説明

高速発振電気ポテンシャルを持った正及び負のイオンの閉じ込め

イオンをトラッピング又はガイディングするための方法及び装置。イオンは、イオン・トラップ又はイオン・ガイド内に導入される。イオン・トラップ又はイオン・ガイドは、第1の電極の組及び第2の電極の組を含む。第1の及び第2の電極組は、イオン・チャンネルを規定して、導入されたイオンをトラップ又はガイドするように配置される。周期的な電圧が、第1の電極の組の中の電極に印加されて、イオンを、イオン・チャンネル内の半径方向に閉じ込める、第1の発振電気ポテンシャルを生成する。そして、周期的電圧が、第2の電極の組の中の電極に加えられて、イオンを、イオン・チャンネル内の軸方向に閉じ込める、第2の発振電気ポテンシャルを生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析法(mass spectrometry)に関連する。
【背景技術】
【0002】
質量分析法は、一般的に、イオン源、1つあるいはそれ以上の質量分析器、及び、1つあるいはそれ以上の検知器を備え、原始及び分子のようなサンプル粒子の質量を分析する。イオン源において、サンプル粒子はイオン化される。サンプル粒子は、例えば、化学反応、静電気力、レーザ・ビーム、電子ビーム、又は他の粒子ビームを用いる種々の技術でイオン化され得る。イオンは、イオンの質量対電荷比率に基づいてイオンを分離する、1つあるいはそれ以上の質量分析器に輸送される。例えば、飛行時間分析器(time-of-flight analyzer)において分離は時間軸上のもの(temporal)であり得、例えば磁気セクタ分析器(magnetic sector analyzer)においては、空間的(spatial)であり得、例えば、イオン・サイクロトロン共鳴(ion cyclotron resonance)(ICR)セルにおいては、周波数空間内のものであり得る。イオンは、複数のイオン・トラップ又はイオン・ガイドにおけるそれらのパス(path)又は弾道の安定度によっても分離され得る。分離されたイオンは、サンプル粒子の質量スペクトラムを構築するためのデータを提供する1つあるいはそれ以上の検知器(detector)によって検知される。
【0003】
質量スペクトロメータにおいて、イオンは、磁界又は電気ポテンシャル、または、磁界及び電気ポテンシャルの組合せを用いて、案内(guided)され、トラップされ、又は分析される。例えば、ICRセルにおいて磁界が使用され、3次元(3D)四重極(quadrupole)イオン・トラップ、又は、2次元(2D)四重極トラップのような多重極トラップにおいては、多重極(multipole)の電子ポテンシャルが使用される。
【0004】
例えば、線形2Dマルチプル・トラップは、4、6、8、又はそれ以上のロッド電極をそれぞれ含む、四重極、16重極、8重極、又は、それより多い電極装置のような多重極の電極装置(assemblies)を含み得る。ロッド電極は、装置内で、チャンネルを規定する軸の周りに(about)配置(arranged)される。このチャンネル内で、イオンが、高周波(radio frequency (RF))電圧を、ロッド電極に印加することによって生成される2Dマルチプル・ポテンシャルによって、半径(radial)方向の中に閉じ込められる。イオンは、伝統的には、ロッド電極、又は、トラップ内のプレート・レンズ電極のような他の電極に印加されたDCバイアスによって、チャンネルの軸の方向に、軸方向(axially)に閉じ込められる。ロッド電極によって規定されたチャンネルの部分においては、DCバイアスは、正イオン又は負イオンを軸方向に閉じ込めるが、双方を同時に閉じ込められない、静電的ポテンシャルを生成し得る。追加的なAC電圧がロッド電極に印加されて、トラップされたイオンのいくつかを励起、排出(eject)、又は、活性化(activate)し得る。
【0005】
MS/MS実験において、選択された前駆イオン(precursor ions)(親イオンとも呼ばれる)が、最初に分離又は選択され、次に、反応又は活性化されて、生成イオン(product ions)(娘イオンとも呼ばれる)を生成するための破片化(fragmentation)を誘引する。生成物(product)の質量スペクトルは、前駆イオンの構造的構成要素(structural components)を決定するために測定され得る。一般的に、前駆イオンは、衝突によって活性化される解離(dissociation)(CAD)によって破片化される。このCADにおいては、前駆イオンは、低圧不活性ガスをも含むイオン・トラップ内の電界によって、動力学的に励起される。励起された前駆イオンは、不活性ガスの分子と衝突し、衝突によって生成イオンに破片化し得る。
【0006】
生成イオン(product ions)は、電子キャプチャ解離(ECD)、又は、イオン・イオン相互作用によっても生成され得る。ECDにおいて、低エネルギー電子が、多重的(multiply)に荷電された正の前駆イオンによってキャプチャされる。これは次に、電子キャプチャによって破片化される。ICRセル内のECD工程を誘引するために、一般的に約3から9テスラの高い磁界によって、前駆イオン及び電子が半径方向に閉じ込められる。半径方向に、正の前駆イオン及び電子が、隣接領域において、静電ポテンシャルによって閉じ込められる。隣接領域の境界付近において、前駆イオン及び電子の軌道は重なり得、ECDが実行され得る。或いは、トラップされた前駆イオンが、低エネルギー電子の束に曝され(exposed)得る。
【0007】
多重的な(multiple)イオン・トラップは、一般的に、RFの多重極ポテンシャルを使用して、イオンを半径方向に閉じ込める。電子の質量対電荷比は、100,000から1,000,000倍だけ、一般的な前駆イオンの質量対電荷比より小さい。しかし、従来的な多重極トラップは同時に、その質量対電荷比が約数百倍以内の相違しかない粒子だけを閉じ込めることができる。もし、電子又は、電子の大きな束をトラップするために、追加の磁界の使用が導入されるならば、ECDが多重極トラップで実行され得ることが示唆されてきた。
【0008】
発振する3D四重極のポテンシャルが、同時に正及び負のイオンを中央体積(volume)内に閉じ込め得、半径方向の閉じ込めを提供するために静電的ポテンシャルが必要とされないような、3D四重極トラップにおいて生成イオンを生成するために、イオン・イオン相互作用(ion-ion interactions)が用いられてきた。
【0009】
<関連出願への相互参照>
本出願は、本出願に参照によって取り込まれ、同時に出願継続中の米国特許出願シリアルナンバー10/764、435号(2004年1月23日に出願され、「高速発振電気ポテンシャルを持った正及び負のイオンの閉じ込め」という名称を持つ)の利益を請求する。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0010】
内部体積(volume)を閉じ込める、2次元(2D)多重極トラップ又はイオン・ガイドにおいて、イオンは、半径方向と軸方向の双方において電子ポテンシャルを発振させる(oscillating)ことによって閉じ込められる。一般的に、1つの面において、本発明は、イオンをトラップする、または、ガイドするための技術を提供する。イオンは、イオン・トラップ又はイオン・ガイド内に導入される。イオン・トラップ又はイオン・ガイドは、電極の第1の組、及び、電極の第2の組を含む。電極の第1の及び第2の組は、導入されたイオンをトラップ又はガイドするための、イオン・チャンネルを規定するように配置される。周期的な電圧が、電極の第1の組内の電極に印加されて、少なくとも第一の次元内のイオン・チャンネル内にイオンを閉じ込める第1の発振電気ポテンシャルを生成し、周期的電圧が、電極の第2の組内の電極に印加されて、イオンを、少なくとも第2の次元内のチャンネル内に閉じ込める、第2の発振電気ポテンシャルを生成する。
【0011】
特定の実施品は、を1つあるいはそれ以上の以下の特徴を含み得る。周期的電圧の、第1の及び第2の電極の組への印加は、イオンの、3次元内への閉じ込めを提供し得る。第1の発振電気ポテンシャルは、イオンを、半径方向(radially)に閉じ込め得る。第2の電気ポテンシャルは、イオンを、軸方向に閉じ込め得る。第1の及び第2の電極の組は、電極を備え得、少なくとも1つの要素を共通に持ち得る。イオンを導入することは、正イオン及び負イオンを、イオン・トラップ又はイオン・ガイド内に導入することを含み得る。イオン・トラップ又はイオン・ガイドは、第1の端部(end)及び第2の端部を含み得、正イオンと負イオンはそれぞれ、第1の端部及び第2の端部において導入され得る。イオン・トラップ又はイオン・ガイドは、2つ或いはそれ以上のセクション(section)、を導入(introduce)し得、1つあるいはそれ以上のDCバイアスが、イオン・トラップ又はイオン・ガイドの、1つあるいはそれ以上のセクションに印加されて、正の、又は負のイオンを、1つあるいはそれ以上のトラッピング領域内に閉じ込め得る。周期的電圧を第1の電極の組内の電極に印加することには、第1の周波数で周期的電圧を印加することが含まれ得、周期的電圧を第2の電極の組内の電極に印加することには、第1の周波数とは異なる第2の周波数で周期的電圧を印加することが含まれ得る。第1の及び第2の周波数は、大体整数の比率、又は整数の比率を持ち得る。第1の及び第2の周波数は、約2の比率を持つ。第1の及び第2の発振電気ポテンシャルは、異なった空間分布(spatial distribution)を持ち得る。イオン・チャンネルは、対称的な軸を持ち得、第1の発振電気ポテンシャルは、イオン・チャンネルの軸の少なくとも一部の上において、実質的にゼロの電界を規定し得、第2の発振電気ポテンシャルは、イオン・チャンネルの軸の同じ部分の上において実質的に非ゼロの電界を規定し得る。第1の発振ポテンシャルは、発振四重極、16重極、又は、より大きい多重極の(multipole)のポテンシャルを含み得る。第2の発振ポテンシャルは、発振するローカル・2極ポテンシャル(local dipole potential)を含み得る。第1の及び第2の発振する電気ポテンシャルは、規定された擬似ポテンシャルの各々が、イオン・チャンネルに沿った、対応するポテンシャル障壁(barrier)を指定するように導入された(introduced)イオンの、各特定の質量及び電荷に対する擬似ポテンシャルを規定できる。電極の第1の組は、複数のロッド電極を含み得る。電極の第2の組は、複数のロッド電極を含み得る、及び/又は、1つあるいはそれ以上のプレート・イオン・レンズ電極を含み得る。電極の第2の組は、イオン・チャンネルの第1の端部において、第1のプレート・イオン・レンズ電極を含み得、イオン・チャンネルの第2の端部において、第2のプレート・イオン・レンズ電極を含み得る。
【0012】
一般的に、他の特徴において、本発明は装置を提供する。装置は、電極の第1の組及び第2の組、及び、コントローラを含む。電極の第1の及び第2の組は、イオンをトラップ又はガイドするためのイオン・チャンネルを規定するように配置される(arranged)。コントローラは、周期的電圧を第1の及び第2の組内の電極に印加して、第1の発振電気ポテンシャル及び第2の発振電気ポテンシャルを実現するように構成される。ここで、第1の及び第2の発振電気ポテンシャルは、異なった空間分布(distribution)を持ち、イオンを、それぞれ、半径方向及び軸方向の中のイオン・チャンネル内に閉じ込める。
【0013】
特定の実施品は、1つあるいはそれ以上の以下の特徴を含み得る。コントローラは、同時に、正及び負のイオンを、半径方向と軸方向の双方の中のイオン・チャンネル内に閉じ込めるように構成され得る。コントローラは、周期的な電圧を第1の周波数で電極の第1の組内の電極に印加するように、そして、第1の周波数とは異なる第2の周波数で電極の第2組内の電極に印加するように構成され得る。第1の及び第2の周波数は、約整数の比率、又は整数の比率を持ち得る。電極の第1の組は、複数のロッド電極を含み得る。電極の第2の組は、複数のロッド電極、又は、1つあるいはそれ以上のプレート・イオン・レンズ電極を含み得る。電極の第2の組は、イオン・チャンネルの第1の端部において第1のプレート・イオン・レンズ電極を、及び、イオン・チャンネルの第2の端部において第2のプレート・イオン・レンズ電極を含み得る。
【0014】
本発明は、1つあるいはそれ以上の以下の利点を提供するように実現され得る。正及び負のイオンが、同時に、電極構造、及び、2D多重極トラップにおける関連する印加電圧によって規定される、内部体積又はトラッピング領域内に閉じ込められ得る。同じ体積内への同時の閉じ込めに起因して、生成品であるイオンは、イオン−イオン相互作用によって生成され得る。2D多重極イオン・トラップは、3D四重極トラップに比して、実質的により多い(一般的に30から100倍多い)正の及び負のイオンをトラップ(trap)し得る。従って、2D多重極トラップは、より大きな信号対ノイズ比で実行され得る、もっと後の分析(later analysis)のために、より多くの生成イオン(product ions)を提供できる。また、分量の少ない(low abundance)生成イオンも検知できる。正及び負のイオンは、3D四重極トラップにおける場合に比して、2D多重極イオン・トラップにおいて、より便利に導入され得る。例えば、正イオンは、線形2D多重極トラップの1つの端部において導入され得、負のイオンは、他の端部において導入され(introduced)得る。正イオンは前駆イオンであり得、負イオンは、前駆イオンへの、または、そこからの電荷移動(charge transfer)を導入し得る反応物イオン(reagent ions)であり得る。或いは、正イオンは反応物イオンであり得、負イオンは、前駆イオンであり得る。或いは、負の反応物イオンは、一般的に、前駆イオンからの、1つあるいはそれ以上のプロトンである、純粋な荷電化学種(abstract charged species)であり得る。電荷移転は、前駆イオンの多重電荷(multiple charge)を削減し、前駆イオンの電荷極性を逆転(invert)し、或いは、前駆イオンの破片化を導入し得る。燐酸ペプチド(phosphopeptide)イオンのような前駆イオンに対しては、電荷移転反応は、CADのみで生成された同じ種(species)の生成イオンスペクトルに比して、より情報を与える(informative)生成イオン・スペクトルをもたらす破片化を促進し得る。そのような電荷移転は、以前の電荷移転反応によって生成された生成イオンの破片化又は電荷削減のような、破片化(fragmentation)を誘引し、又は、単に、前駆イオン以外のイオンの電荷削減を誘引し得る。線形2D四重極トラップ、又は、他の2D多重極ロッド装置において、反対の電荷の符号を有する前駆イオン及び反応物イオンは、RF電気ポテンシャルの重ね合わせ(superposition)によって、大きな磁界無しに、半径方向と軸方向の双方で同じ体積(volume)でトラップされ得る。セグメント化された線形トラップは、初期的に、前駆イオン及び反応物イオンを、別個のセグメントに格納し、前駆イオン及び反応物イオンが、同じセグメント(1つまたは複数)内で相互作用することによって、後に破片化を誘引し得る。それらの相互作用を行わせる前に、確立された分離の方法によって前駆イオン又は反応物イオンを選択することのような従来的な方法を用いて、前駆イオン又は反応物イオンが別個のセグメント内で操作され(manipulated)得る。イオン−イオン相互作用は、正と負のイオン集団(population)の再分離(re-segregation)によって、いかなる時点においても停止され得る。イオン集団が、正イオン、負イオン、又は双方、を含み、主RFポテンシャルによって規定される電界によって、イオンが半径方向に閉じ込められるようなチャンネルにおいて、二次的RF電気ポテンシャルは、イオンの質量及び電荷に基づいて、しかし、イオンの電荷の符号とは独立に、集団のイオンをチャンネルの軸方向に選択的に閉じ込める電界を規定できる。従って、軸方向の閉じ込めが、軸方向のイオンの通過を可能とし,又は,ブロックするために、開され(opened),又は,閉される(closed)、値,又は,ゲートとして使用され得る。軸方向の閉じ込めは、レンズ及びプレート電極に印加された第2次的RF電圧によって生成される、電気的ポテンシャルによって提供され得る。2つ或いはそれ以上の軸セグメントを持つ装置(assembly)において、RF電圧の異なった組合せを、装置の異なったセグメント内の多重極ロッドに印加することによって、イオンは軸方向に閉じ込められ得る。装置の1つあるいはそれ以上のセグメントは、別個の2D多重極トラップによって実現され得る。軸方向の閉じ込めは、第2次的(secondary)RF電圧を、多重極イオン・トラップの多重極ロッド電極の周り、それに隣接して、又は、その間に、配置された補助電極に印加することによっても実現され得る。線形イオン・トラップは、直ぐに、他の質量分光計(spectrometer)に適応されるので、線形イオン・トラップ内でイオン−イオン反応実験を実行した後に、生成イオンは分析のために、容易に、TOF、FTICR、又は、異なったRFイオン・トラップ質量分光計のような異なった質量分析器に輸送され得る。従って、イオン−イオン実験(experiments)は、単に3Dの四重極イオン・トラップのみでなく、広い範囲の道具(instruments)を使用し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の1つあるいはそれ以上の実施例の詳細は、添付の図面及び下記の説明に規定される。別異に記載されない限り、動詞「含む」及び「備える」は、オープン・エンドの意味(open-ended sense)、即ち、集合又はグループの他の部分又は構成要素の存在を除外すること無しに、「含む」又は「備える」発明主題が、より大きな集合体又はグループの一部、又は、構成要素であることを示す意味で使用される。従って、用語「前方」、「中央」及び「背後」は、絶対的な感覚での、装置の部分の実際の位置への特定の参照無しの概略説明(例えば、装置が逆転される、又は回転されるとき)において、多重極イオン・トラップ又はその均等物のような、装置の部分を表すために使用される。本発明の他の特徴及び利点が、記述、図面、及び請求項から明白になるであろう。
【0016】
<詳細な記述>
図1は、本発明の1つの特徴に従って作動させるために構成された質量分析法システム100を説明する。システム100は、前駆イオン供給源110、2D多重極イオン・トラップ120、反応物イオン供給源130、及び、コントローラ140を含む。前駆イオン供給源110は、前駆イオンを含むイオンを生成する。前駆イオン供給源110によって生成されるイオンは、2D多重極イオン・トラップ120に注入される。反応物イオン供給源130は、反応物イオンを含むイオンを生成する。反応物イオン供給源130によって生成されるイオンもまた、2D多重極イオン・トラップ120に注入される。2D多重極イオン・トラップ120は、チャンネルを規定する。このチャンネル内には、コントローラ140によってイオン・トラップ120内の異なった電極に印加される周期的電圧によって生成された電気ポテンシャルを発振させることによって半径方向と軸方向の双方において、前駆イオン及び反応物イオンが閉じ込められ得る。
【0017】
前駆イオン供給源110は、大きな生物的分子(biological molecules)のようなサンプル分子から前駆イオンを生成するための、1つあるいはそれ以上の前駆イオン源112、及び、前駆イオン源112から生成されたイオンを、イオン・トラップ120に案内(guide)するためのイオン転送光学系(optics)115を含む。前駆イオンは、電気スプレー・イオン化(electrospray ionization)(ESI)、サーモ・スプレー(thermospray)イオン化、電磁界,プラズマ,又はレーザ脱離(desorption)、化学的イオン化、又は、前駆イオンを生成するための他の何らかの技術を用いて生成され得る。前駆イオンは、正又は負イオンであり得、1つの、或いは複数(multiple)の電荷を持ち得る。例えば、ESI技術は、多様に(multiple)イオン化可能なサイト(sites)を持つ大きな分子から、複数に(multiply)荷電されたイオンを生成する。
【0018】
反応物イオン供給源130は、サンプル分子から反応物イオンを生成するための、1つあるいはそれ以上の反応物イオン源132、及び、生成されたイオンを、反応物イオン源132からイオン・トラップ120に案内(guide)するためのイオン転送光学系135を含む。相互作用(interaction)によって、反応物イオンは、反応物イオンから他のイオン(例えば、前駆イオン供給源110によって生成される前駆イオン)への電荷転送を誘引し得る。反応物イオンは、前駆イオンからの、或いは、前駆イオンへの、陽子転送又は電子転送を誘引し得る。正の前駆イオンに対しては、反応物イオンは、過フルオロジメチルシクロヘキサン(PDCH)又はSF6から導出された(derived from)アニオン(anions)を含み得る。負の前駆イオンに対しては、反応物イオンは、キセノンイオンのような正イオンであり得る。特定の反応物イオンの選択は、前駆イオン、及び/又は、イオン・トラップのパラメータに依存し得る。
【0019】
正の前駆イオンに対しては、反応物イオン源132は、化学的イオン化、ESI、サーモスプレー、粒子ボンバードメント(bombardment)、電磁界,プラズマ,又はレーザ脱離(desorption)を用いて負の反応物イオンを生成する。例えば、化学的イオン化において、負の反応物イオンは、イオン又は電子のような、中性,正,及び負に荷電された粒子を含む化学的プラズマにおける結合的(associative)、又は、解離的(dissociative)工程によって生成される。化学的プラズマにおいて、低エネルギー電子は、中性粒子によってキャプチャ(captured)されて、負イオンを生成し得る。負イオンは安定であり得るか、或いは、負イオン含むを生成イオンに破片化され得る。負の反応物イオンは、例えば、静電界によって化学的プラズマから抽出され得る。代替的な実施物(implementation)において、反応物イオン源132は、他の技術を用いて反応物イオンを生成する。例えば、正又は負のイオンは、適切な電圧の選択及びESIの使用によって生成され得る。
【0020】
イオン転送光学系115及び135は、前駆イオン源112及び反応物源132によって生成されたイオンをそれぞれ、多重極イオン・トラップ120に輸送する。イオン転送光学系115又は135は、輸送されたイオンを、チャンネル内で半径方向に閉じ込めるために、四重極又は8重極ロッド装置のような、1つあるいはそれ以上の2D多重極ロッド装置(assemblies)を含み得る。イオンは、内部多重極レンズ(inner-multipole lenses)によって、異なったロッド装置の間を輸送され得る。イオン転送光学系115又は135は、正又は負のイオンだけを輸送するように、又は、特定の範囲の質量対電荷比を持つイオンを選択するように構成され得る。イオン転送光学系115又は135は、輸送されたイオンを加速又は減速するための、レンズ、イオン・トンネル、プレート又はロッドを含み得る。選択的に、イオン転送光学系115又は135は、輸送されたイオンを一時的に格納するためのイオン・トラップを含み得る。
【0021】
多重極イオン・トラップ120は、前面プレート・レンズ121、背面プレート・レンズ128、及び、レンズ121及び128の間の1つあるいはそれ以上のセクションを含み得る。図1に示される実施物において、イオン・トラップ120は、前面セクション123、中央セクション125、及び、背面セクション127を含む。前面レンズ121は、イオン転送光学系115によって前駆イオン源112から輸送されたイオンを受け取るための前面開口122を規定し、背面レンズ128は、イオン転送光学系135によって反応物イオン源132から輸送されたイオンを受け取るための背面開口129を規定する。セクション123、125、及び127の各々は、4つの四重極ロッド電極を含む四重極ロッド装置のような、対応する2D多重極ロッド装置を含む。多重極ロッド装置の各々は、イオンを、チャンネル内の、イオン・トラップ120の軸124の周りの、少なくとも1つの次元(dimension)内に閉じ込めるために作動可能である。このチャンネル内において、イオンは、イオン・トラップ120の重極ロッド電極及びレンズ121及び128に印加された電圧によって生成された電気ポテンシャルを発振させることによって、1つあるいはそれ以上のセクション123、125、127内で、半径方向及び軸方向に閉じ込められ得る。代替的な実施物において、1つあるいはそれ以上のセクション123、125、及び127は、別個の2Dイオン・トラップによって実現され得る。図1に説明される実施物において、電極の第1の組(前面セクション123、中央セクション125、及び背面セクション127の1つあるいはそれ以上に対応する電極を含み得る)は、導入された(introduced)イオンをトラップ又はガイドするために、イオンを、イオン・チャンネル内の少なくとも第1の次元内に閉じ込めるために作動可能である。この特定の場合において、電極の第1の組は、イオン・チャンネル内のイオンを半径方向に閉じ込めるために利用される。電極の第1の組は、複数の電極のロッドを含み得る。電極の第2の組(前面レンズ121及び背面レンズ128に対応する電極を含み得る)は、イオン・チャンネル内の少なくとも第2の次元内にイオンを閉じ込めるために作動可能である。この特定の場合において、電極の第2の組は、イオン・チャンネル内のイオンを軸方向に閉じ込めるために利用される。電極の第2の組は、複数のロッド電極、又は、1つあるいはそれ以上のプレート・イオン・レンズ電極を含み得る。この実施物において、電極の第1の及び第2の組は、3次元内に(in three dimensions)イオンを閉じ込めるために作動可能である。この特定の例においては、電極の第1の組及び第2の組は、電極のディスクリートな組であるが、他の実施物においては、電極の第1の及び第2の組は、共通の要素(しかし、異なった電圧で励起される)を持ち得る。例えば、電極の第1の組は、前面セクション123、中央セクション(center section)125、及び、背面セクション127からの複数の電極を含み得、電極の第2の組は、前面セクション(front section)123及び背面セクション(back section)127からの複数の電極を含み得る。コントローラ140は、対応するRF電圧の組143、145、及び147を、セクション123、125、及び127内の多重極ロッド装置に、それぞれ印加して、チャンネル内の方向内で、軸124の周りに、イオンを閉じ込める発振2D多重極ポテンシャルを生成する。1つの実施物において、コントローラ140は、RF電圧の第1の(primary)組を、セクション123、125、及び127内のロッド装置の各々に印加する。対向するロッドの2つのペアを持つ四重極装置に対しては、RF電圧の第1の(primary)組は、対向するロッドの第1の組のための第1のRF電圧、及び、対向するロッドの第2の組のための同じRF周波数で逆位相の第2のRF電圧を含み得る。或いは、コントローラ140は、異なった周波数又は位相のRF電圧143、145、及び147を、イオン・トラップの異なったセクション内の多重極ロッド装置に印加し得る。
【0022】
コントローラ140は、RF電圧141及び148をも、前面レンズ121及び背面レンズ128に、それぞれ印加し得る。RF電圧141及び148は、前面セクション123及び端部(end)セクション128それぞれの中のロッド装置に印加されるRF電圧の組143及び147の周波数又は位相とは異なった周波数又は位相を持ち得る。前面レンズ121及び背面レンズ128に印加されるRF電圧141及び148は、正及び負のイオンとを、軸124の周りの、チャンネルの対応する端部において、軸方向内に同時に閉じ込め得る発振電気ポテンシャルを生成する。発振電気ポテンシャルで軸方向に(axially)閉じ込めるイオンについては、ズ2A−2Dを参照して、以下で更に議論される。
【0023】
コントローラ140は、異なったDCバイアス151-158を、イオン・トラップ120の異なったセクション内のレンズ121及び128及びロッド装置に印加できる。トラップ120のセクション内に印加されるDCバイアスの符号に依存して、正又は負のイオンが、そのセクション内の軸方向に(axially)閉じ込められ得る。例えば、負のDCバイアスを前面セクション123内の多重極ロッドに印加し、実質的にゼロのDCバイアスを中央セクション125及び前面レンズ121に印加することによって、正の前駆イオンが前面セクション123内にトラップされ得る。同様に、負の反応物イオンは、正のDCバイアスを背面セクション127内の多重極ロッドに印加し、実質的にゼロのDCバイアスを、中央セクション125及び背面レンズ121に印加することによって、背面セクション127内にトラップされ得る。ズ4−5Fを参照して以下で議論されるように、異なったDCバイアスを、異なったセグメント及びレンズに印加することによって、正の及び負のイオンが、イオン・トラップ120内で、受け取られ得、又は、分離され得る。コントローラ140は、追加のAC電圧をも、イオン・トラップ内の電極に印加して、イオンの質量対電荷比に基づいて、イオン・トラップ120からイオンを排出(eject)できる。
【0024】
図2Aは、正のイオン210及び負のイオン215を、イオン・レンズ220に隣接する端部セクション230において、2D多重極イオン・トラップ内に同時に閉じ込めている概略図である。例えば、端部セクション230は、イオン・トラップ120の前面セクション123又は背面セクション127であり得、イオン・レンズ220は、システム100(図1)内の前面レンズ121又は背面レンズ128であり得る。
【0025】
端部セクション(end section)230は、RF電圧源240からRF電圧を受け取って、多重極イオン・トラップの軸234の近くに、半径方向に(radially)正210及び負220イオンを閉じ込めるための、発振2D多重極ポテンシャルを生成する2D多重極ロッド装置232を含む。例えば、ロッド装置232は、軸234の周りに発振2D四重極ポテンシャルを生成する四重極ロッド装置であり得る。
【0026】
イオン・レンズ220は、RF電圧源245からRF電圧を受け取って、軸方向に(axially)、正210と負215イオンの双方を閉じ込める発振電気ポテンシャルを生成する。即ち、軸方向に閉じ込めているポテンシャルは、イオン210及び215が、イオン・レンズ220内の開口225を通じて端部セクション230を脱出することを防ぐ。軸方向に閉じ込めているポテンシャルは、装置232によって生成された多重極ポテンシャルとは異なった空間分布を持つ。多重極ポテンシャルは、軸234において実質的にゼロの電界を規定し、軸方向に閉じ込めるポテンシャルは、イオン・レンズ220近傍の少なくとも軸234の一部において実質的に非ゼロの電界を規定する。
【0027】
多重極ロッド装置232は、第1の周波数のRF電圧を受け取るロッド電極を含み、イオン・レンズ220は、第2の周波数のRF電圧を受け取る。1つの実施物において、第1の周波数及び第2の周波数は、有理数(rational number)によって互いに関連する。例えば、第1の周波数は、実質的に、第2の周波数の整数倍又は整数分の1である。或いは、第1の周波数は、如何なる他の、第2の周波数の倍数又は分数であり得る。又は、イオン・レンズ220が、ロッド装置232によって受信されたRF電圧と位相ずれしている(out-of-phase with)RF電圧を受け取る一方、第1の及び第2の周波数は実質的に等値であり得る。一般的に、ロッド装置232は、複数の位相(multiple phases)のRF電圧を受け取る。四重極ロッド装置において、隣接するロッド電極は、互いに、相対的に180度位相がずれた電圧を受け取る。従って、イオン・レンズ220は、四重極ロッド装置内のロッド電極によって受信された電圧に対して、相対的に、約(±)90度の位相差を持つRF電圧を受け取り得る。
【0028】
図2Bは、正210又は負215のイオンの一般的な動作(それらが、イオン・レンズ220に接近したときの)を記述する軌道260を概略的に説明する、座標システム(coordinate system)250を示す。座標システム250において、垂直軸252は時間を表し、水平軸255は、イオン・レンズ220からの、軸234に沿ったイオンの、対応する軸距離を表す。軌道260は、環境ガス(background gas)が無い場合のイオン動作を示す。もし、環境ガス分子が存在するならば、イオン軌道は異なってくる。例えば、小さなガス分子は、大きなイオンの移動に対する減衰(damping)を提供し得る。或いは、イオンとガス分子の間のランダムな衝突に起因して、イオンの軌道は統計的になり得る。
【0029】
軌道(trajectory)260は、3つの軌道部分262、264、及び266を含む。第1の軌道部分262において、イオンは、イオンを、軸234に近接して半径方向に閉じ込める多重極ポテンシャルにおいてのみ移動する。ここで、多重極ポテンシャルは、実質的にゼロの電界を規定する。従って、軸234に沿って、イオンは、実質的に均一の速度で軸方向に移動し、イオン・レンズ220内の開口225に接近し得る。実質的に均一の速度は、第1の軌道部分262の、実質的に均一の傾斜の軌道260で表現される。
【0030】
第2の軌道部分264において、イオンは、イオン・レンズ220に印加されたRF電圧に起因する発振電気ポテンシャルによって生成された電界を被る(experience)。発振ポテンシャルは、印加されたRF電圧の周波数に従ってイオンに発振を強いる電界を規定する。イオンの、これらの発振は、第2の軌道部分264における変動(fluctuations)によって表現される。変動は、数発振(a few oscillations)中の、イオンの平均位置に対応する、中央の周りの高速な発振として記述され得る。図2Bの中央軌道268によって概略的に説明されるように、この中央は、イオン自身に比べて、もっとゆっくり、そしてスムーズに移動する。
【0031】
中央軌道268は、断熱(adiabatic)近似を用いて決定され得る。その近似(その適用可能性の限界を含む)の詳細説明は、Check-Yiu NG 及び Michael Baerによって編集されたState-selected and state-to-state ion-molecule reaction dynamics Part 1. Experiment,(Advances in Chemical Physics Series, Vol. LXXXII, (c)1992 John Wiley & Sons, Inc.) におけるDieter Gerlichによる"inhomogeneous RF fields: A versatile tool for the study of processes with slow ions"に見出され得る。断熱近似は別個に、第2の軌道部分264における高速発振と、発振器の中央の、中央軌道268に沿った、より遅い動作、を説明する。特定のイオンに対して、中央軌道268は、あたかも、時間とイオンの電荷の符号から独立する、擬似ポテンシャルVP(これは、有効ポテンシャル又は擬似ポテンシャルとも呼ばれる)に入ったイオンのように記述され得る。しかし、擬似ポテンシャルVPは、イオンの質量m、合計数(net number)を指定する電荷数(charge number)(Z)及びイオンの電荷の符号(Q=Ze)、及び、高速発振を引き起こす発振電気ポテンシャルの特性に依存する。位置rにおいて角周波数(Ω)及び振幅E(r)で発振する電界E(r,t)
E(r、t)=E(r)cos(Ω、t)
を生成する発振電気ポテンシャルに対して、位置rにおける擬似ポテンシャルVp(r)は、
Vp(r)=ZeE(r)2/(4mΩ2) (式1)
として与えられる。
【0032】
イオンが、軸234に沿って開口225に接近するにつれて、レンズ220は、増大する電界強度E(r)及び、式1に従って、増大する強度の擬似ポテンシャルVpを生成する。擬似ポテンシャルの符号が、イオンの電荷の符号と同じなので、プロダクトZeVpのグラジエントの負性は、レンズ220及びレンズ220によって定義される開口225から外れる(points away from)。グラジエントの負性は、イオンによって経験される平均力の方向及び強度を決定する。中央軌道268によって示されるように、この平均力(average force)に従って(subject to)、イオンは、開口225に到達する前に元に戻る。従って、軸234の周りのチャンネル内において、レンズ220に印加されたRF電圧によって生成された発振電気ポテンシャルによって、イオンは軸方向に閉じ込められる。
【0033】
擬似ポテンシャルVpは、イオンの電荷数(charge number)Zと同じ符号を持つので、それは、正210及び負215イオンの双方を閉じ込める。擬似ポテンシャルVpは、イオンの質量m、及び、イオンの電荷(Q=Ze)に依存する。この依存関係(dependence)に従って、同じ発振電気ポテンシャルは、他のイオンを通過させる一方、いくらかのイオンを閉じ込め得る。
【0034】
図2Cは、より小さなイオン212及びより大きなイオン214が、端部セクション230内のイオン・レンズ220に接近する例を示す。イオン212及び214は、同じ正電荷、及び、類似の運動エネルギーを持つが、より大きなイオン214は、より小さなイオン212に比してより大きな質量を持つ。イオン212及び214は、RF電圧源240によって多重極ロッド電極232に加えられるRF電圧によって生成される2D多重極界(multipole field)によって、軸234の近傍に、半径方向に(radially)閉じ込められる。RF電圧源245は、RF電圧を、イオン・レンズ220に印加して、より小さなイオン212を閉じ込めるが、より大きなイオン214が端部セクション230を離れて、レンズ220の開口225を通過することを許容するような、発振電界を生成する。
【0035】
図2Dは、図2Cに示される例に対する擬似ポテンシャルを概略的に説明する。座標システム270において、擬似ポテンシャル値は、垂直軸272の上に表される。そして、レンズ220からの、軸234に沿った軸距離は、水平軸274の上に表される。表現された擬似ポテンシャルは、イオン・レンズ220によって生成された同じ発振電気ポテンシャルによって規定される。
【0036】
発振電気ポテンシャルは、小さなイオン212に対する第1の擬似ポテンシャル282、及び、大きなイオン214に対する第2の擬似ポテンシャル284を規定する。これらの擬似ポテンシャルは、同じ発振電気ポテンシャルによって規定されるので、双方に対して電界強度E(r)は同じである(式1を参照)。従って、第1の282及び第2の284擬似ポテンシャルは、レンズ220からの軸距離(r)の関数として、類似の形状を持つ。擬似ポテンシャル282及び284は、レンズ220からの大きな距離において、実質的にゼロの値を持ち、対応するイオンが、レンズ220に接近するに伴って増加する。増加する擬似ポテンシャル282及び284の各々は、イオン・トラップの軸234に沿った、対応する擬似ポテンシャルの最大値としての障壁を規定する。第1の擬似ポテンシャル282は、第1の障壁283を規定する。この第1の障壁283は、第2の擬似ポテンシャル284によって規定される第2の障壁285より高い。障壁283と285の間の差は、より小さなイオン212とより大きなイオン214の間の質量対電荷(mass-to-charge)差に起因する。異なった質量、及び/又は、電荷値を持つ他のイオンのために、擬似ポテンシャル障壁は、軸234に沿った位置に対する式1の最大値を発見することによって決定され得る。
【0037】
より小さなイオン212及びより大きなイオン214は、それぞれ、平均エネルギー・レベル292及び294を持つ。平均エネルギー・レベルは、発振ポテンシャルの1つの周期中の、イオンのエネルギーを平均化することによって規定され得る。この例において、平均エネルギー・レベル292及び294は、類似の値を持つ。より小さなイオン212に対しては、平均エネルギー・レベル292は、対応する障壁283より小さい。従って、より小さなイオン212は、発振電気ポテンシャルによって、軸方向に閉じ込められる。平均エネルギー・レベル292が、実質的に、擬似ポテンシャル282のローカル値(local value)と等しいポイントに到達した後に、より小さなイオン212は、レンズ220から向きを変更される(turns away from)。しかし、より大きなイオン214に対しては、平均エネルギー・レベル294は、対応する障壁285より大きい。従って、より大きいイオン214は、発振電気ポテンシャルによって、軸方向に閉じ込められず、開口225を通じて端部セクション230を離れ得る。
【0038】
上述の断熱近似及び対応する擬似ポテンシャルは、その適用限界を持つ。例えば、断熱近似は、電界強度|E(r)|が、実質的に、電界のグラジエント(∇E)によって測定されたその変動に、高速発振の特性振幅(characteristic amplitude)を乗算したものより大きい場合のみに使用され得る。即ち、もし、電界が、イオンの単一の発振の極値(extremes)の間で、余りに大きく変化するならば、断熱記述(adiabatic description)は無効であり、イオンの動きを記述するために、擬似ポテンシャルは使用され得ない。
【0039】
この条件に基づいて、単一周波数Ωで発振する電界内における、質量m及び電荷Zを持つイオンのために、無次元の断熱度(adiabacity)パラメータζが

ζ=2Z|∇E|/mΩ2

と規定され得る。
【0040】
一般的に断熱近似は、断熱度パラメータζが、大体0.3より小さい場合にのみ有効である。断熱度パラメータζは、イオンの質量対電荷比m/Zに逆比例する。即ち、イオンの質量対電荷比がより大きくなると、断熱近似が、より、有効となり易くなる。
【0041】
四重極トラップ内の軸方向の擬似ポテンシャル障壁の近傍で、トラップされたイオンが、不所望の、線形,非線形,又は,パラメトリック励振(parametric excitation)を経験し得、トラップから脱出し得る。そのような励振は、イオンが、適切に選択されたRF電界でトラップされる場合には回避され得る。
【0042】
図3は、上述の技術による質量分析を実行するための方法300を示す。方法300は、2D多重極トラップであって、図1−2Dを参照して上述されたように、その中で正及び負のイオンが別個の発振電気ポテンシャルによって軸方向及び半径方向に閉じ込められ得る2D多重極トラップを含むシステムによって実行され得る。例えば、システムは、システム100(図1)であって、その中で、RF電圧が、前面レンズ121又は背面レンズ128に印加されて、正と負のイオンの双方を軸方向のイオン・トラップ120内に閉じ込め得るシステムを含み得る。或いは、方法300は、図6及び7を参照して後述されるセグメント化されたトラップを用いて実行され得る。
【0043】
本システムは、前駆イオン及び反応物イオンを、多重重極イオントラップ内で、別個の発振電気ポテンシャルで、半径方向及び軸方向に閉じ込めることによる、前駆イオンの、生成イオンへの破片化(fragmentation)を含む(ステップ310)。前駆イオンは正イオンであり得、反応物イオンは負イオンであり得、或いは、その逆であり得る。例えば、図4−5Fを参照して後述されるように、前駆及び反応物イオンは、多重重極イオン・トラップによって規定されるチャンネルの同じ部分内に導入される。チャンネル内において、正及び負のイオンは、電気ポテンシャルを発振させることによって、半径方向と軸方向の双方において閉じ込められる。
【0044】
チャンネルの同じ部分内に閉じ込められている際に、前駆及び反応物イオンは、相互に作用し、電荷は、反応物イオンから前駆イオンに転送され得る。電荷転送は、多重に荷電された前駆イオンの電荷削減、或いは、前駆イオンの極性逆転さえをも誘引し得る。電荷転送は、前駆イオンを、2つ或いはそれ以上の破片(fragments)に解離させるエネルギーを持ち得る。ここで使用される用語「相互作用(interact)」は、結合(bonding)、付着(attachment)、引き抜き(abstraction)、電荷転送、触媒作用、または、発生する他のそのような化学反応における、化学的相互作用を記述するために用いられる。化学反応は一般的に、その中で1つの組のイオンが分解(decompose)、他の物質(substances)との結合(combine)、又は、他のイオンとの構成成分(constituents)の交換(interchange)、される場合の、変化(change)、または、変形(transformation)である。用語「相互作用」は、その中で変形が行われない相互作用(例えば、イオンが単に物理的に衝突、及び/又は、散乱する状況)を包含することは意図されない。
【0045】
一般的に、イオン・トラップにおいてCADだけが使用されるときには、前駆イオンだけが励起(activated)されて、それらを、生成イオン(product ions)に破片化(fragment)する。そして、生成された生成イオンは、更に破片化されるようには励起されない。しかし、電荷転送によって誘引された反応においては、反応物イオンもまた、前駆イオンの破片(fragments)と相互作用して、更なる破片又は他の生成物を生み出し得る。
【0046】
代替的実施物において、破片化とは異なる他の目的のために、前駆及び反応物イオンの間のイオン−イオン相互作用が使用され得る。例えば、同じ質量を持つが、異なった多重的に荷電された状態(states)を持つ前駆イオンの混合物における電荷削減のために、反応物イオンとの相互作用が使用され得る。電荷削減は、前駆イオンの、適切な数の所望の電荷状態を提供し得る。例えば、いくつかの高く荷電された前駆種(species)から生成される、多重的に(multiply)荷電された生成イオンの電荷を削減するためにも、反応物イオンが使用され得る。生成イオンの電荷削減は、質量分析、及び、結果としての生成物イオン質量スペクトルの解釈を単純化する。正及び負イオンの双方の替わりに、電気ポテンシャルを発振させることによって、正又は負イオンだけを、イオン・トラップ内で、半径方向及び軸方向に閉じ込めて操作することもあり得る。
【0047】
本システムは、生成イオンを維持する一方、イオン・トラップから反応物イオンを除去する(ステップ320)。正の生成イオン(product ions)を維持し、負の反応物イオン(reagent ions)を除去するために、負のDCバイアスが、イオンを含むセクションに印加され得る。それらが負のDCバイアスに曝されたときに、負の反応物イオンは軸方向に不安定になる一方、正の生成イオンは、軸方向により安定になる。負の生成イオンを維持し、正の反応物イオンを除去するために、正のDCバイアスが同じセクションに印加され得る。或いは、反応物イオンは、共振排出(resonance ejection)によって除去され得、又は、イオン・トラップ内で半径方向に不安定化され得る。
【0048】
本システムは、それらの質量対電荷比に従って生成イオンを分析する(ステップ330)。1つの実施物において、多重極イオントラップは、それらの質量対電荷比に基づいて、生成イオンを選択的に排出する。本システムは、1つあるいはそれ以上の粒子増倍器(multiplier)を用いて排出された生成イオンを検知し、それらの質量対電荷スペクトルを決定する。代替的実施物において、排出された生成イオンは、飛行時間分析器、磁気的,電磁気的,ICR、若しくは、四重極イオン・トラップ分析器、又は、生成イオンの質量対電荷比を決定できる、何らかの、他の質量分析器、のような質量分析器にガイドされ得る。生成イオンの質量対電荷比は、前駆イオンの構造を再構築するために使用され得る。
【0049】
代替的実施物において、反応物イオン、前駆イオン、又は生成イオンは、イオン・トラップ内で、更に操作され得る。例えば、生成イオンを分析する前(ステップ330)に、生成イオンのいくつかが、イオン・トラップから排出され得る。
【0050】
図4は、反応物イオンを用いて前駆イオンの破片化を誘引するための方法400を示す。方法400は、2つ或いはそれ以上のセクション(その中で多重極ロッドが、イオンをトラップ又はガイドするためのイオン・チャンネルを規定する)を伴う、セグメント化された多重極イオン・トラップを含む、システム100(図1)のようなシステムによって実行され得る。
【0051】
本システムは、多重極イオン・トラップ内で前駆イオンを注入又は隔離する(ステップ410)。特定の質量対電荷比を持つ正の前駆イオンを隔離するために、正イオンが、サンプルから生成され、イオン・トラップのイオン・チャンネル内に注入される。次に、イオン・トラップは、例えば、共振排出を用いて、選択された前駆イオンの質量対電荷比とは異なる質量対電荷比を持つサンプル・イオンを排出する。従って、所望の前駆イオンだけが、イオン・トラップ内でトラップされたままになる。選択的に、イオン・トラップは、サンプルイオンを受け取り、同時に非前駆イオンのいくらかを排出することが可能である。
【0052】
本システムは、正の前駆イオンを、多重極イオン・トラップの第1のトラッピング領域内に移動させる(ステップ420)。そうするためには、本システムは、負のDCバイアスを、第1のセクション内の多重極ロッドに印加し、その後に、ゼロ又は、より小さい負のDCバイアスを、他のセクションに印加し得る。
【0053】
本システムは、負の反応物イオン、多重極イオン・トラップの第2のトラッピング領域内に注入する(ステップ430)。第2のトラッピング領域は、正の前駆イオンがトラップされる第1のトラッピング領域とは異なる。第1のトラッピング領域内の正のイオンは、第1の及び第2のセクションにそれぞれ印加される負の及び正のDCバイアスによって生成された静電ポテンシャル障壁によって、第2のトラッピング領域内の負のイオンから分離される。或いは、或いは、第1の及び第2のトラッピング領域は、正と負のイオンの双方を、イオン・トラップのチャンネル内で軸方向に閉じ込めて分離する、擬似ポテンシャルを規定する、適切に印加された電極電圧で生成された発振電気ポテンシャルを与える(imposing)ことによって、第3のイオンが剥奪された(ion-deprived)領域によって分離され得る。
【0054】
本システムは、前駆イオンの破片化を誘引するために、正の前駆イオン及び負の反応物イオンが、多重極イオン・トラップの、同じトラッピング領域内に移動することを可能とする(ステップ440)。もし、DCバイアスが、第1のトラッピング領域内のイオンを、第2のトラッピング領域内のイオンから分離したならば、システムは、DCバイアスを除去でき、正と負のイオンが、第1の及び第2のトラッピング領域の双方の中に移動することを可能とする。図1−2Dを参照した上述の議論のように、DCバイアス無しの場合、正と負のイオンは、イオン・トラップのイオン・チャンネル内で、軸方向に閉じ込める発振電気ポテンシャルによって、イオン・トラップ内に同時にトラップされ得る。もし、第1の及び第2のトラッピング領域が、第3のトラッピング領域(その中で発振電気ポテンシャルが、前駆及び反応物イオンとの双方を軸方向に閉じ込める)によって分離されるならば、本システムは、前駆イオン、反応物イオン、又はそれら双方が、中間第3領域を通じてトラバース(traverse)できるように、発振ポテンシャルを変更又はターン・オフできる。イオントラップの、同じトラッピング領域(1つ又は複数)内に閉じ込められた状態では、正の前駆イオン及び負の反応物イオンは、電荷転送相互反応(イオン−イオン反応)が、前駆イオンを破片化するように、相互作用し得る。
【0055】
図5A−5Eは概略的に、負の反応物イオンを用い、発振ポテンシャルを軸方向に閉じ込めた、方法400の模範的実施物を説明する。本例において、2D多重極イオン・トラップ500は、軸502の周りに、イオン・チャンネルを規定する。トラップ500は、前面レンズ503、前面セクション504、中央セクション505、背面セクション506、及び、背面レンズ507を含む。セクション504-506の各々は、RF電圧(例えば、約1.2MHzの周波数を持つ)を受け取って、イオン・チャンネル内で、軸502の周りに、イオンを半径方向に閉じ込める、発振多重極ポテンシャルを生成する、対応する多重極ロッドの組を含む。更に、レンズ503及び507は、イオン・チャンネル内でイオンを軸方向に閉じ込めるためのRF電圧をも受け取り得る。イオン・トラップ500において、DCバイアスが、要素503-507のいずれかに印加されうる。イオン・トラップ500において、0.001torrのヘリウム・ガスが、イオンのための散乱(dissipation)又はダンピング(damping)を提供する。
【0056】
図5Aにおいて、正のサンプル・イオン511が、イオン・トラップ500内に注入される。サンプル・イオン511は、異なった質量及び単一或いは複数()multipleの正電荷を持つイオンを含む。サンプル・イオン511は、ESI又は他のイオン化技術によって生成され得る。
【0057】
サンプル・イオンは、前面レンズ503内の開口を通じてイオン・トラップ内に注入され、中央セクション505内のトラッピング領域内に蓄積される。概略図510によって説明されるように、注入中に、異なったDCバイアスが、イオン・トラップ500の異なった要素に印加される。前面レンズ503、前面セクション504、及び、中央セクション505は、負のDCバイアス513、514、及び515を、それぞれ受け取る。負のバイアス513、514、及び515は、それぞれ、−3V、−6V、および、−10Vのような、累進的により大きな値を持つことによって、正のサンプル・イオン511が、中央セクション505に向かうことを強いる静電界を生成する。背面セクション506は、約+3Vのような正のDCバイアス516を受け取って、サンプル・イオン511が、背面レンズ507(これは、例えば、約30mVより小さい値を持つ、実質的にゼロのDCバイアス517を受け取る)を通じて中央セクションを脱出することを妨げる静電界を生成する。
【0058】
図5Bは、イオン・トラップ500の中央セクション505内にトラップされたサンプル・イオン511からの前駆イオンの隔離を説明する。多重極フィールド(field)を生成するRF電圧に加えて、AC電圧が中央セクション505内の多重極ロッドに印加される。AC電圧は、選択された前駆イオンとは異なった質量対電荷比を持つ排出イオンへのトラップを引き起こし、前駆イオンだけをトラップ500内に残す電界を生成する。
【0059】
概略的図520は、隔離中に、トラップ500の異なった構成要素に印加されるDCバイアスを説明する。前面レンズ503及び背面レンズ507は、実質的にゼロのDCバイアス523及び527をそれぞれ持つ。中央セクション505は、約−10Vのような負のDCバイアス525を持つ。前面セクション504及び背面セクション506は、負のDCバイアス524及び526(それらの値は、中央セクション505内のトラッピング領域内で、正のイオンを軸方向に閉じ込める静電界を生成するために、バイアス525に比して、より少なく負性である)をそれぞれ持つ。
【0060】
図5Cは、中央セクション505(この中でそれらが隔離されている)から、前面セクション504への前駆イオン531の移動を説明する。概略図530によって説明されるように、中央セクション505は、約−10VのDCバイアス535を持つ。中央セクション505のDCバイアス535に比して、より大きな負の値を持つDCバイアス534が、前面セクション504に印加され、正の前駆イオン531が、中央セクション505から、前面セクション504内に移動するようにさせる。例えば、DCバイアス534は、約−13Vの値を持ち得る。したがって、正の前駆イオン531を、中央セクション505から、前面セクション504に移動させる静電界が生成される。前面レンズ503は、正の前駆イオンが、前面セクション504から、前面レンズ503を通じて脱出することを防ぐ静電界を生成するための、実質的にゼロのDCバイアス533を持つ。正の前駆イオンを、前面セクション504に向かって移動させ、背面レンズ507を通じたそれらの脱出を防ぐ、静電界を生成するために、背面セクション506及び背面レンズ507は、負のバイアス536及び実質的にゼロのバイアス537をそれぞれ持つ。
【0061】
図5Dは、正の前駆イオン531が、2つのトラッピング領域を示すイオン・トラップ500の前面セクション504内に保持される間の、負の反応物イオン541の中央セクション505への注入を説明する。反応物イオン541は、化学的イオン化又は他の適切なイオン化技術によって生成され得る。負の反応物イオンは、背面レンズ507の開口を通じてイオン・トラップ内に注入され、中央セクション505内に蓄積される。概略図540によって説明されるように、注入中に、異なったDCバイアスが、イオン・トラップ500の異なった要素に印加される。背面レンズ507、背面セクション506、及び、中央セクション505は、正のDCバイアス547、546、及び545をそれぞれ受け取る。負の生成物イオン541を、中央セクション505に向かって移動させる静電界を生成するために、正のバイアス547、546、及び545は、それぞれ約+1V、+3V、及び+5Vのような、どんどん、より大きい値を持つ。中央セクション505において、反応物イオンは、環境ガスと衝突し、トラップされる。
【0062】
前面セクション504は、約−3Vのような負のDCバイアス544を受け取って、正の前駆イオン531をトラップし、それらを、中央セクション505内の負の反応物イオン541から分離する。前面レンズ503は約3Vのような、正のDCバイアス543を受け取って、前駆イオン531が、前面セクション504から、前面レンズ503内の開口を通じて脱出することを防ぐ静電界を生成する。
【0063】
図5Eは、多重極イオン・トラップ500の全てのセクション504、505、及び506内の、軸502に沿った、正の前駆イオン531と負の反応物イオン541の混合を説明する。概略図550で説明されるように、軸502に沿った正の及び負のイオンの移動を可能とするために、セクション504、505、及び506の各々は、実質的にゼロのDCバイアス558のような、実質的に同一のDCバイアスを持つ。同じDCバイアス558が、前面レンズ503及び背面レンズ507にも印加される。
【0064】
レンズ503と507の近傍において、正の前駆イオン531と、負の反応物イオン541の双方が、前面レンズ503と背面レンズ507にそれぞれ印加されるRF電圧によって生成された発振電気ポテンシャル553及び557によって、軸502に沿って軸方向に閉じ込められる。例えば、前面レンズ503と背面レンズ507の双方が、約150Vの振幅と約600kHzの周波数(これは、ロッド電極に印加されるRF周波数の約半分である)を持つRF電圧を受け取ることができる。こうして、前駆イオン531と反応物イオン541は、同じ体積、同じトラッピング領域の中に閉じ込められ、それらの相互作用は、電荷転送及び前駆イオンの破片化を誘引し得る。この場合には、トラッピング領域は、セクション504、505、及び506を含む。荷電された破片(即ち生成イオン)は、前駆及び反応物イオンと同じ発振電気ポテンシャル553及び557によって、軸方向に閉じ込められる。
【0065】
図5Fは、正の生成イオン561を維持している間の、負の反応物イオン541のイオン・トラップ500からの除去を示す。図560に概略的に説明されるように、負の反応物イオン541は、負のDCバイアス565を中央セクション505に印加し、実質的にゼロのDCバイアス561及び568を前面セクション504及び背面セクション506にそれぞれ印加することによって、トラップ500から除去され得る。DCバイアス561、565、及び568は、負の反応物イオン541が、前面レンズ503及び背面レンズ507に向かって脱出し、正の生成イオン561を、中央セクション505内に閉じ込めることを可能とする電界を生成する。レンズ503及び507を通じて反応物イオンを除去するために、実質的なDCバイアス又はRFフィールドは、レンズに印加されない。反応物イオンを除去した後に、生成イオンは、例えば、異なった質量対電荷比で、生成イオンを選択的に排出することによって、分析され得る。或いは、生成イオンは更に、イオン・トラップ内で操作され得る。
【0066】
ここに説明されるいくつかの例において、前面、中央、及び、背面セクション504、505、及び506は、トラッピング領域と対応するように説明されてきたが、それらは、直接に対応することは要求されない。例えば、上述のように、3つのセクションを提供するように構成されるイオン・トラップは、1つ、2つ、又は3つのトラッピング領域(それぞれのトラッッピング両息が、1つあるいはそれ以上の、イオン・トラップのセクションを備える)を提供するように構成され得る。
【0067】
図6は概略的に、代替的な実施例であって、当該実施例の中で、正の及び負のイオンの双方が、発振電気ポテンシャルを用いて、セグメント化された多重極イオン・トラップ600内で、半径方向及び軸方向に閉じ込められ得る実施例を説明する。多重極イオン・トラップ600は、軸601の周りのチャンネルを規定する、前面セクション610、中央セクション620、及び、背面セクション630を含む。セクション610、620、及び630の各々は、対向ロッド電極の2つのペアを含む四重極ロッド装置のような多重極ロッド装置を含む。或いは、ロッド装置は、16極、8極、又は、3つ、4つ、若しくは、より多い対向ロッド装置のペアを含む、より大きい装置であり得る。セクション610、620、及び630の各々において、図6は、対向ロッド装置の1つのペア(即ち、前面セクション610内のロッド電極612及び614、中央セクション620内のロッド電極622及び624、及び、背面セクション630内のロッド電極632及び634)を概略的に説明する。
【0068】
中央セクション620において、対向ロッド電極622及び624は、中央セクション620内の他のロッド電極との組合せで、四重極ポテンシャルのような発振多重極ポテンシャルを生成するために、同じ位相のRF電圧V1を受け取る。生成された発振多重極ポテンシャルは、多重極ポテンシャルが実質的にゼロ電界を規定する軸601に近接して、半径方向にイオンを閉じ込める。
【0069】
前面セクション610においては、対向ロッド電極612及び614は、前面セクション610内の他のロッド電極との組合せで、軸601に近接して、半径方向にイオンを閉じ込める、発振多重極ポテンシャルを生成するために、中央セクション620内のロッド電極622及び624と同じRF電圧V1を受け取る。RF電圧V1に加えて、ロッド電極612及び614もまた、対向ロッド電極612と614において実質的に反対の位相を持つ他のRF電圧V2を受け取る。こうして、ロッド電極612及び614もまた、前面セクション610内に発振ダイポール・ポテンシャルを生成する。ダイポール・ポテンシャルは、前面セクション610内で、軸601の少なくとも一部において、実質的に非ゼロの電界を規定する。したがって、発振ダイポール・ポテンシャルは、中央セクション620内にトラップされた、正と負のイオンの双方を軸方向に閉じ込め得る。前面セクション610内の他の対向ロッド電極もまた、発振ダイポール(dipole)・ポテンシャルを生成し得る。前面セクション610内の異なった対向ロッドに対して、ダイポール・ポテンシャルは、同じ、又は、異なった、発振周波数を持ち得る。そして、同じ周波数に対して、ダイポール・ポテンシャルは、互いに同相又は異なった位相(out of phase)であり得る。
【0070】
背面セクション630において、対向ロッド電極632及び634は、前面セクション610内の対向ロッド612と614と同じRF電圧を受け取る。したがって、背面セクション630内の対向ロッド632及び634は、イオンを、軸601に近接して、半径方向に閉じ込めるための、発振多重極ポテンシャル、及び、イオンを、中央セクション620内で、半径方向に閉じ込めるための発振ダイポール・ポテンシャルも生成する。発振電気ポテンシャルは、正と負のイオンとの双方を閉じ込められるので、イオン・トラップ600は、イオン−イオン相互作用、及び、中央セクション620における対応する破片化を誘引するように作動され得る。
【0071】
図7は、更に他の実施例であって、その中で、正と負のイオンの双方が、セグメント化された多重極イオン・トラップ700内で、発振電気ポテンシャルを用いて、半径方向及び軸方向に閉じ込められる実施例を概略的に説明する。多重極イオン・トラップ700は、前面レンズ703、セクション704-709、及び、背面レンズ710を含む。セクション704-709の各々は、軸702の周りのイオン・チャンネル内で、イオンをトラップ又はガイドするための、四重極又はより高い次数の多重極電極装置(assembly)のような多重極ロッド装置を含む。
【0072】
多重極イオン・トラップ700は、第1の及び第2のイオンの組を別個に受け取り、後に、それらを、イオン・トラップ700の同じセクション(1つまたは複数)内に閉じ込めることによって、2つの組のイオンの間の相互作用を誘引するように作動され得る。例えば、第1の組は前駆イオンを含み得、第2の組は、反応物イオンを含み得る。イオンの第1の組は、前面レンズ703を通じて受け取られ得、セクション705に格納され得る。そして、イオンの第2の組は、背面レンズ710を通じて受け取られ得、セクション708内に格納され得る。
【0073】
第1の及び第2の組内のイオンは、セクション706及び707内の多重極ロッドによって生成される発振電気ポテンシャルによって、第2の組内のイオンから分離され得る。例えば、第1の及び第2の組内でそれぞれ、イオンを軸方向に閉じ込めるために、異なった発振ダイポール・ポテンシャルが、セクション706及び707内で生成され得る。したがって、セクション705内のイオンは、セクション708内のイオンとは別個に操作され得る。例えば、前駆イオンは、セクション705内の第1の組から空間的に隔離され得る。そして、反応物イオンは、セクション708内の第2の組から空間的に隔離され得る。
【0074】
発振電気ポテンシャルは、セクション706及び707内で調整されて、イオンが、セクション705からセクション708に、及びその逆に、通過することを可能とし得る。例えば、セクション705と708の間でイオンをガイド(guide)するために、ダイポール・ポテンシャルの替わりに、四重極ポテンシャルが、セクション706及び707内で生成され得る。前面レンズ703及び背面レンズ710によって生成される電気ポテンシャルを発振させることによって、
又は、セクション704及び709内で生成されたダイポール・ポテンシャルを発振させることによって、正と負のイオンが、イオン・トラップ700の端部の近傍で、軸方向に閉じ込められ得る。
【0075】
図7に説明されたイオン・トラップ700のような、セグメント化されたトラップの1つの実施物においては、第1のセグメント内で、イオン−イオン反応が発生している。より低い、軸のDCバイアス・ポテンシャルを持つ第2のセグメントから、前駆及び反応物イオンを分割するために、弱い擬似ポテンシャル障壁が生成される。イオン−イオン反応が、第1のセグメント内で生成イオンを生成するにつれて、生成イオンのいくつかが、弱い擬似ポテンシャル障壁を通過し、第2のセグメント(生成イオンのいくつかが、衝突によってそこでダンプされ、キャプチャーされ得る)を貫通させるために充分大きい質量対電荷比及び熱運動エネルギーを持ち得る。したがって、これらの生成イオンは、第1のセクションから除去され、もはや、反応物イオンとの更なる反応(reactions)に曝されない。そのような、生成イオンの除去は、中和(neutralization)及び後の、生成イオンのロスを削減し得る。本発明の方法のステップは、入力データにより作動し、出力を生成することによって本発明の機能を実行するためのコンピュータ・プログラムを実行する、1つあるいはそれ以上のプログラム可能なプロセッサによって実行され得る。方法のステップ、及び、本発明の装置は、例えば、FPGA(フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ)やASIC(アプリケーション・スペシフィック集積回路)などの特定目的の論理回路によっても実施され得る。
【0076】
コンピュータ・プログラムの実行に適したプロセッサには、例として、一般的及び特別のマイクロ・プロセッサの双方、及び、何らかの種類のデジタル・コンピュータのプロセッサのいずれかの1つ又は2つ以上が含まれる。一般的に、プロセッサは、読み取り専用メモリ又はランダム・アクセス・メモリから、或いはその双方から、命令及びデータを受け取る。コンピュータの主要な要素は、命令を実行するためのプロセッサ、及び、命令及びデータを格納するための1つあるいはそれ以上のメモリ素子である。一般的に、コンピュータは、データを格納するための1つあるいはそれ以上の大容量格納装置からデータを受け取るため、或いは、そこにデータを転送するために、或いはその双方のために、1つあるいはそれ以上の大容量格納装置(例えば、磁気、磁気光学ディスク、又は光学ディスク)をも含むか、或いは、それに作動可能にカップルされている。コンピュータ・プログラム命令及びデータの具現化に適した情報キャリアには、例として、例えば、EPROM、EEPROM、及び、フラッシュ・メモリ素子のような半導体メモリ素子、及び、例えば内部ハードディスク又は除去可能なディスクのような磁気ディスク、磁気光学ディスク、及び、CD−ROM及びDVD−−ROMディスクを含む、全ての形式の不揮発性のメモリが含まれる。プロセッサ及びメモリは、特別目的の論理回路によって補助され得るか、或いは、それを取り込み得る。
【0077】
ユーザとの相互作用(interaction)を提供するために、本発明は、情報をユーザに表示するための、例えばCRT(カソード・レイ・チューブ)又はLCD(液晶ディスプレイ)モニタのようなディスプレイ装置、及び、キーボード、及び、それによってユーザがコンピュータへの入力を提供できるような、例えばマウス又はトラック・ボールのようなポインティング装置、を持つコンピュータ上で実現され得る。ユーザとの相互作用を提供するために、他の種類の装置も使用され得る。例えば、ユーザに提供されるフィードバックは、例えば、視覚的フィードバック、音声的フィードバック、又は、触覚的フィードバックのような、如何なる形式の、感覚的フィードオバックでもあり得る。また、ユーザからの入力は、音声、話言葉、又は、触覚的入力を含む、如何なる形式でも受け取られ得る。
【0078】
本発明の多くの実施例が、説明されてきた。
それにも関わらず、本発明の目的と範囲から離れること無しに、種々の修正が為され得ることが理解されるであろう。例えば、説明された方法のステップは、異なった順序で実行され得、依然として所望の結果を実現する。記載された技術は、イオンをトラップ又はガイドするための、曲がったイオン・チャンネルを規定する、曲がった軸(curved axis)のイオン・ガイド、平面(planar)RFイオン・ガイド(平面多重極)、及び、RFシリンドリカル・イオン・パイプ、のような、他のイオン・トラップ又はガイドに応用され得る。セグメント化されたイオン・トラップの替わりに、記載された技術は、多重極の別個の(separate)イオン・トラップを用いても実現され得る。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の1つの特徴による質量分析法のための装置を説明する概略図である。
【図2A】発振する電気的ポテンシャルを伴うイオンの軸方向の閉じ込めを説明する概略図である。
【図2B】発振する電気的ポテンシャルを伴うイオンの軸方向の閉じ込めを説明する概略図である。
【図2C】発振する電気的ポテンシャルを伴うイオンの軸方向の閉じ込めを説明する概略図である。
【図2D】発振する電気的ポテンシャルを伴うイオンの軸方向の閉じ込めを説明する概略図である。
【図3】本発明の1つの特徴による質量分析法のための方法を説明する概略フロー図である。
【図4】イオン−イオン反応を誘引するための方法を説明する概略フロー図である。
【図5A】多重極トラップにおけるイオン−イオン反応の誘引の模範的実施物を説明する概略図である。
【図5B】多重極トラップにおけるイオン−イオン反応の誘引の模範的実施物を説明する概略図である。
【図5C】多重極トラップにおけるイオン−イオン反応の誘引の模範的実施物を説明する概略図である。
【図5D】多重極トラップにおけるイオン−イオン反応の誘引の模範的実施物を説明する概略図である。
【図5E】多重極トラップにおけるイオン−イオン反応の誘引の模範的実施物を説明する概略図である。
【図5F】多重極トラップにおけるイオン−イオン反応の誘引の模範的実施物を説明する概略図である。
【図6】イオン−イオン相互反応を誘引するための装置の代替的実施例を説明する概略図である。
【図7】イオン−イオン相互作用を誘引するための装置の更に別の代替的実施例を説明する概略図である。
【符号の説明】
【0080】
100 質量分析法システム
110 前駆イオン供給源
112 前駆イオン源
115 イオン転送光学系(optics)
120 2D多重極イオン・トラップ
121 前面プレート・レンズ
122 前面開口
123 前面セクション
125 中央セクション
127 背面セクション
128 背面プレート・レンズ
129 背面開口
130 反応物イオン供給源
132 反応物イオン源
135 イオン転送光学系
140 コントローラ
141 RF電圧
143 対応するRF電圧の組
145 対応するRF電圧の組
147 対応するRF電圧の組
148 RF電圧
151 異なったDCバイアス
153 異なったDCバイアス
155 異なったDCバイアス
157 異なったDCバイアス
158 異なったDCバイアス
220 イオン・レンズ
225 イオン・レンズ220内の開口
230 イオン・レンズ220に隣接する端部セクション
232 発振2D多重極ポテンシャルを生成する2D多重極ロッド装置
240 RF電圧源
245 RF電圧源
250 座標システム(coordinate system)
252 垂直軸
255 水平軸
260 軌道
262 軌道部分
264 軌道部分
266 軌道部分
268 中央軌道
270 座標システム
272 垂直軸
274 水平軸
282 小さなイオン212に対する第1の擬似ポテンシャル
283 第1の障壁
284 大きなイオン214に対する第2の擬似ポテンシャル
285 第2の擬似ポテンシャル284によって規定される第2の障壁
292 平均エネルギー・レベル
294 平均エネルギー・レベル
500 2D多重極イオン・トラップ
502 軸
503 前面レンズ
504 前面セクション
505 中央セクション
506 背面セクション
507 背面レンズ
510 概略図
511 正のサンプル・イオン
513 負のDCバイアス
514 負のDCバイアス
515 負のDCバイアス
516 正のDCバイアス
517 実質的にゼロのDCバイアス
523 実質的にゼロのDCバイアス
524 負のDCバイアス
525 負のDCバイアス
526 負のDCバイアス
527 実質的にゼロのDCバイアス
530 概略図
531 前駆イオン
533 実質的にゼロのDCバイアス
534 より大きな負の値を持つDCバイアス
535 DCバイアス
536 負のバイアス
537 実質的にゼロのバイアス
540 概略図
541 負の反応物イオン
543 正のDCバイアス
544 負のDCバイアス
545 正のバイアス
546 正のバイアス
547 正のバイアス
550 概略図
553 RF電圧によって生成された発振電気ポテンシャル
557 RF電圧によって生成された発振電気ポテンシャル
558 実質的にゼロのDCバイアス
560 図
561 正の生成イオン
565 負のDCバイアス
568 実質的にゼロのDCバイアス
600 セグメント化された多重極イオン・トラップ
601 軸
610 前面セクション
612 前面セクション610内のロッド電極
614 前面セクション610内のロッド電極
620 中央セクション
622 中央セクション620内のロッド電極
624 中央セクション620内のロッド電極
630 背面セクション
632 背面セクション630内のロッド電極
634 背面セクション630内のロッド電極
700 セグメント化された多重極イオン・トラップ
702 軸
703 前面レンズ
704 セクション
705 セクション
706 セクション
707 セクション
708 セクション
709 セクション
710 背面レンズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンを、イオン・トラップ又はイオン・ガイド内に導入(introducing)するステップであって、当該イオン・トラップ又はイオン・ガイドは、第1の電極の組及び第2の電極の組を含むものであり、当該第1の及び第2の電極の組は、当該導入されたイオンをトラップ又はガイドするためのイオン・チャンネルを規定するように配置され、
周期的な電圧を、前記第1の電極の組の中の電極に印加して、前記イオン・チャンネル内の少なくとも第1の次元(dimension)の中に前記イオンを閉じ込める第1の発振電気ポテンシャルを生成するステップと、
周期的な電圧を、前記第2の電極の組の中の電極に印加して、前記イオン・チャンネル内の少なくとも第2の次元の中に前記イオンを閉じ込める第2の発振電気ポテンシャルを生成するステップ、
を含む、イオンをトラップ(trapping)又はガイド(guiding)する方法。
【請求項2】
前記電圧の、前記第1の及び第2の電極の組への前記印加が、3つの次元におけるイオンの閉じ込めを与える、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の発振電気ポテンシャルの生成が、前記イオンを半径方向(radially)に閉じ込める、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記第2の発振電気ポテンシャルの生成が、前記イオンを軸方向(axially)に閉じ込める、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の及び第2の電極の組が、複数の要素(elements)を備え、少なくとも1つの要素を共通に持つ、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
イオンを導入するステップが、正イオン及び負イオンを、前記イオン・トラップ又はイオン・ガイド内に導入することを含む、以上のいずれかの請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記イオン・トラップ又はイオン・ガイドが、第1の端部及び第2の端部を含み、前記正の及び負のイオンが、当該第1の及び第2の端部において、それぞれ導入される、請求項7に記載の方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法であって、
前記イオン・トラップ又はイオン・ガイドが、2つ或いはそれ以上のセクションを含み、
前記方法が、
1つあるいはそれ以上のDCバイアスを、前記イオン・トラップ又はイオン・ガイドの1つあるいはそれ以上のセクションに印加して、前記正の又は負のイオンを、1つあるいはそれ以上のセクション内に閉じ込めるステップ、を更に含む方法。
【請求項9】
周期的な電圧を前記第1の電極の組の中の電極に印加するステップが、第1の周波数を持つ周期的な電圧を印加することを含み、
周期的な電圧を前記第2の電極の組の中の電極に印加するステップが、前記第1の周波数とは異なる第2の周波数を持つ周期的電圧を印加することを含む、
以上のいずれかの請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記第1の及び第2の周波数が、約整数の比、又は、整数比を持つ、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記第1の及び第2の周波数が、約2の比を持つ、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記第1の及び第2の電極の組に印加される前記電圧の位相が、相対的に、互いにずれて(out of phase)いる、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記第1の及び第2の発振電気ポテンシャルが、異なった空間分布(spatial distributions)を持つ、以上のいずれかの請求項に記載の方法。
【請求項14】
前記イオン・チャンネルが軸を持ち、
前記第1の発振電気ポテンシャルが、前記イオン・チャンネルの、少なくとも当該軸の一部において実質的にゼロの電界を規定し、
前記第2の発振電気ポテンシャルが、前記イオンチャンネルの、前記少なくとも前記軸の同じ一部において実質的に非ゼロの電界を規定する、
請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記第1の発振ポテンシャルが、発振する、4極、16極、又はそれより多い多重極ポテンシャルを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記第2の発振ポテンシャルが、発振ダイポール・ポテンシャルを含む、
請求項13に記載の方法。
【請求項17】
規定された擬似ポテンシャルの各々が前記イオン・チャンネルに沿った対応する擬似ポテンシャル障壁を指定するように、前記第1の及び第2の発振電気ポテンシャルが前記導入されたイオンの各特定の質量及び電荷に対する擬似ポテンシャルを規定する、
以上の何れかの請求項に記載の方法。
【請求項18】
前記第1の電極の組が、複数のロッド電極を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記第2の電極の組が、複数のロッド電極を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記第2の電極の組が、1つあるいはそれ以上のプレート・イオン・レンズ電極を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記第2の電極の組が、前記イオン・チャンネルの第1の端部において、第1のプレート・イオン・レンズ電極を含み、前記イオン・チャンネルの第2の端部において、第2のプレート・イオン・レンズ電極を含む、
請求項20に記載の方法。
【請求項22】
イオンをトラップ又はガイドするためのイオン・チャンネルを規定するために配置される、第1の及び第2の電極の組、及び
周期的な電圧を前記第1の組及び第2の組の中の電極に印加して、第1の発振電気ポテンシャル及び第2の発振電気ポテンシャルを確立(establish)するために構成されるコントローラであって、当該第1の及び第2の発振電気ポテンシャルが、異なった空間分布を持ち、半径方向及び軸方向内でそれぞれイオン・チャンネル内にイオンを閉じ込める、コントローラ、
を備える装置。
【請求項23】
前記コントローラが、周期的な電圧を電極の組に印加して、同時に、正と負のイオンを。半径方向及び軸方向の双方で、前記イオン・チャンネル内に閉じ込めるように構成される、
請求項22に記載の装置。
【請求項24】
前記コントローラが、
周期的な電圧を、第1の周波数で、前記第1の電極の組の中の電極に印加し、
周期的な電圧を、前記第1の周波数とは異なる第2の周波数で、前記第2の電極の組の中の電極に印加する、
ように構成される、
請求項22に記載の装置。
【請求項25】
前記第1の及び第2の周波数が、約整数の比、又は、整数の比を持つ、請求項24に記載の装置。
【請求項26】
前記第1の電極の組が、複数のロッド電極を含む、
請求項22に記載の装置。
【請求項27】
前記第2の電極の組が、前記イオン・チャンネルの第2の部分を規定する複数のロッド電極を含む、請求項22に記載の装置。
【請求項28】
前記第2の電極の組が、1つあるいはそれ以上のプレート・イオン・レンズ電極を含む、請求項22に記載の装置。
【請求項29】
前記第2の電極の組が、前記イオン・チャンネルの第1の端部において、第1のプレート・イオン・レンズ電極を含み、前記イオン・チャンネルの第2の端部において、第2のプレート・イオン・レンズ電極を含む、請求項28に記載の装置。
【請求項30】
複数の電極を有する2次元イオン・トラップ又はイオン・ガイド、
電圧を、前記複数の電極のいくつかに印加して、前記イオン・トラップ又はイオン・ガイドを、複数の(multiple)トラッピング領域に分離するように構成されるコントローラであって、各トラッピング領域がイオンの組を空間的に隔離する、コントローラ、
を備え、
前記コントローラが更に、複数の電極のいくつかに電圧を印加、又は、そこから除去して、異なったトラッピング領域内のイオンの組が相互作用(interact)するように構成される、
装置。
【請求項31】
イオンの組が、1つのトラッピング領域内で少なくとも第1の極性のイオン、及び、他のトラッピング領域内で少なくとも第2の極性のイオンを含む、請求項29に記載の装置。
【請求項32】
前記コントローラが、更に、他のトラッピング領域内のものとは別個に、1つのトラッピング領域内のイオンの操作を促進するように構成される、請求項30に記載の装置。
【請求項33】
複数の電極を有する2次元イオン・トラップ又はイオン・ガイドを作動させるための方法であって、
電圧を、前記複数の電極のいくつかに印加して、前記イオン・トラップを複数の(multiple)トラッピング領域に分離するステップであって、各トラッピング領域が空間的に、イオンの組を隔離するものであり、
第1のイオンの組を、前記イオン・トラップ又はイオン・ガイドのセクション内に導入するステップと、
第2のイオンの組を、前記イオン・トラップ又はイオン・ガイドの他のセクション内に導入するステップ、
前記電極のいくつかから前記電圧を除去して、前記第1の及び第2のイオンの組の間の相互作用を誘引するステップ、
を含む方法。
【請求項34】
第1のイオンの組が前駆(precursor)イオンを含み、第2のイオンの組が反応物(reagent)イオンを含む、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
複数の電極を有する2次元イオン・トラップ又はイオン・ガイドを作動させるための方法であって
第1のイオンの組を、前記イオン・トラップ又はイオン・ガイド内に導入するステップ、
第2のイオンの組を、前記イオン・トラップ又はイオン・ガイド内に導入するステップ、
電圧を、前記電極のいくつかに印加して、前記イオンを、複数の(multiple)トラッピング領域に分離するステップであって、各トラッピング領域が、イオンの組を空間的に隔離(isolate)するものであり、
前記第1のイオンの組を、前記第2のイオンの組とは別個に操作するステップ、
を含む方法。
【請求項36】
複数の電極を有するイオン・トラップ又はイオン・ガイドを作動させ、少なくとも2つのトラッピング領域を提供するための方法であって、
電圧を、前記複数の電極のいくつかに印加して、イオンの各特定の質量及び電荷に対して、擬似ポテンシャル障壁を規定(define)/確立(establish)するステップ、
2組のイオンを、イオン・トラップ又はイオン・ガイド内に導入するステップであって、イオンの組が、前駆イオンと反応物イオンを含むものであり、
2組のイオンが相互作用して、少なくとも2つのトラッピング領域内の、少なくとも第1のものの内に、生成イオン(product ions)を生成することを可能とするステップ、
擬似ポテンシャル障壁が選択されて、生成イオンの一部が、前記少なくとも2つのトラッピング領域の前記第1の及び第2のものの間の、それらに関連する擬似ポテンシャル障壁を通過させるために十分な運動エネルギーを持つことを可能とするステップ、
を含むことによって、
生成イオンが、もはや、反応物イオンとの更なる作用(reaction)に曝されないための、十分な運動エネルギーを持つことを可能とする、
方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図5E】
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【図5F】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2007−524202(P2007−524202A)
【公表日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−551275(P2006−551275)
【出願日】平成17年1月21日(2005.1.21)
【国際出願番号】PCT/US2005/001846
【国際公開番号】WO2005/074004
【国際公開日】平成17年8月11日(2005.8.11)
【出願人】(501192059)サーモ フィニガン リミテッド ライアビリティ カンパニー (42)
【Fターム(参考)】