説明

高速用転がり軸受

【課題】少ないグリース封入量であっても、例えばピッチ円径dm( mm )と回転数N( rpm )との積であるdmN値が 170 万以上という高速回転に十分に対応でき、工作機械等のコンパクト化や運転経費の削減を可能にする高速用転がり軸受を提供する。
【解決手段】内輪2の外径面2a、外輪3の内径面3aおよび転動体4の表面から選ばれた少なくとも一つに被膜を形成し、この内輪2および外輪3との間に介在する複数の転動体4の周囲にグリースを封入してなる高速用転がり軸受1であって、上記グリースはウレア系化合物を増ちょう剤とするウレアグリースに、ウレア系化合物を含まない非ウレアグリースを配合してなり、上記ウレア系化合物は、ポリイソシアネート成分と、脂肪族モノアミンおよび脂環式モノアミンから選ばれた少なくとも1つのモノアミンをモノアミン全体に対して 50 モル%以上含有するモノアミン成分とを反応して得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械主軸(スピンドル)などの高速回転軸を支持する高速用転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械の主軸は、加工能率を上げるために高速で回転するものが好ましく、その軸受には種々の潤滑技術が適用されている。高速回転する主軸に適した潤滑方法としては、例えば、オイルミスト潤滑、エアオイル潤滑、ジェット潤滑などの方法が知られている。
しかし、このような潤滑方法は、圧縮空気や給油装置などの付帯設備が必要なものであり、工作機械のイニシャルコストおよびランニングコストを高める原因の一つであり、これらに対してグリース潤滑は、メンテナンスの必要が少なくて好ましい潤滑方法であるといえる。例えば、2000〜8000 rpm またはそれ以上の高速で回転する回転軸を支持する高速用転がり軸受としては、工作機械主軸(スピンドル)などを支持するアンギュラ玉軸受や円筒ころ軸受などが挙げられる。
【0003】
図2に示すようにアンギュラ玉軸受11は、ラジアル荷重のほかに一方向からのアキシャル荷重を負荷することができるものであり、鋼球14と内輪12および外輪13との接触点を結ぶ直線がラジアル方向に対して角度(接触角)αをもっている。内輪12と外輪13と鋼球14とで形成される軸受空間に、グリースが封入されている。
アンギュラ玉軸受や円筒ころ軸受などからなる高速用転がり軸受に使用される潤滑剤としては、給油などのメンテナンスが必要でなく、周囲の環境を汚染しないちょう度に調整された潤滑グリースを採用することが好ましい。
【0004】
以下に、スピンドル用転がり軸受などの高速用転がり軸受に用いられるグリースに要求される潤滑特性と問題点をまとめて示す。
(a)長寿命性転がり軸受の潤滑寿命を可及的に延長するためには、以下の(i) 〜(iii) に説明するように、転がり軸受から潤滑剤(グリースまたはその基油)が漏れにくいこと、グリースの耐熱性に優れること、潤滑に必要な油膜厚さを形成できることが必要である。
【0005】
(i) 転がり軸受を高速運転するとき、遠心力によって転がり軸受内のグリースまたはグリースが軸受外部へ流出するか、またはグリース中の基油が分離流出して、潤滑への寄与が大きい転走面近傍に留まり難く、潤滑不良になりやすい。そのような事態を防止するために、シールド板などのシール部材を転がり軸受に装着する対応がなされるが、軸受の構造によっては装着できない場合があり、またシール部材を装着しても潤滑剤や潤滑油を完全に密封できない場合もある。
高速運転されない転がり軸受の場合、転動体や保持器の運動により摩擦部分から押し出されてしまう余分なグリースは、回転条件によっては軸受内部をある程度還流して再び潤滑に寄与することが考えられる。しかし、高速で回転する工作機械などの回転軸支持用転がり軸受では、軸受内部に発生する風圧がこの還流を妨げるため、グリースが転走部へ供給されにくく、潤滑不良を起こしやすくなる。このため、高速で回転する転がり軸受では、僅かな量のグリースしか潤滑に寄与しておらず、グリースの性状は特に重要となる。また、高速用転がり軸受に用いられるグリースは、少量のグリースでも潤滑性能を維持する必要がある。
【0006】
(ii) 運転条件が高速化すると軸受の転がり面は局部的に発熱して高温度になり、このとき耐熱性の乏しいグリースは熱劣化し、グリースの寿命は著しく縮まる。このような問題に対しては、耐熱性のある増ちょう剤や基油を使用したり、酸化防止剤を添加したりする試みがなされた。しかし、これらの試みは、耐久性の十分な向上には至らなかった。
(iii) 潤滑性(油膜厚さ)を向上させた従来のグリースは、基油粘度を高くすると剪断摩擦抵抗が上昇して回転トルクが増加し、発熱量が増大するので、これらを抑制するために基油粘度は低く抑えている。そのため、高速に伴う温度上昇で低粘度となった潤滑油の油膜は薄くなって摺動摩耗を起こす場合があった。
【0007】
(b)低トルク性(温度上昇の抑制性)について既存の高速軸受用のグリースは、前述のように基油粘度を低く抑えているが、軸受が高速度で回転すると、温度上昇により粘度が著しく低下し、潤滑に必要な厚さの油膜を形成できなくなるという問題がある。
【0008】
(c)低振動性グリースについては、増ちょう剤の種類によって軸受の振動を増大させる場合がある。すなわち、大きくて硬い凝集体を形成する増ちょう剤を含有するグリースでは潤滑する転がり軸受の振動は大きくなる。
【0009】
このように従来のグリースは、高速用転がり軸受に用いた場合に軸受の長寿命性、低トルク性および低振動性といった所要物性を満足させることができないという問題点があった。対策として、ウレア化合物を配合したグリースが提案されている(特許文献1〜特許文献3参照)が、油消費量が大きくなり、より高速性能を得るためには不十分である。
例えば、特許文献3には、40 ℃における動粘度が 15 mm2/sec 以上 40 mm2/sec 以下である基油と、含有量がグリース組成物全体の 9 質量%以上 14 質量%以下であるジウレア化合物の増ちょう剤とを含有し、混和ちょう度が 220 以上 320 以下であるグリース組成物が開示されている。
しかし、上記グリース組成物においても、増ちょう剤の配合量を減らし、グリース封入量を少なくすることが困難であり、軸受の高速回転に十分に対応でき、工作機械のコンパクト化や運転経費の削減を可能にすることは困難である。
また、近年ますます転がり軸受の使用状態が過酷になり、ピッチ円径dm( mm )と回転数N( rpm )との積であるdmN値が 170 万以上という高速回転で使用されるスピンドル用転がり軸受なども多くなってきている。このような軸受の回転速度の高速化に伴って、既存のグリースで軸受に要求される性能を全て満足させることは困難である。
【特許文献1】特開2000−169872号公報
【特許文献2】特開2003−83341号公報
【特許文献3】特開2006−29473号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、少ないグリース封入量であっても、例えばピッチ円径dm( mm )と回転数N( rpm )との積であるdmN値が 170 万以上という高速回転に十分に対応でき、工作機械等のコンパクト化や運転経費の削減を可能にする高速用転がり軸受の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の高速用転がり軸受は、高速回転する軸を支持する高速用転がり軸受であって、該転がり軸受は、内輪および外輪と、この内輪および外輪間に介在する複数の転動体と、上記内輪および外輪間の隙間の開口を覆うシール部材とを備え、上記内輪の外径面、上記外輪の内径面および上記転動体の表面から選ばれた少なくとも一つに被膜が形成され、上記転動体の周囲にグリースを封入してなることを特徴とする。特に上記被膜は、金属めっき処理またはリン酸被膜処理により形成される被膜であることを特徴とする。
【0012】
また、上記グリースは、ウレア系化合物を増ちょう剤とするウレアグリースに、上記ウレア系化合物を含まない非ウレアグリースを配合してなり、上記ウレア系化合物は、ポリイソシアネート成分とモノアミン成分とを反応して得られ、上記モノアミン成分が脂肪族モノアミンおよび脂環式モノアミンから選ばれた少なくとも1つのモノアミンをモノアミン全体に対して 50 モル%以上含有するモノアミン成分であることを特徴とする。
【0013】
上記非ウレアグリースの増ちょう剤は、複合石けん系増ちょう剤またはNaテレフタラメートであり、上記非ウレアグリース全体に対する配合割合が 10 重量%〜40 重量%であることを特徴とする。
また、上記ウレアグリースおよび非ウレアグリースの基油は、40℃における動粘度が 15 mm2/sec 〜40 mm2/sec であることを特徴とする。特にウレアグリースの基油が合成炭化水素油、エステル油およびアルキルジフェニルエーテル油から選ばれた少なくとも1つの油であることを特徴とする。
【0014】
上記高速用転がり軸受が工作機械の主軸を支持する軸受であることを特徴とする。また、該軸受は、アンギュラ玉軸受または円筒ころ軸受であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の高速用転がり軸受は、封入されるグリースが、所定のウレア系化合物を増ちょう剤とするウレアグリースに、上記ウレア系化合物を含まない非ウレアグリースを配合してなるので、少量のグリース封入量であっても、耐荷重性を保ちつつ高速回転下で軌道面への油の供給能力に優れる。
また、上記ウレア系化合物を構成するモノアミン成分は、脂肪族モノアミンおよび脂環式モノアミンから選ばれた少なくとも1つのモノアミンをモノアミン全体に対して 50 モル%以上含有するので、増ちょう剤の高速下でのせん断力に容易に破壊されず、増ちょう剤繊維の毛細管現象により、転走面に安定的にグリース中の油分を供給することができる。
【0016】
本発明の高速用転がり軸受は、上記グリースを封入するので、高遠心力が負荷された状態でグリースが軸受外に流出せず、かつ軸受潤滑に必要な油量が長期間安定して供給され、高速で摺接する軌道面に対して潤滑に所要の厚さの油膜を形成する。このため高速回転下での軸受耐久寿命が向上する。
【0017】
さらに、上記内輪の外径面、上記外輪の内径面および上記転動体の表面から選ばれた少なくとも一つに、金属めっき処理やリン酸被膜処理により被膜が形成されているので、その接触面の極小油供給状態での潤滑能力が飛躍的に向上し、極小油供給状態でのグリース寿命の延命効果が格段に向上する。また、転走部から排除され周辺に堆積されたグリースからの油供給が困難になった状況でも、被膜の効果により、基油の拡散を容易にさせることで濡れ性を高め、グリース寿命(焼き付き)を延命させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の高速用転がり軸受は構造的には特に制限されるものではなく、例えば図1に示されるアンギュラ玉軸受1を例示することができる。図1はグリース封入アンギュラ玉軸受を示す縦断面図である。
このアンギュラ軸受は、図1に示すように、内輪2と外輪3との間に転動体4が保持器5に保持された軸受空間を、外輪3の内周面に設けられた係止溝に固定したシール部材6で密封したアンギュラ玉軸受である。少なくとも転動体4の周囲にグリースが封入され、外輪3の内径面に周溝状のグリースポケット7を形成して、グリースの漏洩を物理的に防止している。転動体4と、内輪2および外輪3との接触点を結ぶ直線がラジアル方向に対して接触角βを有しており、ラジアル荷重と一方向のアキシャル荷重を負荷することができる。また、転動体4は、窒化珪素や炭化珪素等のセラミック製とすることもできる。また、本発明においては、内輪2と外輪3と転動体4とで形成される軸受空間に後述するグリースが封入される。
【0019】
本発明の高速用転がり軸受は、軸受空隙部の容積の 1 体積%以上 10 体積%未満のグリースを封入することが好ましい。1 体積%未満であると、潤滑に必要なグリース量が不足して枯渇し、耐久性に劣る。10 体積%以上であると、撹拌によるトルク増による発熱で耐久性が向上しないし、また、コスト増につながり環境上も好ましくない。
【0020】
本発明の高速用転がり軸受としては、図1に示すアンギュラ玉軸受のほか、深溝玉軸受、円筒ころ軸受、円すいころ軸受、自動調心ころ軸受、針状ころ軸受、スラスト円筒ころ軸受、スラスト円すいころ軸受、スラスト針状ころ軸受、スラスト自動調心ころ軸受等も使用できる。これらの中で高速回転での回転精度と耐荷重性能を両方備えることから、アンギュラ玉軸受または円筒ころ軸受を用いることが好ましい。
【0021】
本発明の高速用転がり軸受は、内輪2の外径面2a、外輪3の内径面3aおよび転動体4の表面から選ばれた少なくとも一つに被膜が形成される。これらの被膜は、各面に所定の表面処理を施すことで形成できる。表面処理としては、転動による摩擦を軽減し、剥離しにくいものが好ましい。潤滑性に優れ、容易にはがれにくい表面処理として、特に金属めっき処理またはリン酸被膜処理が好ましい。
【0022】
金属めっき処理としては、電気めっき、無電解めっきのいずれの方法でもよい。使用する金属は、Cu、Ag、Ni、Zn、Sn等の軟質でかつ母材である軸受鋼との密着性に優れた金属が好ましい。
【0023】
リン酸被膜処理は、例えば、軌道輪等をリン酸トリエステル溶液中に浸漬してこれらの表面にリン酸金属塩被膜を形成する処理である。リン酸トリエステルは、(RO)3P=O(式中、Rはアリール基、脂肪族炭化水素基、脂環族炭化水素基を表す)で表される有機リン酸化合物であり、このものは可塑剤などとして市販の工業用材料を用いることができる。これらのリン酸トリエステルとしては、リン酸トリクレジル(CH364O)3PO、リン酸トリフェニル(C65O)3PO、リン酸トリブチル(C49O)3PO等が挙げられる。上記したようなリン酸トリエステルは、取り扱い性の必要に応じて有機溶剤で希釈して用いればよい。このようなリン酸トリエスエルと軸受鋼を反応させて、その表面にリン酸金属塩被膜を形成するには、反応速度を上げるために加温しながら行なえばよく、例えば 60℃前後で 1〜2 時間浸漬すれば十分な厚さの被膜を形成できる。
また、後述のグリース中にリン酸トリエステルを予め混入しておくことで、軸受の運転に伴う温度上昇により、転動体と内・外輪の接触面にリン酸金属塩被膜を形成することも可能である。この方法では、被膜の摩耗を常に補完することが期待できるという長所がある。
【0024】
本発明の高速用転がり軸受は、その軌道輪表面や転動体表面に所定の被膜が施されることに加えて、以下の、ウレア系化合物を増ちょう剤とするウレアグリースに、ウレア系化合物を含まない非ウレアグリースを配合してなるグリースを使用することを特徴としている。
【0025】
上記ウレアグリースおよび非ウレアグリースに使用できる基油は、40℃における動粘度(以下、単に動粘度と記す)が 15〜40 mm2/sec の潤滑油を用いることができる。特に、動粘度が 18〜30 mm2/sec の潤滑油が好ましい。動粘度が 15 mm2/sec 未満の場合、粘度が低すぎて十分な耐荷重性が得られない。また、動粘度が 40 mm2/sec をこえる場合、高速回転に伴って軌道面への油の供給が不足し、早期に軸受寿命に至るようになる。
【0026】
上記ウレアグリースの基油の種類としては、合成炭化水素油、エステル油、アルキルジフェニルエーテル油、またはこれらの混合油が好ましい。
また、合成炭化水素油、エステル油、アルキルジフェニルエーテル油、それぞれの動粘度が 15〜40 mm2/sec であることが好ましい。この範囲であると混合油とした場合であっても、動粘度の範囲を 15〜40 mm2/sec とすることができる。混合油とする場合、合成炭化水素油を必須成分とすることが好ましく、また、合成炭化水素油はエステル油またはアルキルジフェニルエーテル油よりも重量割合で同量以上であることが好ましい。
【0027】
合成炭化水素系油としては、例えばノルマルパラフィン、イソパラフィン、ポリブテン、ポリイソブチレン、1-デセンオリゴマー、1-デセンとエチレンコオリゴマー等のポリ-α-オレフィン等が挙げられる。
エステル油としては、例えばジブチルセバケート、ジ-2-エチルヘキシルセバケート、ジオクチルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジトリデシルタレート、メチル・アセチルシノレート等のジエステル油、トリオクチルトリメリテート、トリデシルトリメリテート、テトラオクチルピロメリテート等の芳香族エステル油、トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンベラルゴネート、ペンタエリスリトール-2-エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールベラルゴネート等のポリオールエステル油、炭酸エステル油等が挙げられる。
アルキルジフェニルエーテル油としては、モノアルキルジフェニルエーテル、ジアルキルジフェニルエーテル、ポリアルキルジフェニルエーテル等が挙げられる。
【0028】
上記ウレア系化合物(ウレア系増ちょう剤)は、ポリイソシアネート成分とモノアミン成分とを反応して得られる。
ポリイソシアネート成分としては、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、オクタデカンジイソシアネート、デカンジイソシアネート、ヘキサンジイソシアネー卜等が挙げられる。これらの中でも芳香族ジイソシアネートが好ましい。
また、ジアミンと該ジアミンに対してモル比で過剰のジイソシアネートとの反応で得られるポリイソシアネートを使用することができる。ジアミンとしては、エチレンジアミン、プロパンジアミン、ブタンジアミン、ヘキサンジアミン、オクタンジアミン、フェニレンジアミン、トリレンジアミン、キシレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン等が挙げられる。
【0029】
モノアミン成分は、脂肪族モノアミンおよび脂環式モノアミンから選ばれた少なくとも1つのモノアミンをモノアミン全体に対して 50 モル%以上、好ましくは 80 モル%以上含有するモノアミン成分である。50 モル%以上含むことにより増ちょう剤のせん断安定性が強く、高速下でも容易に破壊されず、増ちょう剤の毛細管現象により、グリース中の基油を転走部に供給できる。
脂肪族モノアミンおよび脂環式モノアミン以外のモノアミンとしては芳香族モノアミンが挙げられる。
脂肪族モノアミンとしては、ヘキシルアミン、オクチルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミンが挙げられ、これらの中でもオクチルアミンが好ましい。
脂環式モノアミンとしては、シクロヘキシルアミンなどが挙げられる。
芳香族モノアミンとしては、アニリン、p-トルイジンが挙げられ、これらの中でp-トルイジンが好ましい。
【0030】
上記ウレア系増ちょう剤は、ウレアグリース全体に対して、3〜20 重量%の割合で配合することが好ましい。特に、5〜15 重量%の配合量とすることが好ましい。ウレアグリースとして、配合量が 3 重量%未満では基油保持能力が十分ではなく、特に回転初期に一時に大量の油分が分離してグリースの漏洩が起こり、軸受耐久寿命が短くなる。また、配合量が 20 重量%をこえると、相対的に基油の量が少なくなり、油供給性が不十分で、早期に潤滑不足に陥って同様に軸受耐久寿命が短くなる。
【0031】
上記非ウレアグリースの基油の種類としては、ウレアグリースの基油として用いられる合成炭化水素油、エステル油、アルキルジフェニルエーテル油、またはこれらの混合油に加えて、鉱油、フッ素油、シリコーン油等を単独または混合して使用できる。
鉱油としては、原油から得られる潤滑油を減圧蒸留、油剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、硫酸洗浄、白土精製、水素化精製等の精製を行ったものを用いることができる。
フッ素油としては、脂肪族炭化水素ポリエーテルの水素原子をフッ素原子で置換した化合物であれば使用でき、例えばパーフルオロポリエーテル油が挙げられる。パーフルオロポリエーテル油を例示すれば、フォンブリンY(モンテジソン社商品名)およびクライトックス(デュポン社商品名)などの側鎖を有するパーフルオロポリエーテルや、フォンブリンZ(モンテジソン社商品名)、フォンブリンM(モンテジソン社商品名)およびデムナム(ダイキン社商品名)などの直鎖状のパーフルオロポリエーテルが挙げられる。
シリコーン油としては、ジメチルシリコーン油やメチルフェニルシリコーン油等のいわゆるストレートシリコーン油、およびアルキル変性シリコーン油やアラルキル変性シリコーン油等のいわゆる変性シリコーン油のいずれも使用できる。
【0032】
上記非ウレアグリースの増ちょう剤(非ウレア系増ちょう剤)としては、油分離性に優れた金属石けん、Naテレフタラメート、ポリテトラフルオロエチレン樹脂が挙げられる。これらの中でも、金属石けんが好ましい。金属石けん系増ちょう剤としては、ステアリン酸リチウム、12-ヒドロキシステアリン酸リチウムなどのリチウム石けん、複合リチウム石けんが挙げられる。また、バリウム石けん、複合バリウム石けん、アルミニウム石けん、複合アルミニウム石けん、カルシウム石けん、複合カルシウム石けん、ナトリウム石けん、複合ナトリウム石けん等を挙げることができる。これらの中で油供給性とせん断安定性に優れた複合リチウム石けん、複合バリウム石けん、Naテレフタラメートが好ましい。
【0033】
上記非ウレアグリースは、グリース全量に対して 10〜80 重量%の割合で配合することが好ましい。特に、20〜50 重量%の配合量とすることが好ましい。非ウレアグリースとして、配合量が 10 重量%未満では転走部への油供給性が悪い。また、配合量が 80 重量%をこえると、高速下で増ちょう剤の繊維が破壊されやすく、増ちょう剤の毛細管現象により基油を転走部へ供給できない。
非ウレアグリースの増ちょう剤は、非ウレアグリース全量に対して 10〜40 重量%含有することが好ましい。10 重量%以下であるとグリースが軟質でせん断により軸受から容易に漏れやすく、40 重量%をこえるとグリース中の油分が少なく、油供給性が悪くなるおそれがある。
【0034】
また、本発明においてウレアグリースと非ウレアグリースとの混合グリースには、必要に応じて公知のグリース用添加剤を含有させることができる。この添加剤として、例えば、有機亜鉛化合物、アミン系、フェノール系化合物等の酸化防止剤、ベンゾトリアゾールなどの金属不活性剤、ポリメタクリレート、ポリスチレン等の粘度指数向上剤、二硫化モリブデン、グラファイト等の固体潤滑剤、金属スルホネート、多価アルコールエステルなどの防錆剤、有機モリブデンなどの摩擦低減剤、エステル、アルコールなどの油性剤、リン系化合物などの摩耗防止剤等が挙げられる。これらを単独または 2 種類以上組み合せて添加できる。これらの添加剤の含有量は、個別にはグリース全量の 0.05 重量%以上、合計量でグリース全量の 0.15〜10 重量%の範囲となることが好ましい。特に、合計量で 10 重量%をこえる場合は、含有量の増加に見合う効果が期待できないばかりか、相対的に他の成分の含有量が少なくなり、またグリース中でこれら添加剤が凝集し、トルク上昇等の好ましくない現象を招くこともある。
【実施例】
【0035】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに説明するが、本発明はこれにより何ら制限されるものではない。
<ウレアグリースの調製>
ウレアグリースU1〜ウレアグリースU3
表1に示した基油の半量に、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(日本ポリウレタン工業社製、ミリオネートMT、以下、MDIと記す)を表1に示す割合で溶解し、残りの半量の基油にMDIの2倍当量となるモノアミンを溶解した。それぞれの配合割合および種類は表1のとおりである。
MDIを溶解した溶液を撹拌しながらモノアミンを溶解した溶液を加えた後、100〜120℃で 30 分間撹拌を続けて反応させて、ジウレア化合物を基油中に生成させウレアグリース試料を得た。
【0036】
<非ウレアグリースの調製>
非ウレアグリースNU1〜非ウレアグリースNU3
表1に示した基油に、増ちょう剤を溶解させ、非ウレアグリース試料を得た。それぞれの配合割合および種類は表1のとおりである。
なお、Naテレフタラメートについてはメチルテレフタレートモノ-N-オクタデシルアミドを、基油を溶媒として水酸化ナトリウムと反応させ、ナトリウム-N-オクタデシルテレフタラメートを生成させた。
【0037】
【表1】

【0038】
実施例1〜実施例4
上記ウレアグリースと非ウレアグリースとを表2に示す割合で混合しグリース試料を得た。このグリース試料を以下に示す遠心油分離試験および常温高速グリース試験に供し、遠心離油度およびグリース寿命時間を測定した。これらの測定結果を表2に併記する。
【0039】
比較例1〜比較例7
表2に示したウレアグリースまたは非ウレアグリース(比較例7は併用)をグリース試料とした。このグリース試料について実施例1と同様の項目を測定した。これらの測定結果を表2に併記する。
【0040】
<遠心油分離試験>
遠心分離機を用い、50 g のグリース試料を遠心分離管に入れ、40℃で 23000 G の加速度を 7 時間かけたときの遠心離油度を次式により求めた。
(遠心離油度、%)=(1−試験前の増ちょう剤濃度/試験後の増ちょう剤濃度)×100
【0041】
<常温高速グリース試験−深溝玉軸受(6204)>
実施例1、比較例1および比較例2では、シアン化銅めっき浴(シアン化第一銅、シアン化ナトリウム、水酸化カリウム、50〜60℃)を用い、深溝玉軸受(6204)の内輪外径、外輪内径に金属めっき処理を施して、これを試験軸受とした。形成されためっき膜厚は、概ね 20μm である。実施例2および実施例3では、リン酸トリクレジル 7.36 g を2-プロパノールで希釈して 200 ml のリン酸トリトリクレジル溶液を調製し、この溶液に深溝玉軸受(6204)の内外輪を溶液温度 60℃で 2 時間浸漬し、表面にリン酸金属塩被膜を形成した。これを試験軸受とした。また、比較例3〜比較例7では、被膜を形成しない深溝玉軸受(6204)を試験軸受とした。
これらの試験軸受に表2に示すグリース試料を転走面狙いで 0.0235 g(軸受全空間容積の約 0.5 体積%)封入し、非接触シールして試験軸受を作成した。試験軸受に、アキシャル荷重 670 N とラジアル荷重 67 N とを負荷し、常温環境下で 10000 rpm の回転速度で回転させ、焼き付きに至るまでの時間をグリース寿命時間として測定した。この耐久試験における軸受のピッチ円径( mm )と回転数( rpm )との積であるdmN値は 34 万である。
【0042】
<常温高速グリース試験−アンギュラ玉軸受>
比較例1および比較例2では、シアン化銅めっき浴(シアン化第一銅、シアン化ナトリウム、水酸化カリウム、50〜60℃)を用い、アンギュラ玉軸受(外径 150 mm×内径 100 mm、内外輪SUJ2、転動体 13/32インチ窒化珪素球)の内輪外径、外輪内径に金属めっき処理を施して、これを試験軸受とした。形成されためっき膜厚は、概ね 20μm である。実施例2では、リン酸トリクレジル 7.36 g を2-プロパノールで希釈して 200 ml のリン酸トリトリクレジル溶液を調製し、この溶液にアンギュラ玉軸受(上記と同じ)の内外輪を溶液温度 60℃で 2 時間浸漬し、表面にリン酸金属塩被膜を形成した。これを試験軸受とした。また、比較例3および比較例5では、被膜を形成しないアンギュラ玉軸受(上記と同じ)を試験軸受とした。
これらの試験軸受に表2に示すグリース試料を転走面狙いで 3.0 g (軸受全空間容積の約 10 体積%)封入し、非接触シールして試験軸受を作成した。試験軸受を、1.8 GPa 定圧与圧下で、外筒冷却により軸受を冷却し、軸受外輪を 50℃以下に保ちつつ 14500 rpm の回転速度で回転させ、焼き付きに至るまでの時間をグリース寿命時間として測定した。この耐久試験における軸受のピッチ円径( mm )と回転数( rpm )との積であるdmN値は 185 万である。測定結果を表1に併記する。
【0043】
【表2】

【0044】
表2に示すように、高速用転がり軸受に封入するグリースとしては、(1)ウレアグリースと非ウレアグリースとを配合したグリースであり、ウレアグリースの増ちょう剤がポリイソシアネート成分とモノアミン成分とを反応して得られ、モノアミン成分が脂肪族モノアミンおよび脂環式モノアミンから選ばれた少なくとも1つのモノアミンをモノアミン全体に対して 50 モル%以上含有するモノアミン成分であること、(2)非ウレア系増ちょう剤として、特に石けん系増ちょう剤を使用すること、(3)基油は動粘度が 15〜40 mm2/sec であることが好ましいことがわかる。(4)さらに、軸受軌道輪の表面に被膜処理を施したことが好ましいことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の高速用転がり軸受は、内輪の外径面、外輪の内径面および転動体の表面から選ばれた少なくとも一つに被膜を形成し、またウレアグリースと非ウレアグリースとを配合した所定のグリースを封入した転がり軸受であるので、高速回転下での軸受耐久寿命が向上する。このため、旋盤、ボール盤、中ぐり盤、フライス盤、研削盤、ホーニング盤、超仕上盤、ラップ盤等の高速で摺動、回転する工作機械の主軸支持部に組み込まれる転がり軸受として好適に利用できる。しかも、オイルエア潤滑法等のように潤滑油を連続して供給する方式と異なり、グリースを封入して使用できるため、運転コストの削減、省スペース化も可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に係る転がり軸受の一実施形態であるアンギュラ玉軸受を示す断面図である。
【図2】アンギュラ玉軸受を示す断面図である。
【符号の説明】
【0047】
1、11 アンギュラ玉軸受
2、12 内輪
3、13 外輪
4、14 転動体(鋼球)
5 保持器
6 シール部材
7 グリースポケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高速回転する軸を支持する高速用転がり軸受であって、
該転がり軸受は、内輪および外輪と、この内輪および外輪間に介在する複数の転動体と、前記内輪および外輪間の隙間の開口を覆うシール部材とを備え、前記内輪の外径面、前記外輪の内径面および前記転動体の表面から選ばれた少なくとも一つに被膜が形成され、前記転動体の周囲にグリースを封入してなり、
前記グリースは、ウレア系化合物を増ちょう剤とするウレアグリースに、前記ウレア系化合物を含まない非ウレアグリースを配合してなり、
前記ウレア系化合物は、ポリイソシアネート成分とモノアミン成分とを反応して得られ、前記モノアミン成分が脂肪族モノアミンおよび脂環式モノアミンから選ばれた少なくとも1つのモノアミンをモノアミン全体に対して 50 モル%以上含有するモノアミン成分であることを特徴とする高速用転がり軸受。
【請求項2】
前記被膜は、金属めっき処理またはリン酸被膜処理により形成される被膜であることを特徴とする請求項1記載の高速用転がり軸受。
【請求項3】
前記非ウレアグリースの増ちょう剤は、複合石けん系増ちょう剤またはNaテレフタラメートであり、前記非ウレアグリース全体に対する配合割合が 10〜40 重量%であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の高速用転がり軸受。
【請求項4】
前記ウレアグリースおよび前記非ウレアグリースの基油は、40℃における動粘度が 15〜40 mm2/sec であることを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3記載の高速用転がり軸受。
【請求項5】
前記ウレアグリースの基油は合成炭化水素油、エステル油およびアルキルジフェニルエーテル油から選ばれた少なくとも1つの油であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項記載の高速用転がり軸受。
【請求項6】
前記高速用転がり軸受が、工作機械の主軸を支持する軸受であることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項記載の高速用転がり軸受。
【請求項7】
前記高速用転がり軸受が、アンギュラ玉軸受または円筒ころ軸受であることを特徴とする請求項6記載の高速用転がり軸受。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−19750(P2009−19750A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−184881(P2007−184881)
【出願日】平成19年7月13日(2007.7.13)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】