説明

高融点難燃剤結晶とその製造方法、該難燃剤含有エポキシ樹脂組成物、該組成物を用いたプリプレグ及び難燃性積層板

【課題】吸湿、吸水性を大幅に低減し、高温耐熱性、高温信頼性に優れ、線膨張率を下げた難燃剤含有エポキシ樹脂組成物を提供する。
【解決手段】次式(1)


で表され、示差熱・熱重量測定によって測定される溶け始め温度が280℃以上であり、かつ融点が291℃以上である高融点難燃剤結晶を得ることができる高融点難燃剤結晶の製造方法、および未硬化のエポキシ樹脂に、該高融点難燃剤結晶からなる難燃剤粉末を分散させた難燃剤含有エポキシ樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高融点難燃剤結晶とその製造方法、およびその結晶粉末を分散した状態を維持し、高温耐熱性、高温信頼性に優れ、低吸湿、低吸水率の難燃剤含有エポキシ樹脂組成物、該組成物を用いたプリプレグ、及び難燃性積層板に関する。詳しくはエポキシ樹脂に対して反応性であり、溶け始め温度が280℃以上、かつ融点が291℃以上の難燃剤粉末を未硬化のエポキシ樹脂に反応しない状態で分散させ、硬化剤などの添加剤を加えたエポキシ樹脂組成物及びこれを用いたプリプレグ及び熱プレスで硬化と同時に難燃剤を固定化して得られる難燃性積層板を提供する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は、優れた電気特性を示すため古くから電気絶縁材料用途で使用されている。その中でも需要量の多い分野に積層板及びこれを加工したプリント基板用途がある。
【0003】
プリント基板は、LSI、ICなどの部品をハンダ付けによって接続、固定しているが、環境適性を向上させるため、鉛を含んだ従来のハンダは使えなくなってきた。そのため従来のハンダよりも溶融温度が高い鉛フリーハンダを使う必要があり、積層板にも高温ハンダに対応できる更なる耐熱性、信頼性の向上が要求されている。
【0004】
また、携帯電話に代表されるように、小型高性能の電機電子製品を作るためには、積層板上の配線および配線間隔は細く、高密度化する必要があり、高温下での熱膨張による基板のひび割れや断線を防止する目的においても、耐熱性を上げ、線膨張率を下げる必要がある。
さらに、高密度化したプリント基板は大気中の水分など異物の悪影響を受けやすく、長期信頼性を増す上で水分など異物の侵入を最小限に抑える必要がある。
【0005】
プリント基板は、電気配線が細かく複雑に接続されており、ショートなどによる出火を防止する目的で難燃化されている。
【0006】
従来は、プリント基板用積層板として、臭素化合物による難燃化されたエポキシ樹脂の使用が主流であったが、最近はリン系難燃剤を用いた積層板も使われるようになってきた。臭素系難燃剤に比べて、リン系難燃剤は耐熱安定性が高く、軽量化に寄与することが知られている。
【0007】
リン系難燃剤を使用したエポキシ樹脂に関する発明としては、特許文献2〜6がある。
【0008】
特許文献2〜5には、有機リン系難燃剤とエポキシ樹脂を予め反応させた難燃性エポキシ樹脂を用いて積層板にする事が提案されている。この方法により溶剤への溶解性を向上し、均一なワニスを調整でき、ガラス繊維などからなる基材への含浸が容易になる。
【0009】
しかしながら、有機リン系難燃剤をエポキシ樹脂と予め反応させた状態では、溶剤への溶解性は向上するものの、エポキシ樹脂と反応した有機リン系難燃剤は分子が非結晶構造を取るためプリプレグや積層板の状態で水分の侵入、影響を受けやすい欠点があった。
特許文献5には本発明に使用する難燃剤と同一分子構造の特許文献1の難燃剤使用を記載しているが、これは示差熱・熱重量測定によって測定される溶け始め温度が280℃未満かつ融点が291℃未満のものであり、更に積層板に加工した際には難燃剤すべてがエポキシ樹脂と反応しており結晶性を失っているため、非結晶化した難燃剤部分が外部からの水分など異物混入の影響を受けやすく、鉛フリーはんだ対応に要求される耐熱性、高温信頼性に関しては不十分なものであった。
【0010】
また、特許文献6には有機リン系難燃剤を未反応のままワニスに分散し、作業効率を向上させる技術が提案されている。
【0011】
しかしながら、この技術を用いても難燃剤の融点が、はんだ耐熱温度の265℃よりも下回るため、この温度下、結晶構造を維持できず溶解してしまい、吸水後のはんだ耐熱性、及び高温信頼性は未だ十分と言える物ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特公平04−53874号公報
【特許文献2】特開平04−11662号公報
【特許文献3】特開平11−279258号公報
【特許文献4】特開2000−309623号公報
【特許文献5】特開2001−151991号公報
【特許文献6】特開2003−201332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、高融点難燃剤の製法、さらに積層板を加工したプリント基板の極細で高密度な配線上に各種部品を鉛フリーハンダで溶着する場合にも、高温下での熱膨張による基板のひび割れや断線を生じさせることがなく、長期使用に際しても水分や電解質などの影響が無いように吸湿、吸水性を大幅に低減し、高温耐熱性、高温信頼性に優れ、線膨張率を下げた難燃剤含有エポキシ樹脂組成物及び、該組成物を用いたプリプレグ、及び難燃性積層板を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、従来不純物や溶剤を分子中に取り込みやすい難燃剤を、合成時の反応溶剤の誘電率を既定値以下に下げる事で不純物の生成を抑え、更に難燃剤と包摂し難い特定の溶剤により再結晶精製を行う事で、溶け始め温度と融点を極力高く出来る事を見いだし、その難燃剤結晶を用いてプリプレグを構成する前段のエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂と特定の融点を有する難燃剤とが共存するも、相互間は未反応状態のままで、難燃剤の結晶構造をそのまま維持させておき、積層板を構成するための熱プレスによって始めてエポキシ樹脂と特定の有機リン系難燃剤結晶表面とが反応するという構成を採ることによって難燃剤結晶がエポキシ樹脂に固定化され、課題が解決し得ることを見出し、本発明の完成となった。
【0015】
難燃剤はエポキシ樹脂の物理強度などから考えると不純物の一種で、エポキシ樹脂本来の性能を低下させる要因となっている。そこで、プリント基板では難燃性を持たせつつ物性低下を最小限に抑える工夫がなされている。有機リン系難燃剤で難燃性を付与したエポキシ樹脂基板は、従来の臭素で難燃化した物に比べて熱分解温度が高く、熱安定性が向上することが知られている(特許文献3、特許文献5)。また、作業効率を向上する目的で改良した提案もある(特許文献6)。しかし、それでも苛酷な条件下ではこの不純物である難燃剤が影響し、物性の低下を招いてしまう。
【0016】
本発明者は、難燃剤をエポキシ樹脂などと予め反応させ、高分子にする事で結晶構造が乱れ非結晶構造にしてしまう事や、難燃剤自体の融点、溶け始め温度がはんだ耐熱温度以下のため、はんだ耐熱時に溶けて不具合を生じること、更には融点がはんだ耐熱温度以上であっても不純物などの影響により難燃剤自体の結晶構造が規則正しく密に整列していないため水分などの不純物を結晶中に取り込みやすいことが、これら物性低下の原因である事を突き止めた。
【0017】
本発明は、前記課題を解決するための手段として、
工程1:9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシドと、1,4‐ナフトキノンとを、誘電率10以下の不活性溶媒中で反応させることで副生物の含量を低減し、反応組成物を高収率で得る工程、
工程2:工程1で得られた反応組成物をエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、シクロヘキサノン、ベンジルアルコール、酢酸エステル、安息香酸エステルから選ばれる1種の溶媒又は2種以上の混合溶媒に溶解し、再結晶精製することによって、次式(1)
【0018】
【化1】

【0019】
で表され、示差熱・熱重量測定によって測定される溶け始め温度が280℃以上であり、かつ融点が291℃以上である高融点難燃剤結晶を得る工程、
とを有することを特徴とする高融点難燃剤結晶の製造方法を提供する。
【0020】
また本発明は、前記高融点難燃剤結晶の製造方法によって得られ、次式(1)
【0021】
【化2】

【0022】
で表され、示差熱・熱重量測定によって測定される溶け始め温度が280℃以上であり、かつ融点が291℃以上である高融点難燃剤結晶を提供する。
【0023】
また本発明は、未硬化のエポキシ樹脂に、前記高融点難燃剤結晶からなる難燃剤粉末を、未硬化のエポキシ樹脂に反応しない状態で全樹脂固形分100質量部中1〜35質量部分散させてなる難燃剤含有エポキシ樹脂組成物を提供する。
【0024】
また本発明は、前記難燃剤含有エポキシ樹脂組成物を一成分として、フイルム又は板状に加工してなるプリプレグを提供する。
【0025】
また本発明は、前記フイルム又は板状のプリプレグと基板とを重ね合わせ、これらを熱プレスして積層一体化した難燃性積層板を提供する。
【発明の効果】
【0026】
本発明の高融点難燃剤結晶の製造方法は、前記式(1)で表され、示差熱・熱重量測定によって測定される溶け始め温度が280℃以上であり、かつ融点が291℃以上である高融点難燃剤結晶を効率よく製造することができる。
この製造方法により得られる本発明の高融点難燃剤結晶は、融点がはんだ耐熱温度よりも高いため、樹脂組成物中に難燃剤として配合して用いた際に、鉛フリーハンダで溶着する場合にも難燃剤粉末の結晶構造が維持され、高温下での熱膨張による基板のひび割れや断線を生じさせることがなく、長期使用に際しても水分や電解質などの影響を生じ難い樹脂組成物を提供し得る。
【0027】
本発明の難燃剤含有エポキシ樹脂組成物は、未硬化のエポキシ樹脂に、前記高融点難燃剤結晶からなる難燃剤粉末を、未硬化のエポキシ樹脂に反応しない状態で全樹脂固形分100質量部中1〜35質量部分散させてなるものなので、難燃剤の融点がはんだ耐熱温度よりも高いため、鉛フリーハンダで溶着する場合にも難燃剤粉末の結晶構造が維持され、高温下での熱膨張による基板のひび割れや断線を生じさせることがなく、長期使用に際しても水分や電解質などの影響を生じ難い。
【0028】
本発明のプリプレグは、前記難燃剤含有エポキシ樹脂組成物を一成分として、フイルム又は板状に加工してなるものなので、難燃剤の融点がはんだ耐熱温度よりも高いため、鉛フリーハンダで溶着する場合にも難燃剤粉末の結晶構造が維持され、高温下での熱膨張による基板のひび割れや断線を生じさせることがなく、長期使用に際しても水分や電解質などの影響を生じ難い。
【0029】
本発明の難燃性積層板は、前記フイルム又は板状のプリプレグと基板とを重ね合わせ、これらを熱プレスして積層一体化したものなので、積層板を加工したプリント基板の極細で高密度な配線上に各種部品を鉛フリーハンダで溶着する場合にも、高温下での熱膨張による基板のひび割れや断線を生じさせることがなく、長期使用に際しても水分や電解質などの影響が無いように吸湿、吸水性を大幅に低減し、高温耐熱性、高温信頼性に優れ、線膨張率の低い難燃性積層板が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の難燃剤含有エポキシ樹脂組成物及びプリプレグにおけるHCA=NQ高純度結晶からなる難燃剤粉末の分散状態を示す模式図である。
【図2】本発明の難燃性積層板におけるエポキシ樹脂とHCA=NQ高純度結晶からなる難燃剤粉末の分散状態を示す模式図であり、難燃剤粉末の表面がエポキシ樹脂と結合している状態を示している。
【図3】実施例において製造したHCA=NQ高純度結晶と、市販品であるHCA=NQ汎用品との示差熱・熱重量測定の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
(高融点難燃剤結晶)
本発明に係る高融点難燃剤結晶(以下、難燃剤と記す場合がある。)は、前記式(1)で表される9−ヒドロ−10−〔2−(1,4−ジヒドロキシナフチル)〕−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシド(以下、HCA=NQと記す。)であり、特に、示差熱・熱重量測定によって測定される溶け始め温度が280℃以上であり、かつ融点が291℃以上である高純度結晶(以下、HCA=NQ高純度結晶と記す。)である。
【0032】
本発明において、「示差熱・熱重量測定によって測定される溶け始め温度」とは、示差熱・熱重量測定装置(島津製作所製 DTG−60)を用い、該装置に測定サンプルをセットし、10℃毎分の昇温速度の条件で示差熱・熱重量測定を行い、溶解による吸熱ピークとその直前のラインに接線を引き、その交点を溶け始め温度(℃)とする。また融点は吸熱ピークの最下部時点の温度とする。
【0033】
本発明のHCA=NQ高純度結晶は、分子構造が規則正しく密に配列しているため、この難燃剤を混在させたエポキシ樹脂は、非結晶構造の難燃剤を混在させたエポキシ樹脂や、融点が低い難燃剤を混在させたエポキシ樹脂に比べ、積層板にしたときの、外部からの異物侵入の抑制効果に優れる。したがって、水分などの浸入を最小限に抑えるために、できる限り融点の高い難燃剤結晶を使用し積層板中の難燃剤を結晶状態で維持させることが難燃剤に起因する異物の侵入を防止する上で望ましい。
【0034】
結晶性を有する化合物は、不純物や異性体の種類とその含有量、結晶構造などにより固有の融点を示し、溶融した状態では溶融前に比べ極度に熱膨張率が大きくなる。
そして、結晶中に不純物や異性体の含量が増えれば溶け始め温度と融点が低下し、その両温度の間隔も大きい。融点だけ高い物を使用しても、この不純物含有などによる溶け始め温度が低ければ、得られたプリント基板の極細で高密度な配線上に各種部品を鉛フリーハンダで溶着する場合に、高温下での熱膨張による基板のひび割れや断線が生じ易くなる。
純度が高くなれば溶け始め温度と融点が共に高くなり、またその温度間隔も小さくなるため、鉛フリーハンダで溶着する場合にも、高温下での熱膨張による基板のひび割れや断線が生じ難い。また、不純物は分子の結晶構造を乱す作用もあり、外部から水分などの異物侵入も招きやすい。
【0035】
したがって、できる限り密に結晶が配列し、融点が高く純度の高い難燃剤の使用が望ましい。具体的には、溶け始め温度が280℃以上、かつ融点が291℃以上の難燃剤が好適である。因みに、溶け始め温度が280℃未満、及び融点が291℃未満の難燃剤は、上記したごとく熱膨張や外部からの異物混入に対する抑制効果は低い。この条件を満たす具体的難燃剤としては、上記式(1)で表されるHCA=NQ高純度結晶からなる難燃剤粉末が好適であることを確認した。
【0036】
HCA=NQ高純度結晶からなる難燃剤粉末は、エポキシ樹脂フイルム又は板状のプリプレグに混在されている状況下で熱プレスした時に結晶表面がエポキシ樹脂と反応して固定化する。これで難燃剤とエポキシ樹脂は相互に化学結合し、積層板に要求される強度など他物性の低下が抑制される。また、積層板中に点在する難燃剤結晶部位が、はんだ耐熱温度よりも高いため、該温度下での局部溶解による熱膨張やふくれなどの不具合は生じない。
【0037】
本発明者は、溶け始め温度292℃、融点295℃のHCA=NQ高純度結晶と、溶け始め温度246℃、融点250℃の市販の難燃剤「9−ヒドロ−10−〔2−(1,4−ジヒドロキシナフチル)〕−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシド(三光(株)製、商品名「HCA−HQ」)」をエポキシ樹脂、硬化剤などと混ぜ積層板に加工し比較した。
その結果、融点が295℃のHCA=NQ高純度結晶を使用した積層板の吸水率は約15%低下し、265℃の吸水はんだ耐熱試験でも熱膨張に伴うふくれ等の不具合は観察されなかった。一方、融点250℃のHCA−HQは、はんだ耐熱時に融解による熱膨張に伴うふくれ等の外観不良と一部の層間剥離が観察された。
【0038】
溶け始め温度と融点がはんだ耐熱温度(265℃)を下回る難燃剤を使用して比較すると、本発明は吸水率が下がり、耐熱性が向上している。本発明は、はんだ耐熱温度下でも結晶部位が溶けずに熱膨張に伴うふくれ等の不具合は生じていないが、他方は結晶部位の溶解による熱膨張が起こり、ふくれや層間剥離などの外観異常が発生した。特に、本発明の難燃剤を使用したことによる耐熱性向上と熱膨張の低下の優位差が観察された。
【0039】
また、溶け始め温度292℃、融点295℃のHCA=NQ高純度結晶と、溶け始め温度277℃、融点290℃の同種難燃剤市販品(三光(株)製、商品名「HCA−NQ」、以下「HCA=NQ汎用品」と記す。)をエポキシ樹脂、硬化剤などと混ぜ積層板に加工し比較した。
その結果、融点が295℃のHCA=NQ高純度結晶を使用した積層板の吸水率は約15%低下し、265℃の吸水はんだ耐熱試験でも吸水した水分蒸発に伴うふくれ等の不具合は観察されなかった。一方、融点290℃のHCA=NQ汎用品は、はんだ耐熱時に吸水した水分蒸発に伴うふくれ等の外観不良と一部の層間剥離が観察された。
【0040】
結晶構造の異なる同一組成難燃剤を使用して比較すると、本発明は吸水率が下がり、耐熱性が向上している。本発明は、結晶の吸水によるふくれ等の不具合は生じていないが、他方は結晶部位の吸水した水分蒸発による膨張が起こり、ふくれや層間剥離などの外観異常が発生した。主に、本発明の難燃剤を使用したことによる異物混入抑制の優位差が観察された。
【0041】
更に、HCA=NQ高純度結晶粉末をエポキシ樹脂と未反応のまま加工した積層板と、予めHCA=NQ高純度結晶粉末をエポキシ樹脂と反応させ、非結晶状態にして加工した積層板を比較した。結果は、HCA=NQ高純度結晶を結晶状態のまま維持させた積層板の方が吸水率で24%低下し、吸水はんだ耐熱試験でも吸水や熱膨張に伴うふくれ等の不具合は観察されなかった。一方、HCA=NQを予め反応させた方は、吸水及びそれに起因するはんだ耐熱試験で熱膨張に伴うふくれや層間剥離などの外観不良が観察された。
【0042】
HCA=NQ高純度結晶粉末を結晶状態のまま分散して積層板にしたものと、予めHCA=NQ高純度結晶粉末をエポキシ樹脂と反応させ、非結晶状態の溶液にして加工した積層板の比較に於いては、特に結晶状態と非結晶状態による吸水率の差が確認された。ここでも結晶状態を維持したまま積層板に加工することの優位差が確認された。
【0043】
(高融点難燃剤結晶の製造方法)
本発明に係る高融点難燃剤結晶の製造方法は、以下の工程1,2を行って、前記HCA=NQ高純度結晶を得ることを特徴としている。
【0044】
工程1:下記式(2)に示す通り、符号(a)で示す9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシドと、符号(b)で示す1,4‐ナフトキノンとを、誘電率10以下の不活性溶媒中で反応させることで副生物の含量を低減し、前記HCA=NQ(1)を主成分として含む反応組成物を高収率で得る工程、
【0045】
【化3】

【0046】
工程2:工程1で得られた反応組成物をエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、シクロヘキサノン、ベンジルアルコール、酢酸エステル、安息香酸エステルから選ばれる1種の溶媒又は2種以上の混合溶媒に溶解し、再結晶精製することによって、前記式(1)で表され、示差熱・熱重量測定によって測定される溶け始め温度が280℃以上であり、かつ融点が291℃以上であるHCA=NQ高純度結晶を得る工程。
【0047】
工程1において用いる誘電率10以下の不活性溶媒としては、エチレングリコール低級アルキルエーテル、プロピレングリコール低級アルキルエーテル、エチレングリコール低級アルキルエーテルアセテート、プロピレングリコール低級アルキルエーテルアセテート、ベンゼン、トルエン、キシレン、酢酸エステル、安息香酸エステルなどが挙げられ、その中でも酢酸エステルが好ましい。
また、工程1の反応は、温度80〜140℃中、1〜12時間程度行うことが好ましい。
【0048】
本発明に係る高融点難燃剤結晶の製造方法は、前記工程1,2を行うことで、前記式(1)で表され、示差熱・熱重量測定によって測定される溶け始め温度が280℃以上であり、かつ融点が291℃以上であるHCA=NQ高純度結晶を効率よく製造することができる。
【0049】
(難燃剤含有エポキシ樹脂組成物)
本発明の難燃剤含有エポキシ樹脂組成物は、未硬化のエポキシ樹脂に、前記HCA=NQ高純度結晶からなる難燃剤粉末を、未硬化のエポキシ樹脂に反応しない状態で全樹脂固形分100質量部中1〜35質量部分散させたものである。
【0050】
ここで使用するHCA=NQ高純度結晶からなる難燃剤粉末は、沈降などによる偏りを防止する目的やフイルム状などの薄物に加工する目的で、粒度の細かい均一な結晶粉末の使用が好ましい。具体的には、該難燃剤粉末の平均粒子径は20μm以下が好ましく、0.1〜5μmの範囲がより好ましい。難燃剤粉末の平均粒子径が50μmを超えると、難燃剤含有エポキシ樹脂組成物の成形性が悪くなり、薄物成形品を製造し難くなる。
【0051】
このHCA=NQ高純度結晶からなる難燃剤粉末は、全樹脂固形分100質量部に対して1〜35質量部の範囲で配合される。この添加量は1質量部以下では難燃性の効果が無く、また、35質量部を超えると難燃性の更なる向上は見られない反面、強度低下などが顕著になるので好ましくない。このHCA=NQ高純度結晶粉末の最適添加量は全樹脂固形分100質量部に対して10〜25質量部の範囲である。
【0052】
本発明の本発明の難燃剤含有エポキシ樹脂組成物に使用する未硬化のエポキシ樹脂は特に制限はないが、好適にはビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、リン変性エポキシ樹脂が用いられる。これらエポキシ樹脂は、単独でも複数併用しても差し支えない。
【0053】
本発明の難燃性エポキシ樹脂組成物は、硬化剤を使用して目的の成型物とするが、通常使用されるエポキシ樹脂の硬化剤であれば、特に制限はない。好適には、ジアミノジフェニルメタン、ジシアンジアミドなどのアミン類、ポリアミン樹脂類、ポリアミド樹脂類、ポリアミドイミド樹脂類、また、フェノール性OH基を2官能以上有するフェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールノボラック樹脂、メラミン変性フェノールノボラック樹脂、フェノールとトリアジン類の反応物、ベンゾオキサジン類化合物、グリオキサール−フェノール重縮合物、リン変性フェノール誘導体、リン変性ビスフェノール誘導体、酸無水物などが用いられる。これら硬化剤は、単独でも複数併用しても差し支えない。
【0054】
また、本発明の難燃性エポキシ樹脂組成物には、硬化を促進、調整する目的で硬化促進剤を添加する事が出来る。この硬化促進剤は特に制限はなく、エポキシ樹脂用硬化剤として従来より通常使用される各種硬化剤、例えば、酸無水物、ポリアミン系化合物、フェノール系化合物などを用いることができる。前記硬化剤は、1種類を単独使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0055】
本発明の難燃性エポキシ樹脂組成物には、前記以外の添加剤を適宜併用出来る。次に一例を挙げるが、これに制限されるものでは無い。具体的には水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、シリカなどの無機充填剤、モリブデンやチタン系無機化合物の難燃助剤、或いはポリビニルアセタール樹脂、SBR、BR、ブチルゴム、ブタジエン−アクリロニトリル共重合ゴムなどの有機ゴム成分などが挙げられる。
【0056】
本発明の難燃性エポキシ樹脂組成物は、前述したそれぞれの原料を均等に混合、分散し、目的の形状に加工を容易にする目的で、溶剤を単独或いは複数併用で用いることが出来る。次に一例を挙げるが、この溶剤についても目的に適えば特に制限はない。具体的には、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、メトキシプロパノール、プロパノール、ブタノールなどが挙げられる。
【0057】
本発明の難燃性エポキシ樹脂組成物は、HCA=NQ高純度結晶からなる難燃剤粉末、エポキシ樹脂、硬化剤を必須成分とし、さらに必要に応じて他の添加剤を適宜調合し、プリプレグ製造用のワニスなどを調製する。
【0058】
本発明の難燃剤含有エポキシ樹脂組成物は、未硬化のエポキシ樹脂に、HCA=NQ高純度結晶粉末を、未硬化のエポキシ樹脂に反応しない状態で全樹脂固形分100質量部中1〜35質量部分散させてなるものなので、HCA=NQ高純度結晶粉末の融点がはんだ耐熱温度よりも高いため、鉛フリーハンダで溶着する場合にもHCA=NQ高純度結晶粉末の結晶構造が維持され、高温下での熱膨張による基板のひび割れや断線を生じさせることがなく、長期使用に際しても水分や電解質などの影響を生じ難い。
【0059】
(プリプレグ)
本発明のプリプレグは、前記難燃剤含有エポキシ樹脂組成物を含み、フィルム状又は板状をなすものである。
図1は、本発明のプリプレグの一例を示す模式図である。このプリプレグ1は、未硬化のエポキシ樹脂2A中にHCA=NQ高純度結晶からなる難燃剤粉末3Aが均一に分散された構造になっている。未硬化のエポキシ樹脂2A中に分散された難燃剤粉末3Aは、溶融することなく、結晶状態を維持している。
【0060】
本発明のプリプレグは、前記難燃剤含有エポキシ樹脂組成物を用いて容易に製造することができる。例えば、前記HCA=NQ高純度結晶粉末、エポキシ樹脂、硬化剤を必須成分とし、さらに必要に応じて他の添加剤を適宜調合し、プリプレグ製造用のワニスを調製し、次いで、得られたワニスをガラスクロスなどの基材に含浸させた後、乾燥させることによってプリプレグを得る方法などが好ましい。このプリプレグの厚みや基材の材質等は特に限定されない。
【0061】
本発明のプリプレグは、前記難燃剤含有エポキシ樹脂組成物を一成分として、フイルム又は板状に加工してなるものなので、難燃剤の融点がはんだ耐熱温度よりも高いため、鉛フリーハンダで溶着する場合にもHCA=NQ高純度結晶からなる難燃剤粉末の結晶構造が維持され、高温下での熱膨張による基板のひび割れや断線を生じさせることがなく、長期使用に際しても水分や電解質などの影響を生じ難い。
【0062】
(難燃性積層板)
本発明の難燃性積層板は、前記フイルム又は板状のプリプレグと基板とを重ね合わせ、これらを熱プレスして積層一体化したものである。
基板としては、銅箔、合成樹脂フィルム、銅箔と樹脂層とが積層された銅張積層板、回路形成済みの銅張積層板などが挙げられる。
【0063】
図2は、本発明の難燃性積層板におけるエポキシ樹脂と難燃剤粉末の分散状態を示す模式図である。本発明の難燃性積層板は、難燃剤含有エポキシ樹脂層4を含む難燃性積層板であって、前記難燃剤含有エポキシ樹脂層4は、エポキシ樹脂2B中にHCA=NQ高純度結晶からなる難燃剤粉末3Bが分散され、該難燃剤粉末3Bの表面がエポキシ樹脂2Bと結合されている。
【0064】
本発明の難燃性積層板は、銅箔や銅張積層板などの基板と前記プリプレグとを重ね合わせ、熱プレスして積層一体化して構成され、その熱プレスによってプリプレグ中の難燃剤含有エポキシ樹脂組成物が硬化されるとともに、難燃剤粉末3Bの表面がエポキシ樹脂2Bと反応して結合し、固定化されている。
【0065】
本発明の難燃性積層板は、前記難燃剤含有エポキシ樹脂層4が1層以上あればよく、積層する他の銅板や合成樹脂製の基板の種類や枚数、難燃剤含有エポキシ樹脂層4の層数は特に限定されない。
【0066】
本発明の難燃性積層板は、前記フイルム又は板状のプリプレグと基板とを重ね合わせ、これらを熱プレスして積層一体化したものなので、積層板を加工したプリント基板の極細で高密度な配線上に各種部品を鉛フリーハンダで溶着する場合にも、高温下での熱膨張による基板のひび割れや断線を生じさせることがなく、長期使用に際しても水分や電解質などの影響が無いように吸湿、吸水性を大幅に低減し、高温耐熱性、高温信頼性に優れ、線膨張率の低い難燃性積層板が得られる。
【実施例】
【0067】
以下、実施例および比較例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0068】
実施例における積層板の物性評価は、次の通り行った。
煮沸吸水率(%):100℃煮沸水中2時間浸漬後の吸水率=(吸水後の質量−吸水前の質量)×100/吸水前の質量。
煮沸はんだ耐熱性:100℃煮沸水中6時間浸漬後、265℃のはんだ浴に20秒間浸漬し、ふくれなどの外観異常を目視により観察した。
【0069】
[実施例1]
9−ヒドロ−10−〔2−(1,4−ジヒドロキシナフチル)〕−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシド(HCA=NQ高純度結晶)の製造。
【0070】
工程1:
10リットルの四ツ口フラスコに9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシド(三光(株)製HCA) 1296gと酢酸ベンジル3888gを仕込み、反応釜には温度計、滴下ロートとコンデンサーを取り付けた。
【0071】
反応釜内部の雰囲気を窒素ガスで置換してシールした後、撹拌および昇温を開始した。反応釜内部の温度が100℃になったところで、あらかじめ1,4−ナフトキノン 948gを酢酸ベンジル2844gに溶かしておいた溶液を、釜温を100℃に保ちながら滴下ロートから8時間かけて全量投入した。さらに同条件下で4時間熟成した後、25℃まで冷却し、吸引ろ過にて反応組成物2625gを得た。
【0072】
工程2:
20リットルの四ツ口フラスコに工程1で得られた反応組成物2625gと酢酸ベンジル13125gを仕込み、再結晶精製により白色結晶性粉末のHCA=NQ高純度結晶1997gを得た。収率89.0% 、溶け始め温度292℃、融点295℃であった。
【0073】
[実施例2]
実施例1で作製したHCA=NQ高純度結晶(溶け始め温度292℃、融点295℃)25質量部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製「エピコート1001」)75質量部、フェノールノボラックエポキシ樹脂(ダウケミカル社製「DEN438」)20質量部、ジシアンジアミド3質量部、水酸化アルミニウム45質量部、2−エチル−4−メチルイミダゾール0.3質量部、メチルエチルケトン72質量部を均一に混合しワニスを調整した。
【0074】
当該ワニスを0.18mmのガラス布に含浸させ、150℃で5分加熱してプリプレグを作成した。このプリプレグを4枚重ね、その両側に18μmの銅箔を重ねて180℃、90分、2.5MPaの条件で熱プレスして積層板を得た。
【0075】
得られた銅張積層板の銅をエッチングで取り除き、煮沸吸水率、煮沸はんだ耐熱性、難燃性の評価を行った。結果は煮沸吸水率0.60%、煮沸はんだ耐熱性試験で熱膨張に伴うふくれ等、外観異常は観察されなかった。また、UL−94燃焼試験でV−0であった。
【0076】
[実施例3]
実施例1で作製したHCA=NQ高純度結晶(溶け始め温度292度、融点295℃)25質量部、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(DIC(株)製「N−673」)75質量部、フェノールノボラック樹脂(群栄化学(株)製「PSM6200」)24質量部、グリオキサール−フェノール重縮合物(ボーデンケミカル社製「DuriteSD−375B」)1質量部、水酸化アルミニウム45質量部、2−エチル−4−メチルイミダゾール0.3質量部、メチルエチルケトン72質量部を均一に混合しワニスを調整した。
【0077】
当該ワニスを0.18mmのガラス布に含浸させ、150℃で5分加熱してプリプレグを作成した。このプリプレグを4枚重ね、その両側に18μmの銅箔を重ねて180℃、90分、2.5MPaの条件で熱プレスして積層板を得た。
【0078】
得られた銅張積層板の銅をエッチングで取り除き、煮沸吸水率、煮沸はんだ耐熱性、難燃性の評価を行った。結果は煮沸吸水率0.40%、煮沸はんだ耐熱性試験で熱膨張に伴うふくれ等、外観異常は観察されなかった。また、UL−94燃焼試験でV−0であった。
【0079】
[実施例4]
実施例2の処方でHCA=NQ高純度結晶を55質量部(全樹脂固形分中37%)に変更して評価を行った。
【0080】
得られた銅張積層板の銅をエッチングで取り除き、煮沸吸水率、煮沸はんだ耐熱性、難燃性の評価を行った。結果は煮沸吸水率0.63%、煮沸はんだ耐熱性試験で外観異常は観察されなかったが、板の強度が弱く割れやすかった。また、UL−94燃焼試験でV−0であった。
【0081】
[比較例1]
実施例2の処方において、難燃剤を市販品である「9−ヒドロ−10−(2,5−ジヒドロキシフェニル)−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシド(三光(株)製「HCA−HQ」、溶け始め温度246℃、融点250℃)25質量部に変更して評価を行った。
【0082】
得られた銅張積層板の銅をエッチングで取り除き、煮沸吸水率、煮沸はんだ耐熱性、難燃性の評価を行った。結果は煮沸吸水率0.71%、煮沸はんだ耐熱性試験で外観に小さな熱膨張に伴うふくれが観察された。ふくれは、得られたプリント基板の極細で高密度な配線上に各種部品を鉛フリーハンダで溶着する場合に、高温下での基板のひび割れや断線原因となるため望ましくない。また、UL−94燃焼試験でV−0であった。
【0083】
[比較例2]
難燃剤として、実施例1で作製したHCA=NQ高純度結晶(9−ヒドロ−10−〔2−(1,4−ジヒドロキシナフチル)〕−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシド(三光(株)製「HCA−NQ」)25質量部を用い、これにビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製「エピコート1001」)75質量部、溶剤としてシクロヘキサノン100質量部にトリフェニルホスフィン0.3質量部を加え、150℃で5時間反応し、非結晶性のHCA=NQを含むリン変性エポキシ樹脂を調整した。
【0084】
この、リン変性エポキシ樹脂にフェノールノボラックエポキシ樹脂(ダウケミカル社製「DEN438」)20質量部、ジシアンジアミド3質量部、水酸化アルミニウム45質量部、2−エチル−4−メチルイミダゾール0.3質量部を均一に混合しワニスを調整した。
【0085】
得られた銅張積層板の銅をエッチングで取り除き、煮沸吸水率、煮沸はんだ耐熱性、難燃性の評価を行った。結果は煮沸吸水率0.79%、煮沸はんだ耐熱性試験で微少な熱膨張に伴うふくれが観察された。ふくれは、得られたプリント基板の極細で高密度な配線上に各種部品を鉛フリーハンダで溶着する場合に、基板のひび割れや断線原因となるため望ましくない。また、UL−94燃焼試験でV−0であった。
【0086】
[比較例3]
実施例2の処方において、難燃剤を9−ヒドロ−10−〔2−(1,4−ジヒドロキシナフチル)〕−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシド(三光(株)製「HCA=NQ汎用品」、溶け始め温度277℃、融点290℃)25質量部に変更して評価を行った。
【0087】
得られた銅張積層板の銅をエッチングで取り除き、煮沸吸水率、煮沸はんだ耐熱性、難燃性の評価を行った。結果は煮沸吸水率0.70%、煮沸はんだ耐熱性試験で外観に小さな吸水した水分蒸発に伴うふくれが観察された。ふくれは、得られたプリント基板の極細で高密度な配線上に各種部品を鉛フリーハンダで溶着する場合に、高温下での基板のひび割れや断線原因となるため望ましくない。また、UL−94燃焼試験でV−0であった。
【0088】
図3は、実施例1において製造したHCA=NQ高純度結晶と、比較例3で用いたHCA=NQ汎用品との示差熱・熱重量測定の結果を示すグラフである。
図3に示す通り、実施例1において製造したHCA=NQ高純度結晶は、HCA=NQ汎用品と比べ、溶け始め温度及び融点が明らかに高くなっていた。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の難燃剤含有エポキシ樹脂組成物、プリプレグ、及び難燃性積層板は、LSI、ICなどの部品を従来のハンダよりも溶融温度が高い鉛フリーハンダで溶着接続、固定する場合、高温下での熱膨張による基板のひび割れや断線を生じさせることがなく、長期使用に際しても水分や電解質などの影響が無いように吸湿、吸水性を大幅に低減し、高温耐熱性、高温信頼性に優れ、線膨張率を下げた難燃剤含有エポキシ樹脂組成物及び、プリプレグ、及び難燃性積層板用として利用するのに有用である。
【符号の説明】
【0090】
1…プリプレグ、2A…硬化前のエポキシ樹脂、2B…エポキシ樹脂、3A…難燃剤粉末、3B…表面がエポキシ樹脂と結合した難燃剤粉末。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工程1:9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシドと、1,4‐ナフトキノンとを、誘電率10以下の不活性溶媒中で反応させることで副生物の含量を低減し、反応組成物を高収率で得る工程、
工程2:工程1で得られた反応組成物をエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、シクロヘキサノン、ベンジルアルコール、酢酸エステル、安息香酸エステルから選ばれる1種の溶媒又は2種以上の混合溶媒に溶解し、再結晶精製することによって、次式(1)
【化1】

で表され、示差熱・熱重量測定によって測定される溶け始め温度が280℃以上であり、かつ融点が291℃以上である高融点難燃剤結晶を得る工程、
とを有することを特徴とする高融点難燃剤結晶の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の高融点難燃剤結晶の製造方法によって得られ、次式(1)
【化2】

で表され、示差熱・熱重量測定によって測定される溶け始め温度が280℃以上であり、かつ融点が291℃以上である高融点難燃剤結晶。
【請求項3】
未硬化のエポキシ樹脂に、請求項2に記載の高融点難燃剤結晶からなる難燃剤粉末を、未硬化のエポキシ樹脂に反応しない状態で全樹脂固形分100質量部中1〜35質量部分散させた難燃剤含有エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
請求項3に記載の難燃剤含有エポキシ樹脂組成物を一成分として、フイルム又は板状に加工したプリプレグ。
【請求項5】
請求項4に記載のフイルム又は板状のプリプレグと基板とを重ね合わせ、これらを熱プレスして積層一体化した難燃性積層板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−43910(P2013−43910A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−181435(P2011−181435)
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(391052574)三光株式会社 (16)
【Fターム(参考)】