説明

高選択的NOセンシング素子

【課題】NOを精度よく検出可能なNOセンサおよび該センサの構成要素として有用なNO吸着材を提供する。
【解決手段】本発明によると、NOを選択的に吸着するNO吸着材が提供される。該吸着材は、FeおよびCoから選択される中心金属原子と、これに配位して平面四配位型の配位構造を形成する配位子とを備える錯体を含む。その平面四配位構造は、アミド性窒素原子とアミン性窒素原子との二つの窒素原子;および、フェノール性酸素原子、チオール性硫黄原子、およびアルコール性酸素原子からなる群からそれぞれ独立に選択される二つの原子;が前記中心金属原子に配位して形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一酸化窒素を選択的に吸着(捕捉)可能な錯体を用いたNO吸着材に関する。また本発明は、かかるNO吸着材を利用したNOセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
一酸化窒素(NO)は、生体内の神経伝達物質の一つであり、また免疫反応、血圧調節等においても重要な役割を果たすことが知られている。したがって、NOを検出することは生体の状態を診断する有益な手段となり得る。また、NOの検出は環境測定等の分野においても有用である。また、従来、NOを検出(センシング)する方法として電極法が知られている。これは、電極に捕捉されたNOが酸化される際に生じる電流を利用してNOを検出するものである。かかる電極法に関し、金属ポルフィリン、金属フタロシアニン等のような、NOとの親和性の高い機能性分子を電極に被覆することが提案されている(非特許文献1および2参照)。また、アミド2組を持つ金属錯体を用いたNOセンサの提案もされている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2007−117782号公報
【非特許文献1】「アナリティカ チミカアクタ(Analytica ChimicaActa)」,第341号,1997年,p.177−185
【非特許文献2】「バイオエレクトロケミストリー(Bioelectrochemistry)」,第66号,2005年,p.105−110
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
NOを精度よく検出するという観点から、これらNO検出用の機能性分子にはNOと高選択的に反応する性質が求められる。しかし、従来この種の用途に使用し得るものとして提案されている機能性分子(金属ポルフィリン等)は未だNO選択性が十分ではなく、例えばO2やNO2-のような他の生体内分子とも反応しやすいものであった。特に、競争阻害効果の高いNO2-との反応はNOの検出精度に大きな影響を与えるので好ましくない。
【0004】
また、特許文献1にあげられた手法ではNOに対する高い選択性を示しているにもかかわらず、センシングに用いる酸化還元電流が、大きく負電位に存在しており、水の還元電流の電位(−1V付近)と同程度の領域で流れることから、水溶液中で水の還元反応の影響により正確な測定が妨げられる。このため、水溶液中でもNOを精度よく検出できることが望まれる。なお、このことは、溶媒として水を用いる場合に限らず、酸化還元電流が水と同程度である他の溶媒を用いる場合においても言えることである。
【0005】
そこで、本発明は、特許文献1における化合物を改良し、溶媒の酸化還元の影響を抑制して、NOをより精度よく検出可能なNOセンサおよび該センサの構成要素としてより有用なNO吸着材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、特許文献1の化合物を改良することにより上記課題が解決されることを見出して本発明を完成した。
【0007】
ここに開示される一つの発明は、NOを選択的に吸着(捕捉)するNO吸着材に関する。そのNO吸着材は、鉄原子(Fe)およびコバルト原子(Co)から選択される中心金属原子と、該中心金属原子に配位して平面四配位型の配位構造を形成する配位子と、を備える錯体を含む。ここで、前記平面四配位型の配位構造は、前記配位子を構成する四つの原子が前記中心金属原子に配位して形成されている。それら四つの原子のうちの二つは窒素原子であり、そのうち一つはアミド性窒素原子であり、もう一つはアミン性窒素原子である。他の二つは、フェノール性酸素原子(典型的には、AR−O-で表される基を構成する酸素原子、ここでARは芳香族性の有機置換基である)、チオール性硫黄原子(典型的には、−S-で表される基を構成する硫黄原子)、およびアルコール性酸素原子(典型的には、R−O-で表される基を構成する酸素原子、ここでRは非芳香族性の有機置換基である)からなる群からそれぞれ独立に選択される二つの原子である。
【0008】
このような構成の錯体は、NOと選択的に反応する性質(典型的には、NOに対する配位挙動)を示すものであり得る。例えば、NOに対する反応性に比べてNO2-に対する反応性が明らかに低い(典型的には、実質的に配位挙動を示さない)ものであり得る。したがって、このような錯体を有する上記NO吸着材によると、例えば、NOと他の化学種(例えばNO2-)とが共存し得る条件下においても、より選択性よくNOを吸着(捕捉)することができる。
【0009】
さらに、このような錯体を有する上記NO吸着材によると、センシングに用いる酸化還元電流の電位を溶媒の酸化還元の影響を抑制できる範囲とすることができ、NOをより精度よく検出可能なNOセンサの構成要素としてより有用なNO吸着材を提供できる。
【0010】
好ましい一つの態様では、前記錯体が下記式(1)で表される構造部分を有する。
【0011】
【化1】


【0012】
ここで、上記式(1)中のMは、鉄(Fe)およびコバルト(Co)から選択されるいずれかである。R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有するまたは有さないアルキル基、および、置換基を有するまたは有さないアルキレン基から選択されるいずれかであり、RAは水素原子、置換基を有するアルキルアミノ基もしくはアルキルチオール基および置換基を有してもよいアルキレンアミノ基もしくはアルキレンチオール基から選択されるいずれかである。nAおよびnBは、それぞれ独立に、1、2および3から選択されるいずれかであり、nCは0である。かかる構造部分を有する錯体および該錯体を含む上記NO吸着材は、より選択性よくNOを吸着するものであり得る。
【0013】
好ましい他の一つの態様では、前記錯体が下記式(2)で表される構造部分を有する。
【0014】
【化2】


【0015】
ここで、上記式(2)中のMは、鉄(Fe)およびコバルト(Co)から選択されるいずれかである。R5、R6、R7、およびR8は、それぞれ独立に、水素原子(H)、置換基を有するまたは有さないアルキル基、および、置換基を有するまたは有さないアルキレン基から選択されるいずれかであり、RBは水素原子、置換基を有するアルキルアミノ基あるいはアルキルチオール基および置換基を有してもよいアルキレンアミノ基あるいはアルキレンチオール基から選択されるいずれかである。nDは1、2、および3から選択されるいずれかであり、nEとnFはそれぞれ独立に0、1および2から選択されるいずれかである。かかる構造部分を有する錯体および該錯体を含む上記NO吸着材は、より選択性よくNOを吸着するものであり得る。
【0016】
ここに開示されるNO吸着材の好ましい一つの態様では、前記配位子が少なくとも一つの金属イオンと直接相互作用していないアミノ基を有する。上記式(1)、(2)においては、RAならびにRBが金属イオンと直接相互作用しないアミノ基を含む官能基に該当する。このような構造の配位子を備える錯体は、該錯体がアミド結合、イミノ結合あるいはアルキルアミノ結合を利用して適当な担体(基材)に担持された吸着材を構成するのに適している。ここに開示される技術には、該錯体が前記アルキルアミノ基あるいはリンカー分子を介して直接的にあるいは間接的に前記基材に結合した態様のNO吸着材(例えば、前記錯体で修飾された基材を備えるNO吸着材)が含まれる。
【0017】
ここに開示されるNO吸着材は、好ましくは、導電性基材と、該導電性基材の少なくとも表面に配置された前記錯体とを備えた態様であり得る。かかる構成のNO吸着材は、NOセンサの構成要素等として好適に利用され得る。例えば、前記錯体にNO分子が捕捉(吸着)されたことを電気化学的に検出するタイプのNOセンサの構成要素(電極等)として有用なものであり得る。
【0018】
また、ここに開示されるNO吸着材は、好ましくは、前記錯体が液状媒体に溶解または分散された態様であり得る。かかる構成のNO吸着材は、NOセンサの構成要素等として好適に利用され得る。例えば、前記錯体にNO分子が捕捉(吸着)されたことを光学的に検出するタイプのNOセンサの構成要素として有用なものであり得る。
【0019】
ここに開示される他の一つの発明は、NOを検出するNOセンサに関する。そのNOセンサは、NOを選択的に吸着する錯体を有するNO捕捉部と、該NO捕捉部にNO分子が捕捉されたことを検出する検出部とを備える。前記錯体は、鉄原子(Fe)およびコバルト原子(Co)から選択される中心金属原子と、該中心金属原子に配位して平面四配位型の配位構造を形成する配位子とを備える。前記平面四配位型の配位構造は、前記配位子を構成する四つの原子が前記中心金属原子に配位して形成されている。それら四つの原子のうちの二つは窒素原子であり、そのうち一つはアミド性窒素原子であり、もう一つはアミン性窒素原子である。他の二つは、フェノール性酸素原子、チオール性硫黄原子、およびアルコール性酸素原子からなる群からそれぞれ独立に選択される二つの原子である。
【0020】
上記NO捕捉部を構成する錯体は、NOと選択的に反応する性質を示す(例えば、NOに対する反応性に比べてNO2-に対する反応性が明らかに低い)ものであり得る。したがって、かかる錯体を有するNO捕捉部を備えた上記NOセンサによると、NOと他の化学種(例えばNO2-)とが共存する条件下においても、NOの存在(好ましくは、さらにNOの相対的および/または絶対的な存在量)を精度よく検出することができる。
【0021】
さらに、かかる錯体を有するNO捕捉部を備えた上記NOセンサによると、センシングに用いる酸化還元電流の電位を溶媒の酸化還元の影響を抑制できる範囲とすることができるので、NOをより精度よく検出可能なNOセンサを提供できる。
【0022】
ここに開示されるNOセンサの好ましい一つの態様では、前記検出部が、前記NO捕捉部にNOが捕捉されたことを電気的および/または光学的に検出し得るように構成されている。例えば、導電性基材と該導電性基材の少なくとも表面に配置された前記錯体とを備えた態様のNO捕捉部と、該NO捕捉部にNOが捕捉されたことを電気的に検出し得るように構成された検出部とを備えるNOセンサが好ましい。また、前記錯体が液状媒体に溶解または分散された組成物を有する捕捉部と、該NO捕捉部にNOが捕捉されたことを光学的に検出し得るように構成された検出部とを備えるNOセンサとしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】錯体[1]と[2]のIRスペクトル、および、錯体[1]と[2]を含む溶液にNOを供給した後に濃縮乾固して得られた固体のIRスペクトルを示すチャートである。
【図2】錯体[1]と[2]を含む溶液の紫外可視吸収スペクトルおよび該溶液にNOを供給した後の紫外可視吸収スペクトルを示すチャートである。
【図3】錯体[1]と[2]を含む溶液の紫外可視吸収スペクトルおよび該溶液にNO2-を供給した後の紫外可視吸収スペクトルを示すチャートである。
【図4】錯体[1]と[2]を有する電極を用いて、NO吹き込みの前後において測定されたサイクリックボルタモグラムである。
【図5】NOセンサの一構成例の概略を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0025】
ここに開示されるNO吸着材は、中心金属原子と、該中心金属原子に配位して平面四配位型の配位構造を形成する配位子と、を備える錯体を含む。該錯体一分子中に形成されている前記平面四配位構造の数は一でもよく二以上でもよい。また、上記NO吸着材を構成する錯体は、遊離の(他の化合物または材料と化学結合を形成していないことをいう。)状態であってもよく、適当な基材との間に化学結合を形成していてもよい。
【0026】
上記平面四配位構造における中心金属原子はFeまたはCoであり得る。該錯体の安定性(例えば、適当な溶媒に溶解させた状態における安定性)等の観点から、中心金属がFeである錯体がより好ましい。錯体一分子中に二以上の前記平面四配位型配位構造を有する場合、それらの配位構造における中心金属原子は同一であってもよく異なってもよい。製造の容易性および安定性の観点から、通常は、それら二以上の配位構造における中心金属原子が同一(例えば、いずれもFe)であることが有利である。
【0027】
上記平面四配位構造において中心金属原子に配位する四つの原子のうち、二つは窒素原子であり、そのうち一つはアミド性窒素原子であり、もう一つはアミン性窒素原子である。
【0028】
ここで、上記中心金属原子に配位する「アミド性窒素原子」とは、アミド基(−CONH−)からプロトンを除いた基を構成する窒素原子(典型的には、−CON-−で表される基を構成する窒素原子)をいう。また、「アミン性窒素原子」とは、アミノ基(-NH-)からなる窒素原子をいう。
【0029】
上記中心金属原子に配位する四つの原子のうち他の二つは、それぞれ独立に、フェノール性酸素原子、チオール性硫黄原子、およびアルコール性酸素原子からなる群から選択される原子であり得る。ここで、上記中心金属原子に配位する「フェノール性酸素原子」とは、芳香環に直接結合したヒドロキシル基からプロトンを除いた基を構成する酸素原子(典型的には、AR−O-で表される基を構成する酸素原子、ここでARは−O-が直接結合している芳香環を有する有機基である。)をいう。また、「チオール性硫黄原子」とは、チオール基(−SH)からプロトンを除いた基を構成する硫黄原子(典型的には、−S-で表される基を構成する硫黄原子)をいい、「アルコール性酸素原子」とは、有機基に結合したヒドロキシル基(芳香環に直接結合したものを除く。)からプロトンを除いた基を構成する酸素原子(典型的には、R−O-で表される基を構成する酸素原子、ここでRは有機置換基であって−O-が直接芳香環に結合したものを除く。)をいう。
【0030】
このような配位構造を有する錯体がNO分子に対して選択的に反応する(例えば、NOに対する反応性に比べてNO2-に対する反応性が明らかに低い)性質を示す理由は、例えば以下のように考えられる。すなわち、上述した平面四配位構造において中心金属原子に配位する四つの原子のうちのアミド性窒素原子、窒素原子以外の二つの原子は、いずれも中心金属原子に強く電子を供給する性質を有し(換言すれば、中心金属原子に対する強い電子対供与体である)、アミン性窒素原子は、これらの原子よりも電子供与性が小さい性質を有している。
【0031】
これらの原子が平面構造中に配置されていることは、中心金属原子に電子を供給する上でさらに有利である。ここに開示される錯体は、このような構造を有することによって、かかる配位構造を有さない錯体(例えば、一般的なポルフィリン骨格を有する錯体)に比べて中心金属原子のルイス酸性度が弱められている。このようにルイス酸性度が弱められた錯体であっても、モノラジカル分子であって酸化還元反応活性を有するNOに対しては相互作用(典型的には、NOに対する配位挙動)を示し得るものと推察される。一方、NO2-,Cl-,O2,CO等の化学種は、中心金属原子のルイス酸性度が弱くなると錯体との反応性が著しく低下する。このため、NOと他の化学種との間の反応性の差異がより顕著なものとなり、結果、前記錯体のNO選択性が大幅に向上したものと考えられる。
【0032】
また、特許文献1にあげられた2つのアミド性窒素元素のうち1つをアミン性窒素原子に変更したことにより、金属イオンへの電子対供与能が減少すると同時に化合物の電荷が−1価から0価へと変化した影響で、金属イオンの酸化還元反応がより低い電位(正側の電位)で生じた。このため、溶媒の酸化還元の影響を受けにくいより正側への電位シフトが可能になった。
【0033】
したがって、ここに開示される技術には以下のものが含まれる。
(1).中心金属原子と、該中心金属原子に配位して平面四配位型の配位構造を形成する配位子とを備える錯体であって、前記配位構造は前記配位子を構成する四つの電子対供与体が前記中心金属に配位して形成されており、前記四つの電子対供与体が、アミド性窒素原子とアミン性窒素原子との二つの窒素原子と、チオール性硫黄原子、アルコール性酸素原子およびフェノール性酸素原子からなる群からそれぞれ独立に選択される二つの原子とである錯体。NOに対して実用的な反応性を示し、かつ、NO2-とは実質的に反応しない錯体が好ましい。
(2).前記(1)に記載の錯体を含むNO吸着材。
(3).前記(1)に記載の錯体を有するNO捕捉部と、該NO捕捉部にNOが捕捉されたことを検出する検出部とを備えるNOセンサ。
【0034】
上記錯体の中心金属原子の酸化数は、少なくとも該錯体を含むNO吸着材の使用時(NOを捕捉する用途に供される際)において3価であることが好ましい。すなわち、該中心金属原子がFe(III)またはCo(III)の状態にあることが好ましい。かかる状態にある錯体によると、NOに対してより良好かつ選択的な反応性が発揮され得る。上述のように中心金属原子に対して電子を供与する原子が配位していることは、該中心金属原子が2価よりも3価の状態で安定な錯体を構築するのに寄与し得る。ここに開示されるNO吸着材の典型的な態様では、該吸着材に含まれる錯体が、中心金属原子の酸化数が3価である錯体から実質的に構成される。
【0035】
このようにNOと選択的に反応し得る錯体の好適例として、下記式(3)で表される構造部分を有する錯体が挙げられる。
【0036】
【化3】


【0037】
ここで、上記式(3)中の中心金属Mは、Fe(好ましくはFe(III))またはCo(好ましくはCo(III))である。該式中の二つのEは、それぞれ独立に、フェノール性酸素原子、チオール性硫黄原子、およびアルコール性酸素原子からなる群からそれぞれ独立に選択される。該式中のR9、R10およびR11は同一のまたは異なる有機基である。これらの基R9、R10およびR11は、上記式中の二つのうちの一つのNがアミド性窒素原子であり、もう一つのNがアミン性窒素原子であり、二つのEがそれぞれフェノール性酸素原子、チオール性硫黄原子、およびアルコール性酸素原子のいずれかとなるように選択される。安定な平面四配位構造をとりやすいという観点から、R9およびR10はそれぞれ上記式中のN,MおよびEを含む5〜7員環を構成するように選択されることが好ましい。同様に、R11は、上記式中のMおよび二つのNを含む5〜7員環を構成するように選択されることが好ましい。ここに開示されるNO吸着材は、上記式で示される構造部分を一分子中に一または二以上有する錯体を含むものであり得る。例えば、上記式で示される構造部分の二以上がアルキル鎖(主鎖にジスルフィド結合を有するアルキル鎖であり得る。)で連結された構造の錯体であってもよい。
【0038】
好ましい一つの態様では、前記錯体が下記式(1)で表される構造部分を有する。
【0039】
【化1】


【0040】
上記式(1)中のMは、Fe(好ましくはFe(III))またはCo(好ましくはCo(III))であり得る。例えば、MがFeである錯体が好ましい。また、nAは0、1、2および3から選択されるいずれかであり、末端に窒素原子あるいは硫黄原子を含む置換基であり得る。nBは、それぞれ独立に、0(化学結合),1(メチレン基)および2(エチレン基)から選択されるいずれかであり得る。またnは0である。nAおよびnBがそれぞれ0および1から選択されるいずれかである錯体がより好ましい。例えば、nAが0または1であってnBが1である錯体が好ましい。
【0041】
上記式(1)中のR1、R2、R3、R4は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有するまたは有さないアルキル基、および、置換基を有するまたは有さないアルキレン基から選択されるいずれかであり得る。R1〜R4の少なくとも一つがアルキル基である場合、該アルキル基の一好適例として、炭素数1〜6(より好ましくは1〜3)の無置換のアルキル基が挙げられる。また、例えば、置換基としてチオール基(好ましくは第一級チオール基)を有するアルキル基であってもよい。かかるチオール置換アルキル基(アルキルチオール基)は直鎖状であることが好ましく、その炭素数は1〜6(より好ましくは1〜4)であることが好ましい。また、R1〜R4の少なくとも一つがアルキレン基である場合、該アルキレン基の一好適例としては炭素数1〜6(より好ましくは1〜3)の無置換のアルキレン基が挙げられる。これらの基R1〜R4は、互いに同一であってもよく異なってもよい。製造容易性、錯体および配位子の安定性等の観点から、通常は、R1〜R4が同一の基である錯体が好ましい。例えば、R1〜R4がいずれも水素原子である錯体が好ましい。
【0042】
上記式(1)中のRは、水素原子、置換基を有するまたは有さないアルキルアミノ基もしくはアルキルチオール基、および、置換基を有するまたは有さないアルキレンアミノ基もしくはアルキレンチオール基から選択されるいずれかであり得る。該アルキルアミノ基の一つの好適例として、炭素数0〜6(より好ましくは0〜3)の無置換のアルキルアミノ基が挙げられる。また、例えば、置換基としてチオール基(好ましくは第一級チオール基)を有するアルキル基であってもよい。かかるチオール置換アルキル基(アルキルチオール基)は直鎖状であることが好ましく、その炭素数は1〜6(より好ましくは1〜4)であることが好ましい。例えば、Rが末端にアミノ基(すなわち第一級アミノ基)を有する炭素数0〜3のアルキルアミノ基である錯体が好ましい。
【0043】
好ましい他の一つの態様では、前記錯体が下記式(2)で表される構造部分を有する。
【0044】
【化2】


【0045】
上記式(2)中のMは、Fe(好ましくはFe(III))またはCo(好ましくはCo(III))であり得る。例えば、MがCoである錯体が好ましい。nは1、2、および3から選択されるいずれかであり、末端に窒素原子あるいは硫黄原子を含む置換基であり得る。また、nとnはそれぞれ独立に、0(化学結合),1(メチレン基)および2(エチレン基)から選択されるいずれかであり得る。例えば、nDは1、nおよびnは0である錯体がより好ましい。
【0046】
また、上記式(2)中のR,R,R,Rは、上記式(1)中のR1,R2,R3,R4と同様の基であり得る。例えば、R〜Rがいずれもメチル基である錯体が好ましい。
【0047】
ここに開示されるNO吸着材またはNOセンサに用いられる錯体は、例えば、上述したいずれかの構造(平面四配位構造)部分を一分子中に二以上有する錯体であり得る。例えば、式(1)で示される一つの構造部分におけるR1,R2,R3,R4およびRのいずれかが、式(1)で示される他の一つの構造部分におけるR1,R2,R3,R4およびRのいずれかと直接的あるいは間接的に(すなわち、他の基を介して)連結された錯体であり得る。また、例えば、式(2)で示される一つの構造部分におけるR,R,R,RおよびRのいずれかが、式(2)で示される他の一つの構造部分におけるR,R,R,RおよびRのいずれかと直接的あるいは間接的に連結された錯体であり得る。また、式(1)で示される一つの構造部分におけるR1,R2,R3,R4およびRのいずれかが、式(2)で示される他の一つの構造部分におけるR,R,R,RおよびRのいずれかと直接的あるいは間接的に連結された錯体であってもよい。例えば、上記式(1)で表される構造部分がアミド結合を介してジスルフィド結合(−SS−)によって連結された構造の錯体であり得る。
【0048】
ここに開示されるNO吸着材は、上述したいずれかの錯体を遊離の状態で含むものであってもよく、また、上述したいずれかの錯体を、該錯体と適当な基材(例えば、少なくとも表面が金等の導電性金属からなる基材)との間に化学結合が形成された状態で有する態様のNO吸着材であってもよい。例えば、固体状(好ましくは粉末状)の上記錯体を適当な容器に収容した態様、上記錯体が適当な基材(好ましくは、少なくとも表面が導電性材料により構成された導電性基材)の少なくとも表面に配置された態様、該錯体を適当な液状媒体に溶解または分散(好ましくは溶解)させた態様のNO吸着材であり得る。
ここで、上記錯体が適当な基材の表面に配置された態様は、該錯体が前記基材の表面に物理的に保持されており該錯体と前記基材との間の化学結合は実質的に形成されていない態様であり得る。また、上記錯体が適当な基材の表面に配置された態様は、該錯体と前記基材との間に化学結合が形成されている態様であってもよい。
【0049】
かかる化学結合は、例えば、式(1)で示される構造部分におけるR1,R2,R3,R4およびRのうち一または二以上の基と上記基材との間に形成されたものであり得る。また、式(2)で示される構造部分におけるR,R,R,RおよびRのうち一または二以上の基と上記基材との間に形成されたものであり得る。上記錯体がチオール基を有する(例えば、式(1)で表される構造部分中のR1,R2,R3,R4およびRの少なくとも一つがチオール基あるいは化学結合を介して導入されたチオール基を有するか、または、式(2)で表される構造部分中のR,R,R,RおよびRの少なくとも一つがチオール基あるいは化学結合を介して導入されたチオール基を有する)こと、あるいは、これらチオール基が酸化されて生成するジスルフィド結合を有することは、該チオール基またはジスルフィド結合を利用して該錯体を金の表面に均一に結合させやすいという観点から有利である。例えば、該チオール基またはジスルフィド結合を利用して、少なくとも表面が金からなる基材(例えば、真空蒸着により形成された金薄膜を表面に有する基材)の表面に該錯体を自己組織化に配置することが可能である。
【0050】
また、ここに開示されるNOセンサは、NOを選択的に吸着する錯体を有するNO捕捉部と、該NO捕捉部にNO分子が捕捉されたことを検出する検出部とを備える。上記NO捕捉部に備えられる錯体は、FeおよびCoから選択される中心金属原子と、該中心金属原子に配位して平面四配位型の配位構造を形成する配位子とを備える錯体であって、該平面四配位型の配位構造において、一つがアミド性窒素原子、もう一つがアミン性窒素原子である二つの窒素原子と、チオール性硫黄原子、アルコール性酸素原子およびフェノール性酸素原子からなる群からそれぞれ独立に選択される二つの原子とが前記中心金属原子に配位している錯体である。上述したNO吸着材を構成する錯体として有用な錯体は、いずれも、上記NOセンサの捕捉部を構成する錯体として使用可能である。該錯体は、例えば、上記式(3)で表される構造部分を有する錯体であり得る。上記式(1)で表される構造部分および上記式(2)で表される構造部分の少なくとも一方を有する錯体であることが好ましい。上述したNO吸着材に備えられる錯体として好適な錯体は、ここに開示されるNOセンサの捕捉部に備えられる錯体としても好適なものであり得る。また、ここに開示されるNOセンサの捕捉部は、上述したいずれかのNO吸着材からなるか、あるいは該吸着材をその構成要素として有するものであり得る。
【0051】
好ましい一つの態様では、前記NO捕捉部が、少なくとも表面が導電性材料により構成された導電性基材と、該導電性基材の少なくとも表面に配置された前記錯体とを備える。上記導電性基材の少なくとも表面を構成する導電性材料は、例えば、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、あるいはこれらの金属のいずれかを主体とする合金であり得る。このような導電性基材の表面に前記錯体が配置された構成を有するNO捕捉部が好ましい。かかる構成のNO捕捉部において、前記錯体は前記導電性基材の表面に物理的に保持されていてもよく、化学的に(すなわち、該基材表面と錯体との間の化学結合により)保持されていてもよい。かかる構成のNO捕捉部は、前記錯体が配置された導電性基材を電極として、該錯体にNOが捕捉されたことを電気的に検出する態様のNOセンサを構築するのに適している。導電性基材の表面に前記錯体を配置する方法としては、例えば、一般的な電解重合法を好ましく採用することができる。また、少なくとも表面が金により構成された導電性基材(例えば、表面に金薄膜を有する導電性基材)を選択し、前記錯体として少なくとも一つのチオール基またはジスルフィド結合を有するあるいは化学結合により導入された錯体を選択することにより、該チオール基またはジスルフィド結合を利用して該錯体を前記導電性基材の表面に適切に配置することができる。例えば、該導電性基材の表面に、前記錯体の自己組織化膜(より好ましくは、自己組織化単分子膜)を形成することができる。
【0052】
好ましい他の一つの態様では、前記NO捕捉部が、前記錯体が液状媒体に溶解または分散された組成物を有する。該組成物が適当な支持体に含浸された態様であってもよい。例えば、前記組成物がまたはこれを含浸させた支持体が適当な容器に収容されている。好ましい他の一つの態様では、前記NO捕捉部が、固体状の前記錯体(好ましくは粉末状)が適当な容器に収容された構成を有する。固体状の前記錯体が適当な支持体の少なくとも表面に配置された構成であってもよい。かかる態様のNO捕捉部は、典型的には、前記錯体または該錯体を含む組成物のスペクトルの変化を、肉眼および/または任意の機器を用いて把握し得るように構成されている。このような構成のNO捕捉部は、該NO捕捉部にNOが捕捉されたことを光学的に(例えば、IRスペクトル、紫外可視吸収スペクトル、可視光における色調等のうち少なくとも一つの変化により)検出する態様のNOセンサを構築するのに適している。また、前記錯体が液状媒体に溶解または分散された組成物を有するNO捕捉部は、該錯体にNOが捕捉されたことを電気的に検出する態様のNOセンサの構成要素としても有用である。例えば、前記錯体を含む電解液を用いて電気化学セルを構築し、該電気化学セルの電気化学的挙動の変化を利用してNOの捕捉(好ましくは、さらにその量)を検出することができる。
【0053】
このような構成のNOセンサの概略構成例を図5に模式的に示す。この図に示すNOセンサ10は、NO捕捉部20と、該NO捕捉部にNOが捕捉されたことを電気的に検出する検出部30とを備える。NO捕捉部20は、導電性基材22と、該導電性基材の表面に配置された上記いずれかの錯体(すなわち、NOを選択的に吸着する錯体)24とを備える。検出部30は、錯体24にNOが捕捉されたことより生じる電流(例えば、該捕捉されたNOが酸化されてNO2-になる際に生じる電流)を検出し得るように構成されている。このような構成のNOセンサ10によると、例えば、NOと他の化学種(例えば、NO2-,Cl-,O2,CO等のうち一種または二種以上の化学種)とが共存する条件下においても、NOの存在(好ましくは、さらにNOの相対的および/または絶対的な存在量)を精度よく検出することができる。
【0054】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
<実施例1>
以下に示す合成スキームに沿って化合物[D]を合成した。
【0055】
【化4】


【0056】
[A.2−ヒドロキシ−[(2−アミノエチルアミノ)エチル]ベンズアミドの合成]
窒素雰囲気下0°Cにおいて、エチレンジアミン60.0g(1.0mol)をメタノール100mlに溶解し、撹拌しながらサリチルアルデヒド24.4g(0.20mol)をゆっくりと滴下した。30分間撹拌後、水素化ホウ素ナトリウム2.3g(0.06mol)を少量ずつ添加し、室温でさらに30分間撹拌した。溶媒であるメタノールと過剰のエチレンジアミンを減圧条件下で取り除き、残った褐色油状物をpH9の水溶液に溶解した。酢酸エチルを用いて抽出操作を行い、酢酸エチル相を硫酸マグネシウムで乾燥した。一晩放置後減圧蒸留により褐色油状の目的物(2−ヒドロキシ−[(2−アミノエチルアミノ)エチル]ベンズアミド)を得た。収量は11.07g、収率は33.3%であった。
[B.2−ベンジルオキシ安息香酸の合成]
エタノール300ml金属ナトリウム2.1g(0,09mol)を溶解した。この溶液にサリチル酸メチル13.68g(0.09mol)を加え、さらに10分後に塩化弁じる11.4g(0,09mol)を加えた。12時間撹拌後、生じた塩化ナトリウムの白色沈殿を濾過により除去し、濾液に1.0moldm−1の水酸化ナトリウム水溶液90mlをゆっくりと添加した。1時間後溶媒を減圧除去し、残った水相をジエチルエーテルで洗浄した。水相に薄い塩酸を氷冷しながら滴下すると、目的物(2−ベンジルオキシ安息香酸)の白色沈殿が生じた。これを濾取して減圧下で十分に乾燥した。収量は13.69g、収率は66.7%であった。
[C.2−ベンジルオキシ−N−[2−(2−ヒドロキシベンジルアミノ)エチル]ベンズアミドの合成]
上記Bにより得られた2−ベンジルオキシ安息香酸7.47g(0.033mol)をアセトニトリル120mlに溶解し、2−クロロ6−メチルピリジニウムヨウ化物8.36g(0.033mol)とトリエチルアミン3.31g(0,033mol)を加えて1時間撹拌した。これを溶液Aとする。これとは別に上記Aにより得られた2−ヒドリキシ−[(2−アミノエチルアミノ)エチル]ベンズアミド5.44g(0.033mol)をアセトニトリル70mlに溶解し、トリエチルアミン3.31g(0,033mol)を加えた溶液Bを調製した。A液とB液を室温で混合した後、12時間撹拌した。アセトニトリルを減圧により除去すると黄色の油状物が得られた。これを少量のクロロホルムに溶解し、シリカゲルカラム(クロロホルム:メタノール=50:1)で分離精製することにより、黄色油状の目的物(2−ベンジルオキシ−N−[2−(2−ヒドロキシベンジルアミノ)エチル]ベンズアミド)を得た。収量は2.31g、収率は19.0%であった。上なお、上記A〜Cの工程に関する参考文献として、W. Adam et. al, Indian Journal of Chemistry, 46A, 56-62 (2004)、K. Saigo et. al, Bulletin of the Chemical Society of Japan, 50, 1863-1866 (1977) が挙げられる。
[D.2−ヒドロキシ−[2−(2−ヒドロキシベンジルアミド)エチル]ベンズアミドの合成]
上記Cで得られた2−ベンジルオキシ−N−[2−(2−ヒドロキシベンジルアミノ)エチル]ベンズアミド1.59g(4.2mol)をメタノール30mlの溶解し、触媒量のPd/Cを加えた。これを中圧水素添加装置を用いて3気圧で接触水素化を行った。理論量の水素吸収後、溶液には白色の沈殿物が生じていた。これを吸引濾取し、再度メタノールに懸濁後、超音波破砕機をもちいて細砕した。再度濾過を行い、メタノールを減圧除去すると白色末状の目的物(2−ヒドロキシ−[2−(2−ヒドロキシベンジルアミド)エチル]ベンズアミド)を得た。収量は0.34g、収率は28.1%であった。
[錯体[1]の合成]
上記で得られた化合物[D]を使用して、以下に示す合成スキームにより鉄(III)錯体[1]を合成した。
【0057】
【化5】


【0058】
すなわち、DMF30mLに、上記Dで得られた2−ヒドロキシ−[2−(2−ヒドロキシベンジルアミド)エチル]ベンズアミド20.1mg(0.07mmol)を加えNaH5.04mg(0.21mmol)を添加した後30分間撹拌した。ここに無水塩化鉄(III)を11.4mg(0.07mmol)を加え、さらに数時間撹拌した。この溶液にジエチルエーテルを加えると赤い沈殿物が得られた。これを濾取し、脱水エタノールを加えて再び濾過した。得られた溶液の溶媒を減圧下で除去し、少量のDMFに溶解した。このDMF溶液をゲル濾過クロマトグラフィー(セファデックスG-10(R))後に減圧乾固し、少量のエタノールに溶解した。この溶液にジエチルエーテルをゆっくりと拡散することで、目的の赤色粉末(錯体[1])が得られた。収量は11.3mg、収率は47.6%であった。
【0059】
この錯体[1]は、上記式(1)におけるMがFeであり、nAおよびnBが1であり、nが0であり、R1〜R4およびRがいずれも水素原子である二つの構造部分を含む。
【0060】
このようにして得られた錯体[1]のNO吸着性を以下のようにして評価した。
[NOの供給によるIRスペクトルの変化]
上記錯体[1]のIRスペクトルをKBr法により測定した。得られたIRスペクトルを「NO吹き込み前」として図1(a)の下部に示す。
【0061】
また、アルゴン雰囲気下において錯体[1]5mgをメタノール20mLに溶解させた。この溶液に、錯体[1]の量に対して大過剰量のNOガスを吹き込んだ。その後、該溶液からアセトニトリルを減圧除去し、得られた固体のIRスペクトルをKBr法により測定した。得られたIRスペクトルを「NO吹き込み後」として図1(a)の上部に示す。
【0062】
この図1(a)からわかるように、NO吹き込み後のIRスペクトルでは、配位したNOの伸縮振動に由来するピークが1673cm-1に肩吸収として現れている(一方、配位していない(自由な)NOでは伸縮振動のピークが1840cm-1に現れる)。この結果から、錯体[1]がNOに対して良好な反応性(配位挙動)を示すことがわかる。
【0063】
なお、上記NO吹き込みの前後では、錯体[1]を含む溶液の色が明らかに変化したことが目視でも認められた。すなわち、NO吹き込み前における溶液の色が赤色であったのに対し、NO吹き込みにより該溶液の色が薄いオレンジ色に変化した。
[NOの供給による紫外可視吸収スペクトルの変化]
図2(a)は、上記NO吹き込みの前後における紫外可視吸収スペクトルであって、NO吹き込み前のスペクトルを破線で、NO吹き込み後のスペクトルを実線で示している。この図からわかるように、NOガスの吹き込みに伴い、四配位平面型鉄(III)錯体に特徴的な430nm付近の吸収が見られなくなる一方、五配位あるいは六配位の錯体に特徴的な350nm付近の吸収が見られるようになった。
【0064】
NO吹き込みの前後における上述のような紫外可視吸収スペクトルの変化は、NO吹き込みにより溶液中の錯体[1]がNOと反応して、例えば以下に示すNO付加体(錯体[1]の中心金属原子がNOおよび溶媒に配位した構造の六配位錯体)が形成されることを支持している。
【0065】
【化6】

【0066】
[NO2-との反応性]
メタノール:水の2:8(体積比)混合溶媒20mLに錯体[1]5mgを溶解させた溶液を調製した。この溶液に2.6gのNaNO2を加えることにより、該溶液に含まれる錯体[1]の量に対して100当量あるいは飽和量(約1000当量相当)の亜硝酸イオン(NO2-)を供給した。そして、NO2-の供給前後における溶液の紫外可視光吸収スペクトルを測定した。その結果を、NO2-供給前のスペクトルを一点鎖線、100当量供給後のスペクトルを破線、飽和量供給後のスペクトルを実線として、図3(a)に示す。この図からわかるように、四配位平面型鉄(III)錯体に特徴的な430nm付近の吸収はNO2-の供給後にも残ったままであった。この図中における400nm−600nm範囲の拡大図からも、430nm付近のスペクトルにおいてNO2-の供給前後でほとんど変化が認められないことは明らかである(実質的に、実線と破線と一点鎖線とが重なって示されている。)。ただし、厳密には、NOが飽和量の場合に若干の極大吸収の減少がみられるが、それでも10%の以下の減少に過ぎない。以上のことは、NO2-の供給によって錯体[1]の中心金属(ここではFe)の配位環境が100等量以上の大過剰条件下でなければ変化していないこと、換言すれば、この錯体[1]がNO2-に対する反応性(配位挙動)を実質的に有さないことを示している。なお、この錯体[1]は、NO2-の他、Cl-,COおよびO2のいずれの化学種に対しても実質的に反応性(配位挙動)を示さないことを確認した。
[電気化学的挙動の測定]
アルゴン雰囲気下において、錯体[1]1mmolおよび0.1molの電解質(ここでは{CH(CH24NClOを使用した。)を、20mLのジメチルホルムアミドに溶解させた。この溶液を電解液として、三電極方式の電気化学セルを構築した。作用電極および対極としてはPtを、参照電極としてはAg/Ag+電極を使用した。このセルについて、室温(約25℃)にてサイクリックボルタンメトリー測定を行った。
次いで、上記セルの電解液中に大過剰量のNOガスを吹き込んだ後、同様にしてサイクリックボルタンメトリー測定を行った。
【0067】
これらの測定により得られたサイクリックボルタモグラムを図4(a)に示す。図4(a)中の破線はNO吹き込み前、実線はNO吹き込み後のサイクリックボルタモグラムである。この図からわかるように、NO吹き込み前、吹き込み後ともに比較的可逆性の良い酸化還元挙動を示している。NO吹き込み後の測定では、吹き込み前に比べて、電流値が大きく変化する電位(傾きが急な部分)が全体に約700mV負側(図4(a)の左側)にシフトしている。
【0068】
吹き込み前の酸化還元電位は特許文献1にあげられる化合物の電位に比べて大きく正側にシフトしており、溶媒の酸化還元の影響を受けずにNOセンシングか可能となっている。
【0069】
また、この結果は、例えばNOの吹き込みの前後で電流値が大きく異なる電位(例えば、Ag電極に対して−0.5V)において該セルに流れる電流値をモニターすることによって、該電流値の変化としてNOの存在をセンシングし得ることを示している。
【0070】
このように、本実施例の錯体では、アミド性窒素原子をアミン性窒素原子に置換することで電流値が大きく異なる電位が、水の還元電流の電位である−1V付近よりも正側に位置している。したがって、本実施例の錯体を用いることで、溶媒(特に、水)の酸化還元の影響を受けずにNOセンシングか可能となる。
<比較例1>
以下に示す合成スキームに沿って化合物[E]を合成した。
【0071】
【化7】


【0072】
すなわち、エチレンジアミン0.6g(10.0mmol)とサリチル酸メチル3.04g(20.0mmol)を加えて、1時間加熱環流をおこなった。その後室温まで冷却すると透明であった油状物が白色油状物へと変化した。これを70°Cのエタノールに溶解し、70°Cに加熱した蒸留水を白濁が残る程度まで加えた。その溶液にごく少量のエタノールを加えて室温で放置すると、白色針状の目的物(化合物[E])が得られた。収量は2.21g、収率は73.6%であった。この工程に関する参考文献として、Y. Ibrahim and A. H. M. Elwahy, Synthesis., 503-508(1993)が挙げられる。
[錯体[2]の合成]
上記で得られた化合物[E]を使用して、[化8]に示されるスキームを用いて鉄(III)錯体[2]を合成した。ここでは精製を容易にするために対カチオンの交換も行った。
【0073】
【化8】


【0074】
嫌気下において化合物[E]70.1mg(0.23mmol)を脱水蒸留したDMFに溶解した。この溶液にNaH22.4mg(0.93mmol)を加え30分間撹拌した。その後0°C に冷却し、塩化鉄(III)37.3mg(0.23mmol)を少量ずつ加えさらに5時間撹拌した。次いで塩化テトラフェニルホスホニウム86.2mg(0.23mmol)を添加した後に減圧により溶媒を除去する。残渣を塩化メチレンに溶解し濾過した後、ジエチルエーテルを加えて放置すると赤色の目的物(錯体[2])が得られた。
【0075】
この錯体[2]は、上記式(1)におけるMがFeであり、nA、nBおよびnが1であり、R1〜R4およびRがいずれも水素原子である二つの構造部分を含む。
【0076】
このようにして得られた錯体[2]のNO吸着性を以下のようにして評価した。
[NOの供給によるIRスペクトルの変化]
上記錯体[2]のIRスペクトルをKBr法により測定した。得られたIRスペクトルを「NO吹き込み前」として図1(b)の下部に示す。また、アルゴン雰囲気下において錯体[2]5mgをメタノール20mLに溶解させた。この溶液に、錯体[2]の量に対して大過剰量のNOガスを吹き込んだ。その後、該溶液からアセトニトリルを減圧除去し、得られた固体のIRスペクトルをKBr法により測定した。得られたIRスペクトルを「NO吹き込み後」として図1(b)の上部に示す。
【0077】
この図1(b)からわかるように、NO吹き込み後のIRスペクトルでは、配位したNOの伸縮振動に由来するピークが1697cm-1に現れている(一方、配位していない(自由な)NOでは伸縮振動のピークが1840cm-1に現れる)。この結果から、錯体[2]がNOに対して良好な反応性(配位挙動)を示すことがわかる。
なお、上記NO吹き込みの前後では、錯体[2]を含む溶液の色が明らかに変化したことが目視でも認められた。すなわち、NO吹き込み前における溶液の色が赤色であったのに対し、NO吹き込みにより該溶液の色が薄いオレンジ色に変化した。
[NOの供給による紫外可視吸収スペクトルの変化]
図2(b)は、上記NO吹き込みの前後における紫外可視吸収スペクトルであって、NO吹き込み前のスペクトルを一点鎖線で、NO吹き込み後のスペクトルを実線で示している。この図からわかるように、NOガスの吹き込みに伴い、四配位平面型鉄(III)錯体に特徴的な430nm付近の吸収が見られなくなる一方、五配位あるいは六配位の錯体に特徴的な320nm付近の吸収が見られるようになった。
【0078】
NO吹き込みの前後における上述のような紫外可視吸収スペクトルの変化は、NO吹き込みにより溶液中の錯体[2]がNOと反応して、例えば以下に示すNO付加体(錯体[2]の中心金属原子がNOおよび溶媒に配位した構造の六配位錯体)が形成されることを支持している。
【0079】
【化9】


【0080】
[NO2-との反応性]
メタノール:水の2:8(体積比)混合溶媒20mLに錯体[2]5mgを溶解させた溶液を調製した。この溶液に飽和のNaNO2を加えることにより、該溶液に含まれる錯体[2]の量に対して100当量あるいは飽和量(約1000当量相当)の亜硝酸イオン(NO2-)を供給した。そして、NO2-の供給前後における溶液の紫外可視光吸収スペクトルを測定した。その結果を、NO2-供給前のスペクトルを一点鎖線、100当量供給後を破線、NO2-の供給後のスペクトルを実線として、図3(b)に示す。この図からわかるように、四配位平面型鉄(III)錯体に特徴的な430nm付近の吸収はNO2-の供給後にも残ったままであった。換言すれば、この錯体[2]がNO2-に対する反応性(配位挙動)を実質的に有さないことを示している。
【0081】
なお、この錯体[2]は、NO2-の他、Cl-,COおよびO2のいずれの化学種に対しても実質的に反応性(配位挙動)を示さないことを確認した。
[電気化学的挙動の測定]
アルゴン雰囲気下において、錯体[2]1mmolおよび0.1molの電解質(ここでは{CH(CH24NClOを使用した。)を、20mLのジメチルホルムアミドに溶解させた。この溶液を電解液として、三電極方式の電気化学セルを構築した。作用電極および対極としてはPtを、参照電極としてはAg/Ag+電極を使用した。このセルについて、室温(約25℃)にてサイクリックボルタンメトリー測定を行った。
【0082】
次いで、上記セルの電解液中に大過剰量のNOガスを吹き込んだ後、同様にしてサイクリックボルタンメトリー測定を行った。
【0083】
これらの測定により得られたサイクリックボルタモグラムを図4(b)に示す。図4(b)中の破線はNO吹き込み前、実線はNO吹き込み後のサイクリックボルタモグラムである。この図からわかるように、NO吹き込み後の測定では、吹き込み前に比べて、電流値が大きく変化する電位(傾きが急な部分)が全体に約200mV負側(図4(b)の左側)にシフトしている。この結果は、例えばNOの吹き込みの前後で電流値が大きく異なる電位(例えば、Ag電極に対して−1.3V)において該セルに流れる電流値をモニターすることによって、該電流値の変化としてNOの存在をセンシングし得ることを示している。
【0084】
このように比較例1では、NOの吹き込み前後ともに電流値が大きく変化する電位が、水の還元電流の電位である−1V付近に存在しているので、比較例1の錯体を用いた場合では、NOセンシングの債に溶媒(特に、水)の酸化還元の影響を受けてしまう。
<実施例2>
この実施例2は、上記式(2)で表される構造部分を有する他のコバルト錯体を合成した例である。
[化合物[F: 2−ベンジルメルカプト−2−メチルプロパン酸]の合成]
エタノール200mLに金属ナトリウム4.7g(0.2mol)を溶解させた溶液に、ベンジルメルカプタン25g(0.2mol)を滴下した。10分後、さらにα−イソブタン酸エチル39.3g(0.2mol)を滴下し、50℃で30分間撹拌した。その後、100mLのH2Oを加え、減圧濃縮によりエタノールを除去し、50mLのジエチルエーテルで3回抽出した。得られたエーテル相を飽和食塩水により洗浄し、無水硫酸マグネシウムにて脱水した後に減圧濃縮を行って、2−ベンジルメルカプト−2−メチルプロパン酸エチル(Ethyl 2-benzylmercapto-2-methylpropanate)を透明の油状物として得た。この2−ベンジルメルカプト−2−メチルプロパン酸エチル43.1g(0.18mol)を含むエタノール溶液100mLに、KOH25g(0.45mol、2.5当量)を加え、室温で2時間撹拌した後、50mLのH2Oを加えて減圧濃縮によりエタノールを除き、12mol/L(12N)のHClを加えてpH2に調整したところ沈殿が生じたのでこれを濾取した。得られた褐色生成物をn−ヘキサン/酢酸エチル混合溶媒中で再結晶することにより、2−ベンジルメルカプト−2−メチルプロパン酸(2-Benzylmercapto-2-methylpropanoic acid)を透明の針状結晶として得た。収量は23.1g、収率は63%であった。なお、上記Fの合成工程に関する参考文献として、U. Luhmann et. al, Chemische Berichite, 110, 1421-1431 (1997) が挙げられる。
[化合物[J]の合成]
以下に示す合成スキームに沿って化合物[J]を合成した。なお、記号「Bn」はベンジル基(C65−CH2−)を表している。
【0085】
【化10】


【0086】
[G:N−(2-ベンジルメルカプト−2−メチルプロパノイル)−1,3−プロパンジアミンの合成]
アセトニトリル100mlに上記で合成した化合物[F]5.0g(24.0mmol)とヨウ化2−クロロ−1−メチルピリジニウム6.0g(24.0mmol)を溶解し、次いでトリエチルアミン2.5g(24.0mmol)を滴下した。この混合液を加え1時間撹拌した(調製溶液A)。これとは別にアセトニトリル100mlに1,3−プロパンジアミン10g(0.14mol)とトリエチルアミン2.5g(24.0mmol)を加えた溶液を調整した(調整溶液B)。調整溶液Bに調整溶液Aをゆっくりと滴下し、24時間室温で撹拌した。減圧下で溶媒を取り除き、5%硫酸水素カリウム水溶液100mlに溶解した。この水溶液をジエチルエーテル50mlで3回洗浄した。次いで炭酸ナトリウムをpH10.5になるまで入れ、ジエチルエーテル50mlで3回抽出操作を行った。ジエチルエーテル相を脱水し、ジエチルエーテルを減圧か除去すると黄色の油状物が得られた。これをシリカゲルカラムに通して精製することで油状の目的物N−(2-ベンジルメルカプト−2−メチルプロパノイル)−1,3−プロパンジアミンが得られた。カラム処理前の組成生物の収量は3.2gで収率は50.4%であった。
[H:N−(2−ベンジルメルカプト−2−メチルプロピル)−1,3−プロパンジアミンの合成]
上記で得られた化合物[H1.6g(6.0mmol)に蒸留THF50mLを加えて溶解させた(調整溶液C)。これとは別に蒸留THFに水素化ホウ素ナトリウム1.71g(45.0mmol)とトリフルオロホウ素ジエチルエーテル錯体12.8g(90.0mmol)を混合してジボラン溶液を調整した(調整溶液D)。調整溶液Dに調整溶液Cを加え、嫌気下で24時間環流した。余剰のジボランをエタノール、水の順で加えて失活した後、ヘキサン、ジエチルエーテルで1回ずつ洗浄した。水相を炭酸ナトリウムでpH10.5とし、ジエチルエーテル50mlで3回抽出操作をした。ジエチルエーテル相は乾燥後、減圧下で溶媒を除去すると、白色油状の目的物を与えた。収量は1.26g、収率は83.2%であった。
[I:N−(2−ベンジルメルカプト−2−メチルプロパノイル)−N‘−(2−ベンジルメルカプト−2−メチルプロピル)−1,3−プロパンジアミン]の合成
化合物[F]1.05g(5.0mmol)をアセトニトリル100mlに溶解し、ヨウ化2−クロロ−1−メチルピリジニウム1.28g(5.0mmol)を混合し、位時間撹拌した(調整溶液E)。これとは別に、化合物[H]1.26g(5.0mmol)とトリエチルアミン0.51g(5.0mmol)をアセトニトリル100mlに溶解した溶液を調整した(調整溶液F)。調整溶液Eを調整溶液Fに滴下し、24時間室温で撹拌した。減圧下において溶媒を除去し、酢酸エチルに溶解した。この酢酸エチル相を5%硫酸カリウム水溶液、10%炭酸ナトリウム水溶液、飽和食塩水の順で洗浄し脱水した後に、減圧下で溶媒を除去すると黄色の油状物が得られた。この組成生物をシリカゲルカラムで精製すると薄黄色油状の目的物が得られた。収量は1.6gで収率は72%であった。
[J:N−(2−メルカプト−2−メチルプロパノイル)−N‘−(2−メルカプト-2−メチルプロピル)−1,3−プロピルアミン]の合成
化合物[I]2.0g(4.5mmol)を少量の蒸留THFに溶解し、液体アンモニア200mlを加えた。これに金属ナトリウム3.0g(130.0mmol)を加え40分間撹拌した。溶液の色が透明になるまで塩化アンモニウムを加え、室温でアルゴンガスをフローしながらアンモニアを気化させた。これを蒸留水100mlに溶解し、1mol/L塩酸、次いで炭酸水素ナトリウムを加えてpH8とした。酢酸エチルで抽出操作を行い、酢酸エチル相を脱水、乾燥させたのち、減圧下で溶媒を除去すると赤褐色油状の目的物を得た。
[錯体[3]の合成]
嫌気条件下で十分に酸素を取り除いたDMF30mlに、上記化合物[J]26.0mg(0.1mmol)と水素化ナトリウム8.0mg(0.33mmol)を加えて20分間撹拌した。これに塩化コバルト(II)無水物13mg(0.1mmol)を加えて、さらに2時間撹拌した。本系を大気下に置き、さらに5分間撹拌した後減圧下で溶媒を除去し、アセトニトリル20mlに溶解した。吸引濾過後、溶液にジエチルエーテルをゆっくりと拡散することにより、緑色の錯体[3]が得られた。
【0087】
この錯体[3]は、上記式(2)におけるMがCoであり、nDが1、nEとnFが0であり、R〜Rがいずれもメチル基であり、R2が水素原子である二つの構造部分を含む。
【0088】
図示しない測定結果より、本実施例の錯体においても実験例1と同様にNO吹き込み前の状態において、特許文献1においてみられたNO吹き込み前の酸化還元電位よりも正側に位置する傾向が見られた。
【符号の説明】
【0089】
10:NOセンサ
20:NO捕捉部(電極)
22:導電性基材
24:錯体
30:NO検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
NOを選択的に吸着するNO吸着材であって、
鉄原子(Fe)およびコバルト原子(Co)から選択される中心金属原子と、該中心金属原子に配位して平面四配位型の配位構造を形成する配位子と、を備える錯体を含み、
ここで、前記平面四配位型の配位構造は、前記配位子を構成する以下の原子:
アミド性窒素原子とアミン性窒素原子との二つの窒素原子;および、
フェノール性酸素原子、チオール性硫黄原子およびアルコール性酸素原子からなる群からそれぞれ独立に選択される二つの原子;
が前記中心金属原子に配位して形成されている、NO吸着材。
【請求項2】
前記錯体が下記式(1)で表される構造部分を有する、請求項1に記載の吸着材。
【化1】



(式中、MはFeまたはCoであり、R1〜R4はそれぞれ独立に水素原子、置換基を有してもよいアルキル基および置換基を有してもよいアルキレン基から選択されるいずれかであり、RAは水素原子、置換基を有するアルキルアミノ基もしくはアルキルチオール基および置換基を有してもよいアルキレンアミノ基もしくはアルキレンチオール基から選択されるいずれかであり、nAおよびnBはそれぞれ独立に0、1、2および3から選択されるいずれかであり、nCは0である。)
【請求項3】
前記錯体が下記式(2)で表される構造部分を有する、請求項1に記載の吸着材。
【化2】



(式中、MはFeまたはCoであり、R〜Rはそれぞれ独立に水素原子、置換基を有してもよいアルキル基および置換基を有してもよいアルキレン基から選択されるいずれかであり、RBは水素原子、置換基を有するアルキルアミノ基もしくはアルキルチオール基および置換基を有してもよいアルキレンアミノ基もしくはアルキレンチオール基から選択されるいずれかであり、nDは1、2および3から選択されるいずれかであり、nEならびにnFはそれぞれ独立に0、1および2から選択されるいずれかである。)
【請求項4】
導電性基材と、該導電性基材の少なくとも表面に配置された前記錯体とを備える、請求項1から3のいずれか一項に記載の吸着材。
【請求項5】
前記錯体が液状媒体に溶解または分散されている、請求項1から3のいずれか一項に記載の吸着材。
【請求項6】
NOを検出するNOセンサであって、
NOを選択的に吸着する錯体を有するNO捕捉部と、該NO捕捉部にNOが捕捉されたことを検出する検出部とを備え、
前記錯体は、鉄原子(Fe)およびコバルト原子(Co)から選択される中心金属原子と、該中心金属原子に配位して平面四配位型の配位構造を形成する配位子とを備える錯体であって、前記平面四配位型の配位構造は、前記配位子を構成する以下の原子:
アミド性窒素原子とアミン性窒素原子との二つの窒素原子;および、
フェノール性酸素原子、チオール性硫黄原子およびアルコール性酸素原子からなる群からそれぞれ独立に選択される二つの原子;
が前記中心金属原子に配位して形成されている錯体である、NOセンサ。
【請求項7】
前記検出部は、前記NO捕捉部にNOが捕捉されたことを電気的および/または光学的に検出し得るように構成されている、請求項6に記載のセンサ。
【請求項8】
前記NO捕捉部は、導電性基材と、該導電性基材の少なくとも表面に配置された前記錯体とを備える、請求項6または7に記載のセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−5961(P2012−5961A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−144463(P2010−144463)
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】