説明

高誘電性複合成形体

【課題】 成形性、加工性、寸法安定性、耐熱性に優れ、かつ高い誘電率と低い誘電正接を併せ持つ高誘電性複合成形体を提供すること。本発明の高誘電性複合成形体は特にアンテナまたはキャパシタの材料として最適である。
【解決手段】 樹脂と高誘電性充填剤とを含む高誘電性複合成形体において、前記樹脂が下記式(1)で表されるベンゾオキサジン樹脂であることを特徴とする高誘電性複合成形体である。


式中、Rは炭素原子数2以上の2価の置換基であり、べンゼン環の水素はアルキル基又はアルコキシ基で置換されていてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高誘電性複合成形体に関する。さらに詳しくは、特に成形性、加工性、寸法安定性、耐熱性に優れ、かつ高い誘電率と低い誘電正接を併せ持つ高誘電性複合成形体に関する。本発明の高誘電性複合成形体は、アンテナまたはキャパシタの材料として最適である。
【背景技術】
【0002】
近年、移動体における通信システム、例えば携帯電話システム、無線LAN(Local Area Network)システム、GPS(Global Positioning System)、ETC(Electronic Toll Collection System)等の高周波通信システムの利用が進みつつある。
【0003】
このような通信システムは、機器の小型化が望まれ、電子回路等においては種々の電子回路形成技術により小型化が進められている。
【0004】
一方、アンテナ回路は、誘電体に電極を形成した、方形のいわゆるパッチアンテナが用いられる。このアンテナ回路において、共振周波数fとアンテナに用いられる基板材料の比誘電率ε、電極の辺の長さdには、次のような関係がある。
[数1]
d=c/(2f・ε1/2)
【0005】
ここで、cは光速度である。すなわち、アンテナ電極の大きさは、特定の共振周波数を有するように設計するためには、基板の比誘電率に依存する。このことから、アンテナ回路を小型化するためには、基板の比誘電率を大きくする必要があることが明らかである。さらに、基板の比誘電率を大きくしすぎると帯域幅が狭くなることも知られていることから、基板の比誘電率は、好ましくは5〜15、より好ましくは10前後である。
【0006】
また、材料には固有の誘電正接(tanδ)が存在する。信号の損失は、誘電正接と比誘電率の積に比例して起こることが知られており、特にアンテナ基板のような高誘電率材料においては、誘電正接の低い材料を用いない限り、十分な利得は得られない。
【0007】
また、キャパシタにおいても、誘電率の高さがそのまま容量に比例し、かつ、誘電正接は同様に信号損失につながる。
【0008】
したがって、パッチアンテナまたはキャパシタ用材料には、高い誘電率と低い誘電正接を有する材料が強く求められている。
【0009】
このような高い誘電率と低い誘電正接を併せ持つ材料として、セラミックスの焼結体がある。例えば、代表例としてアルミナ(Al23)においては、比誘電率は10前後でかつ、誘電正接は0.0002〜0.0008程度であり、十分に高い比誘電率と低い誘電正接を併せ持つ。
【0010】
しかしながら、アルミナ等のセラミックス焼結体は高強度材料であるが、反面、きわめて脆く、例えば電極を設置するためのピンをアンテナ基板状に配置するための穿孔の際に、割れや欠けが起こるという問題を有している。
【0011】
また、セラミックスは、焼結の際、収縮が起こり、寸法精度の良い基板を成形することが困難である。そして、設計寸法と製造寸法が異なった場合、好ましい共振帯域からのずれが発生するという問題も有している。
【0012】
これらの問題を克服するため、有機高分子に高誘電性材料(たとえばセラミックス粉体)を複合する方法が検討されている。
例えば、特許文献1〜4には、ポリオレフィン等の熱可塑性樹脂と高誘電性無機物の複合体が開示されている。熱可塑性樹脂のなかでも、ポリオレフィンは誘電正接が比較的低く、高誘電性無機物との組み合わせにより、成形が比較的容易で寸法安定性も良く、加工も容易になる。
【0013】
しかしながら、ポリオレフィン等の熱可塑性樹脂は、通常、200℃以下の溶融点を有するため、電極の導通をとるためにハンダ付け等の工程を要する場合には形状の崩れ等を発生する可能性があり好ましくない。
また、ポリオレフィンを用いる場合は、ポリオレフィンと無機物の接着性はあまり良くないため、成形後冷却時に繊膨張係数の違いにより基板中に空孔が発生する可能性がある。空孔が発生した場合、基板の誘電率が小さくなるため、設計誘電率との差異が生じ、好ましい共振帯域からのずれが発生する可能性がある。
【0014】
一方、特許文献5には、熱硬化性樹脂に高誘電性無機物を複合する材料について言及している。熱硬化性樹脂は、熱可塑性樹脂とは異なり、明確な融点を持たないため、ハンダ付けが必要な材料としても好適に用いることが出来る。
【0015】
しかしながら、例えばエポキシ樹脂の誘電正接が0.01以上であるように、熱硬化性樹脂は誘電正接が高い場合が多く、その結果、信号損失が大きくなると言う欠点がある。
また、十分に誘電率を上げるために、熱硬化性樹脂に高誘電性無機物を多量に配合すると、複合体が脆くなり、加工性が低下するという問題もある。
【0016】
また、特許文献6には、液晶ポリマーと高誘電性無機物との複合が開示されている。しかし、無機物を複合させたことにより液晶ポリマーの性能が低下する可能性がある。
【0017】
これらに対して、熱硬化性樹脂にベンゾオキサジン樹脂を用いる方法がある。ベンゾオキサジンは、例えば下記式(4)で表される構造を有する化合物であり、フェノール類、1級アミン類、アルデヒド類から容易に合成でき、安価かつ大量に入手することが出来る。
【化4】

Rは任意の置換基を示す。
【0018】
しかしながら、ベンゾオキサジン樹脂は一般的にもろく、十分な加工性が得られない場合が多い。
【0019】
これに対して、特許文献7及び8には、あらかじめベンゾオキサジン構造を多官能フェノール中に導入した方法を用いている。この方法は、原料として高分子量化したベンゾオキサジン材料を用いるため、脆さはある程度改良される。一方、水酸基が過剰になる傾向があり、その結果吸水性が高くなって、誘電率が湿度によって変動したり、誘電正接の上昇につながる可能性がある。
【0020】
以上のように、従来の技術では、成形性、寸法安定性、加工性、構造安定性に優れ、かつ、十分に高い誘電率と低い誘電正接を併せ持つ高誘電性成形体を提供することは不可能であった。したがって、高周波通信用アンテナ、基板埋め込み型キャパシタ等を成型するために十分に適した材料は提供できていない状態にあった。
【特許文献1】特開平9−139624号公報
【特許文献2】特開平9−147626号公報
【特許文献3】特開2003−198230号公報
【特許文献4】特開2003−198231号公報
【特許文献5】特開2002−344100号公報
【特許文献6】特開2004−161953号公報
【特許文献7】特開平10−130460号公報
【特許文献8】特開2001−214029号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明の目的は、従来の高誘電性成形体における上記課題を解決し、成形性、寸法安定性、加工性、構造安定性に優れ、かつ、十分に高い誘電率と低い誘電正接を併せ持つ高誘電性成形体を提供することである。
【0022】
本発明者らは、上記課題に鑑み、種々な高誘電性成形体について鋭意研究を重ねた結果、特定構造のベンゾオキサジン樹脂と高誘電性充填剤とを含む複合材料からなる成形体が、成形性、寸法安定性、加工性、構造安定性に優れ、かつ、十分に高い誘電率と低い誘電正接を併せ持つ高誘電性成形体となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0023】
すなわち、本発明は、樹脂と高誘電性充填剤とを含む高誘電性複合成形体において、前記樹脂が下記式(1)で表されるベンゾオキサジン樹脂であることを特徴とする高誘電性複合成形体を提供するものである。
【化5】

式中、Rは炭素原子数2以上の2価の置換基であり、べンゼン環の水素はアルキル基又はアルコキシ基で置換されていてもよい。
【0024】
また、本発明は、前記式(1)中のRが、炭素原子数2以上の直鎖状アルキレン基又はその水素がアルキル置換された分岐状アルキレン基、又は脂環式構造を含むアルキレン基であることを特徴とする上記の高誘電性複合成形体を提供するものである。
【0025】
さらに、本発明は、前記式(1)中のRが、下記式(2)で表されることを特徴とする上記の高誘電性複合成形体を提供するものである。
[化6]
−(CH2)n− (2)
nは2以上30以下の整数を表す。
【0026】
また、本発明は、前記脂環式構造を含むアルキレン基が、縮環型脂環式構造を含むアルキレン基であることを特徴とする上記の高誘電性複合成形体を提供するものである。
【0027】
さらに、本発明は、前記縮環型脂環式構造を含むアルキレン基が、3(4),8(9),−ビス(アミノメチル)トリシクロ[5,2,1,02,6]デカンのアミノ基の残基であることを特徴とする上記の高誘電性複合成形体を提供するものである。
【0028】
さらに、本発明は、前記高誘電性充填剤が、少なくとも下記式(3)で表される無機物を含むことを特徴とする上記の高誘電性複合成形体を提供するものである。
[化7]
MO・TiO2 (3)
Mは、Ba,Sr,Ca,Mg,Co,Pd,Zn,Be,Cd,Ndから選ばれる一種または二種以上の金属原子を示す。
【0029】
また、本発明は、前記高誘電性充填剤が、粒径10nm以上100μm以下の粒子状物であることを特徴とする上記の高誘電性複合成形体を提供するものである。
【0030】
また、本発明は、前記高誘電性複合成形体に含まれるベンゾオキサジン樹脂と高誘電性充填剤との比率が、ベンゾオキサジン樹脂100重量部に対し、高誘電性充填剤が50重量部から500重量部であることを特徴とする上記の高誘電性複合成形体を提供するものである。
【発明の効果】
【0031】
本発明の高誘電性成形体は、成形性、寸法安定性、加工性、構造安定性に優れ、かつ、十分に高い誘電率と低い誘電正接を併せ持つものである。これらの優れた特性によって、成型体の製造が容易であり、さらには製造時に割れや欠損がほとんど見られず、設計通りの周波数特性を示す高誘電性成形体を提供することが出来る。本発明の高誘電性成形体を用いることにより、アンテナ、キャパシタを安価かつ安定した性能で提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明を好適例を用いて以下に詳細に説明する。本発明はこれらに限定されるものではない。
【0033】
1.ベンゾオキサジンの特徴
本発明の高誘電性成形体は、特定のベンゾオキサジン樹脂を用いるものである。本発明に用いるベンゾオキサジン樹脂とは、式(1)に示す特定構造の化合物が開環重合して得られた硬化体を意味する。
【0034】
前述したように、ベンゾオキサジンとは、式(4)で表される基本構造を有するものであり、安価かつ大量に入手することが出来る。
【化8】

Rは任意の置換基を示す。
【0035】
これに対して、本発明で用いるベンゾオキサジンは、式(1)に示す特定構造の化合物である。




【化9】

式中、Rは炭素原子数2以上の2価の置換基であり、べンゼン環の水素はアルキル基又はアルコキシ基で置換されていてもよい。
【0036】
式(1)のベンゾオキサジンは、上記式(4)のベンゾオキサジンと同様、加熱による開環重合によって硬化して、ベンゾオキサジン樹脂となる。この際、ベンゾオキサジン樹脂は置換基Rで橋かけされた硬化体となるため、もろさを改善することが出来る。
【0037】
式(1)において、置換基Rは2価の有機基であれば特に限定はないが、炭素原子数が2以上の構造であることが好ましい。これは、炭素原子数が2未満だともろさの改善が不十分となる可能性があるためである。また、炭素原子数の上限は特にないが、好ましくは50以下、より好ましくは30以下である。これは、炭素原子数が極端に多くなると、加工性向上やもろさの改善はより顕著になるが、耐熱性が期待できなくなるためである。
【0038】
置換基Rの構造は、炭化水素基である。炭化水素基には、ケトン、エーテル、スルホン、スルフィド等の置換基を有していても良い。具体的な構造としては、炭化水素基の場合、炭素原子数2〜30のメチレン鎖及びその分岐構造体、2価の環状シクロアルキル(例えば1,4−シクロヘキシル基、1,3−アダマンチル基、3,9−ジシクロペンタジエン基、3,9−ジメチリデンジシクロペンタジエン基)、2価の芳香族(例えば1,4−フェニル基、4,4'−ビフェニル基、3,9−ナフチル基、ビスフェノールA型構造、ビスフェノールF型構造)等が挙げられる。ケトンを含む場合は、4,4'−ベンゾフェノン基、1,5−ペンタン−3−オン基等、エーテルを含む場合は、4,4'−ジフェニルエーテル基等が挙げられる。スルホン基を含む場合はビスフェノールS型構造等が挙げられる。スルフィドの場合は、4,4'−ジフェニルチオエーテル等が挙げられる。ただし、これらの具体例に限定されるものではなく、炭素原子数2以上の2価の置換基が窒素原子間に存在すれば特に限定されない。さらに、これらの水素の一部が有機基あるいはハロゲンにより置換されていても良く、また、シロキサンを含む構造等も有用である。
【0039】
本発明に好ましい置換基Rの構造は、炭素原子数2以上の直鎖アルキレン基又はその水素がアルキル置換された分岐状アルキレン基、又は脂環式構造を含むアルキレン基である。直鎖及び分枝のアルキレン基は適度なフレキシビリティを有しており、加工性向上、もろさの低減には有効である。分岐構造を入れると耐熱性等が向上するが、分岐構造が極端に多くなると、加工性向上、もろさ低減が阻害される場合があるので、最終物性を見ながら置換基Rを適宜調整しても良い。脂環式構造は直鎖アルキレン基や分岐アルキレン基に比べればもろさ改善の効果は小さいが、一方で電気特性(誘電正接の小ささ)や耐熱性向上が期待できる。
【0040】
加工性向上、もろさ低減の面から考えると、置換基Rの最も好ましい構造は、適度なフレキシビリティを有する式(2)で示されるメチレン鎖である。
[化10]
−(CH2)n− (2)
nは2以上30以下の整数を表す。
【0041】
ここで、nが1の場合は十分な加工性向上、もろさ低減の効果が得られず、一方、31以上のものは十分な耐熱性を得ることが困難である。炭素原子数nの好ましい値としては、2〜30であるが、より好ましくは4〜12、さらに好ましくは6〜10である。
【0042】
一方、加工性の改善効果は小さいが、電気特性(誘電正接の小ささ)と耐熱性を両立できる置換基しては、Rが脂環式構造であることが好ましい。その中でも、縮環構造を有する環状シクロアルカンが上記特性のバランスがよく好適に用いられる。
具体的には、Rが、1,2−ジアミノシクロヘキサン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン、3(4),8(9),−ビス(アミノメチル)トリシクロ[5,2,1,02,6]デカン、1−アミノ−1−メチル−4−(1−アミノ−1−メチルエチル)シクロヘキサン等のアミノ基の残基であることが好ましい。特に好ましくは、3(4),8(9),−ビス(アミノメチル)トリシクロ[5,2,1,02,6]デカンのアミノ基の残基である。
【0043】
これらのベンゾオキサジンは、対応するフェノール系原料、ホルムアルデヒド、ジアミン系原料から合成できる。合成方法は特に限定されない。例えば米国特許第5,543,516号公報等の方法に準じて合成することが出来る。
なお、樹脂成分として、本発明の効果を落とさない範囲で、他の熱可塑性樹脂、例えばスチレン等をブレンドしても良いし、他の熱硬化性樹脂、例えばエポキシ樹脂等をブレンドしても良い。
また、ベンゾオキサジンの硬化の際、触媒を用いても良く、触媒はカルボン酸等のブレンステッド酸、塩化アルミニウム等のルイス酸、更に、助触媒としてフェノール性化合物、アミン系化合物、ベンゾオキサジンオリゴマー等を加えても良い。さらに、硬化剤として、フェノール系化合物、アミン系化合物、酸無水物などを用いることができる。
【0044】
2.高誘電性充填剤の特徴
本発明に用いる高誘電性充填剤は特に限定されないが、誘電率が10以上、特に20以上のものが好ましい。誘電率が10未満であると樹脂との混合により十分な誘電率が発現できない場合がある。上限は特にないが、帯域をある程度確保することを考えると、1000以下のものを好ましく用いることが出来る。また、高誘電性充填剤は固体であることが好ましく、さらに導電性を有しないことが好ましい。
【0045】
具体的には、金属酸化物セラミックス、及びその複合物が好ましく用いられる。金属酸化物としては、アルミナ、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化クロム、酸化ジルコニウム、酸化ニオブ、酸化スズ、酸化アンチモン、酸化鉛、酸化マグネシウム、酸化コバルト、酸化鉄、酸化ビスマス、酸化ベリリウム、酸化銅、酸化クロム、酸化マンガン等が例示されるが、これらに限定されない。
【0046】
また、複合セラミックスとしては、チタン酸バリウムに代表される酸化チタン系複合セラミックスを好ましく用いることが出来る。酸化チタン系複合セラミックスとは、式(3)に示される化合物である。
[化11]
MO・TiO2 (3)
Mは、Ba,Sr,Ca,Mg,Co,Pd,Zn,Be,Cd,Ndから選ばれる一種または二種以上の金属原子を示す。
なお、式(3)にて、Mが2種以上の金属原子の場合とは、具体的には、BaO・SrO・TiO2、BaO・Nd23TiO2などの酸化チタン系複合セラミックスを意味している。
これらの化合物の中でも、チタン酸バリウム(BaTiO3)は、安定的に高い誘電率を示す材料として本発明に特に好ましく用いることが出来る。
【0047】
これらの高誘電性充填剤は、複数を混合して用いても良い。また、必要に応じて、機械物性等の改善の目的で無機または有機の充填剤を用いても良い。
【0048】
本発明に用いる高誘電性充填剤は粒子状であることが好ましい。粒子の形態は特に限定されない。球形、方形等だけではなく、不規則な形状であっても良い。粒径も特に限定されない。粒径が小さければ、ベンゾオキサジン中に均一な分散が行いやすい。一方、一般に粒径が小さいほど誘電率は小さくなる傾向が知られており、十分な誘電率が得られない可能性がある。また、粒径が大きすぎると成形体内での性能不均一の原因になる。したがって、本発明に好ましい粒径は10nm〜100μm、より好ましくは30nm〜1μmである。また、2種類以上の粒子形状、粒径の材料を混合して用いても良い。
また、これら高誘電性充填剤は、あらかじめシランカップリング剤などにより表面処理を行っていても良い。
【0049】
3.高誘電性複合成形体の製造
高誘電性複合成形体は、式(1)で表されるベンゾオキサジンと高誘電性充填剤とをブレンドした後、硬化させたものである。
ベンゾオキサジンと高誘電性充填剤の比率は特に限定されないが、ベンゾオキサジン100重量部に対して高誘電性充填剤が50重量部から500重量部の範囲であることが好ましい。高誘電性充填剤が50重量部未満の場合、十分な誘電率が得られない可能性がある。また、500重量部をこえる場合は、高誘電性充填剤が過剰となり、十分な加工性を得ることが困難となる。実際の高誘電性充填剤の配合量は、最終的に得られる高誘電性複合成形体の誘電率と加工性を鑑みて決定される。
ベンゾオキサジン以外のその他の樹脂成分を含む場合には、ベンゾオキサジンとその他の樹脂成分の合計100重量部に対して、高誘電性充填剤が50重量部から500重量部の範囲であることが好ましい。
【0050】
ブレンドの方法は特に限定されないが、粉体混練、溶融混練、溶媒等を用いた溶解分散等、公知の方法を用いることが出来る。特に、本発明に使用するベンゾオキサジン樹脂は常温(15℃)で固体であり、加熱することにより粘度の低い溶融体となるので、溶融した後、高誘電性充填剤を導入し、ホモジナイザーやボールミルなど、公知の方法で分散させることが出来る。溶媒を用いる際には、ベンゾオキサジン化合物が溶解するものであれば特に限定されないが、トルエン、キシレン等の芳香族溶媒、クロロホルム等のハロゲン系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール系溶媒、アセトン、2−ブタノン等のケトン系溶媒、酢酸エチル、乳酸エチル等のエステル系溶媒、炭酸エチレン、炭酸プロピレン等の炭酸エステル系溶媒、ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素系溶媒など一般的な溶媒を用いることが出来る。
【0051】
高誘電性充填剤を分散させたベンゾオキサジンを含む組成物は、加熱して硬化させることにより高誘電性複合成形体を製造することが出来る。望みの形状に成形する方法は特に限定されない。例えば、金型への注型を行っても良いし、プレス、射出等により成形しても良い。また、半硬化状態にした後、形状を成形し、その後に完全硬化させても良い。
硬化条件は原料の構造や高誘電性充填剤の配合量により異なるため、一概には言えない。代表的な硬化条件としては、120〜220℃の範囲の温度で30分〜5時間である。硬化の際、一旦100〜160℃で半硬化させ、その後完全硬化のため、160〜220℃で硬化させる2段階硬化を行っても良い。
【0052】
本発明の高誘電性複合成形体は、実質的に、式(1)で表されるベンゾオキサジン樹脂と高誘電性充填剤とが複合した成形体である。なお、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、耐候剤、滑剤、相溶化剤、着色剤等が添加されてもよい。
【0053】
以上説明したように、本発明の高誘電性複合成形体を製造することが出来る。本発明の高誘電性複合成形体は、成形性、寸法安定性、加工性、構造安定性に優れ、かつ、十分に高い誘電率と低い誘電正接を併せ持つ材料となる。したがって、特にパッチアンテナまたはキャパシタ用材料として最適である。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例及び比較例に基づき説明する。本発明は、これにより限定されるものではない。なお、実施例や比較例で使用する化合物、溶媒等は、全て市販品を用いた。
【0055】
[評価法]
(1)誘電率及び誘電正接
高誘電性複合成形体を厚み500μmのシート状に成形し、得られたシート状成形体を15mm×15mmに切断し、誘電率測定装置(HEWLETT PAKARD社製、品番「HP4291B」)に供給して23℃で測定し、100MHzにおける誘電率及び誘電正接を読み取った。
(2)加工性
高誘電性複合成形体を厚み500μmのシート状に成形し、得られたシート状成形体をボール盤で3mmの穿孔を行った際の割れ、穿孔部分の欠けを観察し、下記により評価した。
○:割れ又は欠けがない。
×:割れ又は欠けがある。
【0056】
「ベンゾオキサジンの合成」
(1)
1,2−ジアミノエタン1モル、フェノール2モル及びホルムアルデヒド4モルを混合し、100℃に加熱した。混合物が均一な透明な液体になった後、攪拌しながら120℃に昇温し、30分間反応し、一般式(1)におけるRがエチレン基である2官能ベンゾオキサジン(以下、「ベンゾオキサジン化合物(C2)」という)を得た。
(2)
1,6−ジアミノヘキサン1モル、フェノール2モル及びホルムアルデヒド4モルを混合し、100℃に加熱した。混合物が均一な透明な液体になった後、攪拌しながら120℃に昇温し、30分間反応し、一般式(1)におけるRがヘキシレン基である2官能ベンゾオキサジン(以下、「ベンゾオキサジン化合物(C6)」という)を得た。
(3)
3(4),8(9),−ビス(アミノメチル)トリシクロ[5,2,1,02,6]デカン1モル、フェノール2モル及びパラホルムアルデヒド4モル及びクロロホルム1500gを混合し、攪拌下60℃で二時間反応を行った。反応終了後、反応混合物を1規定水酸化ナトリウム水溶液により洗浄し、その後イオン交換水により水洗した。次いで、クロロホルム相を無水硫酸ナトリウムにより乾燥した後、ロータリーエバポレーターによりクロロホルムを留去し、式(1)におけるRが3(4),8(9),−ビス(アミノメチル)トリシクロ[5,2,1,02,6]デカンのアミノ基の残基である2官能ジヒドロベンゾキサジン(以下、「ベンゾオキサジン(TCD)という」)を得た。
【0057】
「高誘電性充填剤」
チタン酸バリウム(和光純薬(株)社製、平均粒径100nm)を用いた。
【0058】
[実施例1]
ベンゾオキサジン化合物(C2)10gに対し、チタン酸バリウム20gを加え、粉体のまま乳鉢で十分に混合した後、133.3Paの減圧下において120℃で加熱し、1時間攪拌し、粘調な組成物を得た。得られた組成物を縦100mm、横20mm、深さ500μmの金型に供給し、140℃で1時間、次に160℃で1時間、最後に180℃で2時間加熱して硬化させ、縦100mm、横20mm、厚さ500μmのシート状成形体を得た。
得られたシート状成形体の誘電率、誘電正接を測定し、加工性評価を行った。
【0059】
[実施例2]
ベンゾオキサジン化合物(C6)10gに対し、チタン酸バリウム20gを加え、粉体のまま乳鉢で十分に混合した後、133.3Paの減圧下において100℃で加熱し、1時間攪拌し、粘調な組成物を得た。得られた組成物を縦100mm、横20mm、深さ500μmの金型に供給し、140℃で1時間、次に160℃で1時間、最後に180℃で2時間加熱して硬化させ、縦100mm、横20mm、厚さ500μmのシート状成形体を得た。
得られたシート状成形体の誘電率、誘電正接を測定し、加工性評価を行った。
[実施例3]
ベンゾオキサジン化合物(TCD)10gに対し、チタン酸バリウム20gを加え、粉体のまま乳鉢で十分に混合した後、133.3Paの減圧下において100℃で加熱し、1時間攪拌し、粘調な組成物を得た。得られた組成物を縦100mm、横20mm、深さ500μmの金型に供給し、140℃で1時間、次に160℃で1時間、最後に180℃で2時間加熱して硬化させ、縦100mm、横20mm、厚さ500μmのシート状成形体を得た。
得られたシート状成形体の誘電率、誘電正接を測定し、加工性評価を行った。
【0060】
[比較例1]
ベンゾオキサジン化合物として、ベンゾオキサジンP−a(四国化成工業株式会社製)を用いたこと以外は実施例1と同様にして成形体を得て、同様の評価を行った。ベンゾオキサジンP−aとは、式(4)においてRがフェニル基となったものである。
【化12】

【0061】
「評価結果」
【表1】

【0062】
実施例1、実施例2、実施例3から明らかなように、本発明の高誘電性複合成形体は、加工性に優れ、かつ、十分に高い誘電率と低い誘電正接を併せ持つ。
誘電率では、アンテナ用途としては誘電率10が好ましいとされている。これに対して、実施例1、実施例2、実施例3はそれに匹敵する誘電率を持つ。一方、実施例1〜3の誘電正接は、十分に低い値を保っている。特に実施例3は誘電正接に優れている。
さらに、加工性では、比較例1のベンゾオキサジンと比較すると、明らかに優れている。したがって、本発明の高誘電性複合成形体はその製造が容易であり、製造時に割れや欠損が見られず、設計通りの周波数特性を示す高誘電性成形体を提供することができる。
本発明の高誘電性複合成形体を用いることにより、アンテナ(特にはパッチアンテナ)、キャパシタを安価かつ安定した性能で提供することができる。
【0063】
次に、本発明の高誘電性複合成形体をアンテナに使用する具体例としてアンテナの形態例を示す。下記アンテナは、誘電率が高い本発明の高誘電性複合成形体を基板として使用すると、実行波長が小さくなり、小型に構成できる。そのため、携帯電話に組み込んで使うことが好適である。
【0064】
「形態例1」
図1及び図3は本発明の高誘電性複合成形体を平面アンテナ(パッチアンテナ)に利用する形態例である。この平面アンテナの誘電体112に本発明の高誘電性複合成形体を高誘電率基板として使用する。
高誘電率基板の片面には接地導体113と呼ばれる電気伝導体を設ける。前記電気伝導体は電子伝導を行う連続体であるが、電気的損失を小さくするために電導度が高い金属、特に銅が望ましい。
電磁波を放射する放射導体111を高誘電体基板112を介して接地導体113の逆面に構成する。給電用ピン124を放射導体111に電気的接続点121で接続する。給電用ピン124は、設置導体113側へ高誘電体基板112を貫通して設けられる。放射するための電力は124と接地導体113の間に給電される。前記電気伝導体は電子伝導を行う連続体であるが、電気的損失を小さくするために電導度が高い金属、特に銅が望ましい。
放射導体の一辺の長さは、使用する周波数での電磁波の実効波長の1/2の整数倍にする。このときに使用周波数での放射効率が大きくなる。前記実効波長は、使用する周波数での真空中の波長を誘電率の平方根で割った値である。
【0065】
「形態例2」
図2及び図4は本発明の高誘電性複合成形体を平面アンテナ(パッチアンテナ)に利用する他の形態例である。
この平面アンテナの誘電体212に本発明の高誘電性複合成形体を高誘電率基板として使用する。
高誘電率基板の片面には接地導体213と呼ばれる電気伝導体を設ける。前記電気伝導体は電子伝導を行う連続体であるが、電気的損失を小さくするために電導度が高い金属、特に銅が望ましい。
電磁波を放射する放射導体211を高誘電体基板212を介して接地導体213の逆面に構成する。給電用ピン224を放射導体211に電気的接続点221で接続する。給電用ピン224は、設置導体213側へ高誘電体基板212を貫通して設けられる。放射するための電力は224と接地導体213の間に給電される。前記電気伝導体は電子伝導を行う連続体であるが、電気的損失を小さくするために電導度が高い金属、特に銅が望ましい。
放射電極−接地導体間の短絡導体214を設けることにより、逆Fアンテナとなり、一辺の長さを、第1の形態の放射導体の縦横長さを1/2、面積として1/4とすることができる。
放射導体の一辺の長さは、使用する周波数での電磁波の実効波長の1/4の整数倍にする。このときに使用周波数での放射効率が大きくなる。前記実効波長は、使用する周波数での真空中の波長を誘電率の平方根で割った値である。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の高誘電性複合成形体は、加工性に優れ、かつ、十分に高い誘電率と低い誘電正接を併せ持つ成型体である。したがって、アンテナ(特にはパッチアンテナ)やキャパシタの成形に好ましく利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の高誘電性複合成形体を使用した平面アンテナを示す斜視図である。
【図2】本発明の高誘電性複合成形体を使用した平面アンテナを示す斜視図である。
【図3】本発明の高誘電性複合成形体を使用した平面アンテナの断面図である。
【図4】本発明の高誘電性複合成形体を使用した平面アンテナの断面図である。
【符号の説明】
【0068】
111、211:放射導体
112、212:高誘電体基板
113、213:接地導体
214:放射電極−接地導体間の短絡導体
121、221:電気的接続点
124、224:給電用ピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂と高誘電性充填剤とを含む高誘電性複合成形体において、前記樹脂が下記式(1)で表されるベンゾオキサジン樹脂であることを特徴とする高誘電性複合成形体。
【化1】

式中、Rは炭素原子数2以上の2価の置換基であり、べンゼン環の水素はアルキル基又はアルコキシ基で置換されていてもよい。
【請求項2】
前記式(1)中のRが、炭素原子数2以上の直鎖状アルキレン基又はその水素がアルキル置換された分岐状アルキレン基、又は脂環式構造を含むアルキレン基であることを特徴とする請求項1記載の高誘電性複合成形体。
【請求項3】
前記式(1)中のRが、下記式(2)で表されることを特徴とする請求項1記載の高誘電性複合成形体。
[化2]
−(CH2)n− (2)
nは2以上30以下の整数を表す。
【請求項4】
前記脂環式構造を含むアルキレン基が、縮環型脂環式構造を含むアルキレン基であることを特徴とする請求項2記載の高誘電性複合成形体。
【請求項5】
前記縮環型脂環式構造を含むアルキレン基が、3(4),8(9),−ビス(アミノメチル)トリシクロ[5,2,1,02,6]デカンのアミノ基の残基であることを特徴とする請求項4記載の高誘電性複合成形体。
【請求項6】
前記高誘電性充填剤が、少なくとも下記式(3)で表される無機物を含むことを特徴とする請求項1、2、3、4または5記載の高誘電性複合成形体。
[化3]
MO・TiO2 (3)
Mは、Ba,Sr,Ca,Mg,Co,Pd,Zn,Be,Cd,Ndから選ばれる一種または二種以上の金属原子を示す。
【請求項7】
前記高誘電性充填剤が、粒径10nm以上100μm以下の粒子状充填剤であることを特徴とする請求項1、2、3、4、5または6記載の高誘電性複合成形体。
【請求項8】
前記高誘電性複合成形体に含まれるベンゾオキサジン樹脂と高誘電性充填剤との比率が、ベンゾオキサジン樹脂100重量部に対し、高誘電性充填剤が50重量部から500重量部であることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6または7記載の高誘電性複合成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−9172(P2007−9172A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−361335(P2005−361335)
【出願日】平成17年12月15日(2005.12.15)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】