説明

高速増殖炉の炉心

【課題】使用済核燃料物質の再処理に要する時間を短縮することができる高速増殖炉の炉心を提供する。
【解決手段】高速増殖炉の炉心1は、複数の内側炉心燃料集合体が装荷された内側炉心燃料領域2、内側炉心燃料領域2を取り囲み、複数の外側炉心燃料集合体が装荷された外側炉心燃料領域3、および外側炉心燃料領域3を取り囲み、複数のブランケット燃料集合体が装荷された半径方向ブランケット領域6を備えている。各ブランケット燃料集合体は、混合酸化物燃料を含む燃料集合体の使用済燃料集合体における使用済燃料物質を再処理して得られたプルトニウムおよびマイナーアクチニドを含む超ウラン元素、および回収ウランを含む核燃料物質を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速増殖炉の炉心に関する。
【背景技術】
【0002】
高速増殖炉の炉心および燃料集合体は、平川直弘、岩崎智彦著「原子炉物理入門」(東北大学出版会、2003年10月30日、p279〜286)およびJAEA−Evaluation 2009−003,p.37および43,2009年に記載されている。高速増殖炉(FBR:Fast Breeder reactor)の炉心に装荷される燃料集合体は、プルトニウム(Pu)を富化した劣化ウランを含む複数の燃料ペレットを収納した複数の燃料棒を束ねた燃料棒束、この燃料棒束を取り囲む横断面が正六角形のラッパ管、燃料棒束より上方に位置している冷却材流出部、および燃料棒束の下方に位置する中性子遮蔽体および冷却材流入部(エントランスノズル)を備えている。
【0003】
FBRの炉心には、上記した複数の燃料集合体が装荷される。FBRの標準的な均質炉心は、内側炉心燃料領域および内側炉心燃料領域を取り囲む外側炉心燃料領域を有する炉心燃料領域、および炉心燃料領域、具体的には外側炉心燃料領域を取り囲む半径方向ブランケット領域を有する。外側炉心燃料領域に装荷された外側炉心燃料集合体におけるPu富化度が内側炉心燃料領域に装荷された内側炉心燃料集合体におけるPu富化度よりも高くなっている。これにより、炉心燃料領域における半径方向の出力分布が平坦化される。
【0004】
内側および外側燃料集合体のそれぞれに含まれる核燃料物質の形態としては、これ迄、金属燃料、窒化物燃料、および酸化物燃料等が検討されている。これらの核燃料物質のうち、酸化物燃料が最も実績が豊富である。内側および外側燃料集合体のそれぞれに用いられる燃料棒は、軸方向の中央部に形成された燃料領域、およびこの燃料領域の上方および下方にそれぞれ形成された軸方向ブランケット領域を有する。燃料領域は、燃料棒軸方向における長さが80〜100cm程度であり、Puおよび劣化ウランの酸化物を混合した混合酸化物燃料(MOX燃料)で作られた複数の燃料ペレットを充填している。軸方向ブランケット領域は、劣化ウランの酸化物燃料で作られた複数の燃料ペレットを充填している。内側炉心燃料領域および外側炉心燃料領域を含む炉心燃料領域は、炉心の軸方向および半径方向において、前述したMOX燃料で作られた多数の燃料ペレットを配置している領域である。
【0005】
半径方向ブランケット領域に装荷されるブランケット燃料集合体は、劣化ウランの酸化物燃料で作られた複数の燃料ペレットのみを充填した複数の燃料棒を有する。半径方向ブランケット領域および軸方向ブランケット領域では、炉心燃料領域においてMOX燃料に含まれる核分裂性物質(例えば、Pu−239)の核分裂反応で発生した中性子のうち、炉心燃料領域から漏れた中性子がU−238に吸収され、核分裂性核種であるPu−239が生成される。これらのブランケット領域は、炉心全体のPuの増殖(増殖比>1.0)に貢献する。
【0006】
FBRの起動時および停止時、および原子炉出力の調整時には、制御棒が操作される。制御棒は、炭化ホウ素(BC)の複数のペレットを充填した複数の中性子吸収棒を、横断面が正六角形であるラッパ管内に収納して構成される。制御棒として、複数の主炉停止系制御棒および複数の後備炉停止系制御棒が独立して設けられる。主炉停止系制御棒および後備炉停止系制御棒のいずれか一方のみで、FBRを緊急停止できる。
【0007】
各ブランケット領域の燃焼度は炉心燃料領域のそれよりも低い。燃料集合体を炉心から取り出したときにおけるPuの同位体組成を炉心燃料領域と各ブランケット領域で比較すると、前者の領域よりも後者の領域で核分裂性核種の割合が多くなっている。
【0008】
M. SAITOは、「Advanced Core Concepts with Enhanced Proliferation Resistance by Transmutation of Minor Actinides」, Proceedings of GLOBAL2005, Paper No. 172, 2005年において、種々の原子炉の炉心に装荷される燃料集合体に用いられる核燃料物質にマイナーアクチニド(以下、MAという)を添加し、炉心から取り出された燃料集合体内の核燃料物質に含まれる全Pu中の、Pu−238の割合を、暫定的に20%以上にして、Puの品質を原子炉級とする方策を提案している。他方、B.Pellaudは、「Proliferation aspects of plutonium recycling」, C. R. Physique 3, pp.1067-1079, (2002)において、Pu−240の割合が18%以上である核燃料物質を原子炉級Puであると定義としている。
【0009】
一般に、FBRの炉心内の炉心燃料領域に装荷する燃料集合体に用いる核燃料物質にMAを添加した場合には、ボイド反応度およびドップラー係数などの炉心の安全性に係わる反応度係数が変化する。「総説 分離変換工学」(分離変換工学専門委員会 社団法人日本原子力学会、2004年2月)のp.3−5の図3.1.9に、高速炉の炉心燃料領域に装荷される燃料集合体に含まれる核燃料物質にMAを添加した場合の、MA添加率とNaボイド反応度の関係が示されている。この図より、MA添加率の増大に伴い、ボイド反応度が増大する事が分かる。
【0010】
他方、軽水炉から高速炉への移行期には、軽水炉の使用済核燃料物質を再処理して得られるPuを使用するFBRが導入される。我が国の標準的なシナリオでは、FBRの導入は2050年頃に開始され、約60年の間に、全ての軽水炉をFBRに置き換えると考えられている。K.FUJIMURA等の「Minor Actinides-Loaded FBR Core Concept Suitable for the Introductory Period in Japan」,Journal of Power and Energy Systems, Vol.3, No.1,pp.136-145, (2009)のFig.5に、種々の軽水炉の使用済核燃料物質のPuおよびMAを合計した超ウラン元素(TRU:Transuranic elements)の燃料組成が示されている。同図より、UO燃料の場合には、燃焼度が大きいほど、またUO燃料よりもMOX燃料の方が、MAの混入割合が多く、逆に核分裂性Puの割合が小さいことが分かる。TRUを高速炉の核燃料として使用する場合、核分裂性PuがPu全体に占める重量割合が小さいと、添加すべきTRUの重量割合(=TRU富化度)が増加するので、MAの混入割合が更に大きくなる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】平川直弘、岩崎智彦著「原子炉物理入門」、東北大学出版会、pp.279―286、2003年10月30日
【非特許文献2】M. SAITO, “Advanced Core Concept with Enhanced Proliferation Resistance by Transmutation of Minor Actinides”, Proceedings of GLOBAL2005, Paper No. 172, 2005年
【非特許文献3】B. Pellaud, “Proliferation Aspects of Plutonium Recycling”, C. R. Physique 3, pp.1067-1079 (2002)
【非特許文献4】「総説 分離変換工学」、分離変換工学専門委員会 社団法人日本原子力学会、pp.3−4〜3−5、2004年2月
【非特許文献5】K. FUJIMURA, et. al., “Minor Actinides-Loaded FBR Core Concept Suitable for the Introductory Period in Japan”, Journal of Power and Energy Systems, Vol.3, No.1, pp.136-145, (2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
平川直弘、岩崎智彦著「原子炉物理入門」、東北大学出版会、pp.279―286、2003年10月30日に記載された標準的なFBRの均質炉心では、炉心燃料領域に装荷されている各燃料集合体の上下の各軸方向ブランケット領域において、核分裂性核種の割合が多いPuが生成される。このため、炉心燃料領域から取り出された使用済核燃料集合体に存在する上下の各軸方向ブランケット領域内の核燃料物質では、核分裂性核種、すなわち、Puの奇数核種の割合が多くなる。換言すれば、使用済核燃料集合体の上下の各軸方向ブランケット領域内の核燃料物質に含まれるPuの偶数核種が少ない。この核燃料物質を、核燃料再処理施設の溶解槽で溶解するとき、臨界性を考慮した場合に、軸方向ブランケット領域に存在していた核燃料物質の、溶解槽に供給する量を、少なくしなければならない。したがって、使用済の核燃料物質の再処理に要する時間が長くなる。
【0013】
FBRの炉心燃料領域から取り出された使用済核燃料集合体の全ての領域に存在するそれぞれの使用済の核燃料物質に含まれる、Puの核分裂性核種(奇数核種)の割合を減少し、核燃料物質に含まれるPuのレベルを、Puの偶数核種の割合が多い原子炉級にすることができれば、使用済の核燃料物質の再処理に要する時間を短縮することができる。
【0014】
他方、K. FUJIMURA, et. al., “Minor Actinides-Loaded FBR Core Concept Suitable for the Introductory Period in Japan”, Journal of Power and Energy Systems, Vol.3, No.1, pp.136-145, (2009)に記載されるように、軽水炉では、特に、MOX燃料を装荷する原子炉において燃焼度が高い場合、MAを含むTRU中に占める核分裂性Puの割合が50%程度と低く、かつMAの割合が高くなる。この様なTRUを炉心燃料領域に装荷される燃料集合体内の核燃料物質に含有させると、この燃料集合体に含まれる核燃料物質中のMAの割合が高くなるので、「総説 分離変換工学」、分離変換工学専門委員会 社団法人日本原子力学会、pp.3−4〜3−5、2004年2月に記載されるように、ボイド反応度の絶対値が増加する。従って、燃料有効長の長さを短くする等のボイド反応度低減策が必要となるが、炉心直径の増大などコスト上昇要因となる。その他に、上記の様なTRUを、軽水炉の使用済核燃料物質であるUOを含む使用済核燃料物質の再処理で得られるTRUと混合してFBRの核燃料物質として用いる方法があるが、これもコスト上昇要因となる。
【0015】
本発明の目的は、使用済核燃料物質の再処理に要する時間を短縮することができる高速増殖炉の炉心を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記した目的を達成する本発明の特徴は、複数の内側炉心燃料集合体が装荷された内側炉心燃料領域と、内側炉心燃料領域を取り囲み、複数の外側炉心燃料集合体が装荷された外側炉心燃料領域と、外側炉心燃料領域を取り囲み、混合酸化物燃料を含む燃料集合体の使用済燃料集合体における使用済燃料物質を再処理して得られたプルトニウムおよびマイナーアクチニドを含む超ウラン元素、および回収ウランを含む核燃料物質を有するブランケット燃料集合体が装荷された半径方向ブランケット領域とを備えたことにある。
【0017】
高速増殖炉の炉心内の炉心燃料領域に装荷する燃料集合体に用いることができない、混合酸化物燃料を含む燃料集合体の使用済燃料集合体における使用済燃料物質を再処理して得られたプルトニウムおよびマイナーアクチニドを含む超ウラン元素をブランケット燃料として有効に利用することができる。また、その使用済燃料物質を再処理して得られたプルトニウムおよびマイナーアクチニドを含む超ウラン元素、および回収ウランを含む核燃料物質を有するブランケット燃料集合体を、高速増殖炉の炉心の半径方向ブランケット領域に装荷するので、このブランケット燃料集合体が使用済燃料集合体として炉心から取り出されたとき、この使用済ブランケット燃料集合体に含まれる核燃料物質が原子炉級になり、使用済核燃料物質の再処理に要する時間を短縮することができる。
【0018】
好ましくは、ブランケット燃料集合体に含まれる核燃料物質が、その再処理において、使用済燃料燃料集合体に含まれる燃料棒の被覆管への熱負荷による脱被覆、揮発性核分裂生成物の分離、および燃料棒内の使用済ペレット燃料の粉末化の各工程を経て生成された粉末状の核燃料物質であり、ブランケット燃料集合体に含まれる燃料棒が粉末状の核燃料物質を燃料棒の被覆管内に振動充填することにより製造された燃料棒であることが望ましい。それにより、再処理工程での臨界の可能性が低くなり、再処理工程を簡素化することができる。
【0019】
好ましくは、ブランケット燃料集合体に含まれる核燃料物質が、使用済燃料集合体における使用済燃料物質中の重金属重量に対するPuの重量割合が3.3%以上になっている使用済核燃料物質のその再処理によって得られた核燃料物質であることが望ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、使用済ブランケット燃料集合体に含まれる核燃料物質が原子炉級になるため、使用済核燃料物質の再処理に要する時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の好適な一実施例である実施例1の高速増殖炉の炉心の1/2の縦断面図である。
【図2】図1に示す高速増殖炉の炉心の1/4での横断面図である。
【図3】図1に示す高速増殖炉の炉心の半径方向ブランケット領域に装荷されるブランケット燃料集合体の横断面図である。
【図4】全Puに示すPu−238およびPu−240の各割合の合計と半径方向ブランケット領域に装荷される燃料集合体の炉内滞在サイクル数との関係を示す特性図である。
【図5】ブランケット使用済核燃料物質に含まれるPuの組成に基づく原子炉級のPuの指標と、ブランケット核燃料物質の重金属に対するPuの重量割合との関係を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施例を以下に説明する。
【実施例1】
【0023】
本発明の好適な一実施例である実施例1の高速増殖炉の炉心を、図1、図2および図3を用いて説明する。
【0024】
本実施例の高速増殖炉の炉心1は、炉心中心から外側に向かって順番に配置された、内側炉心燃料領域2、外側炉心燃料領域3、半径方向ブランケット領域6および遮へい体領域7を有する。内側炉心燃料領域2が炉心1の中央部に配置され、外側炉心燃料領域3が内側炉心燃料領域2を取り囲んでいる。炉心1の炉心燃料領域が内側炉心燃料領域2および外側炉心燃料領域3を含んでいる。半径方向ブランケット領域6が外側炉心燃料領域3を取り囲み、遮へい体領域7が半径方向ブランケット領域6を取り囲んでいる。炉心1は、さらに、内側炉心燃料領域2および外側炉心燃料領域3の上方および下方にそれぞれ配置された上部ブランケット領域4及び下部ブランケット領域5を有する。炉心1は、図示されていないが、高速増殖炉の原子炉容器内に配置されている。
【0025】
図2は、高速増殖炉の炉心1の1/4横断面を示している。複数の内側炉心燃料集合体11が内側炉心燃料領域2に装荷され、複数の外側炉心燃料集合体12が外側炉心燃料領域3に装荷される。内側炉心燃料集合体11および外側炉心燃料集合体12は、それぞれ複数の燃料棒を有しており、これらの燃料棒には、混合酸化物燃料(MOX燃料)で作られた複数の燃料ペレットが充填されている。複数のブランケット燃料集合体13が半径方向ブランケット領域6に装荷される。複数の遮へい体14が遮へい体領域7に配置される。各遮へい体14の横断面は、後述するブランケット燃料集合体13と同様に、正六角形になっている。
【0026】
さらに、炭化ホウ素を充填した複数の制御棒集合体15が、内側炉心燃料領域2で内側炉心燃料集合体11の間に配置される。これらの制御棒集合体15を炉心1に出し入れすることによって、高速増殖炉の原子炉出力が制御される。
【0027】
ブランケット燃料集合体13は、図3に示すように、複数のブランケット燃料棒17および横断面が正六角形のステンレス鋼製の筒状体であるラッパ管18を有する。複数のブランケット燃料棒17はラッパ管18内で正三角形格子に配列されている。このブランケット燃料棒17は、混合酸化物燃料(MOX燃料)を含む燃料集合体を炉心に装荷して運転された軽水炉から取り出された、混合酸化物燃料(MOX燃料)を含む燃料集合体の使用済燃料集合体における使用済燃料物質を再処理して得られたプルトニウム(Pu)およびマイナーアクチニド(MA)を含む超ウラン元素(TRU)、および回収ウラン(U)を含む核燃料物質を内部に充填している。
【0028】
内側炉心燃料集合体11および外側炉心燃料集合体12も、燃料棒17内に充填される核燃料物質は異なっているが、ブランケット燃料集合体13と同様に、横断面が正六角形のステンレス鋼製の筒状体であるラッパ管18、およびラッパ管18内に正三角形格子に配列された複数の燃料棒を有している。内側炉心燃料集合体11および外側炉心燃料集合体12の各燃料棒は、核燃料物質として、酸化ウラン(UO)燃料を含む燃料集合体を炉心に装荷して運転された軽水炉から取り出された、酸化ウラン(UO)燃料を含む燃料集合体の使用済燃料集合体における使用済燃料物質を再処理して得られたPuもしくはTRU、および劣化Uの酸化物を含む核燃料物質を含んでいる。外側炉心燃料集合体12における核分裂性Pu(例えば、Pu−239)の富化度は、内側炉心燃料集合体11における核分裂性Pu(例えば、Pu−239)の富化度よりも大きくなっている。
【0029】
ここで、全Puに示すPu−238およびPu−240の各割合の合計と半径方向ブランケット領域に装荷される燃料集合体の炉内滞在サイクル数との関係を、図4を用いて説明する。図4は、本実施例の高速増殖炉の炉心1の半径方向ブランケット領域6に装荷されたブランケット燃料集合体13の炉内滞在サイクル数と、「Proliferation aspects of plutonium recycling」, C. R. Physique 3, pp.1067-1079 (2002)においてB. Pellaudが原子炉級のPu組成の判定条件の指標とした「全Pu中におけるPu−240の割合(以下、指標1という)」(18%以上が原子炉級となる条件)を参考に、発明者らがPu−240と比べて単位重量あたりの自発核分裂率および崩壊熱がいずれも大きくなるPu−238も考慮して、新たに設定した指標、「全Pu中の、Pu−238およびPu−240の各割合の合計(以下、指標2という)」との関係を示している。
【0030】
本実施例において、Pellaudの指標1に対して新たな指標2を用いる理由を以下に述べる。Puの自発核分裂および崩壊熱が大きいほど、再処理で得られたPuを含む核燃料物質の兵器への転用性は低くなる。表1に、上記の指標1および2に係るPu同位体の自発核分裂率および崩壊熱を示す。
【0031】
【表1】

【0032】
上記の指標1および2で自発核分裂率および崩壊熱の大小の関係について検討する。指標1に関しては全Pu中におけるPu−240の割合である18%が、指標2に関しては全Pu中におけるPu−238およびPu−240のそれぞれの割合の合計である18%が、それぞれPu組成が原子炉級となる判定条件である。指標2については、Pu−238の割合をX%、およびPu−240の割合を(18−X)%とする。この時、指標1に対する自発核分裂率SFは(0.9×10)×0.18となり、指標2に対する自発核分裂率SFは(2.6×10)×X/100+(0.9×10)×(0.18−X/100)となる。
【0033】
したがって、SF−SF=(2.6×10)×X/100+(0.9×10)×(0.18−X/100)−(0.9×10)×0.18=(2.6−0.9×)10×X/100となり、SF−SFは0よりも大きくなる。ゆえに、指標2を用いる方が指標1を用いる場合よりも自発核分裂率が大きくなり、指標2は兵器転用性の観点からは保守的な指標であると言える。
【0034】
同様に、指標1に対する崩壊熱DHは6.8×0.18となり、指標2に対する崩壊熱DHは560×X/100+(6.8)×(0.18−X/100)となる。
【0035】
したがって、DH−DH=560×X/100+(6.8)×(0.18−X/100)−6.8×0.18=(560−6.8)×X/100=553.2×X/100となり、DH−DHは0よりもおおきくなる。ゆえに、指標2を用いる方が指標1を用いる場合よりも崩壊熱が大きくなり、崩壊熱においても、指標2は兵器転用性の観点からは保守的な指標であると言える。
【0036】
以上の説明により、自発核分裂率および崩壊熱いずれの観点からも、新たな指標2の方が指標1よりも保守的な指標であると言える。
【0037】
本実施例の高速増殖炉の炉心1では、内側炉心燃料集合体11、外側炉心燃料集合体12およびブランケット燃料集合体13は、炉心1に装荷されてから炉心1内に4サイクル滞在した後に、炉心1から取り出される。図4において、特性44は、UO燃料を含む燃料集合体を炉心に装荷して運転された軽水炉から取り出された、UO燃料を含む燃料集合体の使用済燃料集合体における使用済燃料物質を再処理して得られたTRUおよび劣化Uの酸化物を核燃料物質として含有するブランケット燃料集合体に対する解析結果を示し、特性45は、MOX燃料を含む燃料集合体を炉心に装荷して運転された軽水炉から取り出された、MOX燃料を含む燃料集合体の使用済燃料集合体における使用済燃料物質を再処理して得られたTRUと劣化Uの酸化物を核燃料物質として含有するブランケット燃料集合体に対する解析結果を示している。さらに、図4に示された特性45−1は軽水炉の取出し燃焼度が33GWd/tの場合の解析結果、特性45−2は軽水炉の取出し燃焼度が45GWd/tの場合の解析結果、および特性45−3は軽水炉の取出し燃焼度が60GWd/tの場合の解析結果を示している。また、図4に記載された一点鎖線46は、指標2の値が18%の線である。
【0038】
本実施例によれば、半径方向ブランケット領域6に装荷されるブランケット燃料集合体13に、MOX燃料を含む燃料集合体を炉心に装荷して運転された軽水炉から取り出された、MOX燃料を含む燃料集合体の使用済燃料集合体における使用済燃料物質を再処理して得られたTRU、および回収Uの酸化物を含む核燃料物質を用いるので、図4から明らかであるように、4サイクル経過後に炉心1から取り出された使用済みのブランケット燃料集合体13内の使用済核燃料物質に含まれるPuを原子炉級にすることができる。このため、使用済みのブランケット燃料集合体13内の使用済核燃料物質の再処理に要する時間を短縮することができる。また、炉心1内の炉心燃料領域に装荷する内側炉心燃料集合体11および外側炉心燃料集合体12の核燃料物質として用いることができない、MOX燃料を含む燃料集合体の使用済燃料集合体における使用済燃料物質を再処理して得られたTRUを、ブランケット燃料として有効に利用することができる。
【0039】
さらに、炉心1の炉心燃料領域に装荷される内側炉心燃料集合体11および外側炉心燃料集合体12に、核燃料物質として、UO燃料を含む燃料集合体を炉心に装荷して運転された軽水炉から取り出された、UO燃料を含む燃料集合体の使用済燃料集合体における使用済燃料物質を再処理して得られたPuもしくはTRU、および劣化Uの酸化物を含む核燃料物質を用いることによって、炉心1のボイド反応度を6$以下にすることができ、万が一の炉心損傷を想定した場合においても、炉心1の安全性を十分確保することができる。かつ、本実施例の炉心1では、大部分が劣化ウランの酸化物であるUO燃料を半径方向ブランケット領域6に装荷することによって、平衡サイクル中期における増殖比約1.2を達成できる。
【実施例2】
【0040】
本発明の他の実施例である実施例2の高速増殖炉の炉心を以下に説明する。本実施例の高速増殖炉の炉心は、実施例1の炉心1において、ブランケット燃料集合体13の各燃料棒17内に充填する核燃料物質をペレットではなく、粉末状にした構成を有する。本実施例の高速増殖炉の炉心の他の構成は実施例1の炉心1の構成と同じである。
【0041】
MOX燃料を含む燃料集合体を炉心に装荷して運転された軽水炉から取り出された、MOX燃料を含む燃料集合体の使用済燃料集合体におけるペレット状の使用済燃料物質を再処理する際に、この使用済核燃料物質を燃料棒内に装填した状態で、燃料棒内のペレット状の使用済核燃料物質が酸化しやすいように、燃料棒の被覆管をせん断し、もしくはその被覆管に穴を開けて、その後、この被覆管を加熱することにより内部に存在するそのペレット状の使用済核燃料物質を高温で酸化させ、ペレット状の使用済核燃料物質に含まれるUOがUへ転換する過程で、被覆管の加熱によって被覆管内の燃料ペレットが熱膨張しこの燃料ペレットの体積増加に伴って発生する引っ張り応力を利用して被覆管を破壊し、脱被覆を行う。本実施例では、このように加熱により被覆管に熱負荷が加えられて脱被覆が行われる。併せて、ペレット状の使用済核燃料物質の粉体化、およびよう素(I)およびキセノン(Xe)等の揮発性核分裂生成物(FP)分離を行い、残りのFPを内包するUを水素添加雰囲気での還元によってUOに戻した後、粉末状にする。生成された粉末状の核燃料物質を被覆管内に振動充填して他数本の燃料棒を製造する。これらの燃料棒を用いてブランケット燃料集合体13を製造し、製造された複数のブランケット燃料集合体13が、本実施例の高速増殖炉の炉心の半径方向ブランケット領域に装荷される。
【0042】
本実施例の高速増殖炉の炉心は、実施例1の高速増殖炉の炉心1で生じる各効果を得ることができる。さらに、本実施例の高速増殖炉の炉心の半径方向ブランケット領域に装荷されるブランケット燃料集合体13に用いられる燃料棒は、被覆管内に粉末状の核燃料物質を振動充填して製造されるので、上記した粉末状の核燃料物質を得るための再処理工程は、実施例1に用いられるブランケット燃料集合体13の燃料棒内に充填する燃料ペレットの製造に使用される核燃料物質を得るための再処理工程に比べて、再処理工程での臨界の可能性が低くなり、再処理工程を簡素化することができる。ちなみに、実施例1に用いられるブランケット燃料集合体13の燃料棒内に充填する燃料ペレットの製造に使用される核燃料物質を得るための再処理工程は、MOX燃料を含む燃料集合体を炉心に装荷して運転された軽水炉から取り出された、MOX燃料を含む燃料集合体の使用済燃料集合体における使用済燃料物質を硝酸で溶かしてPuおよびTRUを抽出する必要がある。また、表2に示すように、固体FPがブランケット燃料集合体13内の粉末状の核燃料物質に含まれたまま、炉心内で中性子の照射を受けるので、テクネチウム99(Tc−99)およびセシウム135(Cs−135)等の長半減期FPを炉心内で消滅させることができる。
【0043】
【表2】

【実施例3】
【0044】
本発明の他の実施例である実施例3の高速増殖炉の炉心を、図5を用いて説明する。本実施例の高速増殖炉の炉心は、半径方向ブランケット領域6に装荷されるブランケット燃料集合体13の燃料棒内に充填される核燃料物質として、MOX燃料を含む燃料集合体を炉心に装荷して運転された軽水炉から取り出された、MOX燃料を含む燃料集合体の使用済燃料集合体における使用済燃料物質を再処理して得られたTRUと劣化Uの酸化物を含む核燃料物質を用いている。この使用済核燃料物質は、使用済核燃料物質中の重金属重量に対するPuの重量割合が3.3%以上になっている。本実施例の高速増殖炉の炉心の他の構成は、実施例1における高速増殖炉の炉心1の構成と同じである。
【0045】
図5に示された特性54は、使用済のブランケット燃料集合体13内の使用済核燃料物質に含まれるPuの組成に基づく原子炉級Puの指標2と、炉心へ装荷する時点におけるブランケット燃料集合体に含まれる核燃料物質における重金属に対するPuの重量割合との関係を示したものである。特性54は解析結果である。
【0046】
特性54に基づいて、ブランケット燃料集合体に含まれる核燃料物質における重金属に対するPuの重量割合が大きい程、原子炉級Puの指標2が大きくなり、Pu重量割合が3.3%以上になると、原子炉級Puの指標2が18%以上となり、原子炉級Puとなる条件を満足できることが分かる。
【0047】
従って、MOX燃料を含む燃料集合体の使用済燃料集合体における使用済燃料物質中の重金属重量に対するPuの重量割合が3.3%以上になっている使用済核燃料物質の再処理によって得られる核燃料物質を含むブランケット燃料集合体13を、半径ブランケット領域6に装荷して本実施例の高速増殖炉の炉心を構成することによって、このブランケット燃料集合体13を炉心に装荷してから4サイクルが経過した後に炉心から取り出された使用済ブランケット燃料集合体13内の使用済核燃料物質の再処理に要する時間を短縮することができる。
【符号の説明】
【0048】
1…炉心、2…内側炉心燃料領域、3…外側炉心燃料領域、4…上部ブランケット燃料領域、5…下部ブランケット燃料領域、6…半径方向ブランケット領域、7…遮へい体領域、11…内側炉心燃料集合体、12…外側炉心燃料集合体、13…ブランケット燃料集合体、14…遮へい体、17…ブランケット燃料棒、18…ラッパ管。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の内側炉心燃料集合体が装荷された内側炉心燃料領域と、前記内側炉心燃料領域を取り囲み、複数の外側炉心燃料集合体が装荷された外側炉心燃料領域と、前記外側炉心燃料領域を取り囲み、混合酸化物燃料を含む燃料集合体の使用済燃料集合体における使用済燃料物質を再処理して得られたプルトニウムおよびマイナーアクチニドを含む超ウラン元素、および回収ウランを含む核燃料物質を有するブランケット燃料集合体が装荷された半径方向ブランケット領域とを備えたことを特徴とする高速増殖炉の炉心。
【請求項2】
前記ブランケット燃料集合体に含まれる前記核燃料物質が、前記再処理において、前記使用済燃料燃料集合体に含まれる燃料棒の被覆管への熱負荷による脱被覆、揮発性核分裂生成物の分離、および前記燃料棒内の使用済ペレット燃料の粉末化の各工程を経て生成された粉末状の核燃料物質であり、前記ブランケット燃料集合体に含まれる燃料棒が前記粉末状の核燃料物質を前記燃料棒の被覆管内に振動充填することにより製造された燃料棒である請求項1に記載の高速増殖炉の炉心。
【請求項3】
前記ブランケット燃料集合体に含まれる前記核燃料物質が、前記使用済燃料集合体における前記使用済燃料物質中の重金属重量に対するPuの重量割合が3.3%以上になっている前記使用済核燃料物質の前記再処理によって得られた核燃料物質である請求項1に記載の高速増殖炉の炉心。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−29403(P2013−29403A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−165252(P2011−165252)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)