合物を攪拌しながら0〜5℃まで冷却する。温度を10℃未満に維持しながら、137.5gの塩素酸カリウムを少しずつ添加する。塩素酸カリウムを添加した後、混合物の温度を約22℃まで上昇させ、その温度を約100時間維持する。その間、この混合物は凝固して、黒色の泡だったスラッジとなる。フラスコから気体を排出し、300mLの濃硫酸を攪拌しながら30分かけて添加する。次に、この混合物を14Lの脱イオン水へ添加し、5分間攪拌する。インターカレートされた(そして酸化された)黒鉛が水相中に沈降し、ろ過によって取り出す。ろ過ケーキを1000mLの5%HClで2回、1000mLの脱イオン水で4回洗浄する。次に、ろ過ケーキを壊して約1cm片とし、60℃で2日間乾燥する。次に、この乾燥物質を細断し、10メッシュのスクリーンでふるいに掛け、60℃にて一晩減圧乾燥し、乾燥した粒状物質を得る。
【0056】
この乾燥物質を、窒素下、975℃の電気チューブオーブン(electric tube oven)中にて、約3分間膨張させる。得られた膨張黒鉛物質をオーブン中にて75℃まで冷却し、取り出す。次に、この物質を、ワーリングブレンダー中、高速にて約10秒間細断する。
【0057】
この膨張黒鉛物質は、700m/gを超えるBET表面積を有する。WAXSでは、この物質は、3.36±0.02の面間隔dにおけるピークをほとんど全く示さない。
【0058】
48.5グラムの環状ブチレンテレフタレートオリゴマー(CBTO)及び1.5グラムのGRAFTech GPB膨張グラファイトウォームを、100℃にて2時間減圧乾燥する。次に、この乾燥物質をビーカー中のおよそ100mLのクロロホルムへ添加し、出力400ワットの超音波ホーンを用いて20分間超音波処理する。次に、回転蒸発(rotoevaporation)によって溶媒を除去し、残留生成物を、真空オーブンにて100℃で一晩乾燥する。得られた粉末状混合物をHAAKE混合機へ250℃で添加し、2分間その温度を維持してオリゴマーを融解させる。この時点で、0.160gの塩化ブチルスズ二水酸化物(butyltin chloride dihydroxide)触媒(0.3モル%)を混合機中へ散布し、オリゴマーを10分間重合させてポリブチレンテレフタレート(PBT)とする。次に、得られた複合材を取り出し、グラインディングして顆粒状とし、真空オーブン中に195℃で12時間放置し、ポリマーの分子量を増加させる。次に、この複合材をメルトインデックス機(melt index machine)中にて250℃で再溶融し、体積抵抗率測定のためのストランドを得る。
【0059】
得られた複合材は、3質量%の膨張黒鉛粒子を含有し、2.65×10Ω・cmの体積抵抗率を持つ。
【0060】
480グラムのCBTO及び20グラムの膨張黒鉛(膨張黒鉛4質量%)から作製されたオリゴマー/膨張黒鉛混合物を用いて、第二の複合材を、より大きな規模で作製する。体積抵抗率の測定値は、メルトインデックスストランドでの試験では2.28×10Ω・cm、射出成形バーでの試験では6.53×10Ω・cmである。
【0061】
実施例2
約702m/gの表面積を有する膨張黒鉛を、実施例1で述べた一般的な方法を用いて作製する。環状ブチレンテレフタレートの大環状オリゴマーの粉末を、この物質及び0.34質量%のジスタノキサン(大環状オリゴマー1モルに対して0.3モル)と乾式混合して、4質量%の膨張黒鉛を含有する混合物を提供する。この混合物を、スクリュー式の粉末フィーダーを用いて反応押出(REX)プロセスへ欠乏供給(starve-fed)し、複合材を作製する。REXプロセス装置は、下流方向へ向かって、ギアポンプが装備された共回転二軸スクリュー押出機(Werner Pfleiderer and Krupp、25mm、38L/D)、1インチ(2.5cm)スタティックミキサー(Kenics)、2.5インチ(6.25cm)フィルター(80/325/80メッシュ)、及び二穴のダイから成る。フィーダー及びホッパーには、運転中、不活性ガスを充満させる。押出機は、200〜300rpm、15ポンド/時間(6.8kg/時間)で運転し、温度プロフィールは、最初のセクションの50℃から、押出機及び下流処理装置のその後のセクションにかけての250℃まで上昇させる。これにより、最初のセクションにおいては、充填剤を分散させるのに十分な混合が、その後のセクションにおいては、重合を完了するのに十分な滞留時間が得られる。次に、この方法で作製されたペレットを、真空オーブン中、200℃にて26時間固相重合(SSP)に供する。得られた複合材が実施例2である。図2は、実施例2の複合材の透過電子顕微鏡写真である。
【0062】
28トンArburg射出成形機を用いて、実施例2の複合材から試験用バーを成形する。成形条件は、バレル温度:260℃、ノズル温度:270℃、金型温度:82℃、充填時間:約1.3秒、冷却時間:30秒である。
【0063】
比較のために、大環状オリゴマーの未充填ポリマーから試験用バーを成形する。
【0064】
試験用バーの引張弾性率及び導電率を測定する。結果は表1に示す通りである。
【0065】
【表1】

【0066】
表1に示すデータから分かるように、4質量%の膨張黒鉛粒子の存在により、体積抵抗率が8桁を超える低下(1012Ω・cm対<10Ω・cm)となっている。引張弾性率は、約35%増加している。
【0067】
実施例3
実施例1で述べた一般的なプロセスを用いて、酸でインターカレートされた黒鉛粒子、GRAFGuard 160−50Nの複数のサンプルを追加の酸及び塩素酸カリウムでさらにインターカレートする。処理時間を、5時間から96時間まで変化させる。種々のインターカレートされた黒鉛粒子のサンプル5グラムを、実施例1で述べた一般的な方法により、空気中、1000℃にて30秒間膨張させる。
【0068】
5時間処理されたサンプルは、膨張して、表面積が102m/gである膨張黒鉛を形成する。23時間処理されたサンプルは、膨張して、表面積は275m/gと推定される。96時間処理されたサンプルは、膨張して、表面積は702m/gと推定される。処理の前に細断しない第二のサンプル(従って、約1cmの粒子径を有する)も96時間処理し、膨張後の表面積は433m/gと推定される。これらの実験により、処理時間(記載の条件下にて)と膨張黒鉛生成物の表面積との相関関係、並びに黒鉛粒子径と膨張率との関係が確立される。
【0069】
96時間処理された細断物質及び未細断物質の両方のサンプル50グラムを同じ方法にて膨張させる。表面積は、細断物質が448m/gであり、未細断物質が429m/gである。
【0070】
膨張性黒鉛、GRAFGuard 160−50のサンプルを同じ条件下にて膨張させ、表面積が16m/gである物質を得る。
【0071】
膨張性黒鉛、HP Materials 50のサンプルを同じ条件下にて膨張させ、表面積が40m/gである物質を得る。膨張性黒鉛、HP Materials 80は、表面積が37m/gである膨張生成物を形成する。
【0072】
膨張物質をワーリングブレンダーで細断して10メッシュスクリーンを通し、続いて、使用前に60℃で乾燥させる。
【0073】
大環状オリゴマー中の膨張黒鉛の分散物を、433m/gの膨張黒鉛サンプル7.5g及びクロロホルム400gを1リットル容器内で混合することで調製する。この混合物を高速ローター/ステータホモジナイザー(Tekmar Company、Model SDT)で処理して黒鉛を液体中へ分散させる。次に、攪拌子を投入し、この黒色懸濁液を、マグネティックスターラープレート上で攪拌しながら超音波プローブ(Fisher Scientific、Model 550 Sonic Dismembrator)により400Wにて10分間処理する。環状ブチレンテレフタレートの大環状オリゴマー142.5gを添加し、得られた懸濁液を攪拌してオリゴマーを溶解させる。次に、オリゴマーの存在下で超音波処理を再度行う。得られた懸濁液を2リットルフラスコへ注ぎ入れ、回転真空蒸発(Buchi RotaVapor)によりクロロホルムを除去する。次に、フラスコを130℃の真空オーブン内に一晩放置し、残留クロロホルムを除去する。フラスコを冷却し、内容物をかき出すことによってフラスコから取り出す。最終混合物は、5質量パーセントの膨張黒鉛を含有する。これを追加の大環状オリゴマーで希釈して、3質量パーセントの膨張黒鉛を含有する混合物を作製する。
【0074】
得られた混合物を、実施例1で述べた一般的な方法を用いて重合し、実施例3の複合材を形成する。
【0075】
表面積が34m/gであるGRAFGuard 160−50の膨張物質を、実施例3の複合材の作製に用いた433m/gの物質の代わりに用い、同じ方法によって比較サンプルAを作製する。この混合物を、膨張黒鉛濃度5質量%で用いる。
【0076】
比較サンプルBを、比較サンプルAと同じ方法によって作製するが、ただし、混合物を、膨張黒鉛濃度が4質量%となるように追加の大環状オリゴマーで希釈する。
【0077】
比較サンプルCを、表面積が34m/gであるGRAFGuard 160−50の膨張物質を4質量部と、溶融した環状ブチレンテレフタレート大環状オリゴマーを96質量部とを混合することで作製する。次に、この混合物を実施例1で述べたように重合する。
【0078】
表面積が40m/gであるHP Materials 50の膨張生成物を、実施例3の複合材の作製に用いた433m/gの物質の代わりに用い、実施例3の複合材と同じ方法によって比較サンプルDを作製する。この混合物を、膨張黒鉛濃度5質量%で用いる。比較サンプルE及びFを、比較サンプルDと同じ方法で作製するが、ただし、膨張黒鉛濃度は、それぞれ4%及び3%である。
【0079】
実施例3の複合材及び比較サンプルA〜Fの体積抵抗率を測定し、表2に示す。
【0080】
【表2】

【0081】
表2のデータより、表面積の大きい膨張黒鉛物質は、表面積の小さい物質に比べて体積抵抗率を低下させる効果が高いことが示される。実施例3の複合材及び比較サンプルFは、同等の膨張黒鉛の充填量を有するが、表面積の小さい方の物質は、実施例3の複合材と比較して体積抵抗率が約50倍大きい複合材を与える。34m/gの膨張黒鉛物質は、体積抵抗率が実施例3の複合材と同様の複合材を提供することができるが(比較サンプルA)、これを達成するためには、実施例3の複合材の3%の充填量ではなく、5%の膨張黒鉛の充填量が必要である。例B及びCの複合材に対して示されたデータより、表面積34m/gの膨張黒鉛のレベルが4質量パーセントまで低下すると、体積抵抗率が急激に上昇することが分かる。
【0082】
実施例4
表面積が約754m/gの膨張黒鉛を、実施例1で述べた一般的な方法を用いて作製する。この膨張黒鉛0.3グラムを、エポキシ当量が約176〜183であるビスフェノールAのジグリシジルエーテル(D.E.R.(登録商標)383、The Dow Chemical Company製)7.57グラムへ添加して混合する。次に、この混合物を真空オーブン中で30分間脱気処理し、内部に取り込まれた空気を除去する。次に、Ancamine DL−50エポキシ硬化剤(Air Productsより入手可能)2.13グラムを混合物へ添加し、この混合物を、真空オーブン中、200℃で硬化させる。
【0083】
得られた複合材は、3質量%の膨張黒鉛を含有し、体積抵抗率は1.73×10Ω・cmである。1、2、及び4質量%にて、エポキシ樹脂による複合材をさらに作製する。体積抵抗率を表3にまとめる。図2は、膨張黒鉛を3質量%含有する複合材の透過電子顕微鏡写真である。
【0084】
【表3】

【0085】
本明細書で述べた本発明に対して、その範囲が添付の請求項で定められる本発明の趣旨から逸脱することなく、多くの変更が可能であることは理解されるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機ポリマーマトリックスを含む複合材であって、該ポリマーマトリックスは、その中に、該複合材の質量を基準にして少なくとも約1質量%の分散した膨張黒鉛粒子を有し、該黒鉛粒子の表面積が少なくとも120m/gである、複合材。
【請求項2】
前記の膨張黒鉛粒子が、少なくとも250m/gの表面積、及び少なくとも100cm/gの体積を有する、請求項1に記載の複合材。
【請求項3】
2〜6質量%の前記膨張黒鉛粒子を含む、請求項2に記載の複合材。
【請求項4】
前記の膨張黒鉛粒子が、少なくとも450m/gの表面積、及び少なくとも100cm/gの体積を有し、並びに3.36±0.2の面間隔dにおいて検出可能なWAXS回折ピークを持たない、請求項3に記載の複合材。
【請求項5】
体積抵抗率が1×10Ω・cm以下である、請求項4に記載の複合材。
【請求項6】
前記の膨張黒鉛粒子が、少なくとも650m/gの表面積を有する、請求項5に記載の複合材。
【請求項7】
2〜5質量%の前記膨張黒鉛粒子を含む、請求項6に記載の複合材。
【請求項8】
重合性モノマー中の膨張黒鉛粒子の分散物であって、該分散物は、該分散物の質量を基準にして少なくとも約1質量%の膨張黒鉛粒子を含み、該黒鉛粒子の表面積が少なくとも120m/gである、分散物。
【請求項9】
前記の膨張黒鉛粒子が、少なくとも250m/gの表面積、及び少なくとも100cm/gの体積を有する、請求項8に記載の分散物。
【請求項10】
2〜6質量%の前記膨張黒鉛粒子を含む、請求項9に記載の分散物。
【請求項11】
前記の膨張黒鉛粒子が、少なくとも450m/gの表面積、及び少なくとも100cm/gの体積を有し、並びに3.36±0.2の面間隔dにおいて検出可能なWAXS回折ピークを持たない、請求項10に記載の分散物。
【請求項12】
前記の膨張黒鉛粒子が、少なくとも650m/gの表面積を有する、請求項11に記載の分散物。
【請求項13】
2〜5質量%の前記膨張黒鉛粒子を含む、請求項12に記載の分散物。
【請求項14】
硬化性樹脂組成物中の膨張黒鉛粒子の分散物であって、該分散物は、該分散物の質量を基準にして少なくとも約1質量%の膨張黒鉛粒子を含み、該膨張黒鉛粒子の表面積が少なくとも120m/gである、分散物。
【請求項15】
前記の膨張黒鉛粒子が、少なくとも250m/gの表面積、及び少なくとも100cm/gの体積を有する、請求項14に記載の分散物。
【請求項16】
2〜6質量%の前記膨張黒鉛粒子を含む、請求項9に記載の分散物。
【請求項17】
前記の膨張黒鉛粒子が、少なくとも450m/gの表面積、及び少なくとも100cm/gの体積を有し、並びに3.36±0.2の面間隔dにおいて検出可能なWAXS回折ピークを持たない、請求項16に記載の分散物。
【請求項18】
前記の膨張黒鉛粒子が、少なくとも650m/gの表面積を有する、請求項17に記載の分散物。
【請求項19】
2〜5質量%の前記膨張黒鉛粒子を含む、請求項18に記載の分散物。
【請求項20】
少なくとも1種類の重合性モノマー中の膨張黒鉛粒子の分散物を、該モノマーを重合するのに十分な条件に供し、重合されたモノマーのポリマーマトリックスを含む複合材を形成する工程を含む重合方法であって、該ポリマーマトリックスが、その中に、表面積が少なくとも120m/gである少なくとも約1質量%の分散した膨張黒鉛粒子を有する、重合方法。
【請求項21】
前記の膨張黒鉛粒子が、少なくとも250m/gの表面積、及び少なくとも100cm/gの体積を有する、請求項20に記載の重合方法。
【請求項22】
前記ポリマーマトリックスが、2〜6質量%の前記の分散した膨張黒鉛粒子を含む、請求項21に記載の重合方法。
【請求項23】
前記の膨張黒鉛粒子が、少なくとも450m/gの表面積、及び少なくとも100cm/gの体積を有し、並びに3.36±0.2の面間隔dにおいて検出可能なWAXS回折ピークを持たない、請求項22に記載の重合方法。
【請求項24】
前記のポリマーマトリックスが、ポリオレフィン、ポリビニル芳香族ポリマー、アクリル若しくはアクリレートポリマー、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、2若しくは3種類以上のエチレン性不飽和モノマーのランダムコポリマー若しくはブロックコポリマー、ゴム変性熱可塑性樹脂、又は合成ゴムである、請求項23に記載の重合方法。
【請求項25】
前記の膨張黒鉛粒子が、少なくとも650m/gの表面積を有する、請求項24に記載の重合方法。
【請求項26】
前記のポリマーマトリックスが2〜5質量%の前記の分散した膨張黒鉛粒子を含む、請求項25に記載の重合方法。
【請求項27】
硬化性樹脂組成物中の膨張黒鉛粒子の分散物を形成する工程、及び該樹脂組成物を、該膨張黒鉛粒子の存在下で硬化させる工程を含む方法であって、該分散物が少なくとも約1質量%の膨張黒鉛粒子を含み、該膨張黒鉛粒子の表面積が少なくとも120m/gである、方法。
【請求項28】
前記の膨張黒鉛粒子が、少なくとも250m/gの表面積、及び少なくとも100cm/gの体積を有する、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記の硬化性樹脂組成物が、2〜6質量%の前記の分散した膨張黒鉛粒子を含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記の膨張黒鉛粒子が、少なくとも450m/gの表面積、及び少なくとも100cm/gの体積を有し、並びに3.36±0.2の面間隔dにおいて検出可能なWAXS回折ピークを持たない、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記の硬化性樹脂組成物が、エポキシ樹脂、エポキシノボラック樹脂、ポリウレタン形成性組成物、ポリイソシアヌレート形成性組成物、ポリウレア形成性組成物、又はポリウレタン−ウレア形成性組成物である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記の膨張黒鉛粒子が、少なくとも650m/gの表面積を有する、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記の硬化性樹脂組成物が、2〜5質量%の前記の分散した膨張黒鉛粒子を含む、請求項32に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−500446(P2010−500446A)
【公表日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−523799(P2009−523799)
【出願日】平成19年8月3日(2007.8.3)
【国際出願番号】PCT/US2007/017418
【国際公開番号】WO2008/021033
【国際公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【出願人】(502141050)ダウ グローバル テクノロジーズ インコーポレイティド (1,383)
【Fターム(参考)】