説明

高誘電フィラー含有重合性組成物、プリプレグ、積層体、及び誘電体デバイス

【課題】高比誘電率かつ低誘電正接であり、比誘電率の温度変化が小さく、しかも耐熱性、及び冷熱衝撃試験での耐クラック性に優れた積層体の製造に有用な、重合性組成物及びプリプレグ、該積層体、並びに該積層体を用いてなる誘電体デバイスを提供すること。
【解決手段】シクロオレフィンモノマー、重合触媒、架橋剤、架橋助剤、及びジルコン酸化物とチタン酸化物との組み合わせからなる高誘電フィラーを含有してなる重合性組成物、前記重合性組成物を強化繊維に含浸させた後に重合してなるプリプレグ、前記プリプレグと、当該プリプレグ及び/又は他の材料とを積層した後、硬化してなる積層体、並びに該積層体を用いてなる誘電体デバイス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合性組成物、プリプレグ、積層体、及び誘電体デバイスに関する。さらに詳しくは、高比誘電率かつ低誘電正接であり、比誘電率の温度変化が小さく、しかも耐熱性、及び冷熱衝撃試験での耐クラック性に優れた積層体の製造に有用な、重合性組成物及びプリプレグ、該積層体、並びに該積層体を用いてなる誘電体デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
高比誘電率と低誘電正接とを有する新材料は、エレクトロニクス産業において、高周波デバイスでの使用や、デバイスのさらなる小型化に必要とされている。かかる新材料を、薄膜、シート、プラーク及び他の成形形状にできれば、これらは、マイクロ波の周波数での使用に対応した回路基板、高エネルギー密度キャパシタ、誘電体フィルタ、誘電体アンテナ、埋設デバイス及びマルチチップモジュール等の誘電体デバイスとして使用できるため、特に有用である。これらには、例えば無線通信技術において様々な用途がある。多くのセラミック材料は、望ましい高比誘電率と低誘電正接とを有するが、生産性に乏しく容易に薄膜にはできない。また、フィルムやその他の成形品に成形したセラミック材料は一般に脆いという問題がある。
【0003】
そこで、近年提案されている一つの試みは、高比誘電率を有するセラミックフィラーとポリマーマトリックスとを含む高分子複合材料(コンポジット)を使用することであるが、誘電体デバイスとして機能させるためには、比誘電率の温度変化率(TCK)の低減が課題となる。
【0004】
例えば、特許文献1には、比誘電率の誘電率温度特性が正の誘電セラミックスと、比誘電率の誘電率温度特性が負の誘電セラミックスと、高分子材料とを、全体の比誘電率の温度変化が±50ppm/℃以下となるように混合してなる誘電体アンテナ用材料が提案されている。高分子材料としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブチレンフタレート、ポリスチレン等の熱可塑性樹脂が例示されている。具体的には、比誘電率の温度変化が正のジルコン酸鉛と負のチタン酸カルシウムを容量比7:3で乳鉢中で混合した後、250℃に加熱した混練ロールを用いてポリブチレンテレフタレートと共に10分間ミキシングし、比誘電率8.1、比誘電率の温度変化+3ppm/℃の誘電体アンテナ材料を製造したことが記載されている。
【0005】
特許文献2には、温度によって殆ど変化しない高い誘電率を有するポリマー組成物であって、熱可塑性ポリマー、1GHz及び20℃において少なくとも約50の誘電率を有する高誘電性セラミック、及び、1GHz及び20℃において少なくとも約5の誘電率を有する第二のセラミック材料の一方の誘電率が、温度の上昇によって増加し、該誘電性セラミック及び該第二セラミック材料の他方の誘電率が、温度の上昇によって減少し、該高誘電性セラミック及び該第二のセラミック材料は、ポリマー組成物中に、該ポリマー組成物の誘電率が1GHzにおいて少なくとも4であるのに十分な量で含まれていることを特徴とする組成物が開示されている。高誘電性セラミックとしては、ストロンチウムチタネート、バリウムネオジウムチタネート、バリウムストロンチウムチタネート/マグネシウムジルコネート、二酸化チタン、バリウムチタネート、カルシウムチタネート、バリウムマグネシウムチタネート、鉛ジルコニウムチタネート及びこれらの混合物、第二のセラミック材料としては、アルミナ、マイカ、マグネシウムチタネート及びこれらの混合物が例示され、熱可塑性ポリマーとしては、ポリ(フェニレンスルフィド)やエチレンとノルボルネンを重合したシクロオレフィン性コポリマーなどが例示されている。
【0006】
【特許文献1】特開平4−161461号公報
【特許文献2】特表2000−510639号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1や2の高分子複合材料は、高比誘電率、低誘電正接及び比誘電率の温度変化が小さい等の誘電特性を有するが、流動性に劣り、高分子材料に多量の高誘電フィラーを均一に分散するのが難しく、ガラスクロス等の強化繊維に含浸させた状態で用いることが出来ない、また、該複合材料から得られる成形品は、耐熱性及び冷熱衝撃試験での耐クラック性等の信頼性に劣るなどの問題があることが、本発明者らの検討により明らかとなった。
本発明の目的は、高比誘電率かつ低誘電正接であり、比誘電率の温度変化が小さく、しかも耐熱性、及び冷熱衝撃試験での耐クラック性に優れた積層体の製造に有用な、重合性組成物及びプリプレグ、該積層体、並びに該積層体を用いてなる誘電体デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討の結果、シクロオレフィンモノマー、重合触媒、架橋剤、架橋助剤及び高誘電フィラーを含む重合性組成物において、高誘電フィラーとしてジルコン酸化物とチタン酸化物とを組み合わせて配合すると、該組成物によれば、流動性に優れたプリプレグを製造でき、さらに誘電特性、耐熱性及び冷熱衝撃試験での耐クラック性のいずれの特性にも優れた積層体が得られることを見出した。本発明者らは、かかる知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明によれば、
〔1〕シクロオレフィンモノマー、重合触媒、架橋剤、架橋助剤、及びジルコン酸化物とチタン酸化物との組み合わせからなる高誘電フィラーを含有してなる重合性組成物、
〔2〕連鎖移動剤をさらに含むものである前記〔1〕記載の重合性組成物、
〔3〕前記〔1〕又は〔2〕に記載の重合性組成物を強化繊維に含浸させた後に重合してなるプリプレグ、
〔4〕前記〔3〕に記載のプリプレグと、当該プリプレグ及び/又は他の材料とを積層した後、硬化してなる積層体、
〔5〕比誘電率の温度変化率が200ppm/℃以下である前記〔4〕記載の積層体、並びに
〔6〕前記〔4〕又は〔5〕に記載の積層体を用いてなる誘電体デバイス、
が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高比誘電率かつ低誘電正接であり、比誘電率の温度変化が小さく、しかも耐熱性、及び冷熱衝撃試験での耐クラック性に優れた積層体の製造に有用な、重合性組成物及びプリプレグ、該積層体、並びに該積層体を用いてなる誘電体デバイスが提供される。本発明の積層体は、前記の通りの特性を有することから、マイクロ波の周波数での使用に対応した回路基板、高エネルギー密度キャパシタ、誘電体フィルタ、誘電体アンテナ、埋設デバイス及びマルチチップモジュール等の誘電体デバイスに好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の重合性組成物は、シクロオレフィンモノマー、重合触媒、架橋剤、架橋助剤、及びジルコン酸化物とチタン酸化物との組み合わせからなる高誘電フィラーを含有してなる。本発明のプリプレグは、前記重合性組成物を強化繊維に含浸させた後に重合してなり、本発明の積層体は、前記プリプレグと、当該プリプレグ及び/又は他の材料とを積層した後、硬化してなる。本発明の誘電体デバイスは、本発明の積層体からなる。
【0012】
(シクロオレフィンモノマー)
本発明に使用されるシクロオレフィンモノマーは、炭素原子で形成される環構造を有し、かつ該環構造中に重合性の炭素−炭素二重結合を1つ有する化合物である。本明細書において「重合性の炭素−炭素二重結合」とは、連鎖重合(開環重合)可能な炭素−炭素二重結合をいう。開環重合には、イオン重合、ラジカル重合、メタセシス重合など種々の形態のものが存在するが、本発明においては、通常、メタセス開環重合をいう。
【0013】
シクロオレフィンモノマーの環構造としては、単環、多環、縮合多環、橋かけ環及びこれらの組み合わせ多環などが挙げられる。各環構造を構成する炭素数に特に限定はないが、通常、4〜30個、好ましくは5〜20個、より好ましくは5〜15個である。
シクロオレフィンモノマーは、アルキル基、アルケニル基、アルキリデン基、アリール基などの炭素数1〜30の炭化水素基や、カルボキシル基又は酸無水物基などの極性基を置換基として有していてもよいが、得られる積層体を低誘電正接とする観点から、極性基を持たない、すなわち、炭素原子と水素原子のみで構成されるものが好ましい。
【0014】
シクロオレフィンモノマーとしては、単環のシクロオレフィンモノマーと多環のシクロオレフィンモノマーのいずれをも用いることができる。得られる積層体の誘電特性、及び耐熱性の特性を高度にバランスさせる観点から、多環のシクロオレフィンモノマーが好ましい。多環のシクロオレフィンモノマーとしては、特にノルボルネン系モノマーが好ましい。「ノルボルネン系モノマー」とは、ノルボルネン環構造を分子内に有するシクロオレフィンモノマーをいう。例えば、ノルボルネン類、ジシクロペンタジエン類、テトラシクロドデセン類などが挙げられる。
【0015】
シクロオレフィンモノマーは、架橋性の炭素−炭素不飽和結合を持たないものと、架橋性の炭素−炭素不飽和結合を1以上有するものとに分けられる。本明細書において「架橋性の炭素−炭素不飽和結合」とは、開環重合には関与せず、架橋反応に関与可能な炭素−炭素不飽和結合をいう。架橋反応とは橋架け構造を形成する反応であり、縮合反応、付加反応、ラジカル反応、メタセシス反応など種々の形態のものが存在するが、本発明においては、通常、ラジカル架橋反応又はメタセシス架橋反応、特にラジカル架橋反応をいう。架橋性の炭素−炭素不飽和結合としては、芳香族炭素−炭素不飽和結合を除く炭素−炭素不飽和結合、すなわち、脂肪族炭素−炭素二重結合又は三重結合が挙げられ、本発明においては、通常、脂肪族炭素−炭素二重結合をいう。架橋性の炭素−炭素不飽和結合を1以上有するシクロオレフィンモノマー中、不飽和結合の位置は特に限定されるものではなく、炭素原子で形成される環構造内の他、該環構造以外の任意の位置、例えば、側鎖の末端や内部に存在していてもよい。
【0016】
架橋性の炭素−炭素不飽和結合を持たないシクロオレフィンモノマーとしては、例えば、シクロペンテン、3−メチルシクロペンテン、4−メチルシクロペンテン、3,4−ジメチルシクロペンテン、3,5−ジメチルシクロペンテン、3−クロロシクロペンテン、シクロへキセン、3−メチルシクロへキセン、4−メチルシクロヘキセン、3,4−ジメチルシクロヘキセン、3−クロロシクロヘキセン、シクロへプテンなどの単環シクロオレフィンモノマー;ノルボルネン、5−メチル−2−ノルボルネン、5−エチル−2−ノルボルネン、5−プロピル−2−ノルボルネン、5,6−ジメチル−2−ノルボルネン、1−メチル−2−ノルボルネン、7−メチル−2−ノルボルネン、5,5,6−トリメチル−2−ノルボルネン、5−フェニル−2−ノルボルネン、テトラシクロドデセン、1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2−メチル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2−エチル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2,3−ジメチル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2−ヘキシル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2−エチリデン−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2−フルオロ−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、1,5−ジメチル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2−シクロへキシル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2,3−ジクロロ−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2−イソブチル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、1,2−ジヒドロジシクロペンタジエン、5−クロロ−2−ノルボルネン、5,5−ジクロロ−2−ノルボルネン、5−フルオロ−2−ノルボルネン、5,5,6−トリフルオロ−6−トリフルオロメチル−2−ノルボルネン、5−クロロメチル−2−ノルボルネン、5−メトキシ−2−ノルボルネン、5,6−ジカルボキシル−2−ノルボルネンアンハイドレート、5−ジメチルアミノ−2−ノルボルネン、5−シアノ−2−ノルボルネンなどのノルボルネン系モノマー;を挙げることができ、好ましくは架橋性の炭素−炭素不飽和結合を持たないノルボルネン系モノマーである。
【0017】
架橋性の炭素−炭素不飽和結合を1以上有するシクロオレフィンモノマーとしては、例えば、3−ビニルシクロヘキセン、4−ビニルシクロヘキセン、1,3−シクロペンタジエン、1,3−シクロへキサジエン、1,4−シクロへキサジエン、5−エチル−1,3−シクロへキサジエン、1,3−シクロへプタジエン、1,3−シクロオクタジエンなどの単環シクロオレフィンモノマー;5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−メチリデン−2−ノルボルネン、5−イソプロピリデン−2−ノルボルネン、5−ビニル−2−ノルボルネン、5−アリル−2−ノルボルネン、5,6−ジエチリデン−2−ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、2,5−ノルボルナジエンなどのノルボルネン系モノマー;を挙げることができ、好ましくは架橋性の炭素−炭素不飽和結合を1以上有するノルボルネン系モノマーである。
これらのシクロオレフィンモノマーは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
本発明に使用されるシクロオレフィンモノマーとしては、架橋性の炭素−炭素不飽和結合を1以上有するシクロオレフィンモノマーを含むものが、得られる積層体において耐熱性や耐クラック性等の信頼性が向上し、好適である。
本発明の重合性組成物に配合するシクロオレフィンモノマー中、架橋性の炭素−炭素不飽和結合を1以上有するシクロオレフィンモノマーと架橋性の炭素−炭素不飽和結合を持たないシクロオレフィンモノマーとの配合割合は所望により適宜選択されるが、重量比(架橋性の炭素−炭素不飽和結合を1以上有するシクロオレフィンモノマー/架橋性の炭素−炭素不飽和結合を持たないシクロオレフィンモノマー)で、通常、5/95〜100/0、好ましくは10/90〜90/10、より好ましくは15/85〜70/30の範囲である。当該配合割合がかかる範囲にあれば、得られる積層体において、耐熱性、及び冷熱衝撃試験での耐クラック性等の特性を高度に向上させることができ、好適である。
【0019】
(重合触媒)
本発明に使用される重合触媒としては、前記シクロオレフィンモノマーを重合できるものであれば特に限定はないが、本発明の重合性組成物は、後述のプリプレグの製造において、直接塊状重合に供して用いるのが好適であり、通常、メタセシス重合触媒を用いるのが好ましい。
【0020】
メタセシス重合触媒としては、前記シクロオレフィンモノマーをメタセシス開環重合可能である、通常、遷移金属原子を中心原子として、複数のイオン、原子、多原子イオン、及び化合物などが結合してなる錯体が挙げられる。遷移金属原子としては、第5族、第6族及び第8族(長周期型周期表による。以下、同じ。)の原子が使用される。それぞれの族の原子は特に限定されないが、第5族の原子としては、例えば、タンタルが挙げられ、第6族の原子としては、例えば、モリブデンやタングステンが挙げられ、第8族の原子としては、例えば、ルテニウムやオスミウムが挙げられる。遷移金属原子としては中でも、第8族のルテニウムやオスミウムが好ましい。すなわち、本発明に使用されるメタセシス重合触媒としては、ルテニウム又はオスミウムを中心原子とする錯体が好ましく、ルテニウムを中心原子とする錯体がより好ましい。ルテニウムを中心原子とする錯体としては、カルベン化合物がルテニウムに配位してなるルテニウムカルベン錯体が好ましい。ここで、「カルベン化合物」とは、メチレン遊離基を有する化合物の総称であり、(>C:)で表されるような電荷のない2価の炭素原子(カルベン炭素)を持つ化合物をいう。ルテニウムカルベン錯体は、塊状重合時の触媒活性に優れるため、本発明の重合性組成物を塊状重合に供してプリプレグを得る場合、得られるプリプレグには未反応のモノマーに由来する臭気が少なく、生産性良く良質なプリプレグが得られる。また、酸素や空気中の水分に対して比較的安定であって、失活しにくいので、大気下でも使用可能である。
【0021】
前記ルテニウムカルベン錯体としては、得られるプリプレグ及び積層体の機械強度と耐衝撃性とが高度にバランスされ得ることから、ヘテロ環構造を有するカルベン化合物を配位子として少なくとも1つ有するものが好ましい。ヘテロ環構造を構成するヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子等が挙げられ、好ましくは窒素原子である。また、ヘテロ環構造としては、イミダゾリン環構造又はイミダゾリジン環構造が好ましい。かかるヘテロ環構造を有する化合物の具体例としては、1,3−ジ(1−アダマンチル)イミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジメシチルオクタヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン、1,3−ジ(1−フェニルエチル)−4−イミダゾリン−2−イリデン、1,3,4−トリフェニル−2,3,4,5−テトラヒドロ−1H−1,2,4−トリアゾール−5−イリデン、1,3−ジシクロヘキシルヘキサヒドロピリミジン−2−イリデン、N,N,N’,N’−テトライソプロピルホルムアミジニリデン、1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジシクロヘキシルイミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジイソプロピル−4−イミダゾリン−2−イリデン、1,3−ジメシチル−2,3−ジヒドロベンズイミダゾール−2−イリデンなどが挙げられる。
【0022】
本発明においてメタセシス重合触媒として使用される、好適なルテニウムカルベン錯体の具体例としては、ベンジリデン(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(3−メチル−2−ブテン−1−イリデン)(トリシクロペンチルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−オクタヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン[1,3−ジ(1−フェニルエチル)−4−イミダゾリン−2−イリデン](トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−2,3−ジヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(トリシクロヘキシルホスフィン)(1,3,4−トリフェニル−2,3,4,5−テトラヒドロ−1H−1,2,4−トリアゾール−5−イリデン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジイソプロピルヘキサヒドロピリミジン−2−イリデン)(エトキシメチレン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)ピリジンルテニウムジクロリドなどの、配位子として、ヘテロ環構造を有するカルベン化合物と、その他の中性電子供与体とを有するルテニウムカルベン錯体が挙げられる。ここで「中性電子供与体」とは、中心金属原子から引き離されたときに中性の電荷を持つ配位子をいう。
【0023】
前記メタセシス重合触媒は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。メタセシス重合触媒の使用量は、モル比(メタセシス重合触媒中の金属原子:シクロオレフィンモノマー)で、通常、1:2,000〜1:2,000,000、好ましくは1:5,000〜1:1,000,000、より好ましくは1:10,000〜1:500,000の範囲である。
【0024】
メタセシス重合触媒は所望により、少量の不活性溶媒に溶解又は懸濁して使用することができる。かかる溶媒としては、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、流動パラフィン、ミネラルスピリットなどの鎖状脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジエチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、ジシクロヘプタン、トリシクロデカン、ヘキサヒドロインデン、シクロオクタンなどの脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;インデン、テトラヒドロナフタレンなどの脂環と芳香環とを有する炭化水素;ニトロメタン、ニトロベンゼン、アセトニトリルなどの含窒素炭化水素;ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどの含酸素炭化水素;などが挙げられる。これらの中では、鎖状脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素、及び脂環と芳香環とを有する炭化水素の使用が好ましい。
【0025】
(架橋剤)
本発明で使用される架橋剤は、本発明の重合性組成物を重合反応に供して得られる重合体において架橋反応を誘起する目的で使用される。従って、該重合体は、後架橋可能な熱可塑性樹脂となる。本発明において架橋剤としては、通常、ラジカル発生剤が好適に用いられる。ラジカル発生剤としては、例えば、有機過酸化物、ジアゾ化合物、及び非極性ラジカル発生剤などが挙げられ、好ましくは有機過酸化物、及び非極性ラジカル発生剤である。
【0026】
有機過酸化物としては、例えば、t−ブチルヒドロペルオキシド、p−メンタンヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシドなどのヒドロペルオキシド類;ジクミルペルオキシド、t−ブチルクミルペルオキシド、α,α’−ビス(t−ブチルペルオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、ジ−t−ブチルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)−3−ヘキシン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサンなどのジアルキルペルオキシド類;ジプロピオニルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシドなどのジアシルペルオキシド類;2,2−ジ(t−ブチルペルオキシ)ブタン、1,1−ジ(t−ヘキシルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)−2−メチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサンなどのペルオキシケタール類;t−ブチルペルオキシアセテート、t−ブチルペルオキシベンゾエートなどのペルオキシエステル類;t−ブチルペルオキシイソプロピルカルボナート、ジ(イソプロピルペルオキシ)ジカルボナートなどのペルオキシカルボナート類;t−ブチルトリメチルシリルペルオキシドなどのアルキルシリルペルオキシド類;3,3,5,7,7−ペンタメチル−1,2,4−トリオキセパン、3,6,9−トリエチル−3,6,9−トリメチル−1,4,7−トリパーオキソナン、3,6−ジエチル−3,6−ジメチル−1,2,4,5−テトロキサンなどの環状パーオキサイド類;が挙げられる。中でも、重合反応に対する障害が少ない点で、ジアルキルペルオキシド類、ペルオキシケタール類、及び環状パーオキサイド類が好ましい。
【0027】
ジアゾ化合物としては、例えば、4,4’−ビスアジドベンザル(4−メチル)シクロヘキサノン、2,6−ビス(4’−アジドベンザル)シクロヘキサノンなどが挙げられる。
【0028】
非極性ラジカル発生剤としては、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン、3,4−ジメチル−3,4−ジフェニルヘキサン、1,1,2−トリフェニルエタン、1,1,1−トリフェニル−2−フェニルエタンなどが挙げられる。
【0029】
ラジカル発生剤を架橋剤として使用する場合、1分間半減期温度は、硬化(本発明の重合性組成物を重合反応に供して得られる重合体の架橋)の条件により適宜選択されるが、通常、100〜300℃、好ましくは150〜250℃、より好ましくは160〜230℃の範囲である。ここで1分間半減期温度は、ラジカル発生剤の半量が1分間で分解する温度である。ラジカル発生剤の1分間半減期温度は、例えば、各ラジカル発生剤メーカー(例えば、日本油脂株式会社)のカタログやホームページを参照すればよい。
【0030】
前記ラジカル発生剤は、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。本発明の重合性組成物へのラジカル発生剤の配合量としては、配合するシクロオレフィンモノマー100重量部に対して、通常、0.01〜10重量部、好ましくは0.1〜10重量部、より好ましくは0.5〜5重量部の範囲である。
【0031】
(架橋助剤)
本発明に使用される架橋助剤は、得られる積層体の耐熱性や耐クラック性を向上する目的で使用される。架橋助剤としては、特に限定されるものではないが、通常、開環重合に関与せず、架橋剤により誘起される架橋反応に関与可能な架橋性の炭素−炭素不飽和結合を2以上有する多官能性の架橋助剤が好適に用いられる。かかる架橋性の炭素−炭素不飽和結合は、架橋助剤を構成する化合物中、例えば、末端ビニリデン基として、特に、イソプロペニル基やメタクリル基として存在するのが好ましく、メタクリル基として存在するのがより好ましい。
【0032】
架橋助剤の具体例としては、p−ジイソプロペニルベンゼン、m−ジイソプロペニルベンゼン、o−ジイソプロペニルベンゼンなどの、イソプロペニル基を2以上有する多官能性架橋助剤;エチレンジメタクリレート、1,3−ブチレンジメタクリレート、1,4−ブチレンジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、2,2’−ビス(4−メタクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、トリメチロ−ルプロパントリメタクリレート、ペンタエリトリトールトリメタクリレートなどの、メタクリル基を2以上有する多官能性架橋助剤などを挙げることができる。中でも、架橋助剤としては、メタクリル基を2以上有する多官能性架橋助剤が好ましい。メタクリル基を2以上有する多官能性架橋助剤の中では、特に、トリメチロ−ルプロパントリメタクリレート、ペンタエリトリトールトリメタクリレートなどの、メタクリル基を3つ有する多官能性架橋助剤がより好適である。
【0033】
前記架橋助剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。本発明の重合性組成物への架橋助剤の配合量としては、配合するシクロオレフィンモノマー100重量部に対して、通常、0.1〜100重量部、好ましくは0.5〜50重量部、より好ましくは1〜30重量部である。
【0034】
(高誘電フィラー)
本発明においては、ジルコン酸化物とチタン酸化物との組み合わせからなる高誘電フィラーが用いられる。本発明の重合性組成物に、かかる高誘電フィラーを配合することで、得られる積層体は、高比誘電率かつ低誘電正接であり、比誘電率の温度変化が小さいという優れた誘電特性を発現する。また、本発明の重合性組成物は、従来、プリプレグや積層体の製造に用いられている、エポキシ樹脂等を溶媒に溶かしてなる重合体ワニスと比べて低粘度であるため、容易に高誘電フィラーを高配合することができる。よって、得られるプリプレグ又は積層体中には、高誘電フィラーが、従来のプリプレグ又は積層体の限界含有量を超えて含まれ得る。従って、本発明の積層体の前記誘電特性は、従来の積層体と比べて、格別顕著に優れたものとなる。
【0035】
前記ジルコン酸化物としては、1GHzにて20℃の条件で測定した時、その比誘電率が、通常、5以上、好ましくは10以上、より好ましくは15以上であり、かつ2GHzにて−30〜100℃の温度範囲において求めた比誘電率の温度変化率(TCK)が正であるものが好ましい。また、前記チタン酸化物としては、1GHzにて20℃の条件で測定した時、その誘電率が、通常、5以上、好ましくは10以上、より好ましくは15以上であり、かつ2GHzにて−30〜100℃の温度範囲において求めた比誘電率の温度変化率が負であるものが好ましい。
なお、フィラーの比誘電率は、ネットワークアナライザーを用いて空洞共振器法により誘電率を測定し、該誘電率を比誘電率に変換して求めることができる。一方、フィラーの比誘電率の温度変化率は、空洞共振器をオーブンに導入して所定の温度範囲にて誘電率を測定し、該誘電率を比誘電率に変換し、温度変化に対する比誘電率変化の割合として求めることができる。本明細書において、比誘電率の温度変化率が正の値となる場合を、比誘電率の温度変化率が正と、比誘電率の温度変化率が負の値となる場合を、比誘電率の温度変化率が負と、それぞれいう。
【0036】
ジルコン酸化物の好ましい具体例としては、ジルコン酸カルシウム、ジルコン酸ストロンチウム、ジルコン酸鉛、ジルコニアなどを挙げることができる。これらのジルコン酸化物は、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。ジルコン酸化物は、難燃効果を発揮する場合、難燃剤としての機能を兼ねてもよい。本発明の重合性組成物への配合量は、所望により適宜選択すればよいが、シクロオレフィンモノマー100重量部に対して、通常、10〜300重量部、好ましくは20〜200重量部、より好ましくは30〜150重量部の範囲である。
【0037】
チタン酸化物の好ましい具体例としては、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸コバルト、チタン酸亜鉛、チタニアなどを挙げることができる。これらのチタン酸化物は、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。チタン酸化物は、難燃効果を発揮する場合、難燃剤としての機能を兼ねてもよい。本発明の重合性組成物への配合量は、所望により適宜選択すればよいが、シクロオレフィンモノマー100重量部に対して、通常、10〜300重量部、好ましくは20〜200重量部、より好ましくは30〜150重量部の範囲である。
【0038】
本発明の重合性組成物中でのジルコン酸化物とチタン酸化物との配合割合は、得られる積層体の比誘電率の温度変化が最低になるように適宜選択すればよいが、重量比(ジルコン酸化物/チタン酸化物)で、通常、5/95〜95/5、好ましくは10/90〜90/10、より好ましくは20/80〜80/20の範囲である。
また、ジルコン酸化物とチタン酸化物との合計配合量は、所望により適宜選択すればよいが、シクロオレフィンモノマー100重量部に対して、通常、20〜600重量部、好ましくは40〜400重量部、より好ましくは60〜300重量部の範囲である。
本発明の重合性組成物には、本発明の所望の効果の発現が阻害されない範囲であれば、本発明に用いる高誘電フィラー以外の無機充填剤を配合可能である。
【0039】
(重合性組成物)
本発明の重合性組成物には、上記する、シクロオレフィンモノマー、重合触媒、架橋剤、架橋助剤、及び無機充填剤を必須成分として、所望により、非ハロゲン系難燃剤、重合調整剤、重合反応遅延剤、連鎖移動剤、反応性流動化剤、老化防止剤及びその他の配合剤を添加することができる。
【0040】
本発明においては、プリプレグや積層体が民生用途の場合は、重合性組成物に非ハロゲン系難燃剤を配合することが好ましい。非ハロゲン難燃剤としては、工業的に用いられるものであれば格別な限定なく用いることができる。例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物系難燃剤;酸化マグネシウム、酸化アルミニウム等の金属酸化物系難燃剤;ジメチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸アルミニウムなどのホスフィン酸塩;トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、レゾルシノールビス(ジフェニル)ホスフェート、ビスフェノールAビス(ジフェニル)ホスフェート、ビスフェノールAビス(ジクレジル)ホスフェートなどの、ホスフィン酸塩以外の燐系難燃剤;メラミン誘導体類、グアニジン類、イソシアヌル類等の窒素系難燃剤;ポリ燐酸アンモニウム、燐酸メラミン、ポリ燐酸メラミン、ポリ燐酸メラム、燐酸グアニジン、フォスファゼン類等の燐及び窒素の双方を含有する難燃剤;などを挙げることができる。
これらの非ハロゲン系難燃剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。非ハロゲン系難燃剤の配合量は、本発明の効果を損ねない範囲で適宜選択されるが、シクロオレフィンモノマー100重量部に対して、通常、20〜400重量部、好ましくは30〜300部、より好ましくは50〜250重量部の範囲である。
【0041】
重合調整剤は、重合活性を制御したり、重合反応率を向上させたりする目的で配合されるものであり、例えば、トリアルコキシアルミニウム、トリフェノキシアルミニウム、ジアルコキシアルキルアルミニウム、アルコキシジアルキルアルミニウム、トリアルキルアルミニウム、ジアルコキシアルミニウムクロリド、アルコキシアルキルアルミニウムクロリド、ジアルキルアルミニウムクロリド、トリアルコキシスカンジウム、テトラアルコキシチタン、テトラアルコキシスズ、テトラアルコキシジルコニウムなどが挙げられる。これらの重合調整剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。重合調整剤の配合量は、例えば、モル比(メタセシス重合触媒中の金属原子:重合調整剤)で、通常、1:0.05〜1:100、好ましくは1:0.2〜1:20、より好ましくは1:0.5〜1:10の範囲である。
【0042】
重合反応遅延剤は、本発明の重合性組成物の粘度増加を抑制し得るものである。従って、重合反応遅延剤を配合してなる重合性組成物は、プリプレグを作製する際、容易に強化繊維に均一に含浸させることができ、好ましい。重合反応遅延剤としては、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、ジシクロヘキシルホスフィン、ビニルジフェニルホスフィン、アリルジフェニルホスフィン、トリアリルホスフィン、スチリルジフェニルホスフィンなどのホスフィン化合物;アニリン、ピリジンなどのルイス塩基;等を用いることができる。その配合量は、所望により適宜調整すればよい。
【0043】
本発明においては、連鎖移動剤を配合することにより配線埋め込み性、機械強度、耐熱性及び冷熱衝撃試験での耐クラック性を高度にバランスさせることができ好適である。また、得られる重合体を高粘度でありながら、流動性に優れたものとすることができ、当該重合体を含んでなる、後述のプリプレグは、例えば、他の材料と積層する際、溶融積層が可能となる。
連鎖移動剤としては、開環重合に関与でき、本発明の重合性組成物を重合反応に供して得られる重合体の末端に結合可能な脂肪族炭素−炭素二重結合を1つ有する化合物が好ましい。当該二重結合の例としては、末端ビニル基が挙げられる。連鎖移動剤は、架橋性の炭素−炭素不飽和結合を1以上有していてもよい。
【0044】
かかる連鎖移動剤の具体例としては、1−ヘキセン、2−ヘキセン、スチレン、ビニルシクロヘキサン、アリルアミン、アクリル酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル、エチルビニルエーテル、メチルビニルケトン、2−(ジエチルアミノ)エチルアクリレート、4−ビニルアニリンなどの、架橋性の炭素−炭素不飽和結合を持たない連鎖移動剤;ジビニルベンゼン、メタクリル酸ビニル、メタクリル酸アリル、メタクリル酸スチリル、アクリル酸アリル、メタクリル酸ウンデセニル、アクリル酸スチリル、エチレングリコールジアクリレートなどの、架橋性の炭素−炭素不飽和結合を1つ有する連鎖移動剤;アリルトリビニルシラン、アリルメチルジビニルシランなどの、架橋性の炭素−炭素不飽和結合を2以上有する連鎖移動剤などが挙げられる。これらの中でも、得られる積層体において、誘電特性、配線埋め込み性、耐熱性、及び耐クラック性の各特性を高度にバランスさせる観点から、架橋性の炭素−炭素不飽和結合を1以上有するものが好ましく、架橋性の炭素−炭素不飽和結合を1つ有するものがより好ましい。かかる連鎖移動剤の中でも、ビニル基とメタクリル基とを1つずつ有する連鎖移動剤が好ましく、メタクリル酸ビニル、メタクリル酸アリル、メタクリル酸スチリル、メタクリル酸ウンデセニルなどが特に好ましい。
これらの連鎖移動剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。本発明の重合性組成物への連鎖移動剤の配合量としては、配合するシクロオレフィンモノマー100重量部に対して、通常、0.01〜10重量部、好ましくは0.1〜5重量部である。
【0045】
前記の通り、本発明の重合性組成物を重合反応に供して得られる重合体は、後架橋可能な熱可塑性樹脂となる。本発明において反応性流動化剤として使用される化合物は、かかる重合体中において、流動化剤として重合体のガラス転移温度(Tg)を低下させ、かつ架橋剤により架橋反応が誘起された後においては当該反応に関与して重合体に結合する反応性を有する化合物が好ましい。例えば、反応性流動化剤を含む前記重合体を後述のプリプレグの基材として用いた場合、当該プリプレグを金属材料層などと積層する際、プリプレグを加熱することで容易に溶融積層することができ、しかも得られる積層体においては充分な層間密着性が得られる。さらに、反応性流動化剤は、積層する際の加熱で架橋剤により誘起される架橋反応に関与して重合体に結合し得るため、当該加熱以後は、重合体中で実質的に遊離の状態で存在することはなく、従って、いわゆる可塑剤のように、得られる積層体の耐熱性を低下させる因子となることもない。むしろ、得られる積層体において耐熱性や耐クラック性を高める効果を奏し得る。
【0046】
本発明に使用される反応性流動化剤は、シクロオレフィン構造中の重合性の脂肪族炭素−炭素二重結合や、ビニル基などの、開環重合反応に関与し得る脂肪族炭素−炭素不飽和結合を持たず、かつ架橋剤により誘起される架橋反応に関与して重合体に結合し得る脂肪族炭素−炭素不飽和結合や有機基を1つ有する、単官能性の化合物、中でも、重合性の脂肪族炭素−炭素不飽和結合を持たず、かつ架橋性の脂肪族炭素−炭素不飽和結合を1つ有する単官能性化合物が好ましい。架橋剤により誘起される架橋反応に関与して重合体に結合し得る、架橋性の脂肪族炭素−炭素不飽和結合としては、反応性流動化剤を構成する化合物中、例えば、末端ビニリデン基として、特に、イソプロペニル基やメタクリル基として存在するのが好ましく、メタクリル基として存在するのがより好ましい。また、前記有機基としては、エポキシ基、イソシアネート基、スルホ基などが挙げられる。
【0047】
かかる反応性流動化剤としては、例えば、ラウリルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、メトキシジエチレングリコールメタクリレートなどの、メタクリル基を1つ有する単官能性化合物;イソプロペニルベンゼンなどの、イソプロペニル基を1つ有する単官能性化合物;などが挙げられ、好ましくはメタクリル基を1つ有する単官能性化合物である。これらの反応性流動化剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。反応性流動化剤の配合量は、所望により適宜選択すればよいが、配合するシクロオレフィンモノマー100重量部に対し、通常、0.1〜100重量部、好ましくは0.5〜50重量部、より好ましくは1〜30重量部である。
【0048】
また、老化防止剤として、フェノール系老化防止剤、アミン系老化防止剤、リン系老化防止剤及びイオウ系老化防止剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の老化防止剤を配合することは、架橋反応を阻害しないで、得られる積層体の耐熱性を高度に向上させることができ、好適である。これらの中でも、フェノール系老化防止剤とアミン系老化防止剤が好ましく、フェノール系老化防止剤がより好ましい。これらの老化防止剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。老化防止剤の使用量は、所望により適宜選択されるが、配合するシクロオレフィンモノマー100重量部に対して、通常、0.0001〜10重量部、好ましくは0.001〜5重量部、より好ましくは0.01〜2重量部の範囲である。
【0049】
本発明の重合性組成物には、その他の配合剤を配合することができる。その他の配合剤としては、着色剤、光安定剤、顔料、発泡剤などを用いることができる。着色剤としては、染料、顔料などが用いられる。染料の種類は多様であり、公知のものを適宜選択して使用すればよい。これらのその他の配合剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができ、その使用量は、本発明の効果を損ねない範囲で適宜選択される。
【0050】
本発明の重合性組成物は、上記成分を混合して得ることができる。混合方法としては、常法に従えばよく、例えば、重合触媒を適当な溶媒に溶解若しくは分散させた液(触媒液)を調製し、別にシクロオレフィンモノマーや架橋剤などの必須成分、及び所望によりその他の配合剤を配合した液(モノマー液)を調製し、該モノマー液に該触媒液を添加し、攪拌することによって調製することができる。
【0051】
(強化繊維)
本発明に使用される強化繊維としては、格別な制限はないが、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)繊維、アラミド繊維、超高分子ポリエチレン繊維、ポリアミド(ナイロン)繊維、液晶ポリエステル繊維などの有機繊維;ガラス繊維、炭素繊維、アルミナ繊維、タングステン繊維、モリブデン繊維、ブデン繊維、チタン繊維、スチール繊維、ボロン繊維、シリコンカーバイド繊維、シリカ繊維などの無機繊維;などを挙げることができる。これらの中でも、有機繊維やガラス繊維が好ましく、特にアラミド繊維、液晶ポリエステル繊維、ガラス繊維が好ましい。ガラス繊維としては、Eガラス、NEガラス、Sガラス、Dガラス、Hガラス等の繊維を好適に用いることができる。
これらの強化繊維は、それぞれ単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができ、その使用量は、所望により適宜選択されるが、プリプレグあるいは積層体中の、通常、10〜90重量%、好ましくは20〜80重量%、より好ましくは30〜70重量%の範囲であり、この範囲にあれば、得られる積層体の誘電特性と機械強度が高度にバランスされ、好適である。
【0052】
(プリプレグ)
本発明のプリプレグは、前記重合性組成物を前記強化繊維に含浸させた後に重合してなるものである。
重合性組成物の強化繊維への含浸は、例えば、重合性組成物の所定量を、スプレーコート法、ディップコート法、ロールコート法、カーテンコート法、ダイコート法、スリットコート法等の公知の方法により強化繊維に塗布し、所望によりその上に保護フィルムを重ね、上側からローラーなどで押圧することにより行うことができる。本発明においては、重合性組成物を強化繊維に含浸させた後、含浸物を所定温度に加熱することにより、重合性組成物を塊状重合させることができ、それによってシート状又はフィルム状のプリプレグが得られる。
含浸を型内で行う場合は、型内に強化繊維を設置し、該型内に重合性組成物を注ぎ込んで行う。この方法によれば、任意の形状のプリプレグを得ることができる。その形状としては、シート状、フィルム状、柱状、円柱状、多角柱状等が挙げられる。ここで用いる型としては、従来公知の成形型、例えば、割型構造すなわちコア型とキャビティー型を有する成形型を用いることができ、それらの空隙部(キャビティー)に重合性組成物を注入して塊状重合させる。コア型とキャビティー型は、目的とするプリプレグの形状にあった空隙部を形成するように作製される。また、成形型の形状、材質、大きさなどは特に制限されない。また、ガラス板や金属板などの板状成形型と所定の厚さのスペーサーとを用意し、スペーサーを2枚の板状成形型で挟んで形成される空間内に重合性組成物を注入し、該型内で硬化を行うことにより、シート状又はフィルム状のプリプレグを得ることができる。
【0053】
本発明の重合性組成物は従来のエポキシ樹脂の重合体ワニス等と比較して低粘度であり、強化繊維に対する含浸性に優れるので、重合で得られる樹脂を強化繊維基材に均一に含浸させることができる。前記樹脂を構成する重合体は、実質的に架橋構造を有さず、例えば、トルエンに可溶である。当該重合体の分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(溶離液:テトラヒドロフラン)で測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量で、通常、1,000〜1,000,000、好ましくは5,000〜500,000、より好ましくは10,000〜100,000の範囲である。
【0054】
本発明の重合性組成物は、通常、メタセシス重合触媒を含んでなるが、上記いずれの方法においても、重合性組成物を重合させるための加熱温度は、通常、50〜250℃、好ましくは80〜200℃、より好ましくは90〜150℃の範囲であって、かつ架橋剤、通常、ラジカル発生剤の1分間半減期温度以下、好ましくは10℃以下、より好ましくは20℃以下である。また、重合時間は適宜選択すればよいが、通常、10秒間から60分間、好ましくは20分間以内である。重合性組成物をかかる条件で加熱することにより未反応モノマーの少ないプリプレグが得られるので好適である。
【0055】
本発明のプリプレグの厚みは、使用目的に応じて適宜選択されるが、通常、0.001〜10mm、好ましくは0.005〜1mm、より好ましくは0.01〜0.5mmの範囲である。この範囲にあれば、積層時の賦形性、また、硬化して得られる積層体の機械強度や靭性の特性が充分に発揮され好適である。
【0056】
本発明のプリプレグの揮発成分量は、200℃で1時間加熱したときに揮発する量で、通常、30重量%以下、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下、もっとも好ましくは1重量%以下である。プリプレグの揮発成分量が過度に多いと、プリプレグのベタつきが発生し操作性及び保存安定性が不良化する傾向がある。
【0057】
(積層体)
本発明の積層体は、本発明のプリプレグと、当該プリプレグ及び/又は当該プリプレグ以外の他の材料とを積層し、所望により更に賦形した後に、硬化することで製造することができる。
積層してもよい他の材料としては、使用目的に応じて適宜選択されるが、例えば、熱可塑性樹脂材料、金属材料などが挙げられ、特に金属材料が好適に用いられる。金属材料としては、回路基板で一般に用いられるものを格別な制限なく用いることができ、通常、金属箔、好ましくは銅箔が用いられる。金属材料の厚みは、使用目的に応じて適宜選択されるが、通常、0.5〜50μm、好ましくは1〜30μm、より好ましくは3〜20μm、最も好ましくは3〜15μmの範囲である。また、金属材料は、その表面が、シランカップリング剤、チオール系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、各種接着剤などで処理されているものが好ましい。中でもシランカップリング剤で処理されているものがより好ましい。
本発明のプリプレグと、金属材料との接着界面における、金属材料からなる層表面の粗度(Rz)は、特に限定されないが、通常10μm以下、好ましくは5μm以下、より好ましくは3μm以下、さらに好ましくは2μm以下である。一方、粗度の下限は、格別な限定はないが、通常10nm以上、好ましくは5nm以上、より好ましくは1nm以上である。金属材料からなる層表面の粗度が上記範囲にあれば、高周波伝送に於けるノイズ、遅延、伝送損失等の発生が抑えられ好ましい。金属材料からなる層表面の粗度の調整は、積層する金属材料表面の粗度が所望の範囲にあるものを選択して使用することにより容易に行うことができる。かかる表面粗度を有する金属材料は市販品として入手可能である。なお、粗度(Rz)は、AFM(原子間力顕微鏡)により即手可能である。
【0058】
積層及び硬化させる方法は、常法に従えばよい。例えば、平板成形用のプレス枠型を有する公知のプレス機、シートモールドコンパウンド(SMC)やバルクモールドコンパウンド(BMC)などのプレス成形機を用いて熱プレスを行なうことができる。加熱温度は、架橋剤により架橋反応が誘起される温度以上である。例えば、架橋剤としてラジカル発生剤を使用する場合、通常、1分間半減期温度以上、好ましくは1分間半減期温度より5℃以上高い温度、より好ましくは1分間半減期温度より10℃以上高い温度である。典型的には、100〜300℃、好ましくは150〜250℃の範囲である。加熱時間は、0.1〜180分、好ましくは1〜120分、より好ましくは2〜60分の範囲である。プレス圧力としては、通常、0.1〜20MPa、好ましくは0.1〜10MPa、より好ましくは1〜5MPaである。また、熱プレスは、真空又は減圧雰囲気下で行ってもよい。
【0059】
かくして得られる本発明の積層体は、高比誘電率かつ低誘電正接であり、比誘電率の温度変化が小さいという優れた誘電特性を有する。本発明の積層体の1GHzで20℃の条件での比誘電率としては、好ましくは5以上、より好ましくは7以上、1GHzで20℃の条件での誘電正接としては、通常、0.008以下、好ましくは0.005以下、より好ましくは0.003以下、2GHzで−30〜100℃の範囲で温度変化する条件での比誘電率の温度変化率としては、絶対値で、好ましくは200ppm/℃以下、より好ましくは100ppm/℃以下である。これらの特性値は、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。また、本発明の積層体は、耐熱性及び冷熱衝撃試験での耐クラック性等の特性にも優れる。
【0060】
(誘電体デバイス)
本発明の積層体は、例えば、マイクロ波の周波数での使用に対応した回路基板、キャパシタ(C)、インダクタ(L)、LCフィルタ、ストリップライン共振フィルタ、誘電体アンテナ、埋設デバイス、マルチチップモジュール、及び高周波モジュール等の誘電体デバイスの製造に好適に使用することができる。
【0061】
例えば、マイクロ波回路基板としては、高周波での伝送損失が小さいものが好ましい。伝送損失は誘電損失(tanδ)と導体損失(導体の粗度に依存)との和であり、tanδ(1GHzにて20℃で測定)が0.006以下、導体の粗度(Rz)が1μmであるのが好ましい。さらにマイクロ波回路基板を小型化する場合、比誘電率を大きくして波長短縮効果により面積縮小することが好ましい。好ましい比誘電率(1GHzにて20℃で測定)の範囲は、通常、5〜25、好ましくは7〜20である。この範囲であると、小型化しても配線間に寄生容量が生じにくい。
【0062】
キャパシタ(C)としては、容量は回路パターンの設計に依存するが、例えば、面積S=1mm、絶縁体厚みd=50μmで設計した場合、誘電体デバイスとしてのQ値〔Q値=(誘電損失+導体損失)−1〕は、1GHzで20℃の条件で、通常、150以上であり、好ましくは200以上である。これらを構成する材料としては、tanδ(1GHzにて20℃で測定)が0.006以下であるのが好ましい。また、大きな容量を得るためには、比誘電率は高いほうがよく、1GHzで20℃の条件で、通常、5以上、好ましくは7以上、より好ましくは9以上である。
【0063】
インダクタ(L)としては、インダクタンスは回路パターンの設計に依存するが、L/S=80/80の5巻きインダクタを1mm内に作製した場合、誘電体デバイスとしてのQ値は、1GHzで20℃の条件で、通常、35以上であり、好ましくは40以上である。これらを構成する材料としては、tanδ(1GHzにて20℃で測定)が0.006以下であり、Rzが1μm以下であるのが好ましい。
【0064】
低伝送損失であり、高Q値のコンデンサと高Q値のインダクタからなる、非常に高性能なLCフィルターが得られれば、当該フィルターを回路基板内部に埋設することにより、該基板の小型化・高集積化・高感度化・低消費電力化が可能となる。回路基板にそれらのデバイスを埋設する上では、通常、回路基板の比誘電率の温度依存性が小さいことが求められる。比誘電率の温度変化率としては、回路基板使用環境とされる−30℃〜100℃における2GHzでの比誘電率の変化率として、通常、絶対値で、200ppm/℃以下、好ましくは100ppm/℃以下、より好ましくは50ppm/℃以下である。さらにパワーアンプや半導体チップを前記回路基板に実装することで、高集積・小型・高感度・低消費電力を可能にする、これまでにない高周波モジュールを作製することができる。本発明の積層体は、これらの誘電体デバイスの製造に好適に用いることができる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例における部及び%は、特に断りのない限り重量基準である。
【0066】
実施例及び比較例における各特性は、以下の方法に従い測定して評価した。
(1)比誘電率
インピーダンスアナライザー(アジレントテクノロジー社製、型番号E4991A)を用いて周波数1GHzで20℃における誘電率(ε)を容量法で測定し、比誘電率(εr)を算出して以下の基準で評価した。
◎:7以上
○:5以上、7未満
×:5未満
(2)誘電正接
インピーダンスアナライザー(アジレントテクノロジー社製、型番号E4991A)を用いて周波数1GHzで20℃における誘電正接を容量法にて測定し、以下の基準で評価した。
◎:0.003以下
○:0.003超、0.008以下
×:0.008超
(3)比誘電率の温度変化率
2GHzで共振するマイクロストリップライン共振器を設計し作製した。該共振器をネットワークアナライザー(アジレントテクノロジー社製)に接続し、周波数2GHzにおいて−30〜100℃の温度範囲での誘電率(ε)の温度変化を測定した後、真空の誘電率をεとして、
比誘電率の温度変化率=〔(ε−ε)/ε〕/〔100−(−30)〕
の式により、該変化率を求め、以下の基準で評価した。
◎:100ppm/℃以下
○:100ppm/℃超、200ppm/℃以下
×:200ppm/℃超
(4)耐熱性
積層体を20mm角に切断し、試験片を得た。該試験片を260℃の半田浴上に20秒間フローさせた。かかる操作を別々の試験片を用いて3回繰り返し(n=3)、それぞれの試験片表面の膨れを目視により観察し、以下の基準で評価した。
◎:n=3で膨れなし
○:n=2で膨れなし
×:n=2以上で膨れ発生
(5)耐クラック性
積層体サンプルについて、−65〜150℃の温度範囲で所定回数の冷熱衝撃試験を行った後に外観観察を行い、以下の基準に従って評価した。なお、冷熱衝撃試験は、冷熱衝撃試験装置(エスペック社製、型番TSA−71H−W)により行った。
◎:500サイクル終了後のサンプルで、クラックの発生が確認されない
○:300サイクル終了後のサンプルで、クラックの発生が確認されない
×:300サイクル終了後のサンプルで、クラックの発生が確認される
【0067】
実施例1
ベンジリデン(1,3−ジメシチル−4−イミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド51部と、トリフェニルホスフィン79部とを、トルエン952部に溶解させて触媒液を調製した。これとは別に、シクロオレフィンモノマーとしてテトラシクロドデセン100部、連鎖移動剤としてジビニルベンゼン0.74部、架橋剤として3,3,5,7,7−ペンタメチル−1,2,4−トリオキセパン(1分間半減期温度205℃)2部、反応性流動化剤としてベンジルメタクリレート15部、多官能性架橋助剤としてトリメチロールプロパントリメタクリレート20部、ジルコン酸化物100部、チタン酸化物180部、及びフェノール系老化防止剤として3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシアニソール1部を混合してモノマー液を調製した。ここに上記触媒液をシクロオレフィンモノマー100gあたり0.12mLの割合で加えて撹拌し、重合性組成物を調製した。
【0068】
ついで、得られた重合性組成物をガラスクロス(Eガラス)に含浸させ、これを120℃にて5分間で重合反応を行い、厚さ0.15mmのプリプレグを得た。プリプレグの揮発成分量は0.7%であった、また、プリプレグのガラスクロス含有量は40%であった。
【0069】
次に、作製したプリプレグシート6枚を重ね、さらに12μmF2銅箔(シランカップリング剤処理電解銅箔、粗度Rz=1.600nm、古河サーキットホイル社製)で、積層したプリプレグシートを挟み、205℃で20分間、3MPaにて加熱プレスを行い積層体を得た。得られた積層体の比誘電率、誘電正接、比誘電率の温度変化率、耐熱性及び耐クラック性を評価した。その結果を表1に示す。
【0070】
実施例2
シクロオレフィンモノマーをテトラシクロドデセン80部とジシクロペンタジエン20部とした以外は実施例1と同様にしてプリプレグ及び積層体を得、各特性を評価した。その結果を表1に示す。
【0071】
実施例3
連鎖移動剤をアリルメタクリレートとした以外は実施例1と同様にしてプリプレグ及び積層体を得、各特性を評価した。その結果を表1に示す。
【0072】
比較例1
ベンジルメタクリレートとトリメチロールプロパントリメタクリレートを用いない以外は実施例1と同様にしてプリプレグ及び積層体を得、各特性を評価した。その結果を表1に示す
【0073】
比較例2
テフロン(登録商標)(ポリテトラフルオロエチレン)に、実施例1で得られたプリプレグに配合したのと同じ無機充填剤を、該プリプレグの場合と同量配合し、厚さ0.15mmのシートを得、実施例1と同様にして積層体を作製して各特性を評価した。その結果を表1に示す。
【0074】
【表1】

【0075】
表1より、実施例1〜3で得られた積層体は評価した各特性のいずれもが概してバランス良く優れることが分かる。これに対し、架橋助剤を含まない重合性組成物を用いて得られた比較例1の積層体は耐熱性及び耐クラック性に劣り、樹脂層の基材樹脂をテフロンとして得られた比較例2の積層体は比誘電率の温度変化が大きく、耐熱性及び耐クラック性に劣ることが分かる。
【0076】
実施例4
実施例1で作製した積層体に対し、コンデンサとインダクタ、マイクロストリップラインを形成し、プリント基板製造分野における常法に従って誘電体デバイスを作製する。得られる誘電体デバイスは、前記(誘電体デバイス)の項で述べた所望の特性を満たし得る。
なお、従来のガラスエポキシ基板やBTレジン基板を用いて同様の誘電体デバイスを作製したところ、かかる所望の特性を満たさないことを確認した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロオレフィンモノマー、重合触媒、架橋剤、架橋助剤、及びジルコン酸化物とチタン酸化物との組み合わせからなる高誘電フィラーを含有してなる重合性組成物。
【請求項2】
連鎖移動剤をさらに含むものである請求項1記載の重合性組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の重合性組成物を強化繊維に含浸させた後に重合してなるプリプレグ。
【請求項4】
請求項3に記載のプリプレグと、当該プリプレグおよび/または他の材料とを積層した後、硬化してなる積層体。
【請求項5】
比誘電率の温度変化率が200ppm/℃以下である請求項4記載の積層体。
【請求項6】
請求項4または5に記載の積層体を用いてなる誘電体デバイス。

【公開番号】特開2010−100683(P2010−100683A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−271432(P2008−271432)
【出願日】平成20年10月21日(2008.10.21)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】