高親和性抗ヒトIgE抗体
【課題】親抗体から作製された高親和性抗体、特に極めて親和性の高い抗IgE抗体の提供。
【解決手段】特定の配列を有する軽鎖可変領域、重鎖可変領域を有する抗体又は抗体断片、高親和性ヒトモノクローナル抗体であって、特に免疫グロブリンE(IgE)のアイソタイプの決定基に対して作製された抗体、並びにこれらの抗体の直接的な均等物及び誘導体。これらの抗体は、元の親抗体より少なくとも100倍強い親和性でそれぞれの標的に結合する。これらの抗体は疾病の診断、予防及び治療に有用である。
【解決手段】特定の配列を有する軽鎖可変領域、重鎖可変領域を有する抗体又は抗体断片、高親和性ヒトモノクローナル抗体であって、特に免疫グロブリンE(IgE)のアイソタイプの決定基に対して作製された抗体、並びにこれらの抗体の直接的な均等物及び誘導体。これらの抗体は、元の親抗体より少なくとも100倍強い親和性でそれぞれの標的に結合する。これらの抗体は疾病の診断、予防及び治療に有用である。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
アレルギーは、アレルゲンのような外来因子に対する過大な免疫反応により引き起こされる過敏感状態である。アレルゲンとの接触後直ちに起こるアレルギー反応によって特徴付けられる即時型(1型)過敏反応は、B細胞によって媒介されるものであり、抗原抗体反応に基づいている。遅延型過敏症はT細胞によって媒介されるものであり、細胞性免疫の機構に基づいている。近年では、「アレルギー」という語は1型過敏反応と同義的に用いられることが多くなってきている。
【0002】
即時型過敏反応は、アレルゲンに曝露した際に抗体を分泌するプラズマ細胞へと分化するB細胞による、免疫グロブリンクラスE抗体(IgE抗体)の生産に基づいた反応である。IgE誘導性反応は、アレルゲンが体内に侵入した部位において、すなわち粘膜の表面及び/又は局部リンパ節において起こる局所的な現象である。局所的に生産されたIgEは最初に局部のマスト細胞を感作し、すなわちマスト細胞の表面上においてIgE抗体がその定常領域でFcεレセプターと結合し、次いで「溢流した」IgEは循環に入り、全身の循環している好塩基球上及び組織に固定されているマスト細胞上の両方にあるレセプターと結合する。結合したIgEがその後アレルゲンと接触すると、アレルゲンの結合によってFcεレセプターが架橋され、細胞に脱顆粒及びヒスタミン、プロスタグランジン、ロイコトリエンなどのような多くの過敏症媒介因子の放出を生じさせる。これらの物質の放出が即時型過敏反応に典型的な臨床症状、すなわち気道又は腸における平滑筋の収縮、小血管の拡張並びに水及び血漿タンパク質に対する透過性の増大、例えばアレルギー性鼻炎、アトピー性湿疹及び喘息、並びにかゆみ及び痛みをもたらす皮膚における神経終末の刺激を引き起こす粘液の分泌の原因となる。その上、いくつかのB細胞は、アレルゲンに最初に接触した後、細胞表面上にIgEを発現することによって表面IgE陽性B細胞(slgE+ B細胞)の「記憶プール」を形成するため、アレルゲンに二度目に接触した時の反応は激化する。
【0003】
IgEのレセプターとして主要なものは、高親和性レセプターFcεRIと低親和性レセプターFcεRIIの二つである。FcεRIは主にマスト細胞及び好塩基球の表面上に発現されるが、FcεRIの低レベルの発現はヒトランゲルハンス細胞、樹状細胞、及び単球上でも見られ、そこではIgEに媒介されるアレルゲンの提示において機能している。さらに、FcεRIはヒト好酸球及び血小板上でも報告されている(Hasegawa, S. et. al., Hematopoiesis, 1999, 93:2543-2551)。FcεRIはB細胞、T細胞、又は好中球の表面では認められない。ランゲルハンス細胞及び皮膚の樹状細胞上でのFcεRIの発現は、アレルギー患者においてIgEが結合した抗原の提示に機能的及び生物学的に重要である(Klubal R. et al, J. Invest. Dermatol. 1997, 108 (3):336-42)。
【0004】
低親和性レセプターFcεRII(CD23)は、細胞の原形質膜由来の長いα‐ヘリックス構造のコイル状の軸から伸びた頭部構造を有する3つの同一のサブユニットを包含するレクチン様分子である(Dierks, A.E. et al., J. Immunol. 1993,150:2372-2382)。IgEと結合すると、FcεRIIはIgEの合成の調節に関与するB細胞上のCD21と会合する(Sanon, A. et al., J. Allergy Clin. Immunol. 1990, 86:333-344, Bonnefoy, J. et al., Eur. Resp. J. 1996, 9:63s-66s)。FcεRIIはアレルゲンの提示に関して長い間認識されてきた(Sutton and Gould ,1993, Nature, 366:421-428)。上皮細胞上のFcεRIIに結合したIgEは特異的且つ迅速なアレルゲンの提示の原因となっている(Yang, P.P., J. Clin. Invest., 2000, 106:879-886)。FcεRIIは、B細胞、好酸球、血小板、ナチュラルキラー細胞、T細胞、濾胞樹状細胞及びランゲルハンス細胞を包含する数種の細胞型上に存在する。
【0005】
FcεRI及びFcεRIIと相互作用するIgE分子上の構造の構成要素もまた同定された。変異誘発研究により、CH3ドメインがIgEのFcεRI(Presta et al., J. Biol. Chem. 1994, 269:26368-26373; Henry A.J. et al., Biochemistry, 1997, 36:15568-15578)及びFcεRII (Sutton and Gould, Nature, 1993, 366: 421-428; Shi, J. et al., Biochemistry, 1997, 36:2112-2122)両方との相互作用を媒介するということが示された。高親和性及び低親和性レセプター両方への結合部位は、二つのCH3ドメインにわたる中心回転軸に沿って対称的に位置している。FcεRI結合部位は、CH3ドメイン中のCH2ドメインの接続部に近い外向き側のところに位置しているが、一方でFcεRII結合部位はCH3のカルボキシ末端上にある。
【0006】
アレルギーの治療のために有望な構想は、IgEのアイソタイプに特異的であり従ってIgEに結合することができるモノクローナル抗体の適用を包含する。この方法は、アレルギーの誘導において最も初期に起こる現象でありアレルギー状態を持続させるIgE免疫反応を下方制御することによってアレルギー性反応を阻害することに基づいている。他のクラスの抗体の反応は影響されないので、即時型の及び長く持続するアレルギー症状両方への効果が達成される。ヒト好塩基球密度についての初期の研究により、患者の血漿中のIgEレベルと好塩基球当たりのFcεRIレセプター数との間の相関が示された(Malveaux et al., J. Clin. Invest., 1978, 62:176)。それによると、アレルギー及び非アレルギーの人におけるFcεRI密度は、好塩基球当たり104から106個に及ぶ。アレルギー性疾患の治療に抗IgEを用いると、循環するIgE量が治療前のレベルの1%まで減少することがその後示された(MacGlashan et al., J. Immunol., 1997, 158:1438-1445)。MacGlashanは、患者の血清中で循環しているフリーなIgEと結合する全抗IgE抗体で治療された患者から得られた血清を解析した。彼らは患者の循環するIgEのレベルを低下させることで好塩基球の表面上に存在するレセプターの数を低下させることができるということを報告した。従って、彼らは、好塩基球及びマスト細胞の表面上のFcεRI密度は循環するIgE抗体のレベルによって直接又は間接的に調節されているという仮説を立てた。
【0007】
さらに近年では、WO 99/62550において、FcεRI及びFcεRII結合部位に結合してIgEのレセプターへの結合を遮断するIgE分子及び断片の利用が開示された。しかしながら、これらのアレルギー性疾患の管理のための有害な副作用のない効果的な治療法は限られている。アレルギー性疾患の治療への取り組みのひとつは、アレルギー性鼻炎及び喘息を治療するためにヒト化抗IgE抗体を用いることを包含する(Corne, J. et al., J. Clin. Invest.1997, 99:879-887; Racine-Poon, A. et al., Clin. Pharmcol. Ther. 1997, 62:675-690; Fahy, J.V. et al., Am. J. Resp. Crit. Care Med. 1997,-155:1824-1834; Boulet, L. P. et al., Am. J. Resp. Crit. Care Med., 1997,155:1835-1840; Milgrom, E. et al., N. Engi. J. Med., 1999, 341:1966-1973)。これらの臨床データは、IgEのレセプターへの結合を阻害することはアレルギー性疾患を治療するための方法として有効であることを示している。
【0008】
抗アレルギー試薬として適した抗体は、IgE産生プラズマ細胞へと分化する表面IgE陽性B細胞と反応し、そのようなB細胞を機能上除去するために用いることができるものである。しかしながら、IgEに対する抗体は、原理上はFcεレセプターに架橋することによりIgE感作マスト細胞からの媒介物質の放出をも誘導し、血清IgE及びslgE+ B細胞レベルに及ぼされる有益な効果と拮抗することになる。従って、アレルギーの治療に適用可能な抗体は、感作マスト細胞上及び好塩基球上に結合したIgEとは反応しないがslgE+ B細胞を認識する能力を保持しているものでなければならない。
【0009】
そのようなIgEアイソタイプ特異的な抗体は、Chang et al. (Biotechnology 8, 122-126 (1990))、欧州特許第EP0407392号、及び例えば米国特許第5,449,760号のような数種の米国特許に記載されている。しかしながら、開示されている抗体はヒト起源ではないので、外来タンパク質としての免疫原性を有しているため、ヒトへの適用にはあまり適していない。この弱点は、例えばげっ歯類の抗IgEモノクローナル抗体を、げっ歯類の抗体の可変領域とヒト抗体の定常領域を組み合わせたキメラ抗体に転換することによって、潜在的に減らすことができる。この方法は、げっ歯類の親抗IgE抗体の抗原結合部位を保存し、一方でヒトのアイソタイプとエフェクターの機能を付与するものである。キメラ抗体の免疫原性は、げっ歯類の相補性決定領域(CDR)とも呼ばれる超可変領域をヒト軽鎖及び重鎖可変領域のフレームワーク中に移植し、ヒト抗体を再構成させることによって、さらに低下させることができる。該技術は、抗原特異的なげっ歯類のCDR配列を「一般的な」ヒト重鎖及び軽鎖可変領域中に存在する配列と置換又は組換え移植することを包含する(米国特許第6,180,370号)。
【0010】
天然の無傷の免疫グロブリン又は抗体はそれぞれの上腕部末端に標的結合部位を有する概ねY字型の4量体分子を包含する。標的結合部位は、軽鎖可変領域が結合した重鎖可変領域から成る。より具体的に言えば、抗体の標的結合部位は本質的に重鎖(VH)の可変領域の3つの相補性決定領域(「CDR」)及び軽鎖(VL)の可変領域の3つのCDRで形成される。VL及びVHの両鎖において、CDRは4つのフレームワーク領域(FR)と交互して一般式
(i) FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4 (I)
のポリペプチド鎖を形成しており、ここでポリペプチド鎖はN末端から始まりC末端で終わるように記載している。VH及びVL鎖のCDRはそれぞれH1、H2、H3及びL1、L2、L3とも呼ばれる。何がFR又はCDRを構成しているかの決定は、通常同種内で作製された多数の抗体のアミノ酸配列を比較することによって行なわれ、同定のための一般的な規則はこの分野において公知である("Sequences of proteins of immunological interest", Kabat E. A. et al., US department of health and human service, Public health service, National Institute of Health)。
【0011】
軽鎖可変領域による結合のエネルギー収支への寄与は、結合した重鎖可変領域による寄与と比較して小さく、同定された重鎖可変領域は固有の抗原結合活性を有する。そのような分子は一般に単一ドメイン抗体と呼ばれる(Ward, E. S. et al., Nature 341, 544-546 (1989))。
【0012】
CDRは、その領域内でβ−シートフレームワークに結合するループを形成する。アミノ酸配列とループ構造との間の関係はカノニカル構造モデルによって述べることができる(Chothia et al., Nature 342, 887-883 (1989))。このモデルによると、抗体はごく限られた主鎖のコンフォメーション又はそれぞれの超可変領域に対する「カノニカル構造」のみを有する。該コンフォメーションは、少数の鍵となるアミノ酸残基がCDR中の特定の部位に存在することにより、及びあるループに関してはフレームワーク領域中に存在することにより決定される。異なる免疫グロブリン中で同一のコンフォメーションをとる超可変領域は、これらの部位において同一又は極めて類似したアミノ酸残基を有する。
【0013】
CDR移植はモノクローナル抗体に対して行なわれ、げっ歯類CDRドナー抗体よりも顕著に低い結合親和性を有するヒト化したヒト抗体をもたらす。いくつかの例においては、CDR移植産物において満足すべき抗原結合活性を得るためにはCDRの移転の他にヒト配列のフレームワーク内の変化も必要となるということがわかってきた。
【0014】
Queenら(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86, 10029-10033 (1989))は、マウス抗Tacモノクローナル抗体由来のCDRがヒトフレームワーク内に移植可能であることを開示した。該ヒトフレームワークはマウス配列との相同性が最大になるように選択された。著者らは、CDR又は抗原との相互作用を十分に起こし得るだけ近いFR内アミノ酸残基を同定するために、マウス親抗体のコンピューターモデルを用いた。これらの残基をマウス配列中で認められる残基に変異させた。該ヒト化抗Tac抗体の親和性はマウス抗Tac抗体のおよそ1/3程度でしかなく、この抗体にヒトの特徴を維持させることは問題であった。
【0015】
免疫原性のリスクを低下させるため及び例えばアトピー性皮膚炎のような極めて高レベルのIgEを伴う疾患への臨床的適用を拡張するため、極めて高レベルのIgEを伴う疾患の治療にはより高い親和性を有する抗体が必要とされ得る。従って、ヒト化の水準が高く、且つIgEへの親和性が非常に高い抗IgE抗体を得ることが望ましい。本発明の抗体は、非常に高い親和性と非常に高いヒト配列との相同性を有する、免疫原性のリスクが低い抗ヒトIgE抗体である。
【0016】
従って、疾患の治療に必要な抗体の量を減少でき、それにより薬剤の免疫原性に由来する潜在的な副作用と患者にかかる費用を低下させることができる、親和性をより高めたヒト化抗体が必要とされている。さらに、本発明は高親和性抗体を同定する確率を向上させるものである。
【発明の概要】
【0017】
本発明は、親抗体から作製された高親和性抗体、特に極めて親和性の高い抗IgE抗体に関する。これらの高親和性抗体は、約100倍から約5000倍の範囲で親和性が増大しており、元の親抗体より少なくとも20倍以上強い結合親和性で標的エピトープに結合する。
【0018】
本発明はまた、他の方法以上に顕著に結合親和性を増大させる迅速且つ効率的な方法として非ヒト抗体のヒト化とアフィニティーマチュレーションを組み合わせる、親抗体から前記のような高親和性抗体を作製する方法に関する。この方法は、ランダムに置換したCDR及び/又はフレームワーク領域のライブラリーを作製すること並びに高親和性分子をスクリーニングすることによって、親抗体分子のCDR及びフレームワーク領域を同時に又は逐次的に修飾することを包含する。
【0019】
本発明の1つの具体例は
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】抗体のクローニング及びスクリーニングに用いたファージベクターの模式図である。
【図2】変異抗体を作製するのに有用なオリゴヌクレオチドの模式図である。
【図3】図3Aは、マウス抗IgE抗体TES-C21の軽鎖と、L16及びJK4を結合したヒト鋳型との比較図である。図3Bは、TES-C21の重鎖と、DP88及びJH4bを結合したヒト鋳型との比較図である。
【図4】親TES-C21と比較して高い親和性を有するフレームワーク残基変異体の表である。
【図5】図5A−Bは、クローン4, 49, 72, 78, 及び136のELISA力価曲線を、親TES-C21 Fab及びネガティブコントロール(5D12)と比較して示した図である。
【図6】クローン2C, 5A, 及び5Iの阻害アッセイを、親TES-C21及びネガティブコントロール抗体と比較して示した図である。
【図7】IgEに対する親和性の増大をもたらした有益な変異の組み合わせを有するクローンの配列を示す。
【図8A】クローン136, 1, 2, 4, 8, 13, 15, 21, 30, 31, 35, 43, 44, 53, 81, 90, 及び113に対する軽鎖可変領域全体のフレームワーク配列を示す。
【図8B】クローン136, 1, 2, 4, 8, 13, 15, 21, 30, 31, 35, 43, 44, 53, 81, 90, 及び113に対する軽鎖可変領域全体のフレームワーク配列を示す。
【図9A】35個のクローンに対する重鎖可変領域全体のフレームワーク配列を示す。
【図9B】35個のクローンに対する重鎖可変領域全体のフレームワーク配列を示す。
【図10A】クローン136に対する完全な重鎖及び軽鎖配列を示す。
【図10B】クローン2Cに対する完全な重鎖及び軽鎖配列を示す。
【図10C】クローン5Iに対する完全な重鎖及び軽鎖配列を示す。
【図10D】クローン5Aに対する完全な重鎖及び軽鎖配列を示す。
【図10E】クローン2Bに対する完全な重鎖及び軽鎖配列を示す。
【図10F】クローン1136-2Cに対する完全な重鎖及び軽鎖配列を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
定義
本明細書において用いられる語は、当業者が用いる一般的及び典型的な意味で解釈される。しかしながら、出願人は以下の語について下記の通りの特別な定義を与えることを望む。
【0022】
ある抗体鎖ポリペプチド配列について、「実質的に同一」という文言は、基準ポリペプチド配列と少なくとも70%、又は80%、又は90%、あるいは95%の配列同一性を示す抗体鎖と解釈され得る。核酸配列についての該語句は、基準核酸配列と少なくとも約85%、又は90%、又は95%、あるいは97%の配列同一性を示すヌクレオチド配列と解釈され得る。
【0023】
「同一性」又は「相同性」という語は、候補配列において比較対象となる対応配列の残基と同一であるアミノ酸配列の百分率を意味しており、両者の比較は必要に応じて候補配列と対応配列とを整列化しギャップを挿入した後に行なわれ、完全配列に対する最大同一性パーセントとして得られ、いかなる保存的置換も配列同一性の一部としては考慮しないものとする。N末端又はC末端における伸長又は付加は、同一性又は相同性を低下させないものとする。整列化のための方法及びコンピュータープログラムはこの分野で周知である。配列同一性は配列解析ソフトウェアを用いて測定され得る。
【0024】
「抗体」という語は最も広義の意味で用いられ、特にモノクローナル抗体(完全長モノクローナル抗体を含む)、ポリクローナル抗体、及び多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)を包含する。抗体(Ab)及び免疫グロブリン(Ig)は同様の構造的特徴を有する糖タンパク質である。抗体が特定の標的に対する結合特異性を示すのに対し、免疫グロブリンは抗体及び標的特異性を欠いた他の抗体様分子の両方を包含する。ネイティブな抗体及び免疫グロブリンは通常約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質であり、二つの同一な軽(L)鎖及び二つの同一な重(H)鎖から成る。それぞれの重鎖は一方の末端に多数の定常領域が連結した可変領域(VH)を有する。それぞれの軽鎖は一方の末端に可変領域(VL)を、もう一方の末端に定常領域を有する。
【0025】
ここで用いる「抗ヒトIgE抗体」とは、高親和性レセプターFcεRIへのIgEの結合を阻害又は実質的に低下させることができるようにヒトIgEに結合する抗体を意味する。
【0026】
抗体の可変領域の文脈中における「可変」という語は、可変領域のある一部分が抗体間で大きく配列が異なっていて、特定の抗体それぞれが特定の標的に対して結合及び特異性を発揮する際に用いられるという事実を言う。しかしながら、可変性は抗体の可変領域に渡って均等に分布しているわけではない。可変性は、軽鎖及び重鎖可変領域の両方において、超可変領域としても知られる相補性決定領域(CDR)と呼ばれる3つのセグメントに集中している。可変領域の中でより高度に保存された部分はフレームワーク(FR)と呼ばれる。ネイティブな重鎖及び軽鎖の可変領域はそれぞれ4つのFR領域を包含し、該FRは主としてβ−シート立体配置を形成し、3つのCDRで連結されており、該CDRはβ−シート構造を連結し場合によってはその構造の一部を形作るループを形成する。各鎖中のCDRはFR領域によって近接した配置となり、他の鎖のCDRと共に抗体の標的結合部位の形成に寄与する(Kabatらを参照)。ここで用いる、免疫グロブリンアミノ酸残基の番号付けは、他に断りがない限りKabatらの免疫グロブリンアミノ酸残基番号付けシステム(Sequences of Proteins of Immunological Interest, National Institute of Health, Bethesda, Md. 1987)に基づき行なうこととする。
【0027】
「抗体断片」という語は、完全長抗体の一部分、一般には標的結合又は可変領域部分を指す。抗体断片の例として、Fab, Fab', F(ab')2及びFv断片が挙げられる。抗体の「機能性断片又は類似物」という語句は、完全長抗体と共通した質的生物活性を有する化合物のことである。例えば、抗IgE抗体の機能性断片又は類似物は、そのような分子が高親和性レセプターFcεRIへ結合する能力を有することを妨げる又は実質的にその能力を低下させることができるようにIgE免疫グロブリンに結合できるものである。ここで抗体に対して用いる「機能性断片」とは、Fv, F(ab)及びF(ab')2断片のことを言う。「Fv」断片とは、完全な標的認識及び結合部位を包含する最小抗体断片のことである。この領域は、1つの重鎖及び1つの軽鎖の可変領域が強固に非共有結合的に会合した二量体(VH-VL二量体)からなる。この立体配置において、それぞれの可変領域の3つのCDRは相互作用し、VH-VL二量体の表面上に標的結合部位を規定する。6つのCDRが共同で抗体に標的結合特異性を付与する。しかしながら、単一の可変領域(すなわち標的に特異的な3つのCDRのみを含む、Fvの半分)であっても、完全な結合部位より親和性は劣るものの、標的を認識し結合する能力を有している。「一本鎖Fv」又は「sFv」抗体断片は抗体のVH及びVL領域を包含し、ここでこれらの領域は一本のポリペプチド鎖中に存在する。一般に、Fvポリペプチドは、VH領域とVL領域との間にポリペプチドリンカーをさらに包含しており、sFvが標的結合のために望ましい構造をとることができるようになっている。
【0028】
Fab断片は軽鎖の定常領域及び重鎖の一つ目の定常領域(CH1)を含む。Fab'断片は、重鎖CH1領域のカルボキシ末端に抗体ヒンジ領域由来の1又は2以上のシステインを含む少数の残基が付加されている点でFab断片と異なっている。F(ab')断片はF(ab')2ペプシン消化産物のヒンジシステインにおけるジスルフィド結合を切断して得られた産物である。抗体断片のその他の化学共役は当業者に公知である。
【0029】
ここで用いる「モノクローナル抗体」という語は、実質的に均質な抗体集団から得られた抗体、すなわち、集団中の個々の抗体が微量に存在しうる自然突然変異を除き同一である抗体を言う。モノクローナル抗体は特異性が高く、単一の標的部位に結合する。その上、異なる決定基(エピトープ)に結合する異なる抗体を典型的に含む従来の(ポリクローナル)抗体試料とは対照的に、それぞれのモノクローナル抗体は標的上の単一の決定基に結合する。その特異性に加え、モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ培養によって他の免疫グロブリンが混入しないように合成することができるという点で有利である。修飾語「モノクローナル」とは、実質的に均質な抗体集団から得られた抗体の性状を示し、なんらかの特定の方法によって抗体を生産されることが必要であると解釈されるものではない。例えば、本発明で用いられるモノクローナル抗体は、周知技術を用いてファージ抗体ライブラリーから単離され得る。本発明で用いられる親モノクローナル抗体は、Kohler及びMilstein, Nature 256, 495 (1975)により初めて示されたハイブリドーマ法により、又は組換え法により作製され得る。
【0030】
非ヒト(例えばマウス)抗体の「ヒト化」形態は、非ヒト免疫グロブリンから誘導された最小配列を含む、キメラ免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖、又はその断片(例えばFv, Fab, Fab', F(ab')2又は抗体の他の標的結合サブ配列)である。一般に、ヒト化抗体は少なくとも1つ、典型的には2つの可変領域の実質的に全てを包含し、その中において全て又は実質的に全てのCDR領域は非ヒト免疫グロブリンのCDR領域に相当し、全て又は実質的に全てのFR領域はヒト免疫グロブリンコンセンサス配列のFR領域となっている。ヒト化抗体はまた、免疫グロブリン定常領域(Fc)の、典型的には選択されたヒト免疫グロブリン鋳型のFcの少なくとも一部分も含み得る。
【0031】
「細胞」、「セルライン」及び「細胞培養物」という語は後代を包含する。意図的な又は偶発的な変異のために、全ての後代はDNAの内容が完全に同一ではなくなり得るということも知られている。当初形質転換された細胞において選抜されたものと同様の機能又は生物特性を有する変異後代が包含される。本発明において用いられる「宿主細胞」は一般的に原核又は真核宿主である。
【0032】
DNAでの細胞性生物の「形質転換」は、染色体外要素として又は染色体中への挿入によって複製可能となるように、生物中にDNAを導入することを意味する。DNAでの細胞性生物の「トランスフェクション」は、例えば発現ベクターのようなDNAを、いずれかのコード配列が実際に発現しているか否かにかかわらず細胞又は生物に取り込ませることを言う。「トランスフェクトされた宿主細胞」及び「形質転換された」という語は、DNAが導入された細胞を指す。該細胞を「宿主細胞」と呼び、原核細胞でも真核細胞でもあり得る。典型的な原核宿主細胞は大腸菌の種々の系統を包含する。典型的な真核宿主細胞は、チャイニーズハムスター卵巣又はヒト由来の細胞のような哺乳動物細胞である。導入されるDNA配列は、宿主細胞と同じ種に由来しても宿主細胞と異なる種に由来してもよく、又はいくつかの外来DNA及びいくつかの相同DNAを包含するハイブリッドDNA配列であり得る。
【0033】
「ベクター」という語は、適当な宿主中でDNAの発現に影響し得る適当な制御配列と操作可能な状態で連結しているDNA配列を含むDNA構築物を意味する。そのような制御配列は、転写をもたらすプロモーター、転写を調節する任意のオペレーター配列、適切なmRNAリボソーム結合部位をコードする配列、並びに転写及び翻訳の終止を制御する配列を包含する。ベクターはプラスミド、ファージ粒子、又は単なる潜在的ゲノム挿入であり得る。ひとたび適切な宿主中に形質転換されると、ベクターは宿主ゲノムとは独立して複製及び機能し得、又はゲノム自体に組み込まれる場合もあり得る。プラスミドはベクターの最も一般的に用いられる形態であるので、本明細書において時々「プラスミド」及び「ベクター」を同義的に用いる。しかしながら本発明は、均等な機能を発揮する、現在公知の又は将来的に公知となる他の形態のベクターをも包含する。
【0034】
発現「制御配列」とは、操作可能な状態で連結されたコード配列を特定の宿主生物中で発現するために必要とされるDNA配列のことを言う。例えば、原核生物に適した制御配列は、プロモーター、任意でオペレーター配列、及びリボソーム結合部位を包含する。真核細胞はプロモーター、ポリアデニル化シグナル、及びエンハンサーを使用することが知られている。ポリペプチドの分泌に関与するタンパク質前駆体として発現される場合には、シグナルペプチド又は分泌リーダーのためのDNAがポリペプチドをコードするDNAと操作可能な状態で連結され得;配列の転写に影響する場合にはプロモーター若しくはエンハンサーが操作可能な状態でコード配列に連結され;又は配列の転写に影響する場合にはリボソーム結合部位が操作可能な状態でコード配列に連結され;あるいはリボソーム結合部位が翻訳を促進できるように配置される場合にはリボソーム結合部位が操作可能な状態でコード配列に連結される。一般に、「操作可能な状態で連結」とは、連結されるDNA配列が隣接していること、分泌リーダーの場合には隣接し且つ同じ読み枠内であるということを意味する。しかしながら、エンハンサーは隣接している必要はない。
【0035】
治療対象の「哺乳動物」とは、哺乳動物に分類されるいずれの動物をも指し、ヒト、家畜、ヒト以外の霊長類、及びイヌ、ウマ、ネコ、ウシなどのような、動物園、スポーツ若しくはペット用の動物を包含する。
【0036】
「エピトープタグした」という語は、ここでポリペプチドと関連して用いられる場合には、「エピトープタグ」に融合させたポリペプチドを指す。エピトープタグポリペプチドは、それに対する抗体を作製することができるエピトープを提供し得る十分な残基を有し、さらにポリペプチドの活性に干渉することがないように十分に短いものである。エピトープタグはまた、好ましくは抗体が他のエピトープと実質的に交差反応することがないようにかなり独特のものである。好適なタグポリペプチドは、一般的に少なくとも6アミノ酸残基を有し、通常約8〜50アミノ酸残基(好ましくは9〜30残基)である。例えば、flu HA タグポリペプチド及びそれの抗体12CA5 (Field et al, Mol Cell. Biol. 8: 2159-2165 (1988))); c-mycタグ並びに8F9, 3C7, 6E10, G4, B7及び9E10抗体 (Evan et al., Mol Cell. Biol. 5(12): 3610-3616 (1985)); 及び単純ヘルペスウイルス糖タンパクD (gD) タグ及びそれの抗体(Paborsky et al., Protein Engineering 3(6): 547-553 (1990)) などがある。ある具体例では、該エピトープタグは、インビボでIgG分子の血清中の半減期を延長することに関与する、IgG分子(例えばIgG1, IgG2, IgG3又はIgG4)のFc領域のエピトープであり得る。
【0037】
ここで用いる「標識」という語は、例えば抗体のような分子又はタンパク質に直接又は間接的に結合させることができる、検出可能な化合物又は組成物を指す。標識はそれ自体が検出可能であり得(例えば放射性標識又は蛍光標識)、又は酵素標識の場合には基質化合物又は組成物の検出可能な化学変化を触媒し得る。
【0038】
ここで用いられる「固相」とは、本発明の抗体を付着させることができる非水性のマトリックスを意味する。ここで包含される固相の例には、部分的に又は全体がガラス(例えば制御された多孔性ガラス(controlled pore glass))、多糖類(例えばアガロース)、ポリアクリルアミド、ポリスチレン、ポリビニルアルコール及びシリコーンで形成される固相が包含される。ある具体例では、文脈に応じて、固相はアッセイプレートのウェルを包含し;また別の例では精製カラム(例えばアフィニティークロマトグラフィーカラム)を指す。
【0039】
ここで用いられる「IgE媒介疾患」という語は、免疫グロブリンIgEの過剰生産及び/又はIgEへの過敏反応により特徴付けられる状態又は疾病を意味する。特に、例えば:喘息、アレルギー性鼻炎及び結膜炎(枯草熱)、湿疹、蕁麻疹、アトピー性皮膚炎、並びに食物アレルギーを含む、アナフィラキシー性過敏反応又はアトピー性アレルギーに関連する状態を包含するものと解釈される。例えば蜂刺傷、蛇咬傷、食物又は薬品により引き起こされるアナフィラキシーショックの重篤な生理状態もまたこの語の範疇に含まれる。
【0040】
抗体の生成
起点となる又は「親」抗体は、この分野において利用可能なそのような抗体を作製するための技術を用いて調製することができる。これらの技術は周知である。出発抗体を作製するための典型的な方法は後段においてより詳細に記載する。これらの記載は親抗体を作製又は選択するための可能な代替技術であって、そのような分子を生成する方法を限定するものではない。
【0041】
抗体の結合親和性は本発明の高親和性抗体の生成に先行して測定される。抗体はまた、例えば治療上の効果を評価するために、それ以外の生物活性アッセイにも付すことができる。そのようなアッセイは当業者に公知であり、標的及び抗体の意図する用途に依存する。
【0042】
特定のエピトープに結合する抗体(例えば高親和性レセプターへのIgEの結合を阻害する抗体)を選抜するため、"Antibodies: A Laboratory Manual" (Cold Spring Harbor Laboratory, Ed Harlow and David Lane (1988))に記載されているようなルーチンな交差阻害アッセイを行なうことができる。あるいは、抗体が目的のエピトープと結合する部位を決定するためにエピトープマッピングを行なうことができる。任意で、抗体を作製するために用いられる標的の相同物に対する抗体の結合親和性(相同物が異なる種に由来する場合)は、この分野で公知の技術を用いて評価し得る。1つの具体例において、他の種とは、前臨床研究において抗体を投与される非ヒト哺乳動物である。従って、その種とはアカゲザル、カニクイザル、ヒヒ、チンパンジー及びマカクのような非ヒト霊長類である。他の具体例では、その種とは例えばげっ歯類、ネコ又はイヌである。
【0043】
親抗体は、本発明に基づき、親抗体よりも高い又は強い標的結合親和性を有する抗体を作製するために改変される。得られる高親和性抗体は好ましくは、親抗体の標的への結合親和性よりも少なくとも約10倍、又は少なくとも約20倍、又は少なくとも約500倍あるいは1000から5000倍高い標的結合親和性を有する。必要とされる又は望ましい結合親和性の向上の度合いは、親抗体の当初の結合親和性に依存するだろう。
【0044】
一般に、親抗体から高親和性抗体を作製するための方法は、以下の工程を包含する:
【0045】
1. 目的の標的と結合し、重鎖及び軽鎖可変領域を有する親抗体を得る又は選択する。これは伝統的なハイブリドーマ技術、ファージディスプレイ技術、又は標的特異的抗体を作製するその他の方法により行なわれる。
【0046】
2. 親のフレームワークと近い配列を有するフレームワーク配列、好ましくはヒト鋳型配列を選択する。該鋳型は例えばその全長が同程度であること、CDRの大きさ、フレームワークとCDRとの間の接続部に位置するアミノ酸残基、全体的な相同性などに基づいて選択され得る。選択される鋳型は1以上の配列の混合物であってもよく、又はコンセンサス鋳型であり得る。
【0047】
3. それぞれの及び全ての可能なCDR部位においてランダムなアミノ酸置換を作製することにより、クローンのライブラリーを作製する。ヒトフレームワーク鋳型中の、例えばCDRと隣接する又は結合や折り畳みに影響しうるアミノ酸を、全ての可能なアミノ酸にランダムに置換し、フレームワーク置換ライブラリーを作製してもよい。これらのフレームワーク置換について、標的への結合及び抗体の折り畳みに対するそれらの潜在効果を評価することができる。フレームワーク中のアミノ酸置換は、CDR中のアミノ酸置換と同時に又は逐次的に行なわれ得る。オリゴヌクレオチド合成による変異体ライブラリーを作製するための1つの方法。
【0048】
4. 工程(3)で作製された重鎖及び/又は軽鎖変異体を包含する発現ベクターを構築する。該ベクターは化学式:FRH1-CDRH1-FRH2-CDRH2-FRH3-CDRH3-FRH4(I) 及びFRL1-CDRL1-FRL2-CDRL2-FRL3-CDRL3-FRL4 (II)を包含し得、ここでFRL1, FRL2, FRL3, FRL4, FRH1, FRH2, FRH3及びFRH4は工程3で選び出されたフレームワーク鋳型軽鎖及び重鎖配列の変異を表し、CDRは親抗体CDRの変異CDRを表す。このような軽鎖及び重鎖配列を含むベクターの例を図1に示す。
【0049】
5. 特定の標的に対してクローンライブラリーをスクリーニングし、標的に結合するクローンから結合親和性が向上したものを選抜する。親分子よりも大きい親和力で結合するクローンが選択され得る。最適な高親和性候補は、親抗体と比較して考え得る最大の結合親和性を有し、好ましくは20倍、100倍、1000倍又は5000倍を超える結合親和性を有する。選ばれた変形例が、グリコシレーション部位又は免疫原性部位中に導入されたような望ましくないアミノ酸を含んでいる場合は、そのようなアミノ酸をより有益なアミノ酸残基に置換し、結合親和性を評価し直してもよい。
【0050】
この方法を用いて、完全にヒトの親抗体からCDR領域のみをランダムに置換し、ヒトフレームワーク領域を無傷の状態で残して高親和性抗体を作製してもよい。
【0051】
改良された高処理スクリーニング技術および図1に示したようなベクターによって、当業者は任意のCDR及び/又はフレームワーク領域中の全部位における置換の網羅的なライブラリーを迅速且つ効率的にスクリーニングできる。全部位の全てのアミノ酸を同時にランダム置換することで、例えば相乗作用に起因するような、個別的な置換によっては予期又は同定し得ない、顕著に親和性を増大する可能性のある組み合わせを選抜することが可能となる。
【0052】
親抗体の調製
A. 標的の調製
可溶性の標的又はその断片を、抗体を作製するための免疫原として用いることができる。抗体は目的の標的に対して作製される。好ましくは、該標的は生物学的に重要なポリペプチドであり、疾病又は不調に悩まされる哺乳動物に該抗体を投与することでその哺乳動物に治療効果をもたらすことができる。しかしながら、抗体は非ポリペプチド性の標的に対しても作製され得る。標的がポリペプチドであれば、膜貫通分子(例えばレセプター)又は成長因子のようなリガンドであり得る。本発明の標的の1つはIgEである。細胞全体を抗体作製のための免疫原として用いることもできる。標的は組換えにより又は合成的方法を用いて生産してもよい。標的はまた天然源からも単離し得る。
【0053】
レセプターのような膜貫通分子に関しては、それらの断片(例えばレセプターの細胞外領域)を免疫原として用いることができる。あるいは、膜貫通分子を発現する細胞を免疫原として用いることができる。そのような細胞は天然源(例えばマストセルライン)から誘導することができ、又は組換え技術により膜貫通分子を発現するように形質転換された細胞でもよい。抗体調製のために有用なその他の標的及びその形態は当業者に明らかとなるであろう。
【0054】
B. ポリクローナル抗体
ポリクローナル抗体は通常、非ヒト哺乳動物において適切な標的をアジュバントと組合わせて多重に皮下(sc)又は腹腔内(ip)注射することにより作製される。関連する標的を、例えばキーホールリンペットヘモシニアンのような、免疫対象の動物種において免疫原性のあるタンパク質と結合させることが有用であり得る。免疫応答を誘発できる多くの物質がこの分野において周知である。
【0055】
動物は、タンパク質又は結合体(それぞれウサギ又はマウスに対して)をフロインドの完全アジュバントと組み合わせてその溶液を皮内注射することにより、標的、免疫原性結合体、又は誘導体に対して免疫される。1ヵ月後、フロインドの完全アジュバント中に当初の1/5〜1/10量で含まれるペプチド又は結合体で複数部位を皮下注射することにより、該動物を追加免疫する。7〜14日後、動物から採血し血清の抗体力価について検定する。力価がプラトーに達するまで動物を追加免疫する。
【0056】
選択された哺乳動物の抗体は、通常は標的に対し十分に強い結合親和性を有している。例えば、抗体は約1 x 10-8 Mの結合親和性(Kd)値でヒト抗IgE標的に結合しうる。抗体親和性は飽和結合法;酵素結合免疫吸着検定法(ELISA);及び競合アッセイ(例えば放射免疫アッセイ)によって決定されうる。
【0057】
目的の標的に結合する抗体をスクリーニングするため、Antibodies, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Ed Harlow and David Lane (1988) に記載されているようなルーチンな架橋アッセイを行なうことができる。あるいは、結合を測定するため、例えばChampe, et al. J. Biol. Chem. 270: 1388-1394 (1995) に記載されているようなエピトープマッピングを行なうことができる。
【0058】
C. モノクローナル抗体
モノクローナル抗体とは、単一の抗原部位を認識する抗体である。モノクローナル抗体は、その均一な特異性により、通常種々の異なる抗原部位を認識する抗体を包含するポリクローナル抗体よりもはるかに有用となっている。モノクローナル抗体は、Kohler et al., Nature, 256: 495 (1975) により初めて記載されたハイブリドーマ法を用いることにより、又は組換えDNA法により作製し得る。
【0059】
ハイブリドーマ法では、マウス又はげっ歯類のようなその他の好適な宿主動物をここで上記したように免疫し、免疫化に用いたタンパク質に特異的に結合するであろう抗体を生産する又は生産し得るリンパ球を誘起する。あるいは、リンパ球はインビトロで免疫され得る。次いでリンパ球を、ポリエチレングリコールのような適当な融合剤を用いてミエローマ細胞と融合させ、ハイブリドーマ細胞を形成させる(Goding, Monoclonal Antibodies: Principals and Practice, pp. 590-103 (Academic Press,1986))。
【0060】
このように調製されたハイブリドーマ細胞を、融合しなかった親ミエローマ細胞の増殖又は生存を阻害する1又は2以上の物質を好ましく含む適切な培地中に植えて増殖させる。例えば、親ミエローマ細胞がヒポキサンチングアニンホスフォリボシルトランスフェラーゼ(HGPRT又はHPRT)酵素を欠失している場合には、ハイブリドーマのための培地は典型的には、HGPRT欠損細胞の増殖を防止する物質であるヒポキサンチン、アミノプテリン及びチミジンを含む(HAT培地)であろう。好ましいミエローマ細胞は、効率的に融合し、選択された抗体生産細胞による安定した高レベルの抗体生産を支持し、HAT培地のような培地に感受性であるものである。ヒトモノクローナル抗体の生産に関して、ヒトミエローマ及びマウス‐ヒトへテロミエローマセルラインが記載されている(Kozbar, J. Immunol. 133: 3001 (1984); Brodeur et al., Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications, pp. 51-63 (Marcel Dekker, Inc., New York, 1987))。
【0061】
所望の特異性、親和性、及び/又は活性を有する抗体を生産するハイブリドーマ細胞を同定した後、該クローンを限界希釈法によりサブクローンし、常法により増殖させることができる(Goding, Monoclonal Antibodies: Principals and Practice, pp. 59-103, Academic Press, 1986))。この目的のための適当な培地は包含する。サブクローンにより分泌されたモノクローナル抗体は、例えばプロテインA‐セファロース、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析又はアフィニティークロマトグラフィーのような従来の免疫グロブリンの精製方法により培養培地から適切に分離される。
【0062】
モノクローナル抗体をコードするDNAは、従来法を用いて(例えばモノクローナル抗体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合し得るオリゴヌクレオチドプローブを用いることにより)容易に同定及び配列決定される。ハイブリドーマ細胞はそのようなDNAの供給源として機能する。一旦同定すれば、該DNAを発現ベクター中に入れることができ、該ベクターは次いで、大腸菌細胞、NS0細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞又はミエローマ細胞のような宿主細胞中に導入され、該組換え宿主細胞中でモノクローナル抗体が合成される。該DNAはまた、例えばヒト重鎖及び軽鎖定常領域を相同なマウス配列の位置に置換することにより(米国特許第4,816,567号; Morrison et al., Proc. Natl Acad. Sci. USA 81: 6851 (1984))、又は免疫グロブリンポリペプチドに共有結合的に連結させることにより、修飾することができる。
【0063】
D. ヒト化抗体
ヒト化は、無傷のヒト可変領域よりも実質的に少ない部分が非ヒト種由来の相当する配列で置換されているキメラ抗体を作製するための技術である。ヒト化抗体は、非ヒト供給源から導入された1又は2以上のアミノ酸残基を有する。これらの非ヒトアミノ酸残基はしばしば「インポート」残基と言われ、典型的には「インポート」可変領域由来である。ヒト化は基本的にはWinter及び共同実験者(Jones et al, Nature 321: 522-525 (1986); Riechman et al., Nature 332: 323-327 (1988); Verhoeyens et al., Science 239: 1534-1536 (1988))の方法に倣って、非ヒトCDR又はCDR配列をヒト抗体中の相当する配列と置換することにより行なわれ得る(例えば米国特許第4,816,567号を参照)。本発明で実施した通り、ヒト化抗体はマウス抗体中の相同部位由来の残基で置換されたいくつかのCDR残基及びいくつかのFR残基を有し得る。
【0064】
ヒト化抗体の作製に用いるための軽鎖及び重鎖両方のヒト可変領域の選択は、抗原性を減少させるために大変重要である。いわゆる「最良適合(best fit)」法では、非ヒト抗体の可変領域の配列を公知のヒト可変領域配列のライブラリーと比較する。非ヒト親抗体の配列と最も近いヒト配列を次いで、ヒト化抗体のためのヒトフレームワークとして利用する(Sims et al., J. Immunol. 151: 2296 (1993); Chothia et al., J. Mol. Biol. 196: 901 (1987))。他の方法では、軽鎖又は重鎖の特定のサブグループの全てのヒト抗体のコンセンサス配列から誘導された、特殊なフレームワークを用いる。同様のフレームワークは、数種の異なるヒト化抗体に用いられ得る(Carter et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89: 4285 (1992); Presta et al., J. Immunol. 151:2623 (1993))。
【0065】
E. 抗体断片
抗体断片の生産に関して種々の技術が開発されている。伝統的には、これらの断片は無傷の抗体のタンパク質分解を経て誘導された(例えばMorimoto et al., Journal of Biochemical and Biophysical Methods 24: 107-117 (1992) and Brennan et al., Science 229: 81 (1985)を参照)。しかしながら、これらの断片は現在では組換え宿主細胞により直接的に生産可能である。例えば、抗体断片は抗体ファージライブラリーから単離することができる。あるいは、F(ab')2-SH断片を大腸菌から直接回収し、化学的に結合させてF(ab')2断片を形成することができる(Carter et al., Bio/Technology 10: 163-167 (1992))。他の方法では、組換え宿主細胞培養物から直接F(ab')2断片を単離することができる。抗体断片を生産するためのその他の技術が当業者に明らかになるだろう。他の具体例では、選択される抗体は一本鎖Fv断片(scFv)である(PCT特許出願WO 93/16185)。
【0066】
高親和性抗体の調製
一旦親抗体を同定及び単離したら、親抗体の1又は2以上の可変領域において1個又は2個以上のアミノ酸残基が改変される。あるいは、又はそれに加えて、フレームワーク残基の1個又は2個以上の置換が親抗体中に導入されてもよく、それにより抗体の結合親和性、例えばヒトIgEに対する抗体の結合親和性が改良される。修飾対象のフレームワーク領域残基の例には、直接非共有的に標的に結合するもの(Amit et al. Science 233: 747-753 (1986));CDRのコンフォメーションに相互作用/影響するもの(Chothia et al. J. Mol. Biol. 196: 901-917 (1987));及び/又はVL−VH接合部分に加わるもの(EP 239 400 B1)が包含される。ある具体例では、1個又は2個以上のそのようなフレームワーク領域残基の修飾により、目的とする標的に対する抗体の結合親和性が増大する。
【0067】
抗体の生物学的特性の改変は、例えば(a)置換領域におけるポリペプチド主鎖の構造、例えばシート若しくはヘリックス配座;(b)標的部位における分子の電荷若しくは疎水性、又は(c)側鎖のバルクの維持に及ぼす影響が顕著に異なる置換を選択することにより達成される。非保存的置換は、これらのクラスのうちの1つのメンバーを他のクラスと交換することを伴う。
【0068】
アミノ酸配列変異をコードする核酸分子は、この分野において公知の種々の方法により調製される。これらの方法は、オリゴヌクレオチド媒介(又は部位指向)変異法、PCR変異法、及び初期に調製した種依存抗体の変異体又は非変異体のカセット変異法を包含するが、これに限定されるものではない。変異を作製する好ましい方法はオリゴヌクレオチド媒介合成法である。ある具体例では、変異抗体は、例えば約2から約15の超可変領域置換のうち、単一の置換された超可変領域残基のみを有する。
【0069】
変異体のライブラリーを作製する1つの方法は、図2に示された図式に基づいたオリゴヌクレオチド媒介合成法によるものである。それぞれほぼ100ヌクレオチドの3つのオリゴヌクレオチドが軽鎖又は重鎖可変領域全体にわたって合成され得る。各オリゴヌクレオチドは:(1)Nが任意のヌクレオチド、KがG又はTを表す(NNK)20トリプレットにより生成される連続60アミノ酸、及び(2)各末端において隣接するオリゴ又はベクター配列のいずれかとのおよそ15〜30ヌクレオチドの重複を含み得る。PCR反応においてこれら3つのオリゴヌクレオチドがアニーリングすると、ポリメラーゼは向かい合う鎖を充填して重鎖又は軽鎖可変領域配列の完全な二本鎖を生成する。トリプレットの数はいかなる反復の長さにも調整することができ、オリゴヌクレオチド中のそれらの位置は任意のCDR又はフレームワーク領域中のアミノ酸のみを置換できるように選択され得る。(NNK)を用いることにより、コードされる変異中のそれぞれの位置において20種のアミノ酸全てが可能となる。5〜10アミノ酸(15〜30ヌクレオチド)の重複配列は置換されないが、ここがフレームワークのスタッキング領域中になるように選んでもよく、又は別個の若しくは後続段階の合成によって置換してもよい。オリゴヌクレオチドを合成する方法はこの分野において周知であり、市販品を利用できる。これらのオリゴヌクレオチドから変異抗体を作製する方法もまた、例えばPCRのように、この分野において周知である。
【0070】
配列中のランダムな位置で異なっている重鎖及び軽鎖変異体のライブラリーは、いかなる発現ベクター中でも構築することができ、例えばバクテリオファージ、とりわけ図1のベクターで構築することができ、いずれも特定の重鎖及び軽鎖変異をコードするDNAを包含する。
【0071】
変異抗体の生産に次いで、親抗体と比較した変異体の生物活性が決定される。上記の通り、これには変異体の標的への結合親和性の測定が包含される。目的の標的との結合能に関して変異抗体を迅速にスクリーニングするための、多くの高処理法が存在する。
【0072】
次いで、この最初のスクリーニングで選抜された1又は2以上の変異抗体から、親抗体と比較して結合親和性が増大したものをスクリーニングする。結合親和性を決定するための1つの慣用法は、BIAcore(登録商標) 表面プラズモン共鳴システム (BlAcore, Inc.)を用いて、結合及び解離速度定数を評価する方法である。製造者(BlAcore)の指示書によると、標的の共有結合的カップリングに対してバイオセンサーチップが活性化される。次いで標的を希釈し、該チップ上に注入し、固定化された物質の応答単位(response units; RU)でシグナルを得る。RU単位のシグナルは固定化された物質の質量に比例するので、これはマトリックス上に固定化された標的濃度の範囲を表す。解離データはone-site modelに当てはめてkoff +/- s.d.(測定値の標準偏差)を得る。擬1次速度定数(ks)は各結合曲線に対して計算し、タンパク質濃度の関数としてプロットしてkon +/- s.e.(当てはめの標準誤差)を得る。結合の平衡解離定数KdはSPR測定よりkoff/konとして算出する。平衡解離定数Kdはkoffに反比例するので、全ての変異体で結合速度(kon)が一定であると仮定して親和性増大の評価を行なうことができる。
【0073】
得られた高親和性を有する候補は、結合親和性が増大した変異抗体が所望の治療的特性を保持しているかどうかを調べるために、任意で1又は2以上のさらなる生物活性分析に付してもよい。例えば、抗IgE抗体の場合には、IgEのレセプターへの結合を遮断しヒスタミンの放出を阻害するものをスクリーニングしてもよい。最適な変異抗体は、親抗体よりも有意に高い結合親和性で標的に結合する能力を保持している。
【0074】
このように選抜された変異抗体は、多くの場合、抗体の使用目的に依存してさらなる修飾を施され得る。そのような修飾は、アミノ酸配列のさらなる改変、異種ポリペプチドとの融合、及び/又は以下に詳細に述べるような共有結合的な修飾を包含し得る。例えば、分子の酸化安定度を改良し異常な架橋を防止するために、変異抗体の適正なコンフォメーションの維持に関与しないいずれのシステイン残基を置換してもよく、一般的にはセリンと置換される。逆に、(特に抗体がFv断片のような抗体断片である場合に)その安定性を改良するために抗体にシステイン結合を付加してもよい。
【0075】
ベクター
本発明はまた、ここで開示されているような変異抗体をコードする単離核酸、該核酸を含むベクター及び宿主細胞、並びに該変異抗体を生産するための組換え技術を提供する。変異抗体の組換え体生産のために、それをコードする核酸が単離され、さらなるクローニング(DNAの増幅)のために又は発現のために複製可能なベクター中に挿入される。変異抗体をコードするDNAは、慣用法を用いて(例えば変異抗体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合し得るオリゴヌクレオチドプローブを用いることにより)容易に単離及び配列決定される。
【0076】
多くのベクターが利用可能である。ベクター構成物は一般的には次に挙げるものを1又は2以上包含するが、これに限定されるものではない:シグナル配列、複製開始点、1又は2以上のマーカー遺伝子、エンハンサー要素、プロモーター、及び転写終結配列。
【0077】
適正な結合特異性及び最低限の親和性の判定基準で変異Fabを迅速に選抜及びスクリーニングできるように、図1に示すファージ発現ベクターは、常用されるM13ベクター及びM13自身が有する遺伝子IIIウイルス性分泌シグナルで構成される。このベクターは完全な遺伝子III配列を用いておらず、そのため細菌細胞の表面上には何も提示されないが、細胞膜周辺腔中にFabが分泌される。あるいは、細胞質中にFabが発現され単離され得る。重鎖及び軽鎖はそれぞれ独自のウイルス性分泌シグナルを有するが、単一の強力な誘導性プロモーターから従属的に発現される。
【0078】
図1のベクターはまた、簡便な精製及び検出のためにHisタグ及びmycタグを備えている。当業者であれば、Fabは別個のプロモーターから別々に発現されてもよいこと、又は、分泌シグナルは選択されたウイルス配列である必要はないが、選択した宿主細胞からの抗体断片の分泌に適した原核生物若しくは真核生物のシグナル配列であってもよいことがわかるだろう。重鎖及び軽鎖が異なるベクターに存在してもよいということもわかるだろう。
【0079】
A. シグナル配列構成物
本発明の変異抗体は組換えによって生産し得る。該変異体はまた、好ましくはシグナル配列又は成熟タンパク質若しくはポリペプチドのN末端に特異的切断部位を有する他のポリペプチドである異種ポリペプチドと融合した融合ポリペプチドとして発現し得る。選択された異種シグナル配列は好ましくは、宿主細胞によって認識及び加工される(すなわちシグナルペプチダーゼによって切断される)ものである。ネイティブな抗体シグナル配列を認識及び加工しない原核宿主細胞に対しては、シグナル配列を、例えばアルカリホスファターゼ、ペニシリナーゼ、Ipp、若しくは熱安定性エンテロトキシンIIリーダーの群から選択した原核生物のシグナル配列と置換してもよい。あるいは図1のベクターの場合には、選択したシグナル配列は遺伝子III由来のウイルス性シグナル配列とした。酵母の分泌に対しては、ネイティブなシグナル配列を、例えば酵母インベルターゼリーダー、α‐因子リーダー(Saccharomyces属及びKluyveromyces属α‐因子リーダー)、若しくは酸性ホスファターゼリーダー、C. albicansグルコアミラーゼリーダー、又は例えばWO 90/13646に記載されているシグナルで置換してもよい。哺乳動物細胞発現においては、哺乳動物シグナル配列及びウイルス性分泌リーダー、例えば単純ヘルペスgDシグナルが利用可能である。そのような前駆領域のDNAは、変異抗体をコードするDNAと読み枠を合わせて結合される。
【0080】
B. 複製開始点構成物
ベクターは通常、当該ベクターが1又は2以上の選択宿主細胞内で複製可能となるようにする核酸配列を包含する。一般に、この配列は、ベクターが宿主染色体DNAとは独立して複製できるようにするものであり、複製開始点又は自律複製配列を包含する。そのような配列は種々の細菌、酵母、ウイルスにおいてよく知られている。プラスミドpBR322由来の複製開始点は大部分のグラム陰性細菌に適し、2μプラスミド開始点は酵母に適し、種々のウイルス開始点(SV40、ポリオーマ、アデノウイルス、VSV又はBPV)は哺乳動物細胞内のベクターに有用である。一般に、複製開始点構成物は哺乳動物発現ベクターに対しては必要とされない(SV40開始点は典型的には初期プロモーターを有しているという理由でのみ用いられ得る)。
【0081】
C. 選択遺伝子構成物
ベクターは、選択マーカーとも呼ばれる選択遺伝子を含み得る。典型的な選択遺伝子は、(a)例えばアンピシリン、ネオマイシン、メトトレキセート、又はテトラサイクリンのような抗生物質又はその他の毒素に対する抵抗性を付与し、(b)栄養要求性欠損を相補し、又は(c)例えば桿菌のD-アラニンラセマーゼをコードする遺伝子のような天然培地からは利用できない重要な栄養素を供給するタンパク質をコードする。
【0082】
選択スキームの一例では、宿主細胞の増殖を阻止する薬剤を利用する。異種遺伝子での形質転換が成功した細胞は薬剤耐性を付与するタンパク質を生産し、従って選択措置を免れて生存する。そのような優性選択の例では、ネオマイシン、マイコフェノール酸及びハイグロマイシンが用いられる。
【0083】
哺乳動物細胞に適した選択マーカーのその他の例は、DHFR、チミジンキナーゼ、メタロチオネイン−I及び−II、好ましくは霊長類のメタロチオネイン遺伝子、アデノシンデアミナーゼ、オルニチンデカルボキシラーゼなどのような、抗体核酸を取り込み得る細胞の同定を可能にするものである。
【0084】
例えば、DHFR選択遺伝子で形質転換された細胞は、最初にDHFRの競合的拮抗薬であるメトトレキセート(Mtx)を含む培地中で全ての形質転換体を培養することにより同定される。野生型のDHFRを用いる際に適切な宿主細胞は、DHFR活性を欠損したチャイニーズハムスター卵巣(CHO)セルラインである。
【0085】
あるいは、抗体、野生型DHFRタンパク質、及びアミノグリコシド3'‐ホスフォトランスフェラーゼ(APH)のようなその他の選択マーカーをコードするDNA配列で形質転換又は共形質転換された宿主細胞(特に内生DHFRを包含する野生型宿主)は、例えばカナマイシン、ネオマイシン、又はG418 (米国特許第4,965,199号) といったアミノグリコシド系の抗生物質のような、選択マーカーに対する選択試薬を含む培地中での細胞の増殖によって選択することができる。
【0086】
酵母で使用するために適した選択遺伝子は、酵母プラスミドYrp7中に存在するtrp1遺伝子である(Stinchcomb et al., Nature 282: 39 (1979))。trp1遺伝子は、例えばATCC No. 44076又はPEP4-1のような、トリプトファン中で増殖する能力を欠失している酵母変異株に対する選択マーカーを提供する。Jones, Genetics 85: 12 (1977)。酵母宿主細胞ゲノム中にtrp1損傷が存在することで、トリプトファン欠乏下での増殖によって形質転換を効果的に検出する環境が提供される。同様に、Leu2‐欠損酵母株(ATCC 20,622又は38,626)は、Leu2遺伝子を有する公知のプラスミドで相補される。
【0087】
D. プロモーター構成物
発現及びクローニングベクターは通常、宿主生物に認識され抗体核酸と操作可能な状態で連結されるプロモーターを包含する。原核生物宿主に用いるために適したプロモーターは、phoAプロモーター、β‐ラクタマーゼ及びラクトースプロモーター系、アルカリホスファターゼ、トリプトファン(trp)プロモーター系、並びにtacプロモーターのようなハイブリッドプロモーターを包含する。しかしながら、他の公知の細菌プロモーターが適している。細菌系において用いるプロモーターはまた、抗体をコードするDNAと操作可能な状態で結合したシャイン−ダルガルノ(S.D.)配列も包含し得る。
【0088】
真核生物のためのプロモーター配列が知られている。事実上、全ての真核生物遺伝子は、転写が開始する部位からおよそ25ないし30塩基上流に位置するATに富んだ領域を有する。多くの遺伝子で転写開始点から70ないし80塩基上流に見つかった他の配列は、CNCAAT領域であり、Nはいずれかのヌクレオチドであり得る。大部分の真核生物遺伝子の3’末端にはAATAAA配列があり、該配列はコード配列の3’末端にポリA配列を付加するためのシグナルであり得る。これらの配列は全て、原核生物発現ベクター中に好適に挿入される。
【0089】
酵母宿主と共に用いるのに適したプロモーター配列の例には、3‐ホスフォグリセリン酸キナーゼ、又は、エノラーゼ、グリセルアルデヒド‐3‐リン酸デヒドロゲナーゼ、ヘキソキナーゼ、ピルビン酸デカルボキシラーゼ、ホスフォフルクトキナーゼ、グルコース‐6‐リン酸イソメラーゼ、3‐ホスフォグリセリン酸ムターゼ、ピルビン酸キナーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ、ホスフォグルコースイソメラーゼ、及びグルコキナーゼのような他の解糖酵素のプロモーターが包含される。
【0090】
生育状況によって制御される転写の利点をさらに有する誘導性プロモーターである、他の酵母プロモーターは、アルコールデヒドロゲナーゼ2、イソシトクロームC、酸性ホスファターゼ、窒素代謝に関与する分解酵素、メタロチオネイン、グリセルアルデヒド‐3‐リン酸デヒドロゲナーゼ、並びにマルトース及びガラクトースの利用化に関与する酵素に対するプロモーター領域である。酵母での発現において用いるのに適したベクター及びプロモーターは、欧州特許第73,657号にさらに記載されている。酵母エンハンサーもまた酵母プロモーターと共に有利に用いられる。
【0091】
哺乳動物宿主細胞内でのベクターからの抗体の転写は、宿主細胞系に適合するならば、例えば、ポリオーマウイルス、鶏痘ウイルス、アデノウイルス(例えばアデノウイルス2)、ウシ乳頭腫ウイルス、トリ肉腫ウイルス、サイトメガロウイルス、レトロウイルス、B型肝炎ウイルス、及び最も好ましくはシミアンウイルス40(SV40)のようなウイルスのゲノムから得られたプロモーター、例えばアクチンプロモーター又は免疫グロブリンプロモーターなどの異種哺乳動物プロモーターから得られたプロモーター、熱ショックプロモーターから得られたプロモーターによって制御される。
【0092】
SV40ウイルスの初期及び後期プロモーターは、SV40ウイルス複製開始点をも包含するSV40制限断片として簡便に得られる。ヒトサイトメガロウイルスの前初期プロモーターはHindIII E制限断片として簡便に得られる。ウシ乳頭腫ウイルスをベクターとして用いて哺乳動物宿主内でDNAを発現するための系が米国特許第4,419,446号に開示されている。この系の改変例が米国特許第4,601,978号に記載されている。あるいは、単純ヘルペスウイルス由来のチミジンキナーゼプロモーターの制御下で、マウス細胞内においてヒトβ‐インターフェロンcDNAが発現されている。あるいはまた、ラウス肉腫ウイルス末端反復配列をプロモーターとして用いることができる。
【0093】
E. エンハンサー要素構成物
本発明の抗体をコードするDNAの高等真核生物による転写は、多くの場合、ベクター中にエンハンサー配列を挿入することによって増大する。現在では哺乳動物遺伝子(グロビン、エラスターゼ、アルブミン、α‐インターフェロン、及びインシュリン)由来の多くのエンハンサー配列が知られている。しかしながら典型的には、真核生物細胞ウイルス由来のエンハンサーが用いられるであろう。例には、複製開始点の後期側のSV40エンハンサー(bp 100-270)、サイトメガロウイルス初期プロモーターエンハンサー、複製開始点の後期側のポリオーマエンハンサー、及びアデノウイルスエンハンサーが含まれる。真核生物プロモーターの活性化のための促進要素についてはYaniv, Nature 297: 17-18 (1982)も参照のこと。エンハンサーは、ベクター中で抗体コード配列に対して5'又は3'の位置につなげてよいが、好ましくはプロモーターより5'側の部位に設けられる。
【0094】
F. 転写終結構成物
真核生物宿主細胞(酵母、真菌、昆虫、植物、動物、ヒト、又は他の多細胞生物由来の有核細胞)内で用いる発現ベクターはまた、転写の終結及びmRNAの安定化のために必要な配列も含み得る。そのような配列は一般に、真核生物又はウイルスのDNA又はcDNAの5’及び、時には3’非翻訳領域から利用可能である。これらの領域は、抗体をコードするmRNAの非翻訳部位中にポリアデニル化断片として転写されるヌクレオチドセグメントを包含する。有用な転写終結構成物の1つは、ウシ成長ホルモンポリアデニル化領域である。例えばW094/11026を参照のこと。
【0095】
宿主細胞の選択及び形質転換
ここでベクター中にDNAをクローニング又は発現するのに適した宿主細胞は、原核生物、酵母、又は高等真核生物細胞である。この目的に適した原核生物は、例えば大腸菌、エンテロバクター属(Enterobacter)、エルウィニア属(Erwinia)、クレブシエラ属(Klebsiella)、プロテウス属(Proteus)、サルモネラ属(Salmonella)、セラチア属(Serratia)、及び赤痢菌のような腸内細菌、並びに桿菌、シュードモナス属(Pseudomonas)、及びストレプトミセス属(Streptomyces)といった、グラム陰性及びグラム陽性生物の両方を包含する。好ましい大腸菌クローニング宿主の1つはE. coli 294 (ATCC 31,446)であるが、E. coli B、E. coli X1776 (ATCC 31,537)及びE. coli W3110 (ATCC 27,325)のような他の菌株も適している。これらの例は説明のために挙げたものであり、これらに限定されない。
【0096】
原核生物の他、糸状菌又は酵母のような真核微生物が、抗体コードベクターにとってクローニング又は発現に適した宿主である。サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)は下等真核宿主微生物のうちで最も一般的に用いられる。しかしながら、シゾサッカロミケス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe);クルイベロミセス属(Kluyveromyces);カンジダ属(Candida);トリコデルマ属(Trichoderma);アカパンカビ(Neurospora crassa);並びに、例えばパンカビ属(Neurospora)、アオカビ属(Penicillium)、トリポクラジウム属(Tolypocladium)、及び、A. nidulans、A. nigerのようなコウジカビ属(Aspergillus)宿主のような糸状菌といった、多くの他の属、種、及び系統が一般的に利用可能であり、ここでも有用である。
【0097】
グリコシル化抗体の発現に適した宿主細胞が多細胞生物から誘導されている。主に、脊椎動物培養物由来か無脊椎動物培養物由来かを問わず、いかなる高等真核細胞培養物をも活用できる。無脊椎動物細胞の例には植物及び昆虫細胞が包含される、Luckow et al., Bio/Technology 6, 47-55 (1988); Miller et al., Genetic Engineering, Setlow et al. eds. Vol. 8, pp. 277-279 (Plenam publishing 1986); Mseda et al., Nature 315, 592-594 (1985)。多くのバキュロウイルス系統及び変種、並びに、スポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)(毛虫)、ヤブカ属(Aedes)(蚊)、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)(ショウジョウバエ)、及びカイコ(Bombyx mori)のような宿主由来の、対応する許容昆虫宿主細胞が同定されてきている。例えば、オートグラファカリフォルニカ(Autographa californica)NPVのL-1変種及びカイコNPVのBm-5系統のような、トランスフェクションのための種々のウイルス系統が公的に利用可能であり、そのようなウイルスを本発明に基づきここでウイルスとして、特にスポドプテラ・フルギペルダ細胞のトランスフェクションのためのウイルスとして用いてもよい。その上、綿花、トウモロコシ、ジャガイモ、ダイズ、ペチュニア、トマト、及びタバコといった植物細胞培養物もまた宿主として利用される。
【0098】
培養液(組織培養液)中の脊椎動物細胞及び脊椎動物細胞の増殖は、常套手段となりつつある。Tissue Culture, Academic Press, Kruse and Patterson, eds. (1973)を参照のこと。有用な哺乳動物宿主セルラインの例は、サル腎臓;ヒト胚性腎ライン;新生ハムスター腎ライン;チャイニーズハムスター卵巣細胞/-DHFR(CHO, Urlaub et al., Proc. NatI. Acad. Sci. USA 77: 4216 (1980));マウスセルトリ細胞;ヒト子宮頸癌細胞(HELA);イヌ腎細胞;ヒト肺細胞;ヒト肝細胞;マウス乳腺癌;及びNS0細胞である。
【0099】
宿主細胞は抗体生産のために上記したベクターで形質転換され、プロモーターの誘導、形質転換体の選抜、又は所望の配列をコードする遺伝子の増幅に適するように改変した従来の栄養培地中で培養される。
【0100】
本発明の変異抗体を生産するために用いる宿主細胞は、種々の培地中で培養され得る。Ham's F10 (Sigma), Minimal Essential Medium (MEM, Sigma), RPMI-1640 (Sigma)、及びダルベッコ改変イーグル培地(DMEM, Sigma)のような市販の培地が宿主細胞の培養に適している。さらに、Ham et al., Meth. Enzymol. 58: 44 (1979), Barnes et al., Anal. Biochem. 102: 255 (1980), 米国特許第 4,767,704号; 4,657,866号; 4,560,655号; 5,122,469号; 5,712,163号; 又は6,048,728号に記載されたいかなる培地でも、宿主細胞の培養培地として用いられ得る。これらの培地いずれにも、必要なホルモン及び/又は他の成長因子(例えばインシュリン、トランスフェリン、又は上皮成長因子)、塩類(例えばX−塩化物、ここでXはナトリウム、カルシウム、マグネシウム;及びリン酸)、緩衝液(例えばHEPES)、ヌクレオチド(例えばアデノシン及びチミジン)、抗生物質(例えば商標ゲンタマイシン薬剤)、微量元素(通常マイクロモル範囲の終濃度で存在する無機化合物として定義される)、及びグルコース若しくは均等なエネルギー源が補充される。その他の必要な補充物もまた、当業者に知られているであろう適切な濃度で含まれ得る。温度、pHといったような培養条件は、発現で選抜される宿主細胞に従来用いられている通りであり、当業者に明らかとなるだろう。
【0101】
抗体精製
組換え技術を用いる際には、変異抗体は細胞内若しくは細胞膜周辺腔で生産され、又は培地中に直接分泌され得る。変異抗体が細胞内で生産される場合、第一段階として、宿主細胞又は溶解した断片いずれかの粒子状の細片を、例えば遠心又は限外ろ過によって取り除いてよい。Carter et al., Bio/Technology 10: 163-167 (1992)には、大腸菌の細胞膜周辺腔に分泌された抗体を単離するための手法が記載されている。簡潔に言えば、細胞ペーストを酢酸ナトリウム(pH3.5)、EDTA及びフェニルメチルスルホニルフルオライド(PMSF)の存在下で約30分間以上融解させる。細胞片は遠心によって取り除くことができる。変異抗体が培地中に分泌される場合には、そのような発現系由来の上清を、一般的には先ず第一に、例えばAmicon又はMillipore Pellicon ultrafiltration unitのような市販のタンパク質濃縮フィルターを用いて濃縮する。タンパク分解を防止するために、いずれの先行工程にPMSFのようなプロテアーゼ阻害剤を含ませてもよく、外因性の汚染菌の増殖を防止するために抗生物質を含ませてもよい。
【0102】
細胞から調製された抗体組成物は、例えばヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、及びアフィニティークロマトグラフィーを用いて精製することができ、中でもアフィニティークロマトグラフィーが好ましい精製手法である。アフィニティーリガンドとしてのプロテインAの適性は、該変異抗体中に存在する免疫グロブリンFcドメインの種及びアイソタイプに依存する。プロテインAは、ヒトIgG1, IgG2又はIgG4重鎖に基づいた抗体を精製するために用いることができる(Lindmark et al., J. Immunol Meth. 62: 1-13 (1983))。プロテインGは、全てのマウスアイソタイプ及びヒトIgG3に推奨される(Guss et al., EMBO J. 5: 1567-1575 (1986))。アフィニティーリガンドを付着させるマトリックスは大抵の場合アガロースであるが、他のマトリックスも利用できる。ガラス多孔体又はポリ(スチレンジビニル)ベンゼンのような機械的に安定なマトリックスにより、アガロースを用いた場合よりも流速を速め、処理時間を短縮することができる。変異抗体がCH3ドメインを含む場合には、Bakerbond ABXTM resin (J. T. Baker, Phillipsburg, N.J.) が精製に有用である。回収対象の変異抗体によっては、イオン交換カラムでの分画、エタノール沈殿、逆相HPLC、シリカでのクロマトグラフィー、ヘパリンセファロース(登録商標)でのクロマトグラフィー、アニオン又はカチオン交換樹脂(例えばポリアスパラギン酸カラム)でのクロマトグラフィー、等電点クロマトグラフィー、SDS-PAGE、及び硫安塩析のような、タンパク質精製のための他の手法も利用できる。
【0103】
予備的な精製工程に続けて、目的の変異抗体及び夾雑物を含む混合物を、pH約2.5〜4.5の溶出緩衝液を用いて低pH疎水的相互作用クロマトグラフィーにかけてもよく、好ましくは低塩類濃度(例えば塩類約0〜0.25M)で行なわれる。
【0104】
医薬製剤
ポリペプチド又は抗体の治療製剤は、所望の純度を有するポリペプチドと、この分野で典型的に用いられる任意の「薬理学的に許容される」担体、賦形剤又は安定剤(これらは全て「賦形剤」と呼ばれる)とを混合することにより、凍結乾燥製剤又は水性溶液として保管するために調製され得る。例えば、緩衝剤、安定剤、防腐剤、等張化剤(isotonifier)、非イオン洗浄剤、酸化防止剤及び他の種々の添加物(Remington's Pharmaceutical Sciences, 16th edition, A. Osol, Ed. (1980)を参照のこと)。そのような添加物は、使用される用量と濃度において受容者に対し無毒でなければならない。
【0105】
緩衝剤は生理的状態に近い範囲内にpHを維持するのを助ける。緩衝剤は好ましくは約2mMから約50mMの濃度で含まれる。本発明と共に用いるのに適した緩衝剤としては、有機及び無機酸並びにそれらの塩類が包含され、例えばクエン酸塩緩衝液(クエン酸1ナトリウム−クエン酸2ナトリウム混合物、クエン酸−クエン酸3ナトリウム混合物、クエン酸−クエン酸1ナトリウム混合物など)、コハク酸塩緩衝液(コハク酸−コハク酸1ナトリウム混合物、コハク酸−水酸化ナトリウム混合物、コハク酸−コハク酸2ナトリウム混合物など)、酒石酸塩緩衝液(酒石酸−酒石酸ナトリウム混合物、酒石酸−酒石酸カリウム混合物、酒石酸−水酸化ナトリウム混合物など)、フマル酸塩緩衝液(フマル酸−フマル酸1ナトリウム混合物など)、フマル酸塩緩衝液(フマル酸−フマル酸1ナトリウム混合物、フマル酸−フマル酸2ナトリウム混合物、フマル酸1ナトリウム−フマル酸2ナトリウム混合物など)、グルコン酸塩緩衝液(グルコン酸−グリコン酸ナトリウム混合物、グルコン酸−水酸化ナトリウム混合物、グルコン酸−グルコン酸カリウム混合物など)、シュウ酸塩緩衝液(シュウ酸−シュウ酸ナトリウム混合物、シュウ酸−水酸化ナトリウム混合物、シュウ酸−シュウ酸カリウム混合物など)、乳酸塩緩衝液(乳酸−乳酸ナトリウム混合物、乳酸−水酸化ナトリウム混合物、乳酸−乳酸カリウム混合物など)、及び酢酸塩(酢酸−酢酸ナトリウム混合物、酢酸−水酸化ナトリウム混合物など)が挙げられる。さらに、リン酸緩衝液、ヒスチジン緩衝液及びトリスのようなトリメチルアミン塩も挙げられる。
【0106】
防腐剤は微生物の増殖を遅延させるために添加してもよく、0.2〜1%(w/v)の量で添加され得る。本発明と共に用いるのに適した防腐剤としては、フェノール、ベンジルアルコール、メタ−クレゾール、メチルパラベン、プロピルパラベン、塩化オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム、ハロゲン化ベンザルコニウム(例えば塩化、臭化、ヨウ化)、塩化ヘキサメトニウム、メチル又はプロピルパラベンのようなアルキルパラベン、カテコール、レゾルシノール、シクロヘキサノール、及び3−ペンタノールが包含される。
【0107】
本発明の液体組成物の等張性を確保するために、時には「安定化剤」として知られる等張化剤を加えてもよく、等張化剤としては多価糖アルコール、好ましくはグリセリン、エリスリトール、アラビトール、キシリトール、ソルビトール及びマンニトールのような3価以上の糖アルコールが包含される。
【0108】
安定剤は、増量剤から、治療薬を可溶化する又は変性の防止若しくは容器壁への付着の防止を助ける添加物までの機能的範囲にわたり得る、広いカテゴリーの賦形剤を指す。典型的な安定剤は、(上記に列挙した)多価糖アルコール; アルギニン、リシン、グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アラニン、オルニチン、L-ロイシン、2−フェニルアラニン、グルタミン酸、スレオニンなどのようなアミノ酸、ラクトース、トレハロース、スタキオース、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、リビトール、ミオイノシトール、ガラクチトール、グリセロール、及び、イノシトールのようなシクリトールを含むこれらと類似の有機糖又は糖アルコール; ポリエチレングリコール;アミノ酸ポリマー;尿素、グルタチオン、チオクト酸、チオグリコール酸ナトリウム、チオグリセロール、アルファ−モノチオグリセロール及びチオ硫酸ナトリウムのような含硫還元剤;低分子量ポリペプチド(すなわち<10残基);ヒト血清アルブミン、ウシ血清アルブミン、ゼラチン又は免疫グロブリンのようなタンパク質;ポリビニルピロリドンのような親水性ポリマー、キシロース、マンノース、フルクトース、グルコースのような単糖類;ラクトース、マルトース、スクロースのような二糖類及びラフィノースのような三糖類;デキストランのような多糖類であり得る。安定剤は、活性タンパク質重量に対し0.1から10,000重量部の範囲で含まれ得る。
【0109】
治療薬を可溶化し撹拌による凝集から治療用タンパク質を保護するのを助けるために、非イオン界面活性剤又は洗浄剤(「湿潤剤」としても知られる)を加えてもよく、それらにより曝露対象の製剤がタンパク質の変性を生じることなくストレスを加えられた表面を削り取られることも可能となる。適当な非イオン界面活性剤としては、ポリソルベート(20、80など)、ポリオキサマー(184、188など)、登録商標Pluronic、ポリオール、ポリオキシエチレンソルビタンモノエーテル(登録商標Tween-20、登録商標Tween-80など)が包含される。非イオン界面活性剤は、約0.05 mg/mlから約1.0 mg/ml、好ましくは約0.07 mg/mlから約0.2 mg/mlの範囲で含まれ得る。
【0110】
その他の種々の賦形剤としては、増量剤(例えばデンプン)、キレート剤(例えばEDTA)、酸化防止剤(例えばアスコルビン酸、メチオニン、ビタミンE)、及び補助溶剤が包含される。ここで製剤は、治療対象である特定の徴候に必要とされる、好ましくは相互に逆影響を及ぼさない相補的活性を有する1以上の活性化合物も包含し得る。例えば、免疫抑制剤をさらに提供することが望ましくあり得る。そのような分子は適切には、意図する目的に対して効果のある量で組み合わせて包含される。活性成分はまた、例えばヒドロキシメチルセルロース若しくはゼラチンマイクロカプセル及びポリ(メチルメサシレート(methylmethacylate))マイクロカプセルなどの、それぞれ例えばコアセルベーション技術又は界面重合により調製されるマイクロカプセル中、コロイド性試薬デリバリーシステム中(例えばリポソーム、アルブミンミクロフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセル)、あるいはマクロエマルジョン中に封入され得る。そのような技術はRemington's Pharmaceutical Sciences, 16th edition, A. Osal, Ed. (1980)中に開示されている。
【0111】
インビボ投与するために用いられる製剤は無菌でなければならない。これは、例えば滅菌濾過膜で濾過することにより、容易に行なわれる。徐放性製剤を調製してもよい。徐放性製剤の適当な例としては、変異抗体を含んだ固形疎水性ポリマーの半透性マトリックスであって、該マトリックスが、例えばフィルム又はマイクロカプセルのような造形品の形態であるものが包含される。徐放性マトリックスの例としては、ポリエステル、ヒドロゲル(例えばポリ(2‐ヒドロキシエチル‐メタクリレート)、又はポリ(ビニルアルコール))、ポリ乳酸(米国特許第3,773,919号)、L-グルタミン酸とエチル‐L‐グルタミン酸の共重合体、非分解性エチレン酢酸ビニル、LUPRON DEPOT(登録商標)(乳酸‐グリコール酸共重合体及び酢酸ロイプロリドから成る注入可能なミクロスフェア)のような分解性乳酸‐グリコール酸共重合体、及びポリ‐D‐(-)‐3‐ヒドロキシ酪酸が包含される。エチレン酢酸ビニル及び乳酸‐グリコール酸のようなポリマーは分子を100日間以上にわたって放出可能とするが、あるヒドロゲルはタンパク質をそれより短い期間放出する。カプセル化した抗体が体内に長時間残留すると、37℃の湿潤状態に晒される結果該抗体は変性し又は凝集し得、生物活性を損失し免疫原性に考え得る様々な変化が生じることとなる。関与する機構に応じて安定化を行なうために、合理的な方策を講じることができる。例えば、凝集機構がチオジスルフィド交換を通じた分子間S-S結合の形成であることが判明した場合には、スルフヒドリル残基を修飾し、酸性溶液から凍結乾燥し、含水量を制御し、適切な添加剤を用い、特異的なポリマーマトリックス組成物を開発することにより、安定化を達成しうる。
【0112】
特定の障害又は健康状態の治療において効果的な治療用ポリペプチド、抗体又はその断片の量は、障害又は健康状態の性質に依存することとなり、標準的な臨床技術によって決定することができる。可能であれば、用量‐反応曲線を決定して、該発明の医薬組成物を先ずはインビトロで、次いでヒトでの試験に先行して有用な動物モデル系で決定することが望ましい。
【0113】
好ましい具体例では、治療用ポリペプチド、抗体又はその断片の水性溶液が皮下注射によって投与される。各用量は体重1キログラムにつき約0.5μgから約50μg、より好ましくは体重1キログラムにつき約3μgから約30μgの範囲であり得る。
【0114】
皮下投与のための用量計画は、疾病のタイプ、疾病の重症度、及び治療薬に対する被験者の感受性を含む多くの臨床的要因に依存して、一月に一回から一日一回まで変わり得る。
【0115】
変異抗体の用法
該発明の変異抗体はアフィニティー精製試薬として用いられ得る。この工程において、該抗体は、この分野で周知の方法を用いてSEPHADEX(商標)樹脂又はろ紙のような固相上に固定化される。固定化変異抗体は精製対象の標的を含んだ試料と接触し、その後、固定化変異抗体に結合した精製対象の標的を除く試料中の実質的に全ての物質を除去する適切な溶媒で支持体を洗浄する。最後に、グリシン緩衝液のような、変異抗体から標的を放出させる他の適切な溶媒で該支持体を洗浄する。
【0116】
変異抗体は、例えば特定の細胞、組織、又は血清中における目的の標的の発現を検出するための診断アッセイにも有用であり得る。診断への適用のため、変異抗体は典型的には検出可能な成分で標識される。多くの標識が利用可能である。蛍光の変化を定量する技術は上記の通りである。化学発光基質は化学反応により電子的に励起され、(例えばケミルミノメータを用いて)定量し得る光を放出し又は蛍光受容体にエネルギーを提供する。酵素標識の例としては、ルシフェラーゼ(例えばホタルルシフェラーゼ及び細菌性ルシフェラーゼ;米国特許第4,737,456号)、ルシフェリン、2,3−ジヒドロフタラジンジオン、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ、ウレアーゼ、セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRPO)のようなペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、ベータ−ガラクトシダーゼ、グルコアミラーゼ、リソザイム、サッカライドオキシダーゼ(例えばグルコースオキシダーゼ、ガラクトースオキシダーゼ、及びグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ)、ヘテロサイクリックオキシダーゼ(例えばウリカーゼ及びキサンチンオキシダーゼ)、ラクトペルオキシダーゼ、ミクロペルオキシダーゼといったようなものが包含される。抗体に酵素を結合させる技術はO'Sullivan et al., Methods for the Preparation of Enzyme-Antibody Conjugates for Use in Enzyme Immunoassay, in Methods in Enzym. (Ed. J. Langone & H. Van Vunakis), Academic press, New York, 73: 147-166 (1981) に記載されている。
【0117】
時々、標識は変異抗体に間接的に結合される。当業者であればこれを達成するための種々の技術を知っているだろう。例えば、変異抗体をビオチンと結合させることができ、且つ、上記した3つの広いカテゴリーの標識いずれをもアビジンと結合させることができ、又、逆の場合も同様のことがいえる。ビオチンはアビジンと選択的に結合し、従って標識が間接的な方法で変異抗体と結合することができる。あるいは、変異抗体と標識の間接的な結合を達成するため、変異抗体は小さいハプテン(例えばジグロキシン)と結合され、上記のものとは異なるタイプの標識の1つが抗ハプテン変異抗体(例えば抗ジグロキシン抗体)と結合される。このようにして変異抗体と標識の間接的結合を達成することができる。
【0118】
本発明の他の具体例では、変異抗体を標識する必要はなく、その存在は変異抗体に結合する標識抗体を用いて検出することができる。
【0119】
本発明の抗体は、競合結合アッセイ、直接及び間接サンドウィッチアッセイ、並びに
免疫沈降アッセイのような、どのような公知のアッセイにも用いることができる。Zola, Monoclonal Antibodies: A Manual of Techniques, pp. 147-158 (CRC Press, Inc. 1987)。
【0120】
競合結合アッセイは、標識標準物質が限定された量の変異抗体との結合に関してテストサンプルと競合する能力に依存している。テストサンプル中の標的の量は、抗体と結合することとなる標準物質の量に反比例する。結合することとなる標準物質の量の決定を容易にするため、抗体は一般的には競合の前又は後に不溶化される。その結果、抗体と結合した標準物質及びテストサンプルを、結合せずに残っている標準物質及びテストサンプルから都合よく分離することができる。
【0121】
サンドイッチアッセイでは二つの抗体を使用し、該抗体はそれぞれ異なる免疫原性部分、又はエピトープ、又はタンパク質に結合してそれを検出する。サンドイッチアッセイでは、分析対象のテストサンプルを固体支持体上に固定化された一次抗体に結合させ、その後該テストサンプルに二次抗体を結合させて、3つの物質から成る不溶性複合体を形成させる。米国特許第4,376,110号を参照のこと。二次抗体は、それ自体を検出可能な成分で標識してもよく(直接サンドイッチアッセイ)、又は検出可能な成分で標識された抗免疫グロブリン抗体を用いて測定してもよい(間接サンドイッチアッセイ)。例えば、サンドイッチアッセイの1つのタイプとしてはELISAアッセイがあり、この場合では検出可能な成分とは酵素である。
【0122】
免疫組織化学のためには、腫瘍サンプルは新鮮なもの若しくは凍結したものでもよく、又は例えばパラフィンに包埋しホルマリンのような防腐剤で固定してもよい。
【0123】
抗体はインビボ診断アッセイに用いることもできる。一般的に、イムノシンチオグラフィーを用いて腫瘍を局在化できるように、変異抗体は放射性ヌクレオチド(例えば111In, 99Tc, 14C, 131I, 3H, 32P又は35S)で標識される。例えば、本発明の高親和性抗IgE抗体は、例えば喘息患者の肺中に存在するIgE量を検出するために用いられ得る。
【0124】
本発明の抗体はキットで、すなわち、診断アッセイを行なうための指示書と共に試薬を予め定めた量で組み合わせて包装して提供することができる。変異抗体が酵素で標識されたものである場合、該キットは、該酵素が必要とする基質及び補助因子(例えば検出可能な発色団又は蛍光団を提供する基質前駆体)を包含し得る。さらには、安定化剤、緩衝液(例えばブロック緩衝液又は溶解緩衝液)といったようなものを包含し得る。種々の試薬の相対量は、アッセイの感度を実質的に至適化する溶液中試薬濃度を与えるために大幅に変化し得る。特に、試薬は乾燥粉末として提供してもよく、通常は親水化され、溶解時に試薬溶液が適切な濃度となるように賦形剤を包含し得る。
【0125】
抗体のインビボ使用
本発明の抗体は哺乳動物を治療するために用い得ると想定される。1つの具体例において、該抗体は、例えば前臨床データを得るために非ヒト哺乳動物に投与される。処置対象の模範的な非ヒト哺乳動物は、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、げっ歯類、及び前臨床研究が行なわれる他の哺乳動物である。そのような哺乳動物は、該抗体で治療する対象となる疾病の動物モデルを確立し得、又は目的の抗体の毒性を研究するために用いられ得る。これらの具体例それぞれでは、投与量の段階的増大の研究が哺乳動物において行なわれ得る。
【0126】
抗体又はポリペプチドは、非経口、皮下、腹腔内、肺内、及び鼻腔内、並びに、局所的な免疫抑制処置を所望する場合には病巣内への投与を包含する、いかなる適切な手段によっても投与される。非経口注入は、筋肉内、静脈内、動脈内、腹腔内、又は皮下投与を包含する。さらに、変異抗体は適切には、パルス注入によって、特に減少した変異抗体用量で投与される。好ましくは投薬は、投与が短期か慢性的かに部分的に依存して、注射によって、最も好ましくは静脈内又は皮下注射によって行なわれる。
【0127】
疾病の予防又は治療に対して、抗体又はポリペプチドの適切な用量は、治療対象となる疾病の型、疾病の重症度及び過程、変異抗体の投与が予防目的かそれとも治療目的か、過去に受けた治療、患者の臨床履歴及び該変異抗体に対する反応、並びに主治医の判断に依存するだろう。本発明の極高親和性抗ヒトIgE抗体は、適切には1回又は一連の治療にわたって患者に投与され得る。
【0128】
疾病の型及び重症度に依存して、例えば1回又は2回以上別々に投与するにせよ連続的に注入するにせよ、約0.1mg/kgから150mg/kg(例えば0.1〜20mg/kg)の抗体を患者に投与する最初の候補用量とする。上記した要素に依存して、典型的な一日の用量は約1mg/kgから100mg/kg又はそれ以上に及ぶ。数日間又はそれ以上にわたる反復投与のため、健康状態に依存して、病徴に所望の抑制が起こるまで治療が続けられる。しかしながら、他の投薬処方が有用であり得る。この治療の進捗は、従来の技術及びアッセイによって容易にモニターされる。抗-LFA-1又は抗-ICAM-1抗体に対する模範的な投薬処方はWO 94/04188中に開示されている。
【0129】
該変異抗体は、好適な医療行為と一致する方法で製剤され、投薬、投与される。これに関連して考慮される要素としては、治療される特定の不調、治療される特定の哺乳動物、個々の患者の臨床状態、不調の原因、試薬を送り込む部位、投与方法、投与計画、及び医師に知られている他の要素が包含される。投与される変異抗体の「治療に効果的な量」は、そのような考慮によって管理されるものであり、疾病又は不調の予防、改善、又は治療に必要とされる最低限の量のことである。変異抗体は、必要ではないが任意で、問題となっている不調を予防又は治療するために近年用いられている1又は2以上の薬剤と共に製剤される。そのような他の薬剤の効果的な量は、製剤中に存在する抗体の量、不調又は治療の型、及び上記した他の要素に依存する。これらは一般的には、上記で用いられる通りの投与経路で上記と同じ用量で、又は従来用いられている用量の1から99%の用量で用いられる。
【0130】
IgEを標的として認識する本発明の抗体は、「IgE媒介疾患」を治療するために用いられ得る。この疾患には、喘息、アレルギー性鼻炎及び結膜炎(枯草熱)、湿疹、蕁麻疹、アトピー性皮膚炎、及び食物アレルギーが包含される。例えば蜂刺傷、蛇咬傷、食物又は医薬品などにより引き起こされるアナフィラキシーショックの重篤な生理的状態もまた、本発明の範疇に包含される。
【実施例】
【0131】
下記実施例は例示するためのものであり、これらに限定されない。
【0132】
実施例1 抗IgEマウス MAb TES-C21のヒト化
マウスmAb TES-C21の重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)の配列を、公共のデータベースから利用可能なヒト抗体生殖系列配列と比較した。上記工程1に記載したとおり鋳型を決定する際に、全体長、フレームワーク内の類似のCDR位置、全体の相同性、CDRのサイズなどを含んだ、数種の判定基準を用いた。図3A及び3Bに表された、TES-C21 MAbの重鎖及び軽鎖配列とそれぞれのヒト鋳型配列との間の配列アラインメントで示されるとおり、一括して考慮されたこれらの基準の全てから最適なヒト鋳型を選択するための結果が得られた。
【0133】
この場合においては、この抗体を設計するために1以上のヒトフレームワーク鋳型を用いた。VH鎖に選んだヒト鋳型は、DP88(aa残基1-95)及びJH4b(aa残基103-113)の組み合わせであった(図3B参照)。VL鎖に選んだヒト鋳型は、JK4(aa残基98-107)と組み合わせたL16(VKサブグループIII、aa残基1-87)の組み合わせであった(図3A参照)。マウス配列とヒト鋳型との間のフレームワーク相同性は、VHで約70%、VLで約74%であった。
【0134】
一旦鋳型を選択して、上記及び図2に示すとおりDNA合成及び重複PCRによってFabライブラリーを構築した。該ライブラリーは、それぞれの選択ヒト鋳型、DP88/JH4b及びL16/JK4と共に合成された合成TES-C21 CDRで構成された。ライブラリーの複雑度(complexity)は4096(=212)であった。VH及びVL配列の一部をコードする重複ヌクレオチドは、18ないし21ヌクレオチドの重複を含む約63ないし約76ヌクレオチドの範囲で合成された。
【0135】
VL及びVH遺伝子のPCR増幅は、フレームワーク領域FR1に特異的な配列及びリーダー配列(遺伝子III)の末端にアニールする重複配列を含んだビオチン化フォワードプライマー並びに保存された定常領域(CK又はCH1)由来のリバースプライマーを用いて、標準的なPCR条件下で行なわれた。PCR産物は、アガロースゲル電気泳動によって、又は市販のPCR精製キットによって精製し、組み込まれなかったビオチン化プライマー及び非特異的PCRを除去した。
【0136】
PCR産物の5'リン酸化は、2μgのPCR産物、1μLのT4ポリヌクレオチドキナーゼ(10ユニット/μL)、2μLの10×PNK緩衝液、1μLの10mM ATPを、ddH2Oにて全量20μLに調製して行なった。37℃で45分間インキュベートし、65℃で10分間熱変性した後、次の工程のために反応液量をddH2Oにて200μLに調製した。
【0137】
ストレプトアビジン被膜した磁気ビーズ100μLを、200μLの2×B&W緩衝液で2回洗浄し、200μLの2×B&W緩衝液中に再懸濁した。リン酸化されたPCR産物をビーズと混合し、室温(RT)で16分間穏やかに振とうしながらインキュベートした。
【0138】
該ビーズを沈降させ、200μLの2×B&W緩衝液で2回洗浄した。調製したての0.15M NaOH 300μLにてRTで10分間穏やかに振とうしながら、非ビオチン化ssDNA(マイナス鎖)を溶出した。二度目のNaOH溶出によって、収量を若干増やすことができる(任意)。溶出液を遠心して極微量のビーズも除去した。
【0139】
1μLのグリコーゲン(10mg/mL)、1/10量の3M NaOAc(pH5.2)、及び2.5倍量のEtOHを加えることにより、上清からssDNAを沈殿させた。沈殿したssDNAは次いで70% EtOHで洗浄し、3分間凍結乾燥して20μLのddH2O中に溶解した。DNA標準と共に臭化エチジウム(EtBr)アガロースプレート上にスポットすることにより、又はOD260を測定することにより、該ssDNAを定量した。
【0140】
実施例2 ファージ発現ベクター中へのVH及びVLのクローニング
ハイブリダイゼーション変異誘発により、VH及びVLをファージ発現ベクター中にクローニングした。ウリジル化した鋳型は大腸菌CJ236株(dut- ung-)をM13ベースのファージ(ファージ発現ベクターTN003)に感染させることにより調製した。
【0141】
85℃の温度を5分間維持(変性)した後、1時間かけて55℃まで温度を低下させるPCRにより、次の成分[200ngのウリジル化ファージベクター(8.49kb);92ngのリン酸化一本鎖H鎖(489塩基);100ngのリン酸化一本鎖L鎖(525塩基);1μLの10×アニーリング緩衝液;ddH2Oで10μLに調製]をアニールさせた(挿入断片は分子量でベクターの8倍量を使用)。該サンプルを氷上で冷却した。
【0142】
該アニール産物に次の成分を加えた:1.4μLの10×合成緩衝液;0.5μLのT4 DNAリガーゼ(1ユニット/μL);1μLのT4 DNAポリメラーゼ(1ユニット/μL)、これを氷上で5分間、次いで37℃で1.5時間インキュベートした。該産物をエタノール沈殿し、10μLのddH2O又はTE中に溶解した。
【0143】
DNAを1μLのXbaI(10ユニット/μL)で2時間消化し、65℃で20分間熱失活させた。消化DNAをエレクトロポレーションにより50μLの電気的コンピテントセルDH10B中にトランスフェクトした。37℃にて一晩、XL-1Blue細菌叢上で増殖させることにより、反応生成ファージの力価を測定した。クローンの配列を決定し、組成物を確認した。
【0144】
実施例3 ライブラリーのスクリーニングのための深型ウェル培養
A. ファージライブラリーのプレーティング
プレート当たりの所望のプラーク数を得るため、ファージライブラリーをLB培地中に希釈した。力価の高いファージを200μLのXL-1B細胞培養液と混合した。3mLのLBトップアガーを混合し、LBプレート上に注ぎ、室温に10分間放置した。該プレートを37℃で一晩インキュベートした。
【0145】
B. ファージ溶出
滅菌U底96ウェルプレートの各ウェルに100μLのファージ溶出緩衝液(10mM Tris-Cl, pH 7.5, 10mM EDTA, 100mM NaCl)を加えた。フィルター付ピペットチップを用いて、一晩置いたライブラリープレートからウェルへ単一のファージプラークを移した。該ファージ溶出プレートを37℃で1時間インキュベートした。該プレートはインキュベーション後4℃で保存することができる。
【0146】
C. 深型ウェルプレートのための培養
50mLの培養液から得たXL1B細胞を1:100希釈となるように2×YT培地に加えた。該細胞は、A600が0.9から1.2の間になるまで振とう器中にて37℃で増殖させた。
【0147】
D. 深型ウェル中でのファージの感染
細胞が適切なODに達した時に、XL1B培養液に1MのIPTG(1:2000)を加えた。IPTGの終濃度は0.5mMであった。750μLの細胞培養液を96ウェルの深型ウェルプレート(Fisher Scientific)の各ウェルに移した。各ウェルは25μLの溶出ファージと共にインキュベートした。深型ウェルプレートを振とう器(250rpm)中に置いて37℃で一晩インキュベートした。
【0148】
E. ELISAスクリーニングのための上清の調製
インキュベーション後、該深型プレートをBeckman JA-5.3 plate rotorを用いて3,250 rpmで20分間遠心した。ELISAのために、各ウェルから50μLの上清を回収した。
【0149】
F. XL-1細胞培養液15mLの接種
A600=0.9〜1.2になるまで、10μg/mLのテトラサイクリンを含む2×YT中で、振とう器(250rpm)中にて37℃でXL-1を増殖させた。IPTGを終濃度0.5mMとなるように添加し、各クローンの性状解析をするために、15mLの該培養液を50mLのコニカルチューブに移した。該細胞を高力価ストック(力価=〜1011pfu/mL)由来のファージ10μLで接種し、37℃で1時間インキュベートした。該細胞は室温で振とうしながら一晩増殖させた。
【0150】
G. ペリプラズムからの可溶性Fabの単離
該細胞をIEC遠心器にて4,500rpmで20分間遠心してペレットにした。培養培地を取り除き、ペレットを650μLの再懸濁緩衝液(1mM EDTAを含む50mMトリス, pH 8.0及び500mMスクロース)中に再懸濁し、ボルテックスし、穏やかに振とうさせながら1時間氷上に置いた。細胞片は9,000rpmで10分間4℃にて遠心して取り除いた。可溶性Fabを含む上清を回収し4℃に保存した。
【0151】
実施例4 フレームワーク修飾
上記した潜在的に重要な部位のフレームワーク内に、12個のマウス/ヒトゆらぎ残基が存在した。VH中の部位73は、ヒト化ライブラリー中でマウス残基であるスレオニンを維持した。なぜならこの部位は結合に影響するものと決定されたからである。しかしながら、VH73におけるスレオニンはヒト生殖系列VHサブグループ1及び2において共通のヒト残基であることが既に知られている。
【0152】
TES-C21配列とヒト鋳型との間で異なるフレームワーク残基は上記したとおりランダムに置換され、次いでそれらの標的への結合及び抗体の折り畳みに及ぼす潜在的影響を評価した。結合に影響したかもしれない潜在的なフレームワーク残基が同定された。この場合では、それらはVH中の12, 27, 43, 48, 67, 69番目の残基、及びVL中の1, 3, 4, 49, 60, 85番目の残基であった(カバットの番号系)。(図4参照)VH領域において27番目及び69番目の部位のみが結合に有意に影響するということが後に証明された(クローン番号1136-2C)。
【0153】
行なった一次スクリーニングは、培養培地を用いたsingle point ELISA (SPE)であった(下記の記載を参照のこと)。一次スクリーニングによって抗体の標的分子に結合するクローンを選抜した。親分子と同等又はより強いシグナルを有するクローンを次のスクリーニングのために選抜した。
【0154】
2回目のスクリーニングで、個々のファージを15mlの細菌培養液中で増殖させ、ペリプラズム標本をSPE及びELISA力価アッセイに用いた。このアッセイで高い結合を保持していたクローンの性状解析をさらに行なった。一旦全ての初回選抜クローンを処理し、上位10〜15%のクローンの配列を決定して、該クローンを配列に従って並べた。各配列群の代表例を相互に比較し、最良のクローンを選択した。これらの選択クローン由来の配列を組み合わせて、種々の組み合わせの効果を評価した。
【0155】
構築したライブラリーをELISAスクリーニングに付して、組換えヒトIgE、SE44との結合の向上で選抜した。マウスTES-C21のFabより強い結合親和性を有するクローンを同定し、配列決定した。クローンID番号4, 49, 72, 76, 及び136についてさらに性状解析を行なった。クローン4, 49, 72, 78, 及び136に対するELISA力価曲線を図5A及び5Bに示す。これらの図はこれらのクローンの親和性が親であるTES-C21に類似していることを示している。これらのクローンは、ヒトIgEへの結合に関してマウスTES-C21と競合するものであり、ヒト化工程で結合エピトープが変化していなかったということがわかる。ヒト化FabはFcεRI結合IgEとは結合せず、このことは、これらより二価IgGを構築した場合に、該ヒト化抗体がヒスタミンの放出を引き起こすレセプターを架橋する可能性がより低いということを示している。
【0156】
ヒト化クローン136は、5個のマウス重鎖フレームワーク残基を保持し(ヒトVHフレームワークとの相同性は94.3%)、アフィニティーマチュレーションによって選択された100%のヒト軽鎖フレームワークを有していた。ヒト化FabによるIgEのFcεRIへの結合の阻害を実証した(図6)。
【0157】
実施例5 抗IgEのスクリーニングのためのシングルポイントELISAプロトコール
プレートを、炭酸コーティング緩衝液中に溶解した2μg/mLのヒツジ抗ヒトFdで4℃にて一晩被覆した。コーティング溶液を取り除き、該プレートを200μL/ウェルの3% BSA/PBSで37℃にて1時間ブロッキングした。該プレートをPBS/0.1% TWEEN(登録商標)(PBST)で4回洗浄し、50μL/ウェルのFabサンプル(すなわち、高力価ファージ及び分泌Fab若しくはDMBブロック由来のペリプラズム標本を含んだ上清、又は15mLの標本)を加えた。プレートを室温にて1時間インキュベートし、PBSTで4回洗浄した。次いで、0.5% BSA/PBS及び0.05% TWEEN(登録商標)中に希釈して0.015μg/mLとしたビオチン化SE44を50μL/ウェル添加した。プレートを次いで室温にて2時間インキュベートしPBSTで4回洗浄した。0.5% BSA/PBS及び0.05% TWEEN(登録商標)中に1:2000希釈したストレプトアビジンHRPを50μL/ウェル添加し、プレートを室温にて1時間インキュベートした。該プレートをPBSTで6回洗浄した。50μL/ウェルのTMB基質(sigma)を添加して発色させ、次いで50μL/ウェルの0.2M H2SO4を加えて停止した。
【0158】
実施例6 ELISA力価測定:抗IgE
プレートを、炭酸コーティング緩衝液中に溶解した0.25μg/mL(精製Fab 0.1μg/mLに対し)のSE44で4℃にて一晩被覆した。コーティング溶液を取り除き、該プレートを200μL/ウェルの3% BSA/PBSで37℃にて1時間ブロッキングした。
【0159】
該プレートをPBS/0.1% TWEEN(登録商標)(PBST)で4回洗浄した。0.5% BSA/PBS及び0.05% TWEEN(登録商標)20で1:2希釈から3倍希釈まで段階的に希釈したFab(15mLのペリプラズム標本由来)希釈液を50μL/ウェル添加した。該プレートを室温にて2時間インキュベートした。
【0160】
該プレートをPBSTで4回洗浄し、0.5% BSA/PBS及び0.05% TWEEN(登録商標)20中に1:1000 (0.8μg/ml)希釈したビオチン−ヒツジ抗ヒトFd希釈液を50μL/ウェル添加した。プレートを再度室温にて2時間インキュベートした。
【0161】
PBSTで4回洗浄後、0.5% BSA/PBS及び0.05% TWEEN(登録商標)20中で1:2000希釈したNeutra-avidin-AP(0.9μg/mL)を50μL/ウェル添加し、プレートを室温にて1時間インキュベートした。
【0162】
該プレートをPBSTで4回洗浄した。50μL/ウェルのpNPP基質を加えて発色させた。50μL/ウェルの3M NaOHを添加して発色を停止した。405nm又は410nmにおける各ウェルの吸光度を測定した。
【0163】
実施例7 M13ファージから発現された可溶性Fabのアフィニティー精製のためのプロトコール
1日目
10mg/mLのテトラサイクリンを含む500mLの培養液(2×YT)2つに、5mLのオーバーナイトストックXL1Bを植菌し、A600=0.9〜1.2となるまで37℃で増殖させた。IPTGを0.5mMの濃度で添加した。該細胞培養液それぞれに200μLのファージを感染させ、37℃で1時間振とう培養した。その後、細胞を25℃で一晩振とうして増殖させた。
【0164】
2日目
250mL遠心チューブを用いて3500×gで30分間4℃にて遠心し、細胞を沈殿させた。培養液を吸引し、ペレットを全量12〜15mLの溶解緩衝液(緩衝液A+プロテアーゼ阻害剤カクテル)中に再懸濁した。
【0165】
緩衝液A:(1リットル)
50mM NaH2PO4 6.9g NaH2PO4H2O (又は 6g NaH2PO4)
300mM NaCl 17.54g NaCl
10mM イミダゾール 0.68g イミダゾール (MW 68.08)
NaOHでpH8.0に調整
溶解緩衝液:
25mLの緩衝液AとComplete Protease Inhibitor Cocktail (Roche, Basel, Switzerland) 1錠を混合
【0166】
再懸濁した細胞を50mLのコニカルチューブに移し、100μLの100mg/mLリゾチームを加えて、混合物が小塊状になって動くようになる(溶解に起因)までチューブを数回反転させて溶解した。細胞を氷上で超音波破砕し、10μLのDNase I(約1000ユニット)を加えて4℃で30分間穏やかに振とうした。50mLの遠心チューブを用いて12000×gで30分間4℃にて遠心し、小片を沈殿させた。上清を新しいコニカルチューブに移し、4℃に保存した。
【0167】
製造者のプロトコールに従い、Ni-NTアガロース(Qiagen, カリフォルニア州Valencis)を用いて可溶性Fabを精製した。溶解物をNi-NTAと混合しカラムに注いだ。SDS-PAGE解析に付するため流出液を回収した。該カラムを20mLの緩衝液(50mM NaH2PO4, 300mM NaCl, 15mイミダゾール, NaOHでpH8.0に調整)で洗浄し、次いで20mLの50mM NaH2PO4, 300mM NaCl, 20mMイミダゾールで洗浄した。Fabを6×500μLの溶出緩衝液(50mM NaH2PO4, 300mM NaCl, 450mM イミダゾール, NaOHでpH8.0に調整)で溶出させ、SDS-PAGEで解析した。カラム分画を4℃に保存した。カラム分画をSDS-PAGEで解析し、Fabを最も多量に含む分画を選んでPBS中で4℃にて透析した。
【0168】
実施例8 可溶性レセプターアッセイ
ELISAに適した96ウェルアッセイプレートを、0.05mLの0.5μg/mL FcεRIアルファ鎖レセプターコーティング緩衝液(50mM炭酸水素塩/炭酸水素塩、pH9.6)で4〜8℃にて12時間被覆した。ウェルを吸引し、250μLのブロッキング緩衝液(PBS, 1 % BSA, pH 7.2)を加えて37℃で1時間インキュベートした。別々のアッセイプレートを用いて、サンプルと引例のTES-C21 MAbの200〜0.001μg/mLの力価を、アッセイ緩衝液(0.5% BSA及び0.05% Tween 20, PBS, pH 7.2)で1:4希釈して測定し、等量の100ng/mLビオチン化IgEを添加して該プレートを25℃で2〜3時間インキュベートした。FcεRIで被覆されたウェルをPBS及び0.05% TWEEN20で3回洗浄し、該ウェルにサンプルウェルから50μLを移し入れて、25℃で30分間揺り動かしながらインキュベートした。アッセイ緩衝液で1:2000希釈した1mg/mLストレプトアビジン−HRPを50μL/ウェル加えて揺り動かしながら30分間インキュベートし、次いで該プレートを前記の通り洗浄した。50μL/ウェルのTMB基質を加えて発色させた。等量の0.2M H2SO4を加えて反応を停止し、450nmにおける吸光度を測定した。
【0169】
実施例9 IgEと会合したFcεRIへの抗体の結合
FcεRIのアルファ−サブユニットと会合したヒトIgEへの抗体の結合を、10μg/mLヒトIgEで4℃にて30分間前インキュベートすることにより決定した。プレートを3回洗浄し、種々の濃度のマウス抗ヒトIgE mAb E-10-10又はヒト化Fab変異体のいずれかと共に1時間インキュベートした。Fabの結合はビオチン標識抗ヒトFd抗体で検出し、次いでSA-HRPを行なった。マウスab E10-10は、ヤギ抗マウスIg Fc HRP結合Abによって検出した。
【0170】
実施例10 クローンの性状解析
各候補は結合親和性について分析し、陽性クローンを配列決定した。結合親和性の増大をもたらす有益な変異をCDR中に有する変異抗体はさらに性状解析した。アッセイはBiacore解析;IgEのレセプターへの結合阻害;及びIgEと結合したレセプターの架橋を包含する。
【0171】
変異体のライブラリーを作製した。親和性の向上を示した種々のCDRのアミノ酸配列を表1中に示す。図7は置換の組み合わせを有する高親和性候補を表す。
【0172】
【表1】
【0173】
19個の重鎖変異体を図9に、及び35個の軽鎖変異体を図8に示す。3つの候補について、結合親和性の特性決定をさらに行なった。その結果を表2に示す。
【0174】
【表2】
【0175】
実施例11 抗IgE抗体の発現と精製並びにHRPとの結合
高親和性のMAb候補を作製した。無傷の抗IgE MAbを作製するため、重鎖及び軽鎖可変領域をファージベクター鋳型からPCR増幅し、H鎖及びL鎖発現ベクター中にCMVプロモーター下で別々にサブクローニングした。6つの全抗体クローンを構築した。それを図10A〜Fに示す。この分野で周知の技術によって、エレクトロポレーションを用いて適切な重鎖及び軽鎖プラスミドをマウスミエローマセルラインNSO中に共トランスフェクトした。例えばLiou et al. J Immunol. 143(12):3967-75 (1989)を参照のこと。プロテインA−セファロース(Pharmacia)を用いて、単一の安定セルライン上清から抗体を精製した。抗体濃度は分光光度計を用いて280nmにおいて、及びFCAアッセイ(IDEXX)を用いて決定した。
【0176】
製造者のプロトコールに従い、peroxidase conjugation kit(Zymed Labs, カリフォルニア州San Francisco)を用いて精製抗体をセイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)と結合させた。それぞれの結合抗IgE MAbの力価は、モノクローナルヒトIgE(SE44)でコートしたプレートを用いてELISAを行い決定した。
【0177】
次の培養物を20110-2209米国バージニア州Manassas市Boulevard大学10801内のAmerican Type Culture Collection(ATCC)に寄託した:
【0178】
【表3】
【0179】
この寄託物は、特許手続上の微生物の寄託の国際的承認に関するブタペスト条約及びそれに基づく規制(ブタペスト条約)の条項に基づいて作製された。これにより、生培養物の維持が寄託日から30年間保証される。該微生物はブタペスト条約の条件の下にATCCによって利用可能となり、関連する米国特許の発効に基づいてその後代が永久的及び非制約的に公衆に利用可能となることが保証される。
【0180】
本願の受託者は、適切な条件下で培養した際に寄託培養物が死滅又は損失若しくは崩壊した場合には、通知に対して迅速に同培養物の生標本と交換するということに同意している。寄託株が入手可能であるということは、いかなる政府の権限の下で当該政府の特許法に従って付与された権利に違反して発明を実施することを許諾するということを意味するものではない。
【0181】
上記の明細書により、当業者は発明を十分に実施可能であると考えられる。寄託された具体例は発明の1つの局面を例示するためのものであり、本発明は寄託培養物の範囲に限定されるものではなく、機能的に均等ないかなる培養物も本発明の範囲に包含される。ここでの物質の寄託は、ここで記載された詳細な説明が、本発明の最良の態様を含めた本発明のいかなる局面を実施可能とするのにも適切ではないとの自認を構成するものではなく、また、ここに表された特定の例示に請求の範囲を限定するものと解釈されるものでもない。実際、ここに記載されたものの他、上記詳細な説明から本発明の種々の改変法が当業者にとって明らかとなり、それらは添付の特許請求の範囲に包含されるであろう。
【0182】
当業者は、ルーチンな実験を行なうだけで、ここに記載された発明の特定の具体例と均等な多くの方法を認識し又は確認できるだろう。そのような均等な方法は、添付の請求の範囲に包含されるものとする。
【背景技術】
【0001】
アレルギーは、アレルゲンのような外来因子に対する過大な免疫反応により引き起こされる過敏感状態である。アレルゲンとの接触後直ちに起こるアレルギー反応によって特徴付けられる即時型(1型)過敏反応は、B細胞によって媒介されるものであり、抗原抗体反応に基づいている。遅延型過敏症はT細胞によって媒介されるものであり、細胞性免疫の機構に基づいている。近年では、「アレルギー」という語は1型過敏反応と同義的に用いられることが多くなってきている。
【0002】
即時型過敏反応は、アレルゲンに曝露した際に抗体を分泌するプラズマ細胞へと分化するB細胞による、免疫グロブリンクラスE抗体(IgE抗体)の生産に基づいた反応である。IgE誘導性反応は、アレルゲンが体内に侵入した部位において、すなわち粘膜の表面及び/又は局部リンパ節において起こる局所的な現象である。局所的に生産されたIgEは最初に局部のマスト細胞を感作し、すなわちマスト細胞の表面上においてIgE抗体がその定常領域でFcεレセプターと結合し、次いで「溢流した」IgEは循環に入り、全身の循環している好塩基球上及び組織に固定されているマスト細胞上の両方にあるレセプターと結合する。結合したIgEがその後アレルゲンと接触すると、アレルゲンの結合によってFcεレセプターが架橋され、細胞に脱顆粒及びヒスタミン、プロスタグランジン、ロイコトリエンなどのような多くの過敏症媒介因子の放出を生じさせる。これらの物質の放出が即時型過敏反応に典型的な臨床症状、すなわち気道又は腸における平滑筋の収縮、小血管の拡張並びに水及び血漿タンパク質に対する透過性の増大、例えばアレルギー性鼻炎、アトピー性湿疹及び喘息、並びにかゆみ及び痛みをもたらす皮膚における神経終末の刺激を引き起こす粘液の分泌の原因となる。その上、いくつかのB細胞は、アレルゲンに最初に接触した後、細胞表面上にIgEを発現することによって表面IgE陽性B細胞(slgE+ B細胞)の「記憶プール」を形成するため、アレルゲンに二度目に接触した時の反応は激化する。
【0003】
IgEのレセプターとして主要なものは、高親和性レセプターFcεRIと低親和性レセプターFcεRIIの二つである。FcεRIは主にマスト細胞及び好塩基球の表面上に発現されるが、FcεRIの低レベルの発現はヒトランゲルハンス細胞、樹状細胞、及び単球上でも見られ、そこではIgEに媒介されるアレルゲンの提示において機能している。さらに、FcεRIはヒト好酸球及び血小板上でも報告されている(Hasegawa, S. et. al., Hematopoiesis, 1999, 93:2543-2551)。FcεRIはB細胞、T細胞、又は好中球の表面では認められない。ランゲルハンス細胞及び皮膚の樹状細胞上でのFcεRIの発現は、アレルギー患者においてIgEが結合した抗原の提示に機能的及び生物学的に重要である(Klubal R. et al, J. Invest. Dermatol. 1997, 108 (3):336-42)。
【0004】
低親和性レセプターFcεRII(CD23)は、細胞の原形質膜由来の長いα‐ヘリックス構造のコイル状の軸から伸びた頭部構造を有する3つの同一のサブユニットを包含するレクチン様分子である(Dierks, A.E. et al., J. Immunol. 1993,150:2372-2382)。IgEと結合すると、FcεRIIはIgEの合成の調節に関与するB細胞上のCD21と会合する(Sanon, A. et al., J. Allergy Clin. Immunol. 1990, 86:333-344, Bonnefoy, J. et al., Eur. Resp. J. 1996, 9:63s-66s)。FcεRIIはアレルゲンの提示に関して長い間認識されてきた(Sutton and Gould ,1993, Nature, 366:421-428)。上皮細胞上のFcεRIIに結合したIgEは特異的且つ迅速なアレルゲンの提示の原因となっている(Yang, P.P., J. Clin. Invest., 2000, 106:879-886)。FcεRIIは、B細胞、好酸球、血小板、ナチュラルキラー細胞、T細胞、濾胞樹状細胞及びランゲルハンス細胞を包含する数種の細胞型上に存在する。
【0005】
FcεRI及びFcεRIIと相互作用するIgE分子上の構造の構成要素もまた同定された。変異誘発研究により、CH3ドメインがIgEのFcεRI(Presta et al., J. Biol. Chem. 1994, 269:26368-26373; Henry A.J. et al., Biochemistry, 1997, 36:15568-15578)及びFcεRII (Sutton and Gould, Nature, 1993, 366: 421-428; Shi, J. et al., Biochemistry, 1997, 36:2112-2122)両方との相互作用を媒介するということが示された。高親和性及び低親和性レセプター両方への結合部位は、二つのCH3ドメインにわたる中心回転軸に沿って対称的に位置している。FcεRI結合部位は、CH3ドメイン中のCH2ドメインの接続部に近い外向き側のところに位置しているが、一方でFcεRII結合部位はCH3のカルボキシ末端上にある。
【0006】
アレルギーの治療のために有望な構想は、IgEのアイソタイプに特異的であり従ってIgEに結合することができるモノクローナル抗体の適用を包含する。この方法は、アレルギーの誘導において最も初期に起こる現象でありアレルギー状態を持続させるIgE免疫反応を下方制御することによってアレルギー性反応を阻害することに基づいている。他のクラスの抗体の反応は影響されないので、即時型の及び長く持続するアレルギー症状両方への効果が達成される。ヒト好塩基球密度についての初期の研究により、患者の血漿中のIgEレベルと好塩基球当たりのFcεRIレセプター数との間の相関が示された(Malveaux et al., J. Clin. Invest., 1978, 62:176)。それによると、アレルギー及び非アレルギーの人におけるFcεRI密度は、好塩基球当たり104から106個に及ぶ。アレルギー性疾患の治療に抗IgEを用いると、循環するIgE量が治療前のレベルの1%まで減少することがその後示された(MacGlashan et al., J. Immunol., 1997, 158:1438-1445)。MacGlashanは、患者の血清中で循環しているフリーなIgEと結合する全抗IgE抗体で治療された患者から得られた血清を解析した。彼らは患者の循環するIgEのレベルを低下させることで好塩基球の表面上に存在するレセプターの数を低下させることができるということを報告した。従って、彼らは、好塩基球及びマスト細胞の表面上のFcεRI密度は循環するIgE抗体のレベルによって直接又は間接的に調節されているという仮説を立てた。
【0007】
さらに近年では、WO 99/62550において、FcεRI及びFcεRII結合部位に結合してIgEのレセプターへの結合を遮断するIgE分子及び断片の利用が開示された。しかしながら、これらのアレルギー性疾患の管理のための有害な副作用のない効果的な治療法は限られている。アレルギー性疾患の治療への取り組みのひとつは、アレルギー性鼻炎及び喘息を治療するためにヒト化抗IgE抗体を用いることを包含する(Corne, J. et al., J. Clin. Invest.1997, 99:879-887; Racine-Poon, A. et al., Clin. Pharmcol. Ther. 1997, 62:675-690; Fahy, J.V. et al., Am. J. Resp. Crit. Care Med. 1997,-155:1824-1834; Boulet, L. P. et al., Am. J. Resp. Crit. Care Med., 1997,155:1835-1840; Milgrom, E. et al., N. Engi. J. Med., 1999, 341:1966-1973)。これらの臨床データは、IgEのレセプターへの結合を阻害することはアレルギー性疾患を治療するための方法として有効であることを示している。
【0008】
抗アレルギー試薬として適した抗体は、IgE産生プラズマ細胞へと分化する表面IgE陽性B細胞と反応し、そのようなB細胞を機能上除去するために用いることができるものである。しかしながら、IgEに対する抗体は、原理上はFcεレセプターに架橋することによりIgE感作マスト細胞からの媒介物質の放出をも誘導し、血清IgE及びslgE+ B細胞レベルに及ぼされる有益な効果と拮抗することになる。従って、アレルギーの治療に適用可能な抗体は、感作マスト細胞上及び好塩基球上に結合したIgEとは反応しないがslgE+ B細胞を認識する能力を保持しているものでなければならない。
【0009】
そのようなIgEアイソタイプ特異的な抗体は、Chang et al. (Biotechnology 8, 122-126 (1990))、欧州特許第EP0407392号、及び例えば米国特許第5,449,760号のような数種の米国特許に記載されている。しかしながら、開示されている抗体はヒト起源ではないので、外来タンパク質としての免疫原性を有しているため、ヒトへの適用にはあまり適していない。この弱点は、例えばげっ歯類の抗IgEモノクローナル抗体を、げっ歯類の抗体の可変領域とヒト抗体の定常領域を組み合わせたキメラ抗体に転換することによって、潜在的に減らすことができる。この方法は、げっ歯類の親抗IgE抗体の抗原結合部位を保存し、一方でヒトのアイソタイプとエフェクターの機能を付与するものである。キメラ抗体の免疫原性は、げっ歯類の相補性決定領域(CDR)とも呼ばれる超可変領域をヒト軽鎖及び重鎖可変領域のフレームワーク中に移植し、ヒト抗体を再構成させることによって、さらに低下させることができる。該技術は、抗原特異的なげっ歯類のCDR配列を「一般的な」ヒト重鎖及び軽鎖可変領域中に存在する配列と置換又は組換え移植することを包含する(米国特許第6,180,370号)。
【0010】
天然の無傷の免疫グロブリン又は抗体はそれぞれの上腕部末端に標的結合部位を有する概ねY字型の4量体分子を包含する。標的結合部位は、軽鎖可変領域が結合した重鎖可変領域から成る。より具体的に言えば、抗体の標的結合部位は本質的に重鎖(VH)の可変領域の3つの相補性決定領域(「CDR」)及び軽鎖(VL)の可変領域の3つのCDRで形成される。VL及びVHの両鎖において、CDRは4つのフレームワーク領域(FR)と交互して一般式
(i) FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4 (I)
のポリペプチド鎖を形成しており、ここでポリペプチド鎖はN末端から始まりC末端で終わるように記載している。VH及びVL鎖のCDRはそれぞれH1、H2、H3及びL1、L2、L3とも呼ばれる。何がFR又はCDRを構成しているかの決定は、通常同種内で作製された多数の抗体のアミノ酸配列を比較することによって行なわれ、同定のための一般的な規則はこの分野において公知である("Sequences of proteins of immunological interest", Kabat E. A. et al., US department of health and human service, Public health service, National Institute of Health)。
【0011】
軽鎖可変領域による結合のエネルギー収支への寄与は、結合した重鎖可変領域による寄与と比較して小さく、同定された重鎖可変領域は固有の抗原結合活性を有する。そのような分子は一般に単一ドメイン抗体と呼ばれる(Ward, E. S. et al., Nature 341, 544-546 (1989))。
【0012】
CDRは、その領域内でβ−シートフレームワークに結合するループを形成する。アミノ酸配列とループ構造との間の関係はカノニカル構造モデルによって述べることができる(Chothia et al., Nature 342, 887-883 (1989))。このモデルによると、抗体はごく限られた主鎖のコンフォメーション又はそれぞれの超可変領域に対する「カノニカル構造」のみを有する。該コンフォメーションは、少数の鍵となるアミノ酸残基がCDR中の特定の部位に存在することにより、及びあるループに関してはフレームワーク領域中に存在することにより決定される。異なる免疫グロブリン中で同一のコンフォメーションをとる超可変領域は、これらの部位において同一又は極めて類似したアミノ酸残基を有する。
【0013】
CDR移植はモノクローナル抗体に対して行なわれ、げっ歯類CDRドナー抗体よりも顕著に低い結合親和性を有するヒト化したヒト抗体をもたらす。いくつかの例においては、CDR移植産物において満足すべき抗原結合活性を得るためにはCDRの移転の他にヒト配列のフレームワーク内の変化も必要となるということがわかってきた。
【0014】
Queenら(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86, 10029-10033 (1989))は、マウス抗Tacモノクローナル抗体由来のCDRがヒトフレームワーク内に移植可能であることを開示した。該ヒトフレームワークはマウス配列との相同性が最大になるように選択された。著者らは、CDR又は抗原との相互作用を十分に起こし得るだけ近いFR内アミノ酸残基を同定するために、マウス親抗体のコンピューターモデルを用いた。これらの残基をマウス配列中で認められる残基に変異させた。該ヒト化抗Tac抗体の親和性はマウス抗Tac抗体のおよそ1/3程度でしかなく、この抗体にヒトの特徴を維持させることは問題であった。
【0015】
免疫原性のリスクを低下させるため及び例えばアトピー性皮膚炎のような極めて高レベルのIgEを伴う疾患への臨床的適用を拡張するため、極めて高レベルのIgEを伴う疾患の治療にはより高い親和性を有する抗体が必要とされ得る。従って、ヒト化の水準が高く、且つIgEへの親和性が非常に高い抗IgE抗体を得ることが望ましい。本発明の抗体は、非常に高い親和性と非常に高いヒト配列との相同性を有する、免疫原性のリスクが低い抗ヒトIgE抗体である。
【0016】
従って、疾患の治療に必要な抗体の量を減少でき、それにより薬剤の免疫原性に由来する潜在的な副作用と患者にかかる費用を低下させることができる、親和性をより高めたヒト化抗体が必要とされている。さらに、本発明は高親和性抗体を同定する確率を向上させるものである。
【発明の概要】
【0017】
本発明は、親抗体から作製された高親和性抗体、特に極めて親和性の高い抗IgE抗体に関する。これらの高親和性抗体は、約100倍から約5000倍の範囲で親和性が増大しており、元の親抗体より少なくとも20倍以上強い結合親和性で標的エピトープに結合する。
【0018】
本発明はまた、他の方法以上に顕著に結合親和性を増大させる迅速且つ効率的な方法として非ヒト抗体のヒト化とアフィニティーマチュレーションを組み合わせる、親抗体から前記のような高親和性抗体を作製する方法に関する。この方法は、ランダムに置換したCDR及び/又はフレームワーク領域のライブラリーを作製すること並びに高親和性分子をスクリーニングすることによって、親抗体分子のCDR及びフレームワーク領域を同時に又は逐次的に修飾することを包含する。
【0019】
本発明の1つの具体例は
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】抗体のクローニング及びスクリーニングに用いたファージベクターの模式図である。
【図2】変異抗体を作製するのに有用なオリゴヌクレオチドの模式図である。
【図3】図3Aは、マウス抗IgE抗体TES-C21の軽鎖と、L16及びJK4を結合したヒト鋳型との比較図である。図3Bは、TES-C21の重鎖と、DP88及びJH4bを結合したヒト鋳型との比較図である。
【図4】親TES-C21と比較して高い親和性を有するフレームワーク残基変異体の表である。
【図5】図5A−Bは、クローン4, 49, 72, 78, 及び136のELISA力価曲線を、親TES-C21 Fab及びネガティブコントロール(5D12)と比較して示した図である。
【図6】クローン2C, 5A, 及び5Iの阻害アッセイを、親TES-C21及びネガティブコントロール抗体と比較して示した図である。
【図7】IgEに対する親和性の増大をもたらした有益な変異の組み合わせを有するクローンの配列を示す。
【図8A】クローン136, 1, 2, 4, 8, 13, 15, 21, 30, 31, 35, 43, 44, 53, 81, 90, 及び113に対する軽鎖可変領域全体のフレームワーク配列を示す。
【図8B】クローン136, 1, 2, 4, 8, 13, 15, 21, 30, 31, 35, 43, 44, 53, 81, 90, 及び113に対する軽鎖可変領域全体のフレームワーク配列を示す。
【図9A】35個のクローンに対する重鎖可変領域全体のフレームワーク配列を示す。
【図9B】35個のクローンに対する重鎖可変領域全体のフレームワーク配列を示す。
【図10A】クローン136に対する完全な重鎖及び軽鎖配列を示す。
【図10B】クローン2Cに対する完全な重鎖及び軽鎖配列を示す。
【図10C】クローン5Iに対する完全な重鎖及び軽鎖配列を示す。
【図10D】クローン5Aに対する完全な重鎖及び軽鎖配列を示す。
【図10E】クローン2Bに対する完全な重鎖及び軽鎖配列を示す。
【図10F】クローン1136-2Cに対する完全な重鎖及び軽鎖配列を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
定義
本明細書において用いられる語は、当業者が用いる一般的及び典型的な意味で解釈される。しかしながら、出願人は以下の語について下記の通りの特別な定義を与えることを望む。
【0022】
ある抗体鎖ポリペプチド配列について、「実質的に同一」という文言は、基準ポリペプチド配列と少なくとも70%、又は80%、又は90%、あるいは95%の配列同一性を示す抗体鎖と解釈され得る。核酸配列についての該語句は、基準核酸配列と少なくとも約85%、又は90%、又は95%、あるいは97%の配列同一性を示すヌクレオチド配列と解釈され得る。
【0023】
「同一性」又は「相同性」という語は、候補配列において比較対象となる対応配列の残基と同一であるアミノ酸配列の百分率を意味しており、両者の比較は必要に応じて候補配列と対応配列とを整列化しギャップを挿入した後に行なわれ、完全配列に対する最大同一性パーセントとして得られ、いかなる保存的置換も配列同一性の一部としては考慮しないものとする。N末端又はC末端における伸長又は付加は、同一性又は相同性を低下させないものとする。整列化のための方法及びコンピュータープログラムはこの分野で周知である。配列同一性は配列解析ソフトウェアを用いて測定され得る。
【0024】
「抗体」という語は最も広義の意味で用いられ、特にモノクローナル抗体(完全長モノクローナル抗体を含む)、ポリクローナル抗体、及び多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)を包含する。抗体(Ab)及び免疫グロブリン(Ig)は同様の構造的特徴を有する糖タンパク質である。抗体が特定の標的に対する結合特異性を示すのに対し、免疫グロブリンは抗体及び標的特異性を欠いた他の抗体様分子の両方を包含する。ネイティブな抗体及び免疫グロブリンは通常約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質であり、二つの同一な軽(L)鎖及び二つの同一な重(H)鎖から成る。それぞれの重鎖は一方の末端に多数の定常領域が連結した可変領域(VH)を有する。それぞれの軽鎖は一方の末端に可変領域(VL)を、もう一方の末端に定常領域を有する。
【0025】
ここで用いる「抗ヒトIgE抗体」とは、高親和性レセプターFcεRIへのIgEの結合を阻害又は実質的に低下させることができるようにヒトIgEに結合する抗体を意味する。
【0026】
抗体の可変領域の文脈中における「可変」という語は、可変領域のある一部分が抗体間で大きく配列が異なっていて、特定の抗体それぞれが特定の標的に対して結合及び特異性を発揮する際に用いられるという事実を言う。しかしながら、可変性は抗体の可変領域に渡って均等に分布しているわけではない。可変性は、軽鎖及び重鎖可変領域の両方において、超可変領域としても知られる相補性決定領域(CDR)と呼ばれる3つのセグメントに集中している。可変領域の中でより高度に保存された部分はフレームワーク(FR)と呼ばれる。ネイティブな重鎖及び軽鎖の可変領域はそれぞれ4つのFR領域を包含し、該FRは主としてβ−シート立体配置を形成し、3つのCDRで連結されており、該CDRはβ−シート構造を連結し場合によってはその構造の一部を形作るループを形成する。各鎖中のCDRはFR領域によって近接した配置となり、他の鎖のCDRと共に抗体の標的結合部位の形成に寄与する(Kabatらを参照)。ここで用いる、免疫グロブリンアミノ酸残基の番号付けは、他に断りがない限りKabatらの免疫グロブリンアミノ酸残基番号付けシステム(Sequences of Proteins of Immunological Interest, National Institute of Health, Bethesda, Md. 1987)に基づき行なうこととする。
【0027】
「抗体断片」という語は、完全長抗体の一部分、一般には標的結合又は可変領域部分を指す。抗体断片の例として、Fab, Fab', F(ab')2及びFv断片が挙げられる。抗体の「機能性断片又は類似物」という語句は、完全長抗体と共通した質的生物活性を有する化合物のことである。例えば、抗IgE抗体の機能性断片又は類似物は、そのような分子が高親和性レセプターFcεRIへ結合する能力を有することを妨げる又は実質的にその能力を低下させることができるようにIgE免疫グロブリンに結合できるものである。ここで抗体に対して用いる「機能性断片」とは、Fv, F(ab)及びF(ab')2断片のことを言う。「Fv」断片とは、完全な標的認識及び結合部位を包含する最小抗体断片のことである。この領域は、1つの重鎖及び1つの軽鎖の可変領域が強固に非共有結合的に会合した二量体(VH-VL二量体)からなる。この立体配置において、それぞれの可変領域の3つのCDRは相互作用し、VH-VL二量体の表面上に標的結合部位を規定する。6つのCDRが共同で抗体に標的結合特異性を付与する。しかしながら、単一の可変領域(すなわち標的に特異的な3つのCDRのみを含む、Fvの半分)であっても、完全な結合部位より親和性は劣るものの、標的を認識し結合する能力を有している。「一本鎖Fv」又は「sFv」抗体断片は抗体のVH及びVL領域を包含し、ここでこれらの領域は一本のポリペプチド鎖中に存在する。一般に、Fvポリペプチドは、VH領域とVL領域との間にポリペプチドリンカーをさらに包含しており、sFvが標的結合のために望ましい構造をとることができるようになっている。
【0028】
Fab断片は軽鎖の定常領域及び重鎖の一つ目の定常領域(CH1)を含む。Fab'断片は、重鎖CH1領域のカルボキシ末端に抗体ヒンジ領域由来の1又は2以上のシステインを含む少数の残基が付加されている点でFab断片と異なっている。F(ab')断片はF(ab')2ペプシン消化産物のヒンジシステインにおけるジスルフィド結合を切断して得られた産物である。抗体断片のその他の化学共役は当業者に公知である。
【0029】
ここで用いる「モノクローナル抗体」という語は、実質的に均質な抗体集団から得られた抗体、すなわち、集団中の個々の抗体が微量に存在しうる自然突然変異を除き同一である抗体を言う。モノクローナル抗体は特異性が高く、単一の標的部位に結合する。その上、異なる決定基(エピトープ)に結合する異なる抗体を典型的に含む従来の(ポリクローナル)抗体試料とは対照的に、それぞれのモノクローナル抗体は標的上の単一の決定基に結合する。その特異性に加え、モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ培養によって他の免疫グロブリンが混入しないように合成することができるという点で有利である。修飾語「モノクローナル」とは、実質的に均質な抗体集団から得られた抗体の性状を示し、なんらかの特定の方法によって抗体を生産されることが必要であると解釈されるものではない。例えば、本発明で用いられるモノクローナル抗体は、周知技術を用いてファージ抗体ライブラリーから単離され得る。本発明で用いられる親モノクローナル抗体は、Kohler及びMilstein, Nature 256, 495 (1975)により初めて示されたハイブリドーマ法により、又は組換え法により作製され得る。
【0030】
非ヒト(例えばマウス)抗体の「ヒト化」形態は、非ヒト免疫グロブリンから誘導された最小配列を含む、キメラ免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖、又はその断片(例えばFv, Fab, Fab', F(ab')2又は抗体の他の標的結合サブ配列)である。一般に、ヒト化抗体は少なくとも1つ、典型的には2つの可変領域の実質的に全てを包含し、その中において全て又は実質的に全てのCDR領域は非ヒト免疫グロブリンのCDR領域に相当し、全て又は実質的に全てのFR領域はヒト免疫グロブリンコンセンサス配列のFR領域となっている。ヒト化抗体はまた、免疫グロブリン定常領域(Fc)の、典型的には選択されたヒト免疫グロブリン鋳型のFcの少なくとも一部分も含み得る。
【0031】
「細胞」、「セルライン」及び「細胞培養物」という語は後代を包含する。意図的な又は偶発的な変異のために、全ての後代はDNAの内容が完全に同一ではなくなり得るということも知られている。当初形質転換された細胞において選抜されたものと同様の機能又は生物特性を有する変異後代が包含される。本発明において用いられる「宿主細胞」は一般的に原核又は真核宿主である。
【0032】
DNAでの細胞性生物の「形質転換」は、染色体外要素として又は染色体中への挿入によって複製可能となるように、生物中にDNAを導入することを意味する。DNAでの細胞性生物の「トランスフェクション」は、例えば発現ベクターのようなDNAを、いずれかのコード配列が実際に発現しているか否かにかかわらず細胞又は生物に取り込ませることを言う。「トランスフェクトされた宿主細胞」及び「形質転換された」という語は、DNAが導入された細胞を指す。該細胞を「宿主細胞」と呼び、原核細胞でも真核細胞でもあり得る。典型的な原核宿主細胞は大腸菌の種々の系統を包含する。典型的な真核宿主細胞は、チャイニーズハムスター卵巣又はヒト由来の細胞のような哺乳動物細胞である。導入されるDNA配列は、宿主細胞と同じ種に由来しても宿主細胞と異なる種に由来してもよく、又はいくつかの外来DNA及びいくつかの相同DNAを包含するハイブリッドDNA配列であり得る。
【0033】
「ベクター」という語は、適当な宿主中でDNAの発現に影響し得る適当な制御配列と操作可能な状態で連結しているDNA配列を含むDNA構築物を意味する。そのような制御配列は、転写をもたらすプロモーター、転写を調節する任意のオペレーター配列、適切なmRNAリボソーム結合部位をコードする配列、並びに転写及び翻訳の終止を制御する配列を包含する。ベクターはプラスミド、ファージ粒子、又は単なる潜在的ゲノム挿入であり得る。ひとたび適切な宿主中に形質転換されると、ベクターは宿主ゲノムとは独立して複製及び機能し得、又はゲノム自体に組み込まれる場合もあり得る。プラスミドはベクターの最も一般的に用いられる形態であるので、本明細書において時々「プラスミド」及び「ベクター」を同義的に用いる。しかしながら本発明は、均等な機能を発揮する、現在公知の又は将来的に公知となる他の形態のベクターをも包含する。
【0034】
発現「制御配列」とは、操作可能な状態で連結されたコード配列を特定の宿主生物中で発現するために必要とされるDNA配列のことを言う。例えば、原核生物に適した制御配列は、プロモーター、任意でオペレーター配列、及びリボソーム結合部位を包含する。真核細胞はプロモーター、ポリアデニル化シグナル、及びエンハンサーを使用することが知られている。ポリペプチドの分泌に関与するタンパク質前駆体として発現される場合には、シグナルペプチド又は分泌リーダーのためのDNAがポリペプチドをコードするDNAと操作可能な状態で連結され得;配列の転写に影響する場合にはプロモーター若しくはエンハンサーが操作可能な状態でコード配列に連結され;又は配列の転写に影響する場合にはリボソーム結合部位が操作可能な状態でコード配列に連結され;あるいはリボソーム結合部位が翻訳を促進できるように配置される場合にはリボソーム結合部位が操作可能な状態でコード配列に連結される。一般に、「操作可能な状態で連結」とは、連結されるDNA配列が隣接していること、分泌リーダーの場合には隣接し且つ同じ読み枠内であるということを意味する。しかしながら、エンハンサーは隣接している必要はない。
【0035】
治療対象の「哺乳動物」とは、哺乳動物に分類されるいずれの動物をも指し、ヒト、家畜、ヒト以外の霊長類、及びイヌ、ウマ、ネコ、ウシなどのような、動物園、スポーツ若しくはペット用の動物を包含する。
【0036】
「エピトープタグした」という語は、ここでポリペプチドと関連して用いられる場合には、「エピトープタグ」に融合させたポリペプチドを指す。エピトープタグポリペプチドは、それに対する抗体を作製することができるエピトープを提供し得る十分な残基を有し、さらにポリペプチドの活性に干渉することがないように十分に短いものである。エピトープタグはまた、好ましくは抗体が他のエピトープと実質的に交差反応することがないようにかなり独特のものである。好適なタグポリペプチドは、一般的に少なくとも6アミノ酸残基を有し、通常約8〜50アミノ酸残基(好ましくは9〜30残基)である。例えば、flu HA タグポリペプチド及びそれの抗体12CA5 (Field et al, Mol Cell. Biol. 8: 2159-2165 (1988))); c-mycタグ並びに8F9, 3C7, 6E10, G4, B7及び9E10抗体 (Evan et al., Mol Cell. Biol. 5(12): 3610-3616 (1985)); 及び単純ヘルペスウイルス糖タンパクD (gD) タグ及びそれの抗体(Paborsky et al., Protein Engineering 3(6): 547-553 (1990)) などがある。ある具体例では、該エピトープタグは、インビボでIgG分子の血清中の半減期を延長することに関与する、IgG分子(例えばIgG1, IgG2, IgG3又はIgG4)のFc領域のエピトープであり得る。
【0037】
ここで用いる「標識」という語は、例えば抗体のような分子又はタンパク質に直接又は間接的に結合させることができる、検出可能な化合物又は組成物を指す。標識はそれ自体が検出可能であり得(例えば放射性標識又は蛍光標識)、又は酵素標識の場合には基質化合物又は組成物の検出可能な化学変化を触媒し得る。
【0038】
ここで用いられる「固相」とは、本発明の抗体を付着させることができる非水性のマトリックスを意味する。ここで包含される固相の例には、部分的に又は全体がガラス(例えば制御された多孔性ガラス(controlled pore glass))、多糖類(例えばアガロース)、ポリアクリルアミド、ポリスチレン、ポリビニルアルコール及びシリコーンで形成される固相が包含される。ある具体例では、文脈に応じて、固相はアッセイプレートのウェルを包含し;また別の例では精製カラム(例えばアフィニティークロマトグラフィーカラム)を指す。
【0039】
ここで用いられる「IgE媒介疾患」という語は、免疫グロブリンIgEの過剰生産及び/又はIgEへの過敏反応により特徴付けられる状態又は疾病を意味する。特に、例えば:喘息、アレルギー性鼻炎及び結膜炎(枯草熱)、湿疹、蕁麻疹、アトピー性皮膚炎、並びに食物アレルギーを含む、アナフィラキシー性過敏反応又はアトピー性アレルギーに関連する状態を包含するものと解釈される。例えば蜂刺傷、蛇咬傷、食物又は薬品により引き起こされるアナフィラキシーショックの重篤な生理状態もまたこの語の範疇に含まれる。
【0040】
抗体の生成
起点となる又は「親」抗体は、この分野において利用可能なそのような抗体を作製するための技術を用いて調製することができる。これらの技術は周知である。出発抗体を作製するための典型的な方法は後段においてより詳細に記載する。これらの記載は親抗体を作製又は選択するための可能な代替技術であって、そのような分子を生成する方法を限定するものではない。
【0041】
抗体の結合親和性は本発明の高親和性抗体の生成に先行して測定される。抗体はまた、例えば治療上の効果を評価するために、それ以外の生物活性アッセイにも付すことができる。そのようなアッセイは当業者に公知であり、標的及び抗体の意図する用途に依存する。
【0042】
特定のエピトープに結合する抗体(例えば高親和性レセプターへのIgEの結合を阻害する抗体)を選抜するため、"Antibodies: A Laboratory Manual" (Cold Spring Harbor Laboratory, Ed Harlow and David Lane (1988))に記載されているようなルーチンな交差阻害アッセイを行なうことができる。あるいは、抗体が目的のエピトープと結合する部位を決定するためにエピトープマッピングを行なうことができる。任意で、抗体を作製するために用いられる標的の相同物に対する抗体の結合親和性(相同物が異なる種に由来する場合)は、この分野で公知の技術を用いて評価し得る。1つの具体例において、他の種とは、前臨床研究において抗体を投与される非ヒト哺乳動物である。従って、その種とはアカゲザル、カニクイザル、ヒヒ、チンパンジー及びマカクのような非ヒト霊長類である。他の具体例では、その種とは例えばげっ歯類、ネコ又はイヌである。
【0043】
親抗体は、本発明に基づき、親抗体よりも高い又は強い標的結合親和性を有する抗体を作製するために改変される。得られる高親和性抗体は好ましくは、親抗体の標的への結合親和性よりも少なくとも約10倍、又は少なくとも約20倍、又は少なくとも約500倍あるいは1000から5000倍高い標的結合親和性を有する。必要とされる又は望ましい結合親和性の向上の度合いは、親抗体の当初の結合親和性に依存するだろう。
【0044】
一般に、親抗体から高親和性抗体を作製するための方法は、以下の工程を包含する:
【0045】
1. 目的の標的と結合し、重鎖及び軽鎖可変領域を有する親抗体を得る又は選択する。これは伝統的なハイブリドーマ技術、ファージディスプレイ技術、又は標的特異的抗体を作製するその他の方法により行なわれる。
【0046】
2. 親のフレームワークと近い配列を有するフレームワーク配列、好ましくはヒト鋳型配列を選択する。該鋳型は例えばその全長が同程度であること、CDRの大きさ、フレームワークとCDRとの間の接続部に位置するアミノ酸残基、全体的な相同性などに基づいて選択され得る。選択される鋳型は1以上の配列の混合物であってもよく、又はコンセンサス鋳型であり得る。
【0047】
3. それぞれの及び全ての可能なCDR部位においてランダムなアミノ酸置換を作製することにより、クローンのライブラリーを作製する。ヒトフレームワーク鋳型中の、例えばCDRと隣接する又は結合や折り畳みに影響しうるアミノ酸を、全ての可能なアミノ酸にランダムに置換し、フレームワーク置換ライブラリーを作製してもよい。これらのフレームワーク置換について、標的への結合及び抗体の折り畳みに対するそれらの潜在効果を評価することができる。フレームワーク中のアミノ酸置換は、CDR中のアミノ酸置換と同時に又は逐次的に行なわれ得る。オリゴヌクレオチド合成による変異体ライブラリーを作製するための1つの方法。
【0048】
4. 工程(3)で作製された重鎖及び/又は軽鎖変異体を包含する発現ベクターを構築する。該ベクターは化学式:FRH1-CDRH1-FRH2-CDRH2-FRH3-CDRH3-FRH4(I) 及びFRL1-CDRL1-FRL2-CDRL2-FRL3-CDRL3-FRL4 (II)を包含し得、ここでFRL1, FRL2, FRL3, FRL4, FRH1, FRH2, FRH3及びFRH4は工程3で選び出されたフレームワーク鋳型軽鎖及び重鎖配列の変異を表し、CDRは親抗体CDRの変異CDRを表す。このような軽鎖及び重鎖配列を含むベクターの例を図1に示す。
【0049】
5. 特定の標的に対してクローンライブラリーをスクリーニングし、標的に結合するクローンから結合親和性が向上したものを選抜する。親分子よりも大きい親和力で結合するクローンが選択され得る。最適な高親和性候補は、親抗体と比較して考え得る最大の結合親和性を有し、好ましくは20倍、100倍、1000倍又は5000倍を超える結合親和性を有する。選ばれた変形例が、グリコシレーション部位又は免疫原性部位中に導入されたような望ましくないアミノ酸を含んでいる場合は、そのようなアミノ酸をより有益なアミノ酸残基に置換し、結合親和性を評価し直してもよい。
【0050】
この方法を用いて、完全にヒトの親抗体からCDR領域のみをランダムに置換し、ヒトフレームワーク領域を無傷の状態で残して高親和性抗体を作製してもよい。
【0051】
改良された高処理スクリーニング技術および図1に示したようなベクターによって、当業者は任意のCDR及び/又はフレームワーク領域中の全部位における置換の網羅的なライブラリーを迅速且つ効率的にスクリーニングできる。全部位の全てのアミノ酸を同時にランダム置換することで、例えば相乗作用に起因するような、個別的な置換によっては予期又は同定し得ない、顕著に親和性を増大する可能性のある組み合わせを選抜することが可能となる。
【0052】
親抗体の調製
A. 標的の調製
可溶性の標的又はその断片を、抗体を作製するための免疫原として用いることができる。抗体は目的の標的に対して作製される。好ましくは、該標的は生物学的に重要なポリペプチドであり、疾病又は不調に悩まされる哺乳動物に該抗体を投与することでその哺乳動物に治療効果をもたらすことができる。しかしながら、抗体は非ポリペプチド性の標的に対しても作製され得る。標的がポリペプチドであれば、膜貫通分子(例えばレセプター)又は成長因子のようなリガンドであり得る。本発明の標的の1つはIgEである。細胞全体を抗体作製のための免疫原として用いることもできる。標的は組換えにより又は合成的方法を用いて生産してもよい。標的はまた天然源からも単離し得る。
【0053】
レセプターのような膜貫通分子に関しては、それらの断片(例えばレセプターの細胞外領域)を免疫原として用いることができる。あるいは、膜貫通分子を発現する細胞を免疫原として用いることができる。そのような細胞は天然源(例えばマストセルライン)から誘導することができ、又は組換え技術により膜貫通分子を発現するように形質転換された細胞でもよい。抗体調製のために有用なその他の標的及びその形態は当業者に明らかとなるであろう。
【0054】
B. ポリクローナル抗体
ポリクローナル抗体は通常、非ヒト哺乳動物において適切な標的をアジュバントと組合わせて多重に皮下(sc)又は腹腔内(ip)注射することにより作製される。関連する標的を、例えばキーホールリンペットヘモシニアンのような、免疫対象の動物種において免疫原性のあるタンパク質と結合させることが有用であり得る。免疫応答を誘発できる多くの物質がこの分野において周知である。
【0055】
動物は、タンパク質又は結合体(それぞれウサギ又はマウスに対して)をフロインドの完全アジュバントと組み合わせてその溶液を皮内注射することにより、標的、免疫原性結合体、又は誘導体に対して免疫される。1ヵ月後、フロインドの完全アジュバント中に当初の1/5〜1/10量で含まれるペプチド又は結合体で複数部位を皮下注射することにより、該動物を追加免疫する。7〜14日後、動物から採血し血清の抗体力価について検定する。力価がプラトーに達するまで動物を追加免疫する。
【0056】
選択された哺乳動物の抗体は、通常は標的に対し十分に強い結合親和性を有している。例えば、抗体は約1 x 10-8 Mの結合親和性(Kd)値でヒト抗IgE標的に結合しうる。抗体親和性は飽和結合法;酵素結合免疫吸着検定法(ELISA);及び競合アッセイ(例えば放射免疫アッセイ)によって決定されうる。
【0057】
目的の標的に結合する抗体をスクリーニングするため、Antibodies, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Ed Harlow and David Lane (1988) に記載されているようなルーチンな架橋アッセイを行なうことができる。あるいは、結合を測定するため、例えばChampe, et al. J. Biol. Chem. 270: 1388-1394 (1995) に記載されているようなエピトープマッピングを行なうことができる。
【0058】
C. モノクローナル抗体
モノクローナル抗体とは、単一の抗原部位を認識する抗体である。モノクローナル抗体は、その均一な特異性により、通常種々の異なる抗原部位を認識する抗体を包含するポリクローナル抗体よりもはるかに有用となっている。モノクローナル抗体は、Kohler et al., Nature, 256: 495 (1975) により初めて記載されたハイブリドーマ法を用いることにより、又は組換えDNA法により作製し得る。
【0059】
ハイブリドーマ法では、マウス又はげっ歯類のようなその他の好適な宿主動物をここで上記したように免疫し、免疫化に用いたタンパク質に特異的に結合するであろう抗体を生産する又は生産し得るリンパ球を誘起する。あるいは、リンパ球はインビトロで免疫され得る。次いでリンパ球を、ポリエチレングリコールのような適当な融合剤を用いてミエローマ細胞と融合させ、ハイブリドーマ細胞を形成させる(Goding, Monoclonal Antibodies: Principals and Practice, pp. 590-103 (Academic Press,1986))。
【0060】
このように調製されたハイブリドーマ細胞を、融合しなかった親ミエローマ細胞の増殖又は生存を阻害する1又は2以上の物質を好ましく含む適切な培地中に植えて増殖させる。例えば、親ミエローマ細胞がヒポキサンチングアニンホスフォリボシルトランスフェラーゼ(HGPRT又はHPRT)酵素を欠失している場合には、ハイブリドーマのための培地は典型的には、HGPRT欠損細胞の増殖を防止する物質であるヒポキサンチン、アミノプテリン及びチミジンを含む(HAT培地)であろう。好ましいミエローマ細胞は、効率的に融合し、選択された抗体生産細胞による安定した高レベルの抗体生産を支持し、HAT培地のような培地に感受性であるものである。ヒトモノクローナル抗体の生産に関して、ヒトミエローマ及びマウス‐ヒトへテロミエローマセルラインが記載されている(Kozbar, J. Immunol. 133: 3001 (1984); Brodeur et al., Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications, pp. 51-63 (Marcel Dekker, Inc., New York, 1987))。
【0061】
所望の特異性、親和性、及び/又は活性を有する抗体を生産するハイブリドーマ細胞を同定した後、該クローンを限界希釈法によりサブクローンし、常法により増殖させることができる(Goding, Monoclonal Antibodies: Principals and Practice, pp. 59-103, Academic Press, 1986))。この目的のための適当な培地は包含する。サブクローンにより分泌されたモノクローナル抗体は、例えばプロテインA‐セファロース、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析又はアフィニティークロマトグラフィーのような従来の免疫グロブリンの精製方法により培養培地から適切に分離される。
【0062】
モノクローナル抗体をコードするDNAは、従来法を用いて(例えばモノクローナル抗体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合し得るオリゴヌクレオチドプローブを用いることにより)容易に同定及び配列決定される。ハイブリドーマ細胞はそのようなDNAの供給源として機能する。一旦同定すれば、該DNAを発現ベクター中に入れることができ、該ベクターは次いで、大腸菌細胞、NS0細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞又はミエローマ細胞のような宿主細胞中に導入され、該組換え宿主細胞中でモノクローナル抗体が合成される。該DNAはまた、例えばヒト重鎖及び軽鎖定常領域を相同なマウス配列の位置に置換することにより(米国特許第4,816,567号; Morrison et al., Proc. Natl Acad. Sci. USA 81: 6851 (1984))、又は免疫グロブリンポリペプチドに共有結合的に連結させることにより、修飾することができる。
【0063】
D. ヒト化抗体
ヒト化は、無傷のヒト可変領域よりも実質的に少ない部分が非ヒト種由来の相当する配列で置換されているキメラ抗体を作製するための技術である。ヒト化抗体は、非ヒト供給源から導入された1又は2以上のアミノ酸残基を有する。これらの非ヒトアミノ酸残基はしばしば「インポート」残基と言われ、典型的には「インポート」可変領域由来である。ヒト化は基本的にはWinter及び共同実験者(Jones et al, Nature 321: 522-525 (1986); Riechman et al., Nature 332: 323-327 (1988); Verhoeyens et al., Science 239: 1534-1536 (1988))の方法に倣って、非ヒトCDR又はCDR配列をヒト抗体中の相当する配列と置換することにより行なわれ得る(例えば米国特許第4,816,567号を参照)。本発明で実施した通り、ヒト化抗体はマウス抗体中の相同部位由来の残基で置換されたいくつかのCDR残基及びいくつかのFR残基を有し得る。
【0064】
ヒト化抗体の作製に用いるための軽鎖及び重鎖両方のヒト可変領域の選択は、抗原性を減少させるために大変重要である。いわゆる「最良適合(best fit)」法では、非ヒト抗体の可変領域の配列を公知のヒト可変領域配列のライブラリーと比較する。非ヒト親抗体の配列と最も近いヒト配列を次いで、ヒト化抗体のためのヒトフレームワークとして利用する(Sims et al., J. Immunol. 151: 2296 (1993); Chothia et al., J. Mol. Biol. 196: 901 (1987))。他の方法では、軽鎖又は重鎖の特定のサブグループの全てのヒト抗体のコンセンサス配列から誘導された、特殊なフレームワークを用いる。同様のフレームワークは、数種の異なるヒト化抗体に用いられ得る(Carter et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89: 4285 (1992); Presta et al., J. Immunol. 151:2623 (1993))。
【0065】
E. 抗体断片
抗体断片の生産に関して種々の技術が開発されている。伝統的には、これらの断片は無傷の抗体のタンパク質分解を経て誘導された(例えばMorimoto et al., Journal of Biochemical and Biophysical Methods 24: 107-117 (1992) and Brennan et al., Science 229: 81 (1985)を参照)。しかしながら、これらの断片は現在では組換え宿主細胞により直接的に生産可能である。例えば、抗体断片は抗体ファージライブラリーから単離することができる。あるいは、F(ab')2-SH断片を大腸菌から直接回収し、化学的に結合させてF(ab')2断片を形成することができる(Carter et al., Bio/Technology 10: 163-167 (1992))。他の方法では、組換え宿主細胞培養物から直接F(ab')2断片を単離することができる。抗体断片を生産するためのその他の技術が当業者に明らかになるだろう。他の具体例では、選択される抗体は一本鎖Fv断片(scFv)である(PCT特許出願WO 93/16185)。
【0066】
高親和性抗体の調製
一旦親抗体を同定及び単離したら、親抗体の1又は2以上の可変領域において1個又は2個以上のアミノ酸残基が改変される。あるいは、又はそれに加えて、フレームワーク残基の1個又は2個以上の置換が親抗体中に導入されてもよく、それにより抗体の結合親和性、例えばヒトIgEに対する抗体の結合親和性が改良される。修飾対象のフレームワーク領域残基の例には、直接非共有的に標的に結合するもの(Amit et al. Science 233: 747-753 (1986));CDRのコンフォメーションに相互作用/影響するもの(Chothia et al. J. Mol. Biol. 196: 901-917 (1987));及び/又はVL−VH接合部分に加わるもの(EP 239 400 B1)が包含される。ある具体例では、1個又は2個以上のそのようなフレームワーク領域残基の修飾により、目的とする標的に対する抗体の結合親和性が増大する。
【0067】
抗体の生物学的特性の改変は、例えば(a)置換領域におけるポリペプチド主鎖の構造、例えばシート若しくはヘリックス配座;(b)標的部位における分子の電荷若しくは疎水性、又は(c)側鎖のバルクの維持に及ぼす影響が顕著に異なる置換を選択することにより達成される。非保存的置換は、これらのクラスのうちの1つのメンバーを他のクラスと交換することを伴う。
【0068】
アミノ酸配列変異をコードする核酸分子は、この分野において公知の種々の方法により調製される。これらの方法は、オリゴヌクレオチド媒介(又は部位指向)変異法、PCR変異法、及び初期に調製した種依存抗体の変異体又は非変異体のカセット変異法を包含するが、これに限定されるものではない。変異を作製する好ましい方法はオリゴヌクレオチド媒介合成法である。ある具体例では、変異抗体は、例えば約2から約15の超可変領域置換のうち、単一の置換された超可変領域残基のみを有する。
【0069】
変異体のライブラリーを作製する1つの方法は、図2に示された図式に基づいたオリゴヌクレオチド媒介合成法によるものである。それぞれほぼ100ヌクレオチドの3つのオリゴヌクレオチドが軽鎖又は重鎖可変領域全体にわたって合成され得る。各オリゴヌクレオチドは:(1)Nが任意のヌクレオチド、KがG又はTを表す(NNK)20トリプレットにより生成される連続60アミノ酸、及び(2)各末端において隣接するオリゴ又はベクター配列のいずれかとのおよそ15〜30ヌクレオチドの重複を含み得る。PCR反応においてこれら3つのオリゴヌクレオチドがアニーリングすると、ポリメラーゼは向かい合う鎖を充填して重鎖又は軽鎖可変領域配列の完全な二本鎖を生成する。トリプレットの数はいかなる反復の長さにも調整することができ、オリゴヌクレオチド中のそれらの位置は任意のCDR又はフレームワーク領域中のアミノ酸のみを置換できるように選択され得る。(NNK)を用いることにより、コードされる変異中のそれぞれの位置において20種のアミノ酸全てが可能となる。5〜10アミノ酸(15〜30ヌクレオチド)の重複配列は置換されないが、ここがフレームワークのスタッキング領域中になるように選んでもよく、又は別個の若しくは後続段階の合成によって置換してもよい。オリゴヌクレオチドを合成する方法はこの分野において周知であり、市販品を利用できる。これらのオリゴヌクレオチドから変異抗体を作製する方法もまた、例えばPCRのように、この分野において周知である。
【0070】
配列中のランダムな位置で異なっている重鎖及び軽鎖変異体のライブラリーは、いかなる発現ベクター中でも構築することができ、例えばバクテリオファージ、とりわけ図1のベクターで構築することができ、いずれも特定の重鎖及び軽鎖変異をコードするDNAを包含する。
【0071】
変異抗体の生産に次いで、親抗体と比較した変異体の生物活性が決定される。上記の通り、これには変異体の標的への結合親和性の測定が包含される。目的の標的との結合能に関して変異抗体を迅速にスクリーニングするための、多くの高処理法が存在する。
【0072】
次いで、この最初のスクリーニングで選抜された1又は2以上の変異抗体から、親抗体と比較して結合親和性が増大したものをスクリーニングする。結合親和性を決定するための1つの慣用法は、BIAcore(登録商標) 表面プラズモン共鳴システム (BlAcore, Inc.)を用いて、結合及び解離速度定数を評価する方法である。製造者(BlAcore)の指示書によると、標的の共有結合的カップリングに対してバイオセンサーチップが活性化される。次いで標的を希釈し、該チップ上に注入し、固定化された物質の応答単位(response units; RU)でシグナルを得る。RU単位のシグナルは固定化された物質の質量に比例するので、これはマトリックス上に固定化された標的濃度の範囲を表す。解離データはone-site modelに当てはめてkoff +/- s.d.(測定値の標準偏差)を得る。擬1次速度定数(ks)は各結合曲線に対して計算し、タンパク質濃度の関数としてプロットしてkon +/- s.e.(当てはめの標準誤差)を得る。結合の平衡解離定数KdはSPR測定よりkoff/konとして算出する。平衡解離定数Kdはkoffに反比例するので、全ての変異体で結合速度(kon)が一定であると仮定して親和性増大の評価を行なうことができる。
【0073】
得られた高親和性を有する候補は、結合親和性が増大した変異抗体が所望の治療的特性を保持しているかどうかを調べるために、任意で1又は2以上のさらなる生物活性分析に付してもよい。例えば、抗IgE抗体の場合には、IgEのレセプターへの結合を遮断しヒスタミンの放出を阻害するものをスクリーニングしてもよい。最適な変異抗体は、親抗体よりも有意に高い結合親和性で標的に結合する能力を保持している。
【0074】
このように選抜された変異抗体は、多くの場合、抗体の使用目的に依存してさらなる修飾を施され得る。そのような修飾は、アミノ酸配列のさらなる改変、異種ポリペプチドとの融合、及び/又は以下に詳細に述べるような共有結合的な修飾を包含し得る。例えば、分子の酸化安定度を改良し異常な架橋を防止するために、変異抗体の適正なコンフォメーションの維持に関与しないいずれのシステイン残基を置換してもよく、一般的にはセリンと置換される。逆に、(特に抗体がFv断片のような抗体断片である場合に)その安定性を改良するために抗体にシステイン結合を付加してもよい。
【0075】
ベクター
本発明はまた、ここで開示されているような変異抗体をコードする単離核酸、該核酸を含むベクター及び宿主細胞、並びに該変異抗体を生産するための組換え技術を提供する。変異抗体の組換え体生産のために、それをコードする核酸が単離され、さらなるクローニング(DNAの増幅)のために又は発現のために複製可能なベクター中に挿入される。変異抗体をコードするDNAは、慣用法を用いて(例えば変異抗体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合し得るオリゴヌクレオチドプローブを用いることにより)容易に単離及び配列決定される。
【0076】
多くのベクターが利用可能である。ベクター構成物は一般的には次に挙げるものを1又は2以上包含するが、これに限定されるものではない:シグナル配列、複製開始点、1又は2以上のマーカー遺伝子、エンハンサー要素、プロモーター、及び転写終結配列。
【0077】
適正な結合特異性及び最低限の親和性の判定基準で変異Fabを迅速に選抜及びスクリーニングできるように、図1に示すファージ発現ベクターは、常用されるM13ベクター及びM13自身が有する遺伝子IIIウイルス性分泌シグナルで構成される。このベクターは完全な遺伝子III配列を用いておらず、そのため細菌細胞の表面上には何も提示されないが、細胞膜周辺腔中にFabが分泌される。あるいは、細胞質中にFabが発現され単離され得る。重鎖及び軽鎖はそれぞれ独自のウイルス性分泌シグナルを有するが、単一の強力な誘導性プロモーターから従属的に発現される。
【0078】
図1のベクターはまた、簡便な精製及び検出のためにHisタグ及びmycタグを備えている。当業者であれば、Fabは別個のプロモーターから別々に発現されてもよいこと、又は、分泌シグナルは選択されたウイルス配列である必要はないが、選択した宿主細胞からの抗体断片の分泌に適した原核生物若しくは真核生物のシグナル配列であってもよいことがわかるだろう。重鎖及び軽鎖が異なるベクターに存在してもよいということもわかるだろう。
【0079】
A. シグナル配列構成物
本発明の変異抗体は組換えによって生産し得る。該変異体はまた、好ましくはシグナル配列又は成熟タンパク質若しくはポリペプチドのN末端に特異的切断部位を有する他のポリペプチドである異種ポリペプチドと融合した融合ポリペプチドとして発現し得る。選択された異種シグナル配列は好ましくは、宿主細胞によって認識及び加工される(すなわちシグナルペプチダーゼによって切断される)ものである。ネイティブな抗体シグナル配列を認識及び加工しない原核宿主細胞に対しては、シグナル配列を、例えばアルカリホスファターゼ、ペニシリナーゼ、Ipp、若しくは熱安定性エンテロトキシンIIリーダーの群から選択した原核生物のシグナル配列と置換してもよい。あるいは図1のベクターの場合には、選択したシグナル配列は遺伝子III由来のウイルス性シグナル配列とした。酵母の分泌に対しては、ネイティブなシグナル配列を、例えば酵母インベルターゼリーダー、α‐因子リーダー(Saccharomyces属及びKluyveromyces属α‐因子リーダー)、若しくは酸性ホスファターゼリーダー、C. albicansグルコアミラーゼリーダー、又は例えばWO 90/13646に記載されているシグナルで置換してもよい。哺乳動物細胞発現においては、哺乳動物シグナル配列及びウイルス性分泌リーダー、例えば単純ヘルペスgDシグナルが利用可能である。そのような前駆領域のDNAは、変異抗体をコードするDNAと読み枠を合わせて結合される。
【0080】
B. 複製開始点構成物
ベクターは通常、当該ベクターが1又は2以上の選択宿主細胞内で複製可能となるようにする核酸配列を包含する。一般に、この配列は、ベクターが宿主染色体DNAとは独立して複製できるようにするものであり、複製開始点又は自律複製配列を包含する。そのような配列は種々の細菌、酵母、ウイルスにおいてよく知られている。プラスミドpBR322由来の複製開始点は大部分のグラム陰性細菌に適し、2μプラスミド開始点は酵母に適し、種々のウイルス開始点(SV40、ポリオーマ、アデノウイルス、VSV又はBPV)は哺乳動物細胞内のベクターに有用である。一般に、複製開始点構成物は哺乳動物発現ベクターに対しては必要とされない(SV40開始点は典型的には初期プロモーターを有しているという理由でのみ用いられ得る)。
【0081】
C. 選択遺伝子構成物
ベクターは、選択マーカーとも呼ばれる選択遺伝子を含み得る。典型的な選択遺伝子は、(a)例えばアンピシリン、ネオマイシン、メトトレキセート、又はテトラサイクリンのような抗生物質又はその他の毒素に対する抵抗性を付与し、(b)栄養要求性欠損を相補し、又は(c)例えば桿菌のD-アラニンラセマーゼをコードする遺伝子のような天然培地からは利用できない重要な栄養素を供給するタンパク質をコードする。
【0082】
選択スキームの一例では、宿主細胞の増殖を阻止する薬剤を利用する。異種遺伝子での形質転換が成功した細胞は薬剤耐性を付与するタンパク質を生産し、従って選択措置を免れて生存する。そのような優性選択の例では、ネオマイシン、マイコフェノール酸及びハイグロマイシンが用いられる。
【0083】
哺乳動物細胞に適した選択マーカーのその他の例は、DHFR、チミジンキナーゼ、メタロチオネイン−I及び−II、好ましくは霊長類のメタロチオネイン遺伝子、アデノシンデアミナーゼ、オルニチンデカルボキシラーゼなどのような、抗体核酸を取り込み得る細胞の同定を可能にするものである。
【0084】
例えば、DHFR選択遺伝子で形質転換された細胞は、最初にDHFRの競合的拮抗薬であるメトトレキセート(Mtx)を含む培地中で全ての形質転換体を培養することにより同定される。野生型のDHFRを用いる際に適切な宿主細胞は、DHFR活性を欠損したチャイニーズハムスター卵巣(CHO)セルラインである。
【0085】
あるいは、抗体、野生型DHFRタンパク質、及びアミノグリコシド3'‐ホスフォトランスフェラーゼ(APH)のようなその他の選択マーカーをコードするDNA配列で形質転換又は共形質転換された宿主細胞(特に内生DHFRを包含する野生型宿主)は、例えばカナマイシン、ネオマイシン、又はG418 (米国特許第4,965,199号) といったアミノグリコシド系の抗生物質のような、選択マーカーに対する選択試薬を含む培地中での細胞の増殖によって選択することができる。
【0086】
酵母で使用するために適した選択遺伝子は、酵母プラスミドYrp7中に存在するtrp1遺伝子である(Stinchcomb et al., Nature 282: 39 (1979))。trp1遺伝子は、例えばATCC No. 44076又はPEP4-1のような、トリプトファン中で増殖する能力を欠失している酵母変異株に対する選択マーカーを提供する。Jones, Genetics 85: 12 (1977)。酵母宿主細胞ゲノム中にtrp1損傷が存在することで、トリプトファン欠乏下での増殖によって形質転換を効果的に検出する環境が提供される。同様に、Leu2‐欠損酵母株(ATCC 20,622又は38,626)は、Leu2遺伝子を有する公知のプラスミドで相補される。
【0087】
D. プロモーター構成物
発現及びクローニングベクターは通常、宿主生物に認識され抗体核酸と操作可能な状態で連結されるプロモーターを包含する。原核生物宿主に用いるために適したプロモーターは、phoAプロモーター、β‐ラクタマーゼ及びラクトースプロモーター系、アルカリホスファターゼ、トリプトファン(trp)プロモーター系、並びにtacプロモーターのようなハイブリッドプロモーターを包含する。しかしながら、他の公知の細菌プロモーターが適している。細菌系において用いるプロモーターはまた、抗体をコードするDNAと操作可能な状態で結合したシャイン−ダルガルノ(S.D.)配列も包含し得る。
【0088】
真核生物のためのプロモーター配列が知られている。事実上、全ての真核生物遺伝子は、転写が開始する部位からおよそ25ないし30塩基上流に位置するATに富んだ領域を有する。多くの遺伝子で転写開始点から70ないし80塩基上流に見つかった他の配列は、CNCAAT領域であり、Nはいずれかのヌクレオチドであり得る。大部分の真核生物遺伝子の3’末端にはAATAAA配列があり、該配列はコード配列の3’末端にポリA配列を付加するためのシグナルであり得る。これらの配列は全て、原核生物発現ベクター中に好適に挿入される。
【0089】
酵母宿主と共に用いるのに適したプロモーター配列の例には、3‐ホスフォグリセリン酸キナーゼ、又は、エノラーゼ、グリセルアルデヒド‐3‐リン酸デヒドロゲナーゼ、ヘキソキナーゼ、ピルビン酸デカルボキシラーゼ、ホスフォフルクトキナーゼ、グルコース‐6‐リン酸イソメラーゼ、3‐ホスフォグリセリン酸ムターゼ、ピルビン酸キナーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ、ホスフォグルコースイソメラーゼ、及びグルコキナーゼのような他の解糖酵素のプロモーターが包含される。
【0090】
生育状況によって制御される転写の利点をさらに有する誘導性プロモーターである、他の酵母プロモーターは、アルコールデヒドロゲナーゼ2、イソシトクロームC、酸性ホスファターゼ、窒素代謝に関与する分解酵素、メタロチオネイン、グリセルアルデヒド‐3‐リン酸デヒドロゲナーゼ、並びにマルトース及びガラクトースの利用化に関与する酵素に対するプロモーター領域である。酵母での発現において用いるのに適したベクター及びプロモーターは、欧州特許第73,657号にさらに記載されている。酵母エンハンサーもまた酵母プロモーターと共に有利に用いられる。
【0091】
哺乳動物宿主細胞内でのベクターからの抗体の転写は、宿主細胞系に適合するならば、例えば、ポリオーマウイルス、鶏痘ウイルス、アデノウイルス(例えばアデノウイルス2)、ウシ乳頭腫ウイルス、トリ肉腫ウイルス、サイトメガロウイルス、レトロウイルス、B型肝炎ウイルス、及び最も好ましくはシミアンウイルス40(SV40)のようなウイルスのゲノムから得られたプロモーター、例えばアクチンプロモーター又は免疫グロブリンプロモーターなどの異種哺乳動物プロモーターから得られたプロモーター、熱ショックプロモーターから得られたプロモーターによって制御される。
【0092】
SV40ウイルスの初期及び後期プロモーターは、SV40ウイルス複製開始点をも包含するSV40制限断片として簡便に得られる。ヒトサイトメガロウイルスの前初期プロモーターはHindIII E制限断片として簡便に得られる。ウシ乳頭腫ウイルスをベクターとして用いて哺乳動物宿主内でDNAを発現するための系が米国特許第4,419,446号に開示されている。この系の改変例が米国特許第4,601,978号に記載されている。あるいは、単純ヘルペスウイルス由来のチミジンキナーゼプロモーターの制御下で、マウス細胞内においてヒトβ‐インターフェロンcDNAが発現されている。あるいはまた、ラウス肉腫ウイルス末端反復配列をプロモーターとして用いることができる。
【0093】
E. エンハンサー要素構成物
本発明の抗体をコードするDNAの高等真核生物による転写は、多くの場合、ベクター中にエンハンサー配列を挿入することによって増大する。現在では哺乳動物遺伝子(グロビン、エラスターゼ、アルブミン、α‐インターフェロン、及びインシュリン)由来の多くのエンハンサー配列が知られている。しかしながら典型的には、真核生物細胞ウイルス由来のエンハンサーが用いられるであろう。例には、複製開始点の後期側のSV40エンハンサー(bp 100-270)、サイトメガロウイルス初期プロモーターエンハンサー、複製開始点の後期側のポリオーマエンハンサー、及びアデノウイルスエンハンサーが含まれる。真核生物プロモーターの活性化のための促進要素についてはYaniv, Nature 297: 17-18 (1982)も参照のこと。エンハンサーは、ベクター中で抗体コード配列に対して5'又は3'の位置につなげてよいが、好ましくはプロモーターより5'側の部位に設けられる。
【0094】
F. 転写終結構成物
真核生物宿主細胞(酵母、真菌、昆虫、植物、動物、ヒト、又は他の多細胞生物由来の有核細胞)内で用いる発現ベクターはまた、転写の終結及びmRNAの安定化のために必要な配列も含み得る。そのような配列は一般に、真核生物又はウイルスのDNA又はcDNAの5’及び、時には3’非翻訳領域から利用可能である。これらの領域は、抗体をコードするmRNAの非翻訳部位中にポリアデニル化断片として転写されるヌクレオチドセグメントを包含する。有用な転写終結構成物の1つは、ウシ成長ホルモンポリアデニル化領域である。例えばW094/11026を参照のこと。
【0095】
宿主細胞の選択及び形質転換
ここでベクター中にDNAをクローニング又は発現するのに適した宿主細胞は、原核生物、酵母、又は高等真核生物細胞である。この目的に適した原核生物は、例えば大腸菌、エンテロバクター属(Enterobacter)、エルウィニア属(Erwinia)、クレブシエラ属(Klebsiella)、プロテウス属(Proteus)、サルモネラ属(Salmonella)、セラチア属(Serratia)、及び赤痢菌のような腸内細菌、並びに桿菌、シュードモナス属(Pseudomonas)、及びストレプトミセス属(Streptomyces)といった、グラム陰性及びグラム陽性生物の両方を包含する。好ましい大腸菌クローニング宿主の1つはE. coli 294 (ATCC 31,446)であるが、E. coli B、E. coli X1776 (ATCC 31,537)及びE. coli W3110 (ATCC 27,325)のような他の菌株も適している。これらの例は説明のために挙げたものであり、これらに限定されない。
【0096】
原核生物の他、糸状菌又は酵母のような真核微生物が、抗体コードベクターにとってクローニング又は発現に適した宿主である。サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)は下等真核宿主微生物のうちで最も一般的に用いられる。しかしながら、シゾサッカロミケス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe);クルイベロミセス属(Kluyveromyces);カンジダ属(Candida);トリコデルマ属(Trichoderma);アカパンカビ(Neurospora crassa);並びに、例えばパンカビ属(Neurospora)、アオカビ属(Penicillium)、トリポクラジウム属(Tolypocladium)、及び、A. nidulans、A. nigerのようなコウジカビ属(Aspergillus)宿主のような糸状菌といった、多くの他の属、種、及び系統が一般的に利用可能であり、ここでも有用である。
【0097】
グリコシル化抗体の発現に適した宿主細胞が多細胞生物から誘導されている。主に、脊椎動物培養物由来か無脊椎動物培養物由来かを問わず、いかなる高等真核細胞培養物をも活用できる。無脊椎動物細胞の例には植物及び昆虫細胞が包含される、Luckow et al., Bio/Technology 6, 47-55 (1988); Miller et al., Genetic Engineering, Setlow et al. eds. Vol. 8, pp. 277-279 (Plenam publishing 1986); Mseda et al., Nature 315, 592-594 (1985)。多くのバキュロウイルス系統及び変種、並びに、スポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)(毛虫)、ヤブカ属(Aedes)(蚊)、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)(ショウジョウバエ)、及びカイコ(Bombyx mori)のような宿主由来の、対応する許容昆虫宿主細胞が同定されてきている。例えば、オートグラファカリフォルニカ(Autographa californica)NPVのL-1変種及びカイコNPVのBm-5系統のような、トランスフェクションのための種々のウイルス系統が公的に利用可能であり、そのようなウイルスを本発明に基づきここでウイルスとして、特にスポドプテラ・フルギペルダ細胞のトランスフェクションのためのウイルスとして用いてもよい。その上、綿花、トウモロコシ、ジャガイモ、ダイズ、ペチュニア、トマト、及びタバコといった植物細胞培養物もまた宿主として利用される。
【0098】
培養液(組織培養液)中の脊椎動物細胞及び脊椎動物細胞の増殖は、常套手段となりつつある。Tissue Culture, Academic Press, Kruse and Patterson, eds. (1973)を参照のこと。有用な哺乳動物宿主セルラインの例は、サル腎臓;ヒト胚性腎ライン;新生ハムスター腎ライン;チャイニーズハムスター卵巣細胞/-DHFR(CHO, Urlaub et al., Proc. NatI. Acad. Sci. USA 77: 4216 (1980));マウスセルトリ細胞;ヒト子宮頸癌細胞(HELA);イヌ腎細胞;ヒト肺細胞;ヒト肝細胞;マウス乳腺癌;及びNS0細胞である。
【0099】
宿主細胞は抗体生産のために上記したベクターで形質転換され、プロモーターの誘導、形質転換体の選抜、又は所望の配列をコードする遺伝子の増幅に適するように改変した従来の栄養培地中で培養される。
【0100】
本発明の変異抗体を生産するために用いる宿主細胞は、種々の培地中で培養され得る。Ham's F10 (Sigma), Minimal Essential Medium (MEM, Sigma), RPMI-1640 (Sigma)、及びダルベッコ改変イーグル培地(DMEM, Sigma)のような市販の培地が宿主細胞の培養に適している。さらに、Ham et al., Meth. Enzymol. 58: 44 (1979), Barnes et al., Anal. Biochem. 102: 255 (1980), 米国特許第 4,767,704号; 4,657,866号; 4,560,655号; 5,122,469号; 5,712,163号; 又は6,048,728号に記載されたいかなる培地でも、宿主細胞の培養培地として用いられ得る。これらの培地いずれにも、必要なホルモン及び/又は他の成長因子(例えばインシュリン、トランスフェリン、又は上皮成長因子)、塩類(例えばX−塩化物、ここでXはナトリウム、カルシウム、マグネシウム;及びリン酸)、緩衝液(例えばHEPES)、ヌクレオチド(例えばアデノシン及びチミジン)、抗生物質(例えば商標ゲンタマイシン薬剤)、微量元素(通常マイクロモル範囲の終濃度で存在する無機化合物として定義される)、及びグルコース若しくは均等なエネルギー源が補充される。その他の必要な補充物もまた、当業者に知られているであろう適切な濃度で含まれ得る。温度、pHといったような培養条件は、発現で選抜される宿主細胞に従来用いられている通りであり、当業者に明らかとなるだろう。
【0101】
抗体精製
組換え技術を用いる際には、変異抗体は細胞内若しくは細胞膜周辺腔で生産され、又は培地中に直接分泌され得る。変異抗体が細胞内で生産される場合、第一段階として、宿主細胞又は溶解した断片いずれかの粒子状の細片を、例えば遠心又は限外ろ過によって取り除いてよい。Carter et al., Bio/Technology 10: 163-167 (1992)には、大腸菌の細胞膜周辺腔に分泌された抗体を単離するための手法が記載されている。簡潔に言えば、細胞ペーストを酢酸ナトリウム(pH3.5)、EDTA及びフェニルメチルスルホニルフルオライド(PMSF)の存在下で約30分間以上融解させる。細胞片は遠心によって取り除くことができる。変異抗体が培地中に分泌される場合には、そのような発現系由来の上清を、一般的には先ず第一に、例えばAmicon又はMillipore Pellicon ultrafiltration unitのような市販のタンパク質濃縮フィルターを用いて濃縮する。タンパク分解を防止するために、いずれの先行工程にPMSFのようなプロテアーゼ阻害剤を含ませてもよく、外因性の汚染菌の増殖を防止するために抗生物質を含ませてもよい。
【0102】
細胞から調製された抗体組成物は、例えばヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、及びアフィニティークロマトグラフィーを用いて精製することができ、中でもアフィニティークロマトグラフィーが好ましい精製手法である。アフィニティーリガンドとしてのプロテインAの適性は、該変異抗体中に存在する免疫グロブリンFcドメインの種及びアイソタイプに依存する。プロテインAは、ヒトIgG1, IgG2又はIgG4重鎖に基づいた抗体を精製するために用いることができる(Lindmark et al., J. Immunol Meth. 62: 1-13 (1983))。プロテインGは、全てのマウスアイソタイプ及びヒトIgG3に推奨される(Guss et al., EMBO J. 5: 1567-1575 (1986))。アフィニティーリガンドを付着させるマトリックスは大抵の場合アガロースであるが、他のマトリックスも利用できる。ガラス多孔体又はポリ(スチレンジビニル)ベンゼンのような機械的に安定なマトリックスにより、アガロースを用いた場合よりも流速を速め、処理時間を短縮することができる。変異抗体がCH3ドメインを含む場合には、Bakerbond ABXTM resin (J. T. Baker, Phillipsburg, N.J.) が精製に有用である。回収対象の変異抗体によっては、イオン交換カラムでの分画、エタノール沈殿、逆相HPLC、シリカでのクロマトグラフィー、ヘパリンセファロース(登録商標)でのクロマトグラフィー、アニオン又はカチオン交換樹脂(例えばポリアスパラギン酸カラム)でのクロマトグラフィー、等電点クロマトグラフィー、SDS-PAGE、及び硫安塩析のような、タンパク質精製のための他の手法も利用できる。
【0103】
予備的な精製工程に続けて、目的の変異抗体及び夾雑物を含む混合物を、pH約2.5〜4.5の溶出緩衝液を用いて低pH疎水的相互作用クロマトグラフィーにかけてもよく、好ましくは低塩類濃度(例えば塩類約0〜0.25M)で行なわれる。
【0104】
医薬製剤
ポリペプチド又は抗体の治療製剤は、所望の純度を有するポリペプチドと、この分野で典型的に用いられる任意の「薬理学的に許容される」担体、賦形剤又は安定剤(これらは全て「賦形剤」と呼ばれる)とを混合することにより、凍結乾燥製剤又は水性溶液として保管するために調製され得る。例えば、緩衝剤、安定剤、防腐剤、等張化剤(isotonifier)、非イオン洗浄剤、酸化防止剤及び他の種々の添加物(Remington's Pharmaceutical Sciences, 16th edition, A. Osol, Ed. (1980)を参照のこと)。そのような添加物は、使用される用量と濃度において受容者に対し無毒でなければならない。
【0105】
緩衝剤は生理的状態に近い範囲内にpHを維持するのを助ける。緩衝剤は好ましくは約2mMから約50mMの濃度で含まれる。本発明と共に用いるのに適した緩衝剤としては、有機及び無機酸並びにそれらの塩類が包含され、例えばクエン酸塩緩衝液(クエン酸1ナトリウム−クエン酸2ナトリウム混合物、クエン酸−クエン酸3ナトリウム混合物、クエン酸−クエン酸1ナトリウム混合物など)、コハク酸塩緩衝液(コハク酸−コハク酸1ナトリウム混合物、コハク酸−水酸化ナトリウム混合物、コハク酸−コハク酸2ナトリウム混合物など)、酒石酸塩緩衝液(酒石酸−酒石酸ナトリウム混合物、酒石酸−酒石酸カリウム混合物、酒石酸−水酸化ナトリウム混合物など)、フマル酸塩緩衝液(フマル酸−フマル酸1ナトリウム混合物など)、フマル酸塩緩衝液(フマル酸−フマル酸1ナトリウム混合物、フマル酸−フマル酸2ナトリウム混合物、フマル酸1ナトリウム−フマル酸2ナトリウム混合物など)、グルコン酸塩緩衝液(グルコン酸−グリコン酸ナトリウム混合物、グルコン酸−水酸化ナトリウム混合物、グルコン酸−グルコン酸カリウム混合物など)、シュウ酸塩緩衝液(シュウ酸−シュウ酸ナトリウム混合物、シュウ酸−水酸化ナトリウム混合物、シュウ酸−シュウ酸カリウム混合物など)、乳酸塩緩衝液(乳酸−乳酸ナトリウム混合物、乳酸−水酸化ナトリウム混合物、乳酸−乳酸カリウム混合物など)、及び酢酸塩(酢酸−酢酸ナトリウム混合物、酢酸−水酸化ナトリウム混合物など)が挙げられる。さらに、リン酸緩衝液、ヒスチジン緩衝液及びトリスのようなトリメチルアミン塩も挙げられる。
【0106】
防腐剤は微生物の増殖を遅延させるために添加してもよく、0.2〜1%(w/v)の量で添加され得る。本発明と共に用いるのに適した防腐剤としては、フェノール、ベンジルアルコール、メタ−クレゾール、メチルパラベン、プロピルパラベン、塩化オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム、ハロゲン化ベンザルコニウム(例えば塩化、臭化、ヨウ化)、塩化ヘキサメトニウム、メチル又はプロピルパラベンのようなアルキルパラベン、カテコール、レゾルシノール、シクロヘキサノール、及び3−ペンタノールが包含される。
【0107】
本発明の液体組成物の等張性を確保するために、時には「安定化剤」として知られる等張化剤を加えてもよく、等張化剤としては多価糖アルコール、好ましくはグリセリン、エリスリトール、アラビトール、キシリトール、ソルビトール及びマンニトールのような3価以上の糖アルコールが包含される。
【0108】
安定剤は、増量剤から、治療薬を可溶化する又は変性の防止若しくは容器壁への付着の防止を助ける添加物までの機能的範囲にわたり得る、広いカテゴリーの賦形剤を指す。典型的な安定剤は、(上記に列挙した)多価糖アルコール; アルギニン、リシン、グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アラニン、オルニチン、L-ロイシン、2−フェニルアラニン、グルタミン酸、スレオニンなどのようなアミノ酸、ラクトース、トレハロース、スタキオース、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、リビトール、ミオイノシトール、ガラクチトール、グリセロール、及び、イノシトールのようなシクリトールを含むこれらと類似の有機糖又は糖アルコール; ポリエチレングリコール;アミノ酸ポリマー;尿素、グルタチオン、チオクト酸、チオグリコール酸ナトリウム、チオグリセロール、アルファ−モノチオグリセロール及びチオ硫酸ナトリウムのような含硫還元剤;低分子量ポリペプチド(すなわち<10残基);ヒト血清アルブミン、ウシ血清アルブミン、ゼラチン又は免疫グロブリンのようなタンパク質;ポリビニルピロリドンのような親水性ポリマー、キシロース、マンノース、フルクトース、グルコースのような単糖類;ラクトース、マルトース、スクロースのような二糖類及びラフィノースのような三糖類;デキストランのような多糖類であり得る。安定剤は、活性タンパク質重量に対し0.1から10,000重量部の範囲で含まれ得る。
【0109】
治療薬を可溶化し撹拌による凝集から治療用タンパク質を保護するのを助けるために、非イオン界面活性剤又は洗浄剤(「湿潤剤」としても知られる)を加えてもよく、それらにより曝露対象の製剤がタンパク質の変性を生じることなくストレスを加えられた表面を削り取られることも可能となる。適当な非イオン界面活性剤としては、ポリソルベート(20、80など)、ポリオキサマー(184、188など)、登録商標Pluronic、ポリオール、ポリオキシエチレンソルビタンモノエーテル(登録商標Tween-20、登録商標Tween-80など)が包含される。非イオン界面活性剤は、約0.05 mg/mlから約1.0 mg/ml、好ましくは約0.07 mg/mlから約0.2 mg/mlの範囲で含まれ得る。
【0110】
その他の種々の賦形剤としては、増量剤(例えばデンプン)、キレート剤(例えばEDTA)、酸化防止剤(例えばアスコルビン酸、メチオニン、ビタミンE)、及び補助溶剤が包含される。ここで製剤は、治療対象である特定の徴候に必要とされる、好ましくは相互に逆影響を及ぼさない相補的活性を有する1以上の活性化合物も包含し得る。例えば、免疫抑制剤をさらに提供することが望ましくあり得る。そのような分子は適切には、意図する目的に対して効果のある量で組み合わせて包含される。活性成分はまた、例えばヒドロキシメチルセルロース若しくはゼラチンマイクロカプセル及びポリ(メチルメサシレート(methylmethacylate))マイクロカプセルなどの、それぞれ例えばコアセルベーション技術又は界面重合により調製されるマイクロカプセル中、コロイド性試薬デリバリーシステム中(例えばリポソーム、アルブミンミクロフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセル)、あるいはマクロエマルジョン中に封入され得る。そのような技術はRemington's Pharmaceutical Sciences, 16th edition, A. Osal, Ed. (1980)中に開示されている。
【0111】
インビボ投与するために用いられる製剤は無菌でなければならない。これは、例えば滅菌濾過膜で濾過することにより、容易に行なわれる。徐放性製剤を調製してもよい。徐放性製剤の適当な例としては、変異抗体を含んだ固形疎水性ポリマーの半透性マトリックスであって、該マトリックスが、例えばフィルム又はマイクロカプセルのような造形品の形態であるものが包含される。徐放性マトリックスの例としては、ポリエステル、ヒドロゲル(例えばポリ(2‐ヒドロキシエチル‐メタクリレート)、又はポリ(ビニルアルコール))、ポリ乳酸(米国特許第3,773,919号)、L-グルタミン酸とエチル‐L‐グルタミン酸の共重合体、非分解性エチレン酢酸ビニル、LUPRON DEPOT(登録商標)(乳酸‐グリコール酸共重合体及び酢酸ロイプロリドから成る注入可能なミクロスフェア)のような分解性乳酸‐グリコール酸共重合体、及びポリ‐D‐(-)‐3‐ヒドロキシ酪酸が包含される。エチレン酢酸ビニル及び乳酸‐グリコール酸のようなポリマーは分子を100日間以上にわたって放出可能とするが、あるヒドロゲルはタンパク質をそれより短い期間放出する。カプセル化した抗体が体内に長時間残留すると、37℃の湿潤状態に晒される結果該抗体は変性し又は凝集し得、生物活性を損失し免疫原性に考え得る様々な変化が生じることとなる。関与する機構に応じて安定化を行なうために、合理的な方策を講じることができる。例えば、凝集機構がチオジスルフィド交換を通じた分子間S-S結合の形成であることが判明した場合には、スルフヒドリル残基を修飾し、酸性溶液から凍結乾燥し、含水量を制御し、適切な添加剤を用い、特異的なポリマーマトリックス組成物を開発することにより、安定化を達成しうる。
【0112】
特定の障害又は健康状態の治療において効果的な治療用ポリペプチド、抗体又はその断片の量は、障害又は健康状態の性質に依存することとなり、標準的な臨床技術によって決定することができる。可能であれば、用量‐反応曲線を決定して、該発明の医薬組成物を先ずはインビトロで、次いでヒトでの試験に先行して有用な動物モデル系で決定することが望ましい。
【0113】
好ましい具体例では、治療用ポリペプチド、抗体又はその断片の水性溶液が皮下注射によって投与される。各用量は体重1キログラムにつき約0.5μgから約50μg、より好ましくは体重1キログラムにつき約3μgから約30μgの範囲であり得る。
【0114】
皮下投与のための用量計画は、疾病のタイプ、疾病の重症度、及び治療薬に対する被験者の感受性を含む多くの臨床的要因に依存して、一月に一回から一日一回まで変わり得る。
【0115】
変異抗体の用法
該発明の変異抗体はアフィニティー精製試薬として用いられ得る。この工程において、該抗体は、この分野で周知の方法を用いてSEPHADEX(商標)樹脂又はろ紙のような固相上に固定化される。固定化変異抗体は精製対象の標的を含んだ試料と接触し、その後、固定化変異抗体に結合した精製対象の標的を除く試料中の実質的に全ての物質を除去する適切な溶媒で支持体を洗浄する。最後に、グリシン緩衝液のような、変異抗体から標的を放出させる他の適切な溶媒で該支持体を洗浄する。
【0116】
変異抗体は、例えば特定の細胞、組織、又は血清中における目的の標的の発現を検出するための診断アッセイにも有用であり得る。診断への適用のため、変異抗体は典型的には検出可能な成分で標識される。多くの標識が利用可能である。蛍光の変化を定量する技術は上記の通りである。化学発光基質は化学反応により電子的に励起され、(例えばケミルミノメータを用いて)定量し得る光を放出し又は蛍光受容体にエネルギーを提供する。酵素標識の例としては、ルシフェラーゼ(例えばホタルルシフェラーゼ及び細菌性ルシフェラーゼ;米国特許第4,737,456号)、ルシフェリン、2,3−ジヒドロフタラジンジオン、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ、ウレアーゼ、セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRPO)のようなペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、ベータ−ガラクトシダーゼ、グルコアミラーゼ、リソザイム、サッカライドオキシダーゼ(例えばグルコースオキシダーゼ、ガラクトースオキシダーゼ、及びグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ)、ヘテロサイクリックオキシダーゼ(例えばウリカーゼ及びキサンチンオキシダーゼ)、ラクトペルオキシダーゼ、ミクロペルオキシダーゼといったようなものが包含される。抗体に酵素を結合させる技術はO'Sullivan et al., Methods for the Preparation of Enzyme-Antibody Conjugates for Use in Enzyme Immunoassay, in Methods in Enzym. (Ed. J. Langone & H. Van Vunakis), Academic press, New York, 73: 147-166 (1981) に記載されている。
【0117】
時々、標識は変異抗体に間接的に結合される。当業者であればこれを達成するための種々の技術を知っているだろう。例えば、変異抗体をビオチンと結合させることができ、且つ、上記した3つの広いカテゴリーの標識いずれをもアビジンと結合させることができ、又、逆の場合も同様のことがいえる。ビオチンはアビジンと選択的に結合し、従って標識が間接的な方法で変異抗体と結合することができる。あるいは、変異抗体と標識の間接的な結合を達成するため、変異抗体は小さいハプテン(例えばジグロキシン)と結合され、上記のものとは異なるタイプの標識の1つが抗ハプテン変異抗体(例えば抗ジグロキシン抗体)と結合される。このようにして変異抗体と標識の間接的結合を達成することができる。
【0118】
本発明の他の具体例では、変異抗体を標識する必要はなく、その存在は変異抗体に結合する標識抗体を用いて検出することができる。
【0119】
本発明の抗体は、競合結合アッセイ、直接及び間接サンドウィッチアッセイ、並びに
免疫沈降アッセイのような、どのような公知のアッセイにも用いることができる。Zola, Monoclonal Antibodies: A Manual of Techniques, pp. 147-158 (CRC Press, Inc. 1987)。
【0120】
競合結合アッセイは、標識標準物質が限定された量の変異抗体との結合に関してテストサンプルと競合する能力に依存している。テストサンプル中の標的の量は、抗体と結合することとなる標準物質の量に反比例する。結合することとなる標準物質の量の決定を容易にするため、抗体は一般的には競合の前又は後に不溶化される。その結果、抗体と結合した標準物質及びテストサンプルを、結合せずに残っている標準物質及びテストサンプルから都合よく分離することができる。
【0121】
サンドイッチアッセイでは二つの抗体を使用し、該抗体はそれぞれ異なる免疫原性部分、又はエピトープ、又はタンパク質に結合してそれを検出する。サンドイッチアッセイでは、分析対象のテストサンプルを固体支持体上に固定化された一次抗体に結合させ、その後該テストサンプルに二次抗体を結合させて、3つの物質から成る不溶性複合体を形成させる。米国特許第4,376,110号を参照のこと。二次抗体は、それ自体を検出可能な成分で標識してもよく(直接サンドイッチアッセイ)、又は検出可能な成分で標識された抗免疫グロブリン抗体を用いて測定してもよい(間接サンドイッチアッセイ)。例えば、サンドイッチアッセイの1つのタイプとしてはELISAアッセイがあり、この場合では検出可能な成分とは酵素である。
【0122】
免疫組織化学のためには、腫瘍サンプルは新鮮なもの若しくは凍結したものでもよく、又は例えばパラフィンに包埋しホルマリンのような防腐剤で固定してもよい。
【0123】
抗体はインビボ診断アッセイに用いることもできる。一般的に、イムノシンチオグラフィーを用いて腫瘍を局在化できるように、変異抗体は放射性ヌクレオチド(例えば111In, 99Tc, 14C, 131I, 3H, 32P又は35S)で標識される。例えば、本発明の高親和性抗IgE抗体は、例えば喘息患者の肺中に存在するIgE量を検出するために用いられ得る。
【0124】
本発明の抗体はキットで、すなわち、診断アッセイを行なうための指示書と共に試薬を予め定めた量で組み合わせて包装して提供することができる。変異抗体が酵素で標識されたものである場合、該キットは、該酵素が必要とする基質及び補助因子(例えば検出可能な発色団又は蛍光団を提供する基質前駆体)を包含し得る。さらには、安定化剤、緩衝液(例えばブロック緩衝液又は溶解緩衝液)といったようなものを包含し得る。種々の試薬の相対量は、アッセイの感度を実質的に至適化する溶液中試薬濃度を与えるために大幅に変化し得る。特に、試薬は乾燥粉末として提供してもよく、通常は親水化され、溶解時に試薬溶液が適切な濃度となるように賦形剤を包含し得る。
【0125】
抗体のインビボ使用
本発明の抗体は哺乳動物を治療するために用い得ると想定される。1つの具体例において、該抗体は、例えば前臨床データを得るために非ヒト哺乳動物に投与される。処置対象の模範的な非ヒト哺乳動物は、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、げっ歯類、及び前臨床研究が行なわれる他の哺乳動物である。そのような哺乳動物は、該抗体で治療する対象となる疾病の動物モデルを確立し得、又は目的の抗体の毒性を研究するために用いられ得る。これらの具体例それぞれでは、投与量の段階的増大の研究が哺乳動物において行なわれ得る。
【0126】
抗体又はポリペプチドは、非経口、皮下、腹腔内、肺内、及び鼻腔内、並びに、局所的な免疫抑制処置を所望する場合には病巣内への投与を包含する、いかなる適切な手段によっても投与される。非経口注入は、筋肉内、静脈内、動脈内、腹腔内、又は皮下投与を包含する。さらに、変異抗体は適切には、パルス注入によって、特に減少した変異抗体用量で投与される。好ましくは投薬は、投与が短期か慢性的かに部分的に依存して、注射によって、最も好ましくは静脈内又は皮下注射によって行なわれる。
【0127】
疾病の予防又は治療に対して、抗体又はポリペプチドの適切な用量は、治療対象となる疾病の型、疾病の重症度及び過程、変異抗体の投与が予防目的かそれとも治療目的か、過去に受けた治療、患者の臨床履歴及び該変異抗体に対する反応、並びに主治医の判断に依存するだろう。本発明の極高親和性抗ヒトIgE抗体は、適切には1回又は一連の治療にわたって患者に投与され得る。
【0128】
疾病の型及び重症度に依存して、例えば1回又は2回以上別々に投与するにせよ連続的に注入するにせよ、約0.1mg/kgから150mg/kg(例えば0.1〜20mg/kg)の抗体を患者に投与する最初の候補用量とする。上記した要素に依存して、典型的な一日の用量は約1mg/kgから100mg/kg又はそれ以上に及ぶ。数日間又はそれ以上にわたる反復投与のため、健康状態に依存して、病徴に所望の抑制が起こるまで治療が続けられる。しかしながら、他の投薬処方が有用であり得る。この治療の進捗は、従来の技術及びアッセイによって容易にモニターされる。抗-LFA-1又は抗-ICAM-1抗体に対する模範的な投薬処方はWO 94/04188中に開示されている。
【0129】
該変異抗体は、好適な医療行為と一致する方法で製剤され、投薬、投与される。これに関連して考慮される要素としては、治療される特定の不調、治療される特定の哺乳動物、個々の患者の臨床状態、不調の原因、試薬を送り込む部位、投与方法、投与計画、及び医師に知られている他の要素が包含される。投与される変異抗体の「治療に効果的な量」は、そのような考慮によって管理されるものであり、疾病又は不調の予防、改善、又は治療に必要とされる最低限の量のことである。変異抗体は、必要ではないが任意で、問題となっている不調を予防又は治療するために近年用いられている1又は2以上の薬剤と共に製剤される。そのような他の薬剤の効果的な量は、製剤中に存在する抗体の量、不調又は治療の型、及び上記した他の要素に依存する。これらは一般的には、上記で用いられる通りの投与経路で上記と同じ用量で、又は従来用いられている用量の1から99%の用量で用いられる。
【0130】
IgEを標的として認識する本発明の抗体は、「IgE媒介疾患」を治療するために用いられ得る。この疾患には、喘息、アレルギー性鼻炎及び結膜炎(枯草熱)、湿疹、蕁麻疹、アトピー性皮膚炎、及び食物アレルギーが包含される。例えば蜂刺傷、蛇咬傷、食物又は医薬品などにより引き起こされるアナフィラキシーショックの重篤な生理的状態もまた、本発明の範疇に包含される。
【実施例】
【0131】
下記実施例は例示するためのものであり、これらに限定されない。
【0132】
実施例1 抗IgEマウス MAb TES-C21のヒト化
マウスmAb TES-C21の重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)の配列を、公共のデータベースから利用可能なヒト抗体生殖系列配列と比較した。上記工程1に記載したとおり鋳型を決定する際に、全体長、フレームワーク内の類似のCDR位置、全体の相同性、CDRのサイズなどを含んだ、数種の判定基準を用いた。図3A及び3Bに表された、TES-C21 MAbの重鎖及び軽鎖配列とそれぞれのヒト鋳型配列との間の配列アラインメントで示されるとおり、一括して考慮されたこれらの基準の全てから最適なヒト鋳型を選択するための結果が得られた。
【0133】
この場合においては、この抗体を設計するために1以上のヒトフレームワーク鋳型を用いた。VH鎖に選んだヒト鋳型は、DP88(aa残基1-95)及びJH4b(aa残基103-113)の組み合わせであった(図3B参照)。VL鎖に選んだヒト鋳型は、JK4(aa残基98-107)と組み合わせたL16(VKサブグループIII、aa残基1-87)の組み合わせであった(図3A参照)。マウス配列とヒト鋳型との間のフレームワーク相同性は、VHで約70%、VLで約74%であった。
【0134】
一旦鋳型を選択して、上記及び図2に示すとおりDNA合成及び重複PCRによってFabライブラリーを構築した。該ライブラリーは、それぞれの選択ヒト鋳型、DP88/JH4b及びL16/JK4と共に合成された合成TES-C21 CDRで構成された。ライブラリーの複雑度(complexity)は4096(=212)であった。VH及びVL配列の一部をコードする重複ヌクレオチドは、18ないし21ヌクレオチドの重複を含む約63ないし約76ヌクレオチドの範囲で合成された。
【0135】
VL及びVH遺伝子のPCR増幅は、フレームワーク領域FR1に特異的な配列及びリーダー配列(遺伝子III)の末端にアニールする重複配列を含んだビオチン化フォワードプライマー並びに保存された定常領域(CK又はCH1)由来のリバースプライマーを用いて、標準的なPCR条件下で行なわれた。PCR産物は、アガロースゲル電気泳動によって、又は市販のPCR精製キットによって精製し、組み込まれなかったビオチン化プライマー及び非特異的PCRを除去した。
【0136】
PCR産物の5'リン酸化は、2μgのPCR産物、1μLのT4ポリヌクレオチドキナーゼ(10ユニット/μL)、2μLの10×PNK緩衝液、1μLの10mM ATPを、ddH2Oにて全量20μLに調製して行なった。37℃で45分間インキュベートし、65℃で10分間熱変性した後、次の工程のために反応液量をddH2Oにて200μLに調製した。
【0137】
ストレプトアビジン被膜した磁気ビーズ100μLを、200μLの2×B&W緩衝液で2回洗浄し、200μLの2×B&W緩衝液中に再懸濁した。リン酸化されたPCR産物をビーズと混合し、室温(RT)で16分間穏やかに振とうしながらインキュベートした。
【0138】
該ビーズを沈降させ、200μLの2×B&W緩衝液で2回洗浄した。調製したての0.15M NaOH 300μLにてRTで10分間穏やかに振とうしながら、非ビオチン化ssDNA(マイナス鎖)を溶出した。二度目のNaOH溶出によって、収量を若干増やすことができる(任意)。溶出液を遠心して極微量のビーズも除去した。
【0139】
1μLのグリコーゲン(10mg/mL)、1/10量の3M NaOAc(pH5.2)、及び2.5倍量のEtOHを加えることにより、上清からssDNAを沈殿させた。沈殿したssDNAは次いで70% EtOHで洗浄し、3分間凍結乾燥して20μLのddH2O中に溶解した。DNA標準と共に臭化エチジウム(EtBr)アガロースプレート上にスポットすることにより、又はOD260を測定することにより、該ssDNAを定量した。
【0140】
実施例2 ファージ発現ベクター中へのVH及びVLのクローニング
ハイブリダイゼーション変異誘発により、VH及びVLをファージ発現ベクター中にクローニングした。ウリジル化した鋳型は大腸菌CJ236株(dut- ung-)をM13ベースのファージ(ファージ発現ベクターTN003)に感染させることにより調製した。
【0141】
85℃の温度を5分間維持(変性)した後、1時間かけて55℃まで温度を低下させるPCRにより、次の成分[200ngのウリジル化ファージベクター(8.49kb);92ngのリン酸化一本鎖H鎖(489塩基);100ngのリン酸化一本鎖L鎖(525塩基);1μLの10×アニーリング緩衝液;ddH2Oで10μLに調製]をアニールさせた(挿入断片は分子量でベクターの8倍量を使用)。該サンプルを氷上で冷却した。
【0142】
該アニール産物に次の成分を加えた:1.4μLの10×合成緩衝液;0.5μLのT4 DNAリガーゼ(1ユニット/μL);1μLのT4 DNAポリメラーゼ(1ユニット/μL)、これを氷上で5分間、次いで37℃で1.5時間インキュベートした。該産物をエタノール沈殿し、10μLのddH2O又はTE中に溶解した。
【0143】
DNAを1μLのXbaI(10ユニット/μL)で2時間消化し、65℃で20分間熱失活させた。消化DNAをエレクトロポレーションにより50μLの電気的コンピテントセルDH10B中にトランスフェクトした。37℃にて一晩、XL-1Blue細菌叢上で増殖させることにより、反応生成ファージの力価を測定した。クローンの配列を決定し、組成物を確認した。
【0144】
実施例3 ライブラリーのスクリーニングのための深型ウェル培養
A. ファージライブラリーのプレーティング
プレート当たりの所望のプラーク数を得るため、ファージライブラリーをLB培地中に希釈した。力価の高いファージを200μLのXL-1B細胞培養液と混合した。3mLのLBトップアガーを混合し、LBプレート上に注ぎ、室温に10分間放置した。該プレートを37℃で一晩インキュベートした。
【0145】
B. ファージ溶出
滅菌U底96ウェルプレートの各ウェルに100μLのファージ溶出緩衝液(10mM Tris-Cl, pH 7.5, 10mM EDTA, 100mM NaCl)を加えた。フィルター付ピペットチップを用いて、一晩置いたライブラリープレートからウェルへ単一のファージプラークを移した。該ファージ溶出プレートを37℃で1時間インキュベートした。該プレートはインキュベーション後4℃で保存することができる。
【0146】
C. 深型ウェルプレートのための培養
50mLの培養液から得たXL1B細胞を1:100希釈となるように2×YT培地に加えた。該細胞は、A600が0.9から1.2の間になるまで振とう器中にて37℃で増殖させた。
【0147】
D. 深型ウェル中でのファージの感染
細胞が適切なODに達した時に、XL1B培養液に1MのIPTG(1:2000)を加えた。IPTGの終濃度は0.5mMであった。750μLの細胞培養液を96ウェルの深型ウェルプレート(Fisher Scientific)の各ウェルに移した。各ウェルは25μLの溶出ファージと共にインキュベートした。深型ウェルプレートを振とう器(250rpm)中に置いて37℃で一晩インキュベートした。
【0148】
E. ELISAスクリーニングのための上清の調製
インキュベーション後、該深型プレートをBeckman JA-5.3 plate rotorを用いて3,250 rpmで20分間遠心した。ELISAのために、各ウェルから50μLの上清を回収した。
【0149】
F. XL-1細胞培養液15mLの接種
A600=0.9〜1.2になるまで、10μg/mLのテトラサイクリンを含む2×YT中で、振とう器(250rpm)中にて37℃でXL-1を増殖させた。IPTGを終濃度0.5mMとなるように添加し、各クローンの性状解析をするために、15mLの該培養液を50mLのコニカルチューブに移した。該細胞を高力価ストック(力価=〜1011pfu/mL)由来のファージ10μLで接種し、37℃で1時間インキュベートした。該細胞は室温で振とうしながら一晩増殖させた。
【0150】
G. ペリプラズムからの可溶性Fabの単離
該細胞をIEC遠心器にて4,500rpmで20分間遠心してペレットにした。培養培地を取り除き、ペレットを650μLの再懸濁緩衝液(1mM EDTAを含む50mMトリス, pH 8.0及び500mMスクロース)中に再懸濁し、ボルテックスし、穏やかに振とうさせながら1時間氷上に置いた。細胞片は9,000rpmで10分間4℃にて遠心して取り除いた。可溶性Fabを含む上清を回収し4℃に保存した。
【0151】
実施例4 フレームワーク修飾
上記した潜在的に重要な部位のフレームワーク内に、12個のマウス/ヒトゆらぎ残基が存在した。VH中の部位73は、ヒト化ライブラリー中でマウス残基であるスレオニンを維持した。なぜならこの部位は結合に影響するものと決定されたからである。しかしながら、VH73におけるスレオニンはヒト生殖系列VHサブグループ1及び2において共通のヒト残基であることが既に知られている。
【0152】
TES-C21配列とヒト鋳型との間で異なるフレームワーク残基は上記したとおりランダムに置換され、次いでそれらの標的への結合及び抗体の折り畳みに及ぼす潜在的影響を評価した。結合に影響したかもしれない潜在的なフレームワーク残基が同定された。この場合では、それらはVH中の12, 27, 43, 48, 67, 69番目の残基、及びVL中の1, 3, 4, 49, 60, 85番目の残基であった(カバットの番号系)。(図4参照)VH領域において27番目及び69番目の部位のみが結合に有意に影響するということが後に証明された(クローン番号1136-2C)。
【0153】
行なった一次スクリーニングは、培養培地を用いたsingle point ELISA (SPE)であった(下記の記載を参照のこと)。一次スクリーニングによって抗体の標的分子に結合するクローンを選抜した。親分子と同等又はより強いシグナルを有するクローンを次のスクリーニングのために選抜した。
【0154】
2回目のスクリーニングで、個々のファージを15mlの細菌培養液中で増殖させ、ペリプラズム標本をSPE及びELISA力価アッセイに用いた。このアッセイで高い結合を保持していたクローンの性状解析をさらに行なった。一旦全ての初回選抜クローンを処理し、上位10〜15%のクローンの配列を決定して、該クローンを配列に従って並べた。各配列群の代表例を相互に比較し、最良のクローンを選択した。これらの選択クローン由来の配列を組み合わせて、種々の組み合わせの効果を評価した。
【0155】
構築したライブラリーをELISAスクリーニングに付して、組換えヒトIgE、SE44との結合の向上で選抜した。マウスTES-C21のFabより強い結合親和性を有するクローンを同定し、配列決定した。クローンID番号4, 49, 72, 76, 及び136についてさらに性状解析を行なった。クローン4, 49, 72, 78, 及び136に対するELISA力価曲線を図5A及び5Bに示す。これらの図はこれらのクローンの親和性が親であるTES-C21に類似していることを示している。これらのクローンは、ヒトIgEへの結合に関してマウスTES-C21と競合するものであり、ヒト化工程で結合エピトープが変化していなかったということがわかる。ヒト化FabはFcεRI結合IgEとは結合せず、このことは、これらより二価IgGを構築した場合に、該ヒト化抗体がヒスタミンの放出を引き起こすレセプターを架橋する可能性がより低いということを示している。
【0156】
ヒト化クローン136は、5個のマウス重鎖フレームワーク残基を保持し(ヒトVHフレームワークとの相同性は94.3%)、アフィニティーマチュレーションによって選択された100%のヒト軽鎖フレームワークを有していた。ヒト化FabによるIgEのFcεRIへの結合の阻害を実証した(図6)。
【0157】
実施例5 抗IgEのスクリーニングのためのシングルポイントELISAプロトコール
プレートを、炭酸コーティング緩衝液中に溶解した2μg/mLのヒツジ抗ヒトFdで4℃にて一晩被覆した。コーティング溶液を取り除き、該プレートを200μL/ウェルの3% BSA/PBSで37℃にて1時間ブロッキングした。該プレートをPBS/0.1% TWEEN(登録商標)(PBST)で4回洗浄し、50μL/ウェルのFabサンプル(すなわち、高力価ファージ及び分泌Fab若しくはDMBブロック由来のペリプラズム標本を含んだ上清、又は15mLの標本)を加えた。プレートを室温にて1時間インキュベートし、PBSTで4回洗浄した。次いで、0.5% BSA/PBS及び0.05% TWEEN(登録商標)中に希釈して0.015μg/mLとしたビオチン化SE44を50μL/ウェル添加した。プレートを次いで室温にて2時間インキュベートしPBSTで4回洗浄した。0.5% BSA/PBS及び0.05% TWEEN(登録商標)中に1:2000希釈したストレプトアビジンHRPを50μL/ウェル添加し、プレートを室温にて1時間インキュベートした。該プレートをPBSTで6回洗浄した。50μL/ウェルのTMB基質(sigma)を添加して発色させ、次いで50μL/ウェルの0.2M H2SO4を加えて停止した。
【0158】
実施例6 ELISA力価測定:抗IgE
プレートを、炭酸コーティング緩衝液中に溶解した0.25μg/mL(精製Fab 0.1μg/mLに対し)のSE44で4℃にて一晩被覆した。コーティング溶液を取り除き、該プレートを200μL/ウェルの3% BSA/PBSで37℃にて1時間ブロッキングした。
【0159】
該プレートをPBS/0.1% TWEEN(登録商標)(PBST)で4回洗浄した。0.5% BSA/PBS及び0.05% TWEEN(登録商標)20で1:2希釈から3倍希釈まで段階的に希釈したFab(15mLのペリプラズム標本由来)希釈液を50μL/ウェル添加した。該プレートを室温にて2時間インキュベートした。
【0160】
該プレートをPBSTで4回洗浄し、0.5% BSA/PBS及び0.05% TWEEN(登録商標)20中に1:1000 (0.8μg/ml)希釈したビオチン−ヒツジ抗ヒトFd希釈液を50μL/ウェル添加した。プレートを再度室温にて2時間インキュベートした。
【0161】
PBSTで4回洗浄後、0.5% BSA/PBS及び0.05% TWEEN(登録商標)20中で1:2000希釈したNeutra-avidin-AP(0.9μg/mL)を50μL/ウェル添加し、プレートを室温にて1時間インキュベートした。
【0162】
該プレートをPBSTで4回洗浄した。50μL/ウェルのpNPP基質を加えて発色させた。50μL/ウェルの3M NaOHを添加して発色を停止した。405nm又は410nmにおける各ウェルの吸光度を測定した。
【0163】
実施例7 M13ファージから発現された可溶性Fabのアフィニティー精製のためのプロトコール
1日目
10mg/mLのテトラサイクリンを含む500mLの培養液(2×YT)2つに、5mLのオーバーナイトストックXL1Bを植菌し、A600=0.9〜1.2となるまで37℃で増殖させた。IPTGを0.5mMの濃度で添加した。該細胞培養液それぞれに200μLのファージを感染させ、37℃で1時間振とう培養した。その後、細胞を25℃で一晩振とうして増殖させた。
【0164】
2日目
250mL遠心チューブを用いて3500×gで30分間4℃にて遠心し、細胞を沈殿させた。培養液を吸引し、ペレットを全量12〜15mLの溶解緩衝液(緩衝液A+プロテアーゼ阻害剤カクテル)中に再懸濁した。
【0165】
緩衝液A:(1リットル)
50mM NaH2PO4 6.9g NaH2PO4H2O (又は 6g NaH2PO4)
300mM NaCl 17.54g NaCl
10mM イミダゾール 0.68g イミダゾール (MW 68.08)
NaOHでpH8.0に調整
溶解緩衝液:
25mLの緩衝液AとComplete Protease Inhibitor Cocktail (Roche, Basel, Switzerland) 1錠を混合
【0166】
再懸濁した細胞を50mLのコニカルチューブに移し、100μLの100mg/mLリゾチームを加えて、混合物が小塊状になって動くようになる(溶解に起因)までチューブを数回反転させて溶解した。細胞を氷上で超音波破砕し、10μLのDNase I(約1000ユニット)を加えて4℃で30分間穏やかに振とうした。50mLの遠心チューブを用いて12000×gで30分間4℃にて遠心し、小片を沈殿させた。上清を新しいコニカルチューブに移し、4℃に保存した。
【0167】
製造者のプロトコールに従い、Ni-NTアガロース(Qiagen, カリフォルニア州Valencis)を用いて可溶性Fabを精製した。溶解物をNi-NTAと混合しカラムに注いだ。SDS-PAGE解析に付するため流出液を回収した。該カラムを20mLの緩衝液(50mM NaH2PO4, 300mM NaCl, 15mイミダゾール, NaOHでpH8.0に調整)で洗浄し、次いで20mLの50mM NaH2PO4, 300mM NaCl, 20mMイミダゾールで洗浄した。Fabを6×500μLの溶出緩衝液(50mM NaH2PO4, 300mM NaCl, 450mM イミダゾール, NaOHでpH8.0に調整)で溶出させ、SDS-PAGEで解析した。カラム分画を4℃に保存した。カラム分画をSDS-PAGEで解析し、Fabを最も多量に含む分画を選んでPBS中で4℃にて透析した。
【0168】
実施例8 可溶性レセプターアッセイ
ELISAに適した96ウェルアッセイプレートを、0.05mLの0.5μg/mL FcεRIアルファ鎖レセプターコーティング緩衝液(50mM炭酸水素塩/炭酸水素塩、pH9.6)で4〜8℃にて12時間被覆した。ウェルを吸引し、250μLのブロッキング緩衝液(PBS, 1 % BSA, pH 7.2)を加えて37℃で1時間インキュベートした。別々のアッセイプレートを用いて、サンプルと引例のTES-C21 MAbの200〜0.001μg/mLの力価を、アッセイ緩衝液(0.5% BSA及び0.05% Tween 20, PBS, pH 7.2)で1:4希釈して測定し、等量の100ng/mLビオチン化IgEを添加して該プレートを25℃で2〜3時間インキュベートした。FcεRIで被覆されたウェルをPBS及び0.05% TWEEN20で3回洗浄し、該ウェルにサンプルウェルから50μLを移し入れて、25℃で30分間揺り動かしながらインキュベートした。アッセイ緩衝液で1:2000希釈した1mg/mLストレプトアビジン−HRPを50μL/ウェル加えて揺り動かしながら30分間インキュベートし、次いで該プレートを前記の通り洗浄した。50μL/ウェルのTMB基質を加えて発色させた。等量の0.2M H2SO4を加えて反応を停止し、450nmにおける吸光度を測定した。
【0169】
実施例9 IgEと会合したFcεRIへの抗体の結合
FcεRIのアルファ−サブユニットと会合したヒトIgEへの抗体の結合を、10μg/mLヒトIgEで4℃にて30分間前インキュベートすることにより決定した。プレートを3回洗浄し、種々の濃度のマウス抗ヒトIgE mAb E-10-10又はヒト化Fab変異体のいずれかと共に1時間インキュベートした。Fabの結合はビオチン標識抗ヒトFd抗体で検出し、次いでSA-HRPを行なった。マウスab E10-10は、ヤギ抗マウスIg Fc HRP結合Abによって検出した。
【0170】
実施例10 クローンの性状解析
各候補は結合親和性について分析し、陽性クローンを配列決定した。結合親和性の増大をもたらす有益な変異をCDR中に有する変異抗体はさらに性状解析した。アッセイはBiacore解析;IgEのレセプターへの結合阻害;及びIgEと結合したレセプターの架橋を包含する。
【0171】
変異体のライブラリーを作製した。親和性の向上を示した種々のCDRのアミノ酸配列を表1中に示す。図7は置換の組み合わせを有する高親和性候補を表す。
【0172】
【表1】
【0173】
19個の重鎖変異体を図9に、及び35個の軽鎖変異体を図8に示す。3つの候補について、結合親和性の特性決定をさらに行なった。その結果を表2に示す。
【0174】
【表2】
【0175】
実施例11 抗IgE抗体の発現と精製並びにHRPとの結合
高親和性のMAb候補を作製した。無傷の抗IgE MAbを作製するため、重鎖及び軽鎖可変領域をファージベクター鋳型からPCR増幅し、H鎖及びL鎖発現ベクター中にCMVプロモーター下で別々にサブクローニングした。6つの全抗体クローンを構築した。それを図10A〜Fに示す。この分野で周知の技術によって、エレクトロポレーションを用いて適切な重鎖及び軽鎖プラスミドをマウスミエローマセルラインNSO中に共トランスフェクトした。例えばLiou et al. J Immunol. 143(12):3967-75 (1989)を参照のこと。プロテインA−セファロース(Pharmacia)を用いて、単一の安定セルライン上清から抗体を精製した。抗体濃度は分光光度計を用いて280nmにおいて、及びFCAアッセイ(IDEXX)を用いて決定した。
【0176】
製造者のプロトコールに従い、peroxidase conjugation kit(Zymed Labs, カリフォルニア州San Francisco)を用いて精製抗体をセイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)と結合させた。それぞれの結合抗IgE MAbの力価は、モノクローナルヒトIgE(SE44)でコートしたプレートを用いてELISAを行い決定した。
【0177】
次の培養物を20110-2209米国バージニア州Manassas市Boulevard大学10801内のAmerican Type Culture Collection(ATCC)に寄託した:
【0178】
【表3】
【0179】
この寄託物は、特許手続上の微生物の寄託の国際的承認に関するブタペスト条約及びそれに基づく規制(ブタペスト条約)の条項に基づいて作製された。これにより、生培養物の維持が寄託日から30年間保証される。該微生物はブタペスト条約の条件の下にATCCによって利用可能となり、関連する米国特許の発効に基づいてその後代が永久的及び非制約的に公衆に利用可能となることが保証される。
【0180】
本願の受託者は、適切な条件下で培養した際に寄託培養物が死滅又は損失若しくは崩壊した場合には、通知に対して迅速に同培養物の生標本と交換するということに同意している。寄託株が入手可能であるということは、いかなる政府の権限の下で当該政府の特許法に従って付与された権利に違反して発明を実施することを許諾するということを意味するものではない。
【0181】
上記の明細書により、当業者は発明を十分に実施可能であると考えられる。寄託された具体例は発明の1つの局面を例示するためのものであり、本発明は寄託培養物の範囲に限定されるものではなく、機能的に均等ないかなる培養物も本発明の範囲に包含される。ここでの物質の寄託は、ここで記載された詳細な説明が、本発明の最良の態様を含めた本発明のいかなる局面を実施可能とするのにも適切ではないとの自認を構成するものではなく、また、ここに表された特定の例示に請求の範囲を限定するものと解釈されるものでもない。実際、ここに記載されたものの他、上記詳細な説明から本発明の種々の改変法が当業者にとって明らかとなり、それらは添付の特許請求の範囲に包含されるであろう。
【0182】
当業者は、ルーチンな実験を行なうだけで、ここに記載された発明の特定の具体例と均等な多くの方法を認識し又は確認できるだろう。そのような均等な方法は、添付の請求の範囲に包含されるものとする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式:FRL1-CDRL1-FRL2-CDRL2-FRL3-CDRL3-FRL4を有し、FRL1が配列番号30-37のうちのいずれか1つから成り;CDRL1が配列番号5-7のうちのいずれか1つから成り;FRL2が配列番号38-39のうちのいずれか1つから成り;CDRL2が配列番号8-12のうちのいずれか1つから成り;FRL3が配列番号40-43のうちのいずれか1つから成り;CDRL3が配列番号13-14のうちのいずれか1つから成り;FRL4が配列番号44から成るアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域。
【請求項2】
配列番号57, 61, 63, 65, 67及び69のうちのいずれか1つを含む請求項1記載の軽鎖可変領域。
【請求項3】
定常領域をさらに含む請求項1記載の軽鎖可変領域。
【請求項4】
前記定常領域が配列番号58を有する請求項3記載の軽鎖可変領域。
【請求項5】
定常領域をさらに含む請求項2記載の軽鎖可変領域。
【請求項6】
前記定常領域が配列番号58を有する請求項5記載の軽鎖可変領域。
【請求項7】
シグナルペプチドをさらに含む請求項1記載の軽鎖可変領域。
【請求項8】
前記シグナルペプチドが配列番号56を有する請求項7記載の軽鎖可変領域。
【請求項9】
式:FRH1-CDRH1-FRH2-CDRH2-FRH3-CDRH3-FRH4を有し、FRH1が配列番号45-46のうちのいずれか1つから成り;CDRH1が配列番号15-17のうちのいずれか1つから成り;FRH2が配列番号47-50のうちのいずれか1つから成り;CDRH2が配列番号18-25のうちのいずれか1つから成り;FRH3が配列番号51-54のうちのいずれか1つから成り;CDRH3が配列番号26-29のうちのいずれか1つから成り;FRH4が配列番号55から成るアミノ酸配列を含む重鎖可変領域。
【請求項10】
配列番号59, 62, 64, 66, 68及び70のうちのいずれか1つを含む請求項9記載の重鎖可変領域。
【請求項11】
定常領域の少なくともCH1ドメインをさらに含む請求項7記載の重鎖可変領域。
【請求項12】
定常領域のCH1, CH2及びCH3ドメインを含む請求項11記載の重鎖可変領域。
【請求項13】
前記定常領域がIgG抗体由来である請求項11記載の重鎖可変領域。
【請求項14】
前記IgG抗体がIgG1抗体、IgG2抗体、IgG3抗体、又はIgG4抗体である請求項13記載の重鎖可変領域。
【請求項15】
前記定常領域が配列番号60を有する請求項13記載の重鎖可変領域。
【請求項16】
定常領域をさらに含む請求項10記載の重鎖可変領域。
【請求項17】
前記定常領域が配列番号60を有する請求項16記載の重鎖可変領域。
【請求項18】
シグナルペプチドをさらに含む請求項9記載の重鎖可変領域。
【請求項19】
前記シグナルペプチドが配列番号56を有する請求項19記載の重鎖可変領域。
【請求項20】
請求項1記載の軽鎖可変領域を含み、IgEに特異的に結合する抗体又は抗体断片。
【請求項21】
請求項9記載の重鎖可変領域を含み、IgEに特異的に結合する抗体又は抗体断片。
【請求項22】
請求項9記載の重鎖領域を含む請求項20記載の抗体。
【請求項23】
配列番号57に記載されたアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域及び配列番号59に記載されたアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含む請求項22記載の抗体。
【請求項24】
軽鎖定常領域及び重鎖定常領域をさらに含む請求項23記載の抗体。
【請求項25】
前記軽鎖定常領域が配列番号58に記載されたアミノ酸配列を有し、前記重鎖定常領域が配列番号60に記載されたアミノ酸配列を有する、請求項24記載の抗体。
【請求項26】
配列番号61に記載されたアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域及び配列番号62に記載されたアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含む請求項22記載の抗体。
【請求項27】
軽鎖定常領域及び重鎖定常領域をさらに含む請求項26記載の抗体。
【請求項28】
前記軽鎖定常領域が配列番号58に記載されたアミノ酸配列を有し、前記重鎖定常領域が配列番号60に記載されたアミノ酸配列を有する、請求項27記載の抗体。
【請求項29】
ATCC寄託番号PTA-5678を有する細胞によって生産される請求項26記載の抗体。
【請求項30】
配列番号63に記載されたアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域及び配列番号64に記載されたアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含む請求項22記載の抗体。
【請求項31】
軽鎖定常領域及び重鎖定常領域をさらに含む請求項30記載の抗体。
【請求項32】
前記軽鎖定常領域が配列番号58に記載されたアミノ酸配列を有し、前記重鎖定常領域が配列番号60に記載されたアミノ酸配列を有する、請求項31記載の抗体。
【請求項33】
ATCC寄託番号PTA-5680を有する細胞によって生産される請求項30記載の抗体。
【請求項34】
配列番号65に記載されたアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域及び配列番号66に記載されたアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含む請求項22記載の抗体。
【請求項35】
軽鎖定常領域及び重鎖定常領域をさらに含む請求項34記載の抗体。
【請求項36】
前記軽鎖定常領域が配列番号58に記載されたアミノ酸配列を有し、前記重鎖定常領域が配列番号60に記載されたアミノ酸配列を有する、請求項35記載の抗体。
【請求項37】
ATCC寄託番号PTA-5679を有する細胞によって生産される請求項34記載の抗体。
【請求項38】
配列番号67に記載されたアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域及び配列番号68に記載されたアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含む請求項22記載の抗体。
【請求項39】
軽鎖定常領域及び重鎖定常領域をさらに含む請求項38記載の抗体。
【請求項40】
前記軽鎖定常領域が配列番号58に記載されたアミノ酸配列を有し、前記重鎖定常領域が配列番号60に記載されたアミノ酸配列を有する、請求項39記載の抗体。
【請求項41】
配列番号69に記載されたアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域及び配列番号70に記載されたアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含む請求項22記載の抗体。
【請求項42】
軽鎖定常領域及び重鎖定常領域をさらに含む請求項41記載の抗体。
【請求項43】
前記軽鎖定常領域が配列番号58に記載されたアミノ酸配列を有し、前記重鎖定常領域が配列番号60に記載されたアミノ酸配列を有する、請求項42記載の抗体。
【請求項44】
治療的に有効な量の請求項20又は21に記載の抗体及び薬理学的に許容される担体を含む組成物。
【請求項45】
標識をさらに結合された請求項20又は21に記載の抗体。
【請求項46】
請求項20又は21に記載の抗体を含む診断キット。
【請求項47】
請求項22記載の抗体をコードする核酸を含むベクター。
【請求項48】
請求項47記載のベクターを含む細胞。
【請求項49】
前記細胞がATCC寄託番号PTA-5678, PTA-5679又はPTA-5680である、請求項48記載の細胞。
【請求項50】
抗体の生産に適した条件下で請求項48記載の細胞を培養すること、及び生産された抗体を単離することを含む、抗体を生産するための方法。
【請求項51】
被験者におけるIgEレベルを測定するための方法であって、IgE分子を含むサンプルである被験者のサンプルを請求項22記載の抗体と接触させること;及び該サンプルによる抗体の保持のレベルを対照被験者のコントロールサンプルと比較して決定することを含み、コントロールサンプルに対して被験者のサンプルによる抗体の保持のレベルが高い又は低いということが、該被験者が対照被験者よりも高い又は低いレベルのIgE分子を有しているということを示すものである方法。
【請求項52】
被験者における異常なレベルのIgEに伴う疾患を診断するための方法であって、IgE分子を含むサンプルである被験者のサンプルを請求項22記載の抗体と接触させること;及び該サンプルによる抗体の保持のレベルを対照被験者のコントロールサンプルと比較して決定することを含み、コントロールサンプルに対して被験者のサンプルによる抗体の保持のレベルが高い又は低いということが、該被験者が異常なレベルのIgEに伴う疾患を有するということを示すものである方法。
【請求項53】
前記の異常なレベルのIgEに伴う疾患が、喘息、アレルギー性鼻炎、湿疹、蕁麻疹、又はアトピー性皮膚炎である、請求項52記載の方法。
【請求項54】
被験者における異常に高いIgEレベルに伴う疾患を治療するための方法であって、該被験者において該疾患が治療されるような治療的に有効な量の請求項22記載の抗体を該被験者に投与することを包含する方法。
【請求項55】
前記疾患が喘息、アレルギー性鼻炎、湿疹、蕁麻疹、アトピー性皮膚炎、又は食物アレルギーである、請求項54記載の方法。
【請求項1】
式:FRL1-CDRL1-FRL2-CDRL2-FRL3-CDRL3-FRL4を有し、FRL1が配列番号30-37のうちのいずれか1つから成り;CDRL1が配列番号5-7のうちのいずれか1つから成り;FRL2が配列番号38-39のうちのいずれか1つから成り;CDRL2が配列番号8-12のうちのいずれか1つから成り;FRL3が配列番号40-43のうちのいずれか1つから成り;CDRL3が配列番号13-14のうちのいずれか1つから成り;FRL4が配列番号44から成るアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域。
【請求項2】
配列番号57, 61, 63, 65, 67及び69のうちのいずれか1つを含む請求項1記載の軽鎖可変領域。
【請求項3】
定常領域をさらに含む請求項1記載の軽鎖可変領域。
【請求項4】
前記定常領域が配列番号58を有する請求項3記載の軽鎖可変領域。
【請求項5】
定常領域をさらに含む請求項2記載の軽鎖可変領域。
【請求項6】
前記定常領域が配列番号58を有する請求項5記載の軽鎖可変領域。
【請求項7】
シグナルペプチドをさらに含む請求項1記載の軽鎖可変領域。
【請求項8】
前記シグナルペプチドが配列番号56を有する請求項7記載の軽鎖可変領域。
【請求項9】
式:FRH1-CDRH1-FRH2-CDRH2-FRH3-CDRH3-FRH4を有し、FRH1が配列番号45-46のうちのいずれか1つから成り;CDRH1が配列番号15-17のうちのいずれか1つから成り;FRH2が配列番号47-50のうちのいずれか1つから成り;CDRH2が配列番号18-25のうちのいずれか1つから成り;FRH3が配列番号51-54のうちのいずれか1つから成り;CDRH3が配列番号26-29のうちのいずれか1つから成り;FRH4が配列番号55から成るアミノ酸配列を含む重鎖可変領域。
【請求項10】
配列番号59, 62, 64, 66, 68及び70のうちのいずれか1つを含む請求項9記載の重鎖可変領域。
【請求項11】
定常領域の少なくともCH1ドメインをさらに含む請求項7記載の重鎖可変領域。
【請求項12】
定常領域のCH1, CH2及びCH3ドメインを含む請求項11記載の重鎖可変領域。
【請求項13】
前記定常領域がIgG抗体由来である請求項11記載の重鎖可変領域。
【請求項14】
前記IgG抗体がIgG1抗体、IgG2抗体、IgG3抗体、又はIgG4抗体である請求項13記載の重鎖可変領域。
【請求項15】
前記定常領域が配列番号60を有する請求項13記載の重鎖可変領域。
【請求項16】
定常領域をさらに含む請求項10記載の重鎖可変領域。
【請求項17】
前記定常領域が配列番号60を有する請求項16記載の重鎖可変領域。
【請求項18】
シグナルペプチドをさらに含む請求項9記載の重鎖可変領域。
【請求項19】
前記シグナルペプチドが配列番号56を有する請求項19記載の重鎖可変領域。
【請求項20】
請求項1記載の軽鎖可変領域を含み、IgEに特異的に結合する抗体又は抗体断片。
【請求項21】
請求項9記載の重鎖可変領域を含み、IgEに特異的に結合する抗体又は抗体断片。
【請求項22】
請求項9記載の重鎖領域を含む請求項20記載の抗体。
【請求項23】
配列番号57に記載されたアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域及び配列番号59に記載されたアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含む請求項22記載の抗体。
【請求項24】
軽鎖定常領域及び重鎖定常領域をさらに含む請求項23記載の抗体。
【請求項25】
前記軽鎖定常領域が配列番号58に記載されたアミノ酸配列を有し、前記重鎖定常領域が配列番号60に記載されたアミノ酸配列を有する、請求項24記載の抗体。
【請求項26】
配列番号61に記載されたアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域及び配列番号62に記載されたアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含む請求項22記載の抗体。
【請求項27】
軽鎖定常領域及び重鎖定常領域をさらに含む請求項26記載の抗体。
【請求項28】
前記軽鎖定常領域が配列番号58に記載されたアミノ酸配列を有し、前記重鎖定常領域が配列番号60に記載されたアミノ酸配列を有する、請求項27記載の抗体。
【請求項29】
ATCC寄託番号PTA-5678を有する細胞によって生産される請求項26記載の抗体。
【請求項30】
配列番号63に記載されたアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域及び配列番号64に記載されたアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含む請求項22記載の抗体。
【請求項31】
軽鎖定常領域及び重鎖定常領域をさらに含む請求項30記載の抗体。
【請求項32】
前記軽鎖定常領域が配列番号58に記載されたアミノ酸配列を有し、前記重鎖定常領域が配列番号60に記載されたアミノ酸配列を有する、請求項31記載の抗体。
【請求項33】
ATCC寄託番号PTA-5680を有する細胞によって生産される請求項30記載の抗体。
【請求項34】
配列番号65に記載されたアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域及び配列番号66に記載されたアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含む請求項22記載の抗体。
【請求項35】
軽鎖定常領域及び重鎖定常領域をさらに含む請求項34記載の抗体。
【請求項36】
前記軽鎖定常領域が配列番号58に記載されたアミノ酸配列を有し、前記重鎖定常領域が配列番号60に記載されたアミノ酸配列を有する、請求項35記載の抗体。
【請求項37】
ATCC寄託番号PTA-5679を有する細胞によって生産される請求項34記載の抗体。
【請求項38】
配列番号67に記載されたアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域及び配列番号68に記載されたアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含む請求項22記載の抗体。
【請求項39】
軽鎖定常領域及び重鎖定常領域をさらに含む請求項38記載の抗体。
【請求項40】
前記軽鎖定常領域が配列番号58に記載されたアミノ酸配列を有し、前記重鎖定常領域が配列番号60に記載されたアミノ酸配列を有する、請求項39記載の抗体。
【請求項41】
配列番号69に記載されたアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域及び配列番号70に記載されたアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含む請求項22記載の抗体。
【請求項42】
軽鎖定常領域及び重鎖定常領域をさらに含む請求項41記載の抗体。
【請求項43】
前記軽鎖定常領域が配列番号58に記載されたアミノ酸配列を有し、前記重鎖定常領域が配列番号60に記載されたアミノ酸配列を有する、請求項42記載の抗体。
【請求項44】
治療的に有効な量の請求項20又は21に記載の抗体及び薬理学的に許容される担体を含む組成物。
【請求項45】
標識をさらに結合された請求項20又は21に記載の抗体。
【請求項46】
請求項20又は21に記載の抗体を含む診断キット。
【請求項47】
請求項22記載の抗体をコードする核酸を含むベクター。
【請求項48】
請求項47記載のベクターを含む細胞。
【請求項49】
前記細胞がATCC寄託番号PTA-5678, PTA-5679又はPTA-5680である、請求項48記載の細胞。
【請求項50】
抗体の生産に適した条件下で請求項48記載の細胞を培養すること、及び生産された抗体を単離することを含む、抗体を生産するための方法。
【請求項51】
被験者におけるIgEレベルを測定するための方法であって、IgE分子を含むサンプルである被験者のサンプルを請求項22記載の抗体と接触させること;及び該サンプルによる抗体の保持のレベルを対照被験者のコントロールサンプルと比較して決定することを含み、コントロールサンプルに対して被験者のサンプルによる抗体の保持のレベルが高い又は低いということが、該被験者が対照被験者よりも高い又は低いレベルのIgE分子を有しているということを示すものである方法。
【請求項52】
被験者における異常なレベルのIgEに伴う疾患を診断するための方法であって、IgE分子を含むサンプルである被験者のサンプルを請求項22記載の抗体と接触させること;及び該サンプルによる抗体の保持のレベルを対照被験者のコントロールサンプルと比較して決定することを含み、コントロールサンプルに対して被験者のサンプルによる抗体の保持のレベルが高い又は低いということが、該被験者が異常なレベルのIgEに伴う疾患を有するということを示すものである方法。
【請求項53】
前記の異常なレベルのIgEに伴う疾患が、喘息、アレルギー性鼻炎、湿疹、蕁麻疹、又はアトピー性皮膚炎である、請求項52記載の方法。
【請求項54】
被験者における異常に高いIgEレベルに伴う疾患を治療するための方法であって、該被験者において該疾患が治療されるような治療的に有効な量の請求項22記載の抗体を該被験者に投与することを包含する方法。
【請求項55】
前記疾患が喘息、アレルギー性鼻炎、湿疹、蕁麻疹、アトピー性皮膚炎、又は食物アレルギーである、請求項54記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9A】
【図9B】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図10D】
【図10E】
【図10F】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9A】
【図9B】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図10D】
【図10E】
【図10F】
【公開番号】特開2011−217747(P2011−217747A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−98737(P2011−98737)
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【分割の表示】特願2006−503245(P2006−503245)の分割
【原出願日】平成16年2月2日(2004.2.2)
【出願人】(505102016)タノックス インコーポレーテッド (9)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【分割の表示】特願2006−503245(P2006−503245)の分割
【原出願日】平成16年2月2日(2004.2.2)
【出願人】(505102016)タノックス インコーポレーテッド (9)
【Fターム(参考)】
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