説明

高記録密度磁気記録媒体

【目的】 磁性層表面の高い平滑性及び高い耐久性を有し、高密度記録を行うことができる磁気記録媒体を提供する。
【構成】 非磁性支持体と磁性層との間に、非磁性粒子、バインダー及び潤滑剤を含んで成る下塗り層を設けた磁気記録媒体において、前記非磁性粒子が、長軸が0.1〜0.5μmの針状酸化チタンと少なくとも300ml/100gの吸油量のストラクチャー構造を有するカーボンブラックとを含んで成り、その重量比が90:10〜100:0であることを特徴とする高記録密度磁気記録媒体。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、フロッピーディスク等の磁気ディスクやビデオテープ、データカートリッジ等の磁気テープなどの磁気記録媒体に関し、さらにはその磁性層とベースフィルムの間に設けた下塗り層を有する磁気記録媒体の組成に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、磁気記録媒体においては、要求性能の高度化、機能範囲の拡大などに伴い、記録の高密度化の実現が必須要件となっている。そのために、磁性層の厚みを薄くする必要があった。ところが、磁性層の厚みを薄くしていくと(約1μm以下)いくつかの実用上の問題が生じてきた。特に磁性層の耐久性は、この様に薄い厚みにおいては顕著に低下することが明らかになった。この様な磁性層の耐久性を向上させる1つの手法として、磁性層とベースフィルムの間に下塗り層を設けることがこれまで多く検討されてきた。
【0003】特開昭61−214127には、下塗り層に導電性酸化錫微粉末をフィラーとして使用して表面平滑性及び電磁変換特性を向上させることが記載されている。特開昭63−317925には、下塗り層に導電性酸化チタンをフィラーとして使用して、1.0μm以下の磁性層を有する磁気記録媒体において充分な耐久性を維持することが記載されている。特開昭63−317926には、下塗り層に酸化チタン及びカーボンブラックをフィラーとして使用して、1.0μm以下の磁性層を有する磁気記録媒体において充分な耐久性を維持することが記載されている。
【0004】しかしながら、上記いずれの下塗り層中の非磁性粒子も球状粉末であり、このため下塗り層中の充填密度が高く、特に粉末の径が0.2μm以下の場合、潤滑剤が充分に溜められず、耐久性のよい磁気記録媒体が得られなかった。また、非磁性粒子の径が0.2μmより大きい場合には充分に分散させても良好な表面平滑性が得られなかった。従って、従来の技術によっては、潤滑剤を充分に溜めることができ、且つ高い表面平滑性を提供する下塗り層を得ることはできなかった。
【0005】ストラクチャー構造を有するカーボンブラックが高い導電性を有することが知られている。特開昭61−177631には、ストラクチャー構造を有するカーボンブラックを利用して磁性層の帯電性を制御する技術が開示されている。特開昭61−177631には90ml/100g以上の吸油量を有するカーボンブラックの使用が推奨されているが、本発明のように、薄型の磁性層を有する磁気記録媒体においては、この吸油量では不充分である。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】従って本発明は、磁性層とベースフィルムの間に特定の組成の下塗り層を設けることにより従来技術の問題点である、磁性層表面の平滑性と耐久性を共に向上させ、高密度記録・高耐久性を実現した磁気記録媒体を提供しようとするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記の課題を解決するため、本発明は、非磁性支持体と磁性層との間に、非磁性粒子、結合剤及び潤滑剤を含んで成る下塗り層を設けた磁気記録媒体において、前記非磁性粒子が、長軸が0.5μm未満の針状酸化チタンとストラクチャー構造を有するカーボンブラックとを含んで成り、その重量比が90:10〜100:0であることを特徴とする高記録密度磁気記録媒体を提供する。
【0008】
【具体的な説明】本発明の磁気記録媒体は、少なくとも、非磁性支持体、下塗り層及び磁性層を有する。本発明の非磁性支持体としては、磁気記録媒体の支持体として常用されている任意の支持体を使用することができる。この様な支持体としては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、アセテートフィルム、ポリイミドフィルム、ポリアミドフィルム、ガラスなどの、有機材料又は無機材料フィルムを挙げることができる。
【0009】本発明の下塗り層は、非磁性粒子、バインダー及び潤滑剤を含んで成り、該非磁性粒子が、長軸が0.1〜0.5μmの針状酸化チタンと、少なくとも300ml/100gの吸油量のストラクチャー構造を有するカーボンブラックを含んで成り、その重量比が90:10〜100:0であることを特徴とする。本発明の下塗り層の非磁性粒子を構成する針状酸化チタンは、その長径が0.1〜0.5μmである必要がある。長径が0.5μmを越える酸化チタンを使用すると、カレンダー処理しても表面の平滑性が得られないためである。また、長径が0.1μm未満であると分散性が悪くなり表面平滑性が損われる可能性があるからである。
【0010】また、針状酸化チタン粉末の針状比は5〜10であることが望ましい。針状比が5未満の二酸化チタン粒子では、針状の形状特有の効果、すなわち下塗り層の、その空孔率が高くなることによる潤滑剤溜めとしての機能が低下するからである。針状比が10を越えると二酸化チタンは、入手することができないが、得られたとしても、この様に高い針状比のものは折れやすく、混練・分散工程での大きな剪断力に耐えられずに破壊され、その効果が発揮できないことが予測される。
【0011】下塗り層の導電性を改良する必要がある場合は、ストラクチャー構造を有するカーボンブラックを添加することができる。二酸化チタンとカーボンブラックの配合割合は重量比で90/10〜100/0である必要がある。カーボンブラックが90/10の割合より多いと、下塗り層の表面粗さが低下し、磁性層である上塗り層の表面粗さも低下するので、電磁変換特性(信号出力など)が著しく低下するからである。
【0012】カーボンブラックの中でも導電性が高いものとしてストラクチャー構造を有するカーボンブラックが最も有効である。このカーボンブラックのストラクチャー構造とは、個々のカーボンブラック粒子が鎖状につながり、凝集構造を有していることをいう。この様なカーボンブラックは導電性が高いので、磁性層または下塗り層に少量配合させるだけでその表面抵抗率を下げることが可能である。
【0013】一般にカーボンブラックのストラクチャー構造の発達の程度の目安として、カーボンブラックの吸油量がある。一般に吸油量が大きいものほどストラクチャー構造が良く発達し、導電性に優れる傾向がある。少量(非磁性体全量中10重量%以下)を下塗り層中に添加する場合は、吸油量の大きなカーボンブラックでないとその効果が充分に発揮されない。
【0014】本発明で使用できる前記のカーボンブラックでは、その吸油量が少なくとも300ml/100g以上が好ましく、450ml/100g以上であれば特に好ましい。本発明で使用できる吸油量が300ml/100g以上のカーボンブラックとしては、*K.B.EC(ライオン(株)社製)…吸油量=360〔ml/100g〕
*K.B.EC 600JD(ライオン(株)社製)…吸油量=495〔ml/100g〕
*HS−500(旭カーボン(株)社製)…吸油量=447〔ml/100g〕
*ブラック・パールス2000(キャボット(株)社製)…吸油量=330〔ml/100g〕
*三菱化成工業(株)社製の#3950…吸油量=360〔ml/100g〕
などがある。
【0015】本発明のバインダーとしては、磁気記録媒体において常用されているバインダーを用いることができ、例えば、ウレタン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリエステル樹脂、又は塩化ビニルモノマーと他のビニルモノマーの共重合体等の従来公知のバインダーが使用可能である。が挙げられる。
【0016】下塗り層に含まれる非磁性粒子(二酸化チタン+カーボンブラック)とバインダーの配合割合は重量比で、100/5〜100/100である必要がある。バインダーの配合割合が100/5より少なくなると非磁性粒子の分散性が著しく悪くなるので下塗り層の表面粗さも著しく低下する。反対にバインダーの配合割合が100/100より多くなると非磁性粒子の分散性は良くなるが、下塗り層の空孔率が低下して潤滑剤溜めとしての機能が低下するばかりか、カレンダー処理の効果も低下して磁性層の表面粗さも著しく低下する。
【0017】本発明の磁気記録媒体の下塗り層に含まれる潤滑剤としては、常用の潤滑剤、例えば脂肪酸エステル、脂肪酸、脂肪酸アミド、フッ素系炭化水素、フッ素系アルコール等が使用可能であり、その使用量は、好ましくは磁性体100重量部に対して、0.1〜10重量部である。潤滑剤が、0.1重量部未満では、潤滑剤としての効果が得られず、耐久性等の向上効果が見られないためであり、10重量部を超えると、磁性層の適当な強度が得られず、耐久性が劣化するおそれがあるためである。
【0018】下塗り層の厚さは、少なくとも0.2〜5μmの範囲であるのが好ましい。0.2μm未満の厚みでは、下塗り層の潤滑剤溜めとしての機能が低下するので、磁気記録媒体としての耐久性が低下する。反対に5μmより厚すぎると、磁性層(上塗り層)を下塗り層に塗布する際に、磁性層の溶剤が下塗り層に過度に移行するので、磁性層が良好に塗布できずにその表面粗さが低下する傾向がある。
【0019】本発明の磁気記録媒体の磁性層中の磁性体としては、針状酸化鉄系磁性体(γ−Fe2 3 ,Fe3 4 など)、Coを含有する針状酸化鉄系磁性体、金属強磁性体(メタル磁性体)、六方晶系磁性体(バリウムフェライトなど)、炭化鉄系磁性体など常用の磁性体を使用することができる。磁性層の厚さは、記録密度や記録方式によって最適に定められる。本発明は、1.0μm以下の磁性層厚が要求される磁気記録媒体、たとえば、20MB以上の記録容量を有するデジタル方式の磁気記録媒体において適したものであり、特に、この様な薄い塗布型の磁性層を有しながら、耐久性および電磁変換特性が共に優れた磁気記録媒体を提供できるものである。
【0020】下塗り層用塗料は、本発明で使用される二酸化チタン、カーボンブラックを、バインダー、潤滑剤、溶剤などと共に混練・分散して製造される。塗料の製造にあたっては、これら各材料をすべて同時に、あるいはいくつかに分割して混練・分散用の装置に投入される。たとえば、まずバインダーを含む溶剤中にカーボンブラックを投入し混練を行い、その後二酸化チタンをその混練物中に投入して混練を続け、できた混練物を分散装置に移して分散を完了させる。さらに、この分散液に潤滑剤を添加して下塗り層用塗料とする方法などがある。
【0021】下塗り層用塗料の混練・分散には従来公知の各種の装置が用いられる。たとえば、混練装置には、ニーダー、プラネタリーミキサー、エクストルーダー、ホモジナイザー、ハイスピードミキサーなどが使用できる。また、分散装置には、サンドミル、ボールミル、アトライター、トルネード分散機、高速度衝撃ミルなどがある。
【0022】下塗り層用塗料中には他に必要に応じて、各種の硬化剤、防黴剤、界面活性剤などの従来公知の磁性層用、あるいはバックコート層用の添加剤を加えても良い。支持体上に塗料を塗布する装置としては、エアドクターコーター、ブレードコーター、エアナイフコーター、スクイズコーター、リバースロールコーター、グラビアコーター、キスコーター、スプレーコーター、ダイコーターなどの従来公知のものが用いられる。
【0023】上塗り層用塗料は、各種磁性体をバインダー、潤滑剤、研磨材、溶剤などと共に混練・分散して製造され、その上塗り層用塗料を下塗り層の上に塗布する。上塗り層用塗料の混練・分散、その塗布ならびに各種添加剤は上述の下塗り層用塗料に用いられる従来公知の技術が用いられる。上塗り層の塗布は、下塗り用塗料を支持体に塗布したあと乾燥させて、下塗り層としその後上塗り層を塗布するか、あるいは、下塗り層が乾燥する前に上塗り層を塗布するか、または下塗り層と上塗り層を同時に塗布して乾燥させるかのいづれの方法でも良い。
【0024】下塗り層および上塗り層の乾燥温度は使用する溶剤や支持体にもよるが、40〜120℃、乾燥用空気流量1〜5kl/m2 、乾燥時間30秒〜10分の範囲で行うのが良い。また、乾燥するために、ポリマーを硬化するために使用される種々の照射、例えば赤外線、遠赤外線あるいは電子線に暴露することもできる。上塗り層が乾燥する前に、必要に応じて磁性体を配向化または無配向化させても良い。配向化は、長手方向や垂直方向あるいは斜め方向(たとえば支持体平面に対して45度など)の永久磁石や電磁石による磁界に塗布層を暴露し、そして磁界の外あるいは磁界中で塗布層を乾燥させることにより行う。ポリマーバインダー中に分散した磁性体の無配向化は、交流磁界や回転磁界などで磁性体の向きを水平面内あるいは三次元的に磁性体の方向をランダムにして行う。この配向化および無配向化する方法は、従来公知の方法が用いられる。
【0025】乾燥した下塗り層および上塗り層は、必要に応じてカレンダー処理を行っても良い。カレンダー処理には、金属メッキロールや弾性ロールなどを使用して従来公知の方法で行われる。処理条件は、下塗り層および上塗り層に使用される材料(バインダーや支持体など)の種類にもよるが、加熱温度30〜90℃、加圧力500〜4000ポンド/インチ(pli)の範囲で行うのが良い。
【0026】なお、本発明において規定される二酸化チタンおよびカーボンブラック以外の各種材料は従来公知のものが利用でき、各材料の選択・組み合わせは必要に応じて行えば良い。
【0027】
【実施例】次に、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。
(1)下塗り用塗料の製造工程組成表Aに示す原材料を用い、以下のように混練・分散を行い下塗り用塗料を製造した。カーボンブラックの全量を、ウレタン樹脂の全量とビニル樹脂の全量を溶剤全量に溶解させた溶液中に投入し、ハイスピードミキサーで約10分間混練を行った。さらに針状二酸化チタンの全量を投入し、ハイスピードミキサーで約50分間混練を行ない混練物を得た。この混練物を、今度はサンドミルに移して分散処理を20時間行い分散物を得た。この分散物にオレイン酸の全量、イソセチルステアレートの全量およびポリイソシアネートの全量を投入し、約30分ハイスピードミキサー(芦沢製作所)で攪拌を行い、最終の下塗り用塗料を得た。
【0028】(2)上塗り用塗料の製造工程組成表Bに示す原材料を用い、以下のように混練・分散を行い上塗り用塗料を製造した。ウレタン樹脂の全量を溶剤の全量に溶解させた溶液中に、ハイスピードミキサーで攪拌しながらメタル磁性体を少しずつ投入していった。メタル磁性体の全量を投入してから約30分間攪拌を続けた後、分散剤1と分散剤2の全量を投入してから約10分後、今度はビニル樹脂の全量を投入して攪拌を続けた。その数分後、さらにアルミナの全量を投入し、約10分間攪拌して混練物を得た。この混練物を、今度はサンドミルに移して分散処理を30時間行い分散物を得た。この分散物にオレイン酸の全量、イソセチルステアレートの全量およびポリイソシアネートの全量を投入し、約30分ハイスピードミキサーで攪拌を行い、最終の上塗り用塗料を得た。
【0029】(3)塗布工程前記の下塗り層用塗料を、ベースフィルム(帝人社製のAXP−54/62μm厚)上にグラビアコーターを用いて塗布し、40℃で40秒間・100℃で30秒間乾燥を行った。乾燥後、金属メッキロールを用いてカレンダー処理を行った。処理条件は、加熱温度45℃・加圧力1500pli で行った。カレンダー処理後の下塗り層の厚みは、2.0μmであった。下塗り層が充分硬化した後(室温にて3日間)、今度は前記の上塗り層塗料を下塗り層の上にグラビアコーターを用いて塗布し、40℃で30秒間・80℃で30秒間乾燥を行った。乾燥後、金属メッキロールを用いてカレンダー処理を行った。処理条件は、加熱温度45℃・加圧力1500pli でカレンダー処理後の上塗り層と下塗り層を合わせた全厚みは2.5μmであった。
【0030】
【表1】


【0031】
【表2】


【0032】
【表3】


【0033】
【表4】


【0034】
【発明の効果】本発明によれば、すぐれた表面平滑性、高耐久性、及びすぐれた電磁変換特性を有する高記録密度の磁気記録媒体が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 非磁性支持体と磁性層との間に、非磁性粒子、バインダー及び潤滑剤を含んで成る下塗り層を設けた磁気記録媒体において、前記非磁性粒子が、長軸が0.1〜0.5μmの針状酸化チタンと少なくとも300ml/100gの吸油量のストラクチャー構造を有するカーボンブラックとを含んで成り、その重量比が90:10〜100:0であることを特徴とする高記録密度磁気記録媒体。
【請求項2】 前記針状酸化チタンの針状比が5〜10である、請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】 前記下塗り層中の非磁性粒子とバインダーとの重量比が、100:5〜100:100である、請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】 前記下塗り層の厚さが0.2〜5μmである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項5】 前記磁性層の厚さが1.0μm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。

【公開番号】特開平6−236543
【公開日】平成6年(1994)8月23日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−13781
【出願日】平成5年(1993)1月29日
【出願人】(590000422)ミネソタ マイニング アンド マニュファクチャリング カンパニー (144)