説明

高速伝送用コネクタ及び配線基板

【課題】信号伝送特性の劣化及び大型化が防止されながら、差動信号伝送路の電気長が補正される高速伝送用コネクタ及び配線基板を提供する。
【解決手段】高速伝送用コネクタは、少なくとも1つの外部基板に接続される。高速伝送用コネクタは、基材と、基材の表面に設けられ、差動信号ペアを伝送するための一対の配線と、基材の表面の一部に対向して配置される絶縁性のカバー部材(70)と、カバー部材(70)を変位可能に支持し、カバー部材(70)の変位に伴うカバー部材(70)と一対の配線のうち一方との対向面積の変化を許容する支持機構(72)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速伝送用コネクタ及び配線基板に関するものであり、特に差動信号伝送路の電気長の補正に係わるものである。
【背景技術】
【0002】
差動信号伝送路は、外来ノイズの影響を受けにくい配線方法として、高速伝送路の設計に広く用いられている。差動信号伝送路では、一対の差動信号ペアを伝送するために一対の配線が配線基板に配線される。この際、一対の配線の電気長が相互に等しくなるように配線パターンが設計される。
【0003】
従来技術では、差動信号伝送路の電気長の補正は、配線基板にて実施することが一般的である。電気長の補正の1つの方法としては、差動信号伝送路の一対の配線のうち一方の配線を延長する方法がある。例えば特許文献1には、短い信号線路の配線をミアンダ状にすることで、電気長を延長することが開示されている。
また、他の電気長の補正方法として、配線パターンの形状変更によって調整する方法がある。例えば特許文献2には、配線基板の差動信号伝送路の一対の配線のうち、一方の配線を構成するビアの形状を変えることにより、差動信号伝送路の電気長を補正する方法が提案されている。
【0004】
なお、2つの配線基板の差動信号伝送路同士を接続するための高速伝送用コネクタとしては、例えば、特許文献3が開示する電気コネクタ組立体が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−270026号公報
【特許文献2】特開2008−244703号公報
【特許文献3】特表2005−516375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述のとおり、差動信号伝送路の電気長の補正方法としては、配線基板における配線の線路長の延長や、配線パターンの形状変更が一般的であった。しかしながら、配線パターンの形状を変更する方法を採用した場合、伝送速度が高速化すると、例えば伝送速度が10Gbpsクラスになると、形状変更による電磁界の乱れが大きくなる虞がある。そして、電磁界の乱れに起因して、信号伝送特性が劣化することが懸念される。
【0007】
一方の線路長を延長する方法を採用した場合、信号伝送特性への影響を小さく留めて配線基板を設計することが可能である。しかしながら、この場合、配線基板に配線を延長するための配線領域が必要となるが、近年高密度化が進む高密度配線基板においては、配線延長のための配線領域の確保は困難である。このため、線路長を延長する方法を高密度配線基板に適用することは難しい。
かくして従来技術では、信号伝送特性の劣化を抑制しながら差動信号の電気長を補正することが困難になりつつある。
【0008】
一方、特許文献3は、差動信号伝送路の電気長を補正するための構成を開示していない。
【0009】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされ、その目的とするところは、信号伝送特性の劣化及び大型化が防止されながら、差動信号伝送路の電気長が補正される高速伝送用コネクタ及び配線基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の一態様によれば、基材と、前記基材の表面に設けられ、差動信号ペアを伝送するための一対の配線と、前記基材の表面の一部に対向して配置される絶縁性のカバー部材と、前記カバー部材を変位可能に支持し、前記カバー部材の変位に伴う前記カバー部材と前記一対の配線のうち一方との対向面積の変化を許容する支持機構とを備えることを特徴とする高速伝送用コネクタが提供される(請求項1)。
【0011】
請求項1の高速伝送用コネクタによれば、カバー部材と一対の配線のうち一方との対向面積が変化することによって、一方の配線の少なくとも一部に隣接する空間で誘電率が変化する。これにより、一方の配線の電気長が変化し、一対の配線間の電気長の差が補正される。
かくして、この高速伝送用コネクタによれば、配線を延長したり、配線の形状を変更しなくても、一対の配線間の電気長の差が補正され、信号伝送特性の劣化及び大型化が防止される。
更に、この高速伝送用コネクタによれば、カバー部材の変位量に応じて、一方の配線における電気長の変化量が調整されるので、電気長の差が的確に補正される。
【0012】
好ましくは、前記支持機構は、前記基材の表面に沿って前記カバー部材が変位することを許容する(請求項2)。
請求項2の高速伝送用コネクタにおいては、基材の表面に沿ってカバー部材を変位させることによって、簡単な構成で、カバー部材を移動させることができる。また、基材の表面に沿ってカバー部材を変位させることによって、カバー部材の変位が外部の物体によって妨げられることがなく、カバー部材が確実に変位させられる。
【0013】
好ましくは、前記支持機構は、前記基材に固定された固定部材と、前記固定部材によって回転可能に支持されるとともに前記カバー部材の変位方向に延びる螺子と、前記カバー部材に固定され、前記螺子がねじ込まれる雌螺子部を有するスリーブとを含む(請求項3)。
請求項3の高速伝送用コネクタによれば、スリーブに対する螺子のねじ込み量に応じて、カバー部材が変位させられる。ねじ込み量は微調整可能であり、一方の配線の電気長が簡単且つ的確に調整される。
【0014】
好ましくは、第1の回路基板と前記一対の配線とを電気的に接続する第1の端子と、前記第1の回路基板に対し直角に配置される第2の回路基板と前記一対の配線とを電気的に接続する第2の端子とを備える(請求項4)。
【0015】
請求項4の高速伝送用コネクタによれば、第1の回路基板及び第2の回路基板にそれぞれ設けられる一対の配線及び高速伝送用コネクタの一対の配線を含む差動信号伝送路全体の電気長の差の補正が、高速伝送用コネクタにおいてカバー部材を変位させることによって行われる。このため、この高速伝送用コネクタによれば、差動信号伝送路全体の電気長の補正が、簡単且つ的確に行われる。そしてこれにより、高密度化が進む第1の回路基板及び第2の回路基板において、余分な配線領域を確保する必要が無くなり、基板配線が容易となる。
【0016】
上記目的を達成するため、本発明の他の態様によれば、基板と、前記基板の表面に設けられ、差動信号ペアを伝送するための一対の配線と、前記基板の表面の一部に対向して配置される絶縁性のカバー部材と、前記カバー部材を変位可能に支持し、前記カバー部材の変位に伴う前記カバー部材と前記一対の配線のうち一方との対向面積の変化を許容する支持機構とを備えることを特徴とする配線基板が提供される(請求項5)。
【0017】
請求項5の配線基板によれば、カバー部材と一対の配線のうち一方との対向面積が変化することによって、一方の配線の少なくとも一部に隣接する空間で誘電率が変化する。これにより、一方の配線の電気長が変化し、一対の配線間の電気長の差が補正される。
かくして、この配線基板によれば、配線を延長したり、配線の形状を変更しなくても、一対の配線間の電気長の差が補正され、信号伝送特性の劣化及び大型化が防止される。
更に、この配線基板によれば、カバー部材の変位量に応じて、一方の配線における電気長の変化量が調整されるので、電気長の差が的確に補正される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、信号伝送特性の劣化及び大型化が防止されながら、差動信号伝送路の電気長の差が補正される高速伝送用コネクタ及び配線基板が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】一実施形態の高速伝送用コネクタを2つの回路基板の一部とともに概略的に示す側面図である。
【図2】図1の高速伝送用コネクタを概略的に示す斜視図である。
【図3】図1の高速伝送用コネクタに適用されたリセプタクルアセンブリを概略的に示す斜視図である。
【図4】図1の高速伝送用コネクタに適用されたプラグアセンブリを概略的に示す斜視図である。
【図5】図4のプラグアセンブリに適用されたプラグホルダを概略的に示す斜視図である。
【図6】図4のプラグアセンブリに適用された積層体を部分的に分解して概略的に示す斜視図である。
【図7】図6中の配線モジュールを概略的に示す斜視図である。
【図8】図6中のグランドプレートを概略的に示す斜視図である。
【図9】図6中のカバーモジュールを概略的に示す斜視図である。
【図10】図9のカバーモジュールを部分的に断面にて概略的に示す平面図である。
【図11】図7の配線モジュールに図9のカバーモジュールが重ね合わされた状態であって、カバー部材によって配線が覆われている状態を示す平面図である。
【図12】図7の配線モジュールに図9のカバーモジュールが重ね合わされた状態を示す平面図であって、配線の一部が露出している状態を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。なお、図面は概略的なものであり、構成を理解し易くするために、図面中の部品の形状や寸法は適宜変更されている。
【0021】
図1は、一実施形態の高速伝送用コネクタ10を2つの回路基板(配線基板)12,14の一部とともに概略的に示す側面図である。なお、図1では、回路基板12,14の一部が断面にて示されている。例えば、回路基板12はマザーボードであり、回路基板14はドーターボードである。回路基板14は、回路基板12に対して直角に配置される。
【0022】
図示しないけれども、回路基板12,14の各々には、差動信号伝送路を含む所定の回路パターンが設けられ、且つ、ICチップ等の電気部品が実装さている。高速伝送用コネクタ10は、2つの回路基板12,14の差動信号伝送路を電気的に接続しており、回路基板12,14間で、例えば1Gbps以上の伝送速度で差動信号ペアを伝送するために使用される。
【0023】
図2は、高速伝送用コネクタ10を概略的に示す斜視図である。高速伝送用コネクタ10は、分離可能に相互に連結されたリセプタクルアセンブリ16とプラグアセンブリ18とからなる。
【0024】
図3は、リセプタクルアセンブリ16を概略的に示す斜視図である。リセプタクルアセンブリ16は、絶縁性を有する樹脂製のリセプタクルホルダ20を有する。リセプタクルホルダ20は、例えば、略矩形形状の主壁22と、主壁22の対向する一組の辺縁に一体に連なる略矩形形状の2つの側壁24とからなる。従って、リセプタクルホルダ20は、コの字形状、言い換えれば、角張ったU字形状の断面形状を有する。
【0025】
再び図2を参照すると、主壁22には、それぞれ金属製の複数のピンコンタクト26及びグランドコンタクト28が適当な配列にて取り付けられている。ピンコンタクト26及びグランドコンタクト28は、主壁22に対し圧入により固定されており、主壁22を貫通している。従って、ピンコンタクト26及びグランドコンタクト28は、主壁22の両側に突出している。
【0026】
再び図1を参照すると、主壁22の外面から突出しているピンコンタクト26及びグランドコンタクト28の外側部分は、回路基板12に設けられたスルーホールに挿入される。そして、例えば半田(図示せず)によって、スルーホールに対してピンコンタクト26及びグランドコンタクト28の外側部分が固定される。
【0027】
図4は、プラグアセンブリ18を概略的に示す斜視図である。プラグアセンブリ18は、絶縁性を有する樹脂製のプラグホルダ30と、プラグホルダ30が嵌められた積層体32とからなる。
【0028】
図5は、プラグホルダ30を概略的に示す斜視図である。プラグホルダ30は、例えば、略矩形形状の主壁34と、主壁34の4つの辺縁に一体に連なる枠36とからなる。そして、主壁34には、例えばストライプ状にて複数の開口が設けられ、各開口は主壁34を貫通している。換言すれば、主壁34は格子状に形成されている。
なお、図示しないけれども、リセプタクルホルダ20及びプラグホルダ30には、これらの部材を分離可能にて相互に係合させる係合機構が設けられている。
【0029】
図6は、積層体32の一部を分解して概略的に示す斜視図である。積層体32は、本実施形態では、カバーモジュール38、配線モジュール40、及び、グランドプレート42をそれぞれ6個ずつ含んでいる。それぞれ1個のカバーモジュール38、配線モジュール40及びグランドプレート42は、この順序で積層されて1個のユニットを構成しており、積層体32は、6個のユニットを含んでいる。
【0030】
各ユニットにおいて、カバーモジュール38、配線モジュール40、及び、グランドプレート42は相互に圧着させられており、積層された6個のユニットが、プラグホルダ30によって束ねられている。
なお、図示しないけれども、プラグホルダ30及び積層体32の各ユニットには、これらの部材を分離可能にて相互に係合させる係合機構が設けられている。
【0031】
図7は、配線モジュール40を概略的に示す斜視図である。配線モジュール40は絶縁性を有する樹脂製の基材44を含み、基材44は略矩形の板形状を有する。より詳しくは、基材44は、本体部46と、本体部46の一の辺から一体にて張り出した張り出し部48とからなる。張り出し部48は本体部46よりも薄く形成されている。
【0032】
そして、基材44の本体部46には、一方の表面にて開口した4本の溝が形成されている。溝は、基材44の本体部46の一の辺から、例えば途中2回鈍角にて曲がって、当該一の辺に直角な他の辺まで延びている。そして、4本の溝に対して、4個の金属製のリード部材50a,50b,50c,50dの線路部52a,52b,52c,52dが嵌め込まれている。以下では、リード部材50a,50b,50c,50dをまとめて単にリード部材50ともいい、リード部材50の線路部52a,52b,52c,52dをまとめて単に線路部52ともいう。
【0033】
基材44の本体部46に形成された溝の横断面形状は、例えば略矩形形状であり、リード部材50の線路部52は、溝に対応する横断面形状を有する。従って、リード部材50の線路部52の表面は、基材44の本体部46の表面と面一をなしている。
【0034】
また、各リード部材50は、本体部46の一の辺側に位置する線路部52の端部に一体に連なる第1の端子部54a,54b,54c,54dと、本体部46の他の辺側に位置する線路部52の端部に一体に連なる第2の端子部56a,56b,56c,56dとを有する。以下では、第1の端子部54a,54b,54c,54dをまとめて単に第1の端子部54ともいい、第2の端子部56a,56b,56c,56dをまとめて単に第2の端子部56ともいう。
【0035】
第1の端子部54は、基材44の張り出し部48上に位置している。第1の端子部54は、リセプタクルアセンブリ16とプラグアセンブリ18とが連結されたときに、リセプタクルホルダ20の内側に突出したピンコンタクト26の部分と接触させられる。
一方、第2の端子部56は、基材44の本体部46の他の辺から突出している。第2の端子部56は、回路基板14に設けられたスルーホールに挿入される。そして、例えば半田(図示せず)によって、スルーホールに対して第2の端子部56が固定される。
【0036】
リード部材50は、高速伝送用コネクタ10において、差動信号伝送路を構成している。具体的には、リード部材50a及びリード部材50bが対をなし、一組の差動信号ペアを伝送する。同様に、リード部材50c及びリード部材50dが対をなし、一組の差動信号ペアを伝送する。このため、リード部材50a及びリード部材50bは所定の間隔を存して相互に平行に配置され、同様に、リード部材50c及びリード部材50dは所定の間隔を存して相互に平行に配置されている。
【0037】
図8は、グランドプレート42を概略的に示す斜視図である。グランドプレート42は金属製の板からなり、積層体32を構成する各ユニットにおいて、リード部材50に対応するグランド面を構成している。
具体的には、グランドプレート42は、相互に一体の本体部58、第1グランド端子部60a,60b及び第2グランド端子部62a,62b,62c,62dを有する。なお、以下では、第1グランド端子部60a,60bをまとめて単に第1グランド端子60ともいい、第2グランド端子部62a,62b,62c,62dをまとめて単に第2グランド端子62ともいう。
【0038】
グランドプレート42の本体部58は、配線モジュール40の基材44よりも小さいが、リード部材50の線路部52と対向するのに十分な大きさを有する。グランドプレート42の本体部58は、基材44の本体部46の一の辺及び他の辺にそれぞれ沿う一の辺及び他の辺を有し、グランドプレート42の本体部58の一の辺及び他の辺から、第1グランド端子部60及び第2グランド端子部62がそれぞれ突出している。
【0039】
第1グランド端子部60は、第1の端子部54と対向しており、リセプタクルアセンブリ16とプラグアセンブリ18とが連結されたときに、プラグホルダ30の主壁34の開口を通じて、リセプタクルホルダ20の内側に突出したグランドコンタクト28の部分と接触させられる。
【0040】
一方、第2グランド端子部62は、回路基板14に設けられたスルーホールに挿入される。そして、例えば半田(図示せず)によって、スルーホールに対して第2グランド端子部62が固定される。
【0041】
図9は、カバーモジュール38を概略的に示す斜視図である。カバーモジュール38は絶縁性を有する樹脂製のメインカバー64を有する。メインカバー64は所定の厚さを有する板状であり、平面でみたとき、メインカバー64の外形形状は、配線モジュール40の基材44の本体部46の外形形状に略等しい。従って、メインカバー64は、基材44の本体部46の一の辺及び他の辺にそれぞれ沿う一の辺及び他の辺を有する。
【0042】
ただし、メインカバー64には、切欠き部66及び開口部68が形成されている。切欠き部66及び開口部68は、メインカバー64の両面において開口し、平面でみたとき、基材44の本体部46の他の辺に沿う方向、換言すれば、第2の端子部56の配列方向に長い長方形形状を有している。なお、メインカバー64の両面において開口しているという意味において、切欠き部66も開口部である。
【0043】
そして、切欠き部66及び開口部68には、絶縁性を有する樹脂からなるカバー部材70a,70bがそれぞれ配置されている。以下では、カバー部材70a,70bをまとめて単にカバー部材70ともいう。
【0044】
カバー部材70は、メインカバー64に対応する厚さを有する板状であり、平面でみたとき、長方形形状を有する。つまり、カバー部材70は、扁平な直方体形状を有する。配線モジュール40側のカバー部材70の面は平坦であり、配線モジュール40の基材44の本体部46及びリード部材50の線路部52が構成する平坦な面に密接する。
【0045】
カバー部材70の長手方向は、切欠き部66及び開口部68の長手方向に一致しており、カバー部材70の幅は、切欠き部66及び開口部68の幅と略等しい。カバー部材70の長さは、切欠き部66及び開口部68の長さよりも短く、カバー部材70は、切欠き部66及び開口部68内にて、切欠き部66及び開口部68の長さ方向にて移動可能である。
【0046】
その上で、カバーモジュール38は、カバー部材70a,70bを変位可能にそれぞれ支持する支持機構72a,72bを有する。以下では、支持機構72a,72bをまとめて単に支持機構72ともいう。
図10は、カバーモジュール38の一部の概略的な側面図であり、部分的に断面を示している。特に図10では、支持機構72を説明するために、部材の寸法等が適当に変更されている。
【0047】
支持機構72a,72bは螺子74a,74bを含み、螺子74a,74bは、軸部と、軸部の先端側の外周面に設けられた雄螺子部76a,76bと、軸部の基端に一体に連なるヘッド部とをそれぞれ有する。以下では、螺子74a,74bをまとめて単に螺子74ともいい、雄螺子部76a,76bをまとめて単に雄螺子部76ともいう。
【0048】
そして、メインカバー64には、貫通孔(受け孔)78a,78bが設けられている。以下では、貫通孔78a,78bをまとめて単に貫通孔78ともいう。
貫通孔78は、メインカバー64の一の辺から、メインカバー64の他の辺と平行にて、切欠き部66及び開口部68までそれぞれ延びている。つまり、貫通孔78は、切欠き部66及び開口部68の長手方向に延びている。
【0049】
貫通孔78の両端には、例えばインサートモールドによって、金属製のリング80が同心にて固定されている。螺子74の軸部は、貫通孔78及びリング80を貫通しており、螺子74は、リング80を介して、メインカバー64によって回転自在に支持されている。
なお、螺子74のヘッド部は、プラグホルダ30の主壁34によって、メインカバー64の一の辺に対して押し付けられる。
【0050】
一方、カバー部材70a,70bには、貫通孔78a,78bと同軸にて、貫通孔82a,82bがそれぞれ形成されている。以下では、貫通孔82a,82bをまとめて単に貫通孔82ともいう。
貫通孔82a,82bには、例えばインサートモールドによって、同心にて金属製のスリーブ(筒)84a,84bがそれぞれ固定されている。以下では、スリーブ84a,84bをまとめて単にスリーブ84ともいう。
【0051】
スリーブ84a,84bの内周面には、螺子74a,74bの雄螺子部76a,76bと螺合可能な雌螺子部86a,86bがそれぞれ形成されている。雄螺子部76が雌螺子部86に螺子込まれることで、カバー部材70は、メインカバー64によって変位可能に支持される。具体的には、螺子74を回転させることでねじ込み量が変化し、ねじ込み量に応じてカバー部材70が変位する。このとき、カバー部材70の変位方向は、螺子74の長手方向である。
【0052】
切欠き部66、開口部68、カバー部材70、螺子74、及び、貫通孔78の長さは、カバー部材70が脱落しないように適当に設定される。
そして、メインカバー64において、切欠き部66は、対をなすリード部材50a,50bのうちの一方であるリード部材50aと対向する領域及びリード部材50aと対向しない領域を含むように形成され、開口部68は、対をなすリード部材50c,50dのうち一方であるリード部材50cと対向する領域及びリード部材50cと対向しない領域を含むように形成されている。
【0053】
上述した高速伝送用コネクタ10によれば、回路基板12,14の差動信号伝送路が電気的に接続され、回路基板12,14及び高速伝送用コネクタ10は、高速で情報処理を行うための回路システムを構成する。そして、この回路システムでは、回路基板12,14間で差動信号ペアが伝送される。
【0054】
そして、複数の高速伝送用コネクタ10を用いれば、マザーボードとしての1つの回路基板12に対し、ドーターボードとしての複数の回路基板14を接続することができる。この場合、1つのマザーボード、複数のドーターボード及び複数の高速伝送用コネクタ10が回路システムを構成する。このシステムでは、マザーボードを介して、ドーターボード同士が電気的に接続され、ドーターボード間での差動信号ペアの伝送が可能になる。
【0055】
このような回路システムにおいて、差動信号伝送路を構成する一対の配線間で電気長に差がある場合、高速伝送用コネクタ10の螺子74を回すことで、電気長の差が補正される。
【0056】
以下、電気長の補正方法について説明する。
図11は、配線モジュール40にカバーモジュール38が重ね合わされた状態を示す平面図である。図11では、カバー部材70が切欠き部66及び開口部68の左側に位置しており、切欠き部66及び開口部68内に位置するリード部材50a,50cの部分は、カバー部材70によって覆われている。なおこのとき、雌螺子部86に対する雄螺子部74のねじ込み量は最大である。
【0057】
図12も図11と同様に、配線モジュール40にカバーモジュール38が重ね合わされた状態を示す平面図であるが、図12では、切欠き部66及び開口部68内でのカバー部材70の位置が異なる。具体的には、図11の状態から螺子74を回すことにより、カバー部材70が右側に変位させられている。
図12に示される状態では、切欠き部66及び開口部68内にて、リード部材50a,50cの一部分が、カバー部材70によって覆われずに露出している。
【0058】
露出したリード部材50a,50cの部分の周囲には、樹脂等の誘電体よりも誘電率が小さい空気が存在するため、露出量に応じてリード部材50a,50cの電気長が変化する。従って、螺子74のねじ込み量を調整して電気長を所定量だけ変化させることで、配線間の電気長の差を補正することができる。
【0059】
かくして上述した一実施形態の高速伝送用コネクタ10によれば、リード部材50を延長したり、リード部材50の形状を変更しなくても、一対のリード部材50間の電気長の差が補正され、信号伝送特性の劣化及び大型化が防止される。
更に、この高速伝送用コネクタ10によれば、カバー部材70の変位量に応じて、一方のリード部材50における電気長の変化量が調整されるので、電気長の差が的確に補正される。
【0060】
また、上述した一実施形態の高速伝送用コネクタ10においては、配線モジュール40の基材44の表面に沿ってカバー部材70を変位させることによって、簡単な構成で、カバー部材70を移動させることができる。また、基材44の表面に沿ってカバー部材70を変位させることによって、カバー部材70の変位が外部の物体によって妨げられることがなく、カバー部材70が確実に変位させられる。
【0061】
更に、上述した一実施形態の高速伝送用コネクタ10によれば、スリーブ84の雌螺子部86に対する螺子74の雄螺子部76のねじ込み量に応じて、カバー部材70が変位させられる。ねじ込み量は微調整可能であり、一方のリード部材50の電気長が簡単且つ的確に調整される。
【0062】
また更に、上述した一実施形態の高速伝送用コネクタ10によれば、回路基板12,14にそれぞれ設けられる一対の配線及び高速伝送用コネクタ10の一対のリード部材50を含む、差動信号伝送路全体の電気長の差の補正が、高速伝送用コネクタ10においてカバー部材70を変位させることによって行われる。このため、この高速伝送用コネクタ10によれば、差動信号伝送路全体の電気長の補正が、簡単且つ的確に行われる。そしてこれにより、高密度化が進む高密度配線基板において、余分な配線領域を確保する必要が無くなり、基板配線が容易となる。
【0063】
本発明は、上述した一実施形態に限定されることはなく、上述した一実施形態に変更を加えた形態も含む。
例えば、上述した一実施形態では、各配線モジュール40に二組の配線が設けられていたが、配線の数はこれに限定されることはない。また、積層体32に含まれるユニットの数も6個に限定されることはない。
【0064】
そして、上述した一実施形態では、支持機構72は、螺子74等の可動部を支持する部材として、カバーモジュール38のメインカバー64を含んでいるが、可動部を支持する部材はこれに限定されることはない。可動部を支持する部材は、配線モジュール40の基材44に対して相対変位不能に固定された固定部材であればよい。
【0065】
また、上述した一実施形態では、カバー部材70の変位を許容するべく、支持機構72が、螺子74とスリーブ84を含んでいたが、支持機構72の構成はこれに限定されることはない。例えば、支持機構72は、相互に噛み合う歯列を有する一対の部材、例えばラックとピニオンを用いて構成することができる。
更に、支持機構72は、螺子74やピニオンを駆動するための電動モータ及び電動モータのための制御端子を含んでいてもよい。この場合、制御端子を通じて電動モータを動作させることによって、外部から常時、電気長の補正が可能である。
【0066】
また更に、支持機構72は、例えばプランジャとソレノイドからなる電動アクチュエータを含んでいてもよい。この場合、カバーモジュール38には、電動アクチュエータのための制御端子が設けられる。電動アクチュエータによれば、螺子74とスリーブ84を電動アクチュエータに替えて、電動アクチュエータ制御用の端子を設けることにより、外部から常時、電気長の補正が可能である。
【0067】
一方、本発明は、回路基板12,14等の配線基板、具体的には、差動信号伝送路としての一対の配線、例えばマイクロストリップラインが表面に形成された配線基板にも適用可能である。この場合、カバー部材は、配線基板の一部に対向して配置され、支持機構によってカバー部材が変位させられるのに伴い、一対の配線のうち一方とカバー部材との対向面積が変化する。なお、配線基板に対してカバーモジュールのメインカバーが固定されていない場合、支持機構の可動部は、配線基板に固定された他の固定部材によって支持される。
【0068】
カバー部材が適用された配線基板では、カバー部材と一対の配線のうち一方との対向面積が変化することによって、一方の配線の少なくとも一部に隣接する空間で誘電率が変化する。これにより、一方の配線の電気長が変化し、一対の配線間の電気長の差が補正される。
【0069】
かくして、この配線基板によれば、配線を延長したり、配線の形状を変更しなくても、一対の配線間の電気長の差が補正され、信号伝送特性の劣化及び大型化が防止される。
更に、この配線基板によれば、カバー部材の変位量に応じて、一方の配線における電気長の変化量が調整されるので、電気長の差が的確に補正される。
【符号の説明】
【0070】
10 高速伝送用コネクタ
12 回路基板(第1の回路基板)
14 回路基板(第2の回路基板)
16 リセプタクルアセンブリ
18 プラグアセンブリ
20 リセプタクルホルダ
26 ピンコンタクト
28 グランドコンタクト
30 プラグホルダ
32 積層体
38 カバーモジュール
40 配線モジュール
42 グランドプレート
44 基材
50 リード部材
54 第1の端子部(第1の端子)
56 第2の端子部(第2の端子)
60 第1グランド端子部
62 第2グランド端子部
66 切欠き部
68 開口部
70 カバー部材
72 支持機構
74 螺子
76 雄螺子部
78 貫通孔
80 リング
84 スリーブ
86 雌螺子部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材の表面に設けられ、差動信号ペアを伝送するための一対の配線と、
前記基材の表面の一部に対向して配置される絶縁性のカバー部材と、
前記カバー部材を変位可能に支持し、前記カバー部材の変位に伴う前記カバー部材と前記一対の配線のうち一方との対向面積の変化を許容する支持機構と
を備えることを特徴とする高速伝送用コネクタ。
【請求項2】
前記支持機構は、前記基材の表面に沿って前記カバー部材が変位することを許容することを特徴とする請求項1に記載の高速伝送用コネクタ。
【請求項3】
前記支持機構は、
前記基材に固定された固定部材と、
前記固定部材によって回転可能に支持されるとともに前記カバー部材の変位方向に延びる螺子と、
前記カバー部材に固定され、前記螺子がねじ込まれる雌螺子部を有するスリーブと
を含むことを特徴とする請求項2に記載の高速伝送用コネクタ。
【請求項4】
第1の回路基板と前記一対の配線とを電気的に接続する第1の端子と、
前記第1の回路基板に対し直角に配置される第2の回路基板と前記一対の配線とを電気的に接続する第2の端子と
を備えることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の高速伝送用コネクタ。
【請求項5】
基板と、
前記基板の表面に設けられ、差動信号ペアを伝送するための一対の配線と、
前記基板の表面の一部に対向して配置される絶縁性のカバー部材と、
前記カバー部材を変位可能に支持し、前記カバー部材の変位に伴う前記カバー部材と前記一対の配線のうち一方との対向面積の変化を許容する支持機構と
を備えることを特徴とする配線基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−165408(P2011−165408A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−24717(P2010−24717)
【出願日】平成22年2月5日(2010.2.5)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】