説明

高速ガス漏洩検知器

【課題】超音波を利用した高時間分解能でモニタリングすることができるから、水素ガス等が漏洩した場合にその漏洩を高速で検知する。
【解決手段】超音波送信素子と超音波受信素子の間に、少なくとも第1の気体を含むとともに漏洩を検知すべき第2の気体も含まれる可能性のある検出気体を通して超音波を伝搬させ、該伝搬された超音波の大きさを超音波受信素子で測定することで、第2の気体の漏洩を検知する高速ガス漏洩検知器であり、第1の気体100%を超音波受信素子で測定し、該測定値と検出気体の測定値の相違により第2の気体の漏洩を検知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスの漏洩を高速に検知する高速ガス漏洩検知器に関し、特に、燃料電池等の水素利用装置から漏洩する水素等の気体を高時間分解能で計測を行うことができる高速水素ガス漏洩検知器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来利用されている水素の計測を行うために次のような手段がある。
(1)水素を吸蔵する際の合金の電気特性を利用した水素吸蔵合金水素計測(引用文献1参照)。
(2)一部の水素吸蔵合金が水素の有無で光の吸収率が異なることを利用した水素吸蔵金属表面反射光量計測(引用文献2参照)。
(3)水素感応膜の弾性表面波の音響特性を図ることで環境の変化を捉える音響特性計測(引用文献3参照)。
【特許文献1】特開2004−327675号公報
【特許文献2】特開平04−8936号公報
【特許文献3】特開2004−108236号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、水素ガスを充填したタンクは、近い将来、燃料電池、水素ガス自動車等に搭載して大いに利用されることが予想されるが、タンクの腐蝕や破壊によって、水素がタンクから大気中に漏洩すると、その火炎の拡散速度はきわめて高速であり、安全性が近い将来大きな問題となる。
【0004】
例えば、燃料電池では、水素ガスは75Mパスカル(約750気圧)の高圧でタンクに保存されている。もしそれらの土中埋蔵による腐食や、自動車に搭載する場合の事故などによってそのタンクが破壊し、水素ガスが大気中に漏洩を起こした場合、その火炎の拡散速度はきわめて高速で、安全上きわめて問題である。
【0005】
このような事故を防止するために、漏洩する水素を超高速で検知することが必要である。しかしながら、上記従来の水素計測手段は、いずれも、ミリ秒で水素濃度の検知は不可能である。その他、このような漏洩の検知を事故が起こる前に検知、対策の必要があるが現存する水素センサは応答性においてそれに適したものは現存しない。
【0006】
本発明は、水素ガスが漏洩した場合に、高時間分解能でモニタリング(つまり1ミリ秒以下の高速で水素漏洩を検知すること)を可能とする高速ガス漏洩検知器を実現することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記課題を解決するために、超音波送信素子と超音波受信素子の間に、少なくとも第1の気体を含むとともに漏洩を検知すべき第2の気体も含まれる可能性のある検出気体を通して超音波を伝搬させ、該伝搬された超音波の大きさを前記超音波受信素子で測定することで、第2の気体の漏洩を検知する高速ガス漏洩検知器であって、前記第1の気体100%を前記超音波受信素子で測定し、該測定値と前記検出気体の測定値の相違により前記第2の気体の漏洩を検知することを特徴とする高速ガス漏洩検知器を提供する。
【0008】
前記超音波発振素子と超音波受信素子を有するセンサに供給管が取り付けられ、該供給管に、第1の弁を介して前記検出気体を通す第1の供給管を接続されているとともに、第2の弁を介して前記検出気体を通す第2の供給管が接続されていることを特徴とする高速ガス漏洩検知器。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る高速ガス漏洩検知器によれば、高時間分解能でモニタリングすることができるから、水素ガス等が漏洩した場合にその漏洩を高速で検知することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に係る高速ガス漏洩検知器を実施するための最良の形態を実施例に基づいて図面を参照して、以下に説明する。
【0011】
(超音波気体濃度計)
本発明に係る高速ガス漏洩検知器は、水素等の気体の濃度変化を高速で計測しそれらの気体の漏洩を高速で検知するものであり、その原理として、超音波気体濃度計を利用する。よって、まず、超音波気体濃度計について説明する。
【0012】
図1は、チヤンバー内のガスの分子濃度を測定することに適用した超音波気体濃度計1の構成を示す図である。超音波気体濃度計1の本体をなすセンサ2は、チャンバー12を有する。ガス流10はチヤンバー12内で矢印14の方向に流れる。ガス流10の流れに対してチヤンバー12の左右両側壁の一方に超音波送信素子16が設けられ、また他方の測壁に超音波送信素子16に対向するように超音波受信素子18が設けられている。
【0013】
超音波送信素子16と超音波受信素子18の距離は一定に保たれている。超音波送信素子16から送信された超音波は、ガス流10の中を矢印20が示す方向に伝搬又は通過して、超音波受信素子18で受信される。ガス流10の中を伝搬する超音波は、超音波送信素子16と超音波受信素子18の間を伝搬する。超音波の一部は、超音波受信素子18に受信信号として現れ、一部は超音波受信素子18の表面で反射して超音波送信素子16の方向へと戻る。
【0014】
このとき超音波送信素子16表面でもまた超音波は反射され、この反射を繰り返すことにより、超音波送信素子16と受信素子18の間には、超音波の定常状態が生まれる。この定常状態において、超音波送信素子16と超音波受信素子18の間には多重波干渉パターンと呼ばれる超音波の腹と節が繰り返される現象が現れる。
【0015】
この超音波気体濃度計では、ガス流10を構成しているガスの分子構成比(構成気体の混合気体濃度など、たとえば空気なら約80%が窒素で、残りの酸素や希ガスなどが20%を占めるといったもの)に依存して、この多重波干渉パターンの形状が変化するという現象を利用している。この多重波干渉パターンのガスの分子構成比に対する影響は、超音波の減衰と位相差として現れるが、本発明ではその効果がより大きい位相差のずれに注目している。
【0016】
従って、いろいろの既知の分子濃度の窒素ガスを含むガス流10を用いて、超音波受信素子18により受信された超音波の大きさを予め測定し、当該測定された超音波の大きさと窒素ガスの分子濃度との間の関係(又は変換)を較正しておけば、未知のガスが混じった窒素ガスの分子濃度を含むガス流10について、超音波受信素子18により受信された超音波の大きさを測定し、上記較正を用いて、未知のガスが混じった窒素ガスの分子濃度を求めることができる。
【0017】
また、予め較正しなくても、超音波受信素子18により受信された超音波の大きさの時間的変化を測定すれば、窒素ガスの分子濃度の変化を得ることができる。
【0018】
図1の超音波発振素子16の具体的な構成を、図2において、超音波気体濃度計1の超音波発生回路30として示す。超音波発生回路30は、電気信号発振部32及び超音波発振部34を含む。
【0019】
電気信号発振部32は、発振及び分周機能を有する発振・分周回路36、抵抗群38、及び抵抗群38のうちの抵抗を選択して分周比を指定するスイッチ群40を含む。超音波発振部34は超音波振動子42を含む。
【0020】
図3は、超音波受信及び分子濃度出力回路50の構成を示す。図4は、図2の超音波発生回路30から送出される超音波、及び図3の超音波受信及び分子濃度出力回路50の主要部における信号の状態を表す。
【0021】
図3に示す回路については、図4とともに、必要に応じてその作用を中心にして説明する。図4の(A)及び(B)は、超音波を示しているが、電気信号に変換した形、即ち、その振幅を電圧で標記してある。
【0022】
超音波発生回路30における超音波発信部34の超音波振動子42からは、図4の(A)に示す、極めて雑音成分が少ない正弦波状の超音波70が送信される。超音波70は、図1に示すガス流10の中を伝搬するとき、ガス流10により減衰させられて、超音波70より大きさが小さい受信波72が、超音波受信及び分子濃度出力回路50における超音波受信部52の超音波振動子64で受信される。
【0023】
ガス流10の分子量は時間的に揺らいでいるので、受信波72の波形は、図4(B)に示されるように揺らぎ成分が重畳されている。
【0024】
超音波受信52の超音波振動子64で受信された超音波の受信波72は、超音波受信部52で電気信号に変換され、ハイパスフィルタ54で揺らぎ成分が除去され、次いで、増幅部56で増幅される。増増された電気信号は、整流部58のダイオードにより半波整流され、図4の(C)に示されるような波形が得られる。
【0025】
半波整流された電気信号は、ピーク・ホール部60でピーク・ホールドされて、ピーク・ホール部60の出力(図3に示すA点)に図4(D)に示すような波形76が得られる。波形76のピーク電圧は、受信された超音波72の振幅の大きさを表し、従って、ガス流10の中の測定対象ガスの濃度(又は平均分子量)を表すことになる。
【0026】
なお、図3に示す判定部62は、波形76のピーク電圧値が所定のスレッショルド電圧 (ガス流10に含まれる測定対象ガスの所定のスレッショルド濃度に対応)を越えたとき、ガス流10中の測定対象ガスが所定のスレッショルド濃度より多く存在することを知らせる情報をオン/オフで出すもので、判定部62は、用途に応じて任意に設け得るものである。
【実施例】
【0027】
図5は、本発明に係る高速ガス漏洩検知器の基本的な構成を説明する図である。図1に示す超音波気体濃度計1を利用し、この超音波気体濃度計1におけるセンサ2の超音波送信素子16と超音波受信素子18の間隔に向けて気体を流入させる流入管80、及びこの間隔から排出する流出管81が、それぞれチャンバー12(図1参照)に取り付けられている。
【0028】
流入管80には、参照ガスとして窒素100%含有ガスを供給する供給管83が弁85を介して取り付けられているとともに、H2ガス含有窒素ガスを供給する供給管84が弁86を介して取り付けられている。一方、排出管81には、吸引ポンプ87及び流量計89が設けられている。
【0029】
一定流量で気体を吸引するポンプ87で、窒素100%含有ガスを吸引し、途中から、水素を含有した窒素ガスに切り替えた際に、超音波の減衰を計測した。図6の曲線イは、参照ガスである窒素100%含有ガスを吸引し、途中から、4%の水素を含有した窒素ガスに切り替えた際の超音波の減衰を計測した結果を示す。そして、図6の曲線ロは、窒素100%含有ガスを吸引し、途中から、1%の水素を含有した窒素ガスに切り替えた際の超音波の減衰を計測した結果を示す。
【0030】
図6において、時間0のところで水素含有窒素への切り替えが始まり数秒の遅れの後、水素含有窒素ガスがセンサ前を通過し始めると超音波の減衰が認められ、窒素100%含有ガスから水素含有窒素ガスへの変化が起こるという知見が得られた。
【0031】
図6において、4%水素含有窒素において、窒素のみの応答と比較した際、S/N比はおよそ55.4dBあり、1%含有水素に対してはS/N比は50.42dBが観測され、僅かな水素のリークを安定して計測できるという知見が得られた。
【0032】
このS/N比は、基本的にS/N =20*log(Signal/S.D.)で計算した。Signalは、1000msecにおける電圧と、各パーセンテージにおける5000msecにおける電圧差をSignalとした。1000msec付近における1000点のデータの標準偏差とした。およそ50dBということは、信号・雑音比が約100倍あり、1%水素の検出信号が100だとして、ノイズが1くらいしか無いことを意味している。
【0033】
(適用例)
上記高速ガス漏洩検知器は、気体の漏洩の可能性がある箇所(例えば、燃料電池、タンクと管の接合部、もしくはバルブなど)の近傍に取り付けて使用するが、その適用に際しての基本的な構成として、次のような構成が考えられる。
【0034】
図5において、供給管84の先端は水素が漏洩しそうな領域に開口し、弁86は常時は開いた状態としておく。これにより、少なくとも窒素を含みさらに漏洩を検知すべき水素が含まれる可能性のある検出気体を真空ポンプによりセンサ2内に取り込めるような構成とする。
【0035】
供給管83は、窒素100%含有ガスの供給源に必要に応じて接続可能とし、弁85は常時は閉じておく。ここで、窒素100%含有ガスの供給源は、当該高速ガス漏洩検知器において、窒素100%含有ガスに対する検知出力(基準出力)を得る際に必要なものであり、必要に応じて装着(又は常時装着)できる窒素100%含有ガスを貯蔵したタンク等である。
【0036】
超音波受信素子は、図3において説明した分子濃度出力回路50中に示された受信部52、バイパスフィルタ54、増幅部56及び整流部58等を具備する出力手段を有している。そして、窒素100%含有ガスの供給源に接続された場合に得られる出力を記憶する記憶装置に接続されている。
【0037】
さらに、この記憶装置に記憶された窒素100%含有ガスを検知した場合の出力と、検知対象である気体の検知出力を比較し、水素漏洩の有無を判定する比較器が設けられている。この比較器に、判定結果を報知する報知信号発生手段が接続されている。
【0038】
図7は、本発明の高速ガス漏洩検知器の具体的な適用例を示す図であり、本発明の高速ガス漏洩検知器を、気体の漏洩の可能性がある箇所として、タンク89と配管90の接合部に適用した構成である。
【0039】
図7において、管91のサンプルの採取口は、弁92を介してタンク89と配管90の接合部に向け開口されている。他方、管91の参照ガス(例えば、空気)の取入口は、弁93を介して漏洩箇所とは反対側に開口する。
【0040】
そして、弁92、93の間において配管90から分岐した流入管94にセンサ2が設けられており、弁92、93を交互に切り替え、真空吸引ポンプ95で吸引することで、センサ2に漏洩部位からのガス又は参照ガスを導入可能に構成する。このようにして導入した両方のガスの成分を比較することによって、タンク89と配管90の接合部から漏洩する気体を検出することができる。
【0041】
以上、本発明に係る高速ガス漏洩検知器を実施するための最良の形態を実施例に基づいて説明したが、本発明はこのような実施例に限定されることなく、特許請求の範囲記載の技術的事項の範囲内で、いろいろな実施例があることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、以上のような構成であり、水素のリークを安定して計測できるので、燃料電池、水素自動車等、水素燃料を利用するエネルギー発生動力装置において、水素ガスの大気中に漏洩を的確に検出できるので、これらの装置にはきわめて有用である。
【0043】
特に、水素ガスは75Mパスカル(約750気圧)の高圧でタンクに保存されている。もしそれらの土中埋蔵による腐食や、自動車に搭載する場合の事故などによってそのタンクが破壊し、水素ガスが大気中に漏洩を起こした場合、その火炎の拡散速度はきわめて高速であり、安全性が近い将来大きな問題となる。
【0044】
このような漏洩の検知を事故が起こる前に検知、対策の必要があるが現存する水素センサは応答性においてそれに適したものは現存しないが、本発明は、このような水素利用技術において、事故を未然に防止するための超高速な水素漏洩センサをとしてきわめて市場価値が高い。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明に係る超音波気体濃度計測方法の最適化方法の対象となる超音波気体濃度計測方法本発明を説明する図である。
【図2】超音波気体濃度計の超音波発生回路を示す図である。
【図3】超音波気体濃度計の分子濃度出力回路を示す図である。
【図4】超音波発生回路の送信波、分子濃度出力回路における信号を示す図である。
【図5】本発明に係る高速ガス漏洩検知器を示す図である。
【図6】高速ガス漏洩検知器の計測結果を示す図である。
【図7】本発明の高速ガス漏洩検知器の具体的な適用例を示す図である。
【符号の説明】
【0046】
1 超音波気体濃度計
2 センサ
10 ガス流
12 チヤンバー
14 矢印
16 超音波送信素子
18 超音波受信素子
20 矢印
30 超音波発生回路
32 電気信号発振部
34 超音波発振部
36 発振・分周回路
38 抵抗群
42 超音波振動子
50 分子濃度出力回路
52 超音波受信部
54 ハイパスフィルタ
62 判定部
56 増幅部
58 整流部
60 ピーク・ホール部
64 超音波振動子
72 受信された超音波(受信波)
76 波形
80、94 流入管
81 流出管
83、84 供給管
85、86、92、93 弁
87、95 真空吸引ポンプ
88 流量計
89 タンク
90 配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波送信素子と超音波受信素子の間に、少なくとも第1の気体を含むとともに漏洩を検知すべき第2の気体も含まれる可能性のある検出気体を通して超音波を伝搬させ、該伝搬された超音波の大きさを前記超音波受信素子で測定することで、第2の気体の漏洩を検知する高速ガス漏洩検知器であって、
前記第1の気体100%を前記超音波受信素子で測定し、該測定値と前記検出気体の測定値の相違により前記第2の気体の漏洩を検知することを特徴とする高速ガス漏洩検知器。
【請求項2】
前記超音波発振素子と超音波受信素子を有するセンサに供給管が取り付けられ、該供給管に、第1の弁を介して前記検出気体を通す第1の供給管を接続されているとともに、第2の弁を介して前記検出気体を通す第2の供給管が接続されていることを特徴とする高速ガス漏洩検知器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−309855(P2007−309855A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−140849(P2006−140849)
【出願日】平成18年5月19日(2006.5.19)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】