説明

高速向流クロマトグラフィーによる低分子有用成分の分離方法

【課題】コーヒー、紅茶、お茶、ココア等から簡便な方法で純度の高い低分子有用成分、例えばクロロゲン酸異性体を分離精製する技術の開発。
【解決手段】
前記原料から得た抽出液をブタノール/水/酢酸からなる組成の溶液を用いて固定相と移動層を作成し高速向流クロマトグラフィーにて分離精製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高速向流クロマトグラフィーを用いたコーヒー、紅茶、お茶、ココア等の抽出物からの一段階操作による低分子有用成分の分離精製に関するものである。
【背景技術】
【0002】
これまでガスクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、質量分析計等の開発の発展に伴って、有機化合物や天然物質、たんぱく質類の分析および定性定量技術はめまぐるしく進歩してきた。しかしながら高精度に分析された物質についての大量分離方法の技術は遅れていた。現実は全く進歩していない。このため前記成分を分離するためには多くの分離方法を組み合わせて分離を行なっていた。
とくに、コーヒー、紅茶、お茶、ココア類は、クロロゲン酸、カフェイン、トリゴネリン等をはじめとする多くの低分子有用成分が数百種類以上含まれている。しかしながら、これらの有用成分を簡便に高度に純度の高い状態で製造する分離方法はこれまで知られていなかった。
例えば大多和等(特開2008−7450、特開2008−31150)によってコーヒー生豆からのクロロゲン酸の簡便な製造方法が報告されているが、それはカフェインを含まないクロロゲン酸の精製方法であって、純度の高いクロロゲン酸の簡便な製造方法とはいえない。さらにクロロゲン酸には3−カフェオイルキニン酸、4−カフェオイルキニン酸、5カフェオイルキニン酸等の多くの異性体が共存している。これらの異性体の大量分離は非常に困難であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明者は、コーヒー、紅茶、お茶、ココア等から簡便な方法で純度の高い低分子有用成分、例えばクロロゲン酸の各異性体を分離する精製技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者等は上記課題を解決するため様々な試みを行なった。その結果、岡田(CHROMATOGRAPHY, Vol.31 No.1(2010))によって開発された高速向流クロマトグラフィー(High−speed counter−current chromatography)(HSCCC)を利用して、分離条件を検討して、精製分離を行なうことによって一段階の操作で純度の高いクロロゲン酸異性体の単離を行うことができた。さらに当然に本分離方法を用いることによってクロロゲン酸以外の有用低分子化合物を単離することができた。
さらに具体的にはコーヒー豆、お茶の葉、カカオ種子等から水ないしアルコール抽出を行い、固形不純物をフィルターで除去した後に、HSCCCに充填して分離し純度分析を行なって単離を確認した。
【発明の効果】
【0005】
コーヒー、紅茶、お茶、ココア等から簡便な方法で医薬原料にも使えるほどに純度の高い低分子有用成分、例えばクロロゲン酸異性体の単離を行なうことが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の好ましい形態として、コーヒー豆は焙煎、生豆のいずれでも良く、種類はアラビカ種、ロブスタ種、リベリカ種のいずれでも良く、種類および産地を問わない、お茶も生茶葉、蒸した葉いずれでもよく、カカオ種子も生種子あるいは加工をおこなったものいずれでも良い。前記原料を水またはアルコールまたはこれらの混合溶液等で抽出、好ましくは減圧下で50から200度、さらに好ましくは80から150度に加熱して抽出処理を行なうとよい。
抽出後、固形不純物をフィルター、好ましくは0.45μmのフィルター、または珪藻土等からなるフィルターで除去する。
【0007】
HSCCCのための固定相および移動相を形成するための溶液の組成は、メタノール、エタノール、ブタノール、プロパノール等の有機アルコール類のいずれか1種類の6から20容、好ましくは8からと12容と、水の5から15容、好ましくは6から11容と、酢酸、蟻酸,酪酸等の有機酸のいずれか1種類の0.5から5容、好ましくは1.3から1.7容からなる。
HSCCCの回転数は容量に応じて適時変更する。
分離後、各分画を分取してHPLC、LC−MASさらにNMRによって純度解析を行なった。
【実施例1】
【0008】
以下に本発明の実施例を述べるが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0009】
コーヒー生豆(インドネシア産ロブスタ種AP−1)の100gをアイボトルに入れ、純粋875mlを加える。温度120〜160度で、圧力0.15から0.3MPaで20分間抽出する。
続いてアドバンテックフィルターでろ過する。エバポレーターで濃縮して後、0.45μmのミリポアーフィルターでろ過して固形不純物を完全に除去して試料とした。
ブタノール/水/酢酸1000ml/800ml/200mlの組成からなる溶液を用いて、固定相/移動相を高速向流クロマトグラフィー上に作成し前記試料を充填した。高速向流クロマトグラフィーの回転速度は900rpmで流速は2.00ml/minで、前記試料の充填量は10.0mlであった。
図1にHSCCCによるコーヒー豆抽出物有用成分の280nmによる波長に基づく分離パターンを示す。6mlずつ分取し、分画17から20までをHPLCで純度分析を行なった(図2)。
分画19と20において70%以上の純粋なクロロゲン酸を得ることができた。
【実施例2】
【0010】
コーヒー生豆(インドネシア産ロブスタ種AP−1)の50gをアイボトルに入れ、純粋500mLを加える。温度120〜160度で、圧力0.15から0.3MPaで20分間抽出する。
続いてアドバンテックフィルターでろ過する。エバポレーターで濃縮して後、0.45μmのミリポアーフィルターでろ過して固形不純物を完全に除去して試料とした。
ブタノール/水/酢酸110ml/1000ml/890mlの組成からなる溶液を用いて、固定相/移動相を高速向流クロマトグラフィー上に作成し前記試料を充填した。高速向流クロマトグラフィーの回転速度は900rpmで流速は2.5/minで、前記試料の充填量は5mlであった。
【0011】
図3にHSCCCによるコーヒー豆抽出物有用成分の275nm( )の波長に基づく分離

フェイン並びに各種クロロゲン酸の異性体が単離された。それぞれの分離された分画F1からF9について、LC−MASMASによる解析、NMR(Varian−700)による解析並びに文献による各クロロゲン酸の存在比率のデータからの解析を行なった。その結果、F1からF7までの分画について単一成分であることが判明した。F8とF9は幾つかの成分の混合物であった。F1は5−カフェオイルキニン酸、F2は3−カフェオイルキニン酸、F3はカフェイン、F4は4−カフェオイルキニン酸、F5は5−フェルロイルキニン酸そしてF6は恐らく3−フェロイルキニン酸、F7も恐らく4−フェロイルキニン酸であった。いずれも純度は整理番号:BRa0002
90%以上であった。このように一回のHSCCC分離操作で純度の高いクロロゲン酸異性体を単離することができた。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】コーヒー生豆抽出物のHSCCCパターン1
【図2】HSCCCで分離した分画17〜20までのHPLCによる純度分析
【図3】コーヒー生豆抽出物のHSCCCパターン2
【産業上の利用可能性】
【0013】
コーヒー、お茶、紅茶、ココア由来の抽出物から様々なクロロゲン酸異性体を初めとする低分子有用成分の分離精製が可能となる。分離された有用成分は純度が高いので医薬原料としての使用も可能となる。また不純物の影響が排除されるので食品原料、工業原料としても多くの用途が開ける。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高速向流クロマトグラフィーを用いた、コーヒー、お茶、紅茶、ココア由来の抽出物からの低分子有用成分の新規分離精製方法と分離された低分子有用成分。
【請求項2】
[請求項1]記載の高速向流クロマトグラフィーにおいて固定相と移動相を形成する溶液がブタノール/水/酢酸からなる請求項1記載の新規分離精製方法。
【請求項3】
[請求項1]記載の抽出方法が水抽出である有用成分の新規分離精製方法と分離された低分子有用成分。
【請求項4】
[請求項1]記載の低分子有用成分がクロロゲン酸であるクロロゲン酸の新規分離精製方法と分離されたクロロゲン酸。
【請求項5】
[請求項1]記載の由来の抽出物が生コーヒー豆である低分子有用成分の新規分離精製方法と分離された低分子有用成分。
【請求項6】
[請求項1]記載の低分子有用成分がクロロゲン酸異性体である新規分離方法と分離されたクロロゲン酸異性体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−158584(P2012−158584A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−290745(P2011−290745)
【出願日】平成23年12月29日(2011.12.29)
【出願人】(502163786)株式会社ブルックスホールディングス (3)
【Fターム(参考)】